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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】窒化物系セラミックス樹脂複合体
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20220926BHJP
   C08L 79/04 20060101ALI20220926BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20220926BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20220926BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20220926BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20220926BHJP
   C04B 35/582 20060101ALI20220926BHJP
   C04B 35/5835 20060101ALI20220926BHJP
   C04B 35/596 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C08L63/00 Z
C08L79/04 Z
C08K3/38
C08K3/28
C08K3/34
C04B38/00 303Z
C04B35/582
C04B35/5835
C04B35/596
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019558265
(86)(22)【出願日】2018-12-05
(86)【国際出願番号】 JP2018044805
(87)【国際公開番号】W WO2019111978
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2017233682
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】南方 仁孝
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 絵梨
(72)【発明者】
【氏名】山縣 利貴
(72)【発明者】
【氏名】井之上 紗緒梨
(72)【発明者】
【氏名】吉松 亮
(72)【発明者】
【氏名】古賀 竜士
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155110(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/152402(WO,A1)
【文献】特開2013-239486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 63/00 - 63/10
C08L 79/00 - 79/08
C08K 3/00 - 3/40
C04B 38/00 - 38/10
C04B 35/00 - 35/84
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選ばれる、1種または2種以上を組み合わせた窒化物系セラミックス一次粒子の焼結体であり、気孔が三次元的に連続している多孔性の窒化物系セラミックス焼結体中に、熱硬化性樹脂組成物が不完全硬化状態で含浸している窒化物系セラミックス樹脂複合体であり、前記熱硬化性樹脂組成物が、ビスマレイミドトリアジン樹脂の1.0化学当量に対し、2官能ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる、1種または2種以上を組み合わせたエポキシ樹脂を、合計で0.2化学当量以上1.5化学当量以下の割合で含み、前記熱硬化性樹脂組成物が占める体積割合は、前記窒化物系セラミックス樹脂複合体を基準として30体積%以上65体積%以下であり、かつ前記熱硬化性樹脂組成物の、完全に硬化した状態におけるJIS K7209(2000)のA法に準拠して測定した吸水率が1質量%以下である、窒化物系セラミックス樹脂複合体。
【請求項2】
多孔性の窒化物系セラミックス焼結体が、窒化ホウ素の一次粒子の焼結体である、請求項1記載の窒化物系セラミックス樹脂複合体。
【請求項3】
熱硬化性樹脂組成物が、硬化率5%以上80%以下の不完全硬化状態で含浸している、請求項1または2記載の窒化物系セラミックス樹脂複合体。
【請求項4】
熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度が180℃以上である、請求項1~3いずれか一項記載の窒化物系セラミックス樹脂複合体。
【請求項5】
2官能ナフタレン型エポキシ樹脂が1,6-ナフタレンジオールジグリシジルエーテルであり、脂環式エポキシ樹脂が3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートであり、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が(化1)及び/または(化2)で示される化学構造を有するエポキシ樹脂であり、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂が(化3)で示される化学構造を有するエポキシ樹脂である、請求項1~4いずれか1項記載の窒化物系セラミックス樹脂複合体。
【化1】
(式中、nは0又は1以上の整数である。)
【化2】
【化3】
【請求項6】
請求項1~5いずれか一項記載の窒化物系セラミックス樹脂複合体を用いた、熱伝導性絶縁接着シート。
【請求項7】
請求項6記載の熱伝導性絶縁接着シートを電気絶縁層として備えている、単層または多層の金属回路基板。
【請求項8】
請求項7記載の金属回路基板を用いたパワーモジュール構造体。
【請求項9】
請求項7記載の金属回路基板を用いたLED発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物系セラミックス焼結体に、熱硬化性樹脂組成物が含浸している窒化物系セラミックス樹脂複合体、前記窒化物系セラミックス樹脂複合体を用いた熱伝導性絶縁接着シート、及び前記熱伝導性絶縁接着シートを備えている金属回路基板、さらに前記金属回路基板を備えるパワーモジュール構造体やLED発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、LED照明装置、車載用パワーモジュール等に代表される電子機器の高性能化及び小型化に伴い、半導体デバイス、プリント配線板実装、装置実装の各階層において実装技術が急激に進歩している。そのため、電子機器内部の電子回路が発する発熱密度は年々増加しており、使用時に発生する熱を如何に効率的に放熱するか、そしてその電子機器の信頼性が重要な課題となる。そのため、電子部材を固定すると共に熱を冷却器に伝えるために用いられる熱伝導性絶縁接着シートには、高い熱伝導率および耐熱信頼性が要求されている。
【0003】
上記の熱伝導性絶縁接着シートとしては、熱硬化性樹脂の硬化反応が殆ど進行していない状態の熱硬化性樹脂中に、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の熱伝導率の高いセラミックス粉末を分散させて熱硬化性樹脂組成物となし、さらにこれをコーター等による塗工等でシート状に成型した後、加熱により熱硬化性樹脂の硬化反応が完了していない不完全硬化状態とした熱伝導性絶縁接着シートが従来から用いられてきた。なお、熱硬化性樹脂の硬化の程度(進行状態)は、例えば熱硬化性樹脂の硬化率で示すこともできるが、前記及び本発明でいう「不完全硬化」の状態とは、熱硬化性樹脂の流動性は低くなりほぼその形状を保持しつつ、硬化反応自体は未完了であり、さらに硬化反応が進みうる硬化の程度にある状態を意味する語であり、「Bステージ」ともいうことがある。即ち、本発明では、必ずしも熱硬化性樹脂組成物の硬化の程度までを厳密に規定していないが、硬化の程度自体は前記硬化率で定めることができる。
【0004】
前記の従来型の熱伝導性絶縁接着シートは、電子部材、電子回路基板、冷却器等の被着体に密着させた後、加熱することにより不完全硬化状態の熱硬化性樹脂を軟化溶融させ、被着体表面の凹凸に侵入させることで接着性を発現させ、さらに加熱を進めることにより熱硬化性樹脂を完全に硬化した状態とし、熱伝導性絶縁接着シートと被着体との間の接着を強固にしている。
【0005】
前記の従来型の熱伝導性絶縁接着シートを用いれば、電子部材等の被着体側に接着層(例えば未硬化や不完全硬化状態の熱硬化性樹脂中にセラミックス粉末を分散させたもの)を別途形成させる必要が無く、接着層の塗工作業や精密な塗布装置の導入が不要で、ユーザーでの作業が簡便になるため、一般に広く利用されている。
【0006】
特許文献1には、金属基板の上に、無機フィラーとエポキシ樹脂と該エポキシ樹脂の硬化剤とを含む接着シート形成用組成物から製造された、Bステージ状態の接着シートを配置する工程、金属基板上に配置された接着シートの上に、更に金属箔を配置する工程、及び金属基板と接着シートと金属箔との積層物を、該接着シートがCステージ状態になるまで加圧下で加熱することにより一体化して、金属回路用基板を形成する工程を含む、金属回路用基板の製造方法、即ち従来型の熱伝導性絶縁接着シートの応用例が開示されている。
【0007】
一方、従来型の熱伝導性接着シートの熱伝導率を高める方法としては、(1)完全に硬化した状態の熱硬化性樹脂の熱伝導率を高くすること、(2)セラミックス粉末そのものの熱伝導率を高めること、(3)セラミックス粉末の粒子径を実用的な範囲内で大きくすること、(4)セラミックス粉末を高充填すること、がある。特許文献2では前記(1)の方法により高い熱伝導率の熱伝導性絶縁接着シートを得ることを可能にしている。また、特許文献3では、セラミックス粉末として熱伝導率の高い窒化ホウ素を用いる、即ち前記(2)の方法により高い熱伝導率の熱伝導性絶縁接着シートを得ることを可能にしている。また、特許文献4では、前記(2)と(4)の方法により高い熱伝導率の熱伝導性絶縁接着シートを得ることを可能にしている。さらに、特許文献5では、様々な粒子径の窒化アルミニウム粉末を特定の比率で組み合わせることを含む、前記(2)、(3)、(4)の方法により、高い熱伝導率の熱伝導性絶縁接着シートを得ることを可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-49062号公報
【文献】特開2006-63315号公報
【文献】特開2014-196403号公報
【文献】特開2011-184507号公報
【文献】特開2014-189701号公報
【文献】特開昭62-126694号公報
【文献】特開2016-103611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記の特許文献1及び特許文献3~5に開示される発明においては、セラミックス粉末の各粒子間に熱伝導率の低い熱硬化性樹脂層が存在することから、熱伝導率は最高でも16W/(m・K)(例えば特許文献5、表2、合成例7参照)であり、限界があった。また、熱硬化性樹脂の熱伝導率を高くすることには限界があり、特許文献2に開示される発明においても、熱伝導率は最高でも10.5W/(m・K)(表1 実施例6参照)に留まっていた。そのため、近年ますます困難になる電子機器の熱設計要求において、放熱性の面で課題があった。
【0010】
特許文献6では、粒子状のセラミックスを分散させるのではなく、熱伝導率の高いセラミックス一次粒子を焼結し、3次元的に連続する一体構造となしたセラミックス焼結体の細孔中に熱硬化性樹脂を充填して硬化させた、板状に加工したセラミックス樹脂複合体が提案されている。これらの発明においては、セラミックスが3次元的に連続している構造であるため、高い熱伝導率を有するセラミックス樹脂複合体を得ることができる。
【0011】
しかしながら特許文献6では、板状のセラミックス樹脂複合体に含有される熱硬化性樹脂については、その硬化状態を制御して不完全硬化状態とすることにより、セラミックス樹脂複合体に接着機能を付与するという技術思想は記載されてない。そのため、このセラミックス樹脂複合体を用いる場合には、被着体とセラミックス樹脂複合体との間に、接着層を別に設ける必要があり、放熱性や作業性の面で課題があった。
【0012】
特許文献7では、セラミックス樹脂複合体に含有される熱硬化性樹脂組成物を不完全硬化状態とし、接着性を持たせたセラミックス樹脂複合体を含む金属回路基板が提案されている。実際に金属回路基板を使用する際には、金属回路基板に半導体チップ等を実装するリフローはんだ付け工程(以降リフロー工程と表記する)を経るため、金属回路基板を構成する金属板とセラミックス樹脂複合体である絶縁層間の加熱による剥離が起こらないような耐熱信頼性が必要となる。但し特許文献7では、金属回路基板の耐熱信頼性まで言及したセラミックス樹脂複合体は記載されてない。
【0013】
リフロー工程における、セラミックス樹脂複合体と例えば電子回路基板のような被着体とが剥離する原因としては、セラミックス樹脂複合体に含まれる熱硬化性樹脂組成物中に含まれている水分が、リフロー工程の際に蒸発し、その水蒸気が金属基板を圧迫して剥離に至ることが考えられる。金属基板剥離への対策としては、熱硬化性樹脂組成物中に含まれる水分量を減らす方策が考えられ、その目的のためだけには、例えば水分吸収率の低い熱硬化性樹脂組成物を選定すればよいが、その他にセラミックス焼結体への含浸のしやすさ、硬化反応の制御性等をもバランスさせ、伝熱性、被着体への接着性、リフロー工程時の耐熱信頼性を満足し、実用的に優れるセラミックス樹脂複合体が得られるような総合的見地からの技術は今まで見られない。
【0014】
本発明は、上記のような背景技術を鑑み、伝熱性、電気絶縁性、被着体への接着性を従来製品と同等以上に備えると共に、さらにリフロー工程時の耐熱信頼性をも満足する窒化物系セラミックス樹脂複合体、前記窒化物系セラミックス樹脂複合体を用いた熱伝導性絶縁接着シート、及び前記熱伝導性絶縁接着シートを用いた金属回路基板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
課題を解決するための手段である本発明は、以下(1)~(9)に例示される。
(1)本発明は一実施形態において、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選ばれる、1種または2種以上を組み合わせた窒化物系セラミックス一次粒子の焼結体であり、気孔が三次元的に連続している多孔性の窒化物系セラミックス焼結体中に、熱硬化性樹脂組成物が不完全硬化状態で含浸している窒化物系セラミックス樹脂複合体であり、前記熱硬化性樹脂組成物が、ビスマレイミドトリアジン樹脂の1.0化学当量に対し、2官能ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる、1種または2種以上を組み合わせたエポキシ樹脂を、合計で0.2化学当量以上1.5化学当量以下の割合で含み、前記熱硬化性樹脂組成物が占める体積割合は、前記窒化物系セラミックス樹脂複合体を基準として30体積%以上65体積%以下であり、かつ前記熱硬化性樹脂組成物の、完全に硬化した状態におけるJIS K7209(2000)のA法に準拠して測定した吸水率が1質量%以下である、窒化物系セラミックス樹脂複合体である。
(2)前記(1)記載の窒化物系セラミックス樹脂複合体においては、多孔性の窒化物系セラミックス焼結体が、窒化ホウ素の一次粒子の焼結体であることが好ましい。
(3)前記(1)または(2)記載の窒化物系セラミックス樹脂複合体においては、熱硬化性樹脂組成物が、硬化率5%以上80%以下の不完全硬化状態で含浸していることが好ましい。
(4)前記(1)~(3)いずれか一項記載の窒化物系セラミックス樹脂複合体においては、熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度は180℃以上であることが好ましい。
(5)前記(1)~(4)いずれか一項記載の窒化物系セラミックス樹脂複合体においては、2官能ナフタレン型エポキシ樹脂が1,6-ナフタレンジオールジグリシジルエーテルであり、脂環式エポキシ樹脂が3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートであり、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂が(化1)及び/または(化2)で示される化学構造を有するエポキシ樹脂であり、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂が(化3)で示される化学構造を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。
【化1】
(式中、nは0又は1以上の整数である。)
【化2】
【化3】
(6)本発明は別の一実施形態において、前記(1)~(5)いずれか一項記載の窒化物系セラミックス樹脂複合体を用いた、熱伝導性絶縁接着シートである。
(7)本発明は更に別の一実施形態において、前記(6)項記載の熱伝導性絶縁接着シートを電気絶縁層として備えている、単層または多層の金属回路基板である。
(8)本発明は更に別の一実施形態において、前記(7)項記載の金属回路基板を用いたパワーモジュール構造体である。
(9)本発明は更に別の一実施形態において、前記(7)項記載の金属回路基板を用いたLED発光装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、伝熱性、電気絶縁性、被着体への接着性を従来製品と同等以上に備えると共に、リフロー工程時の耐熱信頼性を満足し、特に電子機器が発する熱を効果的に放散することができる熱伝導性絶縁接着シートの素材となる窒化物系セラミックス樹脂複合体を提供することができる。また、本発明の別の一実施形態によれば、前記窒化物系セラミックス樹脂複合体を用いた熱伝導性絶縁接着シート、及び前記熱伝導性絶縁接着シートを用いた金属回路基板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施態様である<窒化物系セラミックス樹脂複合体>、<熱伝導性絶縁接着シート>、<金属回路基板>、<パワーモジュール構造体>、及び<LED発光装置>について、それぞれの内容や製造方法等を説明する。
【0018】
<窒化物系セラミックス樹脂複合体>
本発明の窒化物系セラミックス樹脂複合体は一実施形態において、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選ばれる1種または2種以上を組み合わせた、窒化物系セラミックスの一次粒子の焼結体であり、気孔が三次元的に連続している多孔性の窒化物系セラミックス焼結体中に、熱硬化性樹脂組成物が不完全硬化状態で含浸している窒化物系セラミックス樹脂複合体である。また、前記熱硬化性樹脂組成物は一実施形態において、ビスマレイミドトリアジン樹脂と、2官能ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、及び水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂からなる群から選ばれる1種または2種以上のエポキシ樹脂とを、規定した化学当量の範囲で含み、かつ吸水率の上限値が規定されている。
【0019】
本発明の窒化物系セラミックス樹脂複合体に用いられる、多孔性の窒化物系セラミックス焼結体は一実施形態において、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選ばれる、1種または2種以上を組み合わせた窒化物系セラミックスの一次粒子を焼結した焼結体であって、焼結後にできる気孔が多孔性を保ちながら三次元的に連続している一体構造を有するように焼結した焼結体である。
【0020】
(多孔性の窒化物系セラミックス焼結体)
前記多孔性の窒化物系セラミックス焼結体は、高熱伝導性が求められるパワーモジュール等などへの適用を考慮して、少なくとも40W/(m・K)以上の熱伝導率を有する窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素からなる群から選ばれる、1種または2種以上を組み合わせた窒化物系セラミックスの一次粒子を、焼結後にできる気孔が三次元的に連続している多孔性を保ちながら一体構造を有するように焼結した焼結体である。当該窒化物系セラミックスの熱伝導率は、25℃における値であり、JIS R1611(1997)に準拠して、レーザーフラッシュ法を用いて求める。前記窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素の窒化物系セラミックスの一次粒子は、一般に市販されている製品を用いることができる。なお前記窒化物系セラミックスとしては、窒化ホウ素を用いることが好ましく、前記窒化ホウ素はアモルフォス状、六方晶状のどちらも好ましく用いることができる。
【0021】
(窒化物系セラミックス焼結体の製造方法)
前記多孔性の窒化物系セラミックス焼結体の製造方法には特に限定はないが、窒化物系セラミックスの一次粒子と、焼結助剤の粉末とを混合し、これを高温で焼結する方法が可能である。例えば粉末状の窒化ホウ素を一次粒子として、焼結助剤である炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸等の粉末を0.01~20質量%の内割となるように配合して混合粉末とし、これを金型や冷間等方圧加圧法(CIP)等の公知の方法にて成形した後、窒素、アルゴン等の非酸化性の雰囲気中で、1500℃以上2200℃以下の温度範囲で、1時間以上30時間以下保ち焼結させることによって製造することができる。なお前記焼結助剤は、焼結過程において揮発することによりセラミックス焼結体中には残存しないことがある。このような多孔性の窒化物系セラミックス焼結体の製造方法は公知であり、また一般製品として市販もされている。また、粉末状の窒化アルミニウム又は窒化ケイ素を一次粒子として用いる場合も、焼結助剤としてイットリア、アルミナ、マグネシア、希土類元素酸化物等を用いて、前記と同様の方法で製造することができる。焼結する際の炉の種類にも特に限定はないが、例えばマッフル炉、管状炉、雰囲気炉などのバッチ式炉や、ロータリーキルン、スクリューコンベヤ炉、トンネル炉、ベルト炉、プッシャー炉、竪形連続炉などの連続式炉を挙げることができる。多くの品種の窒化物系セラミックス焼結体を少量ずつ製造するときはバッチ式炉を、一定の品種を多量製造するときは連続式炉が好ましく採用される。
【0022】
多孔性の窒化物系セラミックス焼結体の内部構造に関して、焼結後にできる気孔が多孔性を保ちながら三次元的に連続している一体構造を有するように焼結されているか否かは、市販されている走査型電子顕微鏡を用いて、窒化物系セラミックス焼結体の任意断面に存在する一次粒子を1500倍程度で観察し、一次粒子同士が焼結により三次元的に連続して結合し、なおかつ連続した多孔性構造となっているか観察することより判断することができる。
【0023】
なお、窒化物系セラミックス焼結体の多孔性構造においては、全ての気孔が三次元的に連続しているのが理想的ではあるが、本発明の課題とする放熱特性や他の特性に影響がない範囲であれば、厳密に全ての気孔が連続孔でなくてもよい。なお電子顕微鏡観察の前処理として、検体となる窒化物系セラミックス焼結体を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後に、通常は被検表面をオスミウムコーティングすることができる。また多孔性の窒化物系セラミックス焼結体に樹脂組成物を含浸させて窒化物系セラミックス樹脂複合体とした後でも、窒化物系セラミックス焼結体が、含浸前の状態を保つことができているか否かを調査することにより、焼結後にできる気孔が多孔性を保ちながら三次元的に連続している一体構造を有するように焼結されているかを確認することができる。具体的には、前記樹脂複合体を大気雰囲気、500~900℃で灰化することにより、樹脂を含まない窒化物系セラミックス焼結体を得ることができ、窒化物系セラミックス焼結体の内部において一次粒子同士が三次元的に連続して結合していない場合は、灰化の際に形状を保持することができない。
【0024】
(窒化物系セラミックス一次粒子の平均長径)
窒化物系セラミックス焼結体を構成する、窒化物系セラミックス一次粒子の平均長径は3.0~60μmの範囲であることが好ましく、4.0~40μmの範囲であることがより好ましく、5.0~20μmの範囲であることが更により好ましい。前記平均長径が3.0μm以上であると、窒化物系セラミックス焼結体の弾性率が低くなりやすい。このような窒化物系セラミックス焼結体に熱硬化性樹脂組成物を含浸させた窒化物系セラミックス樹脂複合体を適宜成形して得た、本発明の態様のひとつでもある熱伝導性絶縁接着シートは、金属板や金属回路基板等の被着体に加熱圧着させる際などに、被着体に密着しやすくなるため、熱伝導率や引張剪断接着強度を更に向上できると考えられる。一方、窒化物系セラミックス一次粒子の平均長径が60μm以下であることで、窒化物系セラミックス樹脂複合体の機械的強度の低下が抑制されるため、熱伝導性絶縁接着シートと被着体との接着強度が低下しにくくなるという効果が期待される。前記セラミックス一次粒子の平均長径は、電子顕微鏡を用いた測定で求めることが可能である。
【0025】
窒化物系セラミックス一次粒子の平均長径は以下の方法で測定される。観察の前処理として、前記窒化物系セラミックスの粉末を樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により加工し、試料台に固定した後にオスミウムコーティングする。その後、走査型電子顕微鏡(実施例では「JSM-6010LA」(日本電子社製))にてSEM像を撮影し、得られた断面の粒子像を画像解析ソフトウェア(実施例では「A像くん」(旭化成エンジニアリング社製))に取り込み、画像の倍率は100倍、画像解析の画素数は1510万画素の条件で一次粒子を観察することができる。観察された任意の一次粒子100個の長径を求め、その平均値を平均長径とすることができる。各一次粒子の長径は、当該一次粒子を取り囲むことのできる最小円の直径を指す。
【0026】
(窒化ホウ素一次粒子の平均アスペクト比)
多孔性の窒化物系セラミックス焼結体が、特に窒化ホウ素の一次粒子を含む焼結体である場合、前記窒化ホウ素一次粒子のアスペクト比の平均値(平均アスペクト比という)は、5.0~30の範囲のものが好ましい。前記窒化ホウ素一次粒子の平均アスペクト比は、電子顕微鏡を利用した一次粒子の測定値を基に算出することができる。窒化ホウ素の一次粒子の平均アスペクト比が5.0より小さくなると、多孔性の窒化物系セラミックス焼結体の弾性率が高くなり、例えば熱伝導性絶縁接着シートの特性が低下する可能性がある。反対に窒化ホウ素の一次粒子の平均アスペクト比が30より大きくなると、窒化物系セラミックス樹脂複合体の強度が低下するため、熱伝導性絶縁接着シートと被着体との接着強度が低下する可能性がある。平均アスペクト比は、粒子100個の電子顕微鏡観察時に長径と同時に短径も測定し、長径の長さを短径の長さで除することにより求めたアスペクト比の平均値である。各一次粒子の短径は、当該一次粒子に取り囲まれることのできる最大円の直径を指す。
【0027】
(熱硬化性樹脂組成物)
本発明の一実施形態に係る窒化物系セラミックス樹脂複合体に関し、多孔性の窒化物系セラミックス焼結体中には、ビスマレイミドトリアジン樹脂の1.0化学当量に対し、2官能ナフタレン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、及び水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂から選ばれる、1種または2種以上を組み合わせたエポキシ樹脂(まとめた意味で「エポキシ樹脂」ということがある)を合計で0.2化学当量以上1.5化学当量以下の割合で含む熱硬化性樹脂組成物が、不完全硬化の状態で含浸しており、また前記熱硬化性樹脂組成物の、完全に硬化した状態におけるJIS K7209(2000)のA法に準拠して測定した吸水率は1質量%以下である。なお、本発明において、化学当量はモル当量のことを指す。
【0028】
前記ビスマレイミドトリアジン樹脂は、トリアジン環とイミド環構造を併せ持つ樹脂であり、例えば5質量部以上20質量部以下のメチレンビス-p-フェニレンジマレイミドと、80質量部以上95質量部以上のビスフェノールAジシアネートとを反応させて得たプレポリマーが好ましい。
【0029】
また、前記2官能ナフタレン型エポキシ樹脂は、ナフタレン骨格を有する2官能性のエポキシ樹脂であり、例えば1,6-ナフタレンジオールジグリシジルエーテルが好ましい。また前記脂環式エポキシ樹脂は、脂環骨格を有するエポキシ樹脂であり、例えば3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートが好ましい。さらにまた前記ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂とは、ジシクロペンタジエン骨格を有する多官能のエポキシ樹脂であり、(化1)及び/または(化2)に示す化学構造を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。なお(化1)において、nの値は特に規定はないが、0又は1以上の整数とすることができ、通常1以上10以下であり、2以上5以下であることが好ましい。
【化1】
【化2】
前記水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、(化3)に示す化学構造を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。
【化3】
【0030】
本発明でいう熱硬化性樹脂組成物には、本発明の課題解決を損なわない範囲において、窒化物系セラミックス焼結体と熱硬化性樹脂組成物間の密着性を向上させるためのシランカップリング剤や、濡れ性やレベリング性の向上及び粘度低下を促進して含浸・硬化時の欠陥の発生を低減するための消泡剤、表面調整剤、湿潤分散剤を含有させることができる。
【0031】
(熱硬化性樹脂組成物の当量比)
本発明でいう熱硬化性樹脂組成物の一実施形態においては、ビスマレイミドトリアジン樹脂の1.0化学当量に対し、エポキシ樹脂は合計で、0.2化学当量以上、1.5化学当量以下の割合で含んでおり、好ましくは0.3化学当量以上、1.0化学当量以下の割合で含んでおり、より好ましくは0.4化学当量以上、0.6化学当量以下の割合で含んでいる。前記エポキシ樹脂の化学当量の割合が0.2未満であると、熱硬化性樹脂組成物の吸水率が本発明の目的を達するまで十分に低くならない。一方エポキシ樹脂の合計が1.5化学当量を超えると、熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度が低下してしまい、多孔性の窒化物系セラミックス焼結体中に熱硬化性樹脂組成物を含浸させる際に熱硬化性樹脂組成物の硬化が過度に進む(即ち含浸中の熱硬化性樹脂組成物に求められる流動性が低下する)ため、十分な含浸ができないことがある。
【0032】
(熱硬化性樹脂組成物の体積割合)
一実施形態において、本発明の窒化物系セラミックス樹脂複合体を基準として、その中に含浸している熱硬化性樹脂組成物は30体積%以上65体積%以下であり、好ましくは35体積%以上65体積%以下であり、より好ましくは40体積%以上60体積%以下である。30体積%より小さいと、金属板や金属回路等の被着体を熱伝導性絶縁接着シートに加熱加圧により接着する際に、被着体表面の凹凸に熱硬化性樹脂組成物が浸入し難くなり、引張剪断接着強度と熱伝導率が低下する可能性がある。また65体積%より大きいことは熱伝導率の低い熱硬化性樹脂組成物の割合が大きいことを意味し、窒化物系セラミックス樹脂複合体全体の熱伝導率が低下する。なお窒化物系セラミックス樹脂複合体中の熱硬化性樹脂組成物の体積割合は、以下に示す窒化物系セラミックス焼結体のかさ密度と気孔率の測定より、式(1)から逆に求めることができる。
窒化物系セラミックス焼結体かさ密度(D)=窒化物系セラミックス焼結体の質量/窒化物系セラミックス焼結体の外形寸法に基づく体積(内部の気孔も体積に含める)
窒化物系セラミックス焼結体気孔率=(1-(D/窒化物系セラミックスの真密度))×100=熱硬化性樹脂の体積割合 ・・・式(1)
【0033】
(熱硬化性樹脂組成物の不完全硬化状態)
本発明の窒化物系セラミックス樹脂複合体においては、ビスマレイミドトリアジン樹脂及びエポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物は、不完全硬化状態で窒化物系セラミックス焼結体中に含浸している必要がある。ここでいう不完全硬化状態とは、熱硬化性樹脂組成物がさらに硬化反応する状態にあることを意味する。この硬化反応により、窒化物系セラミックス樹脂複合体を成形した実用製品である、例えば本発明の態様のひとつである熱伝導性絶縁接着シートの表面に、金属板などを圧着加熱した際に、両者が十分な接着強度をもって接着させることができる。本発明では、不完全硬化状態の程度を厳密には規定しないが、例えば熱硬化性樹脂組成物の硬化率は、5%以上80%以下であることが好ましく、10%以上70%以下であることがより好ましく、30%以上65%以下であることがさらに好ましく、40%以上60%以下であることがさらにより好ましい。硬化率が5%未満であると、熱硬化性樹脂組成物成分が多孔性の窒化物系セラミックス焼結体中に保持できずに染みだして、前記焼結体表面に熱伝導率の低い樹脂層が形成され、熱伝導率が低下する。また例えば窒化物系セラミックス樹脂複合体をシート状に切断加工する際に、不完全硬化の状態の熱硬化性樹脂が溶融し、シート厚みにバラツキが発生する。また、窒化物系セラミックス樹脂複合体が切断の際の衝撃に耐えることができず割れが発生し、回路基板の絶縁破壊電圧が低下することがある。また硬化率が80%を超えると、樹脂の反応成分が少ない状態となっているため、例えば本発明の窒化物系セラミックス樹脂複合体を金属板に接合し、金属回路基板を作製するような場合において、窒化物系セラミックス樹脂複合体と金属板との接着力が低下してしまう。
【0034】
熱硬化性樹脂組成物の硬化率は、市販の示差走査型熱量計を用いて測定することができる。即ち、加熱により硬化を進める前の状態の熱硬化樹脂組成物を、示差走査型熱量計を用いて完全に硬化させた際に生じた熱量Q、及び加熱により、不完全硬化状態とした熱硬化性樹脂組成物について、示差走査型熱量計を用いて完全に硬化させた際に生じた熱量R、とを測定し、以下に示す式(2)により求めることができる。なお完全に硬化させたか否かは、得られた発熱曲線における発熱の終了により確認することができる。
硬化率(%)=(Q-R)/Q×100 ・・・式(2)
【0035】
(熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度)
本発明の窒化物系セラミックス樹脂複合体に含浸させる熱硬化性樹脂組成物の硬化開始温度は、窒化物系セラミックス樹脂複合体中に十分に含浸させるためにも150℃以上300℃以下であることが好ましく、170℃以上280℃以下であることがより好ましく、180℃以上250℃以下であることが更により好ましい。前記硬化開始温度は、例えば示差走査型熱量計を用い、10℃/分で温度を上げながら熱硬化性樹脂組成物を硬化させる過程において、その発熱曲線を測定することにより求めることができ、前記発熱曲線において、ベースラインから引いた外挿線と、ベースラインとピーク点の熱量値の中間の熱量を示す点での接線との交点から求めた温度である。
【0036】
前記硬化開始温度が150℃より低いと、多孔性の窒化物系セラミックス焼結体中に、熱硬化性樹脂組成物を加熱しながら含浸させる際、熱硬化性樹脂組成物の硬化反応が過度に進むことにより粘度が上昇して含浸が不十分となり、内部に空洞が生じるため、絶縁破壊電圧が低下することがある。硬化開始温度の上限については特に制限を設けないが、金属板や金属回路等の被着体を熱伝導性絶縁接着シートに加熱加圧により接着する際の作業性や装置部品の耐熱性を考慮すると、300℃以下が現実的である。なお硬化開始温度は、硬化促進剤等の添加により制御することができる。
【0037】
(熱硬化性樹脂組成物の溶融温度と評価方法)
本発明の窒化物系セラミックス樹脂複合体に含浸している熱硬化性樹脂組成物の溶融温度は、70℃以上であることが好ましい。溶融温度が70℃より低いと、例えばブロック状の窒化物系セラミックス樹脂複合体を、板状の熱伝導性絶縁接着シートに切断加工する際の熱で、熱硬化性樹脂が溶融するため厚みのバラツキが発生することがある。溶融温度の上限については特に制限は無いが、金属板や金属回路等の被着体を熱伝導性絶縁接着シートに加熱加圧により接着する際に、熱硬化性樹脂組成物の硬化反応の進行による粘度上昇を抑制する必要があることを考えると、溶融温度は180℃以下が実際的であり、示差走査熱量測定により熱硬化性樹脂組成物を加熱した際の吸熱ピークの温度で代表される。
【0038】
(熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度)
本発明の窒化物系セラミックス樹脂複合体に含浸している熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度は180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、200℃以上であることが更により好ましい。なお、ここでいうガラス転移温度は、完全に硬化した熱硬化性樹脂組成物を、動的粘弾性法(DMA法)を利用して測定した値である。本発明の実施様態のひとつである金属回路基板やパワーモジュール構造体及びLED発光装置を使用すると、回路からの発熱により内部が高温となり、使用時の内部温度が、熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度を超えると、窒化物系セラミックス樹脂複合体全体が軟化し、金属回路基板等が変形してしまう恐れがある。そのため、熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度は高い方が好ましいが、実用的な観点からは180℃以上であることが好ましい。
【0039】
(熱硬化性樹脂組成物の吸水率)
本発明の窒化物系セラミックス樹脂複合体に含有される熱硬化性樹脂組成物の一実施形態においては、完全に硬化した状態におけるJIS K7209(2000)のA法に準拠して測定した吸水率(単に吸水率という)は熱硬化性樹脂組成物の質量を基準として、1質量%以下であり、好ましくは0.9質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以下である。吸水率が1質量%より大きいと、例えば窒化物系セラミックス樹脂複合体からシート状の熱伝導性絶縁接着シートを成形し、これを金属基板で挟み加熱して作製する回路基板に、半導体チップを装着するリフロー工程において、前記窒化物系セラミックス樹脂複合体に含まれる水分が爆発的に蒸発して、金属基板との間に剥離が生じる可能性がある。吸水率は低い方が好ましいため、その下限値については特に制限は無いが通常は0.1質量%以上であり、典型的には0.5質量%以上である。
【0040】
(窒化物系セラミックス焼結体への熱硬化性樹脂組成物の含浸)
本発明の窒化物系セラミックス複合体は、多孔性の窒化物系セラミックス焼結体に、熱硬化性樹脂組成物を外部から含浸させて得ることができる。熱硬化性樹脂組成物の含浸を行う際の雰囲気圧力の状態は、減圧または加圧のいずれの状態でもよい。減圧含浸時の圧力は、1000Pa以下が好ましく、100Pa以下が更に好ましい。また、加圧して含浸させる場合には1MPa以上300MPa以下が好ましい。大気圧以上圧力1MPa未満では窒化物系セラミックス焼結体の内部まで熱硬化性樹脂組成物を十分含浸させられない可能性があり、300MPaを超えると含浸のための設備が大規模になるためコスト的に不利である。含浸の際には、窒化物系セラミックス焼結体の内部への熱硬化性樹脂組成物の浸入を容易にするため、含浸時に100~180℃に加熱し、熱硬化性樹脂組成物の粘度を低下させることもできる。例えば150℃における、熱硬化性樹脂組成物の粘度は、剪断速度10(1/s)の条件において、20mPa・s以下であることが好ましく、10mPa・s以下であることがより好ましく、5mPa・s以下であることがさらにより好ましい。
【0041】
(窒化物系セラミックス焼結体の気孔内への表面処理)
多孔性の窒化物系セラミックス焼結体の気孔表面には、窒化物系セラミックス焼結体と熱硬化性樹脂組成物間の密着性を向上させるための表面処理を施しておくこともできる。表面処理方法としては、熱硬化性樹脂組成物を含浸させる前に、シランカップリング剤溶液を窒化物系セラミックス焼結体の気孔内に含浸させた後、溶剤を乾燥等で除去する方法などが挙げられる。シランカップリング剤溶液の含浸は、真空含浸、1MPa以上300MPa以下での加圧含浸、又はそれらの組合せの含浸で行うことができる。また、溶剤は水、アルコール、トルエン等の公知のものを、単体又は組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の有する官能基については、熱硬化性樹脂の有する官能基と反応性を持つものを適宜選択することもでき、例えばエポキシ基、シアネート基、アミノ基等が挙げられる。
【0042】
<熱伝導性絶縁接着シート>
本発明の窒化物系セラミックス樹脂複合体をシート状に成形加工し、例えば発熱する電気回路基板と冷却器との間に前記シートを密着させて配置し、電気絶縁性を保ちながら熱を伝導させる役割を担わせるシートを、熱伝導性絶縁接着シートといい、これも本発明の実施態様のひとつである。
【0043】
(熱伝導性絶縁接着シートへの表面処理)
熱伝導性絶縁接着シート表面には、絶縁層(熱伝導性絶縁接着シート)と金属板及び金属回路の密着性を向上させるための表面処理を行うことができる。表面処理方法としては、金属板及び金属回路と絶縁層(熱伝導性絶縁接着シート)の接着前に、シランカップリング剤溶液を熱伝導性絶縁接着シート表面に塗布した後、溶剤を乾燥等で除去することで行うことができる。また、溶剤は水、アルコール、トルエン等の公知のものを、単体又は組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤の有する官能基については、熱硬化性樹脂の有する官能基と反応性を持つものを適宜選択することができ、例えばエポキシ基、シアネート基、アミノ基等が上げられる。
【0044】
(熱伝導性絶縁接着シートの厚み)
本発明の熱伝導性絶縁接着シートの厚みは特に規定はなく、要求特性によって変えることができる。例えば、高電圧での絶縁性があまり重要でなく熱抵抗が重要である場合は、0.1~0.25mmの比較的薄いシートとすることができ、逆に高電圧での絶縁性や部分放電特性が重要である場合には、0.35mm以上の比較的厚いシートとすることができる。
【0045】
<金属回路基板>
前記本発明の熱伝導性絶縁接着シートを電気絶縁層として備えている単層または多層の金属回路基板も本発明の実施態様のひとつである。ここでいう金属回路基板には他にも様々な呼称があるが、金属板をベースに、電気絶縁層を介して一般にパワー半導体など高発熱のデバイスを実装した電気回路を備えた一体の基板である。
【0046】
<パワーモジュール構造体、LED発光装置>
前記本発明の金属回路基板を用いたパワーモジュール構造体やLED発光装置も本発明の実施態様のひとつである。パワーモジュール構造体は、鉄道車両用や車載用のインバータモジュール等として用いられる。またLED発光装置としては、例えば照明装置、車両用ライト、液晶表示装置用バックライト、信号機等が挙げられる。
【実施例
【0047】
以下、本発明を実施例、比較例をあげて更に具体的に説明する。
【0048】
(多孔性の窒化物系セラミックス焼結体)
実施例及び比較例の窒化物系セラミックス樹脂複合体を得るための準備として、C1~C6の名称をつけて示す多孔性の窒化物系セラミックス焼結体を準備した。
【0049】
例えばC1の窒化物系セラミックス焼結体を準備する場合では、表1に示すように、アモルフォス窒化ホウ素の粉末(SP、デンカ社製)40.0質量%と、六方晶窒化ホウ素の粉末(MGP、デンカ社製)60質量%に、媒質としてエタノールを加え、窒化ケイ素ボ-ルを用いたボ-ルミルにて、湿式で2時間混合した後、乾燥、解砕し窒化物系セラミックスの混合粉末を得た。この混合粉末を金型に充填して5MPaの圧力でプレス成形した。得られた成形体をCIP(冷間等方圧加圧法)装置(装置名:ADW800、神戸製鋼所社製)により、100MPaの圧力をかけて処理を行って固めた後、さらにバッチ式高周波炉(装置名:FTH-300-1H、富士電波工業社製)を用い、炉内に窒素を標準状態で流量10(リットル/分)の割合で流して窒素雰囲気とし、2000℃で10時間保持して焼結させC1の窒化物系セラミックス焼結体を得た。
【0050】
C2~C6の名称をつけた窒化物系セラミックス焼結体を準備する場合についても、表1に示す窒化物系セラミックス、及び焼結助剤を、C1と同じ装置を用いて混合した。得られた混合粉末を、それぞれ前記CIP装置で表1に示す条件で処理し、さらに表1に示す条件で焼結処理して、C2~C6の窒化物系セラミックス焼結体を得た。
【0051】
【表1】
【0052】
得られたC1~C6の窒化物系セラミックス焼結体の内部構造を確認するため、前記焼結体をエポキシ樹脂で包埋後、CP(クロスセクションポリッシャー)法により断面加工し、さらに断面をオスミウムコーティングした上で、走査型電子顕微鏡を用いて、窒化物系セラミックス焼結体の任意断面に存在する一次粒子を1500倍で観察した。その結果、C1~C6の名称をつけた窒化物系セラミックス焼結体は、それぞれ一次粒子同士が焼結により三次元的に連続して結合し、なおかつ気孔が連続した多孔性の構造を有していることを確認した。
【0053】
(熱硬化性樹脂組成物)
実施例及び比較例の窒化物系セラミックス樹脂複合体を得るための準備として、表2に示したように、R1~R20の名称をつけて示す熱硬化性樹脂組成物を準備した。
【0054】
例えばR1の名称で示す熱硬化性樹脂組成物は、表2に示したように、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT2160、三菱ガス化学社)の1.0化学当量と、2官能ナフタレン型エポキシ樹脂(HP4032D、DIC社)の0.5化学当量の割合になるように混合した。なお混合は、ステンレス製容器を用い塩化ビニル棒で樹脂を攪拌して混合する方式を採用したが、エポキシ樹脂であるHP4032Dは、室温では固化した状態にあるため、あらかじめ80℃程度に保ち液状化させた状態として用いた。なお、R1で用いた2官能ナフタレン型エポキシ樹脂は、1,6-ナフタレンジオールジグリシジルエーテルである。
【0055】
【表2】
【0056】
R2~R7、R9~R20の名称で示す熱硬化性樹脂組成物も、前記ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT2160、三菱ガス化学社)の1.0化学当量に対して、それぞれ表2に示した種類のエポキシ樹脂を表2に示した化学当量で、R1と同じ方式で混合して準備した。なお、R4で用いた脂環式エポキシ樹脂は、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートであり、R5で用いたジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、前記(化1)で示される、エポキシ樹脂(n=3~4)であり、R6で用いたジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は、前記(化2)で示される、エポキシ樹脂であり、R7で用いた水添ビスフェノール型エポキシ樹脂は、前記(化3)で示される、エポキシ樹脂である。R6の名称で示す熱硬化性樹脂組成物は、前記ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT2160、三菱ガス化学社)の単味である。
【0057】
(熱硬化性樹脂組成物の吸水率)
前記の熱硬化性樹脂組成物R1~R20に関し、JIS K7209(2000)のA法に準拠して完全に硬化した後の吸水率を測定し、その結果を表2に示した。
【0058】
(吸水率の測定方法)
なお前記吸水率の具体的な測定手順は、以下の手順に従った。即ち、完全に硬化した後の各熱硬化性樹脂組成物のみからなる試験片を、棚乾燥機等の乾燥機で50.0±2.0℃、24±1時間の条件で予備乾燥した。次いで前記試験片を、乾燥機から取り出した後1分以内に、精密天秤を用いて、試験片の初期乾燥後の質量(Xとする)を0.1mg単位まで測定した。その後、試験片を23.0±1.0℃の蒸留水に24時間浸漬させて吸水させ、試験片を取り出し、試験片表面の水分をふき取った後に、精密天秤にて全体の質量(Yとする)を測定した。これらの値を用いて以下に示す式(3)により熱硬化性樹脂組成物の吸水率の値を求めた。なおYも0.1mgの単位まで測定した値である。
吸水率(質量%)=(Y-X)/X×100 ・・・式(3)
【0059】
(熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度)
前記の熱硬化性樹脂組成物R1~R20に関し、完全に硬化させた後のガラス転移温度を、動的粘弾性法により測定した。具体的には、完全に硬化した後の各熱硬化性樹脂組成物のみからなる試験片を、動的粘弾性測定装置(装置名:RSA-G2、TAインスツルメンツ社製)を用いて、測定開始前のサンプル幅/厚み/長さ:8mm/0.5mm/10mm(長さはサンプルチャック間の距離)とし、周波数:1Hz、印加歪み:0.01~0.8%、測定開始/測定終了温度:50℃/330℃、昇温速度:5℃/分の条件で、貯蔵弾性率及び損失弾性率を求め、その比の値(一般にtanδという)がピークとなる温度を、前記熱硬化性樹脂のガラス転移温度とした。その結果を表2に示した。
【0060】
(窒化物系セラミックス樹脂複合体の作製)
表3及び表4に示す窒化物系セラミックス焼結体と熱硬化性樹脂組成物の組み合わせにより、実施例1~18及び比較例1~13に示す窒化物系セラミックス樹脂複合体を作製した。この場合、窒化物系セラミックス焼結体中への、熱硬化性樹脂組成物の含浸方法、及び含浸条件等は全て同じである。即ち、C1~C6のいずれか1種類の窒化物系セラミックス焼結体を、真空加温含浸装置(装置名:G-555AT-R、協真エンジニアリング社製)を用い、温度145℃、圧力15Paの減圧下で各々10分間脱気した後、同じ状態を保ちながら、引き続きR1~R20のいずれか1種類の熱硬化性樹脂組成物中に浸漬した。これをいったん取り出した後、さらに加圧加温含浸装置(装置名:HP-4030AA-H45、協真エンジニアリング社製)に移し、温度145℃、圧力3.5MPaの加圧下にて120分間保持した。その後、大気圧下、160℃で加熱して熱硬化性樹脂組成物を不完全硬化させ、最終的な窒化物系セラミックス樹脂複合体とした。
【0061】
(窒化物系セラミックス樹脂複合体中に含浸している熱硬化性樹脂組成物の体積割合)
実施例1~18、比較例1~13の窒化物系セラミックス樹脂複合体に含浸している、熱硬化性樹脂組成物の体積割合を、先述した式(1)より算出した。その結果を表3、表4に示した。
【0062】
(含浸している熱硬化性樹脂組成物の硬化率)
実施例1~18、比較例1~13の窒化物系セラミックス樹脂複合体に含浸している、熱硬化性樹脂組成物の硬化率を求める方法として、示差走査熱量計(装置名:DSC6200、セイコーインスツルメンツ社製)を用いて評価した。
具体的には、まず未硬化の熱硬化性樹脂組成物を昇温させて完全に硬化させた際に生じる発熱量(a)を求める。そして含浸後の窒化物系セラミックス樹脂複合体を同様に昇温させて、セラミックス樹脂複合体中に含浸している熱硬化性樹脂組成物を完全に硬化させた際に生じる発熱量(b)を求める。このとき、未硬化の熱硬化性樹脂組成物及び窒化物系セラミックス樹脂複合体の示差走査熱量計による測定は同一質量にて実施する。この窒化物系セラミックス樹脂複合体中に熱硬化性樹脂組成物がc(wt%)含有されているとすると、以下の式により窒化物系セラミックス樹脂複合体に含浸している熱硬化性樹脂組成物の硬化率が求められる。
硬化率(%)=(1-b×100÷c÷a)×100
【0063】
(熱伝導性絶縁接着シートの作製)
実施例1~18及び比較例1~13の窒化物系セラミックス樹脂複合体はブロック状であり、ここからマルチワイヤーソー(装置名:MWS-32N、タカトリ社製)を用いて、320μmの厚さのシートを切り出し、実施例1~18及び比較例1~13の熱伝導性絶縁接着シートを作製した。窒化物系セラミックス樹脂複合体と、対応する熱伝導性絶縁接着シートの実施例、比較例は同じ番号とした。
【0064】
(熱伝導性絶縁接着シートのリフロー工程適否の評価)
得られた実施例1~18、比較例1~13の熱伝導性絶縁接着シートを用い、それを用いた場合のリフロー工程時の耐熱信頼性を評価した。即ち、縦/横が2cm/2cmの大きさに切り出した、実施例1~18、比較例1~13の各熱伝導性絶縁接着シートの両面に、熱伝導性絶縁接着シートと同一の外形サイズで、厚みが1.0mm銅板を、圧力100kgf/cm2、加熱温度180℃、加熱時間1時間の条件で、真空加熱プレス機(装置名:MHPC-VF-350-350-1-45、名機製作所社製)を用いてプレス接着した、評価用の積層体を作製した。この積層体をそれぞれ、320℃、1分の条件下に設置した。その後積層体の外観を目視確認し、熱伝導性絶縁接着シートと銅板との間に剥離が生じていないかを確認した。このとき、熱伝導性絶縁接着シートと銅板の間が膨らんでいる場合は剥離が生じて不適であると判断した。この結果を表3、表4に示した。
【0065】
(熱伝導性絶縁接着シートの絶縁破壊電圧の評価)
得られた実施例1~18、比較例1~13の熱伝導性絶縁接着シートの絶縁破壊電圧を、JIS C2110(2016)に準拠して測定した。測定は、前記リフロー工程適否の評価で用いた各積層体と同じ積層体を用い、各積層体の一方の面にエッチングレジストを直径20mmの円形状に、また他方の面にはエッチングレジストをベタパターン形状にスクリーン印刷し、エッチングレジストを紫外線硬化後に、金属板の片面を塩化第二銅液でエッチングし、積層体の一方の面に直径20mmの円形の銅回路を形成した。次いで、レジストをアルカリ溶液にて剥離した後、2μm厚の無電解Ni-Pメッキを施して評価用回路基板を製造した。前記回路基板を絶縁油中に浸漬し、室温で交流電圧を銅箔とアルミニウム板間に印加させ、JIS C2110-1(2016)に基づき、耐圧試験器(装置名:TOS-8700、菊水電子工業社製)を用いて絶縁破壊電圧を測定した。なお、実施例1の絶縁破壊電圧は、10.0kVであった。それ以外の実施例、比較例の絶縁破壊電圧を表3、表4に示す。本評価で用いたような熱伝導性絶縁接着シートの絶縁破壊電圧は、9.0kV以上であれば実用的に良好な値である。
【0066】
(熱伝導性絶縁接着シートの熱伝導率の評価)
厚み1mmの2枚の銅板間を、得られた実施例1~18、比較例1~13の熱伝導性絶縁接着シートで接着し、熱伝導性絶縁接着シートを含む、両銅板表面(接着面と反対側)間の熱伝導率を測定した。この場合の熱伝導率は、単なる熱伝導性絶縁接着シートの熱伝導率だけではなく、銅板と前記接着シート間の界面熱抵抗も含んだ熱伝導率となる。具体的には、JIS R1611(1997)に準拠して、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(装置名:TC-1200RH、アドバンス理工社製)を用いた。なお、実施例1の25℃における熱伝導率は、100W/(m・K)であった。それ以外の実施例、比較例の熱伝導率を表3、表4に示す。なお、熱伝導性絶縁接着シートの熱伝導率は、用いた窒化物系セラミックス焼結体の種類によっても左右されるが、本評価で用いたような熱伝導性絶縁接着シートの熱伝導率は、少なくとも30W/(m・K)以上であれば実用的に用いるのに十分な値である。得られた熱伝導率の評価結果を表3、表4に示した。
【0067】
(熱伝導性絶縁接着シートの引張剪断接着強度の評価)
得られた実施例1~18、比較例1~13の熱伝導性絶縁接着シートと銅板との間の、引張剪断接着強度を評価した。即ち、JIS K6850(1999)に準拠し、幅/長さが25mm/12.5mmの大きさに切り出した、実施例1~18、比較例1~13の各熱伝導性絶縁接着シートの両面を、幅/長さが25mm/100mm、厚みが1.0mmの銅板を、幅を揃えた上で接着部分の長さが12.5mmとなるよう挟み、圧力5MPa、加熱温度240℃、加熱時間5時間の条件で、真空加熱プレス接着し、剪断接着強度評価用の検体を作製した(前記JIS K6850(1999)記載の、図1 試験片(接着板)の形状及び寸法(1)を参照されたい)。引張剪断接着強度の測定装置としては、オートグラフ(装置名:AG-100kN、島津製作所社製)を用い、測定条件は、測定環境温度25℃、引張りクロスヘッドスピードは5.0mm/分とした。なお、実施例1の引張剪断接着強度は、2.0MPaであった。それ以外の実施例、比較例の引張剪断接着強度も表3、表4に示した。なお本評価で用いたような熱伝導性絶縁接着シートの引張剪断接着強度は、1.6MPa以上であれば、接着性が良好で実用的に良好な値であると判断される。また、接着しなかった検体については、便宜的に0の値を記入した。
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
実施例1~18と比較例1~13の対比から明らかなように、本発明の窒化物系セラミックス樹脂組成物を加工した熱伝導性絶縁接着シートを用いると、従来と同等の熱伝導率、絶縁破壊電圧、金属板との接着強度の諸特性を保ちながら、課題であったリフロー工程時の剥離が生じず、即ち耐熱信頼性が向上して、よりバランスに優れた特性を示していることが判る。