(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/34 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
E02D5/34 Z
(21)【出願番号】P 2018145682
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 定幸
(72)【発明者】
【氏名】成原 弘之
(72)【発明者】
【氏名】富田 菜都美
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-016787(JP,A)
【文献】特開2003-313861(JP,A)
【文献】特開2003-306934(JP,A)
【文献】特開2006-037492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部コンクリートの上に前記下部コンクリートとは異なる種類のコンクリートからなる上部コンクリートを打ち継ぐコンクリート構造物の構築方法であって、
下部コンクリートから上部コンクリートへの切り替えが完了する位置である切替完了高さの下方に下部コンクリートの打設が完了する位置である先行打設高さを設定し、当該先行打設高さまで下部コンクリートを打設する第一工程と、
トレミー管の下端が前記先行打設高さの下方に位置した状態で上部コンクリートの供給を開始し、前記切替完了高さまで上部コンクリートを供給する第二工程と、
前記切替完了高さの上方に上部コンクリートを打設する第三工程と、を備えており、
前記先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートと同等の体積の下部コンクリートが、前記先行打設高さの下側から前記先行打設高さよりも上側の前記トレミー管を中心とした環状領域に移動すると仮定し、前記環状領域の上端が前記切替完了高さ以下に位置するように、前記先行打設高さを設定することを特徴とするコンクリート構造物の構築方法。
【請求項2】
前記環状領域が主筋、帯筋、あるいは鉄筋籠の形状保持筋などの外側部分であることを特徴とする、請求項
1に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項3】
場所打ちコンクリート杭を施工する場合において、
前記先行打設高さH
Lを式1により算出することを特徴とする、請求項
1または請求項
2に記載のコンクリート構造物の構築方法。
H
L=H-h ・・・ 式1
h=V/S
V=V1+V2
S=π/4×(φ
o
2-φ
i
2)
V1=πφ
r
2/4×Δh
V2=2/3×πφ
r
2/4×Δh
0
ここで、
H
:切替完了高さ
h
:環状領域の高さ
V
:先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの体積
V1
:先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の体積
V2
:先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの先端部分の体積
S
:環状領域の断面積
φ
o :場所打ちコンクリート杭の外径
φ
i :環状領域の内径
φ
r :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の直径
Δh
:第二工程において下部コンクリートに挿入するトレミー管の深さ
Δh
0:第二工程において供給された上部コンクリートの下端からトレミー管先端までの距離である下部流出深さ
【請求項4】
前記下部流出深さΔh
0が、0mm~800mmの範囲内であることを特徴とする、請求項
3に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項5】
前記円柱部分の直径φ
rおよび前記環状領域の内径φ
iが1000mm~2000mmの範囲内であることを特徴とする、請求項
3または請求項
4に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【請求項6】
杭の先端側に向かうに従って拡径する拡径部を有する場所打ちコンクリート杭を施工する場合において、前記拡径部の高さ方向中間部に前記切替完了高さを設定することを特徴とする、請求項
1に記載のコンクリート構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、場所によって作用応力が異なり、必要とされる設計耐力が場所ごとに異なっている。例えば、場所打ちコンクリート杭は、通常、上部ほど地震時の応力が大きくなる。そのため、場所打ちコンクリート杭を設計する場合には、杭頭部において必要な曲げ耐力およびせん断耐力を確保できるコンクリート強度および断面寸法により、杭全体を設計するのが一般的である。
ところが、曲げ応力およびせん断応力が最大となる杭頭部に必要な設計耐力は、その他の部分において必要な設計耐力を大きく上回っている場合がある。そのため、杭頭部で杭全体のコンクリート強度等を設計すると、コスト高になるおそれがある。
そのため、特許文献1では、杭体底部から、杭体中間部、杭体頭部に向かうに従ってコンクリート中のセメント量を増加させることで、部位毎に必要な強度を確保できる場所打ちコンクリート杭が開示されている。特許文献1では、場所打ちコンクリート杭のコンクリートの配合を変化させる計画高さ(例えば、杭体底部と杭体中間部との境界)よりも2mほど下部から配合を変化させたコンクリートを打設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
場所打ちコンクリート杭では、トレミー管の先端を既打設コンクリートに挿入した状態で打設するため、既打設コンクリートは後から打設されたコンクリートによって周囲に押し広げられる。押し広げられたコンクリートの挙動は、コンクリート構造物の断面寸法や、鉄筋等の補強材の配置、コンクリート打設に使用するトレミー管の既打設コンクリートへの挿入深さ等によって変化する。そのため、打設コンクリートの配合を切り替えるタイミングを、コンクリート配合の変化点から一定の深さで設定すると、コンクリートの変化点が必ずしも設計通りに形成されるとは限らない。
本発明は、前記の問題点を解決することを目的とするものであり、強度が異なるコンクリートを高さ方向で連続して打設する場合において、打設コンクリートの強度の変化点を合理的に設定するコンクリート構造物の構築方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、下部コンクリートの上に下部コンクリートとは異なる種類のコンクリートからなる上部コンクリートを打ち継ぐコンクリート構造物の構築方法である。このコンクリート構造物の構築方法は、所定高さまで下部コンクリートを打設する第一工程と、前記下部コンクリートのコンクリート打設面よりも下方から上部コンクリートの打設を開始して、前記下部コンクリートの一部を切替完了高さまで押し上げる第二工程と、前記切替完了高さの上方に前記上部コンクリートを打設する第三工程とを備えている。なお、本明細書において「異なる種類のコンクリート」とは、流動性、強度、配合、使用材料等が異なるコンクリートをいう。第一工程では、下部コンクリートから上部コンクリートへの切り替えが完了する位置である切替完了高さの下方に下部コンクリートの打設が完了する位置である先行打設高さを設定し、当該先行打設高さまで下部コンクリートを打設する。第二工程では、トレミー管の下端が前記先行打設高さの下方に位置した状態で上部コンクリートの供給を開始し、前記切替完了高さまで上部コンクリートを供給する。また、第二工程において前記先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートと同等の体積の下部コンクリートが、前記先行打設高さの下側から前記先行打設高さよりも上側の前記トレミー管を中心とした環状領域に移動すると仮定し、前記環状領域の上端が前記切替完了高さ以下に位置するように、前記先行打設高さを設定する。
請求項2に記載の発明では、前記環状領域を主筋、帯筋、あるいは鉄筋籠の形状保持筋などの外側部分と仮定して先行打設高さを設定する。
【0006】
請求項3に記載の発明は、場所打ちコンクリート杭を施工する場合において、前記先行打設高さHLを式1により算出するものである。
HL=H-h ・・・ 式1
h=V/S
V=V1+V2
S=π/4×(φo
2-φi
2)
V1=πφr
2/4×Δh
V2=2/3×πφr
2/4×Δh0
ここで、
H :切替完了高さ
h :環状領域の高さ
V :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの体積
V1 :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の体積
V2 :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの先端部分の体積
S :環状領域の断面積
φo :場所打ちコンクリート杭の外径
φi :環状領域の内径
φr :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の直径
Δh :第二工程において下部コンクリートに挿入するトレミー管の深さ
Δh0:第二工程において供給された上部コンクリートの下端からトレミー管先端までの距離である下部流出深さ
【0007】
請求項4に記載の発明は、前記下部流出深さΔh0を0mm~800mmの範囲内とするものである。
また、請求項5に記載の発明は、前記円柱部分の直径φrおよび環状領域の内径φiを1000mm~2000mmの範囲内とするものである。
さらに請求項6に記載の発明は、杭の先端側に向かうに従って拡径する拡径部を有する場所打ちコンクリート杭を施工する場合において、前記拡径部の高さ方向中間部に前記切替完了高さを設定するものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1のコンクリート構造物の構築方法によれば、コンクリート構造物に作用する応力の推定値に応じて設定された切替完了高さにおいて、下部コンクリートと上部コンクリートとが切り替えられているため、合理的なコンクリート構造物を構築できる。また、先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートにより先行打設高さの下側から上側に移動する下部コンクリートの量を仮定して先行打設高さを設定するため、設計上の切替完了高さの近傍で、コンクリートの切り替えを完了できる。そのため、強度が異なるコンクリートを高さ方向で連続して打設する場合において、打設コンクリートの強度の変化点を合理的に設定することが可能となる。その結果、必要な耐力を有したコンクリート構造物を経済的に施工できる。
なお、下部コンクリートは、先行打設高さの上側において鉄筋の外周側を移動することが予想されるため、主筋、帯筋、あるいは鉄筋籠の形状保持筋などの外側部分を環状領域と仮定する請求項2のコンクリート構造物の構築方法によれば、切替完了高さをより合理的に算出できる。
請求項3のコンクリート構造物の構築方法によれば、場所打ちコンクリート杭の形状に応じた先行打設高さを設定できる。
請求項4のコンクリート構造物の構築方法によれば、トレミー管の先端よりも下側の下部流出深さΔh0を0mm~800mmの範囲内とすることで、先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの先端部分の体積を算出することができ、また、これを利用することで先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの体積を合理的に算出することが可能となった。
請求項5のコンクリート構造物の構築方法によれば、先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の直径φr1000mm~2000mmの範囲内として円柱部分の体積を算出し、これを利用することで先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの体積を合理的に算出することが可能となった。
請求項6のコンクリート構造物の構築方法によれば、拡径部を有する場所打ちコンクリート杭について、拡径部の高さ方向中間部に切替完了高さを設定することで、必要な耐力を有した経済的なコンクリート構造物を施工することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第一実施形態に係る場所打ちコンクリート杭の一部を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す場所打ちコンクリート杭の施工状況を示す断面図であって、(a)は第一工程、(b)は第二工程、(c)は第三工程である。
【
図3】先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートを示す斜視図である。
【
図5】試験施工における場所打ちコンクリート杭の断面図である。
【
図6】第二実施形態に係る場所打ちコンクリート杭の一部を示す断面図である。
【
図7】他の形態のかかる場所打ちコンクリート杭の一部を示す図であって、(a)は平断面図、(b)は縦断面図である。
【
図8】その他の形態のかかる場所打ちコンクリート杭の一部を示す図であって、(a)は平断面図、(b)は縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第一実施形態>
第一実施形態では、場所打ちコンクリート杭1において、合理的な杭の構築を目的として、強度の異なる二種類のコンクリートを深さ方向に連続して打設する場合について説明する(
図1参照)。すなわち、地震時に応力が大きくなる杭上部のコンクリート強度を高くするために、下部コンクリート2の上に下部コンクリート2よりも設計基準強度が高い上部コンクリート3を打ち継ぐ場所打ちコンクリート杭1(コンクリート構造物)の構築方法である。本実施形態では、杭径が1.3mの場所打ちコンクリート杭1を施工する。場所打ちコンクリート杭1には、内径が1.0mの鉄筋かご4を配筋する。また、下部コンクリート2の設計基準強度Fcを30N/mm
2、上部コンクリート3の設計基準強度を80N/mm
2とする。
本実施形態のコンクリート構造物の構築方法は、所定高さ(以下、「先行打設高さ」という)まで下部コンクリート2を打設する第一工程(
図2(a)参照)と、下部コンクリート2のコンクリート打設面よりも下方から上部コンクリート3の打設を開始して下部コンクリート2の一部を切替完了高さまで押し上げる第二工程(
図2(b)参照)と、切替完了高さの上方に上部コンクリート3を打設する第三工程(
図2(c)参照)とを備えている。
【0011】
第一工程では、
図2(a)および(b)に示すように、先行打設高さH
Lまで下部コンクリート2を打設する。下部コンクリート2は、地中に形成された掘削孔6内に挿入されたトレミー管5を利用して掘削孔6の下端から供給する。トレミー管5は、コンクリート打設面2aの上昇に伴って上昇させる。先行打設高さH
Lは、下部コンクリート2の充填が完了する位置である切替完了高さHの下方に設定する。すなわち、場所打ちコンクリート杭1に作用する応力の推定値(設計値)から切替完了高さH(コンクリート強度を高くする範囲)を設定し、この切替完了高さHにおいてコンクリートが完全に切り替えられるように、先行打設高さH
Lを設定する。
第二工程では、
図2(b)に示すように、トレミー管5の下端が先行打設高さH
Lの下方に位置した状態で上部コンクリート3の供給を開始し、トレミー管5を引き上げつつ切替完了高さHまで上部コンクリート3を供給する。上部コンクリート3を先行打設高さH
Lよりも下側に供給すると、上部コンクリート3が下部コンクリート2を押しのけながら注入される。上部コンクリート3は、下部コンクリート2内において供給開始時点のトレミー管5の直下に半楕円状または半円状(先端部分31)に供給された後、先端部分31の直上に上部コンクリート3が円柱状(円柱部分32)に供給される(
図2(c)参照)。一方、下部コンクリート2は、上部コンクリート3が供給されることによって、先行打設高さH
Lの下側に供給された上部コンクリート3と同等の体積の下部コンクリート2が先行打設高さH
Lの下側から先行打設高さよりも上側に移動する。このとき、先行打設高さH
Lの上側に移動した下部コンクリート2は、先行打設高さH
Lよりも上側の鉄筋籠の形状保持筋の外側部分(トレミー管5を中心とした環状領域21)に移動する。
図2(c)に示すように、先行打設高さH
Lの上側に移動した下部コンクリート2(環状領域21)の上端は、切替完了高さH以下に位置する。
第三工程では、既打設コンクリート(上部コンクリート3)に下端を挿入した状態で、トレミー管5を引き上げつつ切替完了高さHの上方に上部コンクリート3を打設する。
【0012】
先行打設高さH
Lは式1により算出する。式1は、場所打ちコンクリート杭1の作用応力に基づいて設定された切替完了高さHから、上部コンクリート3の供給により上側に押し上げられる下部コンクリート2の環状領域21の高さhを差し引くことにより先行打設高さH
Lを算出するものである。環状領域の高さhは、先行打設高さH
Lよりも下側に供給された上部コンクリート3の体積Vが、環状領域21に移動した下部コンクリート2の体積であるとして、環状領域21の体積から算出する。ここで、先行打設高さH
Lよりも下側に供給された上部コンクリート3は、
図3に示すように、先端部分31と円柱部分32の体積の合計とする。一方、環状領域21は、
図4に示すように、内径φ
i、外径φ
0の円筒状体とする。本実施形態では、下部流出深さΔh
0を0mm~800mmの範囲内、好ましくは0mm~500mmの範囲内とし、円柱部分の直径φ
rおよび環状領域21の内径φ
iを1000mm~2000mmの範囲内とする(
図3参照)。なお、下部流出深さΔh
0、円柱部分の直径φ
rおよび環状領域21の内径φ
iは、限定されるものではなく、適宜設定すればよい。
H
L=H-h ・・・ 式1
h=V/S
V=V1+V2
S=π/4×(φ
o
2-φ
i
2)
V1=πφ
r
2/4×Δh
V2=2/3×πφ
r
2/4×Δh
0
H
:切替完了高さ
h
:環状領域の高さ
V
:先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの体積
V1
:先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の体積
V2
:先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの先端部分の体積
S
:環状領域の断面積
φ
o :場所打ちコンクリート杭の外径
φ
i :環状領域の内径
φ
r :先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリートの円柱部分の直径
Δh
:第二工程において下部コンクリートに挿入するトレミー管の深さ
Δh
0:第二工程において供給された上部コンクリートの下端からトレミー管先端までの距離である下部流出深さ
【0013】
以上、本実施形態のコンクリート構造物の構築方法によれば、設計上の切替完了高さの近傍で、コンクリートの切り替えを完了させることができるため、強度が異なるコンクリートを高さ方向で連続して打設する場合において、打設コンクリートの強度の変化点を合理的に設定することが可能となる。その結果、必要な耐力を有した場所打ちコンクリート杭1を経済的に施工することができる。
下部コンクリート2は、先行打設高さの上側において鉄筋籠の外周側を移動することが予想されるため、鉄筋籠の形状保持筋の外側部分を環状領域と仮定することで、切替完了高さをより合理的に算出することができる。
【0014】
以下、式1を利用して先行打設高さHLを算出した計算例を示す。本計算例では、下部コンクリート2に挿入するトレミー管5の深さΔhを1.0mとし、表1に示すように、杭の外径φ0を0.7m~3.3mの範囲内、環状領域の内径φiを0.4、0.7、1.0、1.2または1.3mとして計算を行い、環状領域の高さhを算出した。表1に計算結果を示す。
【0015】
【0016】
次に、場所打ちコンクリート杭1の試験施工を行い、本実施形態のコンクリート部材の構築方法の評価を行った。
場所打ちコンクリートは、杭径φ
0=1.3m、鉄筋かごの内径φ
i=1.0mとし、設計基準強度Fcを30N/mm
2の下部コンクリート2の上に設計基準強度を80N/mm
2の上部コンクリート3を打ち継いだ。
場所打ちコンクリートの施工は、まず、下部コンクリート2を2.8mの高さまで打設した(第一工程)。次に、下部コンクリート2にトレミー管5の先端を1m挿入した状態(Δh=1.0m)で上部コンクリート3の供給を開始し、トレミー管5を引き上げながら、打設面が高さ6.0mになるまで上部コンクリート3を打設した(第二工程および第三工程)。
施工後の場所打ちコンクリート杭1を切断して断面を確認すると、
図5に示すように、4.2m位置(切替完了高さH=4.2m)において、コンクリートが上部コンクリート3に切り替わった。すなわち、環状領域の高さhは1.4mであった。
表1の計算例において、杭の外径φ
0=1.3m、鉄筋かごの内径φ
i=1.0mでは、環状領域の高さhが1.9mであった。したがって、式1によって先行打設高さH
Lを算出すれば、実施工に比べて環状領域の高さhを大きくすることができ、安全側で設定することができる。
【0017】
<第二実施形態>
第二実施形態では、第一実施形態と同様に、場所打ちコンクリート杭1において、合理的な杭の構築を目的として、異なる強度のコンクリートを深さ方向に連続して打設する場合について説明する。
第二実施形態では、
図6に示すように、杭の先端側に向かうに従って拡径する拡径部7を有する場所打ちコンクリート杭1aを施工する点で、杭全長にわたって杭径が同一の第一実施形態と異なっている。
本実施形態では、拡径部7の高さ方向中間部に切替完了高さを設定する。先行打設高さH
Lは式1により算出する。このとき、先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリート3の体積(上部コンクリートに置換される下部コンクリートの体積と等しくなる環状領域21の体積)V5を、拡径部7の傾斜を考慮して算出する。すなわち、体積V5を円錐台(上部直径φ
H2,下部直径φ
H2+2ΔH×sinθ,高さΔH)の体積V3から円柱(直径φi,高さΔH)の体積V4を差し引いて算出し、それが先行打設高さよりも下側に供給した上部コンクリート3の体積Vと等しいとすることにより、先行打設高さを求めることができる。
この他の第二実施形態のコンクリート構造物の構築方法の詳細は、第一実施形態で示したコンクリート構造物の構築方法と同様なため、詳細な説明は省略する。
【0018】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、円柱状の場所打ちコンクリート杭1を構築する場合について説明したが、コンクリート構造物は限定されるものではない。例えば、
図7に示すように、矩形断面の壁杭1bであってもよい。壁杭1bでは、置換部分の平面をWix×Wiyの長方形として考慮し、置換部移動後の平面をWox×Woy- Wix×Wiyとして考慮すればよい。置換部分の内寸法Wix・Wiyは鉄筋籠の内径として、上限を設けてもよい。
また、前記実施形態では、一本の場所打ちコンクリート杭1に対して、一本のトレミー管5により施工する場合について説明したが、トレミー管5の本数は限定されるものではなく、例えば、
図8に示すように、複数本(図面では二本)のトレミー管5を利用してもよい。トレミー管5を二本使用する場合は、トレミー管5ごとに置換部分を考慮して検討する。各トレミー管5により打設された上部コンクリート3同士がラップする場合には、その部分を2重に考慮しないようにして体積Vを算出する。
前記実施形態では、環状領域を鉄筋籠の形状保持筋の外側部分としたが、環状領域は鉄筋籠の形状保持筋の外側部分に限定されるものではなく、例えば、主筋、帯筋などの鉄筋の外側部分(被り部分)であってもよい。また、環状領域は必ずしも鉄筋等の被り部分である必要はない。
前記実施形態では、上部コンクリート3として、下部コンクリート2よりも設計基準強度が高いコンクリートを打設するものとしたが、上部コンクリート3は、例えば、下部コンクリート2よりも流動性が高い等、下部コンクリート2とは種類が異なるコンクリートであれば限定されない。
また、前記実施形態では、トレミー管5を引き上げつつコンクリートを打設する場合について説明したが、コンクリートは必ずしもトレミー管5を引き上げながら打設する必要はなく、トレミー管5を固定した状態で打設してもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 場所打ちコンクリート杭
2 下部コンクリート
3 上部コンクリート
4 鉄筋かご
5 トレミー管
6 掘削孔
7 拡径部