(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】金の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20220927BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20220927BHJP
C22B 3/26 20060101ALI20220927BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B7/00 H
C22B3/26
C22B3/44
(21)【出願番号】P 2019028873
(22)【出願日】2019-02-20
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮介
(72)【発明者】
【氏名】鍋井 淳宏
(72)【発明者】
【氏名】ミルワリエフ・リナート
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/58089(WO,A1)
【文献】特開2005-273009(JP,A)
【文献】特開2015-131989(JP,A)
【文献】特開2001-207223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 11/00
C22B 7/00
C22B 3/26
C22B 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒を用いて抽出した金イオンを含む溶液に還元剤を加えて金を還元析出させる金の回収方法において、水酸化ナトリウムとシュウ酸の混合溶液を還元剤として用い、該混合溶液の水酸化ナトリウムとシュウ酸のモル比(NaOH/シュウ酸モル比)が2.1~2.5であって、還元時のpHが10~13であることを特徴とする金の回収方法。
【請求項2】
金の還元率が96%以上であって、還元金に含まれるパラジウムが6ppm未満およびスズが20ppm以下である請求項1に記載する金の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒抽出された金を還元して回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金は工業的には非鉄金属の副産物や廃電子基板などから回収されている。例えば、非鉄金属の副産物として、銅電解精製工程において電解槽内に沈積する銅電解スライムは、銅と共に金、銀、白金族元素などの様々な貴金属を含んでおり、金や白金族元素などの回収の原料として利用されている。これらの銅電解スライムなどから得られる処理滓から金を還元して回収する方法が従来から知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平11-335749号公報)には、銅電解スライム等から得られる金と白金族元素を含む処理滓に、シュウ酸を加えて金の浸出を抑制しつつ、塩酸を加えて白金族元素を浸出させて分離し、この溶解滓を塩素化溶解して金を浸出させ、この金浸出液のpHを約0.5~約2に調整して還元剤を加え、金を還元析出させる方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2(特開2011-132552号公報)には、ジブチルカルビトール(以下、DBCと表記する)を用いて溶媒抽出した金イオンを含む溶液に還元剤を加えて金イオンを還元析出する方法において、還元剤としてシュウ酸カリウムを用い、還元時のpHを2.5~6.5に調整して金を還元析出させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-335749号公報
【文献】特開2011-132552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の回収方法では、金の還元速度が遅く、水相に金が滞留する問題がある。また、特許文献2の回収方法では、還元剤としてシュウ酸カリウムを用いているので、高価であり、しかも金還元時のpHを2.5~6.5に調整しているので、金の還元率が低いと云う問題がある。また、シュウ酸カリウムは水に対する溶解熱が水酸化ナトリウムよりも高いので、スケールアップした際の取り扱いが難しくなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は従来の金回収方法における上記問題を解決した方法を提供する。具体的には、本発明は、pH調整が容易であって、金の還元率が高く、金を効率よく還元析出することができる金回収方法を提供する。
【0008】
本発明の金回収方法は以下の構成を有する。
〔1〕有機溶媒を用いて抽出した金イオンを含む溶液に還元剤を加えて金を還元析出させる金の回収方法において、水酸化ナトリウムとシュウ酸の混合溶液を還元剤として用い、該混合溶液の水酸化ナトリウムとシュウ酸のモル比(NaOH/シュウ酸モル比)が2.1~2.5であって、還元時のpHが10~13であることを特徴とする金の回収方法。
〔2〕金の還元率が96%以上であって、還元金に含まれるパラジウムが6ppm未満およびスズが20ppm以下である上記[1]に記載する金の回収方法。
【0009】
〔具体的な説明〕
以下、本発明の金回収方法を具体的に説明する。
本発明の方法は、有機溶媒を用いて抽出した金イオンを含む溶液に還元剤を加えて金を還元析出させる金の回収方法において、水酸化ナトリウムとシュウ酸の混合溶液を還元剤として用い、該混合溶液の水酸化ナトリウムとシュウ酸のモル比(NaOH/シュウ酸モル比)が2.1~2.5であって、還元時のpHが10~13であることを特徴とする金の回収方法である。
【0010】
本発明の方法において、有機溶媒を用いて抽出した金イオンを含む溶液とは、ジブチルカルビトールなどの有機溶媒を用いて抽出した金イオンを含む有機溶媒液である。例えば、銅電解スライムなどの金、銀及び白金族元素含有物を塩酸などで溶解して、金や白金族などを浸出させ、この金や白金等を含む溶液にDBCなど有機溶媒を接触させて金を抽出した有機溶媒液である。このような有機溶媒液には、銅電解スライム等に由来する金、パラジウム、スズなどが塩化物錯体を形成して含まれている。
【0011】
本発明の金回収方法は、金イオンを含む溶液に加える還元剤として、水酸化ナトリウムとシュウ酸のモル比(NaOH/シュウ酸モル比)を2.1~2.5に調整したシュウ酸と水酸化ナトリウムの混合溶液を用い、上記金イオンを含む溶液に該混合溶液を混合した金還元時のpHを10~13にして金の還元を行う。
【0012】
従来はシュウ酸ナトリウムを用いる方法が知られているが、シュウ酸ナトリウムに代えて、シュウ酸水溶液に水酸化ナトリウムを混合した溶液を用いることによって、金還元時のpHを還元率の高い範囲に調整することができ、また薬剤コストを低減することができる。具体的には、シュウ酸水溶液に水酸化ナトリウムを混合した溶液を用いると、溶液のpHは主に水酸化ナトリウムによって定まるので、水酸化ナトリウムの濃度を調整することによって、金還元時のpHを還元率の高いpH10~13の範囲に容易に調整することができる。
【0013】
一方、従来使用されているシュウ酸ナトリウム溶液(2%溶液)のpHは8.5~9.5であり、pHがこの範囲では金の還元率が90%程度に止まり、金の還元率を96%以上に高めるのは難しい。このような従来のシュウ酸ナトリウム溶液に代えて、シュウ酸水溶液に水酸化ナトリウムを混合した溶液を用いることによって、96%以上の高い還元率で金を析出させることができる。
【0014】
また、シュウ酸水溶液に水酸化ナトリウムを混合した溶液は、シュウ酸ナトリウムよりもpH制御が容易であるので、金の還元速度を高めることができ、さらにシュウ酸ナトリウムに比べてシュウ酸のほうが水に対する溶解度が高いので反応が進みやすい。
シュウ酸は水中で〔H2C2O4 →2H++C2O4
2-〕のようにシュウ酸イオンに分解し、ここに水酸化ナトリウムが混合されると、水素イオンが消費されてシュウ酸の分解反応が進み、シュウ酸イオン(C2O4
2-)が増加するので、金の還元を促すことができる。
【0015】
また、DBCなどに抽出された金は塩化金酸(HAuCl4)などの形態で含まれている。この塩化金酸(HAuCl4)は、以下の逆抽出反応に示すように、シュウ酸イオン(C2O4
2-)と反応して塩化金酸(I)(HAuCl2)を生じる。この塩化金酸(I)(HAuCl2)は、以下の還元反応に示すように、さらにシュウ酸イオン(C2O4
2-)と反応して金メタル(Au)に還元される。
【0016】
この還元反応において、塩酸が減少すれば、塩化金酸(I)(HAuCl2)が還元される方向に反応が進み、金メタルの析出が増える。そこで、本発明の方法は、NaOH/シュウ酸モル比を2.1~2.5にして金還元時のpHを従来よりも高く10~13の範囲にし、水酸化ナトリウムを増やして塩酸と水酸化ナトリウムとの反応によって塩酸を減らすようにし、還元反応の平衡を崩して金の還元を進める。
【0017】
[逆抽出反応] HAuCl4+C2O4
2-= HAuCl2+2Cl-+2CO2
[還元反応] 2HAuCl2+C2O4
2-= 2Au+2Cl-+2HCl+2CO2
【0018】
上記NaOH/シュウ酸モル比が2.1より低いと、該還元剤のpHが10を下回るようになり、還元速度が遅くなるので好ましくない。一方、該還元剤のNaOH/シュウ酸モル比が2.5より高いと、該還元剤のpHが13を超えるようになり、有機相と水相の分相性が低下する。また、還元析出した金に含まれる不純物濃度が高くなる。具体的には、例えば、還元金の鉛濃度が10ppmを超え、またSn濃度が1000ppmを超える場合があるので好ましくない。
【0019】
還元時の液温は50~75℃が好ましい。液温が50℃未満では反応速度が遅くなり、75℃を超えると液が揮発しやすくなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の金回収方法は、還元剤としてシュウ酸と水酸化ナトリウムの混合溶液を用い、そのNaOH/シュウ酸モル比を2.1~2.5の範囲にして、該還元剤のpHを10~13に調整することによって、金の還元が促進されるので、金の還元率を大幅に高めることができる。金の還元率を高めることによって、実操業での生産効率を上げることができる。また、本発明の金回収方法によれば、不純物の少ない高純度の金メタルを回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施例を示す。
〔実施例1~5、比較例1~7〕
銅電解スライムを塩酸浸出し、この浸出液にDBCを接触させて金、パラジウム、スズを含む有機溶媒液を得た。この有機溶媒液を洗浄して不純物を除去した後、この洗浄した有機溶媒液を100ml分取して試料にした。この試料を金の還元工程に供した。一方、シュウ酸水溶液150mlに所定量の水酸化ナトリウムを加えた混合溶液を還元剤として用いた。シュウ酸の量は、DBC中に含まれる金に対して当量分で調製した。
上記試料を70℃まで加熱した後に、上記還元剤の混合溶液を添加した。添加は1時間で終わるように速度を調整した。添加終了後、3時間加熱攪拌した。反応終了後、有機相、水相、還元金を分離し、それぞれ分析を行った。金属濃度はICP-AESによって測定した。還元剤のNaOH/シュウ酸モル比とpHに対する金の還元効果(金還元率、金純度、Pd濃度、Sn濃度)を表1に示した。なお、還元率は以下の式によって算出した。
【0022】
還元率(%)= A/〔A+B+C〕×100
還元率の上記式において、Aは還元金の物量(g)、Bは有機相中の金の物量(g)、Cは水相中の金の物量(g)。
【0023】
表1に示すように、NaOH/シュウ酸モル比が2.1より低いと、金の還元率は95%以下である(比較例1~5)。なお、比較例5は、還元剤として水酸化ナトリウムを用いずにシュウ酸ナトリウム溶液を用い、その他は実施例1~5と同様にして還元処理を行った。この比較例5の金の還元率は91%であり、還元率が低い。
【0024】
還元剤のNaOH/シュウ酸モル比が2.1~2.5の範囲であって還元時の溶液のpHが10~13の範囲では、金の還元率が96%以上、多くは98%以上であり、不純物濃度も大幅に少ない(実施例1~5)。
【0025】
還元剤のNaOH/シュウ酸モル比が2.5を超えると、概ね溶液のpHが13を超えるようになり、還元金の含まれる不純物(PdおよびSn)の濃度が高くなる(比較例6、7)。
【0026】