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特許7145910人工石の製造方法、人工石の搬送方法及び人工石
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】人工石の製造方法、人工石の搬送方法及び人工石
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20220926BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20220926BHJP
   C04B 18/30 20060101ALI20220926BHJP
   C02F 11/143 20190101ALI20220926BHJP
   E02B 3/08 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B18/14 F
C04B18/30
C02F11/143
E02B3/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020088151
(22)【出願日】2020-05-20
(65)【公開番号】P2021181394
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-03-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】赤司 有三
(72)【発明者】
【氏名】川下 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】新井 清人
(72)【発明者】
【氏名】府川 裕史
(72)【発明者】
【氏名】浅田 英幸
(72)【発明者】
【氏名】鳥嶋 勇一
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154950(JP,A)
【文献】特開昭54-054892(JP,A)
【文献】特開2018-126673(JP,A)
【文献】特開2000-139268(JP,A)
【文献】特開2000-143304(JP,A)
【文献】特開2011-246336(JP,A)
【文献】特開2011-093752(JP,A)
【文献】特開2011-093750(JP,A)
【文献】特開2012-012287(JP,A)
【文献】特開2002-101785(JP,A)
【文献】特開2015-025240(JP,A)
【文献】特開平09-302641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
C02F 11/00 - 11/20
E02B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
泥土と、製鋼スラグと、結合材と、を混合して製造する人工石の製造方法であって、
前記泥土に対して加水を行う調泥工程と、
加水後の前記泥土に対して前記製鋼スラグ及び前記結合材を混合する混合工程と、
吊り治具を備えた容積が2m以上である、籠状又は袋状の金属製の中空搬送体を型枠として、前記泥土、前記製鋼スラグ及び前記結合材の混合物を前記中空搬送体の内部に充填する打設工程と、
前記中空搬送体内に打設された前記混合物を養生及び固化させる固化工程と、
を含む、人工石の製造方法。
【請求項2】
前記調泥工程では、JHS A 313で規定されるシリンダーフロー試験によるフロー値が25~45cmの範囲内となるように、前記泥土に対して加水を行い、
前記混合工程では、前記泥土、前記製鋼スラグ及び前記結合材を混合して得られる混合物のスランプ値を、5~20cmの範囲内とする、請求項1に記載の人工石の製造方法。
【請求項3】
前記中空搬送体は、目の大きさが、短辺の長さで平均12mm以下であるか、又は、前記中空搬送体の内部に前記混合物の漏洩を防止する漏洩防止シートが設けられる、請求項1又は2に記載の人工石の製造方法。
【請求項4】
前記吊り治具は、前記中空搬送体を底面から保持するように前記中空搬送体に装着されたワイヤーロープである、請求項1~3の何れか1項に記載の人工石の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の人工石の製造方法により製造された人工石を搬送する方法であって、
製造された前記人工石の圧縮強度が0.06N/mm以上となった後に搬送を行う、人工石の搬送方法。
【請求項6】
泥土と、製鋼スラグと、結合材と、を含有する人工石であって、
吊り治具を備えた、籠状又は袋状の金属製の中空搬送体と、
前記中空搬送体の内部に、前記中空搬送体と一体化するように設けられた、前記泥土、前記製鋼スラグ及び前記結合材を含有する人工石と、
を有し、
2m以上の体積を有しており、
前記中空搬送体の内部に保持された状態で使用される、人工石。
【請求項7】
前記吊り治具は、前記中空搬送体を底面から保持するように前記中空搬送体に装着されたワイヤーロープである、請求項6に記載の人工石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工石の製造方法、人工石の搬送方法及び人工石に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば航路、泊地、河川等の浚渫により生じる浚渫土砂や、建設排土等の泥土は、従来、埋め立て資材等に使用されているものの、その高い含水比が問題となるため、リサイクル技術の確立が求められている。そこで、所定のフリーライムを含有した製鋼スラグ等を用いて、かかる製鋼スラグ等を泥土に混合することで、泥土の強度を改質して人工石とする技術が、各種提案されている(例えば、以下の特許文献1を参照。)。人工石材を用いて製造された人工石は、例えば、干潟や浅場造成用のマウンド材や、河床の深掘れ部分の埋め戻し材等に利用されたり、河川や海域の自然再生事業に利用されたりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-12287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されているような人工石を、上記のような用途に実際に利用する場合、その利用形状に応じて人工石破砕してから使用することが一般的であり、1~2t(トン)程度の人工石を製造可能である。
【0005】
一方、上記用途のほか、例えば、高波浪条件下等の過酷環境で使用する場合も想定すると、10t程度の大重量の人工石が必要となる。この大質量を確保するためには、例えば、破砕した人工石を大型の網籠に充填する方法が考えられる。しかし、この方法では、破砕や充填の手間が発生するため製造コストが増加する。加えて、人工石を充填して大重量になると、網籠が施工時の吊り下げ作業に耐えられず変形するため、慎重な施工が求められハンドリング性が低下する。
【0006】
大重量を確保する他の方法として、人工石をコンクリート方塊と同様の大型ブロック形状に製造して、質量を稼ぐことも考えられる。しかし、大重量ブロックとして製造するには、施工時の吊り下げ作業に耐えられる曲げ破壊防止の配筋が必須となり、製造コストが増加する。また、吊り下げ作業用に、吊り治具が必要となり取り付け作業が発生するため、操業性が低下する。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、製造コストの増加を招かずに、操業性を損なうことなく、より簡便に人工石を利用することが可能な、人工石の製造方法、人工石の搬送方法及び人工石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、予め吊り治具を設けた中空の搬送体(以下、「中空搬送体」と略記する。)そのものを型枠として利用し、この中空搬送体の内部に、泥土と製鋼スラグと結合材とを含む混合物を打設、固化して人工石を形成し、中空搬送体と人工石とを一体化した状態で使用することに想到した。
かかる着想に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
(1)泥土と、製鋼スラグと、結合材と、を混合して製造する人工石の製造方法であって、前記泥土に対して加水を行う調泥工程と、加水後の前記泥土に対して前記製鋼スラグ及び前記結合材を混合する混合工程と、吊り治具を備えた容積が2m以上である、籠状又は袋状の金属製の中空搬送体を型枠として、前記泥土、前記製鋼スラグ及び前記結合材の混合物を前記中空搬送体の内部に充填する打設工程と、前記中空搬送体内に打設された前記混合物を養生及び固化させる固化工程と、を含む、人工石の製造方法。
(2)前記調泥工程では、JHS A 313で規定されるシリンダーフロー試験によるフロー値が25~45cmの範囲内となるように、前記泥土に対して加水を行い、前記混合工程では、前記泥土、前記製鋼スラグ及び前記結合材を混合して得られる混合物のスランプ値を、5~20cmの範囲内とする、(1)に記載の人工石の製造方法。
(3)前記中空搬送体は、目の大きさが、短辺の長さで平均12mm以下であるか、又は、前記中空搬送体の内部に前記混合物の漏洩を防止する漏洩防止シートが設けられる、(1)又は(2)に記載の人工石の製造方法。
(4)前記吊り治具は、前記中空搬送体を底面から保持するように前記中空搬送体に装着されたワイヤーロープである、(1)~(3)の何れか1つに記載の人工石の製造方法。
(5)(1)~(4)の何れか1つに記載の人工石の製造方法により製造された人工石を搬送する方法であって、製造された前記人工石の圧縮強度が0.06N/mm以上となった後に搬送を行う、人工石の搬送方法。
(6)泥土と、製鋼スラグと、結合材と、を含有する人工石であって、吊り治具を備えた、籠状又は袋状の金属製の中空搬送体と、前記中空搬送体の内部に、前記中空搬送体と一体化するように設けられた、前記泥土、前記製鋼スラグ及び前記結合材を含有する人工石と、を有し、2m以上の体積を有しており、前記中空搬送体の内部に保持された状態で使用される、人工石。
(7)前記吊り治具は、前記中空搬送体を底面から保持するように前記中空搬送体に装着されたワイヤーロープである、(6)に記載の人工石。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明によれば、中空搬送体と人工石とを一体化したので、配筋がなくても耐変形性、ハンドリング性があり、製造コストの増加を招かずに、操業性を損なうことなく、より簡便に人工石を利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る人工石の製造方法の流れの一例を示した流れ図である。
図2】シリンダーフロー試験について説明するための説明図である。
図3】同実施形態に係る人工石の製造方法で使用する中空搬送体の一例である籠を模式的に示した説明図である。
図4】同実施形態に係る籠について説明するための説明図である。
図5】同実施形態に係る籠について説明するための説明図である。
図6】同実施形態に係る籠について説明するための説明図である。
図7】同実施形態に係る人工石のモデルについて説明するための説明図である。
図8】同実施形態に係る人工石の一例を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
(人工石の製造方法について)
まず、図1図6を参照しながら、本発明の実施形態に係る人工石の製造方法について、詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る人工石の製造方法は、泥土と、製鋼スラグと、結合材と、を含有する人工石を製造するための方法である。この人工石の製造方法は、図1に示したように、調泥工程(ステップS11)と、混合工程(ステップS13)と、打設工程(ステップS15)と、固化工程(ステップS17)と、を含む。
【0015】
<調泥工程>
調泥工程(ステップS11)は、人工石の素材として用いる泥土に対して、加水を行う工程である。
【0016】
ここで、上記特許文献1も含め、従来、泥土を用いて人工石を製造する際には、泥土に対して外部から添加する水分の量を、含水率(又は含水比)として規定することが多かった。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、浚渫土砂に代表される泥土は得られた場所によって水分量が異なることに起因して、打設前の泥土等の混合物のワーカビリティーに、バラツキが生じやすいことが明らかとなった。そのため、人工石を製造する際の操業性をより向上させるためには、このようなワーカビリティーのバラツキを抑制することがより好ましいことに想到した。
【0017】
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、製鋼スラグ及び結合材と混合される前の泥土が保持すべき水分量を、日本道路公団規格「エアモルタルおよびエアミルクの試験方法」(JHS A 313)に準拠したシリンダーフロー試験の試験結果を用いて規定することに着想した。本発明者らは、得られた着想に基づき更なる検討を行った結果、上記シリンダーフロー試験で得られる試験結果であるフロー値が、25~45cmの範囲内となるまで泥土に対して加水を行うことで、打設前の混合物のより安定的なワーカビリティーを実現することが可能であることを見出した。
【0018】
JHS A 313で規定されるシリンダーフロー試験は、図2に模式的に示したような器具を用いて実施される。すなわち、内径8cm×高さ8cmのアクリルパイプと、所定の大きさのアクリル板と、を準備し、アクリル板の表面にアクリルパイプを載置する。その上で、試験対象とする泥土をアクリルパイプの内側の空間に充填していき、アクリルパイプの側面を軽く叩くなどして空気を追い出しながら、内側の空間を泥土で満たし、表面を擦切る。その後、アクリルパイプを上方に引き上げて、アクリル板の表面に拡がった泥土の直径(図2における長さd)を測定する。この際、アクリル板の表面に拡がった泥土の最大径と最小径とを測定し、得られた測定値の平均値を、着目する泥土のフロー値とする。
【0019】
ここで、上記シリンダーフロー試験に供される泥土(すなわち、本実施形態に係る人工石の素材となる泥土)としては、例えば、浚渫土砂や建設排土等を挙げることができる。このうち、浚渫土砂は、港湾、河川、運河等の航路や泊地を拡げる目的や、河川、湖沼、ダム等の水底や海底の汚泥・底質汚染を除去する目的等を含めて、総じて浚渫により生じた土粒子と、水とを含んだものである。また、建設排土は、掘削等の建設工事で排出される土粒子と、水とを含んだものである。これら浚渫土砂及び建設排土は、いずれも高い含水比により、ダンプトラック等に山積みして搬送するのが困難であったり、その上を人が歩けない程度の流動性を示したりする。これら浚渫土砂及び建設排土等の泥土は、おおよその強度として、JIS A 1228(締固めた土のコーン指数試験方法)で規定されるコーン指数が、200kN/m以下のものである。
【0020】
本実施形態に係る調泥工程(ステップS11)では、上記のような泥土を対象とするシリンダーフロー試験において、得られるフロー値が25~45cmの範囲内となるように、泥土に対して加水を実施することが好ましい。
【0021】
なお、加水に用いる水は、特に限定されるものではなく、泥土が発生する作業地で得られる水を用いることが簡便であるが、例えば海水を用いることがより好ましい。
【0022】
水分調整後の泥土のフロー値を25~45cmの範囲内とすることで、得られる泥土を用いて、泥土と製鋼スラグと結合材との混合物を作製した際に、得られる混合物がより安定して適切なワーカビリティーを示すようになり、得られる混合物のスランプ値を、容易に所望の範囲内とすることが可能となる。水分調整後の泥土のフロー値が25cm未満である場合には、泥土の水分量が不足して固くなり、後段の工程において泥土と製鋼スラグと結合材とを十分に混練することができない。水分調整後の泥土のフロー値は、より好ましくは29cm以上である。一方、水分調整後の泥土のフロー値が45cmを超える場合には、泥土の水分量が過剰となり、後段の工程において粘性が低下することで材料(特に、骨材である製鋼スラグ)の分離が生じて、混練が困難となる可能性がある。水分調整後の泥土のフロー値は、より好ましくは41cm以下である。
【0023】
<混合工程>
混合工程(ステップS13)は、加水後の泥土に対して、製鋼スラグ及び結合材を混合して、泥土、製鋼スラグ及び結合材を少なくとも含有する混合物を得る工程である。
【0024】
かかる混合工程では、得られる混合物のスランプ値を、5~20cmの範囲内とすることが好ましい。得られる混合物のスランプ値を上記の範囲内とすることで、後段の打設工程における混合物のワーカビリティーをより一層向上させることが可能となる。得られる混合物のスランプ値は、より好ましくは5~17cmの範囲内である。
【0025】
なお、上記のスランプ値は、JIS A 1101に規定された「コンクリートのスランプ試験方法」に則して、測定することが可能である。
【0026】
ここで、加水後の泥土と、製鋼スラグと、結合材と、の配合割合については、特に限定されるものではなく、特開2011-93750号公報等の公知の配合割合に基づき、所望の強度に応じて適宜決定すればよく、上記のようなスランプ値が実現されるように水分量を調整することがより好ましい。
【0027】
ここで、製鋼スラグは、本実施形態に係る人工石において、骨材として機能するほか、後述する結合材に対するアルカリ刺激材としても機能するものである。製鋼スラグは、高炉で製造された銑鉄から不要な成分を除去して靭性・加工性のある鋼にする製鋼工程で生じる、石灰分を主体としたものである。本実施形態では、このような製鋼スラグとして、転炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグ、二次精錬スラグ、造塊スラグ等の何れか1種又は2種以上を混合したものを用いることが可能である。
【0028】
上記のような製鋼スラグの化学成分については、特に限定するものではない。ただし、CaO含有量/SiO含有量で規定される塩基度が高すぎる場合には、製鋼スラグの内部に遊離CaOが残存して体積安定性のバラツキが大きくなる可能性がある。そのため、製鋼スラグの塩基度は、2.0~5.0程度であることが好ましい。
【0029】
なお、製鋼スラグは、含有する遊離石灰(フリーライム:f-CaO)の水和反応により膨張して、得られる人工石にひび割れが発生する可能性がある。そのため、目的とする人工石にひび割れが生じるのを防止することが求められる場合には、いわゆる自然エージングや蒸気エージング等のエージング処理を施した製鋼スラグを用いることが好ましい。より詳細には、以下の方法で求められる粉化率が2.5%以下となるようなエージング処理後の製鋼スラグを用いることが好ましい。
【0030】
ここで、上記の粉化率は、質量ベースの値である。
すなわち、エージング処理した一定量の製鋼スラグ(質量S)を、第1の篩い目(例えばJIS Z8801-1に規定された4.75mmの篩い目)で分級し、更にこの篩い下を、第1の篩い目よりもう1段小さな第2の篩い目(上記の例であれば、JIS Z8801-1に規定されたもう1段小さな篩い目である2mmの篩い目)を使って分級し、未崩壊の比較的大きなスラグ粒を除去して、篩い下としてエージング処理後の製鋼スラグの細粒分を得る(質量S)。そして、{(第2の篩い目の篩い下のスラグ質量=S)/(分級前のエージング処理後スラグ質量=S)×100(%)}を粉化率とし、この粉化率が2.5%以下の製鋼スラグを用いれば、得られる人工石に発生するひび割れを抑制することが可能となる。
【0031】
また、製鋼スラグは、破砕後に篩い分けして、5mm以下の粒径を有したものを用いることが好ましい。このような粒径を有する製鋼スラグであれば、エージング処理を行っていないものを含めて、膨張抑制効果を得ることができる。
【0032】
結合材としては、高炉スラグ微粉末、又は、セメントの少なくとも何れかを用いることが可能である。
【0033】
高炉スラグ微粉末は、銑鉄を製造する高炉で溶融された鉄鉱石のうち、鉄以外の成分を副原料の石灰石やコークス中の灰分と一緒に分離回収した高炉スラグを、微粉砕したものであり、より詳細には、溶融状態のスラグに加圧水を噴射するなどして急激に冷却した水砕スラグを微粉砕したものを使用することができる。水砕スラグの微粉砕の程度は、一般に、3000~8000cm/g程度である。
【0034】
また、セメントは、ポルトランドセメントと混合セメントとに分類される。このうち、ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントと、早強ポルトランドセメントとに分類され、混合セメントは、主に高炉セメントと、フライアッシュセメントとに分類される。これらの中でも、高炉セメントは、一般に、高炉水砕スラグを粉砕して普通ポルトランドセメントを混ぜたものであり、高炉スラグの分量によりA~C種の3種類に分類(JIS R 5211)される。本実施形態では、これらのセメントのいずれを使用してもよい。
【0035】
ここで、上記泥土、製鋼スラグ及び結合材の混練方法については、特に限定するものではなく、公知の各種の方法を適宜利用することが可能である。
【0036】
<打設工程>
打設工程(ステップS15)は、金属製の中空搬送体の一例としての金属製の籠を型枠として、混合工程で得られた泥土、製鋼スラグ及び結合材の混合物を、かかる籠の内部に充填する工程である。
【0037】
まず、混合物を打設する際の型枠として用いる金属製の籠について、図3図6を参照しながら、具体的に説明する。
本実施形態に係る打設工程で用いられる籠10は、図3に示したように、籠状の混合物収容部101と、混合物収容部101に装着された吊り治具103と、を有している。この籠10は、泥土、製鋼スラグ及び結合材の混合物を保持するための型枠として用いられるが、この混合物が固化し人工石となった際には、籠10と人工石が一体化された状態で用いられる。
【0038】
このように籠10を型枠として用いることで混合物が固化した後には籠10と一体化した人工石が得られるので、従来のように破砕して網籠に充填することが不要となり、製造が容易となり製造コストが抑えられる。また、籠10は吊り治具103を備えているため、人工石施工時ハンドリングが向上する。
【0039】
籠10等の中空搬送体は、人工石を収容して搬送できる中空の形状であれば籠状でも袋状でもよく、矩形や円形でもよい。また、籠10等の中空搬送体は、製造された人工石が設置される環境に耐える程度の耐食性を有していることが好ましい。そのため、籠10等の中空搬送体は、所定の耐食性を有する金属を用いて形成されることが好ましい。更に、籠10等の中空搬送体の内部には、混合物が固化した人工石が保持されるため、人工石の重量に耐える程度の機械的強度を有していることが好ましい。
【0040】
このような観点から、籠10の混合物収容部101は、例えば、所定の外径を有する各種のめっき鋼材を用いて形成されていることが好ましい。このようなめっき鋼材として、例えば、JIS G 3547に規定される亜鉛めっき鋼線(例えば、φ5.0mm程度の亜鉛めっき鋼線)等を挙げることができる。また、このようなめっき鋼線を用いて製造される混合物収容部101は、JIS A 5513に規定される要件を満足した亜鉛めっき製の中空搬送体であることが好ましい。
【0041】
また、先だって言及したように、籠10等の中空搬送体を用いて製造される人工石は、敷設場所で発生する波に耐える必要がある。そこで、本実施形態に係る籠10の混合物収容部101は、図3に示した長さL×奥行W×高さHで表される容積が2m以上となるように形成される。混合物収容部101の容積が2m未満である場合には、人工石の敷設場所で発生する波に人工石が耐えることができない。混合物収容部101の容積は、好ましくは、長さ2m×奥行1.5m×高さ1m=3m以上であり、より好ましくは、長さ3m×奥行2m×高さ1m=6m以上である。
【0042】
また、混合物収容部101には、内部に保持される人工石を籠10ごと吊り下げることが可能となるように、吊り治具103が設けられている。この吊り治具103は、図3に示したように、例えば、中立8点吊りとなるように設けられることが好ましい。
【0043】
吊り治具103は、混合物収容部101の内部に保持される人工石の重量に耐えることが求められるため、所定の機械的強度を有していることが好ましい。そのため、かかる吊り治具103は、例えば、JIS G 3525に規定されるワイヤーロープ(例えば、φ14mm程度のワイヤーロープ)で形成されることが好ましい。
【0044】
また、吊り治具103は、混合物収容部101をより安全かつ確実に保持するために、図4に模式的に示したように、籠10の混合物収容部101を底面から保持するように、籠10の混合物収容部101に装着されることが好ましい。
【0045】
本実施形態に係る混合物収容部101には、内部に充填される混合物が固化するまでの間、流動性を有する状態の混合物を保持することが求められる。そのため、混合物収容部101は、混合物が漏洩しない程度の目の大きさを有することが好ましい。また、混合物収容部101が、混合物が漏洩しない程度の目の大きさを有していない場合には、図5に模式的に示したように、籠10の混合物収容部101の内部に、混合物の漏洩を防止するための漏洩防止シート105を設けることが好ましい。なお、混合物収容部101が、混合物が漏洩しない程度の目の大きさを有している場合であっても、混合物収容部101の内部に漏洩防止シート105を設けてもよい。混合物収容部101の内部に漏洩防止シート105を設けることで、流動性を有している状態の混合物を、より確実に保持することが可能となる。
【0046】
なお、漏洩防止シート105を設ける場合、かかる漏洩防止シート105は、混合物が固化した人工石を保持しうる程度の強度を有していることが好ましい。漏洩防止シート105の具体的な強度については、特に規定するものではないが、例えば、23℃における引っ張り速度200mm/minでの降伏点強度が、510N/m以上であることが好ましく、755N/m以上であることがより好ましい。
【0047】
また、混合物収容部101や漏洩防止シート105の目の平均の大きさは、例えば図6における目の横幅をaとし、縦幅をbとしたときに、横幅aと縦幅bのうち短い方の長さ(すなわち、短辺長さ)が12mm以下であることが好ましい。このような目の大きさとすることにより、流動性を有している状態の混合物を、より確実に保持することが可能となる。混合物収容部101や漏洩防止シート105の目の平均の大きさは、より好ましくは、1.3mm×2.3mm以下である。
【0048】
なお、目の形状は、図6に示したように正方形であってもよいし、長方形であってもよい。また、上記のような長さから規定される開口面積を実現できる形状であれば、目の形状は特に限定するものではなく、円や楕円であってもよいし、多角形であってもよい。
【0049】
<固化工程>
固化工程(ステップS17)は、籠10内に打設された混合物を養生及び固化させる工程である。これにより、籠10内(より詳細には、混合物収容部101内)に打設された混合物は水和固化して、所定の強度を有する人工石となる。その結果、籠10の混合物収容部101の内部に人工石が収容され、本実施形態に係る籠10と一体化した人工石を得ることができる。
【0050】
ここで、養生期間は、特に規定するものではなく、目標とする圧縮強度が得られるまでの期間とすればよい。一般的には、養生期間は、7日程度以上が適当である。
【0051】
また、混合物の固化後に、得られた人工石の天面に対し、天端金網等の蓋材を設置して、人工石が籠10の混合物収容部101の内部により確実に保持されるようにしてもよい。
【0052】
(人工石の搬送方法について)
以上説明したような製造方法により製造される人工石について、載荷試験を実施してその破壊挙動を考察した。より詳細には、入手可能な浚渫土砂を泥土として用いて上記の製造方法に即して人工石を製造し、曲げ耐力を測定するとともに、以下の式(1)に即して、曲げ引張強度fbkを算出した。なお、以下の式(1)は、製造した人工石について、図7に示したようなモデルを構築し、支点の摩擦係数μを考慮することで設定した。
【0053】
【数1】
【0054】
ここで、上記式(1)において、Pbkは、圧縮応力[N]であり、Lは、支点間距離[m]であり、yは、中立軸から下端までの距離[m]であり、Bは、断面の幅[m]であり、Hは、断面の高さ[m]であり、Zは、断面係数である。
【0055】
得られた曲げ引張強度の測定値と、曲げ耐力と、から支点摩擦係数μを求めたところ、μ=0.45程度となった。そこで、吊り上げ時に曲げひび割れが生じる人工石の躯体強度について、安全率を1~6倍のそれぞれに設定した場合の必要圧縮強度を算出した。その結果、得られた必要圧縮強度は、以下の表1に示したようになった。
【0056】
【表1】
【0057】
上記結果より、以上説明したような製造方法により製造された人工石を搬送するときには、製造された人工石の圧縮強度が0.06N/mm以上となった後に搬送を行えばよいことがわかる。また、より安全に人工石を搬送するためには、上記表1に記載した必要圧縮強度に即して、人工石の養生期間を設定すればよい。
【0058】
ただし、以上説明したような製造方法により製造された、材令2~3日目の人工石の圧縮強度を測定すると、5~8N/mm程度の強度を示すことが別途確認されており、本実施形態に係る人工石の製造方法に即して製造される人工石は、材令2~3日程度を経過した時点で、上記表1に示した安全率6.0の要件を満足することが明らかとなった。
【0059】
(人工石について)
続いて、図8を参照しながら、上記のような製造方法で得られる、本実施形態に係る人工石について説明する。
【0060】
本実施形態に係る人工石は、泥土と、製鋼スラグと、結合材と、を含有する人工石である。図8に模式的に示したように、本実施形態に係る籠10と一体化した人工石20は、吊り治具103を備えた金属製の籠10と、籠10の内部(より詳細には、混合物収容部101の内部)に設けられた、泥土、製鋼スラグ及び結合材を含有する人工石20と、を有しており、その体積は、2m以上となっている。また、本実施形態に係る籠10と一体化した人工石20は、図8に示したように、籠10の内部(より詳細には、混合物収容部101の内部)に人工石20が保持された状態で使用される。また、人工石20の天面には、図8に示したように、天端金網107が設けられていてもよい。
【0061】
本実施形態に係る人工石20は、籠10を型枠として用いて製造されるため、人工石20は、従来とは異なり、籠10の混合物収容部101の内部に充填された状態となっている。そのため、本実施形態に係る人工石20の充填密度は、きわめて高い値となる。その結果、本実施形態に係る人工石20の単位容積当たりの質量は、1.6トン/m以上と、大きな値となる。
【0062】
また、上記のような単位容積当たりの質量を有しているにも関わらず、籠10には吊り治具103が予め設けられているため、クレーン等の機器により人工石20を容易に搬送することが可能となり、操業性の向上を図ることができる。
【0063】
ここで、本実施形態に係る人工石20における中空搬送体の一例である籠10の詳細については、製造方法に関する説明において言及した通りであり、以下では詳細な説明は省略する。
【0064】
また、人工石20は、製造方法で用いた混合物が固化したものであり、原料として準備した混合物における泥土、製鋼スラグ、結合材の配合比率が保持されたものとなる。
【実施例
【0065】
以下では、実施例を示しながら、本発明に係る人工石の製造方法及び人工石について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る人工石の製造方法及び人工石の一例にすぎず、本発明に係る人工石の製造方法及び人工石が下記の例に限定されるものではない。
【0066】
中空搬送体として、JIS G 3547に規定される直径φ=5.0mmの亜鉛めっき線材を用いた、容積が長さ3m×幅2m×高さ1m=6mである亜鉛めっき製網籠を準備した。この網籠は、JIS A 5513に規定される要件を満たすものである。また、JIS G 3525に規定されるφ14mmのワイヤーロープを用いて吊り治具を作成し、上記の網籠を底面から保持して中立8点吊りできるように、吊り治具を中空搬送体の一例である上記網籠に装着した。
【0067】
また、目の大きさが1.3mm×2.3mmである漏洩防止シートを準備し、上記網籠の混合物収容部に配置した。
【0068】
泥土として、以下の表2に示した2種類の浚渫土砂を用いた。また、製鋼スラグとして、日本製鉄株式会社 鹿島製鉄所産の転炉系製鋼スラグを準備した。また、結合材として、JIS R5211に規定された高炉セメントB種を準備した。
【0069】
【表2】
【0070】
上記2種類の浚渫土砂を用い、調泥後のフロー値が以下の表3に記載の値となるように、海水を用いて加水を行った。調泥後の浚渫土砂と、上記製鋼スラグと、上記結合材と、を、以下の表3に記載のような配合で混合して、混合物とした。添加する水分には、調泥工程と同様に海水を使用し(添加した水分量は、泥土の内数として記載している。)、得られた混合物について、スランプ値を測定した。なお、上記のフロー値及びスランプ値は、先だって説明した方法により測定した。
【0071】
ここで、強度指標である強度指数は、1.25~1.40の範囲内となるように、上記材料の配合を調整した。強度指数は、鉄鋼スラグ水和固化体技術マニュアル(財団法人 沿岸技術研究センター、平成20年)で用いられている指標であり、本発明で着目する人工石においても用いられる指標である。強度指数は、高炉セメントB種の質量をBBと表し、調泥後の浚渫土砂に含まれる水(海水)の質量をW1と表し、混合工程時に加水した水(海水)の質量をW2と表したときに、強度指数=1.55×BB/(W1+W2)で求められる。
【0072】
得られた混合物を、上記の網籠の内部に打設して養生・固化させ、人工石とした。その後、材令28日目の人工石の強度を測定して、JIS A 5506に規定される割栗石の準硬石の強度基準である9.8N/mmを満足するかどうかを検証した。また、得られた各人工石の単位体積当たりの質量を計測したところ、いずれも1.6トン/m以上であった。
【0073】
得られた結果を、以下の表3にまとめて示した。
【0074】
【表3】
【0075】
上記表3から明らかなように、本発明の発明例に該当するNo.1~No.6の人工石は、優れた圧縮強度を示した。
【0076】
また、網籠には吊り治具を設けたため、製造した人工石の取り回しは良好であり、人工石を吊り上げた場合であっても網籠中の人工石は崩壊しなかった。
【0077】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0078】
10 籠
20 人工石
101 混合物収容部
103 吊り治具
105 漏洩防止シート
107 天端金網
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8