(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】金属ガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/08 20060101AFI20220927BHJP
F02F 11/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
F16J15/08 F
F02F11/00 L
(21)【出願番号】P 2018225967
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000230423
【氏名又は名称】日本リークレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】和田 一耶
(72)【発明者】
【氏名】平山 信一
(72)【発明者】
【氏名】末吉 昭則
(72)【発明者】
【氏名】村岡 良介
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0013145(US,A1)
【文献】米国特許第06062573(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/08
F02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドとシリンダブロックの間に装着して用いられ、1枚の金属基板を備える金属ガスケットであって、
それぞれ形状が異なるシリンダヘッドの接合面のオイル孔とシリンダブロックの接合面のオイル孔とを共に取り囲む環状のシールラインを形成す
るハーフビードと、該ハーフビードの内側で前記シリンダヘッドのオイル孔と前記シリンダブロックのオイル孔とを連通させるオイル連通孔と、前記ハーフビードの内側で前記オイル連通孔を複数に分割するように設けられるブリッジ部とを有し、
前記ブリッジ部に、前記シリンダヘッドの接合面又は前記シリンダブロックの接合面に当接する面圧調整ビードが設けられていることを特徴とする金属ガスケット。
【請求項2】
前記面圧調整ビードが、前記シリンダヘッドの接合面に当接するように構成されている、請求項1に記載の金属ガスケット。
【請求項3】
前記面圧調整ビードは、前記ハーフビードの突出方向とは逆方向に突出している、請求項1または2に記載の金属ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関(エンジン)のシリンダブロックとシリンダヘッドとの間に装着されて、燃焼ガスのリーク及び冷却水や潤滑油等の液体のリークを防止する金属ガスケットに関し、特に、シリンダボア孔シール用のフルビードと冷却水孔及びオイル孔シール用のハーフビードとを備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用等の内燃機関におけるシリンダヘッドとシリンダブロックとの間には金属ガスケットが装着され、シリンダボア孔からの高圧の燃焼ガスのリークを防止するとともに、冷却水孔や潤滑油孔等の液体孔からの冷却水や潤滑油(オイル)等の液体のリークを防止するようにしている。
【0003】
近年では、内燃機関の高出力化に伴って燃焼ガス圧力も高圧化しており、これに対応するために種々の金属ガスケットが開発されている。例えば特許文献1には、シリンダボア孔シール用のフルビードと液体孔シール用のハーフビードとを備えた1枚の金属基板と1枚の段差調整板とを有する金属ガスケットであって、そのシリンダボア孔側のフルビードに重ねて段差調整板を固定して、フルビード側とハーフビード側での厚さを相違させるようにした金属ガスケットが記載されている。この金属ガスケットによれば、シリンダブロックとシリンダヘッドとの間に金属ガスケットを装着してシリンダヘッドを締付ボルトで締め付けたときに、ハーフビード側よりも段差調整板が重ねられたフルビード側により大きな締付け力が加えることができるので、フルビードの面圧をハーフビードの面圧よりも大幅に高めて、フルビードの圧縮を促進し、燃焼ガスのリークに対するシール性能を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フルビード側にのみ段差調整板を使用して燃焼ガスのシール性を安定化させた場合、ハーフビード側の圧縮が弱まる傾向がある。特に、シリンダヘッドボルトの内側に位置する水孔用のハーフビードと異なり、シリンダヘッドボルトの外側に位置するオイル孔用のハーフビードにおいては、シール性が低下し易い。
【0006】
ここで特許文献1に記載された金属ガスケットは、オイル孔の形状は円形もしくはオーバル形であり、かつ、オイル孔を取り囲むハーフビードはオイル孔の内縁に沿って略均等に配置され、また締付ボルト孔の近傍に配置されており、その結果オイル孔を取り囲むハーフビードのシール面圧は良好で、シール性の不安につながるような面圧の不均衡が発生することは稀であり、少なくともオイルシールへの不安は比較的少なかった。
【0007】
しかしながら、金属ガスケットに形成された複数のオイル孔の形状が円形やオーバル形ではなく、比較的複雑な形状をしている場合には、締付け時のハーフビードの圧縮が不均衡になり、その結果シール面圧が不均衡となりオイルシールが不十分となる虞がある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関のエンジンオイルシール用のハーフビードのシールラインが比較的複雑で、更に締付ボルト孔から遠く一部の面圧が不均衡の状態であっても、ハーフビードの発生面圧を平均化してオイルのシール機能を十分に発揮し得る金属ガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金属ガスケットは、シリンダヘッドとシリンダブロックの間に装着して用いられ、1枚の金属基板を備える金属ガスケットであって、
それぞれ形状が異なるシリンダヘッドの接合面のオイル孔とシリンダブロックの接合面のオイル孔とを共に取り囲む環状のシールラインを形成するハーフビードと、該ハーフビードの内側で前記シリンダヘッドのオイル孔と前記シリンダブロックのオイル孔とを連通させるオイル連通孔と、前記ハーフビードの内側で前記オイル連通孔を複数に分割するように設けられるブリッジ部とを有し、
前記ブリッジ部に、前記シリンダヘッドの接合面又は前記シリンダブロックの接合面に当接する面圧調整ビードが設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明の金属ガスケットは、前記面圧調整ビードが、前記シリンダヘッドの接合面に当接するように構成されていることが好ましい。
【0011】
本発明の金属ガスケットは、前記面圧調整ビードは、前記ハーフビードの突出方向とは逆方向に突出していることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内燃機関のエンジンオイルシール用のハーフビードのシールラインが比較的複雑で、更に締付ボルト孔から遠く一部の面圧が不均衡の状態であっても、ハーフビードの発生面圧を平均化してオイルのシール機能を十分に発揮し得る金属ガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態である金属ガスケットを示す平面図である。
【
図3】
図1に示す金属ガスケットのD2部の拡大図である。
【
図6】
図4に示す金属ガスケットの断面の部分拡大図である。
【
図7】参考例としての金属ガスケットの部分拡大図である。
【
図8】
図3のE1-E1線における断面図であり、シリンダヘッドとシリンダブロックの間に取り付けた状態を現している。
【
図9】実施例および比較例サンプルに用いた金属基板の平面図である。
【
図10】実施例Jおよび比較例Cサンプルのシール限界値確認結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に例示説明する。
図1は、本発明の一実施形態としての金属ガスケットGを示す平面図である。
【0015】
金属ガスケットGは、1枚の金属板からなる金属基板G1を備え、
図8に示すように、内燃機関のシリンダブロック31とシリンダヘッド32との間に挟まれるように装着されて、燃焼ガス、並びに冷却水及び潤滑油(オイル)等の液体のリーク(漏出)を防止するためのものである。本実施形態の金属ガスケットGは、特にオイル孔シール用のハーフビードの改良に関し、当該ハーフビードの発生面圧不均衡の改善を図るものである。
【0016】
金属基板G1は、複数のシリンダボア孔1と、シリンダボア孔1を各々取り囲む燃焼ガスシール用のフルビード8とを有する。また、金属基板G1は、シリンダヘッド32に設置された複数の冷却水孔2及び、冷却水孔2に合うようにシリンダブロック31に設置されたウォータージャケット(W・J)の外縁全体を取り囲むように1本の連続線で構成された冷却水孔2シール用のハーフビード9と、複数のオイル孔3のシール用のハーフビード10と、カムシャフト駆動用チェーン通過孔であるチャンバ孔4シール用のハーフビード11とを有する。
【0017】
ここで、本願発明に関する比較的複雑な形状を持つオイル連通孔6は、本願平面図の
図1に示したD2部分に配置されている。また、シール用のハーフビード12は、ブリッジ部7で分割(区画形成)された複数のオイル連通孔6とブリッジ部7とを包含して同時に取り囲む様態で、1本の環状の連続線で構成される。また、
図4に示すように、ブリッジ部7には、ハーフビード12の突出方向と突出方向が逆になるように面圧調整ビード13が加工されている。
【0018】
上記で構成された金属基板G1に、燃焼ガスシール用フルビード8に金属基板G1より薄い金属板で構成された段差調整板14をあてがったのち、ランスロックと称されるプレスによるかしめ手法で両金属板(G1、14)をウォータージャケット内で複数の固定部15で一体化したガスケットである。
【0019】
図2は、
図1内に於ける断面矢視線D1-D1部の断面図で、金属ガスケットGのボア孔1、ボア孔シール用のフルビード8、水孔シール用のハーフビード9、及び段差調整板14及び固定部15との相互関係を表わしている。
【0020】
ここで、比較のために、参考例としてのオイル孔シール部の設計について説明する。内燃機関(エンジン)のシリンダヘッド32接合面のオイル孔72、73とシリンダブロック31接合面のオイル孔71の形状が、同形状、同位置とはなっていない場合、両オイル孔(72、73及び71)を同時にシールする為には、両孔(72、73及び71)を同時に囲繞する1本のシールラインでビードを設定する必要がある。
図7は、
図1のD2部に相当する部分の参考例としての形態を示しており、オイル孔全域に渡ってブリッジ部7及び面圧調整ビード13が加工されていない形態を表している。
【0021】
図7に示す金属ガスケット100において、シリンダヘッド32の接合面(デッキ面)に設定された2個のオイル孔72、73(実線)と、シリンダブロック31の接合面に設定されたオイル孔71(破線)はそれぞれ形状が大きく異なっている。こうした場合、金属基板G1に設けるオイル孔74は、通常、両方のオイル孔71及び72、73を同時に囲うように設定される。その結果、ハーフビード12は、オイル孔74の外端部にそって1本の連続線で構成され、金属基板G1に加工されたハーフビード12のシールラインは比較的複雑なシールラインを描くことになり、締付ボルト孔5の近傍に配置されている部分と違って、締付ボルトから遠い部分にはボルト軸力が伝わり難く、その結果としてシール面圧が不均衡となる問題点に繋がっていた。
図7における断面線E3-E3の断面図は、
図5の断面図に示す形状と同様となる。なお、
図5はブリッジ部7及び面圧調整ビード13の加工されていない部位を表している。
【0022】
上記の構造下ではこれ以上ハーフビード12の締付性向上を求めることは困難であることから、現行の締付性の下においてハーフビード12のシール面圧を改良することが求められた。そこで、発明者は、本願の構造においてハーフビード12の発生面圧を検討し、締付ボルト孔5から遠く、発生面圧の低い部分にのみ面圧調整が採用できないかを検討した。
【0023】
そこで発明者は、
図7の形態において、シリンダヘッド32及びシリンダブロック31両接合面の状況を確認すると、シリンダブロック31のオイル孔71は、シリンダヘッド32の接合面に開口する2個のオイル孔72、73を飲み込むように開口しているが、シリンダヘッド32のオイル孔72、73の両開口間に位置するシリンダヘッド32の接合面にはオイル孔として加工されていない平坦部75が存在することが分かった。
【0024】
そこで発明者は、シリンダヘッド32に存在する平坦部75に、
図3及び
図4のように、断面が山形形状をしたビードとなるように、且つ、突出方向の頂点部が、平坦部75に位置するようにビード加工を施すこととした。そして、このビードを面圧調整用として設定すれば、締付ボルトから遠い部分にも面圧を強く発生させることが可能ではないかと推量し、シリンダヘッドの平坦部75の位置に相当する金属基板G1にブリッジ部7を設定し、ブリッジ部7に、ハーフビード12の突出方向と逆になるようにハーフビードを加工し、面圧調整ビード13とした。
【0025】
この状況を平面図で表したのが
図3であり、金属基板G1に設けたブリッジ部7と面圧調整ビード13の関係を表していて、
図4は、
図3のE1-E1線における断面図で、ブリッジ部7と面圧調整ビード13の断面形状を表し、またブリッジ部7に加工された面圧調整ビード13とハーフビード12との関係を現している。
【0026】
ブリッジ部7に設けた面圧調整ビード13とそれに近接するハーフビード12とで形作る断面形状の詳細は
図6で、
図6の断面形状は、
図4におけるF1の詳細を示したもので、ハーフビード12の斜辺突出方向と面圧調整ビード13の斜辺突出方向が逆になるように加工されている。なお
図6は、面圧調整ビード13とハーフビード12の傾斜部及び平坦部の接線で構成される点P1、P2、P3から得られるハーフビード12の高さ12h(突出高さ)と面圧調整ビード13の高さ13h(突出高さ)、ハーフビード12の幅12wと面圧調整ビード13の幅13wを表している。
【0027】
ここで、ハーフビード12の平坦部を構成する水平線のラインをS1、底辺方向に落ち込む斜辺の線をラインS2とし、面圧調整ビード13の斜辺突出線をラインS3とし、面圧調整ビード13の水平線をラインS4とする時、前記の各ラインS1~S4の交点をそれぞれP1、P2、P3とし、ハーフビード12の幅12w及び高さ12hは、交点P1とP2の水平距離及び垂直距離で構成される。面圧調整ビード13の幅13w及び高さ13hは、交点P2とP3の水平距離及び垂直距離で構成されている。
【0028】
図8は、
図4の断面図に、シリンダヘッド32及びシリンダブロック31と、シリンダブロック31のオイル孔71、及びシリンダヘッド32の平坦部75を加えたものであって、シリンダヘッド32のオイル孔72、73に挟まれた平坦部75に該当する基板にブリッジ部7を設け、前記ブリッジ部7に面圧調整ビード13を設けられている状態を表していて、面圧調整ビード13はシリンダヘッド32の平坦部75のみに接している。なお、符号76は、シリンダブロック31の接合面の平坦部である。シリンダヘッド32とシリンダブロック31との間のオイルの移動をスムーズに行う観点から、ブリッジ部7は、シリンダヘッド32のオイル孔72、73に重ならない位置に設けられることが好ましい。
【0029】
ここで、本実施形態の作用は、シリンダヘッド32及びシリンダブロック31に挟みつけられて、締付ボルトによって金属ガスケットGが圧縮される時、面圧調整ビード13の頂点部P3にはシリンダヘッド32の平坦部75が存在するために面圧調整ビード13は、ハーフビード12と共に圧縮される。そのため、面圧調整ビード13の復元力は、オイル孔用のハーフビード12を圧縮する方向に働き、ハーフビード12の頂点部P1、P2は自己の持つ復原力と相まって確実に面圧が発生することになる。
【0030】
こうした構成をボルトの締付け軸力が伝わり難い部分に適宜ブリッジ部7を設け、そこに面圧調整ビード13を加工することによって効果が発揮され、また、ブリッジ部7以外の一本線で構成されたハーフビードは、ブリッジ部7が存在しなくても初期的に面圧が良好であった部分であり、面圧調整ビード13の存在無しで充分シール性の確保は可能であることから面圧調整ビードは必要としない。
【0031】
以上のように、本実施形態の金属ガスケットGは、シリンダヘッド32とシリンダブロック31の間に装着して用いられ、1枚の金属基板G1を備える金属ガスケットGであって、それぞれ形状が異なるシリンダヘッド32の接合面のオイル孔72、73とシリンダブロック31の接合面のオイル孔71とを共に取り囲む環状のシールラインを形成するハーフビード12と、当該ハーフビード12の内側でシリンダヘッド32のオイル孔72、73とシリンダブロック31のオイル孔71とを連通させるオイル連通孔6と、ハーフビード12の内側でオイル連通孔6を複数に分割するように設けられるブリッジ部7とを有し、ブリッジ部7に、シリンダヘッド32の接合面に当接する面圧調整ビード13が設けられている。
【0032】
上記のように、形状が違うシリンダヘッド32の接合面のオイル孔72、73とシリンダブロック31の接合面のオイル孔71とを、両者同時に1本のビードシールラインで取り囲むように構成しなければならない場合、締付ボルト孔5から遠い部分は締付ボルト軸力が伝わり難くシール面圧が不均衡となり易く、その結果、オイル孔周囲のシール性能が不安視されるところ、本実施形態によれば、シリンダブロック31の接合面のオイル孔近傍に平坦部が存在しなくても、シリンダヘッド32接合面のオイル孔近傍に平坦部75が存在する場合、金属ガスケットGに設定されたオイル連通孔6を分割するように、上記平坦部75の一部の領域に位置するようにブリッジ部7を設け、且つ、当該ブリッジ部7に面圧調整ビード13を設けることで、面圧不均衡を解消し、優れたオイル連通孔6周囲のシール性能を発揮することができる。すなわち、本発明によれば、内燃機関のエンジンオイルシール用のハーフビード12のシールラインが比較的複雑で、更に締付ボルト孔5から遠く一部の面圧が不均衡の状態であっても、ハーフビード12の発生面圧を平均化してオイルのシール機能を十分に発揮し得る金属ガスケットGを提供することができる。
【0033】
また、本実施形態の金属ガスケットGにあっては、面圧調整ビード13がシリンダヘッド32の接合面に当接する構成としたことにより、シリンダブロック31の接合面に当接させる場合に比べて、より効果的に上記のシール性能を高めることができる。
【0034】
また、本実施形態の金属ガスケットGにあっては、ハーフビード12の突出方向と逆方向に突き出すように面圧調整ビード13を設けたことにより、形状の複雑化を避けながら効果的に上記のシール性能を高めることができる。
【0035】
また、本実施形態の金属ガスケットGにあっては、ハーフビード12の高さ12hが、0.3mm以上、0.61mm以下であることが好ましく、これによれば、より確実に上記のシール性能の向上効果を発揮することができる。
【0036】
また、本実施形態の金属ガスケットGにあっては、ハーフビード12の幅12wが、1.5mm以上、2.5mm以下であることが好ましい。これによれば、ハーフビード12の剛性及び当該ハーフビード12の復元力の適切なバランスを図り、より確実に上記のシール性能の向上効果を発揮することができる。
【0037】
発明者は上記の作用効果を確認するために、面圧調整ビード13を持つ実施例Jサンプル及び面圧調整ビード13を持たない比較例Cサンプルを数種類作成して効果確認試験を行った。
【0038】
発明者は、本願金属ガスケットを実施例、比較例サンプルとして製作して効果確認試験を実施することとし、先ずオイル連通孔6、及びブリッジ部7、ハーフビード12、面圧調整ビード13で構成された実施例J及び比較例C用のサンプルを作成した。各々の実施例J、比較例C用のサンプル用金属基板91の平面図を
図9に示す。両サンプル用金属基板を用いた実施例Jサンプル及び比較例Cサンプルの作成にあたり、両サンプル用の金属基板は本願金属ガスケット用の金属板である板厚tが0.20mmのステンレス鋼板(SUS301H-CSP)の両面に軟質シール材である片面膜厚0.025mmのニトリロゴム(NBR)を両面塗布した材料を金属基板として、各々の孔も含めて
図9のサンプル形状にレーザーカットした。
【0039】
両サンプルに成形したビード形状の詳細は、
図6に示したものと同一である。上記の関係において、ハーフビード12及びブリッジ部7に面圧調整ビード13のビード加工を行った実施例サンプルをJ1~J8とし、更に、ブリッジ部7に面圧調整ビード13のビード加工を行なわず、ハーフビード12のみを加工したサンプルを比較例サンプルC1~C6とした。
【0040】
ここで、発明者は、実施例サンプルの製作にあたり面圧調整ビード13の幅13w及び高さ13hをそれぞれ、前記幅13w及び高さ13hの形状寸法は略一定になるようにセットして、本願実施例J1~J8を製作した。製作した実施例J1~J8の詳細は表1のようになっていて、幅13wは3.15mm~3.26mmの範囲のノミナル値3.2mmにおいて一定とし、高さ13hは、0.62mm~0.67mmの範囲のノミナル値0.65mm高において一定とし、ハーフビード12の幅12wは1.82mm~1.95mmの範囲のノミナル値1.8mmにおいて一定とし、ハーフビード12の高さ12hは、0.20mm~0.73mmの範囲においてJ1~J8を製作した。
【0041】
ここで、発明者は、面圧調整ビード13の有効性を探るために、比較例を製作することとし、前記でレーザーカットした金属基板G1のブリッジ部7に面圧調整ビード13を成形せずにハーフビード12のみを形成して比較例C1~C6を製作した。製作した実施例C1~C6の詳細は表1のようになっていて、幅12wは1.78mm~1.82mmの範囲のノミナル値1.8mmにおいて一定とし、高さ12hは、0.21mm~0.71mmの範囲においてC1~C6製作した。
【0042】
発明者は下記の「シール限界値性能」試験を用いて、実施例J1~J8及び比較例C1~C6の性能確認行った。
【0043】
「シール限界値性能」試験
試験方法は、シリンダヘッドに相当する上治具とシリンダブロックに相当する下治具との間に試験用の実施例J及び比較例Cを挟み、これを規定の荷重で圧縮しながらで締め付け、その後、強制的に両治具の間における締付け荷重を下げながら両治具と実施例及び比較例の間隔を広げて行く方法を採用した。
【0044】
これは、初期圧縮時からの口開き現象の量、すなわち口開き量(μm)と潤滑油のリーク(流失)の有無との関係を把握することにより、ハーフビードのシール性能の評価が可能であると推考したからである。具体的には、金属ガスケットが実機エンジンに組み込まれ、シリンダヘッドがボルトによってシリンダブロックに締め付けられているときにハーフビードに加わる圧縮荷重を調査してその上限圧縮荷重を2000kgに設定し、シール限界試験装置に用いた万能試験機の圧縮上限荷重を上記値として比較例サンプルを上治具と下治具との間に挟み込んで圧縮する。そして、万能試験機の押圧荷重が上限圧縮荷重となったときに、左右2個のギャップセンサの出力値をゼロとする。次いで、油圧発生装置の油圧を規定圧力(0.1MPa)に設定して、比較例サンプルの内部(オイル溜り)に規定圧力に加圧した油種(10W-30)のオイルを満たした後、万能試験機の押圧荷重を、上限圧縮荷重から徐々に減圧させる。万能試験機の押圧荷重を徐々に減圧させると、
上治具が上昇してハーフビードの面圧が低下し、万能試験機の押圧荷重がある値にまで低下すると、比較例サンプルと下治具との間に隙間が生じて潤滑油がハーフビードの内側から外部に流出する。この潤滑油が流出するときのギャップセンサの出力値から比較例サンプルと下治具との間の隙間(μm)を読み取り、その値を「シール限界値」とした。
【0045】
【0046】
図10に示すグラフ及び上記表1は、実施例J及び比較例Cのシール限界性能試験を行った結果である。
【0047】
従来構造である比較例C(面圧調整ビード無)は、ハーフビード12の高さ12hが、0.21mm、0.29mm、0.39mm、0.5mmまでは徐々にシール限界値が上昇するが、0.5mm(比較例C4)が限界で、本試験では、前記ハーフビード12の12wを略1.8mmとして設定した時、最良のシール性を持つビード高さ12hは比較例C4(12hが0.5mm)が限界で、これ以上のシール性は望めないことが分かった。
【0048】
一方で、ハーフビード12に面圧調整ビード13を合わせた実施例J(面圧調整ビード有)は、比較例Cよりシール性は良好で、特に、ハーフビード12の高さ12hが0.3mm(実施例J2)以上であれば、比較例C4と同等以上のシール性が得られることがわかった。
【0049】
本試験では、前記面圧調整ビード13の13wを略3.2mmとして設定した時、13wは、0.6mm(実施例J6)まで有効で、その有効度は比較例C4に対して、1.5倍以上のシール性能が得られことから、オイル孔の形状が比較的複雑で、それをシールするハーフビード12の面圧が不均衡であった場合でも、オイル連通孔6内にブリッジ部7を設け、ブリッジ部7にハーフビード12の立ち上がり方向と逆方向に面圧調整ビード13を追加することにより、ビードのシール限界性能は大きく改善することがわかった。
【0050】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0051】
例えば、上記実施形態では、面圧調整ビード13がシリンダヘッド32の接合面に当接することとしているが、シリンダブロック31の接合面に当接するようにしてもよい。
また、オイル連通孔6の形状、数は図示例に限定されず、適宜変更可能である。
また、シリンダボア孔、冷却水孔、オイル孔、ボルト孔、及びチャンバ孔の数やその配置等は特に限定されず、内燃機関を構成するシリンダヘッド及びシリンダブロックの形状等に応じて適宜変更可能である。また、シールリングの断面形状、及び平面視での形状等も適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0052】
G:金属ガスケット
G1:金属基板
1:シリンダボア孔
2:冷却水孔
3:オイル孔
4:チャンバ孔
5:締付ボルト孔
6:オイル連通孔
7:ブリッジ部
8:フルビード
9:ハーフビード
10:オイル孔シール用のハーフビード
11:チャンバ孔シール用のハーフビード
12:ハーフビード
13:面圧調整ビード
31:シリンダブロック
32:シリンダヘッド
71:オイル孔
72、73:オイル孔
74:オイル孔
75:平坦部
100:金属ガスケット