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特許7145980腫瘍浸潤リンパ球にて発現するT細胞受容体により認識される抗原を識別するためのシステム
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  • 特許-腫瘍浸潤リンパ球にて発現するT細胞受容体により認識される抗原を識別するためのシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】腫瘍浸潤リンパ球にて発現するT細胞受容体により認識される抗原を識別するためのシステム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6869 20180101AFI20220926BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220926BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220926BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220926BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220926BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220926BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20220926BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220926BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/686 Z
G01N37/00 102
G01N33/53 D
G01N33/50 Z
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/12
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020568974
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 EP2019065717
(87)【国際公開番号】W WO2019238939
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】62/685,469
(32)【優先日】2018-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(73)【特許権者】
【識別番号】507179346
【氏名又は名称】ベンタナ メディカル システムズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【弁理士】
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー,ネルソン・アール
(72)【発明者】
【氏名】ベルカ,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】パテル,ジガー
(72)【発明者】
【氏名】スタニスロウ,ステイシー
(72)【発明者】
【氏名】オズトゥルク,セディーデ
(72)【発明者】
【氏名】ゲットゥシェ,トゥーミー
(72)【発明者】
【氏名】ガレゴス,リサ・エル
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ルイ
(72)【発明者】
【氏名】バーホウミ,アオウネ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ソヨン
(72)【発明者】
【氏名】オフアラチャイン,メイブ・イー
(72)【発明者】
【氏名】ルベルト,フロリアン
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/013170(WO,A1)
【文献】特表2017-518375(JP,A)
【文献】国際公開第2018/057051(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/196691(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/100977(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α鎖(TCRα)及びβ鎖(TCRβ)で構成されるT細胞受容体(TCR)に対する同種抗原を識別する方法であって、
各T細胞がTCRα及びTCRβ鎖を含むTCRを含む、患者から入手されたT細胞の集団において、前記各T細胞の核酸を細胞特異的バーコードでバーコード化することと、
.前記バーコード化した核酸を配列決定して、前記TCRα及びTCRβ鎖をコードするTCRA及びTCRB遺伝子配列を入手することと、
.機能性TCRをコードする遺伝子対と同じバーコードを有するTCRA及びTCRB遺伝子を識別することと、
.工程にて識別された前記TCRA及びTCRB遺伝子対を、それぞれのT細胞に導入することと、
1つ以上の腫瘍ネオ抗原を含み得る、前記患者から入手された腫瘍細胞の集団において、前記腫瘍ネオ抗原遺伝子を識別することと、
.工程.で識別したネオ抗原遺伝子からネオ抗原ペプチドを形成することと、
.工程の前記ネオ抗原ペプチドを、MHC-1抗原提示複合体及びオリゴヌクレオチドバーコードと組み合わせて、バーコード化MHCネオ抗原ペプチド複合体を形成することと、
.工程の前記T細胞を、工程の前記バーコード化MHCネオ抗原ペプチド複合体と接触させて、細胞が結合したMHCネオ抗原TCR複合体を形成することと、
.前記TCR遺伝子、及び、工程の各T細胞からの前記MHCネオ抗原複合体バーコードを、細胞特異的なバーコードによりバーコード化することと、ここで前記バーコード化が、
I.前記複数のT細胞を、遺伝子特異的配列及びバーコードオリゴヌクレオチドアニーリング領域を含むプライマーの混合物と接触させることと、
II.前記複数のT細胞を、前記プライマー内のバーコードオリゴヌクレオチドアニーリング領域に相補性のバーコードオリゴヌクレオチドと接触させることと、
III.スプリットプール合成の1つ以上のラウンドのそれぞれにおいて、前記複数のT細胞を、各ラウンドの前記バーコード化オリゴヌクレオチドが以前のラウンドの前記バーコードオリゴヌクレオチドの前記アニーリング領域に相補性のアニーリング領域を含む追加のバーコードオリゴヌクレオチドと接触させ、前記複数のT細胞のそれぞれにおける各プライマー上に細胞特異的バーコードを組み立てること、
を含むものである、
.工程からの前記T細胞において、細胞特異的バーコードと関連する前記TCR遺伝子、及び細胞特異的バーコードと関連する前記MHCネオ抗原複合体バーコードを配列決定することと、
.前記TCR遺伝子及びMHCネオ抗原複合体バーコードのうち少なくとも1つが、同じ細胞特異的バーコードと関連している場合に、前記ネオ抗原を前記TCRに対する前記同種抗原と識別すること、
を含む方法。
【請求項2】
前記T細胞の集団は、前記患者において腫瘍組織を解離することにより入手されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
TCRα及びTCRβ鎖をコードするTCRA及びTCRB遺伝子配列は、再配列されたDNA配列又はRNA配列から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記T細胞の集団は、タンパク質マーカー発現ベースの捕捉により前記腫瘍組織から入手されたものである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
工程における前記T細胞バーコード化は、
a.前記複数のT細胞を、遺伝子特異的配列及びバーコードオリゴヌクレオチドアニーリング領域を含むプライマーの混合物と接触させることと、
b.前記複数のT細胞を、前記プライマー内のバーコードオリゴヌクレオチドアニーリング領域に相補性のバーコードオリゴヌクレオチドと接触させることと、
c.スプリットプール合成の1つ以上のラウンドのそれぞれにおいて、前記複数のT細胞を、各ラウンドの前記バーコード化オリゴヌクレオチドが以前のラウンドの前記バーコードオリゴヌクレオチドの前記アニーリング領域に相補性のアニーリング領域を含む追加のバーコードオリゴヌクレオチドと接触させ、前記複数のT細胞のそれぞれにおける各プライマー上に細胞特異的バーコードを組み立てること、
を含む方法により実施される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程における前記核酸のバーコード化は、
a.前記核酸を含有するT細胞の集団を、1つの細胞を含有する複数の第1の分画に分画することと、
b.前記細胞を含有する分画を、それぞれが、遺伝子特異的配列及びバーコードを含む、バーコード化オリゴヌクレオチドプライマーの複数のコピーを含有する複数の第2の分画と混合することであって、前記バーコードは、各分画内で同じであるが、分画間では異なっている、混合することと、
c.前記第1及び第2の分画を融合することと、
d.バーコード化オリゴヌクレオチドプライマーでアンプリコンを形成し、前記核酸をバーコード化すること、
を含む方法により実施される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程における前記バーコード化、及び工程における配列決定は、
a.前記T細胞の集団を、細胞の群を含有する複数の分画に分画することと、
b.バーコード化アダプターを、各分画内の核酸にライゲーションすることと、
c.前記アダプター化した核酸内の前記TCRA及びTCRBを配列決定して、バーコード化TCRA及びTCRB配列を入手することと、
d.TCRA及びTCRB遺伝子対塩基の、分画内で同時発生する頻度を測定すること、
を含む方法により実施される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記バーコード化TCR遺伝子の配列決定は、前記遺伝子の前記CDR3超可変領域を配列決定することである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記TCR遺伝子の識別は、前記遺伝子の前記CDR3超可変領域を識別することである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ネオ抗原遺伝子は、前記腫瘍細胞内の前記核酸を配列決定し、非サイレント変異を有する遺伝子をネオ抗原遺伝子として識別することにより識別される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記ネオ抗原遺伝子は、ペプチドアレイを患者の血清でスクリーニングすることにより識別される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程における前記遺伝子は発現ベクターに導入される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記受容性T細胞は内因性TCR遺伝子を欠いている、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
工程における前記遺伝子は転写活性DNA断片として導入される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
工程における前記遺伝子はmRNAとして導入される、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記識別されたネオ抗原が前記MHC-I分子に結合する能力により更に選択される、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記ネオ抗原TCR複合体内で前記ネオ抗原及び前記TCRをバーコード化することは、各複合体を、バーコードを含有する反応体積に区画化することを含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学及び腫瘍抗原の分野に関し、より具体的には、抗腫瘍免疫細胞及び腫瘍抗原を識別する、組み合わせバーコード化の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞は、適応免疫系に一体化しており、病原体及び癌に対する保護をもたらす。これらは、T細胞受容体(TCR)により、抗原の細胞外認識を通して機能し、抗原提示細胞上の、ヒト白血球抗原がコードされたMHC(主要組織適合複合体)構造にて提示される短いペプチド類に対する特異的な親和性を表示する。TCR、ペプチド、及びMHC分子に固有の多様性により、いずれか1つのTCRの特異性を識別するのが、極めて複雑な問題となる(Gee,M.H.,et al.,Antigen Identification for Orphan T Cell Receptors Expressed on Tumor-Infiltrating Lymphocytes.Cell,2017)。T細胞及びそのTCR配列の分子特性決定を可能にする技術は相当改善されているものの、T細胞の抗原特異性を測定して研究する能力は、主たるボトルネックのままである。「オーファン」TCRの特異性(即ち、未知の抗原特異性のTCR)を測定するアプローチは、癌免疫治療法、自己免疫、及び感染症の潜在的な標的を明らかにする一助となり得る(Gee,supraを参照のこと)。「オーファン」TCRの特異性を測定するために、多数の方法が使用されてきた(例えば、Birnbaum,M.E.,et al.,Deconstructing the peptide-MHC specificity of T cell recognition.Cell,2014.157(5):p.1073-87を参照のこと)。質量分析では、抗原単離の偏りのない方法(Yadav,M.,et al.,Predicting immunogenic tumour mutations by combining mass spectrometry and exome sequencing.Nature,2014.515(7528):p.572-6)を提供することができるが、多数の細胞数(典型的には10~10個の細胞)が必要となる。T細胞抗原特異性の大部分の研究には、候補抗原を実験により試験することが伴う。例えば、抗腫瘍T細胞特異性の研究は、ネオ抗原に対する増殖性T細胞応答を示している。このような研究には、腫瘍を配列決定して変異を識別すること、エピトープ予測アルゴリズムを使用して免疫原性変異体ペプチドを予測すること、及び、これらの変異体ペプチドに向けられるT細胞応答を試験することを必要とする(Zolkind,P.,et al.,Neoantigens in immunotherapy and personalized vaccines:Implications for head and neck squamous cell carcinoma.Oral Oncology,Snyder,A.and T.A.Chan,Immunogenic peptide discovery in cancer genomes.Current Opinion in Genetics&Development,2015.30(0):p.7-16を参照のこと)。他の方法クエリは、pHLA多量体を使用することで、患者におけるT細胞特異性を確立した。Leong,M.L.and E.W.Newell,Multiplexed Peptide-MHC Tetramer Staining with Mass Cytometry.Methods Mol Biol,2015.1346:p.115-31,Newell,E.W.and M.M.Davis,Beyond model antigens:high-dimensional methods for the analysis of antigen-specific T cells.Nat Biotechnol,2014.32(2):p.149-57
【0003】
独自の各T細胞受容体を、それが認識するペプチド配列に接続する必要が存在する。特に、腫瘍由来のペプチド及び抗腫瘍T細胞の識別及びマッチングに関心が持たれている。
【発明の概要】
【0004】
一実施形態では、本発明は、α鎖(TCRα)及びβ鎖(TCRβ)で構成されるT細胞受容体(TCR)に対する同種抗原を識別する方法であって、患者から、各T細胞がTCRα及びTCRβ鎖を含むTCRを含むT細胞の集団を入手することと、各T細胞の核酸を細胞特異的バーコードでバーコード化することと、バーコード化した核酸を配列決定して、TCRα及びTCRβ鎖をコードするTCRA及びTCRB遺伝子配列を入手することと、機能性TCRをコードする遺伝子対と同じバーコードを有するTCRA及びTCRB遺伝子を識別することと、TCRA及びTCRB遺伝子対を、対応するT細胞に導入することと、それぞれ、場合により1つ以上の腫瘍ネオ抗原を含んでいる患者から腫瘍細胞の集団を入手することと、腫瘍ネオ抗原遺伝子を識別することと、ネオ抗原遺伝子からネオ抗原ペプチドを形成することと、ネオ抗原ペプチドを、MHC-1抗原提示複合体及びオリゴヌクレオチドバーコードと組み合わせて、バーコード化MHCネオ抗原ペプチド複合体を形成することと、トランスフェクションしたT細胞を、バーコード化MHCネオ抗原ペプチド複合体と接触させて、細胞が結合したMHCネオ抗原TCR複合体を形成することと、TCR遺伝子、及び、各T細胞からのMHCネオ抗原複合体バーコードを、細胞特異的なバーコードによりバーコード化することと、T細胞内で、関連する細胞特異的バーコードを有するTCR遺伝子、及び細胞特異的バーコードと関連するMHCネオ抗原複合体バーコードを配列決定することと、TCR遺伝子及びMHCネオ抗原複合体バーコードのうち少なくとも1つが、同じ細胞特異的バーコードと関連している場合に、ネオ抗原をTCRに対する同種抗原と識別すること、を含む方法である。
【0005】
T細胞は、腫瘍組織の解離により入手することができる。TCRα及びTCRβ鎖をコードするTCRA及びTCRB遺伝子配列は、再配列したDNA配列又はRNA配列であることができる。
【0006】
T細胞の集団は、蛍光活性化細胞選別(FACS)などの、タンパク質マーカー発現をベースにする捕捉により、腫瘍から入手される。T細胞は、CD3/CD8/TCRT細胞として、CD45RACD45ROCCR7CD62LナイーブT細胞として、CD45RACD45ROCCR7CD62LセントラルメモリーT細胞として、CD45RACD45ROCCR7CD62LエフェクターメモリーT細胞として、CD45RACD45ROCCR7CD62LエフェクターT細胞として、又は、CD4CD25FoxP3制御性T細胞として、選択されることができる。
【0007】
いくつかの実施形態では、T細胞バーコード化は、複数のT細胞を、遺伝子特異的配列及びバーコードオリゴヌクレオチドアニーリング領域を含むプライマーの混合物と接触させることと、複数のT細胞を、プライマー内のバーコードオリゴヌクレオチドアニーリング領域に相補性のバーコードオリゴヌクレオチドと接触させることと、スプリットプール合成の1つ以上のラウンドのそれぞれにおいて、複数のT細胞を、各ラウンドのバーコード化オリゴヌクレオチドが以前のラウンドのバーコードオリゴヌクレオチドのアニーリング領域に相補性のアニーリング領域を含む追加のバーコードオリゴヌクレオチドと接触させ、複数のT細胞のそれぞれにおける各プライマー上に細胞特異的バーコードを組み立てること、を含む方法により実施される。遺伝子特異的配列は、TCRA、TCRB、CD3、CD4、CD8、及びFoxP3から選択することができる。
【0008】
いくつかの実施形態では、T細胞バーコード化は、核酸を含有するT細胞の集団を、1つの細胞を含有する複数の第1の分画に分画することと、細胞を含有する分画を、それぞれが、遺伝子特異的配列及びバーコードを含む、バーコード化オリゴヌクレオチドプライマーの複数のコピーを含有する複数の第2の分画と混合することであって、バーコードは、各分画内で同じであるが、分画間では異なっている、混合することと、第1及び第2の分画を融合することと、バーコード化オリゴヌクレオチドプライマーでアンプリコンを形成し、核酸をバーコード化すること、を含む方法により実施される。遺伝子特異的配列は、TCRA、TCRB、CD3、CD4、CD8、及びFoxP3から選択することができる。
【0009】
いくつかの実施形態では、T細胞バーコード化及び配列決定は、T細胞の集団を、細胞の群を含有する複数の分画に分画することと、バーコード化アダプターを、各分画内の核酸にライゲーションすることと、アダプター化した核酸内のTCRA及びTCRBを配列決定して、バーコード化TCRA及びTCRB配列を入手することと、TCRA及びTCRB遺伝子対塩基の、分画内で同時発生する頻度を測定すること、を含む方法により実施される。
【0010】
バーコード化TCR遺伝子の配列決定は、遺伝子のCDR3超可変領域を配列決定することであり、TCR遺伝子の識別は、遺伝子のCDR3超可変領域を識別することである。
【0011】
いくつかの実施形態では、ネオ抗原遺伝子は、腫瘍細胞内の核酸を配列決定し、非サイレント変異を有する遺伝子をネオ抗原遺伝子として識別することにより識別される。配列決定は、全ゲノム配列決定、又は全エクソーム配列決定であることができる。ネオ抗原は配列アラインメントにより識別することができる。ネオ抗原は、ペプチドアレイを患者の血清でスクリーニングすることによってもまた、識別することができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、TCR遺伝子は、発現ベクター、例えば、TCRA及びTCRB遺伝子の一方又は両方を含むベクター内の、受容性T細胞に導入することができる。発現ベクターは、CD3タンパク質を発現するベクター、及びCD8タンパク質を発現するベクターを更に含むことができる。いくつかの実施形態では、受容性T細胞は、内因性のTCR遺伝子発現を欠いている。
【0013】
いくつかの実施形態では、遺伝子は、転写活性DNA断片として、又はmRNAとして、受容性細胞に導入される。
【0014】
いくつかの実施形態では、識別されたネオ抗原は更に、MHC-I分子に結合する能力により選択される。いくつかの実施形態では、MHC-I分子に結合する能力は、インシリコ分析により測定される。
【0015】
いくつかの実施形態では、ネオ抗原ペプチドは、8~100アミノ酸長である。いくつかの実施形態では、MHC-1タンパク質は、患者特異的配列を有する。
【0016】
いくつかの実施形態では、MHCネオ抗原TCR複合体は、形成後に架橋する。いくつかの実施形態では、ネオ抗原TCR複合体内でネオ抗原及びTCRをバーコード化することは、各複合体をバーコードを含有する反応体積に区画化することを含む。いくつかの実施形態では、方法における配列決定工程は、超並列配列決定を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、腫瘍試料の入手から、ネオ抗原及びT細胞受容体配列の格付けリストを生成するまでの方法の工程の図面を示す。示した例は任意のものである故、本出願の文脈とは無関係である。
図2-1】図2は、ネオ抗原及びT細胞受容体配列の格付けリストの生成から、同種TCR遺伝子対、及び一致する高原ペプチドを分析するまでの方法の工程の図面を示す。
図2-2】図2は、ネオ抗原及びT細胞受容体配列の格付けリストの生成から、同種TCR遺伝子対、及び一致する高原ペプチドを分析するまでの方法の工程の図面を示す。
図3図3は、バーコードを使用して、T細胞受容体を、T細胞内のその同種抗原に一致させることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義
以下の定義は、本開示を理解するのに役立つ。
【0019】
用語「試料」とは、標的核酸を含有する、又は含有すると推定される、あらゆる組成物を意味する。これには、個体から単離した組織又は流体の試料、例えば皮膚、血漿、血清、脊髄液、リンパ液、滑液、尿、涙、血液細胞、臓器、及び腫瘍を含み、並びに、ホルマリン固定パラフィン包埋組織(FFPET)及びこれから単離した核酸を含む、個体から採取した細胞から確立される、インビトロ培養液の試料もまた含む。試料は、無細胞DNA(cfDNA)又は環状腫瘍DNA(ctDNA)を含有する無細胞血液分画物などの、無細胞物質を含むこともまたできる。
【0020】
用語「核酸」とは、DNA、RNA、並びに、cDNA、mRNAなどの、これらのサブカテゴリーを含む、ヌクレオチドのポリマー(例えば、天然及び非天然の両方の、リボヌクレオチド及びデオキシリボヌクレオチド)を意味する。核酸は、一本鎖又は二本鎖であることができ、一般的に、5’-3’ホスホジエステル結合を含有するが、場合によっては、ヌクレオチド類似体が他の結合を有する場合がある。核酸は、天然に存在する塩基(アデノシン、グアノシン、シトシン、ウラシル、及び)、並びに非天然の塩基を含むことができる。非天然塩基のいくつかの例としては、例えばSeela et al.,(1999)Helv.Chim.Acta 82:1640に記載されているものが挙げられる。非天然塩基は、特定の機能、例えば、核酸二重鎖の安定性の増加、ヌクレアーゼ分解の阻害、又はプライマー伸長若しくは鎖重合の遮断を有することができる。
【0021】
用語「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」は、同じ意味で用いられる。ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖核酸である。オリゴヌクレオチドは、場合によってはより短いポリヌクレオチドを説明するために使用される用語である。オリゴヌクレオチドは、当該技術分野において公知の任意の好適な方法によって、例えば、Narang et al.(1979)Meth.Enzymol.68:90-99;Brown et al.(1979)Meth.Enzymol.68:109-151;Beaucage et al.(1981)Tetrahedron Lett.22:1859-1862;Matteucci et al.(1981)J.Am.Chem.Soc.103:3185-3191に記載されているような、直接化学合成を伴う方法によって、調製される。
【0022】
用語「プライマー」とは、標的核酸(「プライマー結合部位」)内で配列とハイブリダイズするする一本鎖オリゴヌクレオチドを意味し、このような合成に好適な条件下にて、核酸の相補鎖に沿って、合成の開始点として作用することができる。
【0023】
用語「アダプター」とは、別の配列に付加されて、その配列に追加の性質を組み込むことができるヌクレオチド配列を意味する。アダプターは典型的には、一本鎖若しくは二本鎖であることができるオリゴヌクレオチドである、又は、一本鎖部分と二本鎖部分の両方を有することができる。
【0024】
用語「ライゲーション」とは、一方の分子の5’-ホスフェート基が、別の分子の3’-ヒドロキシル基と反応する、2つの核酸鎖を結合させる縮合反応を意味する。ライゲーションは典型的には、リガーゼ又はトポイソメラーゼにより触媒される、触媒反応である。ライゲーションは、2つの一本鎖を結合して、1つの一本鎖分子を作製することができる。ライゲーションはまた、それぞれが二本鎖分子に属する2つの鎖を結合することもできるため、2つの二本鎖分子を結合する。ライゲーションはまた、二本鎖分子の両方の鎖を、別の二本鎖分子の両方の鎖に結合することもできるため、2つの二本鎖分子を結合する。ライゲーションはまた、二本鎖分子内の鎖の2つの末端を結合することができるため、二本鎖分子内のニックを修復する。
【0025】
用語「バーコード」とは、検出及び識別可能な核酸配列を意味する。バーコードは、様々な核酸に組み込むことができる。バーコードは十分に長い、例えば、2、5、20ヌクレオチドであるため、試料内において、バーコードを組み込む核酸は、バーコードに従い区別することができる、又はグルーピングすることができる。
【0026】
用語「多重識別子」又は「MID」とは、標的核酸の源(例えば、核酸が由来する試料)を識別するバーコードを意味する。同じ試料由来の、全て、又は実質的に全ての標的核酸は、同じMIDを共有している。異なる源又は試料由来の標的核酸は、混合して同時に配列決定することができる。MIDを使用することで、配列リードを、標的核酸が由来する個別の試料に割り当てることができる。
【0027】
用語「固有分子識別子」又は「UID」とは、結合されている核酸分子を識別するバーコードを意味する。同じ試料由来の、全て、又は実質的に全ての標的核酸は、異なるUIDを共有している。同じ元の標的核酸に由来する、全て、又は実質的に全ての後代(例えば、アンプリコン)は、同じUIDを共有する。
【0028】
用語「量子バーコード化」又は「QBC」とは、細胞の混合物中における個別の細胞が、固有の核酸バーコードにより標識されることができるプロセスであって、細胞の混合物を、標的結合配列及びバーコードオリゴヌクレオチドアニーリング領域を含む結合剤の混合物と接触させる工程と、細胞を、結合剤中のバーコードオリゴヌクレオチドアニーリング領域に相補性のバーコードオリゴヌクレオチドと接触させる工程と、スプリットプール合成の1つ以上のラウンドのそれぞれにおいて、細胞を、各ラウンドのバーコード化オリゴヌクレオチドが以前のラウンドのバーコードオリゴヌクレオチドのアニーリング領域に相補性のアニーリング領域を含む追加のバーコードオリゴヌクレオチドと接触させ、各細胞内で細胞特異的バーコードを組み立てる工程とを含む、プロセスを意味する(2016年4月15日に出願された、米国出願番号13/981,711号を参照のこと)。
【0029】
本明細書で使用する場合、用語「標的配列」、「標的核酸」、又は「標的」とは、検出又は分析される、試料内での核酸配列の部分を意味する。用語「標的」は、標的配列のあらゆる多様体、例えば、1つ以上の変異体多様体、及び野生型多様体を含む。
【0030】
用語「増幅」とは、標的核酸の更なるコピーを作製するプロセスを意味する。増幅は、2回以上のサイクル、例えば、複数サイクルの、指数関数的増幅を有することができる。増幅は、(標的核酸の単一コピーを作製する)1回のみのサイクルを有することができる。コピーは、例えば、増幅に用いられるプライマーに存在するものなどの、追加の配列を有することができる。増幅は、一本鎖(線形増幅)のみ、又は優先的に一本鎖(非対称PCR)のコピーもまた作製することができる。
【0031】
用語「配列決定」とは、標的核酸内のヌクレオチドの配列を測定する、あらゆる方法を意味する。
【0032】
用語「MHC」とは、(MHC-Iに対する)α1、α2、及びα3ペプチド並びにβ2マイクログロブリンペプチドの非共有複合体、又は、(MHC-IIに対する)α1、α2、β1、及びβ2ペプチドの非共有複合体を含む、四級ペプチド構造である、主要組織適合遺伝子複合体を意味する。ペプチド抗原に結合したMHCは、「pMHC」と呼ばれる。
【0033】
用語「TCRA及びTCRB」、「TCRアルファ及びTCRベータ」、並びに「TCRα及びTCRβ」は同じ意味で用いられ、(文脈に応じて)T細胞受容体α及びβペプチド鎖、並びにこれらをコードする遺伝子を意味する。Thomas J.Kindt;Richard A.Goldsby;Barbara Anne Osborne;Janis Kuby(2007).Kuby Immunology.Macmillanを参照のこと。
【0034】
本発明は、T細胞受容体に対する抗原を識別する方法である。より正確には、本発明は、TCRα及びTCRβペプチド鎖からなる機能性T細胞受容体を形成する、一対の、T細胞レセプターをコードする遺伝子TCRA及びTCRBを識別する方法、並びに更に、機能性T細胞受容体に対する同種抗原の配列を識別する方法である。本発明は、以下のいくつかの革新的なアプローチに依存している:i.超並列DNA塩基配列決定法のための、腫瘍組織のそれぞれのサンプリング;ii.生物学的に関係のある複合体の一部である全てのシステム構成要素をタグするための、分子バーコードの利用;TCRとペプチドリガンドとの間での、高親和性で安定した複合体の調製;及び、iv.超並列DNA塩基配列決定法により読み取り可能な核酸バーコードを使用した、タグ付けされたシステム構成要素の調査。
【0035】
図1にまとめているように、本発明は、(1)腫瘍組織を入手する工程と、(2)組織を細胞又は細胞核、原子核に解離させる工程と、(3)腫瘍細胞、通常細胞、及び免疫細胞をソートする工程と、(4)腫瘍細胞分画、通常細胞分画、及び免疫細胞分画を入手する工程と、(5)細胞分画からDNAを単離する工程と、(6)腫瘍DNAを、腫瘍DNA配列決定のための配列決定ライブラリーに転換する工程と、(7)対形成したTCRA及びTCRB遺伝子を、配列決定のために調製する工程と、(8)DNA塩基配列決定を行う工程と、(9)配列決定データを解釈する工程と、(10)予測した免疫原性ネオ抗原ペプチドをコードする遺伝子の、格付けリストを形成する工程と、(11)観察された、又は推定されたTCRA/TCRB対形成を有するT細胞受容体配列(TCRA及びTCRB)の、格付けリストを形成する工程と、を含む。
【0036】
図2にまとめているように、(1)予想された免疫原性ネオ抗原ペプチドをコードする遺伝子の格付けリスト、及び(2)図1で観察された、又は推定されたTCRA/TCRB対形成を有するT細胞受容体配列(TCRA及びTCRB)の格付けリストから始まり、本発明は、(3)DNAバーコード化ネオ抗原ペプチドMHC複合体のライブラリーを形成する工程と、(4)識別され格付けされたTCR-A/B配列、CD3受容体、及びCD8同時受容体を発現するトランスジェニックT細胞を形成する工程と、(5)TCRを発現するトランスジェニックT細胞の集団を、DNAバーコード化ネオ抗原ペプチドMHC複合体でインキュベートする工程と、(6)複合体(5)を、DNAバーコード化ペプチドMHC複合体由来の、コンビナトリアルバーコード化、並びに、TCRA mRNA(プラスミド)、TCRB mRNA(プラスミド)、及びバーコードのNGS配列決定に通す工程と、(7)バーコードを配列決定して配列決定データを解釈し、同種TCR対及び一致ペプチドを分析する工程と、を更に含む。
【0037】
図1の工程1を参照すると、試料は、対象又は患者に由来している。いくつかの実施形態では、試料は、例えば生検又は外科的切除によって対象又は患者に由来する、充実性組織又は充実性腫瘍の断片を含むことができる。図1の工程2を参照すると、方法は、腫瘍を解離して、細胞の混合物又は懸濁液を得る工程を含む。腫瘍組織は、新鮮であるか、(例えば液体窒素で)急速冷凍されるか、又は、ホルマリン、パラホルムアルデヒドなどを使用して固定されるかの、いずれかであることができる。腫瘍組織は、機械的解離(例えば、Tube Mill,(IKA Works,Inc.,Wilmington,NC)などのホモジナイザーを使用するブレンド)と、タンパク質分解酵素による酵素的分解との組み合わせを使用して、均質化することができる。いくつかの実施形態では、組織解離は排他的に酵素によるものであり、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ(中性プロテアーゼ)、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、プロテイナーゼK、及びプロナーゼのうちの1つ以上を用いる。
【0038】
典型的な腫瘍試料は、均質ではないが、腫瘍細胞、並びに通常の細胞及び免疫細胞の、不均質な集団を含有する。腫瘍内の免疫細胞は、腫瘍浸潤リンパ球を含むことができる。試料内の各種類の細胞は、例えば、蛍光活性化細胞選別(FACS)による、細胞分離に使用可能な1つ以上のバイオマーカーにより特性決定される。図1の工程3及び4を参照すると、細胞は分画に分離されている。腫瘍細胞は典型的には多倍数体であるため、腫瘍細胞又は細胞核は、サイトケラチン、p53、p63タンパク質を含む腫瘍バイオマーカーにより、又は、DNA内容物により特性決定される。いくつかの実施形態では、細胞は、リン脂質又は糖脂質内容物により特性決定される。種類に応じて、リンパ球は、単独で又は組み合わせでの、一組の表面タンパク質、リンパ球の種類に関するバイオマーカーとして機能する有無により特性決定される。いくつかの実施形態では、T細胞は、バイオマーカーCD3CD8TCRの組み合わせにより区別される。いくつかの実施形態では、ナイーブT細胞は、バイオマーカーCD45RACD45ROCCR7CD62Lの組み合わせにより区別される。いくつかの実施形態では、セントラルメモリーT細胞は、バイオマーカーCD45RACD45ROCCR7CD62Lの組み合わせにより区別される。いくつかの実施形態では、エフェクターメモリーT細胞は、バイオマーカーCD45RACD45ROCCR7CD62Lの組み合わせにより区別される。いくつかの実施形態では、エフェクターT細胞は、バイオマーカーCD45RACD45ROCCR7CD62Lの組み合わせにより区別される。いくつかの実施形態では、制御性T細胞は、バイオマーカーCD4CD25FoxP3の組み合わせにより区別される。
【0039】
いくつかの実施形態では、抗原配列及びTCR配列は、分画した細胞から単離した核酸を配列決定することにより測定される(図1の工程5)。
【0040】
いくつかの実施形態では、機能性TCRを形成するペプチドをコードするTCRA及びTCRB配列は、区画化、PCR増幅、及びTCR配列の配列決定により、同じ区画内に存在するTCRA及びTCRBを発見することを伴う方法を使用して識別される(例えば、Howie,B.,et al.,High-throughput pairing of T cell receptor α and β sequences.Science Translational Medicine,2015.7(301):p.301ra131-301ra131を参照のこと)。要約すると、T細胞は個別の区画内で区画化される。TCR鎖をコードする核酸は、ゲノムDNAから、又は、(cDNAに転換した)全細胞RNAから入手される。mRNAの複数の分子が存在することにより、cDNAがゲノムDNA(gDNA)に対して好ましくなる。TCRA及びTCRB配列を次に、各ウェル内でPCR増幅させる。
【0041】
いくつかの実施形態では、(図1の工程7を参照)対形成したTCRA及びTCRB遺伝子は、T細胞の集団を、1つの細胞を含有する複数の第1の分画に分画することと、細胞を含有する分画を、それぞれが、TCR遺伝子結合配列及びバーコードを含む、バーコード化オリゴヌクレオチドTCRプライマーの複数のコピーを含有する複数の第2の分画と混合することであって、バーコードは、各分画内で同じであるが、分画間では異なっている、混合することと、第1及び第2の分画を融合することと、バーコード化TCRプライマーを有するTCR遺伝子をコピーして、バーコード化TCR遺伝子アンプリコンを形成することと、バーコード化TCRアンプリコンを配列決定して、どのTCRA及びTCRBアンプリコンが、1つの細胞内で同時発生しているかを示す同じバーコードを有するかを測定することと、を含む方法により識別される。(図1の工程8)。
【0042】
いくつかの実施形態では、対形成したTCRA及びTCRB遺伝子は、配列決定及びコンビナトリアル分析を含む方法により識別される(例えば、Howie,B et al.,”High-throughput pairing of T cell receptor α and β sequences.”Science translational medicine 7,no.301(2015):301ra131-301ra131を参照のこと)。要約すると、方法は、T細胞の集団を、細胞の群を含有する複数の分画に分画することと、バーコード化アダプターを、各分画内の核酸にライゲーションすることと、アダプター化した核酸内のTCRA及びTCRBを配列決定して、バーコード化TCRA及びTCRB配列を入手することと、TCRA及びTCRB遺伝子対塩基の、分画内で同時発生する頻度を測定することと、を含む。いくつかの実施形態では、TCR遺伝子内のCDR3領域が、例えば、V及びC遺伝子に対して特異的なプライマー、又は、CDR3領域に存在する任意のセグメントにより、標的となる。いくつかの実施形態では、配列決定は、各鎖に対して、受容体配列とバーコードの両方をもたらす、ハイスループットDNA塩基配列決定法用のバーコード化アンプリコンをプールすることにより達成される。配列決定したバーコードにより、受容体配列を元のウェルにマッピングすることが可能となる。いくつかの実施形態では、TCRA及びTCRBのマッチングには、統計分析を用いる。統計分析を使用して、各TCRB配列のウェル占有パターンに対する、各TCRA配列のウェル占有パターンを比較する。偶然にも、予想よりも多くのウェルを共有する配列は、可能性のある対形成パートナーとしてマークする。更なる統計的手法、例えば、順列によるヌル分布を生成し、標的偽発見率を満たす対を識別することを含む方法を使用して、機能性TCRをコードするTCRA及びTCRB塩基対を識別する。米国特許出願公開第20100330571号を参照のこと。
【0043】
いくつかの実施形態では、機能性TCRを形成するペプチドをコードするTCRA及びTCRB配列は、個別のT細胞から識別される。T細胞がクローニングされ、例えば、ハイブリッド捕捉及び配列決定を伴う方法により、TCR遺伝子が配列決定される(例えば、Linnemann,C.,et al.,High-throughput identification of antigen-specific TCRs by TCR gene capture.Nat Med,2013.19(11):p.1534-154を参照のこと)。要約すると、一例において、おとりライブラリーを使用して、それぞれの座位当たり、8及び6個のおとりにて、TCRA及びTCRB内の、各個別の可変(V)及び結合(J)エレメントを標的にする。おとりは、ゲノムDNA由来のTCRコード配列を捕捉する。捕捉された配列は、バーコード化アダプターのライゲーション、及び、対形成が終わった深い配列決定、を含む方法により配列決定される。配列データを分析して、TCR J遺伝子、TCRB D遺伝子、及びTCR V遺伝子を再構築する。CDR3領域配列を、保存されたTCR Vシステインと、TCR Jフェニルアラニン残基との間のヌクレオチド配列として測定する。別の実施形態において、個別のT細胞を、容器特異的なバーコード(例えば、TCR遺伝子のmRNAの逆転写用の、逆転写(RT)プライマーとして機能するオリゴヌクレオチド)と共に、容器(例えば、油中水型エマルション)に封入する。例えば、出願シリアル番号WO2016176322を参照のこと。
【0044】
いくつかの実施形態では、本発明は、それぞれが、TCRα及びTCRβ鎖をコードする、一対のTCRA及びTCRB遺伝子を含む、格付けT細胞受容体配列の格付けリストを形成することを含む。(図1の工程9及び11)。
【0045】
いくつかの実施形態では、本発明は、改変TCRを発現するT細胞を形成する工程を含む。(図2、工程4)。細胞は、後のセクションで詳細に説明するように、内因性TCRを作製しないT細胞であるのが好ましい。キメラ抗原受容体(CAR)を発現するT細胞を作製するいくつかの方法が当技術分野において既知である(例えば、Essand,M.and A.S.Loskog,Genetically engineered T cells for the treatment of cancer.J Intern Med,2013.273(2):p.166-81を参照のこと)。いくつかの実施形態では、ウイルスベクター、例えば、遺伝子が、ピコルナウイルス2A自己開裂ペプチドリンカーと融合したTCRα及びTCRβ鎖をコードする場合において、レトロウイルスベクター、を使用して、TCRA及びTCRB遺伝子を導入する(例えば、Zhang,Y.,et al.,Transduction of Human T Cells with a Novel T-Cell Receptor Confers Anti-HCV Reactivity.PLOS Pathogens,2010.6(7):p.e1001018 and Walchli,S.,et al.,A practical approach to T-cell receptor cloning and expression.PLoS One,2011.6(11):p.e27930を参照のこと)。いくつかの実施形態では、要素を導入して、改変TCRの形成を向上させる。向上には、マウス定常TCRドメインを使用してTCR発現を向上させること、ジッパードメインを細胞内TCRドメインに付加して、鎖間認識及び結合を促進すること、又は、定常領域の細胞外部分におけるジスルフィド結合を改変し、鎖間親和性を増加させること、が含まれる(例えば、米国特許第9624292B2号、及び、Kuball,J.,et al.,Facilitating matched pairing and expression of TCR chains introduced into human T cells.Blood,2007.109(6):p.2331を参照のこと)。追加の向上としては、TCRの細胞表面発現レベルを改善するために、MSCV標的細胞を、クローン化したヒトCD3複合体を有するMSCVベクターとコトランスフェクションすることが挙げられる(例えば、Guo,X.-z.J.,et al.,Rapid cloning,expression,and functional characterization of paired αβ and γδ T-cell receptor chains from single-cell analysis.Molecular Therapy.Methods&Clinical Development,2016.3:p.15054を参照のこと)。
【0046】
いくつかの実施形態では、発現ベクターは使用されないが、TCRA及びTCRB遺伝子対が、PCRアンプリコンなどの転写活性DNA断片として、細胞に導入される。いくつかの実施形態では、トランスフェクションを促進する試薬、例えばTransIT-293試薬(Mirus Bio,Madison,Wisc.)が使用される。更に他の実施形態において、TCRA及びTCRB遺伝子対を、機能性mRNA、例えばインビトロ転写mRNAとして、細胞に導入する。例えば、Simon,P.,et al.,Functional TCR Retrieval from Single Antigen-Specific Human T Cells Reveals Multiple Novel Epitopes.Cancer Immunol Res,2014.2(12):p.1230-1244を参照のこと。ここでは、mRNAはT7ポリメラーゼにより作製され、RNA安定性及び翻訳効率の増加のために、ヒトβグロビン遺伝子の3’UTRなどの、3’改変を含んだ。
【0047】
いくつかの実施形態では、TCRA及びTCRB遺伝子対はそれぞれのT細胞に導入される。(図2、工程5)。いくつかの実施形態では、T細胞は、内因性TCR遺伝子を欠いている。例えば、Zhang,Y.,et al.,Transduction of Human T Cells with a Novel T-Cell Receptor Confers Anti-HCV Reactivity.PLOS Pathogens,2010.6(7):p.e1001018、及びSimon,P.,et al.,Functional TCR Retrieval from Single Antigen-Specific Human T Cells Reveals Multiple Novel Epitopes.Cancer Immunol Res,2014.2(12):p.1230-1244,examples of TCRA/B negative Jurkat76 cell lineを参照のこと。別の実施形態において、細胞はT細胞ハイブリドーマである(例えば、Siewert,K.,et al.,Unbiased identification of target antigens of CD8+T cells with combinatorial libraries coding for short peptides.Nat Med,2012.18(5):p.824-8を参照のこと)。いくつかの実施形態では、T細胞を更に改変して、CD4同時受容体を発現するようにする。いくつかの実施形態では、T細胞を更に改変して、TCR抗原認識、及びその後のT細胞活性化の際にレポーター遺伝子(例えば、GFP又はルシフェラーゼなどの蛍光タンパク質)を発現するようにすることができる。レポーター構築物は、T細胞活性化の際に上方制御される、NFATタンパク質応答性プロモーターなどの、応答性プロモーターを含むことができる。
【0048】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列決定の準備ができた標的核酸のライブラリーを作製し、配列決定する工程を含む。標的核酸は、試料から入手したTCRA及びTCRB遺伝子を含むことができる。標的核酸は、腫瘍ネオ抗原(腫瘍エクソーム)に対するコード配列を含む、腫瘍エクソームであることもまた可能である。本明細書中に記載のように、ライブラリーは、アダプター、バーコード、及びプライマー結合部位を含むがこれらに限定されない、追加のフィーチャーを有する個々の分子を含む。標的配列を、上記追加のフィーチャーに(例えば、ライゲーションにより、又はプライマー伸長により)抱合体化する。
【0049】
いくつかの実施形態では、腫瘍物質から単離された核酸を配列決定することには、ライブラリー調製の工程を伴う。(図1の工程6)。工程は、アダプター分子が標的核酸にライゲーションされ、バーコード化及び配列決定が可能となる、アダプター化した核酸を形成することを含む。ライゲーションは、平滑末端ライゲーション、又はより効果的な、凝集性末端ライゲーションであることができる。標的核酸又はアダプターは、鎖充填を含む「末端修復」、すなわち、DNAポリメラーゼによって3’末端を伸長して5’オーバーハングを除去することによって、平滑末端にすることができる。いくつかの実施形態では、平滑末端アダプター及び標的核酸は、例えばDNAポリメラーゼ又は末端トランスフェラーゼによって、アダプターの3’末端への単一ヌクレオチド及び標的核酸の3’末端への単一相補的ヌクレオチドを付加することで付着性にすることができる。更に他の実施形態では、アダプター及び標的核酸は、制限エンドヌクレアーゼでの消化によって付着末端(オーバーハング)を獲得し得る。後者の選択肢は、制限酵素認識部位を含有することが知られている既知の標的配列に対してより有利である。いくつかの実施形態では、他の酵素工程が、ライゲーションを達成するために必要とされ得る。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドキナーゼは、標的核酸分子及びアダプター分子に5’-リン酸を加えるために使用され得る。
【0050】
アダプターが、例えばライゲーションにより、標的核酸の配列とは独立して付加される実施形態において、試料内の標的核酸は、各末端にて同じアダプター分子を受ける。もたらされる、アダプター化した標的核酸の鎖を区別するために、アダプターは、Y構造を有することができる(例えば、米国特許第8053192号、同第8182989号、及び同第8822150号を参照のこと)。
【0051】
いくつかの実施形態では、アダプターはプライマー結合部位、例えば、増幅プライマー結合部位、又は、配列決定プライマー結合部位を含む。いくつかの実施形態では、アダプター分子は、インビトロ合成人工配列である。他の実施形態では、アダプター分子は、インビトロ合成天然配列である。更に他の実施形態では、アダプター分子は、天然分子から単離される。
【0052】
いくつかの実施形態では、本発明は、標的核酸を増幅する工程を含む方法である。増幅は、指数関数的ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)、一方の鎖のみの線形増幅、又はオリゴヌクレオチドプライマーを利用する任意の他の方法によるものであってもよい。様々なPCR条件は、PCR Strategies(M.A.Innis,D.H.Gelfand,and J.J.Sninsky eds.,1995,Academic Press,San Diego,CA)at Chapter 14;PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications(M.A.Innis,D.H.Gelfand,J.J.Sninsky,and T.J.White eds.,Academic Press,NY,1990)に記載されている。
【0053】
いくつかの実施形態では、増幅には、上述したように標的配列に抱合体化したアダプターに存在する、ユニバーサルプライマー結合部位を利用する。その他の実施形態では、遺伝子特異的(標的特異的)プライマー又はプライマー対を使用する。いくつかの実施形態では、プライマーは、アダプター配列、例えばバーコード又は配列決定プライマー結合部位を含む5’オーバーハングを含有する。このようなプライマーを使用することで、本発明の方法のアダプターライゲーション工程なしで済ませられる。
【0054】
いくつかの実施形態では、本発明は、特に配列決定のための、バーコードを標的核酸に導入することを含む。個々の分子の配列決定は、典型的には、例えば、米国特許第7,393,665号、同第8,168,385号、同第8,481,292号、同第8,685,678号、同第8,722,368号、及び同第7,264,929号に記載されているような分子バーコードを必要とする。固有分子バーコードは、典型的にはインビトロ操作の最初の工程の間に患者の試料などの試料中の各分子に加えられる、短い人工配列である。バーコードは分子とその子孫を標識する。固有分子バーコード(unique molecular barcode:UID)には複数の用途がある。バーコードは、試料中の個々の核酸分子を追跡して、例えば、生検なしに癌を検出し監視するために、患者の血液中の循環腫瘍DNA(ctDNA)分子の存在及び量を評価することを可能にする。米国特許出願第14/774,518号を参照されたい。固有分子バーコードはまた、配列決定のエラー訂正にも使用できる。単一の標的分子の子孫全体が同じバーコードで標識され、バーコード化されたファミリーを形成する。バーコード化されたファミリーの全メンバに共有されていない配列の変動は、人工物として廃棄され、これは真の突然変異ではない。バーコードはまた、ファミリー全体が元の試料中の単一分子を表しているため、位置的重複排除及び標的の定量化にも使用することができる。Idを参照のこと。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態では、アダプターは、1つ以上のバーコードを含む。バーコードは、試料が混合(多重化)される試料の源を識別するために使用される多重試料ID(MID)であってもよい。バーコードはまた、各元の分子及びその子孫を識別するために使用されるUIDとしても機能する。バーコードはまた、UIDとMIDとの組合せであってもよい。いくつかの実施形態では、単一のバーコードが、UID及びMIDの両方として使用される。いくつかの実施形態では、各バーコードは、所定の配列を含む。他の実施形態では、バーコードは、ランダム配列を含む。バーコードは1~20ヌクレオチド長であり得る。
【0056】
配列決定は、当技術分野で周知の任意の方法によって行うことができる。環状標的核酸の読み取りが可能な、ハイスループット単一分子配列決定が、特に有利である。このような技術の例としては、SOLiDプラットフォーム(ThermoFisher Scientific,Foster City,Cal.)、Heliscope蛍光ベース配列決定機器(Helicos Biosciences,Cambridge,Mass.)、SMRT(Pacific Biosciences,Menlo Park,Cal.)を利用するPacific BioSciencesプラットフォーム、又は、Oxford Nanopore Technologies(Oxford,UK)若しくはRoche Sequencing Solutions(Roche Genia,Santa Clara,Cal.)により製造されるものなどの、ナノ孔技術を利用するプラットフォーム、Synthesis(SBS)(Illumina,San Diego,Cal.)による可逆的ターミネーター配列決定によるもの、並びに、合成による配列決定を伴う、又は伴わない、既存の、又は将来的な、任意の他のDNA塩基配列決定法が挙げられる。配列決定工程は、プラットフォーム特異的配列決定プライマーを利用することができる。これらのプライマー用の結合部位を、本明細書に記載したとおりに、即ち、第2のアダプター又は増幅プライマーの一部として、本発明の方法に導入することができる。
【0057】
分析及び誤差修正
いくつかの実施形態では、配列決定工程には、配列位置合わせの工程を含む、配列分析を伴う。いくつかの実施形態では、アラインメントを使用して、複数の配列、例えば同じバーコード(UID)を有する複数の配列からコンセンサス配列を決定する。いくつかの実施形態では、バーコード(UID)は、全てが同一のバーコード(UID)を有する複数の配列からコンセンサスを決定するために使用される。他の実施形態では、バーコード(UID)は、を使用して、人工物、すなわち、同一のバーコード(UID)を有する一部の配列に存在するが全ての配列には存在しない変動を除去するために使用される。PCRエラー又は配列決定エラーから生じるこのような人工物は、除去され得る。
【0058】
いくつかの実施形態では、試料中の各配列の数は、試料中の各バーコード(UID)を有する配列の相対数を定量化することによって定量化することができる。各UIDは、元の試料中の単一の分子を表し、各配列多様体に関連する異なるUIDを計数することによって、元の試料中の各配列の画分を決定することができる。当業者は、コンセンサス配列を決定するために必要な配列読取りの数を決定することができる。いくつかの実施形態では、関連する数は、正確な定量的結果のために必要なUID(「配列深度(sequence depth)」)当たりの読取りである。いくつかの実施形態では、所望の深度はUID当たり5~50読取りである。
【0059】
本発明は、腫瘍ネオ抗原を識別する工程を更に含む。いくつかの実施形態では、方法は、全ゲノム配列決定(WGS)、全エクソーム配列決定(WES)、又は、腫瘍に関連して発現する遺伝子に対する強化された遺伝物質の、より選択的な配列決定による、腫瘍関連遺伝物質の配列決定工程を含む。(図1の工程5、6、及び8)。方法は更に、参照ゲノムへのアラインメントを含む。これにより、ネオ抗原は、参照ゲノムと比較したときに、コード配列に差(変異)を含む配列として識別される。ミスセンス変異(即ち、アミノ酸コーディングを変化させる変異)のみが、潜在的なネオ抗原性変異としてスコアリングされる。
【0060】
いくつかの実施形態では、ネオ抗原は、ペプチドアレイを使用する血清抗体スクリーニングにより発見される。本実施形態において、8~20アミノ酸長における、最大250万のペプチドの、アドレス指定可能なアレイは、米国特許第9346892号に記載されているように合成される。アレイは、腫瘍患者の血清によりスクリーニングされ、抗体結合は、比色分析又は蛍光アッセイ、例えばELISAアッセイにより検出される。免疫応答(抗体結合)を有するものとして識別されるアレイペプチドは、ネオ抗原として選択される。
【0061】
いくつかの実施形態では、ネオ抗原を識別する工程は、例えば、Kvistborg,P.,et al.,Immune monitoring technology primer:whole exome sequencing for neoantigen discovery and precision oncology.Journal for ImmunoTherapy of Cancer,2016.4(1):p.22.Tran,E.,P.F.Robbins,and S.A.Rosenberg,’Final common pathway of human cancer immunotherapy:targeting random somatic mutations.Nat Immunol,2017.18(3):p.255-262.;Anagnostou,V.,et al.,Evolution of Neoantigen Landscape During Immune Checkpoint Blockade in Non-Small Cell Lung Cancer.Cancer Discov,2016.;Zolkind,P.,et al.,Neoantigens in immunotherapy and personalized vaccines:Implications for head and neck squamous cell carcinoma.Oral Oncology.;Kreiter,S.,et al.,Mutant MHC class II epitopes drive therapeutic immune responses to cancer.Nature,2015.520(7549):p.692-6.;Hegde,P.S.,V.Karanikas,and S.Evers,The Where,the When,and the How of Immune Monitoring for Cancer Immunotherapies in the Era of Checkpoint Inhibition.Clin Cancer Res,2016.22(8):p.1865-74;Yuan,J.,et al.,Novel technologies and emerging biomarkers for personalized cancer immunotherapy.J Immunother Cancer,2016.4:p.3.に記載されている、仮のネオエピトープ予測工程、又は、仮の抗原性ペプチド予測工程を更に含む。例えば、以下の好ましい特徴のうちの1つ以上が見いだされた場合に、変異体ペプチドはネオ抗原と識別される:変異が腫瘍と関連していることが知られている、例えば、COSMICデータベース(ヒトの癌で見いだされる体細胞突然変異の包括的なリストを含有するデータベース)に存在する、変異ペプチドが8~15アミノ酸長である、変異ペプチド配列が、プロテアソーム開裂を促進する配列の付近のタンパク質の中に位置する、変異ペプチド配列が、抗原プロセッシング(TAP)と関連するトランスポーターに対する認識部位の付近のタンパク質の中に位置する。
【0062】
いくつかの実施形態では、本発明は、ネオ抗原の、MHC対立遺伝子への結合度合いを予測する工程を更に含む。いくつかの実施形態では、結合度合いは、配列ベースのインシリコ評価により測定される(例えば、予測は、隠れマルコフモデル、機械学習アルゴリズム、及びニューラルネットワークのうちの1つ以上を使用して作製される)。別の実施形態において、結合度合いは、例えば、既知のペプチド抗原結晶構造を使用して構造ベースのインシリコ評価により測定され、所与のペプチドがMHC分子に結合するか否かについての予測を行うことができる(例えば、Sharma,G.and R.A.Holt,T-cell epitope discovery technologies.Human Immunology,2014.75(6):p.514-519を参照のこと)。更に他の実施形態において、結合度合いは実験により測定され、測定した、MHCに対するペプチドの親和性は1マイクロモル未満、例えば500nM、200nM、又は、最低で50nM以下である。
【0063】
いくつかの実施形態では、方法は、腫瘍由来のネオ抗原抗原の格付けリストを生成する工程を含む。(図1の工程9及び10)。
【0064】
本発明は、候補のネオ抗原ペプチドを形成して、これらをMHC分子と結合して、抗原を発現する複合体を形成する工程を更に含む(図2の工程3)。いくつかの実施形態では、ペプチドは、例えば、Merrifield,Science 232:341-347(1986),Barany&Merrifield,The Peptides,Gross&Meienhofer,eds.(N.Y.,Academic Press),pp.1-284(1979);及びStewart&Young,Solid Phase Peptide Synthesis,(Rockford,Ill.,Pierce),2d Ed.(1984)に記載されているものなどの、既存のインビトロペプチド合成法を使用して形成される。ペプチドは、米国特許第9346892号に記載されている、アミノ酸が、感光性保護基により保護されているアミノ基により導入されている、マイクロアレイを使用してもまた合成することができる。
【0065】
本発明は、抗原提示ポリペプチド複合体を形成する工程を更に含む。複合体は、α1、α2、及びα3ペプチド、並びにβ2マイクログロブリンペプチドの非共有複合体を含むMHC-I複合体、又は、α1、α2、β1、及びβ2ペプチドの非共有複合体を含むMHC-II複合体である。いくつかの実施形態では、MHCペプチドは患者特異的である。患者特異的タンパク質配列は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、及びHLA-G座位のうちの1つ以上を含む、患者のクラスIa及びクラスIb遺伝子配列のうちの1つ以上の核酸配列を測定することにより入手される。いくつかの実施形態では、MHCペプチドを作製するための発現ベクターは、患者のHLA遺伝子配列から形成される。いくつかの実施形態では、患者のHLA遺伝子配列は、HLA-A及びHLA-B遺伝子の低解像度タイピング、並びに、配列格付けにより、最も可能性の高い対立遺伝子を測定することにより測定される(例えば、Emerson,R.,et al.Immunosequencing identifies signatures of cytomegalovirus exposure history and HLA-mediated effects on the T cell repertoire.Nature Genetics 49,no.5(2017):659を参照のこと)。
【0066】
いくつかの実施形態では、MHC複合体の多量体を使用する。いくつかの実施形態では、MHC多量体は二量体、四量体、又は八量体である。いくつかの実施形態では、MHC多量体は、主鎖分子上で複数のMHCモノマーを捕捉することにより作製される。いくつかの実施形態では、主鎖は、デキストラン又は他の炭水化物ポリマーなどの、ポリマー分子である。いくつかの実施形態では、主鎖は、親和性捕捉分子を含有する。いくつかの実施形態では、MHC多量体は、デキストランに結合した、ストレプトアビジン、又はアビジン上で、組み換えにより作製したビオチン化MHCモノマーを捕捉することにより形成される。いくつかの実施形態では、多量体は四量体である。
【0067】
いくつかの実施形態では、MHC多量体を、検出分子に抱合体化する。いくつかの実施形態では、検出分子は、主鎖に抱合体化し、フローサイトメトリーにより、MHC多量体に結合したT細胞の単離を可能にする、蛍光色素である。いくつかの実施形態では、検出分子は、(例えば、Newell,E.W.et al.,(2012).Cytometry by time-of-flight shows combinatorial cytokine expression and virus-specific cell niches within a continuum of CD8+T cell phenotypes.Immunity,36(1),142-152に記載されている方法により)主鎖に抱合体化し、質量分析により検出が可能となった、重金属である。Sharma,G.and R.A.Holt,T-cell epitope discovery technologies.Human Immunology,2014.75(6):p.514-519;Altman,J.D.and M.M.Davis,MHC-Peptide Tetramers to Visualize Antigen-Specific T Cells.Curr Protoc Immunol,2016.115:p.17 3 1-17 3 44を参照のこと。
【0068】
本発明は、MHC多量体のバーコード化を更に含む。いくつかの実施形態では、バーコードは、一本鎖又は二本鎖核酸分子である。バーコード核酸分子は、MHC多量体と同じ主鎖に捕捉されることができる。一例では、バーコードは、MHC分子が結合するストレプトアビジン、又はアビジンで改変された、同じデキストラン上で捕捉される、ビオチン化DNA分子である。Bentzen,A.K.,et al.,Large-scale detection of antigen-specific T cells using peptide-MHC-I multimers labeled with DNA barcodes.Nat Biotechnol,2016.34(10):p.1037-1045を参照のこと。いくつかの実施形態では、核酸バーコードは、10、15、20、又は25塩基、又は塩基対の長さである。バーコード化は、最大で約1010個の、異なるMHC多量体のラベリングの潜在性を有する。いくつかの実施形態では、細胞を捕捉するために使用したMHC多量体を、オリゴヌクレオチドプローブに捕捉する。細胞捕捉の後、抱合体化したオリゴヌクレオチドの領域に相補性の核酸プローブを、各細胞に結合した各pMHC多量体にハイブリダイズする。
【0069】
本発明は、MHC多量体に結合したT細胞を捕捉する工程を更に含む。いくつかの実施形態では、細胞は、標準的な免疫学的手順を使用して、バーコード化pMHC多量体により染色され、mAbと同時染色される。例えば、ヒトT細胞はFc遮断剤によりインキュベートし、次いで、pMHC多量体でインキュベートして、QBC手順に移る。
【0070】
本発明は、T細胞のバーコード化工程を更に含む。一態様では、T細胞をバーコード化して、同じT細胞で見いだされる(故に、機能性TCRを形成する)TCRA及びTCRB遺伝子を識別する。別の態様においては、T細胞をバーコード化して、バーコード化MHC多量体に結合した各細胞を識別する。
【0071】
いくつかの実施形態では、細胞バーコード化は、例えば、2016年4月15日に出願された、米国特許出願第13/981,711号に記載されている、量子バーコード化(QBC)法である。手短かに言えば、混合物中の複数の細胞を、以下のプロセスに通す:細胞を、細胞内核酸標的に特異的なオリゴヌクレオチドの混合物と接触させる。オリゴヌクレオチドは、遺伝子結合配列、及びバーコードオリゴヌクレオチドアニーリング領域を有し、細胞を更に、TCRプライマー内のバーコードオリゴヌクレオチドアニーリング領域に相補性のバーコードオリゴヌクレオチドと接触させる。細胞を更に、スプリットプール合成の1つ以上のラウンドのそれぞれにおいて、各ラウンドのバーコード化オリゴヌクレオチドが以前のラウンドのバーコードオリゴヌクレオチドのアニーリング領域に相補性のアニーリング領域を含む追加のバーコードオリゴヌクレオチドと接触させ、複数のT細胞のそれぞれにおける各TCRプライマー上に細胞特異的バーコードを組み立てる。
【0072】
プローブ標的は、RNA転写産物又はDNA配列であることができる。TCR遺伝子の識別を目的にする、バーコード化の第1ラウンドにおいて、プローブは、TCR遺伝子に特異的であることができる。MHCに結合した細胞の識別を目的にする、バーコード化の第2ラウンドにおいて、プローブは、任意の、即ち、T細胞マーカー転写物(TCRA、TCRB、CD3、CD4、CD8、FoxP3など:転写物は、ゲノム又はトランスフェクションDNA配列のいずれかに由来する)から選択される、細胞内標的に特異的であることができる。
【0073】
本発明は、T細胞受容体をその同種抗原に一致させるための、各抗原結合T細胞からの配列決定データを入手する工程を更に含む。(図2の工程7)。この工程は、各細胞内で、TCRA及びTCRB遺伝子の配列と、(例えば、QBCにより入手した)固有の細胞バーコードの配列と、T細胞に結合したMHC多量体と関係するバーコードの配列と、を測定することを含む。図2に示すように、そして、図3により詳細に示すように、一致により、以下のスキームに従いTCRが結合した抗原を識別することが可能となる。
(細胞バーコード1+TCRA配列x)+(細胞バーコード1+TCRB配列y)+(細胞バーコード1+pMHCバーコードz
(細胞バーコード2+TCRA配列x)+(細胞バーコード2+TCRB配列y)+(細胞バーコード2+pMHCバーコードz
(細胞バーコードn+TCRA配列x)+(細胞バーコードn+TCRB配列y)+(細胞バーコードn+pMHCバーコードz
【実施例
【0074】
実施例1(予測)。
本実施例では、外科的に切除した腫瘍の断片を入手する。機械的及び酵素的組織解離法を組み合わせて使用して、腫瘍試料を単一細胞に解離させる。各細胞の種類に特異的な、表面、細胞内、又は核マーカーを使用して、蛍光活性化細胞選別(FACS)により、解離した細胞を腫瘍細胞、通常の組織細胞、及び免疫細胞(腫瘍浸潤リンパ球(TIL))にソートする。腫瘍細胞バイオマーカーはサイトケラチンであるが、T細胞バイオマーカーの組み合わせは、CD3CD8TCRである。核酸は、腫瘍細胞、通常の細胞、及びT細胞の個別の分画から単離され、任意に、KAPA Express Extract kit and KAPA HiFi QC reagents(Kapa Biosystems,Wilmington,Mass.)を使用して定量化される。
【0075】
腫瘍及び通常(非リンパ球)細胞由来の核酸を、KAPA Hyper Prep Kitを使用して、配列決定ライブラリー調製に通し、SeqCap(登録商標)EZ Human Exome Probes v3.0(Roche Sequencing Solutions,Madison,Wisc.)を使用して、エクソーム配列捕捉に通す。メーカーの推奨に従い、任意のIllumina機器(MiSeq(登録商標),NextSeq,HiSeq(登録商標)又はNovaSeq(登録商標))にて、捕捉したライブラリー核酸を配列決定する。
【0076】
配列アラインメントアルゴリズムにより配列データを比較して、潜在的なネオ抗原として、コード領域内での非同義置換を識別する。潜在的なネオ抗原の、患者のMHC-I複合体に結合する能力をインシリコで評価する。評価により、抗原性ネオ抗原の格付けリストが作製される。MHCに高親和性で結合すると予測されるペプチドを使用して、ネオ抗原ライブラリーを構築する。米国特許9346892号に記載されているアレイ法を使用して、ペプチドをインビトロで合成する。
【0077】
α1鎖、α2鎖、及びβ2マイクログロブリンを含むMHC分子を、ビオチン化ペプチド鎖と、デキストラン主鎖を含有するストレプトアビジンとを組み合わせることで形成する。複合体をビオチン化DNAバーコードと接触させて、DNAバーコード化MHC四量体を形成する。バーコード化MHC四量体を、抗原性ペプチドと組み合わせて、バーコード化抗原提示複合体(APC)を形成する。ペプチドを使用して、DNAバーコード化ペプチドMHC複合体のライブラリーを形成する。
【0078】
バーコード化TCRA及びTCRB遺伝子の配列をバーコードにより一致させ、出現度数を分析して、観察される、又は推定されるα/β対形成、推定される患者のHLAの種類を含む、浸潤腫瘍リンパ球T細胞受容体配列の格付けリストを形成する。発現プラスミドにて選択されるTCRA及びTCRB遺伝子を、ヒトCD8α及びβサブユニットを発現するプラスミド、並びに、GFPレポータープラスミドと共に、Jurkat細胞にコトランスフェクションする。TCR特異的トランスジェニックT細胞の集団を、抗原TCR結合のために、DNAバーコード化ペプチドMHC複合体と共にインキュベートした。細胞は、標準的な免疫学的手順を使用して、バーコード化pMHC多量体により染色され、mAbと同時染色される。更なる抗体は、細胞種識別マーカー(例えばCD4又はCD8)を標的にすることができる。例えば、ヒトT細胞を、Fc遮断剤と共に30分間0℃にて、染色緩衝液(0.5% BSAを含むリン酸緩衝生理食塩水)内でインキュベートする。次に、細胞を染色緩衝液内で洗浄し、実験で測定したpMHC多量体及び/又は抗体の濃度にて、30分間~1時間、0℃、又は室温にてインキュベートする。染色後、細胞を染色緩衝液内で数回洗浄し、下流コンビナトリアルバーコード化(量子バーコード化、即ちQBC)手順のために、PBS内で所望の濃度にて再構成する。
【0079】
ペプチドMHC複合体に結合した細胞は、コンビナトリアルバーコード化(QBC)のプロセスを受ける。ここで、細胞表面にて発現するT細胞受容体に結合したTCRA mRNA、TCRB mRNA、及びpMHCは、同じ細胞特異的バーコードで標識される(図3)。図3に示すように、(1)細胞表面エピトープ(a)は、標的特異的核酸バーコード(b)でバーコード化された、及び、更に、細胞特異的核酸バーコード(c)でバーコード化された抗体により認識されることができる。細胞内エピトープ(2)は、標的特異的核酸バーコード(d)でバーコード化された、及び、更に、同じ細胞特異的核酸バーコード(c)でバーコード化された抗体により認識されることができる。細胞内の任意の核酸標的(3)は、配列(e)を有し、同じ細胞特異的核酸バーコード(c)によりバーコード化することができる。これらの配列の例としては、細胞特性決定バイオマーカー、例えばTCRA、TCRB、CD3、CD4、CD8、及びFoxP3が挙げられる。TCR遺伝子(4)のTCRA(f)、及びTCRB(g)は、同じ細胞特異的核酸バーコード(c)によりバーコード化することができる。TCRA(f)及びTCRB(g)遺伝子は、ペプチド関連核酸バーコード(h)、同じ細胞特異的核酸バーコード(c)、を有するMHCペプチド多量体(6)に結合した、TCR(5)内でアセンブルされたペプチドをコードする。
【0080】
QBC手順は、抗体に結合した、又は核酸標的に直接結合したバーコードなどの、標的特異的核酸に結合したDNAバーコードのアセンブリを含む、方法である。DNAバーコードは、数サイクルのスプリットプール合成により組み立てられ、各ラウンドで追加されたバーコード化オリゴヌクレオチド及びオリゴヌクレオチドは、以前のラウンドのバーコードオリゴヌクレオチドのアニーリング領域に相補性のアニーリング領域を含むことにより、各プライマー上に細胞特異的バーコードを組み立てる(2016年4月15日に出願された、米国出願番号13/981,711号を参照のこと)。
【0081】
最終工程にて、バーコード化TCRA mRNA、バーコード化TCRB mRNA、及び、ペプチドMHC複合体からのDNAバーコードの配列決定をする。同種TCR遺伝子対を分析し、ペプチドに一致するデータを、同じ細胞バーコードを有するものとして解釈する。
図1
図2-1】
図2-2】
図3