(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-22
(45)【発行日】2022-10-03
(54)【発明の名称】プリントヘッド用のダイ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
B41J2/14 611
B41J2/14 605
B41J2/14
B41J2/14 201
B41J2/14 203
(21)【出願番号】P 2021536232
(86)(22)【出願日】2019-02-06
(86)【国際出願番号】 US2019016836
(87)【国際公開番号】W WO2020162924
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】511076424
【氏名又は名称】ヒューレット-パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー.
【氏名又は名称原語表記】Hewlett‐Packard Development Company, L.P.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】ガードナー,ジェイムズ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】フラー,アンソニー,エム
(72)【発明者】
【氏名】カンビー,マイケル,ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】リン,スコット,エイ
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-515237(JP,A)
【文献】特開2012-254527(JP,A)
【文献】特開2001-058411(JP,A)
【文献】特開2016-128255(JP,A)
【文献】特開2018-16054(JP,A)
【文献】特開2010-179608(JP,A)
【文献】特開2006-15737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリントヘッド用のダイであって:
前記ダイの長手方向軸と平行なラインに配置された複数の流体供給孔、ここで前記流体供給孔は前記ダイの基板を貫通して形成されている;
前記複数の流体供給孔から受け取った流体を吐出するための、前記複数の流体供給孔に近接する複数の流体アクチュエータ;
前記複数の流体アクチュエータを作動させるためのロジック回路、ここで前記ロジック回路は前記複数の流体供給孔の第1の側に配置されている;
前記複数の流体アクチュエータに給電するための電力回路、ここで前記電力回路は前記複数の流体供給孔の前記ロジック回路と反対側に配置されている;および
前記複数の流体供給孔の各々の間に配置されて前記ロジック回路を前記電力回路に結合する付勢トレースを含む、ダイ。
【請求項2】
前記ロジック回路に近接しており前記ロジック回路
のすべてに低電圧電力を供給するための
ロジック回路の電力トレースおよび
ロジック回路の接地トレースを含む、請求項1のダイ。
【請求項3】
前記電力回路に近接しており前記電力回路
のすべてに高電圧電力を供給するための
電力回路の電力トレースおよび
電力回路の接地トレースを含む、請求項1または2のいずれかのダイ。
【請求項4】
前記第1の側において前記ロジック回路に近接する複数のアドレスラインを含む、請求項1から3のいずれかのダイ。
【請求項5】
流体供給孔の外側縁部の周囲に配置されたクラック検出トレースを含み、クラック検出トレースは隣接する流体供給孔との間で前記基板を横断し、前記隣接する流体供給孔の外側縁部の周囲に配置されている、請求項1から4のいずれかのダイ。
【請求項6】
前記クラック検出トレースは、前記基板上にある前記複数の流体供給孔の実質的にすべての周囲に配置されている、請求項
5のダイ。
【請求項7】
前記複数の流体アクチュエータの各々は流れチャネルに結合されており、前記流れチャネルは前記複数の流体供給孔のすべてに対して流体的に結合されている、請求項1から6のいずれかのダイ。
【請求項8】
前記ダイの長手方向軸に沿って前記ダイの各々の端部に配置された熱センサーを含む、請求項1から7のいずれかのダイ。
【請求項9】
前記ダイの長手方向軸に沿って前記ダイの実質的に中間点に配置された熱センサーを含む、請求項1から8のいずれかのダイ。
【請求項10】
プリントヘッドであってダイを含み、前記ダイが:
前記ダイの長手方向軸に平行な第1のラインに沿った流体供給孔のアレイ;
前記第1のラインに平行な第2のラインに沿った複数の流体アクチュエータ、ここで各々の流体アクチュエータ
は活性化され
て液体をチャンバから外へと押し出すよう構成されている;
前記第1のラインに平行な第3のラインに沿った
ロジック回路;および
前記第1のライン、前記第2のライン、および前記第3のラインに平行な第4のラインに沿った電界効果トランジスタ(FET)のアレイ、ここで前記第4のラインは前記第1のラインから前記第3のラインとは反対側にある、
を含む、プリントヘッド。
【請求項11】
前記ダイが前記第1のラインと平行な、前記第1のラインから前記第2のラインと反対側にある第5のラインに沿った第2の複数の流体アクチュエータを含む、請求項10のプリントヘッド。
【請求項12】
前記ダイを保持する高分子マウントを含み、前記高分子マウントは前記ダイの後面に沿って配置されたスロットを含んで流体を前記流体供給孔のアレイに提供する、請求項10または11のいずれかのプリントヘッド。
【請求項13】
プリントヘッド用のダイを形成するための方法であって:
複数の流体供給孔を基板の長手方向軸と平行なラインにおいてエッチングし;
前記基板上に複数の層を堆積して:
前記複数の流体供給孔の第1の側に沿って:
共通の低電圧電力ラインおよび共通の低電圧接地ラインを含む、前記基板の一方の縁部に沿ったロジック電力回路;
複数の流体アクチュエータ中の流体アクチュエータのグループから流体アクチュエータを選択するためのアドレスロジックを含む、アドレスロジック回路;
アドレスライン;および
流体アクチュエータの各々のグループについてのメモリ素子を含むメモリ回路を形成し;そして
前記複数の流体供給孔の第2の側に沿って:
共通の高電圧電力ラインおよび共通の高電圧接地ラインを含む、電力バス回路;および
前記複数の流体アクチュエータの各々のための熱抵抗器に給電するための電力回路を含む、印刷電力回路を形成し;
そして、
前記流体供給孔の間で前記第1の側から前記第2の側への、前記アドレスロジック回路を前記電力回路に結合するためのトレースを形成することを含む、方法。
【請求項14】
前記複数の流体供給孔の各々の側に沿って、そして前記複数の流体供給孔と平行に配置された複数の熱抵抗器を形成することを含み、前記複数の熱抵抗器は前記印刷電力回路に電気的に結合され、そして前記複数の流体供給孔の一方の側にある前記複数の熱抵抗器は前記複数の流体供給孔の反対側にある前記複数の熱抵抗器と互い違いになっている、請求項13の方法。
【請求項15】
前記複数の流体供給孔の一方の側に沿ったラインに配置され、前記複数の流体供給孔と平行な複数の熱抵抗器を形成することを含み、前記複数の熱抵抗器は前記印刷電力回路に電気的に結合され、そして前記複数の熱抵抗器は小さな熱抵抗器と交互になった大きな熱抵抗器を含んでいる、請求項13または14のいずれかの方法。
【請求項16】
前記基板を高分子マウントに埋設することを含み、前記高分子マウントは前記流体供給孔に流体を供給するための前記基板の後面に配置された開放領域を含む、請求項13から15のいずれかの方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
流体吐出システムの1つの例として、印刷システムは、プリントヘッドと、プリントヘッドに液体インクを供給するインク供給部と、そしてプリントヘッドを制御する電子コントローラとを含んでいてよい。プリントヘッドは印刷流体の液滴を、複数のノズルまたはオリフィスを通して印刷媒体上へと吐出する。適切な印刷流体には、2次元印刷または3次元印刷のためのインクおよび剤が含まれていてよい。プリントヘッドは、集積回路ウエーハまたはダイ上に製作されたサーマルプリントヘッドまたはピエゾプリントヘッドを含んでいてよい。駆動用電子回路および制御機構が最初に製作され、次いでヒーター抵抗の列が追加され、最後に、例えば感光性エポキシから形成された構造層が追加されて、マイクロ流体吐出器、すなわち液滴発生器を形成するように処理される。幾つかの例では、マイクロ流体吐出器は少なくとも1つの列またはアレイに配置され、プリントヘッドと印刷媒体とが相互に相対的に移動されるにつれて、オリフィスからの適切に順序付けられたインクの吐出が、印刷媒体上に文字または他のイメージの印刷を生じさせるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0002】
以下の詳細な説明においては、所定の例が添付図面を参照して記載される。添付図面において:
【0003】
図1Aはプリントヘッドに使用されるダイの例の図であり;
【0004】
【0005】
図2Aはプリントヘッドに使用されるダイの例の図であり;
【0006】
【0007】
図3Aはポッティング化合物に設けられたブラックダイから形成されたプリントヘッドの例の図であり;
【0008】
図3Bはインクの3色について使用されてよいカラーダイを用いて形成されたプリントヘッドの例の図であり;
【0009】
図3Cは固体の断面を通り、また流体供給孔を有する断面を通る、装着されたダイを含むプリントヘッドの断面図を示しており;
【0010】
図4は
図3Bに関して説明するカラーダイを組み込んだプリンターカートリッジであり;
【0011】
図5はカラーダイを形成するのに用いられた層を示す、カラーダイの例の一部の図であり;
【0012】
図6Aおよび
図6Bはカラーダイのロジック回路をカラーダイの電力側のFETに接続するポリシリコンのトレースの例の拡大詳細図を示す、カラーダイの図であり;
【0013】
図7Aおよび
図7Bは流体供給孔の間のトレースの拡大詳細図を示す、カラーダイの図であり;
【0014】
図8Aおよび
図8Bは2つの流体供給孔の間の断面の電子顕微鏡写真の図であり;
【0015】
図9はダイを形成する方法の例のプロセスの流れ図であり;
【0016】
図10は複数の層を使用してダイ上に部品を形成する方法の例のプロセスの流れ図であり;
【0017】
図11はダイのそれぞれの側にある回路を結合するトレースを備えた回路をダイ上に形成する方法の例のプロセスの流れ図であり;
【0018】
図12は4重プリミティブと称される4つのプリミティブの組の例の概略図であり;
【0019】
図13は単一セットのノズル回路によって達成可能な単純化を示す、デジタル回路のレイアウトの例の図であり;
【0020】
図14はエネルギーおよび電力のルーティングに対するスロット横断ルーティングの効果を示す、ブラックダイの例の図であり;
【0021】
図15はカラーダイのための回路フロアプランの例の図であり;
【0022】
【0023】
図17は繰り返し構造を示すカラーダイの例の図であり;
【0024】
図18はダイについての全体構造を示すブラックダイの例の図であり;
【0025】
図19は繰り返し構造を示すブラックダイの例の図であり;
【0026】
図20はクラック検出のためのシステムを示すブラックダイの例の図であり;
【0027】
図21は流体供給孔の周囲にルーティングされたクラック検出トレースを示す、ブラックダイからの流体供給孔の例の拡大図であり;そして
【0028】
図22はクラック検出トレースを形成するための方法の例のプロセスの流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
プリントヘッドは、マイクロ流体吐出器およびマイクロ流体ポンプのような、流体アクチュエータを有するダイを使用して形成される。流体アクチュエータは、サーマルテクノロジまたはピエゾ電気テクノロジに基づいていることができ、本願ではダイと称する、長くて細いシリコン片を用いて形成される。本願で使用するところでは、流体アクチュエータはチャンバからの流体を押しやるダイ上のデバイスであり、チャンバおよび関連構造を含んでいる。本願に記載の例においては、流体アクチュエータの1つの種類であるマイクロ流体吐出器が、印刷および他の用途のための液滴吐出器として、またはダイのノズルとして使用される。例えば、プリントヘッドは、2次元および3次元の印刷用途、ならびに薬学的、実験室的、医学的、生命科学的および科学捜査的な用途を含む、他の高精度流体分配システムにおいて、流体吐出デバイスとして使用することができる。
【0030】
プリントヘッドのコストは多くの場合、ダイに用いられているシリコンの量によって決定されるが、それはダイおよび製作プロセスのコストが、ダイに用いられているシリコンの合計量と共に増大するからである。したがって、機能性をダイから他の集積回路へと移し、ダイがより小さくなることを許容することによって、より低コストのプリントヘッドが形成されてよい。
【0031】
現今の多くのダイは、インクを流体アクチュエータに運ぶために、ダイの中央にインク供給スロットを有している。インク供給スロットは一般に、ダイの片方の側から他方の側へと信号を搬送することに対する障壁をもたらすが、それは多くの場合にダイのそれぞれの側において回路を重複化することを必要とし、ダイの大きさをさらに増大させる。この構成配置においては、左側または西側と称されてよい、スロットの一方の側にある流体アクチュエータは、右側または東側と称されてよい、インク供給スロットの他方の側にある流体アクチュエータとは独立した、アドレス指定回路および電力バス回路を有している。
【0032】
本願に記載される例は、液滴吐出器の流体アクチュエータに流体を供給するための、新規な手法を提供する。この手法においては、インク供給スロットは、流体アクチュエータに近接してダイに沿って配置された、流体供給孔のアレイによって置き換えられる。ダイに沿って配置されたこの流体供給孔のアレイは、本願において、供給ゾーンと称されてよい。その結果として、信号は、例えば、流体供給孔の一方の側に位置決めされたロジック回路から、流体供給孔の反対側に位置決めされた電界効果トランジスタ(FET)のような印刷用電力回路へと、この供給ゾーンを通って流体供給孔の間でルーティング可能である。これを本願ではスロット横断ルーティングと称する。信号をルーティングするための回路には、隣接するインク供給孔または流体供給孔の間で層状に備えられた、トレース(配線)が含まれる。
【0033】
本願で使用するところでは、ダイの第1の側およびダイの第2の側とは、ダイの中央またはその付近に配置された流体供給孔と整列しているダイの長辺を指している。さらに、本願で使用するところでは、流体アクチュエータはダイの前面に位置決めされており、そしてインクまたは流体は、ダイの後面にあるスロットから流体供給孔に供給される。よって、ダイの幅は、ダイの第1の側の縁部からダイの第2の側の縁部にかけて測定される。同様に、ダイの厚さは、ダイの前面からダイの後面にかけて測定される。
【0034】
スロット横断ルーティングは、ダイ上の重複した回路を排除することを可能にし、それはダイの幅を、例えば150マイクロメートル(μm)またはそれ以上に低減することを可能にする。幾つかの例では、このことは、約450μmまたは約360μm、またはそれ未満の幅を有するダイを提供してよい。幾つかの例では、スロット横断ルーティングによる重複回路の排除は、例えば高価値の応用のために性能を向上させるべく、ダイ上の回路の大きさを増大させるために用いられてよい。こうした例においては、パワーFET、回路トレース、電力トレース、およびその他の大きさが増大されてよい。このことは、液滴重量を大きくできるダイを提供してよい。したがって、幾つかの例では、ダイは約500μm未満、または約750μm未満、または約1000μm未満であってよい。
【0035】
前面から後面に至るダイの厚さもまた、流体供給孔の使用から獲得される効率によって、低減される。インク供給スロットを使用するこれまでのダイは、約675μmを超えていてよいが、これに対して流体供給孔を使用するダイの厚さは、約400μm未満であってよい。ダイの長さは、設計で使用される流体アクチュエータの数に応じて、約10ミリメートル(mm)、約20mm、または約20mmであってよい。ダイの長さはダイのそれぞれの端部にある回路用のスペースを含んでおり、したがって流体アクチュエータはダイの長さの一部分を占めることになる。例えば、長さ約20mmのブラックダイについて、流体アクチュエータは約13mmを占めていてよいが、これはスワスの長さである。スワスの長さとは、プリントヘッドが印刷媒体を横断して移動するにつれて形成される、印刷、すなわち流体吐出の帯状域の幅である。
【0036】
さらに、類似したデバイスを共通の場所に置いて、効率およびレイアウトを向上させることが可能である。スロット横断ルーティングはまた、複数の流体アクチュエータの左側および右側の列、すなわち流体アクチュエータゾーンが電力および接地のルーティング(配線)回路を共有することを許容することによって、電力分配を最適化する。細長いダイは幅広のダイよりも脆弱でありうる。したがって、ダイは高分子ポッティング化合物に装着されてよく、これは反対側にスロットを有して、インクが流体供給孔へと流れることを許容する。幾つかの例では、ポッティング化合物はエポキシであるが、それはアクリル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、およびその他であってもよい。
【0037】
スロット横断ルーティングはまた、回路のレイアウトの最適化も許容する。例えば、高電圧区画および低電圧区画を流体供給孔を挟む反対側に分離してよく、ダイの信頼性および形状係数の改善が可能になる。高電圧区画および低電圧区画を分離することは、寄生電圧、クロストーク、およびダイの信頼性に影響を及ぼす他の問題点を低減または排除してよい。さらに、ロジック回路、流体アクチュエータ、流体供給孔、およびノズルのセットのための電力回路を含む繰り返し単位は、非常に細長い形状係数において所望のピッチを提供するように設計されてよい。
【0038】
ダイの長手方向軸と平行なラインに位置決めされた流体供給孔は、機械的応力からの損傷に対して、ダイをより影響を受けやすいものとしてよい。例えば、流体供給孔は一連の穿孔として作用してよく、ダイの長手方向軸に沿って流体供給孔を通るクラックが発現する可能性を増大させる。製造の間のクラックを検出するために、例えば、ポッティング化合物に装着するよりも前に、クラック検出回路を流体供給孔の周囲に蛇行する仕方で位置決めしてよい。このクラック検出回路は、クラックが形成された場合に破断する抵抗であってよく、抵抗値が数百キロオームといった最初の抵抗値から、開放回路へと変化させる。このことは、製造プロセスを完了する前に破損したダイを識別することにより、製造コストを低下させうる。
【0039】
プリントヘッドに使用されるダイは、本願で記載されるように、流体アクチュエータ中で流体を加熱するために抵抗を使用し、熱膨張によって液滴の吐出を生じさせる。しかしながら、ダイは熱的に駆動される流体アクチュエータに限定されるものではなく、流体供給孔から供給を受けるピエゾ電気式流体アクチュエータを使用してよい。本願で記載するところでは、流体アクチュエータはドライバ(駆動回路)および流体チャンバおよびマイクロ流体吐出器用のノズルといった、関連する構造を含んでいる。
【0040】
さらに、ダイはプリントヘッドの他にも、分析機器に使用されるマイクロ流体ポンプといった、他の用途のための流体アクチュエータを形成するために使用されてよい。この例においては、流体アクチュエータには流体供給孔から、インクではなしに、試験溶液または他の流体が供給されてよい。したがって、種々の例において、流体供給孔およびインクは、熱膨張またはピエゾ電気的な付勢に由来する液滴の吐出によって吐出または給送されてよい流体材料をもたらすために使用可能である。
【0041】
図1Aはプリントヘッドに使用されるダイ100の例の図である。このダイ100は、流体アクチュエータ102を作動させるためのすべての回路を、流体供給スロット104の両側に含んでいる。したがって、すべての電気的接続は、ダイ100のそれぞれの端部に位置決めされたパッド106上に引き出されている。その結果、ダイの幅108は約1500μmである。
図1Bは、ダイ100の一部分の拡大図である。この拡大図において見られるように、流体供給スロット104は、ダイ100の中央部において、相当量のスペースを占有しており、ダイ100の幅108を増大させている。
【0042】
図2Aは、プリントヘッドに用いられるダイ200の例の図である。
図2Bは、ダイ200の一部分の拡大断面図であり。
図1Aのダイ100と比較すると、ダイ200の設計は、付勢回路の一部を第2の集積回路、すなわち特定用途向け集積回路(ASIC)202とすることを可能にしている。
【0043】
ダイ100の流体供給スロット104とは対照的に、ダイ200は流体供給孔204を使用して、インクのような流体を流体アクチュエータ206に供給し、熱抵抗器208によって吐出させる。本願で記載するように、スロット横断ルーティングは、回路が流体供給孔204の間のシリコンブリッジ210に沿って、そしてダイ200の長手方向軸212を横断してルーティングされることを可能にする。このことは、ダイ200の幅214を、流体供給孔204を有しない従来の設計よりも実質的に低減させることを許容する。
【0044】
ダイ200の幅214の低減は、例えばダイ200の基板におけるシリコンの量を低減させることによって、コストを実質的に低下させる。さらに、ダイとASIC202との間での回路および機能の分配は、幅214におけるさらなる低減を許容する。本願で記載するように、ダイ200はまた、作動および診断のためにセンサ回路を含んでいる。幾つかの例では、ダイ200は、例えばダイの一方の端部付近で、ダイの中間部において、またダイの反対側の端部付近で、ダイの長手方向軸に沿って配置された熱センサー216を含んでいる。
【0045】
図3Aから
図3Cは、ポッティング化合物から形成された高分子マウント310にダイ302または304を装着することによる、プリントヘッド300の形成の図である。ダイ302および304は、インクペン(カートリッジ)本体に取着したり、流体をリザーバから流体的にルーティングするには細すぎる。そこで、ダイ302および304は、特にエポキシ材料のようなポッティング化合物から形成された高分子マウント310に装着される。プリントヘッド300の高分子マウント310はスロット314を有しており、これはリザーバからの流体がダイ302および304にある流体供給孔204に流れることを許容する、開放領域を提供する。
【0046】
図3Aは、ポッティング化合物中に設けられたブラックダイ302から形成されたプリントヘッド300の例の図である。
図3Aのブラックダイ302においては、2列のノズル320が視認できるが、そこにおいて互い違いになった2つのノズル320のグループの各々には、ブラックダイ302に沿った流体供給孔204の1つから供給が行われている。ノズル320のそれぞれは、熱抵抗器の上方にある流体チャンバへの開口である。熱抵抗器の付勢は、流体をノズル320を介して押し出し、かくして熱抵抗器流体チャンバとノズルの組み合わせの各々は、流体アクチュエータ、特にマイクロ流体吐出器を表すことになる。流体供給孔204は相互に分離されておらず、流体が流体供給孔204から近傍の流体供給孔204へと流れることを許容し、付勢されたノズルに対して高い流量をもたらすことが留意されてよい。
【0047】
図3Bは、インクの3色について使用されてよいカラーダイ304を用いて形成されたプリントヘッド300の例の図である。例えば、1つのカラーダイ304はシアンインクについて使用されてよく、別のカラーダイ304はマゼンタインクについて使用されてよく、そして最後のカラーダイ304はイエローインクについて使用されてよい。インクのそれぞれは、個別のカラーインクリザーバから、カラーダイ304の関連するスロット314内へと供給される。この図面はマウントに装着されたカラーダイ304を3つだけ示しているが、ブラックダイ302のような4つめのダイを含めて、CMYKダイを形成してよい。同様にして、他のダイ構成もまた使用されてよい。
【0048】
図3Cは、固体の断面322を通り、また流体供給孔318を有する断面324を通る、装着されたダイ302または304を含むプリントヘッド300の断面図を示している。これは、流体供給孔318がスロット314に結合されて、インクがスロット314から装着されたダイ302および304へと流れることを許容していることを示している。本願で記載されるところでは、
図3Aから
図3Cの構成はインクに限定されたものではなく、ダイにおける流体アクチュエータに他の流体をもたらすためにも使用されてよい。
【0049】
図4は、
図3Bに関して説明したカラーダイ304を組み込んだプリンターカートリッジ400の例である。装着されたカラーダイ304はパッド402を形成している。本願で記載されるところでは、パッド402はマルチカラー(多色)シリコンダイと、エポキシポッティング化合物のような高分子のマウント化合物を含んでいる。ハウジング404は、パッド402内に装着されたカラーダイ304に供給を行うのに使用されるインクリザーバを保持している。フレキシブル回路のような可撓性接続部406が、プリンターカートリッジ400との相互接続に使用されるプリンター接点、すなわちパッド408を保持している。本願で記載されるところでは、この異なる回路設計が、これまでのプリンターカートリッジとの対比において、プリンターカートリッジ400においてより少ない数のパッド408を使用することを許容する。
【0050】
図5は、カラーダイ304を形成するのに用いられた層502、502および506を示す、カラーダイ304の一部500の図である。同様の参照番号の付された要素は、
図2に関して説明したごときである。層を作成するのに使用される材料には、ポリシリコン、アルミニウム-銅(AlCu)、タンタル(Ta)、金(Au)、イオン注入ドーピング(Nウェル、Pウェル、その他)が含まれる。この図面において、層502は層のルーティング、すなわちカラーダイ304のロジック回路510から、カラーダイ304の電力回路512(部分的に図示されている)を形成する電界効果トランジスタ(FET)への、流体供給孔204の間のポリシリコントレース508を示している。これはFETを付勢することを許容し、流体アクチュエータを活性化するサーマルインクジェット抵抗器(TIJ)514を駆動して、液体を熱抵抗器の上方のチャンバから外へと押し出す。付加的な層516および518は、第1メタル504および第2メタル506を含んでいてよく、TIJ抵抗器514への電流のための電力接地帰路として使用される。また
図5に示されたカラーダイ304は、異なる液滴寸法をもたらして液滴の精度を向上させるため、高重量液滴(HWD)と低重量液滴(LWD)とで交互になっている流体供給孔204の片側だけに配置されたTIJ抵抗器514であることに留意してよい。液滴重量を制御するために、HWDのためのTIJ抵抗器514および関連構造は、LWDのためのTIJ抵抗器514よりも大きいが、これについては
図15に関してさらに説明する。本願で記載されるところでは、流体アクチュエータにおける関連構造には、マイクロ流体吐出器のための流体チャンバおよびノズルが含まれる。ブラックダイ302においては、TIJ抵抗器514および関連構造は同じ大きさであり、流体供給孔204の一方の側と反対の側の間で交互になっている。
【0051】
図6Aおよび
図6Bは、カラーダイ304のロジック回路510をカラーダイ304の電力回路512のFET604に接続するトレース602の例の拡大詳細図を示す、カラーダイ304の図である。同様の参照番号の付された要素は、
図2、
図3および
図5に関して説明したごときである。導体は積み重ねられて、流体供給孔204のアレイ608の左側と右側の間に複数の接続を行うことを許容する。これらの例において、製作は相補型金属酸化膜半導体テクノロジを使用して行われ、そこではポリシリコン層、第1メタル層、第2メタル層、その他のような導電層は誘電体によって分離されていて、クロストークのような電気的干渉なしに導電層を積み重ねることが許容される。これについては
図7および
図8に関してさらに説明する。
【0052】
図7Aおよび
図7Bは、流体供給孔204の間のトレースの拡大詳細図を示す、カラーダイ304の図である。同様の参照番号の付された要素は、
図2および
図5に関して説明したごときである。
図7Aは2つの流体供給孔204の図であるが、これに対して
図7Bは矢視線702によって示された断面の拡大図である。流体供給孔204の間の異なる層についてのこの図面において、タンタル層704を含んでいることが看取される。またポリシリコン層508、第1メタル層516、および第2メタル層518を含む、
図5に関して説明された層が示されている。幾つかの例では、
図20および
図21に関して説明されているように、ポリシリコントレース508の1つが使用されて、カラーダイ304のための埋設されたクラック検出器をもたらしてよい。層508、516、および518は誘電体によって分離されて、
図8Aおよび
図8Bに関してさらに説明するように絶縁がもたらされる。
図6A、
図6B、
図7A、および
図7Bはカラーダイ304を示しているが、同じ設計上の特徴がブラックダイ302についても使用されることに留意すべきである。
【0053】
図8Aおよび
図8Bは、カラーダイ304の2つの流体供給孔204の間の断面の電子顕微鏡写真の図である。同様の参照番号の付された要素は、
図2、
図3および
図5に関して説明したごときである。この構造体の最上層はSU-8プライマー802であり、これは回路上の最終的な被覆を形成するために使用され、カラーダイ304のためのノズル320を含んでいる。しかしながら、同じ層がブラックダイ302における流体供給孔204の間に存在していてよい。
【0054】
図8Bは、カラーダイ304の2つの流体供給孔204の間の断面804である。
図8Bにおいて、流体供給孔204は基板として機能するシリコン層806を貫通してエッチングされており、カラーダイ304の2つの側を接続するブリッジが残されている。シリコン層806の上側には幾つかの層が堆積されている。厚いフィールド酸化物、すなわちFOX層808がシリコン層806の上側に堆積されて、さらなる層をシリコン層806から絶縁している。第1メタル516と同じ材料から形成されたストリンガー810が、FOX層808のそれぞれの側に堆積されている。
【0055】
FOX層808の上側には、ポリシリコン層508が堆積されて、例えばダイ200の一方の側にあるロジック回路をダイ200の反対側にある電力トランジスタへと結合する。ポリシリコン層508の他の用途には、
図20および
図21に関して説明されるような、流体供給孔204の間に堆積されるクラック検出トレースが含まれてよい。ポリシリコン、すなわち多結晶シリコンは、高純度のシリコンの多結晶形態である。例においては、それは低圧におけるシラン(SiH
4)の化学蒸着を使用して堆積される。ポリシリコン層508はイオン注入またはドーピングにより、nウェルおよびpウェル材料を形成してよい。第1のの誘電体層812がポリシリコン層508を覆って絶縁障壁として堆積される。例においては、第1の誘電体層812はホウリンケイ酸塩ガラス/テトラエチルオルソシリケート(BPSG/TEOS)から形成されるが、他の材料が使用されてもよい。
【0056】
次いで第1メタル516の層が、第1の誘電体層812を覆って堆積されてよい。種々の例において、第1メタル516は金を含む種々の他の材料の中でも、窒化チタン(TiN)、アルミニウム銅合金(AlCu)、または窒化チタン/チタン(TiN/Ti)から形成される。第2の誘電体層814は第1メタル516層を覆って堆積されて、絶縁障壁を提供する。例においては、第2の誘電体層814は高密度プラズマ化学蒸着(HDP-TEOS/TEOS)によって形成されたTEOS/TEOS層である。
【0057】
次いで第2メタル518の層が、第2の誘電体層814を覆って堆積されてよい。種々の例において、第2メタル518は金を含む種々の他の材料の中でも、タングステンケイ素窒化物合金(WSiN)、アルミニウム銅合金(AlCu)、または窒化チタン/チタン(TiN/Ti)から形成される。パッシベーション層816が次いで第2メタル518の上側を覆って堆積されて、絶縁障壁を提供する。例においては、パッシベーション層816は炭化ケイ素/窒化ケイ素(SiC/SiN)の層である。
【0058】
タンタル(Ta)層818が、パッシベーション層816および第2の誘電体層814の上側を覆って堆積される。このタンタル層818はトレースの部品を、インクのような流体に対する潜在的な暴露によって生ずる劣化から保護する。SU-8の層820が次いで、ダイ200を覆って堆積され、エッチングされて、ダイ200上のノズル320および流れチャネル822を形成する。SU-8はエポキシ系のネガティブフォトレジストであり、そこにおいてはUV光に露光された部分が架橋し、溶剤およびプラズマエッチングに対して抵抗性になる。SU-8に加えて、またはそれに代えて、他の材料を使用してよい。流れチャネル822は、流体を流体供給孔から、すなわち流体供給孔204から、ノズル320または流体アクチュエータへと供給するように構成されている。流れチャネル822の各々においては、ボタン824または突出部がSU-8の層820に形成されて、流体中の粒状物がノズル320の下側にある吐出チャンバに流入するのを阻止する。1つのボタン826が、
図8Bの断面図に示されている。
【0059】
流体供給孔204の間でシリコン層806を覆って導体を積層することは、流体供給孔204のアレイの左側と右側の間での接続を増大させる。本願で記載されるところでは、ポリシリコン層508、第1メタル層516、第2メタル層518その他はすべて、それらを積層することを許容する誘電体、すなわち絶縁層812、814、および816によって分離された固有の導体層である。
図8Aおよび
図8Bに示されたカラーダイ304のような設計の実施形態に応じて、クラック検出器その他、種々の層を異なる組み合わせで使用して、FETおよびTIJ抵抗器を駆動するためのVPP、PGND、およびデジタル制御接続が形成される。
【0060】
図9は、ダイを形成する方法900の例のプロセスの流れ図である。この方法900は、カラープリンターのためのダイとして使用されるカラーダイ304、並びにブラックインクのために使用されるブラックダイ302、および流体アクチュエータを含む他の種類のダイを作成するために使用されてよい。この方法900はシリコン基板を貫通して流体供給孔を、基板の長手方向軸と平行なラインに沿ってエッチングすることをもって、ブロック902において開始される。幾つかの例では、層が最初に堆積され、次いで層が形成された後に流体供給孔のエッチングが行われる。
【0061】
例においては、SU-8のようなフォトレジストポリマーの層がダイの一部分を覆って形成されて、エッチングされない区域を保護する。フォトレジストは光によって架橋されるネガティブフォトレジストであってよく、または露光によってより可溶性とされるポジティブフォトレジストであってよい。例においては、マスクがUV光源に対して暴露されて保護層の各部分が固定され、そしてUV光に暴露されていない部分は洗い流される。この例においては、マスクは流体供給孔の区域を覆っている保護層の部分の架橋を阻止する。
【0062】
ブロック904においては、複数の層が基板上に形成されてダイが形成される。これらの層は、ポリシリコン、ポリシリコンを覆う誘電体、第1メタル、第1メタルを覆う誘電体、第2メタル、第2メタルを覆うパッシベーション層、および上部を覆うタンタル層を含んでいてよい。上述したように、SU-8が次いでダイの上部を覆って積層されてよく、そしてパターニングされて流れチャネルおよびノズルが具体化される。これらの層は、これらの層を堆積するための化学蒸着に続いて、不要部分を除去するためのエッチングを行うことによって形成されてよい。この製作技術は、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)を形成するために使用される標準的な製作技術であってよい。ブロック904において形成可能なこれらの層、および部品の配置について、
図10に関してさらに説明する。
【0063】
図10は、複数の層を使用してダイ上に部品を形成する方法1000の例のプロセスの流れ図である。例においては、この方法1000は、
図9のブロック904において形成されてよい層の詳細を示している。この方法はブロック1002において、ダイ上に電力回路を形成することをもって開始される。ブロック1004において、
図12および
図13に関して記載されるプリミティブグループのためのアドレスラインを含むアドレスライン回路が、ダイ上に形成される。ブロック1006においては、
図12および
図13に関して記載されるデコード回路を含むアドレスロジック回路が、ダイ上に形成される。ブロック1008においては、メモリ回路がダイ上に形成される。ブロック1010においては、電力回路がダイ上に形成される。ブロック1012においては、電力ラインがダイ上に形成される。
図10に示されたブロックは、逐次的であると考えられてはならない。当業者に想起されるように、これらの種々のラインおよび回路は、種々の層が形成されるのと同時に、ダイにわたって形成される。さらに、
図10に関して記載されたプロセスは、カラーダイまたはモノクロ(白黒)ダイのいずれに部品を形成するためにも使用されてよい。
【0064】
本願で記載されるところでは、流体供給孔の使用によって、すべての回路が流体供給孔の間のシリコンを覆って形成されたトレースでもって、ダイを横断(交差)することが許容される。したがって、回路はダイのそれぞれの側の間で共有されてよく、ダイ上に必要な回路の合計量は低減される。
【0065】
図11はダイのそれぞれの側にある回路を結合するトレースを備えた回路をダイ上に形成する方法110の例のプロセスの流れ図である。本願で使用するところでは、ダイの第1の側およびダイの第2の側とは、ダイの中央またはその近傍において位置決めされた流体供給孔と整列しているダイのそれぞれの長辺を示している。この方法1100はブロック1102において、ダイの第1の側に沿ってロジック電力ラインを形成することをもって開始される。ロジック電力ラインとは、例えば約2Vから約7Vの電圧において、ロジック回路に対して給電するために使用される低電圧ライン、およびロジック回路のための関連する接地ラインである。ブロック1104においては、アドレスロジック回路がダイの第1の側に沿って形成される。ブロック1106においては、アドレスラインがダイの第1の側に沿って形成される。ブロック1108においては、メモリ回路がダイの第1の側に沿って形成される。
【0066】
ブロック1110においては、吐出器電力回路がダイの第2の側に沿って形成される。幾つかの例では、吐出器電力回路は電界効果トランジスタ(FET)、および流体を加熱して流体がノズルから吐出されるように押しやるために使用されるサーマルインクジェット(TIJ)抵抗器を含んでいる。ブロック1112においては、電力回路の電力ラインがダイの第2の側に沿って形成される。この電力回路の電力ラインは高電圧の電力ライン(Vpp)および帰路ライン(Pgnd)であり、例えば約25Vから約35Vの電圧において、吐出器電力回路に給電するために使用される。
【0067】
ブロック1114においては、流体供給孔の間を通ってロジック回路を電力回路に結合するトレースが形成される。本願で記載されるところでは、トレースはダイの第1の側に位置決めされたロジック回路からダイの第2の側にある電力回路へと信号を運んでよい。さらに本願で記載されるところでは、トレースはクラック検出を行うように流体供給孔の間に含まれていてよい。
【0068】
ノズル回路が中央の流体供給スロットによって分離されているダイにおいては、ロジック回路、アドレスラインその他は、中央の流体供給スロットのそれぞれの側で複製される。対照的に、
図9から
図11の方法を使用して形成されたダイにおいては、ダイの一方の側からダイの他方の側へと回路をルーティングする能力によって、幾つかの回路をダイの両側で重複させる必要性は排除される。このことは、ダイの物理的回路構造を見ることによって明らかになる。本願で記載する幾つかの例では、
図12に関してさらに説明するように、ノズルはプリミティブと呼ばれる個別にアドレス指定されるセットへとグループ化される。
【0069】
図12は、4重プリミティブと称される4つのプリミティブの組の例の概略
図1200である。プリミティブおよび共有アドレス指定の説明を容易にするために、概略
図1200の右側のプリミティブは東と表示され、例えば北東(NE)および南東(SE)とされる。概略
図1200の左側にあるプリミティブは西と表示され、例えば北西(NW)および南西(SW)とされる。この例において、各々のノズル1202はFxと表示されたFETによって噴射され、ここでxは1から32である。概略
図1200はまた、Rxと表示されたTIJ抵抗器を示しており、ここでxはやはり1から32であり、ノズル1202のそれぞれに対応している。ノズルは概略
図1200において、流体供給部のそれぞれの側に示されているが、これは仮想的な配置である。今般の技術を使用して形成されたカラーダイ304においては、ノズル1202は流体供給部に対して同じ側にあることになる。
【0070】
各々のプリミティブNE、NW、SE、およびSWにおいては、0から7と表示された8つのアドレスが使用されて、噴射を行うノズルが選択される。他の例においてはプリミティブあたり16のアドレスがあり、4重プリミティブあたりに64のノズルがある。これらのアドレスは共有されており、そこにおいてあるアドレスは各グループにある1つのノズルを選択する。この例において、アドレス4がもたらされた場合には、F9、F10、F25、およびF26のFETによって付勢されたノズル1204が噴射のために選択される。噴射される場合、これらのノズル1204のどれが噴射されるかは、別途のプリミティブの選択に依存しており、それらは各々のプリミティブに固有である。噴射信号はまた、各々のプリミティブに搬送される。プリミティブ内のノズルは、そのプリミティブに運ばれたアドレスデータが噴射するノズルを選択し、そのプリミティブにロードされたデータがそのプリミティブについて噴射が生ずるべきことを示し、そして噴射信号が送信された場合に、噴射される。
【0071】
幾つかの例では、本願で噴射パルスグループ(FPG)と称される、ノズルデータのパケットが、FPGの始まりを識別するために使用される開始ビットと、各々のプリミティブデータ中でノズル1202を選択するために使用されるアドレスビットと、各々のプリミティブのための噴射データと、動作設定を構成するために使用されるデータと、そしてFPGの終わりを識別するために使用される停止ビットとを含んでいる。いったんFPGがロードされたならば、噴射信号が全部のプリミティブグループに送られて、アドレス指定された全てのノズルが噴射される。例えば、プリントヘッド上の全部のノズルを噴射するために、プリントヘッドにある全てのプリミティブが付勢されると共に、FPGがそれぞれのアドレス値について送信される。かくして、各々が固有のアドレス0-7と関連している8つのFPGが発行される。概略
図1200に示されているアドレス指定は、流体的クロストーク、イメージ品質、および電力分配上の制約に対処するために、変更されてよい。FPGはまた、例えばノズルを噴射するのに代えて、各々のノズルに関連する不揮発性メモリ素子に書き込みを行うために使用されてもよい。
【0072】
中央の流体供給領域1206は、流体供給孔または流体供給スロットを含んでいてよい。しかしながら、中央のインク供給領域1206が流体供給スロットである場合、トレースは中央のインク供給領域1206を横断することができないため、ロジック回路およびアドレス指定ライン、例えばこの例では各々のプリミティブを噴射するためのノズルを選択するためにアドレス0-7を提供するよう使用される3つのアドレスラインは、重複化される。しかしながら、中央のインク供給領域1206が流体供給孔から構成されている場合には、各々の側が回路を共有することができ、ロジックは単純化される。
【0073】
図12に説明されたプリミティブ内の1202はダイの両側に、例えば中央の流体供給領域1206のそれぞれの側に示されているが、これは仮想的な配置である。中央のインク供給領域1206に対するノズル1202の位置は、以下の図面に示されているように、ダイの設計に依存している。例においては、ブラックダイ302は流体供給孔のそれぞれの側に互い違いになったノズルを有しており、そこにおいて互い違いのノズルは同じ大きさである。別の例においては、カラーダイ304がダイの長手方向軸と平行なラインにおいてノズルの列を有しており、そこにおいてノズルの例中におけるノズルの大きさは、大きいノズルと小さなノズルとが交互になっている。
【0074】
図13は、単一セットのノズル回路によって達成可能な単純化を示す、デジタル回路のレイアウト1300の例の図である。このレイアウト1300は、ブラックダイ302またはカラーダイ304のいずれについても使用可能である。このレイアウト1300においては、デジタル電力バス1302が電力と接地をすべてのロジック回路に対して提供している。デジタル信号バス1304が、アドレスライン、プリミティブ選択ライン、およびロジック回路への他のロジックラインを提供している。この例においては、検出バス1306が示されている。この検出バス1306は、例えば温度センサーその他からの信号を含むセンサー信号を運ぶ、共有化または多重化されたアナログバスである。検出バス1306はまた、不揮発性メモリ素子を読み取るためにも使用されてよい。
【0075】
この例においては、ダイの東側および西側の両方にあるプリミティブのためのロジック回路1308は、デジタル電力バス1302、デジタル信号バス1304、および検出バス1306に対するアクセスを共有している。さらに、アドレスのデコードは、プリミティブNWおよびNEのようなプリミティブ1310のグループについて、単一のロジック回路において行われてよい。その結果として、ダイに必要とされる回路の合計は低減される。
【0076】
図14は、エネルギーおよび電力のルーティングに対するスロット横断ルーティングの効果を示す、ブラックダイ302の例の図である。同様の参照番号の付された要素は、
図2および
図6に関して説明したごときである。この例においてはブラックダイ302が示されているから、TIJ抵抗器は流体供給孔204のいずれの側にもある。同様の構造がカラーダイ304においても使用されるであろうが、しかしTIJ抵抗器は流体供給孔204の片側にあり、大きさが交互になる。電力ストラップ1402を流体供給孔204の間でシリコンリブ1404を横断して接続すると、TIJ抵抗器に電流を配送するための電力バスの有効幅が増大される。インクの供給のためにスロットを使用する従来の解決策においては、右側の列および左側の列の電力ルーティングは、他方の列に寄与することはできなかった。さらに、第1メタルおよび第2メタル層を流体供給孔の間を通る電力プレーンとして使用すると、ノズルの左側の列(東)およびノズルの右側の列(西)は、共通の接地および給電バスを共有することが可能になる。ブラックダイ302のロジック回路510をブラックダイ302の電力回路512にあるFET604に接続するトレース602もまた、この図に見えている。
【0077】
図15は、カラーダイ304のための幾つものダイゾーンを示している回路フロアプランの例の図である。同様の参照番号の付された要素は、
図2、
図3および
図5に関して説明したごときである。カラーダイ304において、バス1502はプリミティブのロジック回路1504のための制御ライン、データライン、アドレスライン、および電力ラインを担持しており、共通のロジック電力ライン(Vdd)および共通のロジック接地ライン(Lgnd)を含むロジック電力ゾーンを含んでいて、約5Vの供給電圧がロジック回路に提供される。バス1502はまた、ノズルの各々のプリミティブグループにあるノズルに対してアドレス指定をするために使用されるアドレスラインを含む、アドレスラインゾーンを含んでいる。したがって、プリミティブグループは、カラーダイ304上の流体アクチュエータのグループ、または流体アクチュエータの部分集合である。
【0078】
アドレスロジックゾーンは、プリミティブロジック回路1504およびデコード回路1506のようなアドレスライン回路を含んでいる。プリミティブロジック回路1504は、アドレスラインをデコード回路1506に結合して、プリミティブグループにあるノズルを選択する。プリミティブロジック回路1504はまた、データラインを介してプリミティブにロードされたデータビットを記憶する。このデータビットは、アドレスラインについてのアドレス値、およびそのプリミティブがアドレス指定されたノズルを噴射させるか、またはデータを記憶するかを選択する、各々のプリミティブに関連するビットを含んでいる。
【0079】
デコード回路1506は、噴射するためのノズルを選択し、またはデータを受信するために、不揮発性メモリ素子1508を含むメモリゾーンにあるメモリ素子を選択する。バス1502にあるデータラインを介して噴射信号を受信した場合、そのデータは不揮発性メモリ素子1508にあるメモリ素子に記憶されるか、またはカラーダイ304の電力回路512上の電力回路ゾーンにあるFET1510または1512を付勢するために使用される。FET1510または1512の付勢は、共有の電力(Vpp)バス1514から、対応するTIJ抵抗器1516または1518へと電力をもたらす。この例においては、トレースは、TIJ抵抗器1516または1518に給電するための電力回路を含んでいる。別の共有の電力バス1520が、FET1510および1512のための接地を提供するために使用されてよい。幾つかの例では、Vppバス1514と第2の共有の電力バス1520は逆にしてよい。
【0080】
流体供給ゾーンは、流体供給孔204および流体供給孔204の間のトレースを含んでいる。カラーダイ304については、2つの液滴サイズが使用されてよく、それらは各々がノズルのそれぞれに関連する熱抵抗器によって吐出される。高重量液滴(HWD)は大きなTIJ抵抗器1516を使用して吐出されてよい。低重量液滴(LWD)は小さなTIJ抵抗器1518を使用して吐出されてよい。電気的には、HWDノズルは第1の列、例えば
図12および
図13に関して説明したように西の列にある。LWDノズルは第2の列、例えば
図12および
図13に関して説明したように東の列において電気的に結合されている。この例においては、カラーダイ304の物理的なノズルは相互嵌合式になっており、HWDノズルとLWDノズルが交互になっている。
【0081】
このレイアウトの効率は、TIJ抵抗器1516および1518の電力要求に合致するように、対応するFET1510および1512の大きさを変更することによって、さらに改善されてよい。かくしてこの例においては、対応するFET1510および1512の大きさは、給電されているTIJ抵抗器1516または1518に基づいている。より大きなTIJ抵抗器1516はより大きなFET1512によって付勢され、これに対してより小さなTIJ抵抗器1518はより小さなFET1510によって付勢される。他の例においては、FET1510および1512は同じ大きさであるが、より小さなTIJ抵抗器1518に給電するために使用されるFET1510を介して引かれる電力はより低い。
【0082】
同様の回路フロアプランが、ブラックダイ302についても使用されてよい。しかしながら、例えば本願において説明したように、TIJ抵抗器およびノズルは同じ大きさであるから、ブラックダイのためのFETは同じ大きさである。
【0083】
図16は、カラーダイ304の例の別の図である。同様の参照番号の付された要素は、
図3、
図5および
図15に関して説明したごときである。図面において看取されるように、TIJ抵抗器1516および1518は、流体供給孔204の一方の側に沿って、カラーダイ304の長手方向軸と平行なラインに位置決めされている。TIJ抵抗器1516および1518と流体供給孔204のグループ化は、微小電気機械システム(MEMS)区域1604と称されてよい。さらにこの図面において、デコード回路1506および不揮発性メモリ素子1508は共に、回路区画1602に含まれている。
図16の図面上において、FET1510および1512は、同じ大きさで示されている。しかしながら幾つかの例では、
図15に関して説明したように、より小さなTIJ抵抗器1518を付勢するFET1510は、より大きなTIJ抵抗器1516を付勢するFET1512よりも小さい。かくしてダイは、カラーダイおよびブラックダイの両方とも、ダイの大きさを最小化しながら、プリントヘッドの電力分配能力を最適化する繰り返し構造を有している。
【0084】
図17は、繰り返し構造1702を示すカラーダイ304の例の図である。同様の参照番号の付された要素は、
図5および
図16に関して説明したごときである。本願で説明するように、流体供給孔204の使用は、ロジック回路からの低電圧制御信号のルーティングを流体供給孔204の間で高電圧FETに接続することを許容する。その結果として、繰り返し構造1702は2つのFET604、2つのノズル320、そして1つの流体供給孔204を含んでいる。インチ当たり1200ドットのカラーダイ304について、これは42.33μmの繰り返しピッチをもたらす。FET604およびノズル320は流体供給孔204の片側だけにあるから、回路面積に対する要求は減少し、このことはブラックダイ302と比較して、カラーダイ304についてより小さな大きさを許容することになる。
【0085】
図18は、ダイについての全体構造を示すブラックダイ302の例の図である。同様の参照番号の付された要素は、
図2、
図3、
図6および
図16に関して説明したごときである。この例において、TIJ抵抗器1802は流体供給孔204のいずれの側にもあり、垂直方向に密接した間隔、すなわちドットピッチを維持しながらも、ノズルが同様の大きさになることを許容している。この例においては、FET604は全部が同じ大きさであってTIJ抵抗器1802を駆動する。ブラックダイ302のロジック回路510は、
図15に関して説明したカラーダイ304のロジック回路510と同じ構成でレイアウトされている。したがってトレース602はロジック回路510を、電力回路512にあるFET604に結合する。
【0086】
図19は、繰り返し構造1702を示すブラックダイ302の例の図である。同様の参照番号の付された要素は、
図5、
図6、
図16および
図17に関して説明したごときである。カラーダイ304に関して説明したように、高電圧FETに接続される低電圧制御信号は流体供給孔204の間をルーティング可能であるから、新たなカラム回路のアーキテクチャおよびレイアウトが可能となる。このレイアウトは、2つのFET604、2つのノズル320、および1つの流体供給孔204を有する繰り返し構造1702を含んでいる。これはカラーダイ304の繰り返し構造に類似している。しかしながらこの例においては、繰り返し構造1702中において、1つのノズル320は流体供給孔204の左側にあり、そして1つのノズル320は流体供給孔204の右側にある。この設計は、回路面積の低減条件を維持し小さなダイを許容するようにレイアウトを最適化しながら、高いインク液滴容積のための大きな噴射ノズルを収容している。カラーダイ304については、スロット横断ルーティングは、他の中でも特にポリシリコン層およびアルミニウム銅層を含んで、複数の金属層に予め形成されている。
【0087】
ノズル320が流体供給孔204の両側にあることから、ブラックダイ302はカラーダイ304よりも幅広である。幾つかの例では、ブラックダイ302は約400μmから約450μmである。幾つかの例では、カラーダイ304は約300μmから約350μmである。
【0088】
図20は、クラック検出のためのシステムを示すブラックダイ302の例の図である。同様の参照番号の付された要素は、
図2、
図3、
図5、
図6および
図16に関して説明したごときである。ブラックダイ302の長手方向軸と平行なラインにある流体供給孔204のアレイの導入により、ダイの脆弱性は増大する。本願で記載されるところでは、流体供給孔204はブラックダイ302またはカラーダイ304のいずれについても長手方向軸に沿ったミシン目線のように作用することができ、これらの特徴の間でクラック2002が形成されることを許容する。これらのクラック2002を検出するために、トレース2004が各々の流体供給孔204の間にルーティングされて、埋設されたクラック検出器として機能する。例においては、クラックが形成されると、トレース2004は破断する。その結果として、トレース2004の導電性はゼロに低下する。
【0089】
流体供給孔204の間のトレース2004は、脆弱な材料から作成されてよい。金属製のトレースが使用されてよいが、金属の延性は、形成されたクラックを検出することなしに、それがクラックを横断して撓むことを許容しうる。したがって幾つかの例では、流体供給孔204の間のトレース2004はポリシリコンから作成され。ブラックダイ302の全体にわたり、流体供給孔204と並んで、またそれらの間において、流体供給孔204の間のトレースがポリシリコンから作成された場合には、抵抗値はおそらく数メガオームと高くなる。幾つかの例では、全体の抵抗値を低減させてクラックの検出能を向上させるために、流体供給孔204と並んで形成され流体供給孔204の間のトレース2004を接続しているトレース2004の部分2006は、他の中でも特に、アルミニウム銅のような金属から作成される。
【0090】
図21は、隣接する流体供給孔204の間をルーティングされたトレース2004を示す、ブラックダイからの流体供給孔204の例の拡大図である。この例においては、流体供給孔204の間のトレース2004はポリシリコンから形成されており、これに対して流体供給孔204の脇のトレース2004の部分2006は金属から形成されている。
【0091】
図22は、クラック検出トレースを形成するための方法2200の例のプロセスの流れ図である。この方法はブロック2202において、基板の長手方向軸と平行なラインに幾つもの流体供給孔をエッチングすることをもって開始される。
【0092】
ブロック2204において、基板上に幾つもの層が形成されてクラック検出トレースが形成され、そこにおいてクラック検出トレースは基板上の複数の流体供給孔のそれぞれの間にルーティングされる。本願で記載されるところでは、これらの層はダイの一方の側から他方の側へと、隣接する流体供給孔の対の各々の間から次の流体供給孔の外側に沿って、次いで隣接する流体供給孔の次の対の間へと、弧を描くように形成される。例においては、これらの層は、クラック検出トレースをダイ上の他のセンサー、例えば
図2に関して説明した熱センサーによって共有されている検出バスに結合するように形成されている。検出バスはパッドに結合されており、センサー信号が外部デバイス、例えば
図2に関して説明したASICによって読み取られることを可能にする。
【0093】
本願における例は、種々の変更および代替形態とすることを受け入れる余地があってよく、例示的な目的でのみ示されている。さらにまた、本願の技術は、本願に開示された特定の例に限定されることを意図したものでないことが理解されよう。実際のところ、添付の特許請求の範囲は、開示された主題が関連する技術における当業者に明らかな、すべての代替例、変更例、および均等例を含むとみなされる。