(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ストレッチ用棒
(51)【国際特許分類】
A61F 5/01 20060101AFI20220926BHJP
A61H 1/02 20060101ALI20220926BHJP
A63B 21/02 20060101ALI20220926BHJP
A63B 23/02 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A61F5/01 E
A61H1/02 K
A63B21/02
A63B23/02 Z
(21)【出願番号】P 2021014034
(22)【出願日】2021-01-30
【審査請求日】2022-01-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520435234
【氏名又は名称】石合 信正
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【氏名又は名称】杉村 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100155860
【氏名又は名称】藤松 正雄
(73)【特許権者】
【識別番号】521076720
【氏名又は名称】吉田 象司
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【氏名又は名称】田村 爾
(72)【発明者】
【氏名】吉田 象司
(72)【発明者】
【氏名】石合 信正
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-047671(JP,A)
【文献】特開2017-000456(JP,A)
【文献】登録実用新案第3092615(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 5/01
A61H 1/02
A63B 21/02
A63B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中実な円柱状で樹脂製の本体を備えたストレッチ用棒において、
該本体に使用する樹脂のゴム硬度が、「JIS K 6253」規格に準拠したデュロメータ試験機のタイプAで90度以上、98度以下の範囲であり、
該本体の長さが、50cm以上、70cm以下の範囲であり、
該本体の断面の直径が、10mm以上、25mm以下の範囲に設定されていることを特徴とするストレッチ用棒。
【請求項2】
請求項1に記載のストレッチ用棒において、該樹脂はウレタンゴムであることを特徴とするストレッチ用棒。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のストレッチ用棒において、該本体の両端には、該本体より柔らかい素材で形成された把持部が設けられていることを特徴とするストレッチ用棒。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のストレッチ用棒において、該本体の中央には、該本体よりクッション性の高い素材で形成された当接部が設けられていることを特徴とするストレッチ用棒。
【請求項5】
請求項
3に記載のストレッチ用棒において、該把持
部は、異なる素材を積層して形成されていることを特徴とするストレッチ用棒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチ用棒に関し、特に、円柱状で樹脂製の本体を備えるストレッチ用棒に関する。
【背景技術】
【0002】
健康志向の高まりにより、ウォーキング等の歩行を行う運動が日常的に行われている。背筋を伸ばし、胸を張り、正しい姿勢で歩くことは、運動の効果を高めるだけでなく、肺活量を増やし、肩甲骨周りの筋肉を柔軟にするなど、多くの利点が得られる。
【0003】
特許文献1においては、背筋を伸ばすため、棒を背中に回し、両腕と背中の間で棒を抱えるものが提案されている。特許文献1では、紙管による棒が開示されている。これは、従来の木製やプラスチック製の道具では、万が一転倒した際に、本体が割れたり折れたりするなど、破損することにより人体が傷つくことを避けるためである。
【0004】
特許文献1の紙管や、従来の破損する可能性ある木製やプラスチック等の棒は、本体自体に柔軟性が無く、背中に回して使用すると、両腕の動きに対して棒が背骨を支点として前後に動く上、常に背中の同じ位置に負荷が加わり、逆に背中を痛めてしまう危険性がある。
【0005】
しかも、肩甲骨周りの筋肉が硬い人においては、両腕を後ろに十分に回せず、棒をより強く背中に押し付けることとなり、背中を痛める危険性はより高くなる。
【0006】
他方、棒に柔軟性を付与すると、一方の腕の動きに連動して、他方の腕の動きを補助する機能が低下し、結局、両腕を適切な位置まで後ろに下げて運動することが困難となる。
【0007】
さらに、特許文献1の紙管に限らず、運動をサポートする補助具においては、単一の運動のみにしか利用できない場合には、利用頻度が限られることから、一般的に、より多様な運動にも対応した補助具であることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、背筋を伸ばした歩行を補助するために使用でき、長時間の利用に際しても人体への損傷が少なく、さらには多様な運動にも利用可能なストレッチ用棒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明のストレッチ用棒は、以下の技術的特徴を有する。
(1) 中実な円柱状で樹脂製の本体を備えたストレッチ用棒において、該本体に使用する樹脂のゴム硬度が、「JIS K 6253」規格に準拠したデュロメータ試験機のタイプAで90度以上、98度以下の範囲であり、該本体の長さが、50cm以上、70cm以下の範囲であり、該本体の断面の直径が、10mm以上、25mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0011】
(2) 上記(1)に記載のストレッチ用棒において、該樹脂はウレタンゴムであることを特徴とする。
【0012】
(3) 上記(1)又は(2)に記載のストレッチ用棒において、該本体の両端には、該本体より柔らかい素材で形成された把持部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のストレッチ用棒において、該本体の中央には、該本体よりクッション性の高い素材で形成された当接部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
(5) 上記(3)又は(4)に記載のストレッチ用棒において、該把持部又は該当接部は、異なる素材を積層して形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、中実な円柱状で樹脂製の本体を備えたストレッチ用棒において、該本体に使用する樹脂のゴム硬度が、「JIS K 6253」規格に適合したデュロメータのタイプAで90度以上、98度以下の範囲であり、該本体の長さが、50cm以上、70cm以下の範囲であり、該本体の断面の直径が、10mm以上、25mm以下の範囲に設定されているため、仮に、背中に棒を強く押し当てた際でも、棒の本体が適度に撓り、背中の胸回りに沿って湾曲するため、背骨の一点に負荷が集中することが無い。しかも、両腕を前後に振った際にも、一方の動きを他方に伝えることができ、両腕の動きを円滑に行うことが可能となる。
【0016】
さらに、本発明のストレッチ用棒は適度な撓りを有しているため、棒の両端を持って腕の上下又は回転の運動、棒の両端を持って棒全体を折り曲げる運動、さらには、棒の中央を片手で持って回転する運動など、多様な運動に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のストレッチ用棒の本体の側面図である。
【
図2】ウレタンゴム以外の素材を検討する際の試験方法を説明する図である。
【
図3】本発明のストレッチ用棒の一例を示す全体図である。
【
図4】本発明のストレッチ用棒の本体を背中に回した様子を示す図である。
【
図5】
図3の胸回りの様子を示した断面図であり、(a)は従来例、(b)は本発明を示す。
【
図6】本発明のストレッチ用棒に使用する把持部を示す図であり、(a)は端部に向かって外径が拡大するテーパー状、(b)は把持部の両端側の外径が太くなった形状を例示している。
【
図7】本発明のストレッチ用棒に使用する把持部及び当接部の応用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のストレッチ用棒について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明のストレッチ用棒は、
図1又は3に示すように、円柱状で樹脂製の本体1を備えたストレッチ用棒において、該本体1に使用する樹脂のゴム硬度が、「JIS K 6253」規格に準拠したデュロメータ試験機のタイプAで90度以上、98度以下の範囲であり、該本体の長さが、50cm以上、70cm以下の範囲であり、該本体の断面の直径が、10mm以上、25mm以下の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0019】
本発明のストレッチ用棒は多様な運動に使用できるが、特に、
図4に示すような、背筋の運動として、歩行時に背中と両腕で棒を挟むように保持する使用方法を中心に棒の撓り具合を評価して、素材や形状の選定を行った。符号Hは人体であり、
図4は背中側を示している。また、
図5は、
図4の棒を保持した位置で胸部を輪切りにした簡略図である。特に、棒本体1の撓り具合が硬すぎる場合には、
図5(a)に示すように、棒本体1の中央部分が背骨Bを押し、長時間の運動で背骨や背骨付近の筋肉等を傷める原因ともなる。
【0020】
図5(b)は、棒本体1の撓り具合が適切な場合は、棒本体1が背中の湾曲に沿って撓み、特に、両腕が十分に後ろ方向に引かれていない場合(体が硬い場合)であっても、背骨の位置のみに負荷が集中せず、例えば、背中全体や
図6(b)のように背中の左右両側(肋骨の裏側)の位置に棒本体1が押し当てられる。両腕が十分に後ろに引けるような、柔軟な体の場合は、棒本体1の位置は、
図5(a)に近い状態ではあるが、その際は、両腕によって棒本体1が背中を押さえる力fは弱く、背骨や背骨付近の筋肉等を傷める心配は少ない。
【0021】
樹脂素材は、多様な素材が存在するが、素材の選定に際しては、運動に適した弾力性や反発性、また、復元力など多くのパラメータを考慮することが必要であり、しかも使用する者が、大人か子供か、男性か女性かなどによっても最適な数値は異なる。さらに、素材の選定に際しては、素材自体に手が直接触れる場合もあることを考慮し、化学的な安定性や人体に対する安全性などにも配慮することが必要となる。
【0022】
本発明のストレッチ用棒に使用する素材の特性の選定に際しては、弾力性、反発性、また復元力などを総合的に考慮し、実際に運動で使用した際の感触を「撓り具合」として評価した。また、評価する基準となる素材としてウレタンゴム(ポリウレタン)を使用して、そのゴム硬度や棒自体の形状を調整し、最適な撓り具合を評価した。
【0023】
本発明のストレッチ用棒に使用する樹脂の素材としては、化学的安定性や人体への安全性を考慮して、例えば、ウレタンゴム、シリコンゴム、天然ゴム、フッ素ゴムや、これらの素材に適切なゴム硬度を付与する添加剤を加えた材料などが利用可能である。なお、ゴム硬度が90度以上を実現する上では、ウレタンゴムが最も適切である。
【0024】
ウレタンゴム以外の樹脂素材を使用する際には、まずは上述した数値範囲の条件で、ウレタンゴムを使用して円柱状の棒本体を形成し、これを標準試験体とする。標準試験体と同じ形状のサンプルを、選択する樹脂素材で形成し、そのサンプルの機械的特性が標準試験体と同等な数値を有するか否かで、樹脂素材の選択を行うことができる。
【0025】
機械的特性を測定する具体例として、
図2に示すように、棒本体1を、両端部から所定幅W(例えば、W=5cm)だけ離れた位置に支持し、棒本体1の中央部Cに所定の重量(例えば、0.1~1.0kg重)の負荷Fを加え、その際の変位量δを測定する。選定候補となる樹脂素材で形成したサンプルの変位量δが標準試験体の変位量δと比較し、±10~20%の誤差の範囲内である場合には、当該樹脂素材をウレタンゴムの代替品として使用することが可能である。なお、
図2の一点鎖線1’は、負荷Fを加えた棒本体の下側曲線を例示したものである。
【0026】
次に、本発明のストレッチ用棒の本体として適切な「撓り具合」を示す、ゴム硬度及び形状(長さ、太さ(直径))について調査した。
試験対象となるウレタンゴムを、「JIS K 6253」規格に準拠したデュロメータ試験機のタイプAで、ゴム硬度が90度、95度、98度の3種類を用意した。
図1に示すように、ストレッチ用棒を構成する本体の円筒状の棒のサイズとして、長さLが50、60、70cm、直径φが10、15、20、25mmを用意した。
各棒の評価結果を、表1乃至3に示す。評価結果は、「〇」が「撓り具合が適当である」、「△」が「撓り具合が若干柔らかい又は硬い」、「×」が「撓り具合は不適当である」を各々意味している。
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
表1乃至3から、ウレタンゴムにおけるゴム硬度が90度以上、98度以下の範囲であり、棒本体の長さが50cm以上、70cm以下の範囲であり、さらに、棒本体の断面の直径が10mm以上、25mm以下の範囲において、ストレッチ用棒に適切な数値範囲が存在することが理解できる。特に、ゴム硬度が90度より低い場合、本体の長さLが70cmを超える場合、又は本体の直径φが10mmより細い場合は、撓り具合が全体的に柔らかくなり過ぎて、ストレッチ用棒としては適切ではない。他方、ゴム硬度が98度より高い場合、本体の長さLが50cmより短い場合、又は本体の直径φが25mmより太い場合は、撓り具合が全体的に硬くなり過ぎて、ストレッチ用棒としては適切ではない。
【0031】
ストレッチ用棒を使用する人が、大人の男性の場合は、長さが50cm未満であると、背中に回すには短すぎるし、また、女性や子供の場合は、長さ70cmより長い場合は、取扱うには長すぎる。
【0032】
本発明のストレッチ用棒を使用した運動としては、以下に一例を示すように、多様な運動を行うことができる。
(1)歩行時に背中と両腕の間に棒を挟み、背筋を伸ばす運動
(2)棒の両端を持って、両手が離れる方向に引っ張りながら、頭後方の上に腕を上げた状態から、棒の位置を頭の後側に腕の曲がり具合が90度になるように引下げ、肩甲骨周りを中央に寄せる運動
(3)体の前で棒の両端を持って、棒を左右に回転し、手首から肩にかけての腕全体の柔軟性を高める運動
(4)棒の両端を持って、棒本体をU字状又は逆U字状に曲げ、その状態を保ちながら両腕を左右に動かし、両脇の筋力を強化する運動
(5)棒の中央部分を片手で持って、棒を左右に回転し、手首の柔軟性を高める運動
【0033】
本発明のストレッチ用棒を用いた主な運動である、上述した(1)の背筋を伸ばす運動においては、
図1に示す棒よりも、
図3に示すような、棒の本体1の両端に把持部(2,2’)を配置することで、両腕が棒の端部に引っ掛かり易くなり、腕を前後に振った場合でも、棒本体1から腕が外れることを抑制することができる。
【0034】
さらに、
図3に示すように、背中の特に中央部分で最も背中に当たり易い位置に、クッション性の高い当接部3を配置することで、長時間の運動や、体の硬い人の運動(腕が十分に後側に引けないため、棒本体を体に強く押し当てることとなる)の場合でも、背中を損傷することを抑制することができる。
【0035】
さらに、他の運動では、
図2の把持部(2,2’)や当接部3は、手で掴むことを前提に、さらに工夫を行うことができる。
図6は、把持部の応用例を示したものであり、
図6(a)は、棒本体の端部に行くほど把持部の外径を太く(φ2>φ1)となるように設定している。これにより、把持部を持った手がストレッチ用棒から外れるのを防ぐ効果を高めることができる。また、
図6(b)に示すように、把持部の外径が両端で太くなる(φ3<φ4又はφ5)となるように設定し、手で掴む場所を明確に示すことも可能である。
【0036】
把持部2の手が掴む場所の外径(例えば、φ1又はφ3)は、手で掴み易い太さに設定することが必要であり、例えば、外径を20mm以上、40mm以下、より好ましくは、25mm以上、35mm以下に設定することで、適度な握力で把持することが可能となる。この外径については、当接部3についても同様である。なお、当接部については、クッション性を高めるため、把持部2よりも2~10mm程度厚く設定することも可能である。
【0037】
把持部2又は当接部3は、手で掴むことを考慮すると、棒本体1よりも柔らかい素材で形成することが好ましい。また、当接部は上述したようにクッション性の高い素材を用いることも期待される。このような、把持部や当接部に使用する素材としては、ゴム硬度の低い、ポリウレタン、シリコンゴム、天然ゴムなどの素材が利用可能であり、より好ましくは発泡性の素材が好ましい。
【0038】
さらに、把持部2又は当接部3を一つの素材で形成するだけでなく、
図7に示すように、異なる素材(20,21)を積層して形成することも可能である。この場合には、中心部分の素材20はより柔らかな素材(又は発泡性の高い素材)を用い、外側部分の素材21は、把持部等を掴んだ手が動きにくいように、テニスやバトミントン等で使用されるグリップテープのような、棒本体1よりも柔らかく、中心部分の素材20よりも硬い素材を使用することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上説明したように、本発明によれば、背筋を伸ばした歩行を補助するために使用でき、長時間の利用に際しても人体への損傷が少なく、さらには多様な運動にも利用可能なストレッチ用棒を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0040】
1 棒本体
2 把持部
3 当接部
4 被覆層