(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】半導体装置の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20220926BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H01L21/60 311T
H01L21/52 F
(21)【出願番号】P 2022519920
(86)(22)【出願日】2021-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2021015681
(87)【国際公開番号】W WO2021225066
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2020082427
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-16951(JP,A)
【文献】特開平5-3223(JP,A)
【文献】特開2015-126007(JP,A)
【文献】特開2012-84740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
H01L 21/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が載置されるステージと、
前記ステージに対向する保持面でチップを吸引保持し、前記ステージに対して前記ステージの面方向および法線方向に相対的に移動可能なボンディングヘッドと、
前記ボンディングヘッドに設けられた倣い機構であって、凹状球面及び凸状球面の一方を含む固定部材と、凹状球面及び凸状球面の他方を含むとともに前記保持面とともに前記固定部材に対して揺動可能に設けられた可動部材と、を有する倣い機構と、
前記保持面に保持された前記チップの端面または前記保持面である対向面を、前記ステージで保持された基板平面または前記ステージ平面である基準面に倣わすことで、前記対向面を前記基準面に対して平行に調整する倣い処理を実行させるコントローラと、
を備え、前記倣い機構は、前記可動部材の揺動が可能なフリー状態と、前記可動部材の揺動が規制されたロック状態と、に切り替え可能であり、
前記コントローラは、前記倣い処理において、前記ボンディングヘッドの軸方向位置が規定の基準位置に達するまで、前記倣い機構を前記フリー状態で前記対向面を前記基準面に当接させたまま前記ボンディングヘッドを前記基準面の面方向に相対的に移動させ、前記軸方向位置が前記基準位置に達した際に前記倣い機構を前記ロック状態に切り替える、
ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、前記倣い処理において、前記ボンディングヘッドを、少なくとも基準面に平行な四方向に移動させる、ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記コントローラは、前記倣い処理において、前記ボンディングヘッドを予め規定した倣いルートに沿って移動させる過程で、前記軸方向位置が前記ステージに最も近づいたときの前記軸方向位置を前記基準位置として特定する、ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の半導体装置の製造装置であって、
前記基準位置は、前記ボンディングヘッドおよびステージの配置、または、過去の倣い処理の結果に基づいて予め決定されている、ことを特徴とする半導体装置の製造装置。
【請求項5】
ステージに載置された基板に、倣い機構を有するボンディングヘッドの保持面で吸引保持したチップをボンディングすることで、半導体装置を製造する半導体装置の製造方法であって、
前記保持面に保持された前記チップの端面または前記保持面である対向面を、前記ステージで保持された基板平面またはステージ平面である基準面に倣わすことで、前記対向面を前記基準面に対して平行に調整する倣いステップを備えており、
前記倣い機構は、凹状球面及び凸状球面の一方を含む固定部材と、凹状球面及び凸状球面の他方を含むとともに前記保持面とともに前記固定部材に対して揺動可能に設けられた可動部材と、を有し、前記可動部材の揺動が可能なフリー状態と、前記可動部材の揺動が規制されたロック状態と、に切り替え可能であり、
前記倣いステップにおいて、前記ボンディングヘッドの軸方向位置が規定の基準位置に達するまで、前記倣い機構を前記フリー状態で前記対向面を前記基準面に当接させたまま前記ボンディングヘッドを前記基準面の面方向に相対的に移動させ、前記軸方向位置が前記基準位置に達した際に前記倣い機構を前記ロック状態に切り替える、
ことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、倣い機構を有したボンディングヘッドを用いて半導体チップを基板にボンディングすることで、半導体装置を製造する製造装置および製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
ボンディングヘッドの先端面(以下「保持面」という)に半導体チップを吸引保持した状態でボンディングヘッドを駆動し、半導体チップを基板にボンディングすることで、半導体装置を製造する技術が従来から広く知られている。かかる半導体装置の製造技術において、半導体チップを基板の表面に良好に接合するためには、保持面が基板の平面に高い精度で平行になっていることが求められる。
【0003】
保持面を、簡易な手順で、基板に対して平行にするために、ボンディングヘッドに倣い機構を搭載した製造装置も知られている。ここで、倣い機構とは、凹状球面及び凸状球面の一方を含む固定部材と、凹状球面及び凸状球面の他方を含む可動部材と、を有しており、可動部材が固定部材に対して三次元的に揺動できるものである。倣い機構は、可動部材の揺動が可能なフリー状態と、可動部材の揺動が規制されたロック状態と、に切り替え可能である。
【0004】
特許文献1には、こうした倣い機構を搭載したボンディングヘッドが開示されている。特許文献1では、倣い機構をフリーにした状態で、ボンディングヘッドで保持した第2の対象物を、ステージ上に保持された第1の対象物に当接させ、押圧することで、第2の対象物の当接面を第1の対象物の面に対して平行に調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によれば、簡易な手順で、ボンディングヘッドの保持面を、ステージに対して、ある程度平行にできる。しかしながら、ボンディングヘッドの保持面またはボンディングヘッドで保持された第2の対象物を、ステージまたはステージで保持された第1の対象物に、単純に押し当てただけの場合、摩擦の影響などにより、保持面が完全に平行にならない場合があった。つまり、従来の技術では、ボンディングヘッドの保持面をステージの平面に対して高精度で平行に調整することは難しかった。
【0007】
そこで、本明細書では、簡易な手順で、ボンディングヘッドの保持面をステージの平面に対して高精度で平行に調整できる半導体装置の製造装置および製造方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示する半導体装置の製造装置は、基板が載置されるステージと、前記ステージに対向する保持面でチップを吸引保持し、前記ステージに対して前記ステージの面方向および法線方向に相対的に移動可能なボンディングヘッドと、前記ボンディングヘッドに設けられた倣い機構であって、凹状球面及び凸状球面の一方を含む固定部材と、凹状球面及び凸状球面の他方を含むとともに前記保持面とともに前記固定部材に対して揺動可能に設けられた可動部材と、を有する倣い機構と、前記保持面に保持された前記チップの端面または前記保持面である対向面を、前記ステージで保持された基板平面または前記ステージ平面である基準面に倣わすことで、前記対向面を前記基準面に対して平行に調整する倣い処理を実行させるコントローラと、を備え、前記倣い機構は、前記可動部材の揺動が可能なフリー状態と、前記可動部材の揺動が規制されたロック状態と、に切り替え可能であり、前記コントローラは、前記倣い処理において、前記ボンディングヘッドの軸方向位置が規定の基準位置に達するまで、前記倣い機構を前記フリー状態で前記対向面を前記基準面に当接させたまま前記ボンディングヘッドを前記基準面の面方向に相対的に移動させ、前記軸方向位置が前記基準位置に達した際に前記倣い機構を前記ロック状態に切り替える、ことを特徴とする。
【0009】
この場合、前記コントローラは、前記倣い処理において、前記ボンディングヘッドを、少なくとも基準面に平行な四方向に移動させてもよい。
【0010】
また、前記コントローラは、前記倣い処理において、前記ボンディングヘッドを予め規定した倣いルートに沿って移動させる過程で、前記軸方向位置が前記ステージに最も近づいたときの前記軸方向位置を前記基準位置として特定してもよい。
【0011】
また、前記基準位置は、前記ボンディングヘッド14およびステージの配置、または、過去の倣い処理の結果に基づいて予め決定されてもよい。
【0012】
本明細書で開示する半導体装置の製造方法は、ステージに載置された基板に、倣い機構を有するボンディングヘッドの保持面で吸引保持したチップをボンディングすることで、半導体装置を製造する半導体装置の製造方法であって、前記保持面に保持された前記チップの端面または前記保持面である対向面を、前記ステージで保持された基板平面または前記ステージ平面である基準面に倣わすことで、前記対向面を前記基準面に対して平行に調整する倣いステップを備えており、前記倣い機構は、凹状球面及び凸状球面の一方を含む固定部材と、凹状球面及び凸状球面の他方を含むとともに前記保持面とともに前記固定部材に対して揺動可能に設けられた可動部材と、を有し、前記可動部材の揺動が可能なフリー状態と、前記可動部材の揺動が規制されたロック状態と、に切り替え可能であり、前記倣いステップにおいて、前記ボンディングヘッドの軸方向位置が規定の基準位置に達するまで、前記倣い機構を前記フリー状態で前記対向面を前記基準面に当接させたまま前記ボンディングヘッドを前記基準面の面方向に相対的に移動させ、前記軸方向位置が前記基準位置に達した際に前記倣い機構を前記ロック状態に切り替える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本明細書で開示する技術によれば、簡易な手順でボンディングヘッドの保持面をステージの平面に対して高精度で平行に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】半導体装置の製造装置の構成を示す図である。
【
図6】倣い処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】他の例の倣い処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して半導体装置の製造装置10の構成について説明する。
図1は、製造装置10の構成を示す図である。
図1に示すように、製造装置10は、基板100が載置されるステージ12と、半導体チップ102を吸引保持するボンディングヘッド14と、を備えている。
【0016】
ステージ12は、基板100を吸引保持可能であり、その内部には、基板100を加温するためのヒータ(図示せず)が搭載されている。このステージ12の加温および吸引は、後述するコントローラ34で制御される。本例のステージ12は、その鉛直方向および水平方向の位置が不変の固定ステージであるが、場合によっては、ステージ12を鉛直方向および水平方向の少なくとも一方に可動としてもよい。
【0017】
ボンディングヘッド14は、ステージ12と対向して配置されており、ステージ12に対して水平方向および鉛直方向に移動可能となっている。このボンディングヘッド14の移動を実現するために、移動機構26が設けられている。移動機構26は、例えば、モータや油圧シリンダ等の駆動源と、当該駆動源の動きをボンディングヘッド14に伝達する直動機構やギヤ等の伝達機構と、を有している。この移動機構26の駆動は、コントローラ34により制御される。
【0018】
ボンディングヘッド14は、その先端面である保持面20において、半導体チップ102を吸引保持できる。そのため、ボンディングヘッド14の先端部には、半導体チップ102を吸引保持するための吸引孔(図示せず)が形成されており、当該吸引孔は、エア配管31を介して真空源30に連結されている。また、ボンディングヘッド14の先端部には、保持した半導体チップ102を加熱するためのヒータ24が、内蔵されている。このヒータ24は、ヒータ駆動部28により、制御される。
【0019】
ボンディングヘッド14は、保持面20で半導体チップ102を吸引保持したうえで、当該半導体チップ102を基板100表面に載置し、加圧加熱することで、半導体チップ102を基板100にボンディングする。ここで、近年では、半導体プロセスの微細化により、半導体装置は、高集積化を果たしてきた。かかる高集積化を可能にするためには、基板100と、当該基板100に接合される半導体チップ102と、の平行度を高精度に保つ必要がある。こうした平行調整の手段として、従来では、ゴニオステージと呼ばれる手動の角度調整機器や、シムを挟んで傾きを微調整する方法等が提案されてきた。しかし、こうした従来の平行調整手段は、高いスキルと多大な調整時間を必要としていた。
【0020】
そこで、本例のボンディングヘッド14は、簡易な手順で平行調整を可能とするために、倣い機構22を搭載している。倣い機構22は、球面空気静圧軸受44(
図2参照)を内蔵した空気圧機器である。以下では、ボンディングヘッド14のうち、この倣い機構22より上側を「上部14u」と呼び、下側を「下部14d」と呼ぶ。
【0021】
図2は、この倣い機構22の構成の一例を示す図である。倣い機構22は、固定部材40と、当該固定部材40に対して可動の可動部材42と、ホルダ43と、を有している。この固定部材40および可動部材42で、球面空気静圧軸受44が構成される。固定部材40の上端は、ボンディングヘッド14の上部14uに固定されている。固定部材40の底面は、凹状の半球面となっている。また、固定部材40には、エアを供給または吸引するためのエア通路46が形成されている。このエア通路46は、固定部材40の側面から、底面(すなわち凹状半球面)まで貫通している。固定部材40の側面には、このエア通路46と、倣い機構駆動部32と、を流体連結するためのエア配管47(
図1参照)が接続されている。
【0022】
可動部材42は、固定部材40に対して三次元的に揺動可能に保持されている。可動部材42の下端は、ボンディングヘッド14の下部14dに固定されており、可動部材42は、保持面20とともに揺動可能となっている。また、可動部材42の上面は、固定部材40の凹状半球面に対応する凸状半球面となっている。ホルダ43は、可動部材42の揺動を妨げないように、可動部材42を保持している。
【0023】
こうした倣い機構22は、固定部材40の凹状半球面から圧縮空気を噴出させることで、可動部材42を固定部材40から離間させて、非接触状態で支持する。これにより、可動部材42の摺動抵抗が大幅に低下し、極めて軽い力で精密に回転運動することが可能となる。また、圧縮空気の供給を停止し、可動部材42を真空吸引することで、可動部材42を所定の姿勢に固定できる。以下では、圧縮空気を噴出し、可動部材42の揺動を許容した状態を「フリー状態」、可動部材42を真空吸引し、可動部材42の揺動を規制した状態を「ロック状態」と呼ぶ。
【0024】
こうした倣い機構22のフリー状態およびロック状態の切り替は、倣い機構駆動部32により行われる。倣い機構駆動部32は、圧縮空気を供給するためのコンプレッサや、真空吸引するための真空源等を有している。また、倣い機構駆動部32の駆動は、コントローラ34により制御される。
【0025】
コントローラ34は、製造装置10の各部の駆動を制御する。具体的には、コントローラ34は、移動機構26やヒータ駆動部28、真空源30等を駆動して、半導体チップ102を基板100にボンディングする実装処理を実行する。また、本例のコントローラ34は、この実装処理に先立って、保持面20に保持された半導体チップ102の端面または保持面20を、ステージ12で保持された基板100平面またはステージ12平面に倣わすことで、両者を平行に調整する倣い処理も実行する。なお、以下では、保持面20に保持された半導体チップ102の端面または保持面20を「対向面50」と呼び、ステージ12で保持された基板100平面またはステージ12平面を「基準面110」と呼ぶ。
【0026】
こうしたコントローラ34は、各種演算を実行するプロセッサと、データおよびプログラムを記憶するメモリと、を有したコンピュータである。本例のコントローラ34は、半導体チップ102の実装処理に先立って、保持面20をステージ12平面に対して平行になるように調整する倣い処理を実行する。以下、この倣い処理について説明する。
【0027】
図3は、倣い処理の原理を示すイメージ図である。
図3では、保持面20を対向面50とし、ステージ12平面を基準面110としている。一般に、装置には軸や面の傾きのズレが存在する。こうしたズレに起因して、対向面50が基準面110に対して傾く場合がある。
図3の例では、ボンディングヘッド14の上部14uの軸Aが、理想の軸A*に対して傾いている。
【0028】
こうした傾きを補正するために、近年、倣い機構22の利用が提案されている。具体的には、倣い機構22をフリー状態にしたうえで、保持面20を基準面110に当接することで、保持面20の平行調整を行うことが提案されている。フリー状態の場合、可動部材42は、極めて小さな力で揺動できる。そのため、理論上は、
図3の左に示すように、対向面50全体が基準面110に接触し、対向面50が基準面110に平行になる姿勢まで可動部材42が揺動する。そして、平行になった時点で、倣い機構22をロック状態に切り替え、可動部材42の揺動を規制すれば、対向面50の基準面110に対する平行度を高精度に保つことができる。
【0029】
しかしながら、現実的には、僅かな抵抗や配管等の自重等の影響により、
図3の右に示すように、対向面50を基準面110に当接させただけでは、対向面50の傾きを完全に解消することができず、平行オフセットが残留することがある。平行オフセットが残留した状態で倣い機構22をロックした場合、対向面50の基準面110に対する平行度を高精度に維持することができない。
【0030】
本例では、残留平行オフセットをより確実に低減するために、倣い機構22をフリー状態にした状態で、対向面50を基準面110に当接させたままボンディングヘッド14を基準面110の面方向に相対的に移動させる。この移動により、可動部材42の揺動が誘発され、対向面50が基準面110に対して平行になりやすくなる。
【0031】
すなわち、
図3の右に示すような残留平行オフセットがある状態から、
図3の左に示すような完全平行になるように可動部材42が揺動する際には、対向面50の基準面110との接点Pが外側方向(
図3右図における右方向)に滑ることになる。この滑りを誘発するようにボンディングヘッド14を水平方向、特に、接点Pからみて外側方向に移動させることで、可動部材42が揺動しやすくなり、結果として、対向面50が基準面110に対して平行になりやすい。
【0032】
ここで、
図3から明らかな通り、完全平行になった場合、残留平行オフセットがある状態に比べて、ボンディングヘッド14の軸方向位置Pzが、ステージ12側に近づく。したがって、ボンディングヘッド14の軸方向位置Pzは、対向面50の平行度を反映することになる。
【0033】
そこで、本例では、倣い機構22をフリー状態にした状態で、ボンディングヘッド14を基準面110の面方向に相対的に移動させた際に、ボンディングヘッド14の軸方向位置Pzを観察し、この軸方向位置Pzが、規定の基準位置Pzdefに達した際に、倣い機構22をロック状態に切り替える。ここで、基準位置Pzdefは、ボンディングヘッド14を面方向に移動させる過程で特定してもよいし、ステージ12およびボンディングヘッド14の配置等から予め決めておいてもよい。いずれにしても、対向面50全体が基準面110に接触したと判断できる軸方向位置Pzが基準位置として設定される。
【0034】
また、対向面50の傾きの向きに応じて、当該傾きを減少できるボンディングヘッド14の移動方向は、異なる。例えば、
図3の右図では、対向面50は右下がりに傾いている。この場合、ボンディングヘッド14を右方向に移動させた方が、左方向に移動させるよりも、残留オフセットを低減できる可能性が高い。しかしながら、対向面50の傾きの向きを事前に把握することは難しい。そこで、ボンディングヘッド14を面方向に移動させる際には、少なくとも、基準面110と平行な4方向に移動させる。例えば、+X方向、-X方向、+Y方向、-Y方向にボンディングヘッド14を移動させる。このように4方向に移動させることで、対向面50がいずれの向きに傾いていても、当該傾きをより確実に解消できる。
【0035】
図4は、ボンディングヘッド14を移動させる際のルート(以下「倣いルート60」と呼ぶ)の一例を示す図である。
図4の例では、倣いルート60は、ステージ12の中心から外側に向かう矩形の渦巻き状となっている。ただし、倣いルート60の形態は、適宜変更されてもよく、例えば
図5に示すように、一筆書きの十文字状でもよい。いずれにしても、こうした倣いルート60は、予め、コントローラ34の記憶部に記憶されている。
【0036】
次に、対向面50を基準面110に対して平行調整する倣い処理の流れについて説明する。
図6は、倣い処理の流れを示すフローチャートである。倣い処理を実行する場合、ボンディングヘッド14は、何らかのチップ部材を保持していてもよいし、保持していなくてもよい。チップ部材を保持している場合には、当該チップ部材の底面が、対向面50となる。また、チップ部材を保持していない場合には、ボンディングヘッド14の保持面20が、対向面50となる。同様に、ステージ12も、基板100を保持していてもよいし、保持していなくてもよい。基板100を保持している場合には、当該基板100の上面が、保持していない場合には、ステージ12の上面が、それぞれ、基準面110となる。
【0037】
倣い処理を実行する際、コントローラ34は、まず、倣い機構駆動部32を駆動して、倣い機構22をフリー状態に切り替える(S10)。続いて、コントローラ34は、移動機構26を駆動して、対向面50が基準面110に当接するまで、ボンディングヘッド14を降下させる(S12)。この当接の有無は、例えば、基準面110からの反力を検出して判断してもよいし、ボンディングヘッド14の軸方向位置Pzの変動から判断してもよい。
【0038】
対向面50が基準面110に当接すれば、コントローラ34は、倣い機構22をフリー状態に維持したまま、移動機構26を駆動して、ボンディングヘッド14を倣いルート60に沿って移動させる(S14)。この移動の際、ボンディングヘッド14の軸方向位置Pzは、移動機構26に設けられた位置センサにより検出される。コントローラ34は、この位置センサで検出された軸方向位置Pzを、定期的に検出し、記憶部に記憶する(S16)。
【0039】
規定の倣いルート60に沿った移動が完了すれば(S18でYes)、コントローラ34は、記憶部に記憶されている軸方向位置Pzのうち、最小となる(すなわちステージ12に最も近づく)最下点高さPzminを特定し、この最下点高さPzminを基準位置Pzdefとして設定する(S20)。続いて、コントローラ34は、ボンディングヘッド14の現在の軸方向位置Pzが、基準位置Pzdefであるか否かを判定する(S22)。現在の軸方向位置Pzが、基準位置Pzdefの場合(S22でYes)には、コントローラ34は、残留平行オフセットが解消されたと判断し、倣い機構駆動部32を駆動して、倣い機構22をロック状態に切り替える(S26)。一方、現在の軸方向位置Pzが、基準位置Pzdefに出していない場合(S22でNo)、コントローラ34は、移動機構26を駆動して、ボンディングヘッド14を基準面110と平行な方向に移動させる(S24)。この時の移動ルートは、倣いルート60と同じでもよいし、異なっていてもよい。いずれにしても、移動の結果、現在の軸方向位置Pzが基準位置Pzdefに達すれば(S22でYes)、倣い機構22をロック状態に切り替える(S26)。
【0040】
以上の説明から明らかなとおり、本例では、対向面50を基準面110に当接させた後も、フリー状態を維持したまま、ボンディングヘッド14を面方向に移動させる。その結果、摩擦や配管の自重等に起因して生じていた残留平行オフセットをより確実に軽減でき、対向面50の基準面110に対する平行度を高く維持することができる。また、本例では、ボンディングヘッド14を面方向に移動させる過程で得られた軸方向位置Pzに基づいて、基準位置Pzdefを設定している。その結果、ボンディングヘッド14とステージ12の配置が経年変化等に起因して設計時と変化したとしても、適切な基準位置Pzdefを設定することができる。
【0041】
次に、他の例の倣い処理の流れについて説明する。
図7は、他の例の倣い処理の流れを示すフローチャートである。この倣い処理では、コントローラ34は、予め、基準位置Pzdefを設定し、記憶部に記憶している。この基準位置Pzdefは、ステージ12およびボンディングヘッド14の配置関係、すなわち、両者の設計上の寸法値および位置から決定してもよい。また、他の形態として、基準位置Pzdefは、過去の倣い処理の結果から決定してもよい。例えば、
図6の手順で過去に行った倣い処理の際に得られた最下点高さPzminを基準位置Pzdefとして設定してもよい。
【0042】
倣い処理を実行する際には、
図6の例と同様に、コントローラ34は、倣い機構22をフリー状態に切り替えたうえで、対向面50が基準面110に当接するまで、ボンディングヘッド14を下降させる(S30)。続いて、コントローラ34は、規定の倣いルート60に沿って、ボンディングヘッド14を面方向に移動させる(S34)。このとき、コントローラ34は、定期的に、ボンディングヘッド14の軸方向位置Pzを検出する(S36)とともに、検出された軸方向位置Pzを基準位置Pzdefと比較する(S38)。
【0043】
比較の結果、軸方向位置Pzが基準位置Pzdefを超えている場合、コントローラ34は、ステップS34に戻り、ボンディングヘッド14の面方向の移動を継続する。一方、軸方向位置Pzが、基準位置Pzdef以下の場合、コントローラ34は、残留平行オフセットが解消されたと判断し、倣い機構駆動部32を駆動して、倣い機構22をロック状態に切り替える(S40)。
【0044】
以上の説明から明らかなとおり、本例でも、対向面50を基準面110に当接させた後も、フリー状態を維持したまま、ボンディングヘッド14を面方向に移動させるため、対向面50の基準面110に対する平行度を高く維持することができる。また、本例では、軸方向位置Pzが、予め設定された基準位置Pzdefに達した時点で、ボンディングヘッド14の面方向移動を停止する。その結果、
図6の処理に比べて、比較的、早期に倣い処理を完了することができる。
【0045】
なお、これまで説明した構成は、いずれも一例であり、フリー状態のままボンディングヘッド14を面方向に移動させ、軸方向位置Pzが規定の基準位置Pzdefに達した際にロック状態に切り替えるのであれば、その他の構成は適宜、変更されてもよい。例えば、上記の例では、ボンディングヘッド14を、基準面110に平行な4方向に移動させているが、必ずしも4方向に移動させる必要はない。
【0046】
例えば、対向面50の傾きの向きが予め予測できる場合には、予測された傾きを解消し得る方向にのみ、ボンディングヘッド14を移動させてもよい。すなわち、可動部材42および倣い機構22の下部14dには、エアを供給または吸引するための配管や、電気配線等が接続されている。こうした配管および電気配線の重さにより、倣い機構22は、フリー状態に切り替えた直後は、一方向に大きく傾くことがある。こうした大きな傾きが、残留平行オフセットの原因となりやすい。この配管および電気配線に起因する残留平行オフセットの場合、対向面50の傾きの向きは、配管および電気配線の位置から、予測できる。そこで、配管および電気配線の位置から対向面50の傾きの向きを予測し、予測された傾きを解消し得る方向、すなわち、右下がりの場合は右方向にのみ移動させるようにしてもよい。また、4方向に移動させる場合でも、対向面50の傾きの向きを予測しておき、最初に、この予測された傾きを解消し得る方向に移動させるようにしてもよい。かかる構成とすることで、初期の動きで、残存する傾きを大幅に低減できるため、
図7の処理であれば、処理に要する時間を短縮できる。
【0047】
また、上述した説明では、倣い機構22の固定部材40が凹状球面を、可動部材42が凸状球面を有しているが、これらは、逆でもよく、固定部材40が凸状球面を、可動部材42が凹状球面を有してもよい。また、上述の説明では、ボンディングヘッド14が移動する構成となっているが、ボンディングヘッド14に替えて、または、加えて、ステージ12が動くのでもよい。また、
図3の例では、保持面20を対向面50としているが、倣い処理において、保持面20にチップ部材、例えば、平行調整専用のチップ部材を保持させておき、このチップの端面を対向面50として取り扱ってもよい。同様に、
図3の例では、ステージ12の上面を基準面110としているが、倣い処理において、ステージ12に基板100、例えば、平行調整専用の基板100を保持させておき、この基板100の上面を基準面110として取り扱ってもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 製造装置、12 ステージ、14 ボンディングヘッド、20 保持面、22 倣い機構、24 ヒータ、26 移動機構、28 ヒータ駆動部、30 真空源、31 エア配管、32 倣い機構駆動部、34 コントローラ、40 固定部材、42 可動部材、43 ホルダ、44 球面空気静圧軸受、50 対向面、60 倣いルート、100 基板、102 半導体チップ、110 基準面。