(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ジルコニア組成物、仮焼体及び焼結体並びにこれらの製造方法、並びに積層体
(51)【国際特許分類】
C01G 25/02 20060101AFI20220926BHJP
C04B 35/486 20060101ALI20220926BHJP
B32B 7/02 20190101ALI20220926BHJP
【FI】
C01G25/02
C04B35/486
B32B7/02
(21)【出願番号】P 2018540276
(86)(22)【出願日】2017-09-20
(86)【国際出願番号】 JP2017033981
(87)【国際公開番号】W WO2018056331
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2016183130
(32)【優先日】2016-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 承央
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-193345(JP,A)
【文献】特開2004-338998(JP,A)
【文献】国際公開第2014/181828(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147681(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/02
C04B 35/00-35/84
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア粒子、及びジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤が凝集した顆粒を含み、
前記顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.81以上であり、
前記安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されておらず、
ジルコニアの結晶系は単斜晶系が20%以上を占める、組成物。
【請求項2】
JISR9301-2-2に準拠して測定した安息角が20度~35度である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
JISR9301-2-3に準拠して測定した軽装かさ密度が1.2g/cm
3以上である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
JISR9301-2-3に準拠して測定した重装かさ密度が1.3g/cm
3以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ジルコニア粒子の平均粒径が0.01μm~2.5μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ジルコニア粒子のBET比表面積が7.5m
2/g~25m
2/gである、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記顆粒の平均粒径が10μm~200μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記安定化剤はイットリアである、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ジルコニアとイットリアの合計molに対して、イットリアを3mol%~7.5mol%含有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
バインダ及び/又は分散剤をさらに含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
顆粒を含み、相互に隣接する第1の層及び第2の層と、を備え、
前記第1の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.70以下であり、
前記第2の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.92以上である積層体。
【請求項12】
顆粒を含み、相互に隣接する第1の層及び第2の層と、を備え、
前記第1の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.70よりも大きく0.81未満であり、
前記第2の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.86以上である積層体。
【請求項13】
前記顆粒はジルコニア粒子が凝集した顆粒である、請求項11又は12に記載の積層体。
【請求項14】
相互に隣接する第1の層及び第2の層を備え、
前記第1の層及び前記第2の層は、それぞれ、ジルコニア粒子、及びジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤が凝集した顆粒を含み、
前記第1の層及び前記第2の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.81以上であり、
前記安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されておらず、
ジルコニアの結晶系は単斜晶系が20%以上を占める積層体。
【請求項15】
前記第1の層と前記第2の層とは組成が異なる、請求項11~14のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項16】
前記顆粒の平均粒径が10μm~200μmである、請求項11~15のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項17】
平均粒径0.01μm~2.5μmの一次粒子で主として構成されるジルコニア粒子及びジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤を含有する組成物を溶媒に分散させる分散工程と、
前記組成物を噴霧乾燥法によって乾燥させて前記ジルコニア粒子が凝集した顆粒を作製する乾燥工程と、を含み、
前記顆粒において、前記安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されておらず、ジルコニアの結晶系は単斜晶系が20%以上を占める、組成物の製造方法。
【請求項18】
前記乾燥工程の前に、前記ジルコニア粒子の平均粒径が0.01μm~2.5μmになるように前記組成物を粉砕する粉砕工程をさらに含む、請求項
17に記載の組成物の製造方法。
【請求項19】
前記安定化剤はイットリアである、請求項
17又は
18に記載の組成物の製造方法。
【請求項20】
ジルコニアとイットリアの合計molに対して、イットリアの含有率が3mol%~7.5mol%となるようにイットリアを添加する、請求項
19に記載の組成物の製造方法。
【請求項21】
前記組成物のうち、第1の組成を有する第1
の層を型に充填する工程と、
前記組成物のうち、第2の組成を有する第2
の層を前記第1
の層上に積層する工程と、
前記型を振動させる工程と、をさらに含む、請求項
17~2
0のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【請求項22】
前記第1の層及び前記第2
の層のうち一方の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.70以下であり、
前記第1の層及び前記第2
の層のうち他方の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.92以上である、請求項2
1に記載の組成物の製造方法。
【請求項23】
前記第1の層及び前記第2
の層のうち一方の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.70よりも大きく0.81未満であり、
前記第1の層及び前記第2
の層のうち他方の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.86以上である、請求項2
1に記載の組成物の製造方法。
【請求項24】
前記第1の層及び前記第2の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.81以上である、請求項2
1に記載の組成物の製造方法。
【請求項25】
前記第1の組成と前記第2の組成とは異なる、請求項2
1~2
4のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【請求項26】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物、請求項11~16のいずれか一項に記載の積層体、又は請求項
17~2
5のいずれか一項に記載の製造方法によって製造した組成物を成形して第1の成形体を作製する第1成形工程と、
前記第1の成形体を焼結に至らない温度で焼成して仮焼体を作製する仮焼工程と、
を含むジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項27】
前記仮焼工程において、前記第1の成形体を800℃~1200℃で焼成する、請求項2
6に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項28】
請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物、請求項11~16のいずれか一項に記載の積層体、又は請求項
17~2
5のいずれか一項に記載の製造方法によって製造した組成物を成形して第1の成形体を作製する成形工程と、
前記第1の成形体を焼結可能温度以上で焼成して焼結体を作製する焼結工程と、
を含むジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項29】
請求項2
6又は27に記載の製造方法によって製造した仮焼体を焼結可能温度以上で焼成して焼結体を作製する焼結工程を含むジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項30】
前記仮焼体を成形して第2の成形体を作製する成形工程と、をさらに含み、
前記焼結工程において、前記仮焼体として前記第2の成形体を焼成して前記焼結体を作製する、請求項
29に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本開示は、日本国特許出願:特願2016-183130号(2016年9月20日出願)の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は引用をもって本書に組み込み記載されているものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、顆粒の形態でジルコニア(酸化ジルコニウム(IV);ZrO2)を主として含有する組成物及びその製造方法に関する。本開示は、ジルコニア仮焼体及び焼結体、並びにこれらの製造方法に関する。また、本開示は、顆粒の積層体に関する。
【背景技術】
【0003】
ジルコニアの粉末を焼結させたジルコニア焼結体は、高い強度を有するため、種々の用途に使用されている。例えば、ジルコニア焼結体は、歯科材料、工具、部品等に適用されている。
【0004】
このようなジルコニア焼結体は、通常、成形したジルコニア粉末を焼成することによって作製される(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、安定化剤として2~4mol%のイットリア、添加剤として0.1wt%未満のアルミナ、及び有機バインダを含み、噴霧成型粉末顆粒であるジルコニア粉末を成型後、常圧下にて1350~1450℃で焼結する透光性ジルコニア焼結体の製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、組成が異なる複数のジルコニア粉末を積層して作製するジルコニア焼結体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-150063号公報
【文献】特開2014-218418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のような顆粒は、通常、噴霧乾燥法(スプレードライ法)によって作製される。例えば、水等の溶媒に粉末を分散させたスラリーにバインダ等の添加物を添加し、このスラリーを噴霧乾燥装置(スプレードライヤ)で乾燥させることによって、添加物を含有する粉末が作製される。噴霧乾燥法によって乾燥された粉末においては、粒子の凝集体(造粒体)が1つの粒子を構成している。特許文献1に記載の顆粒も複数のジルコニア粒子の凝集体である。以下において、噴霧乾燥法によって形成された粒子の凝集体(造粒体)を「顆粒」と称する。顆粒は、通常、球形をなしている。
【0008】
特許文献2に記載のような焼結体は、例えば、組成の異なる顆粒形態の粉末を型内に積層して形成した成形体を焼成することによって作製される。しかしながら、焼結体作製時に、層間の境界において、隣接する層の顆粒同士が部分的に混合していないと、焼結体において層間の境界面で剥離、並びに歪及び歪を起因とする破損が生じてしまうことがある。また、各層の色を変えてグラデーションを形成したい場合にも、隣接する層の顆粒同士が部分的に混合していないと、焼結体外観において境界をまたぐ色の変化が明確になり、グラデーションを形成することができない。これらの現象は、各層の粉末を独立して作製した場合に、及び各層の組成を異ならせた場合に、より顕著に現れる。したがって、粉末積層時に、隣接する層間で顆粒同士の部分的混合が促進可能であると好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1視点によれば、ジルコニア粒子、及びジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤が凝集した顆粒を含む組成物が提供される。顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.81以上である。安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されていない。ジルコニアの結晶系は単斜晶系が20%以上を占める。
【0010】
本開示の第2視点によれば、顆粒を含み、相互に隣接する第1の層及び第2の層と、を備える積層体が提供される。第1の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.70以下である。第2の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.92以上である。
【0011】
本開示の第3視点によれば、顆粒を含み、相互に隣接する第1の層及び第2の層と、を備える積層体が提供される。第1の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.70よりも大きく0.81未満である。第2の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.86以上である。
【0012】
本開示の第4視点によれば、相互に隣接する第1の層及び第2の層を備える積層体が提供される。第1の層及び前記第2の層は、それぞれ、ジルコニア粒子、及びジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤が凝集した顆粒を含む。第1の層及び第2の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.81以上である。安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されていない。ジルコニアの結晶系は単斜晶系が20%以上を占める。
【0013】
本開示の第5視点によれば、第2~4視点に係る積層体を800℃~1200℃で焼成することによって製造した仮焼体が提供される。
【0014】
本開示の第6視点によれば、第5視点に係る仮焼体を1400℃~1600℃で焼成することによって製造した焼結体が提供される。
【0015】
本開示の第7視点によれば、第2~4視点に係る積層体を1400℃~1600℃で焼成することによって製造した焼結体が提供される。
【0016】
本開示の第8視点によれば、平均粒径0.01μm~2.5μmの一次粒子で主として構成されるジルコニア粒子及びジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤を含有する組成物を溶媒に分散させる分散工程と、組成物を噴霧乾燥法によって乾燥させてジルコニア粒子が凝集した顆粒を作製する乾燥工程と、を含む組成物の製造方法が提供される。顆粒において、安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶されていない。ジルコニアの結晶系は単斜晶系が20%以上を占める。
【0017】
本開示の第9視点によれば、第1視点に係る組成物、第2~第4視点に係る積層体、又は第8視点に係る製造方法によって製造した組成物を成形して第1の成形体を作製する第1成形工程と、第1の成形体を焼結に至らない温度で焼成して仮焼体を作製する仮焼工程と、を含むジルコニア仮焼体の製造方法が提供される。
【0018】
本開示の第10視点によれば、第1視点に係る組成物、第2~第4視点に係る積層体、又は第8視点に係る製造方法によって製造した組成物を成形して第1の成形体を作製する成形工程と、第1の成形体を焼結可能温度以上で焼成して焼結体を作製する焼結工程と、を含むジルコニア焼結体の製造方法が提供される。
【0019】
本開示の第11視点によれば、第5視点に係る仮焼体、又は第9視点に係る製造方法によって製造した仮焼体を焼結可能温度以上で焼成して焼結体を作製する焼結工程を含むジルコニア焼結体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、粉末を積層して作製した焼結体、特に、別個に作製した粉末で積層体を作製する場合、あるいは、組成の異なる粉末で積層体を作製する場合であっても、層間剥離又は欠陥の発生を抑制することができる。また、グラデーションを作成する場合には層間の色の変化をなめらかにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の組成物の顆粒の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図2】
図1に示す顆粒を構成する粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】比較例における組成物の顆粒の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図3に示す顆粒を構成する粒子の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図5】試験例19~39における円形度に対する安息角をプロットしたグラフ。
【
図6】試験例19~39における円形度に対する軽装かさ密度をプロットしたグラフ。
【
図7】試験例19~39における円形度に対する重装かさ密度をプロットしたグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上記第1視点の好ましい形態によれば、JISR9301-2-2に準拠して測定した安息角が20度~35度である。
【0023】
上記第1視点の好ましい形態によれば、JISR9301-2-3に準拠して測定した軽装かさ密度が1.2g/cm3以上である。
【0024】
上記第1視点の好ましい形態によれば、JISR9301-2-3に準拠して測定した重装かさ密度が1.3g/cm3以上である。
【0025】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ジルコニア粒子の平均粒径が0.01μm~2.5μmである。
【0026】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ジルコニア粒子のBET比表面積が7.5m2/g~25m2/gである。
【0027】
上記第1視点の好ましい形態によれば、顆粒の平均粒径が10μm~200μmである。
【0028】
上記第1視点の好ましい形態によれば、組成物は、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤をさらに含有する。
【0029】
上記第1視点の好ましい形態によれば、安定化剤の一部はジルコニアに固溶されていない。ジルコニアの結晶系は、単斜晶系が20%以上を占める。
【0030】
上記第1視点の好ましい形態によれば、安定化剤はイットリアである。
【0031】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ジルコニアとイットリアの合計molに対して、イットリアを3mol%~7.5mol%含有する。
【0032】
上記第1視点の好ましい形態によれば、組成物は、バインダ及び/又は分散剤をさらに含有する。
【0033】
上記第2~4視点の好ましい形態によれば、第1の層と第2の層とは組成が異なる。
【0034】
上記第2~4視点の好ましい形態によれば、顆粒の平均粒径が10μm~200μmである。
【0035】
上記第2~4視点の好ましい形態によれば、顆粒はジルコニア粒子が凝集した顆粒である。
【0036】
上記第8視点の好ましい形態によれば、組成物の製造方法は、乾燥工程の前に、ジルコニア粒子の平均粒径が0.01μm~2.5μmになるように組成物を粉砕する粉砕工程をさらに含む。
【0037】
上記第8視点の好ましい形態によれば、分散工程において、組成物に、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤を混合する。
【0038】
上記第8視点の好ましい形態によれば、安定化剤はイットリアである。
【0039】
上記第8視点の好ましい形態によれば、ジルコニアとイットリアの合計molに対して、イットリアの含有率が3mol%~7.5mol%となるようにイットリアを添加する。
【0040】
上記第8視点の好ましい形態によれば、組成物の製造方法は、組成物のうち、第1の組成を有する第1の層を型に充填する工程と、組成物のうち、第2の組成を有する第2の層を第1の層上に積層する工程と、型を振動させる工程と、をさらに含む。
【0041】
上記第8視点の好ましい形態によれば、第1の層及び第2の層のうち一方の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.70以下である。第1の層及び第2の層のうち他方の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.92以上である。
【0042】
上記第8視点の好ましい形態によれば、第1の層及び第2の層のうち一方の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.70よりも大きく0.81未満である。第1の層及び第2の層のうち他方の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.86以上である。
【0043】
上記第8視点の好ましい形態によれば、第1の層及び第2の層における顆粒の投影像に基づく平均円形度が0.81以上である。
【0044】
上記第8視点の好ましい形態によれば、第1の組成と第2の組成とは異なる。
【0045】
上記第9視点の好ましい形態によれば、仮焼工程において、第1の成形体を800℃~1200℃で焼成する。
【0046】
上記第11視点の好ましい形態によれば、ジルコニア焼結体の製造方法は、仮焼体を成形して第2の成形体を作製する成形工程と、をさらに含む。焼結工程において、仮焼体として第2の成形体を焼成して焼結体を作製する。
【0047】
第1実施形態に係る組成物について説明する。組成物は、ジルコニア焼結体及び仮焼体の前駆体(中間製品)となり得るものである。
【0048】
組成物は、ジルコニアを主たる成分として含有することができる。組成物は、粉末の形態を有することができる。粉末は顆粒の集合体である。顆粒は、一次粒子及び/又は一次粒子が凝集した二次粒子が凝集したものである。
【0049】
顆粒は粒子の集合体(凝集体)である。組成物が顆粒の形態を採る場合に、粒子と顆粒との区別をつけるために、以下においては「粒子」及び「顆粒を構成する粒子」という表現を用いている。「顆粒を構成する粒子」には、ジルコニア粒子及び安定化剤粒子が含まれる。
【0050】
本開示にいう「一次粒子」とは、最小単位の球状体の粒子のことをいう。例えば、一次粒子は、電子顕微鏡において、粒子同士結合しておらず、分離可能な状態に見える球状体のことをいう。本開示にいう「二次粒子」とは、電子顕微鏡において一次粒子のように見える粒子が凝集した状態の粒子のことをいう。二次粒子には、一次粒子が解砕可能に付着した凝集体、及び一次粒子同士が分離不可能に融着して1つの粒子となって見える凝集体も含まれる。二次粒子は、電子顕微鏡画像において、多くの場合、球状体になっておらず、いびつな形状を有している。
【0051】
顆粒を構成する粒子は、一次粒子が主体であると好ましい。例えば、電子顕微鏡画像の目視確認において、一次粒子の数は、二次粒子の数よりも多いと好ましい。例えば、電子顕微鏡画像の目視確認において、一次粒子(二次粒子を構成する一次粒子を含む)のうち、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上の一次粒子が、二次粒子を構成しない粒子であると好ましい。二次粒子は通常不規則的な形状になるため、二次粒子が多くなると、後述の顆粒の円形度が低くなってしまう。
【0052】
顆粒を構成する粒子の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定方法により測定したとき、0.01μm以上であると好ましく、0.05μm以上であるとより好ましく、0.08μm以上であると好ましく、0.10μm以上であるとより好ましく、0.11μm以上であるとさらに好ましい。また、当該平均粒径は、例えば、2.5μm以下であると好ましく、1.5μm以下であるとより好ましく、1μm以下であるとより好ましく、0.6μm以下であるとより好ましく、0.3μm以下であるとより好ましく、0.15μm以下であるとより好ましく、0.14μm以下であるとより好ましく、0.13μm以下であるとさらに好ましい。ここでいう平均粒径とは、一次粒子と二次粒子とを区別することなく測定される粒径である。平均粒径を小さくすることによって、後述の顆粒の円形度を高くすることができる。
【0053】
粒子ないし顆粒が焼成工程を経ずに作成されている場合、粒子ないし顆粒から作製される焼結体の透光性をより高めるためには、顆粒を構成する粒子の平均粒径は、0.13μm未満であるとより好ましく、0.125μm以下であるとより好ましく、0.12μm以下であるとより好ましく、0.115μm以下であるとさらに好ましい。
【0054】
顆粒を構成する粒子のBET比表面積は、JISZ8830(2013)に準拠して測定したとき、7.0m2/g以上であると好ましく、7.5m2/g以上であるとより好ましく、8m2/g以上であるとさらに好ましい。7.0m2/g未満であると、焼結が困難であったり、焼結できたとしても焼結体が白濁したりしてしまう。また、当該BET比表面積は、30m2/g以下であると好ましく、25m2/g以下であるとより好ましく、20m2/g以下であるとさらに好ましい。30m2/gを超えると、焼成炉内の温度ムラの影響を受けやすくなってしまう。また、焼結のための焼成時間を短縮すると焼結体の透光性が低下してしまう。ここでいうBET比表面積とは、一次粒子と二次粒子とを区別することなく測定される比表面積である。
【0055】
ジルコニア組成物におけるジルコニアのうち、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上のジルコニアが顆粒を構成しているとこのましい。
【0056】
ジルコニア組成物における顆粒の平均粒径は、10μm以上であると好ましく、12μm以上であるとより好ましく、14μm以上であるとさらに好ましい。顆粒の平均粒径が10μm未満であると、顆粒を金型に入れたときに空気を巻き込み、成形時に脱気が不十分となり、均一で緻密な成形体を作製できないおそれがある。また、成形時に隙間から顆粒が噴出し、所定の必要量を満たさない成形体を作製するおそれがある。顆粒の平均粒径は、200μm以下であると好ましく、190μm以下であるとより好ましく、180μm以下であるとより好ましく、150μm以下であるとより好ましく、100μm以下であるとさらに好ましい。顆粒の平均粒径が200μmを超えると、顆粒の内部に空洞が形成されやすくなってしまう。また、顆粒を金型へいれたときに間隙が生じやすくなってしまう。これらの現象により、成形時に脱気が不十分となり、緻密な成形体を作製できないおそれがある。また、成形時に収縮が大きくなり、所望の大きさを有する成形体を作製できないおそれがある。ジルコニア組成物におけるジルコニアのうち、50%以上が顆粒を構成していると好ましい。顆粒の平均粒径は、顆粒が破壊されないような方法で測定すると好ましい。例えば、顆粒の平均粒径は、振動式・ロータップ式粒度分布測定方法、又は、音波振動篩い分け式粒度分布測定方法によって(例えば、株式会社セイシン企業製ロボットシフターを用いて)測定することができる。
【0057】
顆粒の球形度は高いと好ましい。顆粒の球形度を高めることによって、組成の異なるジルコニア粉末を積層したときに、層間の界面における混合を引き起こすことができる。また、ジルコニア粉末を型に充填して成形体を作製する場合に、平均粒径が同じであるとしても球形度が高いほうが充填密度を高めることができる。充填密度を高めることによって、焼結体の強度及び透光性を高めることができる。また、型が角部を有する場合であっても、角部への顆粒の充填性を高めることができる。
【0058】
顆粒の球形度は、例えば、投影像に基づく円形度、安息角、軽装かさ密度、重装かさ密度等で表すことができる。
【0059】
ジルコニア組成物における顆粒の投影像に基づく平均円形度は、0.81以上であると好ましく、0.85以上であるとより好ましく、0.90以上であるとより好ましく、0.95以上であるとさらに好ましい。円形度は、投影像における顆粒の周囲長に対する顆粒の面積と等しい円の周囲長の比として算出することができる。すなわち、円形度は以下の式から算出することができる。平均円形度は、1万個以上の顆粒の円形度の平均値とすると好ましい。
円形度=(顆粒の面積と等しい円の周囲長(円周))/顆粒の周囲長
【0060】
ジルコニア組成物の安息角は、35°以下であると好ましく、32°以下であるとより好ましく、28°以下であるとより好ましく、26°以下であるとより好ましく、24°以下であるとさらに好ましい。安息角は、JISR9301-2-2に準拠して測定することができる。
【0061】
ジルコニア組成物の軽装かさ密度は、1.0g/cm3以上であると好ましく、1.1g/cm3以上であるとより好ましく、1.2g/cm3以上であるとより好ましく、1.3g/cm3以上であるとさらに好ましい。軽装かさ密度は、JISR9301-2-3に準拠して測定することができる。
【0062】
ジルコニア組成物の重装かさ密度は、1.3g/cm3以上であると好ましく、1.4g/cm3以上であるとより好ましく、1.5g/cm3以上であるとさらに好ましい。重装かさ密度は、JISR9301-2-3に準拠して測定することができる。
【0063】
ジルコニア組成物は、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤をさらに含有することができる。安定化剤は、部分安定化ジルコニアを形成可能なものであると好ましい。安定化剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y2O3;以下「イットリア」という)、酸化セリウム(CeO2)、酸化スカンジウム(Sc2O3)等の酸化物が挙げられる。組成物、仮焼体及び焼結体中の安定化剤の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することができる。
【0064】
ジルコニア組成物において、安定化剤の全部がジルコニアに固溶されていてもよいし、安定化剤の一部がジルコニアに固溶されていてもよい。安定化剤の一部がジルコニアに固溶されていないことは、例えば、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)パターンによって確認することができる。組成物のXRDパターンにおいて、安定化剤に由来するピークが確認された場合には、組成物中においてジルコニアに固溶されていない安定化剤が存在していることになる。安定化剤の全量が固溶された場合には、基本的に、XRDパターンにおいて安定化剤に由来するピークは確認されない。ただし、安定化剤の結晶状態等の条件によっては、XRDパターンに安定化剤のピークが存在していない場合であっても、安定化剤がジルコニアに固溶されていないこともあり得る。ジルコニアの主たる結晶系が正方晶及び/又は立方晶であり、XRDパターンに安定化剤のピークが存在していない場合には、安定化剤の大部分、基本的に全部、はジルコニアに固溶しているものと考えられる。
【0065】
本開示の組成物においては、安定化剤の全部がジルコニアに固溶されていなくてもよい。
【0066】
なお、本開示において、安定化剤が固溶するとは、例えば、安定化剤に含まれる元素(原子)がジルコニアに固溶することをいう。
【0067】
本開示の組成物から作製した焼結体の強度及び透光性の観点から、安定化剤はイットリアであると好ましい。イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計molに対して、3mol%以上であると好ましく、3.5mol%以上であるとより好ましく、4mol%以上であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が3mol%以上であると焼結体の透光性を高めることができる。また、イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計molに対して、7.5mol%以下であると好ましく、7mol%以下であるとより好ましく、6.5mol%以下であるとより好ましく、6mol%以下であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が7.5mol%以下であると焼結体の強度低下を抑制することができる。
【0068】
組成物においてジルコニアに固溶されていないイットリア(以下において「未固溶イットリア」という)の存在率fyは、以下の数1に基づいて算出することができる。未固溶イットリアの存在率fyは、0%より大きいと好ましく、1%以上であるとより好ましく、2%以上であるとより好ましく、3%以上であるとさらに好ましい。未固溶イットリアの存在率fyの上限は、組成物におけるイットリアの含有率に依存する。イットリアの含有率がジルコニアとイットリアの合計molに対して7.5mol%以下であるとき、fyは15%以下とすることができる。例えば、イットリアの含有率が3.5mol%~4.5mol%であるとき、fyは7%以下とすることができる。イットリアの含有率が5mol%~6mol%であるとき、fyは10%以下とすることができる。イットリアの含有率が5.5mol%~6.5mol%であるとき、fyは11%以下とすることができる。
【0069】
組成物において、イットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であるとき、fyが2%以上であると好ましく、3%以上であるとより好ましく、4%以上であるとより好ましく、5%以上であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であるとき、fyが3%以上であると好ましく、4%以上であるとより好ましく、5%以上であるとより好ましく、6%以上であるとより好ましく、7%以上であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下であるとき、fyが4%以上であると好ましく、5%以上であるとより好ましく、6%以上であるとより好ましく、7%以上であるとより好ましく、8%以上であるとさらに好ましい。
【0070】
【0071】
数1において、Iy(111)は、CuKα線によるXRDパターンにおける2θ=29°付近のイットリアの(111)面のピーク強度を示す。Im(111)及びIm(11-1)は、ジルコニアの単斜晶系の(111)面及び(11-1)面のピーク強度を示す。It(111)は、ジルコニアの正方晶系の(111)面のピーク強度を示す。Ic(111)は、ジルコニアの立方晶系の(111)面のピーク強度を示す。
【0072】
上記数1は、Iy(111)の代わりに他のピークを代入することによって、イットリア以外の安定化剤の未固溶存在率の算出にも適用することができる。
【0073】
組成物におけるジルコニアの主たる結晶系は単斜晶系であると好ましい。組成物において、ジルコニア中の単斜晶系の割合fmは、単斜晶系、正方晶系及び立方晶系の総量に対して20%以上であると好ましく、30%以上であると好ましく、40%以上であると好ましく、50%以上であると好ましく、60%以上であると好ましく、70%以上であるとより好ましく、80%以上であるとより好ましく、85%以上であるとより好ましく、90%以上であるとより好ましく、95%以上であるとさらに好ましい。単斜晶系の割合fmは、CuKα線によるXRDピークに基づいて以下の数2から算出することができる。数2における各記号の意味は数1と同じである。組成物における主たる結晶系は、収縮温度の高温化及び焼結時間の短縮化に寄与している可能性がある。
【0074】
本開示の組成物においては、正方晶及び立方晶のピークが実質的に検出されなくてもよい。すなわち、単斜晶系の割合fmが100%とすることができる。
【0075】
【0076】
組成物のプレス成形体を800℃以上1000℃以下で焼成して仮焼体を作製した場合、プレス成形体から仮焼体への収縮率は、プレス成形体の一方向の寸法に対して1%以下であると好ましい。また、組成物のプレス成形体を1000℃より高く1200℃以下で焼成して仮焼体を作製した場合、プレス成形体から仮焼体への収縮率は、プレス成形体の一方向の寸法に対して5%以下であると好ましい。ただし、ここでいうプレス成形体は、ジルコニア粉末を300kg/cm2の圧力でプレス成形した成型体に対して、1700kg/cm2でさらにCIP(Cold Isostatic Pressing;冷間静水等方圧プレス)処理を施したものである。
【0077】
組成物は、ジルコニア及びイットリア以外の添加物を含有してもよい。添加物としては、例えば、顔料(着色剤及び蛍光剤含む)、バインダ、分散剤、消泡剤、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、シリカ(SiO2)等が挙げられる。
【0078】
着色剤等の添加物としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb及びErの群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物を挙げることができる。蛍光剤としては、例えば、Y2SiO5:Ce、Y2SiO5:Tb、(Y,Gd,Eu)BO3、Y2O3:Eu、YAG:Ce、ZnGa2O4:Zn、BaMgAl10O17:Eu等を挙げることができる。
【0079】
バインダとしては、有機バインダを使用することができる。例えば、アクリル系、アクリル酸系、パラフィン系、脂肪酸系、ポリビニルアルコール系を使用することができる。
【0080】
本開示の組成物は、乾燥した状態であってもよいし、液体を含む状態又は液体に含まれる状態であってもよい。例えば、組成物は、パウダー状、ペースト状、スラリー状等の形態を採ることができる。また、組成物は、所定の形状を有する成形体(以下「第1の成形体」という)であってもよい。
【0081】
第1の成形体の密度は、2.75g/cm3以上であると好ましく、2.80g/cm3以上であるとより好ましく、2.85g/cm3以上であるとより好ましく、2.90g/cm3以上であるとより好ましく、3.00g/cm3以上であるとさらに好ましい。密度は、例えば、(第1の成形体の質量)/(第1の成形体の体積)として算出することができる。
【0082】
第1の成形体は、組成が異なる複数の組成物の積層構造を有することができる。積層体における各層は、主として顆粒で構成することができる。隣接する2つの層のうち少なくとも一方の層の組成物における顆粒の円形度は、好ましくは隣接する2層の組成物における顆粒の円形度は、0.81以上であると好ましく、0.85以上であるとより好ましく、0.90以上であるとさらに好ましい。
【0083】
隣接する2つの層のうち、一方の層の組成物における顆粒の円形度が0.70以下であるとき、当該一方の層に隣接する他方の層の組成物における顆粒の円形度は、0.92以上であると好ましく、0.95以上であるとより好ましい。一方の層の組成物における顆粒の円形度が0.70よりも大きく、0.81未満(例えば0.80以下)であるとき、当該一方の層に隣接する他方の層の組成物における顆粒の円形度は、0.86以上であると好ましく、0.90以上であるとより好ましく、0.94以上であるとさらに好ましい。
【0084】
本開示の組成物は、顆粒の球形度が高くなっている。このため、組成物を積層した場合に、層間の境界で、隣接する層の粒子が混合しやすくなっている。このため、それぞれ独立して作製した組成物、あるいは、組成の異なる組成物で積層体を作製した場合であっても、焼結体において界面剥離、並びに歪及び歪を起因とする破損を抑制することができる。また、層毎に色を変えた場合に、境界をまたぐ色の変化をスムーズにして、グラデーションを形成することができる。
【0085】
また、顆粒の球形度を高めることによって、組成物を型に充填した際の充填密度を高めることができる。これにより、焼結体の強度及び透光性を高めることができる。また、プレス成形前の状態において充填密度を高めることができるので、成形前の厚みと成形後の厚みの差が小さくなって、成形を容易化することができる。型が角部を有する場合であっても、角部への顆粒の充填性を高めることができる。
【0086】
第2実施形態として本開示の組成物の製造方法について説明する。
【0087】
まず、ジルコニアと安定化剤とを所定の割合で混合して混合物を作製する(混合工程)。例えば、安定化剤がイットリアである場合、混合比率は、イットリアの上記含有率と同様とすることができる。混合は乾式で行ってもよいし、湿式で行ってもよい。組成物を所望の大きさになるまで粉砕することができる(第1の粉砕工程)。混合工程と第1の粉砕工程とは同一の工程で行うことができる。粉砕は、例えば、水等の溶媒に組成物を分散させた後(分散工程)、ボールミルを用いて行うことができる。後述の焼成工程以降の工程を行わない場合には、顆粒の球形度を高めるため、組成物の平均粒径が、例えば、2.5μm以下、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは0.14μm以下、さらに好ましくは0.13μmとなるように、組成物を粉砕する。組成物は、粉砕によって分散させてもよい。平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定方法によって測定することができる。混合工程及び/又は第1の粉砕工程後、スプレードライヤ等で混合物を噴霧乾燥で乾燥させて、組成物を上述のような顆粒形態に成形する(第1の乾燥工程)。これにより、本開示の組成物を作製することができる。
【0088】
後述の焼成工程以降の工程を行わない場合には、第1の粉砕工程において、組成物の平均粒径は0.13μm未満とすると好ましく、0.125μm以下とするとより好ましく、0.12μm以下とするとより好ましく、0.115μm以下にするとさらに好ましい。組成物の平均粒径を0.13μm未満とすることにより、焼結体の透光性を高めることができる。
【0089】
後述の焼成工程以降の工程を行わない場合には、後述の仮焼体及び焼結体を作製する工程の前に組成物を700℃以上で焼成する工程を含まないと好ましい。これにより、製造工程を簡略化すると共に、焼結前における安定化剤の固溶を抑制することができる。
【0090】
ジルコニアと安定化剤とは別個に準備すると好ましい。例えば、ジルコニアと安定化剤とは、同時に(同じ工程で)析出させるのではなく、ジルコニアの準備工程(例えば製造工程)と安定化剤の準備工程(例えば製造工程)とは、それぞれ独立した別個の工程であると好ましい。これにより、後述の仮焼体の製造工程において安定化剤がジルコニアに固溶することを抑制することができる。
【0091】
以下の工程は、組成物の利用目的に応じて任意に実施することができる。例えば、上述の工程のいずれかの工程後、混合物及び/又は組成物を焼成することができる(焼成(か焼)工程)。焼成条件は、上述のように、焼成後冷却したときのジルコニアの主たる結晶系が正方晶及び立方晶とならないような条件であると好ましい。また、焼成条件は、少なくとも一部の安定化剤がジルコニアに固溶しないような条件であると好ましい。例えば、焼成温度は700℃以上であると好ましく、800℃以上であるとより好ましい。また、焼成温度は、1100℃以下であると好ましく、1000℃以下であるとより好ましく、980℃以下であるとより好ましく、950℃以下であるとさらに好ましい。焼成は大気下で行うことができる。焼成工程を行うことにより、安定化剤の一部をジルコニアに固溶させたり、焼結工程において安定化剤を固溶させやすくしたり、焼結体の性状を改善したりすることができると考えられる。
【0092】
上述のいずれかの工程と同時又はいずれかの工程後に、組成物を水等の溶媒に分散させてスラリーを作製して、バインダ、着色剤等の添加物を組成物に添加することができる(分散・添加工程)。後述の第2の粉砕工程及び第2の乾燥工程を行わない場合には、分散・添加工程は、上述の混合工程から第1の乾燥工程までのいずれかにおいて行うことができる。次に、組成物を所望の大きさになるまで粉砕することができる(第2の粉砕工程)。分散・添加工程と第2の粉砕工程とは同一の工程で行うことができる。第2の粉砕工程は、第1の粉砕工程と同様にして行うことができる。第1の粉砕工程において示したような平均粒径となるように組成物を粉砕すると好ましい。添加工程及び/又は第2の粉砕工程後、スプレードライヤ等で混合物を噴霧乾燥で乾燥させて、組成物を上述のような顆粒形態に成形することができる(第2の乾燥工程)。
【0093】
第1の乾燥工程又は第2の乾燥工程前の顆粒形成前の状態において、上述のように、顆粒の球形度を高めるため、二次粒子を形成しないようにすると好ましい。二次粒子は不定形であるため、顆粒の球形度を低下させやすい。また、顆粒を構成する粒子の平均粒径は小さくすると好ましい。
【0094】
第1の乾燥工程又は第2の乾燥工程においては、スラリー中の気泡の量を少なくすると共に、気泡の大きさを小さくすると好ましい。気泡は、顆粒表面に穴を形成するので、球形度を低下させてしまうためである。気泡の量・大きさを低下させる方法としては、スラリーに分散剤を添加することができる。また、スラリーの粘度(値)及び表面張力を低下させることによって、気泡の量・大きさを低下させることもできる。
【0095】
イットアリアが固溶したジルコニア粉末は、一般的には、共沈法及び加水分解法から作製されている。共沈法及び加水分解法においては、オキシ塩化ジルコニウム及び塩化イットリウムから水和ジルコニアとイットリアの混合物が同じ工程で作製され、この混合物を800℃~900℃で焼成することによってイットリア(イットリウム)が固溶した安定化ジルコニア粉末が作製されている。このイットリア固溶ジルコニアは主として正方晶及び/又は立方晶である。これにより得られるジルコニア粉末の粒径は、数十nmレベルの大きさである。このジルコニア粉末をジルコニア焼結体の原料にするためには、焼成物を所定の粒径まで粉砕した後、造粒して組成物が作製される。
【0096】
このような共沈法又は加水分解法から作製した組成物では、仮焼体作製温度領域における収縮率の温度依存性が高くなってしまう。また、短い焼成時間では焼結体の十分な透光性を得ることができない。
【0097】
本開示の製造方法においては、ジルコニア(単斜晶)を作製した後に、別途安定化剤(イットリア)を混合し、基本的には焼結工程において安定化剤をジルコニアに固溶させる。これにより、仮焼体作製温度領域における収縮率の温度依存性を低くすることができる。また、短時間焼結でも透光性の高い焼結体を得ることができる。
【0098】
また、本開示の製造方法において、焼成工程、第2の粉砕工程及び第2の乾燥工程を行わない場合には、大幅な時間短縮により、組成物の製造コストを削減することができる。また、第2の粉砕工程及び第2の乾燥工程を行っていた設備及び時間を第1の粉砕工程及び第1の乾燥工程に転用することによって、時間当たりの製造量を倍増させることができる。さらに、第2の粉砕工程及び第2の乾燥工程の省略によって組成物にゴミ等の不純物が混入する機会を削減することができる。
【0099】
組成物は成形して第1の成形体とすることができる(第1の成形工程)。成形方法は特定の方法に限定されず、目的に応じて適宜好適な方法を選択することができる。例えば、組成物は、プレス成形、射出成形、光造形法等によって成形することができる。また、多段階的な成形を行ってもよい。例えば、組成物をプレス成形した後に、さらにCIP処理を施したものでもよい。また、成形時に、型内部の気圧は大気圧であってもよいし、減圧されてもよい(プレス等による圧力変化を意味しない)。例えば、プレス成形時に型内を真空ポンプで減圧することによって、緻密性のより高い成形体を作製することができる。これにより、焼結体の強度及び透光性を高めることができる。
【0100】
組成が異なる組成物を積層して第1成形体を作製することもできる。例えば、焼成工程後、組成物を複数に分割する。次に、各組成物に別途添加物を添加する。次に、各組成物について、それぞれ、上述の粉砕工程及び乾燥工程を行う。これによって、組成の異なる複数の組成物を得ることができる。次に、型に、各組成物を順に充填して、複数の組成物の積層体を作製する(積層工程)。このとき、各組成物を添加する毎に、プレス処理を施さないようにする。層間の界面領域で組成物が部分混合しやすくするためである。各組成物を積層するごとに、及び/又はすべての組成物を積層した後に、型を振動させる(振動工程)。振動させる方法はいずれの方式であってもよい。例えば、型を叩いたり、上下に動かしたりして積層体に振動を与えることができる。次に、第1の成形工程を行い、積層構造を有する第1の成形体を作製することができる。この方法によれば、各層を同一の組成物から作製しているため、隣接する2層における顆粒の円形度は、実質的には同等となる。
【0101】
円形度が異なる2層を積層する場合においても、積層工程後、第1の成形工程前に振動工程を行うことによって、層間の界面領域で両層の組成物を混合させることができる。
【0102】
各層における顆粒の円形度は、上述の第1の成形体と同様とすることができる。
【0103】
上述の添加物は、各工程において適宜添加することができる。
【0104】
本開示の組成物の製造方法によれば、球形度の高い顆粒形態の組成物を作製することができる。
【0105】
第3実施形態として、本開示のジルコニア仮焼体について説明する。仮焼体は、ジルコニア焼結体の前駆体(中間製品)となり得るものである。本開示において、仮焼体とは、例えば、ジルコニア粒子(粉末)が完全には焼結していない状態でブロック化したものをいうことができる。特に、本開示の仮焼体は、本開示の組成物から作製されたものをいう。仮焼体の密度は2.7g/cm3以上であると好ましい。また、仮焼体の密度は4.0g/cm3以下であると好ましく、3.8g/cm3以下であるとより好ましく、3.6g/cm3以下であるとさらに好ましい。この密度範囲にあると成形加工を容易に行うことができる。
【0106】
仮焼体におけるジルコニア及び安定化剤の含有比率は、仮焼体作製前の組成物における含有比率と同様である。本開示の仮焼体から作製した焼結体の強度及び透光性の観点から、安定化剤はイットリアであると好ましい。
【0107】
仮焼体における安定化剤の未固溶割合は、仮焼体作製時の焼成温度に依存するが、仮焼体作製前の組成物における未固溶割合以下であると考えられる。仮焼体において未固溶イットリアの存在率fyは、上記数1に基づいて算出することができる。仮焼体における未固溶イットリアの存在率fyは、上述の組成物のfyと同様とすることができる。
【0108】
仮焼体において、未固溶イットリアの存在率fyは、0%より大きいと好ましく、1%以上であるとより好ましく、2%以上であるとより好ましく、3%以上であるとさらに好ましい。未固溶イットリアの存在率fyの上限は、仮焼体におけるイットリアの含有率に依存する。イットリアの含有率がジルコニアとイットリアの合計molに対して7.5mol%以下であるとき、fyは15%以下とすることができる。例えば、イットリアの含有率が3.5mol%~4.5mol%であるとき、fyは7%以下とすることができる。イットリアの含有率が5mol%~6mol%であるとき、fyは10%以下とすることができる。イットリアの含有率が5.5mol%~6.5mol%であるとき、fyは11%以下とすることができる。
【0109】
仮焼体において、イットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であるとき、fyが2%以上であると好ましく、3%以上であるとより好ましく、4%以上であるとより好ましく、5%以上であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であるとき、fyが3%以上であると好ましく、4%以上であるとより好ましく、5%以上であるとより好ましく、6%以上であるとより好ましく、7%以上であるとさらに好ましい。イットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下であるとき、fyが4%以上であると好ましく、5%以上であるとより好ましく、6%以上であるとより好ましく、7%以上であるとより好ましく、8%以上であるとさらに好ましい。
【0110】
仮焼体におけるジルコニアの結晶系は、仮焼体作製時の焼成温度に依存するが、単斜晶の含有割合は、仮焼体作製前の組成物における単斜晶の含有割合以下であると考えられる。ジルコニア中の単斜晶系の割合fmは、単斜晶系、正方晶系及び立方晶系の総量に対して60%以上であると好ましく、70%以上であるとより好ましく、80%以上であるとより好ましく、90%以上であるとより好ましく、95%以上であるとさらに好ましい。
【0111】
仮焼体の曲げ強度は、機械的加工を可能にする強度を確保するために、15MPa以上であると好ましい。また、仮焼体の曲げ強度は、機械的加工を容易にするために、70MPa以下であると好ましく、60MPa以下であるとより好ましい。
【0112】
曲げ強度は、ISO6872に準拠して測定することもできる。
【0113】
ただし、JISR1601又はISO6872の規定とは試験片の大きさを変えて、試験片の大きさは5mm×10mm×50mmとする。試験片の面及びC面は、600番のサンドペーパーで長手方向に面仕上げする。試験片は、最も広い面が鉛直方向(荷重方向)を向くように配置する。曲げ試験測定において、スパンは30mm、クロスヘッドスピードは0.5mm/分とする。
【0114】
本開示の仮焼体を1550℃で30分間焼成して作製した焼結体を第1の焼結体とする。本開示の仮焼体を1550℃で120分間焼成して作製した焼結体を第2の焼結体とする。第1の焼結体と第2の焼結体の透光性(後述参照)を比較したとき、第1の焼結体の透光性は、第2の焼結体の透光性の85%以上であると好ましく、90%以上であるとより好ましく95%以上であるとより好ましく、実質的に同等であるとさらに好ましい。
【0115】
仮焼体は、上述の添加物を含有することができる。
【0116】
仮焼体は、所定の形状を有する成形体(以下「第2の成形体」という)であってもよい。例えば、仮焼体は、ディスク(円板)形状、直方体形状、歯科製品形状(例えば歯冠形状)を有することができる。仮焼したジルコニアディスクをCAD/CAM(Computer-Aided Design/Computer-Aided Manufacturing)システムで加工した歯科用製品(例えば歯冠形状の補綴物)も仮焼体に含まれる。
【0117】
次に、第4実施形態として、本開示の仮焼体の製造方法について説明する。
【0118】
本開示の仮焼体は、上記第1の成形工程で作製した第1の成形体を、ジルコニア粒子が焼結に至らない温度で焼成(即ち仮焼)して作製することができる(仮焼工程)。焼成温度は、ハンドリングのためのブロック化を確実にするため、例えば、800℃以上であると好ましく、900℃以上であるとより好ましく、950℃以上であるとさらに好ましい。また、焼成温度は、寸法精度を高めるため、例えば、1200℃以下であると好ましく、1150℃以下であるとより好ましく、1100℃以下であるとさらに好ましい。
【0119】
このような焼成温度であれば、安定化剤の固溶は進行しないと考えられる。
【0120】
仮焼体は成形して第2の成形体を作製することができる(第2の成形工程)。成形方法は特定の方法に限定されず、目的に応じて適宜好適な方法を選択することができる。例えば、仮焼体でもあるジルコニアディスクをCAD/CAMシステムで歯科用製品(例えば歯冠形状の補綴物)の形状に切削加工して第2の成形体を作製することができる。
【0121】
第5実施形態として、本開示の焼結体について説明する。本開示において、焼結体とは、例えば、ジルコニア粒子(粉末)が焼結状態に至ったものということができる。特に、本開示の焼結体は、本開示の組成物及び/又は仮焼体から作製されたものをいう。焼結体の相対密度は99.5%以上であると好ましい。相対密度は、理論密度に対する、アルキメデス法で測定した実測密度の割合として算出することができる。
【0122】
本開示のジルコニア焼結体には、成形したジルコニア粒子を常圧下ないし非加圧下において焼結させた焼結体のみならず、HIP(Hot Isostatic Pressing;熱間静水等方圧プレス)処理等の高温加圧処理によって緻密化させた焼結体も含まれる。
【0123】
焼結体におけるジルコニア及び安定化剤の含有比率は、焼結体作製前の組成物及び/又は仮焼体における含有比率と同様である。焼結体におけるジルコニアの結晶系については、単斜晶系の割合fmは、10%以下であると好ましく、5%以下であるとより好ましく、実質的には含有されていないとさらに好ましい。単斜晶系以外の結晶系は、正方晶及び/又は立方晶である。
【0124】
焼結体における安定化剤の固溶割合については、含有されている安定化剤の95%以上がジルコニアに固溶されていると好ましく、実質的には全安定化剤が固溶されているとより好ましい。未固溶イットリアの存在率fyは、5%以下であると好ましく、1%以下であるとより好ましく、実質的にはすべて固溶されている(0%)とさらに好ましい。
【0125】
焼結体の透光性は、12以上であると好ましく、14以上であると好ましく、15以上であるとより好ましく、16以上であるとさらに好ましい。ここでいう透光性とは、L*a*b*表色系(JISZ8781)における明度(色空間)のL*値について、厚さ1.2mmの試料の背景を白色にして測定したL*値を第1のL*値とし、第1のL*値を測定した同一の試料について、試料の背景を黒色にして測定したL*値を第2のL*値とし、第1のL*値から第2のL*値を控除した値である。試料の作製方法については、まず、焼結体の厚さが1.2mmとなるように、顆粒(組成物)をプレス成形、続くCIP成形にて、例えば直径19mmの円板状の成形体を作製することができる。次に、成形体を所定の焼成条件で焼成して、試料となる厚さ1.2mmの焼結体を作製することができる。L*値の測定については、試料の表面に接触液を塗布した後、色差計(例えば、CE100、解析ソフトクリスタルアイ(オリンパス社製))を用いて、黒色背景及び白色背景のL*値を測定することができる。接触液としては、例えば、測定波長589nm(ナトリウムD線)で測定した屈折率nDが1.60のものを使用することができる。
【0126】
焼結体は、上述の添加物を含有することができる。
【0127】
焼結体は、所定の形状を有する成形体(以下「第3の成形体」という)であってもよい。例えば、焼結体は、ディスク(円板)形状、直方体形状、歯科製品形状(例えば歯冠形状)を有することができる。
【0128】
次に、第6実施形態として、本開示の焼結体の製造方法について説明する。
【0129】
本開示の焼結体は、本開示の組成物(第1の成形体含む)及び/又は仮焼体(第2の成形体含む)を、ジルコニア粒子が焼結に至る温度で焼成して作製することができる(焼結工程)。焼成温度は、例えば、1400℃以上であると好ましく、1450℃以上であるとより好ましい。また、焼成温度は、例えば、1650℃以下であると好ましく、1600℃以下であるとより好ましい。昇温速度及び降温速度は300℃/分以下であると好ましい。
【0130】
焼結工程において、焼結可能温度(例えば、最高焼成温度)における保持時間は、120分未満であると好ましく、90分以下であるとより好ましく、75分以下であるとより好ましく、60分以下であるとより好ましく、45分以下であるとより好ましく、30分以下であるとさらに好ましい。当該保持時間は1分以上であると好ましく、5分以上であるとより好ましく、10分以上であるとより好ましい。本開示の製造方法によれば、このような焼成時間であっても、作製される焼結体の透光性の低下を抑制することができる。また、焼成時間を短縮することにより、生産効率を高めると共に、エネルギーコストを低減させることができる。
【0131】
焼結工程において、焼結可能温度(例えば、最高焼成温度)における保持時間は、例えば、25分以下、20分以下又は15分以下とすることもできる。
【0132】
焼結工程における昇温速度及び降温速度は、焼結工程に要する時間が短くなるように設定すると好ましい。例えば、昇温速度は、焼成炉の性能に応じて最短時間で最高焼成温度に到達するように設定することができる。最高温度までの昇温速度は、例えば、10℃/分以上、50℃/分以上、100℃/分以上、120℃/分以上、150℃/分以上、又は200℃/分以上とすることができる。降温速度は、焼結体にクラック等の欠陥が生じないような速度を設定すると好ましい。例えば、加熱終了後、焼結体を室温で放冷することができる。
【0133】
本開示の製造方法においては、安定化剤(例えばイットリア)は、焼結工程においてジルコニアに固溶されると考えられる。
【0134】
焼結体は成形して第3の成形体を作製することができる(第3の成形工程)。成形方法は特定の方法に限定されず、目的に応じて適宜好適な方法を選択することができる。例えば、焼結体でもあるジルコニアブロックをCAD/CAMシステムで歯科用製品(例えば歯冠形状の補綴物)の形状に切削加工して第3の成形体を作製することができる。
【0135】
第7実施形態として、本開示の歯科用製品について説明する。本開示の歯科用製品は、第5実施形態に係るジルコニア焼結体を備える。ジルコニア焼結体は、例えば、歯冠形状を有することができる。歯科用製品は、ジルコニア焼結体上に積層された陶材をさらに含むことができる。陶材は、例えばガラス材料等のセラミックスとすることができる。歯科用製品としては、例えば、補綴物(例えば、セラミックフレーム、フルカントゥアークラウン)、歯列矯正用製品(例えば、歯列矯正用ブラケット)、歯科インプラント用製品(例えば、歯科インプラント用アバットメント)が挙げられる。
【0136】
次に、第8実施形態として、本開示の歯科用製品の製造方法について説明する。歯科用製品は、所定の形状を有する本開示の組成物(第1の成形体含む)及び/又は仮焼体(第2の成形体含む)を焼結させて作製することができる。また、歯科用製品は、本開示の焼結体を切削加工して作製することができる(第3の成形体含む)。
【0137】
陶材を有する歯科用製品は、例えば、焼結体の上に、陶材を含有するスラリーを塗布する工程、及び陶材を塗布した焼結体を焼成して焼結体上に陶材を焼き付ける工程によって作製することができる。
【0138】
第3~8実施形態によれば、上述の利点のうちの少なくとも1つを有する仮焼体、焼結体及び歯科用製品を得ることができる。例えば、きれいなグラデーションを有する仮焼体、焼結体及び歯科用製品を得ることができる。高い強度及び透光性を有する仮焼体、焼結体及び歯科用製品を得ることができる。層間剥離等の欠陥が抑制された仮焼体、焼結体及び歯科用製品を得ることができる。角部も他の部分と同様に密に形成された仮焼体、焼結体及び歯科用製品を得ることができる。
【0139】
組成物、仮焼体、焼結体及び積層体についての本書に記載以外の構成及び特性については本願出願時において分析等によって直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではないと考えられる。このため、本書に記載以外の構成又は特性について特定する場合には製造方法による特定が有用であると考えらえる。
【0140】
以下に、本開示の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0141】
[試験例1~18]
積層構造を有するジルコニア焼結体を作製し、隣接する2層の結合状態について円形度による影響を調べた。
【0142】
[ジルコニア組成物の作製]
ジルコニア及びイットリアを混合して「混合物」を作製した。この酸化ジルコニウムとイットリアはそれぞれ独立した工程で作製したものである。イットリアの添加割合を表1~表18に示す。表1~表18に示す添加率は、ジルコニアとイットリアの合計molに対するイットリアの割合である。次に、混合物を所定の粒径になるまでボールミルで湿式粉砕した。次に、混合物を950℃で2時間焼成して「焼成物」を作製した。次に、焼成物をボールミルで湿式粉砕した。次に、スラリー状態の粉砕物にバインダ及び0.01質量%の着色剤を添加した後、スプレードライヤで乾燥させて、組成物を作製した。組成物はジルコニア粒子の「顆粒」状態となっていた。円形度の異なる複数の組成物を作製した。円形度は、焼成工程や粉砕工程において二次粒子の存在比や顆粒を構成する粒子の平均粒径を調節したり、スラリー中の気泡の量及び大きさ、並びにスラリーの粘度及び表面張力を調整したりすることによって調節した。境界における混合状態を確認するため、積層する組成物の色が異なるように着色剤を添加した。顆粒形態にある各組成物の円形度は、シスメックス社製フロー式粒子像分析装置FPIA-3000を用いて測定した。測定条件は、カウント方式:定量カウント、対物レンズ:10倍、光学システム:明視野とした。円形度は3万個以上の顆粒の平均値として算出した。
【0143】
[ジルコニア焼結体の作製]
次に、型に、第1の層となる第1の組成物を入れた。次に、第1の層の上に、第2の沿組成物を入れ、第1の層と第2の層の界面で第1の組成物と第2の組成物とを混合するために振動装置で振動させた。次に、型内の積層体を981N/cm2で加圧して成形した。次に、成形体にCIP処理を施した。成形後の第1の層及び第2の層の厚さは、それぞれ、5mm~6mmとなった。次に、成形体を1500℃で2時間焼成して焼結体を作製した。
【0144】
第1の層と第2の層との界面に対して垂直に試験片をダイヤモンドカッターにて切断し、切断面における第1の層と第2の層の境界を実体顕微鏡で観察して、第1の層と第2の層の色の混合状態を基にして第1の組成物と第2の組成物の混合度を以下の基準で評価した。
A:第1の層と第2の層との境界が明確になっておらず、第1の組成物と第2の組成物が均一に混合されている。
B:第1の層と第2の層との境界が認識可能であり、第1の組成物と第2の組成物の混合が不十分である。
C:第1の層と第2の層との境界が明確であり、第1の組成物と第2の組成物の混合が確認できない。
【0145】
第1の層と第2の層との界面に対して垂直に試験片をダイヤモンドカッターにて切断し、切断面を研磨したのち、研磨面を走査型電子顕微鏡で観察して、剥離性を以下の基準で評価した。
A:第1の層と第2の層との間に解離が確認されない。
B:第1の層と第2の層との間に部分的な解離が確認される。
C:第1の層と第2の層との間に解離が確認される。
【0146】
一方の層の円形度が低い場合、例えば、一方の層の円形度が0.7以下である場合、他方の層の円形度0.85以上であれば、特に0.91を超えると、ほとんどの試験例において混合度及び剥離性のうちの少なくとも一方をA評価にすることができた。また、一方の層の円形度が0.7以下でも、他方の層の円形度が0.95以上であれば、混合度及び剥離性の両方をA評価にすることができた。
【0147】
一方の層の円形度が0.7を超える場合、他方の層の円形度が0.8を超えるとき、特に0.84以上であれば混合度及び剥離性の両方をA評価にすることができた。
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
[未固溶イットリア存在率及び単斜晶割合の測定]
試験例1~6及び試験例13~18で用いたジルコニア組成物について、未固溶イットリアの存在率及び単斜晶の割合を測定した。上述で説明した、顆粒状態のジルコニア組成物の製造工程において各工程において作製された組成物(混合物、焼成物、及び顆粒)についてXRDを測定し、未固溶イットリアの存在率fy及び単斜晶の割合fmを算出した。表19に結果を示す。
【0167】
いずれの工程においても、イットリアのXRDピークが観測された。イットリア添加率の低い試験例1~6では、顆粒状態におけるfyは2以上であった。イットリア添加率の高い試験例13~18においては、顆粒状態におけるfyは4以上であった。各工程を毎にfyが低下しているが、これは粉砕によって結晶が破壊され、イットリアのジルコニアに対する相対的ピークが低下したものと考えられる。ただし固溶によるfyの低下の可能性を否定するものではない。未固溶イットリアの割合は、混合度及び剥離性に影響していないと考えられる。
【0168】
イットリア含有率4mol%の顆粒状態のジルコニア組成物における単斜晶の割合fmは98%であった。イットリア含有率6mol%の顆粒状態のジルコニア組成物における単斜晶の割合fmは97%であった。したがって、顆粒状態の組成物において90%以上のジルコニアが単斜晶であった。原料となるジルコニア(例えば結晶系が異なるジルコニア)や焼成工程の条件を変更することによって、顆粒状態のイットリア組成物における単斜晶の割合を例えば20%以上、40%以上、60%以上又は80%以上とすることができると考えられる。単斜晶の割合は、混合度及び剥離性に影響していないと考えられる。
【0169】
【0170】
[試験例19~39]
[円形度、安息角、平均粒径、軽装かさ密度及び重装かさ密度の測定]
顆粒を構成するジルコニア粒子の平均粒径及び顆粒の平均粒径を変えながら、円形度の異なる顆粒を作製した。各顆粒について、円形度、安息角、平均粒径、軽装かさ密度、及び重装かさ密度を測定した。組成物の作製方法は試験例1~18と同様である。円形度は、構成粒子の平均粒径の他に、スラリー中の気泡やスラリーの粘度等を調整することによって変動させた。顆粒の円形度は、シスメックス社製フロー式粒子像分析装置FPIA-3000を用いて測定した。測定条件は、カウント方式:定量カウント、対物レンズ:10倍、光学システム:明視野とした。円形度は3万個以上の顆粒の平均値として算出した。安息角はJISR9301-2-2に準拠して測定した。顆粒平均粒径は株式会社セイシン企業製ロボットシフターを用いて測定した。顆粒を構成する粒子の平均粒径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定方法によって測定した。軽装かさ密度及び重装かさ密度はJISR9301-2-3に準拠して測定した。表20に結果を示す。
図5~7に、円形度に対して安息角、軽装かさ密度及び重装かさ密度をプロットしたグラフを示す。
【0171】
構成粒子の平均粒径を変化させても円形度を0.84以上、0.9以上及び0.94以上とすることができた。安息角は32°以下、28°以下、24°以下、及び22°以下とすることができた。
図5を見ると、円形度が高くなると、安息角が低くなる傾向があることが分かる。顆粒の平均粒径は10μm~200μmの範囲で変化させることができた。軽装かさ密度は1.25g/cm
3以上とすることができた。
図6を見ると、円形度が高くなると、軽装かさ密度も高くなる傾向があることが分かる。重装かさ密度は1.47g/cm
3以上とすることができた。
図7を見ると、円形度が高くなると、重装かさ密度も高くなる傾向があることが分かる。これより、円形度を高くすると、充填密度を高くできると考えられる。
【0172】
【0173】
[試験例40]
[電子顕微鏡による観察]
試験例20の顆粒について電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、その形状を観察した。
図1にその顕微鏡写真を示す。また、顆粒を構成する粒子の形状についても観察した。
図2にその顕微鏡写真を示す。比較対照として、東ソー社製TZ-3YSB-Eについても同様に顆粒及び顆粒を構成する粒子を観察した。
図3及び
図4にその顕微鏡写真を示す。
【0174】
図1に示す顆粒においては、顆粒の形状は球形(真球)状に見え、球形度(円形度)が高いことが分かる。
図2に示す、顆粒を構成する粒子においては、多くの粒子が分離可能に見える一次粒子であり、一次粒子が凝集した二次粒子は少なかった。一方、
図3に示す顆粒においては、顆粒の形状は非球形(不定形)であり、球形度(円形度)が低いことが分かる。
図4に示す、顆粒を構成する粒子は、一次粒子が分離不可能に凝集した二次粒子(複数の一次粒子が溶融結合して形成された二次粒子)となっている。
図1に示す顆粒は、主として、一次粒子で構成されている。一方、
図3に示す顆粒は、主として、いびつな二次粒子で構成されている。このため、顆粒の球形度に差が生じたものと考えられる。
【0175】
本発明の組成物、仮焼体及び焼結体並びにこれらの製造方法、並びに積層体は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0176】
本発明のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0177】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本開示の組成物、仮焼体及び焼結体並びにこれらの製造方法、並びに積層体は、補綴物等の歯科用材料、フェルールやスリーブ等の光ファイバ用接続部品、各種工具(例えば、粉砕ボール、研削具)、各種部品(例えば、ネジ、ボルト・ナット)、各種センサ、エレクトロニクス用部品、装飾品(例えば、時計のバンド)等の種々の用途に利用することができる。組成物、仮焼体及び焼結体を歯科用材料に使用する場合、例えば、コーピング、フレームワーク、クラウン、クラウンブリッジ、アバットメント、インプラント、インプラントスクリュー、インプラントフィクスチャー、インプラントブリッジ、インプラントバー、ブラケット、義歯床、インレー、アンレー、オンレー、矯正用ワイヤー、ラミネートベニア等に使用することができる。