(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220926BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20220926BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16H57/04 J
F16H57/04 Q
(21)【出願番号】P 2018012540
(22)【出願日】2018-01-29
【審査請求日】2020-08-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117499
【氏名又は名称】小島 誠
(72)【発明者】
【氏名】石田 悠朗
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正幸
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】保田 亨介
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-44246(JP,A)
【文献】特開昭60-37442(JP,A)
【文献】特開昭60-18640(JP,A)
【文献】特開平9-250609(JP,A)
【文献】特開2017-96343(JP,A)
【文献】特開2008-89038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、前記第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、前記第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、前記第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される主軸受と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記主軸受が配置される配置空間と、前記第1内歯歯車および前記第2内歯歯車と前記外歯歯車との噛合い部が存在する噛合い空間と、に異なる潤滑剤が封入されており、
前記配置空間と前記噛合い空間とを連通する連通路の途中に、潤滑剤の移動を抑制する移動抑制部が設けられ
、
前記第1内歯部材は、前記第2内歯部材の径方向外側まで延び、
前記連通路は、前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との径方向隙間を含み、
前記径方向隙間は、前記主軸受側に位置する第1径方向隙間部分と、当該第1径方向隙間部分より前記第1内歯歯車側に位置し前記第1径方向隙間部分より径方向寸法の小さい前記移動抑制部としての第2径方向隙間部分と、を含み、
前記第2径方向隙間部分の径方向隙間は0.2mm~1.0mmであることを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、前記第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、前記第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、前記第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との間に配置される主軸受と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記主軸受が配置される配置空間と、前記第1内歯歯車および前記第2内歯歯車と前記外歯歯車との噛合い部が存在する噛合い空間と、に異なる潤滑剤が封入されており、
前記配置空間と前記噛合い空間とを連通する連通路の途中に、潤滑剤の移動を抑制する移動抑制部が設けられ、
前記第1内歯部材は、前記第2内歯部材の径方向外側まで延び、
前記連通路は、前記第1内歯部材と前記第2内歯部材との径方向隙間を含み、
前記径方向隙間は、前記主軸受側に位置する第1径方向隙間部分と、当該第1径方向隙間部分より前記第1内歯歯車側に位置し前記第1径方向隙間部分より径方向寸法の小さい前記移動抑制部としての第2径方向隙間部分と、を含み、
前記
第1内歯部材は、内周側に前記第1内歯歯車が設けられた本体部と、前記第2内歯部材の径方向外側まで延び、前記第2内歯部材との間に前記主軸受が配置された延長部と、を有し、
前記本体部と前記延長部とは別体であり、前記本体部は前記延長部の内周とインロー嵌合するインロー部を有し、
前記第2径方向隙間部分は、前記インロー部と前記第2内歯部材との径方向隙間であることを特徴とす
る撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ軽量で高減速比が得られる歯車装置として、撓み噛合い式歯車装置が知られている。従来では、起振体と、起振体により撓み変形される外歯歯車と、外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、第1内歯歯車と軸方向に並べて配置され、外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、第1内歯部材と第2内歯部材との間に配置される主軸受と、を備える撓み噛合い式歯車装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
主軸受と歯車の噛合い部とは運動の状態(荷重、速度等)が異なるため、それぞれに適した潤滑剤も異なる。撓み噛合い式歯車装置の長寿命化のために、主軸受が配置される配置空間と噛合い部が存在する噛合い空間にそれぞれに適した潤滑剤を封入することが考えられるが、配置空間と噛合い空間とは空間的に繋がっているため、従来の撓み噛合い式歯車装置では潤滑剤が相互に自由に行き来できる。このため、潤滑剤が混じってしまい、想定した潤滑剤の効果を発揮できず、撓み噛合い式歯車装置の長寿命化を図れない。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、撓み噛合い式歯車装置の長寿命化を図る技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の撓み噛合い式歯車装置は、起振体と、起振体により撓み変形される外歯歯車と、外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、第1内歯歯車と軸方向に並んで配置され、外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、第1内歯歯車と一体的に回転する第1内歯部材と、第2内歯歯車と一体的に回転する第2内歯部材と、第1内歯部材と第2内歯部材との間に配置される主軸受と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、主軸受が配置される配置空間と、第1内歯歯車および第2内歯歯車の噛合い部が存在する噛合い空間と、に異なる潤滑剤が封入されており、配置空間と噛合い空間とを連通する連通路の途中に、潤滑剤の移動を抑制する移動抑制部が設けられる。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、撓み噛合い式歯車装置の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【
図2】
図1の噛合い部および主軸受16とそれらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
【
図3】変形例に係る連通路とその周辺を示す拡大断面図である。
【
図4】変形例に係る連通路とその周辺を示す拡大断面図である。
【
図5】変形例に係る連通路とその周辺を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、工程には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
図1は、実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100を示す断面図である。撓み噛合い式歯車装置100は、入力された回転を減速して出力する。撓み噛合い式歯車装置100は、いわゆるフラット型の撓み噛合い式歯車装置であり、波動発生器2と、波動発生器2により撓み変形される外歯歯車4と、外歯歯車4と噛み合う第1内歯歯車6と、第1内歯歯車6と一体的に回転する第1内歯部材7と、第1内歯歯車6と軸方向に並べて(隣接して)配置され、外歯歯車4と噛み合う第2内歯歯車8と、第2内歯歯車8と一体的に回転する第2内歯部材9と、第1規制部材12と、第2規制部材14と、第1内歯部材7と第2内歯部材9との間に配置される主軸受16と、第1軸受ハウジング18と、第2軸受ハウジング20と、を備える。噛合い式歯車装置100には、潤滑剤(例えばグリース)が封入されており、外歯歯車4と第1内歯歯車6および第2内歯歯車8との噛合い部(以下、単に「噛合い部」と呼ぶ)や各軸受等を潤滑する。
【0012】
波動発生器2は、起振体軸22と、起振体軸22と外歯歯車4(の第1外歯部4a)との間に配置される第1起振体軸受21aと、起振体軸22と外歯歯車4(の第2外歯部4b)との間に配置される第2起振体軸受21bと、を有する。第1起振体軸受21aは、複数の第1転動体24aと、複数の第1転動体24aを保持する第1保持器26aと、外歯歯車4に内嵌される第1外輪部材28aと、を含む。第2起振体軸受21bは、複数の第2転動体24bと、複数の第2転動体24bを保持する第2保持器26bと、外歯歯車4に内嵌される第2外輪部材28bとを含む。起振体軸22は、入力軸であり、例えばモータ等の回転駆動源に接続され、回転軸Rを中心に回転する。起振体軸22には、回転軸Rに直交する断面が略楕円形状である起振体22aが一体に形成されている。
【0013】
複数の第1転動体24aはそれぞれ、略円柱形状を有し、軸方向が回転軸R方向と略平行な方向を向いた状態で周方向に間隔を空けて設けられる。第1転動体24aは、第1保持器26aにより転動自在に保持され、起振体22aの外周面22bを転走する。つまり、第1起振体軸受21aの内輪は、起振体22aの外周面22bと一体的に構成されているが、これに限られず、起振体22aとは別体の専用の内輪を備えてもよい。第2転動体24bは、第1転動体24aと同様に構成される。複数の第2転動体24bは、第1保持器26aと軸方向に並ぶように配置された第2保持器26bにより転動自在に保持され、起振体22aの外周面22bを転走する。つまり、第2起振体軸受21bの内輪は、起振体22aの外周面22bと一体的に構成されているが、これに限られず、起振体22aとは別体の専用の内輪を備えてもよい。以降では、第1転動体24aと第2転動体24bとをまとめて「転動体24」とも呼ぶ。また、第1保持器26aと第2保持器26bとをまとめて「保持器26」とも呼ぶ
【0014】
第1外輪部材28aは、複数の第1転動体24aを環囲する。第1外輪部材28aは、可撓性を有し、複数の第1転動体24aを介して起振体22aにより楕円状に撓められる。第1外輪部材28aは、起振体22a(すなわち起振体軸22)が回転すると、起振体22aの形状に合わせて連続的に撓み変形する。第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aと同様に構成される。第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aとは別体として形成される。なお、第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aと一体に形成されてもよい。以降では、第1外輪部材28aと第2外輪部材28bとをまとめて「外輪部材28」とも呼ぶ。
【0015】
外歯歯車4は、可撓性を有する環状の部材であり、その内側には起振体22a、転動体24および外輪部材28が嵌まる。外歯歯車4は、起振体22a、転動体24および外輪部材28が嵌まることによって楕円状に撓められる。外歯歯車4は、起振体22aが回転すると、起振体22aの形状に合わせて連続的に撓み変形する。外歯歯車4は、第1外輪部材28aの外側に位置する第1外歯部4aと、第2外輪部材28bの外側に位置する第2外歯部4bと、基材4cと、を含む。第1外歯部4aと第2外歯部4bとは単一の基材である基材4cに形成されており、同歯数である。
【0016】
第1内歯歯車6は、剛性を有する環状の部材であり、その内周に第1内歯部6aが形成されている。第1内歯部6aは、楕円状に撓められた外歯歯車4の第1外歯部4aを環囲し、起振体22aの長軸近傍の所定領域(2領域)で第1外歯部4aと噛み合う。第1内歯部6aは、第1外歯部4aよりも多くの歯を有する。
【0017】
第2内歯歯車8は、第1内歯歯車6と軸方向に並べて(隣接して)配置される。第2内歯歯車8は、剛性を有する円筒状の部材であり、その内周に第2内歯部8aが形成されている。第2内歯部8aは、楕円状に撓められた外歯歯車4の第2外歯部4bを環囲し、起振体22aの長軸方向の所定領域(2領域)で第2外歯部4bと噛み合う。第2内歯部8aは、第2外歯部4bと同数の歯を有する。したがって、第2内歯歯車8は、第2外歯部4bひいては外歯歯車4の自転と同期して回転する。
【0018】
第1規制部材12は、平たいリング状の部材であり、外歯歯車4、第1外輪部材28aおよび第1保持器26aと第1軸受ハウジング18との間に配置される。第2規制部材14は、平たいリング状の部材であり、外歯歯車4、第2外輪部材28bおよび第2保持器26bと第2軸受ハウジング20との間に配置される。第1規制部材12および第2規制部材14は、外歯歯車4、外輪部材28および保持器26の軸方向の移動を規制する。
【0019】
第1内歯部材7は、本体部52と、延長部54と、を含む。本体部52は、環状の部材であり、その内周側に第1内歯歯車6が設けられている。本実施の形態では、第1内歯歯車6と本体部52とは、単一の部材により一体的に形成される。したがって、本体部52ひいては第1内歯部材7は、第1内歯歯車6と一体的に回転する。なお、第1内歯歯車6と本体部52とは、別体として形成された上で、結合されてもよい。
【0020】
延長部54は、略円筒状の部材である。延長部54には、本体部52がインロー嵌合されボルト(不図示)により一体化される。延長部54は、本体部52から第2内歯歯車8の径方向外側まで延び、第2内歯歯車8および第2内歯部材9を環囲する。なお、本体部52と延長部54は、単一の部材により一体的に形成されてもよい。
【0021】
第2内歯部材9は、第1内歯部材7の本体部52と軸方向に隣接して配置される。第2内歯部材9は、筒状の部材であり、その内周側に第2内歯歯車8が設けられている。本実施の形態では、第2内歯歯車8と第2内歯部材9とは、単一の部材により一体的に形成される。したがって、第2内歯部材9は、第2内歯歯車8と一体的に回転する。なお、第2内歯歯車8と第2内歯部材9とは、別体として形成された上で、結合されてもよい。
【0022】
主軸受16は、その軸方向が回転軸Rと一致するように、延長部54と第2内歯部材9との間に配置される。主軸受16は、本実施の形態ではクロスローラ軸受であり、第2内歯部材9の外周に第2内歯部材9と一体的に形成された内輪側転走面56と、延長部54の内周に延長部54と一体的に形成された外輪側転走面58と、内輪側転走面56と外輪側転走面58との間に周方向に間隔を空けて設けられる複数のローラ(転動体)46と、を含む。複数のローラ46は、内輪側転走面56および外輪側転走面58を転走する。延長部54ひいては第1内歯部材7は、主軸受16を介して、第2内歯部材9を相対回転自在に支持する。なお、主軸受16の軸受の種類は特に限定されるものではなく、例えば4点接触ボール軸受であってもよい。
【0023】
第1軸受ハウジング18は、環状の部材であり、起振体軸22を環囲する。同様に、第2軸受ハウジング20は、環状の部材であり、起振体軸22を環囲する。第1軸受ハウジング18と第2軸受ハウジング20とは、外歯歯車4、転動体24、保持器26、外輪部材28、第1規制部材12および第2規制部材14を軸方向に挟むよう配置される。第1軸受ハウジング18は、第1内歯部材7の本体部52に対してインロー嵌合されボルト固定される。第2軸受ハウジング20は、第2内歯部材9に対してインロー嵌合されボルト固定される。第1軸受ハウジング18の内周には軸受30が組み込まれている。第2軸受ハウジング20の内周には軸受32が組み込まれている。第1軸受ハウジング18および第2軸受ハウジング20は、軸受30および軸受32を介して、起振体軸22を回転自在に支持する。
【0024】
起振体軸22と第1軸受ハウジング18の間にはオイルシール40が配置され、第1軸受ハウジング18と第1内歯部材7の本体部52との間にはOリング34が配置され、第1内歯部材7の本体部52と延長部54との間にはOリング36が配置され、第1内歯部材7の延長部54と第2内歯部材9との間にはオイルシール42が配置され、第2内歯部材9と第2軸受ハウジング20との間にはOリング38が配置され、第2軸受ハウジング20と起振体軸22との間にはオイルシール44が配置される。これにより、撓み噛合い式歯車装置100内の潤滑剤が漏れるのを抑止できる。
【0025】
図2は、主軸受16と、噛合い部と、それらの周辺を拡大して示す拡大断面図である。
本実施の形態では、主軸受16が配置される配置空間60と、噛合い部が存在する噛合い空間62には、それぞれに適した潤滑剤、すなわち互いに異なる潤滑剤が封入されている。
【0026】
配置空間60と噛合い空間62とは、連通路70により連通されている。連通路70は、第1内歯部材7と第2内歯部材9との隙間により構成され、第1内歯部材7と第2内歯部材9との径方向隙間(特に軸方向で主軸受16よりも第1内歯部材7側の隙間)72と、第1内歯部材7と第2内歯部材9との軸方向隙間74と、を含む。
【0027】
上述したように、延長部54には本体部52がインロー嵌合される。具体的には、本体部52が、軸方向で第2内歯部材9側に突出する環状の突出部であるインロー部52aを有し、このインロー部52aが、延長部54の内周にインロー嵌合する。インロー部52aは特に、第2内歯部材9の径方向外側まで延びている。
【0028】
径方向隙間72は、第1径方向隙間部分72aと、第2径方向隙間部分72bと、を含む。第1径方向隙間部分72aは、延長部54と第2内歯部材9との径方向隙間、すなわち軸方向において主軸受16側に位置する径方向隙間部分である。第2径方向隙間部分72bは、インロー部52aと第2内歯部材9との径方向隙間、すなわち軸方向において第1内歯歯車6側に位置する径方向隙間部分である。
【0029】
インロー部52aの内周面52bと第2内歯部材9の外周面9aとの距離(径方向寸法)は、延長部54の内周面54aと第2内歯部材9の外周面9aとの距離(径方向寸法)よりも短い。また、インロー部52aの内周面52bと第2内歯部材9の外周面9aとの距離は、軸方向において対向する本体部52の端面52cと第2内歯部材9の端面9bとの距離よりも短い。つまり、インロー部52aの内周面52bは、第1内歯部材7の他の部分の表面よりも第2内歯部材9の表面と近接している。したがって、第2径方向隙間部分72bは、第1径方向隙間部分72aや軸方向隙間74よりも小さくなっている。このため、潤滑剤が第2径方向隙間部分72bを通過するのは困難であり、配置空間60と噛合い空間62との間での潤滑剤の行き来は抑制される。つまり、第2径方向隙間部分72bは、潤滑剤の移動を抑制する移動抑制部として機能する。なお、第2径方向隙間部分72bの外周を定めるインロー部52aの内周面52bであって、第1内歯部材7の他の部分の表面よりも第2内歯部材9の表面に近接するインロー部52aの内周面52bを移動抑制部と捉えてもよい。
【0030】
以上のように構成された撓み噛合い式歯車装置100の動作を説明する。ここでは、第1外歯部4aの歯数が100、第2外歯部4bの歯数が100、第1内歯部6aの歯数が102、第2内歯部8aの歯数が100の場合を例に説明する。また、第2内歯歯車8および第2軸受ハウジング20が被駆動部材に連結される場合を例に説明する。
【0031】
第1外歯部4aが楕円形状の長軸方向の2箇所で第1内歯部6aと噛み合っている状態で、起振体軸22が回転すると、これに伴って第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い位置も周方向に移動する。第1外歯部4aと第1内歯部6aとは歯数が異なるため、この際、第1内歯部6aに対して第1外歯部4aが相対的に回転する。第1内歯歯車6および第1軸受ハウジング18が固定状態にあるため、第1外歯部4aは、歯数差に相当する分だけ自転することになる。つまり、起振体軸22の回転が大幅に減速されて第1外歯部4aに出力される。その減速比は以下のようになる。
減速比=(第1外歯部4aの歯数-第1内歯部6aの歯数)/第1外歯部4aの歯数
=(100-102)/100
=-1/50
【0032】
第2外歯部4bは、第1外歯部4aと一体的に形成されているため、第1外歯部4aと一体に回転する。第2外歯部4bと第2内歯部8aは歯数が同一であるため、相対回転は発生せず、第2外歯部4bと第2内歯部8aとは一体に回転する。このため、第1外歯部4aの自転と同一の回転が第2内歯部8aに出力される。結果として、第2内歯歯車8からは起振体軸22の回転を-1/50に減速した出力を取り出すことができる。
【0033】
以上説明した実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置100によると、連通路70の途中に設けられた移動抑制部により、配置空間60と噛合い空間62との間での潤滑剤の行き来が抑制される。つまり、配置空間60と噛合い空間62に封入された互いに異なる潤滑剤が混じるのが抑制される。これにより、主軸受16と噛合い部は、それぞれに適した潤滑剤により適切な潤滑が施される。その結果、撓み噛合い式歯車装置100の長寿命化を図れる。
【0034】
以上、実施の形態に係る撓み噛合い式歯車装置について説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0035】
撓み噛合い式歯車装置100は、実施の形態の移動抑制部に加えて、または実施の形態の移動抑制部に代えて、別の移動抑制部を有していてもよい。例えば、第1内歯部材7が第2内歯部材9に向かって突出する少なくとも1つの突出部を有し、この少なくとも1つの突出部と第2内歯部材9との隙間を、第1内歯部材7と第2内歯部材9との他の部分の隙間よりも小さくしてもよい。この場合、第1内歯部材7の少なくとも1つの突出部と第2内歯部材9との隙間が移動抑制部として機能する。なお、第2内歯部材9と対向する突出部の面であって、第1内歯部材7の他の部分よりも第2内歯部材9に近接する突出部の面を移動抑制部と捉えてもよい。
【0036】
また例えば、第2内歯部材9が第1内歯部材7に向かって突出する少なくとも1つの突出部を有し、この少なくとも1つの突出部と第1内歯部材7との隙間を、第2内歯部材9と第1内歯部材7との他の部分の隙間よりも小さくしてもよい。この場合、第2内歯部材9の少なくとも1つの突出部と第1内歯部材7との隙間が移動抑制部として機能する。なお、第1内歯部材7と対向する突出部の面であって、第2内歯部材9の他の部分よりも第1内歯部材7に近接する突出部の面を移動抑制部と捉えてもよい。もちろん、第1内歯部材7および第2内歯部材9の両方が、少なくとも1つの突出部を有してもよい。なお突出部は、周方向に間欠的に設けられてもよく、周方向に連続的にすなわちリング状に設けられてもよい。以下、具体的な例を説明する。
【0037】
図3~5はそれぞれ、変形例に係る連通路70とその周辺を示す拡大断面図である。
図3の変形例では、第1内歯部材7の本体部52が突出部52dを有している。突出部52dは、本体部52の端面52cから第2内歯部材9の端面9bに向かって軸方向に突出している。突出部52dの先端面52eは、第1内歯部材7の他の部分の表面よりも第2内歯部材9の表面と近接している。したがって、軸方向隙間74のうち、突出部52dと第2内歯部材9との隙間部分74aは、本体部52の他の部分と第2内歯部材9との隙間部分74bよりも小さくなっている。本変形例では、この軸方向隙間部分74aが移動抑制部として機能する。なお、第2内歯部材9の表面に近接する突出部52dの先端面52eを移動抑制部と捉えてもよい。本変形例によれば、実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0038】
図4(a)、(b)の変形例では、第1内歯部材7の本体部52が、その端面52cから第2内歯部材9の端面9bに向かって軸方向に突出する突出部52dを有している。また、第2内歯部材9の端面9bには、軸方向において反本体部側(
図4(a)、(b)では左側)に凹んだ環状の凹部9cが形成されている。突出部52dは凹部9cに進入している。
図4(a)は突出部52dと凹部9cとが1つの場合を示し、
図4(b)は突出部52dと凹部9cとが複数(3つ)の場合を示している。突出部52dの先端面52e、外周面52fおよび内周面52gは、凹部9cの底面9dや周面9e、すなわち第2内歯部材9の表面と近接している。突出部52dの先端面52e、外周面52fおよび内周面52gは特に、第1内歯部材7の他の部分の表面よりも第2内歯部材9の表面と近接している。したがって、軸方向隙間74のうち、突出部52dと第2内歯部材9(の凹部9c)との隙間部分74aは、本体部52の他の部分と第2内歯部材9との隙間部分74bよりも小さくなっている。本変形例では、この軸方向隙間部分74aが移動抑制部として機能する。なお、第2内歯部材9の表面に近接する突出部52dの先端面52e、外周面52fおよび内周面52gを移動抑制部と捉えてもよい。本変形例によれば、実施の形態と同様の効果を奏することができる。また本変形例では、突出部52dが凹部9cに進入していることにより、連通路70が屈曲し、距離も長くなっている。このため、連通路70が潤滑剤に対するラビリンスとして機能し、潤滑剤の行き来がさらに抑制される。
【0039】
なお、第1内歯部材7の延長部54が径方向内側に突出する突出部を有し、第2内歯部材9の外周面9aに突出部に対応する凹部が形成されてもよい。また、第2内歯部材9が軸方向または径方向外側に突出する突出部を有し、本体部52または延長部54に突出部に対応する凹部が形成されてもよい。
【0040】
図5の変形例では、第2内歯部材9が、第1内歯部材7に向かって突出する突出部9hを有している。本変形例では、突出部9hは軸方向に対して傾斜した方向に突出している。突出部9hは特に、先端ほど回転軸R(
図5では不図示)および主軸受16から離れるように傾斜している。第1内歯部材7の本体部52には、突出部9hに対応する形状の凹部52hが形成されている。突出部9hの先端面9iは、第2内歯部材9の他の部分の表面よりも第1内歯部材7の表面と近接している。したがって、突出部9hの先端面9iと第1内歯部材7との隙間部分74cは、第1内歯部材7と第2内歯部材9との他の部分の隙間よりも小さくなっている。本変形例では、この隙間部分74cが移動抑制部として機能する。なお、第1内歯部材7の表面に近接する突出部9hの先端面9iを移動抑制部と捉えてもよい。本変形例によれば、実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0041】
なお、
図3~5では、突出部の断面形状や突出部が侵入する凹部の断面形状を矩形で示したが、これには限定されない。
【0042】
また、実施の形態および上述の変形例では特に言及しなかったが、撓み噛合い式歯車装置100は、好ましくは、径方向隙間を移動抑制部として機能させる場合は当該径方向隙間が0.2mm~1.0mmとなるよう構成され、軸方向隙間を移動抑制部として機能させる場合は当該軸方向隙間が3.0mm~5.0mmとなるよう構成される。これより大きい場合は、移動を抑制する効果が十分に得られず、これより小さい場合は加工誤差や熱変形等によって第1内歯部材7と第2内歯部材9とが干渉するおそれがある。
【符号の説明】
【0043】
4 外歯歯車、 6 第1内歯歯車、 7 第1内歯部材7、 8 第2内歯歯車、 9 第2内歯部材、 16 主軸受、 22a 起振体、 60 配置空間、 62 噛合い空間、 70 連通路、 100 撓み噛合い式歯車装置。