(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】超電導磁石装置
(51)【国際特許分類】
H01F 6/04 20060101AFI20220926BHJP
H01L 39/04 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H01F6/04 ZAA
H01L39/04
(21)【出願番号】P 2019041875
(22)【出願日】2019-03-07
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100141911
【氏名又は名称】栗原 譲
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政彦
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-079304(JP,A)
【文献】特開2009-246118(JP,A)
【文献】特開2010-171152(JP,A)
【文献】特開2016-018902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 39/04
H01F6/00-H01F6/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導コイルと、
この超電導コイルを伝導冷却する冷凍機と、
前記超電導コイルと前記冷凍機を熱的に接続する高純度金属伝熱板と、
を備える超電導磁石装置において、
前記高純度金属伝熱板の長手方向が前記超電導コイルで発生する磁場と交差する部分
である前記超電導コイル側の断面積が、前記高純度金属伝熱板の長手方向が前記磁場と
平行になる部分
である前記冷凍機側の断面積よりも大きくなっていることを特徴とする超電導磁石装置。
【請求項2】
前記高純度金属伝熱板の長手方向が
前記磁場と平行になる部分の長さが、
前記磁場と交差する部分の長さよりも長いことを特徴とする請求項1に記載の超電導磁石装置。
【請求項3】
前記高純度金属伝熱板は、補強材が貼設されていることを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載の超電導磁石装置。
【請求項4】
前記補強材は、前記高純度金属伝熱板を厚さ方向に挟むように配設したことを特徴とする
請求項3に記載の超電導磁石装置。
【請求項5】
前記補強材は、Ni基合金、またはステンレス鋼、アルミニウム合金、繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチックの何れかから構成されていることを特徴とする請求項
3または請求項4に記載の超電導磁石装置。
【請求項6】
前記高純度金属伝熱板は、前記超電導コイルが発生する磁場の軸に対して垂直な方向に立てて配置したことを特徴とする請求項1から請求項
5の何れか1項に記載の超電導磁石装置。
【請求項7】
前記高純度金属伝熱板の幅方向が
前記超電導コイルの発生する磁場の軸に対して
放射状に配置したことを特徴とする請求項1から請求項
6の何れか1項に記載の超電導磁石装置。
【請求項8】
前記高純度金属伝熱板は、高純度アルミ又は高純度銅であることを特徴とする請求項1から請求項
7の何れか1項に記載の超電導磁石装置。
【請求項9】
前記高純度金属
伝熱板は薄い板状のものを積層した構造であることを特徴とする請求項1から請求項
8の何れか1項に記載の超電導磁石装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導コイルを冷凍機により伝導冷却する超電導磁石装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超電導磁石装置では超電導コイルを液体ヘリウム等で極低温に冷却する必要がある。近年では液体ヘリウム温度まで冷却可能な極低温冷凍機を用いた方式も普及している。
【0003】
冷凍機冷却方式では超電導磁石装置6の従来例を示す縦断面図である
図4に示すように、断熱真空中5に配置された超電導コイル1と冷凍機2を高純度金属伝熱板3で接続して熱的リンクを構成し、伝導冷却をする。この高純度金属伝熱板3の超電導コイル1側端部と冷凍機2側端部の両端は伝熱量と長さに比例し、熱伝導率と断面積に反比例する温度差がつく。この温度差を可能な限り小さくするために熱伝導率の高い材料として高純度アルミや高純度銅等を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-207088号公報
【文献】特開2015-179791号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】AIP Conference Proceedings 1435, 140 (2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した高純度アルミや高純度銅等は非特許文献1に記載された
図5および
図6に示される高純度金属の磁場と熱伝導率の関係を示す特性図のように、磁場中で熱伝導率が下がる現象が知られている。そのため、この熱伝導率の低下を考慮して高純度金属伝熱板の断面積を大きくする必要がある。一方で高純度アルミ等は高価であり、コスト低減のためにはその使用量の削減が要望されている。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、高純度金属伝熱板の伝熱方向を磁場に平行にするか、伝熱板の幅方向を磁場の軸に対して放射状に配置することで、少ない高純度アルミの量で同じ温度差を実現できる、超電導磁石装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記実施形態に係る超電導磁石装置は、超電導コイルと、この超電導コイルを伝導冷却する冷凍機と、前記超電導コイルと前記冷凍機を熱的に接続する高純度金属伝熱板と、を備える超電導磁石装置において、前記高純度金属伝熱板の長手方向が前記超電導コイルで発生する磁場と交差する部分である前記超電導コイル側の断面積が、前記高純度金属伝熱板の長手方向が前記磁場と平行になる部分である前記冷凍機側の断面積よりも大きくなっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、超電導コイルと冷凍機を熱的に接続する高純度金属伝熱板の使用量を抑制して、この高純度金属伝熱板の両端部の温度差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1に係る超電導磁石装置の縦断面図。
【
図2】本発明の実施例2に係る超電導磁石装置を示し、(a)は縦断面図、(b)は正面図。
【
図3】高純度金属伝熱板の配置と磁場の関係を模式的に示す図であり、(a)は高純度金属伝熱板を長手方向に対して斜めに配置した側面図、(b)は(a)の正面図、(c)は高純度金属伝熱板を磁場の軸に対して放射状に配置した場合の側面図、(d)は(c)の正面図。
【
図5】高純度金属の熱流の方向が磁場に垂直な場合における磁場と熱伝導率の関係を示す特性図。
【
図6】高純度金属の熱流の方向が磁場に平行な場合における磁場と熱伝導率の関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る超電導磁石装置の実施例について、図面を参照して説明する。
【0012】
(実施例1)
まず、
図1を用いて実施例1を説明する。
図1は、本発明の実施例1に係る超電導磁石装置の縦断面図である。なお、
図1において、
図4と同一部分には同一符号を付して説明する。
【0013】
図1において本実施例1に係る超電導磁石装置10は、超電導コイル1と、この超電導コイル1を伝導冷却する冷凍機2と、超電導コイル1と冷凍機2を熱的に接続する高純度金属伝熱板3と、この高純度金属伝熱板3に貼設された補強材4とから構成されている。なお、高純度金属伝熱板3は熱伝導率の高い材料として高純度アルミや高純度銅が使用されている。
【0014】
ここで、超電導コイル1において一対の超電導コイル1a,1bは横向きの同一方向に沿う磁場を発生しているヘルムホルツ型のコイル配置とし、点線で示したような磁場Aが存在し、高純度金属伝熱板3はこの磁場Aに概ね平行になるように配置されている。
【0015】
熱の流れる方向Bは矢印で示したように、超電導コイル1から冷凍機2への方向となっている。
図4で示した従来例では、熱の流れる方向Bの一部がこの磁場Aと垂直な方向になる。
図5及び
図6より、熱流の方向が磁場に垂直な場合の熱伝導率は磁場に平行な場合の1/2程度に低下するため、温度差が大きくなる。
【0016】
一方で
図1の実施例1では熱の流れる方向Bが概ね磁場Aに平行な方向となり、熱伝導率の低下が抑えられるため、温度差は小さく保たれる。逆に、
図4と同じ温度差とするために必要な伝熱板の断面積が小さくなり、高純度アルミの必要量を少なくすることができる。
【0017】
ただし、
図1では超電導コイル1近傍の高純度金属伝熱板3は磁場に平行に配置できていないため、熱伝導率が他の部分に比べ低下する。そこで、超電導コイル1近傍の磁場に平行に配置できていない部分、例えば超電導コイル1側等の超電導コイル1との接続部の高純度金属伝熱板3の厚さt1を厚くして断面積を大きくし、他の部分(冷凍機2側)t2を薄くして断面積を少なくすることで、単位長さあたりの熱抵抗がほぼ同じになるようにしている。このようにすると、温度差を同じにするために高純度金属伝熱板3に必要な高純度アルミまたは高純度銅の使用量を削減することができる。
【0018】
なお、高純度金属伝熱板3の長手方向が磁場Aと概ね平行になる部分の長さが、磁場Aと交差する部分の長さよりも長くすることによってより高純度金属伝熱板3に必要な高純度アルミまたは高純度銅の使用量を削減することができる。
【0019】
また、
図1では高純度金属伝熱板3を空中に配置することになる。このため、磁場Aが変動した場合等に、高純度金属伝熱板3に渦電流が誘起され、電磁力が高純度金属伝熱板3にかかり、高純度金属伝熱板3が破壊される可能性がある。このため、補強材4がこの電磁力を受ける働きをし、伝熱板3の破壊を防ぐ構成になっている。また、上記の電磁力は磁場が増加する場合と磁場が減る場合で逆向きに働くため、補強材4を高純度金属伝熱板3の上下の両面に貼り付ける構造としている。この補強材4は耐食性及び耐熱性が優れているという観点からハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)等のNi基合金、またはステンレス鋼等のFe基合金、アルミニウム合金、を用いることが好ましい。さらには、繊維強化プラスチック(FRP)またはガラス繊維強化プラスチック(Glass Fiber Reinforced Plastics:GFRP)を採用することができる。
【0020】
なお、
図1においては超電導コイル1aのみに高純度金属伝熱板3が配置されているように示しているが、超電導コイル1bにおいても鏡面対象の位置に高純度金属伝熱板3および補強材4が配置されている。
【0021】
(実施例2)
次に、本発明に係る超電導磁石装置の実施例2を、
図2、3を用いて説明する。
図2は本発明の実施例2に係る超電導磁石装置を示し、(a)は縦断面図、(b)は正面図である。
【0022】
なお実施例1と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、本実施例も横向きの同一方向に沿う磁場を発生しているヘルムホルツ型のコイル配置であり、一方の超電導磁石は省略している。
【0023】
図2において、超電導磁石装置11は冷凍機2の軸方向における配置が高く、超電導コイル1と冷凍機2を直線的に高純度金属伝熱板3で熱的に接続すると、熱の流れる方向Bと磁場Aの方向が平行とならずに交差する。そこで、
図2(b)に示す様に高純度金属伝熱板3を磁場Aの軸に対して垂直な方向に立てて、すなわち高純度金属伝熱板3を磁場Aの軸に対して放射状に配置している。
【0024】
この配置にする効果を、
図3を用いて説明する。
図3の(a)は高純度金属伝熱板3を長手方向に対して斜めに配置した場合の側面図、(b)は(a)の正面図、(c)は高純度金属伝熱板3を磁場Aの軸に対して放射状に配置した場合の側面図、(d)は(c)の正面図である。
【0025】
図3において、熱の流れる方向Bの成分を磁場Aに直交する成分と平行な成分に分けて考え、特に磁場に直交する成分に着目する。
【0026】
(a)、(b)では伝熱面積は厚さtと幅wの積t×wであるが、(c)、(d)では厚さtと長さlの積t×lとなる。ここでw<<lとすると(c)、(d)の方が、伝熱面積が大きく磁場に直交する成分での温度差が小さくなり、全体としての温度差を低減できる。逆に、(c)、(d)を(a)、(b)と同じ温度差にするために必要な高純度金属伝熱板3の断面積が小さくなり、高純度アルミニウムの必要量が少なくなることでコストの低減も図ることができる。
【0027】
なお、実施例1および実施例2において高純度金属伝熱板3を単一の板状態で説明したが、図示しないが、可撓性に富むように薄い板状のものを積層した構造としても良いのはもちろんである。
【0028】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0029】
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
【0030】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0031】
1…超電導コイル
2…冷凍機
3…高純度金属伝熱板
4…補強材
5…断熱真空中
6、10、11…超電導磁石装置
A…磁場
B…熱の流れる方向
t、t1、t2…厚さ
w…幅
l…長さ