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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ヘパラン硫酸
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/10 20060101AFI20220926BHJP
   A61K 31/727 20060101ALI20220926BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20220926BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20220926BHJP
   A61K 35/33 20150101ALI20220926BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20220926BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20220926BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20220926BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220926BHJP
   A61L 27/60 20060101ALI20220926BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220926BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20220926BHJP
   C07K 14/495 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C08B37/10 ZNA
A61K31/727
A61K35/14 D
A61K35/28
A61K35/33
A61K38/18
A61L27/20
A61L27/34
A61L27/38
A61L27/38 111
A61L27/60
A61P17/02
A61P19/08
C07K14/495
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020082462
(22)【出願日】2020-05-08
(62)【分割の表示】P 2016565146の分割
【原出願日】2015-04-30
(65)【公開番号】P2020143293
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2020-06-05
(31)【優先権主張番号】10201401967W
(32)【優先日】2014-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(72)【発明者】
【氏名】クール,サイモン
(72)【発明者】
【氏名】ヌルカム,ビクター
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジョナサン
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-132501(JP,A)
【文献】特表2017-522392(JP,A)
【文献】Journal of Cellular Physiology,1992年,152,pp.430-440
【文献】Journal of Cellular Physiology,1994年,159,pp.51-59
【文献】Dermatologic Surgery,2006年,32,pp.618-625,DOI:10.1111/j.1524-4725.2006.32132.x
【文献】Drug Delivery System,1999年,14(1),pp.43-50
【文献】Journal of Biomedical Materials Research Part A,2009年,pp.1139-1144,DOI:10.1002/jbm.a.32440
【文献】日歯周誌,2004年,46(2),pp.127-136
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
A61K
A61L
C07K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列RKDLGWKWIHEPKGYH(配列番号1)からなるペプチドまたはポリペプチドを用いたアフィニティ単離により単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物であって、前記組成物のヘパラン硫酸構成要素の少なくとも80%がHS16であり、HS16は、アミノ酸配列RKDLGWKWIHEPKGYH(配列番号1)からなるペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合可能であるヘパラン硫酸であり、
ヘパリン・リアーゼI、IIおよびIIIで消化し、そして次いで、生じた二糖断片をHPLC分析に供した後、ヘパラン硫酸HS16が:
【表1】
を含む二糖組成を有する、組成物。
【請求項2】
ヘパリン・リアーゼI、IIおよびIIIで消化し、そして次いで、生じた二糖断片をHPLC分析に供した後、ヘパラン硫酸HS16が:
【表2】
を含む二糖組成を有する、請求項に記載の単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物。
【請求項3】
増殖因子TGFβ1をさらに含む、請求項1または2に記載の単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物。
【請求項4】
間葉系幹細胞をさらに含む、請求項に記載の単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物。
【請求項5】
バイオマテリアルおよび請求項1または2に記載の単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物を含む、生体適合移植物または装具。
【請求項6】
請求項1または2に記載の単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物で、バイオマテリアルをコーティングするか、または含浸する工程を含む、生体適合移植物または装具を形成する方法。
【請求項7】
in vitroで、請求項1または2に記載の単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物と接触させて、幹細胞を培養する工程を含む、in vitroで幹細胞を培養する方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物を含み、TGFβ1をさらに含んでもよい、培地。
【請求項9】
医学的治療法において、同時に、別個にまたは連続して使用するための、療法的有効量の:
(i)請求項1または2に記載の単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物;および
(ii)TGFβ1タンパク質;
(iii)間葉系幹細胞、または線維芽細胞系譜の細胞
の一方または両方を含有する、医薬組成物
【請求項10】
in vitroで増殖因子TGFβ1の安定性を増加させる方法であって、TGFβ1を、請求項1または2に記載の単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
【請求項11】
血液由来産物およびあらかじめ決定した量の請求項1または2に記載の単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物を含む調製物。
【請求項12】
生物学的材料を保存する方法であって、生物学的材料を、あらかじめ決定した量の請求項1または2に記載の単離されたまたは精製されたヘパラン硫酸組成物と接触させる工程を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘパラン硫酸、そして排他的ではないが特に、TGFβ1に結合するヘパラン硫酸に関する。
【背景技術】
【0002】
グリコサミノグリカンは、複雑で直鎖であり、非常に荷電した炭水化物であって、広範囲のタンパク質と相互作用してその機能を制御する;これらは通常、コアタンパク質に付着して合成される。GAGは、非硫酸化(HA)および硫酸化(CS、DS、KS、ヘパリンおよびHS)に分類される。
【0003】
GAGのうち、ヘパラン硫酸(HS)ファミリーは、ドメイン内の特定の配列に基づいて、ターゲティングされるタンパク質と相互作用する能力を有するため、特に興味深い。該ファミリー(ヘパリンおよびHS)は、N-およびO-硫酸化の多様なパターンを伴う、反復ウロン酸-(1→4)-D-グルコサミン二糖サブユニットからなる。例えば、ヘパリンの抗凝固活性は、ユニークな五糖配置を伴う、グルコサミン残基の3-O-硫酸化を要する(Lindahl U, Backstrom G, Hook M, Thunberg L, Fransson LA, Linker A. ヘパリンにおけるアンチトロンビン結合部位の構造 Proc Natl Acad Sci U S A. 1979;76:3198-202.)。ユニークな硫酸化パターンはまた、ECMタンパク質に関しても明らかで
あり;FNに結合する強力なヘパリン結合変異体は、特に非常に荷電しており、7~8のN-硫酸化二糖が必要であり、そして通常よりもより大きなドメインを伴う(>14残基)、(Falcone DJ, Salisbury BGJ. フィブロネクチンは、低密度リポタンパク質-ヘパリン-コラーゲン複合体のマクロファージ取り込みを刺激する Arteriosclerosis. 1988;8:263-73.;Mahalingam Y, Gallagher JT, Couchman JR. フィブロネクチンのヘパリン結合(HepII)ドメインへの細胞接着反応は、特定の特性を持つヘパラン硫酸を必要とする。 J Biol Chem. 2007;282:3221-30)。しかし、HSは、非硫酸化NAドメインによって分離された非常に硫酸化されたNSドメインを有することがこうした硫酸化ヘパリンとは異なり;こうした性質は、ヘパリンの副作用を伴わずに、タンパク質に選択的に結合するためのユニークな配置を提供する(Gandhi NS, Mancera RL. グリコサミノグリカンの構造およびタンパク質とのその相互作用。Chem Biol Drug Des. 2008;72:455-82.)
【0004】
HSの二糖組成は、グリコシド結合を切断するフラボバクテリウム・ヘパリニウム(Flavobacterium heparinium)酵素、ヘパリナーゼI、IIおよびIIIを用いて、一連の
酵素切断によって解明可能である(Venkataraman G, Shriver Z, Raman R, Sasisekharan
R. 複雑な多糖の配列決定。Science. 1999;286:537-42.;Desai UR, Wang HM, Linhardt RJ. フラボバクテリウム・ヘパリヌム(Flavobacterium-heparinum)由来のヘパリン
・リアーゼに関する特異性研究 Biochemistry. 1993;32:8140-5.;Shriver Z, Sundaram
M, Venkataraman G, Fareed J, Linhardt R, Biemann K.ら ヘパリナーゼによるヘパリンにおけるアンチトロンビンIII結合部位の切断および低分子量ヘパリンの生成におけるその関与。Proc Natl Acad Sci U S A. 2000;97:10365-70)。3つすべてのヘパリナーゼを組み合わせて用いると、ヘパリンまたはHSの90%より高い脱重合が可能である(Karamanos NK, Vanky P, Tzanakakis GN, Tsegenidis T, Hjerpe A. ヘパリンおよびヘ
パラン硫酸における二糖組成を決定するためのイオン対高性能液体クロマトグラフィ。J Chromatogr A. 1997;765:169-79.;Vynios DH, Karamanos NK, Tsiganos CP. グリコサ
ミノグリカンの分析における進歩:結合組織の生理学的および病的状態の評価のための適用。 J Chromatogr B. 2002;781:21-38.)。生じる二糖混合物を、既知の二糖標準との比較によって、PAGE(Hampson IN, Gallagher JT. ポリアクリルアミド-ゲル電気泳
動による放射標識グリコサミノグリカン・オリゴ糖の分離 Biochem J. 1984;221:697-705.)、SAX-HPLC(Skidmore M AA, Yates EおよびTurnbull JE. HPLCおよびMS分離のための発色団、蛍光およびマスタグでのヘパラン硫酸糖の標識。Methods in Molecular biology. 2009;534:157-69.)、または高感度キャピラリー電気泳動(CE)(Lamari F, Militsopoulou M, Gioldassi X, Karamanos NK. キャピラリー電気泳動:プ
ロテオグリカン中のグリカン部分の単糖、二糖およびオリゴ糖構成要素分析のための優れた小型ツール。Fresenius J Anal Chem. 2001;371:157-67.;Karamanos NK, Vanky P, Tzanakakis GN, Hjerpe A. ヘパリンおよびヘパラン硫酸二糖を性質決定する高性能キャ
ピラリー電気泳動法。Electrophoresis. 1996;17:391-5.;Sudhalter J, Folkman J, Svahn CM, Bergendal K, Damore PA. ヘパリンによる酸性線維芽細胞増殖因子の増強における、サイズ、硫酸化、および抗凝固活性の重要性 J Biol Chem. 1989;264:6892-7.;Militsopoulou M, Lamari FN, Hjerpe A, Karamanos NK. 紫外およびレーザー誘導蛍光検出を用いたキャピラリーゾーン電気泳動による2-アミノアクリドン誘導体としての12のヘパリンおよびヘパラン硫酸由来二糖の決定。Electrophoresis. 2002;23:1104-9)によ
って分析することも可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Lindahl U, Backstrom G, Hook M, Thunberg L, Fransson LA, Linker A. Proc Natl Acad Sci U S A. 1979;76:3198-202
【文献】Falcone DJ, Salisbury BGJ. Arteriosclerosis. 1988;8:263-73
【文献】Mahalingam Y, Gallagher JT, Couchman JR. J Biol Chem. 2007;282:3221-30
【文献】Gandhi NS, Mancera RL. Chem Biol Drug Des. 2008;72:455-82
【文献】Venkataraman G, Shriver Z, Raman R, Sasisekharan R. Science. 1999;286:537-42
【文献】Desai UR, Wang HM, Linhardt RJ. Biochemistry. 1993;32:8140-5
【文献】Shriver Z, Sundaram M, Venkataraman G, Fareed J, Linhardt R, Biemann Kら. Proc Natl Acad Sci U S A. 2000;97:10365-70
【文献】Karamanos NK, Vanky P, Tzanakakis GN, Tsegenidis T, Hjerpe A. J Chromatogr A. 1997;765:169-79
【文献】Vynios DH, Karamanos NK, Tsiganos CP. J Chromatogr B. 2002;781:21-38
【文献】Hampson IN, Gallagher JT. Biochem J. 1984;221:697-705
【文献】Skidmore M AA, Yates EおよびTurnbull JE. Methods in Molecular biology. 2009;534:157-69
【文献】Lamari F, Militsopoulou M, Gioldassi X, Karamanos NK. Fresenius J Anal Chem. 2001;371:157-6
【文献】Karamanos NK, Vanky P, Tzanakakis GN, Hjerpe A. Electrophoresis. 1996;17:391-5
【文献】Sudhalter J, Folkman J, Svahn CM, Bergendal K, Damore PA. J Biol Chem. 1989;264:6892-7
【文献】Militsopoulou M, Lamari FN, Hjerpe A, Karamanos NK. Electrophoresis. 2002;23:1104-9
【発明の概要】
【0006】
本発明は、ヘパラン硫酸種およびヘパラン硫酸種を含むかまたは該種からなるヘパラン硫酸調製物に関する。ヘパラン硫酸種は、HS16と呼ばれる。HS16は、構造的にそして機能的に関連する単離ヘパラン硫酸の新規クラスを指す。
【0007】
HS16は、TGFβ1に結合し、TGFβ1の熱安定性を増進し、そしてTGFβ1シグナル伝達を増強し、そしてしたがって、間葉系幹細胞の軟骨形成分化を増強することが見出されてきている。
【0008】
本発明の1つの側面において、ヘパラン硫酸HS16を提供する。HS16は、単離された型または実質的に精製された型で提供されることも可能である。これは、ヘパラン硫酸構成要素が少なくとも80%のHS16、より好ましくは少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%、HS16の1つである組成物を提供する工程を含むことも可能である。
【0009】
好ましい態様において、HS16は、RKDLGWKWIHEPKGYH(配列番号1)のアミノ酸配列を有するペプチドまたはポリペプチドに結合することが可能である。ペプチドは、この配列の一端または両端に1またはそれより多いさらなるアミノ酸を有することも可能である。例えば、ペプチドは、この配列の一端または両端に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20またはそれより多いアミノ酸のいずれかを有することも可能である。
【0010】
他の態様において、ポリペプチドはTGFβ1タンパク質である。いくつかの態様において、HS16は、配列番号1のアミノ酸配列を有するかまたは該配列からなるペプチド、あるいはTGFβ1タンパク質に、100μM未満、より好ましくは50μM、40μM、30μM、20μM、10μM、1μM、500nM、100nM、50nM、10nMまたは1nMの1未満のKで、結合する。
【0011】
本明細書に記載する本発明者らの方法論にしたがって、HS16を、得るか、同定するか、単離するかまたは濃縮することも可能であり、該方法は以下の工程:
(i)支持体に接着したポリペプチド分子を有する固体支持体を提供し、ここで、ポリペプチドがRKDLGWKWIHEPKGYHのアミノ酸配列を有するヘパリン結合ドメインを含み;
(ii)ポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体が形成可能であるように、ポリペプチド分子を、グリコサミノグリカンを含む混合物と接触させ;
(iii)混合物の残りからポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体を分配し;
(iv)ポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体から、グリコサミノグリカンを解離させ;
(v)解離したグリコサミノグリカンを収集する
工程を含むことも可能である。
【0012】
場合によって、方法は、サイズ分画工程を、例えば工程(iv)または(v)の後にさらに含むことも可能である。サイズ分画を用いて、選択した閾値、例えばdp4、dp6、dp8、dp10、dp12、dp14、dp16、dp18、dp20、dp22、またはdp24の1つより小さいヘパラン硫酸鎖を除去することも可能である。
【0013】
本発明者の方法論において、混合物は、商業的に入手可能な供給源から得られるグリコサミノグリカンを含むことも可能である。1つの適切な供給源は、ヘパラン硫酸分画、例えば商業的に入手可能なヘパラン硫酸である。1つの適切なヘパラン硫酸分画は、ブタ腸粘膜からのヘパリン単離中に得られることが可能であり、別のものは、ブタ粘膜由来のヘパラン硫酸[HSPM](例えばCelsus Laboratories Inc.のもの-ときに「Celsus HS」と称される)である。
【0014】
ヘパラン硫酸の他の適切な供給源には、任意の哺乳動物(ヒトまたは非ヒト)由来の、特に腎臓、肺または腸粘膜由来のヘパラン硫酸が含まれる。いくつかの態様において、ヘ
パラン硫酸は、ブタまたはウシ腸粘膜、腎臓または肺由来である。
【0015】
本発明の別の側面において、上記の側面の任意の1つに記載のHS16およびTGFβ1タンパク質を含む組成物を提供する。
本発明の1つの側面において、上述の側面にしたがった、HS16を含む医薬組成物または薬剤を提供する。医薬組成物または薬剤は、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤をさらに含むことも可能である。
【0016】
いくつかの態様において、医薬組成物は、治療法において使用するためのものであり、該方法は、組織、例えば結合組織(軟骨、骨、腱、靱帯、皮膚、角膜)または骨折の修復および/または再生を含む。いくつかの態様において、医薬組成物または薬剤は、TGFβ1タンパク質をさらに含むことも可能である。いくつかの態様において、医薬組成物または薬剤は、間葉系幹細胞をさらに含むことも可能である。
【0017】
本発明の別の側面において、医学的治療法において使用するためのHS16を提供する。医学的治療法は、in vivoでの創傷治癒、組織の修復および/または再生、例えば結合
組織(軟骨、骨、腱、靱帯、皮膚、角膜)の修復および/または再生の方法を含むことも可能である。こうした修復および/または再生は、哺乳動物またはヒトにおけるものであることも可能である。
【0018】
本発明の関連する側面において、医学的治療法において使用するための薬剤の製造におけるHS16の使用を提供する。いくつかの態様において、医学的治療法は、上述のような組織の修復および/または再生を含む。
【0019】
本発明のさらなる側面において、バイオマテリアルおよびHS16を含む、生体適合移植物または装具を提供する。いくつかの態様において、移植物または装具はHS16でコーティングされている。いくつかの態様において、移植物または装具はHS16で含浸されている。移植物または装具は、TGFβ1タンパク質で、および/または間葉系幹細胞で、さらにコーティングまたは含浸されていることも可能である。
【0020】
本発明の別の側面において、生体適合移植物または装具を形成する方法であって、バイオマテリアルをHS16でコーティングまたは含浸する工程を含む、前記方法を提供する。いくつかの態様において、方法は、TGFβ1タンパク質および間葉系幹細胞の一方または両方でバイオマテリアルをコーティングまたは含浸する工程をさらに含む。
【0021】
いくつかの側面において、方法は、患者に、HS16および間葉系幹細胞を投与する工程を含むことも可能である。こうした方法において、HS16、TGFβ1タンパク質および間葉系幹細胞の少なくとも2つを、HS16、TGFβ1タンパク質および間葉系幹細胞の少なくとも2つ、ならびに薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤を含む医薬組成物中で配合することも可能である。
【0022】
好ましくは、HS16、TGFβ1タンパク質および間葉系幹細胞をそれぞれ、療法的有効量で提供する。いくつかの態様において、方法は、HS16、および/またはTGFβ1タンパク質および/または間葉系幹細胞、ならびに薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤を含む医薬組成物として、療法的有効量のHS16、および/またはTGFβ1タンパク質および/または間葉系幹細胞を配合する工程をさらに含み、ここで医薬組成物を患者に投与する。
【0023】
本発明の別の側面において、患者を治療する方法であって、バイオマテリアルおよびHS16を含む生体適合移植物または装具を、患者組織内または骨折部位周囲に外科的に移
植する工程を含む前記方法を提供する。
【0024】
いくつかの態様において、移植物または装具は、HS16でコーティングされる。いくつかの態様において、移植物または装具は、HS16で含浸される。いくつかの態様において、移植物または装具は、TGFβ1タンパク質および間葉系幹細胞の一方または両方でさらに含浸される。
【0025】
本発明のさらなる側面において、HS16を含む培地を提供する。
本発明の別の側面において、in vitroの細胞培養におけるHS16の使用を提供する。本発明の関連する側面において、in vitroの結合組織増殖におけるHS16の使用を提供する。本発明の別の関連する側面において、in vitroで結合組織を増殖させるための方法であって、外因性に添加されたHS16と接触させて間葉系幹細胞を培養する工程を含む、前記方法を提供する。
【0026】
本発明のさらにさらなる側面において、治療が必要なヒトまたは動物患者における、組織、例えば結合組織の修復、置換または再生のための方法であって:
(i)間葉系幹細胞が組織を形成するために十分な期間、該細胞を、HS16と接触させて、in vitroで培養し;
(ii)前記組織を収集し;
(iii)傷害または疾患の部位で、前記組織を患者の体内に移植して、患者において、組織を修復、置換または再生する
工程を含む、前記方法を提供する。
【0027】
組織は、結合組織、例えば骨、軟骨、腱、皮膚または脂肪であることも可能である。いくつかの態様において、方法は、培養中の間葉系幹細胞を外因性TGFβ1タンパク質と接触させる工程をさらに含む。
【0028】
本発明の別の側面において、HS16の存在下で間葉系幹細胞のin vitro培養によって得られる組織を提供する。いくつかの態様において、組織は、HS16およびTGFβ1タンパク質の存在下で、間葉系幹細胞のin vitro培養によって得られる。
【0029】
本発明のさらなる側面において、幹細胞、例えば間葉系幹細胞を培養する方法であって、HS16と接触させて幹細胞を培養する工程を含む、前記方法を提供する。
本発明のいくつかの側面において、in vitroで幹細胞を培養する方法であって、ヘパラン硫酸HS16と接触させて、in vitroで幹細胞を培養する工程を含む、前記方法を提供する。HS16は、好ましくは外因性であり、そして単離され、そして補充物として、例えば培地の一部として、培養に添加される。
【0030】
本発明のさらにさらなる側面において、キットオブパーツ(kit of parts)であって、あらかじめ決定した量のHS16およびあらかじめ決定した量のTGFβ1を含む、前記キットを提供する。該キットは、あらかじめ決定した量のHS16を含有する第一の容器およびあらかじめ決定した量のTGFβ1を含有する第二の容器を含むことも可能である。キットは、あらかじめ決定した量の間葉系幹細胞をさらに含むことも可能である。キットは、医学的治療法において使用するために提供されることも可能である。医学的治療法は、in vivoの創傷治癒、組織、例えば結合組織(例えば、軟骨、骨、腱、靱帯、皮膚、
角膜)の修復および/または再生の方法を含むことも可能である。修復および/または再生は、哺乳動物またはヒトにおけるものであることも可能である。キットは、医学的治療法を提供するため、HS16、TGFβ1タンパク質および/または間葉系幹細胞を別個に、連続してまたは同時に投与するための使用説明書とともに提供されることも可能である。
【0031】
本発明のさらなる側面において、医学的治療法において、同時に、別個にまたは連続して使用するための、療法的有効量の:
(i)HS16;および
(ii)TGFβ1;
(iii)間葉系幹細胞、または線維芽細胞系譜の細胞
の一方または両方を含有する、産物を提供する。医学的治療法は、in vivoの創傷治癒、
結合組織の修復および/または再生の方法を含むことも可能である。修復および/または再生は、哺乳動物またはヒトにおけるものであることも可能である。産物は、場合によって、共投与のための組み合わせ調製物として配合されることも可能である。
【0032】
本明細書に示すように、HS16は、TGFβ1を安定化し、そしてそれによってその作用を延長する特性を有する。HS16は、培地中でTGFβ1が分解されることを防止する。これは、通常、TGFβ1調製物の貯蔵およびTGFβ1含有培地の調製に有用に適用されうる。
【0033】
こうしたものとして、本発明の1つの側面において、増殖因子および単離HS16を含む組成物を提供する。増殖因子は、タンパク質増殖因子であることも可能であり、そして好ましくはTGFβ1である。組成物は、単離TGFβ1および単離HS16を含むことも可能である。いくつかの態様において、組成物は培地であることも可能である。他の態様において、組成物は、TGFβ1を含有する医薬組成物または薬剤であることも可能である。
【0034】
組成物は、容器中にTGFβ1および単離HS16を含むTGFβ1調製物であることも可能である。適切な容器は、瓶、バイアル、チューブまたはシリンジであることも可能である。
【0035】
増殖因子の安定性を増加させる方法であって、増殖因子を単離HS16と接触させる工程を含む、前記方法もまた提供する。
増殖因子の安定性を、半減期、すなわち所定の組成物中の増殖因子の半分が分解され、そして/またはその活性を失うために掛かる時間の量に関して、測定することも可能である。増殖因子は、好ましくは、タンパク質増殖因子、より好ましくはTGFβ1である。HS16は、TGFβ1半減期を維持し、そして延長するよう作用する。該方法は、単離HS16を増殖因子(例えばTGFβ1)とin vitroで、例えば増殖因子(例えばTGFβ1)組成物の調製、その保存または輸送の一部として、接触させる工程を含むことも可能である。あるいは、該方法は、例えば、増殖因子(例えばTGFβ1)[組織中に天然に存在するかまたは組織に外因性に添加されたもの]が存在する組織に、単離HS16を投与することによって、in vivoで、単離HS16を増殖因子(例えばTGFβ1)と接
触させる工程を含むことも可能である。該方法はまた、外因性増殖因子(例えばTGFβ1)を組織に添加する工程を含むことも可能である。
【0036】
単離HS16を含有する所定の組成物または組織(または単離HS16が添加されているもの)におけるTGFβ1の安定性を、HS16を含有しない(または単離HS16が添加されていない)匹敵する組成物に対して比較することも可能である。上述の組成物および方法において、HS16は本明細書に記載するように精製されていることも可能である。TGFβ1は、単離され、そして/または精製され、単離されずまたは部分的に単離され、例えば細胞外マトリックス材料の一部として、あるいは細胞組成物中に存在することも可能である。単離または精製TGFβ1は、組換えTGFβ1であることも可能である。組換えTGFβ1は、多くの商業的製造者から商業的に入手可能である。
【0037】
いくつかの側面において、HS16は、血液由来産物の産生中の保存剤および/または保存料として用いる。いくつかの態様において、血液由来産物には、血小板、血小板産物、血小板溶解物、血小板リッチ血漿(PRP)が含まれる。血液由来産物は、血液または血清から単離され、そして場合によって血液および/または血清の他の構成要素から濃縮されるかまたは分配されることも可能である。
【0038】
いくつかの側面において、血液由来産物(単数または複数)の調製物であって、血液由来産物およびあらかじめ決定した量のHS16を含む前記調製物を提供する。HS16は、好ましくは単離されたまたは精製された型であり、そして好ましくは、血液由来産物(単数または複数)に対して外因性であり、血液由来産物(単数または複数)に添加される。調製物は、HS16が添加されている、血小板調製物、例えば血小板、血小板産物、血小板溶解物または血小板リッチ血漿(PRP)であることも可能である。
【0039】
上記にしたがって、生物学的材料、好ましくはTGFβ1を含む生物学的材料を保存する方法であって、生物学的材料をあらかじめ決定した量のHS16に接触させる工程を含む、前記方法を提供する。いくつかの態様において、生物学的材料は、細胞材料、組織、血液由来産物、細胞、または幹細胞より選択されることも可能である。
【0040】
本発明の別の側面において、幹細胞の単離および/またはプロセシング中に使用するためのHS16を提供する。いくつかの態様において、幹細胞の培養および/または拡大中に使用するための試薬として、HS16を提供する。したがって、幹細胞を単離するか、プロセシングするか、培養するかまたは拡大する方法であって、幹細胞をあらかじめ決定した量のHS16と接触させる工程を含む前記方法を提供することも可能である。幹細胞は場合によってTGFβ1を発現することも可能である。
【0041】
場合によって、本発明の側面および態様には、Mantonら(Journal of Cellular Physiology 209:219-229(2006))に記載されるようなHSは含まれない。
図面の簡単な説明
本発明の原理を例示する態様および実験は、ここで、付随する図に関連して論じられるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1-1】図1Aおよび1B。ヘパリンがTGF-β1に結合することを示すチャート。(A)TGF-β1がヘパリンに結合する能力を決定するGAG結合プレートアッセイの結果を示すチャート。エラーバーは標準偏差を示す、n=3。(B)多様な濃度(50~800nM)の注入TGF-β1に対する結合反応の変化を示すSPRセンソグラム。注入タンパク質の関数として、結合反応(RU)をプロットすることによって標準曲線を用意した。ヘパリンに対するTGF-β1結合のKは~0.475μMと概算された。
図1-2】図1Aおよび1B。ヘパリンがTGF-β1に結合することを示すチャート。(A)TGF-β1がヘパリンに結合する能力を決定するGAG結合プレートアッセイの結果を示すチャート。エラーバーは標準偏差を示す、n=3。(B)多様な濃度(50~800nM)の注入TGF-β1に対する結合反応の変化を示すSPRセンソグラム。注入タンパク質の関数として、結合反応(RU)をプロットすることによって標準曲線を用意した。ヘパリンに対するTGF-β1結合のKは~0.475μMと概算された。
図2-1】図2A~2D。ヘパリン結合は、TGF-β1活性を増強する。(A)ヘパリン(25μM)を伴う(TGF-β1+Hep)または伴わない(TGF-β1)、TGF-β1(2.5μM)およびDTT(10mM)のDSFから得られる融解曲線の一次導関数を示すチャート。各グラフのピークで、各条件下でのTGF-β1の融解温度を取った。(B)相対タンパク質レベルを示すウェスタンブロットおよびチャート:細胞を、多様な量(0、10または40μg/ml)のヘパリン(Hep)と室温で10分間プレインキュベーションした、TGF-β1(1または5ng/ml)で処理し、そして6時間後に溶解した。リン酸化SMAD2(pSMAD2)およびSMAD3(pSMAD3)、総SMAD2/3およびアクチン・レベルをウェスタンブロッティングによって決定し、そしてアクチンに比較して濃度測定によって定量化した。エラーバーは標準偏差を示す、n=3。
図2-2】図2A~2D。ヘパリン結合は、TGF-β1活性を増強する。(C)軟骨形成培地(培地)またはヘパリン(10μg/ml)を含む軟骨形成培地(培地+Hep)中で、3日間培養した軟骨形成微量ペレットにおけるSOX9およびCOMPの定量的PCRの結果を示すチャート。エラーバーは標準誤差を示し、n=3である。(D)DMSOまたはSB431542(10μM)で処理した後、qPCRによって測定した際の、第3日の軟骨形成微量ペレットにおけるSOX9およびCOMP発現の阻害を示すチャート。エラーバーは標準誤差を示し、n=3である。
図3-1】図3A~3C。TGF-β1結合および活性に関するヘパリンの長さの要件。(A)5または10μgのヘパリン(Hep)またはサイズ分画されたヘパリン(dp4~24)のいずれかと注入前にプレインキュベーションした際の、200nMのTGF-β1の結合反応の変化を示す代表的なSPRセンソグラム。多様なGAGがヘパリン・コーティングチップに対するTGF-β1結合に関して競合する能力を示す代表的な棒グラフ。200nM TGF-β1単独に対してデータを規準化した。
図3-2】図3A~3C。TGF-β1結合および活性に関するヘパリンの長さの要件。(B)TGF-β1が多様なヘパリン断片(dp14~24)または未分画ヘパリン(Hep)に結合する能力を決定する、GAG結合プレートアッセイの結果を示すチャート。エラーバーは、標準偏差を示す、n=3。(C)ウェスタンブロット:細胞を、多様なヘパリン断片(dp14~24)または未分画ヘパリン(Hep)と室温で10分間プレインキュベーションした、TGF-β1(1ng/ml)で処理し、そして6時間で溶解した。リン酸化SMAD2(pSMAD2)およびSMAD3(pSMAD3)、総SMAD2/3およびアクチン・レベルをウェスタンブロッティングによって決定した。
図4-1】図4A~4C。TGF-β1結合および活性に関するヘパリン硫酸化要件。(A)注入前に、5または10μgのヘパリン(Hep)、2-O-脱硫酸化ヘパリン(2-O-脱)、6-O-脱硫酸化ヘパリン(6-O-脱)またはN-脱硫酸化ヘパリン(N-脱)のいずれかとプレインキュベーションした際の、200nMのTGF-β1の結合反応の変化を示す代表的なSPRセンソグラム。多様なGAGが、ヘパリン・コーティングチップに対するTGF-β1結合に関して競合する能力を示す、代表的な棒グラフ。200nM TGF-β1単独に対してデータを規準化した。
図4-2】図4A~4C。TGF-β1結合および活性に関するヘパリン硫酸化要件。(B)TGF-β1が、選択的に脱硫酸化された(2-O-脱、6-O-脱またはN-脱)または完全に硫酸化されているヘパリン(Hep)に結合する能力を決定する、GAG結合プレートアッセイを示すチャート。エラーバーは標準偏差を示す、n=3。(C)ウェスタンブロット:細胞を、多様な選択的に脱硫酸化された(2-O-脱、6-O-脱またはN-脱)または完全に硫酸化されているヘパリン(Hep)と室温で10分間プレインキュベーションした、TGF-β1(1ng/ml)で処理し、そして6時間で溶解した。リン酸化SMAD2(pSMAD2)およびSMAD3(pSMAD3)、総SMAD2/3およびアクチン・レベルをウェスタンブロッティングによって決定した。
図5図5Aおよび5B。TGF-β1ヘパリン結合部位の同定。(A)TGF-β1アミノ酸配列、ならびに保護および標識戦略によって同定されたリジンの位置[配列番号3]。TGF-β1の以前公表されたヘパリン結合ドメイン(HBD)を下線で示す。高信頼度()および中程度の信頼度()で同定されたリジンを示す。(B)TGF-β1の予測される3次元構造上にマッピングされた、同定されたリジンの位置(PDB:1KLC[51])。上列、リボンダイヤグラム。下列、対応する分子表面。左列および右列、水平軸周囲のTGF-β1の180°回転。
図6-1】図6A~6F。アフィニティ選択されたTGF-β1結合性HS(HS16陽性)の単離。(A)商業的に入手可能なHSPMからTGF-β1結合性HS集団の単離に用いたペプチドを示す成熟TGF-β1のアミノ酸配列[配列番号3]。(B)H-ヘパリンに結合するペプチドの能力を決定する、H-ヘパリン結合アッセイの結果を示すチャート。ペプチドをニトロセルロース膜上に吸着させ、そして次いで、H-ヘパリンへの結合を可能にした。ペプチドに結合しているヘパリンの量をシンチレーションカウンターで定量化した。PBSは陰性対照として働いた。エラーバーは標準偏差を示す、n=2。(C)TGF-β1ペプチドでのアフィニティ選択後に得られるHS分画のクロマトグラム。ペプチドに結合しないHS(HS16陰性)が最初に溶出し、一方、ペプチドに結合するHS(HS16陽性)は、1.5M NaClで溶出する。
図6-2】図6A~6F。アフィニティ選択されたTGF-β1結合性HS(HS16陽性)の単離。(D)商業的に入手可能なHSPMからTGF-β1結合性HS集団を単離するために用いたペプチド(P4)およびやはり試験した3つの他のペプチド(P1、P2、P3)を示す、成熟TGF-β1のアミノ酸配列。(E)PBSおよびP1、P2、P3、P4の各々へのHSPMの相対結合を示すチャート。(F)HS16のクロマトグラフィ単離を例示するダイヤグラム。
図7-1】図7A~7C。HS16陽性の特徴付け。(A)HS16陽性(上部)、HS16陰性(中央)およびHSPM(下部)のプロトンNMRスペクトル。矢印は、3つの糖の間のスペクトル相違を示す。
図7-2】図7A~7C。HS16陽性の特徴付け。(B)HS16陽性、HS16陰性およびHSPMのサイズ排除クロマトグラム。ヘパリンサイズ標準(dp8、12、20および26)の溶出時間をグラフ上に示す。(C)ヘパリン・リアーゼで消化したHS16陽性、HS16陰性およびHSPMの二糖組成を示すチャート。
図8-1】図8A~8H。HS16陽性は、TGF-β1に結合し、そしてそのシグナル伝達を増強する。(A)注入前に5または10μgのHS16陽性、HS16陰性またはHSPMのいずれかとプレインキュベーションした際の、200nMのTGF-β1の結合反応の変化を示す、代表的なSPRセンソグラム。多様なGAGが、ヘパリン・コーティングチップに対するTGF-β1結合に関して競合する能力を示す、代表的な棒グラフ。200nM TGF-β1単独に対してデータを規準化した。
図8-2】図8A~8H。HS16陽性は、TGF-β1に結合し、そしてそのシグナル伝達を増強する。(B)ゲル電気泳動の提示:単独でまたは示すGAGとともにインキュベーションしたTGF-β1のプラスミン消化。試料を1.5時間消化し、4~12% SDS-PAGE上で分離し、そして銀染色によって視覚化した。(C)ウェスタンブロット:細胞を、10μg/mlのヘパリン(Hep)、HSPM、HS16陽性またはHS16陰性と室温で10分間プレインキュベーションした、TGF-β1(1ng/ml)で処理し、そして6時間で溶解した。リン酸化SMAD2(pSMAD2)およびSMAD3(pSMAD3)、総SMAD2/3およびアクチン・レベルをウェスタンブロッティングによって決定した。
図8-3】図8A~8H。HS16陽性は、TGF-β1に結合し、そしてそのシグナル伝達を増強する。注入前に、5または10μgの(D)HSPM、(E)HS16陽性、(F)HS16陰性、または(G)ヘパリン(Hep)のいずれかとプレインキュベーションした際の、200nMのTGF-β1の結合反応の変化を示す代表的なSPRセンソグラム。
図8-4】図8A~8H。HS16陽性は、TGF-β1に結合し、そしてそのシグナル伝達を増強する。注入前に、5または10μgの(D)HSPM、(E)HS16陽性、(F)HS16陰性、または(G)ヘパリン(Hep)のいずれかとプレインキュベーションした際の、200nMのTGF-β1の結合反応の変化を示す代表的なSPRセンソグラム。
図8-5】図8A~8H。HS16陽性は、TGF-β1に結合し、そしてそのシグナル伝達を増強する。(H)棒グラフは、多様なGAGが、ヘパリン・コーティング表面に対するTGF-β1結合に関して競合する能力を示す。明確にするために、いかなるGAGも伴わない(すなわち0μg)TGF-β1の結合反応は、ヘパリンに関してのみ示される。データを200nM TGF-β1単独に対して規準化した。エラーバーは標準偏差を示す、n=3。
図9】ヘパリン/HSとTGF-β1の相互作用に関する模式的モデル。Lyonら(2)によって提唱されるモデルにしたがって、ヘパリン/HS鎖(実線)は、いずれかの単量体上のK26残基を通じてTGF-β1と相互作用する。このモデルは、2つのタンパク質単量体の界面間の溝に導かれる、ヘパリン/HS鎖を伴う。K13の位置は、TGF-β1への結合に必要な、こうした空間的配向を採用するように、糖鎖を補助するであろう。Khanら(57)によって最近公表されたヘパリン構造と、予測されるTGF-β1構造を比較すると、また、いずれかの単量体上のK26残基間の距離を架橋するには、dp22ヘパリン断片が十分であることもまた示唆される。
図10図10A~10C。HS16陽性はLTGF-β1シグナル伝達を増強する。(A)ウェスタンブロット:細胞を、10μg/mlのヘパリン(Hep)、HS 、HS16陽性またはHS16陰性と室温で10分間プレインキュベーションした、LTGF-β1(3.3ng/ml)で処理し、そして6時間で溶解した。リン酸化SMAD2(pSMAD2)およびSMAD3(pSMAD3)、総SMAD2/3およびアクチン・レベルをウェスタンブロッティングによって決定した。(B)ヘパリン/HSとLTGF-β1の相互作用に関する模式的モデル。図9と同じヘパリン結合モデルをLTGF-β1構造(PDB:3RJR(60))に適用すると、K13残基は、ヘパリン/HS鎖(赤線)が潜在関連ペプチド(LAP、ベージュに色づけ)の成熟TGF-β1への結合に干渉するように、その配向を補助することも可能である。(C)LAPがどのようにTGF-β1ホモ二量体周囲に巻き付くかを示すLTGF-β1のリボンダイヤグラム。
図11】TGF-β1合成のプロセスを示すダイヤグラム。TGF-β1は、シグナルペプチド(S)、潜在関連ペプチド(LAP)およびTGF-β1自体を含有する390アミノ酸プレプロタンパク質として合成される。翻訳後、シグナルペプチドが切断され、ジスルフィド結合が2つの単量体の間に形成され、そして次いで、LAPがTGF-β1から切断される。LAPおよびTGF-β1は、次いで、非共有的に再会合して、小分子潜在複合体(SLC)としてもまた知られる、潜在TGF-β1(LTGF-β1)を形成する。ジスルフィド結合を黄色に着色する。
図12】HSPM、HS16陽性およびHS3陽性組成の比較。HSPM、HS16陽性、およびHSPMのBMP-2結合分画であるHS3陽性の間の組成相違を示す棒グラフ。HSPMおよびHS16陽性組成をHPLCによって決定し、これはまれなUA,2S-GlcNAc,6S二糖を検出することが不可能であり、一方、HS3陽性組成は、キャピラリー電気泳動によって決定された。エラーバーは誤差区間を示し、これは、信頼性限界を95に設定した、スチューデントのt分布を用いて決定された。HS3陽性に関するデータは[Murali, S.ら,骨修復のためのアフィニティ選択ヘパラン硫酸。Biomaterials, 2013, 34(22):p.5594-5605]から引用し、そして比較のために用いた。
図13-1】図13A~13E。BMP-2へのHS16陽性およびHS3陽性結合の比較。注入前に、5または10μgの(A)HSPM、(B)HS3陽性、(C)HS16陽性または(D)ヘパリン(Hep)のいずれかとプレインキュベーションした際の、25nMのBMP-2の結合反応の変化を示す、代表的なSPRセンソグラム。
図13-2】図13A~13E。BMP-2へのHS16陽性およびHS3陽性結合の比較。注入前に、5または10μgの(A)HSPM、(B)HS3陽性、(C)HS16陽性または(D)ヘパリン(Hep)のいずれかとプレインキュベーションした際の、25nMのBMP-2の結合反応の変化を示す、代表的なSPRセンソグラム。
図13-3】図13A~13E。BMP-2へのHS16陽性およびHS3陽性結合の比較。(E)棒グラフは、多様なGAGがヘパリン・コーティング表面に対するBMP-2結合に関して競合する能力を示す。明確にするために、いかなるGAGも伴わない(すなわち0μg)BMP-2の結合反応は、ヘパリンに関してのみ示される。データを25nM BMP-2単独に対して規準化した。エラーバーは標準偏差を示す、n=3。
図14】HS16陽性のBMP-2増強能。HSPM、HS16陽性およびHS3陽性が、C2C12細胞におけるアルカリホスファターゼ(ALP)のBMP-2駆動発現を増強する能力を示す、棒グラフ。エラーバーは、SDを示す、n=4。P<0.05、**P<0.01、**P<0.001。
図15】分化するhMSCにおける湿重量変化。長期に渡る、TGF-β1で処理した(TGF-β1)またはTGF-β1で処理しない(対照)、軟骨形成分化したペレットの重量変化を示すグラフ。エラーバーはSDを示す、n=3。***対照に比較したP<0.001。
図16-1】図16A~16E。分化するhMSCにおける軟骨形成遺伝子発現。長期に渡る、10ng/mL TGF-β1で処理した(TGF-β1)または処理しない(対照)(A)SOX9、(B)COMP、(C)アグリカン、(D)コラーゲン2α1型、および(E)コラーゲン10α1型mRNA発現レベルを示すグラフ。コラーゲン2α1型mRNAは、対照ペレットにおいては検出されなかった。エラーバーはSDを示す、n=3。対照に比較した、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図16-2】図16A~16E。分化するhMSCにおける軟骨形成遺伝子発現。長期に渡る、10ng/mL TGF-β1で処理した(TGF-β1)または処理しない(対照)(A)SOX9、(B)COMP、(C)アグリカン、(D)コラーゲン2α1型、および(E)コラーゲン10α1型mRNA発現レベルを示すグラフ。コラーゲン2α1型mRNAは、対照ペレットにおいては検出されなかった。エラーバーはSDを示す、n=3。対照に比較した、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図16-3】図16A~16E。分化するhMSCにおける軟骨形成遺伝子発現。長期に渡る、10ng/mL TGF-β1で処理した(TGF-β1)または処理しない(対照)(A)SOX9、(B)COMP、(C)アグリカン、(D)コラーゲン2α1型、および(E)コラーゲン10α1型mRNA発現レベルを示すグラフ。コラーゲン2α1型mRNAは、対照ペレットにおいては検出されなかった。エラーバーはSDを示す、n=3。対照に比較した、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
図17図17Aおよび17B。初期軟骨形成遺伝子発現に対するヘパリンの影響。示す処理を伴う、軟骨形成培地における分化3日後の、hMSCにおける(A)SOX9および(B)COMP mRNA発現レベルを示す棒グラフ。対照-対照;5 Hep-5μg/mLヘパリン;10 Hep-10μg/mLヘパリン;1 TGF-β1-1 ng/mL TGF-β1;10 TGF-β1-10ng/mL TGF-β1。エラーバーはSDを示す、n=3。対照に比較して、P<0.05、***P<。1 TGF-β1に比較して、#P<0.005、###P<0.001。
図18-1】図18A~18D。hMSCの軟骨形成遺伝子発現に対する、単離HS分画の影響。1または10ng/mL TGF-β1(それぞれ1 TGF-β1および10 TGF-β1)および10μg/mLの示すGAGを含む軟骨形成培地中で21日間培養したペレットにおける、(A)SOX9、(B)COMP、(C)アグリカンおよび(D)コラーゲン10α1型mRNA発現レベルを示すスキャッタープロット。コラーゲン2α1型mRNAは、10ng/mL TGF-β1で処理したペレットにおいてのみ検出された。中央の線は平均を示し、一方、エラーバーはSDを示す、n=3。1 TGF-β1に比較して、P<0.05、***P<0.001。1 TGF-β1+HS16陽性データセット中に外れ値があることに注目されたい。
図18-2】図18A~18D。hMSCの軟骨形成遺伝子発現に対する、単離HS分画の影響。1または10ng/mL TGF-β1(それぞれ1 TGF-β1および10 TGF-β1)および10μg/mLの示すGAGを含む軟骨形成培地中で21日間培養したペレットにおける、(A)SOX9、(B)COMP、(C)アグリカンおよび(D)コラーゲン10α1型mRNA発現レベルを示すスキャッタープロット。コラーゲン2α1型mRNAは、10ng/mL TGF-β1で処理したペレットにおいてのみ検出された。中央の線は平均を示し、一方、エラーバーはSDを示す、n=3。1 TGF-β1に比較して、P<0.05、***P<0.001。1 TGF-β1+HS16陽性データセット中に外れ値があることに注目されたい。
図19】成熟ヒト[配列番号3]およびウサギTGF-β1[配列番号4]の配列整列。成熟ヒトTGF-β1の予測されるヘパリン結合ドメイン中のアミノ酸残基を下線で示し、そして「保護および標識」技術によって同定されるリジン(K)を太字で示す。
図20図20Aおよび20B。処置群の巨視的スコア。各処置群に関するICRSIスコアのスキャッタープロット。(A)中央の線は平均スコアを示し、エラーバーはSEを示す。(B)線は平均スコアを示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明者らは、TGFβ1のヘパリン結合ドメインを解明するため、配列に基づくアフィニティクロマトグラフィプラットホームを用いた。これは、TGFβ1結合性ヘパラン硫酸(HS)分画の濃縮を可能にした。
【0044】
用語「硫酸」(sulphate)、「硫酸化された」(sulphated)、および「硫酸化」(sulphation)は、それぞれ、「sulfate」、「sulfated」、および「sulfation」と交換可能
に用いられる。
【0045】
HS16
本発明は、HS16と呼ばれるヘパラン硫酸分子のクラスに関する。HS16分子は、TGFβ1のヘパリン結合ドメインに対応するポリペプチドに結合する、1またはそれより多いグリコサミノグリカン(GAG)を含有する化合物の混合物を濃縮する方法によって得られうる。特に、HS16分子は、アミノ酸配列RKDLGWKWIHEPKGYHを含むかまたは該配列からなる、TGFβ1のヘパラン結合ドメインに結合する、ヘパラン硫酸に関して濃縮することによって得られうる。濃縮プロセスを用いて、HS16を単離することも可能である。
【0046】
本発明はまた、HS16が濃縮された化合物の混合物、およびこうした混合物を用いる方法にも関する。
本明細書記載の方法論によって得られうることに加えて、HS16はまた、機能的にそして構造的に定義されることも可能である。
【0047】
機能的には、HS16は、アミノ酸配列RKDLGWKWIHEPKGYH(配列番号1)を有するかまたは該配列からなるペプチドに結合することが可能である。該ペプチドは、ペプチドの一端または両端に、1またはそれより多いさらなるアミノ酸を含有することも可能であり、またはいくつかの場合、短いアミノ酸リンカー配列(例えば長さ約1~5アミノ酸)および/またはビオチンなどのタグに付着していることも可能である。
【0048】
好ましくは、HS16は、100μM未満、より好ましくは、50μM、40μM、30μM、20μM、10μM、1μM、500nM、100nM、50nM、10nM、1nMまたは100pMの1つ未満のKで、ペプチドに結合する。
【0049】
好ましくは、HS16はまた、100μM未満、より好ましくは、50μM、40μM、30μM、20μM、10μM、1μM、500nM、100nM、50nM、10nM、1nMまたは100pMの1つ未満のKで、TGFβ1タンパク質に結合する。
【0050】
HS16およびTGFβ1タンパク質の間の結合は、以下のアッセイ法によって決定可能である。
GAGを各ウェル中に固定し、そして次いで、製造者の指示にしたがって、TGF-β1に曝露する。簡潔には、3つ組ウェルをまず、標準アッセイ緩衝液(SAB:100mM NaCl、50mM酢酸ナトリウム、0.2%v/v Tween20、pH7.2)中の5μg/mlのヘパリン、HSPM、HS16陽性またはHS16陰性でプレコーティングし、そして次いで、室温で一晩インキュベーションする。プレートを次に、SABで3回、注意深く洗浄し、250μlのブロッキング溶液(0.4%w/v魚皮ゼラチン、Sigma-Aldrich、SAB中)でブロッキングし、そして37℃で1時間インキュベーションする。次いで、TGF-β1を100、200、または400ng/mlの濃度で、ブロッキング溶液中に溶解した。プレートをSABで3回洗浄し、そしてタンパク質の各希釈物(200μl)を3つ組ウェルに分配し、そして37℃で2時間インキュベーションし、SABでリンスし、そしてブロッキング溶液中、200μlの750ng/mlモノクローナルマウス抗TGF-β1抗体(MAB2401、R&D Systems)を添加した。次いで、プレートを37℃で1時間インキュベーションし、SABで洗浄し、そしてブロッキング溶液中、200μlの1μg/mlポリクローナルヤ
ギ抗マウスビオチン化抗体(ab6788、Abcam)を添加した。再び、プレートを37℃で1時間インキュベーションし、SABで洗浄し、そしてブロッキング溶液中、200μlの220ng/ml ExtrAvidin AP(Sigma-Aldrich)を添加し
、37℃で30分間インキュベーションし、そして次いでSABでリンスする。最後に、200μlの現像試薬(SigmaFAST p-ニトロフェニルリン酸、Sigma-Aldrich)を添加し、37℃で40分間インキュベーションし、そして1時間以内に405nm
で読み取る。
【0051】
このアッセイにおいて、吸光度を測定することによって、結合を決定することも可能であり、そして添加されるヘパラン硫酸の非存在下でのTGFβ1タンパク質、またはTGFβ1タンパク質に結合しないヘパラン硫酸が添加されているTGFβ1タンパク質などの対照に比較して決定することも可能である。
【0052】
表面プラズモン共鳴(実験結果を参照されたい)によって、例えばヘパリン、HSPM、HS16陽性またはHS16陰性を用いた競合アッセイにおいて、TGFβ1とHS16のユニークな相互作用を分析することも可能である。
【0053】
HS16の結合は、好ましくは、非特異的結合とは対照的に特異的であり、そしてRKDLGWKWIHEPKGYHを含むペプチド、例えば配列番号1との、またはTGFβ1タンパク質との、高アフィニティ結合相互作用を示すヘパラン硫酸の選択を伴う方法によって、HS16が他のヘパラン硫酸および/またはGAGから選択可能である背景において、特異的である。
【0054】
本発明記載のHS16は、好ましくは、TGFβ1の熱安定性を増進させ、そして間葉系幹細胞のTGFβ1シグナル伝達および軟骨形成分化を増強する。HS16は、TGFβ1の安定化、および/またはTGFβ1の分解の防止および/またはTGFβ1の持続延長が望ましい、任意の適用に使用を見出す。例えばHS16は、血小板製品においてTGFβ1を安定化させることに使用を見出す。
【0055】
ヘパリン・リアーゼI、IIおよびIIIで完全に消化し、そして次いで、生じた二糖断片をHPLC分析に供した後のHS16の二糖組成を以下に示す:
【0056】
【表1】
【0057】
本発明記載のHS16には、ヘパリン・リアーゼI、IIおよびIIIで完全に消化し、そして次いで、生じた二糖断片をHPLC分析に供することによって測定した際、HS16保持種(HS16+)に関する上記の各二糖に関して示した規準化パーセント値の±10%(より好ましくは±9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%または0.5%の1つ)以内の二糖組成を有するヘパラン硫酸が含まれる。
【0058】
ヘパリン・リアーゼI、IIおよびIIIで完全に消化し、そして次いで、生じた二糖断片をHPLC分析に供することによって測定した際、HS16の二糖組成は、以下のいずれか1つに記載の二糖組成を有することも可能である:
【0059】
【表2-1】
【0060】
または
【0061】
【表2-2】
【0062】
または
【0063】
【表2-3】
【0064】
または
【0065】
【表2-4】
【0066】
または
【0067】
【表2-5】
【0068】
または
【0069】
【表2-6】
【0070】
好ましい態様において、列挙する8つの二糖の総重量パーセントは100%(場合によって±3.0%以下、または±2.0%以下、±1.0%以下、±0.5%以下)である。
【0071】
いくつかの態様において、ΔUA,2SGlcNAc,6Sの規準化重量パーセントは上記プロファイルにおけるものとは異なる。例えば、HS16は、ΔUA,2SGlcNAc,6Sを除いて、上述のような規準化重量パーセントで二糖を有することも可能であり、ΔUA,2SGlcNAc,6Sは異なる規準化重量パーセントで存在してもよいし、または存在しなくてもよい。
【0072】
いくつかの態様において、HS16は、ΔUA,2S-GlcNS,6S、ΔUA,2S-GlcNS、ΔUA-GlcNS,6S、ΔUA-GlcNS、ΔUA,2S-GlcNAc、ΔUA-GlcNAc,6SおよびΔUA-GlcNAcに関する上記規準化重量パーセントを参照することによって定義される。
【0073】
HS調製物のヘパリン・リアーゼ酵素消化を、以下のように行うことも可能である:HS調製物(1mg)を各々、500μLの酢酸ナトリウム緩衝液(10mM酢酸カルシウムを含有する100mM、pH7.0)に溶解し、そして各2.5mUの3つの酵素を添加する;試料チューブを穏やかに反転しながら(9rpm)試料を37℃で一晩(24時間)インキュベーションし;さらに各2.5mUの3つの酵素を試料に添加し、試料チューブを穏やかに反転しながら(9rpm)、37℃でさらに48時間インキュベーションし;加熱(100℃、5分間)によって消化を停止し、そして次いで凍結乾燥し;消化物を500μLの水に再懸濁し、そしてアリコット(50μL)を分析のため採取する。
【0074】
特に、HS16を以下のように消化することも可能である:HSPM、HS16陽性およびHS16陰性試料を、水(1100μl)中に溶解し、そして濾過し(Minisart RC15、0.2μmシリンジフィルター装置、Sartorius Stedim、#17761)、いかなる粒子状物質も除去する。さらなるクリーンアップ工程として、濾過した溶液を、遠心分離(4000rpm、1時間、15℃)によって2000MWCO膜(Vivaspin 2、Hydrosart、Sartorius Stedim、#VS02H91、2000MWCO HY膜、2mL限外濾過スピンカラム)に通過させる。残余物を水(3x1ml)で洗浄し、フィルターから回収して、そして凍結乾燥する。精製HS試料を水に溶解し(1mg/ml)、そしてアリコット(2x~1ml)の各凍結乾燥試料を分析のために採取する。Brickmanら(Brickman, Y. G., Ford, M. D., Gallagher, J. T., Nurcombe, V., Bartlett, P. F.,およびTurnbull, J. E.(1998) J Biol Chem 273, 4350-4359)の方法に基づくが、ある程度の修飾を伴い、ヘパリン・リアーゼ酵素(ヘパリン・リアーゼI、IIおよびIII、Ibex Technologies)を
連続添加することによって、HS試料を二糖およびオリゴ糖に消化する。乾燥HS試料を消化緩衝液(500μl;50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.0)中に再溶解し、そしてヘパリン・リアーゼI(5μl;5mIU)を各試料に添加する。回転ホイール(9rpm)上で穏やかに混合しながら試料をインキュベーションする(37℃、2時間)。ヘパリン・リアーゼIII(5μl;5mIU)を消化物に添加し、そしてさらに1時間(上述のように)インキュベーションする。ヘパリン・リアーゼII(5μl;5mIU)を添加し、そして消化物を上述のように18時間インキュベーションする。最後に、3つのヘパリン・リアーゼすべてのアリコット(5μl;5mIU)を同時に添加し、そして消化物をさらに24時間インキュベーションする。加熱(100℃、5分間)によって酵素消化を終結させる。すべての3つのHS試料を2つ組で消化する。
【0075】
いくつかの態様において、HS16鎖は、約12~26の糖単位(重合度、dp)を含む。いくつかの態様において、dp数は、少なくとも12、少なくとも14、少なくとも16、少なくとも18、少なくとも20、少なくとも22、少なくとも24、または少なくとも26の1つであることも可能である。場合によって、26未満であることも可能である。
【0076】
HS16にサイズ分画法を適用することによって、望ましい範囲のサイズ(dp)を有するHS16鎖の組成物を調製することも可能である。
HS16を同定するため、本発明者らは、ヘパリン結合ドメインを有する特定のポリペプチドへの結合を示すグリコサミノグリカン分子を濃縮する工程を伴う方法を用いた。次いで、単離GAG混合物および/または分子を同定し、そしてこれらが、ヘパリン結合ドメインを含有するタンパク質を発現している細胞および組織の増殖および分化を調節する能力に関して試験することも可能である。これによって、in vitroおよびin vivoの両方
で、細胞および組織の増殖および分化に対する特定のGAG糖配列の影響の制御された分析が可能になる。この方法論は、本明細書に援用されるPCT/GB2009/000469(WO2010/030244)に記載される。本発明者らは、TGFβ1に高い結合を有するGAGを単離し、そして特徴付けるために、この方法論をTGFβ1に適用した。
【0077】
したがって、HS16を同定するため、本発明者らは、ヘパリン/ヘパラン結合ドメインを有するタンパク質に結合することが可能なグリコサミノグリカンを単離する方法であって:
(i)支持体に接着したポリペプチド分子を有する固体支持体を提供し、ここで、ポリペプチドがヘパリン結合ドメインを含み;
(ii)ポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体が形成可能であるように、ポリペプチド分子を、グリコサミノグリカンを含む混合物と接触させ;
(iii)混合物の残りからポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体を分配し;
(iv)ポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体から、グリコサミノグリカンを解離させ;
(v)解離したグリコサミノグリカンを収集する
工程を含む、前記方法を提供した。
【0078】
本発明者らはまた、これらが細胞または組織の増殖または分化を調節する能力によって同定される、単離グリコサミノグリカンも提供した。これを行うため、本発明者らは、細胞および/または組織の増殖および/または分化を刺激するかまたは阻害することが可能なグリコサミノグリカンを同定する方法であって:
(i)支持体に接着したポリペプチド分子を有する固体支持体を提供し、ここで、ポリペプチドがヘパリン結合ドメインを含み;
(ii)ポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体が形成可能であるように、ポリペ
プチド分子を、グリコサミノグリカンを含む混合物と接触させ;
(iii)混合物の残りからポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体を分配し;
(iv)ポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体から、グリコサミノグリカンを解離させ;
(v)解離したグリコサミノグリカンを収集し;
(vi)ヘパリン結合ドメインのアミノ酸配列を含有するタンパク質が存在する細胞または組織に、収集したグリコサミノグリカンを添加し;
(vii)細胞の増殖、細胞の分化、1またはそれより多いタンパク質マーカーの発現の1またはそれより多くを測定する
工程を含む、前記方法を提供した。
【0079】
本発明者らは、これらの方法を用いて、TGFB1に結合可能なGAG(これらをHS16と呼ぶ)を同定し、本発明者らの方法論で用いたポリペプチドは、RKDLGWKWIHEPKGYH(配列番号1)のヘパリン結合ドメインを含んだ。
【0080】
本発明者らの方法論において、GAGを含む混合物は、合成グリコサミノグリカンを含有することも可能である。しかし、細胞または組織から得られるGAGが好ましい。GAGを含む混合物は、好ましくはHSPMのようなヘパラン硫酸調製物である。好ましい態様において、GAGはヘパラン硫酸である。
【0081】
ヘパラン硫酸またはGAG構成要素を、当業者に周知の一連のルーチンの分離工程(例えば陰イオン交換クロマトグラフィ)によって、組織または細胞試料または抽出物から抽出することも可能である。
【0082】
GAG混合物は、異なるタイプのグリコサミノグリカンの混合物を含有し、これには、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸およびヘパラン硫酸が含まれることも可能である。好ましくは、固体支持体と接触するGAG混合物では、ヘパラン硫酸が濃縮されている。GAG混合物に対してカラムクロマトグラフィ、例えば弱、中程度または強陰イオン交換クロマトグラフィ、ならびに強陰イオン交換高性能液体クロマトグラフィ(SAX-HPLC)を行い、適切な分画を選択することによって、ヘパラン硫酸濃縮GAG分画を得ることも可能である。
【0083】
GAGを同定するため、例えばGAG組成または配列を決定するため、あるいはGAGの構造特性を決定するため、収集したGAGをさらなる分析に供することも可能である。GAG構造は典型的には非常に複雑であり、そして現在利用可能な分析技術を考慮すると、GAG配列構造の正確な決定は、大部分の場合、不可能である。
【0084】
しかし、収集したGAG分子を部分的または完全糖消化(例えば亜硝酸によって化学的に、またはリアーゼ、例えばヘパリナーゼIIIを用いて酵素的に)に供して、GAGの特徴的でありそしてかつ診断的である糖断片を得ることも可能である。特に、二糖(または四糖)を生じる消化を用いて、得られる各二糖の割合を測定することも可能であり、これは、GAGの特徴的な二糖「フィンガープリント」を提供するであろう。
【0085】
また、GAGの硫酸化のパターンを決定し、そしてこれを用いてGAG構造を決定することも可能である。例えば、ヘパラン硫酸に関して、アミノ糖での、そしてC2、C3およびC6位での硫酸化のパターンを用いて、ヘパラン硫酸を特徴付けることも可能である。
【0086】
二糖分析、四糖分析および硫酸化分析を、他の分析技術、例えば各々、GAGに関するユニークなスペクトルを提供可能であるHPLC、質量分析、およびNMRと組み合わせ
て用いることも可能である。組み合わせると、これらの技術は、GAGの定義構造特性を提供することも可能である。
【0087】
例えば、全体のHS調製物、例えばHSPM(ここからHS16が得られていることも可能である)およびHS16を比較した、HS16のH NMRスペクトルを図7に示す。本発明記載のHS16は、図7のHS16スペクトルに対応するH NMRスペクトルを有することも可能である。
【0088】
GAGおよびヘパリン結合ドメインの間の高アフィニティ結合相互作用は、GAGが高アフィニティ結合相互作用に寄与する特定の糖配列を含有するであろうことを示す。さらなる工程は、GAGの完全または部分的糖配列、あるいは結合相互作用に関与するGAGの重要な部分の決定を含むことも可能である。
【0089】
GAG-ポリペプチド(例えばHS-ポリペプチド)複合体を、グリコサミノグリカン鎖を溶解する剤、例えばリアーゼでの処理に供することも可能である。リアーゼ処理は、ポリペプチドとの結合相互作用に関与しない、結合したGAGの部分を切断することも可能である。ポリペプチドとの結合相互作用に関与するGAGの部分をリアーゼ作用から保護することも可能である。リアーゼを除去した後、例えば洗浄工程後、ポリペプチドに結合したままであるGAG分子は、ポリペプチドの特異的結合パートナー(「GAGリガンド」)に相当する。より短いGAG分子はより低い複雑性を有するため、解離およびGAGリガンド収集後、GAGリガンドのより高い度合いの構造的特徴付けが予期されうる。例えば、任意の糖配列(すなわち、GAGリガンド中に含有される単糖の一次(直鎖)配列)、硫酸化パターン、二糖および/または四糖消化分析、NMRスペクトル、質量分析スペクトルおよびHPLCスペクトルの任意の組み合わせが、GAGリガンドの高レベルの構造特性を提供することも可能である。
【0090】
本明細書において、用語「濃縮する」、「濃縮」、「濃縮された」等は、混合物の相対組成が、1またはそれより多くのこうした実体によって提供される混合物の分画が増加する一方、1またはそれより多くの異なる実体によって提供される混合物の分画が減少するように、改変される(またはされている)プロセス(または状態)を記載する。濃縮によって単離されるGAGは、純粋である、すなわち実質的に1つのタイプのGAGしか含有しないことも可能であるし、またはGAGの異なるタイプの混合物であり続けることも可能であり、該混合物は、出発混合物に比較して、ヘパリン結合ドメインに結合する特定のGAGのより高い比率を有する。
【0091】
HS16は、好ましくは、ヘパリン結合ドメインを含有するタンパク質が発現されるかまたは含有される細胞または組織と接触させた際に、機能的影響を示す。機能的影響は、影響を調節するかまたは増強することも可能である。
【0092】
機能的影響は、特定のタイプの細胞の増殖または1つの細胞タイプの別のものへの分化、あるいは1またはそれより多いタンパク質マーカーの発現を促進する(刺激する)ことであることも可能である。例えば、HS16は、幹細胞の特殊化細胞タイプへの分化を促進することも可能である(例えば間葉系幹細胞の結合組織への分化)。
【0093】
本明細書において、用語「調節効果」は、第一の実体が第二の実体に有する効果であって、単数または複数の別のプロセスにおける第二の実体の正常な機能が、第一の実体の存在によって修飾される、前記効果を意味すると理解される。調節効果は、アゴニスト性またはアンタゴニスト性のいずれであることも可能である。
【0094】
調節効果は増強効果であることも可能である。用語「増強効果」は、強度を増加させる
効果を意味すると理解される。本発明の好ましい態様において、用語「増強効果」は、第一の実体が第二の実体に対して有する効果であって、単数または複数の別のプロセスにおける第二の実体の強度を増加させる、前記効果を意味すると理解される。本発明のさらなる好ましい態様において、増強効果は、ヘパリン結合因子に対する単離GAGの効果を意味すると理解され、前記効果は、前記ヘパリン結合因子の強度を増加させる。
【0095】
本明細書において、「接触」プロセスは、2またはそれより多い別個の実体を緊密な物理的近傍に置くことを伴う。「接触」プロセスは、2またはそれより多い別個の実体を、分子レベルでこれらの2またはそれより多い別個の実体の部分が相互作用することを可能にするために十分な時間、および条件下で、緊密な物理的近傍に置くことを伴う。好ましくは、本明細書において、「接触」プロセスは、1またはそれより多いGAGおよびヘパリン結合因子のヘパリン結合ドメインに対応するポリペプチドを所持する化合物混合物を緊密な近傍に置くことを伴う。「接触」プロセスの例には、混合、溶解、膨張、洗浄が含まれる。好ましい態様において、GAG混合物およびポリペプチドの「接触」は、共有的であることも可能であるが、好ましくは非共有的に、互いに高アフィニティを示すGAGおよびポリペプチドの間で複合体が形成されるために十分である。
【0096】
ポリペプチドは、ヘパリン結合ドメインを有する、選択されるタンパク質の全長またはほぼ全長一次アミノ酸配列を含むことも可能である。より長いポリペプチドではフォールディングが生じて、GAG混合物からヘパリン結合ドメインのマスキングを導く可能性があるため、ポリペプチドは短いことが好ましい。好ましくは、ポリペプチドは、ヘパリン結合ドメインを含むかまたは該ドメインからなるアミノ酸配列を有し、そして場合によって、ペプチドのNおよびC末端の一方または各々に、1またはそれより多いアミノ酸を含むことも可能である。これらのさらなるアミノ酸は、固体支持体にポリペプチドを付着させるために必要な、ポリペプチドへのリンカーまたは付着分子(例えばタグ、例えばビオチン)の付加を可能にしうる。
【0097】
本発明者らの方法論の好ましい態様において、ヘパリン結合ドメイン中のアミノ酸の数に加えて、ポリペプチドは、1~20以下の、より好ましくは1~10、さらにより好ましくは1~5のさらなるアミノ酸、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20アミノ酸のいずれかを、ポリペプチドのCおよび/またはN末端の一方または両方に含有する。いくつかの態様において、ヘパリン結合ドメインのアミノ酸配列は、ポリペプチドのアミノ酸の少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の1つを構成する。固体支持体の表面にポリペプチドを接着させるため、ポリペプチドは、好ましくは、分子タグを含むよう修飾され、そして固体支持体表面は、該分子タグに対して高アフィニティを有する対応する分子プローブを取り込むように修飾され、すなわち分子タグおよびプローブは結合対を形成する。タグおよび/またはプローブは:抗体、細胞受容体、リガンド、ビオチン、これらの構造の任意の断片または誘導体、前述のものの任意の組み合わせ、あるいはプローブが結合するかまたは別の方式で特異性を持って会合するように設計または設定されることも可能な任意の他の構造のいずれか1つより選択されることも可能である。タグおよびプローブとして使用するために適した好ましい結合対は、ビオチンおよびアビジンである。
【0098】
ポリペプチドは、関心対象のタンパク質に由来し、本発明の場合はTGFβ1である。「に由来する」によって、ポリペプチドが、関心対象のタンパク質中に存在するヘパリン結合ドメインのアミノ酸配列を含有するため、該ポリペプチドが選ばれ、選択されまたは調製されることを意味する。ヘパリン結合ドメインのアミノ酸配列は、例えば、GAG結合に対するヘパリン結合ドメイン配列の変化の影響を調べるため、関心対象のタンパク質
に現れる形から修飾されていることも可能である。
【0099】
本明細書において、タンパク質はTGFB1である。好ましいヘパリン結合ドメインのアミノ酸配列は、RKDLGWKWIHEPKGYH(配列番号1)である。
当業者によって、特定のポリペプチドのアミノ酸配列の小さな変動は、その部分の生得的な機能が維持されることを可能にしうることが理解される。ペプチド内の特定のアミノ酸残基の、等比体積のおよび/または等電子数の他のアミノ酸残基での置換が、未置換ペプチドの特定の特性を維持するかまたは改善するかいずれかでありうることもまた理解される。これらの変動もまた、本発明の範囲内に含まれる。例えば、アミノ酸アラニンは、ときに、ペプチドの1またはそれより多くの特性を維持しながら、アミノ酸グリシンに置換可能である(そしてその逆も可能である)。用語「等比体積」は、2つの実体間の空間的類似性を指す。中程度に上昇した温度で等比体積である部分の2つの例は、イソプロピルおよびtert-ブチル基である。用語「等電子数」は、2つの実体間の電子類似性を指し、この1例は、2つの実体が同じまたは類似のpKaの官能性を所持する場合である。
【0100】
ヘパリン結合ドメインに対応するポリペプチドは、合成または組換えであることも可能である。
固体支持体は、分子が、直接または間接的に、共有または比共有結合のいずれかを通じて付着可能である表面を有する任意の支持体であることも可能である。固体支持体には、表面に付着するプローブに物理的支持を提供することが可能な任意の支持材料が含まれることも可能である。これはマトリックス支持体であることも可能である。材料は、一般的に、表面へのプローブの付着に関連する条件、およびアッセイ実行中に遭遇するいかなる続く処理、取り扱い、またはプロセシングにも耐えることが可能である。材料は、天然存在、合成、または天然存在材料の修飾であることも可能である。固体支持体は、プラスチック材料(ポリマー、例えばポリ(塩化ビニル)、シクロ-オレフィン・コポリマー、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルブテン)、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFEまたはテフロン(登録商標))、ナイロン、ポリ(酪酸ビニル))等であることも可能であり、これら自体を用いるかまたは他の材料と組み合わせて用いることも可能である。さらなる剛性材料を考慮することも可能であり、例えばシリカを含むガラス、そしてさらに、例えばバイオガラスとして入手可能なガラスが含まれる。使用可能な他の材料には、多孔性材料、例えば制御孔ガラスビーズが含まれる。例えば表面上に取り込まれた、1またはそれより多い官能基、例えばアミノ、カルボキシル、チオール、またはヒドロキシル官能基を有することが可能な、当該技術分野に知られる任意の他の材料もまた意図される。
【0101】
好ましい固体支持体には、カラム表面上に固定されるポリペプチドを有するカラムが含まれる。表面は、カラムの壁であることも可能であり、そして/またはカラムの中央空間にパッケージングされたビーズによって提供されることも可能である。
【0102】
ポリペプチドを固体支持体上に固定することも可能である。固定法の例には:吸着、共有結合、捕捉および膜拘束が含まれる。本発明の好ましい態様において、ポリペプチドおよびマトリックスの間の相互作用は、実質的に永続性である。本発明のさらなる好ましい態様において、ペプチドおよびマトリックスの間の相互作用は、適切には、イオン交換クロマトグラフィに対して不活性である。好ましい配置において、ポリペプチドは、固体支持体表面に付着される。当業者は、化学的にそして/または物理的に2つの実体を互いに付着させるため、選択される非常に多様なオプションを有することが理解される。これらのオプションは、すべて、本発明の範囲内に含まれる。好ましい配置において、ポリペプチドは、ストレプトアビジンとビオチンの相互作用を通じて、固体支持体に吸着される。
この配置の代表的な例では、ビオチン分子が、ポリペプチドに共有結合し、ビオチン-ポリペプチドコンジュゲートがストレプトアビジンに結合すると、ストレプトアビジンは次に、固体支持体に共有結合している。別の配置において、スペーサーまたはリンカー部分を用いて、ビオチン分子とポリペプチドを、そして/またはストレプトアビジンとマトリックスを連結することも可能である。
【0103】
GAG混合物と固体支持体を接触させることによって、GAG-ポリペプチド複合体が形成可能となる。固体支持体から混合物の残りを除去することによって、例えば固体支持体を洗浄して、非結合物質を溶出させることによって、これらを混合物の残りから分配する。カラムを固体支持体として用いる場合、GAG混合物の非結合構成要素をカラムから溶出し、カラムに結合したGAGポリペプチド複合体を残すことも可能である。
【0104】
特定のオリゴ糖は、非特異的方式でポリペプチドと相互作用する可能性もあることが理解される。特定の態様において、非特異的方式でポリペプチドと相互作用するオリゴ糖は、ヘパリン結合因子の影響を調節する1またはそれより多いGAGが濃縮された化合物の混合物に含まれるか、または該混合物から排除されることも可能である。非特異的相互作用の例は、適切なサイズおよび/または形状の分子のポケット内の一時的な拘束である。さらに、これらのオリゴ糖は、ペプチトとまったく相互作用を示さないオリゴ糖よりもより緩慢に溶出する可能性もあることが理解される。さらに、非特異的に結合する化合物は、溶出させるために、特異的方式で(例えばイオン性相互作用を通じて)結合する化合物に関するものと同じ外部刺激の投入は必要としない可能性もあることが理解される。本発明者の方法論は、オリゴ糖の混合物を:ポリペプチドと高アフィニティ様式で結合するもの;ポリペプチと低アフィニティ様式で結合するもの;およびポリペプチドと結合しない、その混合物の構成要素に分離することが可能である。これらの指摘は、各GAG-ペプチド対に関して、操作的に定義される。
【0105】
GAGおよびポリペプチドの結合が起こる、固体支持体表面に存在する条件(例えば塩濃度)を変化させることによって、ヘパリン結合ドメインに対して最高のアフィニティおよび/または特異性を有するGAGを選択することも可能である。したがって、関心対象のタンパク質および/または関心対象のタンパク質のヘパリン結合ドメインに対して高い結合アフィニティを有するGAGを得ることも可能である。結合アフィニティ(K)を:10μM未満、1μM未満、100nM未満、10nM未満、1nM未満、100pM未満の1つから選択することも可能である。
【0106】
記載する方法によって得られるHS16は、in vitroおよび/またはin vivoのある範
囲の適用に有用である可能性もある。in vitroの細胞または組織培養、あるいはin vivo
の細胞または組織のいずれかにおいて、細胞または組織成長および/または増殖および/または分化の刺激または阻害に使用するために、HS16を提供することも可能である。
【0107】
HS16をこうしたプロセスのための配合物として提供することも可能である。例えば、HS16を含む培地を提供することも可能である。
HS16の存在下で、in vitroの細胞または組織培養から得られる細胞または組織を収集し、そして治療が必要なヒトまたは動物患者内に移植することも可能である。したがって、細胞および/または組織の移植法であって:
(a)in vitroで、HS16と接触させて、細胞および/または組織を培養し;
(b)細胞および/または組織を収集し;
(c)治療が必要なヒトまたは動物被験体内に細胞および/または組織を移植する
工程を含む、前記方法を提供することも可能である。
【0108】
HS16と接触させる部分(a)において、細胞または組織の成長、増殖または分化を
可能にするために十分な期間、細胞を培養することも可能である。例えば、期間を:少なくとも5日間、少なくとも10日間、少なくとも20日間、少なくとも30日間または少なくとも40日間から選択することも可能である。
【0109】
別の態様において、HS16を、傷害または疾患の防止または治療を含む、医学的治療法で使用するために配合することも可能である。HS16および薬学的に許容されうる希釈剤、キャリアーまたはアジュバントを含む医薬組成物または薬剤を提供することも可能である。こうした医薬組成物または薬剤を、傷害または疾患の防止または治療のために提供することも可能である。傷害または疾患の防止または治療のための薬剤製造におけるHS16の使用もまた提供する。場合によって、本発明記載の医薬組成物および薬剤はまた、GAGが結合するヘパリン結合ドメインを有する関心対象のタンパク質(すなわちTGFβ1)も含有することも可能である。さらなる態様において、医薬組成物および薬剤は、幹細胞、例えば間葉系幹細胞をさらに含むことも可能である。
【0110】
傷害または疾患の防止または治療は、細胞または組織、例えば皮膚を含む結合組織(例えば骨、軟骨、筋肉、脂肪、腱、靱帯)の強化、修復、再生または置換を含むことも可能である。組織の修復のため、新規組織の成長、増殖および/または分化を刺激して、傷害の修復を達成するか、あるいは疾患状態を治癒させるかまたは軽減する(例えば症状の緩和を提供する)ために、HS16を含む医薬組成物または薬剤を、傷害または疾患の部位に直接投与することも可能である。医薬組成物または薬剤において、幹細胞を組み合わせることによって、組織の修復または再生を改善することも可能である。
【0111】
いくつかの使用は、皮膚の修復または若返りの一部として、皮膚にHS16の適用を伴うことも可能である。これは、皮膚バリアの修復および/または若返り、ならびに/あるいは皮膚の外見の改善を伴う、療法的および/または美容的適用であることも可能である。例えば、火傷または他の瘢痕の外見を修復するか、若返らせるか、そして/または改善するために、HS16を皮膚に適用することも可能である。
【0112】
組織の置換のため、患者の傷害または疾患部位での移植用の細胞および/または組織を生成するために、細胞および/または組織のin vitro培養中に、HS16を細胞および/または組織と接触させることも可能である。細胞または組織の移植を用いて、傷害または疾患組織の置換によって、患者において、傷害または疾患組織の修復を達成することも可能である。これは、傷害/疾患組織の切除、ならびにHS16と接触させて細胞および/または組織を培養することによって調製された新規組織の移植を伴うことも可能である。
【0113】
本発明記載の医薬組成物および化粧用組成物および薬剤は、したがって:
(a)HS16;
(b)幹細胞と組み合わせたHS16;
(c)HS16によって結合されるヘパリン結合ドメイン(例えばRKDLGWKWIHEPKGYH)を含有するタンパク質と組み合わせたHS16;
(d)幹細胞およびHS16によって結合されるヘパリン結合ドメイン(例えばRKDLGWKWIHEPKGYH)を含有するタンパク質と組み合わせたHS16;
(e)HS16と接触させた細胞または組織の培養から得られる組織または細胞
の1つを含むことも可能である。
【0114】
HS16を体性組織、特に結合組織の修復または再生に用いることも可能である。したがって、HS16を用いて、結合組織における/への広範囲の疾患および傷害を防止または治療することも可能である。
【0115】
組織の修復、再生または置換におけるHS16の使用は、創傷治癒、例えば創傷治癒の
加速、瘢痕または骨組織の治癒および組織移植における使用を伴うことも可能である。
いくつかの側面において、本発明は、HS16の投与を含む、美容的治療に関する。「美容的」は、本明細書において、非療法的である。美容的治療を用いて、皮膚の外見および/またはテクスチャーを改善することも可能である。
【0116】
いくつかの側面において、本発明は、HS16の投与を含む美容的治療法に関する。本明細書において、用語「美容的方法」には、EPC第53条(c)にしたがって、ヒトまたは動物の体に実施する、手術または療法、あるいは診断法による、ヒトまたは動物の体の治療のための方法は含まれない。美容的方法において、被験体はHS16の療法的投与を必要としない。
【0117】
本発明はまた、HS16を含む化粧用組成物も提供する。該組成物を用いて、皮膚の外見を改善することも可能である。化粧用組成物は、以下に記載するように、医薬組成物と類似に配合することも可能である。美容的に有効な量のHS16を被験体に投与することも可能である。これは、美容的利益を誘導するために有効なHS16の量である。これは、適切な施術者の健全な判断内にあり、施術者は、活性化合物または活性化合物を含有する組成物の適切な投薬量は、被験者間で多様でありうることを認識するであろう。
【0118】
別の側面において、本発明は、HS16を含む生物学的足場を提供する。いくつかの態様において、本発明の生物学的足場を、整形外科、血管、装具、皮膚および角膜適用に用いることも可能である。本発明が提供する生物学的足場には、長期放出薬剤送達デバイス、生体弁、生体弁膜(tissue valve leaflets)、薬剤溶出ステント、血管移植片、創傷
治癒または皮膚移植片、および整形外科装具、例えば骨、靱帯、腱、および軟骨が含まれる。
【0119】
本発明の別の側面において、組織の修復または再生において使用するためのキットであって、(i)あらかじめ決定した量のHS16、および(ii)あらかじめ決定した量のTGFβ1を含む、前記キットを提供する。
【0120】
HS16を薬学的に許容されうる塩として被験体に投与することも可能である。例えば、本発明の濃縮された混合物の化合物の塩基塩には、限定されるわけではないが、薬学的に許容されうる陽イオン、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムおよびアルキルアンモニウムで形成されるものが含まれる。本発明には、その範囲内に、陽イオン性塩、例えばナトリウムまたはカリウム塩が含まれる。
【0121】
カルボン酸基を所持する本発明の化合物を、投与可能なプロドラッグの形で送達することも可能であることが認識され、ここで、酸部分はエステル化される(-CO2R’の形を有する)。用語「プロドラッグ」は、特に、-OR’基から-OH基、またはカルボン酸陰イオンへの、in vivoでの変換に関する。したがって、本発明のプロドラッグは、細
胞への薬剤吸着および/または薬剤送達を増進するよう作用することも可能である。プロドラッグのin vivo変換は、細胞性酵素、例えばリパーゼおよびエステラーゼによって、
または化学的切断、例えばin vivoエステル加水分解によって促進されることも可能であ
る。
【0122】
本発明の側面にしたがった薬剤ならびに医薬組成物および化粧用組成物は、限定されるわけではないが、疾患または傷害の部位での注射を含む、多様な経路による投与のために配合されることも可能である。薬剤および組成物を液体または固体型で配合することも可能である。液体配合物は、ヒトまたは動物の体の選択される領域への注射による投与のために配合されることも可能である。
【0123】
投与は「療法的有効量」であることも可能であり、これは個体への利益を示すために十分な量である。投与される実際の量、ならびに投与の速度および時間経過は、治療しようとする障害または疾患の性質および重症度に応じるであろう。治療の処方、例えば投薬量の決定等は、開業医および他の医師の責任の範囲内であり、そして典型的には、治療しようとする障害、個々の患者の状態、送達部位、投与法および医師に知られる他の要因を考慮に入れる。上述の技術およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第20版,2000,pub. Lippincott, Williams & Wilkinsに見出されうる。
【0124】
幹細胞
HS16と接触させる細胞には、幹細胞が含まれる。
HS16を、幹細胞の増殖および/または分化、ならびに/あるいは幹細胞の系譜拘束に用いることも可能である。
【0125】
本明細書において培養し、そして記載する幹細胞は、任意の種類の幹細胞であることも可能である。これらは、全能性、多能性または多分化能であってもよい。これらは、任意の組織に由来する胚性または成体幹細胞であることも可能であり、そして造血幹細胞、神経幹細胞または間葉系幹細胞であることも可能である。好ましくはこれらは成体幹細胞である。
【0126】
本明細書において、幹細胞によって、分裂し(すなわち自己再生し)、そして全能性、多能性または多分化能を維持し、そして特殊化細胞を生じさせる能力を有する、任意の細胞タイプを意味する。
【0127】
本発明において培養する幹細胞は、存在する培養から得られるかまたは由来するか、あるいは任意の成体、胚性または胎児性組織から直接得られてもよく、こうした組織には、血液、骨髄、皮膚、上皮または臍帯(通常廃棄される組織)が含まれる。
【0128】
幹細胞の多分化能は適切なアッセイを使用することによって決定可能である。こうしたアッセイは、1またはそれより多い多能性マーカー、例えばアルカリホスファターゼ活性、RUNX2、オステリックス、コラーゲンI、II、IV、VII、X、オステオポンチン、オステオカルシン、BSPII、アグリカン、ALBP、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質-α(C/EBPα)、脂肪細胞脂質結合タンパク質(ALBP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、骨シアロプロテイン2(BSPII)、コラーゲン2a1(COL2A1)およびSOX9を検出する工程を含むことも可能である。
【0129】
いくつかの好ましい態様において、幹細胞は、例えば結合組織および/または骨細胞、例えば軟骨細胞、骨芽細胞、筋細胞および脂肪細胞に分化することが可能な、間葉系幹細胞(MSC)である。
【0130】
間葉系幹細胞は、最小限に侵襲性である技術によって、骨髄から容易に得ることが可能であり、そしてこれを培養中で拡大して、所望の系譜への分化を可能にすることも可能である。特定の増殖因子の適用によって、分化を誘導することも可能である。トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-ベータ)スーパーファミリーメンバータンパク質、例えば骨形成タンパク質(BMP)は、間葉系幹細胞の軟骨形成および骨形成分化の重要な因子である。
【0131】
選択的マーカー、例えばSTRO-1を用いて、骨髄再増殖に関する潜在能力を示すCD34+分画から、間葉系幹細胞を単離し、そして検出することも可能である。これらの細胞表面マーカーは、間葉系幹細胞の細胞表面上でのみ見出され、そしてこれは、細胞の多分化能の指標である。
【0132】
適切な間葉系幹細胞は、骨髄吸引物から収集される骨髄単核細胞(BMMNC)(例えば、Wexlerら 成体骨髄は、ヒト間葉系「幹」細胞の豊富な供給源であるが、臍帯および可動化(mobilized)成体血液はそうではない HAEMOPOIESIS AND LEUCOCYTES British Journal of Haematology 121 (2):368-374,2003年4月)または臍帯のワルトンゼリー(例えばTaら ワルトンゼリー由来間葉系幹細胞の長期拡大および多能性マーカーアレイの分析 Stem Cells Dev. 2009年7月20日(Epub))か
ら得られるかまたはこれに由来することも可能である。
【0133】
当該技術分野において周知であるように、適切な分化因子を適用することによって、多能性幹細胞、例えばヒト胚性幹細胞または人工多能性幹細胞の分化によって、間葉系幹細胞を得ることも可能である。
【0134】
間葉系幹細胞は、軟骨、骨、筋肉、腱、靱帯、および脂肪の構成要素を生成する能力を持つ、多能性前駆細胞である。これらの原始的前駆細胞は、出生後に存在し、そして幹細胞特性を示し、すなわち出現率が低く、そして広範な再生潜在能力を持つ。これらの特性とその発生可塑性が組み合わさり、損傷を受けた組織を置換する潜在的な使用に多大な関心が生じてきている。本質的には、これらの幹細胞を培養して、その数を拡大し、次いで、傷害部位に移植するか、または足場中/上に植え付けた後、適切な組織構築物を生成することも可能である。
【0135】
したがって、骨格、筋肉、腱、靱帯および血液修復/再生のための代替アプローチは、特定の組織増殖因子の賢明な選択とともに、再生を支持し、そしてガイドする、伝導性または誘導性足場と組み合わせた、適切な前駆細胞(例えば間葉系幹細胞、軟骨細胞)の選択、拡大および調節である。
【0136】
任意の動物またはヒト、例えば非ヒト動物、例えばウサギ、モルモット、ラット、マウスまたは他の齧歯類(齧歯類目(Rodentia)の任意の動物由来の細胞を含む)、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、非ヒト霊長類または他の非ヒト脊椎動物生物;および/または非ヒト哺乳動物;および/またはヒトから幹細胞が得られうる。好ましくはこれらはヒトである。場合によってこれらは非ヒトである。場合によってこれらは非胚性幹細胞である。場合によってこれらは全能性ではない。
【0137】
本発明のさらにさらなる側面において、本発明の方法のいずれかによって生成された幹細胞または他の体細胞を含む医薬組成物、あるいはその断片または産物を提供する。医薬組成物は、医学的治療法において有用でありうる。適切な医薬組成物は、さらに、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤を含むことも可能である。
【0138】
本発明の別の側面において、本発明の任意の方法によって生成される幹細胞または他の細胞を、医学的治療法において使用することも可能であり、好ましくは、医学的治療法であって、治療が必要な個体に、療法的に有効な量の前記薬剤または医薬組成物を投与する工程を含む、前記方法を提供する。
【0139】
本発明記載の培養法および技術を通じて得られる幹細胞および他の細胞を用いて、医学的治療法において使用するための別の細胞タイプに分化させることも可能である。したがって、分化した細胞タイプは、分化することが続いて許可された、記載するような培養法および技術によって得られる幹細胞に由来し、そして幹細胞の産物として見なすことも可能である。場合によって薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤とともに、こうした分化した細胞を含む医薬組成物を提供することも可能である。こうした医薬組成物は、医学的治療法において有用でありうる。
【0140】
間葉系幹細胞
間葉系幹細胞(MSC)は、元来、骨髄から単離され、そして全部で104~105の骨髄単核細胞(BMMNC)のうちのわずか1つとして存在する(Friedensteinら 1966)。これらの細胞は、CFU-F(コロニー形成単位線維芽細胞)集団をダビングする(dubbed)、単細胞前駆体に由来するコロニーを産生することが可能である。MSCは、現在、脂肪組織(GimbleおよびGuilak 2003;Zukら 2001)、臍帯血(Biebackら 2004;Ericesら 2000;Goodwinら 2001;Koglerら 2004;Wagnerら 2005)および筋肉(Jiangら 2002)を含む、多くの他の組織において同定されてきている。
【0141】
多分化能ヒト間葉系間質細胞(MSC)の最小限の基準が、細胞療法に関する国際会議によって示されてきている(Dominiciら Cytotherapy(2006) Vol.8, No.4, 315-317)。
彼らは、ヒトMSCを定義するために、3つの基準:プラスチックへの接着、特定の表面
抗原発現および多分化能分化潜在能力を提唱する。特に、彼らは、「まず、MSCは、組織培養フラスコを用いた標準培養条件下で維持された際、プラスチック接着性であるはずである。第二に、≧95%のMSC集団は、フローサイトメトリーによって測定された際、CD105、CD73およびCD90を発現していなければならない。さらに、これらの細胞は、CD45、CD34、CD14またはCD11b、CD79αまたはCD19およびHLAクラスII(HLA-DR)の発現を欠いていなければならない(≦2%陽性)。第三に、細胞は、標準的なin vitro分化条件下で、骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨芽細胞に分化可能でなければならない」と述べた。
【0142】
Dominiciらはまた、MSCを最もユニークに同定する生物学的特性は、標準的in vitro組織培養分化条件を用いて、骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨芽細胞への三系譜間葉系分化の能力であると述べた。彼らは、アリザリンレッドまたはフォンコッサ染色での染色によって、骨芽細胞への分化を立証可能であり、脂肪細胞分化は、オイルレッドOでの染色によって最も容易に立証可能であり、そして軟骨芽細胞分化は、アルシアンブルーまたはコラーゲンII型に関する免疫組織化学染色によって立証可能であることを確認した。Dominiciらは、こうしたアッセイのためのキットが商業的に入手可能であり、そして分化の立証は、すべての研究者にとって容易であるはずであると述べる。
【0143】
Dominiciらはまた、将来、ヒトMSCを定義するためにやはり使用可能な新規表面マーカーが同定されうることも認識する。現在、3つのこうしたマーカー:CD49a、SSEA-4およびSTRO-1が知られる。
【0144】
Riderらは、CD49a+クローンが、ソーティングされていない細胞に比較して、C
D90およびCD105の発現を増進したことを報告し、そしてCD49a+クローンが、ソーティングされていない細胞に比較して、脂肪、骨および軟骨への多系譜分化を容易に経ることを立証し、間葉系幹細胞の濃縮のためのアルファ-1インテグリン(CD49a)選択の使用を支持し、そして骨髄単核幹細胞の異種プールから最も多分化能である細胞を選択するための戦略を提供した(Riderら J. Mol. Hist(2007)38:449-458)。Rider
らはまた、CFU-F細胞がCD49aの発現と関連し、CD49a発現CFU-F細胞がまたSTRO-1も同時発現し、そしてCD49aを用いて、ヒトに加えてラットおよびマウスからMSCを単離することも可能であり、該分子が濃縮のための保存されたマーカーでありうることを示すことも報告した。
【0145】
Gangらは、未分化多能性ヒト胚性幹細胞および胚盤胞段階胚への卵割に関するマーカーとして一般的に用いられる段階特異的胚性抗原SSEA-4がまた、成体ヒト間葉系幹細胞集団を同定し、そしてMSCを単離するために使用可能であることを報告する(Gangら, Blood 2007;109:1743-1751)。Gangらはまた、クローン原性間質細胞(CFU-F)
、いわゆるSTRO-1+明の濃縮における表面マーカーSTRO-1に結合するモノクローナル抗体の使用も記載する。
【0146】
グリコサミノグリカン
本明細書において、用語「グリコサミノグリカン」および「GAG」は交換可能に用いられ、そしてオリゴ糖を含む分子の大きなコレクションを指すと理解され、ここで1またはそれより多いこれらの結合した糖は、アミノ置換基、またはその誘導体を所持する。GAGの例は、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、デルマタン硫酸、ヒアルロン酸およびヘパラン硫酸である。
【0147】
本明細書において、用語「GAG」はまた、GAGコンジュゲートである分子を含むよう拡大する。GAGコンジュゲートの例は、プロテオグリコサミノグリカン(PGAG、プロテオグリカン)であり、ここでペプチド構成要素はオリゴ糖構成要素に共有結合する。
【0148】
好ましい態様において、GAGはヘパラン硫酸である。
ヘパラン硫酸(HS)
ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)は、プロテオグリカンの非常に多様な下位群に相当し、そしてタンパク質主鎖に共有結合したヘパラン硫酸グリコサミノグリカン側鎖で構成される。コアタンパク質は3つの主要な型:パールカンとして知られる分泌型、グリピカンとして知られる形質膜に係留された型、およびシンデカンとして知られる膜貫通型で存在する。これらは、哺乳動物細胞表面および大部分の細胞外マトリックスの普遍的な構成要素である。アグリン、またはアミロイド前駆体タンパク質などの他のタンパク質があり、この際、HS鎖は、より一般的に見られないコアに付着している可能性もある。
【0149】
本発明の好ましい態様は、コアタンパク質から単離されたHS鎖に関する。HS鎖は、コアタンパク質から、例えばノイラミニダーゼ処理によって容易に分離され、そして単離されることも可能である。
【0150】
「ヘパラン硫酸」(「ヘパラン硫酸」または「HS」)は、最初に、D-グルクロン酸(GlcA)およびN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)のタンデム反復からなる多糖として、ゴルジ体において合成される。新生多糖は続いて、一連の工程で修飾されうる:GlcNAcのN-脱アセチル化/N-硫酸化、GlcAのイズロン酸(IdoA)へのC5エピマー化、IdoAおよびGlcAのC2でのO-硫酸化、N-スルホグルコサミン(GlcNS)のC6でのO-硫酸化、そしてGlcNSのC3での時折のO-硫酸化。HSのN-脱アセチル化/N-硫酸化、2-O-、6-O-および3-O-硫酸化は、それぞれ、HS N-脱アセチル化酵素/N-スルホトランスフェラーゼ(HSNDST)、HS 2-O-スルホトランスフェラーゼ(HS2ST)、HS 6-O-スルホトランスフェラーゼ(HS6ST)およびHS 3-O-スルホトランスフェラーゼの特異的作用によって仲介される。修飾の各段階で、潜在的な基質の一部のみが修飾され、かなりの配列多様性が生じる。HSのこの構造の複雑さのために配列を決定し、そしてHS構造および機能の間の関連を理解することが困難になってきた。
【0151】
ヘパラン硫酸側鎖は、(1→4)グリコシド結合を通じて連結された、交互に配置されたD-グルクロン酸またはL-イズロン酸およびD-グルコサミンからなる。グルコサミンは、しばしば、N-アセチル化またはN-硫酸化され、そしてウロン酸およびグルコサミンはどちらも、さらにO-硫酸化されていることも可能である。特定の結合パートナーに対する特定のHSPGの特異性は、グルコサミンおよびウロン酸に付着した、カルボキシル、アセチルおよび硫酸基の特定のパターンによって生成される。ヘパリンとは対照的
に、ヘパラン硫酸は、より少ないNおよびO-硫酸基およびより多いN-アセチル基を含有する。ヘパラン硫酸側鎖は、四糖連結(-グルクロノシル-β-(1→3)-ガラクトシル-β-(1→3)-ガラクトシル-β-(1→4)-キシロシル-β-1-O-(セリン))領域を通じて、コアタンパク質のセリン残基に連結される。
【0152】
ヘパラン硫酸鎖およびコアタンパク質はどちらも、生物学的活性に最終的に影響しうる、一連の修飾を経ることも可能である。HSの複雑性は、核酸のものを凌ぐと見なされてきている(Lindahlら, 1998, J. Biol. Chem. 273, 24979;SugaharaおよびKitagawa, 2000, Curr. Opin. Struct. Biol. 10, 518)。HS種の変動は、N-アセチル化グルコサミンを含有する二糖の非硫酸化領域によって分離される、糖残基の非ランダムな非常に硫酸化された配列の合成から生じる。N-アセチルグルコサミンのN-スルホグルコサミンへの最初の変換は、グルクロン酸からイズロン酸へのエピマー化およびグルコサミンまたはイズロン酸に対するO-硫酸化の複雑なパターンを含む、他の修飾のためのフォーカスを生じる。さらに、非修飾低硫酸化N-アセチル化配列内で、ヘキサウロン酸残基はグルクロン酸として残り、一方、非常に硫酸化されたN-硫酸化領域において、C-5エピマーイズロン酸が優勢である。これは、任意の所定の鎖において可能である潜在的な二糖変異体の数を限定するが、各々の存在比を限定しない。成熟鎖において、高硫酸化領域が低硫酸化ドメインに分離されるように、大部分の修飾は、N-硫酸化ドメイン、またはそれに直接隣接して起こる(本明細書にその全体が援用される、Brickmanら(1998), J. Biol. Chem. 273(8), 4350-4359)。
【0153】
非常に可変性であるヘパラン硫酸鎖が、多数の細胞外リガンドの作用の調節に重要な役割を果たすと仮定され、こうした役割には、自己分泌、接触分泌およびパラ分泌フィードバックループの複雑な組み合わせを通じた、細胞への増殖および接着因子の制御および提示が含まれ、こうして細胞内シグナル伝達を制御し、そしてそれによって幹細胞分化を制御する。例えば、ヘパラン硫酸グリコサミノグリカンは、遺伝子的に記載されている(Albertsら(1989)Garland Publishing, Inc,ニューヨークおよびロンドン,pp.804
および805)が、単一供給源から単離されたヘパラン硫酸グリコサミノグリカン種は、生物学的活性が多様でありうる。Brickmanら, 1998, Glycobiology 8, 463に示されるように、神経上皮細胞から得られるヘパラン硫酸グリコサミノグリカンの2つの別個のプールは、分裂促進状態に応じて、FGF-1またはFGF-2のいずれかを特異的に活性化しうる。同様に、ヘパラン硫酸(HS)がFGF-1またはFGF-2のいずれかと相互作用する能力が、WO 96/23003に記載される。この特許出願によると、FGF-1と相互作用しうるそれぞれのHSは、約11日~約13日胚のネズミ細胞から得ることが可能であり、一方、FGF-2と相互作用可能なHSは、約8日~約10日胚で得られうる。
【0154】
上述のように、HS構造は非常に複雑であり、そしてHS間で多様である。実際、HS構造における変動は、各HSが細胞増殖を促進しそして細胞分化を導く際に異なる活性に向かうように寄与する際に、重要な役割を果たすと見なされる。構造の複雑さは、核酸を凌ぐと見なされ、そしてHS構造は、現在では特定のそしてユニークな硫酸化パターンを有する反復二糖単位の配列として特徴付けられうるが、HS配列構造を決定するために、核酸配列決定に関して入手可能なものと同等な標準的な配列決定技術は利用可能ではない。定義的なHS配列構造を決定するための単純な方法がないため、HS分子はいくつかの分析技術によって、当業者により、積極的に同定され、そして構造的に特徴付けられている。これらには、二糖分析、四糖分析、HPLCおよび分子量決定の1つまたは組み合わせが含まれる。これらの分析技術は、当業者に周知であり、そして用いられている。
【0155】
HSから二糖および四糖を産生するための2つの技術には、亜硝酸消化およびリアーゼ消化が含まれる。これらの消化技術を実行する1つの方法の説明は、純粋に例として以下
に提供され、こうした説明は本発明の範囲を限定しない。
【0156】
亜硝酸消化
亜硝酸に基づくヘパラン硫酸の脱重合は、完了した際には、炭水化物鎖の個々の二糖への最終的な分解を導く。
【0157】
例えば、亜硝酸は、250μlの0.5M HSOおよび0.5M Ba(NOを別個に氷上で15分間冷却することによって調製可能である。冷却後、Ba(NOをHSOと併せ、そしてボルテックスした後、遠心分離して、硫酸バリウム沈殿物を除去する。125μlのHNOを、20μlのHOに再懸濁したGAG試料に添加し、そしてボルテックスした後、時々混合しながら、25℃で15分間インキュベーションする。インキュベーション後、1M NaCOを試料に添加して、pH6にする。次に、0.1M NaOH中の100μlの0.25M NaBHを試料に添加し、そして混合物を50℃に20分間加熱する。次いで、混合物を25℃に冷却して、そして酸性化氷酢酸を添加して、試料をpH3にする。次いで、混合物を10M NaOHで中和し、そして凍結乾燥によって体積を減少させる。最終試料をBio-Gel P-2カラムに流して、二糖および四糖を分離して、分解の度合いを検証する。
【0158】
リアーゼ消化
ヘパリナーゼIIIは、グルクロニド結合で糖鎖を切断する。一連のヘパリナーゼ酵素(I、IIおよびIII)は、各々、特定の硫酸化認識部位で、特定のヘパラン硫酸配列を脱重合することによって、各々、相対的に特異的な活性を示す。ヘパリナーゼIは、HS鎖に沿ってNS領域でHS鎖を切断する。これは、硫酸化ドメインの破壊を導く。ヘパリナーゼIIIは、NAドメインでHSを脱重合し、炭水化物鎖の個々の硫酸化ドメインへの分離を生じる。ヘパリナーゼIIは、主に、HS鎖のNA/NS「肩」ドメインにおいて切断し、このドメインは多様な硫酸化パターンが見られる箇所である。注:ヘパリンポリマーの反復二糖主鎖は、アミノ酸グルコサミンに連結されたウロン酸である。「NS」は、C2、C6およびC3の他の基の硫酸化を可能にする、アミノ基上の硫酸基を所持するアミノ糖を意味する。「NA」は、アミノ基が硫酸化されておらず、そしてアセチル化されたままであることを示す。
【0159】
例えば、ヘパリナーゼIIIを用いたNA領域における脱重合のため、酵素および凍結乾燥HS試料の両方を、20mM Tris-HCl、0.1mg/ml BSAおよび4mM CaCl、pH7.5を含有する緩衝液中で調製する。純粋に例として、1μgのHSあたりヘパリナーゼIIIを5mU添加し、そして37℃で16時間インキュベーションした後、70℃で5分間加熱することによって、反応を停止することも可能である。
【0160】
二糖および四糖をカラムクロマトグラフィ、例えばHPLCによって溶出させることも可能である。あるいは、これらを、キャピラリー電気泳動によって分析することも可能である。
【0161】
軟骨および結合組織形成
本発明の別の側面において、軟骨組織形成(軟骨形成)を促進する方法であって、HS16を軟骨前駆細胞または軟骨幹細胞に投与する工程を含む、前記方法を提供する。
【0162】
骨または軟骨前駆体または幹細胞を、HS16と、場合によって外因性に添加されるTGFβ1タンパク質の存在下で、接触させることによって、骨形成または軟骨組織の形成を刺激するかまたは阻害する方法を、in vitroで行うことも可能である。前駆細胞または幹細胞は間葉系幹細胞であることも可能である。組織形成が促進される場合、形成される
組織を収集し、そしてヒトまたは動物患者内への移植に用いることも可能である。
【0163】
したがって、本発明の1つの側面において、結合組織を提供し、ここで、HS16(すなわち外因性HS16)の存在下、および場合によってTGFβ1(すなわち外因性TGFβ1)の存在下で、間葉系幹細胞のin vitro培養によって、結合組織が得られる。結合組織は、骨、軟骨、筋肉、脂肪、靱帯または腱であることも可能である。
【0164】
HS16を用いた疾患の防止または治療は、組織、特に結合組織、例えば骨、軟骨、筋肉、脂肪、靱帯または腱の修復、再生または置換を伴うことも可能である。
これらの組織の1つの悪化を有する患者において、悪化部位へのHS16の投与を用いて、その部位の組織の成長、増殖および/または分化を刺激することも可能である。例えば、投与部位にまたはその近傍に存在する間葉系幹細胞の刺激は、好ましくはTGFβ1もまたその部位に存在した場合に、間葉系幹細胞の増殖および適切な結合組織への分化を導き、それによって損傷を受けた組織の置換/再生ならびに傷害の治療を提供することも可能である。
【0165】
あるいは、HS16と接触した間葉系幹細胞のin vitro培養から得られる結合組織を収集して、そして傷害または疾患の部位に移植して、損傷を受けたまたは悪化した組織を置換することも可能である。損傷を受けたまたは悪化した組織を、場合によって、まず、傷害または疾患部位から切除することも可能である。
【0166】
したがって、HS16は、治療を必要とする患者に、場合によってTGFβ1および/または幹細胞と組み合わせて、HS16を直接適用することによって達成される、組織修復、再生および/または置換を含む、in vivoでの創傷治癒(例えば瘢痕組織または骨折
の治癒)に有用である。HS16はまた、組織修復、再生および/または置換が必要な患者への移植に適した組織のin vitro生成にも有用である。
【0167】
軟骨組織の修復および/または再生
いくつかの側面において、本発明は、関節破壊、軟骨分解、軟骨組織への損傷あるいは軟骨組織の喪失または変性を治療するかまたは防止するための、HS16の療法的使用(ヒトおよび/または獣医学的)に関する。
【0168】
いくつかの態様において、本明細書に記載するようなHS16投与によって治療されるべき疾患または状態は、関節破壊、軟骨分解、軟骨組織への損傷および軟骨組織の喪失または変性の1つまたはそれより多くに関連する疾患または状態であることも可能である。軟骨分解、損傷または喪失は、軟骨の厚さまたは体積の減少を伴う可能性もある。
【0169】
関節破壊、軟骨分解、軟骨組織への損傷および/または軟骨組織の喪失または変性は、疾患プロセス、生理学的プロセスの結果として、そして/または傷害または外傷の結果として、起こることも可能である。例えば、関節破壊、軟骨分解、軟骨組織への損傷および/または軟骨組織の喪失または変性は、傷害または外傷の結果として始まり、そしてこれらのプロセスの1またはそれより多くが、次いで、疾患および/または生理学的プロセスを通じて進行することも可能である。
【0170】
疾患または状態は、関節炎、場合によって外傷または傷害が誘導する関節炎、年齢関連関節炎または非年齢関連関節炎であることも可能である。関節炎は変形性関節症であることも可能である。変形性関節症は、関節の疼痛および関節機能の減少(例えば硬直および/または可動範囲の減少)の臨床的症候群である。症状には、関節疼痛、硬直および関節を動かす際の問題が含まれる。該疾患は、局所的軟骨喪失、骨のリモデリングおよび/または炎症によって、病理学的に特徴付け可能である。関節炎によって最も一般的に影響を
受ける関節は、膝関節、股関節および手足の関節であるが、他の関節もまた影響を受ける可能性もある。
【0171】
本発明の方法にしたがって治療されるべき被験体は、これらのプロセスがまだ始まっていない場合であっても、関節破壊、軟骨分解、軟骨組織への損傷および軟骨組織の喪失または変性の1つまたはそれより多くに感受性であることも可能である。被験体は、関節破壊、軟骨分解、軟骨組織への損傷および軟骨組織の喪失または変性の1またはそれより多くと関連する疾患または状態を有する結果として感受性であることも可能である。
【0172】
軟骨は、傷害または外傷、または機械的摩耗および裂傷などの物理的プロセス、ならびに/あるいは疾患および生理学的プロセスなどの生物学的プロセスの結果として損傷を受けるかまたは分解することも可能である。物理的プロセスおよび生物学的プロセスが相互作用して、軟骨の喪失、変性、分解または損傷をもたらす。例えば、傷害または外傷または機械的摩耗および裂傷は、軟骨損傷を開始し、そして例えば炎症を通じて生物学的プロセスと結びつき、軟骨の喪失、変性、分解または損傷を達成し、そして加速させる。
【0173】
傷害または外傷は、落下またはスポーツ関連障害または外傷の結果であることも可能である。機械的摩耗および裂傷は、肥満および/または反復動作と関連することも可能である。例えば、機械的摩耗および裂傷は、特定の活動の結果として起こることも可能であるし、または特定の職業に関連することも可能である。
【0174】
軟骨の喪失、変性、分解または損傷を生じる生物学的プロセスのエフェクターには、プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、炎症仲介因子に反応して上方制御される軟骨分解酵素、アグリカナーゼ、コラゲナーゼ、ADAMTS-4、ADAMTS-5、MMP3およびMMP13が含まれる。軟骨細胞の異化活性増加は、生物学的プロセスと関連して、軟骨の喪失、変性、分解または損傷を生じる。軟骨細胞の代謝活性は、例えばSOX-9、COLII、アグリカン、COL1およびTSG-6などの軟骨遺伝子発現の分析によって、または放射標識の取り込みによって、アッセイ可能である。
【0175】
軟骨の喪失、変性、分解、損傷または維持は、長期に渡る軟骨の画像化および/または軟骨の測定によって、決定することも可能である。軟骨の画像化および/または測定は、関心対象の部位、例えば傷害または外傷の部位、あるいは関節炎関節であることも可能である。
【0176】
軟骨の喪失、変性、分解または損傷は、当業者に周知のルーチンの方法によって決定可能である。例えば、軟骨の欠損(すなわち損傷)または軟骨喪失は、磁気共鳴画像化(MRI)によって、または関節鏡検査によって、決定可能である。
【0177】
軟骨喪失、変性または分解は、その関節またはその部位での軟骨の量の以前の測定に比較して、関節または部位における軟骨の量の減少の観察によって、決定可能である。あるいは、軟骨喪失、変性または分解は、軟骨喪失、変性または分解を経験しない同等の関節または部位に比較して、関節または部位の軟骨の量、厚みまたは体積の減少の観察によって、決定可能である。
【0178】
関節鏡検査によって観察される軟骨への損傷は、国際軟骨修復協会(ICRS)等級付けシステムにしたがって、以下のように等級付け可能である:
0=(正常な)健康な軟骨;
1=軟骨が柔らかいスポットまたは水疱を有する
2=軟骨中に重大でない裂傷が見える
3=病変が深い凹部を有する(軟骨層の50%より深い)
4=軟骨裂傷が根底にある(軟骨下)の骨を曝露する
等級2/3の軟骨欠損は、原線維状の(fibrillated)または切り刻まれた外見を有し
うる。軟骨への損傷はまた、Pritzkerら, Osteoarthritis Cartilage 2006 14(1):13-29に記載される変形性関節症研究協会国際(OARSI)等級付けシステムにしたがって、組織病理学によって評価することも可能である。
【0179】
軟骨分解と関連する酵素、または軟骨分解に反応して上方制御されることが知られる遺伝子または酵素の発現および/または活性もまた、軟骨の喪失、変性、分解、損傷または維持を決定するために使用可能である。同様に、軟骨細胞の異化活性をアッセイして、軟骨の喪失、変性、分解、損傷または維持を調べることも可能である。
【0180】
療法的有効量の本発明のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの投与の結果としての、関節破壊または軟骨分解の阻害、あるいは軟骨組織の分解または損傷または喪失の防止または遅延、あるいは有効な軟骨組織の維持は、その関節またはその位置の軟骨量の以前の測定に比較して、関節または位置での軟骨の喪失、変性、分解または損傷が全くないかまたは最小限であることを見出すことによって、決定可能である。あるいは、関節破壊または軟骨分解の阻害、あるいは軟骨組織の分解または損傷または喪失の防止または遅延、あるいは有効な軟骨組織の維持は、未処置対照関節または部位に比較した、関節または部位の軟骨の喪失、変性、分解または損傷の減少または遅延を見出すことによって、決定可能である。
【0181】
遺伝子発現、例えば軟骨喪失、変性、分解または損傷に関連する遺伝子の発現は、当業者に周知の多様な方法によって決定可能である。例えば、遺伝子発現のレベルを、試料、例えば生検または組織試料において、定量的リアルタイムPCRによって決定することも可能である。
【0182】
軟骨喪失に関連する遺伝子には、限定されるわけではないが、プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、炎症仲介因子に反応して上方制御される軟骨分解酵素、アグリカナーゼ、コラゲナーゼ、ADAMTS-4、ADAMTS-5、MMP3およびMMP13をコードする遺伝子が含まれる。
【0183】
例えば軟骨喪失、変性、分解または損傷に関連するタンパク質または酵素の発現または活性レベルを、当業者に知られるルーチンの方法によって決定可能である。例えば、試料、例えば生検または組織試料におけるタンパク質発現レベルを、イムノブロッティングまたはELISAによって決定することも可能である。酵素の活性レベルを試料、例えば生検または組織試料において、その酵素の活性に関するレポーターアッセイを用いることにより、決定することも可能である。同様に、試料、例えば生検または組織試料における軟骨細胞の代謝活性を決定することも可能である。
【0184】
軟骨分解/破壊/喪失/損傷および/または関節破壊を、軟骨組織の喪失、変性、分解または損傷あるいは関節破壊に関連する疾患または状態の臨床的症状と相関させることも可能であり、そしてしたがって、これらはまた、軟骨分解/破壊/喪失/損傷または関節破壊、軟骨細胞の代謝活性、あるいは軟骨分解酵素の発現および/または活性を調べるかまたは評価するためにも有用でありうる。
【0185】
骨折
いくつかの側面において、本発明は、骨折を治療するためのHS16の療法的使用(ヒトおよび/または獣医学的)に関する。
【0186】
骨折は、医学的状態である。本出願において、「骨折」には、骨にひびが入るか、骨が
折れるかまたは削り取られる、骨に対する損傷または傷害が含まれる。骨が折れることは骨の不連続を指す。骨折は、物理的衝撃または機械的ストレス、あるいは骨粗鬆症または変形性関節症などの医学的状態によって引き起こされうる。
【0187】
骨折の整形外科的分類には、閉鎖または開放および単純または複雑骨折が含まれる。閉鎖骨折において、皮膚は損なわれていないままであり、開放骨折において、骨は創傷部位を通じて曝露される可能性もあり、これは感染のより高いリスクをもたらす。単純骨折は、単一の線に沿って生じ、骨を2つに分割する傾向がある。複雑骨折は、骨を多数の片に分割する。
【0188】
他の骨折タイプには、圧迫骨折、圧縮骨折(compacted fracture)、らせん骨折、完全および不完全骨折、横骨折、線状骨折および斜骨折および粉砕骨折が含まれる。
大部分の被験体において、骨治癒(骨折治癒)は自然に生じ、そして傷害後に開始される。出血は、通常、凝固、ならびに白血球および線維芽細胞の誘因を導き、その後、コラーゲン繊維が産生される。この後、骨マトリックス(カルシウムヒドロキシアパタイト)沈着(ミネラル化)がコラーゲンマトリックスを骨に変換する。未成熟再生骨は、典型的には成熟骨よりも弱く、そして未成熟骨は、時間を掛けて、リモデリングプロセスを経て、成熟「層状」骨を産生する。完全骨治癒プロセスにはかなりの時間が掛かり、典型的には数ヶ月要する。
【0189】
骨折が起き、そしてHS16を用いた治療から利益を得る可能性がある骨には、すべての骨タイプ、特にすべての哺乳動物骨が含まれ、限定されるわけではないが、長骨(例えば大腿骨、上腕骨、指骨)、短骨(例えば手根骨、足根骨)、平板骨(例えば頭蓋骨、肋骨、肩胛骨、胸骨、骨盤帯)、不規則骨(例えば椎骨)、種子骨(例えば膝蓋骨)が含まれる。
【0190】
骨折が起き、そしてHS16を用いた治療から利益を得る可能性がある骨には、骨格の骨(すなわち骨格の任意の骨)、頭蓋顔面領域の骨、中軸骨格の骨(例えば椎骨、肋骨)、四肢の骨(例えば肢の骨)、骨盤骨格の骨(例えば骨盤)が含まれる。
【0191】
骨折が起き、そしてHS16を用いた治療から利益を得る可能性がある骨にはまた、顔、例えば顎、鼻および頬のものを含む、頭部(頭蓋)および首のものも含まれる。HS16を用いて、歯科または顔面または頭蓋手術中の骨の修復または再生を補助することも可能であり、これには、例えば顎骨を含む、顔および/または口骨(歯とは異なる)の再構築が含まれうる。
【0192】
骨折にはまた、骨粗鬆症の被験体によって示されるような、病的多孔性が含まれる。
本発明を限定するわけではないが、HS16の一次作用は、創傷部位内の、該部位に隣接する、または該部位内に遊走が誘導された細胞に対するものであることも可能であり、そして該作用は、間葉系幹細胞、骨幹細胞、プレ骨芽細胞または骨芽細胞、あるいは創傷床内に見られるかまたは遊走が誘導される任意の補助または血管原性細胞に対するものであることも可能である。
【0193】
HS16、ならびにHS16を含む医薬組成物および薬剤を、哺乳動物被験体における骨折の治療法において使用するために提供する。治療は、骨における創傷治癒を含むことも可能である。治療は、骨の修復、再生および増殖を伴うことも可能である。HS16は、新規骨増殖を促進することによって、骨折修復を促進する。HS16は、骨折修復の速度を改善するように働き、骨治癒がより迅速に起こることを可能にし、傷害からの回復時間の改善を導く。治療は骨強度改善を導きうる。
【0194】
治療にはまた、骨粗鬆症または変形性関節症の治療も含まれうる。
HS16の投与は、好ましくは、骨折を取り巻く組織に対するものである。これには、骨折が起きた骨組織への直接の投与も含まれうる。投与は、骨または骨折を取り巻く結合組織に対するもの、あるいは骨の近傍であり、そして骨に供給する血管系(例えば血管)であることも可能である。投与は、傷害部位に対して直接であってもよいし、そして初期創傷治癒によって形成される仮骨に対してであってもよい。本発明記載の薬剤および医薬組成物は、多くの経路による投与用に配合されることも可能である。最も好ましくは、HS16は、注射用の流体または液体型で配合される。
【0195】
いくつかの態様において、HS16は、徐放配合物として、例えば創傷部位に移植するための薬剤カプセル中に配合される。HS16を、キャリアー物質(例えばバイオマテリアル)、例えばナノファイバーあるいは生物分解性の紙または織物に付着させるか、これに含浸するか、または浸漬することも可能である。
【0196】
HS16を含む医薬組成物、薬剤、移植物および装具はまた、TGF-β1も含むことも可能である。HS16がTGF-β1に結合する能力のため、HS16は、創傷部位にTGF-β1を送達することを補助するTGF-β1のキャリアーとして作用しうる。
【0197】
投与は、好ましくは、「療法的有効量」であり、これは、対応する未処置骨折に比較して、骨折の治癒を改善するために十分な量である。投与する実際の量、ならびに投与速度および時間経過は、骨折の性質および重症度に応じるであろう。治療の処方、例えば投薬量の決定等は、開業医および他の医師の責任の範囲内であり、そして典型的には、骨折の性質、個々の患者の状態、送達部位、投与法および医師に知られる他の要因を考慮に入れる。HS16用量の単回または多数回投与を、処方する医師の指導にしたがって、投与することも可能である。純粋に例として、少なくとも1ng/ml、より好ましくは少なくとも5ng/ml、そして場合によって10ng/mlまたはそれより多い投薬量でHS16を送達することも可能である。個々のHS16投薬量は、1mg未満であり、そして1μgより多い桁であることも可能であり、例えば約5μg、約10μg、約25μg、約30μg、約50μg、約100μg、約0.5mg、または約1mgの1つであることも可能である。上述の技術およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第20版, 2000, Lippincott, Williams & Wilkins刊行に見出されうる。
【0198】
HS16を用いて、他の治療、例えば疼痛緩和または抗炎症薬剤、骨の固定および固化、例えばギプス包帯中での傷害肢の固定、例えば骨を再固化させるかまたは骨を取り除いて、ずれ、アンギュレーションまたは脱臼を修正するための外科的介入とともに、骨折を治療することも可能である。手術が必要な場合、外科的処置中に、HS16を直接、骨折に投与(例えば適用)することも可能である。
【0199】
バイオマテリアル
本発明の医薬組成物および薬剤は、HS16でコーティングされ、そして/または含浸されるバイオマテリアルの形を取ることも可能である。バイオマテリアルから移植物または装具を形成することも可能である。こうした移植物または装具を外科的に移植して、組織再生、組織再構築、および/または組織リモデリングを補助することも可能である。
【0200】
HS16を、移植物または装具に適用して、所望の位置での新規組織形成を加速することも可能である。ヘパラン硫酸は、タンパク質とは異なり、特に頑強であり、そして合成バイオ足場の製造、ならびに移植物および装具の適用に必要な溶媒に耐える、はるかにより優れた能力を有することが認識されるであろう。
【0201】
バイオマテリアルをHS16でコーティングまたは含浸してもよい。含浸は、HS16
をバイオマテリアルの構成的構成要素と、例えば重合中に混合するか、またはバイオマテリアル内にHS16を吸着させることによって、バイオマテリアルを形成する工程を含むことも可能である。コーティングは、バイオマテリアル表面上へのHS16の吸着を含むことも可能である。
【0202】
バイオマテリアルは、被験体に投与されるかまたは移植された際に、コーティングまたは含浸HS16がバイオマテリアルから放出されることを可能にしなければならない。バイオマテリアル放出動力学は、バイオマテリアルの構造、例えば多孔性を改変することによって、改変可能である。
【0203】
HS16でのバイオマテリアルのコーティングまたは含浸に加えて、1またはそれより多い生物学的活性分子を、バイオマテリアル上に含浸またはコーティングすることも可能である。例えば:BMP-2、BMP-4、OP-1、FGF-1、FGF-2、TGF-β1、TGF-β2、TGF-β3;VEGF;コラーゲン;ラミニン;フィブロネクチン;ビトロネクチンからなる群より選択される少なくとも1つである。TGF-β1での含浸またはコーティングが好ましい可能性もある。
【0204】
HS16でコーティングまたは含浸されたバイオマテリアルは、医学的および獣医学的目的の両方に有用でありうる。本発明が、患者の生活の質を改善するか、または動物、例えば交配に使用するために価値ある競走馬の寿命を潜在的に延長させることも可能であることが認識されるであろう。
【0205】
バイオマテリアルは、足場またはマトリックス支持体を提供する。バイオマテリアルは、組織における移植に適切であることも可能であり、または投与に適切であることも可能である(例えば溶液中のマイクロカプセルとして)。
【0206】
移植物または装具は、生体適合性、例えば非毒性で、そして低免疫原性(最も好ましくは非免疫原性)でなければならない。バイオマテリアルは、創傷治癒が起こるに連れて、バイオマテリアルが分解し、最終的に被験体において、in situで再生された組織のみが残るように、生物分解性であることも可能である。あるいは、非生物分解性バイオマテリアルを用いて、例えば大きな不連続に渡る組織再生をガイドし、そして/または治癒中の構造的支持体として作用して、創傷治癒が成功した後、バイオマテリアルの外科的除去が場合によって必要であることも可能である。
【0207】
バイオマテリアルは、柔らかく、そして/または柔軟であることも可能であり、例えばヒドロゲル、フィブリンウェブまたはメッシュ、あるいはコラーゲンスポンジであることも可能である。「ヒドロゲル」は、天然または合成であることも可能な有機ポリマーを固化するかまたは凝固して、三次元開放格子構造を生成して、これが水または他の溶液の分子を捕捉して、ゲルを形成する際に形成される物質である。凝固は、凝集、凝固、疎水性相互作用または架橋によって起こることも可能である。
【0208】
あるいは、バイオマテリアルは、比較的堅い構造であることも可能であり、例えば固形剤量、例えばプラスチックまたは生物学的不活性金属、例えばチタンで形成されることも可能である。
【0209】
バイオマテリアルは、架橋ポリマーによって提供されることも可能な、多孔性マトリックス構造を有することも可能である。マトリックスは、好ましくは、骨増殖に必要な栄養素および増殖因子に対して浸透性である。
【0210】
マトリックス構造は、架橋繊維、例えばフィブリンまたはコラーゲン、あるいはアルギ
ン酸ナトリウムの液体フィルム、キトサン、または適切な架橋剤、例えばカルシウム塩を含む他の多糖、ポリアクリル酸、ヘパリンによって形成することも可能である。あるいは、ゲルとして足場を形成し、コラーゲンまたはアルギン酸によって組み立て、当業者に知られる周知の確立された方法を用いて架橋することも可能である。
【0211】
マトリックス形成に適したポリマー材料には、限定されるわけではないが、生物分解性/生物吸収可能ポリマーが含まれ、これは:アガロース、コラーゲン、フィブリン、キトサン、ポリカプロラクトン、ポリ(DL-ラクチド-コ-カプロラクトン)、ポリ(L-ラクチド-コ-カプロラクトン-コ-グリコリド)、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリヒドロキシアルカノエート、そのコポリマーの群より選択されることも可能であり、あるいは非生物分解性ポリマーが含まれ、これは:酢酸セルロース;酪酸セルロース、アルギン酸セルロース、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、スルホン化ポリスルホン、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、そのコポリマーの群より選択されることも可能である。
【0212】
コラーゲンは、その生体適合性ならびに細胞付着および機能を支持する好ましい特性のため、マトリックス構築のための有望な材料である(米国特許第5,019,087号;Tanaka, S.;Takigawa, T.;Ichihara, S.およびNakamura, T. 生物吸収性ポリグリコール酸-コラーゲン神経ガイドチューブの機械的特性 Polymer Engineering & Science 2006,
46, 1461-1467)。臨床的に許容されうるコラーゲンスポンジは、マトリックスの一例であり、そして当該技術分野に周知である(例えばIntegra Life Sciencesのもの)。
【0213】
フィブリン足場(例えばフィブリン接着剤)は、代替マトリックス材料を提供する。フィブリン接着剤は、創傷密封剤、増殖因子を送達するためのリザーバー、そして生物学的移植物の配置および固定の補助として広い臨床的適用に恵まれている(Rajesh Vasita, Dhirendra S Katti. 組織操作のための増殖因子送達系:材料の展望 Expert Reviews in Medical Devices. 2006;3(1):29-47;Wong C, Inman E, Spaethe R, Helgerson S. Thromb.Haemost. 2003 89(3):573-582;Pandit AS, Wilson DJ, Feldman DS. 酸性増殖因子(FGF-1)の送達のための有効なビヒクルとしてのフィブリン足場。 J. Biomaterials Applications. 2000;14(3);229-242;DeBlois Cote MF. Doillon CJ. ヘパリン-
線維芽細胞増殖因子フィブリン複合体:コラーゲンに基づく材料へのin vitroおよびin vivo適用。 Biomaterials. 1994;15(9):665-672.)。
【0214】
本明細書に援用されるLuong-Vanら(微量被包ヘパラン硫酸のin vitro生体適合性およ
び生物活性 Biomaterials 28(2007)2127-2136)は、ポリカプロラクトンマイクロカプセ
ルからのHSの長期局在送達を記載する。
【0215】
バイオマテリアルのさらなる例は、ヒドロキシアパタイトまたはヒアルロン酸を取り込むポリマーである。
バイオマテリアルに、さらなる細胞を補充してもよい。例えば、バイオマテリアルに幹細胞、例えば間葉系幹細胞、より好ましくはヒト間葉系幹細胞を「植え付けて」(または同時に合成して)もよい。
【0216】
治療されるべき被験体は、任意の動物またはヒトであることも可能である。被験体は好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。被験体は、非ヒト哺乳動物(例えばウサギ、モルモット、ラット、マウスまたは他の齧歯類(齧歯類目の任意の動物由来の細胞を含む)、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ(雌牛、例えば乳牛、またはウシ目(order Bos)の任意の動物を含む)、ウマ(ウマ目(order Equidae)の任意の動物を含む)、ロバ、および非ヒト霊長類)であることも可能である。非ヒト哺乳動物は、家庭のペット、あるいは商業的目的のために飼育されている動物、例えば競走馬、あるいは農場家畜
、例えばブタ、ヒツジもしくはウシであることも可能である。被験体はオスまたはメスであることも可能である。被験体は患者であることも可能である。
【0217】
本発明記載の方法を、示すように、in vitroまたはin vivoで実行することも可能であ
る。用語「in vitro」は、培養中の細胞を用いた方法を含むよう意図され、一方、用語「in vivo」は、損なわれていない多細胞生物を用いた方法を含むよう意図される。
【0218】
培地
HS16(好ましくは単離HS16)を含む培地は、任意の種類のものであることも可能であるが、好ましくは液体またはゲルであり、そして他の栄養素および増殖因子(例えばTGFβ1、FGF-2)を含有することも可能である。培地を、液体またはゲルに再構成するため、乾燥型、例えば粉末または凍結乾燥型で調製することも可能である。HS16は、好ましくは、非微量で存在するであろう。例えば、培地中のHS16の濃度は、約1ng/ml培地~約1000ng/ml培地の間の範囲であることも可能である。好ましくは、培地中のHS16の濃度は、約500ng/mlまたはそれ未満、より好ましくは250ng/mlまたはそれ未満、100ng/mlまたはそれ未満、90ng/mlまたはそれ未満、80ng/mlまたはそれ未満、70ng/mlまたはそれ未満、60ng/mlまたはそれ未満、50ng/mlまたはそれ未満、40ng/mlまたはそれ未満、30ng/mlまたはそれ未満、20ng/mlまたはそれ未満、10ng/mlまたはそれ未満、あるいは5ng/mlまたはそれ未満の1つである。
【0219】
ヘパラン硫酸の投薬量
in vitroおよびin vivo使用の両方において、HS16を約500ng/mlまたはそ
れ未満、より好ましくは250ng/mlまたはそれ未満、100ng/mlまたはそれ未満、90ng/mlまたはそれ未満、80ng/mlまたはそれ未満、70ng/mlまたはそれ未満、60ng/mlまたはそれ未満、50ng/mlまたはそれ未満、40ng/mlまたはそれ未満、30ng/mlまたはそれ未満、20ng/mlまたはそれ未満、10ng/mlまたはそれ未満、5ng/mlまたはそれ未満;あるいは約100mgまたはそれ未満、50mgまたはそれ未満、40mgまたはそれ未満、30mgまたはそれ未満、20mgまたはそれ未満、10mgまたはそれ未満、5mgまたはそれ未満、4mgまたはそれ未満、3mgまたはそれ未満、2mgまたはそれ未満、あるいは1mgまたはそれ未満;あるいは約0.3~5μg/ml、0.3~4、0.3~3、0.3~2.5、0.3~2、0.3~1.5、0.3~1.0、0.3~0.9、0.3~0.8、0.3~0.7、0.3~0.6、0.3~0.5、0.3~0.4、1~2、1~1.75、1~1.5、1~1.25、1.25~2、1.5~2、または1.75~2μg/mlの1つの濃度または投薬量で用いることも可能である。
【0220】
いくつかの態様において、療法用量の投与前に、HS16のプライミング用量を投与することも可能である。プライミング用量は、活性化されたTGFβ1にプレ結合するように作用することも可能である。プライミング用量および療法用量は、各々、上に提供する値または範囲の1つから、独立に選択されることも可能である。
【0221】
配合物
HS16を単独で投与することも可能であるが、限定されるわけではないが、薬学的にまたは美容的に許容されうるキャリアー、アジュバント、賦形剤、希釈剤、充填剤、緩衝剤、保存剤、酸化防止剤、潤滑剤、安定化剤、可溶化剤、界面活性剤(例えば湿潤剤)、マスキング剤、着色剤、フレーバー剤、および甘味剤を含む、当業者に周知の1またはそれより多い他の薬学的または美容的に許容されうる成分とともに、HSXを含む薬学的または美容的配合物(例えば組成物、調製物、薬剤)として提示することが好ましい。
【0222】
したがって、本発明は、上に定義するような医薬組成物または化粧用組成物、および医薬組成物または化粧用組成物を作製する方法であって、上に定義するような少なくとも1つの活性化合物を、当業者に周知の1またはそれより多い他の薬学的または美容的に許容されうる成分、例えばキャリアー、アジュバント、賦形剤等と混合する工程を含む、前記方法をさらに提供する。別個の単位(例えば錠剤等)として配合する場合、各単位は、あらかじめ決定した量(投薬量)の活性化合物を含有する。
【0223】
用語「薬学的に許容されうる」は、本明細書において、健全な医学的判断の範囲内で、妥当な利益/リスク比を伴って、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、あるいは他の問題または合併症を伴わず、問題の被験体(例えばヒト)の組織と接触させて使用するために適切である、化合物、成分、材料、組成物、投薬型等に関する。各キャリアー、アジュバント、賦形剤等はまた、配合物の他の成分と適合するという意味でもまた、「許容されうる」ものでなければならない。
【0224】
適切なキャリアー、アジュバント、賦形剤等は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第18版, Mack Publishing Company,ペンシルバニア州イーストン,1990;
およびHandbook of Pharmaceutical Excipients,第2版,1994に見出されうる。
【0225】
薬学業に周知の任意の方法によって、配合物を調製することも可能である。こうした方法には、1またはそれより多い付属成分を構成するキャリアーと活性化合物を会合させる工程が含まれる。一般的に、配合物は、活性化合物とキャリアー(例えば液体キャリアー、細分割固形キャリアー等)と均一にそして緊密に合わせ、そして次いで、必要な場合、産物を整形することによって、調製される。
【0226】
配合物は、適切に、液体、溶液(例えば水性、非水性)、場合によって生理食塩水溶液、懸濁物(例えば水性、非水性)、エマルジョン(例えば水中油、油中水)、エリキシル、シロップ、舐剤、口内洗浄液、ドロップ、錠剤(例えばコーティング錠剤を含む)、顆粒、粉末、ロゼンジ、トローチ、カプセル(例えば硬および軟ゼラチンカプセルを含む)、カシェー、ピル、アンプル、ボーラス、座薬、ペッサリー、チンキ、ジェル、ペースト、軟膏、クリーム、ローション、油、泡、スプレー、ミスト、またはエアロゾルの形であることも可能である。
【0227】
配合物は、適切に、1またはそれより多い活性化合物、および場合によって例えば透過、浸透、および吸収増進剤を含む、1またはそれより多い他の薬学的に許容されうる成分が含浸したパッチ、絆創膏、包帯、ドレッシング等として提供可能である。配合物はまた、デポまたはリザーバーの形で適切に提供可能である。
【0228】
活性化合物は、1またはそれより多い他の薬学的にまたは美容的に許容されうる成分中に溶解されていても、懸濁されていても、またはこれらと混合されていてもよい。
経口投与(例えば摂取による)に適した配合物には、液体、溶液(例えば水性、非水性)、懸濁物(例えば水性、非水性)、エマルジョン(例えば水中油、油中水)、エリキシル、シロップ、舐剤、錠剤、顆粒、粉末、カプセル、カシェー、ピル、アンプル、ボーラスが含まれる。
【0229】
非経口経粘膜投与に適した配合物には、液体、溶液(例えば水性、非水性)、懸濁物(例えば水性、非水性)、エマルジョン(例えば水中油、油中水)、座薬、ペッサリー、ジェル、ペースト、軟膏、クリーム、ローション、油、ならびにパッチ、絆創膏、デポ、およびリザーバーが含まれる。
【0230】
経皮投与に適した配合物には、ジェル、ペースト、軟膏、クリーム、ローション、およ
び油、ならびにパッチ、絆創膏、包帯、ドレッシング、デポ、およびリザーバーが含まれる。
【0231】
錠剤は、慣用的手段、例えば圧縮または成形によって、場合によって1またはそれより多い補助成分とともに作製されることも可能である。軟膏は、典型的には、活性化合物およびパラフィンまたは水混和性軟膏基剤から調製される。クリームは、典型的には、活性化合物および水中油クリーム基剤から調製される。望ましい場合、クリーム基剤の水性相には、例えば、少なくとも約30%w/wの多価アルコール、すなわち2またはそれより多いヒドロキシル基を有するアルコール、例えばプロピレングリコール、ブタン-1,3-ジオール、マンニトール、ソルビトール、グリセロールおよびポリエチレングリコールおよびその混合物が含まれることも可能である。局所配合物は、望ましくは、皮膚または他の罹患した領域を通じて、活性化合物の吸収または浸透を増進する化合物を含むことも可能である。こうした皮膚浸透増進剤の例には、ジメチルスルホキシドおよび関連する類似体が含まれる。エマルジョンは、典型的には、活性化合物および油性相から調製され、これは、場合によって、単に乳化剤(別に、エマルジェント(emulgent)としても知られる)を含むことも可能であるし、あるいは、脂肪もしくは油と、または脂肪および油の両方とともに、少なくとも1つの乳化剤の混合物を含むことも可能である。好ましくは、親水性乳化剤が、安定化剤として作用する親油性乳化剤とともに含まれる。油および脂肪の両方を含むこともまた好ましい。ともに、安定化剤(単数または複数)を含むまたは含まない乳化剤(単数または複数)は、いわゆる乳化ワックスを構成し、そしてワックスは油および/または脂肪とともに、いわゆる乳化軟膏基剤を構成し、これはクリーム配合物の油性分散相を形成する。適切なエマルジェントおよび乳化安定化剤には、Tween60、Span80、セトステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、およびラウリル硫酸ナトリウムが含まれる。配合物に適した油または脂肪の選択は、望ましい美容的特性を達成することに基づき、これは、医薬エマルジョン配合物で用いられる可能性が高い大部分の油中の活性化合物の可溶性が非常に低い可能性があるためである。したがって、クリームは、好ましくは、非グリース状で、非染色性で、そしてチューブまたは他の容器からの漏洩を回避するために適切なコンシステンシーを備えた洗浄可能な産物であるべきである。直鎖または分枝鎖、一または二塩基性アルキルエステル、例えばジイソアジピン酸、ステアリン酸イソセチル、ココナツ脂肪酸のプロピレングリコール二エステル、ミリスチン酸イソプロピル、オレイン酸デシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2-エチルヘキシルまたはCrodamol CAPとして知られる分枝鎖エステルのブレンドを用いてもよく、最後の3つが好ましいエステルである。望ましい特性に応じて、これらを単独で、または組み合わせて使用することも可能である。あるいは、高融点脂質、例えば白色軟パラフィンおよび/または流動パラフィンまたは他のミネラルオイルを用いることも可能である。
【0232】
キャリアーが液体である、鼻内投与に適した配合物には、例えば鼻スプレー、点鼻剤、またはエアロゾル投与によるネブライザーによるものが含まれ、活性化合物の水性または油性溶液が含まれる。
【0233】
非経口投与に適した配合物(例えば注射による)には、水性または非水性、等張性、発熱物質不含、無菌液体(例えば、溶液、懸濁物、生理食塩水溶液)が含まれ、この中で、活性化合物が溶解され、懸濁され、または別の方式で提供される(例えばリポソームまたは他の微小粒子中)。こうした液体は、さらに、他の薬学的に許容されうる成分、例えば酸化防止剤、緩衝剤、保存剤、安定化剤、殺菌剤、懸濁剤、増粘剤、および配合物を、意図されるレシピエントの血液(または他の適切な体液)と等張にする溶質を含有することも可能である。賦形剤の例には、例えば、水、生理食塩水、アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油等が含まれる。こうした配合物で使用するために適切な等張性キャリアーの例には、塩化ナトリウム注射剤、リンゲル溶液、または乳酸化リンゲル注射液が含
まれる。典型的には、液体中の活性化合物の濃度は、約1ng/ml~約10μg/ml、例えば約10ng/ml~約1μg/mlである。配合物を単位用量または多数回用量密封容器、例えばアンプルおよびバイアル中で、提示することも可能であるし、そして使用直前に、無菌液体キャリアー、例えば注射用水の添加のみを必要とする、フリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存することも可能である。即時注射溶液および懸濁物を、無菌粉末、顆粒、および錠剤から調製することも可能である。
【0234】
TGFβ1
本明細書において、TGFβ1は、トランスフォーミング増殖因子ベータ・スーパーファミリーのメンバーである、トランスフォーミング増殖因子1を指す。
【0235】
ホモ・サピエンス由来のTGFβ1のアミノ酸配列は、寄託番号NP_000651.3(GI:63025222)[配列番号2]の下にGenbankにおいて入手可能である。
【0236】
TGFβ1は、プレプロタンパク質として合成され、続いて、タンパク質分解的切断を経る。単量体は、ジスルフィド架橋を通じて二量体化して、プロTGFβ1二量体を形成する。TGFβ1二量体は、次いで、切断されて、小分子潜在TGFβ複合体(SLC)を生じ、該複合体において、潜在関連ペプチド(LAP)および成熟ペプチドが非共有結合を通じて会合する。大分子潜在TGFβ1複合体(LLC)は、SLCへの大分子潜在TGFβ1結合タンパク質(LTBP)の共有結合によって形成される。
【0237】
本明細書において、「TGFβ1」または「TGFβ1タンパク質」には、プレプロTGFβ1、プロTGFβ1、成熟TGFβ1、および潜在TGFβ1が含まれる。プレプロTGFβ1、プロTGFβ1、成熟TGFβ1および潜在TGFβ1型は、タンパク質複合体、例えば小分子潜在TGFβ1複合体または大分子潜在TGFβ1複合体中に含まれることも可能である。
【0238】
本明細書において、「TGFβ1」には、TGFβ1のアミノ酸配列と、少なくとも70%、より好ましくは75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性の1つを有するタンパク質またはポリペプチドが含まれる。
【0239】
TGFβ1タンパク質またはポリペプチドには、好ましくはまた、配列番号1のアミノ酸配列、あるいは配列番号1に対して75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性の1つを有するアミノ酸配列を有する、ヘパリン結合ドメインも含まれる。
【0240】
TGFβ1タンパク質またはポリペプチドは、全長TGFβ1タンパク質またはポリペプチドの断片または一部切除物(truncate)であることも可能である。例えば、TGFβ1は、プレプロTGFβ1、プロTGFβ1または成熟TGFβ1ポリペプチドであることも可能である。
【0241】
TGFβ1タンパク質は、任意の動物またはヒト、例えば非ヒト動物、例えばウサギ、モルモット、ラット、マウスまたは他の齧歯類(齧歯類目の任意の動物由来のものを含む)、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ(雌牛、例えば乳牛、またはウシ目の任意の動物を含む)、ウマ(ウマ目の任意の動物を含む)、ロバ、および非ヒト霊長類または他の非ヒト脊椎動物生物;および/または非ヒト哺乳動物;および/またはヒトからのものであるか、またはそれに由来することも可能である。
【0242】
TGFβ1の投薬量
in vitroおよびin vivo使用の両方において、TGFβ1をHS16と組み合わせて用
いることも可能である。本発明のいくつかの細胞培養法において、外因性HS16を培養に添加する。TGFβ1の適切な濃度または投薬量には、約500ng/mlまたはそれ未満、より好ましくは250ng/mlまたはそれ未満、100ng/mlまたはそれ未満、90ng/mlまたはそれ未満、80ng/mlまたはそれ未満、70ng/mlまたはそれ未満、60ng/mlまたはそれ未満、50ng/mlまたはそれ未満、40ng/mlまたはそれ未満、30ng/mlまたはそれ未満、20ng/mlまたはそれ未満、10ng/mlまたはそれ未満、5ng/mlまたはそれ未満;あるいは約100mgまたはそれ未満、50mgまたはそれ未満、40mgまたはそれ未満、30mgまたはそれ未満、20mgまたはそれ未満、10mgまたはそれ未満、5mgまたはそれ未満、4mgまたはそれ未満、3mgまたはそれ未満、2mgまたはそれ未満、あるいは1mgまたはそれ未満;あるいは約0.1~5ng/ml、0.1~0.2、0.1~0.3、0.1~0.4、0.1~0.5、0.1~0.6、0.1~0.7、0.1~0.8、0.1~0.9、0.1~1.0、0.1~1.5、0.1~0.2.0、0.1~2.5、0.1~3.0、0.1~3.5、0.1~4.0、0.1~4.5、0.1~5.0ng/mlの1つが含まれる
いくつかの態様において、HS16のin vitroおよびin vivoの使用は、外因性TGF
β1の添加を排除する。例えば、本発明のいくつかの細胞培養法において、外因性TGFβ1は培養に添加されない。
【0243】
本発明には、こうした組み合わせが明らかに許可され得ないかまたは明らかに回避される場合を除いて、記載する側面および好ましい特徴の組み合わせが含まれる。
本明細書で用いるセクション見出しは、構成上の目的のみのためであり、そして記載する主題を限定するとは見なされないものとする。
【0244】
本発明の側面および態様はここで、例として、付随する図を参照しながら例示されるであろう。さらなる側面および態様は、当業者には明らかであろう。本文書に言及するすべての文書が本明細書に援用される。
【0245】
本明細書全体にわたって、続く請求項を含めて、背景が別であることを必要としない限り、単語「含む」、および変形、例えば「含む」および「含んでいる」は、言及する整数または工程、あるいは整数または工程群の包含を意味するが、いかなる他の整数または工程、あるいは整数または工程群も排除しないことが理解されるであろう。
【0246】
本明細書および付随する請求項において、単数形「a」、「an」、および「the」には、背景が明らかに別のように示さない限り、複数の指示対象が含まれる。範囲は、本明細書において、「約」1つの特定の値から、そして/または「約」別の特定の値までとして表されることも可能である。こうした範囲を示した場合、別の態様には1つの特定の値から、そして/または他の特定の値までが含まれる。同様に、値を近似値で表した場合、先行する「約」を使用することによって、特定の値が別の態様を形成することが理解されるであろう。
【実施例
【0247】
実施例1:ヘパリン/ヘパラン硫酸-トランスフォーミング増殖因子-β1相互作用およびシグナル増強のための構造的要件
背景:ヘパリンは、トランスフォーミング増殖因子-β1(TGF-β1)に結合し、そしてそのシグナル伝達を増強することが可能である。
【0248】
結果:ヘパリン/ヘパラン硫酸(HS)およびTGF-β1の相互作用の分子決定基を
同定した。
結論:TGF-β1シグナル増強に影響を及ぼす、TGF-β1とヘパリン/HSの相互作用のための定義される構造的要件がある。
【0249】
意義:HS-TGF-β1相互作用の理解が、TGF-β1療法発展をガイドしうる。
要約
トランスフォーミング増殖因子-β1(TGF-β1)は、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)による軟骨形成開始を含めていくつかの生理学的プロセスに関連づけられてきている、ヘパリン結合タンパク質である。本明細書において、本発明者らは、ヘパリンがTGF-β1に結合して、そしてhMSCに関してTGF-β1シグナル伝達を増強することが可能であることを示す。この増強は、TGF-β受容体を通じたTGF-β1経路の調節を通じて起こり、そして初期軟骨形成遺伝子の上方制御を導く。分子相互作用および細胞に基づくアッセイはまた、長さ18~22糖(dp18~22)であり、そして2-O-硫酸化を欠くヘパリン鎖がTGF-β1の結合に最適であることもまた立証した。構造プロテオミクスを通じたTGF-β1およびヘパリンの間の相互作用の照合は、ヘパリン結合に関与するTGF-β1上の新規リジン残基の同定を可能にした。この情報を元に、本発明者らは、TGF-β1に対して増加したアフィニティを有するブタ粘膜ヘパラン硫酸(HS)の下位分画を単離した。このTGF-β1結合性HSは、元来の出発HSに比較して、TGF-β1および潜在TGF-β1両方によりよく結合し、そしてその活性を増強することが可能であった。この研究はまず、TGF-β1とヘパリンの相互作用のための構造的要件に関して報告する最初のものである。これはまた、軟骨修復のために、TGF-β1シグナル伝達を調節するHSに基づく戦略の開発の基礎を構築し、ここで、外因性タンパク質用量を減少させるかまたは省くことも可能である。
【0250】
序論
グリコサミノグリカン(GAG)ヘパラン硫酸(HS)およびヘパリンは、構造的に関連する直鎖多糖であり、多数の細胞外タンパク質および増殖因子に結合し、そしてその機能を調節することが知られる(1)。トランスフォーミング増殖因子-β1(TGF-β1)は、強力なヘパリン結合性増殖因子(2~5)であり、線維症(6、7)、皮膚治癒(8)、癌転移(9、10)および軟骨形成(11~15)において役割を果たすことが示されてきている。TGF-β1がヒト間葉系幹細胞(hMSC)の軟骨形成分化を駆動し、そして軟骨表現型を維持する能力は、軟骨修復戦略の発展において、TGF-β1を特に関心が持たれるものにしている(13、15~18)。
【0251】
当初は成功しているように見えたが、こうしたアプローチは、臨床に移行する際に重大な障壁に直面し、これは、クリアランスを克服するためにTGF-β1の超生理的な用量がしばしば使用され、そして中程度な用量であってさえ、望ましくない転帰、例えば滑膜炎症を生じることが示されてきているためである(19、20)。非生理学的用量の問題とは別に、線維症および発癌を含む、全身副作用を誘発することを防止するために、治療部位に該増殖因子を局在させる、進行中の必要性もある(9、10、21)。さらに、TGF-β1に対する感受性は、年齢(22)とともに減少し、したがって、適切なTGF-β1投薬は、高齢患者にはさらにより大きなリスクを提示する。これらの困難に反応して、外因性増殖因子に関する必要性を減少させるかまたは完全に除去し、治療部位に増殖因子をよりよく局在させ、そしてその送達を制御し、そして増殖因子に対する細胞感受性または該因子のシグナル伝達効率のいずれかをブーストする、新規戦略が開発されてきている。いくつかのグループは、すでに、自己組み立て性ペプチド両親媒性物質の使用を通じて、最初の2つのハードルに取り組んできており(23、24)、そしてTGF-β1の内因性レベルが局所MSC分化を駆動するために十分であることを立証してきている(25)。しかし、合成ペプチド両親媒性物質は、重大な免疫原性リスクを提示し、そして望ましい細胞ターゲット内のシグナル伝達活性を増進する必要性に取り組むことに失敗し
ている。理想的な療法は、外因性TGF-β1適用を伴わずに、TGF-β1シグナル伝達を増進するように働くであろう。
【0252】
本発明者らのグループは、以前、HS GAGが臨床的に適切ないくつかの増殖因子の効果を調節可能であることを示してきている(26~29)。本明細書において、本発明者らは、TGF-β1と、ヘパリンおよびHS会合の作用機構、ならびにhMSC内のシグナル伝達の増強を調べる。本発明者らは、TGF-β1へのヘパリンの結合が、I型TGF-β受容体-SMAD2/3経路を通じてその活性を増強し、そしてこうした結合のための構造的要件には特定の制約があることを立証する。さらに、本発明者らは、この情報を、ブタ粘膜HS(HSPM)とは組成的に異なり、そしてTGF-β1シグナル伝達を増強する際により有効である、HSのTGF-β1結合性集団を単離するために利用する。この研究は、TGF-β1-HS相互作用のさらなる研究に路を開き、そして組織修復のためにhMSCの振る舞いを制御するためのHSに基づく戦略の開発を補助する。
【0253】
実験法
ヒトMSC単離および細胞培養
初代hMSC(Lonza)は、以前記載されるように、プラスチック接着によって若い健
康な成人ドナーの骨髄単核細胞から単離され、そして特徴付けられた(30、31)。接着細胞を、10%ウシ胎児血清、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび2mM L-グルタミンを補充したDMEM-低グルコース(1000mg/l、DMEM-LG)からなる基本培地中で維持し、そして加湿大気中、37℃および5%COの標準条件下で培養した。培地を3日ごとに取り替えた。75~80%集密に到達した際、細胞を0.125%トリプシン/Versene(pH7.0)で剥離させ、
そして同じ培養条件下で3,000細胞/cmの密度で再プレーティングした。すべての実験を第5継代で行った。
【0254】
軟骨形成分化
Zhangら(32)に記載されるように、修飾微量培養系を用いて、軟骨形成分化を行った。簡潔には、第4継代のhMSCを採取し、そして化学的に定義された軟骨形成培地(PT-3003、Lonza)中に、2x10細胞/mlで再懸濁した。次いで、12
.5μlの小滴を24ウェルプレート中の各ウェルの中央に植え付け、そして37℃で2時間接着させ、その後、10ng/mlのTGF-β1(100-21C、PeproTech)
のみ(培地)またはTGF-β1と10μg/mlのヘパリン(Sigma-Aldrich)(培地
+Hep)のいずれかを補った500μlの軟骨形成培地を各ウェルに添加した。細胞小滴は、24時間後に球状の塊に合体し、そして微量を第3日に採取した。
【0255】
TGF-β1-GAG相互作用の表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく分析
Hernaizら(33)によって報告されるプロトコルに基づいて、ビオチン化ヘパリンを
調製した。簡潔には、1mlの水中で20mgのヘパリンを濾過滅菌し(0.22μm)し、そして20μlのジメチルスルホキシド(DMSO)中の8.6μmolのN-ヒドロキシスクシンイミド-ビオチン(NHS-ビオチン)(Pierce)と4℃で2時間インキュベーションした。次いで、ビオチン化ヘパリンを徹底的に透析し(7000 MWCO)、未反応ビオチンを除去した。Biacore T100(GE Healthcare)上の固定ウィザードを
用いて、ビオチン化ヘパリンのストレプトアビジン(SA)センサーチップ(GE Healthcare)上への固定を行い、ターゲット固定レベルはおよそ40反応単位(RU)であった
。HBS-EP流動緩衝液(10mM HEPES、150mM NaCl、3.0mM
EDTA、0.05%(v/v)Tween20、pH7.4)を固定に用いた。
【0256】
HBS-EP-0.1流動緩衝液(0.05%の代わりに0.1%(v/v)Tween20
)中で希釈した一連のTGF-β1タンパク質試料(50~800nM最終濃度)を調製
することによって、TGF-β1-ヘパリン相互作用を達成した。競合結合実験のため、HBS-EP-0.1中の最終濃度200nMのTGF-β1を、5または10μgの以下のGAGの1つのいずれかと混合した:ヘパリン(Hep);サイズ分画ヘパリン(重合の度合いdp4、6、8、10、12、14、16、18、20、22および24)(Iduron);選択的脱硫酸化ヘパリン(2-O-脱硫酸化、6-O-脱硫酸化およびN-脱硫酸化)(Iduron);HSPM(HO-03103、Celsus Laboratories);アフィニ
ティ単離TGF-β1結合性HS(HS16陽性);またはTGF-β1非結合性HS(HS16陰性)。次いで、試料溶液を、ヘパリン・コーティングチップ上に、30μl/分の流速で120s注入し、HBS-EP-0.1を続いて、チップ上にさらに1200s通過させて、TGF-β1の解離を監視した。解離後、チップのセンサー表面を、30μl/分で60秒間、2M NaClを注射して2回洗浄し、再生した。時間の関数として反応を25℃で測定した(センソグラム)。各条件の最大結合反応を、TGF-β1のみから得られる反応に対して規準化した。
【0257】
GAG結合プレートアッセイ
TGF-β1がヘパリンに結合する能力を決定するため、本発明者らは、捕捉支持体として、正荷電GAG結合プレート(Iduron)を利用した。GAGを各ウェルに固定し、そして次いで、製造者の支持にしたがって、TGF-β1に曝露した。簡潔には、3つ組ウェルをまず、標準アッセイ緩衝液(SAB:100mM NaCl、50mM酢酸ナトリウム、0.2%v/v Tween20、pH7.2)中で調製した5μg/mlの全長ヘパリン、サイズ分画ヘパリン(dp14、16、18、20、22および24)、または選択的に脱硫酸化(de3ed)したヘパリンでプレコーティングし、そして次いで室温で一晩インキュベーションした。プレートを次に、SABで3回注意深く洗浄し、250μlのブロッキング溶液(0.4%w/v魚皮ゼラチン、Sigma-Aldrich、SAB中)
でブロッキングし、そして37℃で1時間インキュベーションした。次いで、TGF-β1を100、200、または400ng/mlの濃度でブロッキング溶液中に溶解した。プレートをSABで3回洗浄し、そしてタンパク質の各希釈(200μl)を3つ組ウェル内に分配し、そして37℃で2時間インキュベーションし、SABでリンスし、そして200μlの750ng/mlモノクローナルマウス抗TGF-β1抗体(MAB2401、R&D Systems)をブロッキング溶液中に添加した。次いで、プレートを37℃で1時
間インキュベーションし、SABで洗浄し、そして200μlの1μg/mlのポリクローナル・ヤギ抗マウスビオチン化抗体(ab6788、Abcam)をブロッキング溶液中に
添加した。再び、プレートを37℃で1時間インキュベーションし、SABで洗浄し、そして200μlの220ng/ml ExtrAvidin AP(Sigma-Aldrich)をブロッキング溶液中に添加し、37℃で30分間インキュベーションし、そして次いでSABでリンスした。最後に、200μlの現像試薬(SigmaFAST p-ニトロフェニルリン酸、Sigma-Aldrich)を添加し、37℃で40分間インキュベーションし、そして1時間以内に405nmで読み取った。
【0258】
示差走査型蛍光測定(DSF)
以前記載されるように(34、35)、7500 Fast Real PCR システム(ソフトウェア
バージョン1.4、Applied Biosystems)上で、DSFを行った。ヘパリン(25μM)を含みまたは含まず、TGF-β1(2.5μM)を試験した。TGF-β1の融解を促進するため、10mMのジチオスレイトール(DTT)を反応混合物に添加した。先に記載されるように(34)実験を行った。Origin 7(OriginLab社)を用いて、融解曲線の
一次導関数を計算して、多様な条件下でTGF-β1の融解温度を決定した。実験を3つ組で行ったが、明確にするため、本明細書に提示するデータでは、複製物の平均のみを示す。
【0259】
細胞溶解およびウェスタンブロッティング
ヒトMSCを基本培地中、6ウェルプレート中で、10,000細胞/cmの密度で、24時間培養した。次いで、TGF-β1処理を1ng/mlもしくは5ng/ml単独、または10μg/mlもしくは40μg/mlの全長ヘパリン、あるいは1ng/mlのTGF-β1と10μg/mlサイズ分画または選択的脱硫酸化ヘパリン、HSPM、HS16+またはHS16-のいずれかの存在下で調製し、そして室温で10分間インキュベーションした後、細胞に添加した。潜在TGF-β1(LTGF-β1)処理を、同様に3.3ng/ml単独または10μg/mlの上述の多様なGAGとともに調製した。阻害剤研究のため、TGF-β1で処理する前に、細胞を10μM SB431542(Sigma-Aldrich)またはDMSOと30分間前処理した。次いで、細胞を多様なTG
F-β1処理に1、6または24時間供し、そして2xLaemmli緩衝液中で溶解した後、4~12% SDS-PAGEゲル上で分離した。次いで、試料を、SMAD2/3(#3102、Cell Signaling)、リン酸化SMAD2(pSMAD2、#3108、Cell Signaling)、リン酸化SMAD3(pSMAD3、#9520、Cell Signaling)およびアクチン(MAB1501R、Millipore)に対する抗体でイムノブロッティング
した。Quantity Oneソフトウェア(バージョン4.6.6、Bio-Rad)を用いて、濃度測
定を行った。
【0260】
逆転写および定量的PCR(qPCR)
製造者のプロトコルにしたがって、TRIZOL試薬(In vitrogen、Life Technologies)を用いて、軟骨形成微量ペレットから総RNAを単離した。製造者の指示にしたがい、42℃のインキュベーションを1時間ではなく2時間行って、SuperScript(登録商標
)VILOTM cDNA合成キット(In vitrogen、Life Technologies)を用いて、
1μg RNAに対して、逆転写を行った。各qPCRは、最終体積20μl中、40ng cDNA、遺伝子あたり1μlのTaqMan(登録商標)プライマー-プローブ混合物、および10μl Taqman(登録商標)Fast普遍的PCRマスター混合物(Applied Biosystems、Life Technologies)を含有した。熱周期条件は、95℃で20
秒間であり、その後、45周期の95℃3秒間および60℃30秒間が続いた。各qPCRを2つ組で実行し、そして遺伝子発現をHPRT1発現に対して規準化して、ΔCt値を得た。生物学的3つ組の平均値を取った。ヘパリンを含まない培地中で培養した軟骨形成微量ペレットを、対照(ΔΔCt)として用いた。各プライマーセットの相対発現レベルを2-ΔΔCt法によって倍変化として表した(36)。以下のTaqMan(登録商標)プライマー-プローブアッセイ(Applied Biosystems、Life Technologies)を用い
た:HPRT1(アッセイID:Hs01003267_m1)、SOX9(アッセイID:Hs00165814_m1)およびCOMP(アッセイID:Hs00164359_m1)。
【0261】
保護および標識
1nmolのTGF-β1タンパク質および0.1%(w/v)RapiGestTM
SF界面活性剤(Waters社)を用いてミニカラムからタンパク質を溶出したことを除いて、FGF-2に関してOriらに記載されるように(37)、「保護および標識」アプローチによって、TGF-β1上のヘパリン結合部位を同定した。消化およびビオチン化ペプチドをC18 Zip Tip(Millipore)上で精製し、そして次いでタンデム質量分析(MS)によって分析した。EASY-nLC(Proxeon)を用いて、最高2μgのビオ
チン化ペプチドをLTQ Velos装置(Thermo)内に注入した。PicoFritTMカラム(HALO、C18、90Å、2.7μm、75μm(ID)x100mm長)(New Objectives)上で、60分間の直線勾配(0.1%ギ酸中、2~40%(v/v)アセトニトリル)を用いて、ペプチドを分離した。二重圧力線形イオントラップ中でサーベイMSスキャンを獲得する、TOP-10戦略を用いて、データ獲得を行った。MSスキャン範囲は310~1400m/zであり、AGFターゲット3e4および最大注入時間10msであった。1000を越えるイオン強度および1を除く荷電状態の10の最も強力なイオ
ンが、4e4の最大AGFターゲット値まで、最大100msで連続して単離され、そして30%の規準化衝突エネルギーを用いて、衝突誘起解離(CID)によって断片化された。500の排除リストサイズ、1つの反復カウント、45秒の反復期間、30秒の排除期間ならびに1.0低および1.5高の質量幅で、動的排除リストを適用した。失効を無効にした。
【0262】
ipi.HUMAN.v3.86デコイデータベース(183,568配列)を用い、そして以下のパラメータ:消化、キモトリプシン(FWYL/P);最大切断失敗、2;固定修飾、カルバミドメチル(Cys);ありうる修飾、アセチル(Lys)、アセチル(タンパク質N末端)、ビオチン(Lys)、酸化(Met);親イオン耐性、2Da;断片化イオン耐性0.8Daを適用して、Mascot検索(バージョン2.3、Matrix
Science)を用いたデータ分析を行った。20より高いMascotスコアを有するビオチン化ペプチドを手動で検証した。
【0263】
H-ヘパリン結合アッセイ
TGF-β1由来ペプチド(配列RKDLGWKWIHEPKGYH-AHX-K(ビオチン)[AHX=6-アミノヘキサン酸];[配列番号7])のヘパリン結合能を決定するため、0.5mgのペプチドを、1mlのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で再構成した。次いで、ニトロセルロースディスク(6mm直径)を1mlの再構成ペプチド中で一定に振盪しながら室温で1時間インキュベーションすることによって、ペプチドをニトロセルロースディスク上に吸着させた。PBSのみの中でインキュベーションしたディスクを陰性対照として使用した。吸着後、真空オーブン中、80℃および-10mmHg(-10 in Hg)でディスクを45分間乾燥させ、PBSで3回洗浄し、そして次いで、1mlの0.1μCi/ml H-ヘパリンと、一定に振盪しながら室温で16時間インキュベーションした。次いで、ディスクをPBSで4回洗浄し、そして結合したH-ヘパリンの量をシンチレーションカウンターで測定した。
【0264】
HS16陽性のアフィニティ単離
上述のTGF-β1ペプチド配列を用いて、先に記載されるように(29)、HS16陽性の単離を行った。
【0265】
簡潔には、3mgのペプチドをHiTrap TMストレプトアビジンHPカラム(GE
Healthcare、英国バッキンガムシャー)にカップリングさせ、これを次いで、商業的に
入手可能なブタ粘膜HS(HSPM、Celsus Laboratories Inc、米国オハイオ州)を用
いたアフィニティクロマトグラフィに用いた。HSPMを低塩緩衝液(20mMリン酸、150mM NaCl、pH7.2)中、1mg/mLで溶解し、流速0.2mL/分で装填し、そして232nmのベースライン吸光度(A232)がゼロに到達するまで、同じ緩衝液でカラムを洗浄した。結合したHSは、高塩緩衝液(20mMリン酸、1.5M
NaCl、pH7.2)の単一工程で溶出し、ピーク分画をA232で監視し、収集し、そして低塩緩衝液で、カラムを再平衡化した。溶出(HV16陽性)およびフロースルー(HS16陰性)ピークを別個に収集し、凍結乾燥し、HiPrepTM26/10脱塩カラム(GE Healthcare、英国バッキンガムシャー)上で、流速10mL/分で脱塩し
、再び凍結乾燥し、そして-20℃で保存した。
【0266】
プロトンNMR分光測定
HSPM、HS16陽性およびHS16陰性試料をプールし、そしてDO中で3回交換し(乾燥粉末のDO(0.5~1mL)中での溶解、および完全な凍結乾燥までのフリーズドライを3回経過)、そして乾燥重量を決定した。DO溶液として5mmチューブ中、30℃でNMR分析を行い、そしてこれには、内部標準としてtBuOH(0.2mg/mL)が含まれた。包括的データセットの最適濃度は、HS調製がおよそ3mg/
mLであったことを除いて、~15mg/mL(H)であった。プロトン(500MHz)NMRスペクトルを3チャネルBruker AvanceIII500上で記録した。プローブはBr
uker2チャネル5mmブロードバンド核プローブ(31P-109Ag)であり、アクティブシールド50G/cm Z軸パルスフィールド勾配を装備した。NMRスペクトルは、必要に応じて位相修正され、そしてtBuOH(H δ 1.24ppm;13C(メチル)δ 30.29ppm)を参照した。シグナルの割り当ては、Guerriniら(38)によって報告されるものに基づいた。
【0267】
非変性PAGEにおけるGAGのアルシアンブルー/銀染色
HSPM、HS16陽性およびHS16陰性試料における多糖鎖のサイズ分布を調べるため、80Vで30分間プレ泳動して、残渣過硫酸アンモニウムおよびテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を除去した、12%非変性PAGEゲル上で、各2μgのGAGを泳動した。Tris-グリシン緩衝液(25mM Tris、192mMグリシン)で1xに希釈した、4x電気泳動移動度シフトアッセイ(EMSA)緩衝液(40mM
Tris-HCl、pH8.0、40%(v/v)超純粋グリセロール、0.4%(v/v)NP40および400mM KCl)で、最終体積25μL中で試料を調製した。分子量ラダーおよびBSAを分子量マーカーとして用いる一方、ヘパリンをアルシアンブルー染色の陽性対照として用いた。次いで、ゲルを2%(v/v)酢酸中の0.5%(w/v)アルシアンブルーで45分間染色し、2%(v/v)酢酸中で15分間脱染色し、そしてMilliQ水中で一晩洗浄して、過剰な染色を取り除いた。続いて、ゲルを銀染色して、タンパク質マーカーを可視化し、そしてアルシアンブルー染色GAGのコントラストを増進させた。
【0268】
アフィニティ単離HSのHPLC-サイズ排除クロマトグラフィ-屈折率(HPLC-SEC-RI)
Waters 2410屈折率モニター(レンジ64)を伴うWaters 2690 Allianceシステム上で
、直列にTSKゲルG4000PWXL(7.8mmx30cm)およびTSKゲルG3000PWXL(7.8mmx30cm)(TOSOH社)を用いて、HPLC-SEC-RIクロマトグラムを得た。RIからの定量化のため、dn/dcを0.129に設定した(39)。試料を注入し(50μg)、そして0.5ml/分の流速、室温で、50mM酢酸アンモニウムで溶出させた。データを収集し、そしてDAWN Astraソフトウェア(バージョン4.73.04、Wyatt Technologies社)を用いて分析した。分子量(MW)標準の溶出体積は、同じ条件下で流動させたヘパリンオリゴ糖(IduronおよびDextra Laboratories)の溶出体積に基づいた。これらのカラムの流動時間は、どちらの場合も10
0分であった。すべてのGAG試料は、水中で1mg/mlの濃度であった。
【0269】
ヘパリン・リアーゼ酵素でのHS試料の消化
HSPM、HS16陽性およびHS16陰性試料を水(1100μl)に可溶化し、そして濾過して(Minisart RC15、0.2μmシリンジフィルター装置、Sartorius Stedim
、#17761)、いかなる粒子状物質も除去した。さらなるクリーンアップ工程として、濾過溶液を、遠心分離(4000rpm、1時間、15℃)によって、2000 MWCO膜(Vivaspin 2、Hydrosart、Sartorius Stedim、#VS02H91、2000 M
WCO HY膜、2mL限外濾過スピンカラム)に通過させた。残余分を水(3x1ml)で洗浄し、フィルターから回収し、そして凍結乾燥した。精製HS試料を水に可溶化し(1mg/ml)、そして各凍結乾燥試料のアリコット(2x~1ml)を分析のために採取した。Brickmanらの方法(40)に基づくが、いくつかの修飾を伴い、ヘパリン・リアーゼ酵素(ヘパリン・リアーゼI、IIおよびIII、Ibex Technologies)の連続添
加によって、HS試料を二糖およびオリゴ糖まで消化した。乾燥HS試料を消化緩衝液(500μl;50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.0)中に再溶解し、そしてヘパリン・リアーゼI(5μl;5mIU)を各試料に添加した。試料を回転ホイール上で穏
やかに混合しながら(9rpm)インキュベーションした(37℃2時間)。ヘパリン・リアーゼIII(5μl;5mIU)を消化物に添加し、そしてさらに1時間(上述のように)インキュベーションした。ヘパリン・リアーゼII(5μl;5mIU)を添加し、そして消化物を上述のように18時間インキュベーションした。最後に、3つすべてのヘパリン・リアーゼのアリコット(5μl;5mIU)を同時に添加し、そして消化物をさらに24時間インキュベーションした。酵素消化を加熱(100℃、5分間)によって終結させた。すべての3つのHS試料を2つ組で消化し、そしてUV検出(232nm)を伴うHPLCによって分析した。
【0270】
消化したHS試料のHPLC-SEC-RI
2つのSuperdexTMペプチド10/300GLカラム(300x10mm、GE
Healthcare)を、Waters 2410屈折率検出装置(レンジ64)を備えたWaters 2690 Allianceシステム上で連続して直列で用いて、HPLC-SECクロマトグラムを得た。RIからの定量化のためのdn/dcを0.129に設定した(39)。試料(2mg/ml)を注入し(50μl;100μg)、そして室温で50mM酢酸アンモニウム(0.5ml/分)で溶出させた。同じ条件下で、ヘパリンオリゴ糖標準(IduronおよびDextra Laboratories)を流動させた。これらのカラムの流動時間は120分間であった。データ
を収集し、そしてDAWN Astraソフトウェア(バージョン4.73.04、Wyatt Technologies社)を用いて分析した。
【0271】
HPLCによる二糖組成分析
細菌ヘパリナーゼによる高品質ブタヘパリンの消化から得られる12の二糖標準をIduronから購入した。二糖を水に溶解する(1mg/ml)ことによって、各二糖標準のストック溶液を調製した。二糖標準の検量線を決定するため、各20μg/mlの二糖を含有する標準混合物をストック溶液から調製した。この12の二糖標準混合物から、20、10、5、2.5、1.25、0.625および0.3125μg/mlの各二糖を含有する希釈シリーズを調製した。HSPM、HS16陽性およびHS16陰性消化物(2mg/ml)を水に希釈して、100μg/ml溶液を得て、そして次いで、親水性PTFE使い捨てシリンジフィルター装置(0.2μm、13mm、Advantec)を用いて濾過した。HPLC分離条件は、Skidmoreら(41)のものに基づいた。232nmで監視するAgilent 1260 MWD VL検出装置を伴うAgilent 1260 Infinity液体クロマトグラフィシステム(Agilent Technologies)上で、分析を行った。HS由来二糖を、ガードカラムを含むProPacTM PA1カラム(Thermo Scientific、4mmx250mm)上で
分離した。バイナリ溶媒系を用いて勾配溶出を行った。溶出液AはpH3.5の水(HClを用いて調整)であり、そして溶出液BはpH3.5の2M NaCl(HClで調整)であった。勾配プログラムは以下の通りであった:0~1分、100%A、次いで、1~32分、0~35%B、次いで、32~37分、35~65%B、次いで、47~57分、100%B、次いで、57~60分、100%A。注入体積は50μlであった。カラムを流速1.0ml/分で溶出させ、そして40℃で維持した。HS消化物中に存在する二糖は、12の二糖標準混合物において、二糖の溶出時間との比較によって、溶出時間から同定された。HS16+およびHS16-消化物を2つ組消化物あたり2回注入し(全部で4回注入)、一方、HSPM試料を2つ組消化物あたり1回注入した(全部で2回注入)。
【0272】
プラスミン消化
多様なGAGがTGF-β1をタンパク質分解消化から保護する能力を決定するため、TGF-β1(100ng)を、PBS中、10μgのHep、HSPM、HS16陽性またはHS16陰性とともに、あるいは単独のいずれかでプレインキュベーションした。0.5mUのプラスミンをTGF-β1試料に添加し、そしてこれらを37℃で1.5時間インキュベーションすることによって、プラスミン消化を実行した。続いて、試料を4
~12%SDS-PAGEゲル上で泳動し、そして銀染色によって視覚化した。すべての試料をPBS中で10μlの最終体積に構成した。
【0273】
アルカリホスファターゼ(ALP)アッセイ
BMP-2活性に対するHS16陽性の影響を決定するため、C2C12マウス筋芽細胞を完全C2C12培地(DMEM-LG、10%(v/v)FCS、100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン)中、20,000細胞/cm2で2つ組で植え付け、そして24時間付着させた。次いで、完全培地を、100ng/mL
BMP-2および/または5μg/mL HS16陽性、HS3陽性またはHSPMを含むまたは含まない処理培地(DMEM-LG、5%(v/v)FCS、100U/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン)と交換し、そして細胞を3日間インキュベーションした。次いで、総細胞溶解物を、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Calbiochem、Merck Millipore、米国マサチューセッツ州)を含有するRIPA緩衝液中に収
集し、そしてBCAタンパク質アッセイキット(ThermoFisher Scientific)を用いて、
タンパク質含量を決定した。5μgのタンパク質とp-ニトロフェニルリン酸(Sigma-Aldrich)とともに37℃で1時間インキュベーションし、そして405nmでの吸光度の
変化を読み取ることによって、ALP活性を測定した。RIPA緩衝液単独および1μL(10,000U/mL)のウシ腸ホスファターゼ(New England Biolabs Ltd、カナダ
・オンタリオ州)を、それぞれ陰性および陽性対照として用いた。各試料を2つ組で読み取って、処理群あたり総数4の読み取りを得た。
hMSCのヘパリナーゼ処理
TGF-β1シグナル伝達に対する内因性HSの影響を評価するため、hMSCを、12ウェルプレート中の基本培地中、7,500細胞/cmの密度で植え付け、そして一晩付着させた。次いで、ヘパリナーゼI、IIおよびIII(各1.2mIU/mL)の組み合わせを各ウェル中の培地に添加し、そして24時間インキュベーションした。次いで、細胞をTGF-β1処理に6時間曝露し、1ng/mLまたは5ng/mL単独のいずれかで調製するか、あるいは10μg/mLまたは40μg/mLの全長ヘパリンいずれかとともに室温で10分間プレインキュベーションし、そして次いで2xLaemmli緩衝液中、イムノブロッティングのために溶解した。処理を血清不含培地(100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシンおよび2mM L-グルタミンを補充したDMEM-LG)中で調製して、新鮮な血清を細胞に添加した際に見られるpSMADのバックグラウンドレベル増加を回避した。
【0274】
ヘパリナーゼ消化細胞の免疫蛍光染色
ヘパリナーゼ処理がhMSCから内因性HS鎖を有効に取り除いたことを確実にするため、細胞を基本培地中、3,500細胞/cmの密度で、8ウェルチャンバースライド中に植え付けた。細胞を一晩付着させた後、各ウェルに直接添加されるヘパリナーゼI、IIおよびIII(各1.2mIU/mL)の組み合わせで24時間処理した。続いて、細胞をPBS中、4%(w/v)パラホルムアルデヒド中で室温で10分間固定し、PBS中の3%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)で、室温で30分間ブロッキングし、そして次いで、抗HS 10E4抗体(0.3%(w/v)BSA-PBS中で1:25希釈)(AMS Biotechnology、英国アビングドン)と室温で3時間インキュベーション
した。次いで、細胞を抗マウスIgM-FITC抗体(0.3%(w/v)BSAPBS中で1:500希釈)(BD Pharmingen TM、Becton, Dickinson and Company、米国ニュ
ージャージー州)と室温で45分間インキュベーションし、そしてHoechst 33342(PB
S中2μg/mL)(Life Technologies)で室温で10分間核染色した。Olympu
s IX-81上で試料を画像化した。
【0275】
結果
ヘパリンはTGF-β1に結合し、そしてその活性を増強する
TGF-β1シグナル伝達に対するヘパリンの影響を決定するため、本発明者らはまず、ヘパリンがTGF-β1に結合可能であることを確実にすることを目指した。SPRおよびGAG結合プレートアッセイはどちらも、TGF-β1が、96ウェルプレート中に固定された(図1A)か、またはビオチン化され、そしてBiacore SAチップに固定された(図1B)か、それぞれいずれかのヘパリンに、用量依存性方式で結合したことを立証した。本発明者らのデータは、TGF-β1が~0.475μMのおよそのKでヘパリンに結合することを示す(図1B)。ヘパリンへのこの結合が、DSFによって決定されるような増進された熱安定性をTGF-β1に与えた(図2A)。TGF-β1ホモ二量体は、4つの鎖内および1つの鎖間の9つのジスルフィド結合を含み、これは、高い度合いの熱安定性を与える。これによって、TGF-β1単独で観察される66℃の高い融解温度が立証された(データ未提示)。TGF-β1へのヘパリンの結合が、新規非共有分子内結合の導入を通じて、熱安定性をさらに増加させるという仮定を本発明者らが試験する際、該タンパク質の融解温度を、アッセイが検出可能であるレベルに減少させることが必要となった。これは、10mMのDTTを反応に添加して、これがタンパク質内のジスルフィド結合を減少させ、それによって熱安定性を低下させることを通じて達成された。これは、66℃から44℃のTGF-β1の融解温度のシフトを生じた。ヘパリンを添加した際、TGF-β1の融解温度に相当するピークが右にシフトすることが見出され、そしてタンパク質の融解温度は47.5℃に増加した。
【0276】
次の工程は、ヘパリンおよびTGF-β1間の相互作用が、TGF-β1シグナル伝達経路に影響を及ぼすかどうか決定することであった。これを達成するため、hMSCを多様な量のヘパリンおよびTGF-β1で処理し、そしてpSMAD2およびpSMAD3のレベルを調べるため、処理の1、6および24時間後、タンパク質を採取した(図2B)。処理1時間後、pSMAD2およびpSMAD3レベルは、TGF-β1およびヘパリンで処理したすべての細胞で飽和した(データ未提示)。ヘパリンのみで処理したいかなる細胞においても、識別可能なレベルのpSMAD2およびpSMAD3は観察されず、ヘパリンはそれ自体ではTGF-β1シグナル伝達経路を活性化することが不可能であることが示された。処理の6時間後、すべての細胞におけるpSMADレベルは鎮静した。しかし、ヘパリンおよびTGF-β1の両方で処理した細胞は、ヘパリンを伴わずに同等の用量のTGF-β1で処理した細胞よりも、それぞれ、~1.6倍および~1.35倍高かった(図2B)。同様に、24時間のpSMADレベルは、TGF-β1のみで処理した細胞よりも、ヘパリンおよびTGF-β1の両方で処理した細胞においてより高くあり続けた(データ未提示)。このデータは、まず、TGF-β1のより高い用量(5ng/ml対1ng/ml)が、より長時間維持されるpSMADシグナルを生じることを初めて示す。次に、これらはまた、ヘパリンが、増殖因子のみに関して通常観察されるものよりもpSMADシグナルの半減期を延長させることが可能であることも示す。
【0277】
この影響をさらに調べるため、本発明者らは、続けて、hMSCの軟骨形成分化の初期段階中に発現されるTGF-β1ターゲット遺伝子の転写物レベルを調べた。hMSCの軟骨形成分化を培地(TGF-β1のみ)または培地+Hep(TGF-β1+ヘパリン)のいずれかの存在下で行った。軟骨形成培地中で3日間培養した後、培地+Hep中で培養した微量ペレットは、SOX9およびCOMP mRNA転写物両方の5倍高いレベルを示した(図2C)。総合すると、データによって、ヘパリンはTGF-β1に結合することが可能であり、そしてこうした結合が、細胞において見られるTGF-β1シグナルを増強することが示唆された。ヘパリンが実際に、TGF-β1の活性を増強することが確立されているため、本発明者らは次に、ヘパリンがこれらの影響を、TGF-β1シグナル伝達経路を通じるのではなく、何らかの間接的な経路を通じて生じる可能性を排除することを試みた。これを行うため、I型TGF-β受容体阻害剤であるSB431542を使用した(42)。SB431542でのhMSCの処理は、3日齢の軟骨形成微量ペレットにおけるSOX9およびCOMP遺伝子発現両方の減少を導いた(図2D)。デ
ータによって、受容体レベルでのTGF-β1活性の阻害は、ヘパリンのTGF-β1増強効果を無効にし、やはりヘパリンはTGF-β1活性に対するその効果を、TGF-β1シグナル伝達の調節を通じて発揮することが暗示された。
【0278】
TGF-β1結合および活性に関するヘパリンの長さの要件
本発明者らは次に、TGF-β1に結合するために必要なヘパリンの最小限の長さを決定することを試みた。可溶性サイズ分画ヘパリン断片(dp4~dp24)がTGF-β1のヘパリン・コーティングSAチップへの結合を競合的に阻害する能力は、その長さに比例して増加する(図3A)。このTGF-β1結合能の増加は、dp18以降はプラトーに達するようであり、未分画全長ヘパリン(Hep)に関して見られるものと類似の競合レベルであった。GAG-結合プレートアッセイから得られる結果もまた、ヘパリン鎖の長さが14(dp14)から24(dp24)糖単位に増加するにつれて、ヘパリンへのTGF-β1結合が改善されることを示した(図3B)。dp14より短い(すなわちdp4~12)ヘパリン鎖は、TGF-β1に有効に結合することができなかった(データ未提示)。多様な長さのヘパリン断片およびTGF-β1で処理した、処理後1時間のpSMAD2およびpSMAD3レベルのウェスタンブロット分析によって、pSMADシグナル両方の飽和が示された(データ未提示)。しかし、処理6時間後では、本発明者らは、多様な(dp14~24)ヘパリン断片の増強活性の長さ依存性増加が観察されることを予期し、未分画ヘパリン(Hep)およびTGF-β1で処理した細胞において観察されるものよりもなお低いとしても、dp24-TGF-β1の組み合わせで、最大のpSMADシグナルであろうことが期待された。その代わりに、本発明者らは、TGF-β1およびdp18~dp22の間のヘパリン断片で処理した細胞が、未分画ヘパリンおよびTGF-β1で処理した細胞において観察されるものより高いpSMADレベルを示すことを観察し、シグナルのピークはdp20-TGF-β1の組み合わせだった(図3C)。これによって、ヘパリン鎖の長さが、TGF-β1シグナルを増強する能力に、かなりの影響を発揮することが示唆される。
【0279】
TGF-β1結合および活性に関するヘパリン硫酸化要件
ヘパリン-タンパク質相互作用が主にイオン性の性質であることを考慮して、本発明者らは、次に、ヘパリンおよびTGF-β1の間の相互作用に対して、ヘパリン中の多様な硫酸基が有する影響を調べることにした。Biacore競合アッセイによって、ヘパリンから
の2-O硫酸基の喪失(2-O-脱)は、固定されたヘパリンへのTGF-β1結合を競合阻害する能力に最小限の影響しか持たないことが示された(図4A)。6-O硫酸基の喪失(6-O-脱)は、およそ40%のTGF-β1結合能の喪失を導き、一方、N-硫酸基の喪失は、TGF-β1に結合するヘパリンの能力を無効にした。対照的に、GAG結合プレートアッセイは、ヘパリンからの2-O硫酸基の除去(2-O-脱)が、完全に硫酸化された全長ヘパリン(Hep)に比較して、約60%、TGF-β1結合を減少させることを立証した。6-O硫酸基の除去(6-O-脱)は、TGF-β1の能力をおよそ80%減少させ、そしてN-硫酸化の欠如(N-脱)は、やはりTGF-β1結合を本質的に無効にした。興味深いことに、細胞培養中で試験した際、得た結果は、多様なヘパリン長を評価する際に見られたものと同様に多様であった。本発明者らは、6時間の2-O脱硫酸化ヘパリン(2-O)で処理した細胞のpSMADレベルでは、完全に硫酸化されたヘパリンに比較して減少が見られると予期したが、その代わり、本発明者らは、ヘパリン処理細胞で見られるものよりも高いレベルまでの増加を観察し(図4C)、2-O-脱硫酸化ヘパリンが、完全に硫酸化されたヘパリンよりもさらによりTGF-β1シグナル伝達を増強することが示唆された。同様に、6-O-硫酸化(6-O)の除去もまた、ヘパリン処理細胞で見られるものに比較してpSMADレベルの安定化をもたらした。しかし、N-硫酸化(N)の喪失は、ヘパリン処理細胞のものに比較して、pSMADレベルの増加を導かなかった。
【0280】
総合すると、データによって、ヘパリンからの2-O-硫酸化の喪失は、そしてより低い度合いで6-O-硫酸化は、実際、ヘパリンがTGF-β1シグナルを増強させる能力を改善することが示され、結合強度および生物活性の間の関係が線形ではないことが示唆された。
【0281】
TGF-β1ヘパリン結合部位の同定
ヘパリンは、多くの感受性増殖因子に存在する塩基性残基の立体配置と相互作用することが知られるため、本発明者らの次の目的は、TGF-β1内の実際のヘパリン結合部位(単数または複数)を同定することであった。TGF-β1上の推定上のヘパリン結合部位を同定する以前の研究は、線形タンパク質配列中に存在するヘパリン結合モチーフの同定を通じてこれを行った(2、4)。しかし、こうしたアプローチは、タンパク質の完全3次元(3D)コンホメーション性質を考慮に入れることができず、そしてしたがって、タンパク質の三次構造からしか明らかになりえないヘパリン結合部位を同定することができない。こうしたものとして、本発明者らは、Oriらによって開発された保護および標識戦略(37)を使用して、こうした3D部位がTGF-β1内に存在するかどうかを調べることにした。本発明者らの分析は、TGF-β1のヘパリンへの結合に関与するようである8つのリジン(K13、K26、K31、K37、K60、K95、K97およびK110)を同定した(図5A、表1)。これらの8つのうち、7つはMS/MS配列決定に基づいて、高いレベルの信頼性を持つと同定された。残りのリジンK60は、中程度のレベルの信頼性を持つと同定され、ヘパリンと該リジンとの相互作用は断続的であり、そしてヘパリンへのTGF-β1の結合に必須ではない可能性が示唆され、したがって、Lyonらに提唱される現在のモデル(2)をやはり裏付けた。
【0282】
同定されたリジンのうち、K13およびK110の2つを除いてすべてが、TGF-β1のヘパリン結合ドメインの一部として以前同定されてきている(図5A)。3D構造上にマッピングした際、K13は、ヘパリン結合に必須の残基であると提唱されているK26と同じ底面上にマッピングされた(図5B)。K110は、TGF-β1単量体間の界面に沿ってマッピングされる。しかし、K110は、タンパク質内に包埋されているようであり、したがって、TGF-β1が「粘着性」の性質であり、ヘパリンミニカラムからタンパク質を溶出するために2M NaClよりも酸感受性界面活性剤(RapiGestTM SF界面活性剤)の使用を必要とするため、この結果は偽陽性である可能性が高い。溶出にこの界面活性剤を使用すると、標識/ビオチン化工程の前に、タンパク質の変性が生じ、したがって、通常タンパク質コア内に包埋されている残基が曝露されて、結局誤って標識されることになる。
【0283】
アフィニティ選択TGF-β1結合性HS(HS16陽性)の単離
ヘパリン-TGF-β1の相互作用の構造的特徴および要件が同定されたため、本発明者らの次の目的は、商業的に入手可能なHSPM調製物を構成する異種プールからHSのTGF-β1結合性分画を単離することであった。これを行うため、本発明者らはまず、TGF-β1から得られるヘパリン結合性ペプチドを設計し(図6A)、そしてH-ヘパリンに結合する能力を試験した(図6B)。次いで、TGF-β1ペプチドを用いて、本発明者らのHSアフィニティ単離プラットホームを用い、Muraliらに先に記載されるように(29)、HSのTGF-β1結合集団を単離した。カラムに結合しないHSは、HS16陰性と称され、一方、カラムから1.5M NaClで溶出したTGF-β1結合性HSは、HS16陽性と称された(図6C)。
【0284】
表1. 保護および標識構造プロテオミクスによって同定されたペプチドの要約
タンデム質量分析によって標識ペプチドを同定し、そしてMascot検索バージョン2.3(Matrix Science)によって分析した。ここで、ヘパリン結合部位に関与するペプチドの要約および標識位を提供する。
【0285】
【表3】
【0286】
残基は図5Aにしたがって番号付けする
次いで、プロトンNMR、HPLC-SEC-RIおよび二糖組成分析を行って、HSPM、HS16陽性およびHS16陰性の間に何らかの体系的な相違があるかどうかを決定した。3つのHS試料のNMR分析によって、いくつかのわずかな相違が明らかになり(矢印、図7A)、一方、SECのクロマトグラムは、HS16陽性が主に、HSPMおよびHS16陰性に見られるものよりも恒常的に長いHS鎖で構成されることを示した(図7B)。
【0287】
3つのHS試料のNMRスペクトルにおいて、最も明らかな相違は、HS16陽性の~5.4ppmでのシグナル強度のわずかな減少であり(矢印、図7A)これは、Guerriniら[複合グルコサミノグリカン:2次元核磁気共鳴分光による置換パターンのプロファイリング。Anal Biocmem, 2005, 337(1):p.35-47]によって以前報告されたように、グルコサミン酢酸メチル共鳴に割り当てられた。この減少は、他の2つの分画に比較した際のHS16陽性のN-硫酸化のわずかにより高いレベルの指標であった。
【0288】
いくつかのヘパリンサイズ標準(dp8、12、20、および26)の溶出時間に基づいて、本発明者らのデータはまた、HS16陽性が、26糖より長いHS糖で構成されることも示す。最後に、3つのHS試料消化物の二糖組成分析によって、HSPMおよびHS16陰性は類似であるが、HS16陽性はΔUA-GlcNS,6SおよびΔUS,2S-GlcNS,6Sが豊富であり、そしてより少ないΔUA-GlcNAc、ΔUA-GlcNS、ΔUA,2S-GlcNAcおよびΔUA,2S-GlcNSを含有することが示された(図7C、表2)。総合すると、データは、HS16陽性を構成するHSプールが、サイズ分布および組成の両方に関して、HS16陰性およびHSPMとは顕著に異なることを示す。さらに、HS16+で見られるΔUA,2S-GlcNAcおよびΔUA,2S-GlcNSの相対的な減少は、2-O-硫酸のヘパリンからの喪失がどのように実際にTGF-β1に対する生物活性を増加させるのかに関する本発明者らの先の知見を補強する(図4)。
【0289】
HS鎖は、鎖の長さに関して非常に多様であることが知られており[Esko, J.D., K. Kimata,およびU. Lindahl, プロテオグリカンおよび硫酸化グリコサミノグリカン Essentials of Glycobiology中,A. Varkiら監修 2009年,Cold Spring Harbor Laboratory Press:ニューヨーク州コールドスプリングハーバー]、これは部分的に、非常に多
数のタンパク質に結合する能力を説明する。所定のタンパク質に関するHS調製物の相対的特異性を増進するため、この変動を減少させることが必要である。本発明者らは、3つのHS試料内の多糖鎖のサイズ分布を調べた。3つの試料およびヘパリンを非変性PAGEによって分離すると、HS16陽性が、HS16陰性およびHSPMに比較して、主に
、より長いHS鎖で構成されることが示された。HSよりも比較的より均質であるヘパリンを用いて、HS調製物中に高い不均一性が存在することがわかった。これらの知見を検証するため、サイズ排除クロマトグラフィ(HPLC-SEC-RI)を行った。SEC由来のクロマトグラムは、HS16陽性が、およそdp8から>dp26までのHSPMの多分散のサブセットからなることを示した(図7B)。しかし、HS16陽性集団では、より長い鎖長(>dp26)のHSが濃縮されており、これは、非変性PAGEからの本発明者らのデータおよびTGF-β1に結合するヘパリンに関する長さ要件に関する本発明者らの知見を確証する。
【0290】
データは、HS16陽性を構成するHSプールが、サイズ分布および組成の両方に関して、HS16陰性およびHSPMと顕著に異なることを示す。さらに、HS16陽性に見られるΔUA,2S-GlcNAcおよびΔUA,2S-GlcNSの相対的な減少は、ヘパリンからの2-O硫酸の喪失が、実際に、TGF-β1に対する生物活性を増加させるように働くという以前の観察を確証した(図4C)。ΔUA,2S-GlcNS,6Sの相対的に増加した比率は、2-O-硫酸化の存在とは関わりなく、N-および6-O-硫酸化を含む糖に関して優先的に濃縮するペプチドから生じている可能性もある。
【0291】
表2.ヘパリン・リアーゼ消化HS試料の二糖組成
HS試料をヘパリン・リアーゼI、IIおよびIIで消化して、そして生じた二糖をHPLCを通じて分離した。既知の二糖標準のものと溶出時間を比較することによって二糖を同定し、そして各HS試料における比率をいくつかの検量線を用いて計算した。
【0292】
【表4】
【0293】
HS16陽性は、TGF-β1に結合し、そしてそのシグナル伝達を増強する
HS16陰性およびHSPMと比較したHS16陽性の組成の相違を考慮して、本発明者らは次に、これらの相違が何らかの機能的結果を生じるかどうかを調べることにした。これらのHS分画が、Biacore競合アッセイにおいて、TGF-β1に結合する能力を調べると、HS16陽性は、HS16陰性またはHSPMよりも、はるかにより高いアフィニティでTGF-β1に結合可能であることが示された(図8A)。HS16陽性は、TGF-β1由来ペプチドを用いて単離されたため、該タンパク質上の塩基性残基を糖がマスキングする能力を評価することが重要であった。これを行うため、本発明者らは、糖(Hep、HSPM、HS16陽性、およびHS16陰性)とTGF-β1をあらかじめ結合させ、そしてこれらをプラスミン消化に供した。プラスミンが、リジンおよびアルギニン残基のカルボキシル面を優先的に切断することを考慮して、本発明者らは、糖がTGF-β1にある程度の特異性を持って結合するのであれば、これはタンパク質にプラスミンからのある程度の保護を与えるであろうと判断した。プラスミン消化産物の銀染色は、HS16陽性(TGF-β1+HS16陽性)が、ヘパリン(TGF-β1+Hep)を含めて、試験した他のいずれの糖よりもプラスミン消化からTGF-β1をよりよく保護可能であることを明らかにした(図8B)。in vitro系において、HS16陽性は、hMSCにおいて、pSMAD2およびpSMAD3を通じて、ヘパリンと類似の程度ま
でTGF-β1シグナル伝達を増強することが可能であった(図8C)。興味深いことに、HSPMおよびHS16陰性は類似の反応を引き出すことができず、HS16陽性は、HSPMおよびHS16陰性の両方と、組成的にそして機能的に異なるという本発明者らの先の知見が裏付けられた。
【0294】
大部分のTGF-β1は、in vivoで、潜在TGF-β1(LTGF-β1)として知
られる不活性型で見られ、そしてHS16陽性は、HSPMのプールから単離されたため、本発明者らは、次に、HS16陽性がLTGF-β1に対して有しうる影響を調べることにした。本発明者らのデータは、再び、HS16陽性が、ヘパリン(Hep)、HSPMおよびHS16陰性よりもより有意にLTGF-β1誘導性pSMADシグナルを増強することが可能であることを立証した(図10A)。総合すると、本発明者らのデータは、HS16陽性単離体が、HSPM出発物質および非結合性HS16陰性と比較して、TGF-β1に、より優れて結合し、そしてそれによって駆動されるシグナル伝達を増強することが可能であることを示す。また、HS16陽性は、HSPM出発材料および非結合性HS16陰性に比較して、生理学的により大量のLTGF-β1によって駆動されるシグナル伝達を増強することが可能であった。
【0295】
hMSCの単離および特徴付け
ヘパリン-TGF-β1相互作用の生物学的影響を調べるため、初代hMSCを単離する必要があった。商業的に入手可能な骨髄細胞(Lonza)を購入し、そしてプラスチック
接着を通じてhMSCを単離した。0継代の細胞を続いて拡大し、そしてバイアルあたり1x106細胞のバッチで凍結させた。Dominiciら[多分化能間葉系間質細胞を定義するための最小限の基準。細胞療法国際会議意見書。Cytotherapy, 2006.8(4):p.315-317]によって記載されるように、第5継代でMSC表面マーカー発現に関して、FACSによって細胞をスクリーニングした。95%より多い単離hMSCがCD73、CD90およびCD105を発現し、一方、CD14、CD19、CD34、CD45およびHLA-DRは発現しなかった。単離細胞はまた、骨芽細胞、脂肪細胞および軟骨芽細胞にin vitroで分化することも可能であった。したがって、プラスチック接着によって単離された細胞は、hMSCの最小限の基準特性を満たすと考えられた。
【0296】
hMSCにおけるTGF-β1シグナル伝達に対するヘパリンの影響
初代hMSCを単離したため、本発明者らは次に、ヘパリンおよびTGF-β1の間の相互作用が、TGF-β1シグナル伝達に対する細胞反応に影響を及ぼすかどうかを決定し、これは、SMAD2およびSMAD3の下流リン酸化によって測定された。ヘパリンは、初代ラットおよびウシ平滑筋細胞(SMC)ならびにCCL64ミンク肺上皮細胞株において、TGF-β1の影響を増強するが、初代ヒト伏在静脈(SMC)においては増強しないことが示されてきている[McCaffrey, T.A.ら, トランスフォーミング増殖因
子ベータ活性は、トランスフォーミング増殖因子ベータ/アルファ2-マクログロブリン不活性複合体の解離を通じて、ヘパリンによって増強される。 J. Cell Biol, 1989. 109(1):p.441-44;McCaffrey, T.A.ら, ヘパリンおよびフコイダンによるトランスフォー
ミング増殖因子β活性の保護。 J. Cell Physiol, 1994. 159(1):p.51-59]。本発明者らはしたがって、hMSCにおいてTGF-β1活性をヘパリンが増強するならば、効果は、TGF-β1のみからのpSMAD2およびpSMAD3シグナルが収まり始めてからしか見られないと推測した。したがって、本発明者らの最初のTGF-β1投薬実験のために選択した時点は、6、12、24および48時間であった。第5継代の細胞をある範囲のTGF-β1用量で処理し、そして総細胞溶解物を、処理の6、12、24および48時間後に収集した。次いで、溶解物試料を4~12%(w/v勾配)SDS-PAGEゲル上で分離し、ニトロセルロース膜上にトランスファーし、そしてホスホ-SMAD2(pSMAD2)(138D4、Cell Signaling Technology)、ホスホ-SMAD3(
pSMAD3)(C25A9、Cell Signaling Technology)、総SMAD2/3(Cell
Signaling Technology)およびアクチン(クローンC4、Merck Millipore)に関して、
ウェスタンブロットによって探査した。本発明者らの結果は、TGF-β1を含まなくても(0ng/mL)、低いバックグラウンドレベルのpSMAD2およびpSMAD3シグナル伝達があることを示した。1ng/mLでは、pSMAD2シグナルは、処理6時間後、非常に強力であり、そして12時間後以降、収まり始めた。pSMAD3シグナルは、より低い強度ではあるが、pSMAD2シグナルのものを反映した。5ng/mLおよび10ng/mLのTGF-β1両方で、pSMAD2シグナルは、試験したすべての時点で飽和したままであるようであったが、pSMAD3シグナルは、24時間までにバックグラウンドに戻った。したがって、すべての続く実験では、6時間の時点を選択した。
【0297】
本発明者らの次の目的は、本発明者らの実験に使用するためのヘパリン用量を決定することであった。McCaffreyら(上記)が以前、ヘパリンの有効なTGF-β1増強用量を
1~100μg/mLの間であると報告しているため、本発明者らは、この範囲内の用量を選択した。1ng/mLのTGF-β1で処理し、10μg/mLのヘパリンとプレインキュベーションした細胞は、TGF-β1のみの同じ用量で処理した細胞と比較して、より強いpSMAD2およびpSMAD3シグナルを維持した(図3.12)。より高い用量のヘパリン(40μg/mL)は、1ng/mLのTGF-β1で同じ効果を誘発することができなかった。5ng/mLのTGF-β1とプレインキュベーションした際、どちらの用量のヘパリンも、増殖因子のみで得られるものを超えるpSMADシグナルを増進することはできなかった。総合すると、本発明者らの結果は、ヘパリンは、TGF-β1によって産生されるpSMADシグナルを増進するのではなく延長することを示唆する。
【0298】
本発明者らは次に、細胞表面HSがTGF-β1駆動性SMADシグナル伝達に対して有しうる影響を調べることにした。これを行うため、第5継代の細胞をヘパリナーゼI、IIおよびIII(各1.2mIU/mL)で24時間、hMSC培地中で処理した後、血清不含培地中でヘパリンを含みまたは含まず、TGF-β1で処理した。ウェスタンブロッティングに用いた6時間の時点では、血清中の増殖因子がSMAD2および3のバックグラウンドレベルに有するであろう影響を回避するため、ヘパリナーゼ処理後、血清不含培地を用いる必要があった。抗HS 10E4抗体での細胞表面HSの免疫蛍光染色によって、24時間の処理後、ほぼすべての細胞表面HSが除去されたことが示された。しかし、細胞表面HSの除去は、細胞をTGF-β1で処理した際に産生されるpSMADシグナルには影響を及ぼさないようであった。本発明者らの結果は、ヘパリンがTGF-β1シグナル伝達を増強する際に果たす役割が、FGF-2シグナル伝達において果たす役割とは異なることを示唆する[Schlessinger, J.ら, 三元FGF-FGFR-ヘパリン複合体の結晶構造は、FGFR結合および二量体化におけるヘパリンに関する二重の役割を明らかにする。 Molecular Cell, 2000. 6(3);p.743-750]。
【0299】
HS16陽性およびBMP-2結合性HS(HS3陽性)の比較
HS16陽性がTGF-β1シグナル伝達を増進することが示されたため、TGF-βスーパーファミリーの他のメンバーの活性を同様に増進させうるかどうかを決定することに関心が持たれた。本発明者らのグループは、以前、BMP-2の活性を増進するHS分画であるHS3陽性のアフィニティ単離を報告した[Murali, S.ら, 骨修復のためのアフィニティ選択ヘパラン硫酸。 Biomaterials, 2013. 34(22):p.5594-5605;WO201
0/030244]。2つのタンパク質の間の構造的類似性は、HS16陽性およびHS3陽性の組成の比較を正当化した(図12)。HS3陽性およびHS16陽性はどちらも、類似の量のΔUA-GlcNAc、ΔUA-GlcNSおよびΔUA,2S-GlcNSの類似の量を含有することが見出されており、一方、HS16陽性は、HS3陽性よりも、より多くのΔUA-GlcNAc,6S、ΔUA-GlcNS,6SおよびΔUA,
2S-GlcNS,6Sを、そしてより少ないΔUA,2S-GlcNAcを含有することが見出された。HS3陽性の組成は、キャピラリー電気泳動(CE)によって決定されるが、HS16陽性およびHSPMのものは、HPLCによって決定されず、したがって、ΔUA,2S-GlcNAc,6S二糖は、あとの2つの試料では検出されなかったことに注目しなければならない。この二糖を検出できないことは、HS変異体の組成プロファイルを改変すると議論される可能性もあるが、CE法を用いたHSPMの以前の分析は、ΔUA,2S-GlcNAc,6S二糖を含まずにHPLCで得られたものと類似の組成プロファイルを生じた。
【0300】
HS16陽性およびHS3陽性の組成の観察される相違は、活性の機能的結果を有した。驚くべきことに、HS16陽性は、SPRに基づく結合競合アッセイにおいて、HS3陽性よりもより優れてBMP-2に結合することが見出された(図13)。しかし、マウスC2C12筋芽細胞株において、アルカリホスファターゼ(ALP)のBMP-2駆動発現を増強する能力に関して調べる際、HS16陽性およびBMP-2の組み合わせは、HS3陽性をBMP-2とともに用いた場合に見られるものと同じレベルのALP発現を達成することは不可能であった(図14)。
【0301】
総合すると、データは、TGF-β1ペプチドを用いてアフィニティ精製したHSは、元来のHS調製物とは組成が異なり、全長タンパク質に結合して、そして活性型および潜在型の両方で、能動的に全長タンパク質に結合し、そしてその活性を増強することを示す。また、TGF-β1ペプチドを用いて精製したHSは、BMP-2ペプチドで精製したものとは異なり、そしてこの相違は、TGF-β1に対する活性を改変するかまたは調整し、そして未分画HSPMの不均一な効果を減少させるために十分である。
【0302】
考察
本研究において、本発明者らは、ヘパリンがTGF-β1に結合可能であり、そして結合する際に、該増殖因子の熱安定性を増進させることを示した。この安定化は、hMSCにおいて、TGF-β1シグナル伝達活性の半減期を延長するようである。軟骨形成分化条件下で、このヘパリン仲介性増強は、初期軟骨形成遺伝子の発現を増進させた。本発明者らの知見は、この軟骨形成遺伝子発現に対するヘパリンの増強効果が、ヘパリンがTGF-β1シグナル伝達経路を通じて作用する結果として起こり、そしてTGF-β1に最適に結合し、そしてそのシグナルを増強するためには、18~22糖の間の長さのGAG鎖が必要であるというアイディアを支持する。三元TGF-β1リガンド受容体複合体を調べると、より長いヘパリン鎖は、複合体形成中にII型TGF-β受容体(TβRII)とTGF-β1の結合に干渉しうることが示された(43)。2-O硫酸化の喪失、およびより低い度合いの6-O硫酸化は、結合アフィニティの減少にも関わらず、ヘパリンがTGF-β1シグナルを増強する能力を事実上改善する。ヘパリン鎖の長さの影響に関する本発明者らの先の知見と併せて、これらの結果は、HSの現在の「糖暗号」仮説(44~47)の説得力がある証拠を提供し、そして結合力および生物活性の間に非線形の関係があるというアイディア(48)を補強する。本発明者らはまた、ヘパリン結合に関与するTGF-β1単量体上の新規残基として、K13を同定した。このデータに導かれて、本発明者らはブタ粘膜調製物から得られる不均一混合物から、TGF-β1に優先的に結合するHS集団(HS16陽性)を単離することにした。HS16陽性の特徴付けによって、これがHSPMおよびHS16陰性とは組成的に異なり、そしてこの相違によってhMSCにおいてTGF-β1およびLTGF-β1両方によりよく結合し、そしてそのシグナル伝達を増強することが可能になることが立証された。
【0303】
以前の研究によって、ヘパリンがTGF-β1に結合し、そしてこれをプロテアーゼ活性およびα2-マクログロブリンによる循環クリアランスから保護し、それによって、そのシグナルを増強することが示されてきている(3、5)。これは、いくつかの軟骨修復
研究において、TGF-βキャリアーまたは足場材料のいずれかとしての使用につながっている(49、50)。いくつかの研究によって、ヘパリンは、ネズミMSCの軟骨形成誘導中、増殖因子の放出を制御するために利用されてきている(51)。しかし、この糖は、組織修復または増殖因子調節のための療法剤として広く採用されてはいないようであり、これは制御されない出血および血小板減少症のリスクのため(52)ばかりではなく、ヘパリンの過剰硫酸化は、集団的にヘパリン・インタラクトームまたはヘパラノームとして知られる、200を超える異なる細胞外タンパク質への乱雑な結合を可能にすることを意味するためである(53、54)。これは、増殖因子産生および局在を容易に制御することが不可能であるin vivo系において、ヘパリンが、ターゲティングされた増殖因子
調節のために用いられるために十分な特異性を持たないことを示す。にもかかわらず、本発明者らのin vitroデータによって、ヘパリンを用いて、hMSC軟骨形成分化中、TGF-β1活性を延長することが可能であることが示され、これらの生得的な限界が克服可能であるならば、実現されるであろう療法的潜在能力があることを示唆する。
【0304】
ヘパリンの代わりにHSを使用すると、理論的にこれらのハードルを克服することが可能であり、これはHSがヘパリンの抗凝固活性を持たないためである(55)。しかし、HSは、未加工(raw)調製物の過剰な多様性を含め、それ自体の一連の問題を生じさせる。しかし、これらの困難を克服するように開発された技術(26、27、29)およびこれらの技術の1つを利用することによって(29)、本発明者らは、優先的に特異的増殖因子に結合する選択的下位集団を単離可能であることを示すことが可能であった。TGF-β1由来ペプチドを用いて、HS16+を単離することが可能である一方、HS16陽性はまた、in vivoでTGF-β1のより生理学的に豊富な型であるLTGF-β1
の影響を調節することも可能である。興味深いことに、ヘパリンは、LTGF-β1の活性化を阻害することが報告されている(56)が、HS16陽性は阻害しない。これは、正常および改変された生理学的状態中の細胞による、TGF-β1結合性HSのin vivo
合成に関して、興味深い問題を生じさせる。
【0305】
本明細書に報告する研究は、将来のTGF-β1-HS研究のための基盤をなし、そしてLyonらによって提唱される結合モデルに基づく(2)。本発明者らのデータは、タンパク質単量体の間に走る溝を通じて多糖を空間的に配向することを通じて、TGF-β1へのヘパリンの結合に影響を及ぼすようである新規残基としてK13を同定する(図9)。さらに、いくつかの巨大ヘパリン断片の最近の構造解析(57)によって、本発明者らがTGF-β1およびヘパリン構造両方の物理的測定値と、本発明者らのin vitroの知見を比較し、そして検証することが可能になった。現在のLTGF-β1構造の限定された知識(58~60)もまた、このより大きいタンパク質の活性の調節に関して、ヘパリンおよびHSによって果たされる役割に関する疑問を生じさせる(補図S1B、C)。
【0306】
TGF-β1は、まず、プロタンパク質として合成され、これは細胞内で切断されて、小分子潜在複合体(SLC)を生じる。成熟SLCは、二量体性潜在関連ペプチド(LAP)と非共有的に連結されたTGF-β1二量体からなる。これまでに研究された細胞タイプの大部分に関して、SLCは、潜在TGF-β1結合タンパク質-1(LTBP-1)とともに放出され、したがって、大分子潜在複合体(LLC)を形成する(61)。LTBP-1は、多様な接着タンパク質と相互作用することによって、潜在TGF-β1を細胞外マトリックス(ECM)内に押し出し(62)、こうして細胞仲介性活性化に際して利用可能になりうる潜在TGF-β1の沈着を生成する。LAPは、安定と見なされる構造を有するが、SLC中にTGF-β1を捕捉する方式で、分子の2つの領域をアンフォールディングすることも可能である(60)。これらの領域のコンホメーションが機械的に完全に開放された際、活性TGF-β1は、LAPから放出される(58)。両方のドメインのこの同時アンフォールディングは、完全TGF-β1放出に必要な全か無かのスナップ機構であり、LAPがLTBP-1に結合した際にのみ可能である。この機械力
の生成または放出のいずれかにHSが関与しているかどうか、そしてそれはどのようにかは興味深い問題である。
【0307】
すべてのこれらの考察は、本発明者らの結果を検証するため、ヘパリン-TGF-β1相互作用の大規模なin silicoモデリング、およびHS16陽性のようなHS調製物のドメイン組成を解読するためのコンピュータツールの開発の必要性を指摘する(63)。こうした研究は、HSの本発明者らのアフィニティに基づく単離を精密にする可能性、またはさらに化学的に定義されるTGF-β1特異的HS分子の合成の可能性も切り開くであろう(64)。
【0308】
結論として、本発明者らは、ヘパリン、およびアフィニティ単離HSを用いて、hMSCに対するTGF-β1シグナル伝達を調節可能であることを示す。本発明者らはまた、ヘパリン-TGF-β1相互作用のための構造的要件に関して初めて報告する。総合すると、該データは、これらの分子間の構造的相互作用の理解がどのように療法開発をガイドしうるかの重要性を繰り返す。これは、TGFβ1活性を調節してhMSCの軟骨形成分化を駆動するために炭水化物分子を利用する、軟骨修復のための新規療法戦略の開発に有望である。こうした戦略はまた、増殖因子の使用を伴う他の組織修復戦略にも拡張可能である。
【0309】
本発明者らの研究において、TGF-β1のヘパリン結合部位を含有するペプチドを用いて、アフィニティ精製によって、ブタ粘膜HS(HSPM)から、HSのTGF-β1結合性分画を単離した。単離TGF-β1ペプチド結合性HSはHS16陽性と名付けられ、HS16陰性と名付けられた非結合性HS分画、および元来のHSPM出発材料とは組成が異なることが見出された。組成のこの相違によって、HS16陽性が、HS16陰性およびHSPMと比較して、TGF-β1に結合し、そしてその活性を調節する能力が増進された。驚くべきことに、HS16陽性はまた、TGF-β1の不活性貯蔵型であるLTGFの活性を調節することも可能であった。BMP-2活性を増進するように開発されたHS変異体であるHS3陽性と比較して[Murali, S.ら,骨修復のためのアフィニティ選択ヘパラン硫酸。Biomaterials, 2013, 34(22):p.5594-5605]、HS16陽性は、組成の相違を有し、これによって、HSPMおよびHS3陽性と比較して、BMP-2活性を増強する能力が改変されることが見出された。
【0310】
この研究において、用いたペプチドは、長さ16アミノ酸であり、一方、全長成熟TGF-β1は、長さ112アミノ酸である。溶液中のペプチドは、全長タンパク質の一部である際に仮定されるものとは異なるコンホメーションを採用することが知られ、そしてPEPFOLD[Maupetit, J., P. Derreumaux,およびP. Tuffery, PEP-FOLD;デノボペ
プチド構造予測のためのオンラインリソース。 Nucleic Acids Research, 2009. 37(補
遺2):p.W498-W503;Maupetit, J., P. Derreumaux,およびP. Tuffery,大規模デノボペプチドおよびミニタンパク質構造予測のための迅速法。 Journal of Computational Chemistry, 2010. 31(4):p.726-738;および216. Thevenet, P.ら,PEP-FOLD:直鎖お
よびジスルフィド結合環状ペプチド両方に関する更新されたデノボ構造予測サーバー。Nucleic Acids Research, 2012. 40(W1):p.W288-W293]を用いた、HS16陽性単離に用いられるTGF-β1ペプチドの構造予測は、TGF-β1の天然構造とはマッチしない。これは、本発明者らのペプチドに基づくアフィニティ精製を駆動する機構に疑念を生じさせ、これは、ペプチドの単一ストレッチは、TGF-β1ヘパリン結合性ドメインの空間組成を再構築可能であるとは想像しにくいためである。ペプチドおよびHSの間の相互作用は、主に、イオン性相互作用によって駆動されると議論することも可能であり、これはペプチド-ヘパリン相互作用に関してはほぼ間違いなく真実である(本発明者らのグループによる未公表データ)が、異なるタンパク質(BMP-2)由来のペプチドの使用は、単離HS分画のプロファイルを改変するため、この場合には当てはまらないようである。
【0311】
ヘパリン結合に関与する塩基性残基の大規模に調べられたコンセンサス配列は、塩基性残基の2つのモチーフ:-X-B-B-BX-X-B-X-X-または-X-B-B-X-B-X-X-(式中、Xは、任意の中性または酸性アミノ酸であり、そしてBは塩基性残基である)の1つを採用すると提唱される[Cardin, A.D.およびH.J. Weintraub,タンパク質グリコサミノグリカン相互作用の分子モデリング。Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology, 1989.9(1):p.21-32]。TGF-β1には、第三のモチーフが
存在することが提唱されてきている:-X-BX-X-B-X-X-B-X-X-B-X-[McCaffrey, T.A., D.J. Falcone,およびB. Du,トランスフォーミング増殖因子-β1はヘパリン結合性タンパク質である:推定上のヘパリン結合性領域の同定およびTGF-β1に多様なアフィニティを持つヘパリンの単離。 J. Cell Physiol, 1992. 152(2):p.430-440]。興味深いことに、PaceおよびScholtz[Nick Pace, C.およびJ. Martin Scholtz,ペプチドおよびタンパク質の実験的研究に基づくらせん傾向スケール。 Biophysical Journal, 1998. 75(1):p.422-427]は、塩基性残基が、溶液中でαらせんを形成する高い傾向を有することを報告した。これらの提唱されるモチーフ中の塩基性残基の組成およびαらせんのもの(回転あたり3.6アミノ酸残基)を考慮すると、これらのモチーフが、溶液中でらせん構造を採用し、その塩基性残基が同じ平面に沿って配置されることが見出されたのは驚くべきことではない。これが真実であれば、こうした構成は、ペプチドに、ある程度の選択性を与える可能性もある。
【0312】
HS16陽性のサイズおよび組成分析によって、これが、HS16陰性およびHSPM両方に比較して、より長い多糖鎖に関して濃縮され、鎖サイズ分布に関してより不均一ではなく、そして6-O-およびN-硫酸化二糖に関して濃縮されていることが示された。これは、本発明者らがTGF-β1に有効に結合し、そしてその活性を調節するために、ヘパリン鎖がdp22と少なくとも同等であり、そして6-O-およびN-硫酸基を所持する必要があることを同定した、ヘパリン-TGF-β1相互作用の本発明者らの研究からの本発明者らの知見を実証した。HSの、より長い鎖に関する濃縮は、少なくとも22糖単位が、TGF-β1ホモ二量体上の2つのヘパリン/HS結合部位を架橋するために必要であることによって説明されうる。こうした鎖はまた、TGF-β1と有効に相互作用する硫酸分布基準を満たす必要もあり、これは本発明者らの精製によって選択されるHS鎖の範囲をさらに狭めるであろう。
【0313】
HS16陽性は、ヘパリンと類似の度合いまで、TGF-β1駆動性SMADシグナル伝達を増強した。予期せぬことに、LTGF-β1に対する影響は、LTGF-β1とヘパリンのものよりもより顕著であった。LTGF-β1は、in vivoではTGF-β1の
主な形であるため、これは、HSの合成、およびTGF-β1シグナル伝達において、HSが果たす生理学的役割に関する興味深い疑問を提示する。LTGFの潜在関連ペプチド(LAP)部分は、LTGF-β1複合体においてTGF-β1を捕捉するような方式で、安定と見なされる構造を有するが、分子の2つの領域は、アンフォールディング可能である[Shi, M.ら 潜在TGF-β構造および活性化。 Nature, 2011. 474(7351):p.343-349]。これらの領域のコンホメーションが、機械的に完全開放された際、活性TGF-
β1はLAPから放出される[Buscemi, L.ら,潜在TGF-β1複合体の単一分子機構
。 Curr Biol, 2011. 21(24);p.2046-2054]。両方のドメインのこの同時アンフォールディングは、完全TGF-β1放出に必要な全か無かのスナップ機構であり、LAPがLTGF-結合タンパク質-1(LTBP-1)に結合した際にのみ可能である。LAPおよびLTBP-1の両方がヘパリンと相互作用すると報告されてきていることに注目することが興味深い[Lee, M.J.,ヘパリンは潜在トランスフォーミング増殖因子-β1の活性
化を阻害する。Pharmacology, 2013. 92(5-6):p.238-244;Chen, Q.ら, 潜在TGF-
β結合性タンパク質-1の集合を調節することによる、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)の制御におけるヘパラン硫酸プロテオグリカンの潜在的な役割。 J. B
iol Chem, 2007. 282(36):p.26418-26430;およびParsi, M.K.ら,LTBP-2は多数のヘパリン/ヘパラン硫酸結合部位を有する。Matrix Biology, 2010. 29(5):p.393-401]
。証拠によって、in vivoで合成されるHSは、LTGF-β1を活性化し始める可能性
もあることが示唆されるが、この機械力の生成または放出のいずれかにHSが関与しているかどうか、そしてそれはどのようにかは核心に関連する問題である。
【0314】
HS16陽性の組成をHS3陽性のものと比較すると、組成の相違が明らかになった。HS変異体がBMP-2に結合し、そしてその活性を調節する能力において観察される相違は、おそらく、その組成およびその結果のHS鎖中で統合される二糖の相違の組み合わせの結果である。BMP-2-ヘパリン相互作用のモデリング[Gandhi, N.S.およびR.L.
Mancera,骨形成タンパク質(BMP)におけるヘパリン結合部位の予測。 Biochimica et Biophysica Acta(BBA)-Proteins and Proteomics, 2012. 1824(12):p.1374-1381]に
よって、会合がヘパリンとTGF-β1のものとは有意に異なることが示唆され、このことは、HS16陽性およびHS3陽性の組成の相違を説明し、そしてTGF-βスーパーファミリー内のヘパリン/HS結合部位の多様性をほのめかす[Rider, C.C., TGF
-βサイトカインスーパーファミリーにおけるヘパリン/ヘパラン硫酸結合。 Biochem Soc Trans, 2006. 34(Pt3):p.458-460]。HSPMに比較して、HS16陽性が、BMP
-2駆動性ALP発現を増強する能力に観察される中程度の増加は、HS16陽性における硫酸化HS鎖が濃縮されて、HSPMよりヘパリンに類似しているか、またはHS16陽性およびHS3陽性調製物におけるHS鎖の組成が重なっているかどちらかに起因しうる。
【0315】
HSは、核酸およびタンパク質に見られるものと同じ絶対配列特異性を持ってコードされるようではないが、本発明者らの結果は、現在のHS「糖暗号」仮説の説得力のある証拠を提供し[Gama, C.I.ら, グリコサミノグリカンの硫酸化パターンは、分子認識および活性をコードする。 Nat Chem Biol, 2006. 2(9):p.467-473;Duchesne, L.ら,細胞周辺マトリックス中の線維芽細胞増殖因子2の輸送は、ヘパラン硫酸における結合部位の空間的分布によって制御される。 PLoS Biol, 2012. 10(7):p.e1001361;Chang, Z.ら,ヘパラン硫酸プロテオグリカンがin situで線維芽細胞増殖因子受容体複合体を組み立てる示差的能力。 FASEB J, 2000. 14(1):p.137-144;およびJastrebova, N.ら,ヘパ
ラン硫酸ドメイン組成および硫酸化は、FGF2誘導性細胞シグナル伝達を調節する。 J
Biol Chem, 2010]、そして結合力および生物活性の間の非線形関係を補強する[Rudd, T.R.ら,多様なHSおよび非GAG類似体によって、FGFにおいて、匹敵する安定化、
構造変化および活性が誘導可能である:配列-活性関係の暗示。 Org Biomol Chem, 2010. 8(23):p.5390-5397.]。解答されないままである主な疑問の1つは、所定のHS鎖が所定のタンパク質と相互作用するために必要なストリンジェンシーレベルである。GAG構成を解読する改善されたコンピュータツールの開発が、この努力を補助するであろうと期待される[Spencer, J.L.ら,グリコサミノグリカン構成を解読するためのコンピュータ
アプローチ PLoS ONE, 2010. 5(2):p.e9389]。
【0316】
実施例1に関する参考文献
【0317】
【化1-1】
【0318】
【化1-2】
【0319】
【化1-3】
【0320】
【化1-4】
【0321】
実施例2: in vitroおよびin vivoでのMSCの軟骨形成分化に対するHS16陽性
の影響
序論
関節軟骨は、長骨の端に見られる組織であり、関節において、衝撃吸収剤および潤滑剤の両方として働く。無血管性であるため、関節軟骨によって維持される傷害はしばしば治癒に失敗する。軟骨修復戦略の開発に関する現在の研究は、活性化されたバイオマテリアルの使用または細胞への誘導性の合図の提供を通じて、内因性または移植された細胞のいずれかからの反応を刺激することに焦点を置いている[145. Guo, X.ら, ウサギモデルにおける、骨髄間葉系幹細胞を被包する生物分解性ヒドロゲル複合体での骨軟骨欠損の修復。 Acta Biomaterialia, 2010. 6(1):p.39-47;Chu, C.R., M. Szczodry,およびS. Bruno,軟骨再生および修復のための動物モデル。 Tissue Engineering Part B: Reviews, 2009. 16(1):p.105-115;Fritz, J.ら, 膝における関節軟骨欠損-基礎、療法および結果。 Injury, 2008. 39(1,補遺):p.50-57;Hunziker, E.B.,関節軟骨修復:基礎科学および臨床的進展。現在の状態および展望の概説。 Osteoarthritis Cartilage, 2
002. 10(6):p.432-463;Gille, J.ら,関節軟骨欠損の治療のための、微小破壊を通じた
、細胞含有および細胞不含マトリックス誘導性軟骨形成:ヒツジにおける組織学的および
生物学的研究。 Cartilage, 2010. 1(1):p.29-42;Haleem, A.M.ら,関節軟骨欠損治療において、血小板リッチ・フィブリン接着剤上に移植されたヒト培養拡大自己骨髄間葉系幹細胞の臨床的使用。 Cartilage, 2010. 1(4):p.253-261;Moran, C.J.ら,関節軟骨の回
復。 J Bone Joint Surg Am, 2014. 96(4):p.336-344;Danisovic, L.u.ら,関節軟骨の
組織操作:細胞、足場および刺激因子。 Exp Biol Med, 2012. 237(1):p.10-17.]。TGF-β1は、MSCの軟骨形成分化を刺激し[Buxton, A.N.ら,軟骨形成因子に一時的に曝露すると、ヒドロゲルにおけるヒト間葉系幹細胞軟骨形成が調節される Tissue Eng Part A, 2011. 17(3-4):p.371-80;233.Bosnakovski, D.ら,ペレット培養系における
ウシ骨髄間葉系幹細胞の軟骨形成分化。 Experimental Hematology, 2004. 32(5):p.502-509;Ng, F.ら,PDGF、TGF-β、およびFGFシグナル伝達は、間葉系幹細胞(
MSC)の分化および増殖に重要である:転写プロファイリングは、脂肪形成、軟骨形成、および骨形成系譜へのMSCの分化において重要なマーカーおよびシグナル伝達経路を同定可能である。 Blood, 2008. 112(2):p.295-307.]、そして軟骨ECM分子の発現を
駆動する[Li, H.ら, II型コラーゲンとの比較分析は、初代TGFβ反応性遺伝子としての軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質を区別する。Osteoarthritis Cartilage, 2011. 19(10):p.1246-1253;Iqbal, J.ら, ウマ関節軟骨における、プロテオグリカン
合成に対するTGF-βの年齢関連効果。Biochem Biophys Res Commun, 2000. 274(2):p.467-471;Grimaud, E., D. Heymann,およびF. Redini,軟骨細胞代謝に対するTGF-β効果の最近の進歩:軟骨障害におけるTGF-βの潜在的な療法的役割。Cytokine Growth Factor Rev, 2002. 13(3):p.241-257;Serra, R.ら,マウス骨格組織における一部切除キナーゼ欠損性II型TGF-β受容体の発現は、末端軟骨細胞分化および変形性関節症を促進する。J Cell Biol, 1997. 139(2):p.541-552.;Blaney Davidson, E.ら,Sm
ad7の存在下で、TGFベータ誘導性軟骨修復は維持されるが、線維症はブロックされる。Arthritis Res Ther, 2006. 8(3):p.R65]能力のため、軟骨修復誘導に関する重要な作用因子として浮上してきている。こうしたものとして、今日までの大部分の研究は、内因性TGF-β1を単独でまたは他の増殖因子とともに使用して、hMSC軟骨形成分化を駆動してきた[Blaney Davidson, E.N., P.M. van der Kraan,およびW.B. van den Berg,TGF-βおよび変形性関節症。Osteoarthritis Cartilage, 2007. 15(6):p.597-604;Park, J.S.ら,ヘパリン結合性トランスフォーミング増殖因子β3は、ウサギ間葉系
幹細胞による新規軟骨形成を増進する。Transplantation, 2008. 85(4):p.589-596;Goepfert, Cら,間葉系幹細胞からの軟骨操作,Bioreactor Systems for Tissue Engineering
II中, C. Kasper, M. van Griensven,およびR. Portner監修 2010,Springer Berlin/Heidelberg,p.163-200;Mara, C.S.ら, ヒト間葉系臍帯血細胞からの、トランスフォ
ーミング増殖因子-β3およびインスリン様増殖因子-1による軟骨形成の制御。J Rheumatol. 2010. 37(7):p.1519-1526.]。
【0322】
最初は成功するように見えたが、こうしたアプローチは、クリニックに移行する際に大きな障壁に直面し、これは、TGF-β1超生理的用量がしばしば使用され、そして20ngの用量であってさえ、滑膜炎症などの望ましくない転帰を生じることが示されてきているためである[Leah, E., 変形性関節症:軟骨変性の骨でのTGF-β過負荷 Nat Rev Rheumatol, 2013. 9(7):p.382-382;Allen, J.B.ら,トランスフォーミング増殖因子ベータによって誘導される迅速な滑膜炎症開始および過形成。J Exp Med, 1990. 171(1):p.231-247]。非生理学的用量の問題とは別に、線維症および発癌などの全身性の副作用
を誘発することを防止するために、治療部位に増速因子を局在させる必要もまたある[Jakowlew, S.,癌および転移におけるトランスフォーミング増殖因子β。Cancer Metastasis Rev, 2006. 25(3):p.435-457;Bakker, A.C.ら,ネズミ膝関節における活性TGF-ベータ-1の過剰発現:滑膜層依存性軟骨骨棘形成の証拠。Osteoarthritis Cartilage, 2001. 9(2):p.128-136;Yang, Y.-a.ら,可溶性TGF-βアンタゴニストに対する生涯の
曝露は、副作用を伴わずに、転移に対してマウスを保護する。J Clin Invest, 2002. 109(12):p.1607-1615.]。さらに、TGF-β1に対する感受性は、年齢とともに減少し[Blaney Davidson, E.N.ら,高齢マウスの軟骨におけるトランスフォーミング増殖因子ベータシグナル伝達の減少:損なわれた修復能における役割。Arthritis Res Ther, 2005. 7(6):p.R1338-R1347.]、したがって、適切なTGF-ベータ1投薬は、高齢患者に対して
さらにより多くのリスクを提示する。これらの困難に対処して、外因性増殖因子に対する必要性を減少させるか、または完全に除去し;治療部位に増殖因子をよりよく局在させ、そして増殖因子の送達を調節し;そして増殖因子に対する細胞感受性または増殖因子のシグナル伝達効率のいずれかをブーストする新規戦略が考慮されている。
【0323】
HS16陽性の開発、およびMSC単層培養においてHS16陽性がTGF-β1駆動性SMAD反応を増強する能力を記載してきたが、本発明者らは、内因性TGF-β1を隔離することによって、軟骨治癒を改善するためにこれを使用することも可能であると推測した。したがって、本発明者らは、(1)in vitroでのhMSCの軟骨形成分化;および(2)ウサギモデルにおける軟骨治癒反応に対する影響を調べることにした。
【0324】
本実施例は、hMSCの軟骨形成分化に対するHS16陽性のin vitro効果を調べるための修飾微量ペレット培養系の使用を記載する。これを進めて次に、軟骨修復のウサギモデルにおける滑車溝の全層骨軟骨欠損内の現在の臨床的「標準治療」と組み合わせて用いた際の、以前記載されるHS変異体の効果を調べる。
【0325】
材料および方法
逆転写および定量的PCR(qPCR)
製造者のプロトコルにしたがって、TRIZOL試薬(Life Technologies、米国カリ
フォルニア州)を用いて、軟骨形成微量ペレットから総RNAを単離した。1μg RNAに対して、製造者の指示にしたがい、SuperScript(登録商標)VILOTM cDNA合成キット(Life Technologies)を用いて、42℃でのインキュベーションを1時間ではなく2時
間行って、逆転写を行った。各qPCRは、40ng cDNA、遺伝子あたり1μLのTaqMan(登録商標)プライマー-プローブ混合物、および10μL Taqman(登録商標)迅速普遍的PCRマスター混合物(Life Technologies)を最終体積20μL中に
含有した。熱周期条件は、95℃で20秒間、その後、45周期の95℃1秒間および60℃20秒間が続いた。各qPCRを2つ組で実行し、そして遺伝子発現をHPRT1発現に対して規準化して、ΔCt値を得た。生物学的3つ組の平均値を取った。GAGもTGF-β1も含まない培地中で培養した軟骨形成微量ペレットを、対照(ΔΔCt)として用いた。各プライマーセットの相対発現レベルを2-ΔΔCt法によって倍変化として表した[Livak, K.J.およびT.D. Schmittgen,リアルタイム定量的PCRおよび2-ΔΔCT法を用いた相対的遺伝子発現データの分析。Methods, 2001. 25(4):p.402-408]。以下のTaqMan(登録商標)プライマー-プローブアッセイ(Life Technologies)を用いた

in vivo研究設計
22の骨格的に成熟したオス・ニュージーランドホワイト・ウサギ(平均年齢9ヶ月および体重3.9kg)をこの研究に用いた。すべてのウサギに、大腿滑車溝中、両側性骨軟骨欠損を与え、そして各欠損をランダムに、4つの処置群の1つに割り当てた:(1)ゲルのみ、(2)ゲル+HSPM、(3)ゲル+HS16陽性、および(4)ゲル+HS16陰性。すべての欠損に60μLのヒアルロン酸に基づくヒドロゲル(ゲル)(AuxiGelTM、Termira AB、スウェーデン・ストックホルム)[Bergman, K.ら,骨-組織形成のための注射可能細胞不含テンプレート。Journal of Biomedical Materials Research Part A, 2009. 91A(4):p.1111-1118]を、単独で、あるいは10μgのHSPM、HS16陽
性またはHS16陰性とともに投与した。術後の胃内容うっ滞から2匹のウサギが死亡し、そしてこれらは分析には含まれなかった。
【0326】
欠損生成およびゲル注入
この研究に用いた研究プロトコルは、施設動物飼育使用委員会、ASTARシンガポールによって認可され、そしてすべての適切な指針にしたがった。ケタミン(35mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)注射ならびにフェースマスクを通じたイソフルランの組み合わせからなる全身麻酔下、そして無菌条件下ですべての外科処置を行った。15~20mmの内側膝蓋近傍皮膚切開を作製し、そして膝蓋を横方向に脱臼させた。1つの全層で重大なサイズの骨軟骨欠損(直径4mm、深さ2mm)を各大腿滑車溝の中央に作製し、石灰化した軟骨を完全にデブリードマンした。続いて、整形外科ドリルを用いて、各欠損中に3つの微小破壊(直径0.8mm、深さ2mm)を作製し、そして手術ガーゼで直接圧を適用して、示す処置を適用する前に、すべての出血が止まることを確実にした。200μLピペットで処置を適用し、そし固化させた。ゲルキャリアが固化する間、すべての欠損に血液が満たされることを観察した。
【0327】
ゲルキャリアが固化したら、膝蓋を再配置し、そして関節を15回屈曲させて切開が層中に閉鎖される前に、処置が適所にあり続けることを確実にし、そしてウサギが体重を増やすことを可能にした。創傷部位をさらにVetbondTM組織接着剤(3M、米国ミネソタ州
)で密封した。予防的抗生物質(エンロフロキサシン、10mg/kg)および鎮痛剤(ブプレノルフィン、0.1mg/kg)を術後5日間、皮下投与した。12週後、鎮静の後に、すべてのウサギをペントバルビタール(150mg/kg)で安楽死させた。遠位大腿を採取し、そして組織学的および免疫組織化学的(IHC)分析のためにプロセシングする前に、巨視的に画像化した。
【0328】
関節の巨視的病理学的観察
処置群を知らないブラインドの観察者が、関節の画像を調べ、そしてスコア付けした。巨視的スコア付けは、国際軟骨修復協会(ICRS)視覚的評価スケール(ICRS Iスコア付けシステム)に基づいた[Brittberg, M.およびL. Peterson,関節軟骨分類の序論 ICRS Newsletter, 1998. 1:p.5-8.]。
【0329】
組織学分析
採取した遠位大腿骨頭を10%(v/v)中性緩衝ホルマリン(NBF)中、真空下で1週間固定し、そして室温で平均6~7日間、5%(v/v)ギ酸中で脱灰した。続いて、試料をパラフィン蝋中に包埋し、そして欠損中央を横断して切片作製した(5μm)。切片を脱パラフィン処理し、そしてマッソンの三色、アルシアンブルー(pH1、ニュートラルレッドで対比染色)およびサフラニン-Oで染色した。
【0330】
免疫組織化学(IHC)分析
Leica BondTM-IIIまたはLeica BondTM-Max自動染色装置(Leica Nussloch GmbH、ドイツ)のいずれかおよびBondTM Refine検
出キット(Leica)を用いて、IHC染色を行った。切片をBondTM脱ワックス溶液
(Leica)で脱パラフィン処理し、そしてプロテイナーゼK(20μg/mL)(Sigma-Aldrich)と室温で15分間インキュベーションすることによって、抗原回収を行った。3~4%(v/v)Hと15分間インキュベーションすることによって、内因性ペルオキシダーゼ活性をブロッキングした。次いで、切片を10%(v/v)ヤギ血清中で30分間ブロッキングした後、BondTM一次抗体希釈剤(Leica)中で希釈した一次抗体(コラーゲンI型(1:1000)、Novus Biologicals、米国コロラド州、およ
びコラーゲンII型(1:2000)、Acris Antibodies, Inc.、米国カリフォルニア州)と室温で30分間インキュベーションした。BondTM Refine検出キットに記載されるように染色の検出を行い、そして核をヘマトキシリンで5分間対比染色した。すべての洗浄は、1xBondTM洗浄溶液(Leica)で行った。
【0331】
組織学的スコア付け
処置群を知らないマスキングされた観察者が、染色切片の検査およびスコア付けを行った。スコア付けは、O’Driscoll[O’Driscoll, S.W., F.W. Keeley,およびR.B. Salter,連続受動的運動の影響下での関節表面における大きな全層欠損の生物学的表面再形成のための遊離自家骨膜の軟骨形成潜在能力。ウサギにおける実験的検査。J Bone Joint Surg Am, 1986. 68(7):p.1017-1035]およびICRS II[Mainil-Varlet, P.ら,ヒト軟骨修復の品質の評価のための新規組織学スコア付けシステム:ICRS II。The American Journal of Sports Medicine, 2010]スコア付けシステムに基づき、そして軟骨お
よび軟骨下空間内の各組織タイプ(すなわち骨性組織、線維性組織、線維軟骨、ハイブリッド軟骨および硝子軟骨)の割合を定量化することによって、組織充填を決定した。
【0332】
結果
in vitroのhMSCの軟骨形成分化に対するHS16陽性の影響
in vitroのhMSCの軟骨形成分化に対するHS16陽性の影響を評価するため、まず、TGF-β1単独の影響を確立する必要があった。修飾微量培養系を用いて、軟骨形成分化を行った[Zhang, Lら,ヒト間葉系幹細胞の軟骨形成分化:微量およびペレット培養系の間の比較。Biotechnol Lett, 2010. 32(9):p.1339-1346.]。簡潔には、第4継代の
hMSCを採取し、そして化学的に定義された軟骨形成培地(PT-3003、Lonza、
米国メリーランド州)中に、2x10細胞/mLで再懸濁した。次いで、12.5μlの小滴を24ウェルプレート中の各ウェルの中央に植え付け、そして37℃で2時間接着させ、その後、1または10ng/mLのTGF-β1(100-21C、PeproTech)
のみ、あるいは5または10μg/mLのヘパリン(Sigma-Aldrich)、ブタ粘膜HS(
HSPM)(Celsus Laboratories)、HS16陽性またはHS16陰性のいずれかを補
った500μLの軟骨形成培地を各ウェルに添加した。細胞小滴は、24時間後に球状の塊に合体した。培地を3日ごとに交換し、そして微量を第3日、第7日、第14日、および第21日に採取した。
【0333】
生じた対照(対照)およびTGF-β1処理(10ng/mL)(TGF-β1)微量ペレットの湿重量を第3日、第7日、第14日および第21に測定した(図15)。どちらの処置群でもペレットの重量は時間とともに減少し、一方、重量喪失は、対照ペレットよりもTGF-β1処理ペレットにおいてより顕著でなかった。
【0334】
第3日(SOX9およびCOMPのみ)、第7日、第14日および第21日の微量ペレットの遺伝子発現分析によって、10ng/mL TGF-β1(TGF-β1)での処理が、未処理対照ペレット(対照)に比較して、一貫して、軟骨形成マーカーSOX9(図16A)、COMP(図16B)、およびアグリカン(図16C)の発現増加を導いたことが明らかになった。未分化hMSCを第0日の対照として用いた。II型コラーゲン転写物は、TGF-β1処理ペレットおよび未分化hMSCにおいてのみ検出可能であった(図16D)。これは、hMSCが、単層中で増殖した際、低レベルのII型コラーゲン転写物を発現するが、この発現は、これらを、TGF-β1を含まない軟骨形成培地中、微量培養した際には失われることを示唆するようである。最後に、TGF-β1処理ペレットは、対照ペレット(図16E)に比較して、軟骨細胞過形成のマーカーであるX型コラーゲン転写物を非常に高レベルで発現していることが見出された(図16E)。こうした高発現レベルによって、ペレットは軟骨内骨化の前兆として、軟骨形成過形成を経ると示唆される[Shen, G.,関節軟骨の軟骨内骨化の促進および制御におけるX型コラーゲンの役割。Orthodontics & Craniofacial Research, 2005. 8(1):p.11-17]。
【0335】
第21日、パラフィン包埋ペレットを、GAGを青く染色するアルシアンブルー染色によって、組織学的検査すると、TGF-β1処理ペレットが、対照ペレットよりもより多
くのGAGを含有することが明らかになった。
【0336】
hMSCの軟骨形成分化に対するTGF-β1の影響が確立されているため、本発明者らは次に、HS16陽性の影響の検討に着手する前に、ヘパリンが有する影響を調べることにした。実施例1において、本発明者らは、処置6時間後、ヘパリンがTGF-β1に駆動されたpSMADに結合し、そしてそのシグナルを増強することが可能であることを示した。軟骨形成分化プロセス中、3日ごとに培地を交換するため、本発明者らは、第3日の時点を用いることを選択し、どちらも初期軟骨形成マーカーであるSOX9およびCOMPの発現に対するヘパリンの影響を調べた[Barry, F.ら,骨髄由来の間葉系幹細胞の軟骨形成分化:マトリックス構成要素の分化依存性遺伝子発現。Exp Cell Res, 2001. 268(2):p.189-200;Li, H.ら,コラーゲンII型を用いた比較分析は、一次TGFβ反応遺伝子として、軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質を区別する。Osteoarthritis Cartilage, 2011. 19(10):p.1246-1253;Huang, A.H., A. Stein,およびR.L. Mauck,軟骨
組織操作のための間葉系幹細胞軟骨形成の転写組織分布。Tissue Eng Part A, 2010. 16(9):p.2699-708;Zaucke. F.ら,軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP)および
コラーゲンIXは、関節初代軟骨細胞の分化状態に関する高感度マーカーである。Biochem J, 2001. 358(1):p.17-24.]。本発明者らはまた、ヘパリンがTGF-β1の影響を増強する場合、10ng/mLの推奨される用量に反応したさらなる増加は、検出可能ではない可能性もあると判断した。したがって、推奨される用量と平行して、より低い用量のTGF-β1を用いた。本発明者らのデータは、5μg/mLのへパリンは、用いたTGF-β1の量に関わらず、SOX9発現レベルを有意に改変しないことを示す(図17A)。対照的に、10μg/mLのヘパリンはそれ自体、SOX9発現に影響を及ぼさないが、1ng/mLのTGF-β1とともに用いると、SOX9の発現を増加させることが可能であった。ヘパリンの同じ用量は、10ng/mLのTGF-β1とともに用いた際、SOX9発現にいかなる変化ももたらすことができず、TGF-β1シグナルがすでに飽和していることが示唆された。COMP発現の場合、ヘパリンのどちらの用量もそれ自体ではCOMPをわずかに減少させることが見出された(図17B)。しかし、1ng/mL TGF-β1と組み合わせて用いた際、ヘパリンは、COMP発現レベルを用量依存方式で増加させることが可能であった。10ng/mLのTGF-β1を伴うヘパリンのいずれの用量の使用も、COMP発現のさらなる増加を誘発しなかった。事実、より高い用量のヘパリンは、実際にCOMP発現レベルを減少させた。これは再び、10ng/mLのTGF-β1が、軟骨形成分化を経るhMSCの飽和用量であることを示唆する。10μg/mLのヘパリンを10ng/mLのTGF-β1とともに用いた場合に見られるCOMP発現の減少は、過剰なTGF-β1シグナルに反応した負のフィードバック機構の活性化を示唆する。
【0337】
1ng/mL用量のTGF-β1と組み合わせて、10μg/mLのGAGの用量を使用することを選択した。1ng/mL TGF-β1、1ng/mL TGF-β1および10μg/mLヘパリンまたは10ng/mL TGF-β1のいずれかとともに21日間培養したペレットの組織学的分析によって、アルシアンブルー染色に基づき、より高い用量のTGF-β1がGAG産生および沈着の増加を導くことが示された。TGF-β1を伴うヘパリンの使用は、1ng/mLのTGF-β1単独に比較して、GAG沈着のわずかな増加を導いたが、この増加はなお、10ng/mLのTGF-β1で見られるものより少なかった。
【0338】
次に、hMSCを1ng/mL TGF-β1のみの存在下で(1 TGF-β1)、または10μg/mLのGAG(ヘパリン、HSPM、HS16陽性またはHS16陰性)と組み合わせて、あるいは陽性対照として10ng/mL TGF-β1(10 TGF-β1)とともに、21日間分化させた。
【0339】
21日でのSOX9 mRA発現の分析によって、用いたすべての糖は、有意な変化を生じなかった(図18A)。ペレットを1ng/mL TGF-β1と組み合わせたヘパリンまたはHS16陽性(P<0.05)とともに培養した際、COMP発現は、1ng/mL TGF-β1単独と比較して、~2.5倍増加した(図18B)。低(1ng/mL)TGF-β1およびHSPMまたはHS16陰性を補充したか、あるいは高(10ng/mL)TGF-β1を補充した培地中での培養は、低用量TGF-β1のみに比較して、COMP発現を有意に改変しなかった。
【0340】
アグリカン発現は、第21日、TGF-β1およびヘパリンおよびHS16陽性の低および高用量で同様であった(図18C)。しかし、HSPMおよびHS16陰性を伴う培養は、アグリカン転写物レベルを減少させた。高TGF-β1は、低TGF-β1に比較して、X型コラーゲン発現の有意な増加(P<0.001)を誘導した(図18D)。GAGでの処理は、低TGF-β1に比較してX型コラーゲン発現を有意に改変しなかった。II型コラーゲン転写物は、高TGF-β1で処理したペレットにおいてのみ検出され、そしてしたがって、ここには示さない。HS16陽性で処理したすべての試料において、データセット内の外れ値の存在に起因する、高い分散が見られたことに注目すべきである。
【0341】
第21日のアルシアンブルー染色によるペレットの組織学的検査は、低TGF-β1に比較して、多様な糖と培養したペレット間に有意な相違を示さなかった。しかし、高TGF-β1は、低TGF-β1に比較して、GAG産生の穏やかな増加を誘導した。
【0342】
in vivoのMSCの軟骨形成分化に対するHS16の影響
軟骨修復研究において、広範囲に使用されていることに基づき、そしてかつ若年期に観察される自発的な治癒を回避するため、骨格的に成熟した成体ニュージーランドホワイト・ウサギを本発明者らのin vivo試験に選択した。本発明者らは、大腿滑車溝に、全層骨
軟骨欠損を含むモデルにおいて、本発明者らの化合物を試験することを選択し、Reinholzら[Reinholz, G.G.ら,軟骨再構築のための動物モデル。Biomaterials, 2004. 25(9):p.1511-1521.]、ICRS[Hurtig, M.B.ら,軟骨修復のための前臨床研究:国際軟骨修復協会からの推奨。Cartilage, 2011. 2(2):p.137-152.]、および現在の病院における標準治療[Fritz, J.ら,膝関節軟骨欠損-基礎、療法および結果。Injury, 2008. 39(1,
補遺):p.50-57;Hunziker, E.B.,関節軟骨修復:基礎科学および臨床的進歩。現在の
状態および展望の概説。Osteoarthritis Cartilage, 2002. 10(6):p.432-463]に概略さ
れる指針に基づき、商業的に入手可能なヒアルロン酸に基づくヒドロゲル(AuxiGelTM、Termira AB)とともに、微小破壊を用いた[Bergman, K.ら,骨-組織形成のた
めの注射可能細胞不含テンプレート。Journal of Biomedical Materials Research Part A, 2009. 91A(4):p.1111-1118]。
【0343】
ウサギおよびヒトTGF-β1の配列整列によって、TGF-β1が両種に渡って非常に保存されているだけでなく、同定されるヘパリン結合ドメインがほぼ同一であることが明らかになった(図19)。ウサギ関節液におけるTGF-β1の平均レベルは、若いウサギの112.7pg/mLから成体ウサギの52.3pg/mLまでの範囲であることが見出され[Wei, X.およびK. Messner,ウサギ膝関節液中のトランスフォーミング増殖
因子β1およびプロテオグリカン断片の年齢および傷害依存性濃度。Osteoarthritis and
Cartilage, 1998. 6(1):p.10-18.]、一方、抗凝固骨髄吸引物中のレベルは、成体ウサギにおいて、190~881.8pg/mL(n=20)であることが見出された(Lim,
Z. X. H.、未公表データ)。別個の研究もまた、血小板活性化後、最大ナノグラムレベ
ルまでのTGF-β1の増加を報告しており[Coupes, B.M.ら,血漿トランスフォーミング増殖因子β1および血小板活性化:移植レシピエントにおける研究のための暗示。Nephrol Dial Transplant, 2001. 16(2):p.361-367]、そして創傷中に軟骨修復を刺激するた
めに十分なレベルのTGF-β1の存在を報告している[Shah, R.N.ら,軟骨再生のための自己組み立てナノファイバーの超分子設計。Proc Natl Acad Sci U S A, 2010. 107(8):p.3293-3298]。こうしたものとして、本発明者らの糖処理を伴う外因性TGF-β1の使用は排除された。
【0344】
以下の群を比較する12週の研究を行った:(1)欠損あたり60μLのヒドロゲルで処置する対照群(ゲルのみ);(2)60μLのヒドロゲルおよび10μgのHSPMで処置する欠損(HSPM);(3)60μLのヒドロゲルおよび10μgのHS16陽性で処置する欠損(HS16陽性);ならびに(4)60μLのヒドロゲルおよび10μgのHS16陰性で処置する欠損(HS16陰性)。本発明者らの以前の研究に基づいて、10μg/mLのGAGが、1ng/mLのTGF-βの影響を増進するために最適であると決定された。こうしたものとして、滑膜腔内のありうる拡散を考慮した後であっても、10μgのGAGの用量が、欠損内でこの最適な濃度を達成するために十分であると決定された。欠損を上述のように生成した。試験終了前に、胃内容うっ滞から2匹のウサギが死亡し、そしてこれらは分析には含まれなかった。
【0345】
試験終了時、全大腿をウサギから採取し、10%(v/v)NBF中で固定し、そして巨視的に画像化した後、脱灰し、そして組織学用にプロセシングした。12週後の欠損の巨視的観察によって、対照(ゲルのみ)および処置群間には、組織充填に関してわずかな相違が明らかになった。各処置群内の組織充填において等量の変動があったが、対照群ではより多くの欠損が他の群におけるものに比較して、不完全に充填されていた。HSPM、HS16陽性およびHS16陰性で処置した群の中央値スコアは、ゲルのみのものより高く(図20B)、HS16陽性の使用が治癒反応の堅牢性を改善した可能性があることが示唆された。
【0346】
O’DriscollおよびICRS IIスコア付けシステムの組織学的スコアは、処置群間
で有意な相違を示さなかった。軟骨および軟骨下空間の境界をまず同定し、画像化切片上にグリッドを重ね合わせ、そして次いで各組織学的空間に充填された空間の量を測定することによって、欠損の組織充填を決定した。組織充填に関して、ほぼすべての試料は、完全な軟骨下充填および高レベルの軟骨充填を示した。すべての処置群に関して組織充填スコア間に統計的な相違はなかった。すべての試料における軟骨下充填の中央値パーセントは同様であった。すべての3つの化合物(HSPM、HS16陰性およびHS16陽性)は、現在の臨床的標準治療処置である対照試料(ゲル)よりも高い中央値組織充填スコアを有した。
【0347】
in vitroデータによって、HS16陽性は、HSPMおよびHS16陰性に比較して、いくつかの軟骨形成マーカーのTGF-β1誘導性発現を増進することが可能であったことが示される。これは、移植前に、HSおよびTGFβ1をあらかじめ装填する、例えばゲル構築物をこれらでコーティングするかまたは含浸することが必要でありうることを示唆する。
【0348】
in vivoデータによって、微小破壊およびヒドロゲル移植と組み合わせて、単回用量の糖で全層骨軟骨欠損を治療すると、少なくとも現在の標準治療処置と同程度に優れており、そしてこれは望ましくない副作用を生じないことが示される。HS16陽性は、in vivoデータにおいて、現在の臨床的標準治療処置である対照試料(ゲル)よりも高い中央値スコアを有した。
発明の態様
[態様1]ヘパラン硫酸HS16。
[態様2]単離されたまたは実質的に精製された型のヘパラン硫酸HS16。
[態様3]アミノ酸配列RKDLGWKWIHEPKGYH(配列番号1)を有するかまたは該配列からなるペプチドまたはポリペプチドに結合可能である、態様1または2に記載のヘパラン硫酸HS16。
[態様4]ヘパリン・リアーゼI、IIおよびIIIで消化し、そして次いで、生じた二糖断片をHPLC分析に供した後、ヘパラン硫酸HS16が:
[表1]
を含む二糖組成を有する、態様1~3のいずれか記載の単離されたまたは実質的に精製されたヘパラン硫酸HS16。
[態様5]ヘパリン・リアーゼI、IIおよびIIIで消化し、そして次いで、生じた二糖断片をHPLC分析に供した後、ヘパラン硫酸HS16が:
[表2]
を含む二糖組成を有する、態様1~3のいずれか記載の単離されたまたは実質的に精製されたヘパラン硫酸HS16。
[態様6](i)支持体に接着したポリペプチド分子を有する固体支持体を提供し、ここで、ポリペプチドがアミノ酸配列RKDLGWKWIHEPKGYHを有するヘパリン結合ドメインを含み;
(ii)ポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体が形成可能であるように、固体支持体を、グリコサミノグリカン、好ましくはヘパラン硫酸調製物を含む混合物と接触させ;
(iii)混合物の残りからポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体を分配し;
(iv)ポリペプチド-グリコサミノグリカン複合体から、グリコサミノグリカン、好ましくはヘパラン硫酸種を解離させ;
(v)解離したグリコサミノグリカン、好ましくは1またはそれより多いヘパラン硫酸種を収集する
工程を含む方法によって得られる、態様1~5のいずれか記載の単離されたまたは実質的に精製された型のヘパラン硫酸HS16。
[態様7]ポリペプチドがRKDLGWKWIHEPKGYH(配列番号1)より選択されるアミノ酸配列を有するか、または該配列からなる、態様6の方法。
[態様8]グリコサミノグリカンを含む混合物が、ブタ粘膜より得られるヘパラン硫酸調製物(HSPM)である、態様6または7の方法。
[態様9]態様1~8のいずれか記載のヘパラン硫酸HS16を含む組成物。
[態様10]増殖因子、好ましくはTGFβ1をさらに含む、態様9の組成物。
[態様11]態様1~8のいずれか記載のヘパラン硫酸HS16を含む化粧用組成物、医薬組成物または薬剤。
[態様12]TGFβ1タンパク質および/または間葉系幹細胞をさらに含む、態様11の医薬組成物または薬剤。
[態様13]医学的治療法において使用するための態様11または12の医薬組成物または薬剤。
[態様14]医学的治療法において使用するための態様1~8のいずれか記載のヘパラン硫酸HS16。
[態様15]医学的治療法がin vivoの創傷治癒法を含む、態様14記載のヘパラン硫酸HS16。
[態様16]医学的治療法が、組織、好ましくは結合組織の修復および/または再生を含む、態様14記載のヘパラン硫酸HS16。
[態様17]疾患、状態または組織に対する傷害の治療のための薬剤製造における態様1~8のいずれか記載のヘパラン硫酸HS16の使用であって、方法が、組織、好ましくは結合組織の修復および/または再生を含む、前記使用。
[態様18]患者において、疾患、状態または組織に対する傷害を治療する方法であって、療法的有効量のヘパラン硫酸HS16を患者に投与し、組織、好ましくは結合組織の修復および/または再生を導く工程を含む、前記方法。
[態様19]組織の再生または修復が必要である、患者の体の創傷または位置にあるまたはそれを取り巻く組織にヘパラン硫酸HS16を投与する工程を含む、態様18の方法。
[態様20]患者にTGFβ1タンパク質を投与する工程をさらに含む、態様18または19の方法。
[態様21]患者において、疾患、状態または組織に対する傷害を治療する方法であって、バイオマテリアルおよび態様1~8のいずれかに記載のヘパラン硫酸HS16を含む、生体適合移植物または装具を、疾患、状態または傷害の部位のまたはそれを取り巻く組織内に、外科的に移植して、組織の修復および/または再生を導く工程を含む、前記方法。
[態様22]バイオマテリアルおよび態様1~8のいずれかに記載のヘパラン硫酸HS16を含む、生体適合移植物または装具。
[態様23]態様1~8のいずれかに記載のヘパラン硫酸HS16で、バイオマテリアルをコーティングするか、または含浸する工程を含む、生体適合移植物または装具を形成する方法。
[態様24]in vitroで、態様1~8のいずれか記載のヘパラン硫酸HS16と接触させて、幹細胞を培養する工程を含む、in vitroで幹細胞を培養する方法。
[態様25]態様1~8のいずれか記載のヘパラン硫酸HS16を含む培地。
[態様26]TGFβ1をさらに含む、態様25の培地。
[態様27]あらかじめ決定した量の態様1~8のいずれか記載のヘパラン硫酸HS16およびあらかじめ決定した量のTGFβ1を含む、キットオブパーツ(kit of parts)。
[態様28]医学的治療法において、同時に、別個にまたは連続して使用するための、療法的有効量の:
(i)態様1~8のいずれか記載のヘパラン硫酸HS16;および
(ii)TGFβ1タンパク質;
(iii)間葉系幹細胞、または線維芽細胞系譜の細胞
の一方または両方を含有する、産物。
[態様29]増殖因子、好ましくはTGFβ1の安定性を増加させる方法であって、増殖因子、好ましくはTGFβ1を、態様1~8のいずれか記載のヘパラン硫酸HS16と接触させる工程を含む、前記方法。
[態様30]被験体に、態様1~8のいずれか記載のヘパラン硫酸HS16を投与する工程を含む、美容法。
[態様31]血液由来産物およびあらかじめ決定した量のヘパラン硫酸HS16を含む調製物。
[態様32]血小板調製物である、態様31の調製物。
[態様33]生物学的材料を保存する方法であって、生物学的材料を、あらかじめ決定した量のヘパラン硫酸HS16と接触させる工程を含む、前記方法。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6-1】
図6-2】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
図8-5】
図9
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図13-3】
図14
図15
図16-1】
図16-2】
図16-3】
図17
図18-1】
図18-2】
図19
図20
【配列表】
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