IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大成建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-鉄骨造建物 図1
  • 特許-鉄骨造建物 図2
  • 特許-鉄骨造建物 図3
  • 特許-鉄骨造建物 図4
  • 特許-鉄骨造建物 図5
  • 特許-鉄骨造建物 図6
  • 特許-鉄骨造建物 図7
  • 特許-鉄骨造建物 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】鉄骨造建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220926BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20220926BHJP
   F16F 15/027 20060101ALI20220926BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20220926BHJP
   F16F 9/46 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
E04H9/02 331B
E04H9/02 351
F16F15/02 A
F16F15/027
F16F15/04 P
F16F9/46
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018238347
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020100958
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰濃 達
(72)【発明者】
【氏名】松本 修一
(72)【発明者】
【氏名】田部井 直哉
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169578(JP,A)
【文献】特開2012-097767(JP,A)
【文献】特開2018-084100(JP,A)
【文献】特開平08-218679(JP,A)
【文献】特開平07-279479(JP,A)
【文献】特開2015-068151(JP,A)
【文献】特開平09-291721(JP,A)
【文献】特開平02-289769(JP,A)
【文献】特開昭60-092570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 1/36
E04B 9/18
F16F 15/00 - 15/36
F16F 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置及びアクティブ制御型の制振装置が設けられた鉄骨造建物において、
積層ゴム支承と、調圧弁を開閉して減衰力を調整するとともに、前記制振装置の待機中には解除されているロック機構を備えるロック機構付きオイルダンパとを含む免震装置と、
強風時には、風情報により、前記ロック機構付きオイルダンパの前記ロック機構を作動させ、前記免震装置が設けられた前記鉄骨造建物の免震層の変形を抑えるとともに、前記制振装置を駆動させて前記鉄骨造建物の揺れを低減させる制御装置と、を備えることを特徴とする、鉄骨造建物。
【請求項2】
前記制御装置は、前記強風時で、かつ地震発生時には、地震情報により前記ロック機構付きオイルダンパの前記ロック機構を解除して前記鉄骨造建物の固有周期を長くし、前記ロック機構付きオイルダンパの減衰力を増大させて前記鉄骨造建物に加わる地震荷重を低減させる
ことを特徴とする、請求項1に記載の鉄骨造建物。
【請求項3】
前記ロック機構付きオイルダンパは、前記免震層に設置され、かつ、前記鉄骨造建物の外周から前記鉄骨造建物の内部に向かって3スパン以内に設置される
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の鉄骨造建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置及び制振装置が設けられた鉄骨造建物に関する。
【背景技術】
【0002】
技術進歩に伴い鉄骨造建物の高層化が進んでいる。このため、鉄骨造建物への風の影響が大きくなり、強風により、鉄骨造建物の大きな揺れが生じる。そこで、鉄骨造建物において生じた揺れの抑制技術が開発されている。
特許文献1には、建物の免震構造において、強風時に構造物の揺れを抑制させる技術が記載されている(段落0045)。この技術では、基礎に対する鉄骨造建物の水平方向変位を強制的に停止させる変位停止手段が使用される(段落0030)。この変位停止手段は、基礎に設置され、貫通孔を備える下側水平板と、建築物に設置され、貫通孔を備える上側水平板と、下側水平板貫通孔と上側水平板貫通孔とを貫通する停止棒とを備える(段落0030)。停止棒は、風速検知手段によって所定値以上の風速が検出されたとき、上方に押し上げられる(段落0033)。停止棒の上方への押し上げにより、基礎に対する鉄骨造建物の水平方向変位が強制的に停止される(段落0034)。
また、特許文献1に記載の技術では、停止棒の押し上げにより鉄骨造建物の水平方向変位を停止させることで、鉄骨造建物の揺れの抑制を図っている。しかし、鉄骨造建物は、鉄筋コンクリート造建物に比べて、剛性が低い場合が多く、特に鉄骨造の高層建物においては、上層階側では強風時には風により建物が長い時間揺れる場合がある。このように、鉄骨造建物の場合、風の強さによっては建物に加わる風揺れを十分に抑制できない、という課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-317011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、鉄骨造建物を対象に、地震荷重に対する安全性能を確保しつつ、強風時に生じる建物の揺れに対しても低減可能な鉄骨造建物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鉄骨造建物、または鋼管柱が用いられた鉄骨系建物を対象とした免制振システムとして、通常時を含む地震荷重に対しては、建物下部側に設置した免震装置によって建物に加わる地震荷重を低減させて、建物の安全性能を確保するとともに、強風に対しては、免震装置の免震機能を停止した上で、建物上部側に設けた制振装置を起動させることで、地震に対する安全性能を確保しつつ、強風時での建物の揺れを低減できる点に着眼して、本発明に至った。
本発明に係る鉄骨造建物は、免震装置及びアクティブ制御型の制振装置が設けられた鉄骨造建物において、積層ゴム支承と、調圧弁を開閉して減衰力を調整するとともに、前記制振装置の待機中には解除されているロック機構を備えるロック機構付きオイルダンパとを含む免震装置と、強風時には、風情報により、前記ロック機構付きオイルダンパの前記ロック機構を作動させ、前記免震装置が設けられた前記鉄骨造建物の免震層の変形を抑えるとともに、前記制振装置を駆動させて前記鉄骨造建物の揺れを低減させる制御装置と、を備えることを特徴とする。
この鉄骨造建物によれば、強風時には免震装置を構成するロック機構付きオイルダンパのロック機構を作動させて免震層の変形を抑え、アクティブ制御型の制振装置を駆動させることで、鉄骨造建物の揺れ変形を低減できる。強風時に見られる鉄骨造建物の上層階側での風揺れによる大変形を低減することで、居住性に優れた鉄骨造建物を実現できる。また、強風時であっても、エレベータの連続運転を確保できる。
【0006】
上記鉄骨造建物において、前記制御装置は、前記強風時で、かつ地震発生時には、地震情報により前記ロック機構付きオイルダンパの前記ロック機構を解除して前記鉄骨造建物の固有周期を長くし、前記ロック機構付きオイルダンパの減衰力を増大させて前記鉄骨造建物に加わる地震荷重を低減させることが好ましい。この鉄骨造建物によれば、常時又は地震発生時には、免震装置を構成するロック機構付きオイルダンパのロック機構が解除状態で、鉄骨造建物が一般的な積層ゴム支承及びロック機構無しのオイルダンパで構成される免震装置で支持されており、地震発生時には鉄骨造建物への地震荷重が低減されるため、鉄骨造建物の構造安定性を確保できる。
【0007】
上記鉄骨造建物において、前記ロック機構付きオイルダンパは、前記免震層に設置され、かつ、前記鉄骨造建物の外周から前記鉄骨造建物の内部に向かって3スパン以内に設置されることが好ましい。この鉄骨造建物によれば、地震発生時には鉄骨造建物の外周部に大きな転倒モーメントや地震力が作用することになるが、鉄骨造建物の外周部側(例えば外周部よりも建物内部側に向かって3スパン以内)に減衰力を調整可能なロック機構付きオイルダンパを設置することで、外周部の柱梁架構に生じる大変形又は大規模な外荷重をロック機構付きオイルダンパで効率的に吸収できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、地震荷重に対する安全性能を確保しつつ、強風時に生じる建物の揺れに対しても十分に抑制可能な鉄骨造建物を提供できる。従って、鉄骨造の高層建物の上層階の風揺れを低減することで、居住者の快適性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る鉄骨造建物の模式図である。
図2】免震層の模式的な上面図である。
図3】ロック機構付きオイルダンパの模式的な断面図である。
図4】本実施形態に係る鉄骨造建物のブロック図である。
図5】本実施形態に係る鉄骨造建物において行われる免震装置の制御内容及び制振装置の制御内容を示すフローチャートである。
図6】振動解析モデルの概要を示す図である。
図7】風向頻度を考慮した再現期間1年の強風時の最大応答加速度を示すグラフである。
図8】制振装置の配置によるX方向及び揺れ方向の居住性の評価を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、鉄骨系建物を対象とした免制振システムとして、建物下部側に積層ゴム支承と、調圧弁を開閉して減衰力が調整可能なロック機構付きオイルダンパとを含む免震装置を設置するとともに、建物上部側に制振装置が設けることで、地震に対する安全性能を確保しつつ、強風時の振動を抑える建物構造である。
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態(本実施形態)を説明する。ただし、本発明は以下の内容(図示の内容を含む)に何ら制限されるものではなく、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意に変更して実施できる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。
図1は、本実施形態に係る鉄骨造建物10の模式図である。鉄骨造建物10は、免震装置20及びアクティブ制御型の制振装置31が設けられたものである。鉄骨造建物10は、建物本体部11と、積層ゴム支承21と、ロック機構付きオイルダンパ22と、制振装置31とを備える。建物本体部11は、鉄骨造である。建物本体部11は、いずれも図示しないが、柱及び梁を備え、例えば、鉛直方向に配置された柱同士を梁により結合することで構成される。
免震装置20は、積層ゴム支承21と、調圧弁84(図3参照)を開閉して減衰力を調整するロック機構付きオイルダンパ22を含む。積層ゴム支承21は、例えば天然ゴムにより構成でき、杭基礎12上に設置される。ロック機構付きオイルダンパ22は、オイルダンパ23及びロック機構24を含んで構成される。ロック機構付きオイルダンパ22は、建物本体部11の地下に形成された免震層16に設置される。ただし、免震層16は建物本体部11の中間に形成されてもよい。ロック機構付きオイルダンパ22は、免震層16の床面に立設する固定部14と、建物本体部11の底面に立設する固定部15との間に挟まれて設置される。
制振装置31は、例えばマスダンパを含んで構成される。制振装置31は、建物本体部11の屋上に設置される。制振装置31はアクティブ制御型であり、制振装置31は、駆動により地震時の建物本体部11での揺れを抑制するほか、風に起因する揺れも抑制する。
鉄骨造建物10は、建物本体部11への風の向き(風向)及び速度(風速)を測定する風向風速計51と、地面の揺れ(例えば加速度(ガル))を測定する地震計52とを備える。さらに、鉄骨造建物10は制御装置41を備える。制御装置41は、ロック機構付きオイルダンパ22、制振装置31、風向風速計51及び地震計52に対し、図1において破線で示す電気信号線を介して接続される。
【0011】
図2は、免震層16の模式的な上面図である。杭基礎12の本数及び位置と、建物本体部11を構成する柱の本数及び位置とは、図示の例ではいずれも同じにしているが、それぞれ異なってもよい。また、図示の例では、免震層16の外周と、建物本体部11の外周(鉄骨造建物10の外周)とが上面視で一致するようにしている。なお、図2では、図示の簡略化のため、ロック機構付きオイルダンパ22を固定する固定部14は図示していない。
免震層16には、X方向及びY方向のそれぞれに、複数の杭基礎12の上端部が配置される。杭基礎12は等間隔で設置される。杭基礎12の上面には積層ゴム支承21が設置される。積層ゴム支承21の上面には、建物本体部11を構成する柱(図示しない)が設置される。従って、建物本体部11は、積層ゴム支承21の上面に設置される。
ロック機構付きオイルダンパ22は、免震層16に設置され、かつ、建物本体部11の外周(図3に示す上面図では免震層16の外周に一致する)の付近に設置される。具体的には、ロック機構付きオイルダンパ22は、鉄骨造建物10(図2での建物本体部11)の外周部13から鉄骨造建物10の内部に向かって3スパン以内に設置される。ここでいうスパンとは、建物本体部11を構成する柱(図示しない)の間隔により決定される柱芯間距離をいう。図3に示す例では、柱の位置と一致する杭基礎12同士のX方向の間隔LX0がX方向での1スパンに相当する。また、杭基礎12同士のY方向の間隔LY0がY方向での1スパンに相当する。
【0012】
免震層16であって、かつ、鉄骨造建物10の外周から3スパン以内といった外周部13付近にロック機構付きオイルダンパ22を配置することで、地震発生時には鉄骨造建物10の外周部13に大きな転倒モーメントや地震力が作用することになるが、鉄骨造建物10の外周部13側(例えば外周部13よりも建物内部側に向かって3スパン以内)に減衰力を調整可能なロック機構付きオイルダンパ22を設置することで、外周部13の柱梁架構に生じる大変形又は大規模な外荷重をロック機構付きオイルダンパ22で効率的に吸収できる。
【0013】
ロック機構付きオイルダンパ22は、免震層16において、建物本体部11の外周部13のうち、ロック機構付きオイルダンパ22に最も近い外周部13から建物本体部11の内部に向かって3スパン以内に設置されることが好ましい。例えば、図2に示す例では、ロック機構付きオイルダンパ22a(22)は、最も近い外周部13b(13)から建物本体部11の内部に向かって距離LX1(=3×LX0)で示される3スパン以内に設置される。ロック機構付きオイルダンパ22b(22)は、最も近い外周部13a(13)から建物本体部11の内部に向かって距離LY1(=3×LY0)で示される3スパン以内に設置される。ロック機構付きオイルダンパ22c(22)は、最も近い外周部13c(13)から建物本体部11の内部に向かって距離LY2(=3×LY0)で示される3スパン以内に設置される。ロック機構付きオイルダンパ22d(22)は、最も近い外周部13d(13)から建物本体部11の内部に向かって距離LX2(=3×LX0)で示される3スパン以内に設置される。
また、ロック機構付きオイルダンパ22は、最も近い外周部13までの距離及び2番目に近い外周部13までの距離の双方が3スパン以外になる位置に設置されることが好ましい。例えば、図2の例では、全てのロック機構付きオイルダンパ22がこの位置に配置される。ロック機構付きオイルダンパ22がこの位置に配置されることで、建物本体部11の外周部13付近での柱梁架構に生じる大変形及び大荷重をより効率的に減衰できる。
【0014】
図3は、ロック機構付きオイルダンパ22の模式的な断面図である。以下の例では、ロック機構付きオイルダンパ22は、オイルダンパ23の伸縮とともにオイルが1つの調圧弁84を一方向のみで通過するように構成されたユニフロー型であるが、例えばバイフロー型でもよい。ロック機構付きオイルダンパ22は、減衰力を制御する調圧弁84を備えるオイルダンパ23と、オイルダンパ23でのオイル流動を抑制するロック機構24とを備える。
オイルダンパ23は、連結部121により固定部14(図1参照)に固定され、ロッド123により固定部15(図1参照)に固定される。オイルダンパ23は、室110,111,112を備える。室110,111は、チャック弁63を介して連通する。室111,112はチャック弁72を介して連通する。室112,110は、調圧弁84を介して連通する。ロック機構24の解除時、地震発生によるピストン71の摺動により、室110,111,112の間でオイルが流れ、地震に起因する揺れ(横揺れ)が減衰される。
ロック機構24は、ロック弁80と、ロック弁80を駆動する電磁弁86とを備える。ロック作動時、電磁弁86の動作によりロック弁80が調圧弁84への流路を閉塞する。これにより、オイルダンパ23でのオイル流動が抑制される。この結果、オイルダンパ23は伸縮できず、オイルダンパ23の免震機能が停止する。
【0015】
図1に戻って、制振装置31はアクティブ制御型のものである。アクティブ制御型の制振装置は、いずれも図示しないが、例えば、建物本体部11に設置される重りと、重りを水平方向に振動(往復動)させるアクチュエータとを備える。地震が発生していない通常時には、制振装置31は、重りの振動を行っていない待機状態になる。地震発生時には、アクチュエータにより重りを能動的に振動させることで、建物本体部11の揺れが制振装置31に吸収される。重りの駆動量(振幅)は、例えば、地震計52により測定される揺れの大きさに基づいて決定される。また、上記のように、制振装置31は、風に起因する建物本体部11での揺れが大きいときにも駆動される。この点は、図5等を参照しながら後記する。
制御装置41は、強風時には、風情報により、ロック機構付きオイルダンパ22のロック機構24を作動させ、免震装置20が設けられた鉄骨造建物10の免震層16の変形を抑えるとともに、制振装置31を起動させて鉄骨造建物10の揺れを低減させるものである。制御装置41は、風向風速計51及び地震計52での測定値に基づき、積層ゴム支承21及び制振装置31を制御するものである。制御装置41について図4を参照しながら説明する。
【0016】
図4は、本実施形態に係る鉄骨造建物10のブロック図である。制御装置41は、取得部42と、風情報決定部43と、判断部44と、制御部45とを備える。
取得部42は、風向風速計51及び地震計52による測定値が入力されるものである。具体的には、取得部42は、風向風速計51により測定された風向及び風速を取得する。取得された風向及び風速は、風情報決定部43に入力される。また、取得部42は、地震計52により測定された揺れの大きさを取得する。取得された揺れの大きさは、地震検知部48(後記する)に入力される。
風情報決定部43は、建物本体部11での揺れを生じさせる風に関する風情報を決定するものである。建物本体部11に吹き付ける風の向き及び速度により、建物本体部11での揺れの大きさが変化する。そこで、本実施形態では、取得部42に入力された風向及び風速の測定値が、建物本体部11での揺れを生じさせる風に関する風情報として決定される。
風情報としては、例えば、気象予報等に基づく風向及び風速の予測値、建物本体部11の近隣の建物における風向及び風速の測定値が使用されてもよい。また、風情報としては、風向及び風速のうちの何れか一方のみでもよい。さらに、風情報としては、風向及び風速に限られず、建物本体部11での揺れを生じさせる風の原因に関する情報であれば、どのようなものでもよい。具体的には例えば、台風の接近等によって強風が見込まれる場合には、風向及び風速を決定せずとも、例えば天気図に基づいて台風の中心気圧、位置等を決定することで、中心気圧、位置等を風情報として利用できる。
【0017】
判断部44は、風情報決定部43により決定された風情報(例えば風向及び風速)に基づき、風に起因する建物本体部11での揺れが大きいか否かを判断するものである。風に起因する建物本体部11の揺れの大きさは、例えば、建物本体部11への風の向き及び速度によって決定される。そこで、本実施形態では、シミュレーション、建物本体部11建設後での試験等に基づき、風向毎及び風速毎に、風に起因する揺れの大きさが把握される。そして、判断部44は、許容可能な揺れの大きさに対応する風速を閾値とし、風速と閾値とを比較することで、風に起因する揺れが大きいか否か、即ち許容できる大きさの揺れであるか否かを判断するようになっている。具体的には、測定された風速が風向毎に予め定められた閾値以上であれば、判断部44は建物本体部11での揺れが大きい、即ち許容できないと判断する。一方で、測定された風速が閾値未満であれば、判断部44は建物本体部11での揺れが小さい、即ち、許容できる揺れ(又は揺れない)と判断する。
【0018】
制御部45は、判断部44により風に起因する建物本体部11での揺れが大きいと判断された場合に、制振装置31及びロック機構付きオイルダンパ22を制御するものである。具体的には、制御部45は、ロック機構付きオイルダンパ22のロック機構24によりオイルダンパ23でのオイルの流動を抑制するように、ロック機構付きオイルダンパ22を制御する。また、制御部45は、ロック機構24の制御時に制振装置31を駆動させるように、制振装置31を制御する。
【0019】
制御部45は、流動抑制部46と、制振装置駆動部47と、地震検知部48と、流動再開部49と、制振装置駆動停止部50とを備える。
流動抑制部46は、判断部44により建物本体部11での揺れが大きいと判断された場合に、ロック機構24を作動させるものである。ロック機構24の作動によりオイルダンパ23での免震機能が停止され、免震層16の変形が抑制される。これにより、風に起因する建物本体部11での揺れが抑制される。
制振装置駆動部47は、例えば重りを振動させていない待機状態の制振装置31を駆動させるものである。制振装置31の駆動により、例えば重りの振動が開始される。制振装置駆動部47は、電気信号線を介して、制振装置31への駆動開始信号を送信する。駆動開始信号を受信した制振装置31は、制振装置31の駆動を開始する。制振装置31の駆動により、風に起因する建物本体部11での揺れを抑制できる。これにより、建物本体部11の揺れを低減して居住性を向上できる。なお、制振装置31の駆動と上記オイル流動の抑制とは、同時行われる。
【0020】
地震検知部48は、地震の発生を検知するものである。地震検知部48は、地震計52を設置した地面の揺れの大きさに基づき、地震の発生を検知する。具体的には、地震検知部48は、地震計52による測定値(揺れの大きさ)が予め定められた閾値以上になったときに、地震の発生を検知する。
流動再開部49は、上記のように、オイルの流動抑制状態で地震の発生を検知したときに、オイルの流動を再開するものである。オイルの流動抑制は、上記のように、風に起因する建物本体部11での揺れ(風揺れ)が大きい場合に行われる。しかし、風に起因する揺れが大きい場合であっても、地震計52により地震の発生が検知されると、オイルの流動抑制が解除される。オイル流動抑制解除を行うことで、建物本体部11及びオイルダンパ23の固有周期を長くして、地震により発生した揺れを減衰できる。
オイル流動抑制解除の際、流動再開部49は、電気信号線を通じ、電磁弁86に接続された電源装置に電圧供給停止信号を送信する。これにより、電源装置は電磁弁86への電圧供給を停止し、電磁弁86の通電が停止される。電磁弁86の通電停止により閉塞部材90(図3参照)が流路101(図3参照)から移動し、流路101が解放される。これにより、オイルダンパ23でのオイルの流動が再開される。
流動再開部49を備えることで、制御装置41は、地震発生時には、地震情報によりロック機構付きオイルダンパ22のロック機構24を解除して鉄骨造建物10の固有周期を長くし、ロック機構付きオイルダンパ22の減衰力を増大させて鉄骨造建物10に加わる地震荷重を低減させるようになっている。流動再開部49により、常時又は地震発生時には、免震装置20を構成するロック機構付きオイルダンパ22のロック機構24が解除状態で、鉄骨造建物10が一般的な積層ゴム支承21及びロック機構無しのオイルダンパ23で構成される免震装置20で支持されており、地震発生時には鉄骨造建物10への地震荷重が低減されるため、鉄骨造建物10の構造安定性を確保できる。
【0021】
制振装置駆動停止部50は、駆動状態にある制振装置31の駆動停止を行うものである。具体的には例えば、制振装置駆動停止部50は、制振装置31に例えば備えられるアクチュエータの駆動を停止させることで、制振装置31の駆動を停止できる。制振装置31の駆動停止は、建物本体部11での揺れが大きいときに駆動開始された制振装置31に対して行われる。このほか、制振装置31の駆動停止は、無風時等の揺れが小さい場合において、地震が生じたときに駆動開始された制振装置31に対しても行われる。
なお、制御装置41は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hrd Disk Drive)、I/F(インターフェイス)等を備えて構成される。そして、制御装置41は、ROM又はHDDに格納されている所定の制御プログラムがCPUによって実行されることにより具現化される。
【0022】
図5は、本実施形態に係る鉄骨造建物10において行われるロック機構付きオイルダンパ22の制御内容及び制振装置31の制御内容を示すフローチャートである。図5に示す制御は、上記の図4に示した制御装置41により行われる。そこで、適宜図4を参照しながら、図5の説明を行う。なお、以下の説明は、一例として、強風時に地震が生じた場合を例に挙げる。
制御装置41の起動開始直後(通電直後)、ロック機構24の解除によりロック機構付きオイルダンパ22でのオイル流動が可能であるとともに、制振装置31は待機している。そして、取得部42は、風向風速計51及び地震計52を介して、風向、風速及び地面の揺れの大きさを取得する(ステップS1)。これらのうち、風向及び風速は、風による建物本体部11での揺れが大きいか否かの判断に使用される(後記するステップS3)。また、揺れの大きさは、地震が発生したか否かの判断に使用される(後記するステップS6)。
【0023】
風情報決定部43は、取得した風向及び風速を風情報として決定する(ステップS2)。そして、判断部44は、風に起因する建物本体部11での揺れが大きいか否かを判断する(ステップS3)。判断は、例えば、風向毎に予め決定された閾値と取得した風速との比較により行われる。判断部44は、風速が閾値以上であれば建物本体部11での揺れが大きいと判断し、風速が閾値未満であれば建物本体部11での揺れが小さいと判断する。
判断の結果、揺れが小さいと判断すれば(No)、上記ステップS1移行が再度行われる。一方で、揺れが大きいと判断すれば(Yes)、制御部45の流動抑制部46は、ロック機構24を作動させる(ステップS4)。これにより、オイルダンパ23でのオイル流動が抑制され、免震機能が停止される。流動抑制部46によるオイル流動抑制とともに、制振装置駆動部47は、制振装置31の駆動を行う(ステップS5)。制振装置31の駆動により、風に起因する建物本体部11での揺れを抑制できる。これにより、建物本体部11の揺れ変形を抑制でき、建物本体部11での居住性を向上できる。制振装置31は、風に起因する揺れを抑制できるように駆動する。
【0024】
制振装置31の駆動中、地震検知部48は、取得部42により取得された揺れの大きさを監視し、地震が発生したか否かを判断している(ステップS6)。判断は、例えば取得部42により取得された揺れの大きさが予め定められた閾値以上であるか否かにより行われる。揺れの大きさが閾値以上になれば、地震が検知される。地震が検知されなければ(No)、上記のステップS1以降が繰り返される。
一方で、地震が検知されれば(Yes)、流動再開部49はロック機構24を解除する(ステップS7)。これにより、オイルダンパ23でのオイルの流動が再開され、免震機能が再開される。免震機能の再開により、地震に起因する揺れが減衰する。このとき、制振装置31は駆動中であるため、制振装置31は、風及び地震に起因する揺れを抑制できるように駆動する。
オイルの流動再開後、地震検知部48は、地震計52による測定値に基づき、地震が継続しているか否かを判断する(ステップS8)。地震が継続していれば(Yes)、一定時間待機後、ステップS8が行われる。一方で、例えば、地震計52による測定値が閾値未満になり、地震がおさまったと判断されれば(No)、制振装置駆動停止部50は制振装置31の駆動停止を行う(ステップS9)。これにより、制振装置31は再度待機状態になり、上記のステップS1以降が繰り返される。
【0025】
以上の構成を備える鉄骨造建物10、及び鉄骨造建物10において行われる制御によれば、強風時には免震装置20を構成するロック機構付きオイルダンパ22のロック機構24を作動させて免震層16の変形を抑え、アクティブ制御型の制振装置31を駆動させることで、鉄骨造建物10の揺れ変形を低減できる。強風時に見られる鉄骨造建物10の上層階側での風揺れによる大変形を低減することで、居住性に優れた鉄骨造建物を実現できる。また、強風時であっても、エレベータの連続運転を確保できる。
【0026】
本発明による作用効果を検証するため、以下の検討を行った。
A.地震応答解析
図6は、振動解析モデルの概要を示す図である。「A.地震応答解析」での検討は、図6において破線で囲まれる鉄骨造建物(中間層免震)での地震応答解析を行ったものである。
(1)振動モデル
・モデル
1階床(1FL)を固定点とし、上部ペントハウス1階床(PH1FL)までの各床位置(FL)に質量を集中させる等価せん断38質点系モデルとした。解析プログラムは「TDAPIII」、数値微分法はニューマークβ法(β=1/4)を使用した。
・フレーム復元力特性
免震層上部及び下部は等価せん断ばねとした。
・減衰係数
免震層(免震FL)以外の減衰は、内部粘性減衰で、以下による。免震層の減衰は考慮しない。免震層上部(C)については、免震層を固定した場合の1次固有振動数に対して、免震層下部(C)については、免震層以上が無いものとした場合の1次固有振動数に対して2%の瞬間剛性比例型とした。
[C]=2h/ω1U×[K]
[C]=2h/ω1L×[K]
ただし、h1=0.02(地上鉄骨部)、
ω1U=1次固有振動数(免震層固定時上部建物)、
ω1L=1次固有振動数(免震層から上を除いた免震層下部建物)であり、
[K]は弾性マトリクスを表す。
・免震層復元力特性
天然ゴム系積層ゴム支承の復元力特性のモデルは弾性ばねとした。オイルダンパの復元力特性は、速度のバイリニア型とし、ロック機構付きオイルダンパについては、ロック機構の解除時は速度のリニア型、ロック機構作動時は完全バイリニア型(Q-δ関係)とした。
(2)固有値解析
固有値は下記のケースについて算出した。
・免震層固定モデルは3階床(3FL)を固定した場合である。
・全体モデルは免震層を考慮した38質点系モデルとした。
・免震層下部のみは、免震層から上部建物を除いた下部のみのモデルとした。以下の表1は振動モデルの固有周期、表2は複素固有値解析を示す。
【0027】
【表1】
【表2】
【0028】
B.居住性の検討
上記図6において破線で囲った鉄骨造建物において、再現期間1年の強風に対して水平方向の居住性の検討を行い、性能を確認した。強風時の居住性能は、建物下部に設けた免震装置のみを作動させた場合(図7)と、免震装置を停止して建物上部に設けた制振装置を作動させた場合(図8)について、建物上部での応答加速度の違いを比較検討した。
(1)目標性能
オフィス階の目標性能は概ねH-50以下にした。
ホテル階の目標性能は概ねH-30以下にした。
(2)検討方法
再現期間1年の強風時を想定し、ロック機構付きオイルダンパのロック機構が作動した状態のX方向、Y方向、捩れ方向の鉄骨造建物の振動モードによる解析により検討を行った。
性能の評価は、風洞実験結果に基づき、風向頻度を考慮した応答加速度により行った。
評価はホテル階の36階レベルで検討を行い、ホテル階の判定基準である「概ねH-30以下」を満足することを確認した。
(3)検討結果
図7は、風向頻度を考慮した再現期間1年の強風時の最大応答加速度を示すグラフである。図7では、36階高さでの検討結果であって減衰定数は1.0%であり、「2004年指針」は、日本建築学会発行の建築物荷重指針・同解説(2004)を意味する。これらは後記の図8でも同じである。図7に示すように、再現期間1年の強風時の最大応答加速度は、X方向及び捩れ方向はH-30程度、Y方向はH-10とH-30との間であった。
(4)制振装置(AMD)による性能の確保
上記検討結果によりY方向はH-30を満足したが、X方向及び捩れ方向はH-30を下回った。そこで、図6に示す切替階に制振装置(AMD)を2台配置して、制振性能を確保した。制振装置の制御は、ロック機構付きオイルダンパの制御に連動して行うシステムとした。
図8は、制振装置の配置によるX方向及び揺れ方向の居住性の評価を示すグラフである。図8は、風向頻度を考慮した再現期間1年の強風時の最大応答加速度を示している。
(5)オフィス階の居住性能
強風時の鉄骨造建物振動特性は1次モードが卓越することから、ホテル階下部のオフィス階は判定基準である「概ねH-50以下」を満足した。
【0029】
なお、上記に示す実施形態では、制振装置は建物本体部の屋上に設定しているが、設定場所は屋上に限定することなく、建物本体の上部に設定してもよい。制振装置は、建物屋上又は建物本体の上部に設定することで、制振装置を建物中間部や下部側に設置する場合に比べて、比較的小さな制御力で建物の振動を低減できる。
【符号の説明】
【0030】
10 鉄骨造建物 11 建物本体部 12 杭基礎
13、13a、13b、13c、13d 外周部
16 免震層 20 免震装置 21 積層ゴム支承(免震支承)
22、22a、22b、22c、22d ロック機構付きオイルダンパ
23 オイルダンパ 24 ロック機構 31 制振装置
41 制御装置 42 取得部 43 風情報決定部
44 判断部 45 制御部 46 流動抑制部
47 制振装置駆動部 48 地震検知部 49 流動再開部
50 制振装置駆動停止部 51 風向風速計 52 地震計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8