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特許7145947硫化モリブデンまたは硫化タングステンから作製された担持型光触媒を用いる二酸化炭素の光触媒還元の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】硫化モリブデンまたは硫化タングステンから作製された担持型光触媒を用いる二酸化炭素の光触媒還元の方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20220926BHJP
   B01J 27/047 20060101ALI20220926BHJP
   B01J 37/20 20060101ALI20220926BHJP
   C07C 9/04 20060101ALN20220926BHJP
   C07C 1/02 20060101ALN20220926BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J27/047 Z
B01J37/20
C07C9/04
C07C1/02
C07B61/00 300
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020526098
(86)(22)【出願日】2018-11-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 EP2018080513
(87)【国際公開番号】W WO2019096657
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】1760718
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】フェカン アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ボンデュエル-スクリュプチャク オドレイ
(72)【発明者】
【氏名】アトウィ ラニン
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/050345(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0251786(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0174906(US,A1)
【文献】特表2015-531731(JP,A)
【文献】特開2012-161704(JP,A)
【文献】TU, Wenguang et al.,Construction of unique two-dimensional MoS2-TiO2 hybrid nanojunctions: MoS2 as a promising cost-effective cocatalyst woward improved photocatalytic reduction of CO2 to methanol,Nanoscale,英国,The Royal Society of Chemistry,2017年06月02日,Vol. 9,pp. 9065-9070,DOI: 10.1039/c7nr03283b
【文献】ZHANG, Wei et al.,MoS3 loaded TiO2 nanoplates for photocatalytic water and carbon dioxide reduction,J. Energy Chem.,中国,Science Press and Dalian Institute of Chemical Physics,2016年01月14日,Vol. 25,pp. 500-506,DOI: 10.1016/j.jechem.2016.01.016
【文献】JAMES, Derak et al.,Photocatalytic properties of free and oxide-supported MoS2 and WS2 nanoparticles synthesized without surfactants,J. Photochem. Photobiol. A,NL,Elsevier B.V.,2013年04月29日,Vol. 262,pp. 45-51,DOI: 10.1016/j.jphotochem.2013.04.015
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素の光触媒還元の方法であって、液相中および/または気相中、光照射下に、光触媒を用いて行い、該光触媒は、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、2.3eVより大きいバンドギャップを有している硫化モリブデンまたは硫化タングステンのナノ粒子とを含み、以下の工程:
a) 二酸化炭素を含有している供給原料および少なくとも1種の犠牲化合物を、前記光触媒と接触させる工程、
b) 前記光触媒のバンドギャップより小さい少なくとも1種の波長を生じさせる少なくとも1種の光照射源により前記光触媒に光照射して、前記光照射源によって活性にされた前記光触媒の存在中で二酸化炭素を還元しかつ犠牲化合物を酸化し、少なくとも一部において、CO以外のC1以上の炭素ベースの分子を含有している流出物を生じさせるようにする、工程
を含む、方法。
【請求項2】
気相中で行う場合に、犠牲化合物は、水、アンモニア、水素、メタンおよびアルコールから選択される気体状の化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
液相中で行う場合に、犠牲化合物は、水、アンモニア水、アルコール、アルデヒドおよびアミンから選択される液状の化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
工程a)および/またはb)において希釈流体が存在する、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
光照射源は、人工または自然の光照射源である、請求項1~4のいずか1つに記載の方法。
【請求項6】
光照射源は、280nmより大きい範囲の少なくとも1種の波長の光を発する、請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
細孔性担体は、4eVより大きいエネルギーの光子を吸収しない、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
光触媒の硫化モリブデンまたは硫化タングステンの含有率は、光触媒の全重量に対して4~50重量%である、請求項1~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
担体の単位表面積当たりの沈着させられた、モリブデンMo原子またはタングステンW原子の量に対応する表面密度は、担体の平方ナノメートル当たりMoまたはW0.5~12原子である、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つに記載の方法であって、光触媒は、以下の連続的な工程:
i) 有機溶媒Aと、MoまたはWをベースとする、Mと表される、それらのモノマーまたはダイマーの形態にある少なくとも1種の単核性の前駆体とを含む溶液を、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と接触させることによる含浸の工程であって、該単核性の前駆体は、少なくとも1個のM=OまたはM-ORまたは少なくとも1個のM=SまたはM-SRの結合を有しており、R=C、x≧1および(x-1)≦y≦(2x+1)であり、有利には、真空下または不活性ガス流下に事前に焼成して、前記担体上に物理吸着されていることもある水を除去する、工程、
ii) 熟成工程、
iii) 含浸済みの担体を、200℃以下の温度で、無水雰囲気下または真空下または不活性ガス流下に乾燥させる工程、
iv) 硫化工程
を含む方法により調製される、方法
【請求項11】
モリブデン前駆体を、以下の化合物:Mo(OEt)、Mo(OEt)、Mo(=O)(OEt)、Mo(=S)(OEt)、Mo(=S)(SEt)、Mo(=O)(OEt)、Mo(OC、Mo(SEt)、Mo(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(=O)(OEt)(acac)から選択し、Et=CHCH(エチル基)であり、acac=(CHCOCHCOCH)-(アセチルアセトナート)であり、それらのモノマーまたはダイマーの形態にある、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
タングステン前駆体を、以下の化合物:W(OEt)、W(OEt)、W(=O)(OEt)、W(=S)(OEt)、W(=S)(SEt)、W(=O)(OEt)、W(OC、W(SEt)、W(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(=O)(OEt)(acac)から選択し、Et=CHCH(エチル基)であり、acac=(CHCOCHCOCH)-(アセチルアセトナート)であり、それらのモノマーまたはダイマーの形態にある、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、光触媒を用いることによる光照射下の二酸化炭素(CO)の光触媒還元の分野である。
【背景技術】
【0002】
化石燃料、例えば、石炭、石油および天然ガスは、それらの利用可能性、安定性および高いエネルギー密度に起因して世界中の主要な従来からのエネルギー源である。しかしながら、それらの燃焼は、二酸化炭素の放出を生じさせ、これらは、地球の温暖化の主要な原因であると考えられている。それ故に、前記COを捕捉するかまたはそれを転化するかのいずれかによって、COの放出を低減させる必要性が大きくなってきている。
【0003】
「受動的な(passive)」炭素の捕捉および隔離(carbon capture and sequestration:CCS)は、一般的に、COの放出を低減させるための有効な方法であると考えられるが、他の戦略、特に、COを経済的な価値を有する生成物、例えば、燃料および工業的化学製品に転化するための「能動的な(active)」戦略が想定され得る。
【0004】
このような能動的な戦略は、二酸化炭素を、利用可能な生成物に還元することに基づいている。二酸化炭素の還元は、生物学的に、熱的に、電気化学的に、あるいは、光触媒的に行われ得る。
【0005】
これらの選択肢の中で、COの光触媒還元がますます大きくなる注目を得ているのは、それが、代替のエネルギー形態を、例えば、太陽光エネルギーを動力化することによって、潜在的に消費することができるからであり、この太陽光エネルギーは、豊富であり、安く、かつ、環境的にクリーンで安全である。
【0006】
二酸化炭素の光触媒還元により、C1以上の炭素ベースの分子、例えば、CO、メタン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸、あるいは、他の分子、例えば、カルボン酸、アルデヒド、ケトンまたは種々のアルコールを得ることが可能となる。これらの分子、例えば、メタノール、エタノール、ギ酸、あるいは、メタンおよび全てのC 炭化水素は、エネルギーの見地から直接的に有用であり得る。一酸化炭素COも、エネルギーの見地から、水素との混合物として、フィッシャー・トロプシュ合成による燃料の形成のために利用され得る。カルボン酸、アルデヒド、ケトンまたは種々のアルコールの分子は、それらの一部について、化学的または石油化学的な方法において適用を見出すことができる。全てのこれらの分子は、したがって、工業的な観点から大きな興味のものである。
【0007】
二酸化炭素の光触媒還元には、半導体を使用することが必要となる。これらの半導体は、光子を吸収しかつ酸化還元反応を開始することができる。半導体は、それのバンドギャップによって特徴付けられる。バンドギャップは、物質の価電子帯と伝導帯との間のエネルギー差に相当する。それのバンドギャップより大きいエネルギーのあらゆる光子は、半導体によって吸収され得る。それのバンドギャップより低いエネルギーのあらゆる光子は、半導体によって吸収され得ない。
【0008】
さらに、粒子の形態にある半導体のバンドギャップは、これらの粒子のサイズに応じて変動することが当業者に知られている。半導体のバンドギャップは、ナノ粒子のサイズについて大きくなり、ナノ粒子のサイズは、一つのナノメートルスケールに従って小さくなる。この既知の物理的な現象は、量子サイズ効果と呼ばれる。
【0009】
硫化されたモリブデン相を含有している光触媒の存在中の二酸化炭素の光触媒還元のための方法が従来技術において知られている。
【0010】
Tuら(非特許文献1)は、MoS-TiOハイブリッド化合物を、COのメタノールへの光触媒還元のために提案している。しかしながら、硫化されたモリブデン相は、共触媒の役割を果たし、この材料の低いバンドギャップに起因してCOの還元を可能にする光子の吸収に関与しない。TiOのみが半導体のこの役割を果たし、それ故に、紫外線の範囲においてのみ光子の吸収を伴う。
【0011】
Zangら(非特許文献2)は、それらの一部について、MoS-TiOをベースとするハイブリッド固体を提案している。ここでも、硫化されたモリブデン相は、共触媒の役割を果たしており、この材料の低いバンドギャップに起因してCOの還元に有効である光子を吸収することはできない;紫外線の範囲において光子を吸収することのみの再度の強制によるこの役割を果たしているのは、再度、TiOである。
【0012】
他方、塊状硫化モリブデンのバンドギャップより大きいバンドギャップを有している硫化モリブデンのナノ粒子が、従来技術から知られている。
【0013】
実際に、Wilcoxonら(非特許文献3)は、10nmより大きいサイズのMoSナノ粒子のバンドギャップは、2.25eVよりはるかに低いために、平均ナノ粒子サイズが4nmであり、2.25eVのバンドギャップを有しているMoSナノ粒子のコロイド懸濁液の合成を提案している。これらの硫化されたモリブデンのナノ粒子は、有機化合物の光補助酸化において用いられてきた。それにも拘わらず、コロイド懸濁液は、安定性の課題と、高い製造コストの問題とに悩まされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】Tuら著、“Nanoscale”、2017年、第9巻、第26号、p.9065-9070
【文献】Zangら著、“Journal of Energy Chemistry”、2016年、第25巻、第3号、p.500-506
【文献】Wilcoxonら著、“The Journal of physical Chemistry B”、1999年、第103巻、p.11-17
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
(発明の主題)
本発明の目的は、新しく、持続可能な、かつ、より有効な、利用可能な炭素ベースの分子を生じさせる方法であって、電磁気エネルギーによって、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、2.3eVより大きいバンドギャップを有している硫化モリブデンまたは硫化タングステンのナノ粒子とを含んでいる光触媒を用いて、二酸化炭素を光触媒転化することによる方法を提供することにある。COの光触媒還元のためのこのタイプの光触媒を使用することにより、この反応のために知られている光触媒と比較して改善された性能品質を達成することが可能となる。
【0016】
より詳細には、本発明は、二酸化炭素の光触媒還元の方法であって、液相中および/または気相中、光照射下に、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、2.3eVより大きいバンドギャップを有している硫化モリブデンまたは硫化タングステンのナノ粒子とを含んでいる光触媒を用いて行い、以下の工程:
a) 二酸化炭素を含有している供給原料および少なくとも1種の犠牲化合物を前記光触媒と接触させる工程、
b) 前記光触媒のバンドギャップより小さい少なくとも1つの波長を生じさせる少なくとも1種の光照射源をこの光触媒に光照射して、前記光照射源によって活性にされた前記光触媒の存在中で二酸化炭素を還元しかつ犠牲化合物を酸化し、少なくとも一部で、CO以外のC1以上の炭素ベースの分子を含有している流出物を生じさせるようにする工程
を含む、方法を記載する。
【0017】
2.3eVより大きいバンドギャップを有している硫化モリブデンまたは硫化タングステンのナノ粒子は、有利には、太陽光照射の可視スペクトルの部分を吸収する一方で、適切なバンドレベルによって二酸化炭素の還元を可能にし、このことは、2.3eV未満のバンドギャップを有しているより大きなナノ粒子の形態にあるモリブデンまたはタングステンの硫化物相を許容しない。それ故に、前記光触媒をCOの光触媒還元のために使用することにより、太陽光スペクトルの可視部分を利用することが可能となる。それは、(TiOタイプの従来の光触媒についての400nmと比べて)620nm未満の波長の全ての光子を吸収することができるからである。
【0018】
さらに、これらの担持型ナノ粒子が有している利点は、コロイド懸濁液に対するより良好な安定性である。
【0019】
一つの変形例によると、本方法が気相中で行われる場合、犠牲化合物は、水、アンモニア、水素、メタンおよびアルコールから選択される気体化合物である。
【0020】
一つの変形例によると、本方法が液相中で行われる場合、犠牲化合物は、水、アンモニア水、アルコール、アルデヒドまたはアミンから選択される液体化合物である。
【0021】
一つの変形例によると、工程a)および/またはb)において希釈流体が存在する。
【0022】
一つの変形例によると、光照射源は、人工または自然の光照射源である。一つの変形例によると、光照射源は、280nmより大きい範囲の少なくとも1つの波長の光を発する。
【0023】
一つの変形例によると、多孔質担体は、4eVより大きいエネルギーの光子を吸収しない。
【0024】
一つの変形例によると、光触媒の硫化モリブデンまたは硫化タングステンの含有率は、光触媒の全重量に対して4~50重量%である。
【0025】
一つの変形例によると、担体の単位表面積当たりの沈着したモリブデンMo原子またはタングステンW原子の量に相当する表面密度は、担体の平方ナノメートル当たりMoまたはW0.5~12原子である。
【0026】
一つの変形例によると、光触媒の調製は、以下の連続的な工程:
i) 有機溶媒Aと、MoまたはWをベースとし、Mで表され、それらのモノマーまたはダイマーの形態にある、少なくとも1種の単核性の前駆体とを含んでいる溶液を、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と接触させることによる含浸の工程であって、前記単核性の前駆体は、少なくとも1個のM=OまたはM-OR結合または少なくとも1個のM=SまたはM-SR結合を有し、R=Cであり、x≧1および(x-1)≦y≦(2x+1)であり、有利には、真空下にまたは不活性ガス流下に、事前に焼成して、前記担体上に物理吸着されることもある水を除去する、工程、
ii) 熟成工程、
iii) 含浸済みの担体を、200℃以下の温度で、無水雰囲気下にまたは真空下にまたは不活性ガス流下に乾燥させる工程、
iv) 硫化工程
を含む、方法により行われる。
【0027】
この変形例によると、モリブデン前駆体は、以下の化合物:Mo(OEt)、Mo(OEt)、Mo(=O)(OEt)、Mo(=S)(OEt)、Mo(=S)(SEt)、Mo(=O)(OEt)、Mo(OC、Mo(SEt)、Mo(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(=O)(OEt)(acac)から選択され、Et=CHCH(エチル基)であり、acac=(CHCOCHCOCH)-(アセチルアセトナート)であり、それらのモノマーまたはダイマーの形態にある。
【0028】
この変形例によると、タングステン前駆体は、以下の化合物:W(OEt)、W(OEt)、W(=O)(OEt)、W(=S)(OEt)、W(=S)(SEt)、W(=O)(OEt)、W(OC、W(SEt)、W(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(=O)(OEt)(acac)から選択され、Et=CHCH(エチル基)であり、acac=(CHCOCHCOCH)-(アセチルアセトナート)であり、それらのモノマーまたはダイマーの形態にある。
【0029】
以降において、化学元素の族は、CAS分類に従って与えられる(CRC Handbook of Chemistry and Physics, 出版元CRC Press, 編集主任 D.R. Lide, 第81版, 2000-2001)。例えば、CAS分類による第VIII族は、新IUPAC分類による8、9および10族の金属に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(発明の詳細な説明)
光触媒作用がベースとする原理は、本発明による方法において用いられる1種のまたは一式の半導体、例えば、光触媒の活性化であり、光照射によって提供されるエネルギーを用いるものである。光触媒作用は、光子の吸収であって、そのエネルギーは、価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップ以上であり、半導体中に電子正孔対の形成を誘導するものとして定義され得る。したがって、伝導帯のレベルにおける電子の励起と、価電子帯上の正孔の形成とがある。この電子正孔対により、フリーラジカルの形成が可能とされることになり、このフリーラジカルは、種々の機構により媒体中に存在する化合物と反応するか、あるいは、再結合するかのいずれかになる。各半導体は、それの伝導帯とそれの価電子帯との間でエネルギー差、すなわち、「バンドギャップ(bandgap)」を有しており、これは、それに特有である。
【0031】
1種または複数種の半導体からなる光触媒は、少なくとも1種の光子の吸収によって活性にされ得る。吸収可能な光子は、エネルギーが半導体のバンドギャップより大きいものである。換言すると、光触媒は、光触媒を構成する半導体のバンドギャップに関連するエネルギーに対応する波長またはより低い波長を有する少なくとも1種の光子によって活性にされ得る。半導体によって吸収可能な最大波長は、以下の式を用いて計算される:
【0032】
【数1】
【0033】
式中、λmaxは、半導体によって吸収可能な最大波長(m)であり、hは、プランク定数(4.13433559×10-15eV・s)であり、cは、真空下の光の速度(299,792,458m・s-1)であり、Egは、半導体のバンドギャップ(eV)である。
【0034】
半導体材料のバンドギャップの値の測定は、Tauc法(J. Tauc, R. Grigorovici,およびA. Vancu, Phys. Status Solidi, 1966, 15, p 627;J. Tauc,“Optical Properties of Solids”, F. Abeles ed., North-Holland, 1972;E. A. DavisおよびN. F. Mott, Philos. Mag., 1970, 22 p 903)によって記載された拡散反射吸収分光法(diffuse reflection absorption spectroscopy)によって行われる。
【0035】
本発明は、二酸化炭素を光触媒還元する方法であって、液相中および/または気相中、光照射下に、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとする担体と、2.3eVより大きいバンドギャップを有している硫化モリブデンまたは硫化タングステンのナノ粒子とを含んでいる光触媒を用いて行われ、以下の工程:
a) 二酸化炭素を含有している供給原料および少なくとも1種の犠牲化合物を、前記光触媒と接触させる工程;
b) 前記光触媒のバンドギャップより小さい少なくとも1つの波長を生じさせる少なくとも1種の光照射源を前記光触媒に光照射して、前記光照射源によって活性にされた前記光触媒の存在中で二酸化炭素を還元しかつ犠牲化合物を酸化して、少なくとも一部において、CO以外のC1以上の炭素ベースの分子を含有している流出物を生じさせるようにする工程
を含む、方法を記載する。
【0036】
(方法の工程a))
本発明による方法の工程a)によると、前記二酸化炭素を含有している供給原料および少なくとも1種の犠牲化合物は、前記光触媒と接触させられる。
【0037】
用語「犠牲化合物(sacrificial compound)」は、酸化可能な化合物を意味するものとされる。犠牲化合物は、気体または液体の形態にあってよい。
【0038】
用語「C1以上の炭素ベースの分子(C1 or above carbon-based molecules)」は、COの還元に由来する、COを除く1種または複数種の炭素原子を含有している分子を意味するものとされる。そのような分子は、例えば、CO、メタン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、ギ酸、あるいは、他の分子、例えば、炭化水素、カルボン酸、アルデヒド、ケトンまたは種々のアルコールである。
【0039】
本発明による方法は、液相中および/または気相中で行われ得る。
【0040】
本方法により処理される供給原料は、気体状、液体状または気体と液体の2相状の形態にある。
【0041】
供給原料が気体状の形態にある場合、COは、それの気体状の形態で、全ての気体状の犠牲化合物の存在中で、単独でまたは混合物として存在する。気体状の犠牲化合物は、酸化可能な化合物、例えば、水(HO)、水素(H)、メタン(CH)、あるいはアルコールである。好ましくは、気体状の犠牲化合物は、水または水素である。供給原料が気体状の形態にある場合、COおよび犠牲化合物は、気体状の希釈流体、例えば、NまたはArによって希釈され得る。
【0042】
供給原料が液体状の形態にある場合、それは、有機性または水性のイオン液の形態にあり得る。液体状の形態にある供給原料は、好ましくは水性にある。水性の媒体中、COは、次いで、水性カルボン酸(HCO)、炭酸水素塩または炭酸塩の形態で溶解させられる。犠牲化合物は、液体の酸化可能な化合物であり、液体供給原料中、例えば、水(HO)、アルコール、アルデヒド、アミンまたはアンモニア水中の固体の可溶化によって得られるものであってよい。好ましくは、犠牲化合物は、水である。液体の供給原料が水溶液である場合、pHは、一般的には1~9、好ましくは2~7である。場合によっては、水性供給原料のpHを調節するために、塩基性または酸性の剤が、供給原料に加えられ得る。塩基性の剤が導入される場合、それは、好ましくは、アルカリまたはアルカリ土類の金属水酸化物、または、有機塩基、例えば、アミンまたはアンモニア水から選択される。酸性の剤が導入される場合、それは、好ましくは、無機酸、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、塩酸または臭化水素酸、または有機酸、例えば、カルボン酸またはスルホン酸から選択される。
【0043】
場合によっては、液体の供給原料が水性である場合、それは、あらゆる量で、あらゆる溶媒和イオン、例えば、K、Li、Na、Ca2+、Mg2+、SO 2-、Cl、F、NO 2-を含有し得る。
【0044】
液相中または気相中で本方法が行われる場合、希釈流体は、それぞれ、液体または気体状であり、この希釈流体は、反応媒体中に存在してよい。希釈流体の存在は、本発明の実施のためには必要とはされない;しかしながら、媒体中の供給原料の分散、光触媒の分散、光触媒の表面における試薬/生成物の吸着の制御、光触媒による光子の吸収についての制御、それらの再結合および同一タイプの他の寄生的反応を制限するための生成物の希釈を保証するために供給原料にそれを加えることは、有用であってよい。希釈流体の存在により、反応媒体の温度を制御することも可能とされ、それ故に、これは、光触媒反応の考えられる発熱性/吸熱性を補填することができる。希釈流体の性質は、それの影響が反応媒体に中立であるようにまたはそれの考えられる反応が、所望の二酸化炭素還元の実施に害しないように選択される。例として、窒素またはアルゴンが、気体状の希釈流体として選択され得る。
【0045】
二酸化炭素を含有している供給原料を光触媒と接触させることは、当業者に知られているあらゆる手段によって行われ得る。好ましくは、二酸化炭素供給原料を光触媒と接触させることは、フロースルー固定床(flow-through fixed bed)またはスイープ式固定床(swept fixed bed)において行われる。
【0046】
フロースルー固定床において実施がなされる場合、前記光触媒は、反応器内に優先的に固定され、気体状および/または液体状の形態に転化されるべき二酸化炭素を含有している供給原料は、光触媒床中に送られる。
【0047】
スイープ式固定床において実施がなされる場合、前記光触媒は、反応器内に優先的に固定され、気体状および/または液体状の形態に転化されるべき二酸化炭素を含有している供給原料は、光触媒床上に送られる。
【0048】
固定床またはスイープ式床において実施がなされる場合、その実施は、連続的に行われ得る。
【0049】
本発明による光触媒法が用いる光触媒は、担体と、2.3eVより大きいバンドギャップを有している硫化モリブデンまたは硫化タングステンのナノ粒子とを含んでいる。
【0050】
光触媒の硫化モリブデンまたは硫化タングステンの含有率は、光触媒の全重量に対して4~50重量%、好ましくは5~25重量%である。
【0051】
担体の単位表面積当たりの沈着したモリブデンMo原子またはタングステンW原子の量に対応する表面密度は、有利には担体の平方ナノメートル当たりMoまたはW0.5~12原子、好ましくは担体の平方ナノメートル当たりMoまたはW1~7原子である。
【0052】
本発明による光触媒が含む担体は、アルミナまたはシリカまたはシリカ-アルミナをベースとしている。一つの変形例によると、多孔質担体は、4eVより大きいエネルギーの光子を吸収しない。
【0053】
前記触媒の担体が、アルミナをベースとする場合、それは、50%超のアルミナを含有し、一般的には、それは、アルミナのみまたは下記に定義されるシリカ-アルミナを含有する。
【0054】
別の好ましい場合、前記触媒の担体は、最低50重量%のアルミナを含有しているシリカ-アルミナである。担体中のシリカの含有率は、最高50重量%、通常45重量%以下、好ましくは40重量%以下である。
【0055】
前記触媒の担体がシリカをベースとする場合、それは、50重量%超のシリカを含有し、一般的には、それは、シリカのみを含有する。
【0056】
一つの特に好ましい変形例によると、担体は、アルミナ、シリカまたはシリカ-アルミナからなる。
【0057】
好ましくは、担体は、アルミナをベースとし、特に好ましくは、担体は、アルミナからなる。
【0058】
アルミナは、遷移アルミナ、例えば、アルファ相アルミナ、デルタ相アルミナ、ガンマ相アルミナまたはこれらの異なる相のアルミナの混合物であり得る。
【0059】
一つの変形例によると、担体が有する(S.Brunauer, P.H.Emmett, E.Teller, J. Am. Chem. Soc., 1938, 60 (2), pp 309-319において規定されたBrunauer, Emmett, Teller法、すなわち、BET法から確立された規格ASTM D 3663-78に従って測定される)比表面積は、10~1000m/g、好ましくは50~600m/gである。
【0060】
担体と、2.3eVより大きいバンドギャップを有している硫化モリブデンまたは硫化タングステンのナノ粒子とを含んでいる光触媒は、FR 3 004 967(Moについて)およびFR 3 004 968(Wについて)の文献に記載された方法によって調製され、以下の連続的な工程:
i) 有機溶媒Aと、MoまたはWをベースとする、Mと表記される少なくとも1種の単核性前駆体とを含んでいる溶液を、多孔質担体と接触させることによる含浸の工程であって、該単核性前駆体は、それらのモノマーまたはダイマーの形態にあり、少なくとも1個のM=OまたはM-OR結合または少なくとも1個のM=SまたはM-SR結合を有し、R=C、x≧1および(x-1)≦y≦(2x+1)であり、該多孔質担体は、有利には、前記担体上に物理吸着されることもある水を除去するために真空下または不活性ガス流下に事前に焼成されたものである、工程、
ii) 熟成工程、
iii) 含浸済み担体を、200℃以下の温度で、無水雰囲気下または真空下または不活性ガス流下に乾燥させる工程、
iv) 硫化工程
を含む。
【0061】
この光触媒を調製する方法により、2.3eVより大きいバンドギャップを有している硫化モリブデンまたは硫化タングステンのナノ粒子を得ることが可能となる;このバンドギャップの値は、3.5nm未満の粒子サイズに対応する。
【0062】
硫化モリブデンまたは硫化タングステンのナノ粒子は、それらの実験式:MoSによって定義され、x=2または3である。
【0063】
光触媒は、オキシ硫化モリブデンまたはオキシ硫化タングステンのナノ粒子を含むこともできる。これらのナノ粒子は、それらの実験式MoOによって定義され、0<y+z<5であり、yおよびzは、厳密に正整数である。
【0064】
工程i)は、溶液を担体と接触させる工程と称されるものであり、この工程i)は、含浸である。含浸は、当業者に周知である。本発明による含浸法は、乾式含浸、過剰含浸(excess impregnation)および連続含浸(successive impregnations)から選択される。「乾式含浸(dry impregnation)」法が有利には用いられる。
【0065】
工程i)において用いられる有機溶媒Aは、一般的に、アルカン、アルコール、エーテル、ケトン、塩素化溶媒または芳香族化合物である。好ましくは、シクロヘキサンおよびn-ヘキサンが用いられる。
【0066】
MoまたはWをベースとし、それのモノマーまたはダイマーの形態で用いられる、本発明による単核性前駆体(Mと表される)は、有利には、式M(=O)n(=S)n’(OR)a(SR’)b(L1)c(L2)d(L3)e(L4)f(L5)gを有し、
式中、
R=CxHy、x≧1および(x-1)≦y≦(2x+1)であり、
R’=Cx’Hy’、x’≧1および(x’-1)≦y’≦(2x’+1)であり、
0≦n+n’≦2および0≦n≦2および0≦n’≦2であり、
n=n’=0ならば、(a≠0またはb≠0)および[(a+b+c+d+e+f+g=6および0≦a≦6、0≦b≦6、0≦c≦6、0≦d≦6、0≦e≦6、0≦f≦6、0≦g≦6)、または(a+b+c+d+e+f+g=5および0≦a≦5、0≦b≦5、0≦c≦5、0≦d≦5、0≦e≦5、0≦f≦5、0≦g≦5)、または(a+b+c+d+e+f+g=4および0≦a≦4、0≦b≦4、0≦c≦4、0≦d≦4、0≦e≦4、0≦f≦4、0≦g≦4)]であり、
[(n=1およびn’=0)または(n’=1およびn=0)]ならば、[a+b+c+d+e+f+g=4および0≦a≦4、0≦b≦4、0≦c≦4、0≦d≦4、0≦e≦4,0≦f≦4、0≦g≦4)]または[(a+b+c+d+e+f+g=3および0≦a≦3、0≦b≦3、0≦c≦3、0≦d≦3、0≦e≦3、0≦f≦3、0≦g≦3)]であり、
[n+n’=2および0≦n≦2および0≦n’≦2]ならば、(a+b+c+d+e+f+g=2および0≦a≦2、0≦b≦2、0≦c≦2、0≦d≦2、0≦e≦2、0≦f≦2、0≦g≦2)であり、
(L1)、(L2)、(L3)、(L4)および(L5)のリガンドは、当業者に周知であり、かつ、THF、ジメチルエーテル、ジメチルスルフィド、P(CH、アルキル、アリール、(フッ素化化合物、塩素化化合物、臭素化化合物から選択される)ハロゲン化化合物、アミン、アセタート、アセチルアセトナート、ハリド、ヒドロキシド、-SH等のタイプのものである;好ましくは、リガンドは、アセチルアセトナート、THFおよびジメチルエーテルから選択される。好ましくは、リガンドは、アセチルアセトナート、THFおよびジメチルエーテルから選択される。
【0067】
好ましくは、本発明による前駆体は、リガンド(L1)、(L2)、(L3)、(L4)および(L5)を全く含有していない。
【0068】
好ましくは、本発明によるモリブデン前駆体は、以下の化合物:Mo(OEt)、Mo(OEt)、Mo(=O)(OEt)、Mo(=S)(OEt)、Mo(=S)(SEt)、Mo(=O)(OEt)、Mo(OC、Mo(SEt)、Mo(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(OEt)(SEt)、Mo(=O)(OEt)(acac)から選択され、Et=CHCH(エチル基)であり、acac=(CHCOCHCOCH)-(アセチルアセトナート)であり、それらのモノマーまたはダイマーの形態にある。
【0069】
一層より好ましくは、モリブデン前駆体は、Mo(OEt)である。
【0070】
好ましくは、本発明によるタングステン前駆体は、以下の化合物:W(OEt)、W(OEt)、W(=O)(OEt)、W(=S)(OEt)、W(=S)(SEt)、W(=O)(OEt)、W(OC、W(SEt)、W(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(OEt)(SEt)、W(=O)(OEt)(acac)から選択され、Et=CHCH(エチル基)であり、acac=(CHCOCHCOCH)-(アセチルアセトナート)であり、それらのモノマーまたはダイマーの形態にある。
【0071】
大いに好ましくは、本発明によるタングステン前駆体は、W(OEt)またはW(OEt)である。
【0072】
工程ii)は、実体物を担体の中心部に拡散させることを可能とすることを目的とする熟成工程である。それは、有利には、(水のない)無水雰囲気下に、好ましくは30分~24時間にわたって周囲温度下に行われる。雰囲気は、好ましくは、事前に含浸させられた前駆体を重縮合させないように無水でなければならない。
【0073】
工程iii)の間に行われる乾燥処理は、含浸溶液Aを除去することを目的とするものである。その雰囲気は、好ましくは、事前に含浸させられた前記前駆体を重縮合させないように(水のない)無水でなければならない。温度は、担体の表面上に移植されたかまたは沈着させられた前記前駆体を損なわれていないままにするために200℃を超えないようにしなければならない。好ましくは、温度は、120℃を超えないだろう。大いに好ましくは、乾燥処理は、真空下に、周囲温度で行われる。この工程は、あるいは、不活性ガス流を通過させることによって行われ得る。
【0074】
硫化工程iv)は、有利には、HS/HまたはHS/Nのガス混合物であって、混合物中に最低5容積%のHSを含有しているものを用いて、周囲温度以上の温度で、1bar(0.1MPa)以上の全圧下に少なくとも2時間にわたって行われ得る。好ましくは、硫化温度は、350℃未満である。大いに好ましくは、硫化温度は、200℃未満である。硫化工程iv)は、硫化モリブデンまたは硫化タングステンをベースとする光触媒を得ることを目的とするものである。
【0075】
(方法の工程b))
本発明による方法の工程b)によると、光触媒は、540nm未満の波長または2.3eVより大きい(すなわち、光触媒の最小バンドギャップ)のエネルギーの少なくとも光子を生じさせる少なくとも1種の光照射源により光照射され、これにより、前記光照射源によって活性にされた前記光触媒の存在中で二酸化炭素を還元しかつ犠牲化合物を酸化し、これにより、少なくとも一部において、CO以外のC1以上の炭素ベースの分子を含有している流出物を生じさせる。
【0076】
前記光触媒を活性化させるのに適した、すなわち、光触媒によって吸収することのできる少なくとも1種の波長を発するあらゆる光照射源が、本発明により用いられ得る。例えば、自然の太陽光照射またはレーザ、Hg、白熱灯、蛍光管、プラズマまたは発光ダイオード(light-emitting diode:LED)のタイプの人工的な放射源を用いることが可能である。好ましくは、光照射源は、太陽光照射である。
【0077】
光照射源は、波長の少なくとも一部が、本発明による光触媒を構成している硫化モリブデンまたは硫化タングステンのナノ粒子によって吸収され得る最大波長(λmax=540nm)より短い光照射を生じさせる。光照射源が太陽光照射である場合、それは、一般的には、紫外線、可視、および赤外スペクトルにおいて発光し、すなわち、それは、ほぼ280nm~2500nmの範囲の波長の光を発する(規格ASTM G173-03による)。好ましくは、この源は、少なくとも、280nm超、大いに好ましくは315nm~800nmの波長範囲において発光し、これは、UVスペクトルおよび/または可視スペクトルを含む。
【0078】
光照射源は、光子の流れを提供し、この光子の流れは、光触媒を含有している反応媒体に光照射する。反応媒体と光源との間の界面は、適用および光源の性質に従って変動する。
【0079】
一つの好ましい実施形態において、太陽光照射が伴われる場合、光照射源は、反応器の外側に置かれ、その2つの間の界面は、パイレックス(登録商標)、石英、有機ガラス、または本発明による光触媒によって吸収可能な光子が外部媒質から反応器に拡散することを可能にする任意の他の界面から作製された光学窓であり得る。
【0080】
二酸化炭素の光触媒還元の実現化は、想定される反応に向けての光触媒系に適した光子の供給によってコンディション調整され、したがって、生成物(1種または複数種)の安定性を保証することを可能にする光子の外側の圧力または温度の特定の範囲に限定されない。二酸化炭素を含有している供給原料の光触媒還元に用いられる温度範囲は、一般的に-10℃~+200℃、好ましくは0~150℃、大いに好ましくは0~100℃である。二酸化炭素を含有している供給原料の光触媒還元に用いられる圧力範囲は、一般的に0.01MPa~70MPa(0.1~700bar)、好ましくは0.1MPa~2MPa(1~20bar)である。
【0081】
二酸化炭素の光触媒還元反応の後に得られた流出物は、一方の、反応に由来する、二酸化炭素以外の少なくとも1種のC1以上の分子と、他方の、未反応の供給原料とを含有し、さらに、考えられる希釈流体を含有するが、並行反応生成物、例えば、HOが犠牲化合物として用いられた場合のこの化合物の光触媒還元に由来する二原子水素も含有する。
【0082】
COの光触媒還元のための方法において光触媒を使用することにより、太陽光スペクトルの可視部分を吸収すること、それ故に、入射太陽エネルギーのうちの有意な割合を利用することが可能となる。
【0083】
以下の実施例は、本発明を例証する。
【0084】
(実施例)
(実施例1:光触媒A(本発明に合致しない)MoS
光触媒Aは、紛体の形態にある市販のMoSベースの半導体である(Aldrich(登録商標)、純度99%)。光触媒Aのバンドギャップの測定を、拡散反射吸収分光法によって1.71eVにおいて行う。
【0085】
(実施例2:光触媒B(本発明に合致しない)WS
光触媒Bは、紛体の形態にある市販のWSベースの半導体である(Aldrich(登録商標)、純度99%)。光触媒Bのバンドギャップの測定を、拡散反射吸収分光法によって1.56eVにおいて行う。
【0086】
(実施例3:光触媒C(本発明に合致する)MoS/Al
γアルミナ(γ-Al)担体を、石英反応器に装填し、6時間にわたって300℃で、温度上昇勾配5℃/分を伴って焼成し、次いで、真空下(10-5mbar)に同じ温度で16時間にわたって置く。脱ヒドロキシル化済みの担体を、次いで、真空ラインから取り出し、140℃に冷却し、次いで、グローブボックス中に格納する。アルミナ担体の比表面積は、284m/gである。
【0087】
モリブデン前駆体は、モリブデンペンタエトキシドMo(OC(Gelest(登録商標)、90%)である。溶媒として無水脱気シクロヘキサンを用いる。含浸溶液1.96mLを、前駆体0.67gおよびシクロヘキサンから調製し、このものを、シュレンクデバイスを用いる合成ランプ上で乾燥担体2.58g上に含浸させる。含浸溶液による担体の含浸を、針を用いて一つのシュレンクデバイスから他方のシュレンクデバイスに向けて行う。
【0088】
モリブデンの量を調節して、約1.7Mo/nmを得る。すなわち、Moの重量含有率は、8%である。15時間の熟成の後、押出物を、真空(10-5mbar)下に2時間にわたって周囲温度で乾燥させる。16時間の熟成の後、固体を、真空下の周囲温度での2回の乾燥処理サイクルに付す。初回は、シュレンクライン(~8.10-2mbar)によって1時間にわたって行い、次いで、10-5mbarでの高真空ラインによって1時間にわたって行う。最後に、固体を、硫化工程に付す。この硫化工程を、100℃で、HS/Hガス(15/85vol)の流量2L/h/gにより行う。XPS分析により、モリブデンの60%が硫黄によって取り囲まれていることが示される。光触媒Cのバンドギャップの測定を、拡散反射吸収分光法によって3.18eVにおいて行う。
【0089】
(実施例4:光触媒D(本発明に合致する)MoS/Al
光触媒Dを、光触媒Cと同様にして調製するが、硫化工程のみが異なっており、その処理温度が200℃である。
【0090】
XPS分析により、87%のモリブデンの硫化が与えられる。光触媒Dのバンドギャップの測定を、拡散反射吸収分光法によって2.49eVにおいて行う。
【0091】
(実施例5:光触媒E(本発明に合致する)WS/Al
γアルミナ(γ-Al)担体を、石英反応器に装填し、6時間にわたって300℃で、5℃/分の温度上昇勾配で焼成し、次いで、真空(10-5mbar)下に同一の温度に16時間にわたって置く。次いで、脱ヒドロキシル化済み担体を、真空ラインから取り出し、140℃に冷却し、次いで、グローブボックス中に格納する。アルミナ担体の比表面積は、284m/gである。
【0092】
処理済みのアルミナ担体(γ-Al)およびタングステン(V)ペンタエトキシド-W(OEt)の液体前駆体(Gelest(登録商標)、90%)を、別のシュレンクフラスコに挿入する。次いで、このフラスコを密閉し、シュレンクライン上に移す。タングステン前駆体を、無水脱気シクロヘキサンにより希釈して、含浸溶液を得る。この有機溶液の調製は、Wの負荷度1.7原子/nm、すなわち、Wの重量含有率5.5%を得るように行われる。担体上のこの前駆体の含浸の実施には、針を用いる。
【0093】
16時間の熟成の後、固体を、真空下の周囲温度での2回の乾燥サイクルに付し、最初は、シュレンクライン(~8.10-2mbar)により1時間にわたって、次いで、10-5mbarの高真空ラインによって1時間にわたって行う。最後に、固体を、硫化工程に付す。この硫化工程は、150℃でHS/Hガス(15/85vol)の流量2L/h/gにより行う。XPS分析により与えられるタングステンの硫化は、75%である。光触媒Eのバンドギャップの測定を、拡散反射吸収分光法によって2.71eVで行う。
【0094】
(実施例6:COの気相光触媒還元における光触媒の使用)
光触媒A、B、C、DおよびEを、気相CO光触媒還元の試験に付す。この試験を連続式鋼製フロースルー床反応器において行い、この反応器は、石英光学窓と、この光学窓の前面におけるフリットとを備えており、この光学窓上に、光触媒固体が沈着させられている。
【0095】
十分な量の紛体を、反応器の光照射される表面の全体を覆うようにフリット上に沈着させる(約100mg)。全ての光触媒についての光照射された幾何学的表面積は、8.042477×10-04である。周囲温度で大気圧下に試験を行う。0.3mL/分の流量のCOを、水飽和器中に通過させた後、反応器中に分配する。二酸化炭素の還元に由来するCHの生成のモニタリングを、マイクロガスクロマトグラフィーによって6分間隔で流出物を分析することにより行う。UV-可視光照射源は、Xe-Hgランプ(Asahi(登録商標)、MAX302(登録商標))によって提供される。光照射の電力を、常時、315~400nmの波長範囲のために80W/mに維持する。試験の継続期間は、20時間である。
【0096】
光触媒の活性は、時間当たりかつ照射面積(m)当たりの生じたメタンのマイクロモル(μmol)で表される。これらは、試験の継続期間全体にわたる平均活性である。その結果は、表1(下記)に記録される。
【0097】
【表1】
【0098】
活性値により示されることは、本発明による固体の使用により、二酸化炭素のCHへの光触媒還元が可能となることである。