(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】建物の延焼抑制構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20220926BHJP
E04B 2/56 20060101ALI20220926BHJP
E04F 13/08 20060101ALI20220926BHJP
A62C 2/04 20060101ALI20220926BHJP
F16B 37/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
E04B1/94 L
E04B2/56 645F
E04F13/08 101A
A62C2/04 A
F16B37/00 C
(21)【出願番号】P 2018030969
(22)【出願日】2018-02-23
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】森田 武
(72)【発明者】
【氏名】広田 正之
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-095492(JP,A)
【文献】特表2008-537038(JP,A)
【文献】特開2004-346590(JP,A)
【文献】特開2006-348582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/94
E04B 2/56
E04B 2/74
E04F 13/00-13/30
F16B 37/00
A62C 2/00,2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装材として可燃性外装材が用いられた建物の火災時の延焼を抑制するための構造であって、
火災時に予め設定された所定の高温に曝されるとともに固定支持力を失う固定具を用いて前記可燃性外装材が建物に取り付け支持されており、
前記固定具は、
躯体に埋め込まれたアンカーボルトと、
前記アンカーボルトに固定された切削鉄筋と、
前記可燃性外装材に埋め込まれた
フラットプレートと、を備え、
前記切削鉄筋と前記
フラットプレートとは締結具を用いて連結されており、
前記可燃性外装材は、前記アンカーボルトを通すためのスリットが形成され、
前記フラットプレートは前記スリットを横断して設けられており、
前記切削鉄筋が前記スリット内に配置され、
前記
フラットプレート
における前記スリット内に露出した部分が、火災時の高温で強度を失うことを特徴とする建物の延焼抑制構造。
【請求項2】
請求項1記載の建物の延焼抑制構造において、
前記可燃性外装材が、裏面側に断熱層を一体に積層して形成、あるいは裏面側を難燃/不燃処理して形成されていることを特徴とする建物の延焼抑制構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の外装材として可燃性外装材が用いられている場合であっても、火災時に延焼を抑止するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木質材料などの可燃性材料を取り付けて、建物の外壁の垂直面、バルコニーや庇の上裏などを構成しているケースが多々ある(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-348582号公報
【文献】特開2006-348558号公報
【文献】特開2009-2021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように建物の外壁の垂直面、バルコニーや庇の上裏などの外装材として可燃性外装材が用いられている場合には、この可燃性外装材が火災が発生した部屋の窓などの開口部から噴出した火炎によって燃焼し、噴出火炎の拡大、火災の延焼を招く要因になるケースがある。
【0005】
そして、噴出火炎の拡大、火災の延焼による放射熱を上階の非火災室が受けると、この非火災室のバルコニーや室内にある可燃物が着火し、建物の上階に次々と火災が延焼して建物全体に火災が拡大してしまう。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、外装材として可燃性外装材が用いられている場合であっても、これに起因して火災時に延焼が生じることを抑止できる建物の延焼抑制構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0008】
本発明に係る建物の延焼抑制構造は、外装材として可燃性外装材が用いられた建物の火災時の延焼を抑制するための構造であって、火災時に予め設定された所定の高温に曝されるとともに固定支持力を失う固定具を用いて前記可燃性外装材が建物に取り付け支持されており、前記固定具は、躯体に埋め込まれたアンカーボルトと、前記アンカーボルトに固定された切削鉄筋と、前記可燃性外装材に埋め込まれたフラットプレートと、を備え、前記切削鉄筋と前記フラットプレートとは締結具を用いて連結されており、前記可燃性外装材は、前記アンカーボルトを通すためのスリットが形成され、前記フラットプレートは前記スリットを横断して設けられており、前記切削鉄筋が前記スリット内に配置され、前記フラットプレートにおける前記スリット内に露出した部分が、火災時の高温で強度を失うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の建物の延焼抑制構造によれば、外装材として可燃性外装材が用いられている場合であっても、これに起因して火災時に延焼が生じることを抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る建物の延焼抑制構造を示す図であり、外壁部に適用した一例を示す図である。
【
図2】
図1のX1-X1線矢視図であり、本発明の一実施形態に係る建物の延焼抑制構造を示す
横断面図である。
【
図3】
図2のX1-X1線矢視図であり、本発明の一実施形態に係る建物の延焼抑制構造を示す
縦断面図である。
【
図4】
図2のX2-X2線矢視図であり、本発明の一実施形態に係る建物の延焼抑制構造を示す
縦断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る建物の延焼抑制構造を示す図であり、バルコニーの上裏部に適用した一例を示す図である。
【
図6】
図5に示した本発明の一実施形態に係る建物の延焼抑制構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1から
図6を参照し、本発明の一実施形態に係る建物の延焼抑制構造について説明する。
【0012】
はじめに、本実施形態の建物の延焼抑制構造Aは、建物の外壁の垂直面(
図1~
図4)、バルコニーの上裏(
図5、
図6)などの外装に可燃性材料(可燃性外装材1)を使用した建物において、火災時における上階延焼を抑止するための構造に関するものである。
【0013】
本実施形態の建物の延焼抑制構造Aは、建物の外壁等の躯体(コンクリートなどの不燃性の材料が好ましい)2に可燃性外装材1を取り付けるための固定具3が、火災時に予め設定した高温に曝されるとともに強度を失う、あるいは焼失するように構成されている。
【0014】
ここで、
図1、
図5に示すように、建物においては、下階の室(以下、火災室という)で火災が発生すると、火災室の開口が破損し噴出火炎が発生するケースが多い。そして、この噴出火炎によって、火災室より上の外壁面に取り付けられた可燃性外装材1やバルコニーの上裏に取り付けられた可燃性外装材1が着火して燃焼する。また、この可燃性外装材1の燃焼と火災室からの噴出火炎の相互作用によって、火炎のサイズが大きくなる。
【0015】
この拡大した火炎からの熱放射によって上階の非火災室のバルコニーにある可燃物や非火災室内のカーテンや家具等が着火してしまい、非火災室が新たな火災室となってさらに上階に火災が拡大するおそれがある。
【0016】
これに対し、本実施形態の建物の延焼抑制構造Aにおいては、
図1から
図4(外壁部)、
図5及び
図6(上裏部)に示すように、外壁部や上裏部に取り付けられた可燃性外装材1が火災加熱のような高温に曝されると、この可燃性外装材1を固定している固定具3が早期に焼失するなどしてその強度を失い、自動的に可燃性外装材1が落下する。
【0017】
これにより、本実施形態の建物の延焼抑制構造Aでは、火災初期に可燃性外装材1が自動的に落下して排除され、上階への火災の延焼を抑止することが可能になる。
【0018】
すなわち、可燃性外装材1が火災室上部の外壁部や上裏部からなくなれば、上階の非火災室に放射熱を与える火炎のサイズの拡大を防ぐことになり、上階延焼を抑止あるいは防止することができる。
【0019】
ここで、本実施形態の建物の延焼抑制構造Aを外壁部に適用する場合においては、例えば、
図1から
図4に示すように、コンクリート造などの躯体2にアンカーボルト3aを打込み、そのアンカーボルト3aに固定された切削鉄筋3bとフラットプレート3cを使用して可燃性外装材1を固定する。
【0020】
下部のフラットプレート3cは、プラスチック製樹脂や木質材料などを用いて形成され、火災初期に焼失して固定具3としての機能を果たさなくなるように構成されている。
【0021】
また、
図3及び
図4に示すように、可燃性外装材1は上下に分節化されていてもよい。この場合には、下方の可燃性外装材1から順次落下し、上階延焼の抑制に寄与する。
【0022】
なお、下部のフラットプレート3cは焼失せずとも、高温で強度を失う材料であってもよい。また、アンカーボルト3aを通すための可燃性外装材1のスリットの幅よりもナット3dの径が大きくなる場合には、ナット3dの材質も下部のフラットプレート3cに用いるようなものにする必要がある。
【0023】
一方、
図5及び
図6に示す上裏部に適用するケースのように、コンクリート造などの躯体2に留め付けピン(固定具3)を打込んで可燃性外装材1を固定し、留め付けピン3の頭部をプラスチック製樹脂や木質材料などのように火災初期に焼失して固定具としての機能を果たさなくなるような材料で形成してもよい。なお、留め付けピンの頭部の材質は、焼失せずとも高温で強度を失うものであってもよい。また、上裏部においても、留め付けピンではなく、アンカーボルトを躯体2に打込み、そのアンカーボルトに可燃性外装材1の重量を伝達でき、火災時に機能を失うナット(材質は留め付けピンの頭部と同様なもの)を用いてもよい。
【0024】
上記のように可燃性外装材1の固定具3を構成することによって、火災が発生した外壁部や上裏部などに取り付けた可燃性外装材1が火災加熱のような高温に曝されるとともに、固定具3が早期に焼失するなどしてその強度を失い、自動的に可燃性外装材1を落下させることができる。
【0025】
これにより、火災初期に可燃性外装材1が自動的に落下して排除され、上階への火災の延焼を抑制することが可能になる。
【0026】
ここで、可燃性外装材1が落下すると、燃焼していた表面だけでなく躯体に取り付いていた時には燃えていなかった裏面も燃え出し、火勢が大きくなってしまうことも考えられなくはない。
【0027】
このため、
図2、
図4、
図6に示すように、可燃性外装材1の裏面側に無機質材料の断熱材4(例えば、ロックウール、グラスウール、AES(アルカリアースシリケート)ウールなどの生体溶解性繊維など)や、無機質材料の断熱材4をブランケット状に成形したものや、石膏ボード、けい酸カルシウム板などの断熱性成形板(断熱材4)を貼り付けるなどして一体に積層して設けるようにしてもよい。
【0028】
あるいは、木質材料などの可燃性外装材1の裏面側にりん酸アミノ樹脂系などの難燃処理剤(不燃性処理剤)を塗布/含浸させて可燃性外装材1の裏面側に難燃/不燃処理を施してもよい。なお、可燃性外装材1の表面に難燃処理剤(不燃性処理剤)を塗布/含浸させても勿論構わない。
【0029】
そして、このように可燃性外装材1の裏面側に断熱層4を一体に設けたり、可燃性外装材1の裏面側を難燃/不燃処理しておくことによって、可燃性外装材1が落下した時の燃焼面積を確実に減らし(裏面側が燃え出すことがなく)、落下した可燃性外装材1の燃焼、これに伴う延焼を確実に抑止/防止することが可能になる。よって、さらに確実に上階への火災の延焼を抑制することが可能になる。
【0030】
以上、本発明に係る建物の延焼抑制構造の一実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 可燃性外装材
2 躯体
3 固定具
3a アンカーボルト
3b 切削鉄筋
3c フラットプレート
3d ナット
4 断熱材(断熱層)
A 建物の延焼抑制構造