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特許7145652積層セラミックコンデンサおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
H01G4/30 516
H01G4/30 201G
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018106422
(22)【出願日】2018-06-01
(65)【公開番号】P2019212717
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】生方 晴菜
(72)【発明者】
【氏名】並木 聡子
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 篤博
(72)【発明者】
【氏名】山藤 知徳
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-015376(JP,A)
【文献】特開2004-228094(JP,A)
【文献】特開2013-165180(JP,A)
【文献】特開平09-219338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成され、略直方体形状を有する積層チップと、
前記2端面に形成された1対の外部電極と、を備え、
前記1対の外部電極は、下地層上にめっき層が形成された構造を有し、
前記下地層は、Niを主成分とし、前記めっき層側の表面の少なくとも一部に、酸化モリブデンが備わることを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記めっき層は、Snめっき層を含むことを特徴とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記内部電極層は、Niを主成分とすることを特徴とする請求項1または2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記誘電体層の主成分セラミックは、ペロブスカイト構造を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
セラミック誘電体層グリーンシートと、内部電極形成用導電ペーストと、を交互に積層し、積層された複数の内部電極形成用導電ペーストを交互に対向する2端面に露出させることによって、略直方体形状のセラミック積層体を形成し、
前記2端面に接するように、NiおよびCuの少なくともいずれか一方を含む金属または合金を主成分とする金属粉末と、酸化モリブデンとを含む金属ペーストを塗布し、
前記金属ペーストの塗布後の前記セラミック積層体を焼成し、
前記金属ペーストを焼成することによって得られる下地層上にめっき層を形成する、ことを特徴とする積層セラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の内部電極とが交互に積層された積層体と、積層体の表面に引き出された内部電極と導通するように積層体の表面に形成された一対の外部電極とを備えている。外部電極は、下地層上にめっき処理が施されている。特許文献1では、めっき処理の際に発生する水素が内部電極に吸蔵され、誘電体層を還元することで絶縁抵抗が劣化することが記載されている。また、特許文献1では、貴金属を主成分とする内部電極を用いた場合に水素の吸収を抑制する金属としてNi(ニッケル)を添加することが記載されている。一方、特許文献2では、内部電極にNiが用いられている場合であっても、水素の影響によって絶縁抵抗の劣化が生じることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-80011号公報
【文献】特開2016-66783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素の影響を抑制するためには、水素の侵入経路である外部電極からの水素の侵入を抑制することが望まれる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、外部電極からの水素の侵入を抑制することができる積層セラミックコンデンサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、セラミックを主成分とする誘電体層と、内部電極層と、が交互に積層され、積層された複数の前記内部電極層が交互に対向する2端面に露出するように形成され、略直方体形状を有する積層チップと、前記2端面に形成された1対の外部電極と、を備え、前記1対の外部電極は、下地層上にめっき層が形成された構造を有し、前記下地層は、Niを主成分とし、前記めっき層側の表面の少なくとも一部に、酸化モリブデンが備わることを特徴とする。
【0007】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記めっき層は、Snめっき層を含んでいてもよい。
【0009】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記内部電極層は、Niを主成分としてもよい。
【0010】
上記積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体層の主成分セラミックは、ペロブスカイト構造を有していてもよい。本発明に係る積層セラミックコンデンサの製造方法は、セラミック誘電体層グリーンシートと、内部電極形成用導電ペーストと、を交互に積層し、積層された複数の内部電極形成用導電ペーストを交互に対向する2端面に露出させることによって、略直方体形状のセラミック積層体を形成し、前記2端面に接するように、NiおよびCuの少なくともいずれか一方を含む金属または合金を主成分とする金属粉末と、酸化モリブデンとを含む金属ペーストを塗布し、前記金属ペーストの塗布後の前記セラミック積層体を焼成し、前記金属ペーストを焼成することによって得られる下地層上にめっき層を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、外部電極からの水素の侵入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2図1のA-A線の部分断面図である。
図3】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図4】(a)はSTEMを用いて下地層およびCuめっき層を観察した結果を示す図であり、(b)はSTEM-EDSを用いて下地層およびCuめっき層におけるMoの分布を測定した結果である。
図5】(a)は測定箇所を例示する図であり、(b)はB線断面におけるMo濃度の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0014】
(実施形態)
まず、積層セラミックコンデンサについて説明する。図1は、積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図1で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bとを備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面を側面と称する。外部電極20a,20bは、4つの側面に延在している。ただし、外部電極20a,20bは、4つの側面において互いに離間している。
【0015】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、卑金属材料を含む内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。各内部電極層12の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた端面と、外部電極20bが設けられた端面とに、交互に露出している。それにより、各内部電極層12は、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通している。その結果、積層セラミックコンデンサ100は、複数の誘電体層11が内部電極層12を介して積層された構成を有する。また、積層チップ10において、4つの側面のうち、誘電体層11と内部電極層12との積層方向(以下、積層方向と称する。)の上面と下面とに対応する2側面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13の材料は、誘電体層11とセラミック材料の主成分が同じである。
【0016】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0017】
内部電極層12は、Ni,Cu(銅),Sn(スズ)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12として、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主成分とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム)、CaZrO(ジルコン酸カルシウム)、CaTiO(チタン酸カルシウム)、SrTiO(チタン酸ストロンチウム)、ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等を用いることができる。
【0018】
図2は、外部電極20aの断面図であり、図1のA-A線の部分断面図である。なお、図2では断面を表すハッチを省略している。図2で例示するように、外部電極20aは、下地層21上に、Cuめっき層22、Niめっき層23およびSnめっき層24が形成された構造を有する。下地層21、Cuめっき層22、Niめっき層23およびSnめっき層24は、積層チップ10の両端面から4つの側面に延在している。なお、図2では、外部電極20aについて例示しているが、外部電極20bも同様の構造を有する。
【0019】
下地層21は、NiおよびCuの少なくともいずれか一方を含む金属または合金を主成分とし、下地層21の緻密化のためのガラス成分を含んでいてもよく、下地層21の焼結性を制御するための共材を含んでいてもよい。ガラス成分は、Ba,Sr,Ca,Zn(亜鉛),Al(アルミニウム),Si(ケイ素),B(ホウ素)等の酸化物である。共材は、セラミック成分であり、例えば、誘電体層11が主成分とするセラミック成分である。
【0020】
また、下地層21のめっき層側の表面に、Mo(モリブデン)を含む介在物25が形成されている。下地層21の表面にMoを含む介在物25が形成されていることから、Cuめっき層22、Niめっき層23およびSnめっき層24を形成する場合に発生する水素が下地層21および内部電極層12に侵入することが抑制される。例えば、Moは、水素透過を妨げる働きを有している。水素透過を妨げるMoを含む介在物25が下地層21の表面に存在することで、外部電極20a,20bにおける水素の透過性が低下し、水素の侵入経路を遮断している(ブロッキング効果を発揮している)と考えられる。水素の侵入経路が遮断されれば、下地層21および内部電極層12への水素の吸蔵が抑制され、誘電体層11の還元が抑制される。それにより、積層セラミックコンデンサ100の絶縁抵抗の低下が抑制される。なお、Cuめっき層22およびNiめっき層23のめっき工程では、めっき対象の表面で水素が多く発生する。したがって、水素の侵入経路を遮断することは特に効果的である。
【0021】
介在物25の形状は、特に限定されるものではない。例えば、介在物25は、下地層21の表面を覆うように層状に形成されていてもよい。または、介在物25は、下地層21の表面において島状に点在していてもよい。また、介在物25は、Moの化合物を主成分とする。介在物25の主成分であるMo化合物は、酸化モリブデン(MoO、MoO)などである。
【0022】
なお、本実施形態においては、下地層21の表面に存在する元素としてMoに着目しているが、それに限られない。水素透過を妨げる効果を有する元素をMoの代わりに用いてもよい。
【0023】
なお、内部電極層12がNiを主成分とすると、内部電極層12の水素吸蔵性が高くなる。したがって、内部電極層12がNiを主成分とする場合には、外部電極20a,20bからの水素侵入を抑制することが特に効果的である。また、Cuめっき層22およびNiめっき層23のめっき工程では、めっき対象の表面で水素が多く発生する。したがって、水素の侵入経路を遮断することは特に効果的である。
【0024】
また、Snは高い緻密性を有している。これは、Snが最密充填構造を有することに起因する。下地層21上にSnめっき層34が設けられていると、水素がSnめっき層34よりも積層チップ10側に閉じ込められることになる。すなわち、水素の影響が生じやすくなる。したがって、下地層21上にSnめっき層34が設けられている場合には、外部電極20a,20bからの水素侵入を抑制することが特に効果的である。
【0025】
続いて、積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図3は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0026】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11の主成分であるセラミック材料の粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、Mg(マグネシウム),Mn(マンガン),V(バナジウム),Cr(クロム),希土類元素(Y(イットリウム),Sm(サマリウム),Eu(ユウロピウム),Gd(ガドリニウム),Tb(テルビウム),Dy(ジスプロシウム),Ho(ホロミウム),Er(エルビウム),Tm(ツリウム)およびYb(イッテルビウム))の酸化物、並びに、Co(コバルト),Ni,Li(リチウム),B,Na(ナトリウム),K(カリウム)およびSiの酸化物もしくはガラスが挙げられる。例えば、まず、セラミック材料の粉末に添加化合物を含む化合物を混合して仮焼を行う。続いて、得られたセラミック材料の粒子を添加化合物とともに湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料の粉末を調製する。
【0027】
(積層工程)
次に、得られたセラミック材料の粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリーを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材上に例えば厚み0.8μm以下の帯状の誘電体グリーンシートを塗工して乾燥させる。
【0028】
次に、誘電体グリーンシートの表面に、内部電極形成用導電ペーストをスクリーン印刷、グラビア印刷等により印刷することで、内部電極層12のパターンを配置する。内部電極層形成用導電ペーストは、内部電極層12の主成分金属の粉末と、バインダと、溶剤と、必要に応じてその他助剤とを含んでいる。バインダおよび溶剤は、上記したセラミックスラリーと異なるものを使用することが好ましい。また、内部電極形成用導電ペーストには、共材として、誘電体層11の主成分であるセラミック材料を分散させてもよい。
【0029】
次に、内部電極層パターンが印刷された誘電体グリーンシートを所定の大きさに打ち抜いて、打ち抜かれた誘電体グリーンシートを、基材を剥離した状態で、内部電極層12と誘電体層11とが互い違いになるように、かつ内部電極層12が誘電体層11の長さ方向両端面に端縁が交互に露出して極性の異なる一対の外部電極に交互に引き出されるように、所定層数(例えば200~500層)だけ積層する。積層したパターン形成シートの上下にカバー層13となるカバーシートを圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。これにより、略直方体形状のセラミック積層体が得られる。
【0030】
(金属ペースト塗布工程)
次に、積層工程で得られたセラミック積層体を、200℃~500℃のN雰囲気中で脱バインダした後に、セラミック積層体の両端面から各側面にかけて、金属フィラー、共材、バインダ、溶剤およびMo源を含む金属ペーストを塗布し、乾燥させる。この金属ペーストは、外部電極形成用金属ペーストである。このとき、Mo源の濃度が表面側で高くなるように塗布し、乾燥させることが好ましい。例えば、Mo源の濃度が異なる外部電極形成用金属ペーストを用意し、セラミック積層体の端面側のMo源の濃度が低く、表面側のMo源の濃度が高くなるようにしてもよい。
【0031】
Mo源の種類、形状等は特に限定されない。例えば、Mo源として、具体的には、酸化モリブデン(MoO,MoO)、塩化モリブデン(MoCl,MoCl,MoCl)、水酸化モリブデン(Mo(OH),Mo(OH))、モリブデン酸バリウム(BaMoO)、モリブデン酸アンモニウム((NHMo24・4HO)、モリブデン-ニッケル合金等を用いることができる。また、共材にMoを予め固溶させておき、当該共材をMo源として用いてもよい。
【0032】
(焼成工程)
次に、外部電極形成用金属ペーストが塗布されたセラミック積層体を、還元雰囲気中で1100~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、内部に焼結体からなる誘電体層11と内部電極層12とが交互に積層されてなる積層チップ10と、積層方向上下の最外層として形成されるカバー層13と、下地層21とを有する焼結体が得られる。
【0033】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理工程を実施することによって、Cuめっき層22、Niめっき層23およびSnめっき層24を、下地層21上に順に形成する。以上の工程を経て、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0034】
図4(a)は、STEM(Scanning Transmission Electron Microscope)を用いて下地層21およびCuめっき層22を観察した結果である。図4(a)に示すように、下地層21とCuめっき層22との間に界面26が生じていることがわかる。
【0035】
図4(b)は、STEM-EDS(Energy-Dispersive-Spectroscopy)を用いて下地層21およびCuめっき層22におけるMoの分布を測定した結果である。図4(b)の測定領域は、図4(a)の測定領域と同範囲である。図4(b)の例では、中央部分の網掛け部分がMo濃度の比較的高い分布領域であり、介在物25に相当する。網掛けになっていない領域がMoの検出されなかった領域である。図4(a)および図4(b)の結果から、下地層21のめっき層側表面に、Moを含む介在物25が形成されていることがわかる。
【0036】
図4(a)と図4(b)とを対比すると、Moが局在化していることがわかった。この結果から、NiやCuとMoとは互いに固溶せずに金属間化合物を形成せず、互いに独立して分布していることがわかる。したがって、Moは水素透過係数が非常に低い単体のMoとして存在していることがわかる。以上のことから、外部電極20a,20bからの水素の侵入経路を遮断している(ブロッキング効果を発揮している)ことが裏付けられた。なお、Moが局在化する理由としては、Mo源を含む金属ペーストの焼き付けを、Mo源の融点より高い温度で行うことで、融解したMo源が下地層21の表面に析出したものと考えられる。
【0037】
次に、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)とAr(アルゴン)スパッタによる、下地層21の表面から誘電体層11に向かう深さ方向における、Mo濃度の測定結果について説明する。図5(a)は、測定箇所を例示する図である。図5(a)で例示するように、下地層21の表面から誘電体層11に向かう深さ方向におけるB線断面についてNi濃度を基準としたMo濃度を測定した。図5(b)は、B線断面におけるMo濃度の測定結果である。図5(b)において、横軸は下地層21の表面から誘電体層11に向かう深さ方向の距離を表し、縦軸はNi濃度を基準としたMo濃度の正規化値である。具体的には、各測定地点においてXPSによる組成分析をおこない、Ni濃度を基準としてMoの濃度を算出し、積層チップ10の端面におけるNi濃度を1とした場合の正規化値(at%)である。B線断面において、下地層21の表面近傍にMoが存在していることがわかる。すなわち、下地層21の表面においてMoが検出され、下地層21の表面から誘電体層11に向かう深さ方向において表面以外から検出限界以上のMoが検出されなかった。すなわち、下地層21の表面にMoが局在していることが裏付けられている。加えて、深さ方向に20nm間隔で測定を行ったが、最初の測定地点のみで検出限界以上のMoが検出されているため、Moの局在は深さ方向において20nm以下の厚みであることも確認できた。
【0038】
本実施形態に係る製造方法によれば、下地層21のめっき層側の表面にMoを含む介在物25が形成される。この場合、Cuめっき層22、Niめっき層23およびSnめっき層24を形成する場合に発生する水素が内部電極層12に侵入することが抑制される。それにより、内部電極層12への水素の吸蔵が抑制され、誘電体層11の還元が抑制される。その結果、絶縁抵抗の低下が抑制される。また、Moを含む介在物25が20nm以下の厚みで形成されることで、下地層21上に形成されるめっき層に対する密着性の低下が抑制される。
【0039】
なお、外部電極形成前の金属ペーストにMo源を添加せずに、例えば金属ペースト塗布後に、スパッタ等でMo源の膜を形成する方法も可能である。
【実施例
【0040】
以下、実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0041】
(実施例)
チタン酸バリウム粉末に必要な添加物を添加し、ボールミルで十分に湿式混合粉砕して誘電体材料を得た。誘電体材料に有機バインダおよび溶剤を加えてドクターブレード法にて誘電体グリーンシートを作製した。誘電体グリーンシートの塗工厚みを0.8μmとし、有機バインダとしてポリビニルブチラール(PVB)等を用い、溶剤としてエタノール、トルエン酸等を加えた。その他、可塑剤などを加えた。次に、内部電極層12の主成分金属の粉末と、バインダと、溶剤と、必要に応じてその他助剤とを含んでいる内部電極形成用導電ペーストを作製した。内部電極形成用導電ペーストの有機バインダおよび溶剤には、誘電体グリーンシートとは異なるものを用いた。誘電体シートに内部電極形成用導電ペーストをスクリーン印刷した。内部電極形成用導電ペーストを印刷したシートを250枚重ね、その上下にカバーシートをそれぞれ積層した。その後、熱圧着によりセラミック積層体を得て、所定の形状に切断した。
【0042】
得られたセラミック積層体をN雰囲気中で脱バインダした後に、セラミック積層体の両端面から各側面にかけて、Niを主成分とする金属フィラー、共材、バインダ、溶剤およびMo源を含む金属ペーストを塗布し、乾燥させた。Mo源として、MoOを用いた。実施例では、金属ペーストの固形分に対して0.1wt%のMoOを添加した。その後、還元雰囲気中で1100℃~1300℃で10分~2時間、金属ペーストをセラミック積層体と同時に焼成して焼結体を得た。
【0043】
得られた焼結体の形状寸法は、長さ=0.6mm、幅=0.3mm、高さ0.3mmであった。焼結体をN雰囲気下800℃の条件で再酸化処理を行った後、メッキ処理して下地層21の表面にCuめっき層22、Niめっき層23およびSnめっき層24を形成し、積層セラミックコンデンサ100を得た。実施例に係るサンプルをそれぞれ100個作成した。
【0044】
(比較例)
比較例では下地層21用の金属ペーストにMo源を添加しなかった。他は、実施例と同様の条件とした。比較例に係るサンプルをそれぞれ100個作成した。
【0045】
STEMを用いて下地層21およびCuめっき層22を観察した結果、実施例および比較例のいずれにおいても、下地層21とCuめっき層22との間に界面26が生じていることが確認された。さらに、STEM-EDSを用いて下地層21およびCuめっき層22におけるMoの分布を測定した結果、実施例ではMoを含む介在物25が確認された。比較例では、介在物25が確認されなかった。
【0046】
実施例および比較例のそれぞれについて、温度=85℃、相対湿度85%、10Vの耐圧試験を100h時間行った。この場合に、60秒間100MΩ以下になるサンプルの発生率を調べた。表1は、その結果を示す。表1に示すように、比較例では、当該発生率が18%以上と高くなった。これは、外部電極20a,20bを透過して内部電極層12に水素が吸蔵され、当該水素によって誘電体層11が還元されたからであると考えられる。これに対して、実施例では、当該発生率が大幅に低下した。これは、下地層21のCuめっき層側表面にMoを含む介在物25が形成されたことで外部電極20a,20bの水素透過が抑制され、内部電極層12への水素吸蔵が抑制されたからであると考えられる。
【表1】
【0047】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
20a,20b 外部電極
21 下地層
22 Cuめっき層
23 Niめっき層
24 Snめっき層
100 積層セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5