(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】CdSナノコンポジットおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 11/02 20060101AFI20220927BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20220927BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220927BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220927BHJP
【FI】
C01G11/02
C01B3/04 A
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2020025180
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】有馬 ボシールアハンマド
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0090942(US,A1)
【文献】特表2003-502148(JP,A)
【文献】SAMADI-MAYBODI Abdolraouf et al.,Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects,2014年,447,p111-119
【文献】CHANU T. Inakhunbi et al.,Chemical Physics Letters,2012年,522,p.62-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 11/02
C01B 3/04
B82Y 30/00
B82Y 40/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CdSおよびアミノ酸を含む構造を有し、
粒子径が150nm未満であ
り、
BET表面積が20~200m
2
・g
-1
である、CdSナノコンポジット。
【請求項2】
前記アミノ酸が、トリプトファン、ヒスチジンおよびフェニルアラニンよりなる群から選択される一種以上である、請求項1に記載のCdSナノコンポジット。
【請求項3】
Cd原料、S原料、およびアミノ酸を有機溶媒中に分散させて分散液を調製する工程1と、
前記分散液をソルボサーマル合成装置に入れて、1~3MPaおよび100~250℃の条件下に反応させる工程2と
を有するCdSナノコンポジットの製造方法。
【請求項4】
前記アミノ酸が、トリプトファン、ヒスチジンおよびフェニルアラニンよりなる群から選択される一種以上である、請求項
3に記載のCdSナノコンポジットの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、エチレングリコールおよびエチレンジアミンよりなる群から選択される一種以上である請求項
3または
4に記載のCdSナノコンポジットの製造方法。
【請求項6】
前記分散液中、
Cd原料とアミノ酸との割合がモル比で1.0:0.1~1.0である、請求項
3~
5のいずれか一項に記載のCdSナノコンポジットの製造方法。
【請求項7】
CdSナノコンポジットのBET表面積が20~200m
2・g
-1である、請求項
3~
6のいずれか一項に記載のCdSナノコンポジットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CdSナノコンポジットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水の分解によって水素を製造するための可視光応答型光触媒として、当初、CdSは最も注目を浴びていたが、エネルギー変換効率が低いことや光腐食などの問題によりCdS光触媒は期待外れとみなされている。このような問題点を解消して、光触媒による水素製造の効率を向上させるため、形態を制御したCdSの合成が試みられている。最近、Wangらは、硝酸カドミウム・4水和物およびチオ尿素を原料に用い、バイオ分子の一つであるL-ヒスチジンをキレート剤に用いて、簡易なテンプレートフリー水熱合成手法により、三次元(3D)花形状のCdSを合成した。花形状CdSの可視光線による光触媒活性を利用した水素生産速度は376.7μmol/hであり、純粋なCdSの水素生産速度29.2μmol/hに比べて約13倍大きくなった。Wangらの報告によると、ヒスチジンを用いることによって、ヒスチジン中の-NH、-NH2および-OHの孤立電子対により、光発生したCdSの正孔が引き寄せられ、CdSの光腐食を防止し、水素発生量が約13倍に増大することがわかっている(非特許文献1)。しかしながら、Wangらの花形状CdSは、その粒子径が大きいため、量子効率が4.35%(エネルギー変換効率(η)=約0.1%)程度に留まっており、水素製造の産業生産に必要な量子効率約50%(η=約1.0%)には届いていない。光触媒を用いた水素の産業生産のために目標とすべきエネルギー変換効率は1~5%とされている(非特許文献2)。
【0003】
これまで本発明者は、水を用いた水熱合成法により、ヒスチジンの他に、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンおよびプロリンなどのアミノ酸を添加したCdS粒子(以下CdSコンポジット)を合成してきた。しかしながら、この方法で得られるCdSコンポジットの粒子径は、1.5~5μmであり、材料の比表面積が小さく、光吸収率が低いため、エネルギー変換効率が低かった。エネルギー変換効率の向上のためには、アミノ酸を添加したCdSを微粒子化し、形状制御する工夫が必要である。
【0004】
これまでに合成したCdSナノコンポジット粒子では、光照射後2時間で水素発生量が4000μmolg-1程度まで減少し、エネルギー変換効率(η)も0.1%程度に留まっている。そのため、産業生産に必要なエネルギー変換効率1.0%に到達すべく、CdSの粒子のサイズや形状を調節し、水素を効率良く製造できる光触媒を開発することが望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Q. Wang, J. Lian, J. Li, R. Wang, H. Huang, B. Su, and Z. Lei, “Highly Efficient Photocatalytic Hydrogen Production of Flower-like Cadmium Sulfide Decorated by Histidine”, Scientific Reports, vol.5(5), p.13593 (2015)
【文献】阿部竜「光触媒による太陽光水素製造」化学と工業、vol. 69,p. 12 (2016).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、粒子の微粒子化および形状制御による比表面積の向上により、水素を効率良く発生させることができるCdSナノコンポジットおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のCdSナノコンポジットは、CdSとアミノ酸を含む構造を有し、粒子径が150nm未満である。
【0008】
本発明のCdSナノコンポジットの製造方法は、Cd原料とS原料とアミノ酸を有機溶媒中に分散させて分散液を調製する工程1と、前記分散液をソルボサーマル合成装置に入れて、1~3MPaおよび100~250℃の条件下に反応させる工程2とを有する。
【0009】
前記アミノ酸は、トリプトファン、ヒスチジンおよびフェニルアラミンよりなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
BET表面積は20~200m2・g-1であることが好ましい。
前記CdSナノコンポジットの製造方法において、有機溶媒は、エチレングリコールおよびエチレンジアミンよりなる群から選択される一種以上であることが好ましい。また、分散液中、Cd前駆体とアミノ酸との割合がモル比で1.0:0.1~1.0であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、CdSの原料に加えて、特定のアミノ酸と特定の有機溶媒とを組み合わせて使用し、ソルボサーマル反応を行うことにより、粒子径が比較的小さくなると共に粒子の形状を制御でき、水素を効率良く発生させるCdSナノコンポジットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1の白金担持CdSナノコンポジットのSEM写真である。
【
図2】
図2は、比較例1の花形状CdSのSEM写真である。
【
図3】
図3aは、実施例1の白金担持CdSナノコンポジットおよび比較例1の花形状CdSについて、可視光線の照射時間(分)に対する水素発生量(μmol)を表すグラフであり、
図3bは、実施例1~5の白金担持CdSナノコンポジットおよび比較例1の花形状CdSのそれぞれ1g当たりの水素発生量(μmol/g)を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のCdSナノコンポジットは、CdSとアミノ酸を含む構造を有し、その粒子径は150nm未満である。前記CdSナノコンポジットは、Cd原料とS原料とアミノ酸とを有機溶媒中に分散させて分散液を調製する工程1と、前記分散液をソルボサーマル合成装置に入れて、1~3MPaおよび100~250℃の条件下に反応させる工程2により製造される。
【0013】
CdSを形成するCd原料には、硝酸カドミウム(Cd(NO3)2)、酢酸カドミウム((CH3COO)2Cd)、塩化カドミウム(CdCl2)、ヨウ化カドミウム(CdI2)、臭化カドミウム(CdBr2)、炭酸カドミウム(CdCO3)および硫酸カドミウム(CdSO4)等が用いられる。これらのCd原料は、例えば、硝酸カドミウム・4水和物(Cd(NO3)2・4H2O)、酢酸カドミウム・2水和物((CH3COO)2Cd・2H2O)、塩化カドミウム・2.5水和物(CdCl2・2.5H2O)、臭化カドミウム・4水和物(CdBr2・4H2O)、硫酸カドミウム・8/3水和物((CdSO4)3・8H2O)のように、水和物の形態で存在してもよい。これらのうち、本発明では硝酸カドミウム・4水和物(Cd(NO3)2・4H2O)および酢酸カドミウム・2水和物((CH3COO)2Cd・2H2O)等が好適に用いられる。
【0014】
CdSを形成するS原料には、チオ尿素(CH4N2S)、チオアセトアミド(CH3CSNH2)、硫化ジメチル(C2H6S)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、塩化スルフリル(SO2Cl2)、チオシアン酸カリウム(KSCN)および硫化ナトリウム(Na2S)等が用いられる。これらのうち、本発明ではチオ尿素(CH4N2S)およびチオアセトアミド(CH3CSNH2)等が好適に用いられる。
【0015】
本発明で用いられるアミノ酸は、特に限定されるものではないが、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジンおよびリシンであるよりなる群から選択される一種以上であることが好ましい。
【化1】
【0016】
これらのアミノ酸のうち、分子中に芳香環を有するもの、具体的には、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンおよびヒスチジンがより好ましく、フェニルアラニン、トリプトファンおよびヒスチジンが特に好ましい。
光腐食を引き起こす原因に、反応しきれずに蓄積した正孔の存在がある。アミノ酸として、分子中に芳香環を有するものを用いることで、アミノ酸中の窒素(N)の孤立電子対と芳香環電子雲とが相互作用して電荷分離が向上し、また、アミノ酸を通して正孔が電解液や水と反応して消費されることから、光腐食が減少すると考えられる。よって、アミノ酸として、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンおよびヒスチジンを用いた場合、分子中に芳香環を有しないリシンを用いた場合と比べて、水素発生量の多いCdSナノコンポジットが得られる。
これらのアミノ酸は一種単独または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
有機溶媒は、前記したCd原料、S原料およびアミノ酸が可溶性のものであればよく、例えば、アルコール系またはアミノ系の有機溶媒が用いられる。アルコール系またはアミノ系の有機溶媒は、例えば、エチレングリコール、グリセロール、エチレンジアミンおよびプロピレングリコール等である。
【0018】
工程1では、Cd原料、S原料およびアミノ酸を有機溶媒中に分散させて分散液を調製する。Cd原料、S原料およびアミノ酸の比率(Cd原料:S原料:アミノ酸)は、好ましくは、モル比で1.0:1.0~5.0:0.1~1.0である。
【0019】
工程2では、工程1で調製した分散液を水熱合成装置に入れて、1~3MPaおよび100~250℃の条件下に加熱してソルボサーマル反応を行う。
【0020】
得られるCdSナノコンポジットは、CdSとアミノ酸の複合体である。CdSナノコンポジット粒子径は150nm以下であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは10~100nmである。本明細書では、SEM画像に映し出された粒子群の粒子1個に注目し、該粒子の幾何中心を通る直線のうち最短のものをその粒子の「粒度」とし、SEM画像からランダムに選択した50個の粒子について求めた粒度の平均値を「粒子径」とする。なお、粒子が凝集している場合であっても1個1個の粒子(一次粒子)は判別可能である。CdSおよびアミノ酸が棒(rod)状の複合体を形成している場合、粒子径は、50個の粒子の短径の平均値となる。
【0021】
CdSナノコンポジットを水素発生に有効な活性種に変えるために、通常は、該CdSナノコンポジットの表面に、共触媒として、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、酸化ニッケル(NiO)、およびルテニウム(Ru)等の共触媒を担持させる必要がある。共触媒の含有量は、CdSナノコンポジットに対して、通常0.1~10wt%である。
【0022】
本発明のCdSナノコンポジットの水素発生量は、例えば、15695~42007.5μmolg-1である。この水素発生量は、非特許文献1のCdSコンポジット粒子の水素発生量の4.1~11.08倍である。具体的には、アミノ酸にヒスチジンを使用し、有機溶媒にエチレングリコールを使用して得られるCdSナノコンポジットの水素発生量は25612.5μmolg-1であり、アミノ酸にフェニルアラニンを使用し、有機溶媒にエチレングリコールを使用して得られるCdSナノコンポジットの水素発生量は42007.5μmolg-1である。非特許文献1の花形状CdSの水素発生量が3791μmolg-1であることと比較すると、前記アミノ酸と有機溶媒とを併用することで、水素発生量はそれぞれ6.8倍および11.08倍に増加する。
【0023】
図3aは、白金を担持した、本発明のCdSナノコンポジットおよび非特許文献1の花形状CdSについて、可視光線の照射時間(分)に対する水素発生量(μmol)を表すグラフである。本発明のCdSナノコンポジットでは約6.4μmol/分で水素が発生するのに対して、非特許文献1の花形状CdSでは、水素発生量が1μmol/分に満たない。また、
図3bから本発明のCdSナノコンポジットでは、非特許文献1の花形状CdSを用いた場合に比べて、水素発生量が11.06倍まで増加していることが分かる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
(1)CdSナノコンポジットの作製
硝酸カドミウム・4水和物5mmol、チオ尿素15mmol、L-ヒスチジン1.5mmolおよびエチレングリコール50mLをビーカーに入れて1時間攪拌した後、得られた分散液をテフロン加工のオートクレーブに入れて、180℃で4時間加熱することにより、ソルボサーマル反応を行った(テフロンは登録商標)。反応物を取り出し、超純水で3回、次いでエタノールで2回洗浄した後、電気オーブンで80℃、12時間乾燥させてCdSナノコンポジットを作製した。
CdSナノコンポジットの組成は下記のとおりである。粒度分布は表1に示すとおりであり、本願明細書で定義するCdSナノコンポジットを構成する粒子の粒子径は94.3nmであった。なお、表1中、「粒度(nm)」の欄の数値は、それぞれ粒度の範囲の上限値を示している。すなわち、例えば「粒度(nm)」の欄に「50」と記載されている場合、50nm以下の粒度を意味する(以下同様)。
【0025】
【0026】
(2)CdSナノコンポジットへの白金の担持
CdSナノコンポジット500mg、1Mの水酸化ナトリウム水溶液40mLおよび0.2mMのヘキサクロロ白金水溶液2800μLを水素発生用セルに入れて5分間超音波処理を行った後、セル内をアルゴンで30分間置換した。その後、500WのUVランプで3時間照射を行った。そして、超純水で2回、エタノールで1回ろ過することにより、粗生成物を洗浄し、電気オーブンで80℃、12時間乾燥させて、CdSナノコンポジットに白金を担持した。
【0027】
X線光電子分光分析(XPS)により、CdSナノコンポジットに白金が担持されたことを確認した。エネルギー分散型X線分析(EDX)より、白金の担持量は4~5wt%であった。
【0028】
[実施例2]
(1)CdSナノコンポジットの作製
実施例1において、エチレングリコールの代わりにエチレンジアミンを用いた以外は、実施例1と同様にして、CdSナノコンポジットを作製した。
SEM画像は、CdSナノコンポジットは、棒(rod)状の粒子がさらに凝集した形態であることを示していた。CdSおよびアミノ酸からなる粒子は棒状であり、さらにこの棒状の粒子が、粒子間力により凝集して全体が球形になっていた。このCdSナノコンポジットの粒度分布は表2に示すとおりである。棒状粒子の長径の平均値は200nm、短径(粒度)の平均値(本発明における粒子径)は30nmであった。
【0029】
【表2】
また、球形の凝集体のサイズ分布を表3に示す。表3より、球形の凝集体のサイズの平均値は1335.4nmであった。
【0030】
【表3】
(2)CdSナノコンポジットへの白金の担持
実施例1と同様にして、CdSナノコンポジットに白金を担持した。
【0031】
[実施例3]
実施例1において、L-ヒスチジンの代わりにトリプトファンを用いた以外は、実施例1と同様にして、白金担持CdSナノコンポジットを作製した。
粒子径は95nmであった。
【0032】
[実施例4]
実施例1において、L-ヒスチジンの代わりにフェニルアラニンを用いた以外は、実施例1と同様にして、白金担持CdSナノコンポジットを作製した。
粒子径は95nmであった。
【0033】
[実施例5]
実施例1において、L-ヒスチジンの代わりにリシンを用いた以外は、実施例1と同様にして、白金担持CdSナノコンポジットを作製した。
粒子径は95nmであった。
【0034】
[参考例]
(1)CdSナノコンポジットの作製
実施例1において、エチレングリコールの代わりにグリセロールを用いた以外は、実施例1と同様にして、CdSナノコンポジットを作製した。
CdSナノコンポジットの組成は下記のとおりである。表4より、CdSナノコンポジットを構成する粒子の粒子径は236.3nmであった。
【0035】
【表4】
(2)CdSナノコンポジットへの白金の担持
実施例1と同様にして、CdSナノコンポジットに白金を担持した。
【0036】
[比較例1]
非特許文献1に記載の花形状CdSを用いた。花形状CdSの製造方法を以下に示す。
硝酸カドミウム・4水和物5mmol、チオ尿素15mmolおよびL-ヒスチジン1.5mmolを50mLの蒸留水に添加し、均一な分散液とした。分散液をテフロン製の100mLオートクレーブに入れて攪拌および超音波分散させた後、180℃で4時間保持した。遠心分離により沈殿物を回収し、蒸留水およびエタノールで数回洗浄した。生成物をオーブンに入れて80℃で12時間乾燥させて、花形状CdSを得た。
花形状CdSの組成は下記のとおりである。表5より、花形状CdSを構成する粒子の粒子径は655.5nmであった。
実施例1と同様にして、花形状CdSに白金を担持した。
【0037】
【表5】
図2に花形状CdSのSEM写真を示す。比較例1の花形状CdSは、本発明のCdSのナノコンポジットと異なり、大きな粒子形態を有することがわかる。
【0038】
[水素製造]
実施例1~5、参考例および比較例1で調製した白金担持CdSナノコンポジット30mgおよび電解液(Na2S 0.1M、Na2SO3 0.1M)40mLを水素発生用セルに入れ、超音波処置を1~2分間行った後、セル内をアルゴンで置換した。その後、300WのXeランプを2時間照射した。照射強度は太陽光の平均強度と同じ100mW/cm2とした。30分毎にサンプリングをして、ガスクロマトグラフで水素発生量を測定した。
【0039】
表6に水素発生量と、比較例1の花形状CdSの水素発生量に対する実施例1~5のCdSナノコンポジットの水素発生量の増大量を示す。
【0040】
【0041】
アミノ酸にフェニルアラニンを用いた実施例4の水素発生量が最も高い値を示した。実施例1~5および比較例1の結果から、水素発生量は粒子のサイズが小さいほど、多くなることがわかった。実施例1の白金担持CdSナノコンポジットが、高い水素発生量を示した理由として、結晶性が低いため、移動度は低いが、粒子が小さいために、粒子表面への移動距離が短く、移動度の低さが影響しないためと考えられる。また、粒子径が小さいので材料の比表面積が大きくなり、反応アクティブサイトの数も増えたからと考えられる。実施例2のように、棒状の粒子を形成し、長径が150nmを超えていても、短径が30nmと小さいので、水素発生量は多かった。
【0042】
図3bより、実施例1では、比較例1に比べて、水素発生量が約6.8倍に増加していた。つまり、比較例1のエネルギー変換効率0.1%に対して、実施例1におけるエネルギー変換効率は約0.68%であった。これまでに、本発明者は、比較例1のエネルギー変換効率の約11.08倍に当たる約1.108%の結果も得ている。なお、産業生成に必要なエネルギー変換効率は1.0%である。