(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ニードルベアリングの摩耗が低減されたオートマチックトランスミッションの潤滑
(51)【国際特許分類】
C10M 161/00 20060101AFI20220926BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20220926BHJP
C10M 129/68 20060101ALN20220926BHJP
C10M 129/66 20060101ALN20220926BHJP
C10M 137/02 20060101ALN20220926BHJP
C10M 149/02 20060101ALN20220926BHJP
C10M 133/16 20060101ALN20220926BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20220926BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220926BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20220926BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
C10M161/00
F16H57/04 Q
C10M129/68
C10M129/66
C10M137/02
C10M149/02
C10M133/16
C10N20:02
C10N30:06
C10N40:02
C10N40:04
(21)【出願番号】P 2019531660
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 US2017066290
(87)【国際公開番号】W WO2018112135
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-09
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591131338
【氏名又は名称】ザ ルブリゾル コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】アブラハム, ウィリアム ディー.
(72)【発明者】
【氏名】石崎 啓太
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-523963(JP,A)
【文献】特表2016-522285(JP,A)
【文献】国際公開第2016/089565(WO,A1)
【文献】特表2014-501326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 139/00
C10M 169/04
C10M 137/04
C10M 101/02
C10M 137/02
C10M 153/04
C10M 159/12
C10M 149/02
C10M 133/16
C10M 133/56
C10M 135/36
F16H 57/04
C10N 20/02
C10N 30/06
C10N 40/02
C10N 40/04
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤組成物であって、
(a)2.2~3.7mm
2/sの100℃における動粘度を有する油、
(b)前記組成物に25~100重量百万分率のホウ素を供給する量の、4~18個の炭素原子のアルキル基を有する少なくとも1種のホウ酸エステル、
(c)前記組成物に150~650重量百万分率のリンを供給する量の少なくとも1種のリンエステル、
(d)分散剤的な機能性を有する直線状ポリマー粘度調整剤を含む粘度指数調整剤であって、前記直線状ポリマーが、5,000~25,000の重量平均分子量を有し、前記直線状ポリマーが、0.1~4重量パーセントの量で存在する、粘度指数調整剤、および
(e)前記潤滑剤組成物に180~270ppmのホウ素を供給する、ホウ素化スクシンイミド分散剤
を含み、
前記潤滑剤組成物の100℃における動粘度が、4.7mm
2/sまたはそれ未満である、
潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1種のホウ酸エステル(b)の量が、0.1~1.1重量パーセント
であり、
前記少なくとも1種のリンエステル(c)の量が、0.05~0.40重量パーセントである、
請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1種のホウ酸エステル(b)の量が、0.15~0.7重量パーセントであり、
前記少なくとも1種のリンエステル(c)の量が、0.05~0.40重量パーセントである、
請求項1または請求項2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記組成物が、100~500百万分率のホウ素および150~1000百万分率のリンを含む、請求項1
から3のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
構成成分(a)の前記油が、APIグループIIもしくはグループIII油またはこれらの混合物を含む、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項6】
(b)前記少なくとも1種のホウ酸エステルである構成成分が、4~12個の炭素原子のアルキル基を含むホウ酸エステルおよび14~18個の炭素原子のアルキル基を含むホウ酸エステルを含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項7】
(b)前記少なくとも1種のホウ酸エステルである構成成分が、12~18個の炭素原子を有するホウ素化エポキシドを含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項8】
(b)前記少なくとも1種のホウ酸エステルである構成成分が、ホウ酸と6~12個の炭素原子のアルコールとの反応生成物を含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
(c)前記リンエステルが、亜リン酸ジブチル等のC4~C6アルキルホスファイト、または、モノマー亜リン酸もしくは亜リン酸エステルとアルキレンジオールとの反応生成物であるオリゴマーホスファイトを含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項10】
(d)前記粘度指数調整剤が、窒素含有分散剤モノマーを含有するポリ(メタ)アクリレートを含む、請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項11】
(e)前記ホウ素化スクシンイミド分散剤が、ジメルカプトチアジアゾールによってさらに処理されている、請求項1から
10のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項12】
(e)前記ホウ素化スクシンイミド分散剤の一部またはすべてが、ジメルカプトチアジアゾールによって処理されている、請求項1から
10のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項13】
(e)前記ホウ素化スクシンイミド分散剤の量が、1.0~3.5重量パーセントである、請求項1から1
2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
(e)前記ホウ素化スクシンイミド分散剤である構成成分が、それと一緒に存在するジメルカプトチアジアゾール部分の存在により、前記組成物に10~250重量百万分率の硫黄を供給する、請求項1から1
3のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項15】
(e)前記ホウ素化スクシンイミド分散剤が、0.6~0.9重量パーセントのホウ素含量を有する、請求項1から1
4のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項16】
(e)前記ホウ素化スクシンイミド分散剤が、0.54~0.85重量パーセントのホウ素含量を有する、請求項1
5に記載の潤滑剤組成物。
【請求項17】
(e)前記ホウ素化スクシンイミド分散剤が、0.56~0.83重量パーセントのホウ素含量を有する、請求項1
5に記載の潤滑剤組成物。
【請求項18】
摩擦調整剤、酸化防止剤、清浄剤、腐食防止剤、極圧/摩耗防止剤、消泡剤またはシール膨潤剤のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項1から1
7のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
【請求項19】
潤滑剤組成物であって、
(a)2.2~3.7mm
2/sの100℃における動粘度を有する50~98重量パーセントの油、
(b)前記潤滑剤組成物に25~100重量百万分率のホウ素を供給する量の、4~18個の炭素原子のアルキル基を有する少なくとも1種のホウ酸エステルであって、ここで、前記ホウ酸エステルが、
(b-1)C4~C12アルキル基を含む0.1~1.0重量パーセントのホウ酸エステル、
(b-2)C14~C18アルキル基を含む0.15~0.40重量パーセントのホウ酸エステル、
を含む、ホウ酸エステル、
(c)前記組成物に150~650重量百万分率のリンを供給する量の少なくとも1種のリンエステル、
(d)分散剤的な機能性を有する直線状ポリマー粘度調整剤を含む粘度指数調整剤であって、ここで、前記直線状ポリマーは、5,000~25,000の重量平均分子量を有する、粘度指数調整剤、
(e)前記潤滑剤組成物に180~270ppmのホウ素を供給する量の、ホウ素化スクシンイミド分散剤であって、ここで、前記ホウ素化スクシンイミド分散剤が、
(e-1)ジメルカプトチアジアゾールによって処理されていない1.0~4.0重量パーセントのホウ素化スクシンイミド分散剤、および
(e-2)ジメルカプトチアジアゾールによって処理された0.1~1.5重量パーセントのホウ素化スクシンイミド分散剤
を含む、ホウ素化スクシンイミド分散剤
を含み、
構成成分(b-1)、(b-2)、(e-1)および(e-2)によって供給されるホウ素の量が、前記組成物に対して少なくとも180重量百万分率であり、前記潤滑剤組成物の100℃における動粘度が、4.7mm
2/sまたはそれ未満である、
潤滑剤組成物。
【請求項20】
オートマチックトランスミッションを潤滑する方法であって、前記オートマチックトランスミッションに請求項1から1
9のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物を供給することを含む、方法。
【請求項21】
前記オートマチックトランスミッションが、前記潤滑剤組成物によって潤滑されるべきベアリングを含む、請求項
20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
本開示の技術は、良好な耐摩耗性を付与する潤滑剤配合物に関する。この潤滑剤配合物は、オートマチックトランスミッション内のニードルベアリングの潤滑のために使用された場合、特に有用であり得る。
【背景技術】
【0002】
米国特許出願公開第2007/0142237号、Degoniaら、2007年6月21日は、潤滑剤組成物、例えばギアオイルを開示している。この潤滑剤組成物は、一般的に2~15cStまたは2~10cStの粘度を有する、基油を含有する。この潤滑剤組成物は、ホウ素含有化合物をさらに含有し、このホウ素含有化合物は、窒素含有化合物、例えばスクシンイミドであってもよいし、または、ホウ酸エステルもしくはホウ酸アミド、例えば、ホウ素化(borated)エポキシドもしくはグリセロールのホウ素化脂肪酸エステルであってもよい。ホウ素化合物の量は、5~500ppmまたは11~100ppmのBを供給することができる。硫黄とリンとを含有する化合物も存在し、ホスホン酸水素ジブチルが開示されている。
【0003】
米国特許出願公開第2014/0031268号、Sumiejskiら、2014年1月30日は、連続可変トランスミッションのための潤滑剤を開示している。潤滑剤は、(特に)ホウ素化剤によって処理された官能化分散剤、ジ-C3~C6アルキルホスファイトおよびトリアルキルボレートを含む。潤滑剤組成物は、最大約12mm2/s、例えば2~10mm2/sまたは6~8mm2/sのKV100を有し得る。分散剤は、ホウ素化剤由来の0.4~1.2重量パーセントのホウ素を含有し得る。
【0004】
米国特許出願公開第2014/0107001号、Saccomandoら、2014年4月17日は、ある特定の芳香族縮合生成物を含有するオートマチックトランスミッションのための潤滑剤を開示している。この潤滑剤は、1または2~8~10mm2/sのKV100を有するオイル中で調製されており、全体としての潤滑剤組成物は、1mm2/sまたは1.5mm2/sから10mm2/sまでまたは15mm2/sまでまたは20mm2/sまでのKV100を有し得る。存在してもよい他の構成成分は、分散剤を含む。スクシンイミド分散剤が開示されており、さらには、例えばホウ素化合物によって後処理された分散剤も開示されている。脂肪ホスファイト、ホウ素化脂肪エポキシドまたはグリセロールのホウ素化脂肪酸等、補助的な摩擦調整剤が存在してもよい。ある配合物は、0.15%のホウ酸エステル摩擦調整剤ならびに0.30%のホスファイト摩擦調整剤およびホスホネート摩擦調整剤を含有する。別の配合物は、0.2%のホスファイト摩擦調整剤を含有する。
【0005】
米国特許出願公開第2015/0376544号、Kakaoら、2015年12月31日は、基油組成物の総質量に対して50~97質量パーセントの量の、1.5mm2/sまたはそれより高く3.5mm2/sまたはそれより低い100℃における動粘度およびある特定の他の規定パラメーターを有する鉱物基油と、3~10質量パーセントの量の、2~10mm2/sの100℃における動粘度を有するモノエステルベースの油とを含む潤滑剤基油、ならびに、リン含有酸(phosphorus acid)エステルおよびホウ素化無灰分散剤を含む、トランスミッションのための潤滑組成物を開示している。
【0006】
米国特許出願公開第2016/0130524号、Gaoら、2016年5月12日は、クランクケース用潤滑剤のため等、高温用途における使用のための低粘度エステル潤滑剤を開示している。エステルは、1~4センチストークのKV100を示す。潤滑剤は、任意選択で、1種または複数種の分散剤を含有するが、列記された分散剤の中でも、アルキルコハク酸誘導体が特に挙げられる。これらの生成物は、(特に)ホウ酸エステル等のホウ素化合物を含む様々な試薬によって後処理されていてもよい。一例において、少量のジチオリン酸ジアルキルZnが存在する。
【0007】
米国特許出願公開第2016/0108337号、Abrahamら、2016年4月21日は、潤滑剤組成物およびトランスミッションを潤滑する方法を開示している。潤滑組成物は、3.6~4.8cStまたは4.0~4.2cStの100℃における動粘度を有し得る。潤滑組成物は、2.8~3.6cStの潤滑粘度油を含んでもよい。潤滑剤は、1.2~5.0%のホウ素化分散剤、および、360~950ppmのリンを送達する量の2種のリン含有化合物を含有する。反応生成物(すなわち、ホウ素化分散剤)は、0.2~0.6重量パーセントのホウ素を含有してもよい。任意選択の構成成分は、摩擦調整剤であるが、摩擦調整剤の列記の中には、ホウ素化グリセロールエステルおよびホウ素化脂肪エポキシドも含まれる。
【0008】
米国特許第9,090,850号、Edwardsら、2015年7月28日は、構造が
【化1】
のジチオリン酸エステルを含有する潤滑剤を開示している。この潤滑剤は、任意選択で、ホスファイト摩耗防止剤を含有してもよい。この潤滑剤は、任意選択で、1種または複数種のホウ素含有化合物を含有してもよく、ホウ素含有化合物の例には、ホウ酸エステルおよびホウ素化スクシンイミド分散剤が挙げられる。潤滑剤組成物は、2~30cStの間または4~8cStの間の100℃における粘度を有し得る。
したがって、本開示の技術は、例えばニードルベアリングの場合で、特に、粘度が非常に低い潤滑剤流体を使用した場合において、良好なもしくは改善されたベアリング寿命または低減されたベアリングの摩耗をもたらすという課題を解決する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2007/0142237号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0031268号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0107001号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0376544号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0130524号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0108337号明細書
【文献】米国特許第9,090,850号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
要旨
本開示の技術は、潤滑剤組成物であって、(a)約2.2~約3.7mm2/sの100℃における動粘度を有する油、(b)組成物に25~300重量百万分率または30~150重量百万分率または50~100重量百万分率のホウ素を供給する量の、4~約18個の炭素原子のアルキル基を有する少なくとも1種のホウ酸エステル、および(c)組成物に約150~約650重量百万分率のリンを供給する量の少なくとも1種のリンエステルを含み、潤滑剤組成物の100℃における動粘度が、約4.7mm2/sまたはそれ未満である、潤滑剤組成物を提供する。
【0011】
別の実施形態において、本開示の技術は、潤滑剤組成物であって、(a)約2.2~約3.7mm2/sの100℃における動粘度を有する約50~約98重量パーセントの油、(b-1)C4~C12アルキル基を含む約0.1~約1.0重量パーセントのホウ酸エステル、(b-2)C14~約C18アルキル基を含む約0.15~約0.40重量パーセントのホウ酸エステル、(c)潤滑剤組成物に約150~約650重量百万分率のリンを供給する量の少なくとも1種のリンエステル、(e-1)ジメルカプトチアジアゾールによって処理されてない約0.25~4.0重量パーセントまたは1.0~約4.0重量パーセントのホウ素化スクシンイミド分散剤、および(e-2)ジメルカプトチアジアゾールによって処理された約0.1~約1.5重量パーセントのホウ素化スクシンイミド分散剤を含み、構成成分(b-1)、(b-2)、(e-1)および(e-2)によって供給されるホウ素の量が、組成物に対して少なくとも180重量百万分率であり、潤滑剤組成物の100℃における動粘度が、約4.7mm2/sまたはそれ未満である、潤滑剤組成物を提供する。
【0012】
開示の技術は、オートマチックトランスミッションの潤滑におけるこのような組成物の使用をさらに提供する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
潤滑剤組成物であって、
(a)約2.2~約3.7mm
2
/sの100℃における動粘度を有する油、
(b)前記組成物に約25~約300重量百万分率または約30~約150重量百万分率または50~100重量百万分率のホウ素を供給する量の、4~約18個の炭素原子のアルキル基を有する少なくとも1種のホウ酸エステル、および
(c)前記組成物に約150~約650重量百万分率のリンを供給する量の少なくとも1種のリンエステル
を含み、
前記潤滑剤組成物の100℃における動粘度が、約4.7mm
2
/sまたはそれ未満である、
潤滑剤組成物。
(項目2)
前記少なくとも1種のホウ酸エステル(b)の量が、約0.1~約1.1重量パーセントまたは0.15~約0.7重量パーセントであり、
前記少なくとも1種のリンエステル(c)の量が、約0.05~約0.40重量パーセントである、
項目1に記載の潤滑剤組成物。
(項目3)
前記組成物が、約100~約500百万分率のホウ素および約150~約1000百万分率のリンを含む、項目1または2に記載の潤滑剤組成物。
(項目4)
構成成分(a)の前記油が、APIグループIIもしくはグループIII油またはこれらの混合物を含む、項目1に記載の潤滑剤組成物。
(項目5)
(b)前記少なくとも1種のホウ酸エステルである構成成分が、4~12個の炭素原子のアルキル基を含むホウ酸エステルおよび14~約18個の炭素原子のアルキル基を含むホウ酸エステルを含む、項目1から4のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
(項目6)
(b)前記少なくとも1種のホウ酸エステルである構成成分が、約12~約18個の炭素原子を有するホウ素化エポキシドを含む、項目1から4のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
(項目7)
(b)前記少なくとも1種のホウ酸エステルである構成成分が、ホウ酸と約6~約12個の炭素原子のアルコールとの反応生成物を含む、項目1から5のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
(項目8)
(c)前記リンエステルが、亜リン酸ジブチル等のC4~C6アルキルホスファイト、または、モノマー亜リン酸もしくは亜リン酸エステルとアルキレンジオールとの反応生成物であるオリゴマーホスファイトを含む、項目1から6のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
(項目9)
(d)粘度指数調整剤をさらに含む、項目1から7のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
(項目10)
(d)前記粘度指数調整剤が、窒素含有分散剤モノマーを含有するポリ(メタ)アクリレートを含む、項目8に記載の潤滑剤組成物。
(項目11)
(d)前記粘度指数調整剤が、分散剤的な機能性を有する直線状ポリマー粘度調整剤を
含み、前記直線状ポリマーが、5,000~25,000の重量平均分子量を有し、前記直線状ポリマーが、約0.1~約4重量パーセントの量で存在する、項目8に記載の潤滑剤組成物。
(項目12)
(e)スクシンイミド分散剤をさらに含む、項目1から10のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
(項目13)
(e)前記スクシンイミド分散剤が、ホウ素化スクシンイミド分散剤を含む、項目10に記載の潤滑剤組成物。
(項目14)
(e)前記スクシンイミド分散剤が、ジメルカプトチアジアゾールによってさらに処理されている、項目10または11に記載の潤滑剤組成物。
(項目15)
(e)前記スクシンイミド分散剤の一部またはすべてが、ホウ素化されており、ジメルカプトチアジアゾールによって処理されている、項目10から13のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
(項目16)
(e)ホウ素含有スクシンイミド分散剤の量が、約1.0~約3.5重量パーセントである、項目12から14のいずれか一項に記載の組成物。
(項目17)
(e)ホウ素含有スクシンイミド分散剤である構成成分が、それと一緒に存在するジメルカプトチアジアゾール部分の存在により、前記組成物に約10~約250重量百万分率の硫黄を供給する、項目10から15のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
(項目18)
(e)ホウ素含有スクシンイミド分散剤が、約0.6~約0.9重量パーセントまたは0.54~0.85重量パーセントまたは0.56~0.83重量パーセントのホウ素含量を有する、項目12から16のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
(項目19)
摩擦調整剤、酸化防止剤、清浄剤、腐食防止剤、極圧/摩耗防止剤、消泡剤またはシール膨潤剤のうちの少なくとも1つをさらに含む、項目1から17のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物。
(項目20)
潤滑剤組成物であって、
(a)約2.2~約3.7mm
2
/sの100℃における動粘度を有する約50~約98重量パーセントの油、
(b-1)C4~C12アルキル基を含む約0.1~約1.0重量パーセントのホウ酸エステル、
(b-2)C14~約C18アルキル基を含む約0.15~約0.40重量パーセントのホウ酸エステル、
(c)前記組成物に約150~約650重量百万分率のリンを供給する量の少なくとも1種のリンエステル、
(e-1)ジメルカプトチアジアゾールによって処理されていない約1.0~約4.0重量パーセントのホウ素化スクシンイミド分散剤、および
(e-2)ジメルカプトチアジアゾールによって処理された約0.1~約1.5重量パーセントのホウ素化スクシンイミド分散剤
を含み、
構成成分(b-1)、(b-2)、(e-1)および(e-2)によって供給されるホウ素の量が、前記組成物に対して少なくとも180重量百万分率であり、前記潤滑剤組成物の100℃における動粘度が、約4.7mm
2
/sまたはそれ未満である、
潤滑剤組成物。
(項目21)
オートマチックトランスミッションを潤滑する方法であって、前記オートマチックトランスミッションに項目1から19のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物を供給することを含む、方法。
(項目22)
前記オートマチックトランスミッションが、前記潤滑剤組成物によって潤滑されるべきベアリングを含む、項目20に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
下記において、非限定的な例示として様々な好ましい特徴および実施形態を記述する。
【0014】
本開示の技術の一構成成分は、基油とも呼ばれる潤滑粘度油である。基油は、American Petroleum Institute(API)Base Oil Interchangeability Guidelines(2011)のグループI~Vに含まれる基油のいずれか、すなわち、
基油カテゴリー 硫黄(%) 飽和分(%) 粘度指数
グループI >0.03 および/または <90 80~120未満
グループII ≦0.03 および ≧90 80~120未満
グループIII ≦0.03 および ≧90 ≧120
グループIV すべてのポリアルファオレフィン(PAO)
グループV グループI、II、IIIまたはIVに含まれない他のすべてのもの
から選択することができる。
【0015】
グループI、IIおよびIIIは、鉱物油ベースストックである。110~119の粘度指数および他のグループII油より低い揮発性を有するグループIIの材料を指すグループII+、ならびに130またはそれより大きい粘度指数を有するグループIIIの材料を指すグループIII+といった、一般に認識されている基油に関する他のカテゴリーは、APIによって公式に認められていなかったとしても使用可能である。潤滑粘度油は、天然油または合成油およびこれらの混合物を含み得る。鉱物油と合成油、例えば、ポリアルファオレフィン油および/またはポリエステル油との混合物が使用されてもよい。一実施形態において、潤滑粘度油は、APIグループIIもしくはグループIII油またはこれらの混合物を含む。
【0016】
潤滑粘度油(またはこのような油の混合物)は、2.2~3.7mm2/sまたは2.5~3.5mm2/sまたは2.8~3.3mm2/sの100℃における動粘度を有する、比較的低い粘度の油である。この粘度範囲の油の使用は、4.7mm2/sまたはそれ未満、例えば3.0~4.6mm2/sまたは3.3~4.3mm2/sまたは3.6~4.1mm2/sの100℃における動粘度を有する潤滑剤組成物の調製を可能にする。
【0017】
潤滑粘度油の量は、50~98重量パーセントまたは60~96重量パーセントまたは70~94重量パーセントまたは80~93重量パーセントまたは85~92重量パーセントであってよい。この潤滑粘度油の量は、従来では清浄剤、分散剤および粘度調整剤等の添加剤構成成分と一緒に供給される希釈剤油の量を含むように計算することができる。
【0018】
本開示の潤滑剤組成物の別の構成成分は、4~18個の炭素原子のアルキル基を有する少なくとも1種のホウ酸エステルである。ある特定の実施形態では、一方のアルキル基が4~12個または4~10個または6~10個の炭素原子を有し、もう一方のアルキル基が14~18個の炭素原子を有する、2種のアルキル基が存在し得る。ホウ酸エステルは、一般的には、ホウ酸またはホウ酸等価物とアルコールとのエステルであると考えることができるが、必ずしもエステル化(縮合)反応によって形成される必要はない。一実施形態では、ホウ酸エステルは、ホウ素化エポキシドと呼ばれるものであってもよい。
【0019】
一実施形態では、ホウ素含有化合物は、ホウ酸エステルまたはボレートアルコールであると言うこともできる。ホウ酸エステルまたはボレートアルコール化合物は、ボレートアルコールがエステル化されていない少なくとも1個のヒドロキシル基を有することを除いて、実質的に同じであり、ボレートアルコールがホウ素化エポキシドであってもよい。したがって、本明細書において使用されているとき、「ホウ酸エステル」という用語は、ホウ酸エステルまたはボレートアルコールのいずれかを指すように使用されている。
【0020】
ホウ酸エステルは、ホウ素化合物と、エポキシ化合物、ハロヒドリン化合物、エピハロヒドリン化合物、アルコールおよびこれらの混合物から選択される少なくとも1種の化合物との反応によって調製することができる。アルコールは、二価アルコール、三価アルコールまたは高級アルコールを含むが、一実施形態では、ヒドロキシル基が、隣接する炭素原子、すなわち、ビシナル炭素原子上にあることを条件にする。下記において、「エポキシ化合物」は、エポキシ化合物、ハロヒドリン化合物、エピハロヒドリン化合物またはこれらの混合物を指すときに使用されている。
【0021】
ホウ酸エステルを調製するために適したホウ素化合物は、ホウ酸(メタホウ酸HBO2、オルトホウ酸H3BO3およびテトラホウ酸H2B4O7を含む)、三酸化二ホウ素、三酸化ホウ素およびアルキルボレート等の様々な形態を含む。ホウ酸エステルは、ハロゲン化ホウ素から調製することもできる。
【0022】
一実施形態では、ホウ酸エステルは、ホウ素化合物とエポキシ化合物、二価アルコール、三価アルコールまたは高級アルコールとの反応によって形成される。ホウ酸エステルは、式(I)~(VI)
【化2】
(式中、各Rが、水素であってもよいし、または、ヒドロカルビル基であってもよく、ただし、ホウ酸エステルが油溶性であることを条件にする)
のうちの少なくとも1つによって表すことができる。
【0023】
一実施形態では、上記式によるR基のうちの少なくとも2個は、ヒドロカルビル基である。ヒドロカルビル基は、アルキル、アリールまたはシクロアルキルであり得、隣接する任意の2個のR基が1個の環の中で連結されている場合。Rがアルキルである場合、このR基は、飽和していてもよいし、または不飽和であってもよい。一実施形態では、ヒドロカルビル基は、不飽和アルキルである。一実施形態では、ヒドロカルビル基は、環状である。一実施形態では、ヒドロカルビル基は、アルキルとシクロアルキルとの混合物である。
【0024】
各R中に存在する炭素原子の数は、4~18または6~12であってよい。ある特定の実施形態では、R基に接する炭素原子の総数は一般的に、9個もしくはそれより多くてもよく、または、約10個もしくはそれより多くてもよく、または、約12個もしくはそれより多くてもよく、または、約14個もしくはそれより多くてもよい。
【0025】
R基の例には、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、アミル基、2-ペンテニル基、4-メチル-2-ペンチル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデセニル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基およびオクタデシル基が挙げられる。
【0026】
ホウ酸エステルを調製するため(すなわち、ホウ素化エポキシドとも呼ばれる材料を調製するため)に有用なエポキシ化合物は、式(VIIa)または(VIIb)
【化3】
(式中、
R
1が独立に、H、または1~4個もしくは1~2個の炭素原子を含むアルキル鎖であり、
R
2が、4~18個または6~16個または8~14個の炭素原子を含むアルキル鎖であり、
Tが独立に、水素、または塩素、臭素、ヨウ素もしくはフッ素等のハロゲンまたはこれらの混合物である)によって表すことができる。一実施形態では、Tは、塩素であり、別の実施形態では、Tは、水素である。
【0027】
一実施形態では、本発明のエポキシ化合物は、C14~C16エポキシドまたはC14~C18エポキシドの商用混合物を含む。一実施形態では、本発明のエポキシ化合物は、精製されている。適切な精製済みのエポキシ化合物の例には、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシウンデカン、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシトリデカン、1,2-エポキシブタデカン、1,2-エポキシペンタデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、1,2-エポキシヘプタデカンおよび1,2-エポキシオクタデカンを挙げることができる。一実施形態では、精製済みのエポキシ化合物は、1,2-エポキシヘキサデカンを含む。一実施形態では、ホウ素化エステルは、12~18個または14~18個の炭素原子を有するホウ素化エポキシドを含む。
【0028】
ホウ素化剤によるアルコールのエステル化のために利用されるアルコールは、一価アルコール、二価アルコール、三価アルコールまたは高級アルコールを含み得る。アルコールは、4~18個の炭素原子または6~16個もしくは6~12個の炭素原子を含んでもよい。
【0029】
ホウ酸エステルは、上述したホウ素化合物と、エポキシ化合物またはアルコールとをブレンドし、所望の反応が起こるまで80℃~250℃、90℃~240℃または100℃~230℃等の適切な温度でこれらを加熱することによって、調製することができる。ホウ素化合物のエポキシ化合物に対するモル比は、4:1~1:4または1:1~1:3または約1:2であり得る。反応を実施するときに、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジメチルホルムアミドまたはこれらの混合物等の不活性液体が使用されてもよい。一般的に、縮合反応中に水が形成され、留去される。アルカリ性試薬が、反応を触媒するために使用されてもよい。
【0030】
一実施形態では、適切なホウ酸エステル化合物は、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリペンチル、ホウ酸トリヘキシル、ホウ酸トリヘプチルホウ酸、ホウ酸トリオクチル、ホウ酸トリノニルおよびホウ酸トリデシルを含む。一実施形態では、ホウ酸エステル化合物は、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリ-2-エチルヘキシルまたはこれらの混合物を含む。
【0031】
ある特定の実施形態では、潤滑剤組成物は、4~12個の炭素原子のアルキル基を含むホウ酸エステルおよび12~18個または14~18個の炭素原子のアルキル基を含むホウ酸エステルを含んでもよい。他の実施形態では、このホウ酸エステル構成成分は、ホウ酸と6~12個の炭素原子のアルコールとの反応生成物を含んでもよい。さらに他の実施形態では、ホウ酸エステル構成成分は、12~18個の炭素原子を有するホウ素化エポキシドを含んでもよい。
【0032】
潤滑剤中のホウ酸エステルの量は、0.1~1.1重量パーセント、または0.05~1.1重量パーセント、または0.15~0.7重量パーセントもしくは0.10重量パーセントもしくは0.90重量パーセント、または0.2~1.0重量パーセント、または0.25~0.75重量パーセントであり得る。一方のホウ酸エステルがC4~C12アルキル基を有し、他方のホウ酸エステルがC14~C18アルキル基を有する、2個のホウ酸エステルが存在する場合、C4~C12エステルの量は、0.05~1.0重量パーセントまたは0.1~1重量パーセントまたは0.15~0.7重量パーセントまたは0.2~0.6重量パーセントであってよく、C14~C18エステルは、0.05~1重量パーセントまたは0.075~0.7重量パーセントまたは0.1~0.4重量パーセントであってよい。1種または複数種のホウ酸エステルが、潤滑剤中のホウ素の量に寄与するが、潤滑剤中のホウ素の量のうちの一部は、ホウ素化分散剤(後述する)等の他の供給源に由来する可能性もある。潤滑剤組成物中のホウ素の総量は、100~500重量百万分率または150~400重量百万分率または200~350重量百万分率であってよく、ホウ酸エステルが寄与する量は、25~300重量百万分率または30~150重量百万分率または50~100重量百万分率または70~100重量百万分率であり得る。ホウ素の残部は、下記に記述するホウ素化分散剤等の他の供給源によって供給され得る。
【0033】
本開示の技術の潤滑剤は、組成物に150~650重量百万分率または150~350重量百万分率または180~250重量百万分率のリンを供給する量の少なくとも1種のリンエステルをさらに含有する。少なくとも1種のリンエステルの量は、0.05~0.4重量パーセントまたは0.1~0.35パーセントである。
【0034】
リンエステルは、亜リン酸ジオクチル等のC4~C8もしくはC4~C6アルキルホスファイトを含んでもよいし、または代替的には、モノマー亜リン酸もしくは亜リン酸エステルとアルキレンジオールとの反応生成物であるオリゴマーホスファイトを含んでもよい。
【0035】
C4~C6アルキルホスファイトは、亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジヘキシルおよび亜リン酸ジシクロヘキシル等のジアルキルホスファイトを含み得る。このような材料は、容易に購入することができる。
【0036】
オリゴマーホスファイトは、PCT公報WO2016/089565、Abrahamら(Lubrizol)、2016年6月9日において、さらに詳細に記述されている。要するに、オリゴマーホスファイトは、(a)モノマー亜リン酸またはモノマー亜リン酸のエステルと、(b)少なくとも2種のアルキレンジオールとの反応生成物であると言うこともできる。第1のアルキレンジオール(i)は、炭素鎖において1,4または1,5または1,6の関係にある2個のヒドロキシ基を有し、第2のアルキレンジオール(ii)は、アルキル置換基のうちの1個または複数がプロピレン単位の炭素原子のうちの1個または複数の上にある、アルキル置換1,3-プロピレンジオールである。アルキル置換1,3-プロピレンジオール中の炭素原子の総数は、5~12である。オリゴマーホスファイトにおいて、モノマー亜リン酸またはモノマー亜リン酸のエステル(a)と、アルキレンジオール(b)の合計との相対的なモル量は、一般的に、約0.9:1.1~約1.1:0.9の比である。さらに、第1のアルキレンジオール(i)とアルキル置換1,3-プロピレンジオール(ii)との相対的なモル量は、一般的に30:70~65:35の比であり、または代替的には、35:54~60:40の比もしくは50:60~50:50の比もしくは40:60~45:55の比である。
【0037】
第1のアルキレンジオールは、分岐状であってもよいし(例えば、アルキル置換されていてもよいし)、または非分岐状であってもよく、一実施形態では、無分岐状である。無分岐状、すなわち、直鎖状ジオール(α,ω-ジオール)は、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールおよび1,6-ヘキサンジオールを含む。分岐状または置換ジオールは、1,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチル-1,5-ペンタンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、および2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオールを含む。本開示の技術の目的で、1個または複数の第二級ヒドロキシ基を有するジオール(2,5-ヘキサンジオール等)は、分岐状または置換ジオールと呼ばれることもあるが、炭素鎖自体は直鎖状であってよい。1,4-位、1,5-位または1,6-位(すなわち、互いに対する相対的な位置または文言通りの位置)にヒドロキシ基が配置されていることは、(立体的に選好されないはずである)環状構造の形成ではなく、リン種によるオリゴマー化を促進するために役立ち得る。ある特定の実施形態では、第1のアルキレンジオールは、1,6-ヘキサンジオールであってよい。
【0038】
第1のアルキレンジヒドロキシ化合物(ジオール)は、所望に応じて、さらなるヒドロキシ基、すなわち、分子1個当たり2個より多いヒドロキシ基を有することができ、または、分子1個当たり厳密に2個のヒドロキシ基が存在してもよい。一実施形態では、分子1個当たり厳密に2個のヒドロキシ基が存在する。2個より多いヒドロキシ基が存在する場合、ヒドロキシ基のいずれかを隔てる4個より少ない原子が存在する場合において、重合反応を妨害し得るような過剰な環化がないことを保証するように注意すべきである。さらに、望ましくないゲル形成を起こす可能性がある、生成物中の過剰な分岐形成または架橋を回避することにも注意すべきである。このような課題は、試薬どうしの比および試薬の添加の順番の制御等の反応条件を慎重に制御し、適切に希釈した条件下で反応を実施し、低酸性条件下で反応させることによって、回避することができる。これらの条件は、当業者ならば、慣用的な実験のみで決定することができる。
【0039】
第2のアルキレンジオールは、アルキル置換1,3-プロピレンジオールのアルキル置換基のうちの1個または複数が、プロピレン単位の炭素原子のうちの1個または複数上にあり、アルキル置換1,3-プロピレンジオール中の炭素原子の総数が、5~12もしくは6~12もしくは7~11もしくは8~18であり、または、ある特定の実施形態では9である、アルキル置換1,3-プロピレンジオールである。すなわち、アルキル置換1,3-プロピレンジオールは、一般式
【化4】
(式中、様々なR基が、同じであってもよいし、または異なってもよく、水素であってもよいし、またはアルキル基であってもよく、ただし、少なくとも1個のRがアルキル基であること、および、R基中の炭素原子の総数が2~9または3~9であり、この結果、ジオール中の合計の炭素原子が、それぞれ5~12または6~12であり、合計での炭素に関する他の範囲の場合も同様であることを条件にする)によって表すことができる。上述した1,4-、1,5-または1,6-ジオールと同様に、ここでの1,3-ジオールへの言及は、2個のヒドロキシ基が互いに対して1,3の関係にあること、すなわち、3個の炭素原子からできた鎖によって隔てられていることを意味する。したがって、1,3-ジオールは、2,4-または3,5-ジオールと名付けられることもある。1,3-ジオールが1個または複数の第二級ヒドロキシ基を有する場合、このような分子は、置換ジオールであると考えられる。一実施形態では、アルキル置換基の数は、2であり、分子中の炭素原子の総数は、9である。適切な置換基には、例えば、メチル、エチル、プロピルおよびブチル(これらの様々な可能な異性体の状態)を挙げることができる。
【0040】
第2のアルキレンジオールの例には、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ブチルプロパン-1,3-ジオール、2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、2,2-ジブチルプロパン-1,3-ジオール、2,2-ジイソブチルプロパン-1,3-ジオール、2-メチル-2-プロピルプロパン-1,3-ジオール、2-プロピル-プロパン-1,3-ジオール、2-ブチルプロパン-1,3-ジオール、2-ペンチルプロパン-1,3-ジオール、2-メチル-2-プロピルプロパン-1,3-ジオール、2,2-ジエチルプロパン-1,3-ジオール、2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオール、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、2,4,-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、および2,4-ヘキサンジオールを挙げることができる。前述の命名法の一部は、分かりやすくするために、分子のプロパン-1,3-ジオール構造を強調していることに留意すべきである。例えば、2-ペンチルプロパン-1,3-ジオールは、2-ヒドロキシメチルヘプタン-1-オールと名付けることも可能であるが、後者の命名法は、ジオールの1,3-性状をあまり明確には表していない。
【0041】
1種または複数種のリンエステルは、上記に示したような量のリンを潤滑剤組成物に供給するが、潤滑剤中のリンの総量は、150~1000重量百万分率または200~800重量百万分率等、より高い範囲であってもよい。さらなるリンは、異なるリン含有種、例えば無機リン含有酸、例えばリン酸または亜リン酸によって供給され得る。リン酸は、15パーセントの水を含む85重量パーセントの組成物として市場調達することが可能であり、適量のリン酸を利用することが可能である。他のリン供給源は、下記において記述されている後処理済みのスクシンイミド分散剤等の、リンによって処理された(リン含有)分散剤を含み得る。
【0042】
ある特定の実施形態では、本開示の技術の潤滑剤組成物は、粘度指数調整剤または粘度指数向上剤とも呼ばれる、粘度調整剤をさらに含んでもよい。粘度調整剤(VM)および分散剤粘度調整剤(DVM)は、周知である。VMおよびDVMの例には、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリオレフィン、水素化ビニル芳香族ジエンコポリマー(例えば、スチレン-ブタジエン、スチレン-イソプレン)、スチレン-マレイン酸エステルコポリマー、ならびに、直線状、分岐状または星形構造を有するポリマーを含むホモポリマー、コポリマーおよびグラフトコポリマーを含む同様のポリマー物質を挙げることができる。DVMは、窒素含有分散剤モノマーを含有するポリ(メタ)アクリレート等の窒素含有メタクリレートポリマーまたは窒素含有オレフィンポリマーを含んでもよく、例えば、メタクリル酸メチルおよびジメチルアミノプロピルアミンに由来した窒素含有メタクリレートポリマーを含んでもよい。代替的には、DVMは、α-オレフィンに由来した単位およびカルボン酸または無水マレイン酸等の無水物に由来した単位を有し、分岐状第一級アルコールによって部分的にエステル化されており、アミン含有化合物と部分的に反応された、コポリマーを含んでもよい。
【0043】
市販のVM、DVMおよびこれらの化学的な種類の例には、ポリイソブチレン(BP Amoco製のIndopol(商標)またはExxonMobil製のParapol(商標)等);オレフィンコポリマー(Lubrizol製のLubrizol(登録商標)7060、7065および7067、ならびに、Lucant(登録商標)HC-2000L、HC-1100およびHC-600等);水素化スチレン-ジエンコポリマー(Shell製のShellvis(商標)40および50、ならびに、Lubrizol製のLZ(登録商標)7308および7318等);分散剤コポリマーであるスチレン/マレエートコポリマー(Lubrizol製のLZ(登録商標)3702および3715等);一部のものは分散剤特性を有するポリメタクリレート(RohMax製のViscoplex(商標)系列のポリメタクリレート、Afton製の粘度指数向上剤であるHitec(商標)系列、ならびに、Lubrizol製のLZ(登録商標)7702、LZ(登録商標)7727、LZ(登録商標)7725およびLZ(登録商標)7720C等);オレフィン-グラフト-ポリメタクリレートポリマー(RohMax製のViscoplex(商標)2-500および2-600等);ならびに水素化ポリイソプレンスターポリマー(Shell製のShellvis(商標)200および260等)を挙げることができる。
【0044】
VMまたはDVMは、5,000~25,000または10,000~20,000または12,000~18,000の重量平均分子量を有し得る。数平均分子量は、3,000~15,000または6,000~12,000等、比例的により低くなっていく。着目するこれらの材料は一般的に、一般的に内燃機関のための潤滑剤等の他の用途において使用され得るVMおよびDVMに比較して相対的に低い分子量を有する。
【0045】
一実施形態では、粘度指数調整剤は、分散剤的な機能性を有する直線状ポリマー粘度調整剤を含んでもよく、直線状ポリマーは、5,000~25,000または10,000~20,000の重量平均分子量を有し、前記直線状ポリマーは、約0.1~約4重量パーセントの量で存在する。一実施形態では、粘度指数調整剤は、本明細書に記載のような直線状ポリマー、および、WO2007/127660、Lubrizol、2007年11月8日に開示されたような星形構造様式を有するポリマー、例えば、(メタ)アクリル酸型スターポリマーを含んでもよい。
【0046】
使用され得る粘度調整剤は、米国特許第5,157,088号、第5,256,752号および第5,395,539号において記述されている。VMおよび/またはDVMは、用途に応じて、最大50重量%または最大20重量%の濃度で機能性流体中に使用することができる。潤滑剤組成物中の0.1~20重量%もしくは0.5~20重量%もしくは1~20重量%もしくは1~12重量%もしくは3~10重量%もしくは0.1~4重量%もしくは1~4重量%または代替的には20~40重量%もしくは20~30重量%の濃度が、使用され得る。粘度調整剤の量の選択は当業者の能力に含まれるが、基油の粘度と相まって、4.7mm2/sまたはそれ未満、例えば2.7~4.7mm2/sまたは2.8~4.7mm2/sまたは3.4~4.0mm2/sまたは3.5~3.9mm2/sの100℃における動粘度を有する潤滑剤組成物を提供する量である。
【0047】
本開示の技術の潤滑剤組成物は、場合によっては潤滑剤組成物にさらなるホウ素含量を供給することができる、スクシンイミド分散剤等の1種または複数種の分散剤をさらに含んでもよい。スクシンイミド分散剤は、一般に言うところで無灰分散剤と呼ばれることもある。なぜなら、供給されたときに金属を含有しておらず、したがって、通常、潤滑剤に添加されたときに硫酸灰分に寄与しないからである(しかしながら、ホウ素化清浄剤が含有するホウ素構成成分は、硫酸灰分に寄与し得る)。しかしながら、無灰分散剤は当然ながら、金属含有種を含む潤滑剤に無灰分散剤が添加されたらすぐに、周囲の金属と相互作用し得る。無灰分散剤は、比較的高い分子量の炭化水素鎖に結合した極性基によって特徴付けられる。一般的な無灰分散剤には、一般的に、単純化した構造
【化5】
(式中、各R
1が独立に、アルキル基であり、大抵の場合において、ポリイソブチレン前駆物質を主体とした500~5000の分子量(Mn)を有するポリイソブチレン基であり、R
2が、アルキレン基であり、一般的にエチレン(C
2H
4)基である)を含む種々の化学的構造を有する、N置換長鎖アルケニルスクシンイミドが挙げられる。このような分子は一般的に、アルケニルアシル化剤とポリアミンとの反応に由来する。上記に提示の単純なイミド構造の他にも、これらの2つの部分の間には、種々のアミドおよび第四級アンモニウム塩を含めて多種多様な結合があり得る。同様に、ポリアミン構成成分に関する種々の構造も、様々な環状構造を含めて、あり得ることが公知である。さらに、上記構造中で、アミン部分は、アルキレンポリアミンとして示されているが、他の脂肪族および芳香族モノ-およびポリアミンが使用されてもよい。さらに、様々な環状結合を含む、イミド構造へのR
1基の結合に関する種々の様式が可能である。アシル化剤のカルボニル基のアミンの窒素原子に対する比は、1:0.5~1:3であってよく、他の場合においては、1:1~1:2.75または1:1.5~1:2.5であってよい。スクシンイミド分散剤は、米国特許第4,234,435号および第3,172,892号ならびにEP0355895において、より完全に記述されている。
【0048】
分散剤は、種々の作用物質のいずれかとの反応によって後処理することもできる。これらの作用物質の中でも、尿素、チオ尿素、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換無水コハク酸、ニトリル、エポキシド、ホウ素化合物およびリン化合物が特に挙げられる。このような処理の詳細に関する言及は、米国特許第4,654,403号において列記されている。
【0049】
特に、本開示の技術において使用されるスクシンイミド分散剤は、一実施形態では、任意選択でホウ素化することも可能であり、したがって、ホウ素を含有し、ホウ素を潤滑剤配合物に供給することになる。ホウ素化分散剤は、様々な形態のホウ酸(メタホウ酸HBO2、オルトホウ酸H3BO3およびテトラホウ酸H2B4O7を含む)、三酸化二ホウ素、三酸化ホウ素およびアルキルボレートのいずれか等、種々の作用物質を使用するホウ素化によって調製することができる。一実施形態では、ホウ素化剤は、単独で使用されてもよいし、または、他のホウ素化剤と組み合わせて使用されてもよい、ホウ酸である。
【0050】
ホウ素化分散剤は、ホウ素化合物とスクシンイミド分散剤とをブレンドし、所望の反応が起こるまで一般的に80℃~250℃、90℃~230℃または100℃~210℃の適切な温度でこれらを加熱することによって、調製することができる。反応を実施するときに、不活性液体が使用されてもよい。この液体は、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジメチルホルムアミドまたはこれらの混合物を含み得る。ホウ素含有スクシンイミド分散剤は、0.5~1.0重量パーセントまたは0.6~0.9重量パーセントまたは0.54~0.85重量パーセントまたは0.56~0.83重量パーセントのホウ素含量を有し得る。
【0051】
ホウ素化スクシンイミド分散剤は、例えば
(i)スクシンイミド分散剤、
(ii)ホウ素化剤、ならびに、
(ii)任意選択で、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾールもしくはヒドロカルビル置換2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(「DMTD」)またはこれらのオリゴマー、
(iv)任意選択で、1,3二塩基酸および1,4二塩基酸からなる群から選択される芳香族化合物のジカルボン酸、ならびに、
(v)任意選択で、リン含有酸化合物
を一緒にして加熱することによって調製された、後処理によるさらなる官能基を含む生成物であってもよく、前記加熱は、(i)、(ii)ならびに任意選択で(iii)、(iv)および/または(v)の生成物をもたらすために十分であり、この生成物は、潤滑粘度油に可溶なものである。一実施形態では、ホウ素化スクシンイミド分散剤は、ジメルカプトチアジアゾールによってさらに処理されている。
【0052】
分散剤構成成分は、未処理の(ホウ素化されていない)スクシンイミド分散剤、ホウ素化スクシンイミド分散剤、DMTD処理済みの分散剤およびテレフタル酸処理済みの分散剤を含む、別個の分散剤種の混合物を含んでもよい。代替的には、後処理の一部またはすべてが、スクシンイミド分散剤種の一部またはすべてに施されてもよい。一実施形態では、例えば、スクシンイミド分散剤の一部またはすべてがホウ素化され得、ジメルカプトチアジアゾールによって処理され得、任意選択でテレフタル酸によってさらに処理され得る。一実施形態では、ホウ素化スクシンイミド分散剤と、ホウ素化されたDMTD処理済みの分散剤との混合物が存在し得る。ある特定の実施形態では、分散剤構成成分は、ジメルカプトチアジアゾールによって処理されてない1~4重量パーセントのホウ素化スクシンイミド分散剤、および、ジメルカプトチアジアゾールによって処理された0.1~1.5重量パーセントのホウ素化スクシンイミド分散剤を含んでもよい。
【0053】
後処理済みのスクシンイミド分散剤を調製するための構成成分は、任意の順序で合わせ、反応させることができる。特に、ホウ素化剤は、前処理プロセスであってもよいし、または後処理プロセスであってもよい。したがって、例えば、ホウ酸(および任意選択でリン酸も)は、1つのステップで分散剤基質と反応させることが可能であり、この後、中間体のホウ素化分散剤は、メルカプトチアジアゾールおよび芳香族化合物のジカルボン酸と反応させることが可能である。代替的には、分散剤基質、芳香族化合物のジカルボン酸およびメルカプトチアジアゾール(mercapthothiadiazole)を最初に反応させ、次いで、ホウ素化剤(および任意選択でリン酸、リン含有酸)によって生成物を処理してもよい。さらに別の変形形態では、リン酸化されたスクシンイミド分散剤は、リン含有酸をヒドロカルビル置換無水コハク酸と反応させて、無水物と酸とが混合された前駆物質を調製し、次いで、この前駆物質をポリアミンと反応させて、リン含有分散剤を形成することによって、調製することができる。この後、リン含有分散剤を、芳香族化合物のジカルボン酸およびメルカプトチアジアゾールと反応させ、ホウ素化剤と反応させることができる。
【0054】
一般的に、構成成分どうしは、得られる生成物の可溶度を保証するために十分な時間および温度において、一般的に80~200℃または90~180℃または120~170℃または150~170℃において、ホウ素化剤および任意選択で他の作用物質を分散剤基質と一緒にして加熱することによって、反応させる。反応時間は一般的に、少なくとも0.5時間、例えば、1~24時間、2~12時間、4~10時間または6~8時間である。
【0055】
存在する場合、本技術の完全に配合された潤滑剤中のスクシンイミド分散剤構成成分の量(または代替的には、特定すると、ホウ素含有スクシンイミド分散剤の量)は、潤滑剤組成物に対して少なくとも0.1重量%または少なくとも0.3重量%または0.5重量%または1重量%または1.5重量%であってよく、ある特定の実施形態では、最大で9重量%または8重量%または6重量%または4重量%または3重量%または2重量%であってよく、例えば1.1~5.5重量パーセントまたは1.0~3.5重量パーセントであってよい。ホウ素化スクシンイミド分散剤構成成分によって潤滑剤配合物に供給されるホウ素の量は、0~270重量百万分率であってよく、または、30ppm、50ppm、60ppm、70ppmもしくは100ppmから、270ppm、250ppm、225ppm、200ppm、180ppmもしくは140ppmまでであってよい。ある特定の実施形態では、スクシンイミド分散剤構成成分は、一緒に存在するジメルカプトチアジアゾール部分の存在により、組成物に約10~約250重量百万分率または20~200ppmもしくは50~150ppmの硫黄を供給することができる。
【0056】
本開示の技術の潤滑剤組成物は、1種または複数種の消泡剤をさらに含んでもよい。安定な泡を低減またはその形成を防止するために使用される発泡防止剤は、シリコーン、フルオロシリコーン、または、アクリレートポリマー、フルオロアクリレートポリマーもしくはフルオロメタクリレートポリマー等の有機ポリマーを含む。これらおよびさらなる発泡防止組成物の例は、「Foam Control Agents」、Henry T. Kerner著(Noyes Data Corporation、1976年)、125~162頁において記述されている。発泡防止組成物は一般的に、(希釈剤を除いて)20~250百万分率または50~200百万分率の量で存在し得る。例えば、芳香族油またはナフテン系炭化水素溶媒に分散または溶解されたポリジメチルシロキサンを含み、10,000~50,000mm2/sの範囲の25℃における動粘度(溶媒が存在しないとき)を有する、第1の発泡防止組成物に由来した第1の発泡防止剤;芳香族油またはナフテン系炭化水素溶媒に分散または溶解されたポリジメチルシロキサンを含み、80,000~120,000mm2/sの範囲の25℃における動粘度(溶媒が存在しないとき)を有する、第2の発泡防止剤;および、脂肪族溶媒または5~16個の炭素原子を有するケトン(例えば、脂肪族ケトン)を含む溶媒に分散または溶解されたフッ素化ポリシロキサンを含み、50~500mm2/sの範囲の25℃における動粘度(溶媒が存在しないとき)を有する、第3の発泡防止剤といった、様々な発泡防止剤の組合せが使用され得る。このような発泡防止剤の混合物は、米国特許第9.3309,480号、Loopら、2016年4月12日において開示されている。
【0057】
任意選択で、他の従来の添加剤が、オートマチックトランスミッション用潤滑剤のために従来使用される量で存在してもよい。他の従来の添加剤は、摩擦調整剤、酸化防止剤、清浄剤、腐食防止剤、極圧/摩耗防止剤およびシール膨潤剤を含む。
【0058】
オートマチックトランスミッション用潤滑剤との関連において、摩擦調整剤は、はめ合わせられた金属(鉄)製プレートとセルロース製の表面等の非金属組成物とを一般的に含む、潤滑されるクラッチプレートに、安定した高い摩擦係数を提供するように設計された材料である。摩擦調整剤は、当業者に周知である。使用され得る摩擦調整剤の列記は、米国特許第4,792,410号、第5,395,539号、第5,484,543号および第6,660,695号に収載されている。米国特許第5,110,488号は、摩擦調整剤として有用な脂肪酸の金属塩、特に亜鉛塩を開示している。使用され得る摩擦調整剤の列記は、ホウ素化アルコキシ化脂肪アミン;脂肪酸アミド;脂肪酸の金属塩;脂肪エポキシド;硫化オレフィン;脂肪イミダゾリン;脂肪アミン;カルボン酸とポリアルキレンポリアミンとの縮合生成物;グリセロールエステル;アルキルサリチレートの金属塩;ホウ素化グリセロールエステル;アルキルリン酸のアミン塩;アルコキシ化脂肪アミン;エトキシ化アルコール;オキサゾリン;イミダゾリン;ヒドロキシアルキルアミド;ポリヒドロキシ第三級アミン;およびこれらの2種またはそれより多い混合物を含み得る。
【0059】
非ホウ素化脂肪エポキシドも、補助的な摩擦調整剤として有用であり得る。
【0060】
使用され得るホウ素化アミンは、米国特許第4,622,158号において開示されている。ホウ素化アミン摩擦調整剤(ホウ素化アルコキシ化脂肪アミンを含む)は、上記のようなホウ素化合物と、単純な脂肪アミンおよびヒドロキシ含有第三級アミンを含む対応するアミンとの反応によって調製することができる。ビス[2-ヒドロキシエチル]-ココアミン、ポリオキシエチレン[10]ココアミン、ビス[2-ヒドロキシエチル]ソヤミン、ビス[2-ヒドロキシエチル]-タロウアミン、ポリオキシエチレン-[5]タロウアミン、ビス[2-ヒドロキシエチル]オレイルアミン、ビス[2-ヒドロキシエチル]オクタデシルアミン、およびポリオキシエチレン[15]オクタデシルアミン等、ホウ素化アミンを調製するために有用なアミンは、商標「ETHOMEEN」によって公知の商用アルコキシ化脂肪アミンを含み得るが、Akzo Nobelから入手することが可能である。このようなアミンは、米国特許第4,741,848号において記述されている。
【0061】
アルコキシ化脂肪アミンおよび脂肪アミン自体(オレイルアミン等)は、摩擦調整剤として有用であり得る。これらのアミンは、市販されている。
【0062】
ホウ素化されたグリセロールの脂肪酸エステルと、ホウ素化されていないグリセロールの脂肪酸エステルとの両方が、摩擦調整剤として使用され得る。ホウ素化されたグリセロールの脂肪酸エステルは、ホウ酸等のホウ素供給源によってグリセロールの脂肪酸エステルをホウ素化することによって、調製することができる。グリセロールの脂肪酸エステル自体は、当技術分野において周知の種々の方法によって調製することができる。グリセロールモノオレエートおよびグリセロールタローエート等、これらのエステルの多くは、商用スケールで製造される。商用グリセロールモノオレエートは、45重量%~55重量%のモノエステルと55重量%~45重量%のジエステルとの混合物を含有し得る。
【0063】
脂肪酸は、上記グリセロールエステルを調製するときに使用することができるが、脂肪酸は、脂肪酸の金属塩、アミドおよびイミダゾリンを調製するときに使用することも可能であり、これらのいずれもが、やはり、摩擦調整剤として使用され得る。脂肪酸は、6~24個の炭素原子または8~18個の炭素原子を含み得る。有用な酸は、オレイン酸であり得る。
【0064】
脂肪酸のアミドは、アンモニアとの縮合またはジエチルアミンおよびジエタノールアミン等の第一級もしくは第二級アミンとの縮合によって調製されたものであってよい。脂肪イミダゾリンは、酸と、ジアミンまたはポリエチレンポリアミン等のポリアミンとの環状縮合生成物を含み得る。一実施形態では、摩擦調整剤は、C8~C24脂肪酸とポリアルキレンポリアミンとの縮合生成物であってよく、例えば、イソステアリン酸とテトラエチレンペンタミンとの生成物であってよい。カルボン酸とポリアルキレンアミンとの縮合生成物は、イミダゾリンまたはアミドであり得る。
【0065】
脂肪酸は、その金属塩、例えば亜鉛塩として存在してもよい。これらの亜鉛塩は、酸性、中性または塩基性(過塩基性)であり得る。これらの塩は、亜鉛含有試薬と、カルボン酸またはカルボン酸の塩との反応から調製することができる。これらの塩の調製の有用な方法は、酸化亜鉛をカルボン酸と反応させることである。有用なカルボン酸は、本明細書において上述したカルボン酸である。適切なカルボン酸には、式RCOOH(式中、Rが、脂肪族または脂環式炭化水素ラジカルである)のカルボン酸が挙げられる。これらのカルボン酸の中でも、Rが脂肪基、例えば、ステアリル、オレイル、リノレイルまたはパルミチルであるカルボン酸が挙げられる。亜鉛が中性塩の調製に必要な量に対して化学量論的に過剰に存在する、亜鉛塩も適切である。亜鉛が化学量論量の1.1~1.8倍で存在する、例えば、亜鉛の化学量論量の1.3~1.6倍で存在する塩が、使用されてもよい。これらのカルボン酸亜鉛は、当技術分野において公知であり、米国特許第3,367,869号において記述されている。金属塩は、カルシウム塩も含み得る。例には、過塩基性カルシウム塩を挙げることができる。
【0066】
硫化オレフィンも、摩擦調整剤として使用される周知の商用材料である。適切な硫化オレフィンは、米国特許第4,957,651号および第4,959,168号の詳細な教示に従って調製された硫化オレフィンである。これらの中では、少なくとも1種の多価アルコールの脂肪酸エステル、少なくとも1種の脂肪酸、少なくとも1種のオレフィンおよび少なくとも1種の一価アルコールの脂肪酸エステルからなる群から選択される、2種またはそれより多い反応物質の共硫化混合物が記述されている。オレフィン構成成分は、通常4~40個の炭素原子を含む脂肪族オレフィンであってもよい。これらのオレフィン混合物は、市販されている。本発明の方法において有用な硫化剤は、元素状態の硫黄、硫化水素、ハロゲン化硫黄および硫化ナトリウム、ならびに、硫化水素と硫黄または二酸化硫黄との混合物を含む。
【0067】
アルキルサリチレートの金属塩は、長鎖(例えば、C12~C16)アルキル置換サリチル酸のカルシウム塩および他の塩を含む。
【0068】
アルキルリン酸のアミン塩は、リン酸のオレイルおよび他の長鎖エステルと、商標Primene(商標)で販売されている第三級脂肪族第一級アミン等のアミンとの塩を含む。
【0069】
85パーセントのリン酸は、摩擦特性を高めるという目的で、完全に配合された組成物に添加するための適切な材料であり、組成物の重量に対して0.01~0.3重量パーセント、例えば0.03~0.2重量パーセントまたは0.03~0.1重量パーセントのレベルで含まれ得る。
【0070】
存在する場合、補助的な摩擦調整剤の量は、潤滑組成物に対して0.01~10重量パーセントまたは5重量パーセントであってよく、潤滑組成物に対して0.1~2.5重量パーセントであってよく、例えば0.1~2.0重量パーセント、0.2~1.75重量パーセント、0.3~1.5重量パーセントまたは0.4~1重量パーセントであってよい。一部の実施形態では、しかしながら、摩擦調整剤の量は、0.2重量パーセント未満または0.1重量パーセント未満、例えば0.01~0.1重量パーセントで存在する。
【0071】
酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤を包含し、フェノール系酸化防止剤は、フェノール環にあるオルト位の片方または両方がt-ブチル等のかさ高い基によって占有された、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であってもよい。パラ位は、ヒドロカルビル基または2個の芳香環を架橋している基によって占有されてもよい。ある特定の実施形態では、パラ位は、例えば式
【化6】
(式中、R
3が、例えば1~18個または2~12個または2~8個または2~6個の炭素原子を含むアルキル基等のヒドロカルビル基であり、t-アルキルが、t-ブチルであってもよい)の酸化防止剤等のエステル含有基によって占有されている。このような酸化防止剤は、米国特許第6,559,105号においてさらに詳細に記述されている。
【0072】
酸化防止剤は、芳香族アミンも含む。一実施形態では、芳香族アミン酸化防止剤は、ノニル化ジフェニルアミン、またはジノニル化ジフェニルアミンとモノノニル化ジフェニルアミンとの混合物等の、アルキル化ジフェニルアミンを含み得る。
【0073】
酸化防止剤は、モノスルフィドもしくはジスルフィドまたはこれらの混合物等の硫化オレフィンも含む。一般に、これらの材料は、1~10個の硫黄原子、例えば、1~4個の硫黄原子または1個もしくは2個の硫黄原子のスルフィド結合を有する。本発明の硫化有機組成物を形成するように硫化され得る材料には、油、脂肪酸およびエステル、オレフィンおよびこれらから製造されるポリオレフィン、テルペンまたはディールス-アルダー付加体が挙げられる。一部のこのような硫化材料を調製する方法の詳細は、米国特許第3,471,404号および第4,191,659号において見出すことができる。
【0074】
モリブデン化合物もまた、酸化防止剤として作用することが可能であり、これらの材料は、摩耗防止剤または摩擦調整剤等の様々な他の機能にも役立つことができる。米国特許第4,285,822号は、極性溶媒、酸性モリブデン化合物および油溶性塩基性窒素化合物を合わせて、モリブデン含有錯体を形成し、この錯体を二硫化炭素と接触させて、モリブデンおよび硫黄含有組成物を形成することによって調製されたモリブデンおよび硫黄含有組成物を含有する、潤滑油組成物を開示している。
【0075】
酸化防止剤の一般的な量は、当然ながら、特定の酸化防止剤および酸化防止剤の個別的な有効性に依存するが、例示的な総量は、0.01~5重量パーセントまたは0.15~4.5重量パーセントまたは0.2~4重量パーセントであり得る。
【0076】
清浄剤は一般的に、別名として過塩基性塩または超塩基性塩とも呼ばれる、過塩基性材料であり、これらの過塩基性材料は一般に、化学量論に従って金属および清浄剤アニオンを中和するために存在するであろう金属含量に対して過剰な金属含量を有する、均一ニュートン系である。過剰な金属の量は一般的に、金属比、すなわち、金属の合計当量の、酸性有機化合物の当量に対する比として、表される。過塩基性材料は、酸性材料(二酸化炭素等)を酸性有機化合物、不活性反応媒体(例えば、鉱物油)、化学量論的に過剰な金属塩基およびフェノールまたはアルコール等の助触媒と反応させることによって、調製される。酸性有機材料は通常、油溶性度をもたらすために十分な数の炭素原子を有する。
【0077】
過塩基性清浄剤は、試料1グラム当たりのKOHのmg数として表される、材料の塩基性度のすべての中和に必要な強酸の量である全塩基価(TBN、ASTM D2896)によって特徴付けることができる。過塩基性清浄剤は一般的に、希釈剤油を含有する形態で提供されるため、本明細書の目的で、TBNは、油ではない(供給されたままの)清浄剤の割合で割ることによって、油不含の場合を基準にして再計算すべきである。一部の有用な清浄剤は、100~800または150~750または400~700のTBNを有し得る。
【0078】
塩基性金属塩の製造において有用な金属化合物は一般に、任意の第1族または第2族金属の化合物(元素周期表のCAS版)である。例には、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属、銅、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛およびカドミウムが挙げられる。一実施形態では、金属は、ナトリウム、マグネシウムまたはカルシウムである。塩のアニオン性部分は、水酸化物、酸化物、カーボネート、ボレートまたはニトレートであり得る。
【0079】
一実施形態では、潤滑剤は、過塩基性スルホネート清浄剤を含有してもよい。適切なスルホン酸には、単核または多核芳香族または脂環式化合物を含む、スルホン酸およびチオスルホン酸が挙げられる。ある特定の油溶性スルホネートは、R2-T-(SO3
-)aまたはR3-(SO3
-)b(式中、aおよびbがそれぞれ、少なくとも1であり、Tが、ベンゼンまたはトルエン等の環状核であり、R2が、アルキル、アルケニル、アルコキシまたはアルコキシアルキル等の脂肪族基であり、(R2)-Tが一般的に、合計で少なくとも15個の炭素原子を含み、R3が、一般的に少なくとも15個の炭素原子を含む脂肪族ヒドロカルビル基である)によって表すことができる。T基、R2基およびR3基は、他の無機または有機置換基を含んでもよい。一実施形態では、スルホネート清浄剤は、米国特許出願公開第2005065045号の段落[0026]~[0037]において記述されたような、少なくとも8の金属比を有する主に直鎖状のアルキルベンゼンスルホネート清浄剤であってもよい。
【0080】
別の過塩基性材料は、過塩基性フェネート清浄剤である。フェネート清浄剤の製造において有用なフェノールは、(R1)a-Ar-(OH)b(式中、R1が、4~400個または6~80個または6~30個または8~25個または8~15個の炭素原子の脂肪族ヒドロカルビル基であり、Arが、ベンゼン、トルエンまたはナフタレン等の芳香族基であり、aおよびbがそれぞれ、少なくとも1であり、aとbとの合計が最大で、1~4または1~2等、Arの芳香族核上の置き換え可能な水素の数である)によって表すことができる。フェネート清浄剤は時折、硫黄によって架橋された種として供給されることもある。
【0081】
一実施形態では、過塩基性材料は、過塩基性サリゲニン清浄剤である。過塩基性サリゲニン清浄剤は一般的に、サリゲニン誘導体を主体とした過塩基性マグネシウム塩である。サリゲニン清浄剤は、米国特許第6,310,009号においてさらに詳細に開示されており、サリゲニン清浄剤の合成方法については特別に言及されている(第8欄および例1)。
【0082】
サリキサレート誘導体およびサリキサレート誘導体の調製方法は、米国特許第6,200,936号およびPCT公報WO01/56968においてさらに詳細に記述されている。サリキサレート誘導体は、大環状構造ではなく主に直鎖状の構造を有すると考えられているが、両方の構造が「サリキサレート」という用語に包含されるように意図されている。過塩基性グリオキシル酸系清浄剤およびこの清浄剤の調製方法は、米国特許第6,310,011号およびその中で引用された参考文献においてさらに詳細に開示されている。過塩基性清浄剤は、過塩基性サリチレートであってもよく、例えば、置換サリチル酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩であってもよい。過塩基性サリチレート清浄剤およびその調製方法は、米国特許第4,719,023号および第3,372,116号において開示されている。他の過塩基性清浄剤は、米国特許第6,569,818号において開示されたような、マンニッヒ塩基構造を有する過塩基性清浄剤を含み得る。
【0083】
ある特定の実施形態では、上記清浄剤中のヒドロキシ置換芳香環(例えば、フェネート、サリゲニン、サリキサレート、グリオキシレートまたはサリチレート)上のヒドロカルビル置換基は、C12脂肪族ヒドロカルビル基を不含または実質的に不含である(例えば、これらのヒドロカルビル置換基のうちの1重量%未満、0.1重量%未満または0.01重量%未満が、C12脂肪族ヒドロカルビル基である)。一部の実施形態では、このようなヒドロカルビル置換基は、少なくとも14個または少なくとも18個の炭素原子を含む。
【0084】
存在する場合、本技術の配合物中の過塩基性清浄剤の量は一般的に、油不含の場合を基準にして少なくとも0.6重量パーセントであり得、または、0.7~5重量パーセントもしくは1~3重量パーセントもしくは0.05~0.55重量パーセントであり得る。単一の清浄剤または複数の清浄剤のいずれかが存在し得る。別の方法で表す場合、過塩基性カルシウム清浄剤の量は、110~550重量百万分率または175ppmもしくは400ppmもしくは175~300ppmを送達するために適した量であってもよい。
【0085】
腐食防止剤は大抵の場合、銅(または「四六黄銅(yellow metal)」)腐食防止剤を指す。このような材料には、トリルトリアゾール、トリルトリアゾールの誘導体等のトリアゾール化合物、イミダゾリン化合物、チアジアゾール、カルボン酸およびカルボン酸の塩またはエステルならびにアルカノールアミンが挙げられる。
【0086】
上記において詳細に記述されたリンエステルに加えてまたはこれらのリンエステルの補助として、摩耗防止剤が含まれてもよい。例には、リン酸エステルおよびその塩、リン含有カルボン酸、エステル、エーテルおよびアミドならびにホスファイト等のリン含有摩耗防止剤/極圧剤が挙げられる。ある特定の実施形態では、リン摩耗防止剤は、0.01~0.2パーセントまたは0.015~0.15パーセントまたは0.02~0.1パーセントまたは0.025~0.08パーセントのリンを送達する量で存在し得る。リンを含有しない摩耗防止剤には、ホウ酸エステル(ホウ素化エポキシドを含む)、ジチオカルバメート化合物、モリブデン含有化合物および硫化オレフィンが挙げられる。
【0087】
極圧(EP)剤は、本明細書中のいずれかの場所で列記された材料の一部ならびに他の硫黄含有EP剤およびクロロ硫黄含有EP剤、塩素化炭化水素EP剤ならびにリンEP剤を含む。このようなEP剤の例には、塩素化ワックス;ジベンジルジスルフィド、ビス(クロロベンジル)ジスルフィド、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテン、硫化テルペンおよび硫化ディールス-アルダー付加体等の硫化オレフィン(硫化イソブチレン等)、有機スルフィドおよびポリスルフィド;硫化リンとテレピン油またはオレイン酸メチルとの反応生成物等のホスホ硫化炭化水素(phosphosulfurized hydrocarbon);ジ炭化水素ホスファイトおよびトリ炭化水素ホスファイト、例えば亜リン酸ジブチル、亜リン酸ジヘプチル、亜リン酸ジシクロヘキシル、亜リン酸ペンチルフェニル等のリンエステル;亜リン酸ジペンチルフェニル、亜リン酸トリデシル、亜リン酸ジステアリルおよびポリプロピレン置換フェノールホスファイト;ジオクチルジチオカルバミン酸亜鉛等の金属チオカルバミン酸塩;例えば、ジアルキルジチオリン酸とプロピレンオキシドとを反応させ、続いて、P2O5とのさらなる反応を行った反応生成物のアミン塩が挙げられる、アルキルリン酸およびジアルキルリン酸または誘導体のアミン塩;ならびにこれらの混合物(米国特許第3,197,405号において記述されたようなもの)が挙げられる。
【0088】
シール膨潤剤には、油溶性エステルおよび油溶性スルホン、イソデシルスルホラン等のスルホラン、ベンジルエステル、ラクトン、ニトリル、フェノール系材料またはフタル酸エステルが挙げられる。
【0089】
本明細書において使用されているとき、「縮合生成物」という用語は、縮合生成物を直接もたらすように縮合反応が実際に実施されるかどうかにかかわらず、酸または酸の反応性等価物(例えば、酸のハロゲン化物、無水物またはエステル)とアルコールまたはアミンとの縮合反応によって調製され得る、エステル、アミド、イミドおよび他のこのような材料を包含するように意図されている。したがって、例えば、特定のエステルは、縮合反応によって直接調製するのではなく、エステル交換反応によって調製することが可能である。得られる生成物は、依然として、縮合生成物であると考えられる。
【0090】
記述された各化学的構成成分の量は、そうではないと示されていない限り、慣例的に商用材料中に存在し得るあらゆる溶媒または希釈剤油を除外して提示されており、すなわち、活性な化学物質を基準にして提示されている。しかしながら、そうではないと示されていない限り、本明細書において言及された各化学物質または組成物は、異性体、副生成物、誘導体、ならびに、通常では商用グレードにおいて存在すると理解されるような他の材料を含有してもよい商用グレードの材料であると解釈すべきである。
【0091】
本明細書において使用されているとき、「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」という用語は、当業者に周知の通常の意味で使用されている。具体的には、「ヒドロカルビル置換基」または「ヒドロカルビル基」という用語は、分子の残り部分に直接結合しており、主に炭化水素的な特質を有する、炭素原子を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例には、次のものが挙げられる。
【0092】
炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)置換基、脂環式(例えば、シクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、ならびに、芳香族、脂肪族および脂環式によって置換された芳香族置換基、ならびに、環が分子の別の部分(例えば、2個の置換基が一緒になって、環を形成する)を通るように完成されている環状置換基。
【0093】
置換炭化水素置換基、すなわち、本発明との関連において置換基の主に炭化水素的な性状を改変しない非炭化水素基(例えば、ハロ(特に、クロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソおよびスルホキシ)を含む置換基。
【0094】
ヘテロ置換基、すなわち、本発明との関連において、主に炭化水素的な特質を有しながら、そうでなければ炭素原子から構成される環または鎖の中にある炭素以外のものを含有し、ピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリル等の置換基を包含する、置換基。ヘテロ原子は、硫黄、酸素および窒素を含む。一般に、2個以下または1個以下の非炭化水素置換基が、ヒドロカルビル基中の炭素原子10個毎に存在し、代替的には、ヒドロカルビル基中に非炭化水素置換基が存在しなくてもよい。
【0095】
上記材料の一部は、最終的な配合物中で相互作用する可能性があり、この結果、最終的な配合物の構成成分が、最初に添加された構成成分とは異なる可能性があることが公知である。例えば、(例えば清浄剤の)金属イオンは、他の分子にある他の酸性またはアニオン性部位に移動することができる。所期の使用において本発明の組成物を用いたときに形成される生成物を含めて、これによって形成される生成物は、容易に記述できるものではないこともある。しかしながら、すべてのこのような修正形態および反応生成物は、本発明の範囲に含まれ、本発明は、上記構成成分の混和によって調製された組成物を包含する。
【0096】
ニードルベアリングまたはニードルローラーベアリングは、ローラーが、少なくとも3:1または4:1で最大が例えば10:1等の高い長さの直径に対する比を有する、ローラーベアリングの一種である。ローラーは、圧縮ベアリングの中に使用することが可能であり、ローラーは、ベアリングの回転軸に対して放射状に配向されていてもよい。ニードルベアリングは、他のローラーベアリングより高い荷重容量を有し得る。
【0097】
ここで、本発明は、オートマチックトランスミッション等のトランスミッションを潤滑するために有用であり、本発明の方法は、トランスミッションに本明細書に記載の潤滑剤組成物を供給することを含む。本発明は、オートマチックトランスミッションが潤滑剤組成物によって潤滑されたニードルベアリング等のベアリングを含有する場合、特に有用であり得る。本開示の技術の利点および使用は、下記の実施例の参照によって、よりよく理解することができる。
【実施例】
【0098】
下記の潤滑剤配合物を調製し、試験している。報告されているすべての量は、油不含の場合を基準にしたものであり、注記がある場合を除いて、重量パーセントとして報告されている。
【0099】
(実施例1)
下記のものを含有する、鉱物油ベースの配合物:
2.1%のBを含む0.13%のホウ素化エポキシド(炭素が14~16個のホウ酸エステル)(したがって、27百万分率のホウ素を潤滑剤に与える)と、
0.82%のBを含む3.1%のホウ素化スクシンイミド分散剤(したがって、253ppmのホウ素を潤滑剤に与える)[これは、116.31+116.32から出した計算である]と、
15.5%のPを含む0.23%の亜リン酸ジブチル(したがって、357ppmのリンを潤滑剤に与える)と、
5.25%のPを含む0.08%のC18アルコールのリン酸エステル(したがって、42ppmのリンを潤滑剤に与える)と、
星形構造様式を有する0.9%のアクリル酸ベースの粘度調整剤と、
0.16%の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤と、
さらに、オートマチックトランスミッション用潤滑剤に特有である従来の摩擦調整剤、酸化防止剤、腐食防止剤および他の添加剤。
実施例1の場合、この実施例は、次の特性を有する:FINISH BLEND KV100=4.27cSt、KV40cSt=17.7cSt;BOV=3.15cSt;B=368ppm、Ca=322ppm、P=736ppm、S=1763ppm。
【0100】
(実施例2)
下記のものを含有する、鉱物油ベースの配合物:
2.1%のBを含む0.15%のホウ素化エポキシド(炭素が14~16個のホウ酸エステル)(したがって、32ppmのホウ素を潤滑剤に与える)と、
2.7%のBを含む炭素が8個のアルコールを主体とした0.1%のホウ酸エステル(したがって、27ppmのホウ素を潤滑剤に与える)と、
0.82%のBを含む3.2%のホウ素化スクシンイミド分散剤(したがって、262ppmのホウ素を潤滑剤に与える)と、
15.4%のPを含む0.2%のオリゴマーホスファイト(したがって、308ppmのリンを潤滑剤に与える)と、
5.25%のPを含む0.12%のC18アルコールのリン酸エステル(したがって、63ppmのリンを潤滑剤に与える)と、
様々な構造様式を有する0.87%のアクリル酸ベースの粘度調整剤と、
0.28%の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤と、
さらに、オートマチックトランスミッション用潤滑剤に特有である従来の摩擦調整剤、酸化防止剤、腐食防止剤および他の添加剤。
実施例2の場合、この実施例は、次の特性を有する:FINISH BLEND KV100=3.84cSt、KV40cSt=15.7cSt;BOV=2.98cStおよびB=328ppm、Ca=298ppm、P=586ppm、S=1617ppm。
【0101】
(実施例3)
下記のものを含有する、鉱物油ベースの配合物:
2.1%のBを含む0.15%のホウ素化エポキシド(炭素が14~16個のホウ酸エステル)(したがって、32ppmのホウ素を潤滑剤に与える)と、
2.7%のBを含む炭素が8個のアルコールを主体とした0.1%のホウ酸エステル(したがって、20ppmのホウ素を潤滑剤に与える)と、
0.4%のBを含む2.8%のホウ素化スクシンイミド分散剤(したがって、128ppmのホウ素を潤滑剤に与える)と、
0.5%のDMTD含有分散剤の混合物と、
5.25%のPを含む0.12%のC18アルコールのリン酸エステル(したがって、63ppmのリンを潤滑剤に与える)と、
15.5%のPを含む0.23%のアルキルホスファイト摩耗防止剤(したがって、357ppmのリンを潤滑剤に与える)と、
0.28%の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤と、
さらに、オートマチックトランスミッション用潤滑剤に特有である従来の摩擦調整剤、酸化防止剤、腐食防止剤および他の添加剤。
実施例3の場合、この実施例は、次の特性を有する:FINISH BLEND KV100=3.82cSt、KV40cSt=15.5cSt;BOV=2.98cStおよびB=344ppm、Ca=303ppm、P=607ppm、S=1755ppm。
【0102】
(実施例4)
下記のものを含有する、鉱物油ベースの配合物:
2.1%のBを含む0.15%のホウ素化エポキシド(炭素が14~16個のホウ酸エステル)(したがって、32ppmのホウ素を潤滑剤に与える)と、
2.7%のBを含む炭素が8個のアルコールを主体とした0.15%のホウ酸エステル(したがって、41ppmのホウ素を潤滑剤に与える)と、
2.6%のホウ素化されていないスクシンイミド分散剤と、
0.4%のBを含む0.7%のホウ素化スクシンイミド分散剤(したがって、127ppmのホウ素を潤滑剤に与える)と、
0.65%のDMTD含有分散剤の混合物と、
5.25%のPを含む0.12%のC18アルコールのリン酸エステル(したがって、79ppmのリンを潤滑剤に与える)と、
15.5%のPを含む0.25%のアルキルホスファイト摩耗防止剤(したがって、388ppmのリンを潤滑剤に与える)と、
0.28%の過塩基性スルホン酸カルシウム清浄剤と、
さらに、オートマチックトランスミッション用潤滑剤に特有である従来の摩擦調整剤、酸化防止剤、腐食防止剤および他の添加剤。
実施例4の場合、この実施例は、次の特性を有する:FINISH BLEND KV100=3.84cSt、KV40cSt=15.8cSt;BOV=2.98cStおよびB=298ppm、Ca=301ppm、P=570ppm、S=1615ppm。
【0103】
実施例5は、比較のために含まれるオートマチックトランスミッション液の市販試料である。この試料は、Shellから市販の高性能オートマチックトランスミッション液である、Shell(商標)ATF134FEの試料である。実施例5の場合、この実施例は、次の特性を有する:FINISH BLEND KV100=5.3cSt、KV40=23.8cSt。Toyota WSのBOVは、およそKV100=3.3cSt(BOV)。B=70ppm、Ca=130ppm、P=271ppm、S=729ppmである。
【0104】
実施例6も、比較のために含まれるオートマチックトランスミッション液の市販試料である。この試料は、Toyota(商標)によって商用として使用されている、Toyota WS(World Standard)オートマチックトランスミッション液である。実施例6の場合、この実施例は、次の特性を有する:FINISH BLEND KV100=4.35cStおよびKV40=18.1cSt。Shell ATF134のBOVは、およそKV100=3.0cSt(BOV)。B=136ppm、Ca=236ppm、P=343ppm、S=1669ppmである。
【0105】
実施例1~4の配合物には、Unisteel(商標)ベアリングリグによるニードルベアリング試験を施す。12個のスラストニードルローラーを備えるベアリングを使用して、10,000Nの負荷荷重、1.1~1.5m/sの速度(12,250rpmのニードル回転および約700rpmのシャフト速度に対応する)、120℃、2.6GPaの最大圧力において試料1つ当たり6回の試験を実施して、各潤滑剤の100mL試料を評価する。試験結果は、データをワイブル分析に当てはめることにより、L10およびL50に関して提示されている。L10は、(一般的に振動として検出されるピットの形成によって判定される)ベアリングの故障確率が10パーセントである回転数を示しており、L50は、故障確率が50パーセントである回転数を示している。回転(サイクル)に関して報告した結果が、下記の表に示されている。
【表1】
【0106】
本発明による実施例1~実施例4の配合物は、良好なベアリング寿命をもたらしている。
【0107】
上記において言及された文献のそれぞれは、上記において具体的に列記されているか否かにかかわらず、優先権の基礎となっているあらゆる先行出願を含めて、参照により本明細書に組み込む。何らかの文献に関する言及は、いかなる裁判管轄においても、このような文献が従来技術に相当することも、当業者の常識をなすことも許しているわけではない。実施例における場合またはそうではないと明示的に示されている場合を除いて、本明細書中で材料の量、反応条件、分子量および炭素原子の数等を指定しているときのすべての数量は、任意選択で「約」という語句によって修飾されていると理解すべきである。本明細書において記載された量、範囲ならびに比の上限および下限は、独立に組み合わせることができると理解すべきである。同様に、本発明の各要素に関する範囲および量は、他の要素のいずれかに関する範囲または量と一緒にして使用され得る。
【0108】
本明細書において使用されているとき、「含む(including)」、「含有する(containing)」または「によって特徴付けられる(characterized by)」と同義である「含む(comprising)」という移行句は、包括的または非限定的なものであり、記載されていないさらなる要素または方法ステップを排除しない。しかしながら、本明細書において「含む(comprising)」の記載毎に、この用語は、代替的な実施形態として、「から本質的になる(consisting essentially of)」および「からなる(consisting of)」という語句も包含することを意図されており、ここで、「からなる」は、指定されていないあらゆる要素またはステップを排除し、「から本質的になる」は、検討している組成または方法の本質的または基本的で新規な特徴に実質的に影響しない記載されていないさらなる要素またはステップを含むことを許容する。「からなる」または「から本質的になる」という表現は、ある請求項に属するある要素に適用されている場合、特許請求の範囲のいずれかの場所において「含む(comprising)」が存在するかどうかにかかわらず、当該要素によって表される種類のすべての種を限定するように意図されている。
【0109】
ある特定の代表的な実施形態および詳細が本発明を説明するという目的で提示されてきたが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更および修正がこれらの代表的な実施形態になされ得ることは、当業者には明らかである。この点に関して、本発明の範囲は、下記の特許請求の範囲によってのみ限定すべきである。