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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】シートベルト装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/195 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
B60R22/195 102
B60R22/195 104
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020143066
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038513
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 修司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 匠
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-075675(JP,A)
【文献】特開2010-285048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00-22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトと、
緊急時に、前記シートベルトに挿通されたタングを装着可能なバックル又は前記シートベルトの端部に連結されたラップアンカを、引込み対象として引き込む引込み装置と、
を備え、
前記引込み装置は、第1の段階と当該第1の段階後の第2の段階とを含む複数の段階の間で、前記引込み対象の引き込み方向を変更して、前記引込み対象を引き込むように構成されており、
前記第1の段階中、前記引込み対象は少なくとも下方に引き込まれ、
前記第2の段階中、前記引込み対象は少なくとも後方に引き込まれ
前記引込み装置は、
動力源と、
前記引込み対象に連結され、前記動力源の作動により引き込まれるように構成されたワイヤ部材と、
前記引込み対象の引き込み方向を規定するワイヤガイドと、を備え、
前記ワイヤガイドは、
前記第1の段階中、引き込まれていく前記ワイヤ部材をガイドし、
前記第1の段階の最後に、前記引込み対象に係合され、
前記第2の段階中、引き込まれていく前記ワイヤ部材及び前記引込み対象とともに移動させられる、シートベルト装置。
【請求項2】
前記引込み装置は、
前記第2の段階中に移動させられる前記ワイヤガイドをガイドするガイド部材を、さらに備えた、請求項に記載のシートベルト装置。
【請求項3】
前記引込み装置は、
前記第1の段階中、前記ワイヤガイドが移動することを規制する一方、前記第1の段階から前記第2の段階に移行する際に、前記ワイヤガイドの移動の規制を解除する規制部材を、さらに備えた、請求項に記載のシートベルト装置。
【請求項4】
前記規制部材は、前記ガイド部材に設けられている、請求項に記載のシートベルト装置。
【請求項5】
前記規制部材は、
前記第1の段階中、前記ワイヤガイドに当接することにより、当該ワイヤガイドが移動することを規制し、
前記第1の段階から前記第2の段階に移行する際に、前記ワイヤガイドに係合した前記引込み対象を介して前記ワイヤガイドが移動させられることによって破壊され、それにより前記ワイヤガイドの移動の規制を解除する、請求項又はに記載のシートベルト装置。
【請求項6】
前記ワイヤガイドは、
第1の端部と、
前記第1の端部とは反対側の第2端部と、
前記第1の端部側に設けられ、前記第1の段階の最後に前記引込み対象に係合される係合部と、
前記第2の端部側に設けられ、前記第1の段階から前記第2の段階に移行する際に前記規制部材を破壊する破壊部と、
を有する、請求項に記載のシートベルト装置。
【請求項7】
前記ワイヤガイドは、前記第2の端部側が前記ガイド部材に保持された状態で配置されている、請求項に記載のシートベルト装置。
【請求項8】
前記ワイヤガイドは、
第1の方向に延在する第1部分と、
前記第1の方向とは異なる第2の方向に延在する第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分とをつなぐ移行部分と、を有し、
前記第1部分は、前記第1の段階における前記引込み対象の引き込み方向を規定し、
前記第2部分は、前記第2の段階における前記引込み対象の引き込み方向を規定する、請求項からのいずれか一項に記載のシートベルト装置。
【請求項9】
前記第1部分、前記第2部分及び前記移行部分の少なくとも一つは、湾曲している、請求項に記載のシートベルト装置。
【請求項10】
前記動力源は、ガスジェネレータであり、
前記引込み装置は、
前記ワイヤ部材に連結され、前記ガスジェネレータからのガス圧により作動するように構成されたピストンと、
前記ピストンを摺動可能に収容するシリンダと、を有し、
前記引込み装置のうち、少なくとも、前記ガスジェネレータ、前記ピストン、前記シリンダ及び前記ワイヤガイドは、車両シートの側部に一体又は別体に形成されたガイド部分に、少なくとも部分的に据え付けられて配置されている、請求項からのいずれか一項に記載のシートベルト装置。
【請求項11】
前記ガスジェネレータ、前記ピストン及び前記シリンダの少なくとも一つは、前記車両シートの前記側部のフレームの内側面又は外側面に取り付けられている、請求項10に記載のシートベルト装置。
【請求項12】
前記第2の段階における前記引込み対象の少なくとも後方への引き込みは、前記引込み対象を下方に引き込むことを含み、
前記第1の段階における引き込み方向は、前記第2の段階における引き込み方向よりも鉛直方向に近い、請求項1から11のいずれか一項に記載のシートベルト装置。
【請求項13】
前記引込み装置として、前記バックルを引込み対象とした第1の引込み装置と、前記ラップアンカを引込み対象とした第2の引込み装置と、を備え、
前記第1の引込み装置及び前記第2の引込み装置は、それぞれ、緊急時に、同期して前記バックル及び前記ラップアンカを同様に引き込むように構成されている、請求項1から12のいずれか一項に記載のシートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、3点式のシートベルト装置では、乗員を拘束するシートベルトが、上部ガイドループ又は上部アンカからタングまで延在するショルダーベルトと、タングから下部アンカまで延在するラップベルトと、を有し、タングが、車体に固定されたバックルに挿入可能に構成されている。タングをバックルに挿入して締結させることで、シートベルト装置は、上部アンカと、バックル(タング)と、下部アンカとの間に3点拘束を構成する。この状態では、ショルダーベルトが乗員の左右一方の上部から左右他方の下部へと乗員の胸の前で斜めに架け渡され、また、ラップベルトが乗員の左右一方から左右他方へと乗員の腰の前で架け渡される。このような3点式のシートベルト装置によって、車両衝突時などの緊急時に乗員が前方へ投げ出されることを防止している。
【0003】
3点式のシートベルト装置として、車両の急減速時や衝突時にシートベルトを引き込むプリテンショナを備えたものも知られている。例えば、特許文献1には、バックルにプリテンショナのワイヤを接続し、車両の急減速時や衝突時にワイヤを下斜め後方に引き込む。これによって、バックルを介してシートベルトを引き込み、車両の急減速時や衝突時に慣性力により前方へ移動しようとする乗員を拘束している。
【0004】
また、3点式のシートベルト装置として、衝突中にシートベルトをバックル部で分離することによって、バックル位置の前方移動を可能とした分離式バックル(スプリットバックル)に関する技術を開示した文献も知られている(非特許文献1参照)。かかる文献によれば、ラップベルトとショルダーベルトとを分離することにより、腰部拘束力を低減させることなく、胸部に作用するベルト張力の低減が図られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2008/155942号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Bengt Pipkorn, Francisco J.Lopez-Valdes,Oscar Juste-Lorente, Ricardo Insausti, Christer Lundgren & Cecilia Sunnevang (2016)“Assessment of an innovative seat belt with independent control of the shoulder and lap portions using THOR tests, the THUMS model, and PMHS test”,Traffic Injury Prevention,17:Sup1,pp.124-130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、乗員がシートベルトで過度に拘束されると、あばら骨や、あばら骨の下部、また、腹部などへの負担が大きくなってしまう。乗員への負荷の軽減のためには、シートベルトが人体の変形しにくい骨格(特に鎖骨及び腸骨)を早期に拘束することができるとよい。
【0008】
この点、従来のシートベルト装置は、改善の余地があった。例えば、特許文献1のように、バックルをワイヤの傾斜方向にのみ瞬間的に引き込むと、ラップベルトが乗員の腹部を圧迫する上、腸骨にかかりにくい。また、非特許文献1のように、ラップベルトとショルダーベルトの分離を可能にする機構を設けるのは複雑であり、さらに、この構成では、腸骨に対するラップベルトのかかりが考慮されていない。
【0009】
とりわけ、車両の衝突時には、乗員の体がラップベルトの下側に潜り込むサブマリン現象が発生し得る。サブマリン現象は、シートを倒したリクライニング姿勢(安楽姿勢)ほど起こりやすい。サブマリン現象が起きると、ラップベルトの位置が乗員に対しては相対的に上がるため、ラップベルトが本来の機能を発揮できなかったり、乗員の腹部を圧迫したりするおそれがある。
【0010】
本発明は、緊急時に、乗員の腹部への負担を軽減しながら、シートベルトによる乗員の拘束性能を向上することができるシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係るシートベルト装置は、シートベルトと、緊急時に、シートベルトに挿通されたタングを装着可能なバックル又はシートベルトの端部に連結されたラップアンカを、引込み対象として引き込む引込み装置と、を備え、引込み装置は、第1の段階と当該第1の段階後の第2の段階とを含む複数の段階の間で、引込み対象の引き込み方向を変更して、引込み対象を引き込むように構成されており、第1の段階中、引込み対象は少なくとも下方に引き込まれ、第2の段階中、引込み対象は少なくとも後方に引き込まれる。
【0012】
この態様によれば、緊急時に、まず引込み対象が少なくとも下方に引き込まれるので、シートベルトが下方に引っ張られるようになる。その後、引込み対象が少なくとも後方に引き込まれるので、シートベルトが後方に引っ張られるようになる。こうすることで、例えば、緊急時、まず、シートベルトのラップベルト部分が乗員の腹部の下側に、すなわち腸骨の位置に下がり、その後、腸骨にかかって乗員を後方へと押し付けるように拘束することができる。したがって、緊急時に、乗員の腹部への負担を軽減しながら、シートベルトによる乗員の拘束性能を向上することができる。とりわけ、このように引き込み方向を下方及び後方へと順次変更する構成は、シートベルトの位置が乗員に対して相対的に上がりやすいサブマリン現象に対して効果的となる。
【0013】
本発明の一態様においては、引込み装置は、動力源と、引込み対象に連結され、動力源の作動により引き込まれるように構成されたワイヤ部材と、引込み対象の引き込み方向を規定するワイヤガイドと、を備え、ワイヤガイドは、第1の段階中、引き込まれていくワイヤ部材をガイドし、第1の段階の最後に、引込み対象に係合され、第2の段階中、引き込まれていくワイヤ部材及び引込み対象とともに移動させられてもよい。
【0014】
この態様によれば、緊急時における第1の段階では、ワイヤガイドがワイヤ部材をガイドして、ワイヤ部材が引込み対象を少なくとも下方に引き込み、第1の段階の最後に、引き込んだ引込み対象をワイヤガイドに係合させる。そして、第2の段階では、ワイヤ部材の引き込みによって、ワイヤ部材及び引込み対象と一緒にワイヤガイドを移動させ、引込み対象を少なくとも後方に引き込む。このような、引込み対象と関連付けられるワイヤ部材及びワイヤガイドを有する引込み装置を用いることで、引込み対象の引き込み方向を変更する構造を簡素化することができる。
【0015】
本発明の一態様においては、引込み装置は、第2の段階中に移動させられるワイヤガイドをガイドするガイド部材を、さらに備えてもよい。
【0016】
この態様によれば、第2の段階におけるワイヤガイドの移動が安定化するので、第2の段階において引込み対象を意図した方向に(少なくとも後方に)引き込み易くなる。
【0017】
本発明の一態様においては、引込み装置は、第1の段階中、ワイヤガイドが移動することを規制する一方、第1の段階から第2の段階に移行する際に、ワイヤガイドの移動の規制を解除する規制部材を、さらに備えてもよい。
【0018】
この態様によれば、簡易な構成で、第1の段階中、ワイヤガイドによるワイヤ部材のガイドを安定化させることができる。
【0019】
本発明の一態様においては、規制部材は、ガイド部材に設けられてもよい。
【0020】
この態様によれば、ガイド部材を有効に利用して規制部材を設けることができる。
【0021】
本発明の一態様においては、規制部材は、第1の段階中、ワイヤガイドに当接することにより、当該ワイヤガイドが移動することを規制し、第1の段階から第2の段階に移行する際に、ワイヤガイドに係合した引込み対象を介してワイヤガイドが移動させられることによって破壊され、それによりワイヤガイドの移動の規制を解除してもよい。
【0022】
この態様によれば、規制部材によるワイヤガイドの移動の規制を解除するのに、特別な電気的構造を必要とせずに済む。すなわち、引込み対象とワイヤガイドとの関連性を利用して、移動の規制解除が可能となり、引込み装置全体を簡易な構成とすることができる。
【0023】
本発明の一態様においては、ワイヤガイドは、第1の端部と、第1の端部とは反対側の第2端部と、第1の端部側に設けられ、第1の段階の最後に引込み対象に係合される係合部と、第2の端部側に設けられ、第1の段階から第2の段階に移行する際に規制部材を破壊する破壊部と、を有してもよい。
【0024】
この態様によれば、ワイヤガイドの第1及び第2の端部をそれぞれ有効に利用して、ワイヤガイドと引込み対象及び規制部材との関連性をもたせることができる。
【0025】
本発明の一態様においては、ワイヤガイドは、第2の端部側がガイド部材に保持された状態で配置されてもよい。
【0026】
この態様によれば、ガイド部材を有効に利用して、ワイヤガイドを配置することができる。
【0027】
本発明のいくつかの一態様においては、ワイヤガイドは、第1の方向に延在する第1部分と、第1の方向とは異なる第2の方向に延在する第2部分と、第1部分と第2部分とをつなぐ移行部分と、を有し、第1部分は、第1の段階における引込み対象の引き込み方向を規定し、第2部分は、第2の段階における引込み対象の引き込み方向を規定してもよい。
【0028】
この態様によれば、ワイヤガイドの各部の構成を利用して、引込み対象の引き込み方向を変更させることができ、しかも、その変更するための構造を簡素化することができる。
【0029】
本発明の一態様においては、移行部分は、湾曲していてもよい。
【0030】
この態様によれば、互いに異なる方向に延在する第1部分と第2部分とを移行部分によって滑らかにつなぐことができ、緊急時に、第1部分と第2部分との境界に作用する負荷や応力集中を抑制することができる。
【0031】
本発明の一態様においては、動力源は、ガスジェネレータであり、引込み装置は、ワイヤ部材に連結され、ガスジェネレータからのガス圧により作動するように構成されたピストンと、ピストンを摺動可能に収容するシリンダと、を有し、引込み装置のうち、少なくとも、ガスジェネレータ、ピストン、シリンダ及びワイヤガイドは、車両シートの側部に一体又は別体に形成されたガイド部分に、少なくとも部分的に据え付けられて配置されてもよい。
【0032】
この態様によれば、既存のプリンテンショナの一般的な構成を有効に利用して引込み装置を構成することができる。また、引込み対象であるバックル又はラップアンカは、一般に車両シートの両側部にそれぞれ設けられるところ、この側部を有効に利用して引込み装置の構成の一部をガイド部分を介して設けることができる。
【0033】
本発明の一態様においては、ガスジェネレータ、ピストン及びシリンダの少なくとも一つは、車両シートの側部のフレームの内側面又は外側面に取り付けられていてもよい。
【0034】
この態様によれば、車両シートの側部のフレームを有効に利用して、引込み装置の部品を取り付けることができる。
【0035】
本発明の一態様においては、第2の段階における引込み対象の少なくとも後方への引き込みは、引込み対象を下方に引き込むことを含み、第1の段階における引き込み方向は、第2の段階における引き込み方向よりも鉛直方向に近いとよい。
【0036】
この態様によれば、緊急時の第1の段階及び第2の段階の両方において、引込み対象が下方に引き込まれる場合であっても、第1の段階の方が、引込み対象がより真下に近い方向に引き込まれる。これにより、上述の如く、まず、シートベルトのラップベルト部分を腸骨の位置に下げ、その後、腸骨にかけて乗員を後方へと押し付けるように拘束することができる。
【0037】
本発明の一態様においては、シートベルト装置は、引込み装置として、バックルを引込み対象とした第1の引込み装置と、ラップアンカを引込み対象とした第2の引込み装置と、を備え、第1の引込み装置及び第2の引込み装置は、それぞれ、緊急時に、同期してバックル及びラップアンカを同様に引き込むように構成されてもよい。
【0038】
この態様によれば、例えばシートベルトのラップベルト部分の両側を、引き込み方向を変更しながら同様に引き込むことができる。これにより、緊急時の乗員の拘束性能をより一層向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】実施形態に係るシートベルト装置を車両に搭載した状態を模式的に示す斜視図である。
図2図1のシートベルト装置の引込み装置を示す側面図であり、(a)はラップアンカを引き込む前の通常時における状態を示し、(b)はラップアンカを引き込んだ第1の段階の終了時における状態を示し、(c)はラップアンカをさらに引き込んだ第2の段階の途中における状態を示す、(d)は第2の段階の終了時における状態を示す。
図3図1のシートベルト装置の要部を乗員の腰部とともに示す側面図であり、(a)はラップアンカを引き込む前の通常時における状態を示し、(b)はラップアンカを引き込んだ第1の段階の終了時における状態を示し、(c)ラップアンカをさらに引き込んだ第2の段階の終了時における状態を示す。
図4】実施形態の別の実施態様に係る引き込み装置を示す図であり、(a)は側面図、(b)はガイド部材周りの一部断面図、(c)ガイド部材周りの一部斜視図である。
図5図4の引き込み装置を示す側面図であり、(a)はラップアンカを引き込む前の通常時における状態を示し、(b)はラップアンカを引き込んだ第1の段階の終了時における状態を示し、(c)はラップアンカをさらに引き込んだ第2の段階の途中における状態を示す、(d)は第2の段階の終了時における状態を示す。
図6】実施形態の変形例に係るシートベルト装置を車両に搭載した状態を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係るシートベルト装置について説明する。本書において、上下、左右及び前後を以下のとおり定義する。乗員が正規の姿勢で座席(車両シート)に着座した際に、乗員が向いている方向を前方、その反対方向を後方と称し座標の軸を示すときは前後方向とする。また、乗員が正規の姿勢で車両シートに着座した際に、乗員の右側を右方向、乗員の左側を左方向と称し座標の軸を示すときは左右方向とする。同様に、乗員が正規の姿勢で着座した際に、乗員の頭部方向を上方、乗員の腰部方向を下方と称し座標の軸を示すときは上下方向とする。
【0041】
図1に示すように、車両シート100は、乗員の背中を支えるシートバック110と、乗員が着座するシートクッション112(座部)と、乗員の頭部を支えるヘッドレスト114と、を備えている。車両シート100は、前席(すなわち運転席又は助手席)であってもよいし、後席であってもよい。シートバック110及びシートクッション112の内部には、それぞれ、シートの骨格を形成するシートフレーム及び着座フレームが設けられており、これらは互いにリクライニング機構を介して連結されている。シートクッション112は、例えば、着座フレームの表面及び周囲を覆うウレタン発泡材等からなるシートパッドの表面を、皮革やファブリック等からなるシートカバーで覆っている。
【0042】
シートベルト装置1は、車両シート100に関連付けて設けられており、乗員を拘束するウェビングであるシートベルト10を有している。シートベルト10は、上部ガイドループ又は上部アンカ20からタング22まで延在するショルダーベルト12と、タング22からラップアンカ24まで延在するラップベルト14と、を有している。ショルダーベルト12は、車両シート100に着座した乗員の左右一方の上部から左右他方の下部へと乗員の胸の前で斜めに架け渡される。ラップベルト14は、乗員の左右一方から左右他方へと乗員の腰の前で架け渡される。ショルダーベルト12とラップベルト14とは、連続した一本で帯状に形成されている。
【0043】
上部アンカ20は、車室内の上壁部又はシートバック110の上部に設けられる。図示省略したが、上部アンカ20の下方に、シートベルト10の一端側を巻き取るリトラクタを設け、リトラクタを車体又はシートクッション112に固定してもよい。
タング22は、シートベルト10に挿通されていると共に、バックル28に装着可能に構成されている。具体的には、タング22は、シートベルト10が摺動可能に挿通するループ部分26を有している。タング22がバックル28に装着されて締結されることで、シートベルト10が、ループ部分26を境界として折り返され、ショルダーベルト12とラップベルト14とに分けられる。
ラップアンカ24は、シートベルト10の他端部を車両構造の部分(例えば車両フレーム、シートフレーム、又は着座フレームなど)に固定するためのものである。したがって、タング22がバックル28に装着された際、シートベルト装置1は、上部アンカ20と、タング22(バックル28)と、ラップアンカ24との間に3点拘束を画定する。
【0044】
また、シートベルト装置1は、緊急時に、ラップアンカ24及びバックル28の少なくとも一方を引き込む引込み装置30を有している。緊急時とは、例えば、車両の衝突時、車両への衝撃事象の発生時、車両の転覆時などをいうが、これらに限られない。
【0045】
引込み装置30は、その全部又は大部分が、例えば、シートクッション112の側部、又は、車体の床面とシートクッション112との間に設けられる。シートクッション112の側部に設けられる場合、着座フレームの内側面に取り付けられて引き込み装置30の全部又は大部分がシートクッション112内に設けられてもよいし、あるいは、着座フレームの外側面に取り付けられて引き込み装置30の全部又は大部分がシートクッション112外に設けられてもよい。
【0046】
引込み装置30は、緊急時に、ラップアンカ24及びバックル28の少なくとも一方を引き込むことで、シートベルト10に張力を付与し、シートベルト10(ショルダーベルト12及びラップベルト14)による拘束力を高める。以下では、引込み装置30として、ラップアンカ24を引込み対象とし、また、既存のプリテンショナを適用した例を説明する。
【0047】
図2に示すように、引込み装置30は、複数の段階(ここでは二段階)の間でラップアンカ24の引き込み方向を変更して、ラップアンカ24を引き込むように構成されている。具体的には、第1の段階中は、ラップアンカ24は少なくとも下方に引き込まれ(参照:図2(a)及び(b))、次の段階である第2の段階中は、ランプアンカ24は少なくとも後方に引き込まれる(参照:図2(c)及び(d))。なお、引き込み方向を変更するとは、例えば、引き込む角度又は引き込む向きを変更することを含む。
【0048】
引込み装置30は、動力源31と、ピストンシリンダユニット33と、ワイヤ部材35とを有している。これらは、基本的に既存のプリテンショナの構造を用いることができる。
【0049】
動力源31は、ガスジェネレータであり、例えばマイクロガスジェネレータ(MGG)で構成することができる。動力源31は、例えば車両側ECUと電気的に接続されており、緊急時の状況を検知した信号を車両側ECUから受信して作動し、ガスを発生する。ピストンシリンダユニット33は、動力源31からのガス圧により作動するピストン37と、ピストン37を摺動可能に収容するシリンダ39と、を有している。動力源31は、ピストンシリンダユニット33に直接又は他の部材を介して取り付けられている。
【0050】
ワイヤ部材35は、ケーブル又は張力伝達部材などとも称される引き込み部材であり、ピストン37とラップアンカ24とを連結している。具体的には、ワイヤ部材35の一方の端部35aが、ピストン37に連結され、ワイヤ部材35の他方の端部35bが、ラップアンカ24のアンカー部24aに連結されている。ラップアンカ24のアンカー部24aは、ラップアンカ24の下端部を構成しており、シートベルト10の端部が固定される部分とは反対側に位置している。また、ラップアンカ24のアンカー部24aは、ワイヤ部材35よりも径方向に大きく構成されており、例えば、円柱状又は角柱状に形成されている。
【0051】
ワイヤ部材35は、一部がシリンダ39内に配置され、残りの部分がシリンダ39外に配置されている。ワイヤ部材35の中間部は、固定部40によって向きを変えられている。例えば、ワイヤ部材35は、ピストン37側の端部35aから後方に延在し、その後、固定部40によって略J字状に湾曲して上斜め前方へと延在している。そして、この上斜め前方へと延在した後、ワイヤ部材35は、後述するワイヤガイド51によって鉛直方向又はこれに近い方向に向きを変えられ、端部35bをラップアンカ24のアンカー部24aに連結している。固定部40は、例えば、車体の床面とシートクッション112との間の車体部分、又は、シートクッション112内の着座フレームの内側面又は外側面にピストンシリンダユニット33を固定する。なお、固定部40をプーリとして構成することも可能である。
【0052】
ワイヤ部材35は、緊急時、動力源31の作動により引き込まれる。具体的には、緊急時、動力源31が作動すると、発生したガスによりピストン37がシリンダ39内の奥に向かって移動する。これにより、ピストン37に連結されたワイヤ部材35が引き込まれる。このとき、ワイヤ部材35に連結されたラップアンカ24も引き込まれる。
【0053】
引込み装置30は、上述の構造に加えて、ワイヤガイド51と、ガイド部材53と、規制部材55と、をさらに有している。
【0054】
ワイヤガイド51は、緊急時の第1の段階中、引き込まれていくワイヤ部材35をガイドし(参照:図2(a)から図2(b))、第1の段階の最後にラップアンカ24に係合され(参照:図2(b))、第2の段階中、引き込まれていくワイヤ部材35及びラップアンカ24とともに移動させられる(参照:図2(b)から図2(d))。ガイド部材53は、第2の段階中に移動させられるワイヤガイド51をガイドする。規制部材55は、第1の段階中、ワイヤガイド51が移動することを規制する一方(参照:図2(a)から図2(b))、第1の段階から第2の段階に移行する際に、ワイヤガイド51の移動の規制を解除する(参照:図2(b)及び(c))。
【0055】
ガイド部材53は、ワイヤガイド51の下端部の近くに配置されている。ガイド部材53は、下斜め後方に移動するワイヤガイド51をガイド可能に構成されている。例えば、ガイド部材53は、上下二つのブロック部材53a、53bからなり、この二つのブロック部材53a、53bの間でワイヤガイド51の移動をガイドする。また、ガイド部材53は、移動する前のワイヤガイド51の下端部側を保持していてもよい。例えば、ガイド部材53の二つのブロック部材53a、53bの間にワイヤガイド51の下端部を挟持させ、それによりワイヤガイド51をガイド部材53に保持させてもよい。
【0056】
ガイド部材53は、車両構造の部分に固定されている。ある実施態様では、ガイド部材53は、車体の床面とシートクッション112との間の車体部分に固定される。別の実施態様では、ガイド部材53は、車両シート100の側部に一体又は別体に形成されたガイド部分に少なくとも部分的に据え付けられて配置される。一例を挙げると、例えば、ガイド部材53は、シートクッション112の側部に配置され、シートクッション112内の着座フレームの内側面又は外側面に取り付けられる。なお、動力源31、ピストンシリンダユニット33(ピストン37及びシリンダ39)及びワイヤガイド51の少なくとも一つ又は全部についても、車両シート100の側部に一体又は別体に形成されたガイド部分に少なくとも部分的に据え付けて配置してもよい。例えば、動力源31及びピストンシリンダユニット33の少なくとも一つを、シートクッション112の側部に配置し、シートクッション112内の着座フレームの内側面又は外側面に取り付けてもよい。
【0057】
規制部材55は、ガイド部材53に設けられている。例えば、規制部材55は、ガイド部材53の二つのブロック部材53a、53bの間で、そのどちらかに又は両方に取り付け又は形成されている。規制部材55は、ワイヤガイド51の下端部に対向して配置されており、緊急時の第1の段階中、ワイヤガイド51の下端部に当接することにより、ワイヤガイド51が下斜め後方に移動することを規制する(参照:図2(a)及び(b))。また、規制部材55は、緊急時における段階の移行時(すなわち第1の段階から第2の段階に移行する際)に、下斜め後方に移動させられるワイヤガイド51によって破壊され、ワイヤガイド51の移動の規制を解除するように構成されている(参照:図2(b)及び(c))。規制部材55は、そのような破壊可能なせん断部材で形成されている。
【0058】
他の実施態様では、規制部材55をガイド部材53に備え付けるのではなく、別の構造物に備え付けてもよい。例えば、車体の床面とシートクッション112との間の車体部分又は着座フレームに規制部材55を設けてもよい。また、別の実施態様では、せん断部材に代えて、規制部材55を機械的又は電気的に可動する構成を採用することも可能である。例えば、規制部材55にソレノイドを連結する。そして、緊急時の第1の段階の最後までは、ソレノイドを励磁して規制部材55をワイヤガイド51に当接させてその移動を規制し、第1の段階から第2の段階に移行する際に、ソレノイドを消磁して規制部材55をワイヤガイド51から退避させてワイヤガイド51の移動の規制を解除してもよい。ただし、規制部材55としてせん断部材を用いる方が、構造を簡素化することができる。
【0059】
ワイヤガイド51は、ラップアンカ24の引き込み方向を規定する。ワイヤガイド51は、例えば、第1の方向に延在する第1部分61と、第1の方向とは異なる第2の方向に延在する第2部分62と、第1部分61と第2部分62とをつなぐ移行部分63と、を有している。第2部分62は、第1部分61よりも長く延在している。移行部分63は、互いに方向/角度が異なる第1部分61と第2部分62とをつなぐために、湾曲している。
【0060】
ワイヤガイド51では、第1部分61が、緊急時の第1の段階におけるラップアンカ24の引き込み方向を規定し、第2部分62が、緊急時の第2の段階におけるラップアンカ24の引き込み方向を規定している。ここでは、第1部分61は、鉛直方向又は上端が鉛直方向に対して僅かに前方に傾斜する方向に延在している。第2部分62は、第1部分61とは異なる角度で、下斜め後方に延在している。例えば、第2部分62は、水平方向に対して45度で、斜め下方に延在している。なお、第1部分61及び第2部分62をどの方向にどれだけ傾斜させるかは、車両シート100の性状、車両の性能など様々な要因によって変わり得る。
【0061】
ワイヤガイド51は、第1部分61の上端に第1の端部71を、また、第2部分62の下端に第2の端部72を有している。図2(a)に示すように、第1の端部71は、ラップアンカ24と離間して配置される。この状態では、第1の端部71から上方に露出するように、ワイヤ部材35の、端部35bを含む連結側部分35cが延在する。第1の端部71は、緊急時の第1の段階の最後に、ラップアンカ24のアンカー部24aに係合されるようになっている(参照:図2(b))。また、図2(a)に示すように、第2の端部72は、ワイヤ部材35から外れた位置にて、規制部材55に対向して配置される。第2の端部72は、緊急時における段階の移行時(すなわち第1の段階から第2の段階に移行する際)に、ワイヤガイド51が斜め後方に移動させられることによって、規制部材55を破壊する(参照:図2(b)及び(c))。このように、ワイヤガイド51では、第1の端部71が、第1の段階の最後にラップアンカ24のアンカー部24aに係合される係合部を構成し、第2の端部72が、第1の段階から第2の段階に移行する際に規制部材55を破壊する破壊部を構成している。
【0062】
続いて、通常時及び緊急時の、引込み装置30の作用について、ワイヤガイド51及びラップアンカ24の作用を中心に説明する。
【0063】
図2(a)に示すように、通常時、ワイヤガイド51は、第2の端部72側がガイド部材53に保持された状態で配置され、ワイヤ部材35の初期位置/姿勢/角度を保持する。すなわち、ワイヤ部材35は、ピストンシリンダユニット33から露出した部分が、ワイヤガイド51の第1部分61、移行部分63及び第2部分62に沿って配置され、それにより当該部分の初期位置/姿勢/角度が保持される。なお、ワイヤガイド51の第1部分61から露出したワイヤ部材35の連結側部分35cは、角度をフレキシブルに変えることができる。したがって、ラップアンカ24は、角度をフレキシブルに変えることができる。
【0064】
図2(a)から図2(b)に示す、緊急時における第1の段階中、ワイヤガイド51は、引き込まれていくワイヤ部材35をガイドする。具体的には、ワイヤガイド51の第1部分61、移行部分63及び第2部分62が、ワイヤ部材35がこれらに沿って引き込まれていくように、ワイヤ部材35の移動をガイドする。このとき、ワイヤガイド51の移動は、規制部材55によって規制される。ワイヤ部材35が引き込まれることで、ワイヤ部材35の連結側部分35cに連結されたラップアンカ24も引き込まれる。ここでは、ラップアンカ24の引き込み方向は、ワイヤガイド51の第1部分61の延在方向、すなわち鉛直下方又は下斜め後方となる。
【0065】
図2(b)に示すように、ワイヤ部材35が所定の長さ分(すなわち、ワイヤガイド51の第1部分61から露出した連結側部分35cの長さ分)、引き込まれると、緊急時における第1の段階の終了時となる。この第1の段階の最後に、引き込まれたラップアンカ24のアンカー部24aが、ワイヤガイド51の第1部分61に係合(接触)する。
【0066】
図2(b)から図2(c)に示すように、緊急時における第1の段階から第2の段階に移行する際に、規制部材55が破壊され、ワイヤガイド51の移動の規制が解除される。これは、上述のとおり、ワイヤガイド51にラップアンカ24が係合した後に、ワイヤ部材35がさらに引き込まれると、ワイヤ部材35、ラップアンカ24及びワイヤガイド51が一体となって移動し、ワイヤ部材35から外れた位置にあるワイヤガイド51の第2の端部72が規制部材55をせん断するように破壊するからである。
【0067】
図2(c)に示す、緊急時における第2の段階中、ワイヤガイド51は、引き込まれていくワイヤ部材35及びラップアンカ24とともに移動させられる。このとき、ワイヤガイド51の移動が、ガイド部材53によってガイドされる。具体的には、ワイヤガイド51の第2部分62が、その延在方向に沿ってガイド部材53によってガイドされる。このときのラップアンカ24の引き込み方向は、ワイヤガイド51の第2部分62の延在方向、すなわち後方又は下斜め後方となる。
【0068】
図2(d)に示すように、ワイヤガイド51が所定の長さ分、移動すると、緊急時における第2の段階の終了時となる。例えば、ワイヤガイド51の移行部分63がガイド部材53に当接するまでワイヤガイド51が移動すると、第2の段階が終了する。なお、図示しないが、第2の段階の終了後に、ワイヤ部材35が引き込み方向と逆方向に移動することを防止する戻り防止機構を設けてもよい。このような戻り防止機構は、例えば、ピストンシリンダユニット33内に設けることができる。
【0069】
次に、図3を参照して、緊急時におけるシートベルト装置1の乗員200に対する作用について、ラップアンカ24及びラップベルト14の動きを中心に説明する。
【0070】
図3(a)から図3(b)に示すように、緊急時における第1の段階中、ラップアンカ24は、少なくとも下方(鉛直下方又は下斜め後方)に引き込まれる。すると、ラップベルト14が下方に引っ張られる。例えば、ラップベルト14は、図3(b)に示す第1の移動軌跡81に沿って下方に移動する。その結果、ラップベルト14が、乗員200の腹部の下側に、すなわち腸骨210の位置に下がる。
【0071】
図3(b)から図3(c)に示すように、緊急時における第2の段階中、ラップアンカ24は、少なくとも後方(後方又は下斜め後方)に引き込まれる。すると、ラップベルト14が後方に引っ張られる。例えば、ラップベルト14は、図3(c)に示す第2の移動軌跡82に沿って後方に移動する。その結果、ラップベルト14が、腸骨210にかかり、乗員200を後方のシートバック110へと押し付けるように、引っ張られる。このため、緊急時、車両前方へ移動しようとする乗員200は、腸骨210に掛け渡されたラップベルト14によって拘束され、ラップベルト14が乗員200の腹部に食い込むことが防止される。
【0072】
以上説明したとおり、本実施形態に係るシートベルト装置1は、シートベルト10と、緊急時に、シートベルト10の端部に連結されたラップアンカ24を引き込む引込み装置30と、を備え、引込み装置30は、第1の段階とその後の第2の段階とを含む複数の段階の間で、ラップアンカ24の引き込み方向を変更して、ラップアンカ24を引き込むように構成され、第1の段階中、ラップアンカ24は少なくとも下方に引き込まれ、第2の段階中、ラップアンカ24は少なくとも後方に引き込まれる。
【0073】
かかる態様によれば、緊急時に、まず、シートベルト10のラップベルト14を乗員200の腸骨210の位置に下げ、その後、腸骨210にかかるようにして乗員200を後方へと押し付けるように拘束することができる。したがって、緊急時に、乗員200の腹部への負担を軽減しながら、シートベルト10による乗員の拘束性能を向上することができる。とりわけ、このように引き込み方向を下方及び後方へと順次変更する構成は、シートベルト10の位置が乗員に対して相対的に上がりやすいサブマリン現象に対して効果的となる。
【0074】
また、本実施形態に係るシートベルト装置1によれば、ラップアンカ24の引き込み方向を変更する引込み装置30の構成を簡素化することができる。とりわけ、既存のプリテンショナ(いわゆるPLP:Pyrotechnical Lap Pretensioner)の構造に対して、ワイヤガイド51、ガイド部材53及び規制部材55を追加するだけで引込み装置30を構成することができる。
【0075】
次に、図4及び5を参照して、別の実施態様に係る引き込み装置30について説明する。この引き込み装置30は、図2に示す引き込み装置30のガイド部材53及び規制部材55とは異なるガイド部材(ブロック153及びカバー154)及び規制部材155を有している。その他の構成については、共通するところが多く、そのため、そのような構成については、図2の場合と同じ符号を付して説明を省略する。
【0076】
図4に示すように、ワイヤガイド51をガイドするガイド部材として、ブロック153及びカバー154が設けられている。ブロック153は、ピストンシリンダユニット33の後部に設けられている。ブロック153は、例えばダイキャストにより、ピストンシリンダユニット33のシリンダ39と一体に形成されている。ブロック153は、ワイヤガイド51をガイドするガイド面163を有している。ガイド面163は、下端側が後方に傾いた傾斜面として構成されている。
【0077】
カバー154は、ピストンシリンダユニット33のシリンダ39とは別体に形成されている。カバー154は、例えば、ブロック153及びワイヤガイド51の下部を略C字状に覆うように、ピストンシリンダユニット33に取り付けられている。カバー154には、ブロック153のガイド面163と対向するガイド面164が形成されている。ガイド面164は、ガイド面163と同様に傾斜面として構成されており、ワイヤガイド51が、ガイド面163、164に挟まれてガイドされるようになっている。
【0078】
ブロック153のガイド面163と同じ面には、規制部材155が突出形成されている。規制部材155は、上記の規制部材55と同様に、せん断部位として構成されており、緊急時における段階の移行時(すなわち第1の段階から第2の段階に移行する際)に破壊される。規制部材155は、ピン状に形成されており、カバー154のガイド面164に当接している。規制部材155には、ワイヤガイド51の第2の端部72に設けられた破壊部170が対向している。破壊部170は、第2の端部72から規制部材155に向かって延びた部位であり、ガイド面163、164の間に位置している。なお、破壊部170は、規制部材155に対向している際、規制部材155に接触していてもよい。かかる接触により、ガイド部材(ブロック153及びカバー154)が規制部材155とともに、ワイヤガイド51の第2の端部72側を保持してもよい。
【0079】
なお、ワイヤガイド51は、図2の場合と同様に、第1部分61、第2部分62及び移行部分63を有している。ただし、ここでは、第2部分62は、第1部分61及び移行部分63とは別体に形成されている。例えば、第1部分61と移行部分63とは、筒状部材により一体形成され、第2部分62は、この筒状部材の一端に固定された円弧状の部材により形成される。
【0080】
規制部材155は、上記の規制部材55と同様に機能する。具体的には、規制部材155は、緊急時の第1の段階中、ワイヤガイド51の破壊部170に当接することにより、ワイヤガイド51が下斜め後方に移動することを規制する(参照:図6(a)及び(b))。また、規制部材155は、緊急時における段階の移行時(すなわち第1の段階から第2の段階に移行する際)に、下斜め後方に移動させられるワイヤガイド51の破壊部170からの荷重を受ける。これにより、規制部材155は、破壊部170によって破壊され、ワイヤガイド51の移動の規制を解除する(参照:図6(b)及び(c))。
【0081】
そして、規制を解除されたワイヤガイド51の移動が、ガイド面163、164によってガイドされる。最終的に、図6(d)に示すように、ワイヤガイド51が所定の長さ分、移動すると、緊急時における第2の段階の終了時となる。例えば、ワイヤガイド51の移行部分63がカバー154に当接するまでワイヤガイド51が移動すると、第2の段階が終了する。このように、図4及び5に示す引き込み装置30によっても、上記同様に、緊急時に、乗員の腹部への負担を軽減しながら、シートベルト10による乗員の拘束性能を向上することが可能である。
【0082】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0083】
例えば、引込み装置30は、緊急時に、三段階を超える複数の段階の間で、ラップアンカ24の引き込み方向を変更してもよい。この場合、例えば、ワイヤガイド51として、第2部分62に直接又は移行部を介してつながる第3部分を設けたものを用い、第3の段階におけるラップアンカ24の引き込み方向を規定すればよい。
【0084】
また、ワイヤガイド51として、第1の方向に直線的に延在する第1部分61と、第2の方向に直線的に延在する第2部分62と、曲線的に延在する移行部分63と、を含むものを用いたが、これに限られない。例えば、第1部分61及び第2部分62の少なくとも一方が曲線的に延在するものであってもよいし、移行部分63を省略してもよい。一例を挙げると、第1部分61を湾曲させて、第1の段階におけるラップアンカ24の引き込みの軌跡が曲線的なものとなるようにしてもよいし、及び/又は、第2部分62を湾曲させて、第2の段階におけるラップアンカ24の引き込みの軌跡が曲線的なものとなるようにしてもよい。
【0085】
換言すると、ワイヤガイド51の側面視の形状は、くの字、複数の円弧、多関節など、各種形状を採用し得る。緊急時における第1の段階においてラップアンカ24が少なくとも下方に引き込まれ、かつ、第2の段階においてラップアンカ24が少なくとも後方に引き込まれるように構成する限り、車両シート100の性状、車両の性能など様々な要因を考慮して、ワイヤガイド51の形状を設計すればよい。
【0086】
なお、第1の段階における引き込み方向の「少なくとも下方」とは、引き込み方向が下方に指向されている限り、別の方向、例えば前方又は後方を含んでもよいことは言うまでもない。同様に、第2の段階における引き込み方向の「少なくとも後方」とは、引き込み方向が後方に指向されている限り、別の方向、例えば上方又は下方を含んでもよいことは言うまでもない。また、第1の段階及び第2の段階における各引き込みの軌跡についても、直線、曲線又はその組み合わせを含み得ることも言うまでもない。
【0087】
また、ワイヤガイド51は、引き込み時の荷重に耐えられる限り、各種の材質及び形状を採用することができる。例えば、ワイヤガイド51は、樹脂又は金属で形成することができる。また、ワイヤガイド51は、板材又は剛性のあるチューブ状部材とすることができる。そして、そのチューブ状部材の断面形状についても、円形、半円形など、任意に設計することができる。例えば、図2に示すように、ワイヤガイド51の構成部分のうち、第1部分61及び移行部分63を断面円形とし、第2部分62を断面半円形とすることができる。
【0088】
さらに、引込み装置30は、緊急時における複数の段階の間で、ラップアンカ24の引き込み速度をコントロールするように構成されてもよい。例えば、第2の段階では、第1の段階よりもラップアンカ24の引き込み速度を低下させるようにしてもよい。こうすることで、緊急時に、まずラップベルト14を乗員200の腸骨210の位置に迅速に下げることができると共に、その後にラップベルト14で腸骨210を介して乗員200を後方へと押し付ける際にその押し付け力が過度にならないようにすることができる。このような引き込み速度のコントロールは、例えば、ワイヤガイド51の各部の形状や材質を調整することで可能である。
【0089】
また、緊急時における第1の段階においてラップアンカ24が少なくとも下方に引き込まれ、かつ、第2の段階においてラップアンカ24が少なくとも後方に引き込まれるようにする構成は、上記のとおり、第2の段階においてラップアンカ24を下斜め後方(下方かつ後方)へ引き込むことを排除するものではない。ただし、この場合、第1の段階における引き込み方向は、第2の段階における引き込み方向よりも鉛直方向に近いものとなる。
【0090】
さらに、図6に示すように、シートベルト装置1は、ラップアンカ24を引込み対象とした上記の引込み装置30(第1の引込み装置)に加え、バックル28を引込み対象とした第2の引込み装置300を備えてもよい。第2の引込み装置300は、第1の引込み装置30と同様に構成することができ、緊急時における複数の段階の間で、バックル28の引き込み方向を変更して、バックル28を引き込む。詳細は省略するが、第2の引込み装置300は、第1の引込み装置30と同様に、動力源、ピストンシリンダユニット、ワイヤ部材、ワイヤガイド、ガイド部材及び規制部材を具備し、ワイヤ部材がバックル28に連結される。すなわち、第2の引込み装置300は、バックル用の既存のプリテンショナ(いわゆるPBP:Pyrotechnical Buckle Pretensioner)の構造に対して、上述のワイヤガイド51、ガイド部材53及び規制部材55と同様の構成を追加したものとして構成することができる。
【0091】
また、シートベルト装置1は、緊急時に、2つの引込み装置30、300を同期させる制御部310を備えてもよい。制御部310は、例えば、車両側ECUで構成することができる。制御部310は、例えば、緊急時に、2つの引込み装置30、300の動力源31をそれぞれ同タイミングで作動させ、ラップアンカ24及びバックル28を同様に引き込むようにする。こうすることで、ラップベルト14の両側を、引き込み方向を変更しながら同様に引き込むことができるので、緊急時の乗員の拘束性能をより一層向上することが可能となる。
【0092】
なお、引込み装置30、300の動力源31は、ガスジェネレータに限られず、電気や磁気を用いたものを利用することも可能である。ただし、ガスジェネレータを用いることで、既存のプリテンショナの構造を有効活用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1…シートベルト装置、10…シートベルト、12…ショルダーベルト、14…ラップベルト、20…上部アンカ、22…タング、24…ラップアンカ、24…アンカー部、26…ループ部分、28…バックル、30…引込み装置、31…動力源、33…シリンダユニット、35…ワイヤ部材、35a、35b…端部、35c…連結側部分、37…ピストン、39…シリンダ、40…固定部、51…ワイヤガイド、53…ガイド部材、53a、53b…ブロック部材、55…規制部材、61…第1部分、62…第2部分、63…移行部分、71…第1の端部(係合部)、72…第2の端部(破壊部)、81…第1の移動軌跡、82…第2の移動軌跡、100…車両シート、110…シートバック、112…シートクッション(座部)、114…ヘッドレスト、153…ブロック(ガイド部材)、154…カバー(ブロック部材)、155…規制部材、163、164…ガイド面、170…破壊部、200…乗員、210…腸骨、300…第2の引込み装置、310…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6