(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】緑茶飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/16 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
A23F3/16
(21)【出願番号】P 2018123317
(22)【出願日】2018-06-28
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】石井 真理子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 利也
(72)【発明者】
【氏名】小栗 武浩
(72)【発明者】
【氏名】青山 冬樹
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-142678(JP,A)
【文献】特開2010-259404(JP,A)
【文献】特表2012-504398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00-5/50
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑茶抽出液を70~110℃で
4秒以上30秒以下の時間で加熱する加熱処理をすること、および前記加熱処理の前または後に、緑茶抽出液を孔径0.22μm以下のフィルタを用いての濾過処理に供することを含む、
容器詰め緑茶飲料の製造方法。
【請求項2】
前記緑茶飲料にカテキン類を100~500ppmの含有量で含有させることをさらに含む、請求項1に記載の緑茶飲料の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理における加熱温度をX(℃)、加熱時間をY(秒)とするときに、
70≦X≦85、4≦Y≦30を満足するようにして緑茶抽出液を加熱する、請求項1または2に記載の緑茶飲料の製造方法。
【請求項4】
緑茶抽出液を70~110℃で
4秒以上30秒以下の時間で加熱する加熱処理をすること、および前記加熱処理の前または後に、緑茶抽出液を孔径0.22μm以下のフィルタを用いての濾過処理に供することを含む、微生物の増殖が抑えられた
容器詰め緑茶飲料におけるグリーン香および香りの広がりの改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緑茶飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
製造された緑茶飲料をペットボトルなどの容器に詰めた、いつでもすぐに飲用できる形態の容器詰めの緑茶飲料が広く親しまれている。また、容器詰めの緑茶飲料が広く親しまれるようになるにつれて、単に喉の渇きを潤すために飲まれるだけでなく、緑茶飲料の香りや味なども楽しむことを目的として飲まれるようになってきており、消費者の香りや味などに対する要求も年々高まっている。
【0003】
このような容器詰めの緑茶飲料においては、製造されてから飲用されるまでに一定の時間(保存期間等)が経過するのが一般的である。そのため、保存期間中などにおいて微生物の増殖を防ぐために緑茶抽出液に対し加熱による殺菌処理が行われている。具体的には、食品衛生法の規格基準により、120℃で4分以上、または、これと同等の殺菌強度を有する条件で殺菌する必要があり、例えば120℃、6分での加熱条件(特許文献1に記載の条件)での殺菌処理が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、緑茶飲料において、微生物の増殖を抑えつつ、飲んだときにグリーン香および香りの広がりをより感じられるようにすることができる新規な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は緑茶飲料を飲んだときに感じられるグリーン香および香りの広がりが上記のような緑茶抽出液に対する殺菌処理により損なわれていることに気が付き、これを改善することを着想した。
鋭意研究の結果、本発明者は、70℃以上110℃以下の加熱温度で抽出液を30秒以下の時間で加熱し、併せて孔径0.22μm以下のフィルタを用いての濾過処理を行うことにより、微生物の増殖を抑えつつ、従来と比較してグリーン香および香りの広がりをより感じられるようにすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
なお、本明細書において、グリーン香とは、青草様、若葉様の香りをいう。
また、香りの広がりとは、香りが口の中に広がって鼻に抜け、上記のグリーン香が持続することをいう。
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 緑茶抽出液を70~110℃で30秒以下の時間で加熱する加熱処理をすること、および前記加熱処理の前または後に、緑茶抽出液を孔径0.22μm以下のフィルタを用いての濾過処理に供することを含む、緑茶飲料の製造方法。
[2] 前記緑茶飲料にカテキン類を100~500ppmの含有量で含有させることをさらに含む、[1]に記載の緑茶飲料の製造方法。
[3] 前記加熱処理における加熱温度をX(℃)、加熱時間をY(秒)とするときに、以下の(a)、(b)として示す少なくともいずれか一方の関係を満足するようにして緑茶抽出液を加熱する、[1]または[2]に記載の緑茶飲料の製造方法。
(a)75≦X≦110、0<Y≦-0.74286X+85.71429
(b)70≦X≦85、0<Y≦30
[4] 緑茶抽出液を70~110℃で30秒以下の時間で加熱する加熱処理をすること、および前記加熱処理の前または後に、緑茶抽出液を孔径0.22μm以下のフィルタを用いての濾過処理に供することを含む、微生物の増殖が抑えられた緑茶飲料におけるグリーン香および香りの広がりの改善方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、緑茶飲料において、微生物の増殖を抑えつつ、飲んだときにグリーン香および香りの広がりをより感じられるようにすることができる新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例における加熱温度(X、℃)および加熱時間(Y、秒)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の1つの実施形態について、詳細に説明する。
本実施形態は、緑茶飲料の製造方法に関し、緑茶抽出液を70~110℃で30秒以下の時間で加熱する加熱処理をすること、および加熱処理の前または後に、緑茶抽出液を孔径0.22μm以下のフィルタを用いての濾過処理に供することを含む。
【0012】
本明細書において、緑茶飲料とは、Camellia属(C. sinensis、C. assamica、やぶきた種等)から得られる葉や茎から製茶された緑茶葉(蒸し茶、煎茶、玉露、抹茶、番茶、玉緑茶、釜炒り茶、中国緑茶などの不発酵茶に分類される茶)について、水や熱水などを用いて抽出した抽出液(緑茶抽出液)を配合した飲料の総称を意味する。
緑茶抽出液は特に限定されず、緑茶を抽出して得られた抽出液のみからなる液体、当該抽出液を濃縮または希釈した液体等を例示することができ、これら液体を濃縮乾燥して得られる抽出物を再度水等に溶解または分散させたものであってもよい。
また、異なる種類に由来する緑茶葉から抽出された抽出液等を混合したものでもよく、緑茶葉と玄米等の穀物類、ジャスミン花、その他のハーブ等のフレーバー類等との混合物を抽出して得られた抽出液であってもよい。
【0013】
茶葉の抽出条件については特に限定されず、使用される茶葉の種類や量、組成などを考慮して当業者が適宜設定することができる。
抽出工程では、一般的な抽出方法を採用可能であり、例えば、水蒸気蒸留、液化炭酸ガス抽出、アルコール抽出、熱水抽出等の従来公知の抽出方法を用いることができる。また、抽出に用いる抽出溶媒の種類は、特に限定されないが、水を抽出溶媒とする場合は、脱イオン交換処理精製したもの又は蒸留水を用いることが好ましい。これらは、安価、手軽であり、且つ安全に調製し抽出設備に供することができる。水以外の抽出溶媒としては、エタノールやその他の親水性有機溶媒が挙げられる。また、抽出溶媒に対して、抽出効率化の目的で、食品添加物のいわゆる炭酸塩(炭酸水素ナトリウム(重曹)等)、リン酸塩、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸等を適宜添加してもよい。
抽出温度は、特に限定されないが、例えば35℃以上100℃以下とすることが挙げられ、上限温度は65~75℃程度であることが好ましい。上記温度範囲で抽出を行えば、抽出効率が高い。抽出時間も特に限定されないが、5分以上60分以下の範囲内で行うことが好ましい。上記抽出時間で抽出物を得れば、熱による風味変化や香気成分の散逸を抑えつつ、甘味、香ばしさの各成分を抽出しやすい傾向にある。これにより、嗜好性に優れた茶飲料が得やすくなる。
なお、静菌効果や風味(おいしさ)の観点から、本実施形態に係る緑茶飲料の製造においては、カテキン類を100~500ppm(より好ましくは200~500ppm、さらにより好ましくは300~500ppm)の含有量で飲料中に含有させることが好ましい。
【0014】
カテキン類の含有量を100~500ppmとする工程としては、飲料におけるカテキン類含有量が100~500ppmとなる緑茶抽出液の調製(具体的には、飲料におけるカテキン含有量が100~500ppmとなる緑茶葉を用いての抽出処理など)が挙げられる。また、得られた緑茶抽出液にカテキン類を添加し、得られる緑茶飲料におけるカテキン類含有量が100~500ppmとなるように含有量を調整するなどしてもよく、特に限定されない。
本明細書において、カテキン類とは、重合していない単量体のカテキン類((+)-カテキン、(-)-エピカテキン、(+)-ガロカテキン、(-)-エピガロカテキン、(-)-カテキンガレート、(-)-エピカテキンガレート、(-)-ガロカテキンガレート、および(-)-エピガロカテキンガレート)をいい、カテキン類の含有量とはこれらの総量を意味する。
また、緑茶飲料におけるカテキン類の含有量は、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法によって、測定・定量することができる。
【0015】
本実施形態においては、緑茶抽出液を70~110℃で0より長く30秒以下の時間で加熱する加熱処理をする。
加熱する方法、装置については特に限定されず、当業者が適宜設定することができ、例えば、超高温瞬間殺菌(UHT殺菌)を挙げることができる。
【0016】
本実施形態においては、該加熱処理において、緑茶抽出液を70~110℃で0より長く30秒以下の時間で加熱する。また、グリーン香、および香りの広がりをより感じることができるため、加熱温度をX(℃)、加熱時間をY(秒)とするときに、以下の(a)、(b)として示す少なくともいずれか一方の関係を満足するようにして緑茶抽出液を加熱することが好ましい。
(a)75≦X≦110、0<Y≦-0.74286X+85.71429
(b)70≦X≦85、0<Y≦30
【0017】
さらに、加熱処理により緑茶飲料の外観は褐色となる傾向があるが、該外観もより改善(非加熱の場合により近い外観)することができるため、70≦X≦85、0<Y≦30との関係を満足することがより好ましい。
【0018】
また、本実施形態においては、緑茶抽出液を孔径0.22μm以下のフィルタを用いての濾過処理に供し、除菌を行う。
該濾過処理は、上記の加熱処理の前または後のいずれに行われるようにしてもよく、また、濾過処理と加熱処理との間に1または2以上の他の処理が行われるようにしてもよい。
また、濾過処理に供する際の緑茶抽出液の温度なども特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
孔径0.22μm以下のフィルタとしては例えば、AstroPore PSEカートリッジW(商品名)(富士フイルム社製)、LifeASSURE(TM)フィルターBNAシリーズ(商品名)(スリーエムジャパン社製)、サートンポアフィルターカートリッジCESタイプ(商品名)(ロキテクノ社製)、フロロダインII(商品名)(日本ポール社製)などが例示でき、特に限定されない。
【0019】
続いて、本実施形態の緑茶飲料の製造方法に関する処理フローの一例を、容器詰めの緑茶飲料とする場合を例に挙げて説明する。
まず、茶葉について抽出処理を行い、続いて濾過を行うことにより緑茶葉等の固形分を除去し、緑茶抽出液を得る。
次に、得られた緑茶抽出液について、必要に応じて希釈、pH調整等の処理を行った後、70~110℃で30秒以下の時間の加熱処理に供し、加熱殺菌する。
続いて、加熱殺菌された緑茶抽出液を孔径0.22μm以下のフィルタを用いての濾過処理に供する。濾過された緑茶抽出液について、容器に充填し、容器詰めの緑茶飲料を得る。
【0020】
容器への封入方法なども特に限定されず、例えば常法に従って行うことができる。容器も公知のものを適宜選択して用いることができ、素材や形状など特に限定されない。容器の具体例としては、PETボトル等の透明又は半透明のプラスチック容器、透明又は半透明のビン、スチール缶やアルミニウム缶等の金属缶、紙容器等が挙げられる。
【0021】
以上、本実施形態によれば、緑茶飲料について、微生物の増殖を抑えつつ、グリーン香、および香りの広がりを改善(飲んだときに、より感じられる)することができる。
そのため、より商品価値の高い緑茶飲料を提供することが可能である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0023】
[緑茶抽出液の調製(1)]
以下に示す処方となる量の茶葉とその30倍量の湯を用い、湯中で茶葉について一定時間の撹拌と停止を繰り返した。当該処理を行ったのは計6~8分であった。また、抽出温度は40℃とした。得られた緑茶抽出液に、ビタミンC(アスコルビン酸、Vc)、ビタミンCNa(アスコルビン酸ナトリウム、VcNa)、重曹を以下に示す含有量となるように添加した。
茶原料(g/L):10.0g/L
VcNa(g/L):0.40g/L
Vc(g/L):0.30g/L
重層(g/L):0.27g/L
使用茶葉:一番茶かぶせ茶
【0024】
緑茶抽出液のカテキン類含有量は360ppmであった。なお、測定条件を以下に示す。
測定対象の緑茶抽出液を精製水で2倍に希釈し、これを0.45μmのシリンジフィルターでろ過したものを測定用のサンプルとして、以下の条件で高速液体クロマトグラフによって測定した。
装置:Waters UPLC装置一式(検出器:PDA グラジエント法)
移動相:0.5%ギ酸(A液)、0.5%ギ酸/メタノール(B液)
カラム:Waters Acquity UPLC BEH C18、1.7μm
2.1×100mm
流量:0.3ml/分
グラジエント:A/B=90/10で2分間通液後、65/35で11分間通液
【0025】
[加熱殺菌およびフィルタ処理]
以上のようにして調製された茶葉抽出液について、UHT殺菌により75℃、4秒間の加熱処理を行った。続いて、茶葉抽出液を冷却した後、孔径0.20μmであるフィルタ(サートンポアフィルターカートリッジCESタイプ(商品名)(ロキテクノ社製))に供して濾過処理を行い、実施例の緑茶飲料を得た。
【0026】
[微生物の増殖抑制]
表1に示す微生物の芽胞液を1000cfu/350mlとなるように接種後、35℃で2週間または4週間培養した。2週間および4週間のそれぞれについて、3サンプルずつ試験を行った。また、対照(Control)には、芽胞液を接種しなかった(2サンプル)。
培養後、1mlをサンプルとして標準寒天培地にて培養後の菌数を測定し、生育を確認した。
【0027】
【0028】
表1の結果から、実施例の緑茶飲料においては微生物の増殖が十分に抑制できていることが理解できる。
【0029】
[緑茶抽出液の調製(2)]
使用茶葉を一番茶かぶせ茶(茎茶や茶葉をブレンドしたもの)とし、また、ビタミンC、ビタミンCNa、重曹の添加を行っていない以外は(1)の場合と同様に緑茶抽出液を調製した。
【0030】
[加熱殺菌およびフィルタ処理]
得られた緑茶抽出液について、表2に示す各加熱条件で加熱処理を行った。続いて、緑茶抽出液を冷却した後、孔径0.20μmであるフィルタ(サートンポアフィルターカートリッジCESタイプ(商品名)(ロキテクノ社製))に供して濾過処理を行い、実施例および比較例の緑茶飲料を得た。
【0031】
[官能評価]
専門パネル5名にて外観、グリーン香、香りの広がりについて官能評価を実施した。
官能評価は加熱処理および濾過処理に供していない未処理の緑茶抽出液を対照の緑茶飲料(Control)とし、該対照との差を以下に示す5段階の評価基準で評価した。
5:まったく変化がない、4:わずかに異なるがほぼ同じ、3:差がある、2:大きな差がある、1:著しく異なる
【0032】
評価結果においては、従来から行われている加熱条件(120℃、4~6分)を考慮し、120℃、4秒の加熱条件の場合よりもグリーン香、香りの広がりについてより感じられる場合について、改善されているとして合格と判断した。
結果を表2に示す。
【0033】
【0034】
表2から、70~110℃で30秒以下の時間で加熱する加熱処理を行った実施例の緑茶飲料において、グリーン香、香りの広がりについて改善されていることが理解できる。
また、
図1に示す上記(a)、(b)いずれかの関係を満足することで、グリーン香、香りの広がりについてさらに改善されることが理解できる。