(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】エレクトロクロミックデバイス
(51)【国際特許分類】
G02F 1/153 20060101AFI20220927BHJP
G02F 1/155 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
G02F1/153
G02F1/155
(21)【出願番号】P 2018041670
(22)【出願日】2018-03-08
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】中野 邦裕
(72)【発明者】
【氏名】口山 崇
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0201545(US,A1)
【文献】国際公開第2013/055457(WO,A1)
【文献】特開昭61-249026(JP,A)
【文献】国際公開第2011/101427(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/137378(WO,A1)
【文献】特開2013-007935(JP,A)
【文献】特開2003-131270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/163
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調光面を有するエレクトロクロミックデバイスであって、
前記調光面に沿って配列され、電気的に直列に接続された少なくとも2つの第1エレクトロクロミック素子と、
少なくとも1つの第2エレクトロクロミック素子と、
を備え、
前記第1エレクトロクロミック素子および前記第2エレクトロクロミック素子は、
一対の透明電極層と、
前記一対の透明電極層の間に設けられ、無色状態と有色状態とを切り換えられるエレクトロクロミック層を含む調光層と、
を有し、
前記調光面に交差する方向からみて、前記第2エレクトロクロミック素子の調光層は、隣り合う前記第1エレクトロクロミック素子の調光層の間の領域と重なり、
前記調光面に交差する方向からみて、前記第2エレクトロクロミック素子の調光層は、前記第1エレクトロクロミック素子の調光層と重ならない、
エレクトロクロミックデバイス。
【請求項2】
複数の前記第1エレクトロクロミック素子と複数の
前記第2エレクトロクロミック素子とを備え、
複数の前記第2エレクトロクロミック素子は、前記調光面に沿って配列され、電気的に直列に接続されており、
前記調光面に交差する方向からみて、複数の前記第2エレクトロクロミック素子の調光層は、複数の前記第1エレクトロクロミック素子のうちの隣り合う前記第1エレクトロクロミック素子の調光層の間の領域とそれぞれ重なる、
請求項1に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項3】
前記第1エレクトロクロミック素子の配列方向における前記第2エレクトロクロミック素子の調光層の長さは、前記配列方向における前記第1エレクトロクロミック素子の調光層の長さと同一である、請求項1または2に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項4】
前記第1エレクトロクロミック素子の配列方向における前記第1エレクトロクロミック素子の調光層の長さと、前記配列方向における前記第2エレクトロクロミック素子の調光層の長さとの総和は、前記配列方向における前記エレクトロクロミックデバイスの前記調光面の調光領域の長さと同一である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項5】
前記第1エレクトロクロミック素子に電圧を印加するための一対の第1印加電極と、
前記第2エレクトロクロミック素子に電圧を印加するための一対の第2印加電極と、
を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項6】
前記第1エレクトロクロミック素子と前記第2エレクトロクロミック素子とは、電気的に直列に接続されており、
前記第1エレクトロクロミック素子および前記第2エレクトロクロミック素子に電圧を印加するための一対の印加電極を備える、
請求項1~4のいずれか1項に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項7】
透明基板を備え、
前記第1エレクトロクロミック素子は、前記透明基板の一方の主面上に形成され、
前記第2エレクトロクロミック素子は、前記透明基板の他方の主面上に形成される、
請求項1~6のいずれか1項に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項8】
透明基板と、平板状の透明スペーサとを備え、
前記第1エレクトロクロミック素子は、前記透明基板上に形成され、
前記透明スペーサは、前記第1エレクトロクロミック素子と前記第2エレクトロクロミック素子との間に設けられ、
前記第2エレクトロクロミック素子は、前記透明スペーサ上に形成される、
請求項1~6のいずれか1項に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項9】
前記一対の透明電極層は、前記調光面に交差する方向における一方側に配置された第1透明電極層と、前記調光面に交差する方向における他方側に配置された第2透明電極層とを含み、
隣り合う前記第1エレクトロクロミック素子のうちの一方の第2透明電極層は、隣り合う前記第1エレクトロクロミック素子のうちの他方の第1透明電極層に接続される、
請求項1~8のいずれか1項に記載のエレクトロクロミックデバイス。
【請求項10】
調光面を有するエレクトロクロミックデバイスであって、
前記調光面に沿って配列され、電気的に直列に接続された少なくとも2つの第1エレクトロクロミック素子と、
少なくとも1つの第2エレクトロクロミック素子と、
透明基板と、
平板状の透明スペーサと、
を備え、
前記第1エレクトロクロミック素子および前記第2エレクトロクロミック素子は、
一対の透明電極層と、
前記一対の透明電極層の間に設けられ、無色状態と有色状態とを切り換えられるエレクトロクロミック層を含む調光層と、
を有し、
前記第1エレクトロクロミック素子は、前記透明基板上に形成され、
前記透明スペーサは、前記第1エレクトロクロミック素子と前記第2エレクトロクロミック素子との間に設けられ、
前記第2エレクトロクロミック素子は、前記透明スペーサ上に形成され、
前記調光面に交差する方向からみて、前記第2エレクトロクロミック素子の調光層は、隣り合う前記第1エレクトロクロミック素子の調光層の間の領域と重なる、
エレクトロクロミックデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロクロミックデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質にキャリア(電子または正孔)を注入することにより生じる酸化反応または還元反応により、化学物質の光学物性(例えば、色調(Color tone)、無色-有色)が変化するエレクトロクロミック現象(Electrochromism)が知られている。このようなエレクトロクロミック現象を利用した光学素子として、エレクトロクロミック素子(以下、EC(Electro Chromic)素子ともいう。)が知られている。特許文献1には、このようなEC素子を含むエレクトロクロミックデバイス(以下、ECデバイスともいう。)が記載されている。
【0003】
特許文献1には、EC素子の問題点として、透明電極層の電気抵抗が比較的に大きいため、大面積のEC素子を作製すると、透明電極層における電圧印加点近傍の着色が開始してから、全体的に均一な着色状態となるまでの時間(色調変化の時間)が長いことが記載されている。
この問題点に関し、特許文献1に記載のECデバイスでは、同一基板上に複数のEC素子を近接して形成し、かつ各EC素子を直列に接続する。これにより、印加電圧は大きくなるが、各EC素子に同時に電圧が印加されるので、全EC素子が同時に着色を開始する。しかも各EC素子が小さいので、電圧印加点近傍の着色が開始してから、全体的に均一な着色状態となるまでの時間(色調変化の時間)が短くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のECデバイスでは、EC素子を直列接続するため、具体的には、隣り合うEC素子のうちの一方のEC素子の上部透明電極層と他方のEC素子の下部透明電極層とを透明電極層で接続するため、EC素子の間には透明電極層のみが存在し、EC層が存在しない。そのため、EC素子の色調が変化するときに、EC素子の間の色調が変化しない領域がスリットのように視認され、色調が不均一(色ムラ)となってしまう。
【0006】
本発明は、色調変化の時間短縮と色調の均一性(色ムラ低減)との両立が可能なエレクトロクロミックデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエレクトロクロミックデバイスは、調光面を有するエレクトロクロミックデバイスであって、調光面に沿って配列され、電気的に直列に接続された少なくとも2つの第1エレクトロクロミック素子と、少なくとも1つの第2エレクトロクロミック素子とを備え、第1エレクトロクロミック素子および第2エレクトロクロミック素子は、一対の透明電極層と、一対の透明電極層の間に設けられ、無色状態と有色状態とを切り換えられるエレクトロクロミック層を含む調光層とを有し、調光面に交差する方向からみて、第2エレクトロクロミック素子の調光層は、隣り合う第1エレクトロクロミック素子の調光層の間の領域と重なる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エレクトロクロミックデバイスにおいて、色調変化の時間短縮と色調の均一性(色ムラ低減)とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】従来のエレクトロクロミックデバイスの断面図である。
【
図2】第1実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスを調光面側から示す平面図である。
【
図3】
図2に示すエレクトロクロミックデバイスのIII-III線断面図である。
【
図4】第1実施形態の第1変形例に係るエレクトロクロミックデバイスの断面図である。
【
図5】第1実施形態の他の第1変形例に係るエレクトロクロミックデバイスの断面図である。
【
図6】第1実施形態の第2変形例に係るエレクトロクロミックデバイスの断面図である。
【
図7】第2実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一または相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、便宜上、ハッチングおよび部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。
【0011】
エレクトロクロミック素子(以下、EC素子ともいう。)は、上述したように、化学物質にキャリア(電子または正孔)を注入することにより生じる酸化反応または還元反応により、化学物質の光学物性(例えば、色調、無色-有色)が変化するエレクトロクロミック現象を利用した光学素子である。
EC素子は、光透過率を電流により任意に制御できるため、省エネルギー特性および意匠性が求められる光学分野において注目されている。EC素子は、酸化または還元等の化学反応によって物質の色調が変化することにより色が変わるが、これは電圧駆動で液晶の配向を変化させる液晶素子とは根本的に異なる。
【0012】
EC素子は、様々な色調を発現でき、駆動電力、消費電力等の点でも大きなメリットを有する。しかし、EC素子は、色調変化の際に化学反応を伴わない液晶素子と比較すると、無色状態と有色状態との変化時(換言すれば、光透過状態と遮光状態との変化時)、すなわち、スイッチング時の応答速度(動作速度)の点で大きく劣るというデメリットを有する。特に大面積のEC素子を作製すると、電気回路的な問題、例えば透明電極層の比較的に大きい電気抵抗により、色調変化の速度が低下する。
この点に関し、EC層を薄くすると、色調変化の速度が速くなる。しかし、EC層を薄くすると、色調が薄くなってしまうというトレードオフの関係がある。
【0013】
また、上述したように、色調変化の速度を速めるために、同一基板上において、複数のEC素子に分割し、複数のEC素子を電気的に直列に接続することが考えられる(特許文献1参照)。
図1に、このような従来のエレクトロクロミックデバイスの断面図を示す。
なお、
図1および後述する図面には、XYZ直交座標系を示す。XY平面はエレクトロクロミックデバイス1X(または、後述のエレクトロクロミックデバイス1)の調光面Sに平行な面であり、Z方向はXY平面に対して直交な方向である。
【0014】
図1に示すエレクトロクロミックデバイス(以下、ECデバイスともいう。)1Xは、透明基板110上に3つのEC素子103a,103b,103cを備える。EC素子103a,103b,103cは、調光面Sに沿ってX方向に配列される。
EC素子103a,103b,103cの各々は、透明基板110上に形成された第1透明電極層121と、第1透明電極層121と対向する第2透明電極層122と、第1透明電極層121と第2透明電極層122との間に設けられた調光層130とを備える。調光層130は、第1透明電極層121に接する第1EC層131と、第2透明電極層122に接する第2EC層132と、第1EC層131と第2EC層132との間に設けられた電解質層133とを有する。
【0015】
EC素子103aにおける第1透明電極層121には、電圧を印加するための印加電極141が設けられる。EC素子103aにおける第2透明電極層122は、EC素子103bにおける第1透明電極層121に接続され、EC素子103bにおける第2透明電極層122は、EC素子103cにおける第1透明電極層121に接続される。EC素子103cにおける第2透明電極層122には、電圧を印加するための印加電極142が設けられる。これにより、EC素子103a,103b,103cは、印加電極141,142間において、電気的に直列に接続される。
【0016】
このECデバイス1Xでは、EC素子103a,103b,103cにおける調光層130の色調変化により、調光面Sの調光領域Rにおいて光透過率が変化し、その結果、調光が可能となる。調光領域Rとは、全てのEC素子103a,103b,103cを囲うように、EC素子103a,103b,103cで画成される領域である。
【0017】
このECデバイス1Xでは、EC素子103aの第2透明電極層122とEC素子103bの第1透明電極層121とを接続するために、EC素子103aとEC素子103bとの間の領域4には、透明電極層のみが存在し、EC層が存在しない。同様に、EC素子103bの第2透明電極層122とEC素子103cの第1透明電極層121とを接続するために、EC素子103bとEC素子103cとの間の領域4には、透明電極層のみが存在し、EC層が存在しない。
そのため、ECデバイス1Xでは、EC素子103a,103b,103cの色調が変化するときに、EC素子103a,103b,103cの間の色調が変化しない領域4がスリットのように視認され、調光面Sの調光領域Rにおいて色調が不均一(色ムラ)となってしまう。
【0018】
そこで、本実施形態では、色調変化の時間短縮と色調の均一性(色ムラ低減)との両立が可能なエレクトロクロミックデバイスを提供する。以下、本実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスについて説明する。
【0019】
[エレクトロクロミックデバイス]
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスを調光面側から示す平面図であり、
図3は、
図2に示すエレクトロクロミックデバイスのIII-III線断面図である。
図2および
図3に示すエレクトロクロミックデバイス(以下、ECデバイスともいう。)1は、透明基板10と、3つの第1エレクトロクロミック素子(以下、第1EC素子ともいう。)3a,3b,3cと、2つの第2エレクトロクロミック素子(以下、第2EC素子ともいう。)5a,5bと、2対の印加電極41,42とを備える。
【0020】
<透明基板>
透明基板10は、ECデバイス1の調光面Sと平行な主面を有する基板である。透明基板10は、少なくとも可視光に対して光学的に透明であるプラスチック材料で形成される。透明基板10の材料としては、ポリエステルやポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリシクロオレフィン等が挙げられる。
【0021】
<第1エレクトロクロミック素子および第2エレクトロクロミック素子>
第1EC素子3a,3b,3cは、透明基板10の一方の主面上に形成され、第2EC素子5a,5bは、透明基板10の他方の主面上に形成される。
第1EC素子3a,3b,3cの各々は、第1透明電極層21と、第2透明電極層22と、調光層30とを備える。同様に、第2EC素子5a,5bの各々は、第1透明電極層21と、第2透明電極層22と、調光層30とを備える。
【0022】
<<第1透明電極層および第2透明電極層>>
第1透明電極層21および第2透明電極層22は、調光層30を挟むように配置される。第1透明電極層21は、透明基板10の一方または他方の主面に形成され、第2透明電極層22は、第1透明電極層21と対向して形成される。
換言すれば、第1透明電極層21および第2透明電極層22は、一対の透明電極層を構成する。詳説すると、第1透明電極層21は、透明基板10の一方の主面上または他方の主面上に配置され、その第1透明電極層21に対し、調光面Sに直交するZ方向にて離れて第2透明電極層22が配置される。このことから、第1透明電極層21は、調光面Sに直交するZ方向における一方側(または他方側)に配置され、第2透明電極層22は、調光面Sに直交するZ方向における他方側(または一方側)に配置されるといえる。
第1透明電極層21および第2透明電極層22は、調光層30への電流注入の機能を有する。
【0023】
第1透明電極層21および第2透明電極層22は、透明導電性材料で形成される。透明導電性材料としては、透明導電性金属酸化物、例えば、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化チタンおよびそれらの複合酸化物等が用いられる。これらの中でも、酸化インジウムを主成分とするインジウム系複合酸化物が好ましい。高い導電率および透明性、並びに長期信頼性の観点からは、特にインジウム錫複合酸化物(ITO)、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、またはインジウムチタン複合酸化物(InTiO)等が特に好ましい。
ここで、「主成分」とは、その含有割合が50質量%より多いことを意味し、70質量%以上であると好ましく、85質量%以上であるとより好ましい。また、上記した透明導電性金属酸化物は、利用状況に応じて、Sn、W、As、Zn、Ge、Ca、Si、C等のうちの少なくとも一種の元素をドーパントとして含むことが好ましい。これらの中でも、ドーパントとしてSnを用いた酸化インジウム錫(ITO)が特に好ましく用いられる。
【0024】
また、第1透明電極層21および第2透明電極層22は、金、銀、銅、アルミニウム、またはカーボン等からなる導電性パターン部を含んでも良い。第1透明電極層21および第2透明電極層22は、導電性パターン部を含むことで、より低抵抗となる。
【0025】
第1透明電極層21および第2透明電極層22の形成方法としては、例えばスパッタリング法または塗布法が用いられる。その際、マスク製膜によって所望の電極パターンを形成してもよいし、レーザーパターニングによって所望の電極パターンを形成してもよい。また、フォトリソグラフィによるエッチングプロセスによってもパターニング可能である。
【0026】
<<調光層>>
調光層30は、第1透明電極層21と第2透明電極層22との間に設けられる。調光層30は、第1エレクトロクロミック層(以下、第1EC層ともいう。)31と、第2エレクトロクロミック層(以下、第2EC層ともいう。)32と、電解質層33とを備える。
【0027】
<<<第1エレクトロクロミック層および第2エレクトロクロミック層>>>
第1EC層31は、第1透明電極層21に接して形成され、第2EC層32は、第2透明電極層22に接して形成される。第1EC層31および第2EC層32は、電気化学的な反応(酸化反応または還元反応)により、色調を変化させる、具体的には無色状態と有色状態とを切り換える。
第1EC層31および第2EC層32は、互いに異なる種類の着色型のEC層であればよい。例えば、第1EC層31が酸化着色型である場合、第2EC層32は還元着色型であればよい。
【0028】
酸化着色型のEC層の材料としては、キャリアの移動により酸化反応が生じて着色する材料であればよい。また、還元着色型のEC層の材料としては、キャリアの移動により還元反応が生じて着色する材料であればよい。酸化着色型および還元着色型のEC層の材料としては、無機材料および有機材料のいずれであってもよい。
酸化着色型の無機材料としては、プルシアンブルー、ルテニウムパープル、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化イリジウム等が挙げられる。酸化着色型の有機材料としては、ポリアニリン等が挙げられる。
還元着色型の無機材料としては、WO3、MoO3、V2O5等が挙げられる。還元着色型の有機材料としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、へブチルピオロゲン、ポリビオロゲン、テトラチオフルバレン、ポリチオール、ポリチオフェン等が挙げられる。
【0029】
第1EC層31および第2EC層32の形成方法としては、材料として金属酸化物を用いる場合、スパッタリング法または蒸着法が用いられ、材料として金属錯イオンからなる化合物を用いる場合、塗布法(ウエットコーティング法)が用いられる。
【0030】
<<<電解質層>>>
電解質層33は、第1EC層31と第2EC層32との間に設けられ、第1透明電極層21と第2透明電極層22との間で電荷を移動させることで、第1EC層31と第2EC層32の色調の変化を促す。
電解質層33の材料としては、液体状の電解質、固体状の電解質、または半固体状の電解質が挙げられる。
液体状の電解質としては、有機溶媒に電解質塩を溶解させたものが挙がられる。有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、電解質塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4等が挙げられる。
固体状の電解質としては、例えば、β-Al2O3、Ta2O3、ZrO2等が挙げられる。
半固体状の電解質層としては、例えば、液体状の電解質にゲル化剤を添加してゲル状にしたものが挙げられる。ゲル化剤としては、光硬化性樹脂等が挙げられる。
【0031】
電解質層33の形成方法としては、電解質材料が固体状である場合、スパッタリング法または蒸着法が用いられ、電解質材料が液体状または半固体状である場合、塗布法(ウエットコーティング法)が用いられる。
【0032】
<印加電極>
印加電極41,42は、第1、第2透明電極層21,22に電圧を印加するための電極で、例えば金属材料で形成される。金属材料としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、またはカーボンを用いることができる。
印加電極41,42の形成方法としては、例えば金属ペーストを用いた塗布法が用いられる。
【0033】
<他の構成部材>
ECデバイス1は、第1EC素子3a,3b,3cの第2透明電極層22側に設けられた透明基板を備えてもよい。すなわち、2枚の透明基板で、第1EC素子3a,3b,3cが挟持されててもよい。また、ECデバイス1は、第2EC素子5a,5bの第2透明電極層22側に設けられた透明基板を備えてもよい。すなわち、2枚の透明基板で、第2EC素子5a,5bが挟持されててもよい。これらによれば、第1EC素子3a,3b,3c、第2EC素子5a,5bといったEC素子が、透明基板で保護される。
これらの透明基板としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の材料からなる透明基板が用いられる。
また、透明電極層21,22同士の間の電位差制御に多大な影響を与えない範囲で、透明電極層21,22同士の間に、上述以外の別の層が介在してもよい。
【0034】
<第1エレクトロクロミック素子および第2エレクトロクロミック素子の詳細>
第1EC素子3a,3b,3cは、透明基板10の一方の主面上に、すなわちECデバイス1の調光面Sに沿って、X方向に配列される。
第1EC素子3aの第1透明電極層21は、第1EC素子3bと反対側に向けて、第1EC素子3aの第2透明電極層22と重畳しない部分を生じさせるまで延びる。この第1透明電極層21の延びた部分には、電圧印加のための印加電極(第1印加電極)41が形成される。
第1EC素子3aの第2透明電極層22は、自身の第1透明電極層21の延びた部分とは反対側(すなわち、第1EC素子3b)に向けて、調光層30を覆うように延びる。調光層30は一定の厚みを有することから、第2透明電極層22は、調光層30の側面(調光層30にてZ方向に延びる面)を覆う。そのため、第2透明電極層22は、調光層30の側面を覆う垂下面22sを有する。
第1EC素子3aに隣り合う第1EC素子3bの第1透明電極層21は、第1EC素子3aに向けて、第1EC素子3bの第2透明電極層22と重畳しない部分を生じさせるまで延びる。詳説すると、第1EC素子3bの第1透明電極層21は、第1EC素子3aの第2透明電極層22(垂下面22s)に到達するまで延びる。これにより、隣り合う第1EC素子3a,3bのうちの第1EC素子3aの第2透明電極層22は、第1EC素子3bの第1透明電極層21に接続される。
第1EC素子3bの第2透明電極層22は、自身の第1透明電極層21の延びた部分とは反対側(すなわち、第1EC素子3c)に向けて、調光層30を覆うように延びることで、第1EC素子3aの第2透明電極層22同様に、垂下面22sを有する。
第1EC素子3bに隣り合う第1EC素子3cの第1透明電極層21は、第1EC素子3bに向けて、第1EC素子3cの第2透明電極層22と重畳しない部分を生じさせるまで延びる。詳説すると、第1EC素子3cの第1透明電極層21は、第1EC素子3bの第2透明電極層22(垂下面22s)に到達するまで延びる。これにより、隣り合う第1EC素子3b,3cのうちの第1EC素子3bの第2透明電極層22は、第1EC素子3cの第1透明電極層21に接続される。
第1EC素子3cの第2透明電極層22は、自身の第1透明電極層21の延びた部分とは反対側に向けて、調光層30を覆うように延びることで、第1EC素子3a、3bの第2透明電極層22同様に、垂下面22sを有する。この垂下面22sは、第1透明電極層21と同材料で形成された透明電極層23に連なる。そして、この透明電極層23の部分には、電圧印加のための印加電極(第1印加電極)42が形成される。
これにより、第1EC素子3a,3b,3cは、一対の印加電極(第1印加電極)41,42間において、電気的に直列に接続される。
【0035】
第2EC素子5a,5bは、透明基板10の他方の主面上に、すなわちECデバイス1の調光面Sに沿って、X方向に配列される。
第2EC素子5aの第1透明電極層21は、第2EC素子5bと反対側に向けて、第2EC素子5aの第2透明電極層22と重畳しない部分を生じさせるまで延びる。この第1透明電極層21の延びた部分には、電圧印加のための印加電極(第2印加電極)41が形成される。
第2EC素子5aの第2透明電極層22は、自身の第1透明電極層21の延びた部分とは反対側(すなわち、第2EC素子5b)に向けて、調光層30を覆うように延びることで、第1EC素子3a、3b,3cの第2透明電極層22同様に、調光層30の側面を覆う垂下面22sを有する。
第2EC素子5aに隣り合う第2EC素子5bの第1透明電極層21は、第2EC素子5aに向けて、第2EC素子5bの第2透明電極層22と重畳しない部分を生じさせるまで延びる。詳説すると、第2EC素子5bの第1透明電極層21は、第2EC素子5aの第2透明電極層22(垂下面22s)に到達するまで延びる。これにより、隣り合う第2EC素子5a,5bのうちの第2EC素子5aの第2透明電極層22は、第2EC素子5bの第1透明電極層21に接続される。
第2EC素子5bの第2透明電極層22は、自身の第1透明電極層21の延びた部分とは反対側に向けて、調光層30を覆うように延びることで、第1EC素子3a、3b,3cおよび第2EC素子5aの第2透明電極層22同様に、垂下面22sを有する。この垂下面22sは、第1透明電極層21と同材料で形成された透明電極層23に連なる。そして、この透明電極層23の部分には、電圧印加のための印加電極(第2印加電極)42が形成される。
これにより、第2EC素子5a,5bは、一対の印加電極(第2印加電極)41,42間において、電気的に直列に接続される。
【0036】
透明基板10の主面、すなわちECデバイス1の調光面Sに直交するZ方向からみて、第2EC素子5aの調光層30は、第1EC素子3aの調光層30と第1EC素子3bの調光層30との間の領域と重なるように配置される。換言すれば、Z方向からみて、第2EC素子5aの調光層30は、第1EC素子3aの調光層30と第1EC素子3bの調光層30との間の領域を被覆するように配置される。
また、透明基板10の主面、すなわちECデバイス1の調光面Sに直交するZ方向からみて、第2EC素子5bの調光層30は、第1EC素子3bの調光層30と第1EC素子3cの調光層との間の領域と重なるように配置される。換言すれば、Z方向からみて、第2EC素子5bの調光層30は、第1EC素子3bの調光層30と第1EC素子3cの調光層との間の領域を被覆するように配置される。
これにより、ECデバイス1の調光面Sに直交するZ方向からみて、第1EC素子3a,3b,3cの調光層30と第2EC素子5a,5bの調光層30は、互いに補償し合うように配置される。
これにより、第1EC素子3a,3b,3cの色調が変化するとき、第1EC素子3a,3b,3cの間の領域において第2EC素子5a,5bの色調が変化するので、調光面Sの調光領域Rにおいて色調が均一となる(色ムラ低減)。調光領域Rとは、全てのEC素子3a,3b,3c,5a,5bを囲うように、EC素子3a,3b,3c,5a,5bで画成される領域である。
【0037】
透明基板10の主面、すなわちECデバイス1の調光面Sに直交するZ方向からみて、第2EC素子5aの調光層30は、第1EC素子3aの調光層30および第1EC素子3bの調光層30と重ならないと好ましい。また、透明基板10の主面、すなわちECデバイス1の調光面Sに直交するZ方向からみて、第2EC素子5bの調光層30は、第1EC素子3bの調光層30および第1EC素子3cの調光層30と重ならないと好ましい。
例えば、第1EC素子3a,3b,3cおよび第2EC素子5a,5bの配列方向(X方向)における、第1EC素子3a,3b,3cの調光層30の長さと第2EC素子5a,5bの調光層30の長さとの総和は、この配列方向(X方向)におけるECデバイス1の調光面Sの調光領域Rの長さと同一であると好ましい。また、例えば、第1EC素子3a,3b,3cの調光層30の面積と第2EC素子5a,5bの調光層30の面積との総和は、ECデバイス1の調光面Sの調光領域Rの面積と同一であると好ましい。
第2EC素子5a,5bの調光層30と第1EC素子3a,3b,3cの調光層30とが重なると、色調が濃くなるため、色調が不均一(色ムラ)となる。
この点に関し、本実施形態では、第2EC素子5a,5bの調光層30と第1EC素子3a,3b,3cの調光層30とが重ならないので、重なりに起因して色調が濃くなるような色調の不均一(色ムラ)が低減する。
【0038】
第1EC素子3a,3b,3cおよび第2EC素子5a,5bの配列方向(X方向)における第2EC素子5a,5bの各々の調光層30の長さは、この配列方向(X方向)における第1EC素子3a,3b,3cの各々の調光層30の長さと同一であると好ましい。
これにより、各第1EC素子3a,3b,3cおよび各第2EC素子5a,5bの色調変化の速度(応答速度、動作速度)が同一となる。
また、本実施形態のように、透明基板10の両面にEC素子を形成する場合に、透明基板10の両面に生じる応力差が低減し、透明基板10の反り、換言すればECデバイス1の反りが抑制される。その結果、ECデバイス1の信頼性が向上する(例えば、透明電極層の割れ抑制、ECデバイス全体の応力緩和)。
【0039】
第1EC素子3a,3b,3cの調光層30の構成と第2EC素子5a,5bの調光層30の構成とは同一であると好ましい。調光層30の構成としては、EC層31,32の材料、厚さ、電解質層の材料等である。
これにより、第1EC素子3a,3b,3cおよび第2EC素子5a,5bの色調変化時(調光時)、調光面Sの調光領域Rにおいて色調がより均一となる(色ムラ低減)。
【0040】
以上説明したように、第1実施形態のECデバイス1によれば、調光面Sに沿って配列され、電気的に直列に接続された第1EC素子3a,3b,3cと、調光面Sに沿って配列され、電気的に直列に接続された第2EC素子5a,5bとを備える。これにより、各EC素子に同時に電圧が印加されるので、全EC素子が同時に着色を開始する。しかも各EC素子が小さいので、電圧印加点近傍の着色が開始してから、全体的に均一な着色状態となるまでの時間(色調変化の時間)が短縮される。換言すれば、色調変化の速度(動作速度)が向上する。
【0041】
更に、第1実施形態のECデバイス1によれば、調光面Sに交差する方向からみて、第2EC素子5a,5bの調光層30は、第1EC素子3a,3b,3cのうちの隣り合うEC素子の調光層30の間の領域とそれぞれ重なる。これにより、調光面Sの調光領域Rにおいて色調が均一となる(色ムラ低減)。
したがって、第1実施形態のECデバイス1によれば、色調変化の時間短縮と色調の均一性(色ムラ低減)とを両立できる。
【0042】
(第1変形例)
第1実施形態では、例えば、第1EC層31と第2EC層32との2種のEC層を備える第1EC素子3a,3b,3cおよび第2EC素子5a,5bを例示した。しかし、EC素子の形態はこれに限定されず、
図4に示すように第1EC層31のみを備えてもよいし、
図5に示すように第2EC層32のみを備えてもよい。
図4に示す第1EC層31および
図5に示す第2EC層32は、上述したように、酸化着色型であってもよいし、還元着色型であってもよい。
【0043】
(第2変形例)
また、第1実施形態では、電気的に直接接続された第1EC素子3a,3b,3cと電気的に直接接続された第2EC素子5a,5bとのそれぞれに、一対の印加電極41,42が設けられたECデバイス1を例示した。これによれば、第1EC素子と第2EC素子とに個別に電圧を印加でき、第1EC素子と第2EC素子との個別の電圧制御が可能となる。
しかし、ECデバイス1の形態はこれに限定されず、
図6に示すように、導電性部材43を用いて第1EC素子3a,3b,3cと第2EC素子5a,5bとを電気的に直列に接続し、これらの第1EC素子3a,3b,3cおよび第2EC素子5a,5bに一対の印加電極41,42が設けられてもよい。すなわち、このECデバイス1では、第1EC素子3a,3b,3cと第2EC素子5a,5bとが、一対の印加電極41,42間において、電気的に直列に接続されていてもよい。これによれば、第1EC素子3a,3b,3cおよび第2EC素子5a,5bのための電源は1つあればよく、これらのEC素子への電圧印加が容易となる。
【0044】
(第2実施形態)
第1実施形態では、一方の主面に第1EC素子が形成された透明基板10の他方の主面に第2EC素子を形成した(両面実装構造)。
第2実施形態では、透明基板10の一方の主面に形成された第1EC素子上に透明スペーサを配置し、この透明スペーサ上に第2EC素子を配置する(積層実装構造)。
【0045】
図7は、第2実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスの断面図である。
図7に示すエレクトロクロミックデバイス(ECデバイス)1は、
図2および
図3に示すエレクトロクロミックデバイス1において、透明スペーサ11を更に備える点で第1実施形態と異なる。
透明スペーサ11は、ECデバイス1の調光面Sと平行な主面を有する平板状をなす。透明スペーサ11は、少なくとも可視光に対して光学的に透明であるプラスチック材料で形成される。透明スペーサ11としては、例えば透明基板10の材料と同一であればよい。
【0046】
第1EC素子3a,3b,3cは透明基板10の一方の主面上に形成され、第1EC素子3a,3b,3c上には透明スペーサ11が配置される。透明スペーサ11上には、第2EC素子5a,5bの調光層30が、隣り合う第1EC素子3a,3b,3cの調光層30の間の領域と重なるように、第2EC素子5a,5bが配置される。
【0047】
この第2実施形態のECデバイス1でも、第1実施形態のECデバイス1と同様の利点が得られる。
更に、第2実施形態のECデバイス1によれば、透明基板10および透明スペーサ11の片面のみにEC素子を形成した後に、これらを積層することにより、ECデバイス1を作製できる。このように、第2実施形態のECデバイス1によれば、片面のみの半導体層形成プロセスを用いるので、基板の両面の半導体層形成プロセスを必要とする第1実施形態のECデバイス1と比べて、半導体層形成プロセスの簡略化が可能である。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、3つの第1EC素子3a,3b,3cと2つの第2EC素子5a,5bとを備えるECデバイス1を例示した。しかし、本発明の特徴はこれに限定されず、2以上の第1EC素子と1以上の第2EC素子とを備えるECデバイスにも適用可能である。
【0049】
また、上述した実施形態では、調光面Sに直交する方向(Z方向)において、第1EC素子3a,3b,3cと第2EC素子5a,5bとの2層構造であるECデバイス1を例示した。しかし、本発明の特徴はこれに限定されず、調光面Sに直交する方向(Z方向)に3層以上のEC素子を備えるECデバイスにも適用可能である。
例えば、第2実施形態において、EC素子が形成された透明スペーサを更に積層してもよい。或いは、第1実施形態の両面実装構造と第2実施形態の積層実装構造とを組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1,1X エレクトロクロミックデバイス(ECデバイス)
3a,3b,3c 第1エレクトロクロミック素子(第1EC素子)
5a,5b 第2エレクトロクロミック素子(第2EC素子)
103a,103b,103c エレクトロクロミック素子
4 領域
10,110 透明基板
11 透明スペーサ
21,121 第1透明電極層
22,122 第2透明電極層
22s 垂下面
23 透明電極層
30,130 調光層
31,131 第1エレクトロクロミック層(第1EC層)
32,132 第2エレクトロクロミック層(第2EC層)
33,133 電解質層
41,42,141,142 印加電極
43 導電性部材
R 調光領域
S 調光面