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  • 特許-二次電池の絶縁検査方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】二次電池の絶縁検査方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20220927BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
H01M10/48 A
H01M10/04 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020134939
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2022030740
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大倉 才昇
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-016558(JP,A)
【文献】特開2019-113450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H01M 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め定めた初期電荷量Q0を蓄電した二次電池に外部直流電源を接続して、上記外部直流電源から上記二次電池に流れる電源電流が収束する状況により上記二次電池の絶縁性を評価する二次電池の絶縁検査方法において、
上記二次電池についての電荷量Qと電池電圧Vとの関係を示す電荷量-電池電圧カーブにおける接線の傾きα(Q)が最小となる電荷量Qを最小傾き電荷量QLとし、上記最小傾き電荷量QLにおける上記接線の傾きα(QL)を最小傾きαLとしたとき、
上記初期電荷量Q0を、上記傾きα(Q)が上記最小傾きαLの2倍以上(α(Q)≧2αL)となる上記電荷量Qの範囲内から選択する
二次電池の絶縁検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池の絶縁検査方法であって、
前記初期電荷量Q0を、前記傾きα(Q)が前記最小傾きαLの3倍以上(α(Q)≧3αL)となる前記電荷量Qの範囲内から選択する
二次電池の絶縁検査方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の二次電池の絶縁検査方法であって、
前記初期電荷量Q0を、前記最小傾き電荷量QLよりも大きな前記電荷量Qの範囲内から選択する
二次電池の絶縁検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の電池内部の絶縁性を評価する絶縁検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの二次電池(以下、単に「電池」ともいう)の製造に当たっては、電極体の内部に鉄や銅などの小さな金属異物が混入する場合があり、混入した金属異物に起因して電池に微小な内部短絡が生じることがある。このため、電池内部の絶縁性を検査することがある。
この絶縁検査方法として、以下の手法が知られている。即ち、予め充電しておいた電池に外部直流電源を接続して検査回路を構成し、外部直流電源から電池に、この電池の検査直前の検査前電池電圧V0に等しい出力電圧Vb(Vb=V0)を印加し続ける。そして、この検査回路を流れる電源電流Iの電流値Ib(t)が、ほぼ一定の値に収束したら、この収束電流値Ibsを検知する。次に、検知した収束電流値Ibsが予め定めた基準電流値Ibkのよりも大きい場合(Ibs>Ibk)に、当該電池を絶縁性の低い(微小な内部短絡を生じている)不良品と判定する。なお、このような電池の絶縁検査方法に関連する従来技術として、例えば特許文献1,2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-016558号公報
【文献】特開2019-113450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の絶縁検査方法では、検査回路を流れる電源電流Iの電流値Ib(t)がほぼ収束するのに時間が掛かるため、検査時間が長く掛かるという問題があった。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、検査時間を短くできる二次電池の絶縁検査方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、予め定めた初期電荷量Q0を蓄電した二次電池に外部直流電源を接続して、上記外部直流電源から上記二次電池に流れる電源電流が収束する状況により上記二次電池の絶縁性を評価する二次電池の絶縁検査方法において、上記二次電池についての電荷量Qと電池電圧Vとの関係を示す電荷量-電池電圧カーブにおける接線の傾きα(Q)が最小となる電荷量Qを最小傾き電荷量QLとし、上記最小傾き電荷量QLにおける上記接線の傾きα(QL)を最小傾きαLとしたとき、上記初期電荷量Q0を、上記傾きα(Q)が上記最小傾きαLの2倍以上(α(Q)≧2αL)となる上記電荷量Qの範囲内から選択する二次電池の絶縁検査方法である。
【0007】
上述の絶縁検査方法では、絶縁検査時の初期電荷量Q0を、上記の傾きα(Q)=ΔV/ΔQが最小傾きα(QL)=αLの2倍以上(α(Q)≧2αL)となる電荷量Qの範囲内から選択する。このため、傾きα(Q)の逆数である、電池の局所的な電池容量(局所電池容量)Cp(Q)=ΔQ/ΔVについて考えると、絶縁検査時(初期電荷量Q0)における局所電池容量Cp(Q0)は、最小傾き電荷量QLにおける局所電池容量Cp(QL)に比して、1/2以下の大きさしかない。局所電池容量Cp(Q0)が小さいと、絶縁検査の際、僅かな電荷量Qの減少で、電池電圧Vが大きく減少すると共に、電源電流が大きく増加する。このため、初期電荷量Q0を最小傾き電荷量QLとして(Q0=QL)絶縁検査を行う場合に比して、電源電流が収束するまでの収束時間を大幅に短縮でき、検査時間を大幅に短縮できる。
【0008】
更に、上記の二次電池の絶縁検査方法であって、前記初期電荷量Q0を、前記傾きα(Q)が前記最小傾きαLの3倍以上(α(Q)≧3αL)となる前記電荷量Qの範囲内から選択する二次電池の絶縁検査方法とすると良い。
【0009】
上述の絶縁検査方法では、初期電荷量Q0を、α(Q)≧3αLを満たす電荷量Qの範囲内から選択する。これにより、絶縁検査時の局所電池容量Cp(Q0)は、初期電荷量Q0をα(Q)≧2αLを満たす電荷量Qの範囲内から選択するよりも更に小さくなるため、電源電流が収束するまでの収束時間を更に短縮でき、検査時間を更に短縮できる。
【0010】
更に、上記のいずれかに記載の二次電池の絶縁検査方法であって、前記初期電荷量Q0を、前記最小傾き電荷量QLよりも大きな前記電荷量Qの範囲内から選択する二次電池の絶縁検査方法とすると良い。
【0011】
初期電荷量Q0が最小傾き電荷量QLよりも小さいと、最小傾き電荷量QLよりも大きい場合に比して、電池温度の僅かな変動で、検査回路を流れる電源電流が大きく変動することが判ってきた。これに対し、上述の絶縁検査方法では、初期電荷量Q0を、α(Q)≧2αLまたはα(Q)≧3αLを満たし、かつ、最小傾き電荷量QLよりも大きな電荷量Qの範囲内から選択する。このため、検査時間を短縮しつつも、電池温度の僅かな変動で電源電流が大きく変動するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る電池の斜視図である。
図2】実施形態に係る絶縁検査方法を含む電池の製造方法のフローチャートである。
図3】実施形態に係り、電池に蓄電した電荷量Qと、電池電圧V、及び、電荷量-電池電圧カーブにおける接線の傾きα(Q)との関係を示すグラフである。
図4】実施形態に係り、電池に外部直流電源を接続した検査回路の回路図である。
図5】良品及び不良品の電池について、出力電圧Vbの印加継続時間tと、出力電圧Vb、電池電圧V(t)、及び、電源電流の電流値Ib(t)との関係を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1に本実施形態に係る二次電池1(以下、単に「電池1」ともいう)の斜視図を示す。この電池1は、直方体箱状の電池ケース10と、この内部に収容された扁平状捲回型の電極体20及び電解液15と、電池ケース10に支持された正極端子部材30及び負極端子部材40等から構成されている。本実施形態では、正極活物質として、リチウム遷移金属複合酸化物、具体的にはリチウムニッケルコバルトマンガン酸化物を、負極活物質として、炭素材料、具体的には黒鉛を用いている。
【0014】
次いで、上記電池1の電池内部の絶縁性を評価する絶縁検査方法を含む電池1の製造方法について説明する(図2図5参照)。まず「組立工程S1」(図2参照)において、未充電の電池1(図1参照)を組み立てる。
次に、「初充電工程S2」(図2参照)において、組み立てた電池1を初充電する。具体的には、拘束治具(不図示)を用いて、電池1を電池厚み方向に圧縮した状態で拘束する。この拘束状態で初充電工程S2から後述する絶縁検査工程S6まで行う。
【0015】
その後、電池1に充放電装置(不図示)を接続して、環境温度20℃下において、定電流定電圧(CCCV)充電により、電池1をSOC90%まで初充電する。なお、本実施形態では、電池1に最大電荷量QFが蓄電された状態を、SOC100%とする。この初充電をSOC100%まで行うと、初充電中にLi析出が生じ易く、また、次の高温エージング工程S3において正極活物質が劣化し易いため、初充電はSOC90%程度以下とするのが好ましい。
【0016】
次に、「高温エージング工程S3」(図2参照)において、初充電した電池1を環境温度63℃の温度下で、端子開放した状態で6時間にわたり放置して、高温エージングする。この高温エージングを行うと、電池1の電池電圧Vは低下し、SOC80%程度に相当する電池電圧となる。
次に、「冷却工程S4」(図2参照)において、電池1を環境温度20℃下に放置して、放置冷却することにより、電池温度を20℃とする。
【0017】
次に、「電荷量調整工程S5」(図2参照)において、環境温度20℃下において、定電流定電圧(CCCV)充電により電池1を充電して、電池1に蓄電された電荷量Qが初期電荷量Q0となるように調整する。
ここで、この初期電荷量Q0の選択方法について説明する。電池1をコンデンサと考えると、電池電圧Vと電池容量Cと電池1に蓄積された電荷量Qとの間で、V=Q/Cの関係が成立する(電池電圧Vは電荷量Qに比例する)はずである。しかし実際には、図3に実線で示す電荷量-電池電圧カーブCLから判るように、電池電圧Vは電荷量Qに比例していない。即ち、図3に破線で示すように、電荷量-電池電圧カーブCLにおける接線の傾きα(Q)=ΔV/ΔQは、電荷量Qの大きさによって変化する。なお、図3に示す傾きα(Q)のグラフは、SOC1%毎に得た電荷量Qと電池電圧Vから、傾きα(Q)=ΔV/ΔQを計算して得たグラフである。
【0018】
そして、電荷量Qの大きさに応じた局所的な電池容量である局所電池容量Cp(Q)=ΔQ/ΔVを考える。すると、この局所電池容量Cp(Q)は、上記傾きα(Q)の逆数であるため(Cp(Q)=1/α(Q))、局所電池容量Cp(Q)も電荷量Qの大きさによって変化することが判る。
【0019】
従って、後述する絶縁検査工程S6を、この局所電池容量Cp(Q)が小さくなる(逆数の傾きα(Q)が大きくなる)初期電荷量Q0で行うほど、僅かな電荷量Qの減少で、電池電圧Vが大きく減少し、また、後述する検査回路100(図4参照)を流れる電源電流Iが大きく増加する。これにより、電源電流Iが収束するまでの収束時間tsを短くでき、検査時間を短くできる。そこで、これに先立つ電荷量調整工程S5では、初期電荷量Q0として、局所電池容量Cp(Q)が小さくなる,従って傾きα(Q)が大きくなる初期電荷量Q0を選択する。
【0020】
具体的には、まず電荷量-電池電圧カーブCLにおける接線の傾きα(Q)が最小となる電荷量Q(最小傾き電荷量QL)、及び、この最小傾き電荷量QLにおける接線の傾きα(QL)(=αL)を見出す。本実施形態の電池1では、図3に示すように、傾きα(Q)はW型の曲線であり、電荷量0~電荷量Q3(SOC0%~SOC17%)の範囲では、電荷量Qが多いほど傾きα(Q)が小さくなり、電荷量Q3~電荷量Q5(SOC17%~SOC28%)の範囲では、電荷量Qが多いほどα(Q)が大きくなり、電荷量Q5~電荷量Q7(SOC28%~SOC52%)の範囲では、電荷量Qが多いほどα(Q)が小さくなり、電荷量Q7~電荷量QF(SOC52%~SOC100%)の範囲では、電荷量Qが多いほどα(Q)が大きくなる。また、この電池1では、電荷量Q3(SOC17%)において傾きα(Q)が最小となるため、最小傾き電荷量QL=Q3である。
【0021】
次に、初期電荷量Q0を、傾きα(Q)が最小傾きαLの2倍以上(α(Q)≧2αL)となる電荷量Qの範囲QR2内から選択する。本実施形態では、図3に示すように、この電荷量Qの範囲QR2は、3つの範囲QR2a,QR2b,QR2cからなり、範囲QR2aは0≦Q≦Q2(SOC0%~SOC13%)、範囲QR2bはQ4≦Q≦Q6(SOC23%~SOC33%)、範囲QR2cはQ8≦Q≦QF(SOC65%~SOC100%)である。初期電荷量Q0をこの範囲QR2内から選択すると、絶縁検査工程S6における局所電池容量Cp(Q0)を、最小傾き電荷量QLにおける局所電池容量Cp(QL)に比して、1/2以下の大きさにできる。これにより、絶縁検査工程S6において、最小傾き電荷量QLを初期電荷量Q0とした場合(Q0=QL)に比して、電源電流Iが収束するまでの収束時間tsを1/2以下に大幅に短縮でき、検査時間を大幅に短縮できる。
【0022】
更に、本実施形態では、初期電荷量Q0を、傾きα(Q)が最小傾きαLの3倍以上(α(Q)≧3αL)となる電荷量Qの範囲QR3内から選択する。図3に示すように、この電荷量Qの範囲QR3は、2つの範囲QR3a,QR3bからなり、範囲QR3aは0≦Q≦Q1(SOC0%~SOC12%)、範囲QR3bはQ9≦Q≦QF(SOC78%~SOC100%)である。初期電荷量Q0をこの範囲QR3内から選択すると、絶縁検査工程S6における局所電池容量Cp(Q0)を、最小傾き電荷量QLにおける局所電池容量Cp(QL)に比して、1/3以下の大きさにできる。これにより、絶縁検査工程S6において、電源電流Iが収束するまでの収束時間tsを更に短縮でき、検査時間を更に短縮できる。
【0023】
また、初期電荷量Q0を、前述の電荷量Qの範囲QR2のうち、最小傾き電荷量QLよりも大きな電荷量Qの範囲QR2H(QR2b,QR2c)、具体的には、Q4≦Q≦Q6(SOC23%~SOC33%)、Q8≦Q≦QF(SOC65%~SOC100%)から選択する。更に、初期電荷量Q0を、前述の電荷量Qの範囲QR3のうち、最小傾き電荷量QLよりも大きな電荷量Qの範囲QR3H(QR3b)、具体的にはQ9≦Q≦QF(SOC78%~SOC100%)から選択する。これにより、絶縁検査工程S6において、電池温度の僅かな変動で電源電流Iが大きく変動するのを防止できる。
なお、本実施形態では、上述のすべての条件を満たすように、初期電荷量Q0を、電荷量Qの範囲QR3H(QR3b)、具体的にはQ9≦Q≦QF(SOC78%~SOC100%)から選択する。具体的には、この電荷量調整工程S5において、電池1をSOC90%に調整した。
【0024】
次に、「絶縁検査工程S6」(図2参照)を行う。この絶縁検査工程S6は、環境温度20℃下で行う。絶縁検査工程S6は、電圧印加工程S61、電流検知工程S62、評価工程S63を含む。まず「電圧印加工程S61」において、外部直流電源EPから電池1に、検査前電池電圧V0に等しい出力電圧Vb(Vb=V0)を印加し続けて、外部直流電源EPから電池1に電源電流Iを流し続ける(図4参照)。即ち、電池1に外部直流電源EPを接続して、検査回路100を構成する。具体的には、電池1の正極端子部材30及び負極端子部材40に、外部直流電源EPの一対のプローブP1,P2をそれぞれ接触させる。
【0025】
本実施形態では、この検査回路100の等価回路として、図4に示す等価回路を想定している。電池1の等価回路としては、電池容量Cと電池1の自己放電抵抗Rpとの並列回路に、電池抵抗Rsを直列接続したものを想定し、これらに外部直流電源EPの出力電圧Vbを印加する。電池容量Cは、電池1(電池成分1C)の電池容量であり、自己放電抵抗Rpは、主に電池1の内部短絡によって生じる抵抗であり、電池抵抗Rsは、電池1の直流抵抗である。また、検査回路100において、配線抵抗Rwは、外部直流電源EP内、及び、外部直流電源EPからプローブP1,P2までに分布する配線抵抗である。また、接触抵抗R1は、外部直流電源EPの一方のプローブP1と電池1の正極端子部材30との接触抵抗であり、接触抵抗R2は、外部直流電源EPの他方のプローブP2と電池1の負極端子部材40との接触抵抗である。そして、配線抵抗Rwと接触抵抗R1,R2と電池抵抗Rsとの和(Re=Rw+R1+R2+Rs)を、この検査回路100の直列回路抵抗Reとする。
【0026】
また、電源電流Iは、外部直流電源EPから電池1に流れる電流であり、自己放電電流Ipは、自己放電に伴って電池1内(電池成分1C)を流れる自己放電電流である。また、外部直流電源EPは、自身の直流電源EPEが発生する出力電圧Vbを可変かつ高精度に制御できるほか、電圧計EPVを有しており、電池電圧V(V)を計測できる。更に、外部直流電源EPは、電流計EPIを有しており、外部直流電源EP(直流電源EPE)から電池1に流れる電源電流Iの電流値Ib(μA)を高精度に計測できる。
【0027】
電圧印加工程S61では、まず電流値Ib=0の条件下で、外部直流電源EPに含まれる電圧計EPVによって、当該電池1の電池電圧V(検査前電池電圧V0)を検知する。その後、当該電池1に対して、この検査前電池電圧V0に等しい出力電圧Vb(Vb=V0)の印加を開始する。
出力電圧Vbの印加開始後(印加継続時間t=0以降)、電圧印加工程S61と並行して、「電流検知工程S62」を行う。即ち、検査回路100を流れる電源電流Iの電流値Ib(t)を検知する。本実施形態では、印加継続時間tが1sec経過する毎に、外部直流電源EPに含まれる電流計EPIによって電流値Ib(t)を検知する。
【0028】
ここで、図5に、良品及び不良品の各電池1について、外部直流電源EPによる出力電圧Vbの印加継続時間tと、出力電圧Vb、電池電圧V(t)、及び、電源電流Iの電流値Ib(t)との関係の概略を示す。図5に示すように、電池電圧V(t)は、検査前電池電圧V0から印加継続時間tの経過と共に徐々に低下した後、印加継続時間t=収束時間ts以降は、ほぼ一定の値(収束電池電圧Vs)となる。但し、良品の電池1に比べて不良品の電池1は、電池電圧V(t)が大きく低下するため、収束電池電圧Vsも低い値となる。
一方、電流値Ib(t)は、0(零)から印加継続時間tの経過と共に徐々に増加した後、印加継続時間t=収束時間ts以降は、ほぼ一定の値(収束電流値Ibs)となる。但し、良品の電池1に比べて不良品の電池1は、電流値Ib(t)が大きく増加するため、収束電流値Ibsも大きい値となる。
【0029】
本実施形態では、初期電荷量Q0を、前述のように、α(Q)≧2αLを満たす電荷量Qの範囲QR2(QR2a,QR2b,QR2c)から選択している。更に、初期電荷量Q0を、α(Q)≧3αLを満たす電荷量Qの範囲QR3(QR3a,QR3b)から選択している。本実施形態では、具体的には、SOC90%に相当する初期電荷量Q0を選択している。これにより、初期電荷量Q0=QLとした場合よりも、収束時間tsが大幅に短くできる。詳細な実験結果は省略するが、初期電荷量Q0=QLとした場合よりも、収束時間tsを、1/2以下、さらには1/3以下、具体的には概ね1/4程度に短くできる。従って、絶縁検査工程S6(電流検知工程S62)に要する検査時間を大幅に短縮できる。
【0030】
加えて、本実施形態では、初期電荷量Q0(SOC90%に相当)を、上述の電荷量Qの範囲QR2のうち、最小傾き電荷量QLよりも大きな電荷量Qの範囲QR2Hから選択している。更には、初期電荷量Q0を、上述の電荷量Qの範囲QR3のうち、最小傾き電荷量QLよりも大きな電荷量Qの範囲QR3Hから選択している。これにより、絶縁検査工程S6(電流検知工程S62)において、電池温度の僅かな変動で電源電流Iが大きく変動するのを防止できる。
なお、この電流検知工程S62が終了したら、外部直流電源EPから電池1への電圧印加を停止して電圧印加工程S61をも終了する。その後、外部直流電源EPを電池1から離して、更に拘束治具(図示外)による電池1の圧縮を解除する。
【0031】
また別途、「評価工程S63」において、電流検知工程S62で検知した収束電流値Ibsの大きさに基づいて、電池1の電池内部の絶縁性を評価する。本実施形態では、収束電流値Ibsが基準電流値Ibkよりも大きい場合(Ibs>Ibk)に、当該電池1を絶縁性が低く内部短絡が生じている不良品と判定し、当該電池1を除去する。一方、収束電流値Ibsが基準電流値Ibk以下の場合(Ibs≦Ibk)には、その電池1を絶縁性の高い良品と判定する。その後は、良品の電池1について他の検査等を行う。かくして、電池1が完成する。
【0032】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態では、電池1の製造過程において電池1の絶縁検査を行ったが、これに限られない。電池1の絶縁検査は、自動車等に搭載され、或いは単独で市場に置かれた以降の使用済の電池1について行うこともできる。
【0033】
また、実施形態の電圧印加工程S61では、外部直流電源EPから電池1に印加する出力電圧Vbを、印加継続時間tの経過に拘わらず一定(Vb=V0)としたが、これに限られない。例えば、特許文献2に記載されているようにして、電圧印加の開始時(印加継続時間t=0)における出力電圧Vbは、電池1の検査前電池電圧V0と等しい大きさ(Vb=V0)とする一方、印加開始後の出力電圧Vbを徐々に或いは階段状に上昇させる手法も挙げられる。
【符号の説明】
【0034】
1 二次電池(電池)
100 検査回路
S5 電荷量調整工程
S6 絶縁検査工程
Q (電池に蓄電した)電荷量
Q0 初期電荷量
QL 最小傾き電荷量
QR2 (傾きが最小傾きの2倍以上となる電荷量の)範囲
QR2H (電荷量の範囲QR2のうち最小傾き電荷量よりも大きい)範囲
QR3 (傾きが最小傾きの3倍以上となる電荷量の)範囲
QR3H (電荷量の範囲QR3のうち最小傾き電荷量よりも大きい)範囲
C 電池容量
Cp(Q) 局所電池容量
CL 電荷量-電池電圧カーブ
α(Q) (接線の)傾き
αL 最小傾き
I 電源電流
Ib(t) 電流値
EP 外部直流電源
図1
図2
図3
図4
図5