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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/12 20140101AFI20220927BHJP
   B23K 26/14 20140101ALI20220927BHJP
【FI】
B23K26/12
B23K26/14
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018044729
(22)【出願日】2018-03-12
(65)【公開番号】P2019155412
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】315017775
【氏名又は名称】日本電産マシンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】呉屋 真之
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-180310(JP,A)
【文献】特開平11-239889(JP,A)
【文献】特開昭62-168687(JP,A)
【文献】特開平04-322893(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0008332(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバと、
前記チャンバの外部に設けられ、レーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記チャンバの内部に設けられ、レーザ照射ノズルと、集光レンズと、保護窓とを有するレーザヘッドと、
前記レーザ照射ノズルの内部空間にシールドガスを噴射するシールドガス噴射装置と、
前記内部空間において、前記保護窓よりも前記レーザ光の照射方向の下流側に設けられ、中央部に前記レーザ照射ノズルの内径に基づいて穴径が設計された穴部を有するコンダクタンス板と、
前記チャンバの内部の圧力を制御する排気装置と、を備え、
前記コンダクタンス板は、前記レーザ照射ノズルの前記内部空間における蒸発物質の流れを中間流または粘性流に制御する、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記コンダクタンス板を冷却する冷却部を備える、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
チャンバと、
前記チャンバの外部に設けられ、レーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記チャンバの内部に設けられ、レーザ照射ノズルと、集光レンズと、保護窓とを有するレーザヘッドと、
前記レーザ照射ノズルの内部空間にシールドガスを噴射するシールドガス噴射装置と、
前記内部空間において、前記保護窓よりも前記レーザ光の照射方向の下流側に設けられたコンダクタンス板と、
前記チャンバの内部の圧力を制御する排気装置と、
前記コンダクタンス板を冷却する冷却部と、
を備え、
前記コンダクタンス板は、前記レーザ照射ノズルの前記内部空間における蒸発物質の流れを中間流または粘性流に制御する、レーザ加工装置。
【請求項4】
前記レーザ照射ノズルに設けられ、前記レーザ照射ノズルの前記内部空間に噴射された前記シールドガスを外部に排気するノズル排気装置を備える、請求項1からのいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
チャンバと、
前記チャンバの外部に設けられ、レーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記チャンバの内部に設けられ、レーザ照射ノズルと、集光レンズと、保護窓とを有するレーザヘッドと、
前記レーザ照射ノズルの内部空間にシールドガスを噴射するシールドガス噴射装置と、
前記内部空間において、前記保護窓よりも前記レーザ光の照射方向の下流側に設けられたコンダクタンス板と、
前記チャンバの内部の圧力を制御する排気装置と、
前記レーザ照射ノズルに設けられ、前記レーザ照射ノズルの前記内部空間に噴射された前記シールドガスを外部に排気するノズル排気装置と、
を備え、
前記コンダクタンス板は、前記レーザ照射ノズルの前記内部空間における蒸発物質の流れを中間流または粘性流に制御する、レーザ加工装置。
【請求項6】
前記コンダクタンス板は、中央部に穴部を有する円環状の形状を有しており、
前記レーザ照射ノズルの内径がD(m)、前記コンダクタンス板のコンダクタンスがCである場合、D>3.3・R・T/√2・N・π・σ・{(Q/C)+P}を満たす、請求項1から5のいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記レーザ照射ノズルの前記内径D(m)は、D>2.1・10-2/{(10/C)+100}を満たす、請求項に記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記コンダクタンス板を複数備え、
複数の前記コンダクタンス板の穴は、下流側に向けて徐々に小さくなる、請求項1からのいずれか1項に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
チャンバと、
前記チャンバの外部に設けられ、レーザ光を発振するレーザ発振器と、
前記チャンバの内部に設けられ、レーザ照射ノズルと、集光レンズと、前記集光レンズを保護する保護窓とを有するレーザヘッドと、
前記レーザ照射ノズルの内部空間にシールドガスを噴射するシールドガス噴射装置と、
前記レーザ照射ノズルに設けられ、前記レーザ照射ノズルの内部空間に噴射された前記シールドガスを外部に排気する排気装置を備える、レーザ加工装置。
【請求項10】
前記内部空間において、前記保護窓よりも前記レーザ光の照射方向の下流側に設けられたコンダクタンス板を備える、請求項に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空などの低圧雰囲気下でレーザ加工装置を用いて溶接を行う際に、レーザ照射時に発生する蒸発物質の透過窓(保護窓)への付着を防止する技術が知られている。
【0003】
特許文献1は、透過窓と、被加工物との間に位置するビームガイドの内周面に凹凸が設けられているレーザ加工装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭62-107891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術は、ビームガイドの内周面に凹凸を設け、かつビームガイドの内部にシールドガスを噴射することで、ビームガイドの内部への蒸発物質の侵入を防止している。特許文献1に記載の技術は、大気圧から中真空程度までの真空度においては有効な技術である。しかしながら、蒸発物質の状態が分子流領域となる高真空(10-1Pa以下)においては、ビームガイドから侵入した蒸発物質は直線的に飛ぶため、ビームガイドの内部に設けた凹凸の効果が小さくなる。また、シールドガスを単に噴射しただけでは、分子流の蒸発物質に、シールドガスの分子が衝突しづらくなるので、シールドガスを噴射した効果も小さくなる恐れがある。そのため、特許文献1には、高真空で溶接する際には、保護窓に蒸発物質が付着することを防止できない可能性がある。
【0006】
本発明は上述した課題を解決するものであり、高真空で溶接する際に、レーザ照射ノズルへ侵入した蒸発物質の保護窓への付着を抑制することのできるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様のレーザ加工装置は、チャンバと、前記チャンバの外部に設けられ、レーザ光を発振するレーザ発振器と、前記チャンバの内部に設けられ、レーザ照射ノズルと、集光レンズと、保護窓とを有するレーザヘッドと、前記レーザ照射ノズルの内部空間にシールドガスを噴射するシールドガス噴射装置と、前記内部空間において、前記保護窓よりも前記レーザ光の照射方向の下流側に設けられ、中央部に前記レーザ照射ノズルの内径に基づいて穴径が設計された穴部を有するコンダクタンス板と、前記チャンバの内部の圧力を制御する排気装置と、を備え、前記コンダクタンス板は、前記レーザ照射ノズルの内部空間における蒸発物質の流れを中間流または粘性流に制御する。
【0008】
この構造により、レーザ照射ノズルの内部空間にシールドガスを噴射するとともに、レーザ照射ノズルの内部空間に設けられたコンダクタンス板を冷却することができる。したがって、高真空で溶接する際に、レーザ照射ノズルへ侵入した蒸発物質の保護窓への付着を抑制することができる。
【0009】
また、前記コンダクタンス板は、中央部に穴部を有する円環状の形状を有しており、前記レーザ照射ノズルの内径がD(m)、前記コンダクタンス板のコンダクタンスがCである場合、D>3.3・R・T/√2・N・π・σ・{(Q/C)+P}を満たすことが好ましい。ここで、R:気体定数、T(K):絶対温度、N:アボガドロ定数、σ(m):シールドガスの分子の直径、Q(Pa・m/s):シールドガスの供給量、P(Pa):チャンバ内の圧力である。
【0010】
この構造により、レーザ照射ノズルの内部空間における蒸発物質の流れが制御される。したがって、シールドガスの効果が向上するので、レーザ照射ノズルへ侵入した蒸発物質の保護窓への付着をより抑制することができる。
【0011】
また、前記レーザ照射ノズルの内径D(m)は、D>2.1・10-2/{(10/C)+100}を満たすことが好ましい。
【0012】
この構造により、レーザ照射ノズルの内部空間における蒸発物質の流れを適切に制御することができる。したがって、レーザ照射ノズルへ侵入した蒸発物質の保護窓への付着をより抑制することができる。
【0013】
また、前記コンダクタンス板を複数備え、複数の前記コンダクタンス板の穴は、下流側に向けて徐々に小さくなることが好ましい。
【0014】
この構造により、蒸発物質のレーザ照射ノズルへの侵入を物理的に抑制することができる。したがって、レーザ照射ノズルへ侵入した蒸発物質の保護窓への付着をより抑制することができる。
【0015】
また、前記コンダクタンス板を冷却する冷却部を備えることが好ましい。
【0016】
この構造により、コンダクタンス板を冷却することができる。したがって、レーザ照射ノズルの内部に侵入した蒸発物質が冷却されることによって、固体化し、コンダクタンス板に付着するので、レーザ照射ノズルへ侵入した蒸発物質の保護窓への付着をより抑制することができる。
【0017】
また、前記レーザ照射ノズルに設けられ、前記レーザ照射ノズルの内部空間に噴射された前記シールドガスを外部に排気するノズル排気装置を備えることが好ましい。
【0018】
この構造により、レーザ照射ノズルの内部空間に侵入したシールドガスを外部に排気することができる。したがって、シールドガスの供給量を上げることができるので、レーザ照射ノズルへ侵入した蒸発物質の保護窓への付着をより抑制することができる。
【0019】
本発明の第2の態様のレーザ加工装置は、チャンバと、前記チャンバの外部に設けられ、レーザ光を発振するレーザ発振器と、前記チャンバの内部に設けられ、レーザ照射ノズルと、集光レンズと、前記集光レンズを保護する保護窓とを有するレーザヘッドと、前記レーザ照射ノズルの内部空間にシールドガスを噴射するシールドガス噴射装置と、前記レーザ照射ノズルに設けられ、前記レーザ照射ノズルの内部空間に噴射された前記シールドガスを外部に排気する排気装置を備える。
【0020】
この構造により、レーザ照射ノズルの内部空間にシールドガスを噴射するとともに、レーザ照射ノズルの内部に噴射されたシールドガスをチャンバの外に排気することができる。したがって、高真空で溶接する際に、レーザ照射ノズルへ侵入した蒸発物質の保護窓への付着を抑制することができる。
【0021】
また、前記内部空間において、前記保護窓よりも前記レーザ光の照射方向の下流側に設けられたコンダクタンス板を備えることが好ましい。
【0022】
この構造により、レーザ照射ノズルの内部空間における蒸発物質の流れが制御される。これにより、シールドガスの効果が向上するので、レーザ照射ノズルへ侵入した蒸発物質の保護窓への付着をより抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の各実施形態が適用されるレーザ加工装置の概略を示す図である。
図2図2は、本発明の各実施形態が適用されるレーザ加工装置におけるガスの流れを説明するための図である。
図3図3は、本発明の第1実施形態に係るレーザヘッドの構成の一例を示す図である。
図4図4は、レーザ照射ノズル内部の蒸発物質の状態を説明するための表である。
図5図5は、本発明の第1実施形態に係るレーザヘッドの冷却部の構成の一例を示す図である。
図6図6は、本発明の第1実施形態の変形例に係るレーザヘッドの構成の一例を示す図である。
図7図7は、本発明の第2実施形態に係るレーザヘッドの構成の一例を示す図である。
図8図8は、本発明の第3実施形態に係るレーザヘッドの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るレーザ加工装置の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含む。
【0025】
図1を用いて、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の概略について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の概略を示す模式図である。なお、本発明と直接的に関連のない構成要素については、詳細な説明および図示を省略している。
【0026】
図1に示すように、レーザ加工装置10は、チャンバ11と、レーザ発振器12と、シールドガス噴射装置13と、排気装置14と、移動機構15と、制御装置16と、光ファイバケーブル21と、レーザヘッド30と、コンダクタンス板40と、冷却部50とを備える。本実施形態において、レーザ加工装置10は、例えば、真空中において、加工対象物Tを溶接するための装置である。
【0027】
チャンバ11は、その内部空間において、真空を形成する容器である。本実施形態において、真空とは、例えば、10-1(Pa:パスカル)オーダー以下の高真空を想定している。
【0028】
レーザ発振器12は、チャンバ11の外部に設けられ、加工対象物Tに対して照射するための、レーザを発振する。レーザ発振器12は、光ファイバケーブル21を介して、レーザヘッド30と接続されている。この場合、レーザ発振器12によって発振されたレーザは、光ファイバケーブル21を介してレーザヘッド30に伝搬された後、レーザ光Lとして加工対象物Tに照射される。
【0029】
シールドガス噴射装置13は、チャンバ11の外部に設けられ、シールドガス供給配管22を介して、レーザヘッド30が有するレーザ照射ノズル31の内部空間にシールドガスを供給する。シールドガス噴射装置13には、圧力調整器131と、流量調整器132とが接続されている。圧力調整器131は、シールドガス噴射装置13がレーザ照射ノズル31の内部に噴射するシールドガスの圧力を調整する。流量調整器132は、シールドガス噴射装置13がレーザ照射ノズル31の内部に噴射するシールドガスの流量を調整する。本実施形態において、シールドガスは、窒素、アルゴンなどである。
【0030】
排気装置14は、チャンバ11の外部に設けられ、チャンバ11の内部の空気を排気することによって、チャンバ11の内部に真空を形成する。排気装置14は、例えば、真空ポンプで実現することができる。
【0031】
移動機構15は、チャンバ11の内部に設けられ、チャンバ11の内部において、レーザヘッド30を移動させる。移動機構15に特に制限はないが、例えば、移動機構15は、レーザヘッド30を、3次元の方向に加え、光軸を中心とする角度方向に移動させる。なお、図1では、直交座標系を使用しており、x方向は左右方向、y方向は前後方向(奥行方向)、z方向は高さ方向である。
【0032】
制御装置16は、チャンバ11の外部に設けられ、レーザ発振器12と、シールドガス噴射装置13と、圧力調整器131と、流量調整器132と、排気装置14と、移動機構15とに接続されている。制御装置16は、各装置を制御することによって、レーザ加工装置10の動作を制御している。制御装置16は、例えば、レーザ発振器12を制御することで、レーザヘッド30から照射されるレーザ光Lの条件を調整する。制御装置16は、例えば、シールドガス噴射装置13と、圧力調整器131と、流量調整器132を制御することで、レーザ照射ノズル31の内部に噴射されるシールドガスの圧力と、流量とを調整する。制御装置16は、例えば、排気装置14を制御することで、チャンバ11内部の圧力を調整する。制御装置16は、例えば、移動機構15を制御することで、レーザヘッド30を移動させ、加工対象物Tに対するレーザ光Lの照射位置を調整する。このような制御装置16は、CPU(Central Processing Unit)を含む電子的な回路を備えた装置で実現することができる。
【0033】
光ファイバケーブル21は、チャンバ11の外部に設けられたレーザ発振器12と、チャンバ11の内部に設けられたレーザヘッド30とを接続している。光ファイバケーブル21は、レーザ発振器12で発振されたレーザ光をレーザヘッド30に伝搬する。
【0034】
レーザヘッド30は、チャンバ11の内部に設けられ、レーザ照射ノズル31と、集光レンズ32と、保護窓33とを有する。レーザ照射ノズル31は、例えば、円筒形状を有しており、内部において、レーザ発振器12から供給されたレーザ光を通過させるノズルである。集光レンズ32は、レーザ照射ノズル31の内部において、レーザ発振器12から供給されたレーザを集光する。保護窓33は、レーザ照射ノズル31の内部において、集光レンズ32よりもレーザ光Lの照射方向の下流側に設けられ、加工対象物Tにレーザ光Lが照射された際に発生するヒュームなどの蒸発物質から集光レンズ32を保護する。これにより、レーザ照射ノズル31の先端から保護窓33を介してレーザ光Lが照射される。
【0035】
コンダクタンス板40は、具体的には後述するが、保護窓33よりもレーザ光Lの照射方向の下流側に設けられた少なくとも1つの円環状の板である。コンダクタンス板40は、レーザ照射ノズル31の内部空間における蒸発物質の流れを、分子流から中間流または粘性流となるように制御する。
【0036】
冷却部50は、具体的には後述するが、レーザ照射ノズル31の外部において、少なくともコンダクタンス板40が設けられている領域に設けられている。冷却部50に特に制限はないが、例えば、内部に液体冷媒を供給することのできる冷却器である。
【0037】
ここで、図2を用いて、チャンバ11の内部の圧力について説明する。図2は、チャンバ11の内部空間におけるガスの流れを示す図である。
【0038】
図2では、チャンバ11の内部の圧力がP(Pa)となった状態で加工することを考える。この時、排気装置14の排気速度をS(m/s)とすると、排気装置14の排気量は、PS(Pa・m/s)と表すことができる。また、チャンバ11の内壁からの脱ガス量をQ(Pa・m/s)、溶接時に加工対象物Tから発生するガス量をQ(Pa・m/s)、レーザ照射ノズル31に供給されたシールドガス量をQ(Pa・m/s)、排気装置14の到達圧力をP(Pa)とする。この場合、各パラメータは、以下の関係式を満たす。
=PS-(Q+Q+PS)・・・(1)
【0039】
式(1)に示すように、チャンバ11の内部を所定の圧力P(Pa)の状態の保持するためには、シールドガスの供給量Q(Pa・m/s)が、以下の関係式を満たす必要がある。
≦PS-(Q+Q+PS)・・・(2)
【0040】
具体的には、シールドガスの供給量Q(Pa・m/s)が多いほど、レーザ照射ノズル31に侵入した蒸発物質の流れを中間流または粘性流に近づけることができる。これにより、蒸発物質の保護窓33への付着を防止することができる。しかしながら、シールドガスの供給量Q(Pa・m/s)が多くなると、チャンバ11の内部の圧力が高くなってしまう。本実施形態では、制御装置16はシールドガスの供給量Q(Pa・m/s)を制御するために、図示しない圧力計などによってチャンバ11の内部の圧力を取得する。そして、制御装置16は、取得した圧力の値をフィードバックし、式(2)に従って、流量調整器132を制御することで、シールドガスの供給量Q(Pa・m/s)を制御する。すなわち、制御装置16は、チャンバ11の圧力を真空に保持したまま、シールドガスの供給量Q(Pa・m/s)を適切に調整することができる。
【0041】
[第1実施形態]
図3を用いて、第1実施形態に係るレーザ加工装置のレーザヘッドの構成について詳細に説明する。図3は、第1実施形態に係るレーザ加工装置のレーザヘッドの断面の構成の一例を示す図である。
【0042】
図3に示すように、レーザ照射ノズル31の内部には、集光レンズ32と、集光レンズ32よりもレーザ光Lの照射方向の下流側に保護窓33とが設けられている。そして、保護窓33の近傍にシールドガス供給配管22が接続されており、シールドガスが供給される。なお、シールドガス供給配管22は、レーザ照射ノズル31の外形に沿って、複数設けられていてもよい。また、レーザ照射ノズル31の内部において、保護窓33よりもレーザ光Lの照射方向の下流側において、第1コンダクタンス板41と、第2コンダクタンス板42と、第3コンダクタンス板43と、第4コンダクタンス板44とを備える。また、レーザ照射ノズル31は、少なくとも第1コンダクタンス板41~第4コンダクタンス板44と、第1コンダクタンス板41~第4コンダクタンス板44が設けられている領域においてレーザ照射ノズル31とを冷却するための冷却部50を備えている。
【0043】
本実施形態では、第1コンダクタンス板41~第4コンダクタンス板44は、レーザ照射ノズル31の内面に沿って設けられ、穴径d(m)を有する円環状の部品である。また、第1コンダクタンス板41~第4コンダクタンス板44は、同一の形状を有している。第1コンダクタンス板41~第4コンダクタンス板44を内部に設けることによって、レーザ照射ノズル31の内部空間を流れる蒸発物質の状態を分子流から中間流または粘性流に調整することができる。なお、本実施形態では、4枚のコンダクタンス板を備えているが、これは例示であり、本発明を限定するものではない。
【0044】
ここで、レーザ照射ノズル31の内径D(m)と、各コンダクタンス板の穴径との関係について説明する。レーザ照射ノズル31の内部にN(Nは1以上の整数)枚のコンダクタンス板が設けられ、第Nコンダクタンス板の穴径がd(m)である場合、そのコンダクタンス板のコンダクタンスC(m/s)は、以下の関係式を満たす。
=116・(π・(d/2))/[1-{(π・(d/2))/(π・(D/2))}] ・・・(3)
【0045】
N枚のコンダクタンス板の総コンダクタンスC(m/s)は以下の関係式で算出することができる。
C=1/{(1/C)+(1/C)+・・・+(1/C)}・・・(4)
【0046】
この場合、レーザ照射ノズル31の内径D(m)は以下の関係式を満たす。
D>2.1・10-2/{(10/C)+100}・・・(5)
【0047】
図4に示すように、レーザ照射ノズル31の内部空間における分子の状態はクヌーセン数Kによって求めることができる。クヌーセン数Kは、分子の平均自由工程をλ(m)、レーザ照射ノズル31の管径をD(m)とした場合に、λ/Dで定義される値である。クヌーセン数が、K<0.01の場合、レーザ照射ノズル31の内部空間における蒸発物質は粘性流となる。クヌーセン数が、0.01<K<0.3の場合、レーザ照射ノズル31の内部空間における蒸発物質は中間流となる。クヌーセン数が、K>0.3の場合、レーザ照射ノズル31の内部空間における蒸発物質は分子流となる。すなわち、レーザ照射ノズル31の外形に基づいて、クヌーセン数がK<0.3となるように第1コンダクタンス板41~第4コンダクタンス板44の穴径を設計することによって、レーザ照射ノズル31の内部空間における蒸発物質の状態を分子流から中間流または粘性流に制御することができる。
【0048】
具体的には、下記の式(6)の関係を満たす時に、蒸発物質の状態は中間流または粘性流となる。
D=λ/K>λ/0.3(≒3.3λ)・・・(6)
レーザ照射ノズル31における平均自由工程λ(m)は、気体定数をR、絶対温度をT(K)、アボガドロ定数をN、シールドガスの分子の直径をσ(m)、レーザ照射ノズル31の内部空間の圧力をP(Pa)とした場合、以下の関係式を満たす。
λ=R・T/√2・N・π・σ・P・・・(7)
【0049】
ここで、シールドガスの供給量をQ(Pa・m/s)、レーザ照射ノズル31の内部空間のコンダクタンスをC(m/s)、チャンバ内の圧力をP(Pa)とした場合、レーザ照射ノズル31の内部空間の圧力P(Pa)は、以下の関係式を満たす。
=(Q/C)+P・・・(8)
【0050】
そして、R≒8.31(JK-1mol-1)、T=298(K)、N≒6.02・1023(mol-1)、σ≒3.8・10-10(m)(シールドガスが窒素の場合)、Q=10(m/s)、P=100(Pa)を式(6)と、式(7)と、式(8)とに代入することによって、式(5)を算出することができる。
【0051】
再び図3を参照する。冷却部50は、例えば、少なくとも第1コンダクタンス板41~第4コンダクタンス板44を含む領域でレーザ照射ノズル31を冷却する。
【0052】
図5を用いて、冷却部50について説明する。図5は、冷却部50の構成の一例を示す模式図である。図5に示すように、冷却部50は、例えば、レーザ照射ノズル31の外周に巻き付けられ、液体冷媒が供給される液体流路である。蒸発物質は気体なので、レーザ照射ノズル31の内面や、第1コンダクタンス板41~第4コンダクタンス板44に衝突すると冷却され、固体化する。このため、蒸発物質は、レーザ照射ノズル31の内面や、第1コンダクタンス板41~第4コンダクタンス板44に付着しやすくなる。これにより、蒸発物質の、レーザ照射ノズル31の上流領域への侵入が防止されるので、蒸発物質の保護窓への付着が防止される。なお、冷却部50は、レーザ照射ノズル31の全体にわたって設けられており、レーザ照射ノズル31の全体を冷却してもよい。
【0053】
次に、図6を用いて、コンダクタンス板の変形例について説明する。図6は、コンダクタンス板の変形例を示す模式図である。
【0054】
図3に図示した、第1コンダクタンス板41~第4コンダクタンス板44は、それぞれ、同一の形状を有している。ここで、レーザ光Lは、集光レンズ32によって加工対象物Tの位置に焦点を持つように集光されるので、レーザ照射ノズル31の先端に行くに従って径が細くなる。したがって、レーザ光Lの径の大きさに従って、第1コンダクタンス板41~第4コンダクタンス板44のそれぞれの穴径を小さく形成することができる。
【0055】
図6に示すように、第1コンダクタンス板41Aの穴径はd(m)である。第2コンダクタンス板42Aの穴径はd(m)である。第3コンダクタンス板43Aの穴径はd(m)である。第4コンダクタンス板44Aの穴径はd(m)である。この場合、d<d<d<dとなるように形成されている。これにより、蒸発物質のレーザ照射ノズル31への侵入が物理的に抑制されるので、レーザ照射ノズル31の内部に侵入する蒸発物質の量が少なくなり、保護窓への蒸発物質の付着がより抑制される。なお、本実施形態では、各コンダクタンス板が円環状の板であるものとして説明したが、これは例示であり、本発明を限定するものではない。各コンダクタンス板は、例えば、断面がT字形状の板であってもよい。
【0056】
上述のとおり、本実施形態では、レーザ照射ノズル31の内部空間にコンダクタンス板を設けることによって、レーザ照射ノズル31の内部空間の圧力を高めることができる。これにより、本実施形態は、保護窓33への蒸発物質の付着を抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、レーザ照射ノズル31の内部空間に設けられたコンダクタンス板を冷却することによって、コンダクタンス板に蒸発物質を付着させることができる。これにより、本実施形態は、保護窓33への蒸発物質の付着をより抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態では、レーザ照射ノズル31の先端に向かうに従って、コンダクタンス板の穴径を小さくすることによって、蒸発物質のレーザ照射ノズル31への侵入を物理的に抑制することができる。これにより、本実施形態は、保護窓33への蒸発物質の付着をより抑制することができる。
【0059】
[第2実施形態]
図7を用いて、第2実施形態に係るレーザ加工装置のレーザヘッドの構成について詳細に説明する。図7は、第2実施形態に係るレーザ加工装置のレーザヘッドの断面の構成の一例を示す図である。第2実施形態に係るレーザヘッド30Aには、レーザ照射ノズル31の内部空間の圧力を排気するノズル排気装置60が設けられている点で第1実施形態と異なっている。
【0060】
図7に示すように、レーザ照射ノズル31には、ノズル排気配管61を介して、ノズル排気装置60が接続されている。ノズル排気装置60は、ノズル排気配管61を介さずに、レーザ照射ノズル31に直接取り付けられていてもよい。ノズル排気装置60は、レーザ照射ノズル31の内部空間の噴射されたシールドガスをチャンバ11の外部に排気する。ここで、ノズル排気装置60の排気量を、Q(Pa・m/S)であるとする。この場合、チャンバ11の内部を所定の圧力Pの状態の保持するために必要であった、シールドガスの供給量Q(Pa・m/S)の関係式は以下のように変更される。
≦(PS+Q)-(Q+Q+PS)・・・(9)
【0061】
上述の式(9)に示されるように、第2実施形態では、ノズル排気装置60の排気量だけ、シールドガスの供給量を増加させることができる。
【0062】
上述のとおり、本実施形態では、レーザ照射ノズル31にノズル排気装置60を設けたことによって、レーザ照射ノズル31の内部空間に噴射するシールドガスの供給量を増加させることができる。これにより、本実施形態は、レーザ照射ノズル31の内部空間における蒸発物質の流れを中間流または粘性流に近づけることができるので、保護窓33への蒸発物質の付着をより防止することができる。
【0063】
[第3実施形態]
図8を用いて、第3実施形態に係るレーザ加工装置のレーザヘッドの構成について詳細に説明する。図8は、第3実施形態に係るレーザ加工装置のレーザヘッドの断面の構成の一例を示す図である。第3実施形態に係るレーザヘッド30Bには、冷却部50が設けられていない点と、コンダクタンス板で圧力を制御しない点とで第2実施形態と異なっている。
【0064】
図8に示すように、レーザ照射ノズル31には、ノズル排気配管61を介して、ノズル排気装置60が接続されている。レーザ照射ノズル31の内部空間には、第1コンダクタンス板41と、第2コンダクタンス板42とが設けられている。
【0065】
第1コンダクタンス板41と、第2コンダクタンス板42とは、レーザ照射ノズル31において、ノズル排気装置60がガスを排気するための空間を区画している。この場合、ノズル排気装置60は、第1コンダクタンス板41と、第2コンダクタンス板42とによって区画された空間におけるシールドガスを外部に排出する。すなわち、ノズル排気装置60の排気量だけ、シールドガスの供給量を増加させることができる。なお、レーザ照射ノズル31の内部空間において、保護窓33よりもレーザ光Lの照射方向の下流側に複数のコンダクタンス板が設けられていてもよい。
【0066】
上述のとおり、本実施形態では、レーザ照射ノズル31にノズル排気装置60を設けたことによって、レーザ照射ノズル31の内部空間に噴射するシールドガスの供給量を増加させることができる。これにより、本実施形態は、レーザ照射ノズル31の内部空間における蒸発物質の流れを中間流または粘性流に近づけることができるので、保護窓33への蒸発物質の付着をより防止することができる。
【符号の説明】
【0067】
10 レーザ加工装置
11 チャンバ
12 レーザ発振器
13 シールドガス噴射装置
14 排気装置
15 移動機構
16 制御装置
21 光ファイバケーブル
22 シールドガス供給配管
30 レーザヘッド
31 レーザ照射ノズル
32 集光レンズ
33 保護窓
40 コンダクタンス板
41,41A 第1コンダクタンス板
42,42A 第2コンダクタンス板
43,43A 第3コンダクタンス板
44,44A 第4コンダクタンス板
50 冷却部
60 ノズル排気装置
61 ノズル排気配管
L レーザ光
T 加工対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8