(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】複合材賦形装置及び複合材賦形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 43/46 20060101AFI20220926BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20220926BHJP
B29C 70/54 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
B29C43/46
B29C70/06
B29C70/54
(21)【出願番号】P 2018156865
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】理塀 敦
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-172403(JP,A)
【文献】特開2016-175242(JP,A)
【文献】特開平5-69450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/46
B29C 70/06
B29C 70/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状のプリプレグ
の積層体に圧力を負荷
する第1のローラ
であって、第1の軸を中心に回転する円柱状又は円筒状の前記第1のローラと、
前記プリプレグ
の積層体に圧力を負荷
する第2のローラ
であって、前記第1の軸に対してそれぞれ傾斜する2つの第2の軸を中心にそれぞれ回転する円盤状の2つの前記第2のローラと、
前記第1のローラ及び前記第2のローラの少なくとも一方を回転させる少なくとも1つのモータと、
を備え、
複合材部品の間に形成される隙間を充填するためのフィラーの横断面形状に対応する空隙が前記第1及び第2のローラの間に形成されるように、前記第1のローラ及び前記第2のローラを、前記プリプレグの積層体を挟み込む位置にそれぞれ配置し、
前記第1のローラ及び
前記第2のローラ間において、回転速度
及び回転動力の有無の少なくとも
一方を変えて前記第1のローラ及び前記第2のローラを回転させる
ことによって前記フィラーを賦形するようにした複合材賦形装置。
【請求項2】
棒状のプリプレグの積層体に圧力を負荷する第1のローラ
であって、前記プリプレグを挟み込む第1の複数のサブローラで構成され
る前記第1のローラと、
前記プリプレグの積層体に圧力を負荷する第2のローラ
であって、前記第1のローラと異なる位置で前記プリプレグを挟み込む第2の複数のサブローラで構成される
前記第2のローラと、
前記第1のローラ及び前記第2のローラの少なくとも一方を回転させる少なくとも1つのモータと、
を備え、
複合材部品の間に形成される隙間を充填するためのフィラーの横断面形状に対応する空隙が前記第1の複数のサブローラ間に形成されるように、前記第1の複数のサブローラを、前記プリプレグの積層体を挟み込む位置にそれぞれ配置する一方、前記フィラーの横断面形状に対応する空隙が前記第2の複数のサブローラ間に形成されるように、前記第2の複数のサブローラを、前記プリプレグの積層体を挟み込む位置にそれぞれ配置し、
前記第1の複数のサブローラの少なくとも1つと前記第2の複数のサブローラの少なくとも1つとの間において、回転速度、ローラ径及び回転動力の有無の少なくとも1つを変えて前記第1のローラ及び前記第2のローラを回転させることによって前記フィラーを賦形するようにした複合材賦形装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つのモータは、前記第1の複数のサブローラの各回転シャフトを回転させるように構成され、
前記第2の複数のサブローラのうちの少なくとも1つのサブローラは、モータから回転シャフトへの動力の伝達に依らず、前記プリプレグとの間における摩擦力によって回転するように構成される請求項
2記載の複合材賦形装置。
【請求項4】
前記第1の複数のサブローラとして、第1の軸を中心に回転する円柱状又は円筒状の第3のローラと、前記第1の軸に対してそれぞれ傾斜する2つの第2の軸を中心にそれぞれ回転する円盤状の2つの第4のローラを、前記フィラーの横断面形状に対応する空隙が前記第3及び第4のローラの間に形成されるように配置する一方、
前記第2の複数のサブローラとして、第3の軸を中心に回転する円柱状又は円筒状の第5のローラと、前記第3の軸に対してそれぞれ傾斜する2つの第4の軸を中心にそれぞれ回転する円盤状の2つの第6のローラを、前記フィラーの横断面形状に対応する空隙が前記第5及び第6のローラの間に形成されるように配置し、
前記少なくとも1つのモータは、前記第3のローラの回転シャフトを第1の回転速度で、前記第4のローラの回転シャフトを前記第1の回転速度よりも速い第2の回転速度で、前記第5のローラの回転シャフトを前記第1の回転速度よりも遅い第3の回転速度で、それぞれ回転させるように構成され、
前記第6のローラは、モータから回転シャフトへの動力の伝達に依らず、前記プリプレグとの間における摩擦力によって回転するように構成される請求項
2記載の複合材賦形装置。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の複合材賦形装置を用いて前記プリプレグに圧力を負荷することによって、
前記フィラーを製作する複合材賦形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複合材賦形装置及び複合材賦形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維強化プラスチック(GFRP: Glass fiber reinforced plastics)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP: Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の複合材は、シート状のプリプレグを積層して加熱硬化することによって成形される。航空機部品である縦通材(ストリンガ)、桁(スパー)及び小骨(リブ)等の部品には、横断面の形状がT字型又はI字型の部品が存在する。この場合、平面状に積層したプリプレグの積層体、横断面がL字型又はC字型となるように積層したプリプレグの積層体及び横断面がL字型又はC字型に線対称な形状となるように積層したプリプレグの積層体が硬化前に組合される。
【0003】
直角に折り曲げられたプリプレグの積層体の角はR面取りされた形状となる。従って、平面状のプリプレグの積層体の上に、直角に折り曲げられたプリプレグの積層体を対称に配置して突き合わせると、プリプレグの積層体間には横断面が概ね三角形の空隙が生じる。より具体的には、対称なR面取りに対応する2つの対称な円弧と直線で囲まれた形状を横断面形状とする空隙が、3つのプリプレグの積層体間に生じる。
【0004】
そこで、3つのプリプレグの積層体間に生じる空隙がフィラー(充填材)によって充填される。通常は、フィラーもプリプレグの積層体として準備され、他のプリプレグの積層体とともに加熱硬化される。2つの対称な円弧と直線で囲まれた形状を横断面形状とする棒状のフィラーは、ヌードルフィラーと呼ばれる。ヌードルフィラーは、プリプレグを渦巻状に積層した丸棒状の素材を成形することによって製作される。
【0005】
尚、一般に加熱硬化前におけるプリプレグの積層体に対する成形は、加熱硬化による複合材の成形と区別するために賦形と呼ばれる。そこで、以降では、プリプレグの積層体に対する成形を賦形と称する。
【0006】
従来のプリプレグの積層体に対する賦形方法としては、賦形用の成形型(賦型)を用いる方法が一般的である。例えば、賦型にプリプレグの積層体を設置して真空圧で賦形する方法、押出成形機の口金(ダイ)を賦形後の形状に合わせた賦型としてプリプレグの積層体を押出成形することによって賦形する方法或いはローラをプリプレグの積層体に押し付けて賦形する方法などが知られている。
【0007】
しかしながら、真空圧で賦形する方法は賦形時間が長いという問題がある。具体的には、真空圧で賦形する方法は賦形時間として数時間から1日程度を要する。加えて、ヌードルフィラーのような棒状のフィラーを賦形する場合には、フィラー全体の賦形が可能な賦型を準備することが必要となる。また、押出成形機を用いて賦形する場合には、賦形の抵抗が大きいためプリプレグの積層体を引き抜くための大掛かりな装置が必要となる。
【0008】
一方、ヌードルフィラーの賦形装置として、平行に並べた2本のローラで棒状の素材を押し付ける装置も提案されている(例えば特許文献1参照)。この装置によれば、円柱状のローラと、ヌードルフィラーの形状に合わせた凹みを有するローラとの間に棒状の素材を挟んで送り出すことにより、ヌードルフィラーの賦形を行うことができる。
【0009】
また、3本のローラで棒状の素材を押し付ける装置も提案されている(例えば特許文献2及び特許文献3参照)。3本のローラを用いたフィラーの賦形装置によれば、3方向からより均一に圧力を付与できるため十分な品質でフィラーを賦形することができる。
【0010】
ローラを用いてフィラーの賦形を行う場合には、押出成形機を用いてフィラーの賦形を行う場合に比べて賦形装置の大幅な小型化が可能である反面、フィラーの表面とローラとの間にずれが生じることによってフィラーの表面に皺が生じる場合があるという問題がある。
【0011】
他方、中空の複合材を成形する場合において、複数のロールを配置してプリプレグのシートを加熱及び加圧しながら巻き重ねることによって、皺の発生を防止する複合材中空体の成形方法も提案されている(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平4-299110号公報
【文献】特開2016-175242号公報
【文献】特開2017-148985号公報
【文献】特開平7-80951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、加熱硬化前におけるフィラーの賦形時において、フィラーに皺が生じないようにするための手法は考案されていない。
【0014】
そこで本発明は、皺を発生させることなくフィラー等の加熱硬化前における複合材の賦形を行うことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の実施形態に係る複合材賦形装置は、棒状のプリプレグの積層体に圧力を負荷する第1のローラであって、第1の軸を中心に回転する円柱状又は円筒状の前記第1のローラと、前記プリプレグの積層体に圧力を負荷する第2のローラであって、前記第1の軸に対してそれぞれ傾斜する2つの第2の軸を中心にそれぞれ回転する円盤状の2つの前記第2のローラと、前記第1のローラ及び前記第2のローラの少なくとも一方を回転させる少なくとも1つのモータとを備え、複合材部品の間に形成される隙間を充填するためのフィラーの横断面形状に対応する空隙が前記第1及び第2のローラの間に形成されるように、前記第1のローラ及び前記第2のローラを、前記プリプレグの積層体を挟み込む位置にそれぞれ配置し、前記第1のローラ及び前記第2のローラ間において、回転速度及び回転動力の有無の少なくとも一方を変えて前記第1のローラ及び前記第2のローラを回転させることによって前記フィラーを賦形するようにしたものである。
また、本発明の実施形態に係る複合材賦形装置は、棒状のプリプレグの積層体に圧力を負荷する第1のローラであって、前記プリプレグを挟み込む第1の複数のサブローラで構成される前記第1のローラと、前記プリプレグの積層体に圧力を負荷する第2のローラであって、前記第1のローラと異なる位置で前記プリプレグを挟み込む第2の複数のサブローラで構成される前記第2のローラと、前記第1のローラ及び前記第2のローラの少なくとも一方を回転させる少なくとも1つのモータとを備え、複合材部品の間に形成される隙間を充填するためのフィラーの横断面形状に対応する空隙が前記第1の複数のサブローラ間に形成されるように、前記第1の複数のサブローラを、前記プリプレグの積層体を挟み込む位置にそれぞれ配置する一方、前記フィラーの横断面形状に対応する空隙が前記第2の複数のサブローラ間に形成されるように、前記第2の複数のサブローラを、前記プリプレグの積層体を挟み込む位置にそれぞれ配置し、前記第1の複数のサブローラの少なくとも1つと前記第2の複数のサブローラの少なくとも1つとの間において、回転速度、ローラ径及び回転動力の有無の少なくとも1つを変えて前記第1のローラ及び前記第2のローラを回転させることによって前記フィラーを賦形するようにしたものである。
【0016】
また、本発明の実施形態に係る複合材賦形方法は、上述した複合材賦形装置を用いて前記プリプレグに圧力を負荷することによって、前記フィラーを製作するものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図。
【
図3】フィラーの素材となるプリプレグの積層体の構造例を示す斜視図。
【
図4】複合材賦形装置を用いて3方向からプリプレグの積層体に圧力を負荷することによって賦形されたフィラーの横断面の構造を示す模式図。
【
図5】
図1に示す第2の軸及び第3の軸の、第1の軸に対する傾斜角度を決定する方法を説明する図。
【
図6】
図1に示す第2のローラ、第2のモータ及び第2のモータの動力を第2のローラに伝達するための動力伝達機構をA方向から見た図。
【
図7】
図1に示す第1、第2及び第3のローラに回転速度差を与えることによる効果を説明する図。
【
図8】
図7に示す第1及び第2のローラの右側面図。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図。
【
図10】本発明の第3の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図。
【
図13】本発明の第4の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図。
【
図14】本発明の第5の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図。
【
図15】本発明の第6の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図。
【
図16】本発明の第7の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る複合材賦形装置及び複合材賦形方法について添付図面を参照して説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
(構成及び機能)
図1は本発明の第1の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図である。
【0020】
複合材賦形装置1は、複数のローラ2を用いてプリプレグPの積層体を賦形するための装置である。プリプレグPは、シート状の繊維束に未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させたものである。換言すれば、プリプレグPは、シート状の熱硬化性樹脂を、シート状の繊維束で強化したものである。賦形後のプリプレグPの積層体をオーブンやオートクレーブ装置で加熱することによって複合材を成形することができる。従って、賦形後のプリプレグPの積層体は、加熱硬化前における複合材に相当する。
【0021】
図1は、複合材賦形装置1が、3つのローラ2A、2B、2Cを用いてフィラーFの賦形を行う装置である場合の例を示している。フィラーFは、他の複合材部品の間に形成される隙間を充填するための部品である。
【0022】
【0023】
典型的なフィラーFは、
図2に例示されるように2つの対称な円弧と直線で囲まれた形状を横断面形状とする棒状の構造を有する。具体的には、フィラーFは、幅がWで長さがLの矩形の平面、横断面が円弧である第1の曲面、第1の曲面に対称な第2の曲面で囲まれた形状を有する。このため、フィラーFの高さHは、第1の曲面と第2の曲面の交線と矩形の平面との間の距離となる。
【0024】
図2に示すような構造を有するフィラーFは、主として、R面取りが形成されるように直角に折り曲げられた2つのプリプレグの積層体を対称に配置して突き合わせた状態で平板状又はやや湾曲した板状に積層されたプリプレグの積層体の上に設置した場合に生じる空隙を埋めるために用いられる。
【0025】
図3はフィラーの素材となるプリプレグPの積層体の構造例を示す斜視図である。
【0026】
複合材賦形装置1を用いて
図2に例示されるような構造を有する加熱硬化前におけるフィラーFの賦形を行う場合には、
図3に示すように棒状のプリプレグPの積層体を素材としてフィラーFを製作することができる。棒状のプリプレグPの積層体は、例えば、1枚のシート状のプリプレグPを渦巻状に丸めることによって製作することができる。このため、理想的には
図3に示すように横断面の形状が概ね円形である丸棒状のプリプレグPの積層体がフィラーFの素材となるが、未硬化の樹脂は容易に変形するため、実際には横断面の形状が正確な円形とはならない場合が多い。
【0027】
図2に例示されるような構造を有するフィラーFを複合材賦形装置1で賦形する場合には、複合材賦形装置1を用いたフィラーFの賦形は、概ね丸棒状の素材に、幅がWで長さがLの平面、横断面が円弧である第1の曲面及び第1の曲面に対称な第2の曲面を形成する成形加工となる。
【0028】
図4は、複合材賦形装置1を用いて3方向からプリプレグPの積層体に圧力を負荷することによって賦形されたフィラーFの横断面の構造を示す模式図である。
【0029】
渦巻状に丸めた棒状のプリプレグPの積層体を挟み込む位置に3つのローラ2A、2B、2Cを配置し、3つのローラ2A、2B、2Cで棒状のプリプレグPの積層体に圧力を負荷することによってフィラーFの賦形を行うと、
図4に示すようにフィラーFの横断面も渦巻状となる。このため、プリプレグPの積層方向は、フィラーFの長さ方向に垂直な方向となる。
【0030】
図4に例示されるような構造を有するフィラーFを賦形するために、複合材賦形装置1は、棒状に積層されたプリプレグPの積層体に、互いに異なる角度で圧力を負荷する3つのローラ2A、2B、2Cと、3つのローラ2A、2B、2Cを回転させる回転機構3とで構成することができる。3つのローラ2A、2B、2Cは、それぞれフィラーFの1つの平面と2つの曲面を賦形するためのローラである。従って、3つのローラ2A、2B、2Cは、それぞれ互いに平行でない3つの軸AX1、AX2、AX3を中心に回転する。すなわち、2本の線対称な円弧と1本の直線で囲まれたフィラーFの横断面形状に対応する空隙が第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cの間に形成されるように第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cが配置される。
【0031】
より具体的には、第1のローラ2Aは、第1の軸AX1を中心に回転する。第2のローラ2Bは、第1の軸AX1に対して傾斜する第2の軸AX2を中心に回転する。第3のローラ2Cは、第1の軸AX1に対して傾斜し、かつ第1の軸AX1に垂直な面に関して第2の軸AX2に対称となる第3の軸AX3を中心に回転する。
【0032】
第1のローラ2Aは、幅がWで長さがLの平面を賦形するためのローラである。従って、第1のローラ2Aを水平方向の第1の軸AX1を中心に回転する円柱状又は円筒状のローラとすることができる。第2のローラ2Bは、フィラーFの一方のR面取りに対応する曲面を賦形するためのローラである。従って、第2のローラ2Bを、円周部分の半径をフィラーFのR面取りの半径とした円盤状のローラとすることができる。第3のローラ2Cは、フィラーFの他方のR面取りに対応する曲面を賦形するためのローラである。従って、第3のローラ2Cも、第2のローラ2Bと同様に、円周部分の半径をフィラーFのR面取りの半径とした円盤状のローラとすることができる。
【0033】
但し、フィラーFのR面取りは面対称となるため、上述したように、第2のローラ2Bの第2の軸AX2と、第3のローラ2Cの第3の軸AX3は、第1の軸AX1に垂直な面に関して互いに対称となる。第2の軸AX2及び第3の軸AX3の、第1の軸AX1に対する傾斜角度は、フィラーFの賦形に適した角度に決定することが重要である。フィラーFの賦形に適した第2の軸AX2及び第3の軸AX3の角度は、様々な観点から決定することができる。
【0034】
図5は、
図1に示す第2の軸AX2及び第3の軸AX3の、第1の軸AX1に対する傾斜角度を決定する方法を説明する図である。
【0035】
第2の軸AX2及び第3の軸AX3の角度を変えて賦形試験を行った結果、第1の軸AX1に対する第2の軸AX2及び第3の軸AX3の傾斜角度が45度以上60度以下となるように第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cを配置すること、換言すれば、第2のローラ2B及び第3のローラ2Cを押し付ける方向の第1のローラ2Aの表面に対する角度θ1、θ2を30度以上45度以下とすることが、素材の3つの面に均一に圧縮力を負荷する観点から好適であることが確認された。
【0036】
特に、第1の軸AX1に対する第2の軸AX2及び第3の軸AX3の各傾斜角度を、±53.13度に対して所定の公差内となる角度とすること、つまり第2のローラ2B及び第3のローラ2Cを押し付ける方向の第1のローラ2Aの表面に対する角度θ1、θ2を±36.87度とすれば、
図5に示すように丸棒状の素材の3つの面が圧縮される最大距離が同等になることから好適であることが確認された。
【0037】
他方、フィラーFの下面の平坦度を向上させる観点からは、第1の軸AX1に対する第2の軸AX2及び第3の軸AX3の傾斜角度が10度以上40度以下となるように第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cを配置することが好適であることが確認された。つまり、フィラーFの下面の平坦度を向上させるためには、第2のローラ2B及び第3のローラ2Cを押し当てる角度θ1、θ2を、50度以上90度以下とすることが好適である。
【0038】
従って、フィラーFの内部における層の均一性及びフィラーFの下面における平坦度のいずれを重視するかによって、第1の軸AX1に対する第2の軸AX2及び第3の軸AX3の傾斜角度の好適な範囲が変わることになる。
【0039】
第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cの具体的な形状及びサイズは、フィラーFのサイズに応じて決定することができる。例えば、第2のローラ2B及び第3のローラ2Cの端部における半径は、それぞれフィラーFのR面取り部分における半径とすればよい。また、第1のローラ2Aの長さは、少なくともフィラーFの下面をカバーできる長さとされる。
【0040】
第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cの直径については任意の長さにすることができる。但し、第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cの直径を長くする程、各ローラ2A、2B、2Cの1回転当たりの素材の送り量を長くできるため、素材の送り速度を増加させることができる。
【0041】
第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cは、フィラーFの素材となるプリプレグPの積層体に対して離型性を有することが望ましい。実際に、プリプレグPに対する非粘着性と耐久性を付与するためのセラミックコーティングを施したアルミニウム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)等のフッ素樹脂をコーティングしたアルミニウム、ポリウレタン、PTFE及びナイロン6,6(分子構造が{CO-(CH2)4-CO-NH-(CH2)6-NH}nで表されるポリアミド)を素材として離型性の確認を行った。その結果、非粘着性と耐久性を付与するためのセラミックコーティングを施したアルミニウムが、耐久性と離型性の双方について良好であることが確認された。
【0042】
従って、プリプレグPとの離型性及び耐久性の確保の観点からは、セラミックコーティングを施した金属がローラ2A、2B、2Cの素材として好適である。このため、3つのローラ2A、2B、2Cの少なくとも1つを、非粘着性と耐久性を有するセラミックコーティングを施した金属で構成することが望ましい。
【0043】
回転機構3は、第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cを回転させるための装置である。従って、回転機構3は、第1のローラ2Aの第1の回転シャフト4Aを受けるための第1の軸受5A、第2のローラ2Bの第2の回転シャフト4Bを受けるための第2の軸受5B及び第3のローラ2Cの第3の回転シャフト4Cを受けるための第3の軸受5Cをスタンド6に設けて構成することができる。
【0044】
第1の軸受5Aは、円筒状又は円柱状の第1のローラ2Aから両側に突出した第1の回転シャフト4Aを、第1のローラ2Aの両側の2箇所で受ける構造を有している。第2の軸受5B及び第3の軸受5Cは、それぞれ円盤状の第2のローラ2B及び第3のローラ2Cの第2の回転シャフト4B及び第3の回転シャフト4Cを所定の傾斜角度で受ける構造を有している。
【0045】
第1の軸受5A、第2の軸受5B及び第3の軸受5Cには、密閉タイプのアンギュラボールベアリングを用いることが望ましい。すなわち、3つのローラ2A、2B、2Cは、それぞれ密閉タイプのアンギュラボールベアリングを軸受として回転するように構成されることが望ましい。アンギュラボールベアリングは、ラジアル方向とアキシャル方向の荷重に耐えることが可能なベアリングである。このため、アンギュラボールベアリングを用いれば、ローラ2A、2B、2Cから斜めに負荷される荷重に耐えることができる。また、アンギュラボールベアリングを密閉タイプとすることによって潤滑油の漏れを防止することができる。
【0046】
尚、潤滑油の使用を回避できる観点から無給油ブッシュを軸受として使用して賦形試験を行った結果、ローラ2A、2B、2Cの荷重によって軸受が固着してしまうことが判明した。また、ラジアル方向の荷重を受けるラジアルボールベアリングを使用した場合には斜めに負荷される荷重を十分に受けることができないことが判明した。従って、潤滑油の漏れを防止し、かつ斜めにかかる荷重に耐えることが可能な密閉タイプのアンギュラベアリングが第1の軸受5A、第2の軸受5B及び第3の軸受5Cに適していると考えられる。
【0047】
更に、回転機構3には、第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cの各回転シャフト4A、4B、4Cにそれぞれ回転動力を与えるためのモータ7A、7B、7Cが設けられる。このため、第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cは作業者の手作業に依らず自動的に回転し、素材である丸棒状のプリプレグPの積層体は、第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cとの間における摩擦力によって送り出される。
【0048】
モータ7A、7B、7Cの出力軸は、第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cの各回転シャフト4A、4B、4Cと同軸上となるように設けても良いし、同軸上とならないように設けてもよい。ローラ2の回転シャフト4とモータ7の出力軸が同軸上とならないように、ローラ2及びモータ7が配置される場合には、モータ7の出力軸から出力される回転動力を、ローラ2の回転シャフト4に伝達するための動力伝達機構が設けられる。
【0049】
図1に示す例では、円筒状又は円柱状の第1のローラ2Aの回転シャフト4Aに第1のモータ7Aの出力軸が直接連結されている。すなわち、第1のローラ2Aの回転シャフト4Aと、第1のモータ7Aの出力軸が同一直線上となるように配置されている。このため、第1のモータ7Aの出力軸から第1のローラ2Aの回転シャフト4Aに直接動力を伝達することによって、第1のローラ2Aを自動的に回転させることができる。
【0050】
一方、円盤状の第2のローラ2Bの回転シャフト4Bに回転動力を与えるための第2のモータ7B及び円盤状の第3のローラ2Cの回転シャフト4Cに回転動力を与えるための第3のモータ7Cは、それぞれ出力軸が第2のローラ2Bの回転シャフト4B及び第3のローラ2Cの回転シャフト4Cと平行ではあるが、同一直線上とはならない位置に配置されている。
【0051】
図6は
図1に示す第2のローラ2B、第2のモータ7B及び第2のモータ7Bの動力を第2のローラ2Bに伝達するための動力伝達機構をA方向から見た図である。
【0052】
図6に示すように第2のモータ7Bの出力軸10と、第2のローラ2Bの回転シャフト4Bが同一直線上にない場合には、第2のモータ7Bの回転動力を第2のローラ2Bの回転シャフト4Bに伝達するための動力伝達機構11を、プーリ11A、11Bと、動力伝達ベルト11Cによって構成することができる。
【0053】
具体的には、第2のモータ7Bの出力軸10に第1のプーリ11Aを設ける一方、第2のローラ2Bの回転シャフト4Bに第2のプーリ11Bを設けることができる。そして、第2のモータ7Bの出力軸10に設けられた第1のプーリ11Aと、第2のローラ2Bの回転シャフト4Bに設けられた第2のプーリ11Bとを動力伝達ベルト11Cで連結することによって、第2のモータ7Bの回転動力を、第2のローラ2Bの回転シャフト4Bに伝達することができる。
【0054】
もちろん、プーリ11A、11Bと、動力伝達ベルト11Cに限らず、ギアやチェーンに噛み合うスプロケット等の所望の構成要素で動力伝達機構11を構成することができる。また、第3のモータ7Cの回転動力を第3のローラ2Cの回転シャフト4Cに伝達するための動力伝達機構についても、第2のモータ7Bの回転動力を第2のローラ2Bの回転シャフト4Bに伝達するための動力伝達機構11と同様に構成することができる。
【0055】
第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cの各回転シャフト4A、4B、4Cには、それぞれ第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cから回転動力が伝達される。従って、第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cは、第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cの回転動力によって回転する。
【0056】
但し、フィラーFの平面を賦形するための第1のローラ2Aの回転速度(回転数)と、フィラーFの曲面を賦形するための第2及び第3のローラ2B、2Cの回転速度が、異なる回転速度となるように第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cが制御される。つまり、第1のローラ2Aと、第2及び第3のローラ2B、2Cとの間に意図的に差動が与えられる。この場合、第1のモータ7Aは、第1のローラ2Aの回転シャフト4Aを第1の回転速度で回転させるように制御される一方、第2及び第3のモータ7B、7Cは、第2及び第3のローラ2B、2Cの回転シャフト4B、4Cを、それぞれ第1の回転速度と異なる第2の回転速度で回転させるように制御されることになる。
【0057】
このため、
図1に例示されるように、必要に応じて第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cを統合的に制御するための制御装置20を設けるようにしてもよい。制御装置20は、第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cに、それぞれ出力軸の回転速度の制御値を出力することによって、第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cの回転速度を制御する装置である。制御装置20は、入力装置20A、記憶装置20B及び演算装置20Cを備えたコンピュータ等の電子回路やA/D(analog-to-digital)変換器20D等の回路類で構成することができる。
【0058】
もちろん、制御装置20を設けずに、作業者が第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cの出力を調節するようにしてもよい。第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cの出力軸の回転速度は、作業者又は制御装置20によって調節されるため、第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cには、出力可変式のモータが用いられる。
【0059】
次に、第1のローラ2Aの第1の回転速度と、第2及び第3のローラ2B、2Cの第2の回転速度の決定方法について説明する。
【0060】
図7は
図1に示す第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cに回転速度差を与えることによる効果を説明する図であり、
図8は
図7に示す第1及び第2のローラ2A、2Bの右側面図である。
【0061】
図7に示すように、フィラーFの平面を賦形するための第1のローラ2Aの構造は、単純な円筒構造又は円柱構造である。従って、第1のローラ2Aの半径r1は一定である。このため、
図8に示すように、第1のローラ2Aを一定の角速度で回転させてフィラーFの平面を賦形している時、第1のローラ2Aの外表面の速度v1は、第1の軸AX1方向における位置に依らず一定である。つまり、第1のローラ2Aは、プリプレグPの積層体及びフィラーFに一定の速度v1で接触する。
【0062】
一方、フィラーFのR面取りを賦形するための第2及び第3のローラ2B、2Cの構造は円盤状であり、外周の形状はR面取りに対応する曲面となっている。具体的には、
図7に示すように、第2及び第3のローラ2B、2Cの縦断面の形状は、フィラーFのR面取りに対応する円弧の一部となっている。
【0063】
このため、第2のローラ2Bの半径r2は、第2の軸AX2方向における位置に依存して変化する。従って、
図8に示すように第2のローラ2Bの外表面の速度v2は、一定ではない。具体的には、第2のローラ2Bの外表面の速度v2は、第2のローラ2Bの半径r2に比例する速度となるため、第2のローラ2Bの半径r2が最大値r2_maxとなる位置において外表面の速度v2は最大値v2_maxとなり、最小値r2_minとなる位置において外表面の速度v2は最小値v2_minとなる。このため、第2のローラ2Bは、フィラーFに分布を有する速度v2で接触することになる。これは、第3のローラ2Cについても同様である。
【0064】
このように第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2CがフィラーFに接触する表面の速度が一定でないことに加え、プリプレグPの積層体の変形量が第1のローラ2Aと、第2及び第3のローラ2B、2Cとの間で異なること、並びに、第1のローラ2AとプリプレグPの積層体と間における滑り量が第2及び第3のローラ2B、2CとプリプレグPの積層体との間における滑り量とは異なること等に起因して、賦形後のフィラーFに皺が発生する場合がある。
【0065】
実際に、第1のローラ2Aの半径r1と、第2及び第3のローラ2B、2Cの各半径r2の最大値r2_maxを同一にし、同一の回転速度で第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cを回転させてフィラーFの賦形を行った結果、フィラーF全体に亘って皺が発生するのみならず、第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cを通過したフィラーFが一旦上方に反り返った後、自重で垂れ下がる場合があることが確認された。
【0066】
フィラーFが上方に反り返る原因としては、第2及び第3のローラ2B、2CがフィラーFに接触する速度v2が、フィラーFの2つの曲面間の境界として形成される頂点において最小値v2_minになるためであると考えられる。また、皺についても、フィラーFに接触する第2及び第3のローラ2B、2Cの速度v2が遅い部分において、表面付近のプリプレグPが後方に引きずられた結果生じたものであると考えることができる。
【0067】
但し、皺の尺度となる表面のプリプレグPのずれ量の分布は、第2及び第3のローラ2B、2Cの半径r2の分布及び速度v2の分布とは比例しない関係となった。従って、プリプレグPの層間におけるずれに対する抵抗や、フィラーFと第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cとの間における不均一な滑りも皺の原因になっていると推考される。
【0068】
そこで、フィラーFに接触する第2及び第3のローラ2B、2Cの速度v2が一定でないこと、フィラーFと第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cとの間に滑りが生じること、プリプレグPの積層体の変形量が第1のローラ2Aと、第2及び第3のローラ2B、2Cとの間で異なること等の皺や変形の発生要因が低減されるように、第1のローラ2Aの第1の回転速度と、第2及び第3のローラ2B、2Cの第2の回転速度との間に差を設定することができる。
【0069】
第1のローラ2Aの第1の回転速度と、第2及び第3のローラ2B、2Cの第2の回転速度との間における適切な回転速度差は、フィラーFの賦形試験によって決定することができる。皺の発生を抑制するためには、フィラーFに接触する第2及び第3のローラ2B、2Cの部分の速度v2の平均が、フィラーFに接触する第1のローラ2Aの外表面の速度v1と比べて極端に遅くなったり、逆に極端に速くならないようにすることが重要である。従って、第1のローラ2Aの半径r1と、第2及び第3のローラ2B、2Cの各半径r2の最大値r2_maxが同一である場合には、特殊な条件が無い限り、第2及び第3のローラ2B、2Cの第2の回転速度は、第1のローラ2Aの第1の回転速度よりも大きな値に決定されることになる。
【0070】
第2及び第3のローラ2B、2Cの外周における速度v2の分布は、第1のローラ2Aの第1の軸AX1と、第2及び第3のローラ2B、2Cの第2及び第3の軸AX2、AX3とのなす角度によって変化する。また、第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cと、賦形前後におけるプリプレグPの積層体との間における滑り量は、プリプレグPの材質、プリプレグPの積層体に圧力を負荷する時の温度及びプリプレグPの積層体に圧力を負荷する時の湿度等の賦形条件によって変化すると考えられる。
【0071】
また、第2及び第3のローラ2B、2Cを、R面取りに対応するフィラーFの曲面を賦形するための縦断面の端部における半径が異なるローラと交換すれば、太さが異なるフィラーFを賦形することが可能となる。その場合、第2及び第3のローラ2B、2Cの縦断面の端部における半径によっても、第2及び第3のローラ2B、2Cの外周における速度v2の分布が変化する。
【0072】
従って、第1のローラ2Aと、第2及び第3のローラ2B、2Cとの間において、回転速度を変化させるための条件を、賦形条件ごとに予め試験によって求めておくことができる。例えば、プリプレグPの材質、プリプレグPの積層体に圧力を負荷する時の温度、プリプレグPの積層体に圧力を負荷する時の湿度、第1のローラ2Aの第1の軸AX1と、第2及び第3のローラ2B、2Cの第2及び第3の軸AX2、AX3とのなす角度、円盤状の第2及び第3のローラ2B、2Cの縦断面の端部における半径等の賦形条件を変えて試験を行い、第1のローラ2Aの第1の回転速度と、第2及び第3のローラ2B、2Cの第2の回転速度との間における適切な回転速度差を賦形条件ごとに取得することができる。
【0073】
そうすると、実際の賦形条件に応じて、第1のローラ2Aの第1の回転速度と、第2及び第3のローラ2B、2Cの第2の回転速度との間における適切な回転速度差を決定することが可能となる。具体例として、プリプレグPの材質、プリプレグPの積層体に圧力を負荷する時の温度、プリプレグPの積層体に圧力を負荷する時の湿度、第1のローラ2Aの第1の軸AX1と、第2及び第3のローラ2B、2Cの第2及び第3の軸AX2、AX3とのなす角度並びに円盤状の第2及び第3のローラ2B、2Cの縦断面の端部における半径の少なくとも1つに応じて、第1の回転速度と第2の回転速度との間における適切な回転速度差を決定することができる。
【0074】
賦形条件ごとの第1の回転速度と第2の回転速度との間における適切な回転速度差は、記憶装置20Bに保存することができる。実用的な例として、第1の回転速度と第2の回転速度との間における適切な回転速度差と、賦形条件との関係を示すテーブルを、記憶装置20Bに保存しておくことができる。
【0075】
そうすると、入力装置20Aから賦形条件を特定するための情報を演算装置20Cに入力すれば、演算装置20Cが記憶装置20Bを参照して、プリセットされた第1の回転速度と第2の回転速度との間における適切な回転速度差を取得できるようにすることができる。そして、記憶装置20Bを参照して取得された回転速度差で第1のローラ2Aと、第2及び第3のローラ2B、2Cが回転するように、演算装置20Cにおいて第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cの回転速度の制御値を設定し、設定した回転速度の制御値を表す制御信号を演算装置20CからA/D変換器20D等の回路を介して第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cにそれぞれ出力することができる。つまり、第1の回転速度と第2の回転速度との間における適切な回転速度差のプリセット値に基づいて、制御装置20により、第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7C並びに第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cを自動制御することができる。
【0076】
以上のような複合材賦形装置1及び複合材賦形方法は、プリプレグPの積層体を挟み込む賦形用の第1のローラ2Aと、第2及び第3のローラ2B、2Cとの間において回転速度差を付与できるようにしたものである。
【0077】
(効果)
このため、複合材賦形装置1及び複合材賦形方法によれば、賦形後におけるプリプレグPの積層体であるフィラーFに発生し得る皺や反りを防止又は低減することができる。その結果、フィラーFの品質を向上させることができる。尚、実際に第1のローラ2Aと、第2及び第3のローラ2B、2Cとの間において適切な回転速度差を与えることによって、皺や反りの発生が抑制されたフィラーFを製作できることが確認された。
【0078】
(第2の実施形態)
図9は本発明の第2の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図である。
【0079】
図9に示された第2の実施形態における複合材賦形装置1Aでは、第2及び第3のローラ2B、2Cを回転させるための第2及び第3のモータ7B、7Cが設けられていない点が第1の実施形態における複合材賦形装置1と相違する。第2の実施形態における複合材賦形装置1Aの他の構成及び作用については第1の実施形態における複合材賦形装置1と実質的に異ならないため同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0080】
複合材賦形装置1Aでは、第1のローラ2Aの回転シャフト4Aを回転させる第1のモータ7Aが備えられる。一方、第2及び第3のローラ2B、2Cには、回転シャフト4B、4Cに回転動力を伝達させるモータ7が備えられない。従って、第2及び第3のローラ2B、2Cは、モータ7から回転シャフト4B、4Cへの回転動力の伝達に依らず、プリプレグPとの間における摩擦力によって回転するように構成されている。
【0081】
つまり、第2の実施形態における複合材賦形装置1Aは、プリプレグPと接触する表面の速度v1が一定である円柱状又は円筒状の第1のローラ2Aについては、第1のモータ7Aによって回転させる一方、プリプレグPと接触する表面の速度v2が一定ではない円盤状の第2及び第3のローラ2B、2Cについては、プリプレグPとの間における摩擦力によって回転させるようにしたものである。
【0082】
このため、第2の実施形態における複合材賦形装置1Aにおいても、第1のローラ2Aと、第2及び第3のローラ2B、2Cとの間に回転速度差を付与することができる。特に第2及び第3のローラ2B、2Cを、プリプレグPとの間における摩擦力に逆らうことなく回転させることができる。このため、第2及び第3のローラ2B、2Cと、プリプレグPとの間における滑り量を低減することができる。その結果、フィラーFに発生し得る皺や反りを防止又は低減させ、フィラーFの品質を向上させることができる。
【0083】
しかも、モータ7が単一の第1のモータ7Aのみであることから複合材賦形装置1Aの構成を簡易にし、消費電力の低減を図ることもできる。
【0084】
尚、第1の実施形態において説明した通り、第1のローラ2Aと、第2及び第3のローラ2B、2Cとの間における適切な回転速度差は、賦形条件に応じて変化する。従って、第1の実施形態のように第2及び第3のローラ2B、2Cの回転シャフト4B、4Cに第2及び第3のモータ7B、7Cで回転動力をそれぞれ与えることによって第2及び第3のローラ2B、2Cを回転させるのか、或いは、第2の実施形態のように第2及び第3のローラ2B、2Cの回転シャフト4B、4Cにモータ7の回転動力を伝達せずにプリプレグPとの間における摩擦力によって第2及び第3のローラ2B、2Cを回転させるのかを、賦形条件に応じて決定することができる。
【0085】
つまり、第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cの各回転速度のみならず、第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cの回転シャフト4A、4B、4Cに伝達される回転動力の有無についても、プリプレグPの材質、プリプレグPの積層体に圧力を負荷する時の温度、プリプレグPの積層体に圧力を負荷する時の湿度、第1のローラ2Aの第1の軸AX1と、第2及び第3のローラ2B、2Cの第2及び第3の軸AX2、AX3とのなす角度並びに円盤状の第2及び第3のローラ2B、2Cの縦断面の端部における半径の少なくとも1つに応じて決定することができる。
【0086】
尚、第1の実施形態における複合材賦形装置1でも、第2及び第3のモータ7B、7Cの電源をOFFに切換えることによって、第2及び第3のローラ2B、2Cを、プリプレグPとの間における摩擦力のみによって回転させることができる。従って、第1の実施形態における複合材賦形装置1を用いれば、第2及び第3のローラ2B、2Cを、第2及び第3のモータ7B、7Cで回転させるのか、或いはプリプレグPとの間における摩擦力によって回転させるのかを、賦形条件に応じて切換えることができる。
【0087】
(第3の実施形態)
図10は本発明の第3の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図である。
【0088】
図10に示された第3の実施形態における複合材賦形装置1Bでは、それぞれ第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cで構成される2組のローラユニット30A、30Bを備えた点が第1の実施形態における複合材賦形装置1と相違する。第3の実施形態における複合材賦形装置1Bの他の構成及び作用については第1の実施形態における複合材賦形装置1と実質的に異ならないためローラ2とモータ7のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0089】
第3の実施形態における複合材賦形装置1Bでは、プリプレグPの積層体及びフィラーFの送り方向における異なる位置に、第1のローラユニット30Aと、第2のローラユニット30Bが配置される。
【0090】
第1のローラユニット30Aは、棒状のプリプレグPの積層体を前方で挟み込む位置に配置された複数のサブローラとしての第1、第2及び第3のローラ2A_1、2B_1、2C_1で構成される。より具体的には、第1のローラユニット30Aは、第1の軸AX1を中心に回転する円柱状又は円筒状の第1のローラ2A_1と、第1の軸AX1に対してそれぞれ傾斜し、かつ第1の軸AX1に垂直な面に関して互いに対称となる第2及び第3の軸AX2、AX3を中心にそれぞれ回転する円盤状の2つの第2及び第3のローラ2B_1、2C_1とによって構成される。第1のローラユニット30Aを構成する第1の複数のサブローラとしての第1、第2及び第3のローラ2A_1、2B_1、2C_1は、フィラーFの横断面形状に対応する空隙が第1、第2及び第3のローラ2A_1、2B_1、2C_1の間に形成されるように配置される。
【0091】
従って、第1のローラユニット30Aを構成する第1、第2及び第3のローラ2A_1、2B_1、2C_1を回転させると、プリプレグPの積層体に送りを付与しながら、送り出し方向における前方の第1の位置でフィラーFの賦形を行うことができる。
【0092】
他方、第2のローラユニット30Bは、棒状のプリプレグPの積層体を後方で挟み込む位置に配置された複数のサブローラとしての第1、第2及び第3のローラ2A_2、2B_2、2C_2で構成される。より具体的には、第2のローラユニット30Bも、第2の複数のサブローラとしての、第1の軸AX1を中心に回転する円柱状又は円筒状の第1のローラ2A_2と、第1の軸AX1に対してそれぞれ傾斜し、かつ第1の軸AX1に垂直な面に関して互いに対称となる第2及び第3の軸AX2、AX3を中心にそれぞれ回転する円盤状の2つの第2及び第3のローラ2B_2、2C_2とによって構成される。第2のローラユニット30Bを構成する第2の複数のサブローラとしての第1、第2及び第3のローラ2A_2、2B_2、2C_2は、フィラーFの横断面形状に対応する空隙が第1、第2及び第3のローラ2A_2、2B_2、2C_2の間に形成されるように配置される。
【0093】
従って、第2のローラユニット30Bを構成する第1、第2及び第3のローラ2A_2、2B_2、2C_2を回転させると、プリプレグPの積層体に送りを付与しながら、送り出し方向において第1の位置と異なる後方の第2の位置でフィラーFの賦形を行うことができる。
【0094】
第1のローラユニット30Aを構成する第1、第2及び第3のローラ2A_1、2B_1、2C_1は、それぞれ第1、第2及び第3のモータ7A_1、7B、7Cから伝達される回転動力によって回転する。すなわち、第1、第2及び第3のモータ7A_1、7B、7Cは、第1、第2及び第3のローラ2A_1、2B_1、2C_1の各回転シャフト4A_1、4B_1、4C_1にそれぞれ回転動力を伝達して回転させる。
【0095】
但し、第1のローラ2A_1と、第2及び第3のローラ2B_1、2C_1との間には、回転速度差が付与される。具体的には、第1のモータ7A_1は、第1のローラ2A_1の回転シャフト4A_1を第1の回転速度v_mで回転させるように構成される。一方、第2及び第3のモータ7B、7Cは、第2及び第3のローラ2B_1、2C_1の回転シャフト4B_1、4C_1をそれぞれ第1の回転速度v_mよりも速い第2の回転速度v_hで回転させるように構成される。
【0096】
従って、第1のローラユニット30Aは、第1の実施形態における複合材賦形装置1と同様な構成及び機能を有する。このため、第1のローラユニット30Aによって賦形されるフィラーFに皺や反りが生じることを抑制することができる。
【0097】
他方、第2のローラユニット30Bを構成する第1、第2及び第3のローラ2A_2、2B_2、2C_2のうち、第2及び第3のローラ2B_2、2C_2は、モータ7から回転シャフト4B_2、4C_2への回転動力の伝達に依らず、プリプレグPとの間における摩擦力によって回転するように構成される。従って、第1のローラ2A_2には、第1のローラ2A_2の回転シャフト4A_2に回転動力を伝達して回転させるモータ7A_2が連結される。これに対して、第2及び第3のローラ2B_2、2C_2の各回転シャフト4B_2、4C_2にはモータ7が連結されない。
【0098】
従って、第2のローラユニット30Bは、第2の実施形態における複合材賦形装置1Aと同様な構成及び機能を有する。このため、第2のローラユニット30Bによって賦形されるフィラーFにも皺や反りが生じることを抑制することができる。
【0099】
更に、第1のローラユニット30Aと、第2のローラユニット30Bとの間においても回転速度差を付与することができる。すなわち、第1のローラユニット30Aを構成する第1のローラ2A_1の回転シャフト4A_1を、第1のモータ7A_1の回転駆動によって第1の回転速度v_mで回転させる一方、第2のローラユニット30Bを構成する第1のローラ2A_2の回転シャフト4A_2を、モータ7A_2の回転駆動によって第1の回転速度v_mよりも遅い第3の回転速度v_lで回転させることができる。つまり、プリプレグPの積層体の入口側に配置される第2のローラユニット30Bの回転速度よりも、プリプレグPの積層体の出口側に配置される第1のローラユニット30Aの回転速度の方が大きくなるように、第1のローラユニット30A及び第2のローラユニット30Bを制御することができる。
【0100】
そうすると、第1のローラユニット30Aと、第2のローラユニット30Bとの間において、フィラーFに引張力を付与することができる。このため、第1のローラユニット30Aと、第2のローラユニット30Bとの間においてフィラーFが弛むことを防止することができる。その結果、フィラーFの変形を抑止し、より直線的に賦形されたフィラーFを製作することが可能となる。
【0101】
尚、第1のローラユニット30Aと、第2のローラユニット30Bとの間において、フィラーFに引張力を付与することができれば、第2のローラユニット30Bを構成する第1、第2及び第3のローラ2A_2、2B_2、2C_2の全てにモータ7からの回転動力を付与するようにすることもできる。但し、
図10に示すように、第2のローラユニット30Bを構成する第2及び第3のローラ2B_2、2C_2をモータ7で回転させない構成とすれば、複合材賦形装置1Bの構成を簡易にしつつ、第1のローラユニット30Aと、第2のローラユニット30Bとの間において、フィラーFに引張力を付与することができる。
【0102】
つまり、送り出し側に配置される第1のローラユニット30Aに十分な動力を付与すれば、フィラーFの送り出しと、引張力の付与が可能となる場合が多い。従って、
図10に示す構成例は、構成の簡易化及びモータ7の数が減ることによる消費電力の低減と、賦形後におけるフィラーFの直線性の維持による品質向上の観点から好適な構成例の1つである。
【0103】
図10に示すように2組のローラユニット30A、30Bを配置する場合においても、各ローラ2間における回転速度差及び回転動力の有無を、賦形条件に応じて決定することができる。すなわち、例えば、プリプレグPの材質、プリプレグPの積層体に圧力を負荷する時の温度、プリプレグPの積層体に圧力を負荷する時の湿度、円盤状の第2及び第3のローラ2B_1、2C_1、2B_2、2C_2の傾斜角度並びに円盤状の第2及び第3のローラ2B_1、2C_1、2B_2、2C_2の縦断面の端部における半径の少なくとも1つに応じて、各ローラ2間における回転速度差及び回転動力の有無を決定することができる。
【0104】
図11は
図10に示す第1のローラユニット30Aの左側面図を示し、
図12は
図10に示す第2のローラユニット30Bの左側面図を示す。
【0105】
2組のローラユニット30A、30BでフィラーFを賦形する場合には、円盤状の第2及び第3のローラ2B_1、2C_1、2B_2、2C_2の傾斜角度を、ローラユニット30A、30B間において変えることもできる。具体例として、
図11に示すように第1のローラユニット30Aにおいては、円盤状の第2及び第3のローラ2B_1、2C_1を、円柱状又は円筒状の第1のローラ2A_1に押し当てる角度θ1、θ2を、60度に設定することができる。他方、
図12に示すように、第2のローラユニット30Bにおいては、円盤状の第2及び第3のローラ2B_2、2C_2を、円柱状又は円筒状の第1のローラ2A_2に押し当てる角度θ1、θ2を、36.87度に設定することができる。
【0106】
第1の実施形態において説明したように、円盤状の第2及び第3のローラ2B、2Cを第1のローラ2Aに押し当てる角度θ1、θ2を36.87度に設定すると、プリプレグPの積層体に均一に圧縮力を負荷することができる。一方、円盤状のローラ2B、2Cを第1のローラ2Aに押し当てる角度θ1、θ2を60度に設定すると、フィラーFの下面における平坦度を向上させることができる。
【0107】
従って、丸棒状のプリプレグPの積層体に圧力を負荷する第2のローラユニット30Bでは、プリプレグPの積層体に均一に圧縮力を負荷することができる。その結果、フィラーFの内部における品質を向上させることができる。他方、第2のローラユニット30Bで一旦賦形されたフィラーFを更に第1のローラユニット30Aで賦形することによって、フィラーFの下面における平坦度を向上させることができる。
【0108】
以上の第3の実施形態における複合材賦形装置1Bは、回転速度を調整することが可能な2組のローラユニット30A、30Bを配置し、プリプレグPの積層体を挟み込むローラ2間のみならず、異なる位置においてプリプレグPの積層体を挟み込むローラユニット30A、30B間においても回転速度差を付与するようにしたものである。このため、第3の実施形態における複合材賦形装置1Bによれば、第1の実施形態における複合材賦形装置1によって得られる効果と同様な効果に加え、プリプレグPの積層体に張力を発生させることによって、賦形後におけるフィラーFの直線性を一層向上させることができるという効果を得ることができる。
【0109】
また、円盤状の第2及び第3のローラ2B、2Cを第1のローラ2Aに押し当てる角度を、ローラユニット30A、30B間において異なる適切な角度に決定することによって、賦形後におけるフィラーFの品質を一層向上させることができる。具体的には、フィラーFの内部における均一性と、フィラーFの下面における平坦度の双方を向上させることができる。
【0110】
(第4の実施形態)
図13は本発明の第4の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図である。
【0111】
図13に示された第4の実施形態における複合材賦形装置1Cでは、第1のローラユニット30Aを構成する第1のローラ2A_1と、第2のローラユニット30Bを構成する第1のローラ2A_2との間に回転速度差を付与しつつ共通の第1のモータ7Aで回転させるようにした点が第3の実施形態における複合材賦形装置1Bと相違する。第4の実施形態における複合材賦形装置1Cの他の構成及び作用については第3の実施形態における複合材賦形装置1Bと実質的に異ならないためローラ2とモータ7のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0112】
図13に示すように共通の第1のモータ7Aの回転動力を、第1のローラユニット30Aを構成する第1のローラ2A_1及び第2のローラユニット30Bを構成する第1のローラ2A_2の双方に伝達するようにすることもできる。
【0113】
具体例として、第1のローラユニット30Aを構成する第1のローラ2A_1の回転シャフト4A_1の一端に、第1のモータ7Aを出力軸が同軸上となるように連結することができる。一方、第1のローラユニット30Aを構成する第1のローラ2A_1の回転シャフト4A_1の他端に第3のプーリ40Aを固定することができる。他方、第2のローラユニット30Bを構成する第1のローラ2A_2の回転シャフト4A_2の、第3のプーリ40Aが設けられた側と同じ側における一端にも、第4のプーリ40Bを固定することができる。
【0114】
そして、第1のローラユニット30Aを構成する第1のローラ2A_1の回転シャフト4A_1に固定された第3のプーリ40Aと、第2のローラユニット30Bを構成する第1のローラ2A_2の回転シャフト4A_2に固定された第4のプーリ40Bとを、動力伝達ベルト40Cで連結することができる。尚、
図13に示す例では、動力伝達ベルト40Cの張力を維持するために動力伝達ベルト40Cの外側から押付力を付与する第5のプーリ40Dが配置されている。
【0115】
このように、第3のプーリ40A、第4のプーリ40B、動力伝達ベルト40C及び第5のプーリ40Dによって、第1のローラユニット30Aを構成する第1のローラ2A_1の回転シャフト4A_1及び第2のローラユニット30Bを構成する第1のローラ2A_2の回転シャフト4A_2の双方に第1のモータ7Aの回転動力を伝達する動力伝達機構40を構成することができる。
【0116】
更に、第1のローラユニット30A側の第1のローラ2A_1に固定される第3のプーリ40Aの直径と、第2のローラユニット30B側の第1のローラ2A_2に固定される第4のプーリ40Bの直径を、異なる大きさにすることができる。これにより、共通の第1のモータ7Aを用いて、第1のローラユニット30A側の第1のローラ2A_1と、第2のローラユニット30B側の第1のローラ2A_2を、異なる回転速度v_m、V_lで回転させることができる。すなわち、第1のローラユニット30A側の第1のローラ2A_1と、第2のローラユニット30B側の第1のローラ2A_2との間に、回転速度差を付与することができる。
【0117】
より具体的には、第1のローラユニット30A側の第1のローラ2A_1に固定される第3のプーリ40Aの直径よりも、第2のローラユニット30B側の第1のローラ2A_2に固定される第4のプーリ40Bの直径を大きくすれば、第2のローラユニット30B側の第1のローラ2A_2の回転速度v_lを、第1のローラユニット30A側の第1のローラ2A_1の回転速度v_mよりも、遅くすることができる。
【0118】
これにより、第1のローラユニット30A側における第1のローラ2A_1と、第2のローラユニット30B側における第1のローラ2A_2との間においてフィラーFに張力を発生させた状態で、フィラーFを送り出すことが可能となる。その結果、賦形後におけるフィラーFに皺や反りが発生することを防止することができる。
【0119】
2つの第1のローラ2A_1、2A_2の回転速度v_m、v_l間における比率は、第3のプーリ40Aと第4のプーリ40Bとの間における円周の長さの比率となる。このため、第3のプーリ40Aと第4のプーリ40Bとの間における適切な直径の差又は比を予め賦形試験によって決定しておくことができる。そうすると、第1のモータ7Aの回転速度を変化させても、常に回転速度v_m、v_l間に一定の比率で相違を付与することができる。
【0120】
もちろん、プーリ40A、40B、40Dと、動力伝達ベルト40Cに限らず、ギアやチェーンに噛み合うスプロケット等の所望の構成要素で動力伝達機構40を構成することができる。その場合においても、賦形試験によって適切な回転速度差又は回転速度比が、2つの第1のローラ2A_1、2A_2間において生じるように、動力伝達機構40を構成することが適切である。
【0121】
以上の第4の実施形態における複合材賦形装置1Cは、2組のローラユニット30A、30Bを構成する2つの第1のローラ2A_1、2A_2を共通の第1のモータ7Aで回転させるようにしたものである。このため、第4の実施形態における複合材賦形装置1Cによれば、第3の実施形態における複合材賦形装置1Bによって得られる効果と同様な効果に加え、モータ7の数を一層削減し、かつモータ7の制御が容易となるという効果を得ることができる。
【0122】
もちろん、第1のローラ2A_1、2A_2に限らず、任意の複数のローラ2を共通のモータ7で回転させるように構成することもできる。特に、回転軸が平行である複数のローラ2については、ベルトやプーリ等で動力伝達を行うことによってモータ7の共通化を行うことが容易である。
【0123】
(第5の実施形態)
図14は本発明の第5の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図である。
【0124】
図14に示された第5の実施形態における複合材賦形装置1Dでは、第2のローラユニット30Bを構成する第1、第2及び第3のローラ2A_2、2B_2、2C_2の全てに回転動力を伝達するためのモータ7が設けられていない点が第3の実施形態における複合材賦形装置1Bと相違する。第5の実施形態における複合材賦形装置1Dの他の構成及び作用については第3の実施形態における複合材賦形装置1Bと実質的に異ならないためローラ2とモータ7のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0125】
図14に示すように、第2のローラユニット30Bを構成する第1、第2及び第3のローラ2A_2、2B_2、2C_2の全てに回転動力を伝達するためのモータ7を設けずに、プリプレグPとの間における摩擦力によって回転させるようにしてもよい。すなわち、第1のローラユニット30Aには第1、第2及び第3のモータ7A、7B、7Cによって回転動力を与える一方、第2のローラユニット30Bには回転動力を与えず、プリプレグPとの間における摩擦力によって回転させるようにしてもよい。
【0126】
この場合、第2のローラユニット30Bを構成する第1、第2及び第3のローラ2A_2、2B_2、2C_2の回転に対する摩擦抵抗を調節することによって、第1、第2及び第3のローラ2A_2、2B_2、2C_2の回転速度を調整することもできる。
【0127】
このように構成された第5の実施形態における複合材賦形装置1Dにおいても、第1のローラユニット30Aと、第2のローラユニット30Bとの間において、フィラーFに引張力を付与することができる。このため、第3の実施形態における複合材賦形装置1Bと同様に、第5の実施形態における複合材賦形装置1Dにおいても、賦形後におけるフィラーFの直線性を一層向上させることができる。また、第5の実施形態における複合材賦形装置1Dでは、第3の実施形態における複合材賦形装置1Bと比べてモータ7の数を削減することができる。
【0128】
(第6の実施形態)
図15は本発明の第6の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図である。
【0129】
図15に示された第6の実施形態における複合材賦形装置1Eでは、ローラ径を変えることによってローラ2間に回転速度差を付与するようにした点が第3の実施形態における複合材賦形装置1Bと相違する。第6の実施形態における複合材賦形装置1Eの他の構成及び作用については第3の実施形態における複合材賦形装置1Bと実質的に異ならないためローラ2とモータ7のみ図示し、同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0130】
第3乃至第5の実施形態では第1のローラユニット30A側における第1のローラ2A_1の直径と、第2のローラユニット30B側における第1のローラ2A_2の直径が同一であることを前提に説明したが、
図15に示すように、第1のローラユニット30A側における第1のローラ2A_1の直径と、第2のローラユニット30B側における第1のローラ2A_2の直径を異なる大きさとしてもよい。
【0131】
この場合、第1のローラユニット30A側における第1のローラ2A_1の回転速度が、第2のローラユニット30B側における第1のローラ2A_2の回転速度と同じであっても、プリプレグPと接触する第1のローラ2A_1、2A_2の表面に速度差を付与することができる。より具体的には、
図15に示すように第1のローラユニット30A側における第1のローラ2A_1のローラ径よりも、第2のローラユニット30B側における第1のローラ2A_2のローラ径の方を大きくすれば、2つの第1のローラ2A_1、2A_2の回転速度が同一の回転速度v_mであったとしても、プリプレグPと接触する第2のローラユニット30B側における第1のローラ2A_2の表面における移動速度を、プリプレグPと接触する第1のローラユニット30A側における第1のローラ2A_1の表面における移動速度よりも遅くすることができる。
【0132】
これにより、第1のローラユニット30A側における第1のローラ2A_1と、第2のローラユニット30B側における第1のローラ2A_2との間においてフィラーFに張力を発生させた状態で、フィラーFを送り出すことが可能となる。その結果、賦形後におけるフィラーFに皺や反りが発生することを防止することができる。
【0133】
2つの第1のローラ2A_1、2A_2の表面における移動速度間における比率は、第1のローラ2A_1、2A_2間におけるローラ径の比率となる。このため、第1のローラ2A_1、2A_2間における適切なローラ径の差又は比を予め賦形試験によって決定しておくことができる。
【0134】
フィラーFを挟み込む各第1のローラ2A_1、2A_2と、各第2及び第3のローラ2B_1、2C_1、2B_2、2C_2との間についても、最大ローラ径の差又は比を予め賦形試験によって適切に決定しておくことができる。
【0135】
このように構成された第6の実施形態における複合材賦形装置1Eにおいても、第1のローラユニット30Aと、第2のローラユニット30Bとの間において、フィラーFに引張力を付与することができる。このため、第3の実施形態における複合材賦形装置1Bと同様に、第6の実施形態における複合材賦形装置1Eにおいても、賦形後におけるフィラーFの直線性を一層向上させることができる。
【0136】
また、第6の実施形態における複合材賦形装置1Eの場合には、必ずしもモータ7の制御を行わなくてもフィラーFに引張力を付与することによってフィラーFの品質を向上させることができる。このため、簡易なモータ7及び回路構成で複合材賦形装置1Eを構成することもできる。逆に、各ローラ2の最大ローラ径の適切な決定によって、各ローラ2の表面における移動速度のおおまかな好適化を図り、モータ7の制御によって各ローラ2の表面における移動速度の微調整を行うようにすることもできる。
【0137】
(第7の実施形態)
図16は本発明の第7の実施形態に係る複合材賦形装置の構成図である。
【0138】
図16に示された第7の実施形態における複合材賦形装置1Fでは、フィラーFを2つのローラ2D、2Eで賦形するようにした点が第1乃至第6の実施形態における各複合材賦形装置1、1A、1B、1C、1D、1Eと相違する。第7の実施形態における複合材賦形装置1Fの他の構成及び作用については第1乃至第6の実施形態における各複合材賦形装置1、1A、1B、1C、1D、1Eと実質的に異ならないためローラ2D、2Eのみ図示し、同一の構成又は対応する構成については説明を省略する。
【0139】
図16に示すように、フィラーFの素材となる棒状のプリプレグPの積層体を2つの円柱状又は円筒状の第1及び第2のローラ2D、2Eで挟み込むようにし、2つの円柱状又は円筒状のローラ2D、2Eの一方の表面に、フィラーFの横断面形状に対応する凹みを形成することもできる。
図16に示す例では、フィラーFの横断面形状に対応する凹みを形成した上側の第1のローラ2Dと、凹みがなく直径が一定である下側の第2のローラ2Eが、棒状のプリプレグPの積層体を挟み込む位置にそれぞれ配置されている。
【0140】
そして、第1の実施形態と同様に、第1のローラ2Dと、第2のローラ2Eとの間に回転速度差を与えたり、第2の実施形態と同様に、第2のローラ2Eをモータ7で回転させる一方、第1のローラ2DをプリプラグPとの間における摩擦力によって回転させることができる。また、第3乃至第6の実施形態と同様に、第1のローラ2Dと、第2のローラ2Eとによって構成されるローラユニットを2組配置することも可能である。更に、プリプレグPの積層体を挟み込む第1のローラ2Dと、第2のローラ2Eとの間において最大ローラ径を変えることもできる。
【0141】
このような第7の実施形態における複合材賦形装置1Fによれば、第1乃至第6の実施形態における各複合材賦形装置1、1A、1B、1C、1D、1Eと比べてローラ2の数が少ないため、複合材賦形装置1Fの構成及び制御を簡易にすることができる。
【0142】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0143】
例えば、各実施形態における複合材賦形装置1、1A、1B、1C、1D、1E、1Fが有する特徴を互いに組合わせることができる。逆に、一部の特徴を省略することもできる。すなわち、プリプレグPの積層体に圧力を負荷する少なくとも1つの第1のローラ、プリプレグPの積層体に圧力を負荷する少なくとも1つの第2のローラ並びに第1のローラ及び第2のローラの少なくとも一方を回転させるモータを備えた複合材賦形装置を構成することができる。また、複合材賦形装置に備えられる少なくとも1つの第1のローラ及び少なくとも1つの第2のローラの少なくとも一方をモータで回転させ、第1のローラ及び第2のローラでプリプレグPに送りを与えながら圧力を負荷することによって、賦形後におけるプリプレグPを製作することができる。そして、第1のローラ及び第2のローラ間において、回転に対する摩擦抵抗、回転速度、ローラ径及び回転動力の有無の少なくとも1つを変えて第1のローラ及び第2のローラを回転させるようにすることができる。これにより、プリプレグPに発生し得る皺や反りを低減することができる。
【0144】
また、上述した各実施形態では、円盤状のローラの縦断面の形状が円弧である場合について説明したが、縦断面の形状が円弧ではない円盤状のローラを用いるようにしてもよい。具体例として、特願2016-31792の願書に添付された特許請求の範囲、明細書及びに図面に記載されているような、縦断面の端部における形状が対数螺旋等の曲率が一定でない曲線である円盤状のローラを用いて複合材賦形装置を構成することもできる。そのような場合には、円盤状のローラの回転軸の傾斜角度を連続的に変化させる角度調整機構を複合材賦形装置に設けることができる。
【0145】
円盤状のローラの回転軸の傾斜角度をフィラーFの賦形中に変化させる場合には、円盤状のローラの回転速度についても、フィラーFの賦形中において円盤状のローラの回転軸の傾斜角度に応じて変化させることができる。この場合、横断面の形状が一定でないフィラーFを高品質に賦形することが可能となる。特に、縦断面の端部における形状が対数螺旋の一部となっている円盤状のローラを用いれば、太さが変化するフィラーFを高品質に賦形することができる。
【0146】
また、フィラーFには、横断面の形状が線対称ではないものも存在する。具体例として、フィラーFの高さ方向に対して垂直でない面にフィラーFが取付けられる場合には、フィラーFの横断面の形状が線対称とはならない。横断面の形状が線対称ではないフィラーFを賦形する場合には、フィラーFの形状に合わせて第1、第2及び第3のローラ2A、2B、2Cの形状及び配置を決定することができる。具体例として、第1のローラ2Aの第1の軸AX1をフィラーFの形状に合わせて水平方向ではない方向とすることができる他、円盤状の第2のローラ2B及び第3のローラ2Cを押し付ける方向の、第1のローラ2Aの表面に対する角度θ1、θ2をフィラーFの形状に合わせて互いに異なる角度に決定したり、円盤状の第2のローラ2B及び第3のローラ2Cの円周部分の半径をフィラーFの形状に合わせて互いに異なる長さに決定することができる。
【符号の説明】
【0147】
1、1A、1B、1C、1D、1E、1F 複合材賦形装置
2、2A、2B、2C、2D、2E ローラ
3 回転機構
4、4A、4B、4C 回転シャフト
5A、5B、5C 軸受
6 スタンド
7、7A、7B、7C モータ
10 出力軸
11 動力伝達機構
11A、11B プーリ
11C 動力伝達ベルト
20 制御装置
20A 入力装置
20B 記憶装置
20C 演算装置
20D A/D変換器
30A 第1のローラユニット
30B 第2のローラユニット
40 動力伝達機構
40A 第3のプーリ
40B 第4のプーリ
40C 動力伝達ベルト
40D 第5のプーリ
P プリプレグ
F フィラー
AX1、AX2、AX3 軸