(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】擬音装置
(51)【国際特許分類】
E03D 9/00 20060101AFI20220926BHJP
G10K 11/175 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
E03D9/00 A
G10K11/175
(21)【出願番号】P 2017177973
(22)【出願日】2017-09-15
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(73)【特許権者】
【識別番号】000116068
【氏名又は名称】ローランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】小倉 忠則
(72)【発明者】
【氏名】島崎 浩和
(72)【発明者】
【氏名】小手川 誠
(72)【発明者】
【氏名】沓澤 寛人
(72)【発明者】
【氏名】梅本 太郎
【審査官】油原 博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-226113(JP,A)
【文献】特開2012-202073(JP,A)
【文献】特開2015-034932(JP,A)
【文献】特開2012-181393(JP,A)
【文献】特開平05-230852(JP,A)
【文献】実開平05-071273(JP,U)
【文献】特開2010-227284(JP,A)
【文献】特開2006-243178(JP,A)
【文献】特開2005-084645(JP,A)
【文献】特開2014-230135(JP,A)
【文献】隅田 大地,環境音による騒音抑制,高知工科大学 情報学群 学士学位論文,日本,2013年03月01日,第9頁-第18頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 9/00
A47K 17/02
G10K 11/175、15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレでの尿の行為音の音圧がピークになる400Hz以上1kHz以下の周波数帯域において、該周波数帯域の前記行為音をマスキング可能な音を出力可能に構成されているとともに、
500Hz以上15kHz以下の周波数帯域において、前記行為音の周波数に対する音圧の波形に合わせた波形の音を周波数特性として出力可能に構成されて
おり、
300Hz以下の周波数帯域において、前記行為音の周波数に対する音圧の波形よりも低い音圧の波形の音を周波数特性として出力可能に構成され、
250Hz以上450Hz以下の周波数帯域において、滑らかに音圧を高くしていくような波形の音を周波数特性として出力可能に構成され、
前記トイレの壁に取り付けられていることを特徴とする擬音装置。
【請求項2】
5kHz以上10kHz以下の周波数帯域において、行為音をマスキング可能な音を出力可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の擬音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレに設置される擬音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トイレの個室内には排泄時の尿や便やガスを排出する行為音が外部に聞こえてしまうのを防止するために、擬音装置が設置されている(例えば、特許文献1参照)。擬音装置は、利用者が操作をすると所定時間の間、例えば、水洗トイレの流水音や川のせせらぎの音が出力されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、
図3に示すように、実際の行為音の波形(周波数特性)RSに対して、従来の擬音装置から出力される音の波形(周波数特性)FSは異なる箇所があり、特に、行為音の低中域のピークP1に対して、擬音装置から出力される音が弱くなっていた。その結果、従来の擬音装置では、行為音が消し切れずに当該行為音が聞こえてしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、行為音をより効果的に聞こえにくくすることができる擬音装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の擬音装置は、トイレでの尿の行為音の音圧がピークになる400Hz以上1kHz以下の周波数帯域において、該周波数帯域の前記行為音をマスキング可能な音を出力可能に構成されているとともに、500Hz以上15kHz以下の周波数帯域において、前記行為音の周波数に対する音圧の波形に合わせた波形の音を周波数特性として出力可能に構成されており、300Hz以下の周波数帯域において、前記行為音の周波数に対する音圧の波形よりも低い音圧の波形の音を周波数特性として出力可能に構成され、250Hz以上450Hz以下の周波数帯域において、滑らかに音圧を高くしていくような波形の音を周波数特性として出力可能に構成され、前記トイレの壁に取り付けられていることを特徴としている。
【0007】
本発明の擬音装置によれば、行為音で一番耳に届きやすいピークの音圧が含まれる周波数帯域において、その音をマスキングすることができる。また、行為音の音圧がピークになる周波数を含む広い周波数帯域において行為音をマスキングすることができる。したがって、従来よりも行為音をより効果的に聞こえにくくすることができる。
【0008】
本発明の擬音装置は、5kHz以上10kHz以下の周波数帯域において、行為音をマスキング可能な音を出力可能に構成されていることを特徴としている。
【0009】
本発明の擬音装置によれば、従来の擬音装置では出力されていなかった5kHz以上10kHz以下の高域の行為音に対してマスキングすることができる。したがって、従来よりも行為音をより効果的に聞こえにくくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、行為音をより効果的に聞こえにくくすることが可能な擬音装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る擬音装置を斜め前方から見た斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る擬音装置から出力される音の周波数特性を示すグラフである。
【
図3】従来の擬音装置から出力される音の周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る擬音装置を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る擬音装置を前方から見た斜視図である。
図1に示す擬音装置100は、擬音を発生するための装置である。擬音装置100は、トイレの壁等にブラケットを介して取り付けられている。
なお、以下の説明において、擬音装置100に対向する利用者側を前方と称し、利用者と反対側(壁側)を後方と称し、これら前方と後方とを結ぶ方向を前後方向と称する。また、利用者から見て左側を左側と称し、利用者から見て右側を右側と称し、これら左側と右側とを結ぶ方向を左右方向と称する。
【0016】
図1に示すように、擬音装置100は、壁側に配置されるロアケース1と、該ロアケース1の前方に配置されるアッパーケース2と、該アッパーケース2に取り付けられるフロントパネル4と、を有している。
【0017】
アッパーケース2における、前板部21の前面21fの上下方向の中間部には、前板部21の前面21fから後方に凹む嵌合凹部25が形成されている。嵌合凹部25は、前板部21の左右方向全長にわたって形成されている。嵌合凹部25は、正面視左右方向に長い矩形状をなしている。
【0018】
アッパーケース2の後部(擬音装置100の内部)には、作動ランプ50、センサーユニット60、およびスピーカーユニット90が設けられている。
【0019】
センサーユニット60は、複数の投光素子と、受光素子とを有している。投光素子から光信号が送信され、光信号が対象物に当たって反射して、受光素子が反射信号を受信することにより、センサーユニット60は対象物の存在の有無を検知している。
【0020】
少なくとも一つの投光素子は、フロントパネル4に設けられた操作情報41の前方に向かって(前方に向かうにしたがって次第に右側に向かう方向に)光信号を送信して、操作情報41の前方にかざされた手等を検知(指向)可能に構成されている。また、別の投光素子は、前方及び前方に向かうにしたがって次第に左側に向かう方向に向かって光信号を送信して、センサーユニット60の前方にいる利用者を検知可能に構成されている。
【0021】
センサーユニット60が対象物の存在を検知すると、センサーユニット60の受光素子からの検知信号が不図示の制御部に送信される。制御部は、検知信号を受信すると、スピーカーユニット90に出力信号を送信する。スピーカーユニット90は出力信号を受信すると、擬音を出力し、所定時間経過後に擬音は停止するように構成されている。
また、擬音の出力中に、センサーユニット60が対象物の存在を検知すると、センサーユニット60からの検知信号が不図示の制御部に送信される。制御部は、検知信号を受信すると、スピーカーユニット90に停止信号を送信する。スピーカーユニット90は停止信号を受信すると、擬音の出力を停止するように構成されている。換言すれば、擬音装置100の所定位置(後述する操作情報41の前)に手をかざして擬音を出力させた後、再び手をかざすことで擬音の出力を停止させることもできる。
【0022】
フロントパネル4は、アッパーケース2の嵌合凹部(前面)25に沿って、嵌合凹部25に沿う左右方向にわたって配置される大きさで形成されている。フロントパネル4は、板状をなし、正面視矩形状に形成され、板厚方向を前後方向に向けて配置されている。フロントパネル4は、アッパーケース2の嵌合凹部25と対応した形状をなしている。換言すると、フロントパネル4の上下方向の長さは、嵌合凹部25の上下方向の長さと略同一である。フロントパネル4の左右方向の長さは、嵌合凹部25の左右方向の長さ(アッパーケース2の前板部21の左右方向の長さ)と略同一である。フロントパネル4の厚みは、嵌合凹部25の深さ(前後方向の長さ)と略同一である。フロントパネル4は、後面に貼着された両面テープ(不図示)により、アッパーケース2の嵌合凹部25に取り付けられている。
【0023】
フロントパネル4の左右方向の略中央には、操作方法を示す操作情報41が設けられている。換言すると、操作情報41は、正面視でセンサーユニット60と隣り合いつつ、センサーユニット60の右側に配置されている。本実施形態では、操作情報41として、手を示すピクトグラム(絵文字)及び「再生/停止」、「PLAY/STOP」と記載された文字が示されている。なお、操作情報41は、ピクトグラムのみ又は文字のみであってもよい。
【0024】
フロントパネル4において、操作情報41の上方には、作動ランプ50の光が透過可能なランプ透過部42が設けられている。ランプ透過部42は、作動ランプ50と対応する位置に設けられている。
【0025】
フロントパネル4の右側には、スピーカー孔47及びダミー穴46が、上下方向に間隔を有して配置された列をなすととともに、当該列が左右方向に間隔を有して複数列配置されている。全体として、正面視略矩形となるように配列され、スピーカー領域Xが形成されている。
【0026】
スピーカー領域Xのうち、四隅に、複数のダミー穴46が形成されている。ダミー穴46は、フロントパネル4の板厚方向に貫通されていない穴である。本実施形態では、ダミー穴46は、フロントパネル4の前面4fから後方に凹む形状をなしている。スピーカー領域Xのうち、ダミー穴46以外の箇所に、板厚方向に貫通された複数のスピーカー孔47が形成されている。スピーカー孔47の後方にスピーカーユニット90が配置されている。
【0027】
フロントパネル4の左側は、センサーユニット60の投光素子が拡散可能なセンサー領域Yとされている。センサー領域Yは、センサーユニット60と対応する位置に設けられている。
【0028】
上記の擬音装置100では、利用者が操作情報41の前方に手をかざすと、投光素子から送信された光信号が、手(対象物)に当たって反射して、受光素子が反射信号を受信する。受光素子は、反射信号に基づいて検知信号を制御部に送信する。制御部は、出力信号をスピーカーユニット90に送信する。スピーカーユニット90は、出力信号に基づいて擬音を出力し、所定時間経過後に擬音は停止する。
【0029】
また、擬音の出力中に、利用者が操作情報41の前方に手をかざすと、上記と同様に、投光素子から送信された光信号が手に当たって反射して、受光素子が反射信号を受信する。センサーユニット60は、反射信号に基づいて検知信号を制御部に送信する。制御部は、停止信号をスピーカーユニット90に送信する。スピーカーユニット90は、停止信号に基づいて擬音の出力を停止する。
【0030】
また、制御部は検知信号を受信すると、作動ランプ50にランプ出力信号を送信する。作動ランプ50は、ランプ出力信号を受信するとランプを点灯させ、所定時間経過後、または手動により擬音の出力を停止させた際にランプは消灯する。
【0031】
次に、本実施形態の擬音装置100から出力される音の波形を
図2に示す。
図2に示すように、行為音の波形RSに対して、擬音装置100から出力される音は波形(周波数特性)NSとして構成されている。なお、本実施形態の行為音の波形RSは、尿音の波形を示している。
【0032】
具体的には、300Hz以下の低域(約0~300Hz)Lrにおいて、行為音の音圧よりも低い音L1を出力可能に構成している。当該周波数帯域(低域Lr)では、行為音を完全にマスキングする音(行為音の音圧を超える音)を出力すると、威圧感が生じて利用者を不快にさせる虞がある。そこで、本実施形態では、250~450Hz(250Hz以上450Hz以下)の周波数帯域にかけて滑らかに音圧を上げることにより、威圧感が生じない自然な音として出力させることができる。
なお、本実施形態における「マスキングする」とは、行為音の音圧と同程度もしくはそれ以上の音圧を出力することにより、行為音を聞こえにくくすることを言う。また、「行為音の音圧と同程度」とは、行為音の音圧より低い場合も含み、その場合、好ましくは行為音の音圧よりも-10dB以内の音圧のことを言う。
【0033】
また、行為音の音圧がピークP1になる中域(約400Hz~1kHz)Mrにおいて、この周波数帯域(中域Mr)の行為音をマスキング可能な音M1を出力可能に構成している。擬音装置100によれば、行為音で一番耳に届きやすいピークP1の音圧が含まれる中域Mrにおいて、その音をマスキングする音M1を出力することができる。したがって、従来よりも行為音をより効果的に聞こえにくくすることができる。
【0034】
さらに、5kHz以上の高域(約5kHz~10kHz)Hrの行為音に対してマスキング可能な音H1を出力可能に構成している。擬音装置100によれば、従来の擬音装置では出力されていなかった5kHz以上の高域Hrの行為音に対してマスキングする音H1を出力することができる。したがって、従来よりも行為音をより効果的に聞こえにくくすることができる。
【0035】
また、本実施形態では、行為音の音圧がピークP1になる中域Mrから5kHz以上の高域Hrまでの間の周波数帯域(約500Hz~15kHz)において、音圧がピークP1になる周波数から高域Hrに向かって徐々に低くなる(なだらかに低くなる)ように構成した。また、低域Lrにおいても、行為音よりは小さいものの音L1を出力することにより、可聴域全体をマスキングできるように構成した。さらに、低域Lrと中域Mrとの間の周波数(約250Hz~450Hz)においては、低域Lrから中域Mrに向かって滑らかに音圧が高くなるように構成した。このように構成することにより、自然な音に近づけることができ、利用者が不快に感じることなく、かつ、従来よりも行為音をより効果的に聞こえにくくすることができる。
【0036】
換言すれば、全ての周波数帯域において、行為音よりも高い音圧の音を出力する必要はなく、少なくとも一部の周波数において、行為音よりも高い音圧が出力されていればよい。また、本実施形態のように、500Hz付近から15kHz付近の周波数帯域において、行為音の波形RSに沿うような(行為音の波形に合わせた)波形NSとなる音を出力することができればよい。ここで言う、「行為音の波形に合わせた波形となる音を出力する(行為音の音圧に合わせた音を出力する)」とは、行為音よりも大きい音圧、または、行為音よりも-10dB以内の音圧で出力することを言う。
また、本実施形態においては、500Hz~5kHzの周波数帯域においては、ほぼ全帯域で行為音よりも高い音圧の音、もしくは行為音の音圧に合わせた音を出力するように構成した。
【0037】
なお、上述した実施の形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0038】
上記に示す実施形態では、フロントパネル4は、アッパーケース2の左右方向にわたって配置されているが、本発明はこれに限られない。
【0039】
また、上記に示す実施形態では、擬音装置100から出力される音の波形NSを示したが、波形は上記のものに限定される訳ではない。各周波数帯域において、同様の効果をもたらせられる音であれば波形は多少ずれてもよい。
【符号の説明】
【0040】
100…擬音装置