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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】位相差フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220926BHJP
   C08G 63/197 20060101ALI20220926BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20220926BHJP
   B29C 55/04 20060101ALI20220926BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
G02B5/30
C08G63/197
B29C55/02
B29C55/04
B29C55/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020537425
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2019031017
(87)【国際公開番号】W WO2020036101
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2018153724
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】大田 善也
(72)【発明者】
【氏名】亀井 慎一
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218645(JP,A)
【文献】特開2015-230415(JP,A)
【文献】特開2012-022148(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022623(WO,A1)
【文献】特開2017-075256(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0170118(US,A1)
【文献】国際公開第2014/148327(WO,A1)
【文献】特開2018-168210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール単位(A)とジカルボン酸単位(B)とを含むポリエステル樹脂の延伸フィルムで形成され、他の熱可塑性樹脂を含まない位相差フィルムであって、前記ジオール単位(A)が、下記式(1)
【化1】
(式中、Z及びZはそれぞれベンゼン環を示し、R 2a及びR2bはそれぞれ独立して炭化水素基を示し、m及びm2はそれぞれ独立して0~2の整数を示し、n1及びn2はそれぞれを示し、A1a及びA1bはそれぞれ独立して直鎖状又は分岐鎖状 2-6 アルキレン基を示す。)
で表されるフルオレン骨格を有する第1のジオール単位(A1)を含み、前記ジカルボン酸単位(B)が、下記式(2a)又は(2b)
【化2】
(式中、qは0~の整数を示し、A2a、A2b及びAはそれぞれエチレン基を示す。)
で表されるフルオレン骨格を有するジカルボン酸単位(B1)を含み、
前記ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwが、50000~100000であり、
ジティブCプレート、又はポジティブBプレートであり、
平均厚みが、10~60μmである位相差フィルム。
【請求項2】
ジオール単位(A)が、下記式(3)
【化3】
(式中、Aは直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示し、rは1以上の整数を示す。)
で表される第2のジオール単位(A2)をさらに含み、第1のジオール単位(A1)と第2のジオール単位(A2)との割合が前者/後者(モル比)=50/50~99/1である請求項1記載の位相差フィルム。
【請求項3】
式(1)において、R 2a及びR2bがそれぞれ独立してアルキル基又はアリール基であり、m1及びm2がそれぞれ独立して0又は1であり、A1a及びA1bがそれぞれ独立してC2-4アルキレン基であり
カルボン酸単位(B1)が少なくとも式(2a)で表される単位を含み
オール単位(A)全体に対する第1のジオール単位(A1)の割合が50モル%以上であり、ジカルボン酸単位(B)全体に対するジカルボン酸単位(B1)の割合が50モル%以上であり、ポリエステル樹脂の構成単位全体に対する第1のジオール単位(A1)及びジカルボン酸単位(B1)の総量の割合が70モル%以上である請求項1又は2記載の位相差フィルム。
【請求項4】
温度20℃、波長550nmにおける面内位相差R0(550)が、0~10nmを示すポジティブCプレートである請求項1~3のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
【請求項5】
温度20℃、波長550nmにおける面内位相差R0(550)が、115~160nmを示すポジティブBプレートのλ/4板、
温度20℃、波長550nmにおける面内位相差R0(550)が、260~290nmを示すポジティブBプレートのλ/2板、及び
温度20℃、波長550nmにおける面内位相差R0(550)が、40~75nmを示すポジティブBプレートから選択されるいずれか1種である請求項1~3のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
【請求項6】
温度20℃、波長550nmにおける厚み方向位相差Rth(550)が、-200~-30nmである請求項1~のいずれか一項に記載の位相差フィルム。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂で形成されたフィルム原反を、下記条件で固定端一軸延伸又は二軸延伸して、請求項1~のいずれか一項に記載の位相差フィルムを製造する方法。
フィルム原反の平均厚み:10~1000μm
延伸温度:(Tg-10)~(Tg+20)℃(ただし、Tgは前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度を示す。)
延伸速度:0.1~1000mm/分
延伸倍率:1.1~10倍に固定端一軸延伸、又は各方向それぞれ1.1~10倍に二軸延伸
【請求項8】
下記条件で延伸する請求項記載の方法。
フィルム原反の平均厚み:30~200μm
延伸温度:Tg~(Tg+15)℃
延伸速度:10~500mm/分
延伸倍率:2~5倍に固定端一軸延伸、又は各方向それぞれ1.5~3倍に二軸延伸
【請求項9】
二軸延伸が等延伸である請求項又は記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムに関し、より詳しくは、負の固有複屈折を示す位相差フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(LCD)などの液晶表示装置には、視野角によるコントラスト低下や色変化などの防止(光学補償又は視野角補償)を目的として位相差フィルムが利用されている。このような位相差フィルムとしては、主に、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリシクロオレフィンなど正の固有複屈折(正の屈折率異方性)を有する高分子材料が広く用いられている。
【0003】
一方、負の固有複屈折(負の屈折率異方性)を示す高分子材料を用いた位相差フィルムも検討されている。負の固有複屈折を有する高分子材料としては、ポリスチレン系樹脂やポリメチルメタクリレート系樹脂などが知られている。これらの高分子材料のうち、ポリメチルメタクリレート系樹脂は、複屈折(又は位相差)が発現し難く、延伸しても所望の位相差を得難いため、通常、ポリスチレン系樹脂がよく利用されている。
【0004】
このような高分子材料を用いた位相差フィルムとして、例えば、特開2003-043253号公報(特許文献1)、特開2007-24940号公報(特許文献2)、特開2014-149508号公報(特許文献3)では、負の固有複屈折を示す高分子材料で形成されたフィルムを含む積層位相差フィルムが開示されている。
【0005】
なお、特開2013-64118号公報(特許文献4)の参考例1及び2、特開2014-218645号公報(特許文献5)の実施例3、特開2015-218265号公報(特許文献6)の実施例4、特開2016-69643号公報(特許文献7)の参考例1、特開2017-198956号公報(特許文献8)の合成例1では、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)及び9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレンのジメチルエステル(FDPM)又はジt-ブチルエステル(FDPT)を重合成分に含むポリエステル樹脂が具体的に調製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-043253号公報
【文献】特開2007-24940号公報
【文献】特開2014-149508号公報
【文献】特開2013-64118号公報
【文献】特開2014-218645号公報
【文献】特開2015-218265号公報
【文献】特開2016-69643号公報
【文献】特開2017-198956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3の実施例で利用されている負の固有複屈折を有する高分子材料は、耐熱性が十分ではなく、脆く裂け易い傾向にある。そのため、製膜や延伸などの加工が困難で成形性が低いのみならず、成形できても得られたフィルムの取り扱い性が低い。また、特許文献3の実施例では、単層では脆く取り扱い難いポリスチレン層の両面に、ポリカーボネート層が積層した3層構造の多層フィルムを共押出しで形成し、得られた多層フィルムを延伸しているが、多層フィルムの延伸では、各層のガラス転移温度や延伸性の違いにより延伸条件が限定されるため、所望の位相差や厚みに調整するのが困難であり、位相差フィルムの設計の自由度が制限される。
【0008】
また、近年、表示装置には薄型化が要求されており、位相差フィルムにも薄膜化が強く求められているものの、特許文献1~3で得られる位相差フィルムは積層構造を有しているため、薄膜化には限界がある。さらに、積層フィルムの形成には積層する工程が必須なため生産性も低い。
【0009】
そのため、これらの要求特性を満たす新たな位相差フィルム、具体的には、ネガティブAプレート、ポジティブCプレートなどの負の屈折率異方性を有する一軸性フィルムや、ポジティブBプレートなどの負の屈折率異方性を有する二軸性フィルムが求められている。
【0010】
特許文献4、5、7及び8では、調製したポリエステル樹脂で形成した延伸フィルムの複屈折が測定されている。特に、特許文献8の参考例1では、波長550nmにおける正面位相差Re(550)が-188nm(膜厚50μmに換算値)であり、平均厚みが40μmの一軸延伸フィルムが得られている。また、これらの特許文献には、産業上利用可能な態様として、位相差フィルムが記載されている。
【0011】
しかし、特許文献4~8には、厚み方向の位相差Rthが低い又は負の値を示すことについては何ら記載されていない。
【0012】
従って、本発明の目的は、耐熱性が高く、単層構造であっても成形性及び取り扱い性に優れ、かつ厚み方向の位相差Rthが負の値を示す位相差フィルムと、その製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、負の固有複屈折(又は負の屈折率異方性)を示すフルオレン-9,9-ジイル骨格を有する特定のポリエステル樹脂を延伸フィルムとしたときには、厚み方向の位相差Rthが負の値を示す位相差フィルムが得られること、さらには、このような位相差フィルムは、ネガティブAプレート、ポジティブCプレート、またはポジティブBプレートとして好適に利用できることを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の位相差フィルムは、ジオール単位(A)とジカルボン酸単位(B)とを含むポリエステル樹脂の延伸フィルムで形成されており、前記ジオール単位(A)が、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有する第1のジオール単位(A1)を含み、前記ジカルボン酸単位(B)が、下記式(2a)又は(2b)で表されるフルオレン骨格を有するジカルボン酸単位(B1)を含み、ネガティブAプレート、ポジティブCプレート、又はポジティブBプレートである。
【0015】
【化1】
【0016】
(式中、Z及びZはそれぞれ独立して芳香族炭化水素環を示し、R、R2a及びR2bはそれぞれ独立して置換基を示し、kは0~8の整数を示し、m1、m2、n1及びn2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、A1a及びA1bはそれぞれ独立して直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す)。
【0017】
【化2】
【0018】
(式中、R3a及びR3bはそれぞれ独立して置換基を示し、p1及びp2はそれぞれ独立して0~8の整数を示し、qは0~4の整数を示し、A2a、A2b及びAはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を示す)。
【0019】
前記ジオール単位(A)は、下記式(3)で表される第2のジオール単位(A2)をさらに含んでいてもよく、前記第1のジオール単位(A1)と前記第2のジオール単位(A2)との割合は前者/後者(モル比)=50/50~99/1程度であってもよい。
【0020】
【化3】
【0021】
(式中、Aは直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示し、rは1以上の整数を示す)。
【0022】
前記式(1)において、Z及びZはそれぞれ独立してベンゼン環又はナフタレン環、R2a及びR2bはそれぞれ独立してアルキル基又はアリール基、m1及びm2はそれぞれ独立して0~2程度の整数、A1a及びA1bはそれぞれ独立してC2-4アルキレン基、n1及びn2はそれぞれ独立して1~10程度の整数であってもよく、
ジカルボン酸単位(B1)は少なくとも式(2a)で表される単位を含んでいてもよく、式(2a)において、A2a及びA2bはそれぞれ独立して直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレン基であってもよく、
ジオール単位(A)全体に対する第1のジオール単位(A1)の割合は50モル%程度以上であってもよく、ジカルボン酸単位(B)全体に対するジカルボン酸単位(B1)の割合は50モル%程度以上であってもよく、ポリエステル樹脂の構成単位全体に対する第1のジオール単位(A1)及びジカルボン酸単位(B1)の総量の割合は70モル%程度以上であってもよい。
【0023】
前記位相差フィルムは、ネガティブAプレートのλ/4板又はネガティブAプレートのλ/2板であってもよい。また、前記位相差フィルムは、温度20℃、波長550nmにおける面内位相差R0(550)が、115~160nm程度を示すネガティブAプレートのλ/4板、又は
温度20℃、波長550nmにおける面内位相差R0(550)が、260~290nm程度を示すネガティブAプレートのλ/2板であってもよい。
【0024】
前記位相差フィルムは、温度20℃、波長550nmにおける面内位相差R0(550)が、0~10nm程度を示すポジティブCプレートであってもよい。
【0025】
前記位相差フィルムは、温度20℃、波長550nmにおける面内位相差R0(550)が、40~300nm程度を示すポジティブBプレートであってもよい。また、前記位相差フィルムは、温度20℃、波長550nmにおける面内位相差R0(550)が、115~160nmを示すポジティブBプレートのλ/4板、
温度20℃、波長550nmにおける面内位相差R0(550)が、260~290nmを示すポジティブBプレートのλ/2板、及び
温度20℃、波長550nmにおける面内位相差R0(550)が、40~75nmを示すポジティブBプレートから選択されるいずれか1種であってもよい。
【0026】
前記位相差フィルムは、温度20℃、波長550nmにおける厚み方向位相差Rth(550)が、-200~-30nm程度であってもよい。また、前記位相差フィルムは、平均厚みが、5~150μm程度であってもよい。
【0027】
本発明は、前記ポリエステル樹脂で形成されたフィルム原反を、下記条件で一軸又は二軸延伸して、前記位相差フィルムを製造する方法を包含する。
【0028】
フィルム原反の平均厚み:10~1000μm程度、好ましくは30~200μm程度
延伸温度:(Tg-10)~(Tg+20)℃、好ましくはTg~(Tg+15)℃程度(ただし、Tgは前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度を示す。)
延伸速度:0.1~1000mm/分程度、好ましくは10~500mm/分程度
延伸倍率:1.1~10倍程度に一軸延伸、又は各方向それぞれ1.1~10倍程度に二軸延伸;好ましくは2~5倍程度に一軸延伸、又は各方向それぞれ1.5~3倍程度に二軸延伸。
【0029】
前記方法において、二軸延伸は等延伸であってもよい。また、前記方法において、一軸延伸は固定端一軸延伸であってもよい。
【0030】
本明細書及び特許請求の範囲において、「ジオール単位」又は「ジオール成分由来の構成単位」は、対応するジオール成分の2つのヒドロキシル基から、水素原子を除いた単位(又は2価の基)を意味し、「ジオール成分」(ジオール成分として例示される化合物を含む)は、対応する「ジオール単位」と同義に用いる場合がある。また、同様に、「ジカルボン酸単位」又は「ジカルボン酸成分由来の構成単位」は、対応するジカルボン酸の2つのカルボキシル基から、OH(ヒドロキシル基)を除いた単位(又は2価の基)を意味し、「ジカルボン酸成分」(ジカルボン酸成分として例示される化合物を含む)は、対応する「ジカルボン酸単位」と同義に用いる場合がある。
【0031】
また、本明細書及び特許請求の範囲において、「ジカルボン酸成分」とは、ジカルボン酸に加えて、そのエステル形成性誘導体、例えば、ジカルボン酸低級アルキルエステル、ジカルボン酸ハライド、ジカルボン酸無水物などを含む意味に用いる。前記ジカルボン酸低級アルキルエステルとしては、例えば、メチルエステル、エチルエステル、t-ブチルエステルなどのC1-4アルキルエステルなどが挙げられる。なお、「エステル形成性誘導体」は、モノエステル(ハーフエステル)又はジエステルであってもよい。
【0032】
さらに、本明細書及び特許請求の範囲において、「正の固有複屈折」とは、高分子の配向フィルム(又は延伸フィルム)面内において、配向方向(又は延伸方向)の屈折率が、配向方向に垂直な方向の屈折率よりも大きい値を示す性質を意味し、「負の固有複屈折」とは、配向方向の屈折率が、前記配向方向に垂直な方向の屈折率よりも小さい性質を意味する。
【0033】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。例えば、炭素数が1のアルキル基は「Cアルキル」で示し、炭素数が6~10のアリール基は「C6-10アリール」で示す。
【発明の効果】
【0034】
本発明の位相差フィルムは、負の固有複屈折(又は負の屈折率異方性)を示すフルオレン-9,9-ジイル骨格を有する特定のポリエステル樹脂の延伸フィルムで形成されているため、耐熱性が高く、単層構造であっても成形性及び取り扱い性(又は柔軟性、靭性などの機械的強度)に優れ、かつ厚み方向の位相差Rthが負の値を示し、ネガティブAプレート、ポジティブCプレート、又はポジティブBプレートとして好適に利用できる。また、ポリエステル樹脂が剛直なフルオレン-9,9-ジイル骨格を多く含むにもかかわらず、意外にも薄膜に成形できる。特に、一軸延伸よりもフィルムが破断し易く、安定して成形することが難しい二軸延伸を施しても、フィルムを破断させることなく薄膜化できる。さらに、薄膜に成形しても、所望の位相差(又はレタデーション)を有するネガティブAプレート、ポジティブCプレート、又はポジティブBプレートを調製できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の位相差フィルムは、負の固有複屈折(又は負の屈折率異方性)を示すフルオレン-9,9-ジイル骨格(単にフルオレン骨格という場合がある)を有する特定のポリエステル樹脂の延伸フィルムで形成されたものであって、より具体的には、ネガティブAプレート、ポジティブCプレートなどの一軸性フィルムと、ポジティブBプレートなどの二軸性フィルムである。
【0036】
[ポリエステル樹脂]
ポリエステル樹脂は、ジオール単位(又はジオール成分由来の構成単位)(A)とジカルボン酸単位(又はジカルボン酸成分由来の構成単位)(B)とを含んでおり、これらのジオール単位(A)及びジカルボン酸単位(B)は、それぞれ、フルオレン-9,9-ジイル骨格を有する所定の単位を含んでいる。
【0037】
(ジオール単位(A))
ジオール単位(A)は、下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有する第1のジオール単位(又は第1のジオール成分由来の構成単位)(A1)を含んでいる。
【0038】
【化4】
【0039】
(式中、Z及びZはそれぞれ独立して芳香族炭化水素環を示し、R、R2a及びR2bはそれぞれ独立して置換基を示し、kは0~8の整数を示し、m1、m2、n1及びn2はそれぞれ独立して0以上の整数を示し、A1a及びA1bはそれぞれ独立して直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す。)
【0040】
前記式(1)において、Z及びZで表されるアレーン環(芳香族炭化水素環)としては、例えば、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環などが挙げられ、多環式アレーン環には、縮合多環式アレーン環(縮合多環式芳香族炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが含まれる。
【0041】
縮合多環式アレーン環としては、例えば、縮合二環式アレーン環、縮合三環式アレーン環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが挙げられる。縮合二環式アレーン環としては、例えば、ナフタレン環、インデン環などの縮合二環式C10-16アレーン環などが挙げられ、縮合三環式アレーン環としては、例えば、アントラセン環、フェナントレン環などが挙げられる。好ましい環縮合多環式アレーン環としては、ナフタレン環、アントラセン環などの縮合多環式C10-16アレーン環が挙げられ、さらに好ましくは縮合多環式C10-14アレーン環が挙げられ、特に、ナフタレン環が好ましい。
【0042】
環集合アレーン環としては、例えば、ビアレーン環、テルアレーン環などが挙げられる。ビアレーン環としては、例えば、ビフェニル環、ビナフチル環、フェニルナフタレン環などのビC6-12アレーン環などが挙げられる。フェニルナフタレン環としては、1-フェニルナフタレン環、2-フェニルナフタレン環などが挙げられる。テルアレーン環としては、例えば、テルフェニレン環などのテルC6-12アレーン環などが挙げられる。好ましい環集合アレーン環は、ビC6-10アレーン環が挙げられ、特にビフェニル環が好ましい。
【0043】
環Z及びZの種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。環Z及びZのうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環などのC6-12アレーン環が好ましく、なかでも、ベンゼン環、ナフタレン環などのC6-10アレーン環が好ましく、特に、成形性及び耐熱性が高く、所望の位相差を得易いなどの観点から、ベンゼン環が好ましい。
【0044】
なお、フルオレン環の9位に結合する環Z及びZの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Z及びZがベンゼン環の場合、1~6位のいずれかの位置であってもよく、環Z及びZがナフタレン環の場合、1位又は2位のいずれかの位置、好ましくは2位であり、環Z及びZがビフェニル環の場合、2位、3位、4位のいずれかの位置、好ましくは3位である。
【0045】
基Rとしては、非反応性置換基(又は重合反応に不活性な置換基)、例えば、シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;アルキル基、アリール基などの炭化水素基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。これらの非反応性置換基のうち、置換数kが1以上である場合、特に、シアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基、なかでも、アルキル基である場合が多い。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基、好ましくはC1-8アルキル基、さらに好ましくはメチル基などのC1-4アルキル基などが挙げられる。
【0046】
好ましい置換数kは、例えば、0~4、好ましくは0~2、さらに好ましくは0又は1、特に0である。なお、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環において、それぞれの置換数は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。
【0047】
なお、フルオレン環を構成する同一ベンゼン環に2以上の基Rが置換する場合、基Rの種類は、同一又は異なっていてもよい。また、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環に基Rが置換する場合、基Rの種類は、同一又は異なっていてもよい。フルオレン環を構成する2つのベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2,7位などが挙げられる。
【0048】
2a及びR2bで表される置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基(又は基R);アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などの前記炭化水素基に対応する基-OR(式中、Rは前記炭化水素基を示す。);アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基などの前記炭化水素基に対応する基-SR(式中、Rは前記炭化水素基を示す。);アシル基;ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基などが挙げられる。
【0049】
Rで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキル基、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基、さらに好ましくは直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基などが挙げられる。
【0050】
Rで表されるシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基などが挙げられる。
【0051】
Rで表されるアリール基としては、例えば、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基などが挙げられる。アルキルフェニル基としては、例えば、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)などが挙げられる。
【0052】
Rで表されるアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基などのC6-10アリール-C1-4アルキル基などが挙げられる。
【0053】
基-ORとしては、前記例示の炭化水素基Rに好ましい態様を含めて対応する基、例えば、メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルコキシ基、シクロヘキシルオキシ基などのC5-10シクロアルキルオキシ基、フェノキシ基などのC6-10アリールオキシ基、ベンジルオキシ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルオキシ基などが挙げられる。
【0054】
基-SRとしては、前記例示の炭化水素基Rに好ましい態様を含めて対応する基、例えば、メチルチオ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-10アルキルチオ基、シクロヘキシルチオ基などのC5-10シクロアルキルチオ基、チオフェノキシ基(フェニルチオ基)などのC6-10アリールチオ基、ベンジルチオ基などのC6-10アリール-C1-4アルキルチオ基などが挙げられる。
【0055】
アシル基としては、例えば、アセチル基などのC1-6アシル基などが挙げられる。
【0056】
置換アミノ基としては、例えば、ジアルキルアミノ基、ビス(アルキルカルボニル)アミノ基などが挙げられる。ジアルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基などのジC1-4アルキルアミノ基などが挙げられ、ビス(アルキルカルボニル)アミノ基としては、例えば、ジアセチルアミノ基などのビス(C1-4アルキル-カルボニル)アミノ基などが挙げられる。
【0057】
これらの基R2a及びR2bのうち、代表的には、ハロゲン原子、炭化水素基(アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基)、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。置換数mが1以上である場合、好ましい基R2a及びR2bとしては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基が挙げられ、さらに好ましくはメチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基、シクロヘキシル基などのC5-8シクロアルキル基、フェニル基などのC6-14アリール基、メトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルコキシ基が挙げられる。これらのなかでも、アルキル基、アリール基が好ましく、特に、メチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキル基、フェニル基などのC6-10アリール基が好ましい。なお、基R2aがアリール基であるとき、基R2aは、環Zとともに前記環集合アレーン環を形成してもよく、基R2bがアリール基であるとき、基R2bは、環Zとともに前記環集合アレーン環を形成してもよい。
【0058】
基R2a及びR2bの置換数m1及びm2は、それぞれ独立して0以上の整数であればよく、環Z及びZの種類に応じて適宜選択でき、例えば、0~8程度の整数であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~4の整数、0~3の整数、0~2の整数であり、なかでも、0又は1、特に0である。なお、置換数m1及びm2は、互いに異なっていてもよいが、通常、同一であることが多い。また、置換数m1が2以上である場合、2以上のR2aの種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、置換数m2が2以上である場合、2以上のR2bの種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、R2a及びR2bの種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。特に、m1及びm2が1である場合、Z及びZがベンゼン環、ナフタレン環またはビフェニル環、R2a及びR2bがメチル基であってもよい。また、R2a及びR2bの置換位置は特に制限されず、環Z及びZと、エーテル結合(-O-)及びフルオレン環の9位との結合位置以外の位置に置換していればよい。
【0059】
アルキレン基A1a及びA1bとしては、例えば、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基などが挙げられ、n1及びn2が1以上である場合、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレン基、さらに好ましくはエチレン基、プロピレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-3アルキレン基、特に、エチレン基が好ましい。
【0060】
オキシアルキレン基(OA1a)及び(OA1b)の繰り返し数(付加モル数)n1及びn2は、それぞれ独立して0以上の整数であればよく、例えば、0~15程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~10の整数、0~8の整数、0~6の整数、0~4の整数、0~2の整数、0~1の整数である。また、繰り返し数n1及びn2は、通常、1以上であることが多く、例えば、1~15程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~10の整数、1~8の整数、1~6の整数、1~4の整数、1~3の整数、1~2の整数であり、特に、1であるのが好ましい。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「繰り返し数(付加モル数)n1」及び「繰り返し数(付加モル数)n2」は、それぞれ、平均値(算術平均値、相加平均値)又は平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、好ましい整数の範囲と同様であってもよい。繰り返し数n1及び/又はn2が大きすぎると、屈折率が低下したり、所望の位相差を発現できないおそれがある。また、繰り返し数n1及びn2は、互いに同一又は異なっていてもよい。n1が2以上である場合、2以上のオキシアルキレン基(OA1a)の種類は、互いに同一又は異なっていてもよく、n2が2以上である場合、2以上のオキシアルキレン基(OA1b)の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。また、オキシアルキレン基(OA1a)及び(OA1b)の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0061】
基[-O-(A1aO)n1-]及び基[-O-(A1bO)n2-]の環Z及びZに対する置換位置は、特に限定されず、環Z及びZの適当な位置にそれぞれ置換していればよい。基[-O-(A1aO)n1-]及び基[-O-(A1bO)n2-]の環Z及びZに対する置換位置は、環Z及びZがベンゼン環である場合、フルオレン環の9位に結合するフェニル基の2位、3位、4位、なかでも、3-位又は4-位のいずれかの位置、特に4位に置換している場合が多い。また、環Z及びZがナフタレン環である場合、フルオレン環の9位に結合するナフチル基の5~8-位のいずれかの位置に置換している場合が多く、例えば、フルオレン環の9位に対して、ナフタレン環の1位又は2位が置換し(1-ナフチル又は2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5位、2,6位などの関係、特に2,6位の関係で置換している場合が多い。また、環Z及びZが環集合アレーン環である場合、基[-O-(A1aO)n1-]及び基[-O-(A1bO)n2-]の置換位置は特に限定されず、例えば、フルオレンの9位に結合するアレーン環またはこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、環Z及びZがビフェニル環(又は環Z及びZがベンゼン環、m1及びm2が1、R2a及びR2bがフェニル基)の場合、ビフェニル環の3位又は4位がフルオレンの9位に結合していてもよく、ビフェニル環の3位がフルオレンの9位に結合する場合、基[-O-(A1aO)n1-]及び基[-O-(A1bO)n2-]の置換位置は、例えば、ビフェニル環の2位、4位、5位、6位、2’位、3’位、4’位のいずれの位置であってもよく、好ましくは6位、4’位のいずれかの位置、特に、6位に置換することが多い。ビフェニル環の4位がフルオレンの9-位に結合している場合、基[-O-(A1aO)n1-]及び基[-O-(A1bO)n2-]の置換位置は、ビフェニル環の2位、3位、2’位、3’位、4’位のいずれの位置であってもよく、好ましくは2位、4’位のいずれかの位置、特に、2位に置換することが多い。
【0062】
前記式(1)で表される構成単位に対応する第1のジオール成分(A1)としては、例えば、前記式(1)において、n1及びn2が0に対応する9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類;n1及びn2が1以上、例えば、1~10程度に対応する9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類などが挙げられる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、特に断りのない限り、「(ポリ)アルコキシ」とは、アルコキシ基及びポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
【0063】
9,9-ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
【0064】
9,9-ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0065】
9,9-ビス(アルキル-ヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス[(モノ又はジ)C1-4アルキル-ヒドロキシフェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0066】
9,9-ビス(アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-10アリール-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0067】
9,9-ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレンなどが挙げられる。
【0068】
9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類としては、例えば、9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン、9,9-ビス[アルキル-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン、9,9-ビス[アリール-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレン、9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレンなどが挙げられる。
【0069】
9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2-4アルコキシ-フェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0070】
9,9-ビス[アルキル-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-3-イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3,5-ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[(モノ又はジ)C1-4アルキル-ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2-4アルコキシ-フェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0071】
9,9-ビス[アリール-ヒドロキシ(ポリ)アルコキシフェニル]フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス[C6-10アリール-ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2-4アルコキシ-フェニル]フルオレンなどが挙げられる。
【0072】
9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレンとしては、例えば、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(2-ヒドロキシエトキシ)-1-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2-4アルコキシ-ナフチル]フルオレンなどが挙げられる。
【0073】
前記式(1)で表される第1のジオール単位(A1)は、これらの第1のジオール成分(A1)に対応する構成単位を単独で又は2種以上組み合わせて含んでいてもよい。第1のジオール単位(A1)のうち、好ましくは9,9-ビス[ヒドロキシ(モノ乃至デカ)C2-4アルコキシC6-10アリール]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール]フルオレン類、より好ましくは9,9-ビス[ヒドロキシ(モノ乃至ペンタ)C2-4アルコキシ-フェニル]フルオレン、さらに好ましくは9,9-ビス[ヒドロキシ(モノ又はジ)C2-3アルコキシ-フェニル]フルオレン、なかでも、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス[ヒドロキシC2-3アルコキシ-フェニル]フルオレンに由来する構成単位を含むのが好ましい。
【0074】
ジオール単位(A)は、重合反応性を高めるとともに、ポリエステル樹脂に柔軟性を付与して靱性などを向上でき、成形性や取り扱い性を向上できる点から、さらに、下記式(3)で表される第2のジオール単位(又は第2のジオール成分に由来する構成単位)(A2)を含んでいてもよい。
【0075】
【化5】
【0076】
(式中、Aは直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示し、rは1以上の整数を示す)。
【0077】
前記式(3)において、Aで表されるアルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基、テトラメチレン基、1,5-ペンタンジイル基、1,6-ヘキサンジイル基、1,8-オクタンジイル基、1,10-デカンジイル基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-12アルキレン基などが挙げられる。好ましいアルキレン基Aとしては、以下段階的に、直鎖状又は分岐鎖状C2-10アルキレン基、直鎖状又は分岐鎖状C2-8アルキレン基、直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基、直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレン基であり、さらに好ましくはエチレン基、プロピレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-3アルキレン基であり、特に、エチレン基が好ましい。
【0078】
rは1以上であればよく、例えば、1~10程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、1~8の整数、1~6の整数、1~4の整数、1~3の整数、1~2の整数であり、特に、1が好ましい。なお、繰り返し数rは、平均値(算術平均値又は相加平均値)であってもよく、好ましい態様は前記整数の範囲と同様であってもよい。rが2以上である場合、2以上のオキシアルキレン基(-AO-)の種類は、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0079】
前記式(3)で表される第2のジオール単位(A2)を形成するための第2のジオール成分(A2)としては、例えば、アルカンジオール(又はアルキレングリコール)、ポリアルカンジオール(又はポリアルキレングリコール)などが挙げられる。
【0080】
アルキレングリコールとしては、例えば、前記式(3)においてrが1、Aが前記例示のアルキレン基に対応する化合物、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、テトラメチレングリコール(1,4-ブタンジオール)、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-12アルキレングリコールなどが挙げられ、好ましい態様は、前記アルキレン基Aに対応して同様である。
【0081】
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、前記式(3)においてrが2以上、例えば、rが2~10程度、Aが前記例示のアルキレン基に対応する化合物、具体的には、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコールなどのジ乃至デカ直鎖状又は分岐鎖状C2-12アルキレングリコールなどが挙げられ、好ましくはジ乃至ヘキサ直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレングリコール、さらに好ましくはジ乃至テトラ直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレングリコールが挙げられる。
【0082】
これらの第2のジオール成分(A2)で形成された第2のジオール単位(A2)は、単独でまたは2種以上組み合わせて利用することもできる。好ましい第2のジオール単位(A2)としては、直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレングリコール、さらに好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレングリコール、なかでも、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-3アルキレングリコール、特にエチレングリコールに由来する構成単位を含むのが好ましい。
【0083】
また、必ずしも必要ではないが、ジオール単位(A)は、本発明の効果を害しない限り、第1及び第2のジオール単位と異なる他のジオール単位(第3のジオール単位又は第3のジオール成分に由来する構成単位)(A3)をさらに含んでいてもよい。第3のジオール単位(A3)としては、例えば、脂環族ジオール、芳香族ジオール、及びこれらのジオール成分のアルキレンオキシド(又はアルキレンカーボネート、ハロアルカノール)付加体などに由来する構成単位が挙げられる。
【0084】
脂環族ジオールとしては、例えば、シクロヘキサンジオールなどのシクロアルカンジオール;シクロヘキサンジメタノールなどのビス(ヒドロキシアルキル)シクロアルカン;ビスフェノールAの水添物などの後に例示する芳香族ジオールの水添物などが挙げられる。
【0085】
芳香族ジオールとしては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノールなどのジヒドロキシアレーン;ベンゼンジメタノールなどの芳香脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールC、ビスフェノールG、ビスフェノールSなどのビスフェノール類;p,p’-ビフェノールなどのビフェノール類などが挙げられる。
【0086】
これらのジオール成分のアルキレンオキシド(又は対応するアルキレンカーボネート、ハロアルカノール)付加体としては、例えば、C2-4アルキレンオキシド付加体、好ましくはC2-3アルキレンオキシドが挙げられ、付加モル数は特に制限されない。具体的には、ビスフェノールA 1モルに対して、2~10モル程度のエチレンオキシドが付加した付加体などが挙げられる。
【0087】
これらの第3のジオール成分(A3)に由来する第3のジオール単位(A3)は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0088】
第1のジオール単位(A1)の割合は、ジオール単位(A)全体に対して、例えば、1モル%以上、具体的には10~100モル%程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上であり、より好ましくは65~95モル%、さらに好ましくは70~90モル%、なかでも、75~85モル%、特に、77~83モル%である。
【0089】
第1のジオール単位(A1)及び第2のジオール単位(A2)の総量の割合は、ジオール単位(A)全体に対して、例えば、1モル%程度以上であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、なかでも、実質的に100モル%、すなわち、第1のジオール単位(A1)及び第2のジオール単位(A2)のみで形成されているのが好ましい。
【0090】
第2のジオール単位(A2)を含む場合、第1のジオール単位(A1)と第2のジオール単位(A2)との割合は、前者/後者(モル比)=1/99~99.9/0.1程度であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、30/70~99.5/0.5、50/50~99/1、60/40~97/3、65/35~95/5、より好ましくは70/30~90/10、さらに好ましくは72/28~88/12、なかでも、75/25~85/15、特に、77/23~83/17が好ましい。第1のジオール単位(A1)の割合が少な過ぎると、所望の位相差を発現できないおそれがあり、第2のジオール単位(A2)の割合が少な過ぎると、重合度又は重量平均分子量Mwが低下するおそれがあるとともに、柔軟性や靭性などの機械的強度が低下するおそれがある。
【0091】
(ジカルボン酸単位(B))
ジカルボン酸単位(B)は、下記式(2a)又は(2b)で表されるフルオレン骨格を有する第1のジカルボン酸単位(又は第1のジカルボン酸成分由来の構成単位)(B1)を含んでいる。このような第1のジカルボン酸単位(B1)を含むと、負の固有複屈折を有する位相差フィルムを調製し易くなるのみならず、剛直なフルオレン骨格を有していても、ポリエステル樹脂における柔軟性又は靭性を比較的維持し易く、成形性や取り扱い性の低下を抑制できる。
【0092】
【化6】
【0093】
(式中、R3a及びR3bはそれぞれ独立して置換基を示し、p1及びp2はそれぞれ独立して0~8の整数を示し、qは0~4の整数を示し、A2a、A2b及びAはそれぞれ独立して置換基を有していてもよい2価の炭化水素基を示す)。
【0094】
前記式(2a)又は(2b)において、R3a又はR3bで表される置換基は前記式(1)における基Rと、R3a又はR3bの置換数p1又はp2は前記式(1)におけるRの置換数kと、それぞれ対応して、具体例や置換位置などの好ましい態様も含めて同様である。
【0095】
基A2a、A2b及びAで表される炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、1,2-ブタンジイル基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-8アルキレン基が挙げられる。好ましいアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキレン基が挙げられ、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C1-4アルキレン基である。
【0096】
炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、フェニル基などのアリール基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基などが挙げられる。置換基を有する炭化水素基A2a、A2b又はAとしては、例えば、1-フェニルエチレン基、1-フェニルプロパン-1,2-ジイル基などであってもよい。
【0097】
基A2a及びA2bは直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレン基、なかでも、エチレン基、プロピレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-3アルキレン基、特にエチレン基である場合が多く、基Aはメチレン基、エチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-3アルキレン基である場合が多い。
【0098】
前記式(2b)において、メチレン基の繰り返し数qは、例えば、0~3程度の整数、好ましくは0~2の整数、さらに好ましくは0又は1である。
【0099】
前記式(2a)で表されるジカルボン酸成分として、具体的には、例えば、A2a及びA2bが直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基である化合物、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)フルオレン及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0100】
前記式(2b)で表されるジカルボン酸成分として、具体的には、例えば、qが0であり、かつAが直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキレン基である化合物、9-(1,2-ジカルボキシエチル)フルオレン;qが1であり、かつAが直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキレン基である化合物、9-(2,3-ジカルボキシプロピル)フルオレンなどの9-(ジカルボキシC2-8アルキル)フルオレン及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0101】
これらの第1のジカルボン酸成分(B1)に由来する第1のジカルボン酸単位(B1)は、単独で又は2種以上組み合わせて含んでいてもよい。これらの第1のジカルボン酸単位(B1)のうち、所望の位相差に調製し易い点から、少なくとも前記式(2a)で表されるジカルボン酸単位を含むのが好ましく、9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)フルオレン類などの9,9-ビス(カルボキシアルキル)フルオレン類に由来する構成単位がさらに好ましい。なかでも、9,9-ビス(カルボキシC2-4アルキル)フルオレン類が好ましく、さらに好ましくは9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-3アルキル)フルオレン類、特に、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン類及びこれらのエステル形成性誘導体に由来する構成単位を含むのが好ましい。
【0102】
なお、必ずしも必要ではないが、ジカルボン酸単位(B)は、本発明の効果を害しない範囲であれば、第1のジカルボン酸単位とは異なる第2のジカルボン酸単位(他のジカルボン酸単位)(B2)を含んでいてもよい。第2のジカルボン酸単位(B2)としては、例えば、芳香族ジカルボン酸成分[ただし、第1のジカルボン酸成分(B1)を除く。]、脂環族ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸成分及びこれらのエステル形成性誘導体などに由来する構成単位が挙げられる。
【0103】
芳香族ジカルボン酸成分[ただし、第1のジカルボン酸成分(B1)を除く。]としては、例えば、単環式芳香族ジカルボン酸、多環式芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。単環式芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などのベンゼンジカルボン酸;アルキルベンゼンジカルボン酸、具体的には、4-メチルイソフタル酸などのC1-4アルキル-ベンゼンジカルボン酸などが挙げられる。
【0104】
多環式芳香族ジカルボン酸としては、例えば、縮合多環式芳香族ジカルボン酸、具体的には、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸などの縮合多環式C10-24アレーン-ジカルボン酸、好ましくは縮合多環式C10-14アレーン-ジカルボン酸など;アリールアレーンジカルボン酸、具体的には、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸などのC6-10アリール-C6-10アレーン-ジカルボン酸など;ジアリールアルカンジカルボン酸、具体的には、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸などのジC6-10アリールC1-6アルカン-ジカルボン酸など;ジアリールケトンジカルボン酸、具体的には、4.4’-ジフェニルケトンジカルボン酸などのジ(C6-10アリール)ケトン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0105】
脂環族ジカルボン酸成分としては、例えば、シクロアルカンジカルボン酸、具体的には、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などのC5-10シクロアルカン-ジカルボン酸など;架橋環式シクロアルカンジカルボン酸、具体的には、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸などのジ又はトリシクロアルカンジカルボン酸など;シクロアルケンジカルボン酸、具体的には、シクロヘキセンジカルボン酸などのC5-10シクロアルケン-ジカルボン酸など;架橋環式シクロアルケンジカルボン酸、具体的には、ノルボルネンジカルボン酸などのジ又はトリシクロアルケンジカルボン酸などが挙げられる。
【0106】
脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、アルカンジカルボン酸、具体的には、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などのC2-12アルカン-ジカルボン酸など;不飽和脂肪族ジカルボン酸、具体的には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのC2-10アルケン-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0107】
第1のジカルボン酸単位(B1)の割合は、ジカルボン酸単位(B)全体に対して、例えば、1モル%以上、具体的には10~100モル%程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、30モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、95モル%以上であり、特に、100モル%、実質的に第1のジカルボン酸単位(B1)のみで形成されるのが好ましい。第1のジカルボン酸単位(B1)の割合が少なすぎると、負の固有複屈折を有する位相差フィルムを得難く、所望の位相差に調製し難くなるおそれがある。
【0108】
フルオレン-9,9-ジイル骨格を有する重合成分に由来する単位、すなわち、第1のジオール単位(A1)及び第1のジカルボン酸単位(B1)の総量の割合は、ポリエステル樹脂の構成単位全体に対して、例えば、10モル%以上、具体的には、30~100モル%程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上であり、さらに好ましくは82~98モル%、なかでも、85~95モル%、特に、87~93モル%である。フルオレン-9,9-ジイル骨格を有する単位の割合が少な過ぎると、耐熱性が低下するおそれがあり、さらに、負の固有複屈折を有する位相差フィルムを調製し難くなるおそれがある。通常、フルオレン-9,9-ジイル骨格を有する構成単位などの剛直な分子骨格を有する構成単位の割合が多いと、成形性が著しく低下してフィルム成形、特に、延伸などによる薄膜化が困難となることが予想される。しかし、本発明では、所定の構成単位を特定の割合で含むためか意外にも成形性が高く、特に、一軸延伸よりも破断し易く成形困難な二軸延伸を施しても、フィルムを破断させることなく薄膜化できる。
【0109】
(ポリエステル樹脂の製造方法及びその特性)
ポリエステル樹脂は、ジオール成分(A)とジカルボン酸成分(B)とを反応させて製造すればよく、慣用の方法、例えば、エステル交換法、直接重合法などの溶融重合法、溶液重合法、界面重合法などで調製でき、溶融重合法が好ましい。なお、反応は、重合方法に応じて、溶媒の存在下又は非存在下で行ってもよい。
【0110】
ジカルボン酸成分(B)とジオール成分(A)との使用割合(又は仕込み割合)は、通常、前者/後者(モル比)=例えば、1/1.2~1/0.8、好ましくは1/1.1~1/0.9である。なお、反応において、各ジオール成分(A)及びジカルボン酸成分(B)の使用量(使用割合)は、必要に応じて、各成分などを過剰に用いて反応させてもよい。例えば、反応系から留出可能なエチレングリコールなどの第2のジオール成分(A2)は、ポリエステル樹脂中に導入される割合(又は導入割合)よりも過剰に使用してもよい。
【0111】
反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒としては、慣用のエステル化触媒、例えば、金属触媒などが利用できる。金属触媒としては、例えば、ナトリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;チタン、マンガン、コバルトなどの遷移金属;亜鉛、カドミウムなどの周期表第12族金属;アルミニウムなどの周期表第13族金属;ゲルマニウム、鉛などの周期表第14族金属;アンチモンなどの周期表第15族金属などを含む金属化合物が用いられる。金属化合物としては、例えば、アルコキシド;酢酸塩、プロピオン酸塩などの有機酸塩;ホウ酸塩、炭酸塩などの無機酸塩;金属酸化物などであってもよく、これらの水和物であってもよい。代表的な金属化合物としては、例えば、二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、シュウ酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウム-n-ブトキシドなどのゲルマニウム化合物;三酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモンエチレングリコレートなどのアンチモン化合物;テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、シュウ酸チタン、シュウ酸チタンカリウムなどのチタン化合物;酢酸マンガン・4水和物などのマンガン化合物;酢酸カルシウム・1水和物などのカルシウム化合物などが例示できる。
【0112】
これらの触媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。複数の触媒を用いる場合、反応の進行に応じて、各触媒を添加することもできる。これらの触媒のうち、酢酸マンガン・4水和物、酢酸カルシウム・1水和物、二酸化ゲルマニウムなどが好ましい。触媒の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分(B)1モルに対して、0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~40×10-4モルである。
【0113】
また、反応は、必要に応じて、熱安定剤や酸化防止剤などの安定剤の存在下で行ってもよい。通常、熱安定剤がよく利用され、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、亜リン酸、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイトなどのリン化合物などが挙げられる。熱安定剤の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分(A)1モルに対して、0.01×10-4~100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4~40×10-4モルである。
【0114】
反応は、通常、不活性ガス、例えば、窒素ガス;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなどの雰囲気中で行ってもよい。また、反応は、減圧下、例えば、1×10~1×10Pa程度で行うこともできる。反応温度は、重合方法に応じて選択でき、例えば、溶融重合法における反応温度は、150~300℃、好ましくは180~290℃、さらに好ましくは200~280℃である。
【0115】
このようにして得られるポリエステル樹脂のガラス転移温度Tgは、例えば、100~200℃程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、110~170℃、好ましくは115~150℃、さらに好ましくは120~140℃、特に、120~130℃である。ガラス転移温度Tgが高過ぎると、成形性が低下して、溶融製膜が困難になるおそれがあり、低過ぎると耐熱性が低下するおそれがあり、画像表示装置に実装後などにおける湿熱環境下での信頼性などが低下するおそれがある。
【0116】
ポリエステル樹脂の重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などにより測定でき、ポリスチレン換算で、例えば、10000~1000000程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、20000~100000、25000~80000、好ましくは30000~70000、35000~60000、40000~50000であってもよく、通常、40000~90000、好ましくは50000~80000、さらに好ましくは60000~70000である。重量平均分子量Mwが低すぎると、成形性(製膜性や延伸性)が低下し易く、延伸による薄膜化が困難となり破断するおそれがある。
【0117】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、ガラス転移温度Tg、重量平均分子量Mwは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0118】
[位相差フィルムの調製方法及びその特性]
本発明の位相差フィルムは、前記ポリエステル樹脂を製膜する製膜工程、必要に応じて、製膜工程で得られたフィルム原反を延伸する延伸工程を経ることにより調製できる。
【0119】
製膜工程において、前記ポリエステル樹脂は、本発明の効果を妨げない限り、他の慣用の熱可塑性樹脂などを含んでいてもよいが、通常、慣用の熱可塑性樹脂を含まない場合が多い。
【0120】
また、製膜工程において、前記ポリエステル樹脂は、本発明の効果を妨げない限り、種々の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、エステル類、フタル酸系化合物、エポキシ化合物、スルホンアミド類などの可塑剤;無機系難燃剤、有機系難燃剤、コロイド難燃物質などの難燃剤;酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などの安定剤;帯電防止剤;酸化物系無機充填剤、非酸化物系無機充填剤、金属粉末などの充填剤;発泡剤;消泡剤;滑剤;天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸またはその金属塩、酸アミド類などの離型剤;易滑性付与剤、具体的には、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、カオリンなどの無機微粒子、(メタ)アクリル系樹脂、(架橋)スチレン系樹脂などの有機微粒子;相溶化剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの添加剤の添加方法は、慣用の方法、例えば、一軸又は二軸押出装置を用いて、溶融混練する方法などにより添加してもよい。
【0121】
製膜方法は、特に制限されず、例えば、キャスティング法(溶液キャスト法又は溶液流延法)、エキストルージョン法、カレンダー法などにより調製できる。エキストルージョン法としては、インフレーション法、Tダイ法などの溶融押出法が挙げられる。成形性に優れるだけでなく、残留溶媒による光学的特性の低下を防止できる観点から、Tダイ法などの溶融押出法であるのが好ましい。
【0122】
製膜工程で得られるフィルム原反の平均厚みは、例えば、10~1000μm程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、20~500μm、30~200μm、35~150μm、40~120μm、45~110μmである。特に、後述する延伸工程において、フィルム原反を固定端一軸延伸又は二軸延伸に供する場合、フィルム原反の平均厚みは、例えば、50~170μm、好ましい範囲としては、以下段階的に、60~160μm、70~150μm、75~140μm、80~135μmである。フィルム原反の平均厚みが大き過ぎると、位相差フィルムを十分に薄膜化できないおそれがあり、平均厚みが小さ過ぎると、延伸工程などで破断するおそれがある。なお、平均厚みは、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0123】
本発明の位相差フィルムは、延伸により所望の位相差に調整し易く、かつ薄膜化し易い点から、通常、延伸工程を経て得られる延伸フィルムである場合が多い。延伸工程における延伸処理は、自由端一軸延伸のように長さ方向及び幅方向のうち、いずれか一方向に実質的に応力を作用させる延伸であってもよく、固定端一軸延伸、二軸延伸のように長さ方向及び幅方向の二方向に対して実質的に応力を作用させる延伸であってもよい。前記二軸延伸では、倍率がほぼ等しい等延伸であってもよく、倍率の異なる偏延伸であってもよい。
【0124】
また、「自由端一軸延伸」とは、フィルム面内において延伸方向に垂直な方向(以下、単に幅方向ともいう)に応力を作用させることなく行う一軸延伸であり、通常、自由端一軸延伸フィルムは前記幅方向にネックイン(収縮)が生じることが多い。一方、「固定端一軸延伸」とは、フィルム面内の延伸方向に対して、幅方向の長さを一定に維持又は固定(又はネックイン(収縮)を抑制)しつつ行う一軸延伸であり、幅方向には実質的に所定の応力が作用する。
【0125】
固定端一軸延伸及び二軸延伸は、長さ方向及び幅方向の二方向に対して実質的に応力を作用させるためか、一方向に応力を作用させる自由端一軸延伸に比べてフィルムの破断が起こり易く、剛直な骨格を有する樹脂では成形困難な場合が多い。しかし、本発明では、ポリエステル樹脂が剛直なフルオレン-9,9-ジイル骨格を多量に含んでいても、予想に反して成形性が高く、固定端一軸延伸又は二軸延伸が可能であるため、長さ方向及び幅方向の二方向に対して実質的に応力を作用させる延伸を施すのが好ましい。
【0126】
延伸温度、延伸倍率、延伸速度などの延伸条件にもよるが、通常、自由端一軸延伸では、ネガティブAプレートが調製でき;縦及び横方向の延伸倍率が等しい二軸延伸(等延伸)では、ポジティブCプレートが調製でき;固定端一軸延伸又は縦及び横方向の延伸倍率が異なる二軸延伸(偏延伸)では、ポジティブBプレートが調製できる。なお、ネガティブAプレートは、下記式(4)で表される関係式を満たす位相差フィルムであり、ポジティブCプレートは、下記式(5)で表される関係式を満たす位相差フィルムであり、ポジティブBプレートは、下記式(6)で表される関係式を満たす位相差フィルムである。
【0127】
nz=nx>ny (4)
nz>nx=ny (5)
nz>nx>ny (6)
【0128】
(式中、nxは位相差フィルム面内における遅相軸方向の屈折率、nyは位相差フィルム面内における進相軸方向の屈折率、nzは位相差フィルム厚み方向の屈折率を示す)。
【0129】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「遅相軸方向」とは、位相差フィルム面内における屈折率が最大となる方向を意味し、「進相軸方向」とは、位相差フィルム面内において前記遅相軸方向に垂直な方向を意味する。
【0130】
また、本明細書及び特許請求の範囲において、前記式(4)及び(5)における「=」は、式(4)におけるnz及びnx、又は式(5)におけるnx及びnyが、それぞれ完全に同一である場合のみならず、実質的に同一である場合(又は実用上許容される範囲)も含む意味に用いる。そのため、式(4)に関して、(nz-nx)×d(式中、dは位相差フィルムの平均厚みを示す。)が-10~10nmである場合を「nz=nx」とし;式(5)に関して、(nx-ny)×d(式中、dは位相差フィルムの平均厚みを示す。)が0~10nmである場合を「nx=ny」とする。
【0131】
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、nx、nyおよびnzから選択される2つの屈折率が実質的に同一(前記「=」で表される関係)であるフィルムを「一軸性フィルム」と称し、例えば、前記式(4)で表される関係式を満たすネガティブAプレート、前記式(5)で表される関係式を満たすポジティブCプレートが挙げられる。一方、nx、nyおよびnzがいずれも互いに実質的に同一(前記「=」で表される関係)でないフィルムを「二軸性フィルム」と称し、例えば、前記式(6)で表される関係式を満たすポジティブBプレートが挙げられる。
【0132】
(ネガティブAプレートを調製するための延伸条件)
ネガティブAプレートは、通常、自由端一軸延伸により製造できる。自由端一軸延伸において、延伸方向は、フィルム原反の長手方向に延伸する縦延伸、幅方向に延伸する横延伸のいずれであってもよい。延伸方法は特に限定されず、ロール間延伸方法、加熱ロール延伸方法、圧縮延伸方法、テンター延伸方法などの慣用の方法であってもよい。また、湿式延伸法であってもよいが、下記延伸温度との関係から、通常、乾式延伸法であることが多い。
【0133】
自由端一軸延伸の延伸温度は、前記ポリエステル樹脂のガラス転移温度Tg(以下、同じ)に対して、例えば、(Tg-10)~(Tg+20)℃、好ましくは以下段階的に、(Tg-5)~(Tg+10)℃、(Tg-3)~(Tg+5)℃、(Tg+2)~(Tg+5)℃であり、通常、Tg~(Tg+15)℃、より好ましくは(Tg+3)~(Tg+12)℃である。具体的な温度としては、例えば、100~150℃、好ましくは以下段階的に、110~145℃、120~140℃、129~133℃であり、通常、125~140℃、好ましくは128~137℃である。
【0134】
ネガティブAプレートのλ/2板(Rthが負の値を示すλ/2板、-λ/2板又は-1/2波長板)を調製し易い観点からは、前記延伸温度は、例えば、Tg~(Tg+10)℃、好ましくは(Tg+2)~(Tg+8)℃、さらに好ましくは(Tg+3)~(Tg+5)℃である。具体的な温度としては、例えば、125~135℃、好ましくは127~133℃、さらに好ましくは128~130℃である。
【0135】
ネガティブAプレートのλ/4板(Rthが負の値を示すλ/4板、-λ/4板又は-1/4波長板)を調製し易い観点からは、前記延伸温度は、例えば、(Tg+5)~(Tg+15)℃、好ましくは(Tg+8)~(Tg+13)℃、さらに好ましくは(Tg+10)~(Tg+12)℃である。具体的な温度としては、例えば、130~140℃、好ましくは133~138℃、さらに好ましくは135~137℃である。
【0136】
延伸温度が、前述の範囲に対して高過ぎる又は低過ぎると、所望の位相差を発現し難くなるだけでなく、フィルムが均一に延伸できなかったり、破断するおそれもある。
【0137】
自由端一軸延伸の延伸倍率は、特に制限されず、例えば、1.1~10倍、好ましい範囲としては、以下段階的に、1.3~8倍、1.5~6倍、1.8~5倍、2~4倍、2~3倍であり、特に3倍であり、通常、2~5倍、より好ましくは2.5~4.5倍、さらに好ましくは3~4倍である。延伸倍率が低過ぎると、所望の位相差が得られないおそれがある。延伸倍率が高過ぎると、位相差が高くなり過ぎたり、フィルムが破断するおそれもある。しかし、本発明の位相差フィルムは、成形性(製膜性及び延伸性)に優れ、靱性にも優れるためフィルムが破断し難い。また、位相差が発現し易く、薄膜であっても所望の又は十分な位相差が得られる。
【0138】
自由端一軸延伸の延伸速度は、例えば、0.1~1000mm/分程度、代表的には1~800mm/分であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、10~500mm/分、30~300mm/分、50~200mm/分、70~180mm/分、80~160mm/分、90~150mm/分、100~140mm/分、105~135mm/分、110~130mm/分であり、さらに好ましくは115~125mm/分である。延伸速度が低過ぎると、所望の位相差が得られないおそれがある。
【0139】
(ポジティブCプレートを調製するための延伸条件)
ポジティブCプレートは、フィルム面内方向において、縦横の二方向に作用する応力(または応力状態)を揃える(フィルム面内の二方向における配向状態を揃える)ことで調製できる。具体的には、同時二軸延伸で各方向にほぼ同じ延伸速度で等延伸する方法、同時または逐次二軸延伸で、各方向における倍率、温度、速度などの延伸条件をそれぞれ適宜調節して、同等の配向状態に揃える方法などにより調製できる。
【0140】
二軸延伸は、逐次二軸延伸又は同時二軸延伸のいずれであってもよく、通常、同時二軸延伸であってもよい。また、延伸方法としては、テンター延伸方法、ロール間延伸方法、チューブ延伸方法、これらの組み合わせなどが挙げられる。逐次二軸延伸では、通常、ロール間延伸により縦延伸した後、テンター延伸により横延伸するが、ロール間延伸ではネックインが生じたり、ロールとの接触より傷が転写されるおそれがあるものの、生産性に優れる点で好ましい。一方、同時二軸延伸では、フィルム両端にクリップ間のネックインが生じるおそれがあるが、面内位相差R0をほぼゼロに調整してポジティブCプレートを形成し易い点で好ましい。
【0141】
二軸延伸の場合、延伸温度は、例えば、(Tg-10)~(Tg+20)℃、好ましくは以下段階的に、(Tg-5)~(Tg+10)℃、(Tg-3)~(Tg+5)℃、(Tg+2)~(Tg+5)℃であり、より薄膜に形成し易い点から、通常、(Tg-2)~(Tg+15)℃、例えば、Tg~(Tg+15)℃、好ましくはTg~(Tg+8)℃、さらに好ましくは(Tg+5)~(Tg+7)℃である。具体的な温度としては、例えば、100~150℃、好ましくは以下段階的に、110~145℃、120~140℃、129~133℃であり、より薄膜に形成し易い点から、通常、123~140℃、好ましくは125~132℃、130~132℃である。延伸温度が、前述の範囲に対して高過ぎる又は低過ぎると、所望の位相差を発現し難くなるだけでなく、フィルムが均一に延伸できなかったり、破断するおそれもある。
【0142】
二軸延伸の場合、延伸倍率は、縦及び横方向それぞれに、例えば、1.1~10倍、好ましい範囲としては、以下段階的に、1.3~8倍、1.5~6倍、1.8~5倍、2~4倍、2~3倍であり、通常、1.5~3倍であり、ポジティブCプレートを形成し易い点から、1.6~2.5倍、好ましくは1.7~2.3倍、さらに好ましくは1.8~2.2倍、特に、1.9~2.1倍である。面内位相差R0をほぼゼロに調整してポジティブCプレートを形成し易い点から、縦及び横方向の延伸倍率が等倍(等延伸)であるのが好ましい。延伸倍率が低過ぎると、所望の位相差が得られないおそれがある。延伸倍率が高過ぎると、位相差が高くなり過ぎたり、フィルムが破断するおそれもある。しかし、本発明の位相差フィルムは、成形性に優れ、靱性にも優れるためフィルムが破断し難い。また、位相差が発現し易く、薄膜であっても所望の又は十分な位相差が得られる。
【0143】
二軸延伸の場合、延伸速度は、例えば、0.1~1000mm/分程度、代表的には1~800mm/分であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、10~500mm/分、30~300mm/分、50~200mm/分、70~180mm/分、80~160mm/分、90~150mm/分、100~140mm/分、105~135mm/分、110~130mm/分であり、さらに好ましくは115~125mm/分である。面内位相差R0をほぼゼロに調整してポジティブCプレートを形成し易い点から、縦及び横方向で等速に延伸するのが好ましい。延伸速度が低過ぎると、所望の位相差が得られない場合がある。延伸速度が速過ぎると、フィルムが破断するおそれがある。しかし、本発明の位相差フィルムは、成形性及び靱性に優れるためフィルムが破断し難い。また、位相差が発現し易く、薄膜であっても所望の又は十分な位相差が得られる。
【0144】
(ポジティブBプレートを調製するための延伸条件)
ポジティブBプレートは、フィルム面内方向において、縦横の二方向に作用する応力(または応力状態)に差をつける(フィルム面内の二方向における配向状態に差をつける)ことで調製できる。通常、固定端一軸延伸又は二軸延伸で調製することが多い。延伸方法は、位相差フィルムの用途などに応じて選択してもよく、具体的には、ポジティブBプレートのλ/2板(Rthが負の値を示すλ/2板、-λ/2板又は-1/2波長板)、ポジティブBプレートのλ/4板(Rthが負の値を示すλ/4板、-λ/4板又は-1/4波長板)の調製には固定端一軸延伸であることが多く、VA方式の液晶ディスプレイに適した位相差フィルムの調製には、二軸延伸、なかでも逐次二軸延伸であることが多い。
【0145】
固定端一軸延伸は、自由端一軸延伸に比べてネックインが少なく、物性値の調整が容易である点で好ましく、その延伸方向は、フィルム原反の長手方向に延伸する縦延伸、幅方向に延伸する横延伸、斜め方向に延伸する斜め延伸、例えば、長手方向に対して45°の角度をなす方向への延伸などであってもよい。延伸方法は、通常、テンター延伸方法である。また、湿式延伸法であってもよいが、下記延伸温度との関係から、通常、乾式延伸法であることが多い。
【0146】
固定端一軸延伸の場合、延伸温度は、例えば、(Tg-10)~(Tg+20)℃、好ましくは以下段階的に、(Tg-5)~(Tg+15)℃、Tg~(Tg+10)℃、(Tg+3)~(Tg+8)℃であり、より好ましくは(Tg+4)~(Tg+7)℃である。具体的な温度としては、例えば、100~150℃、好ましくは以下段階的に、120~145℃、125~140℃、126~135℃、128~133℃であり、より好ましくは129~132℃である。
【0147】
ポジティブBプレートのλ/2板を調製し易い観点からは、前記延伸温度は、例えば、Tg~(Tg+10)℃、好ましくは(Tg+1)~(Tg+8)℃、より好ましくは(Tg+2)~(Tg+6)℃、さらに好ましくは(Tg+3)~(Tg+5)℃である。具体的な温度としては、例えば、125~135℃、好ましくは126~133℃、より好ましくは127~131℃、さらに好ましくは128~130℃である。
【0148】
ポジティブBプレートのλ/4板を調製し易い観点からは、前記延伸温度は、例えば、(Tg+3)~(Tg+13)℃、好ましくは(Tg+4)~(Tg+11)℃、より好ましくは(Tg+5)~(Tg+9)℃、さらに好ましくは(Tg+6)~(Tg+8)℃である。具体的な温度としては、例えば、128~138℃、好ましくは129~136℃、より好ましくは130~134℃、さらに好ましくは131~133℃である。
【0149】
延伸温度が、前述の範囲に対して高過ぎる又は低過ぎると、所望の位相差を発現し難くなるだけでなく、フィルムが均一に延伸できなかったり、破断するおそれもある。
【0150】
固定端一軸延伸の場合、延伸倍率は、特に制限されず、例えば、1.1~10倍、好ましい範囲としては、以下段階的に、1.2~8倍、1.5~5倍、1.8~4倍、2~3倍であり、より好ましくは2~2.5倍である。
【0151】
ポジティブBプレートのλ/2板を調製し易い観点からは、前記延伸倍率は、例えば、1.5~3.5倍、好ましくは1.7~3.3倍、より好ましくは2~3倍、さらに好ましくは2.2~2.8倍、なかでも2.3~2.7倍、特に2.4~2.6倍である。
【0152】
ポジティブBプレートのλ/4板を調製し易い観点からは、前記延伸倍率は、例えば、1.1~3倍、好ましくは1.3~2.7倍、より好ましくは1.5~2.5倍、さらに好ましくは1.7~2.3倍、なかでも1.8~2.2倍、特に1.9~2.1倍である。
【0153】
延伸倍率が低過ぎると、所望の位相差が得られないおそれがある。延伸倍率が高過ぎると、位相差が高くなり過ぎたり、フィルムが破断するおそれもある。しかし、本発明の位相差フィルムは、成形性(製膜性及び延伸性)に優れ、靱性にも優れるためフィルムが破断し難い。また、位相差が発現し易く、薄膜であっても所望の又は十分な位相差が得られる。
【0154】
一軸延伸の場合、延伸速度は、例えば、0.1~1000mm/分程度、代表的には1~800mm/分であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、10~500mm/分、30~300mm/分、50~200mm/分、70~180mm/分、80~160mm/分、90~150mm/分、100~140mm/分、105~135mm/分、110~130mm/分であり、さらに好ましくは115~125mm/分である。延伸速度が低過ぎると、所望の位相差が得られないおそれがある。
【0155】
一方、二軸延伸の場合、二方向の配向状態が異なるよう延伸条件を調整する限り、同時二軸延伸であってもよく、逐次二軸延伸であってもよい。通常、逐次二軸延伸であることが多い。延伸方法としては、テンター延伸方法、ロール間延伸方法、チューブ延伸方法、これらの組み合わせなどが挙げられる。逐次二軸延伸では、通常、ロール間延伸により縦延伸した後、テンター延伸により横延伸する方法であることが多い。
【0156】
二軸延伸の場合、延伸温度は、例えば、(Tg-10)~(Tg+15)℃程度であってもよく、VA方式の液晶ディスプレイに適した位相差フィルムを調製し易い点から、好ましくは以下段階的に、(Tg-5)~(Tg+10)℃、Tg~(Tg+7)℃、(Tg+1)~(Tg+5)℃であり、さらに好ましくは(Tg+2)~(Tg+4)℃である。具体的な温度としては、例えば、100~150℃、好ましくは以下段階的に、110~145℃、115~140℃、120~135℃、125~132℃、126~130℃であり、さらに好ましくは127~129℃である。なお、逐次二軸延伸の場合、各延伸ごとの温度はそれぞれ異なっていてもよく、通常、同一であることが多い。延伸温度が、前述の範囲に対して高過ぎる又は低過ぎると、所望の位相差を発現し難くなるだけでなく、フィルムが均一に延伸できなかったり、破断するおそれもある。
【0157】
二軸延伸の場合、延伸倍率は、縦及び横方向それぞれに、例えば、1.1~10倍程度であってもよく、VA方式の液晶ディスプレイに適した位相差フィルムを調製し易い点から、好ましい範囲としては、以下段階的に、1.2~8倍、1.3~5倍、1.4~3倍、1.5~2倍である。延伸倍率が低過ぎると、所望の位相差が得られないおそれがある。延伸倍率が高過ぎると、位相差が高くなり過ぎたり、フィルムが破断するおそれもある。しかし、本発明の位相差フィルムは、成形性に優れ、靱性にも優れるためフィルムが破断し難い。また、位相差が発現し易く、薄膜であっても所望の又は十分な位相差が得られる。
【0158】
また、前記延伸倍率は、縦及び横方向でそれぞれ等倍の等延伸であってもよいが、通常、縦及び横方向でそれぞれ異なる偏延伸であることが多い。偏延伸である場合、縦及び横方向の延伸倍率の比(縦及び横方向のうち、小さい方の延伸倍率に対する大きい方の延伸倍率の比)は、例えば、1.01~10程度であってもよく、VA方式の液晶ディスプレイに適した位相差フィルムを調製し易い点から、好ましい範囲としては、以下段階的に、1.05~3、1.1~2、1.15~1.5、1.18~1.3であり、さらに好ましくは1.2~1.25である。縦及び横方向の延伸倍率の比が低過ぎる又は高過ぎると、所望の位相差が得られないおそれがある。
【0159】
二軸延伸の場合、延伸速度は、例えば、0.1~1000mm/分程度、代表的には1~800mm/分であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、10~500mm/分、30~300mm/分、50~200mm/分、70~180mm/分、80~160mm/分、90~150mm/分、100~140mm/分、105~135mm/分、110~130mm/分であり、さらに好ましくは115~125mm/分である。生産性の点から、縦及び横方向で等速に延伸するのが好ましい。延伸速度が低過ぎると、所望の位相差が得られない場合がある。延伸速度が速過ぎると、フィルムが破断するおそれがある。しかし、本発明の位相差フィルムは、成形性及び靱性に優れるためフィルムが破断し難い。また、位相差が発現し易く、薄膜であっても所望の又は十分な位相差が得られる。
【0160】
なお、位相差フィルムは、本発明の効果を害しない限り、必要に応じて、他のフィルム(又はコーティング層)を積層してもよい。例えば、位相差フィルム表面に、界面活性剤や離型剤、微粒子を含有したポリマー層をコーティングして、易滑層を形成してもよい。
【0161】
このようにして得られる位相差フィルム(ネガティブAプレート、ポジティブCプレート又はポジティブBプレート)は、靱性に優れるため薄膜(又は薄肉)に成形できる。そのため、位相差フィルムの厚み(又は平均厚み)は、例えば、5~200μm、好ましい範囲としては、以下段階的に、5~150μm、5~100μm、10~80μm、15~70μm、20~60μm、25~55μm、30~50μm、33~45μmであり、通常、10~50μm、好ましくは15~45μm、より好ましくは18~40μm、さらに好ましくは20~35μm、なかでも、22~30μm、特に、24~28μmである。本発明の位相差フィルムは、薄膜であっても大きな又は十分な位相差を示す。なお、平均厚みは、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0162】
本発明では、特定のポリエステル樹脂を用いて特定の延伸条件で延伸フィルムを形成するため、負の固有複屈折を有するネガティブAプレート、ポジティブCプレート又はポジティブBプレート、好ましくはポジティブCプレート又はポジティブBプレートを作製できる。位相差フィルムがネガティブAプレートである場合、-λ/2板又は-λ/4板であるのが好ましく、位相差フィルムがポジティブBプレートである場合、用途に応じて-λ/2板又は-λ/4板であってもよい。なお、通常のλ/2板及びλ/4板は、ポジティブAプレート、すなわち、nx>ny=nz(式中、nx、ny及びnzは、前記に同じ。)で表される関係式を満たす位相差フィルムであるか、又はネガティブBプレート、すなわち、nx>ny>nz(式中、nx、ny及びnzは、前記に同じ。)で表される関係式を満たす位相差フィルムであり、Rthは正の値を示す。
【0163】
これらの位相差フィルムにおいて、温度20℃、波長550nmにおける面内位相差(又は面方向のレタデーション)R0(550)は、ネガティブAプレートである場合、例えば、100~350nm程度の範囲から選択でき、好ましくは120~300nmである。ネガティブAプレートのλ/2板(又は-λ/2板)である場合、前記面内位相差R0(550)は、例えば、260~290nm、好ましくは265~285nm、さらに好ましくは270~280nmである。ネガティブAプレートのλ/4板(又は-λ/4板)である場合、前記面内位相差R0(550)は、例えば、115~160nm、好ましくは124~151nm、さらに好ましくは130~145nmである。
【0164】
また、ポジティブCプレートである場合、前記面内位相差R0(550)は、例えば、0~10nm、好ましくは0~9nm、さらに好ましくは0~8nmである。
【0165】
ポジティブBプレートである場合、前記面内位相差R0(550)は、例えば、40~300nm程度の範囲から選択でき、好ましくは50~290nmである。ポジティブBプレートのλ/2板(又は-λ/2板)である場合、前記面内位相差R0(550)は、例えば、260~290nm、好ましくは265~285nm、さらに好ましくは270~280nmである。ポジティブBプレートのλ/4板(又は-λ/4板)である場合、前記面内位相差R0(550)は、例えば、115~160nm、好ましくは124~151nm、より好ましくは125~150nm、さらに好ましくは130~145nmである。ポジティブBプレートが、VA方式の液晶ディスプレイに適した位相差フィルムである場合、前記面内位相差R0(550)は、例えば、40~75nm、好ましくは45~70nm、さらに好ましくは50~65nmである。
【0166】
また、位相差フィルムにおいて、温度20℃、波長550nmにおける厚み方向位相差(又は厚み方向のレタデーション)Rth(550)は、負の値である限り特に制限されず、延伸条件や膜厚などにより適宜調整すればよい。例えば、本発明の位相差フィルムを1又は複数の他の光学フィルムなどと積層して得られる積層体(又は光学部材)として利用する場合、他の光学フィルムのRthが、通常、正の値を示すことが多いため、本発明の位相差フィルムと組み合わせることにより、積層体全体におけるRthが0に近づくように調整するのが好ましい。すなわち、本発明の位相差フィルムは、前記積層体におけるRth調整用の位相差フィルムとして好適に利用できる。本発明の位相差フィルムにおける代表的なRth(550)としては、例えば、-250~-10nm、具体的には-200~-30nm程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、-190~-40nm、-180~-50nm、-170~-60nm、-150~-70nm、-130~-75nm、-100~-80nmであり、特に、-90~-85nmである。
【0167】
なお、面内位相差R0及び厚み方向位相差Rthは、下記式で定義され、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0168】
R0=(nx-ny)×d
Rth={(nx+ny)/2-nz}×d
【0169】
(式中、dは位相差フィルムの平均厚みを示し、nx、ny及びnzは、前記式(4)~(6)の記載に同じ)。
【0170】
本発明のネガティブAプレート、ポジティブCプレート及びポジティブBプレートは、ポジティブAプレートなどのRthが正の値を示す位相差フィルムなどとの積層により液晶ディスプレイの視野角補償板として好適に利用できる。また、ポジティブCプレートは有機ELディスプレイの円偏光板に積層して視野角補償板に好適に利用できる。
【実施例
【0171】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に評価項目を示す。
【0172】
[評価方法]
(ガラス転移温度Tg)
示差走査熱量計(セイコーインスツル(株)製、「DSC 6220」)を用い、アルミパンに試料を入れ、30℃から200℃の範囲でTgを測定した。
【0173】
(分子量)
ゲル浸透クロマトグラフィ(東ソー(株)製、「HLC-8120GPC」)を用い、試料をクロロホルムに溶解させ、ポリスチレン換算で、重量平均分子量Mwを測定した。
【0174】
(面内位相差R0(550)、厚み方向の位相差Rth(550))
リタデーション測定装置(大塚電子(株)製「RETS-100」)を用いて、測定温度20℃、波長550nmで、延伸フィルムのR0(550)、Rth(550)を測定した。
【0175】
(平均厚み)
測厚計((株)ミツトヨ製「マイクロメーター」)を用いて、フィルムの長手方向に対して、チャック間を等間隔に3点測定し、その平均値を算出した。
【0176】
[原料]
FDPM:9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレン[9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン(又はフルオレン-9,9-ジプロピオン酸)のジメチルエステル]、特開2005-89422号公報の実施例1記載のアクリル酸t-ブチルをアクリル酸メチル[37.9g(0.44モル)]に変更したこと以外は同様にして合成したもの
DMT:ジメチルテレフタレート
BPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
EG:エチレングリコール
【0177】
[合成例1]
FDPM 1.00モル、BPEF 0.80モル、EG 2.20モルに、エステル交換触媒として酢酸マンガン・4水和物2×10-4モル及び酢酸カルシウム・1水和物8×10-4モルを加え、撹拌しながら徐々に加熱溶融した。230℃まで昇温した後、トリメチルホスフェート14×10-4モル、酸化ゲルマニウム20×10-4モルを加え、270℃、0.13kPa以下に到達するまで、徐々に昇温、減圧しながらEGを除去した。所定の撹拌トルクに到達後、内容物を反応器から取り出し、ポリエステル樹脂1のペレットを調製した。
【0178】
得られたペレットを、H-NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂1に導入されたジカルボン酸成分の100モル%がFDPM由来であり、導入されたジオール成分の80モル%がBPEF由来、20モル%がEG由来であった。
【0179】
ポリエステル樹脂1のガラス転移温度Tgは125℃、重量平均分子量Mwは66500であった。
【0180】
[実施例1~11]
合成例1で作製したポリエステル樹脂1を二軸押出機((株)テクノベル製「KZW15-30MG」、L/D=45、スクリュー径D15mm、回転速度200rpm)を用いて、温度260℃で溶融押出成形し、Tダイ、巻取り装置を用いて、平均厚み50μm、80μm又は100μmのフィルム原反を作製した。得られたフィルムを60mm×60mmのサイズに切り出し、延伸装置((株)井元製作所製「フィルム二軸延伸機IMC-1A97」)を用いて表1に記載の延伸方法、延伸温度及び延伸倍率、並びに延伸速度120mm/分で一軸又は二軸延伸して、延伸フィルムを作製した。なお、二軸延伸した実施例10及び11では、各方向ともに延伸速度120mm/分で延伸した。得られた延伸フィルムのR0(550)、Rth(550)及び平均厚みを表1に示す。
【0181】
[実施例12~15]
合成例1で作製したポリエステル樹脂1を二軸押出機((株)テクノベル製「KZW15-30MG」、L/D=45、スクリュー径D15mm、回転速度200rpm)を用いて、温度260℃で溶融押出成形し、Tダイ、巻取り装置を用いて、平均厚み125μm、100μm、80μm又は135μmのフィルム原反を作製した。得られたフィルムを60mm×60mmのサイズに切り出し、延伸装置((株)井元製作所製「フィルム二軸延伸機IMC-1A97」)を用いて表1に記載の延伸方法、延伸温度及び延伸倍率、並びに延伸速度120mm/分で一軸又は二軸延伸して、延伸フィルムを作製した。なお、逐次二軸延伸した実施例14及び15では、各方向ともに同じ延伸温度(128℃)、及び同じ延伸速度120mm/分で延伸した。得られた延伸フィルムのR0(550)、Rth(550)及び平均厚みを表1に示す。
【0182】
[合成例2]
ジカルボン酸成分として、FDPMに代えて、DMT 1.00モルを用い、ジオール成分として、BPEF 0.70モル、EG 2.30モルを用いたこと以外は合成例1と同様にしてポリエステル樹脂2を調製した。得られたペレットを、H-NMRにより分析したところ、ポリエステル樹脂2に導入されたジカルボン酸成分の100モル%がDMT由来であり、導入されたジオール成分の70モル%がBPEF由来、30モル%がEG由来であった。
【0183】
得られたポリエステル樹脂2のガラス転移温度Tgは142℃、重量平均分子量Mwは45700であった。
【0184】
[比較例1~11]
合成例2で得られたポリエステル樹脂2を用いて平均厚み100μmのフィルム原反を作製し、表1記載の延伸条件とする以外は、上記実施例1~11記載の方法と同様にして延伸フィルムを作製した。得られた延伸フィルムのR0(550)、Rth(550)及び平均厚みを表2に示す。
【0185】
【表1】
【0186】
【表2】
【0187】
表1及び2から明らかなように、いずれの実施例で調製した延伸フィルムにおいても、厚み方向の位相差Rthは負の値を示し、自由端一軸延伸した実施例1~9ではネガティブAプレートが得られ、同時二軸延伸で等延伸した実施例10及び11ではポジティブCプレートが得られ、固定端一軸延伸、又は逐次二軸延伸で偏延伸した実施例12~15ではポジティブBプレートが得られた。また、比較例では、延伸によりフィルムが破断してしまう場合があるのに対して、実施例では、剛直なフルオレン骨格を有する構成単位の割合が多いにもかかわらず、意外にもフィルムが破断することなく製膜及び延伸可能で薄膜に成形でき、高い成形性を有していた。さらに、得られた延伸フィルムは柔軟で、薄膜であるにもかかわらず適度な靭性などの機械的強度を有しており、単層構造であっても取り扱い性に優れていた。なかでも、実施例10~15では、自由端一軸延伸よりも安定して成形することが難しい固定端一軸延伸及び二軸延伸、すなわち、長さ方向及び幅方向の二方向に実質的に応力を作用させる延伸を施しても、フィルムが破断することなく、膜厚が薄く取り扱い性に優れた延伸フィルムが成形できており、特に意外であった。
【0188】
また、得られた延伸フィルムは、膜厚が薄いにもかかわらず、位相差フィルムとして十分な位相差を示すとともに、ガラス転移温度Tgも高く良好な耐熱性を示した。これらの実施例のなかでも、実施例1、2及び6は-λ/2板(ネガティブAプレートのλ/2板)に適しており、実施例4及び7は-λ/4板(ネガティブAプレートのλ/4板)に適しており、実施例10及び11、なかでも薄膜な点で、実施例11はポジティブCプレートとして特に適していた。また,実施例12は-λ/2板(ポジティブBプレートのλ/2板)に適しており、実施例13は-λ/4板(ポジティブBプレートのλ/4板)に適しており、実施例14及び15、なかでも薄膜な点で実施例14はVA方式の液晶ディスプレイ用位相差フィルムとして特に適していた。
【産業上の利用可能性】
【0189】
本発明の位相差フィルムは、高い耐熱性を示し、柔軟性又は靭性などの機械的特性にも優れており、取り扱い性が高い。また、成形性にも優れるため、薄膜化可能であるとともに、薄く成形しても十分な位相差が得られる。さらに、厚み方向の位相差Rthが負の値を示すため、ネガティブAプレート、ポジティブCプレート、又はポジティブBプレートとして、偏光板と積層することで視野角補償機能を付与できる。そのため、前記偏光板を備えた画像表示装置、例えば、反射型液晶表示装置、半透過型液晶表示装置、有機EL表示装置などに好適に用いられる。