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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/40 20060101AFI20220926BHJP
   G01L 1/24 20060101ALI20220926BHJP
   C09K 11/06 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
C01B33/40
G01L1/24 Z
C09K11/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018164443
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2020037495
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】江口 美陽
(72)【発明者】
【氏名】中村 将志
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-263615(JP,A)
【文献】特開2019-183045(JP,A)
【文献】国際公開第2015/034070(WO,A1)
【文献】特開2016-065113(JP,A)
【文献】特開昭63-251490(JP,A)
【文献】TOMOHIKO OKADA, et al.,ADSORPTION OF 4-NONYLPHENOL ON 1,1'-DIOCTYL-4,4'-BIPYRIDINIUM-SMECTITE INTERCALATION COMPOUNDS FROM AQUEOUS SOLUTION,Clay Science,2010年,14,pp. 191-196
【文献】W. F. JAYNES, et al. ,SORPTION OF BENZENE, TOLUENE, ETHYLBENZENE, AND XYLENE (BTEX) COMPOUNDS BY HECTORITE CLAYS EXCHANGED WITH AROMATIC ORGANIC CATIONS,Clays and Clay Minerals,1999年,Vol. 47, No. 3,pp. 358-365
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
G01L 1/00
C09K 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体上に形成された複合体を含有し、減圧状態を検知する検知層と
を含有し、
前記複合体は、層状粘土鉱物と、前記層状粘土鉱物に保持された、式1で表される有機化合物、及び、式2で表される有機化合物からなる群より選択される少なくとも1種の特定有機化合物とを含有し、
前記特定有機化合物が、前記層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の70%当量を超えて保持されいる、積層体。
【化1】

式1中、Rはそれぞれ独立に水素原子、又は、1価の炭化水素基を表し、Lは単結合、又は、2価の基を表し、XはC、又は、Nを表し、Rは互いに結合して環を形成していてもよく、
式2中、Rはそれぞれ独立に水素原子、又は、1価の炭化水素基を表し、Lは単結合、又は、2価の基を表し、XはC、又は、Nを表し、Rは互いに結合して環を形成していてもよく、
式1及び式2において、炭素原子に結合する水素原子は、それぞれ独立に1価の基で置換されていてもよく、前記1価の基は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【請求項2】
前記層状粘土鉱物は、誘導結合プラズマ質量分析法による鉄原子の含有量が、前記層状粘土鉱物の全質量に対して、8000質量ppm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記層状粘土鉱物が、スメクタイト系粘土鉱物である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記スメクタイト系粘土鉱物が、モンモリロナイトを含まない、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記スメクタイト系粘土鉱物が、3八面体型である、請求項3又は4に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
簡易的な圧力検知素子として、圧力変化により蛍光を発生する、又は、蛍光波長が変化する高分子材料が知られている。特許文献1には、「粘土鉱物に由来する化合物の微粒子の層からなる層状化合物と、複数の層の間に挟まれた1種類以上の蛍光化合物と、層間に充填されたもので、微粒子より大きな分子大きさを有するバインダーとからなる圧力感知材料であって、外部から加えられた機械的な力によって層が変形すると、蛍光化合物が蛍光を発することを特徴とする圧力感知材料。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/034070号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献1に記載された圧力感知材料は、構造体にかかった圧力を蛍光波長の変化等により検知できるものの、より微小な圧力変化、例えば、上記材料が配置された空間の気圧の変化、具体的には減圧状態を検知することはできなかった。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、減圧下に置くことで光学物性が変化する複合体、言い換えれば、減圧状態を光学物性の変化により検知できる複合体を含有する積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0006】
[1] 支持体と、上記支持体上に形成された複合体を含有する検知層とを含有し、上記複合体は、層状粘土鉱物と、上記層状粘土鉱物に保持された、後述する式1で表される有機化合物、及び、後述する式2で表される有機化合物からなる群より選択される少なくとも1種の特定有機化合物とを含有し、上記特定有機化合物が、上記層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の70%当量を超えて保持されている、積層体
[2] 上記層状粘土鉱物は、誘導結合プラズマ質量分析法による鉄原子の含有量が、上記層状粘土鉱物の全質量に対して、8000質量ppm以下である、[1]の積層体
[3] 上記層状粘土鉱物が、スメクタイト系粘土鉱物である、[1]又は[2]に記載の積層体
[4] 上記スメクタイト系粘土鉱物が、モンモリロナイトを含まない、[3]に記載の積層体
[5] 上記スメクタイト系粘土鉱物が、3八面体型である、[3]、又は、[4]に記載の積層体
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、減圧状態を光学物性の変化により検知できる複合体が提供できる。また、本発明によれば、積層体も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係る積層体の斜視図である。
図2】複合体1の作成直後、減圧下静置後、及び、大気下における可視光の吸光度(透過率)を表す図である。
図3】複合体2のESR(Electron Spin Resonance)スペクトルある。
図4】複合体3のESRスペクトルである。
図5】複合体CのESRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
本明細書における基(原子群)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、本発明の効果を損ねない範囲で、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。このことは、各化合物についても同義である。
【0011】
[複合体]
本発明の実施形態に係る複合体は、層状粘土鉱物と、上記層状粘土鉱物に保持された、後述する式1で表される有機化合物、及び、式2で表される有機化合物からなる群より選択される少なくとも1種の特定有機化合物とを含有し、上記特定有機化合物が、上記層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の70%当量を超えて保持されている、複合体である。上記複合体により本発明の効果が得られる機序は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推測している。
なお、以下の機序は推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の課題が解決される場合であっても、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0012】
上記複合体は、層状粘土鉱物に(典型的には層間に)、特定有機化合物が所定量保持されたものである。特定有機化合物は、いずれもカチオン性基(=N(R)-)を分子内に少なくとも1つ有し、分子内又は分子間における電子の授受、具体的には1電子還元によりラジカル(又は、ラジカルカチオン)を生じ、光学物性が変化する。本発明の実施形態における複合体では、層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の70%当量を超えて特定有機化合物が保持されているため、特定有機化合物同士の分子間の距離が近く、特定有機化合物分子間において電子の授受が起きやすい点に特徴の一つがある。
【0013】
本発明者らは、上記特徴を有する本発明の実施形態に係る複合体は、減圧下において、上記特定有機化合物の距離がより近づき、分子間での電子の授受が促進されることで、特定有機化合物の少なくとも一部が還元され、結果としてラジカル(又はラジカルカチオン)となり、光学物性が変化する(典型的には、可視光の吸収スペクトルが変化する。言い換えれば色調が変化する。)ものと推測している。すなわち、本発明の実施形態に係る複合体においては、特定有機化合物同士の分子間の距離が近いため、減圧するだけで分子間の電子移動が起こり、従来必要とされてきた光照射(例えば紫外線照射)等を経ずとも、光学物性を変化させることができるものと推測され、空間内の微小な圧力変化(減圧状態)を検知できる。
以下では、本発明の実施形態に係る複合体における各成分について詳述する。
【0014】
〔層状粘土鉱物〕
本発明の実施形態に係る複合体は、層状粘土鉱物を有する。本明細書において、層状粘土鉱物とは、適量の水を含んでいるときに粘性と可塑性とを示す微粒の鉱物で、整然とした層状構造であるようなものをいい、天然物であっても人工物(合成物)であってもよい。
その化学成分としては、特に制限されないが、主として、ケイ酸、アルミナ、及び、水を含有し、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、及び、カリウム(K)等を含有することがある。
【0015】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、層状粘土鉱物は、誘導結合プラズマ質量分析法を用いて測定される、鉄原子の含有量が、層状粘土鉱物の全質量に対して、8000質量ppm以下であることが好ましく、5000質量ppm以下であることがより好ましく、3000質量ppm以下であることが更に好ましく、2000質量ppmであることが特に好ましく、実質的に含有されないことが好ましい。
本明細書において、層状粘土鉱物に鉄原子が実質的に含有されないとは、誘導結合プラズマ質量分析法を用いて測定される、鉄原子の含有量が、層状粘土鉱物の全質量に対して、1000質量ppm以下であることを意味し、100質量ppm以下がより好ましく、50質量ppm以下が更に好ましい。
【0016】
原鉱石から生成して得られる層状粘土鉱物には、鉄原子が含有されている場合がある。例えば、日本粘土学会編『粘土ハンドブック(第三版)』(2009)69頁の表2.8.1によれば、各種モンモリロナイトにおいて、一定量の鉄原子が含有されていることが示されている。
【0017】
本発明者らの検討によれば、層状粘土鉱物中における鉄原子の含有量が上記数値範囲内であると、特定有機化合物から発生した電子が、鉄原子(典型的には、イオンとして存在する)により奪われにくい(より消費されにくい)と推測される。その結果として、層状粘土鉱物中における鉄原子の含有量が上記数値範囲内であると、圧力変化に対してより優れた感度を有する複合体が得られる。
【0018】
層状粘土鉱物としては、層状ケイ酸塩鉱物(フィロケイ酸塩鉱物)等が挙げられ、多くの場合、酸素(O)、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)を中心として構成される厚さが0.2~0.5nmの四面体シート、及び/又は、八面体シートが1~3層積層し、数十nm~5μm程度の長軸方向の大きさを持つアスペクト比の大きなシート状無機化合物から形成されている。
【0019】
上記の四面体シートは、Siに4つのOが配位してSiOの四面体を形成し、この四面体がその3つのOを共有して六角の網状につながることで形成される。また、SiがAlに代わりAlOの四面体を形成することもある。それ以外にも、鉄(Fe)等も四面体を作ることがある。
これに対して、八面体シートは、Alに6つの水酸基(OH)又はOを配位して形成されており、Alの代わりにマグネシウム(Mg)及び/又はFeにより形成されることがある。
【0020】
このようなシートによって、及び/又は、これらシートが積層して結合することによって、層状粘土鉱物が形成される。
四面体シートと八面体シートとが1:1で結合し積層することによって粘土結晶が形成されているものは一般にカオリン鉱物と呼ばれ、カオリナイト、及び、ハロイサイト等が挙げられる。
【0021】
四面体シートと八面体シートとが2:1で結合し積層して(すなわち四面体シート-八面体シート-四面体シート)粘土結晶が形成されているものは、パイロフィライト、タルク、スメクタイト(スメクタイト系粘土鉱物)、バーミキュライト、及び、雲母等が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、層状粘土鉱物としては、スメクタイト系粘土鉱物が好ましい。
【0022】
スメクタイト系粘土鉱物としては、特に制限されず、自然物でも合成物でもよいが、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、及び、ラポナイト等が挙げられる。
なかでも、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、層状粘土鉱物としては、スメクタイト系粘土鉱物のうち、一般に鉄原子を一定量含有すると考えられる、モンモリロナイト以外の粘土鉱物がより好ましく、3八面体型粘土鉱物が更に好ましい。
【0023】
スメクタイト系の粘土鉱物は、その構造から、2八面体型と3八面体型に大別される。前者は、八面体シートに入る陽イオンとして、3価の鉄、及び/又は、アルミニウムが存在する場合が多い。
2八面体型としては、モンモリロナイト、バイデライト、及び、ノントロナイト等が挙げられる。
3八面体型としては、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、ラポナイト、及び、スチーブンサイト等が含まれる。
【0024】
すでに説明したとおり、本発明の実施形態に係る複合体においては、後述する特定有機化合物分子同士の距離が近いため、減圧により分子間における電子移動がおこりやすいものと推測される。
このとき、複合体が3八面体型の層状粘土鉱物を有すると、特定有機化合物分子間を移動する電子が、上記八面体シートに入る陽イオンの還元のために使用されにくく、より優れた応答性(減圧の度合いが小さくても、よりはっきりとした発色が得られる)ものと推測される。
【0025】
なお、本発明の実施形態に係る複合体は、層状粘土鉱物の1種を単独で含有していてもよく、2種以上を併せて含有していてもよい。
また、本発明の実施形態に係る複合体は、上記以外の粘土鉱物を含有していてもよい。
【0026】
〔層状粘土鉱物に保持された特定有機化合物〕
本発明の実施形態に係る複合体は、すでに説明した層状粘土鉱物に保持された下記式1で表される有機化合物、及び、下記式2で表される有機化合物からなる群より選択される少なくとも1種の特定有機化合物を有する。
なお、本明細書において、層状粘土鉱物に保持される、とは層状粘土鉱物の層間に配置されたナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及び、カリウム等の陽イオンと交換して配置された状態であってもよいし、イオン交換を経ず、単に、表面、及び/又は、層間に吸着等された状態であってもよいし、上記の組み合わせであってもよい。
【0027】
なかでも、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、特定有機化合物としては、式1で表される有機化合物が好ましい。
【0028】
【化1】
【0029】
式1中、Rはそれぞれ独立に水素原子、又は、1価の炭化水素基を表し、Lは単結合、又は、2価の基を表し、XはC、又は、Nを表し、Rは互いに結合して環を形成してもよく、式2中、Rはそれぞれ独立に水素原子、又は、1価の炭化水素基を表し、Lは単結合、又は、2価の基を表し、XはC、又は、Nを表し、Rは互いに結合して環を形成してもよく、式1及び式2において、炭素原子に結合する水素原子は、それぞれ独立に1価の基で置換されていてもよく、上記1価の基は、互いに結合して環を形成していてもよい。
【0030】
式1におけるRとしては1価の炭化水素基が好ましく、1価の炭化水素基としては特に制限されないが、炭素数1~10の炭化水素基が好ましく、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、炭素数1~4のアルキル基が更に好ましい。
【0031】
の2価の基としては特に制限されないが、-O-、-NR-(Rは水素原子又は1価の基)、-C(O)O-、-OC(O)-、-S-、飽和又は不飽和のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基、及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0032】
の2価の飽和炭化水素基の形態としては特に制限されないが、例えば、直鎖状、分岐鎖状、又は、環状のアルキレン基が挙げられる。
の2価の不飽和炭化水素基の形態としては特に制限されないが、例えば、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、3環以上の環が縮合した縮合芳香族複素環から誘導される2価基、及び、これらを組み合わせた基等が挙げられる。
【0033】
アルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、1-メチルビニレン基、1-メチルプロペニレン基、2-メチルプロペニレン基、1-メチルペンテニレン基、3-メチルペンテニレン基、1-エチルビニレン基、1-エチルプロペニレン基、1-エチルブテニレン基、及び、3-エチルブテニレン基等が挙げられ、ビニレン基が好ましい。
【0034】
アルキニレン基としては、例えば、エチニレン基、1-プロピニレン基、1-ブチニレン基、1-ペンチニレン基、1-ヘキシニレン基、2-ブチニレン基、2-ペンチニレン基、1-メチルエチニレン基、3-メチル-1-プロピニレン基、及び、3-メチル-1-ブチニレン基等が挙げられ、エチニレン基が好ましい。
【0035】
アリーレン基としては、例えば、o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基、ナフタレンジイル基、アントラセンジイル基、ナフタセンジイル基、ピレンジイル基、ナフチルナフタレンジイル基、ビフェニルジイル基(例えば、[1,1′-ビフェニル]-4,4′-ジイル基、3,3′-ビフェニルジイル基、及び、3,6-ビフェニルジイル基等)、テルフェニルジイル基、クアテルフェニルジイル基、キンクフェニルジイル基、セキシフェニルジイル基、セプチフェニルジイル基、オクチフェニルジイル基、ノビフェニルジイル基、及び、デシフェニルジイル基等が挙げられ、o-フェニレン基、又は、p-フェニレン基が好ましい。
【0036】
ヘテロアリーレン基としては、例えば、カルバゾール環、カルボリン環、ジアザカルバゾール環(モノアザカルボリン環ともいい、カルボリン環を構成する炭素原子のひとつが窒素原子で置き換わった構成の環構成を示す)、トリアゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピラジン環、キノキサリン環、チオフェン環、オキサジアゾール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、及び、インドール環等から誘導される2価の基が挙げられる。
【0037】
3環以上の環が縮合した縮合芳香族複素環から誘導される2価基としては、N、O、及び、Sからなる群より選択される少なくとも1種のヘテロ原子を、縮合環を構成する元素として含有する芳香族複素縮合環であることが好ましく、具体的には、アクリジン環、ベンゾキノリン環、カルバゾール環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、カルボリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環、ジアザカルバゾール環(カルボリン環を構成する炭素原子の任意の一つが窒素原子で置き換わったものを表す)、フェナントロリン環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、及び、チオファントレン環(ナフトチオフェン環)等から誘導される2価基が挙げられる。
【0038】
また、Lの2価の基の他の形態としては、カルコゲン原子、及び、カルコゲン原子を含有するヘテロ炭化水素基等が挙げられる。具体的には、O、S、及び、アルキレンオキシ基、アルキレンチオ基、及び、これらを組み合わせた基が挙げられる。
【0039】
また、Lの2価の基としては、以下の式で表される2価基であってもよい。なお、以下の式中、「*」は結合位置を表す。また下記の2価基において、各炭素原子に結合した水素原子は、1価の基で置換されていてもよく、1価の基としては、後述する置換基Wが挙げられる。
【0040】
【化2】
【0041】
式1中、XはC又はNを表し、より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、Nが好ましい。
【0042】
式1で表される有機化合物としては、以下の式(1a)~(1c)で表される有機化合物が好ましく、(1a)で表される有機化合物がより好ましい。
【化3】
【0043】
上記式中、R、及び、Lの形態としては、すでに説明した式1中の各記号と同様である。式2のRとしては特に制限されないが、*-C(Ra)-*で表される基が好ましく、Raとしては、水素原子、又は、Rの1価の炭化水素基が挙げられる。
【0044】
式2中、Rは水素原子、又は、1価の炭化水素基を表し、1価の炭化水素基としては特に制限されないが、式1におけるRの1価の炭化水素基として説明したのと同様の形態が好ましい。
式2中、Lは単結合又は2価の基を表し、Lの2価の基としては特に制限されないが、式1中のLの2価の基として説明したのと同様の形態が好ましい。
式2中、Xは、C、又は、Nを表し、Nが好ましい。
【0045】
式2で表される化合物としては、特に制限されないが、以下の式(2a)~(2c)で表される化合物が挙げられる。
【化4】
【0046】
上記式中、Rは2価の基を表し、Rはすでに説明した式1c中のRと同様の形態が好ましい。
【0047】
本発明の実施形態に係る複合体は、層状粘土鉱物に(典型的には層間に)上記特定有機化合物の少なくとも1種が、上記層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の70%当量を超えて保持されている。以下、本明細書において、層状粘土鉱物に保持されている上記特定有機化合物の量を、単に「保持量」ともいう。
【0048】
すなわち、本発明の実施形態に係る複合体は、層状粘土鉱物に上記特定有機化合物の少なくとも1種が保持されており、その保持量が上記層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の70%当量を超える複合体である。
なお、層状粘土鉱物に2種以上の上記特定有機化合物が保持されている場合には、特定有機化合物の合計の保持量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0049】
本明細書において、「保持量」とは、以下の値を意味する。
まず、原料粘土(層状粘土鉱物)を塩化カルシウム溶液(1N)でCaイオン飽和処理し、これに酢酸アンモニウム溶液(1N)を加え、浸出するCaイオンを原子吸光法又は結合プラズマ発光分析法(ICP)で定量分析して層状粘土鉱物自体の陽イオン交換容量を求める。
【0050】
次に、「保持量」は、層状粘土鉱物と特定有機化合物とを複合させる際の特定有機化合物の仕込み量により決定する。すなわち、層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の80%当量となるような量で特定有機化合物を仕込んで複合させた場合には、得られる複合体における特定有機化合物の保持量は、陽イオン交換容量の80当量%である。また、層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の70%当量となるような量で特定有機化合物を仕込んで複合させた場合には、得られる複合体における特定有機化合物の保持量は、陽イオン交換容量の70当量%である。
【0051】
従って、「保持量」の上限は100当量%ではなく、層状粘土鉱物の陽イオンと交換せず保持されている特定有機化合物(例えば、表面に吸着されている形態等)も含めて、仕込み量により決定される。
【0052】
例えば、層状粘土鉱物自体の陽イオン交換容量の160%当量となるような量で特定有機化合物を仕込んで複合させた場合には、得られる複合体における「保持量」は160当量%ということになる。
一方で、100当量%を超えて特定有機化合物を保持する複合体においては、保持された特定有機化合物の一部が、イオン交換を経ずに(典型的には表面に吸着等されて)保持されているものと推測される。このような形態で保持された特定有機化合物は、後述する実施例に記載したとおり洗浄等により取り除くこともできる。
すなわち、本明細書において、上述の保持量160当量%の複合体を、洗浄液に特定有機化合物が溶出しなくなるまで洗浄して得られる複合体は、100当量%の複合体と定義する。
【0053】
より優れた本発明の効果を有する複合体が得られる点で、複合体における特定有機化合物の保持量としては、層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の75当量%以上が好ましく、80%当量以上がより好ましく、85%当量以上が更に好ましく、90%当量以上が特に好ましい。
一方、複合体における特定有機化合物の保持量の上限値としては特に制限されないが、一般に800%当量以下が好ましく、160%当量以下がより好ましく、特定有機化合物がより遊離しにくい点で、100%当量以下が好ましい。特に、特定有機化合物が毒性を有する場合には上記上限値以下であることが好ましい。
【0054】
複合体は上記以外の成分を含有していてもよく、上記以外の成分としては、対イオンが挙げられる。対イオンとしては特に制限されないが、ハロゲン化物イオン等が挙げられる。
【0055】
〔複合体の製造方法〕
複合体の製造方法として特に制限されず、層状粘土鉱物に特定有機化合物を保持させるために用いられる公知の方法を特に制限なく適用可能である。
なかでも、より容易に上記複合体を製造できる点で、複合体の製造方法は、以下の工程をこの順に有することが好ましい。
【0056】
・層状粘土鉱物と、溶媒とを接触させ、溶媒中に層状粘土鉱物を分散させ、層状粘土鉱物の分散体を得る工程(工程A)。
・上記分散体に、所定量の特定有機化合物を加え、分散された層状粘土鉱物に、上記特定有機化合物を保持し、複合体を得る工程(工程B)。
上記複合体の製造方法は、工程Bの後に、更に、複合体の精製工程(工程C)を有していてもよい。
【0057】
(工程A)
工程Aは、層状粘土鉱物と、溶媒とを接触させ、溶媒中に層状粘土鉱物を分散させ、層状粘土鉱物の分散体を得る工程である。
溶媒としては特に制限されず、水、有機溶媒、及び、これらの混合物を使用することができ、なかでもより優れた本発明の効果を有する複合体がより簡易に製造できる点で、水、又は、水及び有機溶媒の混合物が好ましく、水がより好ましい。
【0058】
有機溶媒としては特に制限されず、公知の有機溶媒を用いることができるが、より簡易に複合体が得られる点で、水と混和する有機溶媒(水溶性有機溶媒)が好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ビス(2-ヒドロキシエチル)スルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド等のアミド類;N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシメチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン等のラクタム類;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジエチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジイソプロピル-2-イミダゾリジノン等のイミダゾリジノン類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルなどのエチレングリコールアルキルエーテル(アルキルは炭素原子数1~6の低級アルキル基)類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル2-アセタート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコール-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル(アルキルは炭素原子数1~6の低級アルキル基)類、多価アルコール類、及び、その誘導体が挙げられる。
【0059】
層状粘土鉱物と溶媒とを接触させ、溶媒中に層状粘土鉱物を分散させる方法としては特に制限されないが、層状粘土鉱物を溶媒に加え、撹拌する方法が挙げられる。
【0060】
(工程B)
工程Bは上記分散体に、所定量の特定有機化合物を加え、分散された層状粘土鉱物に、上記特定有機化合物を保持し、複合体を得る工程である。
分散体に特定有機化合物を加える方法としては特に制限されないが、分散体に特定有機化合物を直接加える方法、及び、予め特定有機化合物を溶媒に溶解、又は、分散させて特定有機化合物溶液を作製し、上記特定有機化合物溶液を分散体に加える方法等が挙げられる。なお、特定有機化合物溶液に使用する溶媒としては特に制限されず、工程Aで説明した溶媒を用いることができる。
【0061】
工程Bにおいては、層状粘土鉱物の陽イオン交換容量の70%当量を超えて、特定有機化合物が保持されるような比率で層状粘土鉱物と特定有機化合物の比率を調整する。複合体を得る方法としては、具体的には、分散体に特定有機化合物を加え、公知の撹拌手段(マグネチックスターラー、及び、超音波等)により撹拌する方法が挙げられる。
【0062】
(工程C)
工程Cは、工程Bにより得られた複合体を精製する工程である。複合体を生成する方法としては特に制限されないが、例えば、工程Bにおいて得られた複合体を含有する溶液から、複合体を遠心分離、又は、ろ別し、得られた複合体を洗浄する方法が挙げられる。
洗浄に使用する洗浄液としては特に制限されないが、工程Aにおいて説明した溶媒を用いることが好ましい。
工程Cによって、複合体における特定有機化合物の保持量を調整できる。すなわち、洗浄中に、洗浄液に溶出した特定有機化合物の量を測定することによって、複合体に残存、保持される特定有機化合物の量が計算できる。
【0063】
〔複合体の用途〕
本発明の実施形態に係る複合体は、減圧状態において光学物性が変化(典型的には、色調が変化)するため、複合体が配置されている空間の減圧状態を検知可能である。典型例として、特定有機化合物としてメチルビオロゲンを用いた複合体であれば、減圧下で青色(一電子還元されて生じたラジカルカチオンに起因すると推測される)となるため、空間内の減圧状態を、複合体の色の変化から検知することができる。
本発明の実施形態に係る複合体は光照射を経ずに、減圧の刺激により特定有機化合物の少なくとも一部が還元され、光学物性が変化するため、圧力検知素子等に応用可能である。
【0064】
[積層体]
本発明の実施形態に係る積層体は、支持体と、支持体上に形成された上記複合体を含有する検知層と、を有する積層体である。
上記積層体によれば、積層体が配置された空間内における微小な圧力変化(具体的には、減圧状態)を好感度に検知可能である。
【0065】
図1は本発明の実施形態に係る積層体の斜視図である。積層体100は、平板上の支持体102の一方の主面に、検知層101を有している。
積層体100においては、検知層101は、支持体102の一方の主面上に配置されているが、本発明の実施形態に係る積層体としては上記に制限されず、支持体の両方の主面に検知層が配置されていてもよいし、支持体の表面の全体に検知層が配置されていてもよい。
また、積層体100においては、支持体の一方の主面の全体に検知層101が配置されているが、本発明の実施形態に係る積層体としては上記に制限されず、支持体上の少なくとも一部に検知層が配置されていればよい。
【0066】
また、積層体100は平板上であるが、積層体の形状としては上記に制限されず、曲面を有する3次元形状であってもよい。
【0067】
また、積層体100は、支持体102の表面上に、検知層101が配置されているが、本発明の実施形態に係る積層体としては上記に制限されず、支持体と検知層との間に他の層を有していてもよい。他の層としては特に制限されず、公知の層を使用できる。他の層としては、例えば、反射防止層、下塗り層、及び、易接着層等が挙げられる。
【0068】
また、積層体100は、支持体102と、検知層101とを有するが、本発明の実施形態に係る積層体としては特に制限されず、検知層101上に、更に、保護層を有していてもよい。保護層としては特に制限されず、公知の材料から形成された保護層が使用できるが、より優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、保護層としては、後述する支持体と同様の形態が好ましい。
また、積層体が保護層を有する場合には、検知層と保護層との間に、他の層(例えば、反射防止層、上塗り層、及び、易接着層等)が挙げられる。
【0069】
(支持体)
上記積層体は支持体を有する。支持体としては特に制限されず、有機物、無機物、及び、これらの組み合わせ等が使用可能である。
より具体的には、支持体としては、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、フロートガラス、及び、ソーダ石灰ガラス等のガラス製支持体が挙げられる。
また、支持体としては、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン系樹脂、及び、ポリイミド系樹脂等の樹脂製支持体が挙げられる。
支持体としては、上記以外に、紙(例えばろ紙等)を用いることもできる。
また、支持体の表面に、反射防止層等がコーティングされた、コーティング層付き支持体であってもよい。
【0070】
支持体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、長方形であっても円形であってもよいし、曲面形状を有する3次元形状であってもよい。
積層体は、更に支持体を有してもよく、支持体、検知層、及び、支持体がこの順に積層された形態であってもよい。
また、支持体の厚みとしては特に制限されず、用途に応じて適宜選択されればよい。
【0071】
(検知層)
検知層は、すでに説明した複合体を含有する層であり、複合体の色調変化により、微小な圧力変化(具体的には減圧状態)を検知するための層である。
検知層は、上記複合体を含有していればその他の成分としては特に制限されないが、複合体以外の成分として、バインダ、及び、溶媒等を含有していてもよい。
検知層における複合体の含有量としては特に制限されないが、複合体の全質量に対して0.1~100質量%が好ましい。
検知層の厚みとしては特に制限されず、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0072】
バインダとしては特に制限されず、例えば、アクリル系樹脂、アルキド系樹脂、イソシアネート系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、及び、メラミン系樹脂等が使用可能である。
なかでも、複合体の色調変化をよりはっきり視認できる点で、透明樹脂であることが好ましい。なお、透明樹脂としては、3mmの厚みのシートについて、透過率として、波長400~1400nmの全光線透過率が85%であることが好ましく、更に好ましくは90%以上であることがより好ましい。
【0073】
溶媒としては特に制限されず、水、有機溶媒、及び、これらの混合物が挙げられる。なかでもより優れた本発明の効果を有する積層体が得られる点で、溶媒としては、水、又は、水及び有機溶媒の混合物が好ましい。
【0074】
上記積層体は、配置された空間内における圧力変化、より具体的には減圧状態を検知することができる。減圧の程度としては特に制限されないが、ゲージ圧として、-0.001MPa以下が好ましく、-0.01MPa以下がより好ましく、-0.1MPa以下が更に好ましい。
【実施例
【0075】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0076】
[実施例1:複合体1の調製]
陽イオン交換容量100cmol/kgサポナイト分散液(スメクトンSA、クニミネ工業(株)製)に対して、100mMメチルビオロゲン溶液を陽イオン交換容量の160%当量となるように混合した後、遠心分離により水洗を繰り返すことで余剰のメチルビオロゲンを除去し、サポナイトの陽イオン交換容量に対して、100%当量のメチルビオロゲンが保持された複合体を得た。
【0077】
なお、100%当量の複合体が得られたことは、遠心分離後の上澄液を採取し、吸光度の測定によりメチルビオロゲンの吸光ピーク(260nm付近)を測定し、このピークが現れないことで、余剰のメチルビオロゲンは除去された、と判断した。すなわち、100%当量分のメチルビオロゲンはサポナイト内に残存、保持されていると判断した。
【0078】
[実施例2:複合体2の調製]
複合体におけるメチルビオロゲンの保持量が80%当量となるよう、サポナイト分散液とメチルビオロゲン溶液の仕込み量を調整したことを除いては、実施例1と同様の方法により複合体2を調製した。
【0079】
[実施例3:複合体3の調製]
複合体におけるメチルビオロゲンの保持量が160%当量となるよう、サポナイト分散液とメチルビオロゲン溶液の仕込み量を調整したことを除いては、実施例1と同様の方法により複合体3を調製した。
【0080】
[実施例4:複合体4の調製]
複合体におけるメチルビオロゲンの保持量が800%当量となるよう、サポナイト分散液とメチルビオロゲン溶液の仕込み量を調整したことを除いては、実施例1と同様の方法により複合体4を調製した。
【0081】
[比較例1:複合体Cの調製]
複合体におけるメチルビオロゲンの保持量が70%当量となるよう、サポナイト分散液とメチルビオロゲン溶液の仕込み量を調整したことを除いては、実施例1と同様の方法により複合体Cを調製した。
【0082】
[評価]
複合体1~3、及び、複合体Cについて、ゲージ圧-0.1MPaの減圧下に2時間静置し、可視光の吸光度(透過率)、及び、パルス電子スピン共鳴(ESR)スペクトルを測定した。なお、一連の評価試験は、暗下で実施した。
図2には、実施例1に係る吸光度(透過率)を示した。
図3図4、及び、図5には、実施例2、実施例3、及び、比較例の複合体のESRスペクトルを示した。
【0083】
複合体1は調製直後に淡赤色~紫色に呈色し,560nm付近にピークを持つ吸収を有していた。図2の「作製直後」のスペクトルがこれに対応している。
次に、減圧下で2時間静置した後では、複合体1は、青色に呈色し、400、475、600nm付近にピークを持つ吸収を示した。図2の「減圧下静置後」のスペクトルがこれに対応する。
次に、この青色の複合体を大気下に移すと、黄緑色に変化した。図2の「大気下」のスペクトルがこれに対応する。
上記の結果から、複合体は、減圧下で光学特性(色調)が変化し、減圧状態を検知できることが明らかとなった。
また、複合体4につても、同様の光学特性(色調)の変化を確認した。
【0084】
図3図5において、各図の縦軸は吸収強度で不対電子の量に対応している。横軸は磁場強度で、ピークの中心値は化学種に特有なg値に依存する。両端のピークはスタンダード試料であるMgO中に含まれるMn2+の微細構造によるシグナルである。
図3及び図4からわかるとおり、保持量が160%当量である複合体3は、保持量が80%当量である複合体2と比較して、吸収強度がより大きい、言い換えれば、同様の減圧状態においても特定有機化合物がより強く発色することがわかった。
一方、図5からわかるとおり、保持量が70%当量である複合体Cは、本発明の所望の効果を有していなかった。
【符号の説明】
【0085】
100 積層体
101 検知層
102 支持体
図1
図2
図3
図4
図5