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  • 特許-冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 171/02 20060101AFI20220927BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20220927BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20220927BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20220927BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20220927BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20220927BHJP
【FI】
C10M171/02
C10M101/02
C10N20:00 A
C10N20:00 Z
C10N20:02
C10N30:06
C10N40:30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017236189
(22)【出願日】2017-12-08
(65)【公開番号】P2019104777
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-08-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】奈良 文之
(72)【発明者】
【氏名】庄野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大城戸 武
(72)【発明者】
【氏名】尾形 英俊
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-295995(JP,A)
【文献】特開2005-325151(JP,A)
【文献】国際公開第2007/105452(WO,A1)
【文献】特開2007-186638(JP,A)
【文献】国際公開第2006/030490(WO,A1)
【文献】特開2008-239784(JP,A)
【文献】特開2005-162883(JP,A)
【文献】国際公開第2000/060031(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0315454(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0060328(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0093568(US,A1)
【文献】国際公開第2017/145714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油と、極圧剤と、を含有する冷凍機油であって、
100℃における動粘度が0.5mm/s以上2.5mm/s以下であり、40℃における動粘度が6.0mm /s以下であり、引火点が100℃以上であり、アニリン点が90℃以下であり、ガスクロマトグラフィー蒸留による蒸留終点が380℃以上450℃以下であり、ガスクロマトグラフィー蒸留による初留点と90%留出温度との差が80℃以上160℃以下であり、ガスクロマトグラフィー蒸留による90%留出温度と95%留出温度との差が10℃以上40℃以下であり、硫黄分が0.001質量%以上0.2質量%以下である、冷凍機油。
【請求項2】
ガスクロマトグラフィー蒸留による90%留出温度が270℃以上400℃以下である、請求項1に記載の冷凍機油。
【請求項3】
ガスクロマトグラフィー蒸留による95%留出温度が280℃以上410℃以下である、請求項1又は2に記載の冷凍機油。
【請求項4】
ガスクロマトグラフィー蒸留による90%留出温度と5%留出温度との差が40℃以上150℃以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷凍機油。
【請求項5】
n-d-M環分析による%Cが5以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の冷凍機油。
【請求項6】
硫黄分が0.001質量%以上0.2質量%以下である潤滑油基油を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の冷凍機油。
【請求項7】
潤滑油基油と、極圧剤と、を含有する冷凍機油であって、100℃における動粘度が0.5mm/s以上2.5mm/s以下であり、40℃における動粘度が6.0mm /s以下であり、引火点が100℃以上であり、アニリン点が90℃以下であり、ガスクロマトグラフィー蒸留による蒸留終点が380℃以上450℃以下であり、ガスクロマトグラフィー蒸留による初留点と90%留出温度との差が80℃以上160℃以下であり、ガスクロマトグラフィー蒸留による90%留出温度と95%留出温度との差が10℃以上40℃以下であり、硫黄分が0.001質量%以上0.2質量%以下である、冷凍機油と、
冷媒と、を含有する冷凍機用作動流体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫、空調等の冷凍機には、冷媒を冷媒循環システム内に循環させるための圧縮機を備えている。圧縮機には、摺動部材を潤滑するための冷凍機油が充填される。一般的に、冷凍機油の粘度が低いほど撹拌抵抗及び摺動部の摩擦を低減できるため、冷凍機油の低粘度化は、冷凍機の省エネルギー化につながる。特許文献1には、例えば、VG3以上でVG8以下の所定の冷凍機油が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2006/062245号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、冷凍機油の粘度が低くなると、摺動部における油膜の保持が難しくなるため、耐摩耗性を維持できなくなるおそれがある。そのうえ、冷凍機油は冷凍機内で冷媒と相溶するため、使用時の粘度は冷凍機油自体と比べて大きく低下し、潤滑条件は流体潤滑領域から混合潤滑ないし境界潤滑領域へと変化し、摺動材同士の接触頻度が高くなる。したがって、特に100℃における動粘度が2.5mm/s以下又は2.0mm/s以下のような超低粘度の冷凍機油の使用については、これまで十分に検討がなされていない。とりわけ、このような超低粘度の冷凍機油を用いつつ、混合潤滑ないし境界潤滑条件のような厳しい潤滑条件下においても耐摩耗性が高い冷凍機油を得ることは極めて困難である。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、低粘度でありながら混合潤滑ないし境界潤滑条件のような厳しい潤滑条件下においても耐摩耗性能が高い冷凍機油及び当該冷凍機油を含む冷凍機用作動流体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、100℃における動粘度が0.5mm/s以上2.5mm/s以下であり、ガスクロマトグラフィー蒸留による蒸留終点が380℃以上450℃以下であり、硫黄分が0.001質量%以上0.2質量%以下である、冷凍機油を提供する。
【0007】
冷凍機油のガスクロマトグラフィー蒸留による90%留出温度は、好ましくは270℃以上400℃以下である。
【0008】
冷凍機油のガスクロマトグラフィー蒸留による95%留出温度は、好ましくは280℃以上410℃以下である。
【0009】
冷凍機油のガスクロマトグラフィー蒸留による90%留出温度と5%留出温度との差は、好ましくは40℃以上200℃以下である。
【0010】
冷凍機油のn-d-M環分析による%Cは、好ましくは5以下である。
【0011】
冷凍機油は、硫黄分が0.001質量%以上0.2質量%以下である滑油基油を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上述した本発明に係る冷凍機油と、冷媒と、を含有する冷凍機用作動流体組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低粘度でありながら混合潤滑ないし境界潤滑条件のような厳しい潤滑条件下においても耐摩耗性能が高い冷凍機油及び当該冷凍機油を含む冷凍機用作動流体組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】冷凍機の構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
冷凍機油の100℃における動粘度は、0.5mm/s以上2.5mm/s以下である。冷凍機油の100℃における動粘度は、耐摩耗性と冷凍機の省エネルギー化とのバランスに更に優れる観点から、好ましくは0.6mm/s以上2.0mm/s以下、より好ましくは0.8mm/s以上1.5mm/s以下、更に好ましくは1.0mm/s以上1.4mm/s以下である。本発明における動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された動粘度を意味する。
【0017】
冷凍機油の40℃における動粘度は、例えば、2.0mm/s以上、2.5mm/s以上、3.0mm/s以上、又は3.2mm/s以上であってよく、例えば、6.0mm/s以下、5.0mm/s以下、4.5mm/s以下、4.0mm/s以下、又は3.5mm/s以下であってよい。
【0018】
冷凍機油のアニリン点は、例えば、耐摩耗性に更に優れる観点から、60℃以上、70℃以上、73℃以上、76℃以上、又は80℃以上であってよい。また、冷凍機油のアニリン点は、例えば、冷凍装置(冷凍機)内に使用されるPET(ポリエチレンテレフタレート)材、シール材等の有機材料との適合性の観点から、100℃以下、95℃以下、又は90℃以下であってよい。本発明におけるアニリン点は、JIS K2256:2013に準拠して測定された値を意味する。
【0019】
冷凍機油のガスクロマトグラフィー蒸留(以下、GC蒸留ともいう。)による蒸留性状(特に記載がない場合もGC蒸留による蒸留性状を意味する)において、蒸留終点EPは、380℃以上450℃以下である。冷凍機油の蒸留終点EPは、例えば、潤滑性の観点から、390℃以上、395℃以上、又は400℃以上であってよい。また、冷凍機油の蒸留終点EPは、例えば、更なる低粘度化の観点から、440℃以下、430℃以下、又は425℃以下であってよい。
【0020】
冷凍機油のガスクロマトグラフィー蒸留によるその他の蒸留性状は、冷凍機油の低粘度化と潤滑性とのバランスに更に優れ、さらには引火点を高く維持する観点から、好ましくは、低沸点側の留出温度を高くしつつ、高沸点側の留出温度を適正な範囲に維持する。このような冷凍機油は、以下で説明する蒸留性状を有することが望ましい。
【0021】
冷凍機油の初留点IBPは、例えば、200℃以上、210℃以上、220℃以上、又は225℃以上であってよく、例えば、260℃以下、250℃以下、又は240℃以下であってよい。
【0022】
冷凍機油の5%留出温度Tは、例えば、205℃以上、215℃以上、225℃以上、又は235℃以上であってよく、例えば、265℃以下、255℃以下、又は245℃以下であってよい。
【0023】
冷凍機油の10%留出温度T10は、例えば、210℃以上、220℃以上、230℃以上、又は240℃以上であってよく、例えば、270℃以下、260℃以下、又は250℃以下であってよい。
【0024】
冷凍機油の50%留出温度T50は、例えば、230℃以上、240℃以上、250℃以上、又は260℃以上であってよく、例えば、310℃以下、300℃以下、又は280℃以下であってよい。
【0025】
冷凍機油の70%留出温度T70は、例えば、潤滑性と高引火点の観点から、250℃以上、260℃以上、270℃以上、又は280℃以上であってよい。また、冷凍機油の70%留出温度T70は、例えば、低粘度化の観点から、340℃以下、330℃以下、300℃以下であってよい。
【0026】
冷凍機油の90%留出温度T90は、例えば、270℃以上、280℃以上、290℃以上、又は300℃以上であってよく、耐摩耗性に更に優れる観点から、特に好ましくは、320℃以上、330℃以上、又は340℃以上である。また、冷凍機油の90%留出温度T90は、例えば、上記と同様の観点から、400℃以下、370℃以下、360℃以下、又は355℃以下あってよい。
【0027】
冷凍機油の95%留出温度T95は、例えば、280℃以上、290℃以上、300℃以上、310℃以上、又は330℃以上であってよく、耐摩耗性に更に優れる観点から、特に好ましくは、340℃以上、350℃以上、又は360℃以上である。冷凍機油の95%留出温度T95は、例えば、410℃以下、400℃以下、390℃以下、又は380℃以下であってよい。
【0028】
冷凍機油の低粘度化と潤滑性のバランスに更に優れ、さらには引火点を高く維持する観点から、上記のとおり、好ましくは、低沸点側の留出温度を高くしつつ、高沸点側の留出温度を適正な範囲に維持する。上記に加え、蒸留範囲を広くするよりも以下のように適度に狭い範囲で、かつ狭すぎない範囲に維持することが望ましい。
【0029】
冷凍機油の5%留出温度Tと90%留出温度T90との差(T90-T)は、例えば、40℃以上、50℃以上、又は60℃以上であってよく、特に好ましくは、80℃以上、又は100℃以上であってよく、例えば、200℃以下、160℃以下、150℃以下、140℃以下、又は130℃以下であってよい。
【0030】
冷凍機油の初留点IBPと90%留出温度T90との差(T90-IBP)は、例えば、40℃以上、50℃以上、60℃以上、又は70℃以上であってよく、特に好ましくは、80℃以上、又は100℃以上であってよく、例えば、170℃以下、160℃以下、150℃以下、又は140℃以下であってよい。
【0031】
冷凍機油の初留点IBPと95%留出温度T95との差(T95-IBP)は、例えば、50℃以上、60℃以上、70℃以上、又は80℃以上であってよく、特に好ましくは、100℃以上、又は120℃以上であってよく、例えば、180℃以下、170℃以下、160℃以下、又は150℃以下であってよい。
【0032】
冷凍機油の90%留出温度T90と95%留出温度T95との差(T95-T90)は、潤滑性の観点から、例えば、1℃以上、3℃以上、5℃以上、10℃以上、又は20℃以上であってよく、例えば、100℃以下、80℃以下、50℃以下、又は40℃以下であってよい。
【0033】
冷凍機油の90%留出温度T90と蒸留終点EPとの差(EP-T90)は、潤滑性の観点から、例えば、30℃以上、50℃以上、60℃以上、又は70℃以上であってよく、例えば、150℃以下、140℃以下、130℃以下、又は120℃以下、特に好ましくは、100℃以下、90℃以下、又は80℃以下であってよい。
【0034】
本発明における初留点、5%留出温度、10%留出温度、50%留出温度、70%留出温度、90%留出温度及び蒸留終点は、それぞれASTM D7213-05に規定されるガスクロマトグラフィーによる蒸留試験方法に準拠して測定された初留点、5(容量)%留出温度、10(容量)%留出温度、50(容量)%留出温度、70(容量)%留出温度、90(容量)%留出温度、95(容量)%留出温度及び蒸留終点を意味する。
【0035】
冷凍機油の硫黄分は、0.001質量%以上0.2質量%以下である。冷凍機油の硫黄分は、例えば、耐摩耗性に更に優れる観点から、0.003質量%以上、又は0.005質量%以上であってよく、例えば、0.3質量%以下、0.1質量%以下、又は0.05質量%以下であってよい。本発明における硫黄分は、JIS K2541-6:2013で規定される紫外蛍光法によって測定された硫黄分を意味する。
【0036】
冷凍機油の環分析による組成割合は、冷凍機油の低粘度化と潤滑性のバランスに更に優れ、さらには引火点を高く維持する観点から、好ましくは、以下に示す範囲に維持する。
【0037】
冷凍機油の%Cは、例えば、15以上、40以上、又は50以上であってよく、例えば、70以下、60以下、又は55以下であってよい。
【0038】
冷凍機油の%Cは、例えば、30以上、35以上、又は40以上であってよく、例えば、85以下、70以下、60以下、50以下、又は49以下であってよい。
【0039】
冷凍機油の%Cに対する%Cの比(%C/%C)は、例えば、0.5以上、0.6以上、又は0.7以上であってよく、例えば、4.5以下、2.0以下、1.4以下、1.3以下、又は1.2以下であってよい。
【0040】
冷凍機油の%Cは、例えば、潤滑性や安定性の観点から、8以下、5以下、又は3以下であってよく、0であってもよいが、0.5以上、又は1以上であってよい。
【0041】
本発明における%C、%C及び%Cは、それぞれASTM D3238-95(2010)に準拠した方法(n-d-M環分析)により測定された値を意味する。
【0042】
冷凍機油の引火点は、例えば、安全性の観点から、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上であってよく、例えば、低粘度油とする観点から、155℃以下、又は145℃以下であってよい。本発明における引火点は、JIS K2265-4:2007(クリーブランド解放(COC)法)に準拠して測定された引火点を意味する。
【0043】
冷凍機油の流動点は、例えば、-10℃以下、又は-20℃以下であってよく、-50℃以下であってもよいが、精製コストの観点からは、-40℃以上であってもよい。本発明における流動点は、JIS K2269:1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0044】
冷凍機油の酸価は、例えば、1.0mgKOH/g以下、又は0.1mgKOH/g以下であってよい。本発明における酸価は、JIS K2501:2003に準拠して測定された酸価を意味する。
【0045】
冷凍機油の体積抵抗率は、例えば、1.0×10Ω・m以上、1.0×1010Ω・m以上、又は1.0×1011Ω・m以上であってよい。本発明における体積抵抗率は、JIS C2101:1999に準拠して測定した25℃での体積抵抗率を意味する。
【0046】
冷凍機油の水分含有量は、冷凍機油全量基準で、例えば、200ppm以下、100ppm以下、又は50ppm以下であってよい。
【0047】
冷凍機油の灰分は、例えば、100ppm以下、又は50ppm以下であってよい。本発明における灰分は、JIS K2272:1998に準拠して測定された灰分を意味する。
【0048】
上記のような性状を有する冷凍機油は、例えば、潤滑油基油と潤滑油添加剤とを含有する。潤滑油基油は、例えば鉱油が挙げられる。鉱油は、パラフィン系、ナフテン系等の原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤精製、水素化精製、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化脱ろう、白土処理、硫酸洗浄などの方法で精製することによって得ることができる。これらの精製方法は、1種単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。潤滑油基油としては、入手性の観点から、好ましくは、一般に溶剤、希釈剤、金属加工油等の用途に使用される低粘度の潤滑油基油を適宜選択したものが使用される。
【0049】
上記のような性状を有する冷凍機油を製造するためには、主成分(例えば90質量%以上)となる潤滑油基油の性状についても、本明細書で特に規定しない限り、上記と同等であることが望ましい。そのため、上記では冷凍機油の各項目の性状についての範囲を示したが、本明細書中で特に規定しない限り、冷凍機油に含まれる潤滑油基油の各項目についての範囲と読み替えてもよい。例えば、潤滑油基油のGC蒸留による蒸留性状は、冷凍機油の蒸留性状が上記した範囲となるならば、特に制限はない。潤滑油基油の初留点IBPから90%留出温度T90までの規定及びそれに関連する規定については、添加剤配合の影響を受けにくいため、例えば上記した冷凍機油の蒸留性状と略同一又は±5℃以内と読み替えてもよい。潤滑油基油の蒸留終点EPは、例えば450℃以下であってよく、95%留出温度T95は、例えば410℃以下であってよい。
【0050】
潤滑油基油は、上記鉱油からなってもよいが、通常、潤滑油基油全量基準で鉱油の割合は50質量%以上、70質量%以上、又は90質量%であってよい。本発明の効果を著しく阻害しない限りにおいて、上記鉱油に加えて、アルキルベンゼン等の炭化水素油、又はエステル等の含酸素油を更に含有していてよい。
【0051】
アルキルベンゼンは、下記アルキルベンゼン(a1)及びアルキルベンゼン(a2)からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。
アルキルベンゼン(a1):炭素数1~19のアルキル基を1~4個有し、かつそのアルキル基の合計炭素数が9~19であるアルキルベンゼン(好ましくは、炭素数1~15のアルキル基を1~4個有し、かつそのアルキル基の合計炭素数が9~15であるアルキルベンゼン)
アルキルベンゼン(a2):炭素数1~40のアルキル基を1~4個有し、かつそのアルキル基の合計炭素数が20~40であるアルキルベンゼン(好ましくは、炭素数1~30のアルキル基を1~4個有し、かつそのアルキル基の合計炭素数が20~30であるアルキルベンゼン)
【0052】
エステルは、例えば、1価アルコール又は2価アルコールと脂肪酸とのエステルであってよい。1価アルコール又は2価アルコールは、例えば、炭素数4~12の脂肪族アルコールであってよい。脂肪酸は、例えば、炭素数4~19の脂肪酸であってよい。
【0053】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、例えば、2.0mm/s以上、2.5mm/s以上、又は2.7mm/s以上であってよく、例えば、4.5mm/s以下、4.0mm/s以下、又は3.5mm/s以下であってよい。潤滑油基油の100℃における動粘度は、例えば、0.5mm/s以上、0.6mm/s以上、0.8mm/s以上、又は1.0mm/s以上であってよく、例えば、2.5mm/s以下、2.0mm/s以下、1.5mm/s以下、又は1.3mm/s以下であってよい。
【0054】
潤滑油基油の硫黄分は、耐摩耗性に更に優れる観点から、0.001質量%以上0.2質量%以下であってもよい。潤滑油基油の硫黄分は、例えば、0.003質量%以上、又は0.005質量%以上であってよく、例えば、0.1質量%以下、0.05質量%以下、又は0.03質量%以下であってよく、さらには、0.02質量%未満であってよい。
【0055】
潤滑油基油の含有量は、冷凍機油全量基準で、例えば、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であってよく、例えば、99.9質量%以下、99.5質量%以下、99質量%以下、又は98.5質量%以下であってよい。
【0056】
潤滑油添加剤としては、例えば、酸捕捉剤、酸化防止剤、極圧剤、油性剤、消泡剤、金属不活性化剤、耐摩耗剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤等が挙げられる。これらの潤滑油添加剤の含有量は、冷凍機油全量基準で、10質量%以下又は5質量%以下であってよい。
【0057】
冷凍機油は上記添加剤の中でも、耐摩耗性に更に優れる観点から、極圧剤を含有してもよい。好適な極圧剤としては、リン系極圧剤が挙げられる。リン系極圧剤は、例えば、硫黄及びリンを含む極圧剤(第一の極圧剤)、並びに硫黄を含まずリンを含む極圧剤(第二の極圧剤)に分類することができ、第一の極圧剤として、好適には、チオリン酸エステルなどが挙げられる。第二の極圧剤として、好適には、硫黄を含まない、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0058】
チオリン酸エステルとしては、トリブチルホスフォロチオネート、トリペンチルホスフォロチオネート、トリヘキシルホスフォロチオネート、トリヘプチルホスフォロチオネート、トリオクチルホスフォロチオネート、トリノニルホスフォロチオネート、トリデシルホスフォロチオネート、トリウンデシルホスフォロチオネート、トリドデシルホスフォロチオネート、トリトリデシルホスフォロチオネート、トリテトラデシルホスフォロチオネート、トリペンタデシルホスフォロチオネート、トリヘキサデシルホスフォロチオネート、トリヘプタデシルホスフォロチオネート、トリオクタデシルホスフォロチオネート、トリオレイルホスフォロチオネート、トリフェニルホスフォロチオネート、トリクレジルホスフォロチオネート、トリキシレニルホスフォロチオネート、クレジルジフェニルホスフォロチオネート、キシレニルジフェニルホスフォロチオネートなどが挙げられる。これらの中でも、トリフェニルホスフォロチオネートが好ましい。
【0059】
リン酸エステルとしては、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリ(エチルフェニル)ホスフェート、トリ(ブチルフェニル)ホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェートなどが挙げられる。これらの中でも、トリフェニルホスフェートやトリクレジルホスフェートが好ましい。
【0060】
酸性リン酸エステルとしては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0061】
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、上記の酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミンなどのアミンとの塩が挙げられる。
【0062】
塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート、ポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェートなどが挙げられる。亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイトなどが挙げられる。
【0063】
極圧剤の含有量は、耐摩耗性に更に優れる観点から、冷凍機油全量を基準として、例えば、0.1質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上、又は1.6質量%以上であってよく、例えば、5質量%以下、3質量%以下、2.5質量%以下、又は2質量%以下であってよい。
【0064】
また、極圧剤として上記第一の極圧剤及び第二の極圧剤を併用する場合、第一の極圧剤と第二の極圧剤との合計量を基準とした第一の極圧剤の含有量の割合は、耐摩耗性に更に優れる観点から、例えば、5質量%以上、8質量%以上、又は10質量%以上であってよく、例えば、20質量%以下、18質量%以下、15質量%以下、又は14質量%以下であってよい。
【0065】
第一の極圧剤の含有量は、耐摩耗性に更に優れる観点から、冷凍機油全量を基準として、例えば、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であってよく、例えば、1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.4質量%以下であってよい。第二の極圧剤の含有量は、耐摩耗性に更に優れる観点から、冷凍機油全量を基準として、例えば、0.5質量%以上、1質量%以上、又は1.2質量%以上であってよく、例えば、5質量%以下、3質量%以下、2.0質量%以下、又は1.8質量%以下であってよい。
【0066】
本実施形態に係る冷凍機油は、通常、冷凍機において、冷媒と混合された冷凍機用作動流体組成物の状態で存在している。すなわち、本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物は、上記の冷凍機油と冷媒とを含有する。冷凍機用作動流体組成物における冷凍機油の含有量は、冷媒100質量部に対して、1~500質量部、又は2~400質量部であってよい。
【0067】
冷媒としては、炭化水素冷媒、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド冷媒、2フッ化ヨウ化メタン冷媒、及び、アンモニア、二酸化炭素等の自然系冷媒が例示される。
【0068】
炭化水素冷媒は、好ましくは炭素数1~5の炭化水素、より好ましくは炭素数2~4の炭化水素である。炭化水素としては、具体的には例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン(R600a)、シクロブタン、メチルシクロプロパン、2-メチルブタン、ノルマルペンタン又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。炭化水素冷媒は、これらの中でも好ましくは、25℃、1気圧で気体の炭化水素冷媒であり、より好ましくは、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2-メチルブタン又はこれらの混合物である。
【0069】
飽和フッ化炭化水素冷媒は、好ましくは炭素数1~3、より好ましくは1~2の飽和フッ化炭化水素である。飽和フッ化炭化水素冷媒としては、具体的には、ジフルオロメタン(R32)、トリフルオロメタン(R23)、ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)、1,1-ジフルオロエタン(R152a)、フルオロエタン(R161)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R227ea)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(R245fa)、及び1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(R365mfc)、又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0070】
飽和フッ化炭化水素冷媒は、上記の中から用途や要求性能に応じて適宜選択される。飽和フッ化炭化水素冷媒は、例えばR32単独;R23単独;R134a単独;R125単独;R134a/R32=60~80質量%/40~20質量%の混合物;R32/R125=40~70質量%/60~30質量%の混合物;R125/R143a=40~60質量%/60~40質量%の混合物;R134a/R32/R125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;R134a/R32/R125=40~70質量%/15~35質量%/5~40質量%の混合物;R125/R134a/R143a=35~55質量%/1~15質量%/40~60質量%の混合物などである。飽和フッ化炭化水素冷媒は、さらに具体的には、R134a/R32=70/30質量%の混合物;R32/R125=60/40質量%の混合物;R32/R125=50/50質量%の混合物(R410A);R32/R125=45/55質量%の混合物(R410B);R125/R143a=50/50質量%の混合物(R507C);R32/R125/R134a=30/10/60質量%の混合物;R32/R125/R134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);R32/R125/R134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);R125/R134a/R143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)などであってよい。
【0071】
不飽和フッ化炭化水素(HFO)冷媒は、好ましくは炭素数2~3の不飽和フッ化炭化水素、より好ましくはフルオロプロペン、更に好ましくはフッ素数が3~5のフルオロプロペンである。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、好ましくは、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye)、及び3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)のいずれか1種又は2種以上の混合物である。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、冷媒物性の観点からは、好ましくは、HFO-1225ye、HFO-1234ze及びHFO-1234yfから選ばれる1種又は2種以上である。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、フルオロエチレンであってもよく、好ましくは1,1,2,3-トリフルオロエチレンである。
【0072】
これら冷媒の中では、地球環境への影響を低減するため、地球温暖化係数(GWP)の低い冷媒が好ましい。このような冷媒としては、例えば、不飽和フッ化炭化水素冷媒、R290、R600a等の自然冷媒から選ばれる少なくとも1種を含む、GWPが1000以下の混合冷媒などが挙げられる。これら冷媒のGWPは、500以下、100以下、50以下又は10以下であってよい。
【0073】
これら冷媒の沸点は、冷却能力の点で、例えば0℃以下、-60℃以上であることが好ましい。中でも、圧縮比が低く体積能力が高い点では、-30℃以下であることがより好ましく、圧力が低く圧縮機の摺動損失が小さい点では、-30℃以上であることがより好ましい。圧縮比が低く体積能力が高い冷媒としては、例えばR290(沸点:-42.1℃)が挙げられ、圧力が低く圧縮機の摺動損失が小さい冷媒としては、例えばR600a(沸点:-11.6℃)が挙げられる。冷凍機油の低粘度化と相まって、圧縮機の摺動損失低減による冷凍機の効率向上効果が期待される観点から、R600aを用いることが特に好ましい。
【0074】
本実施形態に係る冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有するエアコン、冷蔵庫、開放型又は密閉型のカーエアコン、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷凍機、遠心式の圧縮機を有する冷凍機等に好適に用いられる。
【0075】
図1は、本実施形態に係る冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物が適用される冷凍機の構成の一例を示す概略図である。図1に示すように、冷凍機10は、例えば、冷媒圧縮機1と、ガスクーラー2と、膨張機構3(キャピラリ、膨張弁など)と、蒸発器4とが流路5で順次接続された冷媒循環システムを少なくとも備えている。かかる冷媒循環システムにおいては、まず、冷媒圧縮機1から流路5内に吐出された高温(通常70~120℃)の冷媒が、ガスクーラー2にて高密度の流体(超臨界流体等)となる。続いて、冷媒は膨張機構3が有する狭い流路を通ることによって液化し、さらに蒸発器4にて気化して低温(通常-40~0℃)となる。
【0076】
図1中の冷媒圧縮機1内においては、高温(通常70~120℃)条件下、少量の冷媒と多量の冷凍機油とが共存する。冷媒圧縮機1から流路5に吐出される冷媒は、気体状であり、少量(通常1~10%)の冷凍機油をミストとして含んでいるが、このミスト状の冷凍機油中には少量の冷媒が溶解している(図1中の点a)。次に、ガスクーラー2内においては、気体状の冷媒が圧縮されて高密度の流体となり、比較的高温(50~70℃前後)条件下で多量の冷媒と少量の冷凍機油とが共存する(図1中の点b)。さらに、多量の冷媒と少量の冷凍機油との混合物は膨張機構3、蒸発器4に順次送られて急激に低温(通常-40~0℃)となり(図1中の点c、d)、再び冷媒圧縮機1に戻される。
【0077】
本実施形態に係る冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、上述の冷媒とともに使用することができるが、冷媒混合時の冷温特性及び相溶性の点で、特に炭化水素冷媒とともに好適に用いられる。
【実施例
【0078】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0079】
潤滑油基油として、表1に示す性状を有する市販の基油1~6を用意した。
【0080】
【表1】
【0081】
基油1~6と以下に示す添加剤とを用いて、表2及び表3に示す組成及び性状の冷凍機油(実施例1~9及び比較例1~2)を調製した。なお、表中、複数の基油番号が記載されているもの(例えば、実施例1における「基油1,2,6」)は、各基油を混合して調製した混合基油を用いたことを意味する。また、表2及び表3において、「A/(A+B)×100」は、第一の極圧剤(A成分)と第二の極圧剤(B成分)との合計量を基準とした第一の極圧剤(A成分)の含有量の割合を意味する。
【0082】
[添加剤]
(第一の極圧剤)
A:トリフェニルホスフォロチオネート
(第二の極圧剤)
B1:トリクレジルホスフェート
B2:トリ(ブチルフェニル)ホスフェート
【0083】
(耐摩耗性試験)
実施例及び比較例の各冷凍機油を試験油として、以下に示す手順で耐摩耗性を評価した。結果を表2及び表3に示す。
【0084】
耐摩耗性試験は、ASTM D4172-94に準拠する高速四球試験により行った。剛球としてSUJ2を用い、試験油量20ml、試験温度80℃、回転数1200rpm、負荷荷重196N、試験時間15分間の条件で試験を行った。耐摩耗性の評価は、固定球の摩耗痕径(mm)の平均値を用いた。なお、このときの面圧は、約2.3GPaであり、周速は、約36cm/sと算出された。この条件における摩耗痕径の平均値が0.7mm以下であると、混合潤滑ないし境界潤滑条件のような厳しい潤滑条件下においても耐摩耗性能が高い冷凍機油ということができる。摩耗痕径の平均値は、好ましくは0.5mm以下であり、より好ましくは0.45mm以下であり、更に好ましくは0.4mm以下である。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
(炭化水素冷媒混合時の二層分離温度)
また、これらの実施例で用いた冷凍機油について、JIS K2211:2009付属書D「冷媒との相溶試験方法」に準拠し、冷媒としてイソブタン(R600a)を用い、試験油濃度を10質量%としたときの二層分離温度を測定した。このときの二層分離温度は-50℃以下であり、これらの実施例で用いた冷凍機油が炭化水素冷媒用冷凍機油として使用可能であることを確認した。
【符号の説明】
【0088】
1…冷媒圧縮機、2…ガスクーラー、3…膨張機構、4…蒸発器、5…流路、10…冷凍機。
図1