(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】状態推定システム、および、状態推定方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20220927BHJP
【FI】
A61B5/11 200
A61B5/11 230
A61B5/11 210
A61B5/11 ZDM
(21)【出願番号】P 2018204854
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-10-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年3月6日に日本機械学会 中国四国学生会 第48回学生員卒業研究発表講演会にて発表、平成30年8月29日にDynamics and Design Conference2018講演論文集にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】503061485
【氏名又は名称】株式会社テック技販
(73)【特許権者】
【識別番号】513067727
【氏名又は名称】高知県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100111349
【氏名又は名称】久留 徹
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 和美
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 圭
(72)【発明者】
【氏名】井上 喜雄
(72)【発明者】
【氏名】園部 元康
【審査官】鷲崎 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09526451(US,B1)
【文献】特開2004-329280(JP,A)
【文献】特開2004-173875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のロードセルを備えたフォースプレートと、
当該ロードセルからの出力値に基づいて、当該フォースプレートの平面に沿った被検体からの剪断力と被検体の立位状態における圧力中心を算出する第一演算部と、
当該第一演算部で算出された剪断力と圧力中心を用いて、被検体の各部位の角度、角速度、角加速度、モーメントの少なくとも一つを算出する第二演算部と、
当該第二演算部で算出された値を出力する出力部と、
を備えてなる状態推定システム
において、
前記第二演算部が、あらかじめ足部質量、身体部質量、フォースプレートから各関節までの高さ、足部の質量中心までの高さ、身体部の質量中心の高さをパラメーターとして演算されるものである状態推定システム。
【請求項2】
前記第二演算部が、人間の矢状面における足関節のモーメントを算出するものである請求項
1に記載の状態推定システム。
【請求項3】
第二演算部が、矢状面における足関節のモーメントを算出した後に、矢状面における下半身と上半身の2つの質量中心の加速度と変位、速度を算出していくものである請求項
1に記載の状態推定システム。
【請求項4】
前記第二演算部が、矢状面における下半身と上半身の2つの質量中心の加速度と変位、速度を算出した後に、股関節のモーメントを算出していくものである請求項
1に記載の状態推定システム。
【請求項5】
前記第二演算部が、前額面における足関節のモーメントを算出するものである請求項
1に記載の状態推定システム。
【請求項6】
第二演算部が、前額面における足関節のモーメントを算出した後に、前額面における下半身と上半身の2つの質量中心の加速度と変位、速度を算出していくものである請求項
1に記載の状態推定システム。
【請求項7】
前記第二演算部が、この前額面における下半身と上半身の2つの質量中心の加速度と変位、速度を算出した後、股関節のモーメントを推定するようにしたものである請求項
1に記載の状態推定システム。
【請求項8】
前記フォースプレートが、両足に独立して設けられたものである請求項
1に記載の状態推定システム。
【請求項9】
複数のロードセルを備えたフォースプレートを用いて、フォースプレート上に立脚した被検体の状態を推定する状態推定方法において、
前記ロードセルの値を用いて、当該フォースプレートの平面に沿った被検体からの剪断力と被検体の圧力中心を算出する第一演算ステップと、
当該第一演算
ステップで算出された剪断力と圧力中心を用いて、被検体の各部位の角度、角速度、角加速度、モーメントの少なくとも一つを算出する第二演算ステップと、
当該第二演算
ステップで算出された値を出力するステップと、
を備えた状態推定方法において、
前記第二演算ステップで、あらかじめ足部質量、身体部質量、フォースプレートから各関節までの高さ、足部の質量中心までの高さ、身体部の質量中心の高さをパラメーターとして演算するようにした状態推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の各部位の動き、姿勢、各関節回りのモーメントなどを推定できるようにした状態推定システムに関するものであって、より具体的には、フォースプレートに起立した状態で下半身、上半身の動きや姿勢、足関節や股関節のモーメントなどを推定できるようにした状態推定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、起立している人間の各部位の角度や位置などを推定できるようにしたシステムとして、下記の特許文献1に記載されるようなシステムなどが存在している。
【0003】
この特許文献1に記載されるシステムは、人間の左右の少なくとも一方の大腿部に装着された第一加速度センサーと、この人間の上半身に装着された第二加速度センサーとを備えてなるものであって、これら第一加速度センサーや第二加速度センサーで計測された加速度を用いて、人間の下半身の腰や膝などの関節の屈曲状態などを推定できるようにしたものである。
【0004】
また、別の従来例として、人間の姿勢を推定する場合、人間の各部位にマーキングを施し、そのマーキングをモーションキャプチャーで取得することによって、マークの変位情報から各関節の位置や各部位の動きなどを検出できるようにしたシステムもある。
【0005】
このようなシステムを用いれば、人間の足や脚、上半身などの角度や動きなどを推定することができるため、例えば、これを患者に適用した場合に、その患者のリハビリ時における回復状況などを客観的に判断することができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のようなシステムを用いて人間の各部における位置や動きなどの状態を推定する場合、次のような問題がある。
【0008】
すなわち、上述のようなシステムでは、人間の複数の部位に加速度センサーやモーションキャプチャーのためのマークを付さなければならず、加速度センサーを装着するための準備や、マークを付するための準備などに手間がかかるといった問題があった。また、加速度センサーやモーションキャプチャーを用いた場合は、身体表面の位置や加速度しか検出することができず、質量中心の変位を推定する場合、どうしても誤差を生じてしまうといった問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題に着目して、簡単かつ迅速に被検体の各部位における位置や動き、モーメントなどの状態を推定できるようにした状態推定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、複数のロードセルを備えたフォースプレートと、当該ロードセルからの出力値に基づいて、当該フォースプレートの平面に沿った被験体からの剪断力と被検体の立位状態における圧力中心を算出する第一演算部と、当該第一演算部で算出された剪断力と圧力中心を用いて、被検体の各部位の角度、角速度、角加速度、モーメントの少なくとも一つを算出する第二演算部と、当該第二演算部で算出された値を出力する出力部とを備え、前記第二演算部で、あらかじめ足部質量、身体部質量、フォースプレートから各関節までの高さ、足部の質量中心までの高さ、身体部の質量中心の高さをパラメーターとして演算するようにしたものである。
【0012】
そして、前記第二演算部で演算を行う場合、人間の矢状面における足関節のモーメントを算出する。
【0013】
そして、このように足関節のモーメントを算出した後に、矢状面における下半身と上半身の2つの質量中心の加速度と変位、速度を算出していくようにする。
【0014】
同様にして、このように矢状面における下半身と上半身の2つの質量中心の加速度と変位、速度を算出した後、股関節のモーメントを推定していくようにする。
【0015】
また、別の発明では、前記第二演算部で、前額面における足関節のモーメントを算出する。
【0016】
このとき、前額面における足関節のモーメントを算出した後に、前額面における下半身と上半身の2つの質量中心の加速度と変位、速度を算出していくようにする。
【0017】
そして、この前額面における下半身と上半身の2つの質量中心の加速度と変位、速度を算出した後、股関節のモーメントを推定していくようにする。
【0018】
また、前記フォースプレートを左右の足に対応して独立して設けることによって、下半身のモーメントを別々に求めるようにすることもできる。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明によれば、フォースプレーの剪断力と圧力中心だけで被検体の各部位の角度や角加速度、モーメントなどの状態を検出することができるため、従来のようにモーションキャプチャーのためのマークを施すことなく、簡単に被検体の状態を推定していくことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施の形態におけるフォースプレートに起立した状態を示す図
【
図3】同形態の矢状面における矢状面における1リンクモデルを示す図
【
図4】同形態の矢状面における矢状面における2リンクモデルを示す図
【
図5】同形態の前額面における状態を検出する場合の図
【
図7】従来例と本発明の矢状面における1リンクモデルの比較例
【
図8】従来例と本発明の矢状面における2リンクモデルの比較例
【
図9】従来例と本発明の矢状面における股関節モーメントの比較例
【
図10】従来例と本発明のフォースプレートを揺動させた場合における、矢状面における1リンクモデルの比較例
【
図11】従来例と本発明のフォースプレートを揺動させた場合における、矢状面における2リンクモデルの比較例
【
図12】従来例と本発明のフォースプレートを揺動させた場合における、矢状面における股関節モーメントの比較例
【
図13】従来例と本発明の前額面における1リンクモデルの比較例
【
図14】従来例と本発明の前額面における2リンクモデルの比較例
【
図15】従来例と本発明の前額面におけるモーメントの比較例
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0022】
この実施の形態における状態推定システム1は、フォースプレート2上に起立する人間の各部位の位置や速度、加速度、モーメントなどの状態(以下、「状態」と略する)を推定できるようにしたものであって、
図1や
図2に示すように、複数のロードセル4を備えたフォースプレート2と、このフォースプレート2に起立した被検体である人間からの水平面方向に沿った剪断力と、フォースプレート2上の圧力中心を算出する第一演算部5と、この第一演算部5で演算された剪断力と圧力中心を用いて、被検体の各部の角度、加速度、角加速度、モーメントなどの状態を算出する第二演算部6とを備えるようにしたものである。以下、この実施の形態における状態推定システム1について詳細に説明する。なお、この実施の形態において、説明の関係上、
図1に示すように、フォースプレート2の前後方向をX軸方向、左右方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向として説明し、被検体にX軸方向に向かって起立してもらうものとする。また、矢状面とはXZ平面、前額面とはXY平面を示すものとする。
【0023】
まず、フォースプレート2は、矩形状のプレート3の四隅下方にロードセル4を備えて構成される。このロードセル4は、図示しないひずみゲージを起歪体に貼り付けて構成されるものであって、その起歪体の変形をひずみゲージを用いて検出して、XYZ方向に作用する荷重や、そのXYZ軸回りのモーメントなどを検出できるようになっている。そして、これらのロードセル4を用いて、プレート3に作用する被検体からのXY平面に沿った剪断力や、XY平面に作用するZ軸方向からの荷重に対する圧力中心などを算出できるようになっている。また、この実施の形態では、人間を揺動させて各部位の状態の変化を検出できるようになっており、フォースプレート2の動きを検出する加速度センサーや、そのフォースプレートの移動状態を検出するためのロータリーエンコーダーなどの揺動検出手段8が設けられている。なお、ここでは、加速度センサーやロータリーエンコーダーで揺動検出手段8を構成するようにしているが、モーターでフォースプレート2を前後揺動させる場合は、このモーターへの電圧入力値を揺動検出手段8としてもよい。
【0024】
このようなフォースプレート8に起立された被検体の重心は、動作を行う瞬間において、前後方向に移動し、これに伴って足からフォースプレート2に剪断力が作用するようになる。第一演算部5では、この剪断力を算出するとともに、その被検体のZ軸方向の荷重などによって圧力中心を算出できるようにしている。このとき、剪断力を算出する場合は、四隅に設けられたロードセル4のX軸方向の荷重の合計を算出し、サンプリング時間における前後の荷重合計値の差分を剪断力として算出する。一方、圧力中心を算出する場合は、四隅に設けられたロードセル4のZ軸方向の荷重を検出し、圧力中心の座標を未知数として、モーメントの釣り合い式を用いて圧力中心の座標を算出していく。そして、このように算出された剪断力や圧力中心を第二演算部6に出力する。
【0025】
第二演算部6では、この剪断力や圧力中心を用いて、まず、矢状面における被検体の足関節の角度や角加速度、足関節に作用するモーメントを算出する。これらの値を算出するに際して、事前に被検体の足部の質量、身体部の質量、身体部の質量中心まわりの慣性モーメント、足関節の地面からの高さ、足部の質量中心の高さ、足関節から身体部質量中心までの長さをパラメーターとして入力しておくものとする。これらのパラメーターは、被検体から直接測定してもよいし、あるいは被検体の身長や体重から過去の統計値を用いて推測してもよい。
【0026】
これらのパラメーターや剪断力、圧力中心を用いて、矢状面における足と脚の関節の角度や角加速度、足関節に作用するモーメントを算出する場合、
図3の1リンクモデルを用いて、次のようにして算出する。
【0027】
<矢状面における状態>
【0028】
まず、足部におけるX方向、Z方向、および、足関節まわりのモーメントは、次の数1によってそれぞれ算出される。なお、パラメーターとして、mfを足部質量、mbを身体部質量、Jbを身体部質量中心まわりの慣性モーメント、Lfを足関節の高さ、lfを足部質量中心の高さ、l1を足関節から下半身質量中心までの長さ、Mを被検体の体重とする。
【0029】
【0030】
一方、身体部におけるX方向、Z方向、および、足関節まわりのモーメントは、次の数2によってそれぞれ算出される。
【0031】
【0032】
そして、上記数1と数2の第一式(X軸方向の釣り合い式)の和より、次の数3が得られる。
【0033】
【0034】
また、上記数1と数2の第三式(モーメントの釣り合い式)の和より、次の数4が得られる。
【0035】
【0036】
これらの数3と数4の右辺はすべてパラメーターや計測値であり、左辺は算出対象となる足関節の角度と角加速度の連立1次方程式になる。そして、これを解くことにより、数5や数6のように足関節の角加速度と角度を得ることができる。
【0037】
【0038】
【0039】
また、足関節に作用するモーメントについては、数1の第三式(モーメントの釣り合い式)より、床反力に作用する力(Z軸方向の力)のみから数7のようにして求められる。
【0040】
【0041】
次に、このように算出された足関節の角度、角加速度、モーメントから、今度は、
図4に示す2リンクモデルを用いて被検体の下半身、上半身の状態を算出していく。
【0042】
人間の下半身、上半身のそれぞれの角度や角加速度、あるいは、下半身と上半身の関節部分である股関節回りのモーメントを算出する場合、次のようにして算出する。なお、ここでは、パラメーターとして、mfを足部質量、m1、m2をそれぞれ下半身および上半身の質量、J1、J2を下半身および上半身の各質量中心まわりの慣性モーメント、Lfを足関節の高さ、lfを足部質量中心の高さ、l1を足関節から下半身質量中心までの長さ、L1を足関節から股関節の長さ、l2を股関節から上半身質量中心までの長さとする。これらのパラメーターは、同様に被検体の身長や体重などを用い、過去の統計値などから推定されるものとする。
【0043】
パラメーターや剪断力、圧力中心、および、数5から数7を用いて算出された足関節の角度、角加速度、足関節まわりのモーメントを用い、2リンクモデルである
図4のように、下半身のX軸方向の釣り合い式、Z軸方向の釣り合い式、足関節まわりのモーメントは、次の数8のように成立する。
【0044】
【0045】
一方、上半身におけるX軸方向の釣り合い式、Z軸方向の釣り合い式、足関節まわりのモーメントは、次の数9のように成立する。
【0046】
【0047】
そして、数1や数8、数9の第一式(X軸方向の釣り合い式)の和より、X軸方向の運動方程式が数10のように得られる。
【0048】
【0049】
一方、数1や数8、数9の第二式(Z軸方向の釣り合い式)の和より、Z軸方向の運動方程式が数11のように得られる。
【0050】
【0051】
ここで、Mは被検体の体重を示すものである。そして、数1や、数8、数9の第三式(モーメントの釣り合い式)に数11を代入すると、回転に関する運動方程式が、数12のように得られる。
【0052】
【0053】
ここで、
図3と
図4のリンクモデルの質量中心は、次の数13のように表される。
【0054】
【0055】
この関係を数12の左辺第3項と第4項に代入すると、次の数14のようになる。
【0056】
【0057】
この数14の右辺第1項は数6で推定していると仮定すると、数10と数14の右辺はすべて既知であり、これらは、下半身の角加速度と上半身の角加速度の2元連立1次方程式となる。そして、これを解くことにより、下半身と上半身の角加速度が得られ、このように得られた角加速度を積分することによって下半身と上半身の角度がそれぞれ計算される。
【0058】
このように
図4の2リンクモデルの角加速度と角度が算出できた場合、股関節まわりのモーメントは、数1と数8の第三式の和に数1と数8の第一式から算出したR
hxを代入することにより、次の数15で表される。
【0059】
【0060】
このように、上半身と下半身の角加速度および角度を推定することができれば、数15により自動的に股関節まわりのモーメントNhを得ることができるようになる。
【0061】
そして、このように算出された、足関節や下半身、上半身の角加速度、角速度、モーメントなどを出力し、被検体の状態を判断できるようにする。なお、このような値を算出する場合、フォースプレートが加速している場合は、揺動検出手段8で検出された方向の加速度などを考慮して算出していく。
【0062】
<前額面における状態>
【0063】
次に、前額面(XY平面)におけるモデルを
図5に示す。このモデルでは、身体を両足、両脚部、骨盤部、上半身の6つのセグメントに構成し、両足関節、両股関節、腰部に5つのジョイントを持つモデルとしている。ここで、(X
f,r,Z
f,r)、(X
f,l,Z
f,l)を左右足部の質量中心、(X
l,r,Z
l,r)、(X
l,l,Z
l,l)を左右脚部の質量中心、(X
p,Z
p)を骨盤部の質量中心、(X
u,Z
u)を上半身の質量中心の座標とする。身体のパラメーターとして、m
fを足部の質量、m
lを脚部質量、m
wを骨盤部の質量、m
uを上半身の質量、J
lを脚部質量中心まわりの慣性モーメント、J
uを上半身質量中心まわりの慣性モーメントとする。また、L
fを足関節の高さ、l
fを足部質量中心の高さ、l
lを足関節から脚部質量中心までの長さ、L
lを足関節から股関節までの長さ、l
pを股関節から骨盤部質量中心までの長さ、L
pを股関節から腰部ジョイントまでの長さ、l
uを腰部ジョイントから上半身質量中心までの長さとする。そして、θ
l,r、θ
l,lは鉛直軸からみた両脚部の姿勢角度、θ
uを上半身の角度とする。
【0064】
両足のスタンス幅は、股関節幅wと一致すると仮定し、両脚部は常に平行で角度は等しいと仮定する。これにより、θ
l=θ
l,r=θ
l,lとなる。また、膝関節による上下動はなく、姿勢角の変化は微小であるとする。これにより、線形システムと考えることができ、各関節ジョイントには、
図5に示すような拘束力とモーメントが作用していると考える。
【0065】
このような前提のもとで、左右の足、左右の脚、骨盤、上半身は次の数16の関係式が成立する。
【0066】
【0067】
次に、各セグメントの運動方程式をフリーボディダイアグラムに基づいて求める。ただし、以下の式では、セグメントの水平加速度は、数16より支持面加速度と各セグメントの角加速度に変換する。また、左右の脚部姿勢角は常に等しいと仮定しているため、角度および角加速度も同じとして計算する。
【0068】
これにより、右足部の水平方向、鉛直方向、モーメントの式は次の数17でそれぞれ示される。
【0069】
【0070】
同様に、左足部の水平方向、鉛直方向、モーメントの式は次の数18でそれぞれ示される。
【0071】
【0072】
同様に、右脚部の水平方向、鉛直方向、モーメントの式は次の数19でそれぞれ示される。
【0073】
【0074】
同様に、左脚部の水平方向、鉛直方向、モーメントの式は次の数20でそれぞれ示される。
【0075】
【0076】
同様に、骨盤部の水平方向、鉛直方向、モーメントの式は次の数21でそれぞれ示される。
【0077】
【0078】
同様に、上半身の水平方向、鉛直方向、モーメントの式は次の数22でそれぞれ示される。
【0079】
【0080】
上記式に基づいて、床反力と姿勢の関係式を順に示す。まず、数17から数22の第一式(水平方向の関係式)より、Y軸に関する並進運動の運動方程式は次のようになる。
【0081】
【0082】
ここで、Mは体重を示し、Ry=Ry,r=Ry,lとする。次に、数17から数22の第二式(鉛直方向の関係式)より、Z軸に関する力の釣り合いは次のようになる。
【0083】
【0084】
次に、回転に関する運動方程式を示す。式の整理のために、Rhy,r、Rhy,l、Rhz,r、Rhz,l、が必要となるので、まず、数17と数19の第一式より、Rhy,rを得る。
【0085】
【0086】
同様に、数18と数20の第二式より、Rhy,lを得る。
【0087】
【0088】
数17と数19の第二式より、Rhz,rを得る。
【0089】
【0090】
数18と数20の第二式より、Rhz,lを得る。
【0091】
【0092】
また、Rwyも必要になるので、数17から数21の第一式より次式を得る。
【0093】
【0094】
回転に関する式の総和として、数17から数22の第三式の総和を計算し、Rhy,r、Rhy,l、Rhz,r、Rhz,lの部分に数25から数28を代入すると、次式が得られる。
【0095】
【0096】
ここで、mb=M-2mfは身体部の質量である。1リンクモデルと2リンクモデルの質量中心の関係より、次式が成り立つ。
【0097】
【0098】
そして、これを数30に代入すると、次式が得られる。
【0099】
【0100】
これにより、
図3の1リンクモデルの姿勢角θ
bが既知の場合、数23と数32の連立1次方程式を解くことで上半身および下半身の角速度を求めることができる。また、身体が床面から受けるモーメントはN
sであり、プレートが一枚である場合は、計測されたX軸まわりのモーメントM
xを反転させたものになり、N
s=-M
xとなる。
【0101】
一方、フォースプレートが2枚の場合は、次式で表される。
【0102】
【0103】
ここで、wはスタンス幅、Rz,r、Rz,lは圧力中心を左右の足の仮想的な中心一から相対変位で表したものである。Yp1、Yp2はそれぞれのフォースプレートの圧力中心、Rz1、Rz2は垂直反力、hは2枚のフォースプレートの原点間の距離である。この添字1は右足、添字2は左足のフォースプレートの出力値を示す。
【0104】
数23と数30がこの2リンクモデルの基礎式となる。これを1リンクモデルとするために拘束条件を与えると次式が得られる。
【0105】
【0106】
【0107】
以上の通り、前額面においても矢状面と同じ理論で展開することができる。すなわち、矢状面の1リンクモデルの運動方程式である数3と数4が、前額面の1リンクモデルの運動方程式である数34と数35に対応しており、矢状面における2リンクモデルの運動方程式である数10と数12が、前額面の2リンクモデルの運動方程式である数23と数30に対応する。
【0108】
<前額面の関節モーメントの推定>
【0109】
次に、フォースプレート2に基づく姿勢推定の結果を用いて、前額面の関節モーメントの推定を行う。フォースプレート2が一枚の場合は、「下半身モーメント(両股関節・両足関節モーメントの和)」と「腰部まわりのモーメント」が推定できる。一方、片足ずつ2枚のフォースプレートで計測する場合には、「左足関節モーメント」「右足関節モーメント」「左股関節モーメント」「右股関節モーメント」「腰部まわりのモーメント」の5つのモーメントが推定できる。
【0110】
まず、左右の足関節モーメントは、数17と数18のそれぞれの第三式の和から次のように求められる。
【0111】
【0112】
【0113】
また、右股関節モーメントは、数17と数19のそれぞれの第三式の和を計算し、Rhy,r、Rhz,rの部分に数25と数29を代入すると、次のようになる。
【0114】
【0115】
左股関節モーメントは、数18と数20のそれぞれの第三式の和で計算できる。
【0116】
【0117】
このように2枚のフォースプレート2があれば、左右の関節モーメントを独立に推定することができる。
【0118】
次に、左右の足関節トルクの和は、数36と数37の和から次のようになる。
【0119】
【0120】
また、左右の股関節トルクの和は、数38と数39の和から次のようになる。
【0121】
【0122】
数40と数41では、左右のフォースプレート2の垂直反力の差Rz,r-Rz,lが必要となるため、股関節と足関節を区別して計算することができない。一方、下半身全体のモーメントτlは数40と数41の差より、
【0123】
【数42】
となるので、こちらは1枚のフォースプレート2の計測から推定することができる。
【0124】
最後に腰部まわりのモーメントを求める。この計算では、数17から数21の第一式の和で次式が得られる。
【0125】
【0126】
数17から数21の第三式の計算をしたうえで、数43を代入すると、次式のようになる。
【0127】
【0128】
こちらも1枚のフォースプレート2の計測値によって計算することができるようになる。
【0129】
次に、このように構成された状態推定システム1を用いて、人間の各部における角度、角加速度、モーメントなどを推定していく方法について、
図6のフローチャートを用いて説明する。
【0130】
まず、事前に被検体である人間の身長や体重などを計測しておき、演算に必要な各パラメーターを算出しておく。そして、その状態でフォースプレート2に起立してもらい、プレート3の四隅に設けられたロードセル4を用いて、プレート3の平面に沿った剪断力や、プレート3にかかる圧力中心を第一演算部5を用いて算出する(ステップS1)。
【0131】
そして、このように既知数であるパラメーターや剪断力を用いて、矢状面である1リンクモデルの足関節の角加速度や角度、足関節に作用するモーメントを数5、数6、数7を用いて求める(ステップS2)。
【0132】
次に、このように足関節の角加速度や角度、モーメントが算出できた状態で、次に2リンクモデルを用いて、下半身や上半身の角加速度、角度、股関節のモーメントなどを数10、数14、数15から求める(ステップS3)。
【0133】
今度は、このように算出された1リンクモデルの角度θbを用い、数23や数32を用いて前額面における角加速度を求め、これを積分することにより角度を求める。また、身体が床面から受けるモーメントは、圧力中心におけるX軸まわりのモーメントであるため、Ns=-Mxとなり、フォースプレート2が2枚の場合は、数33からモーメントが求められる(ステップS4)。
【0134】
そして、最後に前額面の関節モーメントを数39、数39、数42、数44を用いて算出する(ステップS5)。このように矢状面の1リンクモデルから2リンクモデル、また、前額面におけるモデルの順に計算をしていき、各部の角加速度、角度、モーメントを算出して出力する(ステップS6)。
【0135】
このように上記実施の形態によれば、複数のロードセル3を備えたフォースプレート2と、当該ロードセル3からの出力値に基づいて、当該フォースプレート2の平面に沿った被検体からの剪断力と被検体の立位状態における圧力中心を算出する第一演算部5と、当該第一演算部5で算出された剪断力と圧力中心を用いて、被検体の各部位の角度、角速度、角加速度、モーメントの少なくとも一つを算出する第二演算部6と、当該第二演算部6で算出された値を出力する出力部7とを備え、前記第二演算部6で、あらかじめ足部質量、身体部質量、フォースプレートから各関節までの高さ、足部の質量中心までの高さ、身体部の質量中心の高さをパラメーターとして演算するようにしたので、フォースプレート2の剪断力と圧力中心だけから人間の各部の状態を検出することができ、従来のようにモーションキャプチャーのマークなどを施すことなく、簡単に被検体の状態を推定していくことができるようになる。
【実施例1】
【0136】
上述のフォースプレートのみを用いた状態方法による結果と、従来例であるモーションキャプチャーとフォースプレートを用いて検出した結果の比較例を示す。実証実験においては、30秒間計測で行い、モーションキャプチャーで計測された値を太線、上記実施の形態で推定された値を細線で示す。サンプリング周波数は、ともに100Hzとし、モーションキャプチャーで計測された角速度および角加速度の算出は、数値微分により行った。被検体として、身長180cm、体重73kgの男性に静止床面に起立してもらった。
【0137】
図7の上から順に矢状面における1リンクモデルの角度、角速度、角加速度を示す。
図7からわかるようにモーションキャプチャーで計算された値と近似していることがわかる。
【0138】
また、2リンクモデルの角度、角速度、角加速度を
図8に示す。同様に、
図8においても、モーションキャプチャーで計算された値と近似していることがわかる。
【0139】
さらに、股関節まわりのモーメントを
図9に示す。
図9においても、モーションキャプチャーで計算された値と近似していることがわかる。
【0140】
次に、フォースプレートに振動装置を備えて揺動実験を行った場合の実証結果を示す。フォースプレートの揺動は、0.1Hzから1.0Hzの間で複数の揺動波形を重ね合わせて不規則に揺動させるようにした。
【0141】
この
図10に示すように、1リンクモデルにおいても、従来のモーションキャプチャーを用いた手法と近似していることが分かり、2リンクモデル(
図11)や股関節モーメント(
図12)においても非常に近似していることが分かった。
【0142】
一方、前額面の実証実験を行った。この場合も同様にモーションキャプチャーとの比較例を示す。1リンクモデルによる値を
図13、2リンクモデルによる値を
図14、関節モーメントの値を
図15に示す。これらの値から分かるように、フォースプレートのみを用いた推定方法によっても、モーションキャプチャーによる推定と非常に近似していることが分かった。
【符号の説明】
【0143】
1・・・状態推定システム
2・・・フォースプレート
3・・・プレート
4・・・ロードセル
5・・・第一演算部
6・・・第二演算部
7・・・出力部
8・・・揺動検出手段