(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220926BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20220926BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20220926BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220926BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220926BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/133
H01M4/36 E
H01M4/48
H01M4/36 A
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2018136874
(22)【出願日】2018-07-20
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】大澤 康彦
(72)【発明者】
【氏名】草地 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一
(72)【発明者】
【氏名】赤間 弘
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【審査官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-181487(JP,A)
【文献】特開2015-046220(JP,A)
【文献】特開2005-209496(JP,A)
【文献】特開2014-207050(JP,A)
【文献】特開2018-063756(JP,A)
【文献】特開2010-218764(JP,A)
【文献】特開2018-101624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも集電体と、負極活物質層と、セパレータとをこの順で積層した構成を備えたリチウムイオン電池であって、
前記負極活物質層は、少なくとも第一の負極活物質層と、第二の負極活物質層とを含み、
前記第二の負極活物質層の膜厚が1.5~50μmであり、
前記第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質量が、0.1~5mg/cm
2であり、
前記第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の前記第二の負極活物質層の重量に対する重量割合が、前記第一の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の前記第一の負極活物質層の重量に対する重量割合よりも大き
く、
前記第二の負極活物質層が、前記集電体と前記第一の負極活物質層の間に存在していることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記第二の負極活物質層に含まれる前記珪素系活物質の含有量は、前記第二の負極活物質層の重量に対して40重量%以上であり、前記第一の負極活物質層に含まれる前記珪素系活物質の含有量は、前記第一の負極活物質層の重量に対して40重量%未満である請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記第一の負極活物質層の前記第二の負極活物質層を有する面と反対側の面上に、第三の負極活物質層を有し、前記第三の負極活物質層の膜厚が1.5~50μmであり、前記第三の負極活物質層に含まれる珪素系活物質量が、0.1~5mg/cm
2であり、前記第三の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の前記第三の負極活物質層の重量に対する重量割合が、前記第一の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の前記第一の負極活物質層の重量に対する重量割合よりも大きい請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記第一の負極活物質層に含まれる負極活物質は、炭素系活物質と、珪素系活物質との混合物であり、
前記珪素系活物質の重量割合が、前記第一の負極活物質層の重量に対して20重量%以下である請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記第一の負極活物質層に含まれる負極活物質は、炭素系活物質からなる請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記第二の負極活物質層に含まれる前記珪素系活物質が、酸化珪素及び/又は珪素-炭素複合体である請求項1~5のいずれかに記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記集電体が樹脂集電体である請求項1~6のいずれかに記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
前記第一の負極活物質層がリチウムイオン電池用電極バインダを含まない非結着体である請求項1~7のいずれかに記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため、二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン電池に注目が集まっている。
【0003】
リチウムイオン電池は、内的要因や外的要因によって、リチウムイオン電池内部に一時的に微小短絡が発生した場合、集電体表面から微小短絡部に向けて電流が流れるため、短絡部が極めて小さな短絡であっても、過電流や発熱が発生して電池性能が劣化する等、電池性能の耐久性に課題があった。
【0004】
特許文献1には、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層からなる群より選択される少なくとも1層の表面又は内部に、ガス発生剤を含む非水電解質二次電池が開示されている。このような非水電解質二次電池では、ガス発生剤からガスが発生することにより、イオンの移動経路を狭めるか又は遮断して、イオンの移動量の低下や移動の停止が起こる。これにより、二次電池の内部抵抗が増加し、二次電池の稼動が抑制又は停止され、過電流や発熱を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された発熱や過電流を抑制する機構では、電池の充放電に関与しないガス発生剤を含む必要がある。電池が充放電に関与しない構成を含むと電池1個あたりの充放電容量が減少してしまうため、特許文献1に記載された方法には未だ改善の余地があると言える。
【0007】
以上の状況を踏まえて、本発明は、ガス発生剤を含まずに、リチウムイオン電池内部に一時的に微小短絡が発生した場合であっても、電池あたりの充放電容量に影響を与えることなく、電池性能の劣化を抑制でき、耐久性に優れたリチウムイオン電池を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に想到した。
すなわち、本発明は、少なくとも集電体と、負極活物質層と、セパレータとをこの順で備えたリチウムイオン電池であって、上記負極活物質層は、少なくとも第一の負極活物質層と、第二の負極活物質層とを含み、上記第二の負極活物質層の膜厚が1.5~50μmであり、上記第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質量が、0.1~5mg/cm2であり、上記第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の上記第二の負極活物質層の重量に対する重量割合が、上記第一の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の上記第一の負極活物質層に対する重量割合よりも大きいことを特徴とするリチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、内部に一時的に微小短絡が発生した場合であっても、電池性能の劣化を抑制でき、耐久性に優れたリチウムイオン電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウムイオン電池は、少なくとも集電体と、負極活物質層と、セパレータとをこの順で備えたリチウムイオン電池であって、上記負極活物質層は、少なくとも第一の負極活物質層と、第二の負極活物質層とを含み、上記第二の負極活物質層の膜厚が1.5~50μmであり、上記第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質量が、0.1~5mg/cm2であり、上記第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の上記第二の負極活物質層の重量に対する重量割合が、上記第一の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の上記第一の負極活物質層の重量に対する重量割合よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明のリチウムイオン電池では、少なくとも第一の負極活物質層と、第二の負極活物質層とを含み、第二の負極活物質層が所定の膜厚を有し、かつ、単位面積あたりに所定量の珪素系活物質を有する。
この第二の負極活物質層は、リチウムイオン電池内部に一時的に微小短絡が発生した場合に、以下の機構によって発熱や過電流を抑制すると考えられる。
リチウムイオン電池内部に一時的に微小短絡が発生すると、その熱により、第二の負極活物質層表面の固体電解質界面(SEI)の分解反応が極めて速く進行する。それに伴って、微小短絡が発生した部位では、第二の負極活物質層表面での電解液の分解反応が起こってガスが発生する。発生したガスが発熱により膨張して、集電体と第一の負極活物質層との間、或いは、第一の負極活物質層とセパレータとの間に空間が生まれ、導電パスが切断される。
その結果、微小短絡が発生した部位に流れる電流が制限され、過電流や発熱が抑制されるので、電池性能の劣化を抑制でき、耐久性に優れたリチウムイオン電池を得ることができると考えられる。
【0012】
本発明のリチウムイオン電池は、少なくとも第一の負極活物質層と、第二の負極活物質層とを含む。
まずは、第一の負極活物質層について説明する。
第一の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の第一の負極活物質層の重量に対する重量割合は、第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の第二の負極活物質層の重量に対する重量割合よりも小さい。
また、第一の負極活物質層では、該第一の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の含有量が、第一の負極活物質層の重量に対して40重量%未満であることが好ましい。第一の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の含有量は、電池容量と安全性の観点から、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、負極活物質層に含まれる珪素系活物質の含有量は、レーザーラマン顕微鏡[ナノフォトン株式会社製]等を用いて、層の断面を元素分析する等により特定することができる。
【0013】
第一の負極活物質層に含まれる負極活物質は、電池容量の観点から、炭素系活物質と珪素系活物質との混合物であってもよく、この場合、珪素系活物質の重量割合が、上記第一の負極活物質層の重量に対して20重量%以下であってもよい。
また、第一の負極活物質層に含まれる負極活物質は、安全性の観点から、炭素系活物質からなるものであってもよい。
【0014】
第一の負極活物質層に含まれる炭素系活物質としては、炭素系材料[例えば黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)]、又は、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物)及び金属合金(リチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金、アルミニウム-マンガン合金等)等と炭素系材料との混合物等が挙げられる。
【0015】
炭素系活物質の数平均粒子径は、リチウムイオン電池用負極の電気特性の観点から、0.1~50μmが好ましく、15~20μmであることがより好ましい。なお、炭素系活物質はリチウムイオンがドープされることで膨張するが、ここでいう数平均粒子径はリチウムイオンがドープされる前の数平均粒子径である。また、数平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法であり、日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0016】
第一の負極活物質層に含まれる珪素系活物質としては、例えば、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素(Si-C)複合体、Si-Al合金、Si-Li合金、Si-Ni合金、Si-Fe合金、Si-Ti合金、Si-Mn合金、Si-Cu合金及びSi-Sn合金からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
第一の負極活物質層に含まれる炭素系活物質及び珪素系活物質(以下、負極活物質ともいう)は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層により被覆された被覆活物質であってもよい。
負極活物質の周囲が被覆層で被覆されていると、負極での体積変化が緩和され、膨張を抑制することができる。さらに、被覆活物質の非水系溶媒に対する濡れ性を向上させることができ、負極が有する被覆活物質に電解液を吸収させる工程に掛かる時間の短縮が可能になる。
なお、被覆層により被覆された負極活物質を被覆負極活物質ともいう。
【0018】
被覆層を構成する高分子化合物としては、特開2017-054703号公報に非水系二次電池活物質被覆用樹脂として記載されたものを好適に用いることができる。
【0019】
本発明のリチウムイオン電池において負極活物質が被覆負極活物質を含む場合、被覆層は導電助剤を含むことが好ましい。
導電助剤としては、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電助剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電助剤としては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電助剤の材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
【0020】
導電助剤の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましく、0.02~5μmであることがより好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。なお、本明細書中において、「粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
【0021】
導電助剤の形状(形態)は、粒子形態に限られず、粒子形態以外の形態であってもよく、カーボンナノチューブ等、いわゆるフィラー系導電助剤として実用化されている形態であってもよい。
【0022】
導電助剤は、その形状が繊維状である導電性繊維であってもよい。
導電性繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、合成繊維の中に導電性のよい金属や黒鉛を均一に分散させてなる導電性繊維、ステンレス鋼のような金属を繊維化した金属繊維、有機物繊維の表面を金属で被覆した導電性繊維、有機物繊維の表面を、導電性物質を含む樹脂で被覆した導電性繊維等が挙げられる。これらの導電性繊維の中では炭素繊維が好ましい。また、グラフェンを練りこんだポリプロピレン樹脂を用いた合成繊維も好ましい。
導電助剤が導電性繊維である場合、その平均繊維径は0.1~20μmであることが好ましい。
【0023】
被覆層が導電助剤を含んでいる場合、被覆層に含まれる導電助剤の重量は、被覆用樹脂である高分子化合物と導電助剤との合計重量に対して15~75重量%であることが好ましい。
被覆負極活物質が有する被覆層が導電助剤を含んでいる場合、予備充電後に負極活物質の表面にSEI膜が作製された場合であっても被覆層に含まれる導電助剤の効果によって活物質間の導通経路を維持することができ、SEI膜の作製による抵抗上昇が抑制できるため好ましく、導電助剤の割合がこの範囲であると抵抗抑制が容易になり更に好ましい。
【0024】
本発明のリチウムイオン電池では、第一の負極活物質層がリチウムイオン電池用電極バインダを含まない非結着体であることが好ましい。
第一の負極活物質層がリチウムイオン電池用電極バインダを含まないと、リチウムイオン電池用電極バインダによって、負極活物質の充放電時の膨張・収縮が制限されることがないので、負極活物質の自壊を抑制することができる。さらに、本発明のリチウムイオン電池を構成する第一の負極活物質層は、負極集電体表面がリチウムイオン電池用電極バインダにより固定されているわけではないため、負極活物質の充放電時の膨張・収縮によって第一の負極活物質層に亀裂が生じたり、剥離したりすることがない。そのため、サイクル特性の劣化を抑制することができる。
なお、本明細書においてリチウムイオン電池用電極バインダとしては、電極活物質同士及び電極活物質と集電体とを結着固定するために用いられる公知のリチウムイオン電池用電極バインダが挙げられ、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエンゴム、ポリエチレン及びポリプロピレン等が挙げられる。これらの公知のリチウムイオン電池用電極バインダは、溶剤に溶解又は分散して用いられ、溶剤を揮発、留去して固体として析出することで電極活物質同士及び電極活物質と集電体とを結着固定する。
【0025】
第一の負極活物質層の厚さは、電池容量の観点から、100~1500μmであることが好ましく、200~800μmであることがより好ましく、300~600μmであることがさらに好ましい。
また、第一の負極活物質層の厚さは、第一の負極活物質層に対して充電を行う前、又は、第一の負極活物質層を電極電位の値+0.05V(vs.Li/Li+)以下まで放電した際の厚さとする。
【0026】
続いて、第二の負極活物質層について説明する。
第二の負極活物質層は、集電体と負極活物質層とセパレータとをこの順で積層した構成において、集電体と第一の負極活物質層との間、又は、第一の負極活物質層とセパレータとの間に存在する層である。
【0027】
第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質量は、0.1~5mg/cm2である。
第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質量は、過電流や発熱を好適に抑制する観点から、0.2~3mg/cm2であることが好ましく、0.2~1mg/cm2であることがより好ましい。
【0028】
第二の負極活物質層は、膜厚が1.5~50μmである。
第二の負極活物質層の膜厚が上記範囲であることで、過電流や発熱を抑制することができる。
第二の負極活物質層は、過電流や発熱を好適に抑制する観点から、膜厚が1.5~30μmであることが好ましく、1.5~10μmであることがより好ましい。
【0029】
第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の第二の負極活物質層の重量に対する重量割合が、第一の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の第一の負極活物質層に対する重量割合よりも大きい。
第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の含有量は、第二の負極活物質層の重量に対して40重量%以上であることが好ましい。第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の含有量は、過電流や発熱を好適に抑制する観点から、第二の負極活物質層の重量に対して45重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましい。
第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の含有量の上限は特に限定されないが、例えば第二の負極活物質層の重量に対して80重量%以下である。
【0030】
第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質としては、上述した第一の負極活物質層に含まれる珪素系活物質と同様のものを用いることができる。
なかでも、過電流や発熱を好適に抑制する観点から、酸化珪素及び珪素-炭素複合体が好ましい。
珪素-炭素複合体としては、炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等が挙げられる。
【0031】
第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の体積平均粒子径は特に限定されないが、例えば0.01~10μmであることが好ましい。なお、珪素系活物質はリチウムイオンがドープされることで膨張するが、ここでいう体積平均粒子径は、リチウムイオンがドープされる前の珪素系活物質の粒子径を意味する。
体積平均粒子径は、マイクロトラック法(レーザー回折・散乱法)によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(Dv50)を意味する。マイクロトラック法とは、レーザー光を粒子に照射することによって得られる散乱光を利用して粒度分布を求める方法であり、測定には日機装(株)製のマイクロトラック等を用いることができる。
【0032】
第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質は、リチウムイオンがドープされていることが好ましい。
リチウムイオンがドープされた珪素系活物質は反応性が高いので、熱による第二の負極活物質層表面の固体電解質界面(SEI)での分解反応がさらに速く進行し、上述した導電パスを切断し、過電流や発熱を抑制する機構を好適に構築することができる。
なお、本発明のリチウムイオン電池において第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質は、初回充電前はリチウムイオンがドープされていなくてもよいが、初回充電後は十分な量のリチウムイオンがドープされた状態となる。また、不可逆容量であっても、十分な量のリチウムイオンがドープされた状態となっている。
【0033】
本発明のリチウムイオン電池において第二の負極活物質層は、電池特性の観点から、導電助剤を含有することが好ましい。
導電助剤としては、上述した第一の負極活物質層に含まれる導電助剤と同様のものを用いることができ、同様のものが好ましい。
【0034】
第二の負極活物質層が導電助剤を含む場合、第二の負極活物質層の重量に対する導電助剤の重量の割合は、電池特性の観点から、5~40重量%であることが好ましく、7~30重量%であることがより好ましく、10~20重量%であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明のリチウムイオン電池は、第三の負極活物質層を有していてもよい。
第三の負極活物質層は、第一の負極活物質層の第二の負極活物質層を有する面と、反対側の面上に有することが好ましい。第三の負極活物質層は、上述した第二の負極活物質層と同様の組成を有するものを好適に用いることができる。
この第三の負極活物質層も、第二の負極活物質層と同様の機構により、リチウムイオン電池内部に一時的に微小短絡が発生した場合に、発熱や過電流を抑制すると考えられる。
【0036】
なお、本発明のリチウムイオン電池が第三の負極活物質層を有する場合には、第二の負極活物質層及び第三の負極活物質層のそれぞれに含まれる珪素系活物質量が、0.1~5mg/cm2であることが好ましい。
第三の負極活物質層に含まれる珪素系活物質量は、0.2~3mg/cm2であることがより好ましく、0.2~1mg/cm2であることがさらに好ましい。
【0037】
第三の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の第三の負極活物質層の重量に対する重量割合が、第一の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の第一の負極活物質層に対する重量割合よりも大きいことが好ましい。
第三の負極活物質層に含まれる珪素系活物質の含有量は、過電流や発熱を好適に抑制する観点から、第三の負極活物質層の重量に対して40重量%以上であることが好ましく、45重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
第三の負極活物質層は、過電流や発熱を好適に抑制する観点から、膜厚が1.5~50μmであることが好ましく、1.5~30μmであることがより好ましく、1.5~10μmであることがさらに好ましい。
【0039】
本発明のリチウムイオン電池は、集電体を備える。
集電体を構成する材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル及びこれらの合金等の金属材料等が挙げられる。なかでも、軽量化、耐食性、高導電性の観点から、好ましくは銅である。集電体としては、焼成炭素、導電性高分子及び導電性ガラス等からなる集電体であってもよく、導電剤と樹脂からなる樹脂集電体であってもよい。
集電体の形状は特に限定されず、上記の材料からなるシート状の集電体、及び、上記の材料で構成された微粒子からなる堆積層であってもよい。
集電体の厚さは、特に限定されないが、50~500μmであることが好ましい。
【0040】
本発明のリチウムイオン電池において集電体は、樹脂集電体であることが好ましい。
樹脂集電体を構成する導電剤としては、上述した第一の負極活物質層に含まれる導電助剤と同様のものを好適に用いることができる。
【0041】
樹脂集電体を構成する樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0042】
本発明のリチウムイオン電池においてリチウムイオン電池用負極は、例えば以下の方法により作製することができる。
上述した第二の負極活物質層に含有される珪素系活物質及び導電助剤を分散媒の重量に基づいて30~60重量%の濃度で分散してスラリー化した分散液を、集電体の片面に塗布する。次いで、分散媒を乾燥又は濃縮することによって除去して、必要によりプレス機でプレスすることにより第二の負極活物質層を形成する。
その後、上述した第一の負極活物質層に含有される負極活物質及び導電助剤を分散媒の重量に基づいて30~60重量%の濃度で分散してスラリー化した分散液を、得られた第二の負極活物質層の表面に塗布し、分散媒を乾燥又は濃縮することによって除去して、必要によりプレス機でプレスして第一の負極活物質層を形成することにより、リチウムイオン電池用負極を作製することができる。
また、集電体の片面に第一の負極活物質層を形成した後、得られた第一の負極活物質層の表面に第二の負極活物質層を形成してもよい。更に、集電体の片面に第二の負極活物質層を形成し、得られた第二の負極活物質層の表面に第一の負極活物質層を形成し、得られた第一の負極活物質層の表面にさらに第三の負極活物質層を第二の負極活物質層と同様の方法により形成してもよい。
また、アラミド不織布等の面上に、上述した方法により、第一~第三の負極活物質層をそれぞれ形成し、アラミド不織布等を剥がした後、集電体や、後述するセパレータや、他の負極活物質層と重ね合わせ、必要によりプレス機でプレスして、リチウムイオン電池用負極を作製してもよい。
なお、上述したスラリーを塗布する際には、バーコーター等の公知の塗工装置を適宜用いることができる。
【0043】
リチウムイオン電池用負極の製造に用いる分散媒としては、水及び溶剤を用いることができる。
分散媒のうち、水としては、イオン交換水及び超純水等が挙げられる。
分散媒のうち、溶剤としては、後述する電解液を構成する非水溶媒と同じものを用いることができる。これらの他にも、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド及びN,N-ジメチルアミノプロピルアミン等を用いることができる。
【0044】
本発明のリチウムイオン電池は、セパレータを備える。
セパレータとしては、ポリエチレン又はポリプロピレン製の多孔性フィルム、多孔性ポリエチレンフィルムと多孔性ポリプロピレンとの積層フィルム、合成繊維(ポリエステル繊維及びアラミド繊維等)又はガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用のセパレータが挙げられる。
また、セパレータのリチウムイオン電池用負極を組み合わせる側の表面に、上述した方法で上述したスラリーを塗布することにより、第一、第二又は第三の負極活物質層を形成してもよい。
【0045】
本発明のリチウムイオン電池は、さらに、電解液と、正極活物質層と、正極集電体とを備える。
電解液としては、リチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する公知の電解液を使用することができる。
【0046】
電解質としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiClO4及びLiN(SO2F)2等の無機アニオンのリチウム塩、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2及びLiC(SO2CF3)3等の有機アニオンのリチウム塩等が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのは、LiN(SO2F)2及びLiPF6である。
【0047】
非水溶媒としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【0048】
ラクトン化合物としては、5員環のラクトン化合物(γ-ブチロラクトン及びγ-バレロラクトン等)及び6員環のラクトン化合物(δ-バレロラクトン等)等を挙げることができる。
【0049】
環状炭酸エステルとしては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びブチレンカーボネート等が挙げられる。
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート及びジ-n-プロピルカーボネート等が挙げられる。
【0050】
鎖状カルボン酸エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及びプロピオン酸メチル等が挙げられる。
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキソラン及び1,4-ジオキサン等が挙げられる。
鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン及び1,2-ジメトキシエタン等が挙げられる。
【0051】
リン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル、リン酸トリ(トリフルオロメチル)、リン酸トリ(トリクロロメチル)、リン酸トリ(トリフルオロエチル)、リン酸トリ(トリパーフルオロエチル)、2-エトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン、2-トリフルオロエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン及び2-メトキシエトキシ-1,3,2-ジオキサホスホラン-2-オン等が挙げられる。
ニトリル化合物としては、アセトニトリル等が挙げられる。アミド化合物としては、DMF等が挙げられる。スルホンとしては、ジメチルスルホン及びジエチルスルホン等が挙げられる。
非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
非水溶媒の内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのは、ラクトン化合物、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル及びリン酸エステルであり、更に好ましいのはラクトン化合物、環状炭酸エステル及び鎖状炭酸エステルであり、特に好ましいのは環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合液である。最も好ましいのはエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合液、又は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合液である。
【0053】
非水電解液の電解質濃度としては、特に限定されないが、電解液の取り扱い性及び電池容量の観点から、0.5~5mol/Lであることが好ましく、0.8~3mol/Lであることがより好ましく、1~2mol/Lであることがさらに好ましい。
【0054】
正極活物質層は、正極活物質を含む層である。
正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO2、LiNiO2、LiAlMnO4、LiMnO2及びLiMn2O4等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO4、LiNi1-xCoxO2、LiMn1-yCoyO2、LiNi1/3Co1/3Al1/3O2及びLiNi0.8Co0.15Al0.05O2)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMaM’bM’’cO2(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO4、LiCoPO4、LiMnPO4及びLiNiPO4)、遷移金属酸化物(例えばMnO2及びV2O5)、遷移金属硫化物(例えばMoS2及びTiS2)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリビニルカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
また、正極活物質は、その表面の少なくとも一部が高分子化合物を含む被覆層により被覆された被覆活物質であってもよい。
被覆層としては、上述した被覆負極活物質と同様のものを好適に用いることができる。
【0055】
正極集電体としては、上述した負極の集電体と同様のものを好適に用いることができる。
【0056】
リチウムイオン電池用正極は、正極活物質を用いること以外は、上述したリチウムイオン電池用負極と同様にして作成することができる。
【0057】
本発明のリチウムイオン電池は、上述した作製方法により得られるリチウムイオン電池用負極を用いて対極となる電極を組み合わせて、セパレータと共にセル容器に収容し、その後、電解液を注入し、セル容器を密封する等の方法により作製することができる。
また、集電体の一方の面に正極を作製し、もう一方の面に、上述した作製方法により得られるリチウムイオン電池用負極を作製してバイポーラ(双極)型電極を作製し、バイポーラ(双極)型電極をセパレータと積層する。その後、セル容器に収納し、電解液を注入してセル容器を密封することで作製することができる。
なお、セル容器内に収容する負極とセパレータとして上述した第一、第二又は第三の負極活物質層が形成されたセパレータを用いて、本発明のリチウムイオン電池を作製することもできる。
【実施例】
【0058】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。また、スラリーの目付量は、単位面積あたりの活物質と導電助剤の合計重量を意味する(電解液重量は含まない)。
【0059】
<製造例1:樹脂集電体の作製>
2軸押出機にて、ポリプロピレン[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製]70部、カーボンナノチューブ[商品名:「FloTube9000」、CNano社製]25部及び分散剤[商品名「ユーメックス1001」、三洋化成工業(株)製]5部を200℃、200rpmの条件で溶融混練して樹脂混合物を得た。
得られた樹脂混合物を、Tダイ押出しフィルム成形機に通して、それを延伸圧延することで、膜厚80μmの樹脂集電体を得た。
樹脂集電体は3cm×3cmに切断し、片面にニッケル蒸着を施した後、電流取り出し用の端子(5mm×3cm)を接続した。
【0060】
<製造例2:炭素被覆された珪素系活物質粒子の作製>
酸化珪素粒子(シグマ・アルドリッチジャパン社製、体積平均粒子径1.5μm)を横型加熱炉中に入れ、メタンガスを通気しながら1100℃/1000Pa、平均滞留時間約2時間の化学蒸着操作を行い、炭素含有量が2重量%で、表面が炭素で被覆された珪素系活物質粒子(体積平均粒子径1.5μm)を得た。
【0061】
<製造例3:炭素繊維の作製>
炭素繊維は、Eiichi Yasuda,Asao Oya,Shinya Komura,Shigeki Tomonoh,Takashi Nishizawa,Shinsuke Nagata,Takashi Akatsu、CARBON、50、2012、1432-1434及びEiichi Yasuda,Takashi Akatsu,Yasuhiro Tanabe,Kazumasa Nakamura,Yasuto Hoshikawa,Naoya Miyajima、TANSO、255、2012、254~265頁の製造方法を参考にして以下の方法で製造した。
炭素前駆体として合成メソフェーズピッチAR・MPH[三菱ガス化学(株)製]10重量部とポリメチルペンテンTPX RT18[三井化学(株)製]90重量部を、バレル温度310℃、窒素雰囲気下で一軸押出機を用いて溶融混練し、樹脂組成物を調製した。
上記樹脂組成物を390℃で溶融押出し紡糸した。紡糸した樹脂組成物を電気炉に入れ、窒素雰囲気下270℃で3時間保持し炭素前駆体を安定化させた。ついで、電気炉を1時間かけて500℃まで昇温し、500℃で1時間保持し、ポリメチルペンテンを分解除去した。電気炉を2時間かけて1000℃まで昇温し1000℃で30分間保持し、残った安定化させた炭素前駆体を導電性繊維とした。
得られた導電性繊維90重量部、水500重量部とφ0.1mmのジルコニアボール1000重量部をポットミル容器に入れ5分間粉砕した。ジルコニアボールを分級後、100℃で乾燥し、炭素繊維を得た。
SEMでの測定結果より、得られた炭素繊維の平均繊維径は、0.3μm、平均繊維長は26μm(アスペクト比87)であり、電気伝導度は600mS/cmであった。
【0062】
<製造例4:負極活物質層用スラリー1の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiN(SO2F)2(以下、LiFSIともいう)を2mol/Lの割合で溶解させて作製した電解液12部に製造例2で得られた珪素系活物質粒子8部、導電助剤として製造例3で得られた炭素繊維2部を添加した後、遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで5分間混合して、負極活物質層用スラリー1を作製した。
【0063】
<製造例5:被覆層用高分子化合物溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF407.9部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸242.8部、メチルメタクリレート97.1部、2-エチルヘキシルメタクリレート242.8部、及びDMF116.5部を配合したモノマー配合液と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)1.7部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)4.7部をDMF58.3部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、75℃で反応を3時間継続した。次いで80℃に昇温し反応を3時間継続し樹脂固形分濃度が50重量%の共重合体溶液を得た。これにDMFを789.8部加えて、樹脂固形分濃度が30重量%である被覆層用高分子化合物溶液を得た。
【0064】
<製造例6:炭素系被覆活物質粒子1の作製>
難黒鉛化性炭素粉末[(株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製カーボトロン(登録商標)PS(F)、数平均粒子径18μm]90部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、150rpmで撹拌した状態で、製造例5で得られた被覆層用高分子化合物溶液30部を樹脂固形分として5重量部になるように60分かけて滴下混合し、さらに30分撹拌した。次いで、撹拌を維持したままアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]5重量部を3回に分けて混合し、30分撹拌したままで70℃に昇温し、0.01MPaまで減圧し30分保持した。上記操作により炭素系被覆活物質粒子1を得た。
【0065】
<製造例7:負極活物質層用スラリー2の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiFSIを2mol/Lの割合で溶解させて作製した電解液12部に製造例6で得られた炭素系被覆活物質粒子1を8部、製造例2で得られた珪素系活物質粒子1部、導電助剤として製造例3で得られた炭素繊維1部を添加した後、遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで5分間混合して、負極活物質層用スラリー2を作製した。
【0066】
<製造例8:負極活物質層用スラリー3の作製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiFSIを2mol/Lの割合で溶解させて作製した電解液13部に製造例6で得られた炭素系被覆負極活物質粒子1を10部、導電助剤として製造例3で得られた炭素繊維1部を添加した後、遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで5分間混合して、負極活物質層用スラリー3を作製した。
【0067】
<製造例9:リチウムイオン電池用正極1の作製>
正極活物質粉末(LiNi0.8Co0.15Al0.05O2粉末、体積平均粒子径4μm)100部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、製造例5で得られた被覆層用高分子化合物溶液11.2部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電剤としてアセチレンブラック[電気化学工業(株)製 デンカブラック(登録商標)]6.2部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。得られた粉体を目開き212μmの篩いで分級し、被覆正極活物質を得た。
その後、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiFSIを2mol/Lの割合で溶解させて作製した電解液5部に上記被覆正極活物質を10部、導電助剤として製造例3で得られた炭素繊維1部を添加した後、遊星撹拌型混合混練装置{あわとり練太郎[(株)シンキー製]}を用いて2000rpmで5分間混合して、正極活物質層用スラリーを作製した。
製造例1で得られた樹脂集電体の片面に、得られた正極活物質層用スラリーを目付量が60mg/cm2となるように塗布し、5MPaの圧力で約10秒プレスし、リチウムイオン電池用正極1(29mm×29mm、厚み240μm)を作製した。
【0068】
<製造例10:リチウムイオン電池用正極2の作製>
製造例9で用いた正極活物質層用スラリーを目付量が100mg/cm2となるように塗布した以外は製造例9と同様にしてリチウムイオン電池用正極2(29mm×29mm、厚み390μm)を得た。
【0069】
<製造例11:リチウムイオン電池用正極3の作製>
製造例9で用いた正極活物質層用スラリーを目付量が155mg/cm2となるように塗布した以外は製造例9と同様にしてリチウムイオン電池用正極3(29mm×29mm、厚み600μm)を得た。
【0070】
(実施例1)
[評価用リチウムイオン電池の負極の作製]
製造例1で得られた樹脂集電体の片面に、製造例4で得られた負極活物質層用スラリー1を目付量0.5mg/cm2となるように塗布し、5MPaの圧力で約10秒プレスし、第二の負極活物質層を形成した。別途、アラミド不織布(日本バイリーン製、2415R)上に製造例7で得られた負極活物質層用スラリー2を目付量が20mg/cm2となるように塗布し、5MPaの圧力で約10秒プレスし、第一の負極活物質層(厚み200μm)を形成した。その後、樹脂集電体上に形成された第二の負極活物質層の面上に、第一の負極活物質層を重ねアラミド不織布を剥がした後に、再度1MPaの圧力で約10秒プレスして、集電体と第一の負極活物質層との間に第二の負極活物質層を有するリチウムイオン電池用負極(3cm×3cm)を作製した。
【0071】
[セパレータ本体の製造]
平板状のセルガード3501(PP製、厚さ25μm)を45mm×45mmの正方形に切り出して、セパレータ本体とした。
【0072】
[評価用リチウムイオン電池の作製]
得られたリチウムイオン電池用負極に予め電解液で湿らせたセパレータを乗せ(このときの負極に乗せる面は、セパレータが枠材に貼り合わされている面と逆の面)、この負極とセパレータが一体化したものと、製造例9で得られたリチウムイオン電池用正極1を重ね合わせた。その後、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率1:1)にLiFSIを2mol/Lの割合で溶解させて作製した電解液を注入した。
その後、充放電測定装置「HJ-SD8」[北斗電工(株)製]を用いて、定電流定電圧方式(0.1C)で4.2Vまで充電して、評価用リチウムイオン電池を作製した。
【0073】
(実施例2)
製造例1で得られた樹脂集電体の片面に、製造例7で得られた負極活物質層用スラリー2を目付量20mg/cm2となるように塗布し、5MPaの圧力で約10秒プレスし第一の負極活物質層(厚み200μm)を得た。別途、アラミド不織布(日本バイリーン製、2415R)上に製造例4で得られた負極活物質層用スラリー1を目付量が0.5mg/cm2となるように塗布し、5MPaの圧力で約10秒プレスし、第二の負極活物質層を形成した。その後、樹脂集電体上に形成された第一の負極活物質層の面上に、第二の負極活物質層を重ね、アラミド不織布を剥がした後に、再度1MPaの圧力で約10秒プレスして、リチウムイオン電池用負極(3cm×3cm)を作製した。
上記方法により得られたリチウムイオン電池用負極を用い、実施例1と同様にしてセパレータと製造例9で得られたリチウムイオン電池用正極1とを組み合わせて電解液を注入し、充電をすることにより、第一の負極活物質層とセパレータとの間に第二の負極活物質層を有する評価用リチウムイオン電池を作製した。
【0074】
(実施例3)
製造例1で得られた樹脂集電体の片面に、製造例4で得られた負極活物質層用スラリー1を目付量0.25mg/cm2となるように塗布し、5MPaの圧力で約10秒プレスし、第二の負極活物質層を形成した。
別途、アラミド不織布(日本バイリーン製、2415R)上に製造例7で得られた負極活物質層用スラリー2を目付量20mg/cm2となるように塗布し、5MPaの圧力で10秒プレスし、第一の負極活物質層(厚み200μm)を得た。さらに、アラミド不織布(日本バイリーン製、2415R)上に、製造例4で得られた負極活物質層用スラリー1を目付量0.25mg/cm2となるように塗布し、第三の負極活物質層を得た。
樹脂集電体上に形成された第二の負極活物質層の面上に、第一の負極活物質層を重ね、上記アラミド不織布を第一の負極活物質層から剥がした。次いで、第一の負極活物質層の第二の負極活物質層を有する面と反対側の面上に、第三の負極活物質層を重ね、上記アラミド不織布を第一の負極活物質層から剥がした。その後、再度1MPaの圧力で約10秒プレスして、リチウムイオン電池用負極(3cm×3cm)を作製した。
上記方法により得られたリチウムイオン電池用負極を用い、実施例1と同様にしてセパレータと製造例9で得られたリチウムイオン電池用正極1とを組み合わせて電解液を注入し、充電をすることにより、集電体と第一の負極活物質層との間に第二の負極活物質層を有し、第一の負極活物質層とセパレータとの間に第三の負極活物質層を有する評価用リチウムイオン電池を作製した。
【0075】
(実施例4)
製造例4で得られた負極活物質層用スラリー1を目付量5mg/cm2となるように塗布したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池用負極を作製した。
上記方法により得られたリチウムイオン電池用負極と、製造例10で得られたリチウムイオン電池用正極2とを用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用リチウムイオン電池を作製した。
【0076】
(実施例5)
製造例4で得られた負極活物質層用スラリー1を目付量0.15mg/cm2となるように塗布したこと以外は、実施例1と同様にして評価用リチウムイオン電池を作製した。
【0077】
(実施例6)
製造例7で得られた負極活物質層用スラリー2を製造例8で得られた負極活物質層用スラリー3に変更したこと以外は、実施例1と同様にして評価用リチウムイオン電池を作製した。
【0078】
(比較例1)
製造例1で得られた樹脂集電体の片面に、製造例7で得られた負極活物質層用スラリー2を目付量20mg/cm2となるように塗布し、5MPaの圧力で約10秒プレスして厚み200μmの負極活物質層を1層のみ形成し、リチウムイオン電池用負極(3cm×3cm)を作製した。
上記方法により得られたリチウムイオン電池用負極を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用リチウムイオン電池を作製した。
【0079】
(比較例2)
製造例4で得られた負極活物質層用スラリー1を目付量8mg/cm2となるように塗布したこと以外は、実施例1と同様にして評価用リチウムイオン電池用負極を作製した。
上記方法により得られたリチウムイオン電池用負極と、製造例11で得られたリチウムイオン電池用正極3とを用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用リチウムイオン電池を作製した。
【0080】
(比較例3)
製造例4で得られた負極活物質層用スラリー1を目付量0.05mg/cm2となるように塗布したこと以外は、実施例1と同様にして評価用リチウムイオン電池を作製した。
【0081】
(釘刺し試験)
実施例1~6及び比較例1~3で得られた評価用リチウムイオン電池の負極が形成された面の中央部に、5mm/sの速度で、釘(3mm径、製品名リチウムイオンバッテリー釘刺し試験機、株式会社山本金属製作所社製)を差し込み、負極側表面の釘を刺し込んだ部分の周囲5mmにおける最高到達温度を測定した。
最高到達温度が80℃以下のものを〇と評価し、最高到達温度が80℃を超えたものを×と評価した。
【0082】
【0083】
実施例1~6に係るリチウムイオン電池では、釘刺し試験における最高到達温度が80℃以下であり、発熱を抑制できることが確認された。実施例1~6に係るリチウムイオン電池では、短絡が発生した部位において導電パスが好適に切断されて、発熱が抑制されたものと考えられる。特に、実施例3に係るリチウムイオン電池では、集電体と第一の負極活物質層との間に第二の負極活物質層を有し、第一の負極活物質層とセパレータとの間に第三の負極活物質層を有しているため、短絡が発生した部位において導電パスがより好適に切断されて、発熱が抑制されたものと考えられる。
一方、比較例1及び3に係るリチウムイオン電池では、短絡が発生した部位において導電パスが十分に切断されず、発熱が抑制されなかったと考えられる。
また、比較例2に係るリチウムイオン電池では、膜厚が厚く、第二の負極活物質層に含まれる珪素系活物質量が多すぎたために、第二の負極活物質層表面の固体電解質界面の分解反応に伴う発熱により、釘刺し試験における最高到達温度が高くなったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のリチウムイオン電池は、特に、携帯電話、パーソナルコンピューター及びハイブリッド自動車、電気自動車用に用いられるリチウムイオン電池として有用である。