(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】動力伝達装置及び動力伝達装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 57/023 20120101AFI20220926BHJP
F16H 57/08 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
F16H57/023
F16H57/08
(21)【出願番号】P 2020558203
(86)(22)【出願日】2019-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2019042238
(87)【国際公開番号】W WO2020110554
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2018220853
(32)【優先日】2018-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】松下 浩之
(72)【発明者】
【氏名】神山 晃
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0306304(US,A1)
【文献】特開2006-342846(JP,A)
【文献】特開2018-179263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/023
F16H 57/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一端が開口し、且つ、軸方向の他端に壁部を有する筒状部材と、
前記筒状部材の内部に収容された遊星ギアセットと
クラッチと、を有し、
前記遊星ギアセットのキャリアは、外周側に突出する突出部を有し、
前記突出部は、前記壁部と、前記遊星ギアセットのリングギアと、の間に位置し、
前記キャリアは
前記クラッチのハブ部と一体形成されており、
前記ハブ部は、前記キャリアよりも前記壁部側に位置し、
前記突出部の最外周部は、前記ハブ部の最外周部よりも外周側に位置
し、
前記リングギアは、前記筒状部材のスプラインに嵌合するとともに、前記軸方向の一端側への移動が規制されている、
動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記リングギアは、前記筒状部材と別体で形成されている、動力伝達装置。
【請求項3】
軸方向の一端が開口し、且つ、軸方向の他端に壁部を有する筒状部材と、
前記筒状部材の内部に収容された遊星ギアセットと、を有する動力伝達装置の製造方法であって、
前記遊星ギアセットのキャリアは、外周側に突出する突出部を有し、
前記突出部が、前記壁部と、前記遊星ギアセットのリングギアと、の間に位置するように、前記遊星ギアセットを前記筒状部材にセットした後に、前記遊星ギアセットがセットされた筒状部材を開口した一端を下側にした状態で別部材にセットする、動力伝達装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置及び動力伝達装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転駆動力の伝達経路上に遊星ギアセットを有する自動変速機が開示されている。
【0003】
本発明は、遊星ギアセットにおけるキャリアの脱落を防止することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明は、
軸方向の一端が開口し、且つ、軸方向の他端に壁部を有する筒状部材と、
前記筒状部材の内部に収容された遊星ギアセットと、を有し、
前記遊星ギアセットのキャリアは、外周側に突出する突出部を有し、
前記突出部は、前記壁部と、前記遊星ギアセットのリングギアと、の間に位置する構成の動力伝達装置とした。
【0006】
本発明によれば、遊星ギアセットにおけるキャリアの脱落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】前後進切替機構の主要部を説明する図である。
【
図4】動力伝達装置の製造方法を説明する図である。
【
図5】動力伝達装置の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の動力伝達装置が、車両用のベルト式の無段変速機1である場合を例に挙げて説明する。
【0009】
図1は、ベルト式の無段変速機1が備える前後進切替機構2周りを説明する図である。
図2は、前後進切替機構2の主要部を説明する図である。
図2の(a)は、遊星ギアセット3の構成を説明する図である。
図2の(b)は、
図2の(a)におけるA-A矢視図である。なお、
図2の(a)では、説明の便宜上、後進ブレーキ5周りの図示を省略している。
【0010】
図1に示すように、ベルト式の無段変速機1では、エンジン(図示せず)の回転軸X回りの回転駆動力が、トルクコンバータ(図示せず)の出力軸(回転伝達軸9)を介して、前後進切替機構2に入力される。
前後進切替機構2は、遊星ギアセット3と、前進クラッチ4と、後進ブレーキ5と、を有している。
前後進切替機構2では、前進クラッチ4が締結されると、トルクコンバータ側(図中、右側)から入力された回転が、順回転で変速機構部(図示せず)側(図中、左側)に出力される。後進ブレーキ5が締結されると、トルクコンバータ側から入力された回転が、逆回転で変速機構部側に出力される。
【0011】
[変速機ケース10]
図1に示すように、変速機ケース10は、前後進切替機構2を収容する空間と、変速機構部を収容する空間とを仕切る仕切壁部102を有する。当該仕切壁部102は、回転軸Xに直交していると共に、回転軸X方向から見てリング状を成している。
仕切壁部102には、当該仕切壁部102の外周を全周に亘って囲む外径側支持壁部101と、仕切壁部102の内周を全周に亘って囲む内径側支持壁部103と、が形成されている。
【0012】
内径側支持壁部103は、仕切壁部102に直交する方向(回転軸X方向)に延びる円筒状を成している。内径側支持壁部103には、変速機構部を構成するプライマリプーリの軸部81が、ベアリングBを介して回転可能に支持されている。
【0013】
外径側支持壁部101は、仕切壁部102に直交する方向(回転軸X方向)に延びる円筒状を成している。回転軸X方向において、外径側支持壁部101は、仕切壁部102からの延出長さL1が、内径側支持壁部103の延出長さL2よりも長くなっている(L1>L2)。
外径側支持壁部101の内側に、後進ブレーキ5が収容されている。
【0014】
[後進ブレーキ5]
図1に示すように、後進ブレーキ5は、変速機ケース10における外径側支持壁部101の内周にスプライン嵌合したドリブンプレート51と、後記するクラッチドラム6の周壁部62の外周にスプライン嵌合したドライブプレート52と、回転軸X方向にストロークするピストン53と、を有している。
【0015】
固定側の部材である外径側支持壁部101においてドリブンプレート51は、回転軸X回りの回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
周壁部62においてドライブプレート52は、回転軸X周りの周方向におけるクラッチドラム6との相対回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
【0016】
ドリブンプレート51とドライブプレート52は、回転軸X方向で交互に配置されている。ドリブンプレート51とドライブプレート52は、ドリブンプレート51の内径側とドライブプレート52の外径側とが重なるように配置されている。
【0017】
ドリブンプレート51とドライブプレート52の重なる領域の側方には、ピストン53の押圧部531が位置している。
ピストン53は、リング状の基部530と、当該基部530の外径側から延出する押圧部531とを有している。
【0018】
変速機ケース10において基部530は、外径側支持壁部101と内径側支持壁部103との間の凹状の空間内に設けられている。
【0019】
押圧部531は、基部530の外周側に設けられており、基部530に直交する方向(回転軸X方向)に延びている。押圧部531の先端面531aは、回転軸X方向においてドリブンプレート51とドライブプレート52の重なる領域に、ウェーブスプリング57を間に挟んで対向している。
【0020】
ドリブンプレート51とドライブプレート52とから見て、ピストン53とは反対側(図中、右側)には、スナップリング59で位置決めされたリテーニングプレート58が設けられている。
仕切壁部102におけるピストン53のリング状の基部530との対向部には、ピストン53の作動油圧が供給される油室R1が形成されている。
【0021】
この油室R1に作動油圧が供給されると、ピストン53が、スプリングリテーナ55で支持されたスプリングSp1を圧縮しながら、仕切壁部102から離れる方向(図中、右方向)に変位する。
そうすると、ドリブンプレート51とドライブプレート52とが、ピストン53の押圧部531により押されて、リテーニングプレート58側に変位する。
これにより、ドリブンプレート51とドライブプレート52とが、作動油圧に応じた圧力で、押圧部531とリテーニングプレート58との間で把持される。
そして、ドリブンプレート51とドライブプレート52が相対回転不能に締結されると、後進ブレーキ5が締結状態になって、クラッチドラム6の回転が規制される。さらに、クラッチドラム6の周壁部62の内周にスプライン嵌合したリングギア32(
図2の(a)参照)もまた、間接的に回転が規制される。
【0022】
[前進クラッチ4]
図1に示すように、前進クラッチ4は、クラッチドラム6の周壁部62の内周にスプライン嵌合したドリブンプレート41と、後記するキャリア34の支持筒342の外周にスプライン嵌合したドライブプレート42と、油圧により回転軸X方向にストロークするピストン43と、を有している。支持筒342は、いわゆるクラッチハブとしての機能を有する。
【0023】
周壁部62においてドリブンプレート41は、回転軸X回りの回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
支持筒342においてドライブプレート42は、回転軸X周りの周方向における支持筒342との相対回転が規制された状態で、回転軸X方向に移動可能に設けられている。
【0024】
図1に示すように、ドリブンプレート41とドライブプレート42は、回転軸X方向で交互に配置されている。ドリブンプレート41とドライブプレート42は、ドリブンプレート41の内径側とドライブプレート42の外径側とが重なるように配置されている。
【0025】
ドリブンプレート41とドライブプレート42とから見て、ピストン43とは反対側(図中、左側)には、スナップリング49で位置決めされたリテーニングプレート48が設けられている。
ピストン43の押圧部43aは、ドリブンプレート41とドライブプレート42の重なる領域に、ウェーブスプリング47を間に挟んで対向している。
【0026】
ピストン43は、クラッチドラム6の底壁部61に設けたリング状の凹部610内で、回転軸X方向に進退移動可能に設けられている。
底壁部61におけるピストン43のリング状の基部430との対向部には、ピストン43の作動油圧が供給される油室R2が形成されている。
【0027】
この油室R2に作動油圧が供給されると、ピストン43が、スプリングリテーナ45で支持されたスプリングSp2を圧縮しながら、底壁部61から離れる方向(図中、左方向)に変位する。
そうすると、ドリブンプレート41とドライブプレート42とが、ピストン43の押圧部43aにより押されて、リテーニングプレート48側に変位する。
これにより、ドリブンプレート41とドライブプレート42とが、作動油圧に応じた圧力で、押圧部43aとリテーニングプレート48との間で把持される。
そして、ドリブンプレート41とドライブプレート42が相対回転不能に締結されると、前進クラッチ4が締結状態になる。
【0028】
ここで、ドライブプレート42がスプライン嵌合する支持筒342は、遊星ギアセット3のキャリア34の側板部341と一体に形成されている(
図2の(a)参照)。
そのため、前進クラッチ4が締結状態になると、クラッチドラム6と、遊星ギアセット3のキャリア34との相対回転が規制される。
【0029】
[遊星ギアセット3]
図2の(a)に示すように、遊星ギアセット3は、回転伝達軸9と一体に回転するサンギア31と、クラッチドラム6と一体に回転するリングギア32と、を有しており、サンギア31とリングギア32との間には、キャリア34で保持された一対のピニオンギア33(33A、33B)が位置している。遊星ギアセット3は、ダブルピニオン式の遊星歯車機構である。
なお、遊星ギアセット3は、シングルピニオン式の遊星歯車機構であっても良い。
【0030】
遊星ギアセット3のサンギア31は、回転伝達軸9と一体に形成されており、サンギア31の外周にはピニオンギア33Aが噛合している。
ピニオンギア33Aは、サンギア31とピニオンギア33Bに噛合しており、ピニオンギア33Bは、ピニオンギア33Aの外周と、リングギア32の内周に噛合している。
リングギア32は、クラッチドラム6の周壁部62にスプライン嵌合している。
【0031】
図3は、遊星ギアセット3のキャリア34を説明する図である。
図3の(a)は、
図2の(a)に示すキャリア34を、回転軸X方向の支持筒342側(右側)から見た斜視図である。
図3の(b)は、
図2の(a)に示すキャリア34を、回転軸X方向における連結部343側(左側)から見た斜視図である。
【0032】
キャリア34は、互いに平行に配置された一対の側板部340、341と、一方の側板部341と一体に形成された支持筒342と、回転軸X方向に間隔をあけて配置された側板部340、341同士を連結する連結梁345(
図3参照)と、を有している。
【0033】
図3の(a)に示すように、支持筒342は、側板部341の外径側から回転軸X方向に延びる筒状部材であり、支持筒342は、外径側に位置するスプライン山部342aとスプライン谷部342bとが、回転軸X周りの周方向に交互に連なって形成されている。
支持筒342では、スプライン山部342aの外周に、ドライブプレート42がスプライン嵌合している(
図1参照)。
【0034】
図2の(a)に示すように、支持筒342は、側板部341とは反対側の端部が開口しており支持筒342の内径側には、クラッチドラム6の内側の周壁部63が、開口側から挿入されている。
【0035】
図3の(a)に示すように、側板部341は、中央に開口を有するリング状を成しており、側板部341の外周には、径方向外側に突出するフランジ部349(突出部)が設けられている。
フランジ部349は、側板部341と支持筒342との境界部で、側板部341の径方向外側に位置している。
フランジ部349は、回転軸X周りの周方向における全周に亘って設けられている。
【0036】
図2の(a)に示すように、回転軸Xの径方向において、フランジ部349の最外周部349aは、支持筒342の最外周部342cよりも外周側に位置している。
【0037】
また、フランジ部349の回転軸X方向の厚みW2は、側板部341の厚みW1よりも小さい厚みとなるように設定されており(W1>W2、
図2の(a)参照)、フランジ部349は、側板部341の支持筒342とは反対側の側面341aと面一に設けられている。
【0038】
図3の(a)、(b)に示すように、側板部341には、当該側板部341を厚み方向(回転軸X方向)に貫通する貫通孔341c、341dが形成されている。貫通孔341c、341dは、回転軸X周りの周方向で略90°間隔でそれぞれ4ヶ所形成されている。
貫通孔341cは、貫通孔341dよりも回転軸Xの径方向内側に設けられている。
【0039】
側板部341に間隔をあけて配置された側板部340にも、側板部340を厚み方向(回転軸X方向)に貫通する貫通孔340c、340dが形成されている。貫通孔340c、340dは、回転軸X周りの周方向で略90°間隔でそれぞれ4ヶ所形成されている。
貫通孔340cは、貫通孔340dよりも回転軸Xの径方向内側に設けられており、それぞれ、側板部341側の貫通孔341c、341dに、回転軸X方向で対向する位置に形成されている。
【0040】
図3の(a)、(b)に示すように、側板部340と側板部341は、回転軸X方向に延びる連結梁345で互いに連結されている。
連結梁345は、回転軸X周りの周方向に略90°間隔で4箇所設けられており、側板部340と側板部341の回転軸X方向の位置関係が、4つの連結梁345で固定されている。
【0041】
回転軸X方向から見て、周方向で隣接する連結梁345、345の間に、前記した貫通孔340c、340dと、貫通孔341c、341dが位置している。
【0042】
図3の(b)に示すように、側板部340では、回転軸X方向における連結梁345とは反対側の側面340aに、筒状の連結部343が設けられている。
連結部343は、回転軸X上を連結梁345から離れる方向に延びている。
無段変速機1において、キャリア34は、連結部343の外周を、変速機構部側から延びる軸部81の内周にスプライン嵌合させて設けられている(
図2の(a)参照)。
【0043】
キャリア34は、これら支持筒342、側板部341、連結梁345、側板部340及び連結部343が、一体に形成されたものである。
【0044】
図2の(a)に示すように、キャリア34の側板部340の側面340bと側板部341の側面341aとの間の領域には、一対のピニオンギア33(33A、33B)が設けられている。ピニオンギア33は、ニードルベアリングNBを介して、ピニオン軸331で支持されている。
【0045】
ピニオンギア33Aを支持するピニオン軸331の両端は、貫通孔340c、341c(
図3の(b)参照)に挿入された状態で、キャリア34の側板部340、341で支持されている。
ピニオンギア33Bを支持するピニオン軸331の両端は、貫通孔340d、341d(
図3の(b)参照)に挿入された状態で、キャリア34の側板部340、341で支持されている。
【0046】
ピニオンギア33Aとピニオンギア33Bは、外周に設けた歯部同士を互い噛合させて設けられている。ピニオンギア33Aは、サンギア31の外周に噛合していると共に、ピニオンギア33Bは、リングギア32の内周に噛合している。
【0047】
遊星ギアセット3では、サンギア31および/またはリングギア32が回転軸X回りに回転すると、ピニオン軸331で支持されたピニオンギア33Aと、このピニオンギア33Aに噛合するピニオンギア33Bとが、自転しながら回転軸X周りに公転する。
【0048】
[クラッチドラム6]
図2の(a)に示すように、遊星ギアセット3は、前記した前進クラッチ4と共に、クラッチドラム6の内部に収容されている。
【0049】
クラッチドラム6は、回転軸X方向から見てリング状を成す底壁部61と、底壁部61の外周を全周に亘って囲む外側の周壁部62と、底壁部61の内周を全周に亘って囲む内側の周壁部63と、を有している。
周壁部62は、回転軸X方向における底壁部61とは反対側(図中、左側)が、開口部60となっている。
【0050】
内側の周壁部63は、回転軸Xに沿う円筒状を成しており、この周壁部63は、カバー部11(
図1参照)の内径側に設けられた筒状の支持壁部12に外挿されている。
クラッチドラム6は、変速機ケース10側の固定部材である支持壁部12で、回転軸X回りの回転が許容された状態で支持されている。
【0051】
内側の周壁部63の先端には、支持壁部12を迂回して内径側(回転軸X側)に延びる連絡部64が設けられており、この連絡部64の内径側には、円筒状の支持筒65が設けられている。
【0052】
支持筒65は、連絡部64の下端から、サンギア31から離れる方向(図中、右方向)に直線状に延びている。支持筒65の先端65aは、支持壁部12の内径側に及んでいると共に、支持壁部12の内周に圧入された円筒状のシャフト15の先端15aとの間に隙間を空けて対向している。
【0053】
支持筒65の外周と周壁部63の内周との間には、ニードルベアリングNB1が設けられている。回転軸X方向においてニードルベアリングNB1は、連絡部64と、支持壁部12の先端12aとの間に介在しており、連絡部64と支持壁部12との直接の接触を阻止している。
【0054】
支持筒65は、回転軸X方向に所定長さL3を持って形成されており、支持筒65の内周は、回転伝達軸9の外周にブッシュBS(摩擦抵抗が少ない金属リング)を介して支持されている。ブッシュBSは、クラッチドラム6の支持筒65の内周に圧入されている。この状態において支持筒65を持つクラッチドラム6は、回転軸Xに対する傾きが支持筒65により規制された状態で、支持壁部12で回転軸X回りに回転可能に支持されている。
さらに、クラッチドラム6の径方向の位置決めが、回転伝達軸9で支持されたブッシュBSでされている。
【0055】
前記したように回転伝達軸9は、図示しないトルクコンバータ側の出力軸である。回転伝達軸9は、支持壁部12の内周に圧入された円筒状のシャフト15で、回転可能に支持されている。
回転伝達軸9の先端9a側は、支持筒65の内径側を回転軸X方向に貫通しており、回転伝達軸9の先端9a側では、支持筒65との干渉を避けた位置の外周に、サンギア31が一体に形成されている。
【0056】
回転伝達軸9においてサンギア31は、先端9aからトルクコンバータ側(図中、右側)に離れた位置の外周から、回転軸Xの径方向外側に突出している。
回転軸X方向におけるサンギア31の一方の側面31aと、クラッチドラム6側の連絡部64との間には、ニードルベアリングNB2が介在している。
回転伝達軸9の先端9a側は、キャリア34の内径側に設けた筒状の連結部343の内側に挿入されている。
【0057】
回転伝達軸9の外周と、連結部343の内周との間には、ブッシュBSが設けられており、キャリア34の連結部343は、ブッシュBSを介して回転伝達軸9で支持されている。キャリア34の連結部343と回転伝達軸9は、回転軸X回りに相対回転可能である。
【0058】
キャリア34の側板部340は、連結部343のトルクコンバータ側の端部から径方向外側に延びており、側板部340には、プライマリプーリの軸部81の先端81aが、回転軸X方向から突き当てられている。
この状態において、軸部81の内周と、連結部343の外周とがスプライン嵌合しており、キャリア34の連結部343と、プライマリプーリの軸部81とが、相対回転不能に連結されている。
【0059】
遊星ギアセット3では、サンギア31が、トルクコンバータ側(
図2の(a)における右側)から回転が入力される入力部であり、キャリア34が、変速機構部側(
図2の(a)における左側)に回転を出力する出力部である。
【0060】
図2の(a)に示すように、遊星ギアセット3のリングギア32は、クラッチドラム6の外径側の周壁部62の内周にスプライン嵌合している。
クラッチドラム6の外径側の周壁部62は、底壁部61側の小径部621と、小径部621よりも大径の大径部622と、を有している。
図2の(b)に示すように、周壁部62では、大径部622の領域が、スプライン山部622aとスプライン谷部622bとが、回転軸X周りの周方向に交互に連なって形成されている。
【0061】
これらスプライン山部622aとスプライン谷部622bは、周壁部62の先端62aから、小径部621との接続部までの範囲に形成されている(
図2の(a)参照)。
クラッチドラム6の周壁部62では、スプライン山部622aとスプライン谷部622bが、大径部622の長手方向(回転軸X)方向の全長に亘って設けられている。
【0062】
周壁部62の大径部622は、前進クラッチ4と遊星ギアセット3のリングギア32の径方向外側を、回転軸X方向に横切って設けられている。
周壁部62の先端62a側の外周には、前記した後進ブレーキ5のドライブプレート52がスプライン嵌合している(
図1参照)。リングギア32は、後進ブレーキ5のドリブンプレート51とドライブプレート52とが交互に配置された領域の内径側に設けられている。
【0063】
図2の(a)に示すように、クラッチドラム6とは別部品であるリングギア32は、内周に歯部32aを有するリング状の基部320と、基部320の外周から径方向外側に突出する嵌合部321とを有している。
リングギア32は内歯歯車であり、内歯歯車の外周面(歯面の裏側の面)が形成された部位が2つのスナップリング(第1スナップリング38、第2スナップリング39)により支持されている。
【0064】
基部320の外周において嵌合部321は、回転軸X方向の一端側(開口部60側)の外周から径方向外側に突出している。嵌合部321は、リングギア32を、クラッチドラム6側の大径部622の内周にスプライン嵌合させるために設けられている。
【0065】
図2の(a)に示すように、嵌合部321の回転軸X方向の幅W3は、基部320の回転軸X方向の幅W4よりも狭い幅で形成されており、これらの幅W3、W4は、キャリア34の側板部340から側板部341までの幅W5よりも狭い幅である(W5>W4>W3)。
リングギア32を大径部622の内周にスプライン嵌合させると、嵌合部321よりも前進クラッチ4側(図中右側)に、径方向の隙間CL1が形成される。
【0066】
大径部622の内周では、リングギア32の嵌合部321の両側に、第1スナップリング38と第2スナップリング39が内嵌して固定されている(
図2の(a)参照)。
これら第1スナップリング38と第2スナップリング39は、リングギア32の回転軸X方向の位置決めのために設けられている。第1スナップリング38と第2スナップリング39は、周壁部62に設けた溝M1、M2にそれぞれ係合しており、第1スナップリング38と第2スナップリング39の回転軸X方向の厚さb1、b2は、溝M1、M2の回転軸X方向の厚さと整合する厚さを有している。
【0067】
本実施形態では、第1スナップリング38は、リングギア32の径方向外側の領域から回転軸X方向に位置をずらして設けられており、第1スナップリング38は、リングギア32と径方向でオーバーラップしていない。
第1スナップリング38は、有底筒状のクラッチドラム6の開口部60からのリングギア32の脱落を阻止するために設けられている。
【0068】
第2スナップリング39は、リングギア32の径方向外側に位置しており、第2スナップリング39は、リングギア32と径方向でオーバーラップしている。
第2スナップリング39は、クラッチドラム6の底壁部61側(図中、右側)へのリングギア32の移動を阻止するために設けられている。
【0069】
リングギア32は、第2スナップリング39により位置決めされた状態で、前記した前進クラッチ4のスナップリング49との干渉を避けて設けられている。そのため、リングギア32とスナップリング49との間に回転軸方向の隙間が残されている。
リングギア32とスナップリング49とが常に接していると、ピストン43の押し力をリングギア32が受けた際に、リングギア32のサンギア31およびピニオンギア33A、33Bに対する相対的な偏心量が大きくなる。そうすると、ギアノイズを生じる可能性があるが、隙間が残されていることで、ギアノイズの発生を好適に防止できる。
【0070】
さらに、リングギア32は、第2スナップリング39により位置決めされた状態で、キャリア34の側板部341から径方向外側に突出するフランジ部349との干渉を避けて設けられている。そのため、リングギア32と、側板部341(フランジ部349)との間に回転軸方向の隙間が残されている。
【0071】
さらに、本実施形態では、フランジ部349と、クラッチドラム6側のスナップリング49との間に径方向の隙間が残されていると共に、フランジ部349とリテーニングプレート48との間に回転軸方向の隙間が残されている。
【0072】
ここで、本実施形態では、遊星ギアセット3周りに負荷(重力、予期せぬ力)が作用していないときには、フランジ部349が、リングギア32、スナップリング49、そしてリテーニングプレート48に接触しないように設計されている(干渉防止)。
特に、フランジ部349の最外周部349aが、別部材(例えばリングギア32、リテーニングプレート48)と干渉しないように設計されている。
【0073】
第2スナップリング39の径方向の長さa2は、第1スナップリング38の径方向の長さa1よりも短い(a2<a1)。
これは、第2スナップリング39を、リングギア32と径方向でオーバーラップして配置するため、リングギア32の基部320の外周と、周壁部62(スプライン谷部622b)の内周との隙間CL1に収容可能な長さである必要があるからである。
これにより、第2スナップリング39は、リングギア32の径方向外側の領域から回転軸X方向に位置をずらして設ける必要が無いので、クラッチドラム6の周壁部62の回転軸X方向への大型化を防止できる。
【0074】
また、第1スナップリング38の回転軸X方向の厚さb1は、第2スナップリング39の回転軸X方向の厚さb2と異なっている。これにより、組立時において、作業者が第1スナップリング38と第2スナップリング39とを簡単に区別できる。
【0075】
また、第1スナップリング38の回転軸X方向の厚さb1は、第2スナップリング39の軸方向の厚さb2よりも薄くなっている。第1スナップリング38の回転軸X方向の厚さb1が厚くなると、周壁部62の開口部60側に、遊星ギアセット3などの部品の配置に寄与しない空間が残されてしまうからである。かかる空間が残されていると、クラッチドラム6の周壁部62の回転軸X方向の大きさが大きくなってしまうからである。
【0076】
クラッチドラム6において、第2スナップリング39は、第1スナップリング38よりも底壁部61側(奥側)に位置している。有底円筒形状のクラッチドラム6では、第1スナップリング38の方が、第2スナップリング39よりも開口部60側に配置されている。
回転軸X方向の厚さが薄いスナップリング(第1スナップリング38)を開口部60側に設けることで、クラッチドラム6の周壁部62の内側の開口部60側の空間を有効に利用できるようにするためである。
【0077】
第2スナップリング39から見て、クラッチドラム6の底壁部61側(奥側)には、前進クラッチ4のスナップリング49が設けられている。スナップリング49は、第2スナップリング39およびリングギア32との間に間隔をあけて設けられている。
回転軸X方向において第2スナップリング39は、第1スナップリング38とスナップリング49との間に位置している。
【0078】
第2スナップリング39は、第1スナップリング38よりも断面が偏平な形状を有しており、径方向の長さa2が小さいので、リングギア32が前進クラッチ4側に傾く可能性がある。かかる場合には、第2スナップリング39に近接するスナップリング49で、リングギア32の傾きを阻止することができる。
また、第1スナップリング38と第2スナップリング39との間に、リングギア32の嵌合部321が位置しており、リングギア32が僅かなガタを持って配置されている。そのため、サンギア31やキャリア34が回転軸Xに対して傾いた際に、リングギア32が自立的に調心できるようになっている。
【0079】
さらに、遊星ギアセット3のリングギア32は、クラッチドラム6の周壁部62とは別部材として設けられおり、このリングギア32が、クラッチドラム6(ドラム部材)の周壁部62に固定されている。これにより、リングギア32の支持部材を新たに設ける必要がない。
【0080】
さらに、後進ブレーキ5のドライブプレート52を、リングギア32を支持する周壁部62に支持させたので、周壁部62を二つの部品の固定および支持に共用している(
図1参照)。これにより、専用の部品を設けて、固定/支持させる場合よりも部品点数を削減することが可能となる。これにより、無段変速機1の作製コストの低減が期待できる。
【0081】
以下、
図4及び
図5を用いて無段変速機1を製造する過程での遊星ギアセット3周りの組み付けを説明する。
【0082】
ここで、部品を1個ずつ組み付ける場合において、部品によっては複数のスプライン係合を同時に行う必要が生じる場合がある。複数のスプライン係合を同時に行う場合、1のスプライン係合と、他の1のスプライン係合とが同時に噛合う位置にうまく位置合わせをすることが難しい場合があり、部品の向きを微調整しながらセットする必要がある。
【0083】
その場合、スプライン係合位置近辺で部品を時計回り・反時計回りに往復的に何度かずらしながら組み付けをおこなうため、スプライン同士がぶつかる回数が多くなる点が課題となる。
そこで、スプラインを1個ずつ噛み合わせながらサブアッセンブリを形成し、その後、スプライン係合が1つとなるようにサブアッセンブリを取り付けることで、複数のスプライン係合を同時に行うことを避けることができるので、上記課題を解決することができる。
【0084】
実施の形態にかかる無段変速機1の製造過程では、前後進切替機構2のクラッチドラム6と遊星ギアセット3が予め組み付けられた状態(サブアッセンブリ化した状態)で、無段変速機1の変速機ケース10内への組み付けが行われる。
【0085】
図4は、クラッチドラム6への遊星ギアセット3の組み付けから、回転伝達軸9の組み付けまでの過程を説明する図である。
【0086】
図4の(a)に示すように、始めに、開口部60を鉛直線VL方向上側に向けた状態で、クラッチドラム6を図示しない治具に固定する。この状態で、開口部60側から前進クラッチ4の各構成要素を、クラッチドラム6の内側に順番に組み付ける。
具体的には、ピストン43、スプリングSp2、スプリングリテーナ45の順番で組み付けたのち、ウェーブスプリング47を、周壁部62の内側に挿入して、ピストン43の押圧部43aに接触させた位置に配置する(
図4の(b)参照)。
【0087】
続いて、ドリブンプレート41を周壁部62の内周にスプライン嵌合させつつ、周壁部62の内側にセットしたのち、ドライブプレート42とドリブンプレート41とを、周壁部62の内側に交互にセットする。この際に、各ドリブンプレート41は、周壁部62の内周にスプライン嵌合する。
【0088】
最後のドライブプレート42のセットが完了すると、リテーニングプレート48を周壁部62の内側に挿入したのち、スナップリング49を、周壁部62の内側の溝M3にスナップ係合させる。これにより、前進クラッチ4の主要部の組み付けが完了する。
【0089】
そして、サンギア31が一体に形成された回転伝達軸9を、開口部60側の上方から、クラッチドラム6の支持筒65に挿入する(図中、太矢印参照)。
回転伝達軸9は、サンギア31の一方の側面31aと、クラッチドラム6の連絡部64との間に、ニードルベアリングNB2が介在する位置まで、クラッチドラム6に組み付けられる(
図4の(c)参照)。この状態において、クラッチドラム6は、支持筒65の内周と回転伝達軸9の外周との間に介在するブッシュBSにより、回転伝達軸9で相対回転可能に支持される。
【0090】
続いて、ピニオンギア33A、33Bが組み付けられた状態のキャリア34を、支持筒342を下方に向けた状態で、開口部60側の上方から、クラッチドラム6の支持筒65に挿入する(
図4の(c)中、太矢印参照)。
キャリア34は、側板部340の側面340bと、サンギア31の側面31bとの間にニードルベアリングNB3が介在する位置まで、クラッチドラム6に組み付けられる(
図4の(d)参照)。この状態において、キャリア34は、連結部343の内周と、回転伝達軸9の外周との間のブッシュBSにより、回転伝達軸9で相対回転可能に支持される。
【0091】
続いて、
図4の(d)に示すように、開口部60側の上方から、第2スナップリング39を、周壁部62の内周の溝M2にスナップ係合させた後、リングギア32を、開口部60側の上方から、周壁部62の内側に挿入してスプライン嵌合させる(
図4の(d)参照)。
最後に、第1スナップリング38を、周壁部62の内周の溝M1にスナップ係合させて、リングギア32を位置決めする(
図4の(e)参照)。
これにより、前後進切替機構2のクラッチドラム6と遊星ギアセット3とのサブアッセンブリSBAが完了する。
【0092】
この
図4の(e)の状態では、遊星ギアセット3のキャリア34は、クラッチドラム6および回転伝達軸9に対して、組み付け方向(図中、鉛直線VL)に相対変位可能である。
キャリア34のフランジ部349は、鉛直線VL方向において、クラッチドラム6の底壁部61と、リングギア32との間に位置しており、鉛直線VL方向から視てフランジ部349は、リングギア32と底壁部61とオーバーラップしている。
【0093】
このようにして得られた前後進切替機構2のクラッチドラム6と遊星ギアセット3とのサブアッセンブリSBAの変速機ケース10への組み付けを説明する。
図5は、変速機ケース10へのサブアッセンブリSBAの組み付け過程を説明する図である。
【0094】
サブアッセンブリSBAを変速機ケース10に組み付けるに際し、変速機ケース10は、
図5の(a)に示すように、開口部105を鉛直線VL方向上側に向けた状態で図示しない治具に固定される。
図5の(a)に示す変速機ケース10では、外径側支持壁部101の内周に、後進ブレーキ5のドリブンプレート51がスプライン嵌合しており、後進ブレーキ5の各構成要素の組み付けが完了している。
内径側支持壁部103の内周では、変速機構部を構成するプライマリプーリの軸部81がベアリングBを介して回転可能に支持されており、軸部81の先端81aが、仕切壁部102よりも上方に突出している。
【0095】
サブアッセンブリSBAは、キャリア34の筒状の連結部343を変速機ケース10側の下方に向けた状態で、開口部105側の上方から、変速機ケース10の外径側支持壁部101の内側に挿入される(図中、太矢印参照)。
【0096】
図5の(a)の状態では、遊星ギアセット3のキャリア34は、クラッチドラム6および回転伝達軸9に対して、組み付け方向(図中、鉛直線VL)に相対変位可能である。
キャリア34のフランジ部349は、鉛直線VL方向において、クラッチドラム6の底壁部61と、リングギア32との間に位置している。
そして、リングギア32は、クラッチドラム6の周壁部62の内周に係合したスナップリング(第1スナップリング38、第2スナップリング39)により、鉛直線VL方向の移動が規制されている。
【0097】
そのため、キャリア34が自重により変速機ケース10側の下方に変位しても、キャリア34のフランジ部349が、リングギア32に当接した時点で、変速機ケース10側の下方への移動が規制される。
そのため、サブアッセンブリSBAを変速機ケース10に組み付ける過程で、キャリア34がサブアッセンブリSBAから脱落しないようになっている。
【0098】
この際に、前進クラッチ4のドリブンプレート41およびドライブプレート42の変速機ケース10側の下方への移動は、周壁部62の内周にスナップ係合したスナップリング49により規制される。
【0099】
図5の(b)に示すように、サブアッセンブリSBAを鉛直線VL方向に沿って変速機ケース10側の下方に変位させると、キャリア34の連結部343と、軸部81とが最初にスプライン嵌合する。
そして、連結部343と軸部81とのスプライン嵌合長が、所定長さΔLに達した時点で、クラッチドラム6の周壁部62の先端62a側と、後進ブレーキ5のドライブプレート52とのスプライン嵌合が開始される。
【0100】
そのため、連結部343と軸部81とが所定長さΔL係合するまでの間に、サブアッセンブリSBA側の回転伝達軸9の中心軸と、軸部81の中心軸とが一致する。
【0101】
これにより、クラッチドラム6の周壁部62の外周へのドリブンプレート52のスプライン嵌合がスムーズに行えるようになっている(
図5の(c)参照)。
【0102】
そして、キャリア34側の側板部340の側面340aに、軸部81の先端81aが当接した時点で、サブアッセンブリSBAの変速機ケース10への組み付けが完了する(
図5の(d)参照)。
【0103】
このように、サブアッセンブリSBAを変速機ケース10に組み付ける際に、クラッチドラム6の周壁部62の内側では、キャリア34がクラッチドラム6および回転伝達軸9に対して、鉛直線VL方向で相対移動可能となっている。
【0104】
上記したように、キャリア34のフランジ部349は、鉛直線VL方向において、クラッチドラム6の底壁部61と、リングギア32との間に位置している。
そして、リングギア32は、クラッチドラム6の周壁部62の内周に係合したスナップリング(第1スナップリング38、第2スナップリング39)により、鉛直線VL方向の移動が規制されている。
【0105】
そのため、キャリア34が自重により変速機ケース10側の下方に変位しても、キャリア34のフランジ部349が、リングギア32に当接した時点で、変速機ケース10側の下方への移動が規制される。
そのため、サブアッセンブリSBAを変速機ケース10に組み付ける過程で、キャリア34がサブアッセンブリSBAから脱落しないようになっている。
【0106】
これに対して、キャリア34にフランジ部349が設けられていない場合には、サブアッセンブリSBAを変速機ケース10に組み付ける際に、作業者が手指でキャリア34を支持して、キャリア34の脱落を阻止する必要がある。
【0107】
さらに、キャリア34側の側板部340に、軸部81の先端81aが当接させる際に、手指による支持を解消する必要があり、この際に、キャリア34がクラッチドラム6および回転伝達軸9から外れてしまう可能性もある。
【0108】
本実施形態では、フランジ部349が設けられていることにより、サブアッセンブリSBAの変速機ケース10への組み付け過程において、手指によるキャリア34の支持や、キャリア34の脱落が起こりにくくなっている。
これにより、サブアッセンブリSBAの変速機ケース10への組み付けをスムーズに行えるようになっている。
【0109】
実施の形態にかかる動力伝達装置の一例として挙げた無段変速機1は、以下の構成を有している。
(1)回転軸X方向(軸方向)の一端が開口し、且つ、回転軸X方向の他端に底壁部61を有するクラッチドラム6(筒状部材)と、
クラッチドラム6の内部に収容された遊星ギアセット3と、を有している。
遊星ギアセット3のキャリア34は、外周側に突出するフランジ部349(突出部)を有している。
回転軸X方向で、フランジ部349は、底壁部61と、遊星ギアセット3のリングギア32と、の間に位置する。
【0110】
ここで、底壁部61側へのキャリア34の脱落は、底壁部61の存在により防止される。クラッチドラム6の回転軸X方向における両端が壁部であると遊星ギアセット3の収容ができないので、一端(底壁部61と反対側)は開口された開口部60とされている。そのため、開口部60からキャリア34が脱落することが問題となる。
【0111】
そこで、上記のように構成して、底壁部61とリングギア32の間に位置し、両者を回転軸X方向から視たときにオーバーラップするフランジ部349を形成することにより、キャリア34が脱落しそうになると、フランジ部349がリングギア32に引っかかるので、キャリア34の脱落を防止することができる。
【0112】
実施の形態にかかる動力伝達装置の一例として挙げた無段変速機1は、以下の構成を有している。
(2)リングギア32は、クラッチドラム6と別体で形成されている。
【0113】
ここで、リングギア32をクラッチドラム6と一体で形成することは可能ではあるが、その場合、クラッチドラム6の開口部60からキャリア34を収容しようとすると、当該キャリア34のフランジ部349がリングギア32に引っかかり、サブアッセンブリがしにくくなる。
そこで、上記のように構成すると、キャリア34をクラッチドラム6の内部に収容した後に、リングギア32をクラッチドラム6の内部に収容することが可能となり、クラッチドラム6に対する遊星ギアセット3の組み付けが容易になる(
図4の(c)、(d)参照)。
【0114】
実施の形態にかかる動力伝達装置の一例として挙げた無段変速機1は、以下の構成を有している。
(3)キャリア34は、前進クラッチ4の支持筒342(ハブ部)と一体形成されている。
支持筒342は、キャリア34よりも底壁部61側に位置している。
フランジ部349の最外周部349aは、支持筒342の最外周部342cよりも外周側に位置している。
【0115】
支持筒342がある場合、支持筒342を外周側に拡張させて支持筒342を脱落防止のストッパとして使おうとすることも考えられる。
そうすると、支持筒342の外径側には、前進クラッチ4のクラッチプレート(ドリブンプレート41、ドライブプレート42)が位置しているので、クラッチプレートを配置するための空間が、径方向で狭くなる。クラッチドラム6の体格が増大してしまう。
そこで、上記のように構成して、キャリア34に設けたフランジ部349をストッパとして利用することで、クラッチプレートを配置するための空間を径方向で狭くすることや、クラッチドラム6の体格を増大させずに、キャリア34の脱落を阻止できる。
【0116】
本願発明は、動力伝達装置の一例として挙げた無段変速機1の製造方法(組み付け方法)としても特定できる。
すなわち、
(4)回転軸X方向(軸方向)の一端が開口し、且つ、回転軸X方向の他端に底壁部61を有するクラッチドラム6と、クラッチドラム6の内部に収容された遊星ギアセット3と、を有する無段変速機1の製造方法である。
この製造方法では、遊星ギアセット3のキャリア34は、外周側に突出するフランジ部349を有しているので、始めに、フランジ部349が、底壁部61と、遊星ギアセット3のリングギア32との間に位置するように、遊星ギアセット3をクラッチドラム6に組み付けける。
そして、得られたサブアッセンブリSBAを、キャリア34側を変速機ケース10側の下方に向けた状態で、変速機ケース10の開口部105内に挿入して、キャリア34側の連結部343と、変速機ケース10側の軸部81をスプライン嵌合させる。
【0117】
このように構成すると、前後進切替機構2の遊星ギアセット3と前進クラッチ4とをサブアッセンブリした状態で、変速機ケース10側の別部材(動力伝達機構(プーリ、減速機など))にセットすることで、無段変速機1の組み付けを容易に行える。
その際、フランジ部349がリングギア32で支えられるので、アッセンブリ時におけるキャリア34の脱落を防止することができる。
【0118】
実施の形態では、アッセンブリ時におけるキャリア34の脱落を防止する活用例を説明したが、キャリア34の脱落防止構造は、別のシーンでも活用が可能である。例えば、キャリア34に予期せぬ力(例えば、過大なトルク入力)がかかったときの脱落防止やメンテナンスの際の分解する際に脱落して部品が損傷することなどを防止することができる。
なお、突出部はフランジであると好ましいが、複数の突出部を回転軸Xの周方向に沿って設けた形としても良い。
【0119】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。