(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】電解銅めっき方法に用いられるダミー材の処理方法
(51)【国際特許分類】
C25D 17/10 20060101AFI20220926BHJP
C25D 1/20 20060101ALI20220926BHJP
C25D 21/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C25D17/10 B
C25D1/20
C25D21/00 J
(21)【出願番号】P 2019201374
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519396337
【氏名又は名称】株式会社花岡金属商会
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】花岡 俊
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-104998(JP,A)
【文献】特開平10-152799(JP,A)
【文献】特開2004-176102(JP,A)
【文献】特開昭48-031103(JP,A)
【文献】特開平04-162759(JP,A)
【文献】特開2015-086444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/00-17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき対象基板をめっき液に浸漬させ電流を流す電解めっき工程と、を備える電解銅めっき方法において、
前記電解めっき工程において、前記めっき対象基板のめっき条件を一定に保つためのダミー材としてチタン
製の部材を用いる、
ことを特徴とする電解銅めっき方法において、銅めっきされた前記ダミー材の処理方法であって、
前記めっき工程で析出した銅を前記ダミー材から剥離させ、前記銅を銅材として再利用
し、
前記ダミー材が板材であり、前記銅材が銅板であり、
前記銅材がめっきされた前記ダミー材の端面の銅層を切断することにより、前記ダミー材の寸法を減少させることなく前記銅層を分離して前記銅材を剥離することを特徴とするダミー材の処理方法。
【請求項2】
前記ダミー材が矩形の板材であり、前記銅材がめっきされたダミー材の銅層の端面を、前記銅材がめっきされた矩形のダミー材の4辺で切断し前記銅層を分離することを特徴とする請求項
1に記載のダミー材の処理方法。
【請求項3】
前記ダミー材が矩形の板材であり、前記銅材がめっきされたダミー材の銅層の端面を、前記銅材がめっきされた矩形のダミー材の3方向の端面で切断し、切断していない辺で銅層を折り返すことにより前記銅層を分離することを特徴とする請求項
1に記載のダミー材の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解銅めっき方法に用いられるダミー材の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂板の表面に銅箔を積層した銅張積層板は、電解銅めっき工程を経てプリント配線板の材料となる。電解銅めっき工程では、硫酸銅が溶解しためっき液内にリンを含んだ銅を陽極として配置し、銅張積層板を陰極として配置し、電流を流すことで陰極側に銅を析出させ表面をめっきする。この時、陰極側の銅張積層板の枚数や面積が変化すると、電流密度が変化し、めっきの厚さが不均一となる。更に、めっき液槽内の電流密度は槽の端部で高くなるため、陰極側に流れる電流の大きさが部位によって異なり、その結果、めっきの厚さが不均一となる。
そこで、従来より、陰極側の電流密度が均一にすべく、ダミー材をめっき対象基板と共にめっき液内に投入することが行われている。ダミー材は電導性を有し、一般的には銅張積層板が用いられている。ダミー材にもめっき対象基板と同様に電解銅めっきが施されるため、めっき対象基板とダミー材を合わせた数量(枚数)が一定となるように、ダミー材を投入することで、めっき対象基板へのめっき条件を均一にして、めっき厚さも均一に保つことができる。ダミー材は複数回の電解銅めっき工程で繰り返し利用され、従来は、めっき厚が厚くなると交換されていた。
なお、特許文献1には、従来技術として、電解銅めっき工程において電流集中の生じる部分に電導性のダミー材を使うことが記載されている。
また、特許文献2には、銅を含む廃棄物の処理方法として、廃棄物を所定のサイズ以下に粉砕する工程と、前記粉砕された廃棄物を銅の溶錬炉で処理する工程とを備えた処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-299398号公報
【文献】特開2015-123418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるように、電解銅めっき工程でダミー材を用いた場合、銅めっきされたダミー材から、銅とダミー材基材を分離して再利用することが望ましく、この場合、特許文献2に記載された技術を適用することも考えられる。しかし、特許文献2の技術では、廃棄物の樹脂と銅は分離されずに一緒に粉砕され、銅の溶錬炉へ投入される。このため、溶解した銅は再利用できるが、樹脂は燃焼して再利用できないため、ダミー材を完全にリサイクルすることはできない。
【0005】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、電解銅めっき工程で使用されたダミー材を有効に再利用できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本発明は、めっき対象基板をめっき液に浸漬させ電流を流す電解めっき工程と、を備える電解銅めっき方法において、前記電解めっき工程において、前記めっき対象基板のめっき条件を一定に保つためのダミー材としてチタン製の部材を用いることを特徴とする電解銅めっき方法において、銅めっきされた前記ダミー材の処理方法であって、前記めっき工程で析出した銅を前記ダミー材から剥離させ、前記銅を銅材として再利用し、前記ダミー材が板材であり、前記銅材が銅板であり、前記銅材がめっきされた前記ダミー材の端面の銅層を切断することにより、前記ダミー材の寸法を減少させることなく前記銅層を分離して前記銅材を剥離することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、めっき対象基板をめっき液に浸漬させ電流を流す電解めっき工程と、を備える電解銅めっき方法において、前記電解めっき工程において、前記めっき対象基板のめっき条件を一定に保つためのダミー材としてチタン製又はステンレス製の部材を用いる、ことを特徴とする電解銅めっき方法において、銅めっきされた前記ダミー材の処理方法であって、前記ダミー材を硫酸に浸漬してめっきされた銅を溶解させて生成される硫酸銅を前記めっき液として使用することを特徴とする。
【0010】
以上によれば、ダミー材がチタン製又はステンレス製であり、チタン及びステンレスと銅との付着性は低いため、銅めっきされたダミー材から銅を完全に分離することができるので、ダミー材を再利用することができる。また、上記特許文献2の技術を適用した場合には、樹脂を含むダミー材を焼却することになり、焼却に伴って発生する煙が大気汚染につながるおそれがあるが、本発明によれば、焼却処理を行わないので煙が発生せず、大気汚染の原因となるおそれもなく、環境に配慮した処理方法を提供できる。
【0011】
また、銅めっきされたダミー材から銅層を剥離させた場合、剥離した銅層も銅板として再利用することができる。
また、銅めっきされたダミー材を硫酸に浸漬させて銅を溶解させた場合、硫酸銅が生成される。硫酸銅は例えばめっき液の材料として有効に再利用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電解銅めっき工程で使用されたダミー材を有効に再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】プリント基板(リジット基板)銅めっき工程を表すフローチャートである。
【
図2】めっき治具10にめっき対象基板1が取り付けられている状態を示す正面図である。
【
図3】電解銅めっき中のめっき槽20の側面図である。
【
図4】電解銅めっき中のめっき槽20内の電流密度を示す側面図である。
【
図5】電解銅めっき中のめっき槽20内における
図4のA-A断面の電流密度を示す断面図である。
【
図6】めっき対象基板1の電流密度が高い部分31を示すめっき治具10の正面図である。
【
図7】ダミー材40の使用例を示すめっき治具10の正面図である。
【
図8】ダミー材40をめっき対象基板1の周辺に配置した状態を示すめっき治具10の正面図である。
【
図9】銅めっきされたダミー材40を示す正面図である。
【
図11】銅めっきされたダミー材40を硫酸に浸漬している状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、プリント基板(リジット基板)銅めっき工程の概要を説明する。
図1は、プリント基板(リジット基板)銅めっき工程を表すフローチャートである。
同図に示すように、プリント基板(リジット基板)銅めっき工程では、前洗浄工程S1、触媒付与工程S2、無電解銅めっき工程S3、電解銅めっき工程S4、後洗浄工程S5がこの順で実行される。
【0015】
前洗浄工程S1は、めっき対象基板1を脱脂、水洗する工程である。前記めっき対象基板1の表面の不純物を取り除き、後工程の触媒付与工程S2で意図した部位に触媒が付与できるようにする工程である。めっき対象基板1は板状の紙やガラス繊維等の基材にエポキシ等の樹脂を含浸させた基板と、基板の表面に銅箔を貼り付けたもので、いわゆる銅張積層板である。めっき対象基板1には穴部2が設けられている。
触媒付与工程S2は、めっき対象基板1に触媒であるパラジウムを付与させる工程である。パラジウムを下地として、次の無電解銅めっき工程S3において、めっき対象基板1の穴部2に存在する樹脂部に銅が析出する。
無電解銅めっき工程S3は、めっき対象基板1を銅イオンを含む無電解銅めっき用のめっき液に浸漬し、化学反応でめっき対象基板1の樹脂部に銅めっきが析出する工程である。触媒付与工程S2においてめっき対象基板1の樹脂部に付与したパラジウムを触媒として、めっき液中の銅イオンが還元されて、銅がめっき対象基板1の穴部2内面の樹脂部に析出し、これによりめっき対象基板1の表面の銅箔と裏面の銅箔とが電気的に接続される。
電解銅めっき工程S4は、硫酸銅が溶解されためっき液にめっき対象基板1を浸漬し、めっき液中に配置された銅製の陽極と、めっき対象基板1を陰極として電流を流すことで、めっき対象基板1の表面に銅を析出させる工程である。
後洗浄工程S5は、めっき対象基板1から前工程で使用した硫酸を洗浄する工程である。
【0016】
次に、電解銅めっき工程S4の詳細について
図2及び
図3を参照して説明する。
図2に示すように、穴部2に銅めっきが生成されためっき対象基板1が、めっき治具10に取り付けられる。めっき治具10は、例えば、めっき対象基板1を支えるラック11と、アーム12で構成される。ラック11とアーム12は電導性の金属(例えばステンレス)で構成され、後述するように、直流電源14からめっき対象基板1に電流が流れる。
【0017】
めっき槽20には、めっき液21が貯められている。めっき槽20はその内面が耐酸性を有する材料(例えばFRP等の樹脂)により覆われた、上面が開口した直方体状の槽である。めっき液21は硫酸銅を含む溶液であり、めっき条件調整のための添加剤も含まれる。めっき槽20には銅製の電極13が、その下端がめっき槽20の底面に接触せず、上端がめっき液21の液面よりも上に位置するように配置されている。電極13は棒状や板状に形成され、めっき槽20の側壁面と平行となるように配置されるのが好ましい。電極13は直流電源14の陽極端子に接続されている。
【0018】
めっき治具10は、図示しない自動搬送装置によってめっき槽20の内部に電極13と略平行となるように配置される。めっき治具10は直流電源14の陰極端子に接続される。直流電源14をオンすると、直流電源14の陽極端子→電極13→めっき液21→めっき対象基板1→ラック11→アーム12という経路で電流が流れる。この時、陰極側のめっき対象基板1の表面において、めっき液21内の銅イオンへと電子が受け渡されることで、銅が析出し銅めっき層30を形成する。一方、電極13の表面では、銅分子から電子が離されて銅イオンがめっき液21内に溶解する。
【0019】
例えば
図2で示しためっき治具10にはめっき対象基板1を4枚取り付けることが可能であるが、生産数の都合等で3枚だけ取り付ける場合もある。この場合、陰極側に接続するめっき対象基板1の面積が減少してしまうため、めっき槽20内の電流密度が変化し、めっき対象基板1に析出する銅めっき層30の厚さも変化してしまう。ダミー材40は、このようなめっき厚さの変化を抑制すべく、
図7に示すように、めっき対象基板1が取り付けられていない箇所に配置して減少した面積を補うために用いられる。
【0020】
ダミー材40にはめっき対象基板1と同じ材料の銅張積層板が用いられるので、
図7に示すようにダミー材40を配置することで、めっき治具10にめっき対象基板1が4枚取り付けられている時と同じ電流密度で電解銅めっきを実施することができ、これにより、めっき厚さを一定に保つことができる。
【0021】
図4は、
図3に示す電解銅めっきが行われている状態において、めっき槽20の内部における電流密度を矢印の密度で表した側面図である。また、
図5は、
図4のA-A断面図である。例えば
図4における直流電源14の陽極端子に接続された電極13の下端部を始点とする電流線は、最短距離を通って直流電源14の陰極端子に接続されためっき対象基板1の下端部へと収束する。同様に、
図5における電極13の左右端部を始点とする電流線は、めっき対象基板1の左右端部へと収束する。それゆえ、
図6にハッチングで示すめっき対象基板1の端部は中心部と比較して電流密度が高い。電解めっきにおいて、めっきの厚さと電流密度の高さは比例することが知られている。それゆえ、電流密度が高いめっき対象基板1の端部はめっき厚さが厚くなる。
【0022】
そこで、
図6で示した電流密度が高い部位31に該当する部分へダミー材40を配置することで、めっき対象基板1のめっき厚さを均一化することができる。
図8に、ダミー材40専用の取付部位を有するめっき治具10の一例を示す。めっき対象基板1を電流密度が均一となる部位に配置することができ、めっきの厚さを均一にすることができる。
【0023】
めっき対象基板1に目標の銅めっき厚さが生成されると、めっき治具10は図示しない自動搬送装置によって、めっき槽20から引き揚げられる。その後、後洗浄工程S5を経て、めっき対象基板1及びダミー材40はめっき治具10から取り外される。
【0024】
ダミー材40は繰り返し電解銅めっき工程S4へ投入することが可能である。ただし、ダミー材40は電解銅めっき工程S4へ投入される毎に、表面にめっきされる銅が厚くなり、それに伴ってダミー材40の重量が増大する。そして、めっき治具10で支持できる重量には限界があるため、一定以上の重量に達するとダミー材40を交換する必要がある。本発明は、ダミー材40を有効に再利用する点に特徴を有しているが、この点について以下詳細に説明する。
【0025】
本発明では、ダミー材40として、チタン製又はステンレス製の部材(本実施形態では板材)を用いている。チタン又はステンレスは導電体であるため、従来の銅張積層板と同じ使用方法で、めっき槽20内の電流密度を調整することが可能である。また、ダミー材40の形状を従来使用していた銅張積層板と同じ形状とすることで、めっき治具10をそのまま使用してダミー材40を支持することが可能である。
【0026】
ダミー材40としてチタン製又はステンレス製の板材を用いた場合にも、繰り返し電解銅めっき工程S4で使用されることで表面にめっきされる銅が厚くなり、それに伴って、ダミー材40の重量が増大するため、一定以上の重量に達するとダミー材40を交換する必要がある。
【0027】
図9は、銅めっきされたダミー材40の正面図であり、
図10は
図9のB-B断面図である。銅めっきされたダミー材40から、銅を分離する場合、ダミー材40の外周縁に沿った切断線(
図9及び
図10に点線P~Sで示す)で切断する。ダミー材40を構成するチタンやステンレスは、銅めっきの付着強度が小さいので、ダミー材40の端面部の銅層を切断するだけで、銅層とチタン板又はステンレス板とを簡単に引き剥がして、銅層とチタン板又はステンレス板とを完全に分離することができる。分離した銅層と、チタン板又はステンレス板は、銅材及びチタン材又はステンレス材として有効に再利用することができる。また、この時得られる銅は純度が高く、高価値材料として市場に流通させることができる。
また、上記した切断を行う際、ダミー材40(チタン製又はステンレス製の板材部分)を切削しないようにすることで、ダミー材40の寸法を減少させることなく再利用することが可能である。
なお、上記の例では、銅めっきされたダミー材40の4辺を切断するものとしたが、これに限らず、例えば3辺を切断して、切断していない辺で銅層を折り返すことによりダミー材40と銅層30を分離してもよい。
【0028】
〔変形例〕
図11に示すように、銅層でめっきされたダミー材40を酸(同図の例では硫酸)に浸漬している状態を示す。このように、交換したダミー材40を酸に浸漬させることで、銅層を酸に溶解して、チタン板又はステンレス板を分離してもよい。この場合、ダミー材40が、酸に溶解しないように、ダミー材40として耐酸性が高いチタン製の板材を用いることが好ましい。
【0029】
また、上記の酸として硫酸を用いると、銅が硫酸に溶解することで硫酸銅が生成される。生成された硫酸銅は例えばめっき液21の材料として有効に再利用することができる。
【0030】
更に、以上の実施例及び変形例の何れも、ダミー材40を再生する際に焼却処理を行わず、焼却に伴う煙が発生しないため、大気汚染の原因となることがなく、環境に配慮した方法である。
【符号の説明】
【0031】
1 めっき対象基板
21 めっき液
30 銅めっき層
40 ダミー材