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特許7145646建物の被災度判定方法及び建物の被災度判定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】建物の被災度判定方法及び建物の被災度判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20220926BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018097162
(22)【出願日】2018-05-21
(65)【公開番号】P2019203713
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濁川 直寛
(72)【発明者】
【氏名】浅香 美治
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-109234(JP,A)
【文献】特開2015-206724(JP,A)
【文献】特開2013-160534(JP,A)
【文献】特開2018-045635(JP,A)
【文献】特開2008-281435(JP,A)
【文献】特開2014-134436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045,99/00
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の各階の柱脚に加速度センサーを配置し、水平方向の加速度の大きさを鉛直下向きの3軸の合成加速度の大きさで除算した値に対する逆正弦関数の角度を、地震発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角として直接モニタリングして前記建物の被災度を判定することを特徴とする建物の被災度判定方法。
【請求項2】
前記加速度センサーは、MEMSデバイスであることを特徴とする請求項1に記載の建物の被災度判定方法。
【請求項3】
建物の各階の柱脚に加速度センサーを配置し、水平方向の加速度の大きさを鉛直下向きの3軸の合成加速度の大きさで除算した値に対する逆正弦関数の角度を、地震発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角として直接モニタリングして前記建物の被災度を判定することを特徴とする建物の被災度判定システム。
【請求項4】
前記加速度センサーは、MEMSデバイスであることを特徴とする請求項3に記載の建物の被災度判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生後に、簡易かつ迅速に建物の被災度を精度高く判定することができる建物の被災度判定方法及び建物の被災度判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の健全性を地震発生後に判定する技術には、構造ヘルスモニタリングが実用化されている。この構造ヘルスモニタリングでは、建物の所定の観測階に速度計等を配置し、観測された応答波形から振動解析モデルによって変位を算定し、その最大値分布から層間変位角を求め、構造性能を診断する手法が主流となっている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、地震観測データとARXモデルを用い、観測されていない階の応答を近似的に推定する方法が開示されている。この方法では、まず、建物の設計モデル解析モデルのモード形と同定された観測階(センサ設置階)の刺激関数から各階の刺激関数を振動モードごとに決定する。次に、刺激関数と同定された極から、各階の変位応答を出力とするARXモデルの留数を求め、さらに、各階変位を出力とするARXモデルの外生入力パラメータを求めるようにしている。これにより、層間変位や層間変形角を求めることができ、地震による被災状況を把握し、建物の耐震性能評価を行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】池田芳樹、「ARXモデルに基づく減衰配置と地震観測されていない階の応答の近似的推定」、日本地震工学会大会梗概集、p.166-167、2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、振動解析モデルを用いた従来の方法では、用いられる振動解析モデルによって診断結果に差異が生じるという問題があった。また、振動解析モデルを用いた従来の方法では、処理が複雑であり、診断結果を得るまでに時間がかかるという問題もあった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、地震発生後に、簡易かつ迅速に建物の被災度を精度高く判定することができる建物の被災度判定方法及び建物の被災度判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる建物の被災度判定方法は、建物の各階の柱脚に加速度センサーを配置し、地震発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角を直接モニタリングして前記建物の被災度を判定することを特徴とする。
【0008】
また、本発明にかかる建物の被災度判定方法は、上記の発明において、前記加速度センサーは、MEMSデバイスであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる建物の被災度判定システムは、建物の各階の柱脚に加速度センサーを配置し、地震発生前後に対する鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角を直接モニタリングして前記建物の被災度を判定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる建物の被災度判定システムは、上記の発明において、前記加速度センサーは、MEMSデバイスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、層間変形角を直接モニタリングしているので、地震発生後に、簡易かつ迅速に建物の被災度を精度高く判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施の形態である建物の被災度判定システムの全体構成を示す図である。
図2図2は、傾斜計の構成を示す機能ブロック図である。
図3図3は、被災度判定部による被災度判定処理手順を示すフローチャートである。
図4図4は、MEMS型加速度センサーを用いた層間変形角の算出を説明する説明図である。
図5図5は、層間変形角と損傷レベルとの関係を示す図である。
図6図6は、MEMS型加速度センサーと差動トランス式傾斜計との計測精度を比較する図である。
図7図7は、MEMS型加速度センサーによる傾斜角度に対する測定値の直線性を示す図である。
図8図8は、各傾斜計を管理装置に接続した建物の被災度判定システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態である建物の被災度判定システム1(以下、「被災度判定システム」という)の全体構成を示す図である。図1に示すように、被災度判定システム1は、建物の各階の柱脚に、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型加速度センサーを用いた傾斜計10が配置されている。傾斜計10は、地震発生前を含む常時、震度を計測する地震計の機能を有する。また、傾斜計10は、地震発生前後における鉛直方向の傾斜角変化である層間変形角θを直接計測して出力する。
【0015】
図2は、傾斜計10の構成を示す機能ブロック図である。図2に示すように、傾斜計10は、MEMS型加速度センサー11、制御部12、記憶部13、及び入出力部14を有する。MEMS型加速度センサー11は、例えば、静電容量型のセンサーである。MEMS型加速度センサー11は、例えば3軸の加速度を測定し、信号処理を行うことによって、各軸の傾きや振動などの情報を取得する。MEMS型加速度センサー11に要求される性能は、例えば、測定範囲が±2000Gal、感度0.004Gal/LSB(20bit)、ノイズレベル0.025Galである。
【0016】
記憶部13は、例えば、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ等の二次記憶媒体からなる樹億デバイスであり、計測した常時の地震強度及び地震発生時の層間変形角θを記憶する。すなわち、傾斜計10は、地震強度及び層間変形角θを記憶するデータロガーとして機能する。
【0017】
入出力部14は、例えば、タッチパネルなどの入出力デバイスであり、各種情報の入出力を行う。
【0018】
制御部12は、傾斜計10の全体の制御を行う。制御部12は、被災度判定部15を有し、MEMS型加速度センサー11の検出結果をもとに、層間変形角θを求め、この層間変形角θの値から、被災度を判定し、判定結果を記憶部13に記憶するとともに、入出力部14に出力する。
【0019】
<被災度判定処理>
つぎに、図3に示したフローチャートを参照して被災度判定部15による被災度判定処理手順について説明する。図3に示すように、被災度判定部15は、まず、所定強度以上の地震が発生したか否かを判定する(ステップS101)。所定強度以上の地震が発生していない場合(ステップS101,No)には、本判定処理を繰り返す。なお、この場合、傾斜計10は、地震強度を測定し、測定結果を記憶部13に記憶し続ける。
【0020】
一方、所定強度以上の地震が発生した場合(ステップS101,Yes)、MEMS型加速度センサー11の検出結果をもとに層間変形角θを算出する(ステップS102)。その後、被災度判定部15は、算出した層間変形角θに対応した損傷レベルを判定し(ステップS103)、この判定した損傷レベル及び層間変形角θを記憶部13及び入出力部14に出力し(ステップS104)、本処理を終了する。
【0021】
<層間変形角θの算出>
図4に示すように、柱脚の長手方向(鉛直方向)をz方向とすると、MEMS型加速度センサー11は、3軸の合成加速度が鉛直下向き(-z方向)に1Gとなる。したがって、MEMS型加速度センサー11の1軸(z軸)に対する傾斜角θyは、MEMS型加速度センサー11のx方向への加速度をαxとすると、
θy=sin-1(αx/1G)
として求めることができる。
【0022】
<損傷レベルの判定>
図5に示すように、損傷レベルは、層間変形角θがθ≦1/200のときは、損傷限界以内で、ほぼ損傷なしであることを示す「3」と判定し、層間変形角θが1/200<θ≦1/100のときは、設計限界以内で、軽微な損傷ありであることを示す「2」と判定し、層間変形角θが1/100<θのときは、重度の損傷ありであることを示す「1」と判定する。
【0023】
本実施の形態では、MEMS型加速度センサー11の検出結果をもとに層間変形角θを直接モニタリングして被災度である損傷レベルを判定するようにしているので、地震発生後に、簡易かつ迅速に建物の被災度を精度高く判定することができる。特に、従来の振動解析モデルを用いた損傷レベル判定に比して、層間変形角θを直接モニタリングしているため、迅速かつ精度高く判定することができる。
【0024】
<差動トランス式傾斜計との比較>
本実施の形態では、MEMS型加速度センサー11を用いているが、図6及び図7に示すように、従来の差動トランス式傾斜計に比して、傾斜角度に対する測定値の変化の直線性がよく、精度高く層間変形角θを得ることができる。また、MEMS型加速度センサー11は、スマートフォンなどにも用いられるように、差動トランス式傾斜計に比して、小型化を実現することができる。
【0025】
<変形例>
上述した実施の形態では、各傾斜計10はそれぞれ独立して設置されていたが、本変形例では、各傾斜計10をネットワークNなどを介して管理装置20に接続するようにしている。管理装置20は、各傾斜計10が常時計測する震度及び層間変形角θをネットワークNを介して取得する。なお、各傾斜計10の記憶部13には、各傾斜計10の配置位置を識別する識別情報が記憶され、この識別情報は、震度及び層間変形角θなどの情報に付加されて管理装置20に送信される。なお、ネットワークNは、各傾斜計10と管理装置20とを直接接続してもよいし、インターネットなどのネットワークNを介して管理装置20を遠隔配置するようにしてもよい。また、ネットワークNは、有線あるいは無線のいずれであってもよいし、混在していてもよい。
【0026】
ところで、上記の層間変形角θは、定義によっては、地震発生時における建物の水平変位を階高で割った値として定義される。この定義によれば、層間変形角θは、tanθである。したがって、層間変形角θを求めた後、tanθを層間変形角として算出するようにしてもよい。もっとも、θが小さいとき、θとtanθとは、ほぼ同じ値である。
【0027】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、本実施形態及び変形例による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態及び変形例に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、変形例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0028】
1 建物の被災度判定システム
10 傾斜計
11 MEMS型加速度センサー
12 制御部
13 記憶部
14 入出力部
15 被災度判定部
20 管理装置
N ネットワーク
θ 層間変形角
θy 傾斜角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8