(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】防食塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20220926BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20220926BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220926BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20220926BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D5/08
C09D7/61
C09D7/63
B05D7/24 303A
B05D7/24 302U
B05D7/24 303E
(21)【出願番号】P 2021513637
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015641
(87)【国際公開番号】W WO2020209245
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2019076403
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西澤 政武
(72)【発明者】
【氏名】住田 友久
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-25159(JP,A)
【文献】国際公開第2007/046301(WO,A1)
【文献】特開2001-2986(JP,A)
【文献】特表2018-532003(JP,A)
【文献】特表2013-521257(JP,A)
【文献】特表2009-523876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,B05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)、アミン硬化剤(B)、シランカップリング剤(C)および体質顔料(D)を含有し、
顔料体積濃度が30~45%であり、
前記アミン硬化剤(B)がエチレンジアミンまたはその変性物を含み、
前記エポキシ樹脂(A)がエポキシ当量が270以下であるエポキシ樹脂を含む、
防食塗料組成物。
【請求項2】
エポキシ樹脂(A)、アミン硬化剤(B)、シランカップリング剤(C)および体質顔料(D)を含有し、
顔料体積濃度が30~45%であり、
前記アミン硬化剤(B)がエチレンジアミンまたはその変性物を含み、
揮発性有機化合物の含有量が340g/L以下である、
防食塗料組成物。
【請求項3】
前記アミン硬化剤(B)が、エチレンジアミンのポリアミド化物、該ポリアミド化物のエポキシアダクト、エチレンジアミンのマンニッヒ変性物、または、該マンニッヒ変性物のエポキシアダクトを含む、請求項1または2に記載の防食塗料組成物。
【請求項4】
さらに、フェノール骨格を有する液状化合物(E)を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の防食塗料組成物。
【請求項5】
さらに、(メタ)アクリル酸エステル(F)を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の防食塗料組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の防食塗料組成物より形成された防食塗膜。
【請求項7】
請求項6に記載の防食塗膜と基材とを含む防食塗膜付き基材。
【請求項8】
下記工程[1]および[2]を含む、防食塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、請求項1~5のいずれか1項に記載の防食塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された防食塗料組成物を乾燥させて防食塗膜を形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、防食塗料組成物、防食塗膜、防食塗膜付き基材または防食塗膜付き基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶や鋼構造物、特に、過酷な腐食環境であるバラストタンク内に塗装する防食塗料組成物として、防食性、耐水性、耐薬品性などに優れているエポキシ樹脂系塗料組成物が使用され、特に優れた防食性を有する塗膜を形成できるため、エポキシ樹脂とアミン硬化剤とを反応させるエポキシ樹脂系塗料組成物が広く使用されている。
【0003】
前記塗料組成物としては、環境対応のために、揮発性有機化合物(VOC)の含有量が少ない、すなわち、不揮発成分含有量が多く、揮発性有機成分含有量が少ない塗料組成物が求められている。
【0004】
このような低VOC含有量のエポキシ樹脂系防食塗料組成物として、例えば、特許文献1には、特定のエポキシ樹脂を含む主剤成分と、キシリレンジアミンのエポキシアダクトおよびポリアミドのエポキシアダクトを含む硬化剤成分とを含有する、ハイソリッドタイプの防食塗料組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基材、例えば、バラストタンクに塗料組成物を塗装し、塗膜を形成する際には、バラストタンクの構造上、塗料組成物に含まれる溶剤の揮発分が床面近傍に滞留しやすいため、溶剤雰囲気下で乾燥が進む傾向にあり、また、塗装面積が大きいため、乾燥温度を制御することが困難であり、例えば、冬季には低温で乾燥されることがある。
【0007】
このような、バラストタンクには水が注水されるが、該注水される水は莫大な量となるため、水質管理された水が使用されることはなく、多種のバクテリアが存在している海水や工業用水が通常使用されている。
【0008】
低VOC含有量の塗料組成物とするために、低粘度である樹脂が用いられる。このような樹脂は、通常、平均分子量が小さく、塗膜表面へブリードしやすい。特に、前記特許文献に記載されているような、アミン硬化剤を含む低VOC含有量の防食塗料組成物から形成される防食塗膜は、その表面にアミン硬化剤がブリードしやすいと考えられる。
【0009】
このような、防食塗膜表面には、特に溶剤雰囲気や低温下で乾燥された塗膜表面には、多種のバクテリアが存在している海水や工業用水との接触により、バイオフィルムが形成されることが確認された。これは、アミン硬化剤が防食塗膜表面にブリードすることにより、バクテリアの塗膜表面への付着が促進され、塗膜表面において、バクテリアやその代謝産物が増殖したことによると考えられる。
【0010】
そして、このように塗膜にバイオフィルムが形成されたことにより、アミン硬化剤の、バイオフィルムとの接触による構造変化や、前記代謝産物等との錯体形成が起こったこと、また、前記代謝産物等の塗膜表面への固着が起こったこと、等に起因すると推察される、塗膜の変色が確認された。
【0011】
本発明の一実施形態は、溶剤雰囲気や低温下で乾燥させても、バクテリアとの接触により生じる変色を抑制し、防食性に優れる防食塗膜を形成可能な防食塗料組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決する方法について鋭意検討を重ねた結果、所定の塗料組成物によれば前記課題を解決できることを見出した。本発明の構成例は以下の通りである。
【0013】
<1> エポキシ樹脂(A)、アミン硬化剤(B)、シランカップリング剤(C)および体質顔料(D)を含有し、
顔料体積濃度(PVC)が30~45%であり、
前記アミン硬化剤(B)がエチレンジアミンまたはその変性物を含み、
前記エポキシ樹脂(A)がエポキシ当量が270以下であるエポキシ樹脂を含む、
防食塗料組成物。
【0014】
<2> エポキシ樹脂(A)、アミン硬化剤(B)、シランカップリング剤(C)および体質顔料(D)を含有し、
顔料体積濃度(PVC)が30~45%であり、
前記アミン硬化剤(B)がエチレンジアミンまたはその変性物を含み、
揮発性有機化合物(VOC)の含有量が340g/L以下である、
防食塗料組成物。
【0015】
<3> 前記アミン硬化剤(B)が、エチレンジアミンのポリアミド化物、該ポリアミド化物のエポキシアダクト、エチレンジアミンのマンニッヒ変性物、または、該マンニッヒ変性物のエポキシアダクトを含む、<1>または<2>に記載の防食塗料組成物。
【0016】
<4> さらに、フェノール骨格を有する液状化合物(E)を含有する、<1>~<3>のいずれかに記載の防食塗料組成物。
<5> さらに、(メタ)アクリル酸エステル(F)を含有する、<1>~<4>のいずれかに記載の防食塗料組成物。
【0017】
<6> <1>~<5>のいずれかに記載の防食塗料組成物より形成された防食塗膜。
<7> <6>に記載の防食塗膜と基材とを含む防食塗膜付き基材。
【0018】
<8> 下記工程[1]および[2]を含む、防食塗膜付き基材の製造方法。
[1]基材に、<1>~<5>のいずれかに記載の防食塗料組成物を塗装する工程
[2]塗装された防食塗料組成物を乾燥させて防食塗膜を形成する工程
【発明の効果】
【0019】
本発明の一実施形態によれば、耐塩水性、耐高温高湿性、防食性および基材に対する密着性に優れ、かつ、溶剤雰囲気や低温下で乾燥させても、バクテリアとの接触により生じる変色を抑制できる防食塗膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施例の試験で用いた、切り込みを入れた試験板の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
≪防食塗料組成物≫
本発明の一実施形態に係る防食塗料組成物(以下「本組成物」ともいう。)は、エポキシ樹脂(A)、アミン硬化剤(B)、シランカップリング剤(C)および体質顔料(D)を含有し、顔料体積濃度(PVC)が30~45%であり、前記アミン硬化剤(B)がエチレンジアミンまたはその変性物を含み、下記(i)または(ii)を満たす。
(i)前記エポキシ樹脂(A)がエポキシ当量が270以下であるエポキシ樹脂を含む
(ii)揮発性有機化合物(VOC)の含有量が340g/L以下である
【0022】
このような本組成物によれば、前記効果を奏する防食塗膜を形成することができる。特に、従来の防食塗料を溶剤雰囲気や低温下で乾燥させて防食塗膜を形成する場合、得られる防食塗膜がバクテリアと接触すると変色するが、本組成物によれば、溶剤雰囲気や低温下で乾燥させて防食塗膜を形成しても、得られる防食塗膜は、バクテリアとの接触により生じる変色を抑制できる。このため、本組成物は、バクテリアによる変色抑制塗料組成物であるともいえる。
また、本組成物によれば、前記効果を奏する防食塗膜を容易に形成できるため、本組成物は、バクテリアに長期間接し得る箇所、具体的には、長期間海水や工業用水と接触する(海水や工業用水が貯蔵される)箇所、また、溶剤雰囲気下で乾燥が進む箇所や、乾燥温度を制御することが困難な箇所、特に、バラストタンク等のタンク内面やタンク以外の船舶内部の塗装に好適に用いられる。
【0023】
本組成物は、1成分型の組成物であってもよいが、通常、エポキシ樹脂(A)を含有する主剤成分と、アミン硬化剤(B)を含有する硬化剤成分とからなる2成分型の組成物である。また、必要により、3成分型以上の組成物としてもよい。
これら主剤成分および硬化剤成分等は、通常、それぞれ別個の容器にて保存、貯蔵、運搬等され、使用直前に混合して用いられる。
【0024】
前述のように、従来の防食塗料組成物では、低VOC含有量の塗料組成物とすると、バクテリアとの接触により防食塗膜の変色が起こりやすく、一方、バクテリアとの接触により防食塗膜の変色を抑制しようとすると、低VOC含有量の塗料組成物とすることは容易ではなかった。つまり、従来は、低VOC含有量とバクテリアとの接触による防食塗膜の変色の抑制とを同時に満足できる防食塗料組成物は存在しなかった。
【0025】
一方、本発明の一実施形態は、低VOC含有量でありながら、溶剤雰囲気や低温下で乾燥させても、バクテリアが存在している海水や工業用水等との接触により、防食塗膜の変色が起こりにくい。
従って、環境保全や作業環境の安全性等の点から、本組成物は低VOC含有量の塗料組成物であることが好ましく、具体的には、本組成物中のVOC含有量は、好ましくは340g/L以下、より好ましくは300g/L以下、特に好ましくは270g/L以下である。
【0026】
前記VOC含有量は、組成物比重および加熱残分率(不揮発分の質量比率)の値を用い、下記式(1)から算出することができる。なお、組成物比重および加熱残分率は、用いる原材料から算出した値でも、以下のようにして測定した測定値でも構わない。
VOC含有量(g/L)=組成物比重×1000×(100-加熱残分率)/100・・・(1)
【0027】
組成物比重(g/ml)は以下のようにして算出できる。
23℃の温度条件下で、本組成物(前記2成分型の組成物の場合、主剤成分と硬化剤成分とを混合した直後の組成物)を内容積100mlの比重カップに充満し、該組成物の質量を計算することで算出する。
【0028】
本組成物の加熱残分(不揮発分)は、以下のようにして算出できる。
JIS K 5601-1-2:2008に従って、本組成物(前記2成分型の組成物の場合、主剤成分と硬化剤成分とを混合した直後の組成物)1±0.1gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って均一に広げ、23℃で24時間放置後、110℃で1時間、常圧下で乾燥させ、加熱残分および針金の質量を量ることで算出する。
なお、加熱残分率(質量%)は、本組成物中の前記加熱残分(不揮発分)の質量百分率の値である。
【0029】
なお、本明細書では、主剤成分または硬化剤成分を構成する原材料(例:エポキシ樹脂(A))中、主剤成分中、硬化剤成分中それぞれの溶剤以外の成分を「固形分」という。
【0030】
本組成物中の、顔料体積濃度(PVC)は、30%以上であり、好ましくは32%以上、より好ましくは34%以上であり、45%以下であり、好ましくは43%以下、より好ましくは42%以下である。PVCが前記範囲にあると、乾燥性に優れる組成物が得られ、耐高温高湿性および基材に対する密着性により優れ、またバクテリアとの接触により生じる変色がより抑制される防食塗膜を容易に得ることができる。
PVCが30%未満であると、耐高温高湿性が劣り、該組成物の乾燥性が低下するうえ、バクテリアとの接触に対する耐変色性が低下する。また、PVCが45%を超えると、形成される防食塗膜の造膜性が低下することにより、基材に対する密着性や防食性が低下する。
【0031】
前記PVCは、前記体質顔料(D)および下記着色顔料等を含む、すべての顔料の合計の体積濃度のことをいい、具体的には下記式より求めることができる。
PVC[%]=本組成物中の全ての顔料の体積の合計×100/本組成物中の不揮発分の体積
【0032】
前記本組成物中の不揮発分の体積は、本組成物の不揮発分の質量および真密度から算出することができる。前記不揮発分の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。
【0033】
前記顔料の体積は、用いた顔料の質量および真密度から算出することができる。前記顔料の質量および真密度は、測定値でも、用いる原料から算出した値でも構わない。測定値としては、例えば、本組成物の不揮発分より顔料と他の成分とを分離し、分離された顔料の質量および真密度を測定することで算出することができる。
【0034】
<エポキシ樹脂(A)>
前記エポキシ樹脂(A)としては、分子内に2個以上のエポキシ基を含むポリマーまたはオリゴマー、およびそのエポキシ基の開環反応によって生成するポリマーまたはオリゴマー等が挙げられる。
エポキシ樹脂(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0035】
エポキシ樹脂(A)としては、低VOC含有量の塗料組成物を容易に得ることができる等の点から、エポキシ当量が、好ましくは270以下、より好ましくは100~270、特に好ましくは100~200であるエポキシ樹脂を含むことが望ましく、エポキシ当量が前記範囲にあるエポキシ樹脂であることがより望ましい。エポキシ当量がこのような範囲にあるエポキシ樹脂としては、液状または半固形状のエポキシ樹脂が挙げられる。
エポキシ当量が前記範囲にあると、低VOC含有量の塗料組成物を容易に得ることができ、本発明の効果がより発揮されるため好ましい。エポキシ当量が270を超える場合、低VOC含有量の塗料組成物を容易に得ることができない傾向にある。
前記エポキシ当量は、樹脂の固形分をJIS K 7236:2001に基づいて算出される。
【0036】
なお、本組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、エポキシ当量が270を超えるエポキシ樹脂を併用することもでき、エポキシ樹脂(A)に対する、エポキシ当量が270を超えるエポキシ樹脂の割合は、低VOC含有量の塗料組成物を容易に得ることができる等の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0037】
エポキシ樹脂(A)としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾール型エポキシ樹脂、ダイマー酸変性エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、エポキシ化油系エポキシ樹脂が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、基材に対する密着性に優れる防食塗膜を容易に形成することができる等の点から、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型またはビスフェノールF型のエポキシ樹脂がより好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0039】
エポキシ樹脂(A)としては、例えば、エピクロルヒドリン-ビスフェノールAエポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテルタイプ);エピクロルヒドリン-ビスフェノールADエポキシ樹脂;エピクロルヒドリン-ビスフェノールFエポキシ樹脂;エポキシノボラック樹脂;3,4-エポキシフェノキシ-3',4'-エポキシフェニルカルボキシメタン等から得られる脂環式エポキシ樹脂;エピクロルヒドリン-ビスフェノールAエポキシ樹脂中のベンゼン環に結合している水素原子の少なくとも1つが臭素原子で置換された臭素化エポキシ樹脂;エピクロルヒドリンと脂肪族2価アルコールとから得られる脂肪族エポキシ樹脂;エピクロルヒドリンとトリ(ヒドロキシフェニル)メタンとから得られる多官能性エポキシ樹脂が挙げられる。
【0040】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールA(ポリ)プロピレンオキシドジグリシジルエーテル、ビスフェノールA(ポリ)エチレンオキシドジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA(ポリ)プロピレンオキシドジグリシジルエーテル等のビスフェノールA型ジグリシジルエーテルなどの縮重合物が挙げられる。
【0041】
エポキシ樹脂(A)は、従来公知の方法で合成した化合物を用いてもよく、市販品を用いてもよい。
該市販品としては、常温(15~25℃の温度、以下同様。)で液状のものとして、「E-028」(大竹明新化学(株)製、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、固形分100%、エポキシ当量180~190、粘度12,000~15,000mPa・s/25℃)、「jER-807」(三菱ケミカル(株)製、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、エポキシ当量160~175、粘度3,000~4,500mPa・s/25℃)、「E-028-90X」(大竹明新化学(株)製、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのキシレン溶液(828タイプエポキシ樹脂溶液、固形分90%)、固形分のエポキシ当量約190)等が挙げられる。常温で半固形状のものとして、「jER-834」(三菱ケミカル(株)製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量230~270、固形分100%)、「E-834-85X」(大竹明新化学(株)製、ビスフェノールA型半固形状エポキシ樹脂のキシレン溶液(834タイプエポキシ樹脂溶液、固形分85%)、固形分のエポキシ当量約255)等が挙げられ、ノボラック型エポキシ樹脂である「D.E.N. 425」(DOW Chemical社製、エポキシ当量169~175、固形分100%)、「D.E.N. 431」(DOW Chemical社製、エポキシ当量172~179、固形分100%)および「D.E.N. 438」(DOW Chemical社製、エポキシ当量176~181、固形分100%)等が挙げられる。
【0042】
本組成物の不揮発分100質量%に対する、エポキシ樹脂(A)の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
また、エポキシ樹脂(A)は、本組成物が主剤成分と硬化剤成分とからなる2成分型の組成物である場合、主剤成分に含まれる。該主剤成分中のエポキシ樹脂(A)の含有量は、好ましくは5~80質量%、より好ましくは5~50質量%である。
エポキシ樹脂(A)の含有量が前記範囲にあると、防食性および基材への密着性により優れる防食塗膜を容易に得ることができる。
【0043】
<アミン硬化剤(B)>
前記アミン硬化剤(B)としては、エチレンジアミンまたはその変性物を含む。
このようなアミン硬化剤(B)を、前記(A)、(C)および(D)とともに用いることで、エポキシ当量が270以下であるエポキシ樹脂や、液状または半固形状のエポキシ樹脂を用いた塗料組成物を、溶剤雰囲気や低温下で乾燥させても、バクテリアとの接触により生じる変色を抑制できる防食塗膜を形成することができる。
アミン硬化剤(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0044】
前記エチレンジアミンの変性物としては、例えば、エチレンジアミンの脂肪酸変性物等のエチレンジアミンのポリアミド化物(ポリアミドアミン)、該ポリアミド化物のエポキシアダクト、エチレンジアミンとエポキシ化合物とのアミンアダクト、エチレンジアミンのマンニッヒ変性物(例:フェナルカミン、フェナルカマイド)、該マンニッヒ変性物のエポキシアダクト、エチレンジアミンのマイケル付加物、エチレンジアミンのケチミン化物、エチレンジアミンのアルジミン化物が挙げられる。これらの中でも、乾燥性により優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、ポリアミドアミン、ポリアミドアミンのエポキシアダクト、マンニッヒ変性物、マンニッヒ変性物のエポキシアダクトが好ましく、ポリアミドアミンのエポキシアダクト、マンニッヒ変性物のエポキシアダクトがより好ましく、耐変色性により優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、ポリアミドアミンのエポキシアダクトが特に好ましい。
【0045】
前記ポリアミド化物(ポリアミドアミン)の具体例としては、エチレンジアミンと、1種または2種以上の、ダイマー酸などのカルボン酸との脱水縮合物が挙げられる。
ポリアミド化する際には、該カルボン酸として、モノマー酸(1分子中にカルボン酸を1つ有する化合物)を10質量%以上含むカルボン酸を用いることが好ましい。
エチレンジアミン100質量部に対するカルボン酸の使用量は、好ましくは50~300質量部である。
【0046】
前記ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の二量体であり、通常は、少量の単量体または三量体を含んでいる。この不飽和脂肪酸としては、カルボキシル基の炭素原子も含む炭素原子数が、好ましくは12個以上、より好ましくは16個以上であり、好ましくは24個以下、より好ましくは18個以下であり、かつ、1分子中に不飽和結合を1個または2個以上有するカルボン酸が望ましい。このような不飽和脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、エライジン酸等の不飽和結合を1個有する脂肪酸;リノール酸等の不飽和結合を2個有する脂肪酸;リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和結合を3個以上有する脂肪酸が挙げられる。さらに、動植物から得られる脂肪酸も用いることができ、該脂肪酸としては、例えば、大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸が挙げられる。
【0047】
前記マンニッヒ変性物の具体例としては、1種または2種以上のフェノール類と、1種または2種以上のアルデヒド類と、エチレンジアミンとをマンニッヒ縮合することで得られるマンニッヒ変性アミンが挙げられる。
【0048】
前記フェノール類としては、1価でも多価でもよく、単核でも多核でもよいが、1価の単核フェノールが好ましい。
前記フェノール類としては、具体的には、例えば、1価単核フェノールであるフェノール;2価単核フェノールであるレゾルシノール、ハイドロキノンなど;2価多核フェノール類である1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレンなどの他に、アルキルフェノール(アルキル基の炭素数:1~10、好ましくは1~5)、ハロゲン化フェノール、アルコキシフェノール(アルコキシ基の炭素数:1~10、好ましくは1~5)、ビスフェノールA、ビスフェノールFが挙げられる。
【0049】
さらに具体的には、前記アルキルフェノールとしては、メチルフェノール(o,mまたはp-クレゾール)、エチルフェノール、ブチルフェノール、t-ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール、ジノニルフェノール等の1価フェノールが挙げられ、ハロゲン化フェノールとしては、クロロフェノール等の1価フェノールが挙げられ、アルコキシフェノールとしては、メトキシフェノール等が挙げられる。
【0050】
また、前記フェノール類は、不飽和置換基含有フェノールであってもよく、該不飽和置換基含有フェノールとしては、分子中に少なくとも1個のモノヒドロキシフェニル基を含み、かつ、フェニル基中の水素原子の一部、すなわち該水素原子1~5個が不飽和炭化水素基で置換された化合物などが挙げられる。
該不飽和炭化水素基としては、例えば、炭素数1~30のアルキレン基、炭素数1~30のアルキレン基を含有するフェニル基が挙げられる。
このような不飽和置換基含有フェノールとしては、具体的には、例えば、カルダノール、イソプロペニルフェノール、ジイソプロペニルフェノール、ブテニルフェノール、イソブテニルフェノール、シクロヘキセニルフェノール、モノスチレン化フェノール(C6H5-CH=CH-C6H4-OH)、ジスチレン化フェノール((C6H5-CH=CH)2-C6H3-OH)が挙げられる。
【0051】
前記フェノール類としては、カルダノールが好ましい。
【0052】
前記アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等が挙げられ、これらの中でもホルムアルデヒドが好ましい。
【0053】
前記マンニッヒ縮合の際には、例えば、フェノール類と、アルデヒド類と、エチレンジアミンとを、理論的には等モルで用いればよいが、通常、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類は0.5~2.5モルの量で、エチレンジアミンは0.5~2.5モルの量で用いて、50~180℃程度の温度で3~12時間程度加熱すればよい。
なお、反応終了後には、反応生成物を減圧下で加熱し、水分および未反応物を除去してもよい。
【0054】
前記エポキシアダクトの具体例としては、エチレンジアミン、前記ポリアミド化物、前記マンニッヒ変性物などのアミン類1種または2種以上と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂1種または2種以上とを反応させることで得られる化合物が挙げられる。
前記アミン類100質量部に対するエポキシ樹脂の使用量は、好ましくは5~50質量部である。
【0055】
該エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル;ビスフェノールFジグリシジルエーテル;スチレンオキシド;シクロヘキセンオキシド;フェノール、クレゾール、t-ブチルフェノール等の(アルキル)フェノールや、ブタノール、2-エチルヘキサノール、炭素数8~14のアルコール等のグリシジルエーテル;アルキルグリシジルエーテル(例:Epodil 759[Evonik社製])が挙げられる。
【0056】
アミン硬化剤(B)は、エチレンジアミンおよびその変性物以外の他のアミン硬化剤を含んでもよい。
該他のアミン硬化剤としては特に制限されず、従来公知のアミン硬化剤を用いることができ、具体的には、脂肪族系、脂環族系、芳香族系、複素環系のアミン、および、これらの変性物を用いることができる。
【0057】
前記脂肪族系アミンとしては、例えば、アルキレンポリアミン、ポリアルキレンポリアミン、アルキルアミノアルキルアミンが挙げられる。
【0058】
前記アルキレンポリアミンとしては、例えば、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、トリメチルヘキサメチレンジアミンが挙げられる。
【0059】
前記ポリアルキレンポリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン(TETA)、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ノナエチレンデカミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレン-ビス(トリメチレン)ヘキサミンが挙げられる。
【0060】
前記アルキルアミノアルキルアミンとしては、例えば、ジメチルアミノエチルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、ジブチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノブチルアミンが挙げられる。
【0061】
これら以外の脂肪族系アミンとしては、例えば、テトラ(アミノメチル)メタン、テトラキス(2-アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3-ビス(2'-アミノエチルアミノ)プロパン、トリス(2-アミノエチル)アミン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、ポリオキシアルキレンポリアミン(特に、ジエチレングリコールビス(3-アミノプロピル)エーテル)、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、メンセンジアミン(MDA)、o-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン(MXDA)、p-キシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン、ビス(アミノエチル)ナフタレン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1-(2'-アミノエチルピペラジン)、1-[2'-(2''-アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジンが挙げられる。
【0062】
前記脂環族系アミンとしては、例えば、シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン(IPDA)、ジアミノジシクロヘキシルメタン(特に、4,4'-メチレンビスシクロヘキシルアミン)、4,4'-イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナンジアミン、2,4-ジ(4-アミノシクロヘキシルメチル)アニリンが挙げられる。
【0063】
前記芳香族系アミンとしては、例えば、ベンゼン環に結合した2個以上の1級アミノ基を有する芳香族ポリアミン化合物が挙げられる。
前記芳香族系アミンとして、より具体的には、フェニレンジアミン、ナフタレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルフェニルメタン、2,4'-ジアミノビフェニル、2,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシ-4,4'-ジアミノビフェニルが挙げられる。
【0064】
前記複素環系アミンとしては、例えば、1,4-ジアザシクロヘプタン、1,11-ジアザシクロエイコサン、1,15-ジアザシクロオクタコサンが挙げられる。
【0065】
脂肪族系、脂環族系、芳香族系、複素環系のアミンの変性物としては、例えば、脂肪酸変性物等のポリアミド化物(ポリアミドアミン)、該ポリアミド化物のエポキシアダクト、エポキシ化合物とのアミンアダクト、マンニッヒ変性物(例:フェナルカミン、フェナルカマイド)、該マンニッヒ変性物のエポキシアダクト、マイケル付加物、ケチミン化物、アルジミン化物が挙げられる。
【0066】
前記他のアミン硬化剤を用いる場合、トリエチレンテトラミン等の脂肪族系、イソホロンジアミン等の脂環族系のアミンが好ましく、特に、トリエチレンテトラミン等の脂肪族系アミンのポリアミド化物、イソホロンジアミン等の脂環族系アミンのマンニッヒ変性物が好ましい。
【0067】
前記他のアミン硬化剤を用いる場合、耐変色性により優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、アミン硬化剤(B)中のエチレンジアミンおよびその変性物の含有量が50質量%以上となる量で用いることが好ましい。
【0068】
前記アミン硬化剤(B)は、従来公知の方法で合成した化合物を用いてもよく、市販品を用いてもよい。
該市販品としては、例えば、エチレンジアミンのポリアミドアダクト(エチレンジアミンのポリアミド化物のエポキシアダクト)である「PA-205」(大竹明新化学(株)製)、エチレンジアミンのフェナルカミンアダクト(エチレンジアミンのフェナルカミンエポキシアダクト)である「Cardolite NC-556X80」(カードライト社製)が挙げられる。
【0069】
アミン硬化剤(B)の活性水素当量は、防食性により優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、好ましくは50以上、より好ましくは80以上であり、好ましくは1000以下、より好ましくは400以下である。
【0070】
防食性、塗膜強度および乾燥性に優れる防食塗膜を容易に得ることができる等の点から、前記アミン硬化剤(B)は、下記式(1)で算出される反応比が、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.5以上となるような量、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下となるような量で用いることが望ましい。
反応比が前記範囲にあると、耐変色性、防食性および基材への密着性により優れる防食塗膜を容易に得ることができる。
反応比={(アミン硬化剤(B)の配合量/アミン硬化剤(B)の活性水素当量)+(エポキシ樹脂(A)に対して反応性を有する成分の配合量/エポキシ樹脂(A)に対して反応性を有する成分の官能基当量)}/{(エポキシ樹脂(A)の配合量/エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量)+(アミン硬化剤(B)に対して反応性を有する成分の配合量/アミン硬化剤(B)に対して反応性を有する成分の官能基当量)} ・・・(1)
【0071】
ここで、前記式(1)における「アミン硬化剤(B)に対して反応性を有する成分」としては、例えば、後述するシランカップリング剤(C)、および(メタ)アクリル酸エステル(F)が挙げられ、また、「エポキシ樹脂(A)に対して反応性を有する成分」としては、例えば、後述するシランカップリング剤(C)が挙げられる。前記各成分の「官能基当量」とは、これらの成分1molの質量からその中に含まれる官能基のmol数を除して得られた1mol官能基あたりの質量(g)を意味する。
後述のシランカップリング剤(C)としては、反応性基としてアミノ基やエポキシ基を有するシランカップリング剤を使用することができるため、反応性基の種類によって、シランカップリング剤がエポキシ樹脂(A)に対して反応性を有するのか、アミン硬化剤(B)に対して反応性を有するのかを判断し、反応比を算出する必要がある。
【0072】
本組成物が主剤成分と硬化剤成分とからなる2成分型の組成物である場合、前記アミン硬化剤(B)は硬化剤成分に含まれる。該硬化剤成分は、固形分が50~100質量%となるように調製された成分であることが好ましく、その時のE型粘度計で測定した粘度は、取扱い性、塗工性に優れる等の点から、好ましくは100,000mPa・s/25℃以下、より好ましくは50~10,000mPa・s/25℃である。
【0073】
<シランカップリング剤(C)>
本組成物はシランカップリング剤(C)を含む。シランカップリング剤(C)を用いることで、得られる防食塗膜の基材への密着性をさらに向上させることができるのみならず、得られる防食塗膜の防食性や耐高温高湿性を向上させることができる。
シランカップリング剤(C)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0074】
シランカップリング剤(C)としては特に制限されず、従来公知の化合物を用いることができるが、同一分子内に少なくとも2つの官能基を有し、基材に対する密着性の向上、本組成物の粘度の低下等に寄与できる化合物であることが好ましく、例えば、式:式:「X-SiMenY3-n」[nは0または1、Xは有機質との反応が可能な反応性基(例:アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メルカプト基、ハロゲン基、炭化水素基の一部がこれらの基で置換された基、または炭化水素基の一部がエーテル結合等で置換された基の一部がこれらの基で置換された基)を示し、Meはメチル基であり、Yは加水分解性基(例:メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基)を示す。]で表される化合物であることがより好ましい。
【0075】
シランカップリング剤(C)としては、反応性基としてエポキシ基またはアミノ基を有する化合物が好ましく、エポキシ基を有する化合物がより好ましく、具体的には、「KBM-403」(γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製)、「サイラエースS-510」(JNC(株)製)等が挙げられる。
【0076】
本組成物の不揮発分100質量%に対する、シランカップリング剤(C)の含有量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
シランカップリング剤(C)の含有量が前記範囲にあると、基材に対する密着性などの防食塗膜の性能が向上し、本組成物の粘度を下げることができるため、塗装作業性が向上する。
【0077】
<体質顔料(D)>
本組成物は体質顔料(D)を含む。体質顔料(D)を用いることで、得られる組成物のコスト面におけるメリットのみならず、防食性、耐塩水性および耐高温高湿性等に優れる防食塗膜を形成することができる。
体質顔料(D)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0078】
体質顔料(D)としては、酸化亜鉛、タルク、シリカ、マイカ、クレー、カリ長石、ガラスフレーク、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム(例;バライト粉)、石膏、ロックウール、ガラス繊維などの繊維状フィラー等が挙げられる。これらの中でも、タルク、シリカ、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、カリ長石、石膏、ガラスフレークが好ましい。
【0079】
特に、防食性、耐塩水性および耐高温高湿性等により優れる防食塗膜を容易に形成することができる等の点から、鱗片状顔料であるマイカやガラスフレークを含むことが好ましく、平均アスペクト比が30~90である鱗片状顔料を含むことがより好ましい。
該平均アスペクト比は、「メジアン径(D50)/平均厚さ」で算出される。
該D50は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば「SALD 2200」((株)島津製作所製)を用いて測定することができる。平均厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)、例えば「XL-30」(フィリップス社製)を用いて鱗片状顔料の主面(最も面積の大きい面)に対して水平方向から観察し、数十~数百個の顔料粒子の厚さを測定することで、その平均値として算出できる。
【0080】
これら鱗片状顔料の中でも、安価で入手容易性に優れ、より前記効果に優れる防食塗膜を形成することができる等の点から、マイカがより好ましい。該マイカとしては、「スゾライトマイカ 200-HK」(西日本貿易(株)製、アスペクト比:40~60)等が挙げられる。
【0081】
本組成物の不揮発分100質量%に対する、体質顔料(D)の含有量は、防食性、耐塩水性および耐高温高湿性等により優れる防食塗膜を容易に形成することができる等の点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0082】
また、本組成物の不揮発分100質量%に対する、鱗片状顔料の含有量は、耐水防食性、耐屈曲性などの防食塗膜の性能が向上する等の点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0083】
<フェノール骨格を有する液状化合物(E)>
低VOC含有量の塗料組成物から得られる防食塗膜の柔軟性等を向上させることができる等の点から、本組成物は、フェノール骨格を有する液状化合物(E)を含有することが好ましい。
該液状化合物(E)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0084】
なお、本明細書において、「液状化合物」とは、25℃において、液体である化合物のことをいい、具体的には、25℃におけるE型粘度計で測定した粘度が10,000mPa・s以下である化合物のことをいう。
【0085】
前記液状化合物(E)としては、ヒドロキシ基がベンゼン環に結合している基本骨格を有する化合物であれば特に制限されないが、フェノール、クレゾール、カルダノールなどのアルキルフェノール類や、フェノール変性炭化水素樹脂などが挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂(A)との相溶性がよい等の点から、フェノール変性炭化水素樹脂が好ましい。
【0086】
前記フェノール変性炭化水素樹脂としては、例えば、特開平9-268209号公報、特開平7-196793号公報等にも記載されているように、石油や石炭の分解油留分に含まれるジオレフィン、モノオレフィン類やα-メチルスチレンと、フェノール類(フェノール化合物)とを共重合した樹脂が挙げられる。
【0087】
前記フェノール変性炭化水素樹脂としては、さらに詳しくは、C5留分を原料にしたC5系(脂肪族系)石油樹脂;C9留分を原料にしたC9系(芳香族系)石油樹脂;C5・C9共重合石油樹脂;C5留分に含まれるシクロペンタジエンを熱二量化して得られるジシクロペンタジエンを原料にしたジシクロペンタジエン樹脂;α-メチルスチレン;などと、フェノール類とを反応させた樹脂が挙げられる。これらの中でも、石油や石炭の分解油留分に含まれるスチレン、ビニルトルエン、クマロン、インデンやα-メチルスチレンなどを、フェノール類と付加重合させた樹脂が好ましい。
【0088】
前記フェノール変性炭化水素樹脂の平均分子量は、通常200~1000であり、粘度は、通常30~10,000mPa・s/25℃である。
【0089】
前記フェノール変性炭化水素樹脂としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、「NEVOXY EPX-L」、「NEVOXY EPX-L2」(以上、Neville Chemical社製/フェノール変性炭化水素樹脂)、「HIRENOL PL-1000S」(KOLON社製/フェノール変性炭化水素樹脂)が挙げられる。
【0090】
本組成物が前記液状化合物(E)を含有する場合、耐クラック性等に優れる防食塗膜が得られる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対する、該液状化合物(E)の含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0091】
<(メタ)アクリル酸エステル(F)>
本組成物は、該組成物の硬化速度および低温硬化性をさらに向上させることができる等の点から、(メタ)アクリル酸エステル(F)を含有することが好ましい。
該(メタ)アクリル酸エステル(F)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0092】
前記(メタ)アクリル酸エステル(F)としては特に制限されないが、多官能アクリル酸エステルが好ましく、1分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物がより好ましく、反応性の観点から1分子中に3つ以上のアクリロイルオキシ基を有する化合物がさらに好ましい。
前記(メタ)アクリル酸エステル(F)が1分子中に有する(メタ)アクリロイルオキシ基の数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、好ましくは40以下、より好ましくは20以下である。
【0093】
前記(メタ)アクリル酸エステル(F)は、粘度が低く、硬化性に優れる塗料組成物を容易に得ることができる等の点から、(メタ)アクリロイルオキシ基の官能基当量が200未満である化合物が好ましく、100未満である化合物がより好ましい。
【0094】
前記(メタ)アクリル酸エステル(F)としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、「M-Cure 400」(SARTOMER社製、官能基当量85)が挙げられる。
【0095】
本組成物が(メタ)アクリル酸エステル(F)を含有する場合、硬化速度および低温硬化性等により優れる塗料組成物が得られる等の点から、本組成物の不揮発分100質量%に対する、該(メタ)アクリル酸エステル(F)の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0096】
<その他の成分>
本組成物は、前記(A)~(F)の他に、必要に応じて、有機溶剤、着色顔料、前記(A)および(E)以外のその他の樹脂、タレ止め・沈降防止剤、硬化促進剤、前記(E)以外の可塑剤、無機脱水剤(安定剤)、分散剤、消泡剤、防汚剤等を、本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。
これらのその他の成分としては、防食塗料組成物に用いられる従来公知のものが挙げられる。
前記その他の成分はそれぞれ、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0097】
[有機溶剤]
前記有機溶剤としては特に限定されないが、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、イソプロパノール、n-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤、ミネラルスピリット、n-ヘキサン、n-オクタン、2,2,2-トリメチルペンタン、イソオクタン、n-ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0098】
本組成物が前記有機溶剤を含有する場合、該有機溶剤の含有量は特に制限されず、本組成物を塗装する際の塗装方法に応じて適宜調整すればよいが、本組成物中のVOC含有量が前記範囲となるような量であることが好ましい。
【0099】
[着色顔料]
前記着色顔料としては前記(D)以外の顔料であれば特に限定されないが、例えば、チタン白、弁柄、黄色弁柄、カーボンブラックが挙げられる。
【0100】
本組成物が前記着色顔料を含有する場合、該着色顔料の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0101】
[その他の樹脂]
前記(A)および(E)以外のその他の樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリブテン樹脂、シリコーンゴム、ウレタン樹脂(ゴム)、ポリアミド樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ゴム(樹脂)、塩素化オレフィン樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、クマロン樹脂、シリル系樹脂、石油樹脂、ケトン樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、ポリビニルアルキルエーテル樹脂、ロジン(例:ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン)が挙げられる。
【0102】
前記その他の樹脂としては、市販品を用いてもよく、該市販品としては、例えば、水酸基含有石油樹脂であるJXTGエネルギー(株)製の「ネオポリマー E-100」が挙げられる。
【0103】
本組成物が前記その他の樹脂を含有する場合、本組成物の不揮発分100質量%に対し、該その他の樹脂の含有量は、例えば20質量%以下である。
【0104】
[タレ止め・沈降防止剤]
前記タレ止め剤・沈降防止剤としては、Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩などの有機粘土系ワックス、ポリエチレンワックス、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックス等、従来公知のものを使用できるが、中でも、アマイドワックス、合成微粉シリカ、酸化ポリエチレン系ワックスおよび有機粘土系ワックスが好ましい。
【0105】
このようなタレ止め剤・沈降防止剤としては、楠本化成(株)製の「ディスパロン 305」、「ディスパロン 4200-20」、「ディスパロン 6650」;伊藤精油(株)製の「ASAT-250F」;共栄社化学(株)製の「フローノンRCM-300」;Elementis Specialties, Inc社製の「ベントンSD-2」等の商品が挙げられる。
【0106】
本組成物が前記タレ止め剤・沈降防止剤を含有する場合、該タレ止め剤・沈降防止剤の含有量は、本組成物の不揮発分100質量%に対し、好ましくは0.3~3質量%である。
【0107】
[硬化促進剤]
本組成物は、硬化速度の調整、特に促進に寄与できる硬化促進剤を含むことが好ましい。
前記硬化促進剤としては、防食塗料組成物に用いられている従来公知の硬化促進剤が挙げられるが、硬化速度、低温硬化性により優れる塗料組成物が得られる等の点から、3級アミンなどが好ましい。
【0108】
前記3級アミンとしては特に制限されないが、例えば、トリエタノールアミン、ジアルキルアミノエタノール、トリエチレンジアミン[1,4-ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン]、2,4,6-トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール(例:商品名「バーサミンEH30」(BASFジャパン(株)製)、商品名「Ancamine K-54」(エボニックジャパン(株)製))が挙げられる。
【0109】
本組成物が前記硬化促進剤を含有する場合、本組成物の不揮発分100質量%に対し、該硬化促進剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0110】
[消泡剤]
本組成物は、気泡の発生を抑制し、得られる防食塗膜の外観を良好にすることができる等の点から、消泡剤を含むことが好ましい。
前記消泡剤としては、例えば、ポリマー系、アクリル系、シリコーン系、ミネラルオイル系、オレフィン系などの従来公知の各種消泡剤を使用することができるが、中でも、ポリマー系やオレフィン系の消泡剤が好ましい。
【0111】
このような消泡剤としては、ビックケミー・ジャパン(株)製の「BYK-1788」、「BYK-1790」、「BYK-1794」;AFCONA ADDITIVE社製の「AFCONA-2290」;ExxonMobil Chemical Company製の「SpectraSyn 40」、「SpectraSyn Elite150」、「SpectraSyn Elite65」等の商品が挙げられる。
【0112】
本組成物が前記消泡剤を含有する場合、本組成物中の不揮発分100質量%に対し、該消泡剤の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは4質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0113】
≪防食塗膜、防食塗膜付き基材≫
本発明の一実施形態に係る防食塗膜は、前記本組成物から形成されたものであれば特に制限されない。本発明の一実施形態に係る防食塗膜付き基材は、該防食塗膜と基材とを含めば特に制限されないが、基材に前記本組成物を塗装した後、該塗装された本組成物を乾燥させること、好ましくは該塗装された本組成物を乾燥、硬化させる方法で得られたものであることが好ましい。この方法は、基材の防食方法ともいえる。
【0114】
前記基材としては、特に制限されないが、本発明の効果がより発揮できることなどから、防食性が求められる基材であることが好ましい。
このような基材としては、鉄鋼、非鉄金属(亜鉛、アルミニウム等)、ステンレスなどからなる基材が好ましく、これらからなる船舶、陸上構造物、橋梁等の構造物、特に、船舶構造物がより好ましい。
また、本発明の効果がより発揮される等の点から、前記基材としては、溶剤雰囲気下で乾燥が進む箇所や、乾燥温度を制御することが困難な箇所であって、バクテリアに接し得る箇所、特に、海水や工業用水等のバクテリアを含む水と長期間接し得る箇所が好ましい。
【0115】
これらの中でも、前記基材としては、バラストタンクがより好ましい。
なお、このバラストタンクは、亜鉛または亜鉛-アルミニウム等の陽極を設置することで電気防食を施したものであってもよい。その電気防食の際の電流密度は、1~10mA/m2程度が好ましい。
【0116】
また、前記基材としては、錆、油脂、水分、塵埃、スライム、塩分などを除去するため、また、得られる防食塗膜の密着性を向上させるために、必要により前記基材表面を処理(例えば、ブラスト処理(ISO8501-1 Sa2 1/2)、摩擦法、脱脂による油分・粉塵を除去する処理)等したものでもよく、基材の防食性や、溶接性、せん断性等の点から、必要により、前記基材表面に従来公知の一次防錆塗料(ショッププライマー)等や、その他プライマー等を塗布し乾燥させたものでもよい。
【0117】
本組成物を基材に塗布する方法としては特に制限されず、従来公知の方法を制限なく使用可能であるが、作業性および生産性等に優れ、大面積の基材に対しても容易に塗装でき、本発明の効果がより発揮できる等の点から、スプレー塗装が好ましい。
【0118】
前記スプレー塗装の条件は、形成したい防食塗膜の厚みに応じて適宜調整すればよいが、エアレススプレー時には、例えば、1次(空気)圧:0.4~0.8MPa程度、2次(塗料)圧:10~26MPa程度、ガン移動速度50~120cm/秒程度に塗装条件を設定すればよい。
【0119】
前記防食塗膜の膜厚は、所望の用途に応じて適宜選択すればよいが、防食性に優れる防食塗膜となる等の点から、好ましくは100μm以上、より好ましくは250μm以上であり、好ましくは450μm以下、より好ましくは400μm以下である。
このような膜厚の防食塗膜を形成する際は、1回の塗装(1回塗り)で、所望の厚みの防食塗膜を形成してもよいし、防食性等に応じ、2回(必要によりそれ以上)の塗装で、所望の厚みの防食塗膜を形成してもよい。防食性に優れる防食塗膜を作業性よく形成することができる等の点から、2回塗りで前記範囲の厚みの防食塗膜を形成することが好ましい。
【0120】
前記本組成物を乾燥、硬化させる方法としては特に制限されず、乾燥、硬化時間を短縮させるために5~60℃程度の加熱により本組成物を乾燥、硬化させてもよいが、通常は、常温、大気下で1~14日程度放置することで、本組成物を乾燥、硬化させる。
また、8℃以下程度の低温で1~14日程度放置することで、本組成物を乾燥、硬化させると、本発明の効果、特に耐変色性がより発揮される。
また、空気中のVOC含有量が5mg/L以上程度の溶剤雰囲気下で1~14日程度放置することで、本組成物を乾燥、硬化させると、本発明の効果、特に耐変色性がより発揮される。
【実施例】
【0121】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0122】
[実施例1]
容器に、エポキシ樹脂1(注1)19質量部、石油樹脂(注3)10質量部、液状炭化水素樹脂(注4)4質量部、キシレン 10.4質量部、ブタノール 2質量部、1-メトキシ-2-プロパノール 1質量部、シランカップリング剤(注5)1質量部、タルク(注7)24質量部、マイカ(注8)6質量部、カリ長石(注9)15質量部、チタン白(注10)6質量部、カーボンブラック(注11)0.1質量部、および、タレ止め剤(注13)1.5質量部を入れ、ハイスピードディスパーを用い、56~60℃でこれらの成分を混合した後、30℃以下まで冷却することで、主剤成分を調製した。
【0123】
また、エチレンジアミン(EDA)のポリアミドアダクト(注15)14質量部、三級アミン(注21)0.2質量部、および、1-メトキシ-2-プロパノール 0.8質量部を、ハイスピードディスパーを用いて混合することで、硬化剤成分を調製した。
得られた主剤成分と硬化剤成分を塗装前に混合することで塗料組成物を調製した。
【0124】
[実施例2~11および比較例1~5]
主剤成分および硬化剤成分に配合する原材料および配合量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
なお、表1中の主剤成分および硬化剤成分の欄の数値は、質量部を示す。また、表1中の原材料の詳細を表2に示す。
【0125】
前記実施例および比較例で得られた塗料組成物から形成した塗膜について、以下の試験(1)~(5)を行った。結果を表1に示す。
【0126】
(1)耐塩水性試験
塗膜の耐塩水性を、JIS K 5600-6-1:2016に準拠して測定した。具体的には以下のようにして行った。
寸法が150mm×70mm×1.6mm(厚)であるブラスト処理された鋼板(以下「試験板」ともいう。)上に、前記実施例および比較例で得られた塗料組成物それぞれを、乾燥膜厚が約320μmとなるようにスプレー塗装し、得られた塗膜付き試験板を、23℃、50%RHの雰囲気下で7日間乾燥させた。
【0127】
各試験板の
図1に示す位置に、塗膜側から鋼板に達する切り込み2を入れた。切り込み2を入れた試験板1を、切り込み2側が下になるように(
図1に示す向きで)、3%塩水中に40℃で180日間浸漬した。浸漬後、前記切り込み2を5mm間隔で等分するように、該切り込み2の左端から順に上方にカット3を11箇所入れ、各カット3の間の10箇所の測定部4において、鋼板と塗膜との剥離長さ(切り込み2からの長さ)を測定した。測定した剥離長さの10点の平均値を以下の基準で評価した。
【0128】
・評価基準
○:フクレ、割れ、サビ、剥がれがなく、剥離長さが5mm未満
○△:フクレ、割れ、サビ、剥がれがなく、剥離長さが5mm以上10mm未満
△:フクレ、割れ、サビ、剥がれのいずれかによる若干の欠陥が発生、または、剥離長さが10mm以上20mm未満
×:フクレ、割れ、サビ、剥がれのいずれかによる明らかな欠陥が発生、または、剥離長さが20mm以上
【0129】
(2)電気防食性試験
前記耐塩水性試験と同様にして作成した塗膜付き試験板に、電気電流密度が5mA/m2以下になるよう亜鉛陽極を接続した以外は前記耐塩水性試験と同様にして評価した。
【0130】
(3)耐高温高湿性試験
前記耐塩水性試験と同様にして作成した塗膜付き試験板の耐高温高湿性を、JIS K 5600-7-2:1999に準拠し評価した。具体的には以下のようにして行った。
耐塩水性試験と同様にして作成した切り込み2を入れた試験板1を、温度50℃、湿度95%の試験器内に90日間保持した後、耐塩水性試験と同様にカット3を入れ、各カット3の間の10箇所の測定部4において、鋼板と塗膜との剥離長さ(切り込み2からの長さ)を測定した。測定した剥離長さの10点の平均値を前記耐塩水性試験と同様にして評価した。
【0131】
(4)耐変色性(低温乾燥)
前記実施例および比較例で得られた塗料組成物それぞれを、乾燥膜厚が約320μmとなるように、試験板上に環境温度5℃で塗装後、そのまま5℃で1日乾燥させた。その後、23℃、50%RHの雰囲気下で7日間乾燥させることで塗膜付き試験板を作成し、得られた塗膜付き試験板面の面積の半分が、バイオフィルムを含む浸漬液に浸漬するようにして、23℃で1ヶ月間浸漬し、浸漬液への浸漬部と非浸漬部との色差ΔEを以下の基準に従って評価した。
【0132】
なお、色差の測定は、JIS K 5600-4-5:1999に準拠し、分光色彩計(型式SD 5000、日本電色工業(株)製)を用いて測定し、JIS K 5600-4-6:1999に準拠して、前記色差ΔEを算出した。
【0133】
また、バイオフィルムは、半年以上海の中に浸漬させたタンク表面から採取した。採取したバイオフィルムは直ちに海水にて40倍に希釈して浸漬液を作成した。なお、タンクを浸漬させる海の場所、タンクを浸漬させる時期や、タンクの種類によって、結果に大きな差はなかった。
【0134】
(5)耐変色性(溶剤雰囲気)
前記実施例および比較例で得られた塗料組成物それぞれを、乾燥膜厚が約320μmとなるように、試験板上に環境温度5℃で塗装後、直ちに、キシレン200gを底に散布した、上部が開放された60×40×30(高さ)cmのプラスチック製の箱内の、箱の底から8cmの高さの位置に静置し、そのまま5℃で1日乾燥させた。その後、プラスチック製の箱から出し、23℃、50%RHの雰囲気で7日間乾燥させることで塗膜付き試験板を作成した。得られた塗膜付き試験板を用いた以外は前記耐変色性(低温乾燥)と同様にして色差ΔEを評価した。
【0135】
【0136】
【符号の説明】
【0137】
1:試験板
2:切り込み
3:カット
4:測定部