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特許7146164セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤、それを用いた染色セルロース繊維の製造方法、およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤、それを用いた染色セルロース繊維の製造方法、およびその用途
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/08 20060101AFI20220927BHJP
   D06M 15/227 20060101ALI20220927BHJP
   D06M 15/267 20060101ALI20220927BHJP
   D06P 3/60 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
D06P5/08 A
D06M15/227
D06M15/267
D06P3/60 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019512521
(86)(22)【出願日】2018-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2018015026
(87)【国際公開番号】W WO2018190328
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2017080864
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 真知子
(72)【発明者】
【氏名】文屋 勝
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-505576(JP,A)
【文献】特開2001-020186(JP,A)
【文献】特開平10-131062(JP,A)
【文献】特開平10-168768(JP,A)
【文献】特開2008-115474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 5/08
D06M 15/227
D06M 15/267
D06P 3/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】


(ただし、Rは、それぞれ独立に水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)又は下記一般式(2)
【化2】


で表される構造を有するカチオン系高分子化合物(エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当するものを除く)(A)、並びに
下記一般式(3)
【化3】


(ただし、Rは、水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)で表される構造を有するエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)を含んでなる、第1処理液と、
下記一般式(4)
【化4】


(ただし、R は、水素原子又はメチル基であり、R は、炭素数1~3のアルキレン基であり、R 及びR は、独立して、炭素数1~3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、R は、炭素数1~3のアルキル基及びヒドロキシアルキル基並びにベンジル基よりなる群から選ばれた基であり、X はハロゲン化物イオン及び炭素数1~3のモノアルキル硫酸イオンよりなる群から選ばれたイオンであり、Yは酸素原子又はNHである)で表される構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体を含んでなる、第2処理液と、
の組み合わせであるセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤
【請求項2】
前記第1処理液における、カチオン系高分子化合物(A)(エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当するものを除く)と前記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)との固形分重量比が、0.01:1~5.50:1である、請求項1に記載のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤。
【請求項3】
エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の使用量と、アクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体の使用量との固形分重量比が、1:0.20から1:4.00の範囲内である、請求項1又は2に記載のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤。
【請求項4】
a)セルロース系繊維を染料により染色する工程、
b)該工程a)により染色されたセルロース系繊維を、下記一般式(1)
【化5】



(ただし、Rは、それぞれ独立に水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)又は下記一般式(2)
【化6】


で表される構造を有するカチオン系高分子化合物(エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当するものを除く)(A)、及び
下記一般式(3)





【化7】


(ただし、Rは、水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)で表される構造を有するエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)、を含むセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)に浸漬する工程、並びに
c)該工程b)により処理されたセルロース系繊維を、下記一般式(4)
【化8】


(ただし、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキレン基であり、R及びRは、独立して、炭素数1~3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキル基及びヒドロキシアルキル基並びにベンジル基よりなる群から選ばれた基であり、Xはハロゲン化物イオン及び炭素数1~3のモノアルキル硫酸イオンよりなる群から選ばれたイオンであり、Yは酸素原子又はNHである)で表される構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体を含んでなるセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液(イ)に浸漬する工程、
を有する、染色セルロース系繊維の製造方法。
【請求項5】
前記工程b)と前記工程c)との間に、水洗により未反応の第1処理液(ア)由来の成分を除去する工程を有する、請求項に記載の染色セルロース系繊維の製造方法。
【請求項6】
前記工程b)と前記工程c)との間に、該工程b)により処理されたセルロース系繊維を絞る工程を有する、請求項に記載の染色セルロース系繊維の製造方法。
【請求項7】
セルロース系繊維、染料、並びに下記一般式(1)
【化9】



(ただし、Rは、それぞれ独立に水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)若しくは下記一般式(2)
【化10】


で表される構造を有するカチオン系高分子化合物(エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当するものを除く)(A)、
下記一般式(3)
【化11】


(ただし、Rは、水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)で表される構造を有するエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)、及び
下記一般式(4)
【化12】


(ただし、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキレン基であり、R及びRは、独立して、炭素数1~3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキル基及びヒドロキシアルキル基並びにベンジル基よりなる群から選ばれた基であり、Xはハロゲン化物イオン及び炭素数1~3のモノアルキル硫酸イオンよりなる群から選ばれたイオンであり、Yは酸素原子又はNHである)で表される構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体、並びに/又はそれらの反応生成物を含んでなる、染色セルロース系繊維。
【請求項8】
請求項に記載の染色セルロース系繊維を含んでなる、繊維製品。
【請求項9】
衣類、家庭・インテリア用品、又は産業資材である、請求項に記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤に関し、より具体的には、反応性染料により染色された染色セルロース系繊維の後処理に用い、これにより湿潤摩擦堅牢度が改良された染色セルロース系繊維を得ることができる湿潤摩擦堅牢度向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
反応性染料はセルロース系繊維の染色に多用されている。これは色相が鮮明で、反応性染料がセルロース系繊維と共有結合により結合するため繊維から脱落しづらく、また、染色後の十分な洗浄により未固着染料を繊維上から除去することで、優れた湿潤摩擦堅牢度が得られるためであると考えられる。
しかし、工業染色条件では未固着染料の完全除去は不可能であり、染色後の堅牢度をさらに高めるために後処理として、未固着染料の除去、ソーピング剤、染料固着剤(例えば、特許文献1、2及び3参照)や湿潤摩擦堅牢度向上剤(例えば、特許文献4、及び5参照)の使用が提案されている。
【0003】
特許文献1ではカチオン性ポリマーとシリコーン化合物とを混合した染料固着剤で被染色布を処理することが開示されている。特許文献2では、ジアリルアミン-エピクロロヒドリン付加物を重合させて得られる重合体を染料固着剤として用いる方法が開示されている。特許文献3では、アルキルジアリルアミン重合物-エピクロロヒドリン4級化物でできた染料固着剤が開示されている(特許文献2で用いる重合体の、異なる合成方法を提供するものでもある。)。特許文献4では、第3級アミノ基または第4級アンモニウム基を含む湿潤堅牢度向上剤が開示されている。特許文献5では、4級アンモニウム基を有する共重合体における4級アンモニウム基の一部がアニオン性化合物と中和されてなる中和塩含有カチオン性共重合体の染色堅牢度向上剤とその製造方法が開示されている。
【0004】
上記の各特許文献に開示された薬剤をはじめとする従来の技術では一定の湿潤摩擦堅牢度の向上効果が見られているものの、特許文献1から3に記載の薬剤は湿潤摩擦堅牢度の向上を主目的として設計されたものではないためその性能には限界があり、また当業界においては、特許文献4及び5に記載の薬剤により達成できる水準を超えて湿潤摩擦堅牢度を更に良好にすることができる薬剤の開発が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-20186号公報
【文献】特開平6-108382号公報
【文献】特開平11-505576号公報
【文献】特開平10-168768号公報
【文献】特開2008-115474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来技術の限界に鑑み、本発明は、反応染料で染色されたセルロース系繊維の湿潤摩擦堅牢度を、従来技術の限界を超えて向上させることができる、湿潤摩擦堅牢度向上剤、およびそれを用いた染色セルロース繊維の製造方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するカチオン系高分子化合物と、別の特定の構造を有するエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物と、を含む湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液を用いることで、反応染料で染色されたセルロース系繊維の湿潤摩擦堅牢度を顕著に向上させることができることを見い出し、本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、
[1]
下記一般式(1)
【化1】


(ただし、Rは、それぞれ独立に水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)又は下記一般式(2)
【化2】


で表される構造を有するカチオン系高分子化合物(エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当するものを除く)(A)、並びに
下記一般式(3)
【化3】


(ただし、Rは、水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)で表される構造を有するエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)を含んでなる、セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液である。
【0008】
以下、[2]から[11]は、それぞれ本発明の好ましい態様、実施形態の一つである
[2]
前記カチオン系高分子化合物(エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当するものを除く)(A)と前記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)との固形分重量比が、0.01:1~5.50:1である、[1]に記載のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液。
[3]
下記一般式(4)
【化4】


(ただし、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキレン基であり、R及びRは、独立して、炭素数1~3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキル基及びヒドロキシアルキル基並びにベンジル基よりなる群から選ばれた基であり、Xはハロゲン化物イオン及び炭素数1~3のモノアルキル硫酸イオンよりなる群から選ばれたイオンであり、Yは酸素原子又はNHである)で表される構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体を含んでなる、セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液と組み合わせて用いることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液。
[4]
エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の使用量と、アクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体の使用量との固形分重量比が、1:0.20から1:4.00の範囲内である、[3]に記載のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液。
[5]
a)セルロース系繊維を染料により染色する工程、
b)該工程a)により染色されたセルロース系繊維を、下記一般式(1)
【化5】


(ただし、Rは、それぞれ独立に水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)又は下記一般式(2)
【化6】


で表される構造を有するカチオン系高分子化合物(エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当するものを除く)(A)、及び
下記一般式(3)

【化7】


(ただし、Rは、水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)で表される構造を有するエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)、を含むセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)に浸漬する工程、並びに
c)該工程b)により処理されたセルロース系繊維を、下記一般式(4)
【化8】


(ただし、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキレン基であり、R及びRは、独立して、炭素数1~3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキル基及びヒドロキシアルキル基並びにベンジル基よりなる群から選ばれた基であり、Xはハロゲン化物イオン及び炭素数1~3のモノアルキル硫酸イオンよりなる群から選ばれたイオンであり、Yは酸素原子又はNHである)で表される構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体を含んでなるセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液(イ)に浸漬する工程、
を有する、染色セルロース系繊維の製造方法。
[6]
前記工程b)と前記工程c)との間に、水洗により未反応の第1処理液(ア)由来の成分を除去する工程を有する、[5]に記載の染色セルロース系繊維の製造方法。
[7]
前記工程b)と前記工程c)との間に、該工程b)により処理されたセルロース系繊維を絞る工程を有する、[5]に記載の染色セルロース系繊維の製造方法。
[8]
セルロース系繊維、染料、並びに下記一般式(1)
【化9】


(ただし、Rは、それぞれ独立に水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)若しくは下記一般式(2)
【化10】


で表される構造を有するカチオン系高分子化合物(エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当するものを除く)(A)、及び
下記一般式(3)
【化11】


(ただし、Rは、水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)で表される構造を有するエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)、並びに/又はそれらの反応生成物を含んでなる、染色セルロース系繊維。
[9]
セルロース系繊維、染料、並びに下記一般式(1)
【化12】


(ただし、Rは、それぞれ独立に水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)若しくは下記一般式(2)
【化13】


で表される構造を有するカチオン系高分子化合物(エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当するものを除く)(A)、
下記一般式(3)
【化14】


(ただし、Rは、水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)で表される構造を有するエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)、及び
下記一般式(4)
【化15】


(ただし、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキレン基であり、R及びRは、独立して、炭素数1~3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキル基及びヒドロキシアルキル基並びにベンジル基よりなる群から選ばれた基であり、Xはハロゲン化物イオン及び炭素数1~3のモノアルキル硫酸イオンよりなる群から選ばれたイオンであり、Yは酸素原子又はNHである)で表される構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体、並びに/又はそれらの反応生成物を含んでなる、染色セルロース系繊維。
[10]
[8]又は[9]に記載の染色セルロース系繊維を含んでなる、繊維製品。
[11]
衣類、家庭・インテリア用品、又は産業資材である、[10]に記載の繊維製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定の構造を有するカチオン系高分子化合物と、特定の構造を有するエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物と、を含む湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液を用いることで、反応染料で染色されたセルロース系繊維の湿潤摩擦堅牢度を顕著に向上させることができる。
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液は、特定の構造を有するアクリル化合物を含んでなる、セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液と組み合わせて用いることで、特に高い湿潤摩擦堅牢度向上効果を実現することができる。
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤を用いて得られた染色繊維、繊維製品は、優れた湿潤摩擦堅牢度を有するので、摩擦を伴う水洗い等による色落ちが有効に抑制されるなどの、実用上高い価値を有する顕著な技術的効果を実現する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、下記一般式(1)
【化16】



(ただし、Rは、それぞれ独立に水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)又は下記一般式(2)
【化17】


で表される構造を有するカチオン系高分子化合物(エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当するものを除く)(A)、並びに
下記一般式(3)
【化18】


(ただし、Rは、水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す)で表される構造を有するエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)を含んでなる、セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)である。
すなわち、本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)は、特定の構造を有するカチオン系高分子化合物(A)及びエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)を含有するものであればよく、成分(A)と(B)との量比、使用する溶媒の種類及び量、それ以外の成分の有無、種類、及び量は、特に限定されない。また、本発明の湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)と組み合わせて使用されるべき湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液も、特に限定されない。
【0011】
(A)カチオン系高分子化合物
本発明で用いられるカチオン系高分子化合物(A)は、高分子骨格の少なくとも一部に次の一般式(1)又は一般式(2)で示される構造を有する。


【化19】


【化20】


式中、Rは、水素原子、又は炭素数1~3のアルキル基を示す。
【0012】
上記一般式(1)又は一般式(2)で示される構造を高分子骨格の少なくとも一部に含むカチオン系高分子化合物の具体的な構造は特に限定されないが、例としては、ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)、アリルアミン・ジアリルアミン共重合体、ジアリルアミン塩酸塩・二酸化イオウ共重合体、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド・二酸化イオウ共重合体等が挙げられる。これらのカチオン系高分子化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
上記カチオン系高分子化合物(A)は、30℃におけるB型粘度が300~1000mPa・sの範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明において用いられる、カチオン系高分子化合物(A)は、上記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を有していればよく、それ以外に特に限定されるものではない。従って、1種類のみの上記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を有していてもよいし、複数種類の互いに異なる構造の上記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を有してもよく、例えば上記一般式(1)で表される構造と、上記一般式(2)で表される構造とを、一種類ずつ有していてもよい。
複数種類の互いに異なる構造の上記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を有する場合のモル比には特に制限は無く、任意のモル比でそれぞれの構造を与える単量体を共重合させることができる。
【0015】
本発明において用いられるカチオン系高分子化合物(A)は、上記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を有していればよく、これらの構造を有する構成単位のみからなるものであってもよいが、一般式(1)又は一般式(2)で表される構造以外の構造を、更に有していてもよい。
その他の単量体は、上記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を与える単量体と共重合可能なものであればよく、それ以外の限定は特に存在しないが、上記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を与える単量体以外のカチオン性単量体、アニオン性単量体、二酸化硫黄、 (メタ)アクリルアミド系単量体等を用いることができる。
なお、後述の一般式(3)で表される構造を有することにより、エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当する場合には、一般式(1)又は一般式(2)で示される構造を有していたとしても、量比の計算等においては、カチオン系高分子化合物(A)からは除外されるものとする。
【0016】
カチオン系高分子化合物(A)における、上記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を有する構成単位の割合には特に制限はないが、湿潤摩擦堅牢度向上効果や、染料固着性能の向上などの観点から、10%~100%であることが好ましく、合成の容易さなどの観点から、30%~100%であることが好ましい。カチオン系高分子化合物(A)における、上記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を有する構成単位の割合は、より好ましくは50%~100%である。
【0017】
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)に用いられるカチオン系高分子化合物(A)は、GPC測定により得られる重量平均分子量が3,000~200,000、重合度が10~2,000、又は固有粘度[η]が0.10~1.60dl/gであることが好ましい。「又は」とあるのは、重量平均分子量、重合度、及び固有粘度の間には相互に密接な関連があるため、必ずしもこれらの物性の全てを評価する必要は無く、いずれか一つを評価すれば足る場合があるためである。
【0018】
カチオン系高分子化合物(A)の重量平均分子量には特に制限は無く、例えば1,000~500,000であるものを好ましく本発明に適用可能であるが、3,000~200,000であることが特に好ましい。重量平均分子量が3000以上であることで、染色物に十分な湿潤摩擦堅牢度を付与することが一層容易になり、重量平均分子量が200,000以下であることで、カチオン系高分子化合物(A)を含有する溶液を調整することが容易となり、染色物の処理が一層容易になる。
カチオン系高分子化合物(A)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC法)により測定することができる。
【0019】
カチオン系高分子化合物(A)の重合度にも特に制限は無く、例えば5~5,000であるものを好ましく本発明に適用可能であるが、10~2,000であることが特に好ましい。重合度が10以上であることで、染色物に十分な湿潤摩擦堅牢度を付与することが一層容易になり、重合度が2,000以下であることで、カチオン系高分子化合物(A)を含有する溶液を調整することが容易となり、染色物の処理が一層容易になる。
カチオン系高分子化合物(A)の重合度は、上記GPC法で得られた重量平均分子量から、以下の計算式で求めることできる。
重合度=重量平均分子量/ユニット分子量
ここで、ユニット分子量(ユニットM)とは、高分子における繰り返し単位1単位当たりの分子量である。高分子が共重合体である場合、すなわち当該高分子が、異なる単量体から導かれる2種以上の構成単位を有する場合には、各構成単位の分子量と割合(総計で1となる)とを乗じてからこれらを積算した加重平均を、ユニット分子量とする。
重量平均分子量をこのユニット分子量で除することで、重合度(平均的な繰り返し単位の数)を得ることができる。
【0020】
カチオン系高分子化合物(A)の固有粘度[η]にも特に制限は無く、例えば0.05~2.50dl/gであるものを好ましく本発明に適用可能であるが、0.10~1.60dl/gであることが特に好ましい。固有粘度[η]が0.10dl/g以上であることで、染色物に十分な湿潤摩擦堅牢度を付与することが一層容易となり、固有粘度[η]が1.60dl/g以下であることで、カチオン系高分子化合物(A)を含有する溶液を調整することが容易となり、染色物の処理が一層容易になる。
カチオン系高分子化合物(A)の固有粘度[η]は、例えばウベローデ粘度計等の毛細管粘度計により測定することができる。
【0021】
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)を構成するカチオン系高分子化合物(A)の製造方法には特に制限はないが、以下に述べる方法で製造することが好ましい。
まず上記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を与える単量体、及び必要に応じて他の単量体を水、エチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の溶媒、分散媒に混合する。
カチオン系高分子化合物(A)における各単量体から導かれる構成単位の割合(モル比)は、各単量体の仕込み組成(モル比)とほぼ一致する。従って、上記工程で溶媒、分散媒に混合する各単量体の割合(モル比)は、所望の組成に略一致するものであることが望ましい。
【0022】
カチオン系高分子化合物(A)製造の上記工程における、溶媒、分散媒、重合時の水中における単量体濃度は単量体や溶媒、分散媒の種類によって異なるが、通常5~95質量%であり、10~70質量%が好ましい。
【0023】
次に、単量体成分の間で重合反応を進行させる。この重合反応は、通常、ラジカル重合反応であり、ラジカル重合触媒の存在下に行なわれる。ラジカル重合触媒の種類は特に限定されるものでなく、その好ましい例として、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの過酸化物、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩、アゾビス系、ジアゾ系などの水溶性アゾ化合物が挙げられる。
【0024】
ラジカル重合触媒の添加量は、一般的には全モノマーに対して0.1~20モル%、好ましくは1.0~10モル%である。重合温度は一般的には0~100℃、好ましくは5~80℃であり、重合時間は一般的には20~150時間、好ましくは30~100時間である。重合雰囲気は、大気中でも重合性に大きな問題を生じないが、窒素などの不活性ガスの雰囲気で行なうこともできる。
【0025】
重合反応の結果得られた重合体に、必要に応じて分離、洗浄処理を行い、該重合体をカチオン系高分子化合物(A)として回収する。この際、溶液または分散液としてカチオン系高分子化合物(A)を得ることが好ましい。カチオン系高分子化合物(A)を溶液または分散液として得ることで、従来重合後に必要であった煩雑な粉砕や溶解作業をすることなく、比較的容易に所望のカチオン系高分子化合物(A)を回収することができる。
【0026】
(B)エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物
本発明で用いられるエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)は、高分子骨格の少なくとも一部に次の一般式(3)で示される構造を有する。
【化21】


ただし、Rは、水素原子、又は水酸基を有しても良い炭素数1~3のアルキル基を示す
【0027】
エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の製造方法には特に制限は無いが、例えばジアリルアミン系化合物とエピクロロヒドリンとを反応させ、これにより得られた反応物を重合することにより製造することができる。
その場合にエピクロロヒドリンはジアリルアミン系化合物の単量体1モルに対して0.5~1.5モル、特に1~1.3モル使用されることが好ましい。ジアリルアミンとエピクロロヒドリンの反応に際して、20~60℃の温度範囲において反応させることが好ましく、特に25~35℃の温度範囲が好ましい。
ジアリルアミン系化合物とエピクロロヒドリンとの反応物の塩の重合は通常の水溶液系ラジカル重合法を用いることができる。たとえば、ジアリルアミン系化合物とエピクロルヒドリンの反応物の塩を、水等の水性溶媒中、60~90℃の反応温度で、重合開始剤、たとえば、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、t-ブチルヒドロパーオキサイド、アゾビスブチロニトリル、アゾビス(2-アミノジプロパン)塩酸塩等の存在下に重合させることができる。このようにして得られる(B)エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物の分子量は通常3000~50万程度とされるが、本発明の湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)において用いるには、1万~10万程度の分子量のものが特に好適である。
【0028】
エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)は共重合体であってもよく、その場合における共重合可能な他のモノマー単位としては、代表的には、アリル系モノマーおよびアクリル系モノマー単位を例示できる。アリル系モノマー単位およびアクリル系モノマー単位としては、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルアミン、ジアリルアミンの有機酸もしくは無機酸塩、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸またはメタクリル酸のアルカリ金属もしくはアンモニウム塩、アクリル酸もしくはメタクリル酸の低級アルキルエステル、第3級もしくは第4級アミノ置換低級アルキルエステル、第3級もしくは第4級アミノおよびヒドロキシ置換低級アルキルエステル等を例示することができる。これらのモノマー単位中、最も好ましいのはジアリルジメチルアンモニウムクロライドである。これら共重合体の製造条件は、上記ジアリルアミン系化合物とエピクロルヒドリンの反応物の塩の重合体のそれに準じればよく、共重合体中のジアリルアミン系化合物とエピクロロヒドリンの反応物の塩の割合には特に限定はないが、5モル%以上あることが好ましい。
【0029】
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)に用いられるエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)は、GPC測定により得られる重量平均分子量が1000~500000、重合度が10~3000、又は固有粘度[η]が0.01~3.00dl/gであることが好ましい。「又は」とあるのは、重量平均分子量、重合度、及び固有粘度の間には相互に密接な関連があるため、必ずしもこれらの物性の全てを評価する必要は無く、いずれか一つを評価すれば足る場合があるためである。
【0030】
エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の重量平均分子量には特に制限は無く、例えば1000~500000であるものを好ましく本発明に適用可能であるが、3000~200000であることが特に好ましい。重量平均分子量が3000以上であることで、染色物に十分な湿潤摩擦堅牢度を付与することが一層容易になり、重量平均分子量が200000以下であることで、エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)を含有する溶液を調整することが容易となり、染色物の処理が一層容易になる。
エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC法)により測定することができる。
【0031】
エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の重合度にも特に制限は無く、例えば10~3000であるものを好ましく本発明に適用可能であるが、20~2000であることが特に好ましい。重合度が20以上であることで、染色物に十分な湿潤摩擦堅牢度を付与することが一層容易になり、重合度が2000以下であることで、エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)を含有する溶液を調整することが容易となり、染色物の処理が一層容易になる。
【0032】
エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の固有粘度[η]にも特に制限は無く、例えば0.05~2.50dl/gであるものを好ましく本発明に適用可能であるが、0.10~1.60dl/gであることが特に好ましい。固有粘度[η]が0.10dl/g以上であることで、染色物に十分な湿潤摩擦堅牢度を付与することが一層容易となり、固有粘度[η]が1.60dl/g以下であることで、エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)を含有する溶液を調整することが容易となり、染色物の処理が一層容易になる。
エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)は、例えばウベローデ粘度計等の毛細管粘度計により測定することができる。
【0033】
湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)は、以上詳説した特定の構造を有するカチオン系高分子化合物(A)及びエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)を含んでなるものである。
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)は、その全部が上記カチオン系高分子化合物(A)及びエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)で構成されていてもよいし、その一部のみが上記化合物(A)及び(B)で構成されていてもよい。
【0034】
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)における、カチオン系高分子化合物(エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)に該当するものを除く)(A)と、エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)との量比には特に限定は無いが、その固形分重量比が、0.01:1~5.50:1である、ことが好ましい。
カチオン系高分子化合物(A)と、エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)との量比が、固形分重量比で0.01:1~5.50:1であると、十分な湿潤摩擦堅牢度向上の効果が期待できるため好ましい。
カチオン系高分子化合物(A)と、エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)との量比は、より好ましくは、固形分重量比で0.05:1~5.00:1であり、特に好ましくは、固形分重量比で0.10:1~4.50:1である。
【0035】
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)の一部のみがカチオン系高分子化合物(A)と、エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)とで構成されている場合の、他の成分には特に限定はないが、例えば、溶媒、バインダー、形態安定処理剤、防臭剤、吸着剤、界面活性剤、柔軟剤、溶剤、染料、保湿剤、抗菌剤、香料等を、本発明の効果を損なわない範囲において使用してもよい。湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)による処理を効果的に行う観点からは、溶媒を使用することが好ましい。
【0036】
湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)に用いることができる溶媒は、安全性、染料との親和性等の観点から水が最も望ましいが、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤等を使用することも可能であるし、水とアルコールの混合液等のように2種以上を混合して溶媒として使用することもできる。
溶媒を含有する湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)中のカチオン系高分子化合物(A)と、エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の濃度には特に限定は無いが、十分な湿潤摩擦堅牢度を得る等の観点からは、0.1重量%以上が好ましく、未反応物の繊維上への残留を抑制する観点からは、30重量%以下であることが好ましい。溶媒中の高分子化合物(A)及び(B)の濃度は、1~20重量%であることがより好ましく、3~10重量%であることが特に好ましい。
【0037】
湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液(イ)
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)と組み合わせて用いる、セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液には特に制限はなく、従来公知のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤を、適宜第2処理液として使用することが可能であるが、下記一般式(4)
【化22】


(ただし、Rは、水素原子又はメチル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキレン基であり、R及びRは、独立して、炭素数1~3のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、Rは、炭素数1~3のアルキル基及びヒドロキシアルキル基並びにベンジル基よりなる群から選ばれた基であり、Xはハロゲン化物イオン及び炭素数1~3のモノアルキル硫酸イオンよりなる群から選ばれたイオンであり、Yは酸素原子又は窒素原子(NH)である。)で表される構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体を含んでなるセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液(イ)と組み合わせて用いることが特に好ましい。
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)を、上記特定の構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体を含んでなるセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液(イ)と組み合わせて使用することで、特に高い湿潤摩擦堅牢度の向上効果を実現することが可能である。
上記一般式(4)中のXがハロゲン化物イオンである場合、その好ましい例としてCl、Br及びI等を挙げることができるが、これらには限定されない。また、Xがモノアルキル硫酸イオンである場合、そのアルキル基は、直鎖状であってよいし、分岐状であってもよく、当該モノアルキル硫酸イオンの好ましい例として、メチル硫酸イオン(CHOSO )、エチル硫酸イオン(CHCHOSO )等が挙げることができるが、これらには限定されない。
【0038】
上記特定の構造を有するアクリル化合物(C)において、R、R及びRのいずれかが、アルキル基又はヒドロキシアルキル基である場合、直鎖状であってよいし、分岐状であってもよい。
上記一般式(4)で表される構造を有する化合物としては、例えば、2-アクリロイロキシメチルトリメチルアンモニウム塩、2-アクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウム塩、2-アクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩、2-アクリロイロキシメチルトリエチルアンモニウム塩、2-アクリロイロキシエチルトリエチルアンモニウム塩、2-アクリロイロキシプロピルトリエチルアンモニウム塩等のアクリロイロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩;2-メタクリロイロキシメチルトリメチルアンモニウム塩、2-メタクリロイロキシエチルトリメチルアンモニウム塩、2-メタクリロイロキシプロピルトリメチルアンモニウム塩、2-メタクリロイロキシメチルトリエチルアンモニウム塩、2-メタクリロイロキシエチルトリエチルアンモニウム塩、2-メタクリロイロキシプロピルトリエチルアンモニウム塩等のメタクリロイロキシアルキルトリアルキルアンモニウム塩、(2-アクリルアミドエチル)トリメチルアンモニウム塩、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム塩、(2-アクリルアミドエチル)トリエチルアンモニウム塩、(3-アクリルアミドプロピル)トリエチルアンモニウム塩、(2-メタクリルアミドエチル)トリメチルアンモニウム塩、(3-メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウム塩、(2-メタクリルアミドエチル)トリエチルアンモニウム塩、(3-メタクリルアミドプロピル)トリエチルアンモニウム塩等を挙げることができる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
本発明において好ましく用いられるセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液(イ)を構成する高分子をもたらす単量体であるアクリル化合物(C)は、上記一般式(4)で表される構造を有していればよく、それ以外の限定は存在しない。アクリル化合物(C)を単独で重合し、或いはアクリル化合物(C)と、共重合可能な単量体とを共重合することで、使い勝手の良いエマルジョンを形成し易いことなどの観点から好適である、高分子を得ることができる。
特に、上記一般式(4)で表される構造を有するアクリル化合物(C)と、他の単量体との共重合体であることが好ましい。
この場合において、当該共重合体を構成する、上記一般式(4)で表される構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位の含有量は、全構成単位の合計100質量%に対して1~30質量%であることが好ましく、より好ましくは3~25質量%、特に好ましくは5~20質量%である。上記一般式(4)で表される構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位の含有量が上記範囲であれば、湿潤摩擦堅牢度の改良効果に優れる。
【0040】
上記共重合体を構成する他の構成単位には特に限定はないが、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸アルコキシエステル、メタクリル酸アルコキシエステル、ヒドロキシル基含有アクリル酸エステル、ヒドロキシル基含有メタクリル酸エステル、エポキシ基含有アクリル酸エステル、エポキシ基含有メタクリル酸エステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、芳香族ビニル化合物及び酢酸ビニルから選ばれた少なくとも1種の化合物を、他の単量体として用いることができる。これらの化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
上記重合体を構成する他の構成単位としては、ヒドロキシル基含有アクリル酸エステル及び/又はヒドロキシル基含有メタクリル酸エステルから導かれる構成単位を含むことが好ましく、その合計含有量は、全構成単位の合計100質量%に対して、好ましくは20~40質量%である。この範囲とすることにより、得られた染色セルロース系繊維は、乾湿潤摩擦堅牢度に優れる。
【0042】
上記一般式(4)で表される構造を有するアクリル化合物(C)は、上記一般式(4)における4級アンモニウム基の一部が、アニオン性化合物のアニオン部と中和されていてもよい。
【0043】
上記一般式(4)で表される構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体の重量平均分子量は、好ましくは10万以下、より好ましくは20,000~90,000、更に好ましくは30,000~80,000である。尚、この重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0044】
上記一般式(4)で表される構造を有するアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体の使用量には特に限定は無いが、高い湿潤摩擦堅牢度向上効果を得る、基布本来の風合いを損なわない、などの観点からは、エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の使用量と、アクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体の使用量との固形分重量比が、1:0.20から1:4.00の範囲内となる量で使用することが、好ましい。
エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の使用量と、アクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体の使用量との固形分重量比は、1:0.25から1:3.00の範囲内であることがより好ましく、1:0.30から1:2.50の範囲内であることが特に好ましい。
【0045】
染色セルロース系繊維の製造方法
本発明の好ましい一実施形態である染色セルロース系繊維の製造方法は、
a)セルロース系繊維を染料により染色する工程、
b)該工程a)により染色されたセルロース系繊維を、上記カチオン系高分子化合物(A)、及び上記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)、を含むセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)に浸漬する工程、並びに
c)該工程b)により処理されたセルロース系繊維を、上記アクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体を含んでなるセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液(イ)に浸漬する工程、を有する。
【0046】
本実施形態における、セルロース系繊維を染料により染色する工程a)は、従来より当業界において公知の方法により実施することができる。
セルロース系繊維には特に限定は無く、糸状、ヒモ状、縄状の繊維であってよく、それらが布状に構成されたものであってもよい。好ましいセルロース系繊維の具体例として、木綿、麻等の天然セルロース繊維およびビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン等の再生セルロース繊維を例示することができる。染色される繊維材料としては、上記天然セルロース繊維および/または再生セルロース繊維が含まれていれば、これら以外の繊維が含まれていても構わない。例えば、合成繊維や、セルロース以外の天然繊維との混紡繊維も、本実施形態の方法において、好適に使用することができる。
【0047】
本実施形態における、セルロース系繊維を染料により染色する工程a)において用いられる染料には特に限定は無く、セルロース系繊維の染色において従来より使用されている染料を適宜使用することができる。湿潤摩擦堅牢度向上剤のカチオン性構成単位との塩形成によりポリイオンコンプレックスを生成して湿潤堅牢度を向上させる観点からは、アニオン性の染料であることが好ましく、反応染料であることが好ましい。
【0048】
反応染料は、繊維中の官能基と化学反応して共有結合により染着する染料である。反応染料は、好ましくは、D:色素母体、T:連結基、及びX:反応基が、例えば、D-T-Xで表される構造で結合したものであり、反応基とセルロース繊維との間で反応を生ずることにより染着する。
好ましい反応基の例としては、スルファトエチルスルフォン(ビニルスルフォン)、モノクロロトリアジン、ピリミジン等を挙げることができるが、これらには限定されない。
好ましい色素母体の例としては、ピラゾロンアゾ系の構造を有するもの、γ酸アゾ系の構造を有するもの、H酸アゾ系の構造を有するもの、アントラキノン系の構造を有するもの、H酸ジスアゾ系の構造を有するもの等を挙げることができるが、これらには限定されない。
【0049】
セルロース系繊維を染料により染色する工程a)は、従来から当業界において公知の方法により実施することができる。例えば、当業界において公知の標準的な染色装置を用いて実施することが可能であり、例えば、チーズ染色機、ジッガー染色機、ウィンス染色機、液流染色機、パドル染色機等を用いることができる。
【0050】
本実施形態における、工程a)により染色されたセルロース系繊維を、上記カチオン系高分子化合物(A)、及び上記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)、を含むセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)浸漬する工程b)も、従来から当業界において公知の染料固着剤や湿潤摩擦堅牢度向上剤を使用する方法により実施することができる。
工程b)において用いる、本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)の成分等は、上記にて詳説したとおりである。
工程b)において用いる、セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)におけるカチオン系高分子化合物(A)、及び上記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)、の濃度には特に制限は無いが、カチオン系高分子化合物(A)の濃度は固形分重量で0.1~10g/Lが好ましく、0.5~8g/Lが特に好ましい。エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の濃度は固形分重量で0.1~20g/Lが好ましく、1~15g/Lが特に好ましい。また、基布本来の風合いを損なわずに処理できる観点から、カチオン系高分子化合物(A)とエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の濃度の合計が固形分重量で30g/L以下が好ましく、15g/L以下が特に好ましい。
工程b)を実施する、温度、時間には特に制限は無いが、0~100℃、より好ましくは10~50℃で、0~2時間、より好ましくは、0~1時間浸漬することが好ましい。
工程b)においては、攪拌を行ってもよく、攪拌を行わなくてもよい。
【0051】
本実施形態における、工程b)により処理されたセルロース系繊維を、上記アクリル化合物(C)を含んでなるセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液(イ)に浸漬する工程c)も、従来から当業界において公知の湿潤摩擦堅牢度向上剤を使用する方法により実施することができる。
工程c)において用いる、アクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体を含んでなるセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液(イ)の成分等は、上記にて詳説したとおりである。
工程c)において用いる、セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液(イ)におけるアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体の濃度には特に制限は無いが、固形分重量で0.1~16g/Lが好ましく、1~9g/Lが特に好ましい。
工程c)を実施する、温度、時間には特に制限は無いが、0~100℃、より好ましくは10~50℃で、0~2時間、より好ましくは、0~1時間浸漬することが好ましい。
工程b)においては、攪拌を行ってもよく、攪拌を行わなくてもよい。
【0052】
上記実施形態においては、前記工程b)と前記工程c)との間に、水洗により未反応の第1処理液(ア)由来の成分を除去する工程を、更に有することが好ましい。未反応の第1処理液(ア)由来の成分を除去することで、工程c)をより効果的に実施することが可能となり、染色されたセルロース系繊維の湿潤摩擦堅牢度を更に向上することができる。また、水洗により固着されなかった染料も除去されるので、色落ちを効果的に防止することができる。この様に、前記工程b)と前記工程c)との間に、水洗により未反応の第1処理液(ア)由来の成分を除去する工程を有する染色セルロース系繊維の製造方法は、当業界で「浸漬法」と呼ばれる方法に相当するものである。
【0053】
浸漬法の代表的な工程として、例えば、以下に挙げる工程をこの順番で実施することができる。
1.約40℃に加温した第1処理液(ア)に染色セルロース系繊維を約20分間浸漬する。
2.浸漬後の染色セルロース系繊維を、水洗し、脱水する。
3.脱水後の染色セルロース系繊維を、約100℃で乾燥する。
4.約40℃に加温した第2処理液(イ)に約20分間浸漬する。
5.浸漬後の染色セルロース系繊維を脱水する。
6.脱水後の染色セルロース系繊維を約100℃で乾燥する。
浸漬法では、加温した第1処理液(ア)に染色セルロース繊維を長時間浸漬させることで、繊維組織内へ処理液を均等に浸透させ、その後に水洗を行うことで余剰の処理液を除去することができる。後に水洗により未反応の第1処理液(ア)を除去するため、その後の脱水は簡単なもの、例えば市販の脱水機での脱水と同程度のもので十分である。
【0054】
上記実施形態においては、また、前記工程b)と前記工程c)との間に、該工程b)により処理された染色セルロース系繊維を絞る工程、を更に有することが好ましい。工程b)により処理された染色セルロース系繊維を絞ることで、染色セルロース繊維の繊維組織内に処理液(ア)を均等に浸透させる一方、余剰の処理液(ア)を除去することができるので、上記実施形態の製造方法を効率よく実施することができる。この様に、前記工程b)と前記工程c)との間に、染色セルロース系繊維を絞る工程を有する染色セルロース系繊維の製造方法は、当業界で「連続法」と呼ばれる方法に相当するものである。
【0055】
連続法の代表的な工程として、例えば、以下に挙げる工程をこの順番で実施することができる。
1.第1処理液(ア)に染色セルロース系繊維を浸漬する。
2.マングル(絞り機)で、浸漬後の染色セルロース系繊維を、絞り率約80%で絞る。
3.絞り後の染色セルロース系繊維を、約100℃で乾燥する。
4.乾燥後の染色セルロース系繊維を、水洗する。
5.水洗後の染色セルロース系繊維を脱水する。
6.脱水後の染色セルロース系繊維を第2処理液(イ)に浸漬する。
7.マングル(絞り機)で、浸漬後の染色セルロース系繊維を、絞り率約80%で絞る。
8.絞り後の染色セルロース系繊維を、約100℃で乾燥する。
連続法では、繊維組織内への処理液の浸透を絞りで行うのに対して、浸漬法では加熱した薬液に繊維を長時間浸漬させることで行うので、この違いに応じて、脱水工程が異なるものとなる。
【0056】
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液(ア)を用いて、染色されたセルロース繊維を処理することで、高い湿潤摩擦堅牢度を有する染色セルロース系繊維を製造することができる。
当該染色セルロース系繊維は、セルロース系繊維、染料、並びに上記カチオン系高分子化合物(A)、及び上記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)
並びに/又はそれらの反応生成物を含有するものであり、それ以外の成分を含んでいてもよく、含んでいなくともよい。ここで、「それらの反応生成物」とは、上記カチオン系高分子化合物(A)由来の反応生成物、上記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)由来の反応生成物、並びに上記カチオン系高分子化合物(A)及び上記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)由来の反応生成物の少なくとも一種であり、上記カチオン系高分子化合物(A)及び上記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)以外の反応成分をも伴うものであってもよい。
当該染色セルロース系繊維は、セルロース系繊維、染料、並びに上記カチオン系高分子化合物(A)、上記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)、及び上記アクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体並びに/又はそれらの反応生成物を含有するものであることが特に好ましい。ここで、「それらの反応生成物」とは、上記カチオン系高分子化合物(A)由来の反応生成物、上記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)由来の反応生成物、上記アクリル化合物(C)由来の反応生成物、並びに上記(A)、(B)及び(C)の任意の組み合わせ由来の反応生成物の少なくとも一種であり、上記カチオン系高分子化合物(A)、上記エピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)及び上記アクリル化合物(C)以外の反応成分をも伴うものであってもよい。
【0057】
本実施形態の染色セルロース系繊維を用いて、最終製品又は中間製品である繊維製品を製造することができる。
本実施形態の繊維製品は、湿潤摩擦堅牢性に優れ、更にセルロース繊維特有の優れた諸特性と、染料による所望の色調を有するので、衣類、家庭・インテリア用品、産業資材を初めとする、各種用途において好適に使用することができる。
【実施例
【0058】
以下、実施例を参照しながら、本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、いかなる意味においても、これらの実施例により限定されるものではない。
【0059】
以下、実施例/比較例においては、諸特性の評価は、以下の方法で行った。
・湿潤摩擦堅牢度:湿潤摩擦堅牢度試験はJIS L 0849に準拠して行い、JIS L 0805に基づいて評価した。
・処理時性状:第2処理液での処理時の性状を、以下の基準に従って評価した。
A:第2処理液での処理時にスカムの発生なし。
B:第2処理液での処理時にスカムが発生。
・風合い:処理後の布の性状を、以下の基準に従って評価した。
A:未処理の布と風合い変化なし
B:未処理の布に対しハリ・コシが増す
C:硬く、ごわつきがある
【0060】
(湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液の調製)
表1に示したカチオン系高分子化合物(A)とエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)を、後述の手順で溶媒(水)に所定量添加し混合したものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液とした。使用したカチオン系高分子化合物(A)及びエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)の詳細は以下のとおりである。
・DANFIX-SC-8(アリルアミン塩酸塩/ジアリルアミン塩酸塩共重合体とポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドの混合物)
・DANFIX-T8-Conc.(アリルアミン塩酸塩/ジアリルアミン塩酸塩共重合体とポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドの混合物)
・DANFIX-KXV(アリルアミン塩酸塩/ジアリルアミン塩酸塩共重合体とポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドの混合物)
・DANFIX-707(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド)
・DANFIX-505RE(アリルアミン塩酸塩/ジアリルアミン塩酸塩共重合体)
・PAS-880(エピクロロヒドリン付加型3級アミン塩酸塩/4級アンモニウム塩共重合体)
・DANFIX-MM11(カチオン性アクリル系共重合体)
【0061】
(実施例1)
100mLのビーカーにDANFIX-SC-8を固形分濃度で0.3g、PAS-880を固形分濃度で0.35gとり、100gになるよう水を添加し、混合したものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液とした。また、100mLのビーカーにDANFIX-MM11を固形分濃度で0.45gとり、100gになるよう水を添加し、混合したものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液とした。
Remazol Black DEN (ダイスター社製、反応染料)を濃度10%o.w.f.で溶解した染色液を用い、浸漬法にて染色した綿製の布(綿ニット100%)を用意した。この染色された布を湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液に室温で1分間ほど浸し、80%の絞り率で絞った。100℃の乾燥機にて10分間乾燥させた後、水洗、乾燥を行った。その後、湿潤堅牢度向上剤の第2処理液に1分間浸し、80%の絞り率で絞り、100℃の乾燥機にて10分間乾燥を行った。
なお本実施例では、湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液に浸漬する工程と湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液に浸漬する工程との間で、該第1処理液により処理されたセルロース系繊維を絞っているので、本実施例はいわゆる連続法に相当する例である。
湿潤摩擦堅牢度の評価結果を、表1に示す。
【0062】
(実施例2)
湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液として、DANFIX-SC-8に代えてDANFIX-T8-Conc.を使用し。その使用量を固形分濃度で8.0g/Lとした以外は実施例1と同様にして、染色されたセルロース系繊維の処理、及びその湿潤摩擦堅牢度の評価を行った。
結果を、表1に示す。
(実施例3)
湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液として、DANFIX-SC-8に代えてDANFIX-KXVを使用し。その使用量を固形分濃度で5.7g/Lとした以外は実施例1と同様にして、染色されたセルロース系繊維の処理、及びその湿潤摩擦堅牢度の評価を行った。
結果を、表1に示す。
(実施例4)
湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液として、DANFIX-SC-8に代えてDANFIX-707を使用し。その使用量を固形分濃度で4.0g/Lとした以外は実施例1と同様にして、染色されたセルロース系繊維の処理、及びその湿潤摩擦堅牢度の評価を行った。
結果を、表1に示す。
(実施例5)
湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液として、DANFIX-SC-8に代えてDANFIX-505REを使用し。その使用量を固形分濃度で4.0g/Lとしたに変更した以外は実施例1と同様にして、染色されたセルロース系繊維の処理、及びその湿潤摩擦堅牢度の評価を行った。
結果を、表1に示す。
【0063】
(実施例6)
湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液を30%owf、浴比1:20になるよう調製し、また、湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液を10%owf、浴比1:20になるよう調製し、40℃に加温した。反応染料により染色されたセルロース繊維を湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液に20分間浸漬した後、30秒間水洗、脱水して100℃で10分間乾燥した。その後、40℃に加温した湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液に20分間浸漬した後、脱水して100℃で10分間乾燥した。
なお本実施例では、湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液に浸漬する工程と湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液に浸漬する工程との間で、該第1処理液により処理されたセルロース系繊維を水洗して未反応の第1処理液由来の成分を除去しているので、本実施例はいわゆる浸漬法に相当する例である。
結果を、表1に示す。
【0064】
(比較例1)
湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液において、固形分濃度で4.0g/LDANFIX-SC-8のみを使用した以外は、実施例1と同様にして、染色されたセルロース系繊維の処理、及びその湿潤摩擦堅牢度の評価を行った。
結果を、表1に示す。
【0065】
(比較例2)
100mLのビーカーにPAS-880を0.7gとり、100gになるよう水を添加し、混合したものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液とした。なお、湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液は、使用しなかった。反応染料により染色されたセルロース繊維を湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液に室温で1分間ほど浸し、80%の絞り率で絞った後、100℃の乾燥機にて10分間乾燥させた。
なお、湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液は、使用しなかった。
湿潤摩擦堅牢度の評価を、表1に示す。
【0066】
(比較例3)
100mLのビーカーにDANFIX-MM11を0.45gとり、100gになるよう水を添加し、混合したものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液とした。なお、湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液は、使用しなかった。反応染料により染色されたセルロース繊維を処理液に1分間浸し、80%の絞り率で絞った後、100℃の乾燥機にて10分間乾燥を行った。
湿潤摩擦堅牢度の評価を、表1に示す。
【0067】
対照用として、湿潤摩擦堅牢度向上剤による処理を行っていない染色されたセルロース系繊維の湿潤摩擦堅牢度の評価結果を、表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
カチオン系高分子化合物(A)及びエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)を含んでなる、セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液を用いた実施例1から5では、それ以外の湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液を用いたり、或いは湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液を用いなかった、比較例1から3及び対照のものよりも湿潤摩擦堅牢度が1~2級向上した。
【0070】
カチオン系高分子化合物(A)とエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)との混合比率の検討
(実施例1-1から1-18)
実施例1と同様にして、100mLのビーカーにDANFIX-SC-8とPAS-880をとり、100gになるよう水を添加し、混合し、それぞれ表2に示す固形分濃度となるようにしたものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液とした。また、100mLのビーカーにDANFIX-MM11を固形分濃度で4.5g/Lとなるようとり、100gになるよう水を添加し、混合したものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液とした。
反応染料により染色されたセルロース繊維を湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液に室温で1分間ほど浸し、80%の絞り率で絞った。100℃の乾燥機にて10分間乾燥させた後、水洗、乾燥を行った。その後、湿潤堅牢度向上剤の第2処理液に1分間浸し、80%の絞り率で絞り、100℃の乾燥機にて10分間乾燥を行った。
湿潤摩擦堅牢度、処理時の性状および風合いの評価を、表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
カチオン系高分子化合物(A)とエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)との混合比率の検討
(実施例2-1から2-9)
実施例2と同様にして、100mLのビーカーにDANFIX-T8-conc.とPAS-880をとり、100gになるよう水を添加し、混合し、それぞれ表3に示す固形分濃度となるようにしたものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液とした。また、100mLのビーカーにDANFIX-MM11を固形分濃度で4.5g/Lとなるようとり、100gになるよう水を添加し、混合したものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液とした。
反応染料により染色されたセルロース繊維を湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液に室温で1分間ほど浸し、80%の絞り率で絞った。100℃の乾燥機にて10分間乾燥させた後、水洗、乾燥を行った。その後、湿潤堅牢度向上剤の第2処理液に1分間浸し、80%の絞り率で絞り、100℃の乾燥機にて10分間乾燥を行った。
湿潤摩擦堅牢度の評価を、表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
カチオン系高分子化合物(A)とエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)との混合比率の検討
(実施例3-1から3-9)
実施例3と同様にして、100mLのビーカーにDANFIX-KXVとPAS-880をとり、100gになるよう水を添加し、混合し、それぞれ表4に示す固形分濃度となるようにしたものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液とした。また、100mLのビーカーにDANFIX-MM11を固形分濃度で4.5g/Lとなるようとり、100gになるよう水を添加し、混合したものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液とした。
反応染料により染色されたセルロース繊維を湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液に室温で1分間ほど浸し、80%の絞り率で絞った。100℃の乾燥機にて10分間乾燥させた後、水洗、乾燥を行った。その後、湿潤堅牢度向上剤の第2処理液に1分間浸し、80%の絞り率で絞り、100℃の乾燥機にて10分間乾燥を行った。
湿潤摩擦堅牢度の評価を、表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液におけるアクリル化合物(C)から導かれる構成単位を有する重合体の濃度の検討
(実施例4-1から4-6)
実施例4と同様にして、100mLのビーカーにDANFIX-SC-8とPAS-880をとり、100gになるよう水を添加し、混合し、それぞれ表5に示す固形分濃度となるようにしたものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液とした。また、100mLのビーカーにDANFIX-MM11を表5に示す固形分濃度となるようとり、100gになるよう水を添加し、混合したものを湿潤摩擦堅牢度向上剤の第2処理液とした。
反応染料により染色されたセルロース繊維を湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液に室温で1分間ほど浸し、80%の絞り率で絞った。100℃の乾燥機にて10分間乾燥させた後、水洗、乾燥を行った。その後、湿潤堅牢度向上剤の第2処理液に1分間浸し、80%の絞り率で絞り、100℃の乾燥機にて10分間乾燥を行った。
湿潤摩擦堅牢度、処理時の性状および風合いの評価を、表5に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
本発明に従い、所定の構造を有するカチオン系高分子化合物(A)と所定の構造を有するエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)とを含んでなる、セルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤の第1処理液を用いることで、広い範囲のカチオン系高分子化合物(A)とエピクロロヒドリン付加型カチオン系高分子化合物(B)との混合比率にわたって、優れた潤摩擦堅牢度向上効果が実現できることがわかった。また、特定の範囲の混合比率において、特に優れた湿潤摩擦堅牢度向上効果、処理時の性状および/または風合いが実現できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のセルロース系繊維用湿潤摩擦堅牢度向上剤、及びそれを用いた染色セルロース繊維の製造方法は、染色物に優れた湿潤摩擦堅牢度を付与できるので、摩擦を伴う水洗い等による色落ちが有効に抑制される繊維製品を製造することが可能であり、産業の各分野、特に繊維産業、服飾産業、衛生用品産業等で、高い利用可能性を有する。