(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】微小粒子状物質捕捉装置
(51)【国際特許分類】
B03C 3/40 20060101AFI20220927BHJP
【FI】
B03C3/40 A
(21)【出願番号】P 2017135600
(22)【出願日】2017-07-11
【審査請求日】2019-06-14
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年1月15日にhttp://www.mdpi.com/journal/ijerphで公開されたスイスのバーゼルに本部を置くオープンアクセスジャーナルプラットフォーム”MDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute)”の学術雑誌に関するサイト”International Journal of Environmental Research and Public Health Vol.14(1)2017”にて公開
(73)【特許権者】
【識別番号】594120157
【氏名又は名称】アース環境サービス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514207083
【氏名又は名称】株式会社園田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】512224729
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081558
【氏名又は名称】齋藤 晴男
(74)【代理人】
【識別番号】100154287
【氏名又は名称】齋藤 貴広
(72)【発明者】
【氏名】松田 克礼
(72)【発明者】
【氏名】角谷 晃司
(72)【発明者】
【氏名】野々村 照雄
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 義浩
(72)【発明者】
【氏名】豊田 秀吉
(72)【発明者】
【氏名】草刈 眞一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 清嗣
(72)【発明者】
【氏名】柴尾 学
(72)【発明者】
【氏名】松本 吉雄
(72)【発明者】
【氏名】美山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】園田 隆博
【合議体】
【審判長】池渕 立
【審判官】粟野 正明
【審判官】太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-63655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C3/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
煙中の微小粒子状物質を静電気を利用して捕捉するための装置であって、
3層の絶縁導線層と、前記3層の絶縁導線層のうちの2つの外側絶縁導線層に負電荷を供給する電圧発生器と、前記3層の絶縁導線層のうちの中央絶縁導線層に正電荷を供給する電圧発生器とを備え、
前記3層の絶縁導線層は、適宜間隔を置いて平行に配置され、隣接する層内の絶縁導線同士が互いに他からオフセットされて成り、
前記2つの外側絶縁導線層と前記中央絶縁導線層との間の電位差が4.5kV以上となるように前記電圧発生器により電圧を印加することを特徴とする微小粒子状物質捕捉装置。
【請求項2】
前記電圧発生器は、ソーラーパネルから電力を供給される蓄電池を電源として動作する、請求項1に記載の微小粒子状物質捕捉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小粒子状物質捕捉装置に関するものであり、より詳細には、例えば、健康問題を引き起こす可能性がある煙の中の微小粒子状物質を、静電気を利用して捕捉する微小粒子状物質捕捉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
煙は、木材等の有機物を燃焼させた時に生ずる気体と微細粒子の複雑な混合物で構成されている。煙による最大の健康障害は、微細粒子に由来する。これらの微細な粒子は、目や呼吸系に入る可能性があり、そこで、焼けるような目の痛み、鼻水の出る鼻、また、気管支炎等の疾病といった健康問題を引き起こす可能性がある。微細粒子はまた、慢性心不全や肺疾患を悪化させる可能性があり、早期死亡に繋がると言われている。そのため、住居における空中の微小粒子状物質を排除することによって、空気汚染物質に敏感な人々の生活の質を改善することが求められる。
【0003】
従来、かかる微粒子を浄化する方法として、空気を誘電体バリア放電を用いて活性化させた搬送管内において、粒子の攪拌や搬送、浄化を行う微粒子搬送装置を用いる方法が提唱されている(特許文献1:特許第5688651号公報)。
【0004】
また、大気その他の気体中に浮遊する微粒子を、フィルター法によるろ過によることなく、高能率で除去するための方法として、微粒子を含有する微粒子含有気体から当該微粒子を除去処理して清浄気体を得る微粒子除去処理を、一方の極性に帯電させた当該微粒子に、当該一方の極性と逆極性である他方の極性に帯電させた除去液ミストを出会わせることにより行う、静電気のクーロン力を利用する除去方法の提案もある(特許文献2:特開2017-927号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5688651号公報
【文献】特開2017-927号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、これら従来の微粒子除去方法の場合は、いずれも大掛かりな装備が必要となるもので、設置コスト並びにエネルギー消費量も嵩むため、一般家庭等において手軽に利用する訳にはいかないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術における問題に鑑みてなされたもので、シンプルな構成で消費エネルギーが少なく、室内に流入する空気流から、微小粒子状物質を有効且つ確実に吸着排除することができる微小粒子状物質捕捉装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、健康問題を引き起こす可能性のある煙の中の微小粒子状物質が室内に流入することを防止するための方法を追求した結果、静電気引力を用いることにより、煙の中の微小粒子状物質が室内に入り込むことを防ぐことができるとの知見を得て、本発明を完成させるに至ったものである。
【0009】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、煙中の微小粒子状物質を静電気を利用して捕捉するための装置であって、
3層の絶縁導線層と、前記3層の絶縁導線層のうちの2つの外側絶縁導線層に負電荷を供給する電圧発生器と、前記3層の絶縁導線層のうちの中央絶縁導線層に正電荷を供給する電圧発生器とを備え、
前記3層の絶縁導線層は、適宜間隔を置いて平行に配置され、隣接する層内の絶縁導線同士が互いに他からオフセットされて成り、
前記2つの外側絶縁導線層と前記中央絶縁導線層との間の電位差が4.5kV以上となるように前記電圧発生器により電圧を印加することを特徴とする微小粒子状物質捕捉装置である。
【0010】
一実施形態においては、前記電圧発生器は、ソーラーパネルから電力を供給される蓄電池を電源として動作する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る微小粒子状物質捕捉装置は上記のとおりであって、非常にシンプルな構成で製造容易であり、長期間に亘り、低いエネルギー消費量で絶え間なく動作させ続けることができ、その間、室内に流入する空気流から微小粒子状物質を有効且つ確実に捕捉し続けることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る微小粒子状物質捕捉装置の構成を説明するための概略構成図である。
【
図2】本発明に係る微小粒子状物質捕捉装置の有効性を確認するために行った実験設備を説明するための実験設備構成図である。
【
図3】本発明に係る微小粒子状物質捕捉装置の有効性を確認するために行った実験の結果得られたモスキートコイルの煙中の微細粒子の捕捉率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1に示されるように本発明に係る微小粒子状物質捕捉装置は、3層の絶縁導線層1~3と、この3層の絶縁導線層1~3のうちの2つの外側絶縁導線層1、3に負電荷を供給する電圧発生器4と、中央絶縁導線層2に正電荷を供給する電圧発生器5とを備えて成るものである。
【0014】
この微小粒子状物質捕捉装置は、電極として絶縁導線層1~3を用いて電場を形成するものである。例えば、絶縁導線層1~3は、鉄線(直径2mm、長さ15~55cm)を透明の絶縁体ビニルスリーブ(厚さ1mm、バルク抵抗率1×109Ωcm)に通して絶縁した断面円形の絶縁導線により形成される。3層の絶縁導線層1~3は、適宜間隔を置いて平行に配列され、これに負電圧を供給する静電直流(DC)電圧発生器4と、正電圧を供給する静電直流(DC)電圧発生器5が接続されて構成される(
図1(A),(B)参照)。
【0015】
絶縁導線層1~3は、例えば、各層間に5mmの間隔を置いて平行に配置されて相互に接続され、負又は正の電圧発生器4、5に接続される。負又は正に帯電させた絶縁導線層1~3は、
図1(B)においてそれぞれ、絶縁導線層(-)及び絶縁導線層(+)で表してある。この絶縁導線層1~3をフレーム内に収めて静電気バリア形成窓が形成される。その場合、中心の絶縁導線層2が(+)層で両側の絶縁導線層1、3が(-)層となり、これら3層は、平行且つ5mm程の間隔に配置され、また、隣り合う層内の絶縁導線層同士が、互いに他から上下にオフセットされて構成される(
図1参照)。
【0016】
電圧発生器4、5は、互いに他に結合され、(-)層である絶縁導線層1、3と(+)層である絶縁導線層2との間に電場を生ずる電気回路が形成される(
図1(B))。両方の電圧発生器4、5は、例えば、15Wのソーラーパネルから電力を供給される12Vの蓄電池6を電源として動作させ続けることができる。このシステムでは、(+)層の絶縁導線層2からの自由電子を(-)層の絶縁導線層1、3に押し出し、且つ、絶縁導線層の対向面の電荷が、それらの間に電場を形成する双極子として働く。
【0017】
図1における符号7は、電圧発生器4、5間の電線路に組み込んだ検流計(PC7000;三和電気計器、東京、日本)を示している。
【0018】
本発明に係る微小粒子状物質捕捉装置は、一般家庭の窓枠等に組み付けられて、室内に流入しようとする煙の中の微細粒子を、その絶縁導線層1~3によって生成される電場によって捕捉することを企図したものである。
【0019】
本発明に係る微小粒子状物質捕捉装置の有効性、即ち、煙の中の微細粒子を、その絶縁導線層1~3によって生成される電場によって十分に捕捉することができるのか否かを確認するための試験を行った。その試験は、木製の立方体の箱(辺の長さ、25cm)の一方の側に、試験サイズ(20×20cm)に縮めた本発明に係る装置(EWS12)を設置し、他方の側に軸流ファン13を取り付けた試験箱11を制作し(
図2(A))、この試験箱11を、密閉したより大きな透明のアクリル箱(120×90×100cm)14内に収めた試験装置を製作して行った(
図2(B))。
【0020】
この試験装置を用いて、煙の中の微細粒子を捕捉する本発明に係る装置の能力を確認するため、香取線香(モスキートコイル)(アース製薬、東京、日本)、肉薫製用の圧縮した桜材おがくず(新富士バーナー、豊川、日本)、及び、巻きたばこ(日本たばこ産業、東京、日本)を用いて煙を生成した。放出された粒子の範囲は、燃焼時、0.5~2.5mmであった。
【0021】
燃えている蚊取線香又は削り屑の塊及び巻きたばこをアクリル箱14内に入れ、試験箱11の軸流ファン13を動作させて、3m/秒で内部空気を循環させて煙を絶え間なく発生させ、高感度風力計(クリモマスター6533;カノマックス、東京、日本)を用いて、EWS12の表面で風速を測定した。循環させた空気内の粒子密度は、試験箱11内に設置したモニター15(ダストモニター粉塵計DC1100プロ、株式会社佐藤商事、川崎、日本;測定可能な粉じんの範囲:直径0.5~2.5mm)で測定した。
【0022】
粒子密度があるレベル(粒子数1.5×108個/m3)に達した時点で煙源を取り外し、次いで、絶縁導線層1~3を同じ負及び正の電圧(0.5~4.5kV)で120秒間帯電させて、EWS12を通過する粒子の全てを捕捉するための電圧範囲を求めた。
【0023】
図3は、3m/秒の空気流(本試験装置の最高風速)に対して、異なる電圧で帯電させたEWS12により捕捉されたモスキートコイルの煙の微細粒子の百分率を示している。なお、ネガティブコントロールとして非帯電箱を用意し、非帯電箱では粒子の100%がEWS12を通過すると仮定して、本発明による帯電箱内の粒子の数を、非帯電箱のそれに対する百分率で表した。実験は5回繰り返し、データを平均値±標準偏差(SD)で算出した。データ間の有意差は、テューキー法を用いて解析し、p値<0.05が統計学的に有意である、と判断した。
【0024】
図3のグラフから明らかなように、検出された微細粒子の数は、印加電圧が高くなるに伴って減少している。この電場では、粒子は、静電牽引力及び空気流の力に影響され、粒子の運動の方向は、これら2つの力の合成ベクトルによって決定される。EWS12は、電極への印加電圧が4.5kVを超えた時に生じた電場内では、微細な煙粒子の全てを捕捉することができたが(d参照)、より低い電圧下では、電場により生じた力は空気流の力より弱かったため、粒子はEWS12を通過した(a,b,c参照)。
【0025】
EWS12は間隙の無い多数の電場を有するものとして作成したが、これは、微小粒子状物質捕捉の成功は、粒子が通過できる空間が全く無い静電気バリアの形成如何にかかっていると考えたからである。この電場を形成する際の重要なステップは、言うまでもなく絶縁導線層1~3を荷電することである。そのために、2つの電圧発生器4,5のコッククロフト回路(Wegner 2002)を介して生成した高電圧を用い、絶縁導線層1,3に電子を加え、絶縁導線層2から電子を押し出して、両方の電極を帯電させた。
【0026】
本発明に係る微小粒子状物質捕捉装置は、粒子を捕捉するその能力に加えて、消費電力が低いことが、実用上重要な特徴である。日本は、例えば、地震の後で起こるような、頻繁な大停電の危機に常に晒されており、その際には、微小粒子状物質の捕捉が停止状態になってしまう。本装置の場合、電圧発生器4,5が電源を必要とする唯一の駆動部分であり、その電力は僅か5Wで、これは、小さな電球の電力に相当する。従って、電圧発生器4,5に電力を供給するための方法として、太陽光発電法の使用が可能になったのである。
【0027】
本装置において、電場における微細粒子の牽引は、不均一な電場による微細粒子の誘電泳動が原因であると推測される。誘電泳動は、不均一な電場内で、誘電体粒子(極性が反対の粒子)に力が加えられる現象である。この力は、粒子が帯電していることを必要としない。なぜなら、粒子は全て、不均一な電場が存在する場合、誘電泳動活動を示すからである。なお、粒子が誘電的に極性を与えられたのは、本試験で使用された断面円形電極により不均一な電場が生じたからに他ならない。
【0028】
この誘電泳動理論によれば、周囲の電場に比例する粒子の分極化は、電場強度の勾配に沿って変化する。この変化し得る分極化によって、粒子は、電極に向かって動くことが可能になる。事実、粒子は、最も近い電極に向かって、すなわち、電極によって生成される電場強度が増大する方向に移動した。本発明においては、電極は等しい電圧によって逆帯電され、従って、両電極は、同じ電場強度の勾配を生じた。これらの逆帯電電極は、粒子に対して同じ牽引力を発揮した。電場強度の勾配は、電極に加わる電圧と共に増大し、結果として両電極は、粒子を捕捉するのに十分な力を生じた。
【0029】
上記のとおり、本発明に係る微小粒子状物質捕捉装置は、基本的な静電気学を用いて、人間の環境を改善するものであり、その構成は非常にシンプルなもので、製造容易で比較的低コストにて供給でき、しかも、低い消費電力で正常に動作して、煙に含まれている微細粒子を誘電泳動の原理により効率よく捕捉することが可能なものであり、その産業上の利用可能性は極めて大である。
【符号の説明】
【0030】
1~3 絶縁導線層
4,5 電圧発生器
6 蓄電池
7 検流器