IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 四川科倫博泰生物医薬股▲フン▼有限公司の特許一覧

<>
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図1
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図2
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図3
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図4
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図5
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図6
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図7
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図8
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図9
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図10
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図11
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図12
  • 特許-組換え二重特異性抗体 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】組換え二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220926BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220926BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220926BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220926BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12P21/08
C07K16/46
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 T
A61K39/395 U
A61P35/00
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2019572582
(86)(22)【出願日】2018-08-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 CN2018100971
(87)【国際公開番号】W WO2019042153
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】201710781402.3
(32)【優先日】2017-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519006104
【氏名又は名称】四川科倫博泰生物医薬股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SICHUAN KELUN-BIOTECH BIOPHARMACEUTICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.666, Xinhua Avenue (Section 2), Hai Xia Industrial Park, Wenjiang District, Chengdu, Sichuan 611138, China
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】薛 ▲トン▼▲トン▼
(72)【発明者】
【氏名】肖 ▲亮▼
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 登念
(72)【発明者】
【氏名】▲龍▼ ▲虎▼
(72)【発明者】
【氏名】胡 江江
(72)【発明者】
【氏名】崔 ▲亜▼▲敏▼
(72)【発明者】
【氏名】袁 ▲曉▼曦
(72)【発明者】
【氏名】王 利春
(72)【発明者】
【氏名】王 晶翼
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/209804(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/136562(WO,A1)
【文献】MABS,2017年01月10日,Vol. 9, No. 2,P. 182-212
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00 - 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
UniProt/GeneSeq
C12N 15/13
C12P 21/08
C12N 15/63
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
A61K 39/395
A61P 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)第一抗原に特異的に結合する、重鎖(HC)および軽鎖(LC)を含む第一抗体、および
2)第二抗原に特異的に結合するscFv
を含む、二重特異性抗体であって、
前記scFvは、第一抗体の重鎖または軽鎖のN末端またはC末端に連結され、
前記第一抗原はCTLA-4であり、且つ前記第二抗原はPDL-1であり、或いは、前記第一抗原はPDL-1であり、且つ前記第二抗原はCTLA-4であり
記二重特異性抗体は、1つの前記第一抗体および2つの前記scFvを含み、また、前記第一抗体は2つのHCおよび2つのLCを含み、ここで、前記第一抗体の1つのHCのVH領域と1つのLCのVL領域とは、抗原結合部位を形成し、もう1つのHCのVH領域ともう1つのLCのVL領域とは、抗原結合部位を形成し、
1つの前記scFvは、前記第一抗体の重鎖または軽鎖のN末端に連結され、もう1つの前記scFvは、前記第一抗体の重鎖または軽鎖のC末端に連結され、または
前記各scFvは、それぞれ前記第一抗体の2つの重鎖または2つの軽鎖のN末端に連結され、又は、前記各scFvは、それぞれ前記第一抗体の2つの重鎖または2つの軽鎖のC末端に連結され、
PDL-1に特異的に結合する前記scFvは、1つのHCのVH領域に、配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3を含み、1つのLCのVL領域に、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含む、および
CTLA-4に特異的に結合する前記第一抗体は、配列番号13に記載のHCDR1、配列番号14に記載のHCDR2、配列番号15に記載のHCDR3を含み、1つのLCのVL領域に、配列番号16に記載のLCDR1、配列番号17に記載のLCDR2、および配列番号18に記載のLCDR3を含む、および/または
PDL-1に特異的に結合する前記第一抗体は、1つのHCのVH領域に、配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3を含み、1つのLCのVL領域に、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含む、および
CTLA-4に特異的に結合する前記scFvは、1つのHCのVH領域に、配列番号13に記載のHCDR1、配列番号14に記載のHCDR2、配列番号15に記載のHCDR3を含み、1つのLCのVL領域に、配列番号16に記載のLCDR1、配列番号17に記載のLCDR2、および配列番号18に記載のLCDR3を含む、
ことを特徴とする、二重特異性抗体。
【請求項2】
1)第一抗原に特異的に結合する、重鎖(HC)および軽鎖(LC)を含む第一抗体、および
2)第二抗原に特異的に結合するscFv
を含む、二重特異性抗体であって、
前記二重特異性抗体は、1つの前記第一抗体および2つの前記scFvを含み、また、前記第一抗体は2つのHCおよび2つのLCを含み、ここで、前記第一抗体の1つのHCのVHと1つのLCのVLとは、抗原結合部位を形成し、もう1つのHCのVHともう1つのLCのVLとは、抗原結合部位を形成し、
前記各scFvは、それぞれ前記第一抗体の2つの重鎖のN末端に連結され、又は、前記各scFvは、それぞれ前記第一抗体の2つの重鎖のC末端に連結され、
前記第一抗原はPDL-1であり、且つ前記第二抗原はCTLA-4であり
記各scFvは、それぞれリンカーS1を介して前記第一抗体の各重鎖のN末端またはC末端に連結され
記scFvのVHおよびVLは、リンカーS2を介して連結される
ことを特徴とする、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記scFvの構造は、NH-VL-S2-VH-COOHである
ことを特徴とする、請求項2に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記第一抗体の重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)を含み、且つ前記軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)を含み、
または、前記第一抗体は完全長抗体である
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記第一抗体はIgGアイソタイプであり、および/または、前記第一抗体の軽鎖はKappaアイソタイプである
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
前記第一抗体の2つのHCは同じCDRを含み、および/または前記第一抗体の2つのLCは同じCDRを含み
記第一抗体の2つのHCは同じVHを含み、および/または前記第一抗体の2つのLCは同じVLを含み
記第一抗体の2つのHCは同じアミノ酸配列を有し、および/または前記第一抗体の2つのLCは同じアミノ酸配列を有し
つの前記scFvは同じまたは異なるアミノ酸配列を有す
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
前記二重特異性抗体は、2つの第一ポリペプチド鎖および2つの第二ポリペプチド鎖を含み、前記ポリペプチド鎖のそれぞれについて:
a)前記第一ポリペプチド鎖は、それぞれ独立して、前記第一抗体の重鎖(HC)および前記scFvを含み、
b)前記第二ポリペプチド鎖は、それぞれ独立して、前記第一抗体の軽鎖(LC)を含み、
ここで、前記scFvは、リンカーS1を介して前記第一抗体のHCのN末端またはC末端に連結され;
或いは、
i)前記第一ポリペプチド鎖は、それぞれ独立して、前記第一抗体の軽鎖(LC)および前記scFvを含み、
ii)前記第二ポリペプチド鎖は、それぞれ独立して、前記第一抗体の重鎖(HC)を含み、
ここで、前記scFvは、リンカーS1を介して前記第一抗体のLCのN末端またはC末端に連結され
記scFvは、NH-VH-S2-VL-COOH又はNH-VL-S2-VH-COOHの構造を有し、ここで、前記S2はリンカーであり
記二重特異性抗体は、2つの同じ第一ポリペプチド鎖および2つの同じ第二ポリペプチド鎖を含む
ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記第一抗体の親抗体と比較して、同等または弱い第一抗原に対する結合活性を有し
記scFvの親抗体と比較して、同等または弱い第二抗原に対する結合活性を有し、または
前記第一抗体の親抗体と比較して同等または弱い第一抗原に対する結合活性を有し、且つ前記scFvの親抗体と比較して同等または弱い第二抗原に対する結合活性を有し、
または、前記第一抗体の親抗体と比較して同等の第一抗原に対する結合活性を有し、且つ前記scFvの親抗体と比較して弱い第二抗原に対する結合活性を有し、
または、PDL-1に結合する親抗体と比較して、同等の結合活性を有し、
または、CTLA-4に結合する親抗体と比較して、弱い結合活性を有し、
または、PDL-1に結合する親抗体と比較して同等の結合活性を有し、且つCTLA-4に結合する親抗体と比較して弱い結合活性を有する
ことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
前記リンカーS1および/またはS2は、ペプチドリンカーであり、
または、前記リンカーS1および/またはS2は、(GS)で示されるアミノ酸配列を有し、xは、独立して1~6の整数から選択され、
または、前記S1および/またはリンカーS2は、配列番号25、配列番号26、および配列番号27からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し、
または、前記リンカーS2は、配列番号25に記載のアミノ酸配列を有し、且つ前記scFvが前記第一抗体の重鎖または軽鎖のN末端に連結される場合、前記リンカーS1は、配列番号26に記載のアミノ酸配列を有し、前記scFvが前記第一抗体の重鎖または軽鎖のC末端に連結される場合、前記リンカーS1は、配列番号27に記載のアミノ酸配列を有する
ことを特徴とする、請求項2、3、7又は8のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
前記scFvのVHとVLとの間にジスルフィド結合があり
前記scFvにおけるVHの44番目のアミノ酸およびVLの100番目のアミノ酸は、それぞれシステインであり、ここで、前記アミノ酸位置は、Kabat番号付けシステムに基き、また、前記scFvにおけるVHとVLは、それぞれVHの44番目とVLの100番目に位置する2つのシステイン残基の間に形成されたジスルフィド結合によって連結される
ことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
前記第一抗体はCTLA-4に特異的に結合し、且つ前記scFvはPDL-1に特異的に結合し、
ここで、前記scFvは、配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含む
ことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
前記第一抗体はCTLA-4に特異的に結合し、且つ前記scFvはPDL-1に特異的に結合し、
ここで、前記第一抗体は、配列番号13に記載のHCDR1、配列番号14に記載のHCDR2、配列番号15に記載のHCDR3、配列番号16に記載のLCDR1、配列番号17に記載のLCDR2、および配列番号18に記載のLCDR3を含み、
且つ、前記scFvは、配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含む
ことを特徴とする、請求項11に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
前記scFvは、
(1)配列番号7に記載のVHおよび配列番号9に記載のVL;または
(2)配列番号8に記載のVHおよび配列番号10に記載のVL
を含む
ことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項14】
前記第一抗体は、配列番号19に記載のVHおよび配列番号21に記載のVLを含み、且つ前記scFvは、
(1)配列番号7に記載のVHおよび配列番号9に記載のVL;または
(2)配列番号8に記載のVHおよび配列番号10に記載のVL
を含む
ことを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項15】
前記第一抗体はPDL-1に特異的に結合し、且つ前記scFvはCTLA-4に特異的に結合し、
ここで、前記第一抗体は、配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含む
ことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項16】
前記第一抗体はPDL-1に特異的に結合し、且つ前記scFvはCTLA-4に特異的に結合し、
ここで、前記第一抗体は、配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含み、
且つ、前記scFvは、配列番号13に記載のHCDR1、配列番号14に記載のHCDR2、配列番号15に記載のHCDR3、配列番号16に記載のLCDR1、配列番号17に記載のLCDR2、および配列番号18に記載のLCDR3を含む
ことを特徴とする、請求項1~10、または15のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項17】
前記第一抗体は、配列番号7に記載のVHおよび配列番号9に記載のVLを含む
ことを特徴とする、請求項1~10、15または16のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項18】
前記第一抗体は、配列番号7に記載のVHおよび配列番号9に記載のVLを含み、
且つ前記scFvは、
(1)配列番号19に記載のVHおよび配列番号21に記載のVL、または
(2)配列番号20に記載のVHおよび配列番号22に記載のVL
を含む
ことを特徴とする、請求項1~10、15~17のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項19】
抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を有し、
および/または補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有し
記第一抗体のCHは突然変異を含み、前記突然変異を含む二重特異性抗体は、増強された抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を有し、および/または
前記第一抗体のCHは突然変異を含み、前記突然変異を含む二重特異性抗体は、増強された補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有する
ことを特徴とする、請求項1~18のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項20】
前記第一抗体は、配列番号33に記載されたCH、および/または配列番号34に記載されたCLを含み、
または、前記CHは、配列番号33に記載されたCHにおける117、118、120番目のアミノ酸がAに変異すること、又は配列番号33に記載されたCHにおける97番目のアミノ酸がRに変異することを含む
ことを特徴とする、請求項1~19のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項21】
前記二重特異性抗体は、
(1)配列番号28に記載の第一ポリペプチド鎖および配列番号11に記載の第二ポリペプチド鎖、または
(2)配列番号29に記載の第一ポリペプチド鎖および配列番号11に記載の第二ポリペプチド鎖
を含むことを特徴とする、請求項1~10または15~20のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項22】
親抗体と比較してほぼ同等の熱安定性を有する
ことを特徴とする、請求項1~21のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか一項に記載の二重特異性抗体をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子であって
求項1~22のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の第一ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含み
求項1~22のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む
ことを特徴とする、単離された核酸分子。
【請求項24】
請求項23に記載の単離された核酸分子を含むベクター。
【請求項25】
請求項23に記載の単離された核酸分子又は請求項24に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項26】
前記二重特異性抗体の発現を可能にする条件下で、請求項25に記載の宿主細胞を培養すること、および、培養した宿主細胞の培養物から前記二重特異性抗体を回収することを含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の二重特異性抗体を調製する方法。
【請求項27】
請求項1~22のいずれか一項に記載の二重特異性抗体、および薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含む医薬組成物であって、
TLA-4および/またはPDL-1関連疾患の予防および/または治療のための他の医薬活性剤をさらに含み、
前記CTLA-4および/またはPDL-1関連疾患は自己免疫疾患、腫瘍または感染性疾患であり、前記腫瘍は、癌、白血病、リンパ腫、黒色腫、肉腫などの腫瘍;または、副腎、胆嚢、骨、骨髄、脳、乳房、胆管、胃腸管、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、卵巣、膵臓、副甲状腺、陰茎、前立腺、皮膚、唾液腺、脾臓、睾丸、胸腺、甲状腺、および子宮に関連する腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない;前記感染性疾患は、B型肝炎、A型肝炎、およびHIVなどの感染症が挙げられるが、これらに限定されない
ことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項28】
被験者におけるCTLA-4および/またはPDL-1関連疾患の予防および/または治療、および/または生体外或いは被験者の生体内でのCTLA-4および/またはPDL-1の活性の阻害のための薬物の調製における、請求項1~22のいずれか一項に記載の二重特異性抗体または請求項27に記載の医薬組成物の使用であって
記CTLA-4および/またはPDL-1関連疾患は、自己免疫疾患、腫瘍または感染性疾患であり、前記腫瘍は、腺癌、白血病、リンパ腫、黒色腫、肉腫などの腫瘍;または、副腎、胆嚢、骨、骨髄、脳、乳房、胆管、胃腸管、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、卵巣、膵臓、副甲状腺、陰茎、前立腺、皮膚、唾液腺、脾臓、睾丸、胸腺、甲状腺、および子宮に関連する腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない前記感染性疾患は、B型肝炎、A型肝炎、およびHIVなどの感染症が挙げられるが、これらに限定されない
記被験者は、動又はヒトである
ことを特徴とする、請求項1~22のいずれか一項に記載の二重特異性抗体または請求項27に記載の医薬組成物の使用。
【請求項29】
前記第一抗体がIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4アイソタイプであり、および/または、前記第一抗体の軽鎖がヒトKappaアイソタイプである、請求項5に記載の二重特異性抗体。
【請求項30】
前記第一抗体がヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4アイソタイプであり、および/または、前記第一抗体の軽鎖がヒトKappaアイソタイプである、請求項5に記載の二重特異性抗体。
【請求項31】
前記リンカーS1および/またはS2は、(G で示されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカーであり、式中、m、nは、それぞれ独立して1~8の整数から選択され、xは、独立して1~20の整数から選択される、請求項9に記載の二重特異性抗体。
【請求項32】
前記他の医薬活性剤が薬物である、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記薬物が抗炎症薬または免疫抑制剤である、請求項32に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ医薬品分野、特にCTLA-4および/またはPDL-1に関連する疾病の予防および/または治療分野に関する。具体的に、本発明は、CTLA-4とPDL-1、またはPDL-1とCTLA-4に特異的に結合する二重特異性抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
PD-1/PDL-1シグナル伝達経路は、免疫寛容、微生物感染、および腫瘍の免疫回避を調節することに重要な役割を果たす。PD-1(programmed cell death 1,プログラム細胞死タンパク質1)は、主にT細胞などの免疫細胞で発現するが、PD-1リガンドであるPDL-1は、多くのヒト腫瘍組織で主に高発現を示す。免疫組織化学法により、乳癌、肺癌、胃癌、腸癌、食道癌、卵巣癌、子宮頸癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、神経膠腫、黒色腫などの多種のヒト腫瘍組織から、PDL-1タンパク質の発現が検出され、また、PDL-1の発現レベルは、患者の臨床症状および予後と密接に関連する。
【0003】
PD-1/PDL-1シグナル伝達経路を遮断すると、抑制されたT細胞を活性化し、がん細胞を攻撃することができる。PD-1/PDL-1シグナル伝達の遮断は、腫瘍抗原特異的T細胞の増殖を促進して腫瘍細胞を殺す役割を果たし得、それによって局所腫瘍の成長を阻害する(Julie R et al.,2012,N Engl J Med.366:2455-2465);PDL-1 mAbは、浸潤CD8+T細胞のIFN-γの分泌を上方制御し、PD-1/PDL-1シグナル伝達経路の遮断が免疫応答を誘導するための腫瘍免疫応答に役割を果たすことを示唆している(Blank C et al.,2006,Int.J.Cancer.119:317-327)。
【0004】
また、PDL-1は生体内でさらにB7-1に結合できる。PDL-1/B7-1複合体は、T細胞活性化に対する負のシグナルでもあることを示す研究があるが、この両者の結合は、T細胞表面活性化マーカーの発現低下やT細胞増殖の阻害などにつながる。
【0005】
細胞傷害性Tリンパ球関連抗原-4(cytotoxic T lymphocyte associated antigen-4、単に「CTLA-4」とも呼ばれる)およびCD28分子は、遺伝子構造、染色体位置、配列相同性および遺伝子発現の点で密接に関連し、いずれも共刺激分子B7の受容体であり、主に活性化T細胞の表面に発現される。CTLA-4は、B7に結合すると、マウスおよびヒトT細胞の活性化を阻害し、T細胞の活性化に負の調節の役割を果たす。
【0006】
現在、薬物規制当局は、CTLA-4を標的とするイピリムマブ(Ipilimumab、登録商標:Yervoy)、PD-1およびPDL-1を標的とするニボルマブ(Nivolumab、登録商標:Opdivo)、ペンブロリズマブ(Pembrolizumab、登録商標:Keytruda)、アテゾリズマブ(Atezolizumab、登録商標:Tecentriq)、デュルバルマブ(Durvalumab、登録商標:Imfinzi)などを承認した。
【0007】
イピリムマブ(登録商標:Yervoy)は、進行期黒色腫の治療薬としてFDAによって承認されたが、この抗体の注射液は、重篤ないし致命的な免疫介在性の副作用がある。これらの免疫介在性の副作用は、あらゆる臓器系に関与する可能性があるが、最も一般的な重篤な免疫介在性副作用として、小腸結腸炎、肝炎、皮膚炎(中毒性表皮壊死症を含む)、神経障害、および内分泌疾患が挙げられる。これらの免疫介在性応答のほとんどは、最初に治療の過程で現れるが、他の一部は、薬物中止後の数週間以内に発生する。重篤な免疫介在性反応が生じた場合、Yervoy(登録商標)は永久に中止され、同時に全身性の高用量糖質コルチコイド療法を開始するべきである。
【0008】
二重特異性抗体(BsAb)は、二重親和性のコンビナトリアル抗体の一種であり、通常、二価(四価および六価もある)、即ち2つの抗原結合アームを有し、2つの異なる抗原に特異的に結合する機能を有する。中国特許出願CN106967172Aは、抗CTLA-4-抗PD-1二機能性抗体、医薬組成物およびその使用を開示した。CN104987421Aは、PD-1および/またはCTLA-4に特異的に結合する二重可変ドメイン免疫グロブリンも開示している。同時に、2017年8月に、ブリストル・マイヤーズスクイブは、進行期腎がん(RCC)患者において、Opdivo/Yervoyの組み合わせを第一選択療法としてSUTENT(スニチニブ)と比較した第III相臨床試験CM214のトップレベルのデータを発表した。Opdivo/Yervoyの組み合わせの奏効率は41.6%、Sutentの奏効率は26.5%で、主要評価項目(primary endpoint)に達した。ただし、この組み合わせは、mPFSという主要評価項目(無増悪生存期間の中央値)を逃した(11.6vs8.4ヶ月、統計的有意性に達しなかった)。2017年7月に、アストラゼネカは、Mysticと呼ばれる第III相臨床試験における、PDL-1抗体であるDurvalumab(商品名Imfinzi)とCTLA-4抗体であるTremelimumabの組合せによる中間分析結果を発表した。この試験では、PDL-1>25%の第一選択NSCLC患者における、PFS(無増悪生存期間)とOS(全生存期間)に対するDurva/Tremeの組合せと標準化学療法の影響を比較した結果、この組合せはPFSを改善しないことを示した(試験の主要評価項目の1つ)。既知のデータは、デュルバルマブ単独でPFSを改善する可能性が非常に低いことを示した(試験の副次的評価項目の1つ)。
【0009】
このように、自己免疫疾患や腫瘍などの疾患に対して未だ満たされていないニーズがあり、より効果的で副作用の少ない新規治療法と医薬品を開発することが切実に求められる。
【発明の概要】
【0010】
本発明において、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、CTLA-4とPDL-1、またはPDL-1とCTLA-4を二重特異的に結合する二重特異性抗体、二重特異性抗体をコードする核酸分子、核酸分子を含むベクター、二重特異性抗体の調製方法、二重特異性抗体を含む医薬組成物、医薬品の調製への医薬組成物の使用、CTLA-4とPDL-1関連疾患(例えば、自己免疫疾患または腫瘍)の診断/治療/予防への二重特異性抗体の使用または方法、および二重特異性抗体を含むキットを開発した。
【0011】
二重特異性抗体
したがって、一態様では、本発明は、抗原PDL-1および抗原CTLA-4に同時に結合するタンパク質またはポリペプチドを含む二重特異性抗体を提供する。
【0012】
一部の好ましい実施形態では、前記二重特異性抗体は、
1)第一抗原に特異的に結合する、重鎖(HC)および軽鎖(LC)を含む第一抗体、および
2)重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む、第二抗原に特異的に結合する抗体断片(例えば、Fv、scFv、di-scFv)
を含み、
前記抗体断片は、第一抗体の重鎖または軽鎖のN末端またはC末端に連結され、
前記第一抗原はCTLA-4であり、且つ前記第二抗原はPDL-1であり、或いは、前記第一抗原はPDL-1であり、且つ前記第二抗原はCTLA-4である。
【0013】
一部の好ましい実施形態では、前記抗体断片はscFvである。
【0014】
一部の好ましい実施形態では、前記二重特異性抗体は、1つの前記第一抗体および2つの前記scFvを含み、また、前記第一抗体は2つのHCおよび2つのLCを含み、ここで、前記第一抗体の1つのHCの重鎖可変領域(VH)と前記第一抗体の1つのLCの軽鎖可変領域(VL)とは、抗原結合部位を形成し、もう1つのHCの重鎖可変領域(VH)およびもう1つのLCの軽鎖可変領域(VL)は、抗原結合部位を形成する。
【0015】
一部の好ましい実施形態では、前記各scFvは、それぞれ前記第一抗体の2つの重鎖または2つの軽鎖のN末端またはC末端に連結される。
【0016】
一部の好ましい実施形態では、前記各scFvは、それぞれ前記第一抗体の2つの重鎖のN末端に連結される。一部の好ましい実施形態では、前記各scFvは、それぞれ前記第一抗体の2つの重鎖のC末端に連結される。一部の好ましい実施形態では、前記第一抗原はPDL-1であり、前記第二抗原はCTLA-4であり、且つ前記第二抗原に結合するscFvは、前記第一抗体の2つの重鎖のC末端に連結される。
【0017】
一部の好ましい実施形態では、前記各scFvは、それぞれ前記第一抗体の2つの軽鎖のN末端に連結される。一部の好ましい実施形態では、前記各scFvは、それぞれ前記第一抗体の2つの軽鎖のC末端に連結される。
【0018】
一部の好ましい実施形態では、1つの前記scFvは、前記第一抗体の重鎖または軽鎖のN末端に連結され、もう1つの前記scFvは、前記第一抗体の重鎖または軽鎖のC末端に連結される。
【0019】
一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、
1)第一抗原に特異的に結合する、重鎖(HC)および軽鎖(LC)を含む第一抗体、および
2)第二抗原に特異的に結合するscFv
を含む。
前記二重特異性抗体は、1つの前記第一抗体および2つの前記scFvを含み、また、前記第一抗体は2つのHCおよび2つのLCを含み、ここで、前記第一抗体の1つのHCのVHと前記第一抗体の1つのLCのVLとは、抗原結合部位を形成し、もう1つのHCのVHともう1つのLCのVLとは、抗原結合部位を形成する。前記各scFvは、それぞれ前記第一抗体の2つの重鎖のN末端に連結され、または、前記各scFvは、それぞれ前記第一抗体の2つの重鎖のC末端に連結される。前記第一抗原はPDL-1であり、前記第二抗原はCTLA-4である。一部の好ましい実施形態では、前記各scFvは、それぞれリンカーS1を介して前記第一抗体の各重鎖のN末端またはC末端に連結される。一部の好ましい実施形態では、前記scFvのVHおよびVLは、リンカーS2を介して連結される。一部の好ましい実施形態では、scFvの構造はNH-VL-S2-VH-COOHであり、前記S2はリンカーである。
【0020】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の重鎖は、重鎖可変領域(VH)およびCH1ドメインを含み、前記軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)を含む。このような実施形態では、前記第一抗体は、Fab断片、Fab’断片またはF(ab’)2断片であっても良い。一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の重鎖は、重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)を含み、前記軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)を含む。このような実施形態では、前記第一抗体は完全長抗体であっても良い。
【0021】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の重鎖は、例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4などのIgGアイソタイプであり、好ましくは、ヒトIgGアイソタイプである。一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の重鎖はヒトIgG1アイソタイプである。一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の軽鎖はKappaアイソタイプ、好ましくはヒトKappaアイソタイプである。
【0022】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の2つのHCは同じCDRを含み、および/または前記第一抗体の2つのLCは同じCDRを含む。
【0023】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の2つのHCは同じVHを含み、および/または前記第一抗体の2つのLCは同じVLを含む。
【0024】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の2つのHCは同じアミノ酸配列を有し、および/または前記第一抗体の2つのLCは同じアミノ酸配列を有する。
【0025】
一部の好ましい実施形態では、2つの前記scFvは同じまたは異なるアミノ酸配列を有する。一部の好ましい実施形態では、2つの前記scFvは同じアミノ酸配列を有する。
【0026】
一部の好ましい実施形態では、前記二重特異性抗体は、2つの第一ポリペプチド鎖および2つの第二ポリペプチド鎖を含み、前記ポリペプチド鎖のそれぞれについて
a)前記第一ポリペプチド鎖は、それぞれ独立して、前記第一抗体の重鎖(HC)および前記scFvを含み、
b)前記第二ポリペプチド鎖は、それぞれ独立して、前記第一抗体の軽鎖(LC)を含み、
ここで、前記scFvは、リンカーS1を介して前記第一抗体のHCのN末端またはC末端に連結される。
【0027】
一部の好ましい実施形態では、前記二重特異性抗体は、2つの第一ポリペプチド鎖および2つの第二ポリペプチド鎖を含み、ポリペプチド鎖のそれぞれについて:
i)前記第一ポリペプチド鎖は、それぞれ独立して、前記第一抗体の軽鎖(LC)および前記scFvを含み、
ii)前記第二ポリペプチド鎖は、それぞれ独立して、前記第一抗体の重鎖(HC)を含み、
ここで、前記scFvは、リンカーS1を介して前記第一抗体のLCのN末端またはC末端に連結される。
【0028】
一部の好ましい実施形態では、前記scFvのN末端またはC末端は、リンカーS1のC末端またはN末端に連結される。
【0029】
一部の好ましい実施形態では、前記scFvは、NH-VH-S2-VL-COOH又はNH-VL-S2-VH-COOHという構造があり、前記S2はリンカーである。
【0030】
一部の好ましい実施形態では、前記リンカーS1および/またはリンカーS2は、例えば、(Gに示されるアミノ酸配列を有するペプチドリンカーであり、式中、m、nは、それぞれ独立して1~8の整数(例えば、1、2、3、4、5、6、7または8)から選択され、xは、独立して1~20の整数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20)から選択される。一部の好ましい実施形態では、前記リンカーS1および/またはS2は、(GS)に示されるアミノ酸配列を有し、xは、独立して1~6の整数から選択される。
【0031】
一部の好ましい実施形態では、前記リンカーS1および/またはリンカーS2は、配列番号25、配列番号26、および配列番号27からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0032】
一部の好ましい実施形態では、前記リンカーS2は、(GS)に示されるアミノ酸配列、すなわちGGGGSGGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号25)を有する。一部の好ましい実施形態では、前記scFvが前記第一抗体の重鎖または軽鎖のN末端に連結される場合、前記リンカーS1は、(GS)に示されるアミノ酸配列、すなわちGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号26)を有し;前記scFvが前記第一抗体の重鎖または軽鎖のC末端に連結される場合、前記リンカーS1は、(GS)に示されるアミノ酸配列、すなわちGGGGSGGGGS(配列番号27)を有する。
【0033】
一部の好ましい実施形態では、前記scFvのVHとVLとの間にジスルフィド結合がある。抗体のVHとVLの間にジスルフィド結合を導入する方法は、当技術分野で周知であり、例えば、米国特許出願US5,747,654;Rajagopalら、Prot.Engin.10(1997)1453-1459;Reiterら、Nature Biotechnology 14(1996)1239-1245;Reiterら、Protein Engineering 8(1995)1323-1331;Webberら、Molecular Immunology 32(1995)249-258;Reiterら、Immunity 2(1995)281-287;Reiterら、JBC 269(1994)18327-18331;Reiterら、Inter.J.of Cancer 58(1994)142-149;または、Reiterら、Cancer Res.54(1994)2714-2718を参照して、引用により本明細書に組み込まれる。
【0034】
一部の好ましい実施形態では、前記scFvにおけるVHの44番目のアミノ酸およびVLの100番目のアミノ酸は、それぞれシステインであり、前記アミノ酸位置は、Kabat番号付けシステムに基き、また、前記scFvにおけるVHとVLは、それぞれVHの44番目とVLの100番目に位置する2つのシステイン残基の間に形成されたジスルフィド結合によって連結される。
【0035】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体はCTLA-4に特異的に結合し、前記scFvはPDL-1に特異的に結合する。ここで、前記scFvは、配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含む。
【0036】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体はCTLA-4に特異的に結合し、前記scFvはPDL-1に特異的に結合する。
ここで、前記第一抗体は、配列番号13に記載のHCDR1、配列番号14に記載のHCDR2、配列番号15に記載のHCDR3、配列番号16に記載のLCDR1、配列番号17に記載のLCDR2、および配列番号18に記載のLCDR3を含み、
および/または、
前記scFvは、配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含む。
【0037】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体は、配列番号13に記載のHCDR1、配列番号14に記載のHCDR2、配列番号15に記載のHCDR3、配列番号16に記載のLCDR1、配列番号17に記載のLCDR2、配列番号18に記載のLCDR3を含み、且つ前記scFvは、配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含む。
【0038】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列は、配列番号19に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有し;また、前記第一抗体の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列は、配列番号21に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有し;また、前記scFvの重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列は、配列番号7または配列番号8に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有し;さらに、前記scFvの軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列は、配列番号9または配列番号10に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有する。
【0039】
一部の好ましい実施形態では、前記scFvの重鎖可変領域は、配列番号7に記載の重鎖可変領域から選択され、前記scFvの軽鎖可変領域は、配列番号9に記載の軽鎖可変領域から選択される。
【0040】
一部の好ましい実施形態では、前記scFvの重鎖可変領域は、配列番号8に記載の重鎖可変領域から選択され、前記scFvの軽鎖可変領域は、配列番号10に記載の軽鎖可変領域から選択される。
【0041】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の重鎖可変領域は、配列番号19に記載の重鎖可変領域から選択され;前記第一抗体の軽鎖可変領域は、配列番号21に記載の軽鎖可変領域から選択され;前記scFvの重鎖可変領域は、配列番号7に記載の重鎖可変領域から選択され;前記scFvの軽鎖可変領域は、配列番号9に記載の軽鎖可変領域から選択される。
【0042】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の重鎖可変領域は、配列番号19に記載の重鎖可変領域から選択され;前記第一抗体の軽鎖可変領域は、配列番号21に記載の軽鎖可変領域から選択され;前記scFvの重鎖可変領域は、配列番号8に記載の重鎖可変領域から選択され;前記scFvの軽鎖可変領域は、配列番号10に記載の軽鎖可変領域から選択される。
【0043】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体は、配列番号19に記載のVHおよび配列番号21に記載のVLを含み、
また、前記scFvは、
(1)配列番号7に記載のVHおよび配列番号9に記載のVL;または
(2)配列番号8に記載のVHおよび配列番号10に記載のVL
を含む。
【0044】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体はPDL-1に特異的に結合し、前記scFvはCTLA-4に特異的に結合し、
前記第一抗体は、(a)配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含み、
および/または、
前記scFvは、配列番号13に記載のHCDR1、配列番号14に記載のHCDR2、配列番号15に記載のHCDR3、配列番号16に記載のLCDR1、配列番号17に記載のLCDR2、および配列番号18に記載のLCDR3を含む。
【0045】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体はPDL-1に特異的に結合し、前記scFvはCTLA-4に特異的に結合し、前記第一抗体は、配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、および配列番号6に記載のLCDR3を含む。
【0046】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体は、配列番号1に記載のHCDR1、配列番号2に記載のHCDR2、配列番号3に記載のHCDR3、配列番号4に記載のLCDR1、配列番号5に記載のLCDR2、配列番号6に記載のLCDR3を含み;且つ前記scFvは、配列番号13に記載のHCDR1、配列番号14に記載のHCDR2、配列番号15に記載のHCDR3、配列番号16に記載のLCDR1、配列番号17に記載のLCDR2、および配列番号18に記載のLCDR3を含む。
【0047】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列は、配列番号7に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有し;また、前記第一抗体の軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列は、配列番号9に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有し;また、前記scFvの重鎖可変領域(VH)のアミノ酸配列は、配列番号19または20に記載の重鎖可変領域のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有し;また、前記scFvの軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列は、配列番号21または22に記載の軽鎖可変領域のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。
【0048】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の重鎖可変領域は、配列番号7に記載の重鎖可変領域から選択され、且つ前記第一抗体の軽鎖可変領域は、配列番号9に記載の軽鎖可変領域から選択される。
【0049】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の重鎖可変領域は、配列番号7に記載の重鎖可変領域から選択され、且つ前記第一抗体の軽鎖可変領域は、配列番号9に記載の軽鎖可変領域から選択され、また、前記scFvの重鎖可変領域は、配列番号19に記載の重鎖可変領域から選択され、且つ前記scFvの軽鎖可変領域は、配列番号21に記載の軽鎖可変領域から選択される。
【0050】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体の重鎖可変領域は、配列番号7に記載の重鎖可変領域から選択され、且つ前記第一抗体の軽鎖可変領域は、配列番号9に記載の軽鎖可変領域から選択され、また、前記scFvの重鎖可変領域は、配列番号20に記載の重鎖可変領域から選択され、且つ前記scFvの軽鎖可変領域は、配列番号22に記載の軽鎖可変領域から選択される。
【0051】
一部の好ましい実施形態では、前記第一抗体は、配列番号7に記載のVHおよび配列番号9に記載のVLを含み、
また、前記scFvは、
(1)配列番号19に記載のVHおよび配列番号21に記載のVL、または
(2)配列番号20に記載のVHおよび配列番号22に記載のVL
を含む。
【0052】
一部の好ましい実施形態では、前記二重特異性抗体は、2つの同じ第一ポリペプチド鎖および2つの同じ第二ポリペプチド鎖を含む。
【0053】
一部の好ましい実施形態では、前記第一ポリペプチド鎖は、配列番号28および29のいずれか1つに記載のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有し、および/または前記第二ポリペプチド鎖は、配列番号11および23のいずれか1つに記載のアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を有する。
【0054】
一部の好ましい実施形態では、前記二重特異性抗体は、
(1)配列番号28に記載の第一ポリペプチド鎖および配列番号11に記載の第二ポリペプチド鎖、
(2)配列番号29に記載の第一ポリペプチド鎖および配列番号11に記載の第二ポリペプチド鎖、
(3)配列番号28に記載の第一ポリペプチド鎖および配列番号23に記載の第二ポリペプチド鎖、
(4)配列番号29に記載の第一ポリペプチド鎖および配列番号23に記載の第二ポリペプチド鎖
を含む。
【0055】
一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体における前記第一抗体は、UniProt登録番号P01857に示されるCH、および/またはUniProt登録番号P01834に示されるCLを含む。必要に応じて、前記CHは、さらに、UniProt登録番号P01857に示されるCHにおける117、118、120番目のアミノ酸がAに変異すること、又はUniProt登録番号P01857に示されるCHにおける97番目のアミノ酸がRに変異することを含んでもよい。
【0056】
一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を有し、且つ補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、増強された抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性、および/または増強された補体依存性細胞傷害(CDC)活性を有する。一部の好ましい実施形態では、前記増強されたADCCおよび/またはCDC活性は、二重特異性抗体の第一抗体のCHの突然変異によるものである。
【0057】
別の側面として、本発明の二重特異性抗体は、前記第一抗体の親抗体と比較して同等または弱い第一抗原に対する結合活性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、前記scFvの親抗体と比較して同等または弱い第二抗原に対する結合活性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、前記第一抗体の親抗体と比較して同等または弱い第一抗原に対する結合活性を有し、且つ前記scFvの親抗体と比較して同等または弱い第二抗原に対する結合活性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、前記第一抗体の親抗体と比較して同等の第一抗原に対する結合活性を有し、且つ前記scFvの親抗体と比較して弱い第二抗原に対する結合活性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、PDL-1に結合する親抗体と比較して同等の結合活性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、CTLA-4に結合する親抗体と比較して弱い結合活性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、PDL-1に結合する親抗体と比較して同等の結合活性を有し、且つCTLA-4に結合する親抗体と比較して弱い結合活性を有する。
【0058】
別の側面として、本発明の二重特異性抗体は、CTLA-4およびPDL-1に対して親和性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、CTLA-4およびPDL-1に対して、それぞれの親抗体と比較して同等の親和性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、PDL-1に対して、その親抗体と比較して同等の親和性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、CTLA-4に対して、その親抗体と比較して同等の親和性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、CTLA-4に対して、その親抗体と比較して弱い親和性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、PDL-1に対して、その親抗体と比較して同等の親和性を有し、且つCTLA-4に対して、その親抗体と比較して弱い親和性を有する。
【0059】
別の側面として、本発明の二重特異性抗体は、良好な熱安定性を有する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、親抗体と比較してほぼ同等の親和性を有する。
【0060】
二重特異性抗体の発現
別の側面として、本発明は、本発明の二重特異性抗体をコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子を提供する。一部の好ましい実施形態では、前記単離された核酸分子は、本発明の二重特異性抗体をコードする。
【0061】
一部の好ましい実施形態では、前記単離された核酸分子は、本発明の第一ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む。一部の好ましい実施形態では、前記単離された核酸分子は、本発明の第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む。一部の好ましい実施形態では、前記単離された核酸分子は、本発明の第一ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列、および本発明の第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0062】
別の側面として、本発明は、本発明の単離された核酸分子を含むベクター(例えば、クローニングベクターまたは発現ベクター)を提供する。
【0063】
一部の好ましい実施形態では、前記ベクターは、本発明の第一ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む。一部の好ましい実施形態では、前記ベクターは、本発明の第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む。一部の好ましい実施形態では、前記ベクターは、本発明の第一ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列、および本発明の第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0064】
一部の好ましい実施形態では、本発明のベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ファージなどである。一部の好ましい実施形態では、前記ベクターは、被験者の生体内(例えば、哺乳動物、例えば、ヒト)で本発明の二重特異性抗体、第一ポリペプチド鎖または第二ポリペプチド鎖を発現することができる。
【0065】
別の側面として、本発明は、本発明の単離された核酸分子または本発明のベクターを含む宿主細胞を提供する。このような宿主細胞には、大腸菌細胞などの原核細胞、酵母菌細胞、昆虫細胞、植物細胞、および動物細胞(例えば、マウス細胞、ヒト細胞などの哺乳動物細胞)などの真核細胞が含まれるが、これらに限定されない。一部の好ましい実施形態では、本発明の宿主細胞は、例えば、CHO(例えば、CHO-K1、CHO-S、CHO DG44)またはHEK293などの哺乳動物細胞である。
【0066】
別の側面として、本発明は、二重特異性抗体の発現を可能にする条件下で本発明の宿主細胞を培養すること、および、培養した宿主細胞の培養物から前記二重特異性抗体を回収することを含む、本発明の二重特異性抗体を調製する方法を提供する。
【0067】
一部の好ましい実施形態では、前記方法は、以下の(1)~(4)を含む。
(1)第一ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列および第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを構築する。または、第一ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む第一発現ベクター、および第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む第二発現ベクターを構築する。
(2)工程(1)に記載の発現ベクターを宿主細胞に導入する。または、工程(1)に記載の第一発現ベクターおよび第二発現ベクターを宿主細胞に導入する。
(3)本発明の二重特異性抗体の発現を可能にする条件下で、工程(2)に記載の宿主細胞を培養する。
(4)培養した宿主細胞の培養物から前記二重特異性抗体を回収する。
【0068】
治療方法および医薬組成物
本発明の二重特異性抗体は、生体外または被験者の体内でCTLA-4活性およびPDL-1活性を阻害すること、CTLA-4および/またはPDL-1シグナル伝達経路を遮断すること、ならびに、CTLA-4および/またはPDL-1関連疾患(例えば、自己免疫疾患、腫瘍または感染症)を予防および/または治療することに用いられる。
【0069】
したがって、別の側面として、本発明は、本発明の二重特異性抗体、および薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含む医薬組成物を提供する。一部の好ましい実施形態では、前記医薬組成物は、他の医薬活性剤を含んでも良い。一部の好ましい実施形態では、前記他の医薬活性剤は、例えば、抗炎症薬または免疫抑制薬などのCTLA-4および/またはPDL-1関連疾患(例えば、自己免疫疾患または腫瘍または感染症)の予防および/または治療のための薬物であり、例えば、非ステロイド性抗炎症薬(例えばイブプロフェン、ジクロフェナク、ナプロキセン、インドメタシン、ピロキシカム、メロキシカム、ナブメトン、またはニメスリド)、ステロイド系抗炎症薬(例えばプレドニゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン)、炎症性サイトカインの抗体またはアンタゴニストである。
【0070】
別の側面として、本発明は、被験者(例えば、ヒト)におけるCTLA-4および/またはPDL-1関連疾患(自己免疫疾患、腫瘍または感染症)の予防および/または治療、および/または生体外或いは被験者(例えば、ヒト)の生体内でCTLA-4および/またはPDL-1の活性の阻害のための薬物の調製への、本発明の二重特異性抗体または本発明の医薬組成物の使用を提供する。
【0071】
別の側面として、本発明は、必要とする被験者に有効量の二重特異性抗体または本発明の医薬組成物を投与することを含む、被験者(例えば、ヒト)におけるCTLA-4および/またはPDL-1関連疾患(例えば、自己免疫疾患、腫瘍または感染症)を予防および/または治療する方法、および/または生体外或いは被験者(例えば、ヒト)の生体内でCTLA-4および/またはPDL-1の活性を阻害する方法を提供する。
【0072】
本発明において、前記CTLA-4および/またはPDL-1関連疾患には、例えば、腺癌、白血病、リンパ腫、黒色腫、肉腫などの腫瘍;または、副腎、胆嚢、骨、骨髄、脳、乳房、胆管、胃腸管、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、卵巣、膵臓、副甲状腺、陰茎、前立腺、皮膚、唾液腺、脾臓、睾丸、胸腺、甲状腺、および子宮に関連する腫瘍;B型肝炎、A型肝炎、およびHIVなどの感染症;などの自己免疫疾患、腫瘍または感染性疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
本発明の二重特異性抗体または本発明の医薬組成物は、例えば、錠剤、丸剤、懸濁液、乳剤、溶液、ゲル剤、カプセル、粉末剤、顆粒剤、エリキシル剤、トローチ剤、坐剤、注射剤(注射液、注射用滅菌粉末、注射用濃縮液を含む)、吸入剤、スプレー剤などの医療分野で知られている任意の剤形に製剤化することができる。好ましい剤形は、所望の投与経路および治療用途に依存する。本発明の医薬組成物は、滅菌されたもので、且つ製造および貯蔵の条件下で安定でなければならない。好ましい製剤の1つは注射剤である。このような注射剤は、滅菌された注射液であっても良い。滅菌注射液は、例えば、適切な溶媒に必要量の本発明の二重特異性抗体を混入し、さらに、任意に、他の所望の成分(pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、等張剤、防腐剤、希釈剤、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない)を混入した後、濾過して滅菌することにより、調製される。さらに、滅菌注射液は、保存および使用を容易にするために、滅菌凍結乾燥粉末剤として(例えば、真空乾燥または凍結乾燥により)調製される。このような無菌凍結乾燥粉末は、使用前に、例えば発熱物質を含まない滅菌水のような適切な媒介体に分散させることができる。
【0074】
さらに、本発明の二重特異性抗体は、投与を容易にするために、単位剤形として医薬組成物に存在してもよい。一部の実施形態では、単位投与量は、少なくとも1mg、少なくとも2mg、少なくとも3mg、少なくとも4mg、少なくとも5mg、少なくとも6mg、少なくとも7mg、少なくとも8mg、少なくとも9mg、少なくとも10mg、少なくとも15mg、少なくとも20mg、少なくとも25mg、少なくとも30mg、少なくとも45mg、少なくとも50mg、少なくとも75mg、または少なくとも100mgである。前記医薬組成物は、液剤(例えば、注射剤)の場合、少なくとも0.1mg/ml、少なくとも0.25mg/ml、少なくとも0.5mg/ml、少なくとも1mg/ml、少なくとも2.5mg/ml、少なくとも5mg/ml、少なくとも8mg/ml、少なくとも10mg/ml、少なくとも15mg/ml、少なくとも25mg/ml、少なくとも50mg/ml、少なくとも75mg/ml、または少なくとも100mg/mlの濃度の本発明の二重特異性抗体を含むことができる。
【0075】
本発明の二重特異性抗体または医薬組成物は、経口、口腔内、舌下、眼、局所、非経口、直腸、くも膜下腔、大槽内(intracisternal)、鼠径部、膀胱内、局所(例えば、粉末、軟膏または点滴剤)、または鼻腔内の経路を含む当技術分野で公知の任意の適切な方法によって投与することができるが、これらに限定されない。しかしながら、多くの治療用途において、好ましい投与経路/方式は、非経口投与(例えば、静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射)である。当業者は、投与経路および/または方式が所望の目的に応じて変更することを理解すべきである。好ましい一実施形態では、本発明の二重特異性抗体または医薬組成物は、静脈内注入または注射によって投与される。
【0076】
本発明により提供される薬物、医薬組成物または二重特異性抗体は、単独でまたは組み合わせて使用してもよく、他の医薬活性剤(例えば、自己免疫疾患、腫瘍または感染症のための薬剤)と組み合わせて使用してもよい。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、CTLA-4および/またはPDL-1関連疾患(例えば、自己免疫疾患、腫瘍または感染症)を予防および/または治療するために、他の抗炎症薬または免疫抑制薬と組み合わせて使用される。このような他の医薬活性剤は、本発明の二重特異性抗体または本発明の医薬組成物の投与の前/同時/後に投与しても良い。
【0077】
本発明の医薬組成物は、「治療有効量」または「予防有効量」の本発明の二重特異性抗体を含んでもよい。「予防有効量」とは、疾患(例えば、CTLA-4および/またはPDL-1関連疾患)を予防、抑制、または遅延させるための十分な量を意味する。「治療有効量」とは、すでに疾患を患っている患者の疾患およびその合併症を治癒または少なくとも部分的に抑制するための十分な量を意味する。本発明の二重特異性抗体の治療有効量は、治療する疾患の重症度、患者自身の免疫系の全体的な状態、年齢や体重や性別などの患者の一般的な状態、薬物の投与方法、および同時に実施するその他の治療法などの要因に応じて変更しても良い。
【0078】
本発明において、投与レジメンは、最適な目的応答(例えば、治療または予防の応答)を達成するように調整しても良い。例えば、単回投与してもよく、一定期間にわたって複数回投与してもよく、或いは、治療の緊急性に応じて用量を比例的に減少または増加させてもよい。
【0079】
本発明の二重特異性抗体の治療有効量または予防有効量の典型的な非限定的な範囲は、0.02~50mg/kgであり、例えば0.1~50mg/kg、0.1~25mg/kg、または1~10mg/kgである。投与量は、治療を必要とする病状の種類と重症度に応じて変更してもよいことに注意する必要がある。さらに、当業者は、特定の患者については、患者のニーズと医師の専門的評価に従って、特定の投与レジメンを経時的に調整する必要があることを理解すべきである。ここで、用量の範囲は、目的の例示のみに使用され、本発明の医薬組成物の使用または範囲を限定するものではない。
【0080】
本発明において、前記被験者は、ヒトなどの哺乳動物であっても良い。
【0081】
検出/診断方法及びキット
本発明の二重特異性抗体は、CTLA-4および/またはPDL-1に特異的に結合することができるため、サンプルにおけるCTLA-4および/またはPDL-1の存在またはそれらのレベルを検出すること、および被験者がCTLA-4および/またはPDL-1関連疾患(例えば、自己免疫疾患、腫瘍または感染症)に罹患するかどうかを診断することに使用することができる。
【0082】
したがって、別の側面として、本発明は、本発明の二重特異性抗体を含むキットを提供する。一部の好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、検出可能な標識を有する。一部の好ましい実施形態では、前記キットは、本発明の二重特異性抗体の第一抗体またはscFvを特異的に認識する第二抗体をさらに含む。好ましくは、前記第二抗体は、検出可能な標識をさらに含む。
【0083】
本発明において、検出可能な標識は、蛍光、分光、光化学、生化学、免疫学、電気、光学または化学的手段によって検出可能な任意の物質であり得る。このような標識が免疫学的検出(例えば、酵素結合免疫吸着測定法、放射免疫測定法、蛍光免疫測定法、化学発光免疫測定法など)に適していることは、特に好ましい。このような標識は、当技術分野で周知であり、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ウレアーゼ、グルコースオキシダーゼなど)、放射性核種(例えば、H、125I、35S、14Cまたは32P)、蛍光色素(フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセイン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、フィコエリトリン(PE)、テキサスレッド、ローダミン、量子ドット、またはシアニン系染料誘導体(例えば、Cy7、Alexa 750))、アクリジンエステル化合物、磁気ビーズ(例えば、Dynabeads登録商標)、金コロイドまたは着色ガラスやプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)のビーズのような温度測定標識物、および上記標識物で修飾されたアビジンに結合するビオチン(例えば、ストレプトアビジン)が挙げられるが、これらに限定されない。これらのような標識物の使用を教示する特許として、米国特許第3,817,837、3,850,752、3,939,350、3,996,345、4,277,437、4,275,149、及び4,366,241号(それぞれ参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明に含まれる標識物は、当分野で公知の方法によって検出することができる。例えば、放射性標識は、写真フィルム又はシンチレーションカウンターによって検出することができる。蛍光標識物は、放射光を検出するように、光検出器によって検出することができる。酵素標識物は、通常、酵素に基質を提供し、且つ基質に対する酵素の作用による反応生成物を検出することで、検出される。特定の実施形態において、上記の検出可能な標識は、潜在的な立体障害を低減するために、長さを変えるリンカーによって本発明の二重特異性抗体に結合することができる。また、温度測定標識物は、単に色付き標識物を視覚化することにより検出される。一部の実施形態において、上記のような検出可能な標識は、潜在的な立体障害を低減するために、異なる長さのリンカーによって本発明の二重特異性抗体に連結することができる。
【0084】
別の側面として、本発明は、本発明の二重特異性抗体を使用する工程を含む、サンプルにおけるCTLA-4および/またはPDL-1の存在またはそれらのレベルを検出する方法を提供する。好ましい実施形態において、本発明の二重特異性抗体は、さらに検出可能な標識を有する。別の好ましい実施形態において、前記方法は、さらに、検出可能な標識を有する薬剤を使用して本発明の二重特異性抗体断片を検出することを含む。この方法は、診断目的または非診断目的(例えば、前記サンプルは、患者由来の試料ではなく、細胞サンプルである)のために使用される。
【0085】
別の側面として、本発明は、本発明の二重特異性抗体を使用して被験者由来のサンプルにおけるCTLA-4および/またはPDL-1の存在またはそれらのレベルを検出することを含む、被験者がCTLA-4および/またはPDL-1関連疾患(自己免疫疾患、腫瘍または感染症)に罹患するかどうかを診断する方法を提供する。好ましい実施形態において、本発明の二重特異性抗体は、さらに検出可能な標識を有する。別の好ましい実施形態において、この方法は、検出可能な標識を有する薬剤を使用して本発明の二重特異性抗体を検出する工程をさらに含む。
【0086】
別の側面として、本発明は、キットの調製における本発明の二重特異性抗体の使用を提供する。このキットは、サンプルにおけるCTLA-4および/またはPDL-1の存在またはそれらのレベルを検出すること、または被験者がCTLA-4および/またはPDL-1関連疾患(例えば、自己免疫疾患、腫瘍または感染症)に罹患するかどうかを診断することに使用する。
【0087】
定義と用語
本発明において、特に明記しない限り、本明細書で使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらに、本明細書で使用される細胞培養、生化学、核酸化学、免疫学的実験などの操作手順は、いずれも対応する分野でよく使用されている従来の手順である。また、本発明をより良く理解するために、関連用語の定義および説明を以下に提供する。
【0088】
本明細書において、「PDL-1」は、「プログラム死亡リガンド1(Programmed death-ligand 1)」、「プログラム細胞死リガンド1(Programmed cell death ligand 1)」、「タンパク質PD-L1」、「PD-L1」、「PDL1」、「PDCDL1」、「hPD-L1」、「hPD-LI」、「CD274」及び「B7-H1」とも呼ばれる。これらの用語は互換可能に使用される。
【0089】
本明細書で使用される「抗体」という用語とは、一般的に2組のポリペプチド鎖(各組が1つの軽鎖(LC)および1つの重鎖(HC)を有する)で構成される免疫グロブリン分子を指す。抗体の軽鎖は、κ(kappa)軽鎖およびλ(lambda)軽鎖に分類される。重鎖はμ、δ、γ、α、またはεに分類され、抗体アイソタイプは、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとして定義される。軽鎖および重鎖において、可変領域と定常領域は、約12つ以上のアミノ酸の「J」領域を介して結合され、重鎖は、約3つ以上のアミノ酸の「D」領域をさらに含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)と重鎖定常領域(CH)で構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン(CH1、CH2、CH3)で構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)で構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメインであるCLで構成される。抗体の定常領域は、免疫系の各種の細胞(例えば、エフェクター細胞)と古典的な補体系の第一成分(C1q)との結合を含む、宿主組織または因子と免疫グロブリンとの結合を媒介する。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在する、高い可変性を有する領域(相補性決定領域(CDR)と呼ばれる)にさらに細分化できる。それぞれのVおよびVは、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序でアミノ末端からカルボキシ末端まで配置された3つのCDRと4つのFRで構成される。それぞれの重鎖/軽鎖組の可変領域(VHおよびVL)は、それぞれ抗原結合部位を形成する。それぞれの領域またはドメインへのアミノ酸の割り当ては、Kabat,Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987 and 1991))、またはChothia&Lesk(1987)J.Mol.Biol.196:901-917;Chothiaら(1989)Nature 342:878-883の定義に従う。
【0090】
本明細書で使用される「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、一般的に軽鎖可変領域における残基24~34{LCDR1}、50~56{LCDR2}、89~97{LCDR3}、および重鎖可変領域における残基31~35{HCDR1}、50~65{HCDR2}、95~102{HCDR3}(例えば、Kabat et al.,Sequences of Proteins of lmmunological lnterest,Fifth Edition,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Maryland (1991)を参照する)、或いは、軽鎖可変領域における残基26~32{Ll}、50~52{L2}、91~96{L3}および重鎖可変領域における残基26~32{H1}、53~55{H2}、96~101{H3}(Chothia and Lesk J.Mol.Biol.196:901-917(1987)を参照する)が含まれる、抗体の可変領域における抗原結合に関与するアミノ酸残基を指す。または、CDRは、当業者が周知の技術により、例えば、VBASE2データベースを利用してIMGTの定義に従って、以下の重鎖可変領域のアミノ酸配列または軽鎖可変領域のアミノ酸配列を分析することにより得られる。
【0091】
本明細書で使用される「フレームワーク領域」または「FR」残基という用語は、上記で定義したCDR残基以外の抗体の可変領域におけるアミノ酸残基を指す。
【0092】
「抗体」という用語は、抗体を生成する特定の方法によって制限されない。例えば、組換え抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体が含まれる。抗体は、例えば、IgG(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgEまたはIgM抗体のような異なるアイソタイプの抗体であっても良い。
【0093】
本明細書で使用される「抗原結合部位」という用語は、重鎖および軽鎖の可変領域(VHおよびVL)のアミノ酸残基で形成され、抗原結合に関与する部分を指す。この「抗原結合部位」は、抗原に相互作用し、且つ抗原に対する特異性と親和性を決定するアミノ酸残基を含む。この「抗原結合部位」は、さらに、上記の抗原に直接結合するアミノ酸残基の適切な配座を維持するために必要なフレームワーク領域のアミノ酸残基を含んでも良い。
【0094】
本明細書で使用される「完全長抗体」という用語は、N末端からC末端の方向に、2つの「完全長重鎖」および2つの「完全長軽鎖」からなる抗体を意味する。ここで、「完全長重鎖」とは、重鎖可変領域(VH)、重鎖定常領域CH1ドメイン、ヒンジ領域(HR)、重鎖定常領域CH2ドメイン、および重鎖定常領域CH3ドメインからなるポリペプチド鎖を指す。また、前記完全長抗体がIgEアイソタイプに属する場合、必要に応じてさらに重鎖定常領域CH4ドメインを含む。好ましくは、「完全長重鎖」は、N末端からC末端の方向に、VH、CH1、HR、CH2およびCH3からなるポリペプチド鎖である。「完全長軽鎖」は、N末端からC末端の方向に、軽鎖可変領域(VL)と軽鎖定常領域(CL)からなるポリペプチド鎖である。2組の完全長抗体鎖は、CLとCH1の間のジスルフィド結合と、2つの完全長重鎖のHRの間のジスルフィド結合によって連結されている。本発明の完全長抗体は、例えばヒトなどの単一種由来のものであってもよく、キメラ抗体またはヒト化抗体であってもよい。本発明の完全長抗体は、VHとVL組でそれぞれ形成した2つの抗原結合部位を含む。2つの抗原結合部位は、同じ抗原を特異的に認識/結合する。
【0095】
本明細書で使用される「Fab断片」という用語は、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる抗体断片を意味する。「Fab’断片」という用語は、F(ab’)断片の2つの重鎖断片のジスルフィド結合を還元した断片を意味し、このFab’断片は、完全な軽鎖と重鎖のFd断片(VHおよびCH1ドメインからなる)からなる。「F(ab’)断片」という用語は、ヒンジ領域におけるジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む抗体断片を意味する。前記各抗体断片は、それぞれ完全長抗体が結合する同じ抗原に特異的に結合する能力、および/または完全長抗体と競合して抗原に特異的に結合する能力を保持している。
【0096】
本明細書で使用される「scFv」という用語は、VLおよびVHドメインを含む単一ポリペプチド鎖を指し、前記VLおよびVHはリンカーで連結されている(例えば、Bird et al,Science 242:423-426(1988);Huston et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883(1988);and Pluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,Volume 113,edited by Roseburg and Moore,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)を参照する)。このようなscFv分子は、NH-VL-リンカーVH-COOH又はNH-VH-リンカーVL-COOHの一般構造を有しても良い。本発明のscFvにおけるVHとVLとの間に、さらにジスルフィド結合が存在してもよい。抗体のVHとVLの間にジスルフィド結合を導入する方法は、当技術分野で周知であり、例えば、米国特許出願U.S5,747,654;Rajagopal et al,Prot.Engin.10(1997)1453-1459;Reiter et al,Nature Biotechnology 14(1996)1239-1245;Reiter et al,Protein Engineering 8(1995)1323-1331;Webber et al,Molecular Immunology 32(1995)249-258;Reiter et al,Immunity 2(1995)281-287;Reiter et al,JBC 269(1994)18327-18331;Reiter et al,Inter.J.of Cancer 58(1994)142-149;または、Reiter et al,Cancer Res.54(1994)2714-2718を参照して、引用により本明細書に組み込まれる。本明細書で使用される「di-scFv」という用語は、2つのscFvを連結した抗体断片を指す。
【0097】
本明細書で使用される「Fv断片」という用語は、抗体のシングルアームのVLおよびVHドメインからなる抗体断片を意味する。
【0098】
本明細書で使用される「親抗体」という用語は、本発明の二重特異性抗体の調製に使用される抗PDL-1抗体または抗CTLA-4抗体を指す。この親抗体が有するアミノ酸配列は、例えばアミノ酸置換または構造変化などにより、本発明の二重特異性抗体に含まれる第一抗体またはscFvの調製に使用される。
【0099】
本発明の二重特異性抗体に含まれるCDR、VH、VL、CH、CL、HC、LCは、PDL-1またはCTLA-4に特異的に結合する当分野で公知した他の抗体またはその抗体断片に由来してもよく、或いは、上記の公知した抗体、その抗体断片、またはそのCDR、VH、VL、CH、CL、HC、LCに対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%の配列同一性を有する抗体に由来してもよい。
【0100】
本明細書で使用される「リンカー」という用語は、ペプチド結合で複数のアミノ酸残基を連結した線状のポリペプチドを指す。本発明のリンカーは、合成アミノ酸配列、またはヒンジ領域の機能を有するポリペプチドなどの天然に存在するポリペプチド配列であっても良い。このようなリンカーポリペプチドは、当技術分野で公知である(例えば、Holliger,P.et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448;Poljak,RJ et al.(1994)Structure 2:1121-1123)を参照する)。
【0101】
本明細書で使用される「特異的に結合する」という用語は、抗体とそれが対応する抗原との間の反応のような、2つの分子間の非ランダム結合反応(non-random binding reaction)を指す。一部の実施形態において、ある抗原に特異的に結合する抗体(又はある抗原に対して特異性を有する抗体)は、抗体が約10-5M未満の親和性(KD)で抗原に結合することを意味し、この親和性は、例えば、約10-6M未満、10-7M未満、10-8M未満、10-9M未満、または10-10M未満である。本発明において、「KD」という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指し、抗体と抗原の間の結合親和性を表現するために使用される。平衡解離定数が小さいほど、抗体と抗原の結合が強くなり、抗体と抗原の間の親和性が高くなる。通常、抗体(例えば、本発明の抗体)は、約10-5M未満の平衡解離定数(KD)で抗原(例えば、HBsAg)に結合し、この平衡解離定数は、例えば、約10-6M未満、10-7M未満、10-8M未満、10-9M未満、または10-10M未満である。平衡解離定数は、例えば、BIACORE機器の表面プラズモン共鳴(SPR)によって測定される。
【0102】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドを挿入することができる核酸ビヒクルを指す。ベクターは、挿入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質を発現できる場合、発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、形質転換、形質導入またはトランスフェクションによって宿主細胞に導入され、それが運ぶ遺伝物質因子を宿主細胞で発現させる。ベクターは、当業者に対して公知であり、プラスミド;ファージミド;コスミド;例えば、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC)などの人工染色体;λファージやM13ファージなどのファージ、および動物ウイルスなどが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターとして使用される動物ウイルスとして、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パポバウイルス(例えば、SV40)が挙げられるが、これらに限定されない。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサ-配列、選択因子、およびレポーター遺伝子などの発現を制御する複数の因子を含んでもよいが、これらに限定されない。さらに、ベクターは、複製起点を含んでもよい。
【0103】
本明細書で使用される「宿主細胞」という用語は、ベクターの導入に用いられる細胞を指し、例えば、大腸菌または枯草菌などの原核細胞、酵母細胞またはアスペルギルスなどの真菌細胞、S2ショウジョウバエ細胞またはSf9などの昆虫細胞、或いは、線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NS0細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK293細胞、またはヒト細胞などの動物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
本明細書で使用される「同一性」という用語は、2つのポリペプチドの間または2つの核酸の間の配列一致性を意味する。比較される2つの配列のある位置が同じ塩基またはアミノ酸モノマーサブユニットによって占められた場合(例えば、2つのDNA分子のある位置がそれぞれアデニンによって占められているか、または2つのポリペプチドのある位置がそれぞれリジンによって占められている)、各分子はその位置で互いに同一である。2つの配列間の「同一性のパーセント」は、2つの配列が共有される一致した位置の数を、比較される位置の数で除算し、×100した関数である。例えば、2つの配列の10の位置のうち6つが一致する場合、この2つの配列は、60%の同一性を有する。例えば、CTGACTとCAGGTTのDNA配列は、ともに50%の同一性を有する(合計6つの位置のうち3つが一致する)。通常、同一性が最も高くなるように2つの配列を整列させる時、比較を行う。このような整列は、例えば、Alignプログラム(DNAstar,Inc.)などのコンピュータープログラムを用いて、Needlemanらの方法((1970)J.Mol.Biol.48:443-453)を実施することで、実現される。ALIGNプログラム(バージョン2.0)に統合されたE.MeyersおよびW.Miller(Comput.Appl Biosci.,4:11-17(1988))のアルゴリズムを用い、PAM120重量残余テーブル(weight residue table)、ギャップ長ペナルティ12、ギャップペナルティ4によって、2つのアミノ酸配列の間の同一性パーセントを決定しても良い。さらに、GCGパッケージ(www.gcg.comから入手可能)のGAPプログラムに統合されたNeedlemanとWunsch(J MoI Biol.48:444-453(1970))のアルゴリズムを用い、Blossum 62マトリックスまたはPAM250マトリックス、および16、14、12、10、8、6または4のギャップウェイト(gap weight)と1、2、3、4、5または6の長さウェイト、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントを決定しても良い。
【0105】
本明細書に係る20つの通常のアミノ酸の表示は、従来の方法に従う。例えば、Immunology-A Synthesis (2nd Edition,E.S.Golub and D.R.Gren,Eds.,Sinauer Associates,Sunderland,Mass.(1991))を参照して、引用により本明細書に組み込まれる。本発明において、用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、同じ意味を有し、互換的に使用される。さらに、本発明では、アミノ酸は、一般的に、当分野で公知のように一文字および三文字の略語で表される。例えば、アラニンは、AまたはAlaで表われる。
【0106】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体および/または賦形剤」という用語は、被験者や活性成分と薬理学的および/または生理学的に適合する担体および/または賦形剤を指し、この担体および/または賦形剤は当分野で公知(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences. Edited by Gennaro AR,19th ed.Pennsylvania:Mack Publishing Company,1995を参照する)であり、pH調整剤、界面活性剤、アジュバント、イオン強度増強剤、希釈剤、浸透圧維持剤、吸収遅延剤、保存剤が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、pH調整剤として、リン酸緩衝液が挙げられるが、これに限定されない。界面活性剤として、例えばTween-80などのカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。イオン強度増強剤として、塩化ナトリウムが挙げられるが、これに限定されない。保存剤として、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの様々な抗菌剤および抗真菌剤が挙げられるが、これらに限定されない。浸透圧維持剤として、糖、NaClなどが挙げられるが、これらに限定されない。吸収遅延剤として、モノステアリン酸塩およびゼラチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
本明細書で使用される「被験者」という用語は、例えば、ヒトなどの霊長類のような哺乳動物を指す。一部の実施形態において、前記被験者(例えば、ヒト)は、CTLA-4および/またはPDL-1関連疾患に罹患しているか、または前記疾患に罹患するリスクを有する。一般的に、このような疾患または病状の特徴は、CTLA-4および/またはPDL-1のレベルの低下、或いはCTLA-4および/またはPDL-1の活性の抑制によって、緩和または治癒されることである。
【0108】
本明細書で使用される「有効量」という用語は、所望の効果を達成するか、または少なくとも部分的に達成するのに十分な量を指す。例えば、疾患(例えば、CTLA-4および/またはPDL-1関連疾患)の予防有効量とは、疾患(例えば、CTLA-4および/またはPDL-1関連疾患)の発生を予防、阻止、または遅延させるのに十分な量である。疾患の治療有効量とは、すでに疾患に罹患した患者の疾患およびその合併症を治癒または少なくとも部分的に阻止するのに十分な量である。このような有効量を測定することは、当業者の能力の範囲内である。例えば、治療用途の有効量は、治療される疾患の重症度、患者自身の免疫系の全体的な状態、年齢や体重や性別のような患者の一般的な状態、薬物の投与方法、および同時に実施するその他の治療法などに依存する。
【0109】
本明細書で使用される「抗体依存性細胞傷害(ADCC)」という用語は、Igが細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球またはマクロファージ)におけるFc受容体(FcR)に結合することで、これらの細胞傷害性エフェクター細胞を、抗原が付着している標的細胞に特異的に結合させた後、細胞毒の分泌によって標的細胞を殺滅する細胞傷害形態を指す。抗体のADCC活性を検出する方法は、当分野で既知であり、例えば、検出する抗体とFc受容体(例えばCD16a)との間の結合活性を測定することにより評価される。
【0110】
本明細書で使用される「補体依存性細胞傷害(CDC)」という用語は、補体成分であるClqと抗体であるFcと結合することで補体カスケードを活性化させる細胞傷害形態を指す。抗体のCDC活性を検出する方法は、当分野で既知であり、例えば、検出する抗体とFc受容体(例えばC1q)との間の結合活性を測定することにより評価される。
【0111】
発明の効果
従来技術と比較して、本発明は、少なくとも以下の有利な効果を有する。
【0112】
本発明の二重特異性抗体は、CTLA-4およびPDL-1を特異的に認識/結合するだけでなく、CTLA-4およびPDL-1に対する親和性もそれぞれの親抗体に相当するか、又はCTLA-4に対する親和性もその親抗体により弱い。本発明の二重特異性抗体は、生体外および被験者の体内において、CTLA-4および/またはPDL-1の活性を同時に著しく抑制し、CTLA-4および/またはPDL-1のシグナル伝達経路を遮断することができる。さらに、本発明の二重特異性抗体は、第一抗体の親抗体と同等の優れた熱安定性を有する。一部の細胞レベルおよび生体内実験において、本発明の二重特異性抗体が、親抗体よりも明らかに優れた抑制活性および低減された抗体毒性を示し、薬物の安全性が向上することは、特に驚くべきことである。従って、本発明の二重特異性抗体は、CTLA-4およびPDL-1関連疾患(例えば、自己免疫疾患、腫瘍または感染症)を治療する可能性があり、大きな臨床的価値を有する。
【0113】
以下に、添付の図面および実施例を参照して本発明の実施形態について詳細に説明するが、以下の図面および実施例が単に本発明を説明するために使用され、本発明の範囲を限定することを意図しない。図面および好ましい実施形態の以下の詳細な説明によれば、本発明の様々な目的および利点は、当業者にとって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0114】
図1図1は、抗PDL-1およびCTLA-4組換え二重特異性抗体であるAB03およびAB04の構造の図を示す。
図2図2は、AB03およびAB04の還元SDS-PAGEのエレクトロフェログラムを示す。レーンは、左から右のレ-ン:AB01還元、AB02還元、AB03還元、AB04還元である。
図3図3は、PDL-1に対する抗体の結合活性曲線を示す。
図4図4における図4A図4Bは、異なるバッチのCTLA4に対する抗体の結合活性曲線を示す。
図5図5は、抗体がPDL-1およびCTLA-4に対して同時に結合する活性曲線を示す。
図6図6は、PD-1とPDL-1との結合を遮断する抗体の活性曲線を示す。
図7図7は、CD16Aa(Val)に対する抗体の結合活性曲線を示す。
図8図8は、C1qに対する抗体の結合活性曲線を示す。
図9図9は、抗体がPD1/PDL-1細胞結合を遮断する活性曲線を示す。
図10図10は、SEBで刺激されたPBMCの存在下でT細胞によるIL-2分泌を増強する抗体の活性グラフを示す。
図11図11は、非小細胞肺癌モデルにおけるAB01の治療有効性を示す。
図12図12は、結腸癌のマウスモデルにおける抗体の治療有効性を示す。
図13図13は、非小細胞肺癌のマウスモデルにおける抗体の治療有効性を示す。
【0115】
配列情報
本発明に係る一部の配列情報を表1に示す。
【0116】
【表1】
【発明を実施するための形態】
【0117】
本発明は、本発明を説明するため(本発明を限定することを意図しない)の以下の実施例を参照して説明される。
【0118】
特に明記しない限り、本発明で使用される分子生物学的実験方法および免疫検出方法は、基本的にJ Sambrook et al.,Molecular Cloning:a laboratory manual,the second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989,and F/M Ausubel et al.,Short Protocols in Molecular Biology,3rd edition,John Wiley and Sons,Inc.,1995を参照して実施されるが、制限エンドヌクレアーゼの使用は、製品の製造元が推奨する条件に従う。実施例が例示的に本発明を説明するものであり、且つ本発明が保護を請求する範囲を限定することを意図しないことは、当業者にとって明らかである。
【0119】
実施例1:抗PDL-1/CTLA-4組換え二重特異性抗体をコードする発現ベクターの構築
この実施例において、表2に示す抗CTLA-4親抗体(AB02)は、ブリストル・マイヤーズスクイブ社から購入した。まず、DNA組換え技術によって表2に示す抗PDL-1親抗体(AB01)を得た後、第一ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクター、および第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターをそれぞれ構築し、本発明の組換え抗体であるAB03およびAB04を得た。
【0120】
親抗体AB01およびAB02それぞれの可変領域および定常領域の配列を表2に示す。親抗体(AB01)をコードする核酸配列は、Genscript(Nanjing)によって全遺伝子として合成され、PUC19ベクターにクロ-ニングされた。
【0121】
【表2】
【0122】
表3に示す各組換え抗体の構築形態に従って、該組換え抗体の第一ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列および第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を構築した。各組換え抗体におけるscFvについて、VLおよびVHは、ペプチドリンカーS2(配列番号25、アミノ酸配列:GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS)を介して連結され、また、該scFvの親抗体におけるVHの44番目およびVLの100番目のアミノ酸を、それぞれPCR部位特異的突然変異法によりシステイン(Cys、C)に変異させ、該scFvにおけるVHとVLの間にジスルフィド結合を形成した。ここで、変異したAB01-scFvのアミノ酸配列は配列番号31に記載され、変異したVLのアミノ酸配列は配列番号10に記載され、変異したVHのアミノ酸配列は配列番号8に記載され、変異したAB02-scFvのアミノ酸配列は配列番号32に記載され、変異したVLのアミノ酸配列は配列番号22に記載され、変異したVHのアミノ酸配列は配列番号20に記載される。
【0123】
表3に示す各組換え抗体の構築形態を図1に例示する。
【0124】
【表3】
【0125】
具体的には、例示的な部分組換え抗体である核酸構築物は、以下のように構築された。
【0126】
AB02-scFvをコードするヌクレオチド配列を、配列番号26に記載したリンカーS1をコードするヌクレオチド配列を介して、AB01のVHをコードするヌクレオチド配列の5’末端に連結した後、UniProt P01857の重鎖定常領域をコードするヌクレオチド配列の5’末端に連結し、AB03の第一ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を構築した。ここで、N末端からC末端までのAB02-scFvのドメイン順序はVL-S2-VHであり、それによってコードされたアミノ酸配列は配列番号32に記載された。
【0127】
AB01軽鎖をコードするヌクレオチド配列を、AB03の第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列とした。
【0128】
AB01のVHのヌクレオチド配列を、Uniprot P01857の重鎖定常領域をコードするヌクレオチド配列の5’末端に連結し、配列番号27に記載されたリンカーS1をコードするヌクレオチド配列を介してAB02-scFvをコードするヌクレオチド配列の5’末端に連結し、AB04の第一ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を構築した。ここで、N末端からC末端までのAB02-scFvのドメイン順序はVL-S2-VHであり、それによってコードされたアミノ酸配列は配列番号32に記載された。
【0129】
AB01軽鎖をコードするヌクレオチド配列は、AB04の第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列とした。
【0130】
前記第一ポリペプチド鎖または第二ポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列は、IgG-Kappaシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列(配列番号30のアミノ酸配列)に連結され、相同組換えによってそれぞれにpTT5プラスミドを導入し、第一ポリペプチド鎖をコードする発現ベクター、および第二ポリペプチド鎖をコードする発現ベクターpTT5を構築した。最終的に得られた各組換え抗体のアミノ酸配列を表4に示す。
【0131】
【表4】
【0132】
実施例2:抗PDL-1/CTLA-4組換え二重特異性抗体の発現
生長良好の対数期のCHO-S細胞(Thermo Fisher社から購入、カタログ番号:A1155701)を遠心分離し、3.5×10細胞/mlで250mlのCHOgro培地(MIRUS社から購入)に播種した。実施例1で得られたトランスフェクションを行うプラスミドを、0.22μmのメンブレンフィルターで濾過することにより滅菌した。125μgの第一ポリペプチド鎖組換えプラスミドおよび125μgの対応する第二ポリペプチド鎖組換えプラスミドを、25mlのCHOgro複合体形成溶液(CHOgro Complex Formation Solution、MIRUS社から購入)に加え、1mg/mlのPEIMAX(Polysciencs社から購入)1.25mlを添加し、3回振とうして均一に混合し、10分間放置し、250mlの前記細胞培養液に加えた。培養物を37℃、5%COのシェーカーに入れ、24時間後、10%Sheff-CHO PF ACF(KERRY社から購入)20mlを加え、さらに7日間培養を続けて細胞培養物を回収した。
【0133】
実施例3:抗PDL-1/CTLA-4組換え二重特異性抗体の精製
先ず、実施例2で7日間発現されたCHO-S細胞培養物を低速で遠心分離して、細胞沈殿物と上清に分離した後、さらに高速で遠心分離して清澄な試料液を得た。組換え抗体の精製は、アフィニティークローマトグラフィー法(プロテインA)とイオン交換法との二段階方法によって行った。精製に用いられた媒介物は、それぞれGE社製のMAB Select SuRe、およびMillipore社製のEshmuno CPXであった。各組換え二重特異性抗体の発現量がほぼ同等で、いずれも40~85mg/Lの範囲内であり、また同等の条件下での抗PDL-1親抗体AB01の発現レベルと一致したことは、各組換え抗体がいずれも正常に発現され、且つ高い発現効率を有することを示した。具体的な発現レベルを表5に示す。単離、精製された組換え抗体は、限外濾過チューブにより濃縮された後、PBS溶液に溶解させた。還元条件下のSDS-PAGEを図2に示す。図2では、AB01およびAB02が還元された後に、それぞれ50kDa(重鎖)および25kDa(軽鎖)であり;二重特異性抗体AB03およびAB04の還元バンドのサイズは、それぞれ75kDa(第一ペプチド鎖)および25kDa(第二ペプチド鎖)であり、且つSEC純度は、それぞれ96.34%および96.04%であった。バンドのサイズが予想と一致たことは、各組換え二重特異性抗体がいずれも効率的に発現され、正しく組み立てられたことを示した。さらに、明らかな凝集や分解がないことは、組換え二重特異性抗体の安定性が優れたことを示した。
【表5】
【0134】
実施例4:抗PDL-1/CTLA-4組換え二重特異性抗体の抗原結合活性の測定
本実施例では、各組換え二重特異性抗体とその親抗体が同一抗原に対して結合する親和性の差、および組換え二重特異性抗体が2種類の抗原に同時に結合する相対親和性を、ELISA法でそれぞれ測定し、親抗体の能力に比べて1類種の抗原のみを遮断する能力は低くなるかどうか、2種類の抗原を同時に遮断して2つのシグナル経路を遮断することにより相乗効果を生み出すが得られるかどうかを検証する。
【0135】
4.1 PDL-1に対する組換え二重特異性抗体の結合活性の測定
100ng/ウェルで組換えPDL-1-mFcタンパク質(Kelun-Biotechから入手、Uniport No.:Q9NZQ7)を96ウェルELISAプレート(Thermo社から購入)に添加し、4℃でコーティングを一晩実施した。翌日、ウェル内の溶液を廃棄し、洗浄緩衝液(0.05%のTween-20を含むリン酸緩衝液)でウェルを1回洗浄し、ウェル内の溶液を捨て、2%BSAを含むPBS溶液を100μl/ウェルで添加し、ウェルを37℃で2時間ブロックした後、ウェル内の溶液を捨てた。組換え二重特異性抗体であるAB03とAB04および親抗体であるAB01を、1000ng/mLから11濃度勾配で3倍希釈して、100μl/ウェルでウェルに加えた。37℃でELISAプレートを2時間インキュベートした後、ウェル内の溶液を捨て、洗浄緩衝液で3回洗浄し、100μl/ウェルでHRP結合Goat Anti-Human IgG(H+L)溶液を添加し、37℃で1時間インキュベートした。100μl/ウェルでTMB溶液を添加し、室温で反応を約5分間行った。100μl/ウェルで停止溶液を添加してELISAプレートリーダーにセットし、OD450吸光度値を読み取った。実験データについて、図3に示すように、カーブフィッティングを行い、EC50を計算した。
【0136】
EC50の結果を表6に示す。測定したPDL-1-mFcに対する組換え二重特異性抗体の結合活性EC50は、PDL-1-mFcに対する親抗体AB01の結合活性と同等である。本発明の組換え抗体は、全体としてPDL-1-mFcに対する親抗体の結合活性と同等程度に優れた結合活性を維持することを示した。
【0137】
【表6】
【0138】
4.2 CTLA-4に対する組換え二重特異性抗体の結合活性の測定
2つのバッチの組換えCLTA-4-Hisタンパク質(Kelun-Biotech社から入手、Uniport No.:P16410)をそれぞれPBSで希釈して、100μl/ウェルで96ウェルELISAプレートに加え、4℃でコーティングを一晩実施した。翌日、ウェル内の溶液を廃棄し、洗浄緩衝液でウェルを1回洗浄し、ウェル内の溶液を捨て、2%BSAを含むPBS溶液を100μl/ウェルで添加し、37℃で2時間ブロックした後、ウェル内の溶液を捨てた。組換え二重特異性抗体であるAB03とAB04および抗CTLA-4親抗体であるAB02を、30nMから11濃度勾配で4倍希釈して、100μl/ウェルでウェルに加えた。37℃でELISAプレートを2時間インキュベートした後、ウェル内の溶液を捨て、洗浄緩衝液で3回洗浄し、HRP結合Goat Anti-Human IgG(H+L)溶液を添加し、37℃で1時間インキュベートした。TMB溶液を添加し、室温で反応を約8分間行った。停止溶液を添加してELISAプレートリーダーにセットし、OD450吸光度値を読み取った。実験データについて、カーブフィッティングを行い、2つのバッチの組換えCLTA-4-His結合活性の測定結果を図4A図4Bに示し、EC50を計算した。
【0139】
EC50の結果を表7に示す。
【0140】
【表7】
【0141】
実験結果によれば、測定したCTLA-4に対する組換え二重特異性抗体AB03のEC50は、親抗体AB02に比べてわずかに増加したが、CTLA-4に対する組換え二重特異性抗体AB04のEC50は、親抗体AB02の約10~12倍であった。CTLA-4に対するAB04の結合活性は、親抗体の結合活性より明らかに弱いが、pMレベルの効率的な結合活性を有することが分かる。
【0142】
4.3 組換え二重特異性抗体がPDL-1およびCTLA-4に同時に結合する活性の測定
100ng/ウェルで組換えPDL-1-mFcタンパク質を96ウェルELISAプレートに添加し、4℃でコーティングを一晩実施した。翌日、ウェル内の溶液を廃棄し、洗浄緩衝液(0.05%のTween-20を含むリン酸緩衝液)でウェルを1回洗浄し、ウェル内の溶液を捨て、2%BSAを含むPBS溶液を100μl/ウェルで添加し、37℃で2時間ブロックした後、ウェル内の溶液を捨てた。組換え二重特異性抗体を、10000ng/mLから11濃度勾配で5倍希釈して、100μl/ウェルでウェルに加えた。37℃でELISAプレートを2時間インキュベートした後、ウェル内の溶液を捨て、洗浄緩衝液で3回洗浄し、それぞれのウェルに1.5μg/mlのCLTA-4-Hisタンパク質を100μl/ウェルで加え、37℃で2時間インキュベートし、ウェル内の溶液を捨て、洗浄緩衝液でウェルを3回洗浄した。HRP結合Goat Anti-His(BioLegend社から購入)溶液を添加し、37℃で1時間インキュベートした。TMB溶液を添加し、室温で反応を約5分間行った。停止溶液を添加してELISAプレートリーダーにセットし、OD450吸光度値を読み取った。実験データについて、図5に示すように、カーブフィッティングを行い、EC50を計算した。
【0143】
EC50の結果を表8に示す。組換え二重特異性抗体AB03およびAB04がPDL-1およびCTLA-4の2種類の抗原に同時に結合するEC50は、いずれもpMレベルであった。上記の結果は、本発明の組換え二重特異性抗体が1つの抗原に結合した後、もう1つの抗原への結合に影響を与えないことを示した。AB03やAB04などの組換え二重特異性抗体は、いずれも2種類の抗原に同時に効率的に結合でき、腫瘍免疫に重要な役割を果たすPDL-1およびCTLA-4ターゲットを同時に遮断して、2つのシグナル経路を同時に阻害することで、腫瘍治療において薬力学的に相乗的な役割を果たすことができる。
【0144】
【表8】
【0145】
実施例5:組換え二重特異性抗体によるPD-1/PDL-1結合の遮断の競合ELISA測定
本実施例において、競合ELISAによって組換え二重特異性抗体がPD1とPDL-1との結合を遮断できるかどうかを検出した。
【0146】
100ng/ウェルで組換えPD1-hFcタンパク(Sino Biological社から購入)を96ウェルELISAプレート(Thermo社から購入)に添加し、4℃でコーティングを一晩実施した。翌日、ウェル内の溶液を廃棄し、洗浄緩衝液(0.05%のTween-20を含むリン酸緩衝液)で1回洗浄し、ウェル内の溶液を捨て、2%BSAを含むPBS溶液を100μl/ウェルで添加し、ウェルを37℃で2時間ブロックした後、ウェル内の溶液を捨てた。組換え二重特異性抗体であるAB03とAB04および親抗体であるAB01を、10μg/mLから11濃度勾配で1.5倍希釈して、100μl/ウェルでウェルに加えた。等量の1.6μg/mlのPDL-1-mFC(Kelun-Biotech社から入手)を加えて均一に混合し、室温で混合物を30分間放置した後、100μl/ウェルでELISAプレートに加えた。37℃でELISAプレートを2時間インキュベートし、ウェル内の溶液を捨て、洗浄緩衝液で3回洗浄し、100μl/ウェルでHRP結合Goat Anti-mouse IgG(H+L)(Thermo社から購入)溶液を添加し、37℃で1時間インキュベートした。100μl/ウェルでTMB溶液を添加し、室温で反応を約5分間行った。100μl/ウェルで停止溶液を添加してELISAプレートリーダーにセットし、OD450吸光度値を読み取った。実験データについて、図6に示すように、カーブフィッティングを行い、EC50を計算した。
【0147】
EC50の結果を表9に示す。測定した組換え二重特異性抗体AB03やAB04がPD1とPDL-1との結合を遮断する活性EC50は、抗PDL-1親抗体AB01よりも強かった。本発明の二重特異性抗体は、全体として親抗体がPDL-1とPD1との結合を遮断する活性と同等またはそれより良好な遮断活性を維持することを示した。
【0148】
【表9】
【0149】
実施例6.組換え二重特異性抗体のCDC、ADCC活性のELISA測定
本実施例において、組換え二重特異性抗体のADCC、CDC活性を検証するために、組換え二重特異性抗体とCD16a(Val)、C1qそれぞれとの結合をELISA実験によって測定した。
【0150】
6.1 CD16a(Val)に対する組換え二重特異性抗体の結合活性の測定
100ng/ウェルで組換えCD16a(Val)タンパク(Sino Biological社から購入)を96ウェルELISAプレート(Thermo社から購入)に添加し、4℃でコーティングを一晩実施した。翌日、ウェル内の溶液を廃棄し、洗浄緩衝液(0.05%のTween-20を含むリン酸緩衝液)で1回洗浄し、ウェル内の溶液を捨て、2%BSAを含むPBS溶液を100μl/ウェルで添加し、ウェルを25℃で2時間ブロックした後、ウェル内の溶液を捨てた。50μg/mlで組換え二重特異性抗体AB03、AB04および親抗体AB01、陽性対照抗体ヒトIgG1(Kelun-Biotech社から入手)を、それぞれGoat F(ab) anti-Human Kappa(BIORAD社から購入)と37℃で1時間架橋反応を行った後、11濃度勾配で3倍希釈して、100μl/ウェルで混合物をウェルに加えた。25℃でELISAプレートを2時間インキュベートした後、ウェル内の溶液を捨て、ウェルを洗浄緩衝液で3回洗浄した。1:10000のHRP結合F(ab)アフィニティ精製F(ab’)断片化ヤギ抗ヒトIgG二次抗体(Jackson社から購入)を100μl/ウェルでプレートに添加し、25℃で1時間インキュベートした。ウェル内の溶液を捨て、洗浄緩衝液でウェルを5回洗浄して、100μl/ウェルでTMB溶液をウェルに添加し、室温で約30分間反応した。100μl/ウェルで停止溶液を添加してELISAプレートリーダーにセットし、OD450吸光度値を読み取った。実験データについて、図7に示すように、カーブフィッティングを行った。
【0151】
結果を図7に示す。測定した組換え二重特異性抗体AB03、AB04は、CD16a(Val)タンパクに対する結合活性を有し、且つヒトIgG1の結合活性に相当する。一方、AB01は、CD16a(Val)にほとんど結合しなかった。本発明の組換え二重特異性抗体がADCC活性を有することが明らかになった。
【0152】
6.2 C1qに対する組換え二重特異性抗体の結合活性の測定
組換え二重特異性抗体AB03、AB04ならびに親抗体AB01および陽性対照抗体ヒトIgG1(Kelun-Biotech社から入手)を、500μg/mlから11濃度勾配で3倍希釈して、96ウェルELISAプレートに100μl/ウェルで加え、4℃でコーティングを一晩実施した。翌日、ウェル内の溶液を廃棄し、洗浄緩衝液でウェルを1回洗浄し、ウェル内の溶液を捨て、2%BSAを含むPBS溶液を100μl/ウェルで添加し、37℃で2時間ブロックした後、ウェル内の溶液を捨てた。2%BSAを含むPBS溶液で3μg/mlに希釈したC1q(PROSPEC社から購入)を100μl/ウェルでウェルに添加した。37℃でELISAプレートを2時間インキュベートした後、ウェル内の溶液を捨て、洗浄緩衝液で3回洗浄した。1:200に希釈したHRP抗C1q抗体(Abcam社から購入)溶液を100μl/ウェルで添加し、37℃でプレートを1時間インキュベートした後、ウェル内の溶液を捨て、洗浄緩衝液で5回洗浄し、TMB溶液を加え、室温で約5分間反応させた。停止溶液を添加してELISAプレートリーダーにセットし、OD450吸光度値を読み取った。実験データについて、図8に示すように、カーブフィッティングを行った。
【0153】
結果を図8に示す。測定した組換え二重特異性抗体AB03、AB04は、ヒトIgG1に比べて、強いC1qタンパクに対する結合活性を有するので、より強いCDC活性を有することが明らかになった。
【0154】
実施例7:熱変性温度Tmの測定
7.1 DSF(示差走査蛍光法)による組換え二重特異性抗体のTm値の測定
組換え二重特異性抗体と親抗体AB01を、PBS溶液で1mg/mLに希釈した。SYPRO(登録商標)オレンジタンパク質ゲル染色液(Orange Protein Gel Stain、Thermo社から購入、Cat#S6651)を、蒸留水で40倍希釈した。希釈サンプル12.5μL、SYPRO(登録商標)オレンジタンパク質ゲル染色液4.2μL、蒸留水8.3μLを0.2mlの遠心管に順次加えた。混合物を均一に混合した後、蛍光定量PCR装置(Thermo社から購入、モデル7500)にセットし、反応パラメーターは、25℃で3分間、1%の速度で95℃に昇温し、95℃で2分間とした。
【0155】
7.2 DSC(示差走査熱量測定法)による組換え二重特異性抗体のTm値の測定
PBS溶液で組換え二重特異性抗体を1mg/mLに希釈し、9μl/ウェルでハイスループットタンパク質安定化アナライザー(UNCHAINED LABS社、モデルUncle)に加えた。反応パラメーターは、0.3℃/minの速度で25℃~95℃とした。
【0156】
DSFおよびDSCの結果を表10に示す。前記組換え二重特異性抗体AB03、AB04の熱安定性は良好である。中でも、AB03の熱安定性は、AB04の熱安定性よりも優れており、AB03のTm値は、親抗体AB01、AB02のTm値に近い。全体として、本発明の組換え二重特異性抗体は良好な熱安定性を有する。
【0157】
【表10】
【0158】
実施例8:組換え二重特異性抗体によるPD1/PDL-1の遮断の細胞活性
レポーター遺伝子アッセイ法によりPD-1/PDL-1抗体の生物活性を測定した。PDL-1および抗CD3-scFvを安定して発現するCHO-PDL-1-CD3L細胞株を標的細胞とし、PD-1およびルシフェラーゼ(luciferase)を安定して発現するJurkat-PD-1-NFAT細胞株をエフェクター細胞として使用した。ここで、前記ルシフェラーゼの遺伝子は、NFAT因子(転写因子)(IL-2プロモーター)によって制御される。PD-1とPDL-1との結合は、CD3下流シグナルの伝達を遮断することができるため、ルシフェラーゼの発現を阻害する。PD-1抗体またはPDL-1抗体を添加すると、この遮断効果が逆転され、ルシフェラーゼを発現させて蛍光シグナルを検出できるようになる。
【0159】
具体的な実験手順:Jurkat-PD1NFAT細胞およびCHO-S-OKT3-PDL1細胞(Promega社から購入)を200gで5分間遠心分離し、測定緩衝液RPMI1640+1%FBSで再懸濁した。5×10/40μl/ウェルでCHO-S-OKT3-PDL1細胞をプレートに播種した。2.5×10/40μl/ウェルでJurkat-PD1-NFAT細胞を、CHO-S-OKT3-PDL1細胞をあらかじめ播種したウェルに加え、さらに、100μg/mLから5倍希釈された40μLの組換え二重特異性抗体AB03、AB04および抗体AB01を加えた。6時間のコインキュベーション後、共培養物を取り出し、室温で20分間放置し、60μLの検出試薬Bright-Glo Luciferase(Promega社から購入)を添加し、室温で5分間振とうし、ELISAプレートリーダー(BMG社、PHEARstar FS)によって測定した。図9に示すように、実験データについて、GraphPad prism5によってカーブフィッティングを行い、EC50を計算した。
【0160】
結果を表11に示す。測定した組換え二重特異性抗体AB03やAB04がPD1とPDL-1との結合を遮断する細胞活性EC50は、抗PDL-1親抗体AB01の細胞活性と同等である。本発明の組換え二重特異性抗体は、全体として親抗体がPDL-1とPD1との結合を遮断する細胞活性と同等に優れた遮断細胞活性を維持することを示した。
【0161】
【表11】
【0162】
実施例9:SEBで刺激されたPBMCの存在下でT細胞によるIL-2分泌を増強する組換え二重特異性抗体の活性
ス-パ-抗原(SEB)は、APC細胞におけるMHC IIとT細胞におけるTCRとを架橋させて、T細胞を活性化し、IL-2サイトカイン発現を促進することができる。T細胞におけるPD1とAPC細胞におけるPDL-1との結合、およびT細胞におけるCTLA-4とAPC細胞におけるCD80/CD86との結合は、T細胞の活性化を阻害し、IL-2サイトカイン発現を減少させる。本発明の組換え二重特異性抗体は、PD1/PDL-1およびCTLA-4/CD80(CD86)の結合を遮断し、SEBで刺激されたPBMCの存在下でT細胞によるIL-2の分泌をさらに促進することができる。
【0163】
具体的な実験手順:PBMC細胞を蘇生し、5mLのRPMI1640+10%FBS(ウシ胎児血清)で再懸濁させ、細胞生存率は85%であり、生存細胞密度は8×10細胞/mlであり、COインキュベーターで37℃下、2時間以上培養した。10細胞/ウェルで120μLの細胞懸濁液をウェルに加えた。2.5ng/mLのSEB(Chinese Academy of Sciences)を含むRPMI1640+10%FBSの抗体希釈液を調製し、組換え二重特異性抗体AB03、AB04および対照抗体AB01、AB02をそれぞれ希釈し、80μLの抗体希釈液を対応するウェルに加え、均一に混合し、37℃のCOインキュベーターで3日間培養した。上清を採取し、IL-2試験キット(CisBio社から購入)によってIL-2の発現量を測定した。
【0164】
結果を図10に示す。測定した組換え二重特異性抗体AB03およびAB04は、親抗体AB01およびAB02と比較して、全体としていずれもSEBで刺激されたPBMCにおけるIL-2分泌を大幅に増加させた。さらに、高濃度の場合では、組換え二重特異性抗体および親抗体は、いずれも最大の応答値を表した。低濃度の抗体の条件下では、組換え二重特異性抗体AB03およびAB04の機能は、親抗体AB01およびAB02(アスタリスク付け)と比較してある程度強化された。
【0165】
実施例10:結腸癌に対するPDL-1抗体AB01のインビボでの有効性
1.実験用薬物
AB01、Tecentriq(登録商標)、およびヒトIgGは、いずれもSichuan Kelun Pharmaceutical Research Institute Co., Ltd.から提供された。ここで、Tecentriq(登録商標)は、Roche社から購入し、ヒトIgGは、Chengdu Rongsheng Pharmaceutical Co.,Ltdから購入した。
【0166】
調製方法:3つの薬物は、いずれも0.1%のBSA生理食塩水で必要の濃度に希釈された。
【0167】
2.実験細胞および動物
MC-38/H-11細胞は、マウス結腸癌MC-38(Cobioer社から購入、カタログ番号CBP60825)細胞のマウス内因性PDL-1をノックアウトし、ヒトPDL-1をトランスフェクトして発現させたモノクローナル細胞である。したがって、MC-38/H-11細胞は、高レベルのヒトPDL-1タンパクのみを発現する。
【0168】
C57BL/6マウス(7~8週齢、メス)は、Shanghai Slack Laboratory Animals Co.、Ltdから購入した。
【0169】
3.実験手順
それぞれのマウスに1×10のMC-38/H-11細胞を皮下接種した。接種の翌日(D0)に、マウスをランダムにグループ分けし、1日おきに1回(Q2D)薬物を腹腔内注射(IP)した。溶媒群は、同じ体積のヒトIgG(15mg/kg)、AB01(1.5、5、15mg/kg)、Tecentriq(登録商標)(15mg/kg)を注射し、注射量は0.1mL/10g体重でした。各グループは、いずれも10匹のマウスである。
【0170】
4.実験の指標
実験の指標は、腫瘍成長に対する薬物の効果を調査するために使用される。具体的な指標は、T/C%または腫瘍抑制率TGI(%)である。
【0171】
ノギスで週に2回腫瘍の直径を測定した。腫瘍体積(V)は、式V=1/2×a×bで計算された。式中、a、bはそれぞれ長さと幅を表しす。
【0172】
T/C%=T/C×100。C、Tは、それぞれ溶媒群および治療群の腫瘍体積または腫瘍重量である。
【0173】
腫瘍抑制率(TGI)(%)=(C-T)/C×100。C、Tは、それぞれ溶媒群と治療群の腫瘍体積または腫瘍重量である。
【0174】
5.実験結果
実験結果を以下の表12に示す。
【0175】
【表12】
【0176】
MC-38/H-11マウスの皮下移植腫瘍に対するAB01(1.5、5、15mg/kg)の腫瘍抑制率は、それぞれ63.9%、75.8%、68.6%である(平均腫瘍体積に基づいて計算)。それぞれの群の個体差が大きいため、腫瘍体積の中央値に基づいて腫瘍抑制率を計算することが合理的であり、腫瘍抑制率が100%、100%、100%に調整された。MC-38/H-11に対する参照薬物Tecentriq(登録商標)(15mg/kg)の腫瘍抑制率は93.8%である(腫瘍体積の中央値に基づいて計算)。また、腫瘍重量の中央値に基づいて計算すると、MC-38/H-11に対するAB01(1.5、5、15mg/kg)の腫瘍抑制率はそれぞれ100%、100%、100%であり、Tecentriq(登録商標)の腫瘍抑制率は93.7%である。腫瘍体積の中央値による腫瘍抑制率は、腫瘍重量の中央値による腫瘍抑制率と非常に一致しており、腫瘍体積の測定法の信頼性を示した。AB01(1.5、5、15mg/kg)は、腫瘍の成長を阻害するだけでなく、腫瘍の形成も阻害する。実験終了時(D27)に、AB01(1.5、5、15mg/kg)用量群の腫瘍形成率は40%、40%、40%であったが、Tecentriq(登録商標)群の腫瘍形成率は50%であった。担癌マウスは上記の薬物によく耐え、明らかな体重減少などの症状は発生しなかった。Tecentriq(登録商標)と比較して、AB01(1.5、5、15mg/kg)は、マウス結腸癌MC-38/H-11の皮下移植腫瘍に対してより強い抗腫瘍効果を示した。
【0177】
実施例11:肺癌に対するPDL-1抗体AB01のインビボでの有効性
モデルの確立方法:非小細胞肺癌細胞HCC827(ATCCから購入、カタログ番号:CRL-2868)をNOGマウスに皮下接種して、肺癌担癌マウスモデルを確立した。腫瘍が約100mmに達すると、薬物を投与する前に、ヒトの免疫系をシミュレートするために、活性化されたヒトPBMCをマウスに静脈内注射した。その後、薬物を投与した。
【0178】
投与レジメン:2日に1回、合計4回、10mg/kgの用量で静脈内注射した。投与後、週に2回腫瘍体積を測定した。マウスは、コントロールIgG、AB01、Tecentriq(登録商標)の3つの群に分け、それぞれの群は6匹のマウスである。
【0179】
腫瘍の成長曲線を図11に示す。
【0180】
結果は、4日目から、AB01群の腫瘍体積がTecentriq(登録商標)群およびIgGコントロール群の腫瘍体積よりも有意に小さいことを示した。AB01群の腫瘍成長は、ほぼ完全に抑制されたが、Tecentriq群およびIgGコントロール群の腫瘍は、継続的に成長した。AB01抗体は、Tecentriq(登録商標)よりもインビボでの強力な抗腫瘍効果を示した。
【0181】
実施例12:遺伝子組換え結腸癌マウスモデルにおける組換え二重特異性抗体の試験
10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地で、37℃、5%COの条件下でMC38-1F3細胞を培養した。指数増殖期のMC38-1F3細胞を回収し、PBSに適切な濃度に再懸濁させ、メスのC57BL/6J-huCTLA-4(Gempharmatechから購入)マウスに皮下接種して、結腸癌モデルを確立した。平均腫瘍体積が約82mmになると、腫瘍サイズに応じて、静脈内注射ヒト免疫グロブリン群(陰性対照群)、AB01対照群、AB04抗体低用量群およびAB04抗体高用量群の4つの群にマウスをランダムに群分けした。薬物を週に2回腹腔内注射し、合計3週間投与した。投与後に、マウスの腫瘍体積と体重を定期的に観察、測定した。具体的な結果を表13および図12に示す。
【0182】
結果によると、MC38-1F3結腸癌移植腫瘍モデルに対するAB04抗体低用量群(3mg/kg)の抗腫瘍効果はAB01よりも優れており、且つその高用量群(10mg/kg)は低用量群よりも有意に優れた抗腫瘍効果があり、抗腫瘍効果は顕著である。観察期間において、いずれかの治療群は、動物の死亡や顕著な動物の体重減少がなく、顕著な薬物毒性を示さなかった。治療期間において、マウスはAB04抗体によく耐えた。
【0183】
【表13】
【0184】
実施例13:遺伝子組換え非小細胞肺癌マウスモデルにおける組換え二重特異性抗体の試験
10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地で、37℃、5%COの条件下でヒト非小細胞肺癌細胞株HCC827を培養した。指数増殖期のHCC827細胞を回収し、PBSに適切な濃度に再懸濁させ、メスのNSG免疫不全マウスに皮下接種して、移植腫瘍モデルを確立した(hPBMC-NSG(Biocytogen)-HCC827ヒト免疫再建モデル)。平均腫瘍体積が約77mmになると、腫瘍サイズに応じて、生理食塩水群(陰性対照群)、AB01対照群、AB04抗体低用量群およびAB04抗体高用量群の4つの群にマウスをランダムに群分けした。10%ウシ胎児血清、CD28/CD3およびDNaseを含むRPMI1640培地で、37℃、5%COの条件下でヒト末梢血単核細胞PBMCを培養した。CD3およびCD28で3日間刺激された後、活性化されたPBMCを回収し、PBSに適切な濃度に再懸濁させ、メスのNSGマウスの尾静脈に注射して免疫系を再建した。上記のように群分けした後、マウスに週2回、薬物を尾静脈注射し、合計3週間投与した。投与後に、マウスの腫瘍体積と体重を定期的に観察、測定した。具体的な結果を表14および図13に示す。
【0185】
【表14】
結果によると、ヒト非小細胞肺癌HCC827細胞を皮下移植したNSG免疫再建マウスの腫瘍成長に対して、AB04抗体低用量群(1mg/kg)は、一定の程度の阻害効果を示し、高用量群(10mg/kg)では有意な抗腫瘍効果があった。観察期間において、いずれかの治療群は、動物の死亡や顕著な動物の体重減少がなく、顕著な薬物毒性を示さなかった。治療期間において、マウスは抗体によく耐えた。
【0186】
実施例14:組換え二重特異性抗体の毒性試験
この実験では、カニクイザルの体内における組換え二重特異性抗体の毒性を調べるために、カニクイザル(オス1匹とメス1匹)に単回投与で静脈内注射を行うことで、投与群AB04とし、生理食塩水群を対照群とし、回復期間は14日間であった。実験の結果は、単回静脈内注射で500mg/kgのAB04を投与した場合、カニクイザルが薬物によく耐え、MTDが500mg/kgであることを示した。5回連続で100mg/kgの用量を週に1回繰り返し投与した場合、顕著な標的臓器への毒性および投与部位への刺激が見られず、NOAEL(無毒性量)は100mg/kgであった。FDAが発表した既存の研究データによると、抗CTLA-4抗体イピリムマブ(Ipilimumab、商品名:Yervoy)を繰り返し投与した場合、NOAELは10mg/kg(この用量では、投与後に脾臓重量の減少や多臓器リンパ球浸潤などの軽度の毒性が観察された)であり、MTDは30mg/kgであった。AB04は、CTLA-4抗体の毒性を軽減し、薬物の安全性をある程度改善した。
【0187】
本発明の特定の実施形態を詳細に説明したが、前記開示された教示に従って、本発明に様々な変更および修正が可能であること、且つそのような変更も本発明の範囲内であることは、当業者にとって明らかである。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびその同等のものによって決められる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
0007145895000001.app