(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】廃電子基板の処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20220927BHJP
B09B 101/17 20220101ALN20220927BHJP
【FI】
B09B3/40 ZAB
B09B101:17
(21)【出願番号】P 2019035626
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】村岡 秀
(72)【発明者】
【氏名】林 浩志
(72)【発明者】
【氏名】中山 翔太
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕輔
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第207787253(CN,U)
【文献】特開2012-86118(JP,A)
【文献】特開2004-267987(JP,A)
【文献】特開平8-290147(JP,A)
【文献】特開平11-188335(JP,A)
【文献】特開平11-76980(JP,A)
【文献】特開2009-226302(JP,A)
【文献】特開2001-198561(JP,A)
【文献】特開平11-34058(JP,A)
【文献】特開平2-218486(JP,A)
【文献】特開2000-219921(JP,A)
【文献】特開2019-123771(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151351(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
C22B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃電子基板を、カルシウム化合物と共に、非酸化性雰囲気で、400℃~600℃に乾留して、該基板に含まれるハロゲンをハロゲン化カルシウムとして固定化すると共に、該基板のハンダを溶融して実装物を該基板から離脱し易くし、該乾留後に解砕し、その解砕物を、カルシウム化合物を含む0.5mm未満の細粒物と、実装物を含む中粒物と、基板片を含む粗粒物とに篩分けすることによって、カルシウム化合物と実装物と基板片とに選別することを特徴とする廃電子基板の処理方法。
【請求項2】
解砕物を0.5mm未満のカルシウム化合物を含む細粒物と、0.5mm以上~50mm以下の実装物を含む中粒物と、50mm超の基板片を含む粗粒物に篩分けする請求項1に記載する廃電子基板の処理方法。
【請求項3】
実装物を含む中粒物について、磁力選別、渦電流選別、色彩選別の何れかまたは組合せによる物理選別を行ってSUS系材料およびアルミニウム系材料を選別する請求項1または請求項2に記載する廃電子基板の処理方法。
【請求項4】
カルシウム化合物を含む細粒物について、水洗してハロゲンを除去した後に、乾留時のカルシウム化合物として再利用し、または銅製錬原料として利用する請求項1~請求項3の何れかに記載する廃電子基板の処理方法。
【請求項5】
実装物を含む中粒物の物理選別によって分別したSUS系材料およびアルミニウム系材料を除いた残りの物を銅製錬原料として利用する請求項1~請求項4の何れかに記載する廃電子基板の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃電子基板(プリント基板廃棄物)から、環境汚染を招かずに可燃分やハロゲンを除去すると共に、アルミニウムやSUSなどの銅製錬工程で悪影響を及ぼす金属を効率よく選別して、廃電子基板の処理物を銅製錬原料として利用できるようにする処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子基板は家電、車、携帯電子機器などの様々な分野で利用されている。電子基板には金、銀、銅、プラチナ、パラジウム等の有価金属が含まれることから、廃棄された電子基板は資源として有価金属を回収することが求められる。ただし、電子基板には樹脂部分に臭素や塩素などのハロゲンが含まれており、廃電子基板を酸化雰囲気で加熱処理すると有害なダイオキシン類が生成し、発生したハロゲン含有ガスが装置材料を腐食する等の問題がある。
【0003】
また、電子基板にはSUS製やアルミニウム製の実装物があり、これらに含まれているクロムやアルミニウムは銅製錬工程に悪影響を及ぼす元素であるので、廃電子基板を銅製錬プロセスに直接投入して処理するのは好ましくない。従って、銅製錬プロセスを利用して廃電子基板を処理するには、樹脂に含まれているハロゲンや可燃物を除去し、SUS系材料やアルミニウム系材料を選別して取り除く前処理が必要になる。
【0004】
廃電子基板の前処理技術として、例えば、特許文献1(特開平06-256863号公報)には、廃電子基板を非酸化性雰囲気で500℃~1000℃に加熱して乾留処理し、ハロゲンによる腐食に強い材質の排ガス処理設備にて排ガスを処理することが記載されている。しかし、ハロゲン含有ガスによる炉本体などの腐食を十分に防止することは難しく、しかも腐食に強い材質、例えばインコネルなどを使用すると、処理設備の費用が非常に高くなる。さらに、660℃以上に加熱するとアルミニウムが溶解してしまうため、基板に取り付けられている実装物が選別し難くなるなどの問題がある。
【0005】
特許文献2(特開2001-198561号公報)には、300℃~1000℃で廃電子基板を乾留し、発生した臭素ガスを含む乾留ガスを低温(180℃~300℃)で再度熱分解して臭化水素(HBr)にして回収する処理方法が記載されている。しかし、廃電子基板の乾留ガスを180℃~300℃に冷却すると、分解した樹脂分がタール状に液化し、そのタール中にBrが残留するため、後処理が煩雑になる。また、タールによって配管が閉塞し、操業が難しくなる問題がある。
【0006】
特許文献3(特開2000-301131号公報)には、廃電子基板を250℃~500℃で乾留処理した後、解砕、粉砕し、比重や粒度の違いを利用して樹脂分と金属分を分離する処理方法が記載されている。しかし、廃電子基板をそのまま乾留するとハロゲン発生の問題を避けることが出来ず、また、解砕粉砕によって基板部分と共に実装物の金属部分も削られるため、一部金属が粉体化してしまう。粉体化した金属は樹脂粉砕物に混入するので、金属の回収率が低下するなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平06-256863号公報
【文献】特開2001-198561号公報
【文献】特開2000-301131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の廃電子基板処理方法における上記問題を解決したものであり、有害なハロゲン含有ガスの発生を避け、環境汚染を招かずに可燃物やハロゲンを除去すると共に、アルミニウムやSUSなどの銅製錬工程で悪影響を及ぼす金属を選別して、廃電子基板の処理物を銅製錬原料として利用できるようにする処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の処理方法に関する。
〔1〕廃電子基板を、カルシウム化合物と共に、非酸化性雰囲気で、400℃~600℃に乾留して、該基板に含まれるハロゲンをハロゲン化カルシウムとして固定化すると共に、該基板のハンダを溶融して実装物を該基板から離脱し易くし、該乾留後に解砕し、その解砕物を、カルシウム化合物を含む0.5mm未満の細粒物と、実装物を含む中粒物と、基板片を含む粗粒物とに篩分けすることによって、カルシウム化合物と実装物と基板片とに選別することを特徴とする廃電子基板の処理方法。
〔2〕解砕物を0.5mm未満のカルシウム化合物を含む細粒物と、0.5mm以上~50mm以下の実装物を含む中粒物と、50mm超の基板片を含む粗粒物に篩分けする上記[1]に記載する廃電子基板の処理方法。
〔3〕実装物を含む中粒物について、磁力選別、渦電流選別、色彩選別の何れかまたは組合せによる物理選別を行ってSUS系材料およびアルミニウム系材料を選別する上記[1]または上記[2]に記載する廃電子基板の処理方法。
〔4〕カルシウム化合物を含む細粒物について、水洗してハロゲンを除去した後に、乾留時のカルシウム化合物として再利用し、または銅製錬原料として利用する上記[1]~上記[3]の何れかに記載する廃電子基板の処理方法。
〔5〕実装物を含む中粒物の物理選別によって分別したSUS系材料およびアルミニウム系材料を除いた残りの物を銅製錬原料として利用する上記[1]~上記[4]の何れかに記載する廃電子基板の処理方法。
【0010】
〔具体的な説明〕
本発明の処理方法は、廃電子基板を、カルシウム化合物と共に、非酸化性雰囲気で、400℃~600℃に乾留して、該基板に含まれるハロゲンをハロゲン化カルシウムにして固定化すると共に、該基板のハンダを溶融して実装物を該基板から離脱し易くし、該乾留後に解砕し、その解砕物を、カルシウム化合物を含む0.5mm未満の細粒物と、実装物を含む中粒物と、基板片を含む粗粒物とに篩分けすることによって、カルシウム化合物と実装物と基板片とに選別することを特徴とする廃電子基板の処理方法である。
本発明の処理方法の概略を
図1に示す。
【0011】
本発明の処理方法は、廃電子基板を、カルシウム化合物と共に、非酸化性雰囲気で、400℃~600℃に乾留して、該基板に含まれるハロゲンをハロゲン化カルシウムにして固定化すると共に、該基板のハンダを溶融して実装物(電子部品等)を該基板から離脱し易くする。
【0012】
カルシウム化合物として、消石灰、生石灰、または炭酸カルシウムなどを用いることができる。このカルシウム化合物はハロゲン固定化剤として作用し、該基板の乾留によって発生した臭素ガスや塩素ガスなどのハロゲンガスと反応し、臭化カルシウム(CaBr2)や塩化カルシウム(CaCl2)、塩化水酸化カルシウム(CaClOH)などのハロゲン化カルシウムを生成してハロゲンを固定する。
【0013】
カルシウム化合物の添加量は基板に対して重量比で1:0.05以上が好ましく、1:0.5以上がより好ましい。カルシウム化合物の添加量が基板重量に対して1:0.5以上であれば、80%以上のBr除去率を得ることができる。
【0014】
非酸化性雰囲気は、例えば、窒素雰囲気、炭酸ガス雰囲気、あるいは過熱水蒸気雰囲気である。大気下などの酸化雰囲気下で燃焼すると、実装物の金属や基板に含まれているアルミニウムや銅などの金属が酸化するので金属のまま回収することができなくなる。
【0015】
乾留温度は400℃~600℃が好ましい。400℃未満では、基板に実装物を固定しているハンダが溶解しないため、基板から実装物を分離するのが困難になる。また、電子基板の基板部分に使用されているエポキシ樹脂の分解が不十分であり、後段の解砕が困難となる。一方、加熱温度が600℃以上では、処理物の温度がアルミニウムの融点(660℃)を超過する懸念があり、その場合、実装物に含まれるアルミニウムが融解して基板と実装物が融着するので、実装物を基板から離脱させるのが困難になる。上記温度範囲で乾留することによって、実装物を基板に固定しているハンダを溶融して実装物を基板から離脱させて容易に分別できるようにし、さらに基板の樹脂成分などの可燃物を熱分解することができる。
【0016】
乾留装置は、例えば、外熱式ロータリーキルン、定置炉、流動床炉などの炉内部を非酸化性雰囲気に保つことができる加熱装置を用いると良い。また、乾留した時に発生する可燃性のガスは、ハロゲン濃度が非常に低いため、そのまま燃料ガスとして利用することができる。例えば、乾留処理で発生したガスを燃焼したときに発生する熱を、乾留装置の加熱源に利用することもできるので、乾留処理に必要な熱エネルギーを自燃で賄うことも可能である。
【0017】
上記乾留後に解砕し、その解砕物を、カルシウム化合物を含む0.5mm未満の細粒物と、実装物を含む中粒物と、基板片を含む粗粒物とに篩分けすることによって、カルシウム化合物と実装物と基板片とに選別する。具体的には、例えば、上記解砕物を0.5mm未満の細粒物と、0.5mm以上~50mm以下の中粒物と、50mm超の粗粒物に篩分けすることによって、細粒物に含まれるカルシウム化合物と、中粒物に含まれる実装物と、粗粒物に含まれる基板片とに選別する。なお、カルシウム化合物は概ね0.5mm未満の細粒物になるので、0.5mm未満に解砕することによってカルシム化合物を選別することができる。中粒物および粗粒物の範囲は基板や実装物のサイズに応じて解砕の粒度範囲を定めればよい。例えば、典型的なサイズの実装物を有する基板については、0.5mm以上~50mm以下の中粒物と、50mm超の粗粒物に篩分けすれば、中粒物に含まれる実装物と、粗粒物に含まれる基板片とに選別することができる。
【0018】
上記乾留処理によって生じた乾留物は、基板の樹脂が炭化して脆くなっており、実装物も基板から離脱しているので、振動を加えて容易に解砕することができる。解砕物は、その主な成分に応じてサイズごとに分かれるので、振動篩などを用いて、例えば、0.5mm未満の細粒物と、0.5mm以上~50mm以下の中粒物と、50mm超の粗粒物に篩分けする。
【0019】
上記乾留によって生成されたハロゲン化カルシウムや乾留時に加えた未反応のカルシウム化合物は主に0.5mm未満の細粒になり、一方、基板から離脱した実装物は主に0.5mm以上~50mm以下の中粒物になり、基板片は50mm超の粗粒物になる。そこで、解砕物を0.5mm未満の細粒物と、0.5mm以上~50mm以下の中粒物と、50mm超の粗粒物に篩分けすることによって、上記解砕物をカルシウム化合物と実装物と基板片とに選別することができる。
【0020】
篩分けして回収した実装物を磁力選別、渦電流選別、色彩選別等の選別法の何れかまたは組合せによる物理選別によって、SUS系材料、およびアルミニウム系材料を分別することができる。SUSおよびアルミニウムは銅製錬工程に悪影響を及ぼすため、SUS系材料およびアルミニウム系材料を選別して取り除くことによって、乾留後の解砕物を銅製錬原料として利用できるようになる。具体的には、例えば、基板には銅板や銅回路などが埋め込まれているので、基板の解砕片は銅原料として利用することができる。また、実装物の電子部品にも銅回路などが組み込まれているので、SUS系材料およびアルミニウム系材料を選別して取り除くことによって、実装物の解砕片を銅製錬原料として利用することができる。
【0021】
篩分けして回収したカルシウム化合物のうち、ハロゲンと反応した成分は水溶性であるので、水洗してハロゲンを除去することができる。ハロゲンを除去したカルシウム化合物は乾留時のカルシウム化合物として再利用することができ、また銅製錬原料としても利用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の処理方法は、乾留処理の際に、カルシウム化合物と共に廃電子基板を乾留することによって、カルシウム化合物がハロゲン固定化剤として作用し、基板の熱分解によって発生する臭素や塩素などのハロゲンを含むガスと反応してハロゲン化カルシウム等の無機固体化合物を生じて固定化する。このようなハロゲン固定化によって、臭素ガスや塩素ガスの発生が大幅に少ないので、炉本体や排ガス処理設備の腐食が抑制される。また、ハロゲン含有ガスの発生が抑えられることに加えて、非酸化性雰囲気で処理するのでダイオキシンの発生が抑制される。さらに、回収したハロゲン化カルシウム等は水洗によってハロゲンを除去できるので、水洗して廃電子基板の処理に再利用することもできる。
【0023】
乾留処理後の廃基板は、ハンダが融解しているので振動を与えるだけで基板と実装物を容易に分けることができる。従って、細かく粉砕する必要がなく、または粉砕回数を最小限に抑えることができるので、有価金属をロスすることなく回収することができる。
基板から分離された実装物にはSUS系材料やアルミニウム系材料が含まれているが、これらは磁力選別や渦電流選別、色彩選別などを利用して分別し、効率良く回収することができる。また、基板部分と実装物の分離性が良く、実装物からSUS系材料およびアルミニム系材料を効率よく取り除くことができるので、これらを除去した解砕物を銅原料として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
回収物に含まれる銅、鉄、アルミニウムの濃度は回収物を王水で溶解させた後にICP-AESを用いて測定した。ロータリーキルン後段のバブラー液および粉体の洗浄液内部のBr濃度はイオンクロマトグラフィー(IC)によって測定し、洗浄後の粉体に残存したBr濃度はXRFを用いて測定した。これらのBr濃度に基づき、次式(1)によって臭素除去率(%)を定めた。SUS原料のFe回収率は次式(2)によって定めた。Al原料のAl回収率は次式(3)によって定めた。また、重量減少率(%)は次式(4)によって定めた。
【0026】
[Br除去率(%)]=[Ca化合物の洗浄液中のBr量]/[電子基板中の全Br量]×100・・・(1)
[Fe回収率(%)]=[回収したSUS原料中のFe量]/[電子基板中の全Fe量]×100・・・(2)
[Al回収率(%)]=[回収したAl原料中のAl量]/[電子基板中の全Al量]×100 ・・・(3)
[重量減少率(%)]=[処理後の電子基板重量減少量]/[処理前の電子基板重量]×100・・・(4)
【0027】
〔実施例1〕
廃電子基板(廃電子基板)1枚(257g)に対して、廃電子基板と消石灰の重量比が1:1になるように消石灰を添加し、これを電気外熱式ロータリーキルンに投入し、窒素雰囲気下で、1時間、600℃に加熱して乾留処理した。乾留処理中に発生したHBrを含む可燃性ガスはキルン後段の水封バブラーでBrをトラップした後、800℃の二次燃焼炉で処理した。乾留後はロータリーキルン内部が60℃以下まで冷却されたのを確認し、乾留処理物を取り出した。
得られた処理物を、篩目50mm、0.5mmの二段篩を有する振動篩に入れ、50mm篩上に基板片を、0.5mm篩上に実装物を、0.5mm篩下に粉体を得た。
0.5mm篩上の実装物を回収し、磁束密度2000Gの磁石を用いた磁力選別によって磁着物を分別し、さらに色彩選別によって白色の金属を分別した。この磁着物および白色金属を取り除いたものを分別実装物として回収した。
0.5mm篩下の粉体は、その重量の10倍量の純水を加えて30分撹拌洗浄し、洗浄液をろ過した後に更に同量の純水を加えて、ケーキ洗浄を行った。洗浄後の粉体を105℃で24時間乾燥して回収した。
50mm篩上の基板片を回収物A、磁着物を回収物B、色彩選別の白色金属を回収物Cとし、回収物Bおよび回収物C以外の分別実装物を回収物Dとし、洗浄乾燥後の粉体を回収物Eとした。これらの回収物A~Eをそれぞれ酸溶解した後、ICP-AESを用いてCu濃度、Fe濃度、Al濃度を測定し、各元素の回収率と品位を求めた。この結果を表1に示す。表1の銅製錬原料は回収物Aと回収物Dと回収物E、SUS原料は回収物B、Al原料は回収物Cである。
【0028】
〔実施例2~7〕
乾留温度、雰囲気、および消石灰添加量(基板:消石灰重量比)を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、重量減少率、回収率、品位、Br除去率を求めた。この結果を表1に示す。
【0029】
〔比較例1~3〕
乾留温度、雰囲気、および消石灰添加量(基板:消石灰重量比)を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、重量減少率、回収率、品位、Br除去率を求めた。この結果を表1に示す。
【0030】
〔比較例4〕
廃電子基板5kgを連続式ロータリーキルンに投入し、大気雰囲気下、1時間、1200℃に加熱して溶融処理した。溶融処理後の電子基板の融体は、キルンの出口部分から水中に流入させて急冷した。冷却後の処理物は105℃で24時間乾燥させ、回収物Fを得た。回収物Fはハンマークラッシャーを用いて細かく粉砕した後に、酸溶解し、ICP-AESを用いてCu濃度、Fe濃度、Al濃度を各々測定し、Cu回収率および品位を求めた。この結果を表1に示す。
【0031】
実施例1~7の銅製錬原料のFe品位およびAl品位は何れも0.9%以下であり、大部分は0.5%以下であって、鉄およびアルミニウムの少ない銅製錬原料が得られる。一方、SUS原料のFe回収率は何れも90%以上、Al原料のAi回収率はほぼ90%以上であり、鉄およびアルミニウムについても高い回収率を得ることができる。
【0032】
また、実施例1~3に示すように、乾留温度が高いとハンダが十分に融解して実装物が脱離し易くなるため、選別効率が向上し、さらに基板樹脂の熱分解が進むので、重量減少率が高くなる。実施例4に示すように、過熱水蒸気雰囲気でも窒素雰囲気と同様の処理効果が得られる。一方、実施例5~7に示すように、乾留時の消石灰添加量を減らすと消石灰に覆われない基板部分が存在するようになり、Brの除去率が低下するので、消石灰の添加量は基板重量に対して1:0.05以上が好ましく、1:0.5以上にするとBr除去率が80%以上になる。
【0033】
一方、比較例1、2、4は、銅製錬原料のFe品位は3%以上、Al品位は1.8%以上であり、鉄およびアルミニウムの量が実施例1~7より格段に多い。また、比較例1に示すように、乾留温度が低過ぎるとハンダが溶けないので、実装物の分離効果が低下し、樹脂の熱分解も不十分になる。さらに、比較例2に示すように、乾留温度が700℃になると、アルミニウムの融点(660℃)を超えるため、アルミニウムが溶融し、実装物の分離効果が低下し、銅製錬原料のFe品およびAl品が高くなり、SUS原料のFe回収率およびAl原料のAl回収率が大幅に低下する。また、比較例3に示すように、乾留時に消石灰を加えないとBrを固定できないので、Br除去率が19%であり、Brの大部分がガス化する。さらに、比較例4に示すように、大気雰囲気で1200℃に加熱溶融させる従来の処理方法では、電子基板から鉄およびアルミニウムを分離することができない。
【0034】