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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】めっき付着量制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/20 20060101AFI20220926BHJP
   C23C 2/00 20060101ALI20220926BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C23C2/20
C23C2/00
C23C2/40
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018248027
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020105623
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鹿山 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】栗原 繁寿
(72)【発明者】
【氏名】岩弘 尚典
(72)【発明者】
【氏名】森下 久生
(72)【発明者】
【氏名】曽我 和彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 裕大
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-275266(JP,A)
【文献】特開2008-274425(JP,A)
【文献】特開2008-050680(JP,A)
【文献】特開平10-301617(JP,A)
【文献】特開平07-121206(JP,A)
【文献】特表2004-522002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に送られてくる鋼板を溶融めっき浴の浴槽に浸し、前記鋼板に溶融めっき浴を付着させ、前記浴槽から引き上げた後に鋼板の表裏に備えられた表ノズルと裏ノズルから前記鋼板にガスを吹き付け、過剰に付着した溶融めっき浴を除去することで鋼板に所望の厚みの溶融めっき浴を付着させるめっきプラントを制御するめっき付着量制御装置において、
板速、ノズル圧力、ノズルと鋼板の距離と、鋼板に付着するめっき付着量の関係を記述しためっき付着量予測モデルと、
前記めっき付着量予測モデルを参照して鋼板に付着するめっき付着量が所望の値になるように、ノズル圧力とノズル位置の少なくとも一方を制御する制御部と、
前記鋼板のつなぎ目である溶接点を介した前記鋼板の板厚切替わりを判定する第1判定部と、前記鋼板の張力を判定する第2判定部と、前記浴槽で前記鋼板を支持する浴中ロールの位置を判定する第3判定部とから、それぞれ判定結果を受け、少なくとも1つの判定結果が変化したときの、前記鋼板のノズル高さにおける通過位置である鋼板パス位置の移動量を推定し、前記制御部に出力する鋼板パス移動量推定部を備え、
前記制御部は、前記鋼板パス移動量推定部から出力された前記鋼板パス位置の移動量だけノズル位置をシフトさせ、
前記鋼板パス移動量推定部は、板厚の変化量、張力の変化量、浴中ロール位置の移動量からなる偏差量の少なくともひとつを入力とし、さらに前記偏差量と鋼板パス移動量の関係に影響を与える前記鋼板の板厚、鋼板の鋼種、鋼板に付与されている張力、浴中ロールの位置からなる状態量を入力とし、鋼板パス移動量を出力とするニューラルネットで構成されること
を特徴とするめっき付着量制御装置。
【請求項2】
前記溶接点が前記めっきプラントの特定位置を通過したことを判定する溶接点通過判定部と、
前記鋼板の張力が変化したことを判定する張力変化判定部と、
前記浴中ロールが操作されたことを判定する浴中ロール操作判定部の少なくともひとつ以上を備え、
前記鋼板パス移動量推定部は、溶接点通過判定部、張力変化判定部、浴中ロール操作判定部のいずれかの判定結果にしたがって起動され、鋼板パス位置の移動量を推定すること
を特徴とする請求項1に記載のめっき付着量制御装置。
【請求項3】
前記鋼板パス移動量推定部は、前記ニューラルネットと、このニューラルネットと同じ構成を有し、前記偏差量を入力されるニューロンに、偏差量の代わりに零を入力される誤差算出用ニューラルネットを備えたアジャスティングニューラルネットで構成され、前記アジャスティングニューラルネットは、前記ニューラルネットの出力から前記誤差算出用ニューラルネットの出力を減じた値を鋼板パス移動量として出力すること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のめっき付着量制御装置。
【請求項4】
前記制御部はノズル位置を制御するノズル位置制御部を備え、
前記ノズル位置制御部は、鋼板パス移動量推定部が出力した前記鋼板パス位置の移動量に対応した値だけ、前記表ノズルと裏ノズルの位置を前記鋼板パス位置の変化方向に平行移動すること、
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のめっき付着量制御装置。
【請求項5】
前記めっきプラントから前記表ノズルと裏ノズルの圧力や位置、鋼板の板厚、張力、移動速度、鋼板に付着している表裏のめっき付着量の実績値、浴中ロールの位置を取り込み、前記偏差量と前記状態量に分離して記憶するとともに、鋼板の表側めっき付着量と表ノズル圧力と板速を含む信号を前記付着量予測モデルに入力して算出した表ノズルと鋼板表側との距離の推定値と、鋼板の裏側めっき付着量と裏ノズル圧力と板速を前記付着量予測モデルに入力して算出した裏ノズルと鋼板裏側の距離の推定値と、表ノズルの位置と、裏ノズルの位置とから前記鋼板パス位置を推定して記憶し、前記鋼板パス位置が変化したときの変化量である鋼板パス移動量と、対応する前記偏差量と前記状態量の組合せをデータの対として編集する学習用データベース構築部と、
前記学習用データベース構築部が編集したデータの対を記憶して保存する学習用データベースと、
前記学習用データベースに保存されているデータの対を前記ニューラルネットに次々と提示することで、前記ニューラルネットに前記偏差量と前記状態量の組合せと前記鋼板パス移動量の関係を学習させる学習手段を備えたこと
を特徴とする請求項1、請求項2、または、請求項4に記載のめっき付着量制御装置。
【請求項6】
前記鋼板パス移動量推定部は、前記ニューラルネットと、このニューラルネットと同じ構成を有し、前記偏差量を入力されるニューロンに、偏差量の代わりに零を入力される誤差算出用ニューラルネットを備えたアジャスティングニューラルネットで構成され、前記アジャスティングニューラルネットは、前記ニューラルネットの出力から前記誤差算出用ニューラルネットの出力を減じた値を鋼板パス移動量として出力し、
前記学習用データベースに保存されているデータの対を前記アジャスティングニューラルネットに次々と提示することで、前記アジャスティングニューラルネットに前記偏差量と前記状態量の組合せと前記鋼板パス移動量の関係を学習させる学習手段を備えたこと
を特徴とする請求項5に記載のめっき付着量制御装置。
【請求項7】
前記鋼板パス移動量推定部は、板厚の変化量を偏差量として入力し、さらに板厚、鋼種、張力、浴中ロールの位置を状態量として入力し、鋼板パス移動量を出力する第1のアジャスティングニューラルネットと、張力の変化量を偏差量として入力し、さらに板厚、鋼種、張力、浴中ロールの位置を状態量として入力し、鋼板パス移動量を出力する第2のアジャスティングニューラルネットと、浴中ロール位置の移動量を偏差量として入力し、さらに板厚、鋼種、張力、浴中ロールの位置を状態量として入力し、鋼板パス移動量を出力する第3のアジャスティングニューラルネットの少なくとも二つを備えたこと
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のめっき付着量制御装置。
【請求項8】
前記めっき付着量制御装置は、
前記鋼板のつなぎ目である溶接点が前記めっきプラントの特定位置を通過したことを判定する溶接点通過判定部と、
前記鋼板の張力が変化したことを判定する張力変化判定部と、
前記浴中ロールが操作されたことを判定する浴中ロール操作判定部の少なくともひとつ以上を備え、
前記鋼板パス移動量推定部は、溶接点通過判定部、張力変化判定部、浴中ロール操作判定部のいずれかの判定結果にしたがって起動され、鋼板パス位置の移動量を推定し、
前記制御部はノズル位置を制御するノズル位置制御部を備え、
前記ノズル位置制御部は、鋼板パス移動量推定部が出力した鋼板パス位置の移動量に対応した値だけ、前記表ノズルと裏ノズルの位置を前記鋼板パス位置の変化方向に平行移動し、
前記めっき付着量制御装置は、
前記溶接点通過判定部、前記張力変化判定部、前記浴中ロール操作判定部のそれぞれの判定結果を起動要因とし、前記第1のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量、第2のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量、第3のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量からひとつを選択する鋼板パス移動量推定結果選択部を備え、
前記鋼板パス移動量推定結果選択部は、前記溶接点通過判定部の判定結果が起動要因のときは前記第1のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量を選択し、前記張力変化判定部の判定結果が起動要因のときは前記第2のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量を選択し、前記浴中ロール操作判定部の判定結果が起動要因のときは前記第3のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量を選択して、前記ノズル位置制御部に出力し、
前記ノズル位置制御部は、鋼板パス移動量推定部が出力した前記鋼板パス位置の移動量に対応した値だけ、前記表ノズルと裏ノズルの位置を前記鋼板パス位置の移動方向に平行移動すること、
を特徴とする請求項7に記載のめっき付着量制御装置。
【請求項9】
連続的に送られてくる鋼板を溶融めっき浴の浴槽に浸し、前記鋼板に溶融めっき浴を付着させ、前記浴槽から引き上げた後に鋼板の表裏に備えられた表ノズルと裏ノズルから前記鋼板にガスを吹き付け、過剰に付着した溶融めっき浴を除去することで鋼板に所望の厚みの溶融めっき浴を付着させるめっき付着量制御方法であって、
めっき付着量制御装置は、めっき付着量予測モデルと、制御部と、鋼板パス移動量推定部を備えており、
前記めっき付着量予測モデルは、板速、ノズル圧力、ノズルと鋼板の距離と、鋼板に付着するめっき付着量の関係を記述したものであり、
前記制御部は、前記めっき付着量予測モデルを参照して鋼板に付着するめっき付着量が所望の値になるように、ノズル圧力とノズル位置の少なくとも一方を制御し、
前記鋼板パス移動量推定部は、前記鋼板のつなぎ目である溶接点を介した前記鋼板の板厚切替わりを判定する第1判定部と、前記鋼板の張力を判定する第2判定部と、前記浴槽で前記鋼板を支持する浴中ロールの位置を判定する第3判定部とから、それぞれ判定結果を受け、少なくとも1つの判定結果が変化したときの、前記鋼板のノズル高さにおける通過位置である鋼板パス位置の移動量を推定し、前記制御部に出力し、
前記制御部は、前記鋼板パス移動量推定部から出力された前記鋼板パス位置の移動量だけノズル位置をシフトさせ、
前記鋼板パス移動量推定部は、板厚の変化量、張力の変化量、浴中ロール位置の移動量からなる偏差量の少なくともひとつを入力とし、さらに前記偏差量と鋼板パス移動量の関係に影響を与える前記鋼板の板厚、鋼板の鋼種、鋼板に付与されている張力、浴中ロールの位置からなる状態量を入力とし、鋼板パス移動量を出力とするニューラルネットで構成されること
を特徴とするめっき付着量制御方法。
【請求項10】
前記めっき付着量制御装置は、
前記溶接点が前記めっきプラントの特定位置を通過したことを判定する溶接点通過判定部と、
前記鋼板の張力が変化したことを判定する張力変化判定部と、
前記浴中ロールが操作されたことを判定する浴中ロール操作判定部の少なくともひとつ以上を備え、
前記鋼板パス移動量推定部は、溶接点通過判定部、張力変化判定部、浴中ロール操作判定部のいずれかの判定結果にしたがって起動され、鋼板パス位置の移動量を推定すること
を特徴とする請求項9に記載のめっき付着量制御方法。
【請求項11】
前記鋼板パス移動量推定部は、前記ニューラルネットと、このニューラルネットと同じ構成を有し、前記偏差量を入力されるニューロンに、偏差量の代わりに零を入力される誤差算出用ニューラルネットを備えたアジャスティングニューラルネットで構成され、前記アジャスティングニューラルネットは、前記ニューラルネットの出力から前記誤差算出用ニューラルネットの出力を減じた値を鋼板パス移動量として出力すること
を特徴とする請求項9または請求項10に記載のめっき付着量制御方法。
【請求項12】
前記制御部はノズル位置を制御するノズル位置制御部を備え、
前記ノズル位置制御部は、鋼板パス移動量推定部が出力した前記鋼板パス位置の移動量に対応した値だけ、前記表ノズルと裏ノズルの位置を前記鋼板パス位置の変化方向に平行移動すること、
を特徴とする請求項9ないし請求項11のいずれか1項に記載のめっき付着量制御方法。
【請求項13】
前記めっき付着量制御装置は、学習用データベース構築部と、学習用データベースと、学習手段を備えており、
前記学習用データベース構築部は、前記めっきプラントから前記表ノズルと裏ノズルの圧力や位置、鋼板の板厚、張力、移動速度、鋼板に付着している表裏のめっき付着量の実績値、浴中ロールの位置を取り込み、前記偏差量と前記状態量に分離して記憶するとともに、鋼板の表側めっき付着量と表ノズル圧力と板速を含む信号を前記付着量予測モデルに入力して算出した表ノズルと鋼板表側との距離の推定値と、鋼板の裏側めっき付着量と裏ノズル圧力と板速を前記付着量予測モデルに入力して算出した裏ノズルと鋼板裏側の距離の推定値と、表ノズルの位置と、裏ノズルの位置とから前記鋼板パス位置を推定して記憶し、前記鋼板パス位置が変化したときの変化量である鋼板パス移動量と、対応する前記偏差量と前記状態量の組合せをデータの対として編集し、
前記学習用データベースには、前記学習用データベース構築部が編集したデータの対を記憶して保存され、
前記学習手段は、前記学習用データベースに保存されているデータの対を前記ニューラルネットに次々と提示することで、前記ニューラルネットに前記偏差量と前記状態量の組合せと前記鋼板パス移動量の関係を学習させること
を特徴とする請求項9、請求項10、または、請求項12に記載のめっき付着量制御方法。
【請求項14】
前記鋼板パス移動量推定部は、前記ニューラルネットと、このニューラルネットと同じ構成を有し、前記偏差量を入力されるニューロンに、偏差量の代わりに零を入力される誤差算出用ニューラルネットを備えたアジャスティングニューラルネットで構成され、前記アジャスティングニューラルネットは、前記ニューラルネットの出力から前記誤差算出用ニューラルネットの出力を減じた値を鋼板パス移動量として出力し、
前記学習用データベースに保存されているデータの対を前記アジャスティングニューラルネットに次々と提示することで、前記アジャスティングニューラルネットに前記偏差量と前記状態量の組合せと前記鋼板パス移動量の関係を学習させる学習手段を備えたこと
を特徴とする請求項13に記載のめっき付着量制御方法。
【請求項15】
前記鋼板パス移動量推定部は、板厚の変化量を偏差量として入力し、さらに板厚、鋼種、張力、浴中ロールの位置を状態量として入力し、鋼板パス移動量を出力する第1のアジャスティングニューラルネットと、張力の変化量を偏差量として入力し、さらに板厚、鋼種、張力、浴中ロールの位置を状態量として入力し、鋼板パス移動量を出力する第2のアジャスティングニューラルネットと、浴中ロール位置の移動量を偏差量として入力し、さらに板厚、鋼種、張力、浴中ロールの位置を状態量として入力し、鋼板パス移動量を出力する第3のアジャスティングニューラルネットの少なくとも二つを備えたこと
を特徴とする請求項9ないし請求項14のいずれか1項に記載のめっき付着量制御方法。
【請求項16】
前記めっき付着量制御装置は、
前記鋼板のつなぎ目である溶接点が前記めっきプラントの特定位置を通過したことを判定する溶接点通過判定部と、
前記鋼板の張力が変化したことを判定する張力変化判定部と、
前記浴中ロールが操作されたことを判定する浴中ロール操作判定部の少なくともひとつ以上を備え、
前記鋼板パス移動量推定部は、溶接点通過判定部、張力変化判定部、浴中ロール操作判定部のいずれかの判定結果にしたがって起動され、鋼板パス位置の移動量を推定し、
前記制御部はノズル位置を制御するノズル位置制御部を備え、
前記ノズル位置制御部は、鋼板パス移動量推定部が出力した前記鋼板パス位置の移動量に対応した値だけ、前記表ノズルと裏ノズルの位置を前記鋼板パス位置の変化方向に平行移動し、
前記めっき付着量制御装置は、
前記溶接点通過判定部、前記張力変化判定部、前記浴中ロール操作判定部のそれぞれの判定結果を起動要因とし、前記第1のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量、第2のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量、第3のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量からひとつを選択する鋼板パス移動量推定結果選択部を備え、
前記鋼板パス移動量推定結果選択部は、前記溶接点通過判定部の判定結果が起動要因のときは前記第1のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量を選択し、前記張力変化判定部の判定結果が起動要因のときは前記第2のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量を選択し、前記浴中ロール操作判定部の判定結果が起動要因のときは前記第3のアジャスティングニューラルネットが出力した鋼板パス移動量を選択して、前記ノズル位置制御部に出力し、
前記ノズル位置制御部は、鋼板パス移動量推定部が出力した前記鋼板パス位置の移動量に対応した値だけ、前記表ノズルと裏ノズルの位置を前記鋼板パス位置の移動方向に平行移動すること、
を特徴とする請求項15に記載のめっき付着量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼ラインの連続めっきプラントにおいて、鋼板に所望の厚みの溶融めっき浴を付着させるめっき付着量制御装置およびその制御方法に係り、とりわけノズル圧力だけでなくノズル位置を自動制御してめっき付着量を制御する場合に、鋼板の表裏の付着量をそれぞれの目標値に制御するとともにノズルと鋼板の接触の危険を最小化することで、安全に制御を継続するめっき付着量制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板に付着するめっき付着量を制御するための操作端として、ノズルの圧力とノズルの位置がある。ノズルの位置は、ノズルと鋼板の距離(以下、ノズルギャップと称する)を変更するための操作端である。一般に制御の応答やめっき鋼板の光沢性の観点から、ノズル位置を操作する方が勝れているが、板厚変化等、種々の要因でノズルから見た鋼板の相対位置が変化するため、ノズルと鋼板の距離の把握が容易でない。このため、ノズル位置はオペレータの手動操作により制御されることが多く、自動制御を導入するためには、付着量精度の低下、鋼板の表と裏の付着量のアンバランス、ノズルと鋼板の接触の危険を、解決する必要があった。
【0003】
このようなめっき付着量制御を行う従来方法として、特許文献1では、ノズル部における鋼板の通過位置(鋼板パス位置)を検出するセンサを追設し、センサを用いて検出した鋼板パス位置を用いて、表ノズルと裏ノズルの位置を、鋼板に対して適切な値に制御する例が示されている。
【0004】
また特許文献2には、鋼板パス位置を推定する手段を備え、ノズルと鋼板の推定距離が一定値以下になったとき、ノズルギャップを補正したり、警報を発報する手法が示されている。
【0005】
さらに特許文献3には、ノズルの上部と下部に、鋼板を非接触で制御可能な磁力発生体と鋼板パス位置を検出可能な変位計を備え、変位計で測定した鋼板を適切な位置に制御した上で、ノズルと鋼板距離を所望のめっき付着量が得られる値に制御する手法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-280587号公報
【文献】特開2009-275266号公報
【文献】特開平3-253549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の手法では、鋼板パス位置の検出センサを敷設する必要があるため、制御システムの価格が高価になる上、鋼板パス位置の検出センサの保守や校正作業が、新たに必要になる問題があった。また鋼板パス位置の検出センサは、通常、ノズルの上部に備えられるため、鋼板パス位置の検出センサが検出した鋼板パス位置が、ノズル部の鋼板パス位置と対応しないことに起因して、めっき付着量精度が低下する問題があった。さらにめっきプラントにおける鋼板パス位置の検出は、鋼板の振動や幅方向の反り等により技術難度が高く、高精度な鋼板パス位置の検出が難しい問題があった。
【0008】
特許文献2の手法では、板厚変更時に鋼板パス位置の変化を推定し、さらに制御が安定した状態を判断して鋼板パス位置を推定する手段を備えている。しかしながら鋼板パス位置は、板厚変更の他にも浴中ロール(コレクティングロール、スタビライジングロール)の操作や、鋼板張力の変化によっても、移動する。特許文献2はこの点に配慮していないため、浴中ロール操作や張力変化が発生してから制御の安定状態が成立するまでの間、鋼板パス位置の推定精度が低下する問題があった。さらに板厚変化量と鋼板移動量の関係には、現在処理されている鋼板(現鋼板)と次回処理される鋼板(次鋼板)のそれぞれの板厚や鋼種、浴中ロール位置、張力の値等、さまざまな状態量が、動作点として影響を及ぼす。ちなみに鋼種が異なると硬度や降伏強度が変化するので、鋼板パス位置の移動量が影響を受ける。特許文献2の手法ではこの点に配慮していないため、状態量の影響を考慮していないことによる鋼板パス位置の推定精度の低下も問題であった。
【0009】
特許文献3の手法は、鋼板を拘束するための大掛かりな装置が必要なため、システムが高価格になる問題があった。
【0010】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、ノズル位置を自動制御するときに、鋼板パス位置を検出するための特別なセンサを用いることなく鋼板パス位置の移動を高精度に推定し、推定結果にしたがってノズル位置を制御することである。そして、この結果、鋼板の表裏のめっき付着量がアンバランスになることを防ぎ、めっき付着量を高精度化するとともに、ノズルと鋼板の接触リスクを除去して、安全に制御を継続することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した課題を解決するために本発明のめっき付着量制御装置では、連続的に送られてくる鋼板を溶融めっき浴の浴槽に浸し、前記鋼板に溶融めっき浴を付着させ、前記浴槽から引き上げた後に鋼板の表裏に備えられた表ノズルと裏ノズルから前記鋼板にガスを吹き付け、過剰に付着した溶融めっき浴を除去することで鋼板に所望の厚みの溶融めっき浴を付着させるめっきプラントを制御するめっき付着量制御装置において、板速、ノズル圧力、ノズルと鋼板の距離と、鋼板に付着するめっき付着量の関係を記述しためっき付着量予測モデルと、前記めっき付着量予測モデルを参照して鋼板に付着するめっき付着量が所望の値になるように、ノズル圧力とノズル位置の少なくとも一方を制御する制御部と、前記鋼板のつなぎ目である溶接点を介した前記鋼板の板厚切替わりを判定する第1判定部と、、前記鋼板の張力を判定する第2判定部と、前記浴槽で前記鋼板を支持する浴中ロールの位置を判定する第3判定部とから、それぞれ判定結果を受け、少なくとも1つの判定結果が変化したときの、前記鋼板のノズル高さにおける通過位置である鋼板パス位置の移動量を推定し、前記制御部に出力する鋼板パス移動量推定部を備え、前記制御部は、前記鋼板パス移動量推定部から出力された前記鋼板パス位置の移動量だけノズル位置をシフトさせ、前記鋼板パス移動量推定部が、板厚の変化量、張力の変化量、浴中ロール位置の移動量からなる偏差量の少なくともひとつを入力とし、さらに前記偏差量と鋼板パス移動量の関係に影響を与える前記鋼板の板厚、鋼板の鋼種、鋼板に付与されている張力、浴中ロールの位置からなる状態量を入力とし、鋼板パス移動量を出力とするニューラルネットで構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、鋼板パス位置が移動するタイミングである溶接点通過、張力変化、浴中ロール操作のそれぞれの要因が発生したとき、鋼板パス移動量推定部が起動され、要因変化に対応した鋼板パス位置の移動量を算出し、ノズル位置制御部は、鋼板パス移動量に対応して、表ノズル位置と裏ノズル位置をシフトさせる。このため、ノズルと鋼板の相対距離を一定に保つことができるので、鋼板パスの移動により鋼板の表裏の付着量がアンバランスになることを防ぐことができる。さらに鋼板が表裏のどちらか一方のノズルに近接することにより発生するノズルと鋼板の接触リスクを低減できる。
【0013】
さらに、鋼板パス移動量に影響を与える種々の要因をニューラルネットの入力として同時に考慮することで、鋼板パス移動量の推定精度を高めることが出来る。
【0014】
アジャスティングニューラルネットでは、偏差量(現鋼板と次鋼板の板厚差、張力変化前後の張力差、浴中ロール操作前後の位置変化量)の入力値がすべて0のとき、鋼板パス移動量として0を推定することが、その構造上の特徴から保証されている。鋼板パス移動量推定部を、アジャスティングニューラルネットで構成することにより、偏差量が小さいときの鋼板パスの微妙な移動量を、高精度に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】めっきプラントを示した説明図である。
図2】指示情報の例である。
図3】溶接点通過判定部の処理である。
図4】張力変化判定部の処理である。
図5】浴中ロール操作判定部の処理である。
図6】鋼板パス移動量推定部を構成するニューラルネットの構成である。
図7】学習用データベース構築部の処理である。
図8】ノズル零点、表ノズル位置、裏ノズル位置、鋼板の相対関係である。。
図9】学習用データベースの構成図である。
図10】ノズル位置制御部の処理である。
図11】ノズル圧力制御部の処理である。
図12】鋼板パス移動量推定部をアジャスティングニューラルネットで構成したときの説明図である。
図13】めっき付着量制御装置を示した説明図である。
図14】鋼板パス移動量推定部を3つのアジャスティングニューラルネットで構成したときの説明図である。
図15】鋼板パス移動量推定結果選択部の処理である。
図16】本発明のめっき付着量制御装置を示した説明図である。
図17】ノズルと鋼板の水平断面における位置関係を示した図である。
図18】めっき付着量を測定する部位を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の実施例で説明するめっき付着量制御において、ノズルギャップ自動制御を安全に導入できる。ノズル圧力のみを自動制御する場合に比べ、めっき付着量制御の高精度化、高応答化、鋼板表面品質の向上を実現できる。
【実施例1】
【0017】
図1に本発明の実施例を示す。めっき付着量制御装置100(詳細は図16)はめっきプラント150を制御し、鋼板(ストリップ)151に所望の厚みの溶融めっき浴を付着させる。
【0018】
まずめっきプラント150について説明する。めっきプラント150のポット(浴槽)152には溶融めっき浴が溜められており、溶接点156でつなげられた鋼板151が連続的に送られてくる。鋼板151は、浴中ロール160で支持され、トップロール161との間で、鋼板毎にあらかじめ定められた一定の張力値に制御されている。張力は、溶接点156の通過に伴って、現在処理されている鋼板151(現鋼板、先行材)の張力から、次回処理される鋼板151(次鋼板、後行材)の張力に変化する。
鋼板151は、一旦溶融めっき浴に浸された後、引き上げた後に鋼板151の表裏にそれぞれ備えられた表ノズルと裏ノズルからなるノズル153からガスを吹き付けられ、過剰に付着した溶融めっき浴を除去することで、付着するめっきの量が所望の値に制御される。鋼板151に付着するめっきの量は、おおむね鋼板151の速度(板速)、ノズル153から吹きつけるガスの圧力、ノズル153と鋼板151の距離により決定される。鋼板151の振動に配慮して表ノズルの圧力と裏ノズルの圧力は通常同一とするため、鋼板151が表ノズルと裏ノズルの中間になるようにノズル153の位置を制御すれば、鋼板151の表裏の付着量を同じ値にできる。
ここで、めっき処理中の鋼板151のノズル高さにおける通過位置を以下、「鋼板パス位置」と称する。ノズルと鋼板パス位置の距離がノズルギャップであり、鋼板パス位置が推定できれば、鋼板のノズルから見た相対位置を特定できる。表ノズル位置と鋼板パス位置から表ノズルギャップが、裏ノズル位置と鋼板パス位置から裏ノズルギャップが、算出できる。
また浴中ロール160を操作することで、鋼板151の幅方向の板反りを変化させることができる。鋼板151が反ると、これが原因で板幅方向の鋼板151のめっき付着量が板幅方向で異なる値になるが、鋼板151が反りを持たないように浴中ロール160の位置を制御することにより、前記の異なる値になる現象を矯正できる。
一方、鋼板パス位置は、鋼板151の板厚変化、張力の変化、浴中ロール操作により、変化する。鋼板パス位置が変化すると、鋼板151は、表裏のノズルの一方に対して近づき、もう一方に対して遠ざかる。表裏のめっき付着量の目標値が同じとき、鋼板パスが移動しても、鋼板151が表ノズルと裏ノズルの中間になるようにノズル153の位置を制御することが必要になる。表裏のめっき付着量に意図的に差をつける、差厚めっきも考えられるが、このときは、表裏のめっき付着量目標値の違いを考慮した位置に、ノズル153を制御する必要がある。いずれにしても、表めっき付着量と裏めっき付着量のバランスを維持するためには、鋼板パスが移動するタイミングで、鋼板パスの移動量を正しく推定して、ノズル153の位置を鋼板パスが移動した量だけシフトすることが、必要である。
【0019】
鋼板151に付着するめっき付着量と、板速、ノズル圧力、ノズルギャップ(ノズルと鋼板の距離)の関係は、例えば数式1で表される。数式1において,P,Dに鋼板の表面の値を入力すれば,鋼板表面のめっき付着量を,また,P,Dに鋼板の裏面の値を入力すれば,鋼板裏面のめっき付着量を計算できる。さらに,鋼板の表裏のPを平均した値,および鋼板の表裏のDを平均した値を入力することで,表裏を平均しためっき付着量の、およその値が計算できる。
【0020】
【数1】
【0021】
本実施例では以下数式1を、めっき付着量予測モデルと称する。めっき付着量予測モデルとしては、この他にノズル高さや鋼板温度、溶融めっき浴の温度を考慮する場合もある。前後の鋼板は溶接点156で溶接によりつなげられており、溶接点156は通常、めっき付着量目標値の切り替わり箇所と対応する。めっき付着量検出器155は実際に付着しているめっきの量を測定する装置で、鋼板151の表と裏のそれぞれについて鋼板151にどれくらいのめっきが付着しているかを検出して、出力する。本実施例では鋼板151の表と裏のそれぞれについて、幅方向に左側、中央、右側の3点の測定値が出力される場合(表裏で計6点)を例に、説明する。めっき付着量検出器155はノズル153から数十~百数十m隔たったところに取り付けられ、さらに通常、鋼板を幅方向に移動し、平均処理を行った後、値を出力する。このため、ノズル位置のP、V、Dに対応しためっき付着量が計測できるまでに、通常、数十秒~2分を必要とする。
【0022】
図16に、めっき付着量制御装置100の構成を示す。めっき付着量制御装置100は、上位計算機140から、次に処理される鋼板151について、鋼板番号や、鋼種、板厚、板幅、めっき付着量の目標値等からなる指示情報を受け取り、さらにめっきプラント150からノズル153の圧力や位置、鋼板151の速度、めっき付着量検出器155で検出しためっき付着量実績等の実績情報を受け取り、これらから、めっき付着量予測モデル104を参照して、目標めっき付着量を実現するノズルの位置や圧力の指令を算出する制御部101を備え、さらに制御部101は、ノズル圧力制御部102とノズル位置制御部103を備えている。さらに、めっきプラント150から取込んだ実績情報から、溶接点156がノズル153の位置を通過したことを判定する溶接点通過判定部106、鋼板151の張力が変化したことを判定する張力変化判定部107、作業者により浴中ロール160が操作されたことを判定する浴中ロール操作判定部108、これら溶接点通過判定部106、張力変化判定部107、浴中ロール操作判定部108のいずれかの判定結果に従って、鋼板パスの移動量を推定する鋼板パス移動量推定部105を備えており、ノズル位置制御部103は、鋼板パス移動量推定部105の出力に従って、ノズル153の位置をシフトさせる機能を備えている。
【0023】
本実施例では、鋼板パス移動量推定部105をニューラルネットで構成する。このため、ニューラルネットの学習のために、めっきプラント150から取込んだ実績情報から学習に必要なデータを取り出す学習用データベース構築部110、学習用データベース構築部110から出力されたデータを蓄積する学習用データベース111、学習用データベース111に蓄積されたデータを用いて鋼板パス移動量推定部105が備えたニューラルネットを学習する学習部112を備えている。
【0024】
以下、各部の機能を図に従って詳細に説明する。図2にめっき付着量制御装置100が上位計算機140から受け取る指示情報の例を示す。指示情報201は、次回処理される鋼板の鋼板番号、鋼種、板厚、鋼板長等の基本情報、制御の目標値等で構成され、鋼板が処理されるのに先立って、送られて来る。図2の指示情報の例では、鋼板番号、鋼種、板厚、板幅等の属性値、目標付着量、上限付着量、下限付着量等の制御指令値、ノズルギャップや浴中ロール位置等の制御の動作点が含まれている。実際にはこの他に、鋼板の化学組成や納め先、次工程の情報が含まれる場合もある。
【0025】
図3に溶接点通過判定部106が実行する処理を示す。処理は溶接点156がノズル153の位置を通過したタイミングで開始され、その後、定周期(Δt)毎に処理を繰り返す。S3-1でトラッキングの値Lを初期化する。このフローチャートでLは、めっき処理されている部位の鋼板先頭からの距離を示す。S3-2でめっきプラント150から鋼板151の板速をとりこむ。そして板速Vに計算周期Δtを乗じた値をLに加算し、新たにLとする。S3-3でLが指示情報201から取り込んだ鋼板長L2より大きいかどうかを判定する。大きくない場合には当該鋼板の処理が続いているのでΔt経過後、S3-2に戻り、S3-2~S3-3の処理を繰り返す。大きい場合には当該鋼板の処理を終えたことを示しているので、S3-4で鋼板パス移動量推定部105に対して、溶接点通過の判定結果を出力する。その後、S3-1に戻り、次の鋼板の処理を開始する。
【0026】
図4に張力変化判定部107が実行する処理を示す。S4-1で、めっきプラント150から、浴中ロール160とトップロール161の間の鋼板151の張力を取込み、前回取込んだ値と比較する。比較結果に差がない場合は、張力変化が生じていないので、S4-1に戻り、S4-1~S4-2の処理を繰り返す。比較結果に差がある場合は、張力が変化しているので、S4-3で鋼板パス移動量推定部105に対して、張力が変化したとの判定結果を出力する。その後、S4-1に戻り、次回の張力変化を監視する。
【0027】
図5に浴中ロール操作判定部108が実行する処理を示す。S5-1で、めっきプラント150から、浴中ロール160の位置を取込み、前回取込んだ値と比較する。ここで浴中ロールのうちの少なくとも1本は水平方向に移動可能で、浴中ロール位置とは、移動可能なロールの水平方向の位置、あるいは浴中ロール2本の上下方向の重なり量であるインターメッシュ量である。
比較結果に差がない場合は、浴中ロール160が操作されていないので、S5-1に戻り、S5-1~S5-2の処理を繰り返す。比較結果に差がある場合は、浴中ロール160が操作され、位置が変化したことを示しているので、S5-3で鋼板パス移動量推定部105に対して、浴中ロールが操作されたとの判定結果を出力する。その後、S5-1に戻り、次回の浴中ロール操作を監視する。
【0028】
図6に鋼板パス移動量推定部105の構成を示す。本実施例で、鋼板パス移動量推定部105は、入力層601、1層または複数の層を備えた中間層602、出力層603からなるニューラルネットにより構成される。ニューラルネットについては多種報告されているが、本実施例では、多層型、階層型、フィードフォワード型等で称される、信号が、入力層601から出力層603へ一方向に伝播するタイプのニューラルネットで構成される例を示す。また中間層602は、第1の中間層610から第nの中間層611までのn層の中間層により構成され、各ニューロン604は、シナプス605を通じて信号を送受信する。出力層を構成するニューロンはひとつで、入力層601、中間層602を経て計算された鋼板パス移動量の推定値が出力される。入力層601の各ニューロンには、鋼板パス移動量の推定に必要な情報が入力される。鋼板パスは、溶接点通過に伴い鋼板151の板厚が変化したタイミングで板厚の変化量に対応した値だけ移動する。また鋼板パスは、鋼板151の張力が変化したタイミングで、張力の変化量に対応した値だけ移動する。さらに鋼板パスは、浴中ロール160の位置が変化したタイミングで、位置の移動量に対応した値だけ移動する。以上から、板厚変化量、張力変化量、浴中ロール位置変化量を取り込む入力ニューロンを備えている。板厚変化量、張力変化量、浴中ロール位置変化量を、偏差量と称し、入力層601に偏差量620として入力する。加えて、これらが変化したときの状態量が動作点として、偏差量の値と鋼板パス移動量の関係に影響を及ぼす。本実施例の場合、状態量とは、鋼板151の鋼種、板厚、板幅、浴中ロール160の位置、ノズル153の高さ(浴中ロール160とノズル153の距離)等であり、入力層601は、これらを状態量621として取り込むニューロンを備えている。さらに、しきい値ニューロン612を備える場合もあり、しきい値ニューロン612には定数(本実施例では1)が入力される。入力層601で入力されたこれらの信号は、シナプスを介して中間層に送られる。各シナプスには重みと称される定数が付与されており、シナプスに重みを乗じた値が伝達される。たとえば、第1の中間層のニューロンjには、入力層から数式2で示すKjが入力される。
【0029】
【数2】
【0030】
第1の中間層のあるニューロンjでは、受け取ったKj1に非線形処理を施し、Ljに変換して、次の層に出力する。非線形処理例としては、数式3に示すシグモイド関数、数式4,数式5に示すRelu関数等が、用いられる。
【0031】
【数3】
【0032】
【数4】
【0033】
【数5】
【0034】
このような計算を、入力層601に近い層の各ニューロンについて順に実施し、最終的に、出力層603のニューロンの出力が、鋼板パス移動量となる。ニューラルネットの計算方法については、例えば、「ディープラーニングが分かる数学入門」(技術評論者)等、多くの冊子で紹介されている。鋼板パス移動量推定部105をニューラルネットで構成することにより、鋼板パス移動量に影響を与える多くのパラメータの影響を考慮し、さらに各パラメータと鋼板パス移動量の複雑な関係を考慮できるので、鋼板パス移動量の推定を高精度化できる。また入力パラメータと鋼板パス移動量の関係を、めっきプラント150から取込んだデータを用いた学習により獲得できるので、入力パラメータと鋼板パス移動量の関係を人手で構築する必要はなく、めっき付着量制御装置を構築するための負荷が軽減できる。
【0035】
次に、鋼板パス移動量推定部105が備えているニューラルネットの学習方法を説明する。図7に学習用データベース構築部110の処理を示す。学習用データベース構築部110は鋼板パス移動量推定部105が備えたニューラルネットを学習するための教師信号のデータベースを構築する。S7-1でめっきプラント150から得られる実績情報の中から、鋼板パス移動量を推定するのに必要な情報(表と裏のめっき付着量、表と裏のノズル位置)を、ニューラルネットの入力層601に入力するデータ(以下、入力データ)として、取り込む。S7-2で鋼板パス位置を算出する。鋼板パス位置は、図8に示す、表と裏のめっき付着量の実績値WtとWb、表ノズル801の位置Dtと裏ノズル802の位置Dbを用いた計算により、零点と鋼板パス位置の距離Dpとして算出する。図8の零点は、表と裏のノズル位置を零調したときの鋼板パス位置と対応しており、このとき表と裏のノズルは零点を挟んで等距離にある。すなわち、表と裏のノズルギャップは同じ値である。この後、鋼板151の板厚の変化や浴中ロール160の操作により、鋼板が図8の位置に移動したとする。このときめっき付着量制御装置100が操作量として出力しているノズル位置は零点を基準としたDt、Dbであるが、実際のノズルと板の距離はD't、D'bである。まずD't、D'bを求め、その後、鋼板パス位置Dpを算出することを考える。D't、D'bはそれぞれ数式6,数式7により計算できる。
【0036】
【数6】
【0037】
【数7】
【0038】
この結果を用い、鋼板パス位置Dpは数式8で算出できる。
【0039】
【数8】
【0040】
または、鋼板パス位置Dpは数式9で算出できる。
【0041】
【数9】
【0042】
なお図8でDpは、零点から右にあるときを正、左にあるときを負と定義する。S7-3では、Dpが変化したタイミングで、変化した後のDpから変化する前のDpを減ずることで、鋼板パス移動量ΔDpを算出する。S7-4では、鋼板パス位置Dpが変化したときに得られた入力データとΔDpをセットにする編集処理を行い、学習用データベース111に出力する。
【0043】
図9に学習用データベース111の構成を示す。学習用データベース111には、ニューラルネットの入力データ901と、これに対応する鋼板パス移動量である出力データ902の対が、数多く蓄えられている。さらに入力データ901は、板厚変化量、浴中ロール位置変化量、張力変化量からなる偏差量903と、鋼種や板厚等の状態量904から構成される。No.1は、板厚変化量、浴中ロール位置変化量、張力変化量がいずれも0のとき、鋼板パス移動量が0であることを示している。No.2は鋼種コードが5の鋼板151の板厚が1.55mmから0.14mm薄くなり、浴中ロール位置が10.6mmから変化せず、張力変化量も0のとき、鋼板パスが0.32mmだけ、図8において右から左に移動したことを示している。実際の入力データ901は、鋼板151の張力の値や次鋼板の鋼種等、鋼板パス移動量に影響を及ぼすその他の項目も状態量904として含んでいる。
【0044】
鋼板パス移動量推定部105が備えているニューラルネットの学習は、学習部112により行われる。
学習部112は、学習用データベース111に蓄えている入力データ901と対応する出力データ902の組合せを次々と取り出し、入力データ901を鋼板パス移動量推定部105が備えているニューラルネットの入力層601に、順に入力する。そして、計算結果である出力層603の出力値が出力データ902の値と一致するように、シナプス605の重みの値を更新する。
そしてこの更新処理を、出力層603の出力値と出力データ902の差が一定範囲内となるまで、繰り返す。これはニューラルネットの学習方法の中で、バックプロパゲーションと呼ばれる手法で、多くの著作物で参照できるが、たとえば「ニューラルネットワーク情報処理」(麻生秀樹、産業図書)がある。また中間層を複数備えた深層ニューラルネットワークの学習法として、オートエンコーダを用いる手法が知られているが、これも、「深層学習」(人工知能学会偏)等、多くの著書で参照できる。このようにニューラルネットの学習法は種々あり、適当な方法を用いて学習すれば良い。
【0045】
図10に制御部101が備えたノズル位置制御部103の処理を示す。ノズル位置制御部103は、上位計算機140から受け取る鋼板151に関する指示情報201にしたがって、目標付着量を得るために適したノズル位置を設定するプリセット制御、鋼板パス移動量推定部105から鋼板パス位置の移動情報を取り込み、対応した値だけ表ノズルと裏ノズルからなるノズル153を平行移動するノズルシフト制御、めっき付着量検出器155から取り込んだ実績付着量から表裏や幅方向の付着量のアンバランスを検出し、これらを均一化する方向にノズル位置を変更するフィードバック制御の、3つの機能を備えている。まずS10-1で起動要因を判定し、プリセット制御、ノズルシフト制御、フィードバック制御のいずれを実行するか決定する。起動要因は、いずれもめっきプラント150から取り込んだ実績情報から判定でき、たとえば、プリセット制御は溶接点156のノズル位置通過、ノズルシフト制御は鋼板パス移動量推定部105からの鋼板パス位置の移動情報の受信、フィードバック制御はめっき付着量検出器155からの新たな付着量の検出を、それぞれの起動要因とすれば良い。プリセット制御が起動されたときは、S10-2で指示情報201から、次鋼板のノズルギャップDnを取り込む。S10-3でめっきプラント150からの実績情報として、現鋼板に対して制御しているノズル位置Dc1~Dc4を取り込む。本実施例では、ノズル位置を制御するためのアクチュエータを、表裏と幅方向に各1つずつ、計4つ備える場合を例に説明する。すなわち図8の表ノズルの手前側のノズル位置をDc1、奥側をDc2、裏ノズルの手前側のノズル位置をDc3、奥側をDc4とする。S10-4で次鋼板のノズル位置Dn1~Dn4を、数式10~数式13にしたがって算出し、めっきプラント150に出力する。数式10~数式13の各パラメータ(Dc:現鋼板に対する移動前のノズル位置、Dn:次鋼板に対する移動後のノズル位置)は、図17を参照。
【0046】
【数10】
【0047】
【数11】
【0048】
【数12】
【0049】
【数13】
【0050】
本実施例では、プリセット制御の起動要因を溶接点156がノズル位置を通過したタイミングとしたが、ノズルの移動に要する時間を考え、前もって計算しておきたい場合もある。このときは、溶接点156が浴中ロール160を通過したタイミングにしても良いし、ノズル位置通過5秒前のような設定も可能である。
一方、起動要因が鋼板パス位置の移動のときは、ノズルシフト制御が行われる。S10-5で現在のノズル位置(現鋼板に対するノズル位置Dc1~Dc4)を取り込む。さらにS10-6で鋼板パス移動量推定部105から鋼板パス移動量ΔDpを取り込む。S10-7で数式14~数式17にしたがって、ノズルを動作させる各アクチュエータをΔDpだけ並行移動させる演算を行い、各ノズル位置の指令値Dn1~Dn4を算出し、めっきプラント150に出力する。
【0051】
【数14】
【0052】
【数15】
【0053】
【数16】
【0054】
【数17】
【0055】
めっき付着量検出器155から新たな付着量実績値が取り込まれ、これを起動要因としてフィードバック制御が起動されるときには、S10-8で、めっき付着量検出器155からめっき付着量の実績値を取り込む。本実施例では、めっき付着量として、鋼板151の表裏それぞれで中央と両端の3点、計6点を検出する場合を例に説明する。ここで6点の検出値を、以下のように定義する。
・TL:鋼板の表面左側の付着量
・TC:鋼板の表面中央の付着量
・TR:鋼板の表面右側の付着量
・BL:鋼板の裏面左側の付着量
・BC:鋼板の裏面中央の付着量
・BR:鋼板の裏面右側の付着量
S10-9で、表裏および幅方向の付着量アンバランスを算出する。アンバランスは、たとえば数式18,数式19で算出する。数式18,数式19の各パラメータは、図18を参照。
【0056】
【数18】
【0057】
【数19】
【0058】
本発明で、めっき付着量検出器155はいわゆる3点スキャン方式でめっき付着量を計測している。すなわち、めっき付着量検出器155が幅方向に移動してめっき付着量を検出する際、左側、中央、右側の3箇所で一旦停止して付着量を検出し、鋼板151の表面と裏面のそれぞれについて、幅方向に左側、中央、右側の3点の測定値を出力する。つまり、前記したように、表裏で計6点の測定値(TL、TC、TR、BL、BC、BR)が出力される。
加えて通常は、両面平均(上記6点の平均値)、表平均(TL、TC、TRの平均値)、裏平均(BL、BC、BRの平均値)も出力され、この場合、たとえば、表平均と裏平均を用いて、数式18のU値を算出することもできる。
一般のめっき付着量検出器の動作としては、3点スキャン方式の他に、全スキャン方式(めっき付着量検出器155は幅方向に連続移動して、めっき付着量を検出)が使用される場合もある。この場合でも、TL、TC、TR、BL、BC、BRの近傍で検出した値を用いて計算することで、本発明をそのまま適用できる。
【0059】
そしてS10-10で、数式20~数式23にしたがって、このアンバランスを解消する方向のノズル位置を算出し、めっきプラント150に出力する。
【0060】
【数20】
【0061】
【数21】
【0062】
【数22】
【0063】
【数23】
【0064】
溶接点156の通過で鋼板151の板厚が変化するので、プリセット制御とノズルシフト制御が同時に起動されることが考えられる。その場合でも、S10-2~S10-4とS10-5~S10-7を順に実行して、結果を積算すれば良い。あるいは数式24~数式27のように、数式18,数式19と、数式20~数式23とを重畳してノズル位置指令値を算出することも考えられる。
【0065】
【数24】
【0066】
【数25】
【0067】
【数26】
【0068】
【数27】
【0069】
いずれにしても、本発明をそのまま適用できる。
【0070】
図11に制御部101が備えたノズル圧力制御部102の処理を示す。ノズル圧力制御部102は、次鋼板に対して、指示情報201で指示されためっき付着量目標値を実現するノズル圧力を計算するプリセット制御、鋼板151の板速の変更等の状態変化を取り込み、めっき付着量に及ぼす影響を補償するノズル圧力の修正量を算出するフィードフォワード制御、めっき付着量検出器155で検出しためっき付着量実績値と目標付着量が偏差を有していたとき、この偏差を低減するためのノズル圧力の修正量を算出するフィードバック制御の、3つの機能を備えている。S11-1で起動要因を判定し、プリセット制御、フィードフォワード制御、フィードバック制御のいずれを実行するか決定する。起動要因は、いずれもめっきプラント150から取り込んだ実績情報から判定でき、たとえば、プリセット制御は溶接点156のノズル位置通過、フィードフォワード制御は鋼板151の速度変化、フィードバック制御はめっき付着量検出器155からの新たな付着量の検出を、それぞれの起動要因とすれば良い。プリセット制御が起動されたときは、S11-2で、めっきプラント150から現在の板速Vcを取り込む。S11-3で、指示情報201から次鋼板のめっき目標付着量を取り込む。S11-4でノズル位置制御部から、次鋼板のノズル位置設定値を取り込む。次鋼板のノズル位置設定値の代わりに、指示情報から取り込んだ次鋼板のノズルギャップを用いても良い。S11-5でめっき付着量予測モデルを参照し、取り込んだ値を用いて数式28により、ノズル圧力のプリセット値を算出して、ノズル153の操作量として、出力する。
【0071】
【数28】
【0072】
フィードフォワード制御が起動されたときは、S11-6で、めっきプラント150から変更前と変更後の板速を取り込む。そしてS11-7で、数式29により、速度変更を補償するノズル圧力修正量を算出し、現在のノズル圧力を補正する。影響係数とは、めっき付着量を単位量増減させるのに必要なノズル圧力と速度の比率である。
【0073】
【数29】
【0074】
めっき付着量検出器155から新たな付着量実績値が取り込まれ、これを起動要因としてフィードバック制御が起動されるときには、S11-8で、めっき付着量検出器155からめっき付着量の実績値を取り込む。S11-9で指示情報201から取り込んだ目標付着量Wnから偏差を算出し、S11-10で偏差を解消するノズル圧力を算出し、操作量としてノズル153に出力する。具体的には、数式30にしたがった計算式で、現在のノズル圧力を補正する。影響係数とは、めっき付着量を単位量変化させるのに必要なノズル圧力の変化量である。
【0075】
【数30】
【0076】
以上のように、制御部101はノズル圧力制御部102とノズル位置制御部103を備えることにより、鋼板151に付着するめっきを目標値に制御できるとともに、鋼板151のパス移動に追従してノズル位置を制御できるので、ノズル153と鋼板151が接触するリスクを除去できると共に、表裏のめっき付着量バランスを維持できる。
【0077】
本実施例では、ノズル圧力制御部102のフィードフォワード制御の起動要因として、鋼板151の速度変化を例に示したが、この他に、めっき付着量の目標値を操業者が手動で補正したり、鋼板151の板厚変化が原因で、鋼板151とノズル153の距離が変わったことを要因として起動することも考えられる。この場合でも、同様の手法でフィードフォワード制御を実施できる。また本実施例では、フィードバック制御におけるめっき付着量の両面和の制御をノズル圧力で行う例を示したが、圧力を変化させることなくノズル位置の変更(ノズルの開閉)で行うことも可能である。この場合でも、本実施例で示した鋼板パス移動推定部の処理を、そのまま適用できる。さらに本実施例では、学習用データベース構築部110、学習用データベース111、学習部112を、めっき付着量制御装置100の内部に備えたが、めっき付着量制御装置100と信号を授受できる別の計算機とし、めっき付着量制御装置100から実績データを定期的に取り込んで学習用データベースを構築するとともに、必要に応じて学習じ、学習結果を鋼板パス移動量推定部105に送信する構成にすることもできる。
【実施例2】
【0078】
次に、本発明の第2の実施例として、鋼板パス移動量の推定を、二つのニューラルネットからなるアジャスティングニューラルネットで構成したときの実施例を示す。アジャスティングニューラルネットの構成や学習方法は、特開平7-121206、特開平8-63203に記載されているので、本実施例では省略し、鋼板パス移動量の推定に適用したときの特有の構成についてのみ、詳細に記載する。まず入力を、板厚変化量、張力変化量、浴中ロール位置変化量の偏差量と、先行材(現鋼板)や後行材(次鋼板)の板厚や鋼種、張力や浴中ロール位置のような、状態量に分離する。図12に、アジャスティングニューラルネットを鋼板パス移動量推定部105に適用したときの構成を示す。アジャスティングニューラルネット1202は、通常のニューラルネット1203と誤差算出用ニューラルネット1204の、二つのニューラルネットにより構成され、ニューラルネット1203の出力から誤差算出用ニューラルネット1204の出力を減じた値を、鋼板パス移動量として出力する。
ニューラルネット1203および誤差算出用ニューラルネット1204は、たがいに同一構成で、各ニューロン1231間で信号を送受信するための各シナプス1232の重みの値もすべて同一である。ニューラルネット1203は入力層1211、中間層1212、出力層1213からなり、誤差算出用ニューラルネット1204は入力層1241、中間層1242、出力層1243からなる。
ニューラルネット1203の入力層1211の入力は、図6で示したニューラルネットの入力と同じで、ニューラルネット1203の入力層1211は、偏差量1221を入力するニューロンと状態量1222を入力するニューロンを備えている。一方、誤差算出用ニューラルネット1204の入力層1241では、偏差量に対応したニューロンに、偏差量の代わりに0が入力され(符号1251)、その他の状態量1252に対応した各ニューロンには、ニューラルネット1203と同じ状態量1222の値が入力される。板厚変化量、張力変化量、浴中ロール位置変化量がすべて0のとき、鋼板パス移動量が0であるべきなのは明らかだが、ニューラルネット1203と誤差算出用ニューラルネット1204は同一構成なので、ニューラルネット1203の出力から誤差算出用ニューラルネット1204の出力を減じた値は、その構造上、常に0であることが保証される。これより鋼板パス移動量の定常偏差を避けることができるとともに、ニューラルネットの学習誤差の影響を受けることなく、板厚変化量、張力変化量、浴中ロール位置変化量が小さい領域で、鋼板パス移動量の高精度な算出が可能となる。
【0079】
特開平7-121206、特開平8-63203では、誤差算出用ニューラルネット1204に0を入力する入力層ニューロンは単一だったが、本実施例では、板厚変化量、張力変化量、浴中ロール位置変化量の3つの偏差量を同時に扱う必要があるので、3つの入力層ニューロンに0を入力する構成に拡張されている。こうすることで、本実施例で対象とするめっき付着量制御装置100の鋼板パス移動量推定部105に、アジャスティングニューラルネット1202を適用できる。
【実施例3】
【0080】
次に、本発明の第3の実施例として、図13に、鋼板パス移動量の推定を、複数のアジャスティングニューラルネットで行い、得られた複数の鋼板パス移動量を選択して制御に使用する実施例を示す。図13の鋼板パス移動量推定部1301は、鋼板パス移動量を推定するための複数のアジャスティングニューラルネットを備えており、鋼板パス移動量推定結果選択部1302は、鋼板パス移動量推定部1301が算出した複数の鋼板パス移動量推定結果からひとつを選択して、制御部101が備えたノズル位置制御部103に出力する。
【0081】
図14に鋼板パス移動量推定部1401の構成を示す。鋼板パス移動量推定部1301の一例である鋼板パス移動量推定部1401は、第1のアジャスティングニューラルネット1402、第2のアジャスティングニューラルネット1403、第3のアジャスティングニューラルネット1404を備えている。第1のアジャスティングニューラルネット1402は、第1のニューラルネット1405と第1の誤差算出用ニューラルネット1406により構成され、第1のニューラルネット1405の出力から第1の誤差算出用ニューラルネット1406の出力を減じた値が鋼板パス移動量として出力される。第1のニューラルネット1405に入力される偏差量は板厚変化量のみで、これに対応した第1の誤差算出用ニューラルネット1406の入力ニューロンには、0が入力される。加えて、第2の実施例と同様の状態量が、第1のニューラルネット1405と第1の誤差算出用ニューラルネット1406に、入力される。同様に、第2のアジャスティングニューラルネット1403は、第2のニューラルネット1407と第2の誤差算出用ニューラルネット1408により構成され、第2のニューラルネット1407の出力から第2の誤差算出用ニューラルネット1408の出力を減じた値が鋼板パス移動量として出力される。第2のニューラルネット1407に入力される偏差量は張力変化量のみで、これに対応した第2の誤差算出用ニューラルネット1408の入力ニューロンには、0が入力される。加えて、第2の実施例と同様の状態量が、第2のニューラルネット1407と第2の誤差算出用ニューラルネット1408に、入力される。さらに第3のアジャスティングニューラルネット1404は、第3のニューラルネット1409と第3の誤差算出用ニューラルネット1410により構成され、第3のニューラルネット1409の出力から第3の誤差算出用ニューラルネット1410の出力を減じた値が鋼板パス移動量として出力される。第3のニューラルネット1409に入力される偏差量は浴中ロール位置変化量のみで、これに対応した第3の誤差算出用ニューラルネット1410の入力ニューロンには、0が入力される。加えて、第2の実施例と同様の状態量が、第3のニューラルネット1409と第3の誤差算出用ニューラルネット1410に、入力される。以上のようにして、鋼板パス移動量推定部1301は、板厚変化量、張力変化量、浴中ロール位置変化量のそれぞれに対応した鋼板パス移動量を算出し。鋼板パス移動量推定結果選択部1302に出力する。
【0082】
図13で、学習用データベース構築部110と学習用データベース111の処理および構成は、第1の実施例と同様であるが、学習部1303は、第1のアジャスティングニューラルネット1402、第2のアジャスティングニューラルネット1403、第3のアジャスティングニューラルネット1404のそれぞれについて、個別に学習する機能を備えている。学習方法は、例えば、特開平8-63203で公開されている手法を用いれば良い。
【0083】
図15に鋼板パス移動量推定結果選択部1302が実行する処理を示す。S15-1で溶接点通過判定部106、張力変化判定部107、浴中ロール操作判定部108の、それぞれの判定結果を取り込み、どの偏差量が変化したかを起動要因として、判定する。起動要因が溶接点通過と判定されたときはS15-2に進み、第1のアジャスティングニューラルネット1402が算出した鋼板パス移動量を選択肢、制御部101に出力する。起動要因が張力変化と判定されたときはS15-3に進み、第2のアジャスティングニューラルネット1403が算出した鋼板パス移動量を選択肢、制御部101に出力する。さらに起動要因が浴中ロール操作と判定されたときはS15-4に進み、第3のアジャスティングニューラルネット1404が算出した鋼板パス移動量を選択肢、制御部101に出力する。このように、偏差量毎にアジャスティングニューラルネットを備え、起動要因により選択して使用する。
【0084】
本実施例によれば、偏差量のそれぞれについて個別のアジャスティングニューラルネットを構築することで、各アジャスティングニューラルネットの構成が簡単化されるので、学習が容易になるとともに、学習が収れんした後の学習誤差を低減できる。この結果、それぞれの偏差量に対応した鋼板パス移動量の推定精度を高めることができる。
【0085】
以上説明した第1の実施例のめっき付着量制御装置100では、溶接点通過を判定する溶接点通過判定部106、張力変化を判定する張力変化判定部107、浴中ロールが操作されたことを判定する浴中ロール操作判定部108、これら判定部の判定結果により起動され、各起動タイミングで、鋼板パス位置の移動量を推定する鋼板パス移動量推定部105、目標付着量を実現するためのノズル位置開閉制御に加えて、鋼板パス移動量推定部105が推定した鋼板パス位置の移動量に対応して表ノズル位置と裏ノズル位置をシフトさせる機能を備えたノズル位置制御部103を備えた。
さらに鋼板パス移動量推定部105をニューラルネットで構成し、めっきプラント150から取込んだ種々のデータから、ニューラルネットを学習するためのデータを選別して編集する学習用データベース構築部110、編集されたデータを蓄積する学習用データベース111、学習用データベース111のデータを用いてニューラルネットを学習する学習部112を備えた。
【0086】
第2の実施例のめっき付着量制御装置100では、さらに鋼板パス移動量推定部105のニューラルネットを、特許第3040901号に記載されている二つのニューラルネットの減算結果を出力する構成(アジャスティングニューラルネット1202)とし、入力とする偏差量として、現鋼板と次鋼板の板厚差、張力変化前後の張力差、浴中ロール操作前後の位置変化量を、同時に入力する構成とした。従来のアジャスティングニューラルネットについては、「モデルチューニングを高精度に行うアジャスティングニューラルネットの構成と学習方式」(電気学会論文誌D、115巻、4号、平成7年)に詳しく述べられている。
【産業上の利用可能性】
【0087】
鉄鋼のプロセッシングラインにおけるめっき付着量制御に、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
100 めっき付着量制御装置
101 制御部
102 ノズル圧力制御部
103 ノズル位置制御部
104 めっき付着量予測モデル
105 鋼板パス移動量推定部
106 溶接点通過判定部
107 張力変化判定部
108 浴中ロール操作判定部
110 学習用データベース構築部
111 学習用データベース
112 学習部
140 上位計算機
150 めっきプラント
151 鋼板
153 ノズル
155 めっき付着量検出器
156 溶接点
1202 アジャスティングニューラルネット
1203 ニューラルネット
1204 誤差算出用ニューラルネット
1302 鋼板パス移動量推定結果選択部
図1
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