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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】電気光学導波路素子及び光モジュール
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/035 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
G02F1/035
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018158479
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2020034610
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-13
(73)【特許権者】
【識別番号】301005371
【氏名又は名称】日本ルメンタム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 憲介
(72)【発明者】
【氏名】入江 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏明
(72)【発明者】
【氏名】福井 孝昌
(72)【発明者】
【氏名】田中 滋久
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0170820(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0067771(US,A1)
【文献】国際公開第2014/156480(WO,A1)
【文献】特表2006-515082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-7/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ導電性を有し間隙を設けて対向配置された第1屈折率の下部高屈折率層及び第2屈折率の上部高屈折率層と、電気光学効果を生じる材料からなる前記第1屈折率及び前記第2屈折率より低い第3屈折率の低屈折率層で形成され前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層に接触して前記間隙に設けられたスロット部とを有するスロット導波路を備え、
前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層の一方は、前記スロット導波路の伝送方向に交差する幅方向に関し、前記スロット部との接触部分の両側に張り出した張り出し部を有し、
前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層の他方は、前記幅方向の断面形状にて前記各張り出し部に対向する張り出し部を有
前記スロット導波路は、前記間隙に、前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層の少なくともいずれか一つの前記張り出し部に接するクラッド層を備え、
前記クラッド層の屈折率は、前記第3屈折率より低いこと、
を特徴とする電気光学導波路素子。
【請求項2】
請求項1に記載の電気光学導波路素子において、
前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層はそれぞれ前記張り出し部を有し、前記下部高屈折率層の前記張り出し部と前記上部高屈折率層の前記張り出し部とが互いに対向する部分を有すること、
を特徴とする電気光学導波路素子。
【請求項3】
請求項2に記載の電気光学導波路素子において、
前記スロット部は、当該スロット部に対応した幅を有し前記伝送方向に伸びるストリップ状の前記低屈折率層であり、
前記下部高屈折率層と前記上部高屈折率層との前記間隙は、前記スロット部との前記接触部分とその両側の前記張り出し部とで等しいこと、
を特徴とする電気光学導波路素子。
【請求項4】
請求項3に記載の電気光学導波路素子において、
前記クラッド層は、前記スロット部を構成する前記低屈折率層の両側面に接すること、
を特徴とする電気光学導波路素子。
【請求項5】
請求項2に記載の電気光学導波路素子において、
前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層のそれぞれにて、前記スロット部との前記接触部分は、互いに対向して前記伝送方向に伸びるリブ型に形成されていること、
を特徴とする電気光学導波路素子。
【請求項6】
請求項5に記載の電気光学導波路素子において、
前記低屈折率層は前記スロット部より大きな幅を有すること、
を特徴とする電気光学導波路素子。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載の電気光学導波路素子において、
前記下部高屈折率層より低い電気抵抗を有し当該下部高屈折率層と電極とを電気的に接続する下部コンタクト領域と、
前記上部高屈折率層より低い電気抵抗を有し当該上部高屈折率層と電極とを電気的に接続する上部コンタクト領域と、をさらに備え、
前記下部コンタクト領域及び前記上部コンタクト領域は、前記幅方向に関し前記スロット部との間に間隔を有した位置にて、前記下部高屈折率層又は前記上部高屈折率層に接触して配置されること、
を特徴とする電気光学導波路素子。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の電気光学導波路素子において、
前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層の前記スロット部との前記接触部分は互いに平行に対向し、
前記張り出し部の前記方向の寸法は、電圧を印加されて前記下部高屈折率層と前記上部高屈折率層との間に生じる電界に関し、前記スロット部の前記幅方向の中央部と比較した端部での電界強度の低下率を所定の許容値とするように定められること、
を特徴とする電気光学導波路素子。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1つに記載の電気光学導波路素子と、
前記電気光学導波路素子と光学的に接続された光源と、
前記電気光学導波路素子を透過した光を伝達する媒体と、を備えたことを特徴とする光モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スロットに電気光学効果を生じる材料を配したスロット導波路を備えた電気光学導波路素子、及びそれを用いた光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
スロット導波路は、高屈折率媒質により狭い低屈折率領域が挟まれる構造をもつ導波路であり、サブ波長領域であるスロット部に光を強く閉じ込めることができる。
【0003】
下記特許文献1には、高屈折率媒質として2つのシリコン層を備え、それらの間に低屈折率媒質として強誘電体層が挟まれた積層構造のスロット導波路が開示されている。当該積層構造では、2つの高屈折率層とこれらに挟まれたスロット部の低屈折率層とが実質同一の幅を有し、通常の矩形導波路の断面形状と同様、各層の側面が共通の垂直面を形成する。
【0004】
下記特許文献2に開示されるスロット導波路は、それぞれ導電性を有するようにドープされた半導体材料で形成され基板上に水平に並行配置された高屈折率媒質の2つの導波路と、当該2つの導波路の間に縦方向に形成されるスロットに低屈折率媒質として挟まれたニオブ酸リチウムとを有する。当該構造では、高屈折率媒質の導波路の上面とスロットに挟まれた低屈折率媒質の上面とが共通の水平面を形成する。
【0005】
なお、下記特許文献3には、第1の導電性のシリコンからなる本体領域、当該本体領域と重なりを有した第2の導電性のシリコンからなるゲート領域、及びこれらの領域の間に接するように挿入された誘電層により構成された電気光学変調器が開示されている。ここに開示された導波路では、中央の誘電体層の厚みは非常に薄いため、スロットモードは存在せず、高屈折率領域に導波光が分布する。ちなみに、当該導波路では、中央の誘電体層の厚みが非常に薄いため、動作電圧を低減することは可能であるが、高屈折率領域を高濃度にドープしてキャリア密度を高める必要があるため、キャリアによる光吸収による光損失が増加し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2015/0298161号明細書
【文献】米国特許第7970241号明細書
【文献】特表2006-515082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高屈折率媒質間にスロット部として電気光学効果を生じる材料を配してスロット導波路を構成し、2つの高屈折率媒質に電位差を設けて発生する電界によりスロット部に屈折率の変化を起こさせる電気光学導波路素子において、一層の低電圧駆動が望まれる。
【0008】
この点に関し、平行配置した2つの高屈折率層の間のスロットに生じる導波光の電界は、光閉じ込めの端効果により、高/低屈折率層の界面と平行な方向に沿って中央部に比較して端部にて強度が低下する。よって、2つの高屈折率層と低屈折率層とが側面を揃えて積層されたスロット導波路では、ガウスの法則に基づく低屈折率層での電界増強というスロット導波路の効果が弱められてしまう。そのため、当該構成のスロット導波路を用いて導波光の位相変調を行う電気光学導波路素子は、スロット部をなす低屈折率層への導波光の閉じ込めの効果が低下し、ひいては位相変調効率を増大させて駆動電圧を低減するという効果が低下する問題を有する。また、高屈折率層に印加する変調電気信号または直流電気バイアスが生ずる電圧により低屈折率層に生じる電界も平行平板コンデンサの端効果により端部にて強度が低下することも、駆動電圧の低減に不利である。
【0009】
ここで、単一横モード導波光を保持する電気光学導波路を位相変調部とする変調素子は今日の大容量伝送に欠くべからざるデバイスである。当該素子では、単一横モード導波光のみを伝搬させるためにスロット導波路の幅が例えば、特許文献2に示されるように1ミクロンメートル(μm)以下に低減され得る。特に、このようにスロット導波路の幅を小さくする場合、上述の端効果の影響が相対的に高まるため、上記問題が顕著となる。
【0010】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、位相変調効率が高く低振幅電圧で動作する電気光学導波路素子及び光モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る電気光学導波路素子は、それぞれ導電性を有し間隙を設けて対向配置された第1屈折率の下部高屈折率層及び第2屈折率の上部高屈折率層と、電気光学効果を生じる材料からなる前記第1屈折率及び前記第2屈折率より低い第3屈折率の低屈折率層で形成され前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層に接触して前記間隙に設けられたスロット部とを有するスロット導波路を備え、前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層の一方は、前記スロット導波路の伝送方向に交差する幅方向に関し、前記スロット部との接触部分の両側に張り出した張り出し部を有し、前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層の他方は、前記幅方向の断面形状にて前記各張り出し部に対向する部分を有する。
【0012】
(2)上記(1)に記載の電気光学導波路素子において、前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層はそれぞれ前記張り出し部を有し、前記下部高屈折率層の前記張り出し部と前記上部高屈折率層の前記張り出し部とが互いに対向する部分を有する構成とすることができる。
【0013】
(3)上記(2)に記載の電気光学導波路素子において、前記スロット部は、当該スロット部に対応した幅を有し前記伝送方向に伸びるストリップ状の前記低屈折率層であり、前記下部高屈折率層と前記上部高屈折率層との前記間隙は、前記スロット部との前記接触部分とその両側の前記張り出し部とで等しい構成とすることができる。
【0014】
(4)上記(3)に記載の電気光学導波路素子において、前記張り出し部が対向する前記間隙に、前記スロット部を構成する前記低屈折率層の両側面に接して当該低屈折率層より屈折率が低いクラッド層が配置される構成とすることができる。
【0015】
(5)上記(2)に記載の電気光学導波路素子において、前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層のそれぞれにて、前記スロット部との前記接触部分は、互いに対向して前記伝送方向に伸びるリブ型に形成されている構成とすることができる。
【0016】
(6)上記(5)に記載の電気光学導波路素子において、前記低屈折率層は前記スロット部より大きな幅を有し、前記張り出し部と前記低屈折率層とが対向する間隙に、当該低屈折率層より屈折率が低いクラッド層が配置される構成とすることができる。
【0017】
(7)上記(1)~(6)に記載の電気光学導波路素子において、前記下部高屈折率層より低い電気抵抗を有し当該下部高屈折率層と電極とを電気的に接続する下部コンタクト領域と、前記上部高屈折率層より低い電気抵抗を有し当該上部高屈折率層と電極とを電気的に接続する上部コンタクト領域と、をさらに備え、前記下部コンタクト領域及び前記上部コンタクト領域は、前記幅方向に関し前記スロット部との間に間隔を有した位置にて、前記下部高屈折率層又は前記上部高屈折率層に接触して配置される構成とすることができる。
【0018】
(8)上記(1)~(7)に記載の電気光学導波路素子において、前記下部高屈折率層及び前記上部高屈折率層の前記スロット部との前記接触部分は互いに平行に対向し、前記張り出し部の前記横方向の寸法は、電圧を印加されて前記下部高屈折率層と前記上部高屈折率層との間に生じる電界に関し、前記スロット部の前記幅方向の中央部と比較した端部での電界強度の低下率を所定の許容値とするように定めることができる。
【0019】
(9)本発明に係る光モジュールは、上記(1)~(8)のいずれか1つに記載の電気光学導波路素子と、前記電気光学導波路素子と光学的に接続された光源と、前記電気光学導波路素子を透過した光を伝達する媒体と、を備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、位相変調効率が高く低振幅電圧で動作する電気光学導波路素子及び光モジュールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施形態に係る電気光学導波路素子の模式的な垂直断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る電気光学導波路素子の模式的な垂直断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る電気光学導波路素子の主な製造工程での模式的な垂直断面図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る電気光学導波路素子の主な製造工程での模式的な垂直断面図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る電気光学導波路素子の主な製造工程での模式的な垂直断面図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係る電気光学導波路素子の主な製造工程での模式的な垂直断面図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る電気光学導波路素子の主な製造工程での模式的な垂直断面図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係る電気光学導波路素子の主な製造工程での模式的な垂直断面図である。
図9】本発明の第2の実施形態に係る電気光学導波路素子の主な製造工程での模式的な垂直断面図である。
図10】本発明の第3の実施形態に係る電気光学導波路素子の模式的な垂直断面図である。
図11】本発明の第3の実施形態に係る電気光学導波路素子の模式的な垂直断面図である。
図12】本発明の第4の実施形態に係る電気光学導波路素子の模式的な垂直断面図である。
図13】本発明の第5の実施形態に係るマッハ-ツェンダー光変調器の平面レイアウトの模式図である。
図14】本発明の第5の実施形態に係るマッハ-ツェンダー光変調器の模式的な垂直断面図である。
図15】本発明の第6の実施形態に係るマッハ-ツェンダー光変調器の模式的な垂直断面図である。
図16】本発明の第6の実施形態に係るマッハ-ツェンダー光変調器の変形例の模式的な垂直断面図である。
図17】本発明の第7の実施形態に係る光モジュールの概略のブロック図である。
図18】本発明の第7の実施形態に係る光モジュールに用いるシリコンフォトニクスチップの概略のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
【0023】
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略することがある。
【0024】
[第1の実施形態]
図1は第1の実施形態に係る電気光学導波路素子2の模式的な垂直断面図であり、光の伝送方向、つまり導波路の延在方向に直交する断面を示している。
【0025】
まず、本発明の電気光学導波路素子2に関する基本的な事項について説明する。本発明の電気光学導波路素子2は平坦面を有する基板4上に導波路を形成される。当該導波路はコアとなる構造(コア部6)とそれを囲むクラッド領域8とを含む。なお、図1は模式図であり、例えば、基板4とクラッド領域8との間に存在し得る他の層などの構造は図示を省略している。以下の説明では、右手系のxyz直交座標系を採用し、x軸を導波路の延在方向に直交する方向(図1にて横方向)、y軸を基板4に直交する方向(図1にて縦方向)、z軸を導波路の延在方向に設定する。なお、図1にてx軸の正の向きを右向き、y軸の正の向きを上向きとする。
【0026】
コア部6は上述のスロット導波路の構造を有し、間に間隙(スロット)を設けて積層配置された2つの薄膜の高屈折率層10,12と、スロットに配置された低屈折率層14(スロット部)とを有する。スロット導波路ではスロット部に導波光が強く局在する傾向がある。二次元スラブ導波路の場合、高屈折率層及び低屈折率層それぞれの膜厚(図1では垂直方向の寸法)を調整することにより、スロット部に導波光を局在させて、コア部への導波光の閉じ込めを図ることができる。この導波光の局在は、導波光の電界が高屈折率層と低屈折率層との境界面に直交する場合、すなわち、導波光の電界が図1にて垂直方向に直線偏光しているという、TM的偏波状態にある場合に発生する。
【0027】
大容量光伝送に用いる電気光学変調素子では、単一の横モード導波光のみを伝搬させる三次元導波路を用いて、消光比もしくはQ値の高い光変調を行なう。この点に関して本発明の電気光学導波路素子はコア部のxy断面における形状・構造に特徴を有する。例えば、高屈折率層が例えばスラブ型のようにx方向に延伸していれば、上述したスロット部における端効果が軽減される。
【0028】
具体的には、x軸方向を幅方向とすると、本発明では、高屈折率層10,12が低屈折率層14より大きな幅を有し、低屈折率層14と接触する部分より側方外側に張り出した部分を有する。高屈折率層10,12に外部から電圧を印加することで、張り出し部20,22に挟まれた間隙にも電界が形成され、当該電界が低屈折率層14の端部での導波光の電界についての端効果を抑制する働きをする。
【0029】
また、外部からの変調電気信号もしくは直流電気バイアスによる印加電圧に応じて高屈折率層10,12の間隙に生じる電界自体も高屈折率層10,12の端部にて端効果により弱まる。しかし、張り出し部20,22を設けて高屈折率層10,12の端部を低屈折率層14の端部から離隔することで、当該端効果の影響を回避することができ、低屈折率層14の中央部と端部とで印加される電界の強度差を低減できる。つまり、高屈折率層の端部での電界強度の減衰の影響を受けることなく、低屈折率層14に対し水平方向に一様な強度分布の電界を印加することができる。
【0030】
なお、水平方向に関し導波光を局在させ単一の横モード導波光のみを伝搬させるには、低屈折率層の幅を制限するのがよい。
【0031】
導波光の電気光学変調を行なうには、スロット部をなす低屈折率層14を電気光学効果を生じる材料で形成する。特に電気光学効果として例えば、ポッケルス効果、カー効果などの、外部電界に応じて屈折率が変化する効果を利用する。具体的には、高屈折率層10,12に高周波電気信号を印加して、低屈折率層14の屈折率を変調する。
【0032】
高屈折率層10,12は導電性である必要がある。具体的には、高屈折率層10,12は、不純物をドープしてキャリアを生じさせた半導体材料で形成する。また、高屈折率層10,12には外部から電気信号を印加するために例えば、金属電極が接続される。図2は電気光学導波路素子2の模式的なxy断面図である。図2図1とはz軸方向の位置が異なる断面であり、高屈折率層10,12と金属電極との接続構造の一例を示している。高屈折率層10,12と、金属電極の一部をなすプラグ24,26との接続部分はオーミック接触とするために、高屈折率層10,12より低い電気抵抗を有するコンタクト領域28,30が設けられる。具体的には、コンタクト領域28,30は高屈折率層10,12の一部をより高濃度にドープして形成することができる。
【0033】
ここで、高屈折率層のドープ量が増えるとキャリア密度が増加し、キャリアによる光吸収が増す。よって、導波光を閉じ込めるコア部6に高ドープ領域が存在すると光損失が増大するという問題を生じ得る。この点、上述のように、高屈折率層10,12を水平方向に伸ばして、コア部6から離れた位置にコンタクト領域28,30を配置することで、光損失を低減できる。
【0034】
なお、電気光学導波路素子2では高屈折率層10,12と低屈折率層14とが垂直方向に配列されることに対応して導波光の電界の向きも垂直方向である。一方、特許文献2の構成のように2つの高屈折率領域とそれに挟まれる低屈折率領域とを水平方向に配列した場合には導波光の電界の向きは水平方向となる。この場合に、電極との接続などのために高屈折率領域を水平方向に拡張すると、導波光の電界も高屈折率領域内にて水平方向に広がってスロット部の低屈折率領域に局在する導波光電界が減少し、位相変調効率が低下する。この点、本発明の電気光学導波路素子2では、高屈折率層10の拡張方向は導波光電界と直交する方向であるので、スロット導波路による導波光のコア部6への閉じ込めの効果が損なわれず、位相変調効率を確保することができる。
【0035】
なお、以上、導波光がTM偏波である場合を例として説明したが、TE偏波であっても最後に述べた導波光局在効果に関する点以外はTM偏波と同様であるので、TE偏波に本発明を適用してもよい。
【0036】
以上の説明では第1の実施形態の電気光学導波路素子2に関する図1及び図2を用いたが、当該説明にて述べた内容は、以下に説明する他の実施形態についても基本的に共通である。
【0037】
以下、第1の実施形態に係る電気光学導波路素子2についての説明を続ける。
【0038】
クラッド領域8は図1に示すように下部クラッド32、上部クラッド34、側部クラッド36を含む。
【0039】
低屈折率層14が存在する水平方向の位置には、下から順に、基板4、下部クラッド32、下部高屈折率層10、低屈折率層14、上部高屈折率層12、上部クラッド34が配置される。下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12は低屈折率層14より大きな幅を有したスラブ型である。下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12の低屈折率層14側の面は平坦で、間隙を有して互いに平行に対向配置される。低屈折率層14は当該間隙のx方向の中央部に位置する。低屈折率層14はz軸方向に延在したストリップ状に形成され、そのxy断面は基本的に矩形であり、下面及び上面はそれぞれ下部高屈折率層10の上面、上部高屈折率層12の下面に接する。
【0040】
また、低屈折率層14の水平方向両側に、低屈折率層14の側面、下部高屈折率層10の張り出し部20の上面、及び上部高屈折率層12の張り出し部22の下面に接して側部クラッド36が配置される。下部クラッド32は下部高屈折率層10の下面及び側面に接して設けられ、下部高屈折率層10の上面と下部クラッド32の上面とは共通の平面に形成される。当該面上に低屈折率層14及び側部クラッド36が積層される。また、低屈折率層14と側部クラッド36とは共通の厚みに形成され、それぞれの上面は共通の平面を形成する。この上に上部高屈折率層12及び上部クラッド34が積層される。上部クラッド34は上部高屈折率層12の上面及び側面に接して設けられる。
【0041】
図2に示すように、プラグ24を設けるz軸方向の位置では、下部高屈折率層10を図1よりも水平方向に延伸させ、延伸させた部分に下部コンタクト領域28を設ける。同様に、プラグ26を設けるz軸方向の位置では、上部高屈折率層12を図1よりも水平方向に延伸させ、延伸させた部分に上部コンタクト領域30を設ける。図2ではz軸方向の同じ位置に、下部高屈折率層10に接続するプラグ24と上部高屈折率層12に接続するプラグ26とを配置する例を示しており、この場合には、下部高屈折率層10と上部高屈折率層12とは互いに水平方向の逆向きに延伸させる。なお、プラグ24及びプラグ26がz軸方向の異なる位置に配置される場合には、それぞれのz座標にて下部高屈折率層10と上部高屈折率層12とを互いに同じ向きに延伸させることもできる。
【0042】
下部高屈折率層10の屈折率(第1屈折率)n、上部高屈折率層12の屈折率(第2屈折率)n、及び低屈折率層14の屈折率(第3屈折率)nは、n>n、且つn>nに設定される。なお、nとnとは基本的には同じに設定される。
【0043】
側部クラッド36の屈折率は低屈折率層14の両側で基本的に等しく設定され、当該屈折率をnとすると、n<nに設定される。下部クラッド32の屈折率nはn<nに設定され、上部クラッド34の屈折率nはn<nに設定される。本実施形態では各クラッドの屈折率n,n,nは実質的に等しく設定するが、これに限るわけではない。なお、偏波モードの混合を避けるには、導波モードの水平方向での対称性を維持することが望ましいが、これに限定されない。
【0044】
上述したように低屈折率層14は電気光学材料からなる。本発明では低屈折率層14として、配向したニオブ酸リチウム(LiNbO,LN,屈折率2.23)を用いる。下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12はシリコン(Si,屈折率3.45)、で形成する。例えば、下部高屈折率層10はP型極性の導電性を有し、上部高屈折率層12はN型極性の導電性を有する。コンタクト領域28,30の極性はそれぞれが設けられる高屈折率層10,12の極性と同一にする。なお、これら下部高屈折率層10及び下部コンタクト領域28の極性と、上部高屈折率層12及び上部コンタクト領域30の極性とは逆転していても電気光学導波路素子2の動作原理には影響を与えないので、作製が容易となるよう選択すればよい。下部クラッド32、上部クラッド34、側部クラッド36の材料はすべてシリカ(SiO,屈折率1.45)とする。なお、使用する材料はこれらに限るものでなく、別の材料を用いてもよい。屈折率は導波モードの光波の波長に依存する。上述の屈折率の値は導波光を1.3~1.5μm帯とした場合の例を示したが、他の波長では別の値を選択することができる。
【0045】
本実施形態の下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12はそれぞれ張り出し部を有し、下部高屈折率層10の張り出し部20と上部高屈折率層12の張り出し部22とが互いに対向する部分を有する。また、下部高屈折率層10と上部高屈折率層12との間隙は、低屈折率層14との接触部分とその両側の張り出し部20,22とで等しい大きさである。すなわち、低屈折率層14の厚みをtlowと表すと、張り出し部20,22の間隙の大きさもtlowである。tlowは低屈折率層14にニオブ酸リチウム(LN)に代表されるポッケルス効果を生じる誘電体を用いる場合は50~500nmであることが好ましい。またグラフェンのような、誘電体と比較して大きな非線形カー係数を持つ材料を低屈折率層14に用いる場合は、低屈折率層14はtlowが0.1~50nm程度のより薄い層であっても構わない。
【0046】
また、低屈折率層14の水平方向の幅をwlowで表すと、水平方向の導波光閉じ込め幅は基本的にwlowで規定される。単一横モードのみを伝搬させるには、wlowは1μm以下であることが好ましい。一方、低屈折率層14の側壁荒れが引き起こす光散乱による光損失を低減するには、wlowは400nm以上であることが好ましい。
【0047】
また、下部高屈折率層10の厚みthi1、上部高屈折率層12の厚みthi2に関しては、スロット部(低屈折率層14)への導波光閉じ込めを高める上で、好適な範囲が設定され得る。厚みthi1及びthi2が小さいと、スロット導波路の外部に導波光が浸み出して、浸み出した光が下部高屈折率層10より下方、上部高屈折率層12より上方の領域に広く拡がるという問題が生じ得る。これを避けるためにスロット部を厚くすると、低屈折率層14の屈折率変調のための駆動電圧の増加が問題となり得る。よって、thi1及びthi2の好適な範囲の下限値はこれらを考慮して定められる。一方、厚みthi1及びthi2が大きいと、導波光の大部分は下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12に分布し、低屈折率層14のモード閉じ込め係数が低下する。その結果、低屈折率層14の電気光学効果による位相変調効率が低下し、またそれを補うためには駆動電圧の増加が必要となる。よって、thi1及びthi2の好適な範囲の上限値はこの点を考慮して定められる。例えば、当該好適な範囲は100~250nmとすることができる。
【0048】
張り出し部20,22の横方向の寸法をwextと表す。なお、ここで述べる張り出し部20,22は基本的に図1に示す断面に関する。張り出し部20,22を設けることで上述のように端効果を抑制又は軽減し、低屈折率層14の屈折率変調のための駆動電圧の低減を図ることができる。wextはこの駆動電圧抑制の効果が得られるように設定される。
【0049】
ここで、下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12の間隙端部での端効果が低屈折率層14に及ぼす影響は、wextが或る程度以上となると無視できる程度に低減される。換言すると、端効果の影響を低減する効果はwextの増加に伴い飽和する。その一方、wextを増加させるほど、下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12に附随する寄生容量が増加して電気光学導波路素子2の高速駆動の妨げとなる。よって、wextは端効果の影響と寄生容量とのトレードオフを考慮して設定することができる。例えば、wextは、外部からの印加電圧に応じて下部高屈折率層10と上部高屈折率層12との間に生じる電界に関し、低屈折率層14の幅方向の中央部と比較した端部での電界強度の低下率を所定の許容値とするように定められる。つまり、wextは端効果が許容されるレベルに達する程度にまでは大きくされるが、寄生容量の不要な増加を避けるためにwextはそれを超えて大きくしないように設定することができる。
【0050】
なお、張り出し部20,22の幅wextは、導波光分布の観点からは、低屈折率層14の幅wlowの半分程度であればよい。また、導波光分布の対称性を維持することは偏波モードの混合を避けるうえで重要である。そのためには、張り出し部20,22の幅wextは500nm以上延伸させておくことが好ましい。
【0051】
z軸方向において図2の断面に対応する位置では、張り出し部20,22は図1の断面に対応する位置よりも大きな幅に形成され、プラグ24,26及びコンタクト領域28,30が設けられる位置まで延在される。
【0052】
コンタクト領域28,30は導波光の分布領域に近いと、コンタクト領域28,30中でのキャリアの光吸収による導波光のパワー減衰が無視できなくなり得る。一方、コンタクト領域28,30と高屈折率層の低屈折率層14との接触部分との間の距離が長くなると、その間に存在する下部高屈折率層10、上部高屈折率層12での直列電気抵抗が増し、電気光学導波路素子2の高速動作を妨げる要因となる。コンタクト領域28,30と低屈折率層14との水平距離はこれらを考慮して好適な範囲に設定される。例えば、コンタクト領域28,30の水平方向での中心点は低屈折率層14の水平方向の中心点から1~10μmの位置に配置することが好ましい。
【0053】
下部高屈折率層10、上部高屈折率層12に接続される金属電極は上部クラッド34の上面に設けられた部分である電極40,42と、上部クラッド34に開けられた孔に埋め込まれた部分であるプラグ24,26とを含む。プラグ24,26は例えば、上部クラッド34内に柱状に形成され、電極40,42とコンタクト領域28,30とを電気的に接続する。
【0054】
なお、プラグ24と上部高屈折率層12とは、寄生容量の低減という観点からは、上部高屈折率層12の厚さthi2以上離すことが好適である。また、上部コンタクト領域30(又はプラグ26)と下部高屈折率層10との寄生容量の低減という観点からは、上部コンタクト領域30は下部高屈折率層10と重ならない水平位置に配置することが好適である。
【0055】
なお、ここではスロット導波路を構成する下部高屈折率層10、低屈折率層14及び上部高屈折率層12の積層構造を下部高屈折率層10をP型、上部高屈折率層12をN型とした所謂PIN型としたが、これに限定されずPIP型、NIN型であっても構わない。
【0056】
次に、電気光学導波路素子2の製造方法について説明する。図3図6はそれぞれ当該製造方法における工程を説明するための電気光学導波路素子2の模式的な垂直断面図であり、図2に対応する断面を示している。
【0057】
例えば、電気光学導波路素子2は、配向したニオブ酸リチウム(LN)層を積層されたSOI(Silicon on Insulator)ウエハーを用いて製造することができる。具体的には、当該ウエハーは、シリコン基板44の表面に埋め込み酸化膜45を形成し、当該酸化膜45上にシリコン単結晶層を成長させてSOI層46を形成し、さらにその表面に薄膜LN層47をウエハー接着などにより形成した構造を有する。
【0058】
図3は当該ウエハーを用いて低屈折率層14を形成した状態の模式的な垂直断面図である。ウエハーのシリコン基板44が上述の基板4をなし、埋め込み酸化膜45が下部クラッド32を構成する。また、SOI層46を用いて下部高屈折率層10が形成され、薄膜LN層47を用いて低屈折率層14が形成される。SOI層46にて下部高屈折率層10とする領域には、P型不純物をドープして導電性を持たせる。SOI層46において下部高屈折率層10の外側の領域は酸化して埋め込み酸化膜45と一体の下部クラッド32とする。低屈折率層14は、薄膜LN層47をフォトリソグラフィー技術により矩形の断面形状に加工する。具体的には、パターニングしたフォトレジストをマスクとして、薄膜LN層47をドライエッチングして低屈折率層14を形成することができる。
【0059】
なお、下部高屈折率層10のキャリア濃度は1017~1019cm-3であることが好ましい。1019cm-3よりも高密度になると、光損失の増大が無視できなくなり、一方、1017cm-3よりも低密度になると、直列電気抵抗が増して動作速度が低下するからである。
【0060】
図4は、側部クラッド36を形成した状態の模式的な垂直断面図である。側部クラッド36はシリカで形成する。薄膜LN層をパターニングして低屈折率層14を形成した図3の状態にて基板表面にシリカを化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)により堆積し、化学機械的研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)により平坦化する。その結果、図4に示すように、平坦化されたシリカ領域からなる側部クラッド36が低屈折率層14の両側に形成される。
【0061】
図5は、上部高屈折率層12及び上部クラッド34を形成した状態の模式的な垂直断面図である。上部高屈折率層12はシリコン薄膜により形成され、上部クラッド34はシリカにより形成される。まず、側部クラッド36と低屈折率層14とが平坦に形成された図4の状態にて、基板表面にCVDによりシリコン薄膜を形成する。当該シリコン薄膜にはN型不純物をドープして導電性を持たせる。そして当該シリコン薄膜をフォトリソグラフィー技術によりパターニングして上部高屈折率層12に対応する領域を選択的に残す。このようにして上部高屈折率層12が形成された基板表面にシリカをCVDにより堆積し、CMPにより平坦化する。この平坦化されたシリカ層が上部クラッド34を構成する。
【0062】
図6は下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12へ接続される電極の形成工程を説明する模式的な垂直断面である。図5にて平坦に形成された上部クラッド34にドライエッチングにより図6に示すコンタクトホール50,52を形成する。コンタクトホール50は下部高屈折率層10に接続するプラグ24を形成する位置に設けられ、上部クラッド34及び側部クラッド36を貫通して、下部高屈折率層10の表面に達する。一方、コンタクトホール52は上部高屈折率層12に接続するプラグ26を形成する位置に設けられ、上部クラッド34を貫通して、上部高屈折率層12の表面に達する。
【0063】
コンタクトホール50,52を介して下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12にイオン注入して、コンタクトホール50,52の底面に高ドープ領域を形成する。当該高ドープ領域が図6に示すようにコンタクト領域28,30である。なお、コンタクト領域28,30のキャリア密度は例えば、1020cm-3以上とする。
【0064】
コンタクトホール50,52及びコンタクト領域28,30の形成後、アルミニウムをスパッタリングあるいは蒸着により堆積して、コンタクトホール50,52内に柱状のプラグ24,26を形成する。さらに、平坦化した上部クラッド34上にアルミニウムを堆積後、フォトリソグラフィー技術により当該アルミニウムから電極40,42を形成する。これにより図2に示す断面構造の電気光学導波路素子2が形成される。
【0065】
なお、上述した工程にて、図1に示す構造も形成される。また、プラグ24,26及び電極40,42に用いる金属材料はアルミニウムに限るものでなく、より高周波電気抵抗の低い金、銅、コバルト、ルテニウムを用いてもよい。
【0066】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る電気光学導波路素子2は基本的に、図1及び図2に示した第1の実施形態の電気光学導波路素子2と同様の垂直断面構造を有する。一方、第2の実施形態の電気光学導波路素子2は第1の実施形態と異なる製造方法で作成される。
【0067】
以下、第2の実施形態に係る製造方法を、図2に対応する構造を例に説明する。本実施形態では、2つのSOIウエハーを貼り合わせて電気光学導波路素子2を形成する。第1のSOIウエハーは、第1の実施形態で用いたものと同様であり、薄膜LN層が積層されたものを用いることができる。当該SOIウエハーを第1の実施形態と同様にして、図3に示す構造に加工する。
【0068】
図7図3より後の工程での第1のSOIウエハーの模式的な垂直断面図である。図7では、下部高屈折率層10の表面にイオン注入により下部コンタクト領域28が形成され、その後、第1の実施形態の図4について説明したプロセスと同様にして、シリカにより側部クラッド36を形成する。
【0069】
図8は第2のSOIウエハーの模式的な垂直断面図である。第2のSOIウエハーは基本的には、薄膜LN層を有しない点を除けば第1のSOIウエハーと同様の構造とすることができる。つまり、当該ウエハーは、シリコン基板60の上に、埋め込み酸化膜61と、当該酸化膜61上にシリコン単結晶層を成長させて形成されたSOI層62とを有する。図3に関して、埋め込み酸化膜45及びSOI層46から下部クラッド32及び下部高屈折率層10を形成する工程を説明したが、それと同様にして、第2のSOIウエハーの埋め込み酸化膜61及びSOI層62から上部クラッド34及び上部高屈折率層12を形成することで図8の構造を得ることができる。
【0070】
図7の構造に形成された第1のSOIウエハーの上に、図8の構造に形成された第2のSOIウエハーを、互いの表面を向き合わせて(具体的には図7及び図8それぞれに示したxyz座標軸が互いに一致する向きに)接着する。しかる後、第2のSOIウエハーのシリコン基板60を研磨およびウェットエッチングにより除去する。図9はこの状態での模式的な垂直断面図である。
【0071】
図9の状態からさらに、図6を用いて説明した工程と基本的に同様にしてコンタクトホール50,52及びコンタクト領域30が形成され、また電極40,42が形成されて図2に示す構造が得られる。ちなみに、コンタクトホール50は下部コンタクト領域28に対応する位置に形成される。
【0072】
本実施形態の製造方法では、上部高屈折率層12を、下部高屈折率層10と同様に、結晶性の良いSOI層で形成することができるため、第1の実施形態の効果に加え、上部高屈折率層12の光散乱損失の低減、直列電気抵抗の低減などが可能である。すなわち、電気光学導波路素子2の光損失の低減、動作速度の向上が図られる。
【0073】
[第3の実施形態]
図10及び図11は第3の実施形態に係る電気光学導波路素子2Bの模式的な垂直断面図であり、図1及び図2と同様、xy断面を示している。また、図10図11とはz軸方向の位置が異なる断面であり、図10は第1の実施形態の図1に対応し、下部高屈折率層及び上部高屈折率層への電極の接続構造が配置されない位置での断面であり、一方、図11は第1の実施形態の図2に対応し、当該電極の接続構造が配置される位置での断面である。第3の実施形態の当該断面に示される各部と第1の実施形態の断面に示される各部とで名称(又は符号のうち数字部分)が共通する部分は基本的に同じ材料で構成することができる。例えば、本実施形態の下部高屈折率層10B、上部高屈折率層12B、低屈折率層14Bは第1の実施形態の下部高屈折率層10、上部高屈折率層12、低屈折率層14とは断面形状に相違を有するので符号に“B”を付して明細書の記載上での区別の便宜を図っているが、それぞれ対応するものと同じ材料で構成することができる。
【0074】
電気光学導波路素子2Bにおいて、下部高屈折率層10B及び上部高屈折率層12Bは、互いに対向して伝送方向に伸びるリブ型の部分(リブ部70,72)を有する。また、低屈折率層14Bはスラブ型に形成される。
【0075】
第1の実施形態では、低屈折率層14をスロット部として、導波光の局在領域に対応して比較的狭い幅wlowに形成している。一方、下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12はスラブ型で、両者の間に均一な間隙を形成している。この第1の実施形態の構造では、下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12において低屈折率層14と接触する部分は、低屈折率層14の平面形状で規定される。つまり、xy断面にて下部高屈折率層10及び上部高屈折率層12の低屈折率層14との接触部分の幅は、低屈折率層14の幅wlowで定まる。
【0076】
これに対し、第3の実施形態では、下部高屈折率層10B及び上部高屈折率層12Bにおいてリブ部70,72が低屈折率層14との接触部分となる。つまり、スラブ型の低屈折率層14と下部高屈折率層10B及び上部高屈折率層12Bとの接触幅はリブ部70,72の幅wribで規定され、リブ部70,72より大きな幅に形成される低屈折率層14のうちリブ部70,72に挟まれた部分が実質的にスロット導波路のスロット部となり、下部高屈折率層10B及び上部高屈折率層12Bから電界を印加されて導波光の電気光学変調に寄与する。
【0077】
第3の実施形態では、下部高屈折率層10B及び上部高屈折率層12Bのうち、リブ部70,72のx方向の両側に位置する部分が第1の実施形態で述べた張り出し部20,22に相当する。そして、下部高屈折率層10B、上部高屈折率層12Bに外部から電圧を印加した際に張り出し部20,22に挟まれた間隙に電界が形成されることで、スロット部での上述の端効果を抑制又は軽減し、屈折率変調のための駆動電圧の低減を図ることができる。
【0078】
張り出し部20,22と低屈折率層14Bとが対向する間隙、つまりリブ部70,72の側方に生じる間隙には、当該低屈折率層14Bより屈折率が低いクラッド層74,76が配置される。
【0079】
上述のように低屈折率層14Bは導波光を局在させるスロット部より広い幅に形成される。例えば、低屈折率層をドライエッチングでパターニングする場合、低屈折率層の側壁荒れが発生することがある。そのような低屈折率層の側壁は導波光を散乱し、光損失が発生する可能性がある。これを回避する構成として、薄膜LN層をドライエッチングで加工することなく、スラブ形状で低屈折率層14Bとして利用する構成が可能である。または、ドライエッチングで側壁が形成されるとしても、当該側壁が導波光の局在領域の外側に形成される構成とすればよい。
【0080】
そこで本実施形態では、導波光よりも大きな幅のスラブ型に低屈折率層14Bを形成する一方、下部高屈折率層10B及び上部高屈折率層12Bにリブ部70,72を設けて、低屈折率層14Bの一部のみをスロット部として利用する。この構造では、導波光モードの水平方向の閉じ込め幅はリブ部70,72の幅wribで決まる。低屈折率層14Bの幅が導波光モードの水平方向の閉じ込め幅より大きいことで、側壁での散乱による光損失が回避される。ちなみにwribを600nm以下とすることにより、単一の横モード導波光のみが伝搬する。
【0081】
電気光学導波路素子2Bの製造方法に関し、第1の実施形態との相違点について述べる。本実施形態の製造方法はリブ部70,72及びクラッド層74,76を形成する点に関して第1の実施形態との基本的な違いを有する。
【0082】
下部高屈折率層10Bは、SOIウエハーの表面のSOI層を用いて形成することができる。例えば、SOI層の表面を部分的にドライエッチングして、エッチングしない部分によりリブ部70を形成する。しかる後、CVDによるシリカ堆積およびCMPによる平坦化を行って、リブ部70の両脇のクラッド層74を形成する。この基板表面に薄膜LN層からなる低屈折率層14Bを形成する。
【0083】
上部高屈折率層12Bは例えば、リブ部72と、その上に位置し張り出し部22を含んで広い幅を有するスラブ部とを分けて形成する。具体的には、低屈折率層14が形成された基板表面に、リブ部72の高さに相当する厚みのシリコン層を堆積し、フォトリソグラフィー技術によりストリップ状に加工する。このストリップ状にパターニングされたシリコン層がリブ部72となる。シリコン層のパターニング後、CVDによるシリカ堆積およびCMPによる平坦化を行ってクラッド層76を形成する。クラッド層76及び、リブ部72となるシリコン層の表面にシリコン層を堆積し、フォトリソグラフィー技術により上部高屈折率層12Bのスラブ部を形成する。このシリコン層からなるスラブ部は先に形成されたストリップ状のシリコン層と一体となって上部高屈折率層12Bを構成する。すなわち、低屈折率層14Bとの接触部分となるリブ部72と、接触部分の上に位置しその両側に張り出し部22を有するスラブ部とを備えた上部高屈折率層12Bが形成される。
【0084】
ここで、スロット部との接触部分での下部高屈折率層10B及び上部高屈折率層12Bの厚みが大きいと、第1の実施形態にて述べたように、導波光の大部分が下部高屈折率層10B及び上部高屈折率層12Bに分布し、スロット部に閉じ込められる導波光の割合が低下して電気光学効果による位相変調効率が低下する可能性がある。この観点から、リブ部70,72を設けた部分での下部高屈折率層10B及び上部高屈折率層12Bそれぞれの厚みは例えば、250nm以下とすることができる。
【0085】
クラッド層74,76の厚み(又はリブ部70,72の高さ)に関しては、クラッド層74,76が薄くなると、水平方向での導波光閉じ込めが十分でなくなり、スロット部近傍に局在すべき導波光が水平方向に拡がって放射損失が増す可能性がある。この点、クラッド層74,76の厚みは例えば、50nm以上とすることが望ましい。
【0086】
一方、クラッド層74,76の厚みが大きくすることに関しては、第1に、張り出し部20,22の間に形成される電界が弱くなって端効果抑制の効果が低下する可能性がある。第2に、下部高屈折率層10B及び上部高屈折率層12Bの厚みに上述したように上限が設定されるところ、リブ部70,72を高くするほど、スラブ部の厚みが小さくなる。その結果、例えば、リブ部70,72とコンタクト領域28,30との間の直列電気抵抗が増して電気光学導波路素子2の高周波特性が劣化する可能性がある。また、張り出し部20,22の抵抗増加を生じ、これが端効果を抑制する張り出し部20,22間の電界の働きを弱める可能性がある。よって、これらの点からクラッド層74,76の厚みに上限が設定され得る。例えば、クラッド層74,76の厚みは100nm以下とすることが望ましい。
【0087】
[第4の実施形態]
図12は第4の実施形態に係る電気光学導波路素子2Cの模式的な垂直断面図であり、xy断面を示している。図12図1及び図9と同様、下部高屈折率層及び上部高屈折率層への電極の接続構造が配置されない位置での断面である。一方、本実施形態においても上記各実施形態と同様の構造で、下部高屈折率層及び上部高屈折率層に電極が接続されるが図示を省略する。
【0088】
張り出し部は下部高屈折率層及び上部高屈折率層の一方だけに設けても、上述の端効果抑制の効果を奏し得る。図12は当該構成を示している。具体的には、電気光学導波路素子2Cは第3の実施形態と同様、スラブ状の低屈折率層14Bとリブ部70を有した下部高屈折率層10Bとを備え、一方、上部高屈折率層12は第1の実施形態と同様のスラブ型であり、リブ部を有さない。
【0089】
つまり、本実施形態では、下部高屈折率層10Bはx方向に関し、スロット部との接触部分となるリブ部70と、その両側に張り出した張り出し部20を有する。一方、上部高屈折率層12は、xy断面の形状にて下部高屈折率層10Bの両張り出し部20に対向する部分を有するスラブ型に形成される。ここで、低屈折率層14Bはx方向に広がっているため、上部高屈折率層12の下面全体に接している。そのため、第1の実施形態とは異なり、本実施形態の上部高屈折率層12は張り出し部22を有していない。
【0090】
なお、図12の構造とは上下を逆にして、リブ部72を有する上部高屈折率層12Bと、リブ部を有さないスラブ型の下部高屈折率層10とを備えた構造とすることもできる。
【0091】
[第5の実施形態]
図13はマッハ-ツェンダー(Mach-Zehnder:MZ)光変調器80の平面レイアウトの模式図である。MZ光変調器80は2つの位相変調器81a,81b、1×2分波器82、2×1合波器83とそれらを接続する単一モード導波路84,85a,85b,86a,86b,87とを有し、これらは例えば、共通基板上に集積化して1チップのデバイスに構成できる。
【0092】
入力光は導波路84を介して1×2分波器82に入力され、1×2分波器82にて2つの導波光に分波される。分波された導波光はそれぞれ位相変調器81a,81bに入力される。位相変調器81a,81bはプッシュプル型の構成とし、それぞれに入力された導波光に対して互いに逆位相で位相変調を行う。位相変調器81a,81bから出力された導波光は2×1合波器83にて干渉合成され、2×1合波器83は合波した光を出力する。
【0093】
このMZ光変調器80の位相変調器81a,81bに、上述した本発明の各実施形態の電気光学導波路素子を適用することができる。MZ光変調器80が集積化された基板上にて位相変調器81a,81bはそれぞれz軸方向(図13にて横方向)に延在する導波路を有し、x方向に並んで配置されている。ここで、基板上の位相変調器81a,81bが形成された領域を便宜上、変調部81と呼ぶことにする。図14は本実施形態における変調部81の模式的な垂直断面図であり、スロット導波路の高屈折率層と電極との接続構造が現れたxy断面を示している。
【0094】
位相変調器81a,81bのスロット導波路の基本的な構造は図1及び図2を用いて説明した第1の実施形態に対応している。つまり、位相変調器81a,81bのスロット導波路は、第1の実施形態の電気光学導波路素子2の下部高屈折率層10に対応する下部高屈折率層10a,10bを有し、同様に上部高屈折率層12に対応する上部高屈折率層12a,12b、低屈折率層14に対応する低屈折率層14a,14bを有する。よって、位相変調器81aでは、それぞれスラブ状の下部高屈折率層10a及び上部高屈折率層12aが互いに平坦な面を対向させて配置され、それらの間隙にストリップ状の低屈折率層14aが配置される。また、位相変調器81bの下部高屈折率層10b、上部高屈折率層12b及び低屈折率層14bも同様の構成でスロット導波路を形成する。ちなみに、下部高屈折率層10aと下部高屈折率層10bとは電気的に分離され、また、上部高屈折率層12aと上部高屈折率層12bとは電気的に分離される。
【0095】
ここで、位相変調器81a,81bを並列プッシュプル接続とするために、高屈折率層の導電型は位相変調器81aと位相変調器81bとで逆とする。例えば、位相変調器81aは下部高屈折率層10aをP型極性、上部高屈折率層12aをN型極性に構成され、位相変調器81bは下部高屈折率層10bをN型極性、上部高屈折率層12bをP型極性に構成される。
【0096】
下部高屈折率層10a,10bはそれぞれプラグ24a,24b介して電極40a,40bに接続され、上部高屈折率層12a,12bはそれぞれプラグ26a,26b介して互いに共通の電極42に接続される。プラグ24a,24bは第1の実施形態のプラグ24と基本的に同様に構成され、またプラグ26a,26bは第1の実施形態のプラグ26と基本的に同様に構成される。なお、電極40a,40b,42はコプレーナ型の進行波電極を構成する。
【0097】
例えば、変調部81は1台の単一信号出力の変調器ドライバでプッシュプル駆動される。例えば、電極40a,40bを接地して、電極42に変調器ドライバから出力される交流信号を印加する。
【0098】
MZ光変調器80は、変調部81を第1の実施形態と共通する構造の位相変調器81a,81bを用いて構成したことにより、第1の実施形態で述べた駆動電圧低減や光損失低減が可能である。また、これに伴い、MZ光変調器80は高い強度消光比及び位相変調Q値を得ることができる。
【0099】
なお、図14では位相変調器81a,81bのスロット導波路を第1の実施形態の構造とした例を示したが、これに代えて、例えば第3の実施形態など他の実施形態のスロット導波路の構造を採用することもできる。
【0100】
[第6の実施形態]
第6の実施形態は、第5の実施形態と同様、図13の位相変調器81a,81bに本発明の電気光学導波路素子を適用したMZ光変調器80に関する。図15は第6の実施形態における変調部81の模式的な垂直断面図であり、図14と同様、スロット導波路の高屈折率層と電極との接続構造が現れたxy断面を示している。また、図15に示す位相変調器81a,81bのスロット導波路の基本的な構造は、第5の実施形態の図14に示す例と同様、図1及び図2を用いて説明した第1の実施形態に対応している。
【0101】
本実施形態ではMZ光変調器80を1台の差動信号出力の変調器ドライバを用いてプッシュプル駆動する。図15に示す変調部81はこれに対応した構造を有する。
【0102】
具体的には、電極40aに差動信号の一方を印加し、電極40bに差動信号の他方を印加する。なお、電極40a,40bは例えばスロット線路のような差動進行波電極を構成する。電極42には直流バイアス電圧を印加する。なお、電極42は接地してもよい。
【0103】
この接続に対応して、位相変調器81aの下部高屈折率層10aと位相変調器81bの下部高屈折率層10bとは同じ導電極性とする。一方、位相変調器81a及び位相変調器81bそれぞれの上部高屈折率層12a,12bの導電極性は共に、下部高屈折率層10a,10bとは異なる極性とする。例えば、下部高屈折率層10a,10bはP型極性とし、上部高屈折率層12a,12bはN型極性とする。
【0104】
位相変調器81a及び位相変調器81bそれぞれの上部高屈折率層12a,12bは共通の導電極性であり、また直流バイアス電圧を共通に印加されるので、互いに連続していてもよい。そこで、電極との接続部分では図15に示すように上部高屈折率層12a,12bを接続して、両上部高屈折率層に対するプラグ26を共通にすることができる。なお、上部高屈折率層への電極の接続構造が配置されない位置でのxy断面構造では、上部高屈折率層12a,12bそれぞれは、端効果を低減するのに必要な張り出し部22を備えた形状であればよく、両者が連続している必要はない。
【0105】
また、図15の構成とは逆に、上部高屈折率層12a,12bに差動信号を印加し、下部高屈折率層10a,10bに直流バイアス電圧を印加する構成とすることもできる。図16は当該構成を示している。図16図15と同様、変調部81の模式的な垂直断面図であって、スロット導波路の高屈折率層と電極との接続構造が現れたxy断面を示している。
【0106】
具体的には、上部高屈折率層12a,12bに接続される電極42a,42bが別々に設けられ、それらに差動信号が印加される。また、下部高屈折率層10a,10bは例えば、x方向につなげて形成され、共通の電極40及びプラグ24で直流バイアス電圧を印加される。
【0107】
本実施形態においてもMZ光変調器80は、変調部81を第1の実施形態と共通する構造の位相変調器81a,81bを用いて構成したことにより、第1の実施形態で述べた駆動電圧低減や光損失低減が可能であり、ひいては高い強度消光比及び位相変調Q値を得ることができる。
【0108】
なお、図15及び図16では位相変調器81a,81bのスロット導波路を第1の実施形態の構造とした例を示したが、これに代えて、例えば第3の実施形態など他の実施形態のスロット導波路の構造を採用することもできる。
【0109】
[第7の実施形態]
第7の実施形態は上記各実施形態のいずれかの電気光学導波路素子を備えた光モジュールである。当該光モジュールは本発明に係る電気光学導波路素子と、当該電気光学導波路素子と光学的に接続された光源と、当該電気光学導波路素子を透過した光を伝達する媒体とを備える。
【0110】
図17は本実施形態に係る光モジュール90の概略のブロック図である。光モジュール90は送信機能及び受信機能を有するトランシーバであり、電気信号と光信号とを相互に変換する。光モジュール90は、シリコンフォトニクスチップ92、CW(Continuous Wave:連続波)光源94、信号処理LSI96を同一筐体に内蔵する。
【0111】
シリコンフォトニクスチップ92は第5又は第6の実施形態のMZ光変調器80を搭載している。上述したようにMZ光変調器80は本発明の電気光学導波路素子を変調部81に用いて構成される。
【0112】
CW光源94はキャリア(搬送波)として利用される光を発生しシリコンフォトニクスチップ92に入力する。例えば、CW光源94はDFBレーザなどの半導体レーザで構成される。
【0113】
信号処理LSI96は、光信号の伝送に係る電気信号を処理する回路が構成された集積回路である。例えば、信号処理LSI96は、光信号の送信に関して、電気的な伝送信号から、符号化などの処理を行って光信号に対する電気的な変調信号を生成し、シリコンフォトニクスチップ92へ出力する。また、光信号の受信に関しては、信号処理LSI96は光信号から抽出された電気的な復調信号をシリコンフォトニクスチップ92から入力され、復号化や誤り訂正などの処理を行って電気的な伝送信号を生成・出力する。
【0114】
図18はシリコンフォトニクスチップ92の概略のブロック図である。シリコンフォトニクスチップ92は光信号の送信機能に関して、光カプラ100,101及びMZ光変調器80を有し、受信機能に関して光カプラ110、フォトダイオード111及びトランスインピーダンスアンプ112を有する。
【0115】
光カプラ100はCW光源94から入力される光をMZ光変調器80の入力端につながる導波路に入射させる。MZ光変調器80は、信号処理LSI96から電気信号を入力され、当該電気信号でCW光源94からのキャリアを変調して出力する。光カプラ101はMZ光変調器80の出力端につながる導波路と、光ファイバーなどの光伝送路とを結合する。この構成によりシリコンフォトニクスチップ92は、変調された光信号を生成し、光伝送路へ送出する。
【0116】
一方、光カプラ110は光伝送路をフォトダイオード(PD)111につながる導波路に結合する。フォトダイオード111は光伝送路から受信した光信号を電流に変換する。トランスインピーダンスアンプ112はフォトダイオード111から出力される電流信号をインピーダンス変換、増幅し電圧信号として出力する。この構成によりシリコンフォトニクスチップ92は、光信号から復調された電気信号を生成して信号処理LSI96へ出力する。
【0117】
光モジュール90は、本発明に係る電気光学導波路素子を用いてMZ光変調器80を構成されることにより、光変調における駆動電圧低減や光損失低減が可能である。
【0118】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、実施形態で説明した構成は、実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えることができる。
【符号の説明】
【0119】
2,2B 電気光学導波路素子、4 基板、6 コア部、8 クラッド領域、10 下部高屈折率層、12 上部高屈折率層、14 低屈折率層、20,22 張り出し部、24,26 プラグ、28 下部コンタクト領域、30 上部コンタクト領域、32 下部クラッド、34 上部クラッド、36 側部クラッド、40,42 電極、50,52 コンタクトホール、70,72 リブ部、74,76 クラッド層、80 マッハ-ツェンダー光変調器、81 変調部、81a,81b 位相変調器、82 1×2分波器、83 2×1合波器、90 光モジュール、92 シリコンフォトニクスチップ、94 CW光源、96 信号処理LSI、100,101,110 光カプラ、111 フォトダイオード、112 トランスインピーダンスアンプ。
図1
図2
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