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  • 特許-廃電子基板の処理方法と処理装置 図1
  • 特許-廃電子基板の処理方法と処理装置 図2
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  • 特許-廃電子基板の処理方法と処理装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】廃電子基板の処理方法と処理装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 25/06 20060101AFI20220927BHJP
   B03B 5/00 20060101ALI20220927BHJP
   B07B 1/00 20060101ALI20220927BHJP
   B07B 1/04 20060101ALI20220927BHJP
   B09B 3/00 20220101ALI20220927BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20220927BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20220927BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C22B25/06 ZAB
B03B5/00 Z
B07B1/00 B
B07B1/04 Z
B09B3/00
B09B5/00 C
C22B7/00 A
C22B15/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019041573
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2020143350
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】ミルワリエフ・リナート
(72)【発明者】
【氏名】谷 真海
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-230437(JP,A)
【文献】特開平10-107426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 25/06
C22B 7/00
C22B 15/00
B09B 5/00
B09B 3/40
B07B 1/00
B07B 1/04
B03B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網板に載置した廃電子基板を加熱下で振動して溶融したハンダと実装部品を冷却槽に落下させ、落下した実装部品と冷却したハンダ粒をさらに篩分けして、篩上の実装部品と篩下のハンダ粒に分離することによって、実装部品に含まれる銅とハンダに含まれるスズとを分離することを特徴とする廃電子基板の処理方法。
【請求項2】
廃電子基板を230℃~270℃に加熱してハンダを溶融し、振動数20Hz~50Hzおよび振幅1mm以上で網板を振動して溶融したハンダと実装部品を冷却槽に落下させる請求項1に記載する廃電子基板の処理方法。
【請求項3】
目開き15mm~25mmの網板を用いて廃電子基板を該網板上に残し、冷却槽に落下した実装部品とハンダ粒を分別槽に導き、該分別槽の目開き2mm~7mmの篩で、篩上に実装部品を残し、篩下にハンダ粒を落下させて、実装部品とハンダ粒を分離する請求項1または請求項2に記載する廃電子基板の処理方法。
【請求項4】
廃電子基板を載置する網板、該廃電子基板を加熱してハンダを溶融する加熱手段、上記網板を振動して実装部品と溶融したハンダを落下させる振動手段、落下した実装部品とハンダを受け入れる冷却槽、冷却したハンダ粒と実装部品を分別する篩手段を備えることを特徴とする廃電子基板の処理装置。
【請求項5】
加振機に支持された筐体を備え、該筐体の上面には網板が設けられており、該筐体の底部には冷却槽が設けられており、上記網板の上方にはヒータが設けられており、上記網板に載置された廃電子基板が該ヒータによって加熱されてハンダが溶融され、さらに上記加振機によって筐体が振動されて実装部品と溶融したハンダが冷却槽に落下され、さらに冷却槽の落下物を受け入れる分別槽が設けられており、該分別槽には篩が設置されており、篩上に落下物の実装部品が残り、篩下にハンダ粒が落下して分離される請求項4に記載する廃電子基板の処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃電子基板(以下、廃基板と云う)から銅を含む電子部品等(以下、実装部品と云う)と、スズを含むハンダとを分離して回収することができる廃基板の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子基板には配線や電子部品に銅が多く含まれており、廃基板からこれらの銅が回収される。近年、廃基板を銅製錬所で処理して銅を回収するケースが増えているが、電子基板には銅と共にハンダに由来するスズが含まれており、スズは銅製錬における忌避元素であるため、製錬所のスズ負担が増大し、各工程における操業トラブルの一因になっている。そのため、廃基板から事前にハンダ由来のスズを分離して銅とスズを別個に処理することが望まれている。
【0003】
廃基板の処理方法として、以下の技術が従来から知られている。
(イ)廃基板を網板に載置し、加熱下で振動してハンダを溶融し、電子部品を分離し、残留した基板を加熱して炭化する処理方法(特許文献1)。
(ロ)廃基板をフックに吊した状態で加熱し振動を加えてハンダを溶融脱落させる処理方法(特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-230437号公報
【文献】特開平10-17948号公報
【文献】国際公開2007-077594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の処理方法は、加熱温度が高いので基板が変質し、ハンダの回収が困難になる懸念がある。また、溶融したハンダを振動して落下させる場合、振動数が適切でないとハンダを十分に脱落させることができない。特許文献2と特許文献3の処理方法は、廃基板を吊下げる操作が必要であるため多量処理には不適である。また、脱落する電子部材を分別できないため、銅とスズを分離して回収できないと云う問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、従来の処理方法の上記問題を解消したものであり、廃基板から銅を含む実装部品とスズを含むハンダとを容易に分離して回収する処理方法と処理装置を提供する。
【0007】
本発明は以下の構成を有する廃基板の処理方法と処理装置に関する。
〔1〕網板に載置した廃基板を加熱下で振動して溶融したハンダと実装部品を水槽に落下させ、落下した実装部品と冷却したハンダ粒をさらに篩分けして、篩上の実装部品と篩下のハンダ粒に分離することによって、実装部品に含まれる銅とハンダに含まれるスズとを分離することを特徴とする廃基板の処理方法。
〔2〕廃基板を230℃~270℃に加熱してハンダを溶融し、振動数20Hz~50Hzおよび振幅1mm以上で網板を振動して溶融したハンダと実装部品を水槽に落下させる上記[1]に記載する廃基板の処理方法。
〔3〕目開き15mm~25mmの網板を用いて廃基板を該網板上に残し、水槽に落下した実装部品とハンダ粒を分別槽に導き、該分別槽の目開き2mm~7mmの篩で、篩上に実装部品を残し、篩下にハンダ粒を落下させて、実装部品とハンダ粒を分離する上記[1]または上記[2]に記載する廃基板の処理方法。
〔4〕廃基板を載置する網板、該廃基板を加熱してハンダを溶融する加熱手段、上記網板を振動して実装部品と溶融したハンダを落下させる振動手段、落下した実装部品とハンダを受け入れる水槽、冷却したハンダ粒と実装部品を分別する篩手段を備えることを特徴とする廃基板の処理装置。
〔5〕加振機に支持された筐体を備え、該筐体の上面には網板が設けられており、該筐体の底部には水槽が設けられており、上記網板の上方にはヒータが設けられており、上記網板に載置された廃基板が該ヒータによって加熱されてハンダが溶融され、さらに上記加振機によって筐体が振動されて実装部品と溶融したハンダが水槽に落下され、さらに水槽の落下物を受け入れる分別槽が設けられており、該分別槽には篩が設置されており、篩上に落下物の実装部品が残り、篩下にハンダ粒が落下して分離される上記[4]に記載する廃基板の処理装置。
【0008】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。
廃基板の処理方法
本発明の処理方法は、網板に載置した廃基板を加熱下で振動して溶融したハンダと実装部品を水槽に落下させ、落下した実装部品と冷却したハンダ粒をさらに篩分けして、篩上の実装部品と篩下のハンダ粒に分離することによって、実施部品に含まれる銅とハンダに含まれるスズとを分離することを特徴とする廃基板の処理方法である。
【0009】
廃基板は、破砕・切断した電子基板あるいは破砕・切断しない電子基板の何れでもよい。廃基板を載せる網板は、実装部品と溶融したハンダが落下して廃基板が残るように、目開15mm~25mmの網板が好ましい。網板に載せた廃基板をハンダの融点以上に加熱してハンダを溶融させる。具体的には、例えば230℃~270℃に加熱してハンダを溶融すると良い。
【0010】
この加熱下で網板を振動して溶融したハンダと実装部品を水槽に落下させる。溶融したハンダが落下しやすいように、振動数20Hz~50Hzおよび振幅1mm以上で網板を振動すると良い。振動数が20Hzより小さいと溶融したハンダが網板に付着して落下し難い。また振幅が大きいほどハンダが落下しやすく、1mm以上の振幅であれば良い。ハンダが溶融することによって実装部品が基板から離脱し易くなる。
【0011】
熔融したハンダと実装部品を水槽に落下させる。溶融したハンダは該水槽に落下して冷却し、ハンダ粒になる。該水槽の実装部品とハンダ粒を分別槽に導き、該分別槽の篩で実装部品とハンダ粒を分離する。実装部品は概ね7mm以上の大きさであり、一方、ハンダ粒は概ね2mm未満のものが多いので、上記分別槽に目開き2mm~7mmの篩を設け、篩上に実装部品を残し、篩下にハンダ粒を落下させて、実装部品とハンダ粒を分離すると良い。
【0012】
なお、一般に、目開2mm未満の細かい篩を用いると、実装部品の約95wt%以上が篩上に残り、ハンダ粒の約50wt%も篩上に残る。また目開7mm超の粗い篩を用いると、ハンダ粒の約90wt%以上が篩下に落下し、実装部品の約20wt%も篩下に落下する。一方、目開2mm~7mmの篩を用いれば、実装部品の約95wt%以上は篩上に残り、ハンダ粒の約70wt%以上は篩下に落下するので、実装部品とハンダ粒を上手く分離することができる。
【0013】
廃基板の処理装置
本発明の処理装置は、廃基板を載置する網板、該廃基板を加熱してハンダを溶融する加熱手段、上記網板を振動して実装部品と溶融したハンダを落下させる振動手段、落下した実装部品とハンダを受け入れる水槽、冷却したハンダ粒と実装部品を分別する篩手段を備えることを特徴とする廃基板の処理装置である。
【0014】
本発明の処理装置の構成例を図1に示す。図示するように、本発明の処理装置は、筐体11を備えており、筐体11の上面には網板12が設けられている。網板12には廃基板13が載置される。網板12は目開15mm~25mmの網板が好ましい。筐体11の底部には水槽14が設けられている。水槽14には室温以下の水が溜まっている。さらに網板12の上方には廃基板13を加熱してハンダを溶融するヒータ15が設けられている。筐体11は振動手段である加振機10によって支持されている。加振機10によって、例えば振動数20Hz~50Hzおよび振幅1mm以上で筐体11と一体に網板12が振動される。
【0015】
網板12に載置された廃基板13がヒータ15によって加熱されてハンダが溶融され、さらに加振機10によって筐体11と一体に網板12が振動されて、実装部品と溶融したハンダが水槽14に落下される。水槽14に落下したハンダは水中で冷却されてハンダ粒になる。
【0016】
水槽の落下物(実装部品とハンダ粒)を受け入れる分別槽16が筐体11の外側に併設されている。分別槽16には篩17が設置されており、分別槽16および篩17によって篩手段が形成されている。篩17は目開2mm~7mmの篩が好ましい。この目開の篩を用いれば、実装部品の大部分が篩上に残り、ハンダ粒の大部分が篩下に落下するので、実装部品とハンダ粒が上手く分離される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の処理方法ないし処理装置は、廃基板を簡単な工程で多量に処理することができる。また、基板に含まれるハンダ由来のスズの大部分を効率よく実装部品から分離することができるので、回収した実装部品を銅製錬所で再利用するときに、スズの負担が少なく、銅製錬工程内のトラブルを低減することができる。さらに、ハンダの大部分を分離して回収できるので、回収したハンダ粒をリサイクル原料として容易に再利用することができる。例えば、電子基板に含まれる銅の約99wt%以上を回収することができ、スズの約50wt%を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る処理装置の概略を示す概念図。
図2】加熱温度と落下物のスズ移行率との関係を示すグラフ。
図3】振動数と落下物のスズ移行率との関係を示すグラフ。
図4】分級の篩目開と篩下回収物へのスズ移行率の関係を示すグラフ。
図5】目開3mmの篩で分級したときの篩上回収物と篩下回収物、および残留基板に含まれる、各金属(金、銀、銅、スズ)の分布率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の処理方法の実施例を以下に示す。実施例において、温度はK熱電対で測温した。振動数および加速度はJIS準拠の振動試験機で制御した。残留基板および落下物の組成は各々化学法で定量した。銅とスズの移行率は次式[1][2]に従って求めた。
[銅移行率(%)]=(各分離物のCu含有量)/(全分離物のCu含有量合計)×100 ・・・[1]
[スズ移行率(%)]=(各分離物のSn含有量)/(全分離物のSn含有量合計)×100 ・・・[2]
【0020】
〔実施例〕
廃基板を約50mm×50mmの試験片に切断し、マッフル炉で170℃~270℃に10分間加熱した。その後、加熱した廃基板を目開き約20mmの網板に載せ、ハロゲンヒーターで保温しながら、1分間、振動数10Hz~300Hzで振動した。廃基板から分離したものは、網板の下方に設置した室温の水を入れた水槽内に落下させて水冷した。
その後、水槽内の落下物を冷却後に回収し、目開1mm~10mmの篩で分級し、篩上と篩下に分別して回収した。
網板上の残留基板、水槽への落下物、篩上と篩下の回収物について、スズと銅の移行率を調べた。この結果を図2図3図4図5に示す。図2は加熱温度と落下物のスズ移行率との関係を示すグラフ、図3は振動数と落下物のスズ移行率との関係を示すグラフ、図4は分級の篩目開と篩下回収物へのスズ移行率の関係を示すグラフ、図5は目開3mmの篩で分級したときの篩上回収物と篩下回収物、および残留基板に含まれる、各金属(金、銀、銅、スズ)の分布率を示すグラフである。なお、スズはハンダの成分であるので、スズの移行率によってハンダの落下状態を把握することができる。銅は実装部品に由来するので、銅の移行率によって実装部品の落下状態を把握することができる。
【0021】
図2および図3に示すように、温度230℃~270℃に加熱して、振動数20Hz~50Hzで振動すれば、ハンダ種にかかわらず、ハンダの約50wt%前後を落下物として回収できる。このうち250℃に加熱して20Hzで振動したときの落下物へのスズの移行率が最も高く、ハンダが最も多く落下している。これは振動数20Hzのときに廃基板が網板の上で適度に跳ねて網板と衝突して廃基板に衝撃が加わり、熔融状態のスズが良く落下するためであると考えられる。一方、温度が270℃以上になると基板が変形・変質してハンダの落下が妨げられるので、落下物へのスズの移行率が低くなる。
【0022】
廃基板の加熱振動では、実装部品の一部も落下物になることが多々ある。しかし、図4に示すように、水槽から回収した落下物を目開2mm~7mmの篩で分級すれば、篩下回収物への銅の移行率は殆ど零であり、約95wt%以上の銅が実装部品に含まれて篩上に残る。一方、上記目開の範囲では、ハンダ粒の大部分が篩下に落下してスズの約70wt%以上が篩下回収物に移行するので、銅とスズを分離して回収することができる。このうち、目開3mmの篩を用いれば、スズの約90wt%以上を篩下回収物に移行させることができ、実装部品は殆ど落下せず、篩下回収物への銅の移行率は1wt%以下であるので、スズと銅を精度よく分離することができる。
【0023】
上記加熱振動処理後の残留基板および分級処理後の篩上回収物と篩下回収物に含まれる金、銀、銅、およびスズの分布率を図5に示す。図示するように、金のほぼ全量と銀の約95wt%は残留基板に含まれている。銅については、約70wt%が残留基板に含まれており、篩上回収物に約29wt%含まれ、篩下回収物に含まれる銅は約1wt%未満である。一方、スズの約45wt%は篩下回収物(ハンダ粒)に含まれ、約55wt%は残留基板に含まれているが、篩上回収物(主に実装部品)に含まれるスズは約1wt%程度であり、ハンダ粒と実装部品に分離回収することによって、スズ混入量が極めて少ない銅含有実装部品を回収することができる。
【符号の説明】
【0024】
10-加振機、11-筐体、12-網板、13-廃基板、14-水槽、15-ヒーター、16-分別槽、17-篩、18-篩上回収物(実装部品)、19-篩下回収物(ハンダ粒)。
図1
図2
図3
図4
図5