(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】容器詰果汁含有飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/02 20060101AFI20220927BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
A23L2/02 B
A23L2/00 A
A23L2/00 T
(21)【出願番号】P 2016182357
(22)【出願日】2016-09-16
【審査請求日】2019-07-03
【審判番号】
【審判請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】名倉 香澄
【合議体】
【審判長】大島 祥吾
【審判官】加藤 友也
【審判官】植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-12847(JP,A)
【文献】特開2016-42813(JP,A)
【文献】特開2011-167171(JP,A)
【文献】特開昭63-22642(JP,A)
【文献】奈賀俊人、隅谷栄伸,PETボトル詰柑橘果汁の光劣化異臭,東洋食品工業短大・東洋食品研究所研究報告書,2009年,Vol.27,pp.65-69
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L2/00-2/84
C11B1/00-15/00
C11C1/00-5/12
C12G1/00-3/12
C12C1/00-13/06
C12F3/00-5/00
C12H1/00-1/22
C12J1/00-1/10
C12L3/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱殺菌された容器詰果汁含有飲料(ただし、果汁濃度150%以上の飲料を除く。)であって、
リモネン及びビタミンCを含有し、加熱殺菌前のビタミンCの含有量に対する加熱殺菌前のリモネン含有量の比が1.5以下であり、
GC分析に基づく加熱殺菌前のリモネンの含有量が100ppm以上
300ppm以下であり、
2,4-ジニトロフェニルヒドラジン法に基づく加熱殺菌前のビタミンCの含有量が300ppm以上であり、
前記果汁が柑橘類果実由来の果汁である、
容器詰果汁含有飲料。
【請求項2】
前記飲料の果汁率が71質量%以上である請求項1に記載の容器詰果汁含有飲料。
【請求項3】
炭酸ガスを含有する請求項1又は2に記載の容器詰果汁含有飲料。
【請求項4】
GC分析に基づく加熱殺菌前の飲料中のリモネン含有量が100ppm以上
300ppm以下である、柑橘類果実由来の果汁及び炭酸ガスを含有する容器詰飲料において、ビタミンCの含有量に対するリモネンの含有量の比を1.5以下に調整する調整工程と、
前記調整工程後に前記容器詰飲料を加熱殺菌する工程と、
を含む、リモネンの異風味及び開栓時の噴出しを調整する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リモネンを含有する容器詰果汁含有飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
果汁含有飲料は、容器充填時及び開栓時に泡立ち及び吹きこぼれを生じやすい。泡立ち及び吹きこぼれを抑制する手段として、乳化剤、シリコーン等の消泡剤が汎用されているが、これら合成系添加剤への依存度を下げることが望まれる場合もある。
【0003】
この点、オレンジ等の柑橘類に含まれるリモネンは、消泡効果を有することが知られており、天然系成分であることから有用であり得る。しかし、リモネンは、果汁飲料の加熱や保存に伴って特有の異風味を生じることも知られており、この異風味を抑制するべく、少量のリモネンしか使用できないのが実情であった。例えば特許文献1には、リモネン含有量が30000ppb以下である果汁含有飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の実情に鑑み、リモネンを含有しつつ官能性に優れる容器詰果汁含有飲料を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、果汁含有飲料におけるリモネンの異風味を調整する方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ビタミンCとリモネンとの含有量の比を調整することで、果汁含有飲料におけるリモネンの異風味が調整されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1) リモネン及びビタミンCを含有し、ビタミンCの含有量に対するリモネン含有量の比が1.5以下である容器詰果汁含有飲料。
【0008】
(2) リモネン含有量が100ppm以上である(1)記載の容器詰果汁含有飲料。
【0009】
(3) 前記飲料の果汁率が71質量%以上である(1)又は(2)記載の容器詰果汁含有飲料。
【0010】
(4) 前記果汁が柑橘類果実由来の果汁である(1)から(3)いずれか記載の容器詰果汁含有飲料。
【0011】
(5) 炭酸ガスを含有する(1)から(4)いずれか記載の容器詰果汁含有飲料。
【0012】
(6) 果汁含有飲料においてビタミンCの含有量に対するリモネン含有量の比を調整することで、リモネンの異風味を調整する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、リモネンを含有しつつ官能性に優れる容器詰果汁含有飲料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】果汁率100%の飲料において、泡の高さの経時的推移を示すグラフである。
【
図2】果汁率50%の飲料において、泡の高さの経時的推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
<容器詰果汁含有飲料>
本発明に係る容器詰果汁含有飲料は、リモネン及びビタミンCを含有し、ビタミンCの含有量に対するリモネン含有量の比が1.5以下である。この容器詰果汁含有飲料は、リモネンを含有するにもかかわらず官能性に優れる。この機構は、リモネンによる柑橘系の香りとビタミンCによる酸味とが組み合わさって果汁含有飲料の風味を向上させ、また、ビタミンCの抗酸化作用でリモネンの分解が抑制され、リモネンの異風味が果汁含有飲料の風味の中で際立たずに調和されることによると推測される。この観点で、一実施形態におけるビタミンCの含有量に対するリモネン含有量の比の上限は、1.4、又は1.3が好ましい。リモネン含有量はGC分析により測定し、ビタミンC含有量は、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン法により測定する。
【0017】
また、ビタミンCに対してリモネンが過小であると、リモネンの有用な機能(例えば消泡効果や柑橘系の香り)が十分に発揮されにくい場合がある。このため、一実施形態におけるビタミンCの含有量に対するリモネン含有量の比の下限は、特に限定されないが、0.2、0.3、又は0.4が好ましい。
【0018】
一実施形態におけるリモネンの含有量は、ビタミンCによる酸味とのバランスやリモネンの有用な機能(例えば消泡効果や柑橘系の香り)を十分に発揮させやすい観点で、100ppm以上であることが好ましい。この含有量の下限は、特に限定されないが、110ppm、120ppmであってよい。
【0019】
一実施形態におけるリモネンの含有量の上限は、ビタミンCによる酸味とのバランスやリモネンの異風味を際立たせにくくする観点で、特に限定されないが、300ppm、290ppm、又は280ppmであってもよい。
【0020】
一実施形態におけるビタミンCの含有量の下限は、リモネンによる柑橘系の香りとのバランスやリモネンの異風味を際立たせにくくする観点で、特に限定されないが、100ppm、150ppm、175ppm、200ppm、250ppm、300ppm、又は350ppmであってもよい。
【0021】
一実施形態におけるビタミンCの含有量の上限は、リモネンによる柑橘系の香りとのバランスの観点で、特に限定されないが、750ppm、650ppm、550ppm、450ppm、又は400ppmであってもよい。
【0022】
本発明におけるリモネン及びビタミンCの含有量は、用いる果汁及び果汁率によって調整してもよく、外添によって調整してもよい。
【0023】
本発明では、リモネンの異風味が際立ちにくく、またリモネンの柑橘系の香りとビタミンCの酸味とが優れた風味を付与するため、幅広い果汁を相性良く使用することができる。このため、本発明の容器詰果汁含有飲料に含まれる果汁は、特に限定されず、柑橘類果実由来の果汁(レモン果汁、グレープフルーツ果汁、オレンジ果汁、ミカン果汁、ライム果汁等)、熱帯果実由来の果汁(パイナップル、バナナ、グァバ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ)、ブドウ果汁、ホワイトグレープ果汁、リンゴ果汁、ピーチ果汁、その他果実由来の果汁(イチゴ果汁、ベリー果汁、カシス果汁、ウメ果汁、ナシ果汁、アンズ果汁、スモモ果汁、キウイフルーツ果汁、メロン果汁)の1種以上であってよい。中でも、柑橘類果実由来の果汁は、リモネン及びビタミンCを元来含有し、本発明で付与される風味がより調和しやすい点、リモネンの異風味抑制へのニーズが大きい点、リモネンの含有量の調整が容易である点等で好ましい。
【0024】
また、本発明は、リモネンの異風味が果汁含有飲料の風味の中で際立たずに調和されることから、幅広い果汁率において優れた官能性を付与しやすい。このため、一実施形態における飲料の果汁率は、特に限定されず、例えば5質量%~100質量%の範囲から適宜選択することができる。一般に高果汁率の飲料ではリモネンの異風味が際立ちやすい傾向にあったことから、本発明は高果汁率の飲料に好適に適用することができる。ここでいう高果汁率は、特に限定されないが、具体的には50質量%以上、60質量%以上、71質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は100質量%であってよい。
【0025】
ここで、果汁率とは、果物の可食部分を搾汁して得られ、濃縮等の処理を行っていない搾汁(ストレート果汁)の糖度(Brix値)又は酸度を100%としたときの、相対濃度である。また、本明細書において糖度は、JAS規格に基づき、試料の温度(液温度)20℃における糖用屈折計の示度をいう。糖度の測定は、公知の方法、装置を用いて行うことができる。また、酸度は、100g中に含まれる有機酸量をクエン酸に換算した場合のグラム数(無水クエン酸g/100g)で表すことができる。酸度もまた、JAS規格の酸度測定法で定められた方法、具体的には0.1mol/L水酸化ナトリウム標準液をアルカリ溶液として使用した中和滴定法(定量式)により測定できる。
【0026】
果汁率を糖度又は酸度のいずれに基づいて算出するかはJAS規格に基づき果物の種類ごとに定められている。また、果汁の果汁率をJAS規格の糖度に基づいて換算する場合、果汁に加えられた糖類、はちみつ等の糖度は除いて算出される。例えば、リンゴについては基準糖度(Brix10°)に基づいて算出することができ、糖度がBrix50°のりんご濃縮果汁を飲料中1質量%配合した場合、5%の果汁率の飲料を得ることができる。
【0027】
本発明の容器詰果汁含有飲料は、炭酸ガスを含有してもよく、含有しなくてもよい。ただし、一実施形態では、リモネンの使用量を、リモネンによる異風味への考慮をせずに設定でき、それによりリモネンの消泡効果を十分に享受しやすい。このため、一実施形態の容器詰果汁含有飲料は炭酸ガスを含有することが好ましい。
【0028】
一実施形態においてガスボリュームは、特に限定されないが、2.0以上3.8以下であってよく、中でも2.2以上であってよい。なお、本発明においてガスボリュームとは、炭酸飲料中の炭酸ガス量を表す単位を示し、標準状態(1気圧、20℃)における、炭酸飲料の体積に対する炭酸飲料中に溶解した炭酸ガスの体積の比である。ガスボリューム測定装置(GVA-500B、京都電子工業株式会社製)を用いて測定する。
【0029】
その他、本発明の効果を損なわない範囲において、目的に応じて、各種栄養成分、酸味料、甘味料、香料、着色剤、希釈剤、酸化防止剤等の食品添加物を添加してもよい。
【0030】
本発明の容器詰果汁含有飲料を収容する容器は、飲料業界で公知の密封容器から適宜選択して用いることができ、流通形態や消費者ニーズに応じて適宜決定することができる。その具体例としては、ガラス、プラスチック(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等)、紙、アルミ、スチール等の単体、又はこれらの複合材料又は積層材料からなる密封容器が挙げられる。また、容器形状は、特に限定されるものではないが、例えば、缶容器、ボトル容器、カップ容器、パウチ容器、袋容器、ポーション容器等が挙げられる。
【0031】
<リモネンの異風味を調整する方法>
本発明は、果汁含有飲料においてビタミンCの含有量に対するリモネン含有量の比を調整することで、リモネンの異風味を調整する方法も包含する。具体的には、ビタミンCの含有量に対するリモネン含有量の比を既存の所定処方よりも低く設定すれば、果汁含有飲料におけるリモネンの異風味が抑制される一方、高く設定すれば、果汁含有飲料におけるリモネンの異風味が感じられやすくなる。既存の所定処方よりも低く又は高くする幅は、特に限定されないが、例えば0.3以上、又は0.4以上であってよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0033】
(官能性)
オレンジ濃縮果汁を用い、表1に記載の通り、炭酸飲料を作成した。各飲料をPET製容器に充填した後、食品衛生法、厚生省告示第213号に記載の製造基準を満たす殺菌条件で加熱殺菌をした。
【0034】
各飲料を、果実感、本物感(オレンジらしさ)、苦味、総合的なおいしさ(異風味を含めた飲料全体の官能性)について、下の基準で評価した。この結果を表1に示す。
果実感 :1(全く感じない)~7(しっかりと感じられる)
本物感 :1(全く感じない)~7(しっかりと感じられる)
苦味 :1(全く感じない)~7(とても苦い)
総合的なおいしさ:1(まずい)~7(おいしい)
【0035】
【0036】
表1に示されるように、飲料の総合的なおいしさは、リモネンを含有することで高まり、かつビタミンCの含有量に対するリモネン含有量の比によって調整されることが分かった。また、果実感や本物感が求められる飲料においては、リモネンの含有量を高めに設定することが好ましく、その場合でも、飲料全体のおいしさは損なわれにくいことも分かった。
【0037】
(フォーミング試験)
表1に記載の実施例1~3、及び表2に記載の実施例4~6の通り、炭酸飲料を作成した。
【0038】
【0039】
各飲料をガラス製遠沈管に充填した後、振とう機(ヤマト科学株式会社製 SA300、直立、振とうメモリ9)にて1分間振とうし、振とう直後からの泡の高さ(目盛)の経時的推移を測定した。この結果を
図1及び2に示す。
【0040】
図1及び2に示されるように、いずれの果汁率においても、リモネンの含有量が高くなるにつれ、泡消えが早まりやすくなることが分かった。前述のように、果汁率100質量%かつリモネン含有量280ppmの飲料であっても官能性は優れることから、ビタミンCの含有量に対するリモネン含有量の比を調整することで、優れた官能性とリモネンの機能性の両立が実現できることが示された。
【0041】
(開栓時噴き試験)
表1に記載の実施例1~3の炭酸飲料を作成した。各飲料をPET製容器に充填した。
【0042】
各飲料をPET製容器に充填した後、振動試験機にて振動後、20℃恒温室に12時間静置した。その後、90°の転倒を15往復させてから、キャップ穿孔機にてキャップ天面に穴を開け、穿孔前後の重量差から噴出量を算出した。この結果を表3に示す。
【0043】
【0044】
表3に示されるように、リモネンの含有量が高くなるにつれ、開栓時の噴出しが抑制されやすくなることが分かった。前述のように、果汁率100質量%かつリモネン含有量280ppmの飲料であっても官能性は優れることから、ビタミンCの含有量に対するリモネン含有量の比を調整することで、優れた官能性とリモネンの機能性の両立が実現できることが示された。