(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】発がん抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4166 20060101AFI20220927BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220927BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220927BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20220927BHJP
【FI】
A61K31/4166
A61P35/00
A61P43/00 111
A23L33/10 ZNA
(21)【出願番号】P 2019525440
(86)(22)【出願日】2018-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2018022333
(87)【国際公開番号】W WO2018230537
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2017115610
(32)【優先日】2017-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】000231796
【氏名又は名称】日本臓器製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 倫弘
(72)【発明者】
【氏名】黒川 友理絵
(72)【発明者】
【氏名】藤井 元
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真吾
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-227377(JP,A)
【文献】特開2002-121132(JP,A)
【文献】KOKURA S. et al.,Carcinogenesis due to Free Radicals and Carcinogenesis Preventive Effects of Ginkgo Leave Extracts,Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition,2006年,Vol.38,p.69-71,Summary、69ページ左欄14行-右欄3行
【文献】LEVO Y. et al.,HYDANTOIN IMMUNOSUPPRESSION AMD CARCINOGENESIS,Clinical & Experimental Immunology,1975年,Vol.19,No.3,p.521-527,SUMMARY,525ページ3-11行、Table 4,522ページ「Hydantoin or solvent treatment」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61P
A23L 33/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-ヒドロキシ-1-メチルヒダントイン及びその薬学的に許容される塩
からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する
、ポリープ形成抑制により発がんを抑制するための発がん抑制剤。
【請求項2】
5-ヒドロキシ-1-メチルヒダントイン及びその薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも一種を有効成分として含有する、消化管がんの発がん抑制剤。
【請求項3】
前記消化管がんが大腸がんである、請求項
2に記載の発がん抑制剤。
【請求項4】
発がん抑制が細胞増殖関連因子の発現制御によるものである請求項1~
3のいずれか一項に記載の発がん抑制剤。
【請求項5】
前記細胞増殖関連因子の発現制御がc-Myc、CDK4又はcyclinD1の発現抑制である請求項
4に記載の発がん抑制剤。
【請求項6】
医薬組成物である請求項1~
5のいずれか一項に記載の発がん抑制剤。
【請求項7】
医薬組成物が経口剤である請求項
6に記載の発がん抑制剤。
【請求項8】
食品組成物である請求項1~
5のいずれか一項に記載の発がん抑制剤。
【請求項9】
食品組成物が健康食品又はサプリメントである請求項
8に記載の発がん抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容される塩の新規な医薬用途に関するものであり、具体的にはヒダントイン誘導体及びその薬学的に許容される塩の少なくとも1種を有効成分として含有する発がん抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な社会の高齢化、食生活の欧米化、喫煙習慣等の要因により、日本をはじめ世界のがん患者数は今後も増加していくことが予想されている。世界保健機関(WHO)が取りまとめた「世界がん報告書2014」によると、世界のがん患者数は、2012年時点の1400万人から、毎年増加し続け、2025年には1900万人、2035年には2400万人に達すると推定されている。一方で、がんの治療には、外科療法、放射線療法、化学療法、温熱療法、免疫療法、光線力学療法等の様々な治療法が用いられているが、未だにどのようながんでも完全に治癒する治療法というものは存在しない。がん治療が上手くいったとみえても、外科手術の場合は切除しきれなかったがん細胞が、化学療法や放射線療法等の場合は一旦縮小したがん細胞が、再び同じ又は近くの場所で増殖することがある(以下「再発」という。)。また、元の場所とは別の場所に同じがんが出現することもある(以下「転移」という。)。こうしたことから、あらゆるがんを完全に治療することは、現在においても不可能な状況である。そのため、特にがんの治療を困難にしている再発や転移を防止する有効な手段の出現が医療現場において強く期待されている。
【0003】
上述したようなことから、近年、がん発生後の治療とは別に、がんの発生を予防する、あるいはがんが発生する可能性を低減するという発がん抑制の観点が重要視されている。最もよく知られている発がん抑制手段は、禁煙や食事の改善等の生活習慣の見直しである。例えば、1996年にハーバード大学のがん予防センターから発表されたアメリカ人のがん死亡の原因では、喫煙が30%、食事も同じく30%にのぼるとされている。他方、ビタミン剤や薬剤等を積極的に服用する化学予防(Chemoprevention)の有用性が検討されている。化学予防の対象としては、がんになる可能性の高いハイリスク・グループ、例えば、喫煙者、遺伝的あるいは職業的にがんになる可能性の高い人、大腸ポリープ等の前がん病変のある人、がん治療を一旦終了した人等が挙げられる。このような化学予防には、有効性が証明されることはもちろん、副作用のリスクが低いことが、採用されるための条件である。また、化学予防が、日常生活で手軽に服用あるいは経口摂取できる薬剤あるいは食品(例えば、サプリメントや健康食品等)によって可能であるなら、非常に簡便で好ましい。優れたがん化学予防が実現すれば、がんの発生を危惧する者や、がんの再発・転移に怯える患者にとって、すばらしい福音となることは間違いない。また、がん化学予防の普及は、がんの治療成績(延命効果)を大きく向上させると共に、度重なる手術の回避、高額な抗がん剤の処方等が不必要になることによる医療費の低減、がん患者が継続して就労できることによる社会的損失の抑制に資するものと考えられる。
【0004】
このがん化学予防のための薬剤開発において、ドラッグリポジショニング(Drug repositioning)という考え方が注目されてきている。ドラッグリポジショニングとは、ヒトでの安全性や体内動態等が既に確立あるいは確認されている既存薬や開発途上薬から、従来知られているのとは別の新たな薬効を見つけ出し、実用化につなげていこうとする研究手法をいう。市販されヒトでの使用実績があることや、臨床レベルにおける安全性や体内動態が確認されていることによる「確実性」と、多くの既存データを使用できる「低コスト性」が薬剤開発の上で最大の利点である。
【0005】
これまでに世界中で行われてきたがんの研究によって、発がん初期に関わる因子や、それら因子が関わる重要なシグナル伝達経路についても、多くのことが解明されてきている。シグナル伝達経路に関連性が高い前がん症状として、「炎症」、「酸化ストレス」及び「未分化性の維持」が挙げられ、これらはある特定の転写因子を介した転写調節により特徴付けられるとされている。従って、これら転写調節を制御することが発がん抑制につながる可能性が考えられ、抗炎症物質や抗酸化物質が発がん抑制剤の候補物質になり得ることが期待された。実際に、これまでに国際がん研究機関(IARC)では、スリンダック、インドメタシン等の抗炎症剤や、β-カロテン、レチノイン酸等の抗酸化剤について、がん予防効果の有無が評価されてきた。しかし、残念ながら、これら評価された物質の中に、現時点において、がん予防効果があるとの十分な科学的根拠を備えているものはほとんどない。
【0006】
本発明発がん抑制剤の有効成分であるヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容される塩(以下「本化合物」ともいう。また、本願において、単に「化合物」という場合でも、その薬学的に許容される塩を含むことがある。)は、本願の出願人である日本臓器製薬株式会社において植物生長調整作用を有する新規物質として見い出された。その後の研究によって、本化合物は、血糖低下作用や脂質低下作用等の薬理作用を有し、且つ低毒性で副作用がほとんど無いことが報告されている(特開昭57-114578号、特開昭60-188373号、特開昭61-122275号、特開昭62-45525号、特開昭62-14号、特開平1-75473号、特開平1-299276号公報等)。また、本化合物の更に別の医薬用途について、尿毒症毒素低下剤(特開平3-72463号公報)、難治性血管炎治療剤(特開2000-212083号公報、低アルブミン血症改善剤(特開2002-241283号公報)、慢性腎臓病の進行抑制又は改善剤(国際公開WO2015/129750号公報))としての特許出願も行われ、その効果が開示されている。
なお、本化合物は慢性腎臓病治療薬としての開発のための臨床試験において、ヒトでの高い安全性が確認されている。
【0007】
ところで、特許文献1には、本化合物が活性酸素・フリーラジカル消去剤として有用であることが開示されている。上述したとおり、発がん抑制に抗酸化物質が有効となり得る可能性は知られていた。しかしながら、実際には、抗酸化物質ならば必ず発がん抑制効果を奏するというわけではなく、一部の抗酸化物質のみにしか発がん抑制効果が確認されていないというのが現状である。また、発がん抑制効果を奏した抗酸化物質でも、抗酸化作用に基づいてではなく、抗炎症作用や酵素阻害作用により発がん抑制効果を奏したこともわかってきているものもある。そうした抗酸化物質は、上述した「炎症」、「酸化ストレス」及び「未分化性の維持」の前がん症状のうち、「酸化ストレス」ではなく、「炎症」や「未分化性の維持」に関与して、前がん症状からがんへの進展を抑制したものと考えられる。
【0008】
特許文献1には、本化合物が発がん抑制効果を有することについては何らの記載も示唆もされていない。上述したとおり、いわゆる抗酸化剤として知られている物質であっても、発がん抑制効果を奏するとは限らないないことがわかっている。また、抗酸化剤以外にも抗炎症剤や酵素阻害剤等の様々な物質が発がん抑制剤の候補物質となり得るところ、当該物質が実際に発がん抑制効果を有すること、加えてそれが経口投与又は摂取が可能で、副作用リスクが低い物質であることは非常に稀なことである。本化合物は後述するように、そのようないくつもの条件を満たす優れた発がん抑制剤になり得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、がんの初発・再発・転移を含め、がん発生を予防し又は発生の可能性(確率)を低下させる(本願において「発がん抑制」という。)効果があり、且つ副作用リスクが低く、経口投与又は摂取可能な発がん抑制剤を提供することにある。本発明発がん抑制剤は、特に、発がんリスクの高い人や、がんの治療中や治療後の患者に投与し又は摂取してもらうことにより、がんの発生、再発又は転移を抑制することを可能とするものである。その剤形としては、服用(経口投与)できる薬剤や経口摂取できるサプリメント等の食品が最も好ましいものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、がんの化学予防剤について鋭意研究を重ねているものである。今回、下記一般式(I)で表されるヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容される塩(本化合物)を用い、家族性大腸腺腫症モデルのMinマウスに経口投与する薬理試験を行ったところ、本化合物は、腸管上皮粘膜組織及びそのポリープ部位における細胞増殖関連因子c-Myc、CDK-4及びcyclinD1の発現を抑制し、当該ポリープ部位において細胞増殖能を抑制することが確認された。また、当該Minマウスの腸管上皮粘膜組織における抗酸化関連因子Gpx2の発現が促進されることも確認された。一方、本化合物は、ラジカル発生剤である過酸化水素(H2O2)を処置した際にヒト大腸がん細胞HCT-116で産生されるReactive Oxygen Species(ROS)を消去して、Keap1-Nrf2経路の転写調節系に変化をもたらすことが認められた。これらのことから、本発明者らは、本化合物が優れた発がん抑制作用を有することを実験的に確認した。
【0012】
一方で、本化合物は、過去の研究において、ラットやイヌ等の動物ではもちろんのこと、ヒトでの安全性も確認されており、がん化学予防剤として重視すべき副作用リスクが低いという条件にも合致している。さらに、これまでにROS消去剤として有用性が認められているものには、剤形として静脈注射剤のものしか存在しなかったが、本化合物は経口投与において有効な作用を示したことから、投与・摂取の点で格段に利便性が高いものである。このようなことから、本発明発がん抑制剤は、医薬品としてだけでなく、食品(健康食品、サプリメント等)としても使用できる可能性がある。なお、本発明発がん抑制剤は、ヒトのみならず、動物(特に哺乳動物)に使用することも可能であり、本発明発がん抑制剤はヒト用のものには限られない。以上のことから、本発明者らは、本化合物が優れた発がん抑制剤になり得ることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下のような事項に関するものであるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0013】
(1)下記一般式(I)で表されるヒダントイン誘導体及びその薬学的に許容される塩の少なくとも一種を有効成分として含有する発がん抑制剤。
【化1】
〔式中、R
1及びR
2は各々同一又は異なって、水素、アルキル、シクロアルキル又は1若しくは2のハロゲン、ニトロ、アルキル若しくはアルコキシで置換されていてもよいベンジルを表し、X及びYは各々同一又は異なって、水素、カルボキシ、アルキル又はアルコキシを表す。〕
(2)R
1及びR
2は各々同一又は異なって、水素又は炭素数1~3のアルキルを表し、X及びYは各々同一又は異なって、水素、カルボキシ又は炭素数1~3のアルコキシを表す前記(1)に記載の発がん抑制剤。
(3)R
1が炭素数1~3のアルキルで、R
2が水素である前記(1)又は(2)に記載の発がん抑制剤。
(4)R
1が炭素数1~2のアルキルで、R
2が水素である前記(1)~(3)のいずれかに記載の発がん抑制剤。
(5)R
1がメチルで、R
2が水素である前記(1)~(4)のいずれかに記載の発がん抑制剤。
(6)X及びYの一方が水素で、他方がカルボキシである前記(1)~(5)のいずれかに記載の発がん抑制剤。
(7)発がん抑制がポリープ形成抑制によるものである前記(1)~(6)のいずれかに記載の発がん抑制剤。
(8)発がん抑制が抗酸化関連因子の発現制御によるものである前記(1)~(7)のいずれかに記載の発がん抑制剤。
(9)発がん抑制がGpx2の発現促進によるものである前記(8)に記載の発がん抑制剤。
(10)発がん抑制がROSの消去によるものである前記(1)~(9)のいずれかに記載の発がん抑制剤。
(11)発がん抑制が細胞増殖関連因子の発現制御によるものである前記(1)~(10)のいずれかに記載の発がん抑制剤。
(12)発がん抑制がc-Myc、CDK4又はcyclinD1の発現抑制によるものである前記(11)に記載の発がん抑制剤。
(13)消化管がんの発がん抑制剤である前記(1)~(12)のいずれかに記載の発がん抑制剤。
(14)大腸がんの発がん抑制剤である前記(13)に記載の発がん抑制剤。
(15)医薬組成物である前記(1)~(14)のいずれかに記載の発がん抑制剤。
(16)経口剤である前記(15)に記載の発がん抑制剤。
(17)注射剤である前記(15)に記載の発がん抑制剤。
(18)食品組成物である前記(1)~(14)のいずれかに記載の発がん抑制剤。
(19)健康食品又はサプリメントである前記(18)に記載の発がん抑制剤。
【0014】
(20)前記(1)~(6)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体及びその薬学的に許容できる塩の少なくとも一種の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む発がん抑制方法。
(21)発がん抑制がポリープ形成抑制によるものである前記(20)に記載の発がん抑制方法。
(22)発がん抑制が抗酸化関連因子の発現制御によるものである前記(20)又は(21)に記載の発がん抑制方法。
(23)発がん抑制がGpx2の発現促進によるものである前記(22)に記載の発がん抑制方法。
(24)発がん抑制がROSの消去によるものである前記(20)~(23)のいずれかに記載の発がん抑制方法。
(25)発がん抑制が細胞増殖関連因子の発現制御によるものである前記(20)~(24)のいずれかに記載の発がん抑制方法。
(26)発がん抑制がc-Myc、CDK4又はcyclinD1の発現抑制によるものである前記(25)に記載の発がん抑制方法。
(27)消化管がんの発生を抑制する前記(20)~(26)のいずれかに記載の発がん抑制方法。
(28)大腸がんの発生を抑制する前記(27)に記載の発がん抑制方法。
(29)ヒダントイン誘導体及びその薬学的に許容できる塩の少なくとも一種からなる医薬組成物を投与する前記(20)~(28)のいずれかに記載の発がん抑制方法。
(30)医薬組成物が経口剤である前記(29)に記載の発がん抑制方法。
(31)医薬組成物が注射剤である前記(29)に記載の発がん抑制方法。
(32)ヒダントイン誘導体及びその薬学的に許容できる塩の少なくとも一種からなる食品組成物を投与する前記(20)~(28)のいずれかに記載の発がん抑制方法。
(33)食品組成物が健康食品又はサプリメントである前記(32)に記載の発がん抑制方法。
【0015】
(34)発がん抑制に使用するための、前記(1)~(6)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(35)発がん抑制がポリープ形成抑制によるものである前記(34)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(36)発がん抑制が抗酸化関連因子の発現制御によるものである前記(34)又は(35)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(37)発がん抑制がGpx2の発現促進によるものである前記(36)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(38)発がん抑制がROSの消去によるものである前記(34)~(37)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(39)発がん抑制が細胞増殖関連因子の発現制御によるものである前記(34)~(38)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(40)発がん抑制がc-Myc、CDK4又はcyclinD1の発現抑制によるものである前記(39)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(41)消化管がんの発生を抑制する前記(34)~(40)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(42)大腸がんの発生を抑制する前記(41)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(43)医薬組成物である前記(34)~(42)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(44)医薬組成物が経口剤であるである前記(43)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(45)医薬組成物が注射剤である前記(43)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(46)食品組成物である前記(34)~(42)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
(47)食品組成物が健康食品又はサプリメントである前記(46)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩。
【0016】
(48)発がん抑制剤を製造するための、前記(1)~(6)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(49)発がん抑制がポリープ形成抑制によるものである前記(48)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(50)発がん抑制が抗酸化関連因子の発現制御によるものである前記(48)又は(49)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(51)発がん抑制がGpx2の発現促進によるものである前記(50)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(52)発がん抑制がROSの消去によるものである前記(48)~(51)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(53)発がん抑制が細胞増殖関連因子の発現制御によるものである前記(48)~(52)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(54)発がん抑制がc-Myc、CDK4又はcyclinD1の発現抑制によるものである前記(53)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(55)消化管がんの発がん抑制剤である前記(48)~(54)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(56)大腸がんの発がん抑制剤である前記(55)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(57)発がん抑制剤が医薬組成物である前記(48)~(56)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(58)医薬組成物が経口剤であるである前記(57)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(59)医薬組成物が注射剤である前記(57)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(60)発がん抑制剤が食品組成物である前記(48)~(56)のいずれかに記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
(61)食品組成物が健康食品又はサプリメントである前記(60)に記載のヒダントイン誘導体又はその薬学的に許容できる塩の使用。
【発明の効果】
【0017】
本化合物は、後述する薬理試験において、ポリープ形成や細胞増殖関連因子の発現に対して優れた抑制効果を示した。また、本化合物は安全性が非常に高く、経口投与や摂取で効果を奏することから、医薬品や食品の剤形で化学予防を可能とする、極めて有用性が高い発がん抑制剤になり得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、コントロール群と1000ppm被験物質投与群のマウス小腸粘膜のポリープ部位におけるPCNA免疫染色の結果を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、下記一般式(I)で表されるヒダントイン誘導体及びその薬学的に許容される塩の少なくとも一種を有効成分として含有する発がん抑制剤に関する。
【化2】
〔式中、R
1及びR
2は各々同一又は異なって、水素、アルキル、シクロアルキル又は1若しくは2のハロゲン、ニトロ、アルキル若しくはアルコキシで置換されていてもよいベンジルを表し、X及びYは各々同一又は異なって、水素、カルボキシ、アルキル又はアルコキシを表す。〕
【0020】
前記一般式(I)の置換基において、アルキルとは、いかなるものであってもよいが、好ましくはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、t-ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、オクチル、イソオクチル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ステアリル等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、より好ましくは炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、さらに好ましくは炭素数1~3の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。
【0021】
前記一般式(I)の置換基において、シクロアルキルとは、いかなるものであってもよいが、好ましくは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル等の炭素数3~8のシクロアルキル基を表し、より好ましくは炭素数5又は6のシクロアルキル基を表す。
【0022】
前記一般式(I)の置換基において、アルコキシとは、いかなるものであってもよいが、好ましくはメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、t-ブトキシ、ペントキシ、ヘキソキシ等の炭素数1~6の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基を表し、より好ましくは炭素数1~3の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表す。
【0023】
前記一般式(I)の置換基において、ハロゲンとは、いかなるものであってもよいが、好ましくはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等を表す。
【0024】
本化合物の一般的な製造方法及び製造例は、特開昭61-122275号公報及び特開昭62-145068号公報等に開示されている。以下に本化合物の例を示す。以下、それぞれの化合物を呼ぶ場合には、化合物番号を用いる。
【0025】
ヒダントイン〔化合物1〕
1-メチルヒダントイン〔化合物2〕
3-メチルヒダントイン〔化合物3〕
1-エチルヒダントイン〔化合物4〕
1-プロピルヒダントイン〔化合物5〕
1-ブチルヒダントイン〔化合物6〕
1-t-ブチルヒダントイン〔化合物7〕
1-ヘキシルヒダントイン〔化合物8〕
1-(1,3-ジメチルブチル)ヒダントイン〔化合物9〕
1-デシルヒダントイン〔化合物10〕
1-ステアリルヒダントイン〔化合物11〕
1,3-ジメチルヒダントイン〔化合物12〕
1,5-ジメチルヒダントイン〔化合物13〕
3,5-ジメチルヒダントイン〔化合物14〕
1-シクロペンチルヒダントイン〔化合物15〕
1-シクロヘキシルヒダントイン〔化合物16〕
1-シクロヘキシル-3-メチルヒダントイン〔化合物17〕
3-シクロヘキシルヒダントイン〔化合物18〕
1,3-ジシクロヘキシルヒダントイン〔化合物19〕
5-ヒドロキシヒダントイン〔化合物20〕
【0026】
5-ヒドロキシ-1-メチルヒダントイン〔化合物21〕
5-ヒドロキシ-3-メチルヒダントイン〔化合物22〕
5-ヒドロキシ-1-エチルヒダントイン〔化合物23〕
5-ヒドロキシ-1-プロピルヒダントイン〔化合物24〕
5-ヒドロキシ-1-ブチルヒダントイン〔化合物25〕
5-ヒドロキシ-1-t-ブチルヒダントイン〔化合物26〕
5-ヒドロキシ-1-ヘキシルヒダントイン〔化合物27〕
5-ヒドロキシ-1-(1,3ジメチルブチル)ヒダントイン〔化合物28〕
5-ヒドロキシ-1-デシルヒダントイン〔化合物29〕
5-ヒドロキシ-1-ステアリルヒダントイン〔化合物30〕
5-ヒドロキシ-1-シクロペンチルヒダントイン〔化合物31〕
5-ヒドロキシ-1-シクロヘキシルヒダントイン〔化合物32〕
5-ヒドロキシ-1-シクロヘキシル-3-メチルヒダントイン〔化合物33〕
5-ヒドロキシ-1,3-ジメチルヒダントイン〔化合物34〕
5-ヒドロキシ-1,5-ジメチルヒダントイン〔化合物35〕
5-ヒドロキシ-3,5-ジメチルヒダントイン〔化合物36〕
5-ヒドロキシ-1,3-ジシクロヘキシルヒダントイン〔化合物37〕
5-メトキシヒダントイン〔化合物38〕
5-メトキシ-1-メチルヒダントイン〔化合物39〕
5-メトキシ-3-メチルヒダントイン〔化合物40〕
【0027】
5-メトキシ-1-エチルヒダントイン〔化合物41〕
5-メトキシ-1-プロピルヒダントイン〔化合物42〕
5-メトキシ-1-ブチルヒダントイン〔化合物43〕
5-メトキシ-1-シクロヘキシルヒダントイン〔化合物44〕
5-メトキシ-3-シクロヘキシルヒダントイン〔化合物45〕
5-エトキシ-ヒダントイン〔化合物46〕
5-エトキシ-1-メチルヒダントイン〔化合物47〕
5-エトキシ-3-メチルヒダントイン〔化合物48〕
5-エトキシ-1-エチルヒダントイン〔化合物49〕
5-エトキシ-1-プロピルヒダントイン〔化合物50〕
5-エトキシ-1-ブチルヒダントイン〔化合物51〕
5-プロポキシ-ヒダントイン〔化合物52〕
5-プロポキシ-1-メチルヒダントイン〔化合物53〕
5-プロポキシ-3-メチルヒダントイン〔化合物54〕
5-プロポキシ-1-エチルヒダントイン〔化合物55〕
5-プロポキシ-1-プロピルヒダントイン〔化合物56〕
5-プロポキシ-1-ブチルヒダントイン〔化合物57〕
5-ブトキシ-ヒダントイン〔化合物58〕
5-ブトキシ-1-メチルヒダントイン〔化合物59〕
5-ブトキシ-3-メチルヒダントイン〔化合物60〕
【0028】
5-t-ブトキシ-ヒダントイン〔化合物61〕
5-t-ブトキシ-1-メチルヒダントイン〔化合物62〕
5-t-ブトキシ-3-ブチルヒダントイン〔化合物63〕
5-ヒドロキシ-1-ベンジルヒダントイン〔化合物64〕
5-ヒドロキシ-1-(2-フルオロベンジル)ヒダントイン〔化合物65〕
5-ヒドロキシ-1-(3-フルオロベンジル)ヒダントイン〔化合物66〕
5-ヒドロキシ-1-(4-フルオロベンジル)ヒダントイン〔化合物67〕
5-ヒドロキシ-1-(2-クロロベンジル)ヒダントイン〔化合物68〕
5-ヒドロキシ-1-(4-クロロベンジル)ヒダントイン〔化合物69〕
5-ヒドロキシ-1-(4-ブロモベンジル)ヒダントイン〔化合物70〕
5-ヒドロキシ-1-(3-ニトロベンジル)ヒダントイン〔化合物71〕
5-ヒドロキシ-1-(4-ニトロベンジル)ヒダントイン〔化合物72〕
5-ヒドロキシ-1-(2-メチルベンジル)ヒダントイン〔化合物73〕
5-ヒドロキシ-1-(3-メチルベンジル)ヒダントイン〔化合物74〕
5-ヒドロキシ-1-(4-メチルベンジル)ヒダントイン〔化合物75〕
5-ヒドロキシ-1-(2-メトキシベンジル)ヒダントイン〔化合物76〕
5-ヒドロキシ-1-(3-メトキシベンジル)ヒダントイン〔化合物77〕
5-ヒドロキシ-1-(4-メトキシベンジル)ヒダントイン〔化合物78〕
5-ヒドロキシ-1-(3,4-ジメトキシベンジル)ヒダントイン〔化合物79〕
5-ヒドロキシ-1-(3,4-ジクロロベンジル)ヒダントイン〔化合物80〕
【0029】
本化合物は、前記一般式(I)で表される塩を包含し、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、臭化水素酸、リン酸、過塩素酸、チオシアン酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸、ハロ酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、グルコン酸、乳酸、マロン酸、フマル酸、アントラニル酸、安息香酸、ケイ皮酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、スルファニル酸等との酸との付加塩、あるいはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属又はアルミニウム、亜鉛等との金属との塩などが挙げられる。これらの塩は公知の方法により遊離のヒダントイン誘導体より製造でき、あるいは相互に変換することができる。
【0030】
本化合物においてシス-トランス体、光学異性体、配座異性体等の立体異性体が存在する場合、あるいは水和物や錯化合物の状態で存在する場合においても、本発明はそのいずれの立体異性体、水和物、錯化合物をも包含する。例えば、本化合物の5-ヒドロキシ-1-メチルヒダントインはヒダントイン環の5位が不斉炭素であるため光学異性体が存在し、S体とR体の2種のエナンチオマーがあるが、本発明は、これらS体、R体及びこれらの混合物を包含する。さらに、本化合物の5-ヒドロキシ-1-メチルヒダントインはI型とII型の結晶多形が存在することが知られているが、本化合物は、それら結晶も含めて、形成されうる各種の結晶形(結晶多形)を包含する。
【0031】
本化合物は、適当な医薬用の担体若しくは希釈剤と適宜組み合わせて医薬とすることができる。錠剤、カプセル剤、粉末剤、液剤等の経口剤の他、所望により皮下、静脈内、筋肉内、直腸内、鼻腔内投与用の非経口剤としても製剤化できる。しかし、上述のとおり、本発明発がん抑制剤として投与・摂取する場合、剤形は経口剤が好ましい。
処方にあたっては、本化合物をその薬学的に許容される塩の形で用いてもよく、本化合物を単独で若しくは適宜組み合わせて用いることができ、又、他の医薬活性成分との配合剤としてもよい。
【0032】
経口剤としては、そのままあるいは適当な添加剤、例えば乳糖、マンニット、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、クエン酸カルシウム等の慣用の賦形剤と共に、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、アラビアゴム、トウモロコシデンプン、ゼラチン等の結合剤、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤、タルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤、その他増量剤、湿潤化剤、緩衝剤、保存剤、香料等を適宜組み合わせて錠剤、散剤、顆粒剤あるいはカプセル剤とすることができる。
【0033】
注射剤としては、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖注射液等の水性溶剤、又は植物油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸エステル、プロピレングリコール等の非水性溶剤の溶液、懸濁液若しくは乳化液とすることができ、必要に応じ溶解補助剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定剤、保存剤等の通常用いられる添加剤を適宜加えてもよい。
さらに疾患の種類や患者に応じて、その治療に最適な上記以外の剤型、シロップ剤、坐剤、吸入剤、エアゾール剤、点眼剤、外用剤(軟膏剤、ゲル剤、貼付剤など)等に製剤化することができる。
【0034】
また、本化合物自体又は他の成分との混合により、健康食品、サプリメントとしても用いることができる。混合する他の成分としては、混合により変性しないものであれば特に限定はなく、食品や飲料等が挙げられる。食品や飲料としては特に制限はないが、例えば、チョコレート、ガム、ヨーグルト、清涼飲料、コーヒー、紅茶、アルコール飲料、ビスケット、パン、ゼリー等が挙げられる。
【0035】
食品又は飲料の製造においては、必要に応じて種々の物質を添加することが可能である。例えば、しょ糖、果糖、ブドウ糖等の糖類、キシリトール、エリスリトール等の糖アルコール、アミノ酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、フラボノイド、カテキン等の抗酸化物質の他、ゼラチン、ビタミン類、色素、香料、カルシウム剤、グリセリン脂肪酸エステル、ペクチン等、食品の通常の製造で用いられる任意の物質を適宜配合して用いることができる。
【0036】
本発明発がん抑制剤は、がんを発症していない人の予防のみではなく、がん治療後の再発の予防や、がん治療中の人の転移の予防に有用である。例えば、本発明発がん抑制剤の投与の対象としては、がんになる可能性の高いハイリスク・グループ、例えば、喫煙者、遺伝的や職業的にがんになる可能性の高い人、大腸ポリープ等の前がん病変のある人、がん治療を一旦終了した人等が挙げられる。
【0037】
本発明発がん抑制剤の適用範囲としては、各種悪性及び良性腫瘍、例えば、黒色腫、リンパ腫、消化器がん、肺がん、食道がん、胃がん、大腸がん(直腸がんと結腸がん)、尿管腫瘍、胆嚢がん、胆管がん、乳がん、肝臓がん、膵臓がん、睾丸腫瘍、上顎がん、舌がん、口唇がん、口腔がん、咽頭がん、卵巣がん、子宮がん、前立腺がん、甲状腺がん、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、皮膚がん、基底細胞がん、皮膚付属器がん、皮膚転移がん、皮膚黒色腫等が挙げられるが、特に大腸がん(直腸がんと結腸がん)等の抑制に有効である。また、本発明の発がん抑制剤は、悪性腫瘍のみでなく、良性腫瘍の予防にも効果を呈する。
【0038】
本発明発がん抑制剤は、人間(ヒト)はもちろん、他の動物、特にがんを発生することが知られているあらゆる哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、キツネ、ネコ、ウサギ、イヌ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル等)にも有用であり、医薬品又は食品として、これらの動物にも投与し又は摂取させることが可能である。
【0039】
本化合物の望ましい投与量は、投与対象、剤形、投与方法、投与期間等によって変わるが、所望の効果を得るには、一般にヒトの場合、成人に対して有効成分量で1日に1~10000mg、好ましくは50~5000mg、より好ましくは100~3000mg経口投与することができる。非経口投与(例えば注射剤)の場合は一般的に経口投与より少量で効果が期待できるため、例えば前記の経口投与量の3~10分の1の用量レベルで十分と考えられる。
【実施例】
【0040】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0041】
試験例1: 腸管ポリープ形成の評価
(1)実験動物の群編成及び被験物質の投与
実験動物として、家族性大腸腺腫症モデルであるC57BL/6-ApcMin/+マウス(Min マウス)を用いた。MinマウスはApc(Adenomatous polyoisis coli)遺伝子変異マウスで、経時的にポリープ数の増加が認められる。また、Minマウスは、脂質異常症を発症すると共に、高酸化ストレス状態にあることが知られている。5週齢の雄性Min マウスを、温度24±2℃、湿度55%、明暗サイクル12時間に設定した実験室で、プラスチックケージ(235×325×170H mm)で1ケージ最大6匹を飼育し順化させた。なお、フィルター水、基礎飼料(AIN-76A:日本クレア株式会社)は自由に摂取させた。
【0042】
実験動物は各群の体重が一定になるように、1群あたり10匹として、コントロール群、500ppm被験物質投与群及び1000ppm被験物質投与群に無作為に振り分けた。コントロール群には基礎飼料のみを、500ppm被験物質投与群及び1000ppm被検物質投与群には各々500及び1000 ppm濃度の被験物質(化合物21)の混餌飼料を8週間与えた。投与期間中の有意な摂餌量差及び体重差は各群間で見られず、被験物質の1日摂取量は500ppm被験物質投与群及び1000ppm被験物質投与群で各々1.5mg及び3mgと算出された。
【0043】
(2)腸管ポリープ数の測定
各群のマウスは13週齢時に麻酔下で屠殺し、開腹後、腸管を摘出しホルマリンで固定した。小腸は近位部(胃の幽門から長さ約4cmの部分;十二指腸)、中位部及び遠位部に分け、大腸も合わせた4部分について実体顕微鏡を用いてポリープ数を計測し、各群の平均値を算出した。結果の一例を表1に示す。
なお、小腸近位部のポリーブ部位及びポリープを形成していない部位(以下「非ポリープ部位」という。)の粘膜は解剖時に摘出及びスクレープし、試験例2及び3で使用するまで-80℃にて凍結保存した。
【0044】
【0045】
表1に示されるとおり、500ppm被験物質投与群及び1000ppm被験物質投与群は、コントロール群と比較して、ポリープの総数がいずれも約17%減少し、小腸中位部のポリープ数は各々約37%及び29%減少した。このように、本化合物は優れたポリープ形成抑制効果を示した。
【0046】
試験例2:腸管粘膜のポリープ部位における細胞増殖能の評価
試験例1で摘出したコントロール群及び1000ppm被験物質投与群のマウス小腸粘膜のポリープ部位より調製したホルマリン固定パラフィン包埋切片を、キシレンに5分間×3回浸して脱パラフィンした。その後、99.5%アルコールに5分間×3回浸して、親水性を増加させた後、蒸留水に10分間浸した。次に、本切片を0.3%過酸化水素を含むメタノール溶液に30分間浸し、内因性ペルオキシダーゼの失活処理を行った。さらに、本切片に2%ウマ血清を含む0.3%トリトン〔登録商標〕X-100溶液(0.3%トリトンを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS))を1 mL加え、30分間ブロッキングを行った。
【0047】
本切片に100倍希釈した抗マウス増殖細胞核抗原(PCNA)抗体(Calbiochem〔登録商標〕)を加え、4℃で1晩、1次抗体反応を行った。PBSで5分間×3回洗浄した後、2次抗体として、ビオチン標識抗マウスIgG抗体(H+L)(Vector Laboratories社)を用い、標識2次抗体反応を行い、その後、PBSで5分間×3回洗浄した。染色は3,3'-ジアミノベンジジン (DAB) 液と過酸化水素を用いて行った。また、対比染色(核染色)はヘマトキシリンで行った。核染色後、蒸留水で洗浄して反応を停止し、100%エタノールで5分間×3回処理後、キシレンで3回処理し、封入した。光学顕微鏡を用いてコントロール群と1000ppm被験物質投与群のスライドの陽性反応を比較観察した。また、各群の顕微鏡視野内の全細胞数に対するPCNA抗体陽性細胞数の割合を算出した。結果の一例を
図1及び表2に示す。
【0048】
【0049】
PCNAは細胞周期のG1期(Gap1:DNA合成準備期)後期からS期(Synthesis:DNA合成期)に発現する細胞増殖関連タンパク質であり、いわゆる細胞増殖マーカーと称される。細胞増殖マーカーの発現が高いほど、増殖能が盛んなことを示し、悪性度も高くなると考えられている。本試験において、試験例1のコントロール群及び1000ppm被験物質投与群のマウスから摘出した小腸ポリープ部位粘膜のPCNA抗体陽性細胞数を測定した結果、
図1及び表2に示される通り、コントロール群と比較して、1000ppm被験物質投与群では、茶色(
図1では濃い灰色)に染まったPCNA抗体陽性細胞が減少していた。なお、薄紫色(
図1では薄い灰色)を呈しているのは核染色された細胞である。このことから、本化合物は増殖能が亢進している細胞に対して、増殖抑制効果を示すことが認められた。
【0050】
試験例3:腸管粘膜及びポリープ部位における細胞増殖関連因子の発現レベルの評価
(1) 腸管ポリープ部位及び非ポリープ部位からのmRNA抽出及びcDNA合成
試験例1でスクレープしたコントロール群及び1000ppm被験物質投与群のマウス小腸粘膜のポリーブ部位及び非ポリープ部位に、DNAse(Invitrogen社)処理をした500μLの TRIsol (Invitrogen社) を加え、100μLのクロロホルムを添加・混和後、遠心(12000 rpm、2分間)して、上清を回収した。回収した上清に、250μLのエタノールを添加し、カラム(QIAGEN社)を用いてRNAを抽出・精製した。
cDNAはHigh-Capacity cDNA Reverse Transcription Kits (Applied Biosystems社)を用いて、1μgのトータルRNAより作製した。
また、PCR反応液はcDNAとSYBR Green Realtime PCR Master Mix(東洋紡績株式会社)を用いて、総量が20μLとなるように調製した。
【0051】
(2)増殖関連因子発現レベルの評価
上記(1)で抽出したトータルRNAから合成したcDNAを用いて、細胞増殖関連因子〔c-Myc、CDK4及びcyclinD1〕のmRNA発現量をrealtime-PCR法により測定した。なお、ポリープ部位については、c-MycのみのmRNA発現量を測定した。
各細胞増殖関連因子のPCRプライマーとして、c-Myc〔Forward:GCCCGCGCCCAGACAGGATA(配列番号1)、Reverse:GCGGCGGCGGAGAGGA(配列番号2)〕、CDK4〔Forward:ATGGCTGCCACTCGATATGAA(配列番号3)、Reverse:TGCTCCTCCATTAGGAACTCTC(配列番号4)〕及びcyclinD1〔Forward: TGACTGCCGAGAAGTTGTGC(配列番号5)、Reverse:CTCATCCGCCTCTGGCATT(配列番号6)〕を使用した。また、realtime-PCR装置は MJ Research DNA Engine OPTICON 2 System(MJ Research社)を用いた。PCR反応は、94℃で15分間加熱し、cDNAをリニアにした後、熱変性(94℃、20秒間)、アニーリング(60℃、30秒間)及び伸長反応(72℃、30秒間)の工程を総計39サイクル行った。得られた各測定値を内部標準のグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子の測定値で割って相対量を算出した。次いで、1000ppm被験物質投与群の相対量をコントロール群の相対量で割り、コントロール群に対する1000ppm被験物質投与群の各遺伝子発現量比を算出した(各群n=3)。結果の一例を表3及び表4に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
表3及び表4に示されるとおり、本化合物は、Minマウスの小腸ポリープ部位及び非ポリープ部位のいずれにおいても、細胞増殖関連因子の発現を抑制した。これにより、本化合物は細胞増殖関連因子の発現を抑制することによって、発がん過程にある細胞の増殖を抑制することが確認された。
【0055】
試験例4:本化合物の安全性の評価
(1)試験方法
健常成人男性(21歳~24歳)の8例(被験物質投与6例、プラセボ投与2例)を対象として、本化合物を反復経口投与し、安全性を評価した。被験物質(化合物21)は、1回400mgの用量で、投与1及び7日目は1日1回朝空腹時、投与2~6日目は1日3回空腹時(9時、14時、19時)に、それぞれ150mLの水とともに経口投与した(投与回数計17回)。
(2)結果
いずれの症例にも、本化合物との関連が疑われる臨床症状はなく、血圧、脈拍、体温、血液学的検査、血液生化学的検査及び尿検査にも、本化合物との関連が疑われる異常変動は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明発がん抑制剤は、薬理試験において、ポリープ形成や細胞増殖関連因子の発現に対して優れた抑制効果を示した。その上、本発明発がん抑制剤は、安全性が非常に高く、また経口投与で効果を奏することから、がんの発生、再発、転移のリスクのあるヒトその他の動物に医薬品や食品等として利用可能な化学予防剤として、極めて有用性が高いものである。
【配列表】