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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】植物栽培装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/20 20060101AFI20220927BHJP
【FI】
A01G9/20 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018155705
(22)【出願日】2018-08-22
(65)【公開番号】P2019083806
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2017211988
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513026399
【氏名又は名称】三菱ケミカルインフラテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(73)【特許権者】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】横山 康晴
(72)【発明者】
【氏名】横山 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】末松 優
(72)【発明者】
【氏名】堀口 佳代
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-169536(JP,A)
【文献】特開2011-244705(JP,A)
【文献】特開2012-034660(JP,A)
【文献】特開2008-291855(JP,A)
【文献】特開2017-057969(JP,A)
【文献】特開平07-031305(JP,A)
【文献】特開2011-193864(JP,A)
【文献】登録実用新案第3022793(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0278302(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 9/14 - 9/26
A01G 31/00 - 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に複数のポットが配列されるベッドを有する植物栽培装置において、
ポット配列体の一方の側面部から他方の側面部を通るポット加温用温水チューブと、
ベッド上面に沿うベッド加温用温水チューブと
を備えてなり、
各温水チューブは圧縮強度が10N/mm以下である軟質チューブよりなり、
前記ポット配列体に沿って延在する、温水チューブを保持するための発泡合成樹脂製のホルダが設けられており、
各温水チューブは該ホルダに設けられた凹条内に配置されていることを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
前記ポット配列体の長手方向に隣り合う前記ポット同士の間に断熱性スペーサが介在されていることを特徴とする請求項に記載の植物栽培装置。
【請求項3】
前記温水チューブのうち前記ホルダから延出した部分が断熱材で被包されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の植物栽培装置。
【請求項4】
前記ベッドの長手方向の一端側に温水の往側ヘッダーと復側ヘッダーとが設けられており、前記温水チューブが該往側ヘッダーから復側ヘッダーまで継手なしで一連に配置されていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の植物栽培装置。
【請求項5】
前記ホルダは、前記ポット側の縦方向面と、底面とを有しており、
前記凹条として、該縦方向面に第1の凹条が設けられ、該底面に第2の凹条が設けられており、
該第1の凹条及び第2の凹条にそれぞれ前記温水チューブが配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の植物栽培装置。
【請求項6】
前記縦方向面に2条の前記第1の凹条が設けられ、前記底面に1条の前記第2の凹条が設けられている請求項5に記載の植物栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物栽培装置に係り、特に培地等を加温する機構を備えた植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の栽培環境温度を調節する栽培方法としてビニールハウス内の温度調節が広く行われているが、近年培地の加温を行うことも普及しつつある。
【0003】
特許文献1には、ヒートパイプが培養土に接して設置された超促成栽培システムが開示されている。特許文献2には、ヒートパイプをイチゴ株のクラウン下に配設し、局所的な加温のみでクラウンだけでなく栽培槽自体の温度を加温させるという技術が開示されている。特許文献3にはバラの株元に温水配管を配設し、株元を温水で加温することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-113613号公報
【文献】特開2012-34660号公報
【文献】特開2003-169536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献のように、ヒートパイプを株元に設置すると、株の生長にともないパイプが株元から脱落するという不具合が生じることがあった。本発明は、株元と培地の双方を加温することができ、しかも加温のための温水チューブの配設が容易であり、かつ、株が生長しても温水チューブが脱落しない植物栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の植物栽培装置は、上面に複数のポットが配列されるベッドを有する植物栽培装置において、ポット配列体の一方の側面部から他方の側面部を通るポット加温用温水チューブと、ベッド上面に沿うベッド加温用温水チューブとを備えてなり、各温水チューブは圧縮強度が10N/mm以下である軟質チューブよりなることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様では、前記ポット配列体に沿って温水チューブを保持するためのホルダが設けられており、各温水チューブは該ホルダに設けられた凹条内に配置されている。
【0008】
本発明の一態様では、前記ポット配列体の前記ポット同士の間に断熱性スペーサが介在されている。
【0009】
本発明の一態様では、前記温水チューブのうち前記ホルダから延出した部分が断熱材で被包されている。
【0010】
本発明の一態様では、前記ホルダは発泡合成樹脂製である。また、本発明の一態様では、前記ベッドの長手方向の一端側に温水の往側ヘッダーと復側ヘッダーとが設けられており、前記温水チューブが該往側ヘッダーから復側ヘッダーまで継手なしで一連に配置されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の植物栽培装置によると、培地と株元の両方を暖めることにより、生産効率を向上させることができる。例えば、収量を20%以上増大させることも可能である。
【0012】
本発明では、温水チューブを軟質チューブにて構成し、且つ往側ヘッダーから復側ヘッダーまで1本の温水チューブを一連に(即ち、継手なしに同一チューブを連続して)配設することにより、温水チューブ配設作業が平易になると共に、温水チューブ配設作業時間も短いものとなる。また、短い配管を接続する継手が不要であるため、部材コストが安価であると共に、継手の継目からの漏水もない。
【0013】
本発明の一態様では、ポット同士の間に断熱性スペーサを介在させることにより、温水チューブからの大気中への放熱が抑制される。また、温水チューブの露出部分を断熱材で被包することによっても、温水チューブからの大気中への放熱が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る植物栽培装置の栽培ベンチの正面図である。
図2】温水チューブホルダの断面図である。
図3】温水チューブホルダの斜視図である。
図4】植物栽培装置の模式的な平面図である。
図5】(a)は温水チューブホルダの断面図、(b)はその斜視図である。
図6】別の実施の形態に係る温水チューブホルダの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図1~4を参照して実施の形態について説明する。図1は植物栽培装置の栽培ベンチの正面図である。この栽培ベンチは、各種のパイプからなる支持台1を有しており、支持台1上にはベッド2が2列に配置されている。各ベッド2上には、図4に示されるように多数個のポット3が互いに所定の間隔を置いて載置されている。ポット3内の培地に植物が植えられている。ベッド2およびポット3は、例えばロックウールよりなるが、これに限定されない。
【0016】
ベッド2同士の間に培養液を流すための、合成樹脂チューブよりなる培養液主管4(図1にのみ図示)がベッド2の長手方向に延設されている。培養液は、該培養液主管4から培養液チューブ5を介して各ポット3に給液される。ポット3の底部から流出する培養液(廃液)は、ベッド2を経由して受け皿に溜まり、そこから排水パイプ(図示略)を介して系外に排出される。
【0017】
ポット3を加温するために温水チューブ6,7が配設され、ベッド2を加温するために温水チューブ8が配設されている。
【0018】
図4の通り、複数本のホルダ10(チューブ保持部材)が、各々の長手方向端部の端面同士を付き合わせて列状に配列されている。このようにして平行に配列されたホルダ10の列同士間に各ポット3が配置されている。
【0019】
ホルダ10は、略々三角柱形状であり、ポット3側の面に2条の凹条16,17が設けられ、上側の凹条16内に温水チューブ6が配置され、下側の凹条17内に温水チューブ7が配置されている。ホルダ10の底面に1条の凹条18が設けられ、温水チューブ8が該凹条18内に配置されている。
【0020】
各凹条16~18の深さは各温水チューブ6~8の直径(外径)と略同一であり、温水チューブ6~8が、各凹条16~18の入口面と略面一状となるように構成されている。
【0021】
この実施の形態では、ホルダ10は、合成樹脂発泡成形体(例えばEPS(発泡ポリスチレン))をつなぎ合わせてなる。合成樹脂発泡成形体の長さは、射出成形や押出成形で一度に成形出来る長さであれば特に制限はないが、長さ30~300cm特に40~100cm程度である。なお、EPSは白色であるため、虫除けの効果も奏される。一方、合成樹脂発泡成形体を押出成形で成形する場合は、溶融張力の高いポリオレフィン部材を用いた発泡成形体であることが好ましく、特にポリエチレンを用いた発泡ポリエチレン(EPE)であることが好ましい。
【0022】
これをつなぎ合わせてなるホルダ10の長さは、ビニールハウスの面積にもよるが、3~100m程度である。ホルダ10は、図5のように、一体成形品であれば製造が簡便となり好ましいが、図2,3の通り、第1体11と第2体12とを組み合わせたものでもよい。図2,3では、第1体11の凹角部11aに第2体12の凸角部を係合させている。第1体11と第2体12とは接着又は融着されてもよく、単に当接されて組み合わされたものであってもよい。
【0023】
なお、ホルダ10の斜め上向きの斜面11bに、手で掴むための凸部(図示略)を突設してもよい。
【0024】
温水チューブ6,7,8は、それぞれ1本の長い軟質樹脂製チューブであり、各々の一端が温水の往側ヘッダー21に接続され、他端が復側ヘッダー22に接続されている。図示は省略するが、ボイラからの温水は、往側配管を介して往側ヘッダー21に供給され、その一部が各温水チューブ6,7,8に流入する。温水の残部は、往側ヘッダー21から中継配管を介して復側ヘッダー22に流入し、その途中で各温水チューブ6,7,8からの戻り温水が合流し、その後、復側配管を介してボイラに戻る。この復側配管に循環用ポンプが設けられている。
【0025】
往側ヘッダー21から延出する温水チューブ6~8は、ポット3の配列体の一方の側(図4では左側)のホルダ10の列を通り、ベッド2の末端でU字形に湾曲され、ポット3の配列体の他方の側(図4では右側)のホルダ10の列を通って復側ヘッダー22に連なる。
【0026】
ホルダ10の底面はベッド2の上面に接している。ホルダ10の温水チューブ6,7を保持した縦側面は各ポット3に接している。なお、温水チューブ6~8の露呈部分(ホルダ10から延出する部分)に断熱材を装着することが好ましい。
【0027】
この実施の形態では、温水チューブ6,7を流れる温水によってポット3が加温される。また、温水チューブ8を流れる温水によってベッド2が加温される。このように、ポット3及びベッド2のいずれもが加温され、培地と株元の両方が加温されるので、植物の生長が良くなり、生産効率が向上する。
【0028】
また、温水チューブ6~8は軟質合成樹脂よりなり、往側ヘッダー21から復側ヘッダー22まで連続した一本のチューブを配設しているので、温水チューブ6~8の配設作業を容易に且つ短時間で行うことができる。即ち、温水チューブ6~8の配設作業は、温水チューブ6~8を引き回して端部をヘッダー21,22に接続するだけでよい。この方法によると、短い配管を継手によって連結する作業が不要であり、温水チューブの配設作業が簡易であり、短時間で行うことができる。また、継手が不要であるため、部材コストが安価であると共に、継手部分での漏水や通水圧損も生じない。
【0029】
また、温水チューブ6~8が軟質であるため、U字形に湾曲させる箇所に生じる復元反発力が小さい。そのため、温水チューブ6~8をU字形に湾曲させる作業労力が小さく、また湾曲させた後に保形部材を装着することが不要である。さらに、巻きぐせが無いので、温水チューブ6~8を凹条16~18に容易に嵌合保持させることができる。このように温水チューブを嵌合保持できるので、株の生長にともない温水チューブ6~8が脱落することもない。
【0030】
なお、ポット3の配列体の左側のホルダ10では温水チューブ6を上側の凹条16に係合させると共に温水チューブ7を下側の凹条17に係合させ、右側のホルダ10では温水チューブ6を下側の凹条17に係合させると共に温水チューブ7を上側の凹条16に係合させてもよい。また、ポット3の高さが大きい場合には3本以上の温水チューブをホルダ10の縦側面に配備してもよく、ポット3の高さが小さい場合にはホルダ10の縦側面に温水チューブ6のみを配備してもよい。ホルダ10の底面に複数本の温水チューブを配設してもよい。
【0031】
本発明では、ポット配列体のポット3同士の間に断熱性スペーサを介在させてもよい。この一例を図6に示す。図6では、ホルダ10,10同士の間に、所定間隔をおいて断熱性スペーサ21を配置し、断熱性スペーサ21,21同士の間のスペース22にポット3を配置するようにしている。断熱性スペーサ21としては、発泡合成樹脂(例えばEPS)製のものが好適である。断熱性スペーサ21の両側面は各ホルダ10,10に接している。スペース22の大きさは、ポット3が1個だけ納まるものとなっている。この断熱性スペーサ21を設けることにより、温水チューブ6,7からの大気への直接的な放熱が抑制される。
【0032】
以下に、温水チューブ6~8の軟質の定義について説明する。本発明において、温水チューブが軟質であるとは、長さLmmに切り出した温水チューブを平行な平板で挟んで圧縮し、11.7%の歪みとなった時の荷重P(N)を測定し、次式
[圧縮強度]=[3P(D+d)]/[πLd(D-D)
(D:圧縮強度試験前の温水チューブの外径(mm)
d:圧縮強度試験前の温水チューブの内径(mm)
L:供試温水チューブの長さ(mm))
で算出される圧縮強度が10N/mm以下であることを表わす。温水チューブの圧縮強度が10N/mm以下であることにより、U字形に湾曲させる際の作業性が良好となる。
【0033】
このような軟質な温水チューブの合成樹脂としては、架橋ポリエチレンなどが例示されるが、これに限定されない。
【0034】
本発明装置は、バラや苺の栽培に好適であるが、これら以外の植物の栽培にも用いることができる。
【実施例
【0035】
[温水チューブの湾曲作業性対比実験]
温水チューブとして下記のものを用い、曲率半径50mmに湾曲させる際の作業性を対比した。
【0036】
実験例1:外層用樹脂、内層用樹脂にそれぞれ異なる架橋性樹脂材料(市販の架橋ポリエチレン樹脂材料)を用い、全層の肉厚1.5mm,外層の肉厚0.3mm,外径13mm,内径10mmとなるようにパイプを成形した。なお、パイプの圧縮強度は8.2N/mであった。
【0037】
実験例2:外層用の樹脂、内層用の樹脂ともに同じ架橋性樹脂材料(市販の架橋ポリエチレン樹脂材料)を用いた以外は実施例1と同様にしてパイプを成形した。なお、パイプの圧縮強度は2.9N/mであった。
【0038】
対比例1:外層用樹脂、内層用樹脂にそれぞれ異なる架橋性樹脂材料(市販の架橋ポリエチレン樹脂材料)を用い、全層の肉厚1.5mm,外層の肉厚0.3mm,外径13mm,内径10mm,となるようにパイプを成形した。なお、パイプの圧縮強度は12.7N/mであった。
【0039】
対比例2:三菱ケミカルインフラテック株式会社製の暖房管(全層の肉厚1.5mm,外層の肉厚0.3mm,外径13mm,内径10mm)を用いた。なお、パイプの圧縮強度は23.7N/mであった。
【0040】
その結果、実験例1,2では湾曲作業性が良好であるが、対比例1,2では、湾曲部分での復元力が強く、作業性に劣ることが認められた。
【0041】
[実施例1]
実験例1のパイプ3本を、図1~3に示されるようにEPS製ホルダ10に装着し、図4のようにポット3を配置し、長さ9mの栽培装置を作成した。ホルダ10の高さは56mm、幅は50mm、ホルダ10,10間の間隔は75mmである。温水の温度を往路40.0℃に設定し、流量を5.6L/minとして流したときの、復路温度を測定しその温度の低下具合から放熱量を算出した。このときの復路の温水の放熱量は632Wであった。
【0042】
[実施例2]
実施例1において、図6のようにポット間にEPS製スペーサ21(ホルダ10の長手方向の長さ75mm)を合計60個はめこんだ場合、放熱量は442Wとなり、EPS製スペーサ21をはめ込まない実施例1と比べて放熱量が約30%低減できることがわかった。
【0043】
[実施例3]
実施例2において、温水チューブの露呈部分(ホルダ10の長手方向の両端から延出する部分)に厚み10mmの発泡ポリエチレン製の断熱材を装着した。この結果、放熱量は327Wとなり放熱量がさらに低減する(実施例1の約50%にまで減少する)ことがわかった。
【符号の説明】
【0044】
1 支持台
2 ベッド
3 ポット
6~8 温水チューブ
10 ホルダ
16~18 凹条
図1
図2
図3
図4
図5
図6