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特許7145825使用済燃料の処理方法および使用済燃料の処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】使用済燃料の処理方法および使用済燃料の処理システム
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/16 20060101AFI20220926BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20220926BHJP
   G21F 9/34 20060101ALI20220926BHJP
   G21C 19/46 20060101ALI20220926BHJP
   G21F 9/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
G21F9/16 541B
G21F9/06 581D
G21F9/34 Z
G21C19/46 600
G21F9/00 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019154156
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021032750
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】深澤 哲生
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 大輔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 慶太
(72)【発明者】
【氏名】山下 淳一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晶大
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 洋一
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-112512(JP,A)
【文献】特開2009-133707(JP,A)
【文献】特開2013-224925(JP,A)
【文献】特開2014-059238(JP,A)
【文献】国際公開第2015/059445(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/16
G21F 9/06
G21F 9/34
G21F 9/00
G21C 19/46
G21C 19/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済燃料を処理する使用済燃料の処理方法であって、
前記使用済燃料の冷却期間が基準期間以上であるとき、前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物からマイナーアクチノイドを分離する分離処理と、前記マイナーアクチノイドが分離された前記放射性廃棄物を固化体とする分離後固化処理と、を行い、
前記使用済燃料の冷却期間が基準期間未満であるとき、前記使用済燃料から分離され、マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物を固化体とする非分離固化処理を行う使用済燃料の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の使用済燃料の処理方法であって、
前記基準期間は、10年以上30年以下の期間として設定される使用済燃料の処理方法。
【請求項3】
使用済燃料を処理する使用済燃料の処理方法であって、
前記使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドが基準量以上であるとき、前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物からマイナーアクチノイドを分離する分離処理と、前記マイナーアクチノイドが分離された前記放射性廃棄物を固化体とする分離後固化処理と、を行い、
前記使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドが基準量未満であるとき、前記使用済燃料から分離され、マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物を固化体とする非分離固化処理を行う使用済燃料の処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の使用済燃料の処理方法であって、
前記マイナーアクチノイドは、アメリシウム241である使用済燃料の処理方法。
【請求項5】
使用済燃料を処理する使用済燃料の処理方法であって、
前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物を固化処理して得られる固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度が基準温度以上であるとき、前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物からマイナーアクチノイドを分離する分離処理と、前記マイナーアクチノイドが分離された前記放射性廃棄物を固化体とする分離後固化処理と、を行い、
前記固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度が基準温度未満であるとき、前記使用済燃料から分離され、マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物を固化体とする非分離固化処理を行う使用済燃料の処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の使用済燃料の処理方法であって、
前記基準温度は、100℃である使用済燃料の処理方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の使用済燃料の処理方法であって、
前記分離後固化処理および前記非分離固化処理は、前記放射性廃棄物をガラス固化体とする処理であり、
前記ガラス固化体は、前記放射性廃棄物の固化体当たりの充填率が26%以上である使用済燃料の処理方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の使用済燃料の処理方法であって、
前記分離処理の前に、前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物を顆粒体とする顆粒化処理を行い、前記放射性廃棄物を前記分離処理の実施時まで顆粒体の状態で貯蔵する使用済燃料の処理方法。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の使用済燃料の処理方法であって、
前記非分離固化処理の前に、前記使用済燃料から分離された前記放射性廃棄物を顆粒体とする顆粒化処理を行い、前記放射性廃棄物を前記非分離固化処理の実施時まで顆粒体の状態で貯蔵する使用済燃料の処理方法。
【請求項10】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の使用済燃料の処理方法であって、
前記分離後固化処理に供される前記放射性廃棄物と、前記非分離固化処理に供される前記放射性廃棄物とは、同一の再処理施設で生じた放射性廃液を起源とする使用済燃料の処理方法。
【請求項11】
使用済燃料を処理する使用済燃料の処理システムであって、
前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物からマイナーアクチノイドを分離する分離処理部と、
放射性廃棄物を固化体とする固化処理部と、を備え、
前記使用済燃料の再処理によって生じた放射性廃液を起源とする放射性廃棄物に対して、マイナーアクチノイドが分離された放射性廃棄物を固化体とする分離後固化処理、および、前記使用済燃料から分離され、マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物を固化体とする非分離固化処理のいずれかを行う使用済燃料の処理システム。
【請求項12】
請求項11に記載の使用済燃料の処理システムであって、
前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物を顆粒体とする顆粒化処理部を備え、
前記分離処理部における処理、および、前記固化処理部における前記非分離固化処理のいずれかの前に、前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物を顆粒体とする顆粒化処理を行う使用済燃料の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉で生じた使用済燃料の処理方法および使用済燃料の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
軽水炉に代表される熱中性子炉は、核燃料の燃焼によってウラン、プルトニウム、核分裂生成物、マイナーアクチノイドを含む使用済燃料を生じる。使用済燃料中のウランやプルトニウムは、再処理施設で分離・回収されて核燃料として再利用される。一方、核分裂生成物(Fission Products:FP)やマイナーアクチノイド(Minor Actinides:MA)は、高レベル放射性廃棄物(High-Level radioactive Waste:HLW)として処分される。
【0003】
再処理の過程では、ウランやプルトニウムの分離後に、抽出廃液として核分裂生成物やマイナーアクチノイドを含む高レベル放射性廃液が発生する。高レベル放射性廃液は、蒸発濃縮によって減容された後、溶融ガラスとの混合と凝固によりガラス固化体とされる。ガラス固化体は、数十年にわたって冷却・貯蔵された後、半永久的に地層処分される。
【0004】
地層処分に際しては、ガラス固化体を入れたキャニスタが、金属製のオーバーパックに収納される。オーバーパックは、周囲をベントナイト製の緩衝材で覆われた状態で、地層中に掘削された坑道内の処分孔に定置的に埋設される。ベントナイト製の緩衝材は、膨潤によって水の透過や物質移動を阻止する機能、核種を吸着する機能、応力を緩和する機能等が期待されている。
【0005】
地層処分後にベントナイト製の緩衝材が高温に晒されると、機能の低下が懸念される。高レベル放射性廃棄物は、地層処分後の数十~数百年の間に、長寿命の放射性核種の崩壊熱で発熱を続けることが分かっている。そのため、処分場の坑道内に設けられる処分孔の間隔は、緩衝材の温度が上限温度以下に保たれるように設計される。
【0006】
現在、高レベル放射性廃棄物の地層処分を安全且つ効率的に進めるために、ガラス固化体中の廃棄物の充填率を向上させる高充填技術や、高レベル放射性廃棄物中のマイナーアクチノイドを分離する分離技術について開発が進められている。
【0007】
高充填技術によって廃棄物の充填率が向上すると、使用済燃料当たり発生する固化体の本数が少なくなる。また、分離技術によってマイナーアクチノイドの分離が可能になると、高レベル放射性廃棄物の有害度が低下するだけでなく、発熱量も低下して処分孔の間隔を狭くすることが可能になる。少数の固化体を高密度に埋設することが可能になるため、処分場の面積が縮小されることが期待されている。
【0008】
従来、放射性廃棄物を貯蔵する技術として、放射性廃液を乾燥・顆粒化する技術が開発されている。特許文献1には、高レベル放射性廃棄物の処理に際して、顆粒化・顆粒焼結化を選択的に実行するサイクルシステムが記載されている。放射性廃棄物を顆粒化・顆粒焼結化すると、貯蔵後であっても再生可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6037168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ガラス固化体中の廃棄物の充填率を向上させる高充填技術や、放射性廃棄物中のマイナーアクチノイドを分離する分離技術は、処分場の面積の縮小を可能にするため、使用済燃料の処分コストの削減に有効である。しかし、これらの技術の実用化には、今後、数十年を要すると予想される。したがって、これらの技術が実用化されるまでは、従前の処理・処分を行うか、適切な貯蔵形態で貯蔵する措置が合理的である。
【0011】
しかし、マイナーアクチノイドを分離する分離技術は、処分場の面積の縮小を可能にするものの、分離処理施設の建設・操業に多大なコストがかかる可能性がある。現在のところ、これらコストの正確な予測は困難である。また、地層処分後の発熱の程度は、放射性廃棄物の種類や処理過程・貯蔵期間に影響される。そのため、処分場の面積の縮小と、処理に関わるコストの削減とを、バランスよく両立させることが重要であり、将来の浮動的な状況に対応できる柔軟な処理・処分法が望まれている。
【0012】
また、マイナーアクチノイドを分離する分離技術は、放射性廃棄物の有害度の低下に有効であるものの、有害度は固化体中に内在する毒性に因るものである。固化体が健全である限り有害度を過剰に重要視する必要はないとの考え方が、現在においても散見される。したがって、使用済燃料の再処理によって生じた全ての放射性廃棄物に対して、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を一律に行う措置は、コストに見合わなくなる可能性もある。
【0013】
そこで、本発明は、放射性廃棄物の処分場の面積の縮小と、処理・処分に関わるコストの削減とを、バランスよく両立させることができる使用済燃料の処理方法および使用済燃料の処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために本発明に係る使用済燃料の処理方法は、使用済燃料を処理する使用済燃料の処理方法であって、前記使用済燃料の冷却期間が基準期間以上であるとき、前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物からマイナーアクチノイドを分離する分離処理と、前記マイナーアクチノイドが分離された前記放射性廃棄物を固化体とする分離後固化処理と、を行い、前記使用済燃料の冷却期間が基準期間未満であるとき、前記使用済燃料から分離され、マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物を固化体とする非分離固化処理を行う。または、前記使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドが基準量以上であるとき、前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物からマイナーアクチノイドを分離する分離処理と、前記マイナーアクチノイドが分離された前記放射性廃棄物を固化体とする分離後固化処理と、を行い、前記使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドが基準量未満であるとき、前記使用済燃料から分離され、マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物を固化体とする非分離固化処理を行う。または、前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物を固化処理して得られる固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度が基準温度以上であるとき、前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物からマイナーアクチノイドを分離する分離処理と、前記マイナーアクチノイドが分離された前記放射性廃棄物を固化体とする分離後固化処理と、を行い、前記固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度が基準温度未満であるとき、前記使用済燃料から分離され、マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物を固化体とする非分離固化処理を行う。
【0015】
また、本発明に係る使用済燃料の処理システムは、使用済燃料を処理する使用済燃料の処理システムであって、前記使用済燃料から分離された放射性廃棄物からマイナーアクチノイドを分離する分離処理部と、放射性廃棄物を固化体とする固化処理部と、を備え、前記使用済燃料の再処理によって生じた放射性廃液を起源とする放射性廃棄物に対して、マイナーアクチノイドが分離された放射性廃棄物を固化体とする分離後固化処理、および、前記使用済燃料から分離され、マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物を固化体とする非分離固化処理のいずれかを行う。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、放射性廃棄物の処分場の面積の縮小と、処理・処分に関わるコストの削減とを、バランスよく両立させることができる使用済燃料の処理方法および使用済燃料の処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る使用済燃料の処理方法の一例を示すフローチャートである。
図2】本発明の実施形態に係る使用済燃料の処理方法の一例を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施形態に係る使用済燃料の処理方法の一例を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る使用済燃料の処理システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る使用済燃料の処理方法および使用済燃料の処理システムについて、図を参照しながら説明する。なお、以下の各図において、共通する構成については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る使用済燃料の処理方法の一例を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態に係る使用済燃料の処理方法は、使用済燃料を処理する工程(ステップS11~21)と、使用済燃料から分離された放射性廃棄物を地層処分する工程と、を含む。この処理方法は、使用済燃料から分離された放射性廃棄物の処理・処分を、使用済燃料の経過・状態に応じて切り替えることを特徴の一つとしている。
【0020】
軽水炉、重水炉、黒鉛炉等の熱中性子炉は、核燃料の燃焼によって、ウラン238(238U)、ウラン235(235U)、プルトニウム239(239Pu)や、核分裂生成物(FP)や、マイナーアクチノイド(MA)を含む使用済燃料を生じる。
【0021】
核分裂生成物の具体例としては、セシウム137(137Cs)、ストロンチウム90(90Sr)等が挙げられる。マイナーアクチノイドの具体例としては、ネプツニウム237(237Np)、アメリシウム241(241Am)、アメリシウム243(243Am)、キュリウム242(242Cm)、キュリウム243(243Cm)、キュリウム244(244Cm)等が挙げられる。
【0022】
マイナーアクチノイドは、放射性半減期が長い長寿命の放射性核種であり、セシウム、ストロンチウム等の発熱性が高い放射性核種と同様に、長期的には大きな発熱源となり得る。地層処分後の放射性廃棄物の発熱量が大きいと、放射性廃棄物の閉じ込めの健全性が損なわれる可能性がある。そのため、地層処分前の冷却・貯蔵によって、セシウム、ストロンチウム等の短寿命の発熱性核種が消滅した後も、長寿命の放射性核種による発熱を防ぐ措置が必要になる。
【0023】
マイナーアクチノイドのうち、地層処分後の発熱が最も懸念される核種は、アメリシウム241であると考えられている。アメリシウム241は、放射性半減期が100年を超える長寿命であり、且つ、使用済燃料の重金属(Heavy Metal:HM)当たりの発熱率が極めて高い放射性核種である。
【0024】
マイナーアクチノイドは、短寿命核種や安定核種に核変換することによって、安全に処分することが可能である。そのため、現在、高レベル放射性廃棄物(廃液)からマイナーアクチノイドを分離する分離技術の開発が進められている。マイナーアクチノイドを分離する分離処理としては、主に、溶媒抽出、抽出クロマトグラフィ等が検討されている。
【0025】
しかし、マイナーアクチノイドを分離する分離技術は、現在のところ実用化に至ってなく、実用化までに数十年を要すると予想される。分離技術の実用化までに発生した放射性廃棄物は、従前の処理・処分のように、マイナーアクチノイドを分離することなく、ガラス固化して地層処分するか、分離技術が実用化されるまで中間貯蔵し、その後に実用化された分離技術を適用する措置が合理的である。
【0026】
分離技術が実用化されるまで中間貯蔵を行う場合、中間貯蔵のコストが追加的にかかる。また、分離処理を行うとコストがかかる。そのため、マイナーアクチノイドを分離する分離処理の要否について、適切に判断することが望まれる。マイナーアクチノイドの量は、使用済燃料の冷却期間に依存する。数十年のオーダーでは、冷却期間が短い場合、マイナーアクチノイドの量が少なく、マイナーアクチノイドによる発熱量が小さいため、分離処理を行わない措置がコスト上で有利になる可能性もある。放射性廃棄物の貯蔵形態は自在に変更することが難しいため、処理・処分の前に最適な措置を選択することが望まれる。
【0027】
そこで、本実施形態に係る使用済燃料の処理方法では、使用済燃料の冷却期間の長さに応じて、放射性廃棄物(廃液)からマイナーアクチノイドを分離する分離処理を行うか否か切り替える。使用済燃料の冷却期間が所定の基準期間以上であるとき、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行い、使用済燃料の冷却期間が所定の基準期間未満であるとき、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行わないものとする。
【0028】
図1に示すように、原子炉から取り出された使用済燃料は、はじめに所定の冷却期間にわたって冷却される(ステップS11)。使用済燃料は、通常、原子炉建屋内の使用済燃料プールや共用プールにおいて一次冷却される。その後、使用済燃料は、再処理施設の受入れが可能になるまで、受入れ貯蔵施設において冷却・貯蔵される。
【0029】
原子炉から取り出された後の使用済燃料の再処理前冷却期間(CT)は、核燃料を使用した原子炉の種類、初期の核燃料の組成・濃縮度、核燃料の燃焼度、燃料比出力等に依存するため、使用済燃料毎に異なる。この使用済燃料の処理方法では、取り出し後の再処理前冷却期間(CT)の長さに基づいて、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行うか否かを判断するものとする。
【0030】
続いて、所定の冷却期間にわたって冷却・貯蔵された使用済燃料は、再処理施設において再処理される(ステップS12)。使用済燃料は、核燃料として再使用可能なウラン238、ウラン235、プルトニウム239を含んでいる。使用済燃料が再処理されると、これらが分離・回収される。分離・回収されたウランやプルトニウムは、プルサーマルのMOX燃料等として再利用される。
【0031】
再処理は、例えば、リン酸トリブチル(TBP)を希釈剤のn-ドデカンで希釈した抽出溶媒を用いるPUREX(Plutonium and Uranium Recovery by Extraction)法によって行われる。再処理は、使用済燃料をせん断するせん断工程、使用済燃料を熱硝酸に溶解させる溶解工程、ウランやプルトニウムと核分裂生成物やマイナーアクチノイドとを互いに分離する一次分離(共除染)工程、ウランとプルトニウムとを互いに分離する二次分離(分配)工程、ウランを精製する精製工程、プルトニウムを精製する精製工程、精製物を脱硝する脱硝工程等を含む。
【0032】
再処理時の一次分離工程では、ウランやプルトニウムの溶媒抽出が行われることにより、核分裂生成物やマイナーアクチノイドを含む抽出廃液として高レベル放射性廃棄物(廃液)が発生する。使用済燃料から分離された高レベル放射性廃棄物(廃液)は、使用済燃料の冷却期間が基準期間以上であるか否かに基づいて、その後の処理・処分が切り替えられる(ステップS13)。
【0033】
基準期間としては、例えば、10年以上30年以下の期間、具体例として10年、15年、20年、25年、30年等の期間が予め設定される。使用済燃料の冷却期間が20±10年よりも短い場合、発熱量が大きいアメリシウム241の量が少ないため、マイナーアクチノイドを分離する分離処理は不要と判断される。一方、使用済燃料の冷却期間が20±10年よりも長い場合、発熱量が大きいアメリシウム241の量が多いため、マイナーアクチノイドを分離する分離処理が必要と判断される。
【0034】
冷却期間に基づく判定の結果、使用済燃料の冷却期間が基準期間以上であると(ステップS13:Yes)、マイナーアクチノイドを分離する分離処理が必要であるため、処理をステップS14に進める。
【0035】
使用済燃料の冷却期間が基準期間以上である場合、マイナーアクチノイドを分離する分離処理の前に、使用済燃料から分離された放射性廃棄物(廃液)を顆粒体とする顆粒化処理を行う(ステップS14)。核分裂生成物やマイナーアクチノイドを含む放射性廃棄物は、マイナーアクチノイドを分離する分離処理が可能になるまで、顆粒体の状態で貯蔵される。
【0036】
顆粒化処理は、溶液の状態である放射性廃棄物(廃液)を乾燥させて顆粒体とする処理である。顆粒体は、液体より安定な固体である。放射性廃液を顆粒体とすると、放射性廃棄物の占有体積が減容されるため、必要な貯蔵容器が少なくなると共に貯蔵施設を小規模化することが可能になり、低コストで安定・安全且つ効率的に貯蔵できるようになる。また、放射性廃液を顆粒体とすると、溶解による再生が容易になるため、貯蔵後にマイナーアクチノイドを分離する分離処理を効率的に行うことができる。
【0037】
顆粒化処理では、顆粒体に熱処理を加えることによって顆粒同士を焼結させてもよい。顆粒体を焼結させて焼結顆粒体とすると、熱伝導度が向上するため、より安全に冷却・貯蔵することができる。なお、顆粒化処理においては、必要に応じて、顆粒体の粉砕を行ってもよい。
【0038】
顆粒化処理は、例えば、放射性廃液をロータリーキルンで熱処理する方法によって行うことができる。或いは、放射性廃液を凍結真空乾燥させる方法によって行うことができる。顆粒化処理によって作製された顆粒体は、金属製のキャニスタ等に封入して輸送・貯蔵することができる。
【0039】
続いて、顆粒化処理の後に、核分裂生成物やマイナーアクチノイドを含む放射性廃棄物を分離処理の実施時まで顆粒体の状態で貯蔵する(ステップS15)。マイナーアクチノイドを分離する分離技術は、使用済燃料が発生した時点では、実用化されていない可能性がある。そのため、使用済燃料から分離された放射性廃棄物は、分離技術が実用化されるまで、再生可能な顆粒体の状態で中間貯蔵される。中間貯蔵の好ましい形態は、半地下式の一時貯蔵施設等を使用した自然循環空冷法による貯蔵である。
【0040】
次に、マイナーアクチノイドを分離する分離技術が実用化された後に、放射性廃棄物からマイナーアクチノイドを分離する分離処理を行う(ステップS16)。顆粒体の放射性廃棄物は、再処理施設で再溶解させた後に、分離処理に供することができる。
【0041】
マイナーアクチノイドを分離する分離処理は、湿式分離法および乾式分離法のいずれであってもよい。分離処理は、アメリシウムおよびキュリウムのうちの少なくとも一種が放射性廃棄物から分離される限り、単一段の処理であってもよいし、複数段の処理であってもよい。分離処理としては、例えば、溶媒抽出、抽出クロマトグラフィ等や、これらを組み合わせた処理が挙げられる。
【0042】
マイナーアクチノイドを分離する分離処理は、放射性廃棄物が硝酸塩等を含む場合は、脱硝等の前処理が組み合わされてもよい。また、分離処理においては、マイナーアクチノイドに加え、セシウム、ストロンチウム等が分離されてもよい。また、希土類元素が、マイナーアクチノイドと共に一括的に分離されてもよいし、マイナーアクチノイドと相互に分離されてもよい。ネプツニウムについては、ウランやプルトニウムと共に共抽出することが可能であるが、ネプツニウムが単離されてもよい。
【0043】
マイナーアクチノイドを分離する分離処理によると、放射性廃棄物中に含まれる放射性半減期が長い長寿命の放射性核種の量が低減するため、地層処分後の発熱量が小さくなり、長期間にわたって安全・確実に放射性廃棄物を閉じ込めることが可能になる。処分場の坑道内に設けられる処分孔の間隔を狭くすることが可能になるため、処分場の面積が縮小し、処分に関わるコストが削減される。
【0044】
分離処理によって分離されたマイナーアクチノイドは、短寿命核種や安定核種に核変換することができる。核変換は、例えば、加速器駆動核変換システム(Accelerator Driven system:ADS)、高速増殖炉(Fast Breeder Reactor:FBR)、高速炉(Fast Reactor:FR)等によって行われる。
【0045】
続いて、分離処理の後に、マイナーアクチノイドが分離された放射性廃棄物を固化体とする固化処理(分離後固化処理)を行う(ステップS17)。固化処理としては、ガラス固化処理、溶融固化処理等が挙げられるが、ガラス固化処理によってガラス固化体とすることが好ましい。ガラス固化体は、通常、放射性廃棄物を溶融炉内で溶融ガラスと混合して金属製のキャニスタに注入し、キャニスタ内で凝固させることによって作製される。
【0046】
固化処理としては、高充填技術を利用した処理が好ましい。固化体中の廃棄物の充填率を向上させる高充填技術は、使用済燃料が発生した時点では、実用化されていない可能性がある。そのため、使用済燃料から分離された放射性廃棄物は、マイナーアクチノイドを分離する分離技術に加え、固化体中の廃棄物の充填率を向上させる高充填技術が実用化されるまで、中間貯蔵することが好ましい。
【0047】
固化体中の廃棄物の充填率を向上させる高充填技術としては、ガラス固化体のガラス組成を最適化させる技術や、低粘度の液相を形成するイエローフェイズ(モリブデン酸塩等による結晶相)の生成を抑制する技術や、溶融炉内で堆積や偏析を起こし通電による均一溶融を妨げる白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム等)を抑制する技術や、溶融炉における溶融物の流下やノズル温度等を改善する溶融炉の運転に関する技術等が挙げられる。
【0048】
固化体中の廃棄物の充填率を向上させる高充填技術を利用すると、現行のガラス固化体よりも高い充填率のガラス固化体を得ることができる。現行のガラス固化体は、放射性廃棄物の固化体当たりの充填率(NaO10%を含む)が22%程度である。高充填技術を利用した固化体は、放射性廃棄物の固化体当たりの充填率(NaO10%を含む)が26%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることが更に好ましい。換言すると、使用済燃料から分離された放射性廃棄物は、このような高充填率が実現されるまで、中間貯蔵することが好ましい。なお、高充填化によりガラス固化体の発熱量は増加するので、マイナーアクチノイド分離技術がより一層重要となる。
【0049】
高充填技術を利用した固化体によると、使用済燃料当たりに発生する固化体の本数を少なくすることができるため、地層処分する固化体の総本数も少なくなり、処分場の面積を縮小させることが可能になる。そのため、放射性廃棄物の固化処理に関わるコストの削減や、放射性廃棄物の貯蔵・処分に関わるコストの削減が期待される。
【0050】
続いて、固化処理の後に、固化体とした放射性廃棄物を地層処分する。地層処分に際しては、例えば、固化体を入れたキャニスタを、炭素鋼等で形成されたオーバーパックに収納し、オーバーパックの周囲を、ベントナイト等で形成された緩衝材で覆う。廃棄体は、処分場の数百m以深の地層中に掘削された坑道内に移送し、坑道内に所定の間隔を空けて設けられた処分孔に定置的に埋設して最終処分する。
【0051】
一方、冷却期間に基づく判定の結果、使用済燃料の冷却期間が基準期間未満であると(ステップS13:No)、マイナーアクチノイドを分離する分離処理が不要であるため、処理をステップS18に進める。
【0052】
使用済燃料の冷却期間が基準期間未満である場合、使用済燃料から分離された高レベル放射性廃棄物(廃液)は、中間貯蔵が必要か否かに基づいて、その後の処理・処分が切り替えられる(ステップS18)。
【0053】
例えば、使用済燃料が発生した時点で、固化体中の廃棄物の充填率を向上させる高充填技術が実用化されていない場合、高充填技術を適用した最終処分が不能であるため、中間貯蔵が必要であると判断される。一方、使用済燃料が発生した時点で、固化体中の廃棄物の充填率を向上させる高充填技術が実用化されている場合、高充填技術を適用した最終処分が可能であるため、中間貯蔵が不要であると判断される。
【0054】
中間貯蔵の要否の判定の結果、中間貯蔵が不要であると判断されると(ステップS13:No)、処理をステップS21に進める。
【0055】
一方、中間貯蔵の要否の判定の結果、中間貯蔵が必要であると判断されると(ステップS13:Yes)、処理をステップS19に進める。
【0056】
中間貯蔵が必要であると判断された場合、マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物を固化体とする固化処理(非分離固化処理)の前に、使用済燃料から分離された放射性廃棄物(廃液)を顆粒体とする顆粒化処理を行う(ステップS19)。ステップS19の顆粒化処理は、ステップS14と同様にして行われる。
【0057】
続いて、顆粒化処理の後に、核分裂生成物やマイナーアクチノイドを含む放射性廃棄物を固化処理(非分離固化処理)の実施時まで顆粒体の状態で貯蔵する(ステップS20)。固化体中の廃棄物の充填率を向上させる高充填技術は、使用済燃料が発生した時点では、実用化されていない可能性がある。そのため、使用済燃料から分離された放射性廃棄物は、高充填技術が実用化されるまで、再生可能な顆粒体の状態で中間貯蔵される。中間貯蔵の好ましい形態は、半地下式の一時貯蔵施設等を使用した自然循環空冷法による貯蔵である。
【0058】
続いて、マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物を固化体とする固化処理(非分離固化処理)を行う(ステップS21)。ステップS21の固化処理は、ステップS17と同様にして行われる。但し、マイナーアクチノイドが分離されていないため、放射性廃棄物の固化体当たりの充填率は、マイナーアクチノイドが分離されている場合と比較して低くなる可能性がある。高充填技術を利用した固化体は、放射性廃棄物の固化体当たりの充填率(NaO10%を含む)が26%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。換言すると、使用済燃料から分離された放射性廃棄物は、このような高充填率が実現されるまで、中間貯蔵することが好ましい。
【0059】
続いて、固化処理の後に、固化体とした放射性廃棄物を地層処分する。マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物の地層処分は、マイナーアクチノイドが分離されている放射性廃棄物の地層処分と同様にして行われる。
【0060】
この使用済燃料の処理方法において、分離後固化処理(ステップS17)に供される放射性廃棄物と、非分離固化処理(ステップS21)に供される放射性廃棄物とは、同一の再処理施設における使用済燃料の再処理によって生じた放射性廃液を起源とすることが可能である。すなわち、経過・状態が互いに類似した使用済燃料に由来しており、互いに類似した再処理によって発生した放射性廃液から、マイナーアクチノイドが分離された固化体と、マイナーアクチノイドが分離されていない固化体とを、作製することができる。互いの処理を同一の再処理施設で並行的に行えるため、将来にわたって使用済燃料の計画的な処理・処分が可能であり、使用済燃料の処理施設の建設・操業のコストや処分場の建設・操業のコストを最小限に抑えることができる。
【0061】
以上の使用済燃料の処理方法によると、使用済燃料の冷却期間の長さに応じて、マイナーアクチノイドを分離する分離処理の要否が切り替えられるため、放射性廃棄物中のマイナーアクチノイドの量を、必要時に限定して低減することができる。使用済燃料の冷却期間が長く、マイナーアクチノイドの量が多い場合には、分離処理の実施によって、地層処分後の発熱量を低減することができる。一方、使用済燃料の冷却期間が短く、マイナーアクチノイドの量が少ない場合には、分離処理を実施せず地層処分することができる。分離処理を実施しない場合、分離処理施設自体の建設・操業に関わるコストや、分離技術が実用化されるまでの中間貯蔵に関わるコストが削減される。よって、放射性廃棄物の処分場の面積の縮小と、処理・処分に関わるコストの削減とを、バランスよく両立させることができる。
【0062】
また、以上の使用済燃料の処理方法によると、放射性廃棄物を顆粒体として減容して中間貯蔵するため、分離技術や高充填技術の実用化までの期間にかかわらず、中間貯蔵自体のコストを大きく削減することができるし、貯蔵中の顆粒体を所望の時期に再生して、最新の技術で処理・処分を更新することができる。放射性廃棄物の貯蔵形態を状況に応じて変更することができるため、使用済燃料の処理・処分を最適化させることができる。
【0063】
表1は、以上の使用済燃料の処理方法による効果を示したものである。原子炉からの取り出し後の再処理前冷却期間(CT)として、30年または10年を想定したときの、固化体充填率(放射性廃棄物の固化体当たりの充填率、NaO10%を含む)、地層処分占有面積(緩衝材を含む一つの廃棄体に対応した処分孔を円柱状と仮定し、処分孔径をdとした場合の処分孔の坑道側露出面積)、地層処分前冷却期間(固化体の地層処分前に必要な最大冷却期間)、処分場面積縮小率(地層処分占有面積に基づいて試算される処分場の総面積)、コスト削減性(処理・処分を総合して削減される施設・処分場等の金額)を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示すように、再処理前冷却期間(CT)が30年の場合に、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行うとすると、地層処分前冷却期間が大幅に短縮し、処分場の面積の縮小や、コストの削減の効果が得られることが期待される。一方、再処理前冷却期間(CT)が10年の場合に、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行わないとすると、分離処理を行う場合と比較して、地層処分前冷却期間が若干長くなる可能性があるが、コストが大幅に削減されることが期待される。
【0066】
なお、以上の使用済燃料の処理方法では、放射性廃棄物(廃液)からマイナーアクチノイドを分離する分離処理を行うか否かを、使用済燃料の冷却期間の長さに応じて切り替えている。しかしながら、分離処理を行うか否かは、使用済燃料の経過・状態に応じた別の指標に応じて切り替えてもよい。
【0067】
図2は、本発明の実施形態に係る使用済燃料の処理方法の一例を示すフローチャートである。
図2に示すように、放射性廃棄物(廃液)からマイナーアクチノイドを分離する分離処理を行うか否かは、使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドの量に応じて切り替えることもできる。
【0068】
この使用済燃料の処理方法において、使用済燃料から分離された高レベル放射性廃棄物(廃液)は、使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドが基準量以上であるか否かに基づいて、その後の処理・処分が切り替えられる(ステップS131)。
【0069】
放射性廃棄物(廃液)からマイナーアクチノイドを分離する分離処理を行うか否かを、使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドの量に応じて切り替える場合、使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドが基準量以上であるとき、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行い、使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドが基準量未満であるとき、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行わないものとする。
【0070】
使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドの量は、例えば、使用済燃料のガンマ線量を測定する方法によって定量することができる。マイナーアクチノイドの定量は、使用済燃料の受入れ時に行ってもよいし、使用済燃料を溶解・清澄化させたときに行ってもよい。マイナーアクチノイドの定量には、初期の核燃料の組成・濃縮度、核燃料の燃焼度等を用いることもできる。
【0071】
定量するマイナーアクチノイドは、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウム等のいずれであってもよいが、アメリシウムの放射性同位体またはキュリウムの放射性同位体が好ましく、アメリシウム241が特に好ましい。アメリシウム241は、放射性半減期が長寿命であり、且つ、発熱率が極めて高い放射性核種である。アメリシウム241の量を基準とすると、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を、より限定的に実施することができる。
【0072】
この使用済燃料の処理方法によると、使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドの量に応じて、マイナーアクチノイドを分離する分離処理の要否が切り替えられるため、放射性廃棄物中のマイナーアクチノイドの量を、地層処分後の発熱の影響が大きい必要時に限定して低減することができる。多大なコストがかかる可能性がある分離処理の要否を、より正確に判断できるため、放射性廃棄物の処分場の面積の縮小と、処理・処分に関わるコストの削減とを、バランスよく両立させることができる。
【0073】
図3は、本発明の実施形態に係る使用済燃料の処理方法の一例を示すフローチャートである。
図3に示すように、放射性廃棄物(廃液)からマイナーアクチノイドを分離する分離処理を行うか否かは、固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度に応じて切り替えることもできる。
【0074】
この使用済燃料の処理方法において、使用済燃料から分離された高レベル放射性廃棄物(廃液)は、固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度が基準温度以上であるか否かに基づいて、その後の処理・処分が切り替えられる(ステップS132)。
【0075】
放射性廃棄物(廃液)からマイナーアクチノイドを分離する分離処理を行うか否かを、固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度に応じて切り替える場合、固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度が基準温度以上であるとき、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行い、固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度が基準温度未満であるとき、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行わないものとする。
【0076】
固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度は、例えば、有限要素法を用いた非定常熱伝導の三次元的シミュレーション等を利用して予測することができる。計算モデルとしては、所定の組成の放射性廃棄物を固化体とし、固化体を入れた所定の材質・厚さのキャニスタを、所定の材質・厚さのオーバーパックに収納し、オーバーパックの周囲に所定の処分孔径に対応する厚さの緩衝材を設置した状態等を用いることができる。
【0077】
地層処分時に固化体の周囲に設置されるベントナイト製の緩衝材は、熱によって閉じ込め機能が低下するため、所定の上限温度を超えないことが望まれる。放射性廃棄物の崩壊熱による発熱は、数十年にわたる冷却・貯蔵によってセシウム、ストロンチウム等の短寿命の発熱性核種が消滅した後であっても、長寿命の放射性核種が原因で継続することが分かっている。放射性廃棄物の崩壊熱による発熱量は、地層処分後の数十~数百年の間に極大となり、緩衝材の到達温度も最大となる。
【0078】
緩衝材の上限温度を制限するために設定する基準温度は、特に限定されるものではないが、80℃以上150℃以下の温度が好ましく、90℃以上120℃以下の温度がより好ましく、100℃が特に好ましい。ベントナイト製の緩衝材の上限温度としては、一般に、100℃程度が想定されている。このような温度を基準温度として設定すると、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を、より限定的に実施することができる。
【0079】
この使用済燃料の処理方法によると、固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度に応じて、マイナーアクチノイドを分離する分離処理の要否が切り替えられるため、放射性廃棄物中のマイナーアクチノイドの量を、緩衝材の機能の低下が懸念される必要時に限定して低減することができる。多大なコストがかかる可能性がある分離処理の要否を、放射性廃棄物の閉じ込めの健全性を指標として判断できるため、放射性廃棄物の処分場の面積の縮小と、処理・処分に関わるコストの削減とを、処分場の設計に応じてバランスよく両立させることができる。
【0080】
次に、前記の使用済燃料の処理方法を実施するための処理システムについて説明する。
【0081】
図4は、本発明の実施形態に係る使用済燃料の処理システムを示す模式図である。
図4に示すように、本実施形態に係る使用済燃料の処理システム100は、再処理施設1と、線量測定部2と、回収ウラン貯蔵施設3と、固化施設(固化処理部)4と、顆粒化施設(顆粒化処理部)5と、分離施設(分離処理部)6と、を備えている。
【0082】
使用済燃料の処理システム100は、前記の使用済燃料の処理方法を実施するためのシステムであり、熱中性子炉10から使用済燃料11を受入れて、再処理、固化処理、分離処理、顆粒化処理等の各種の処理を行う。
【0083】
処理システム100の固化施設4から払い出された固化体12は、固化体貯蔵施設21や、放射性廃棄物処分場22に送られるようになっている。また、処理システム100の顆粒化施設5から払い出された顆粒体13は、顆粒体貯蔵施設23に送られるようになっている。
【0084】
なお、図4において、白抜き矢印は、使用済核燃料11の移動を示す。実線矢印は、ウラン(U)およびプルトニウム(Pu)の移動、または、マイナーアクチノイド(MA)が分離されていない放射性廃棄物(FP/MA)の移動を示す。破線矢印は、マイナーアクチノイド(MA)が分離された放射性廃棄物(FP)の移動を示す。
【0085】
再処理施設1は、使用済燃料11の再処理を行う施設である。再処理施設1は、使用済燃料11をせん断するせん断設備や、使用済燃料11を熱硝酸で溶解させる溶解設備や、溶解液から固形分を除去する清澄設備や、溶媒抽出・洗浄・逆抽出による分離を行うミキサセトラ、パルスカラム、遠心抽出機等の分離設備や、分離物の酸洗浄、蒸留等を行う精製設備や、脱硝のためのマイクロ波加熱等を行う脱硝設備等を備えている。
【0086】
線量測定部2は、使用済燃料11の放射線量を測定するための測定装置等で構成される。線量測定部2は、受入れ貯蔵施設等に設置されてもよいし、使用済燃料11を溶解・清澄化させる設備に設置されてもよい。測定装置としては、ガンマスキャン装置、その他のシンチレーション検出器、半導体検出器等を備える装置が挙げられる。
【0087】
線量測定部2によると、使用済燃料11の線量に基づいて、使用済燃料11の燃焼度や、核分裂生成物およびマイナーアクチノイドの生成量・発熱性を評価することができる。そのため、放射性廃棄物(廃液)からマイナーアクチノイドを分離する分離処理を行うか否かを、使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドの量や、固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度に応じて切り替えることができる。
【0088】
回収ウラン貯蔵施設3は、ウランおよびプルトニウムを貯蔵するための施設である。再処理によって分離・回収されたウランおよびプルトニウムは、酸化物等として回収ウラン貯蔵施設3に貯蔵された後、燃料加工施設に送られる。燃料加工施設において、ウランおよびプルトニウムは、MOX燃料に加工される。
【0089】
固化施設4は、放射性廃棄物を固化体とする固化処理を行う施設である。固化施設4は、放射性廃棄物やホウケイ酸ガラス等のガラス材料を溶融させるガラス溶融炉を備えている。固化施設4では、放射性廃棄物がガラス溶融炉内で溶融ガラスと混合され、混合物が金属製のキャニスタに注入される。混合物がキャニスタ内で凝固して、放射性廃棄物の固化体12が作製される。
【0090】
固化体12は、処理システム100から固化体貯蔵施設21に移送される。固化体12は、固化体貯蔵施設21において、自然循環空冷によって冷却されながら、放射能がある程度減衰するまで、数十~50年程度にわたって中間貯蔵される。その後、固化体12は、放射性廃棄物処分場22に移送される。固化体12は、放射性廃棄物処分場22において、半永久的に地層処分される。
【0091】
顆粒化施設5は、放射性廃棄物を顆粒体とする顆粒化処理を行う施設である。顆粒化施設5は、核分裂生成物やマイナーアクチノイドを含む放射性廃棄物(廃液)を乾燥させるロータリーキルン、凍結真空乾燥等を備えている。顆粒化施設5では、再処理時に生じた抽出廃液を乾燥させる。核分裂生成物やマイナーアクチノイドを含有する硝酸塩や酸化物が顆粒化して、放射性廃棄物の顆粒体13が作製される。
【0092】
顆粒体13は、処理システム100から顆粒体貯蔵施設23に移送される。顆粒体13は、顆粒体貯蔵施設23において、自然循環空冷によって冷却されながら、次処理が可能になるまで中間貯蔵される。その後、顆粒体13は、再処理施設1に返送される。顆粒体13は、再処理施設1で必要に応じて溶解されて、固化施設4または分離施設6に移送される。
【0093】
分離施設6は、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行う施設である。分離施設6は、マイナーアクチノイドを分離する分離技術が実用化された段階で、再処理施設1に増設される。分離施設6は、溶媒抽出による分離を行う分離設備、抽出クロマトグラフィによる分離を行う分離塔等を備えることができる。分離施設6では、マイナーアクチノイドが分離された放射性廃棄物が得られる。マイナーアクチノイドが分離された放射性廃棄物は、再処理施設1で必要に応じて溶解されて、固化施設4に移送される。
【0094】
使用済燃料の処理システム100においては、使用済燃料の再処理によって生じた放射性廃棄物(廃液)からマイナーアクチノイドを分離する分離処理を行うか否かが、使用済燃料の冷却期間の長さ、使用済燃料に含まれるマイナーアクチノイドの量、または、固化体を覆う緩衝材の地層処分後の予測到達温度に応じて切り替えられる。
【0095】
そのため、使用済燃料の処理システム100においては、同一の再処理施設1における使用済燃料の再処理によって生じた放射性廃液を起源とする放射性廃棄物に対して、マイナーアクチノイドが分離された放射性廃棄物を固化体とする分離後固化処理、および、使用済燃料から分離され、マイナーアクチノイドが分離されていない放射性廃棄物を固化体とする非分離固化処理のうち、いずれかが行われる。また、分離施設(分離処理部)6における分離処理、および、固化施設(固化処理部)4における非分離固化処理のいずれかの前に、使用済燃料から分離された放射性廃棄物を顆粒体とする顆粒化処理を行うことができる。
【0096】
このような使用済燃料の処理システム100によると、放射性廃液を起源とする放射性廃棄物から、マイナーアクチノイドが分離された固化体、或いは、マイナーアクチノイドが分離されていない固化体を作製することができる。経過・状態が互いに類似した使用済燃料に由来しており、互いに類似した再処理によって発生した放射性廃液から、これらの固化体を作製することも可能である。互いの処理を同一の再処理施設で並行的に行えるため、将来にわたって使用済燃料の計画的な処理・処分が可能であり、使用済燃料の処理施設の建設・操業のコストや処分場の建設・操業のコストを最小限に抑えることができる。例えば、マイナーアクチノイドが分離された固化体と、マイナーアクチノイドが分離されていない固化体とを、同じ設備内で同時期に作製することも可能である。放射性廃液を起源とする放射性廃棄物から作製される固化体の総本数は、マイナーアクチノイドを分離する分離処理が行われる場合に少なくなる。よって、使用済燃料の処理システム100によると、放射性廃棄物の処分場の面積の縮小と、処理・処分に関わるコストの削減とを、バランスよく両立させることができる。
【0097】
以上、本発明に係る使用済燃料の処理方法および使用済燃料の処理システムの実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、技術的範囲を逸脱しない限り、様々な変形例が含まれる。例えば、前記の実施形態は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、或る実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えたり、或る実施形態の構成に他の構成を加えたりすることが可能である。また、或る実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、構成の削除、構成の置換をすることも可能である。
【0098】
例えば、前記の使用済燃料の処理方法および使用済燃料の処理システムにおいては、放射性廃棄物を顆粒体とする顆粒化処理を行うものとしているが、適切な貯蔵が可能である場合等には、顆粒化処理を行うことなく、中間貯蔵を行うこともできる。或いは、マイナーアクチノイドの量や、中間貯蔵施設の受入れ等に応じて、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行う場合に限り、顆粒化処理を行ってもよいし、マイナーアクチノイドを分離しない場合に限り、顆粒化処理を行ってもよい。
【0099】
また、前記の使用済燃料の処理方法および使用済燃料の処理システムにおいては、固化体中の廃棄物の充填率を向上させる高充填技術を適用することができるとしているが、高充填技術は、マイナーアクチノイドを分離する分離処理を行う場合に限り、適用してもよいし、マイナーアクチノイドを分離しない場合に限り、適用してもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 再処理施設
2 線量測定部
3 回収ウラン貯蔵施設
4 固化施設(固化処理部)
5 顆粒化施設(顆粒化処理部)
6 分離施設
10 熱中性子炉
11 使用済燃料
12 固化体
13 顆粒体
21 固化体貯蔵施設
22 放射性廃棄物処分場
23 顆粒体貯蔵施設
100 処理システム
図1
図2
図3
図4