(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】衝突判定装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20220927BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60T7/12 C
(21)【出願番号】P 2018079825
(22)【出願日】2018-04-18
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大里 琢馬
(72)【発明者】
【氏名】大塚 裕史
(72)【発明者】
【氏名】川野 羊三
(72)【発明者】
【氏名】小野 勝一
(72)【発明者】
【氏名】大日方 圭
(72)【発明者】
【氏名】宮山 浩幸
【審査官】白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-276696(JP,A)
【文献】特開2007-102639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体物を検知する立体物検知部と、
前記立体物の位置と速度と加速度の少なくとも一つの状態量を推定する状態量推定部と、
前記状態量の誤差を推定する誤差推定部と、
前記状態量及び前記誤差に基づいて自車から見た前記立体物の存在確率分布を推定し、該推定した前記立体物の存在確率分布を時間発展させて時間と位置を変数とした立体物存在確率マップを算出するマップ算出部と、
前記立体物存在確率マップを用いて任意の時刻における前記自車と前記立体物との衝突確率を推定する衝突確率推定部と、
前記衝突確率が予め設定された閾値を超える時刻を抽出し、前記自車と前記立体物の衝突までの時間及び衝突確率に応じて前記自車の制御手段を決定する制御手段決定部と、
を
備え、
前記マップ算出部及び前記衝突確率推定部は、前記立体物検知部において検知された立体物の相対位置と相対速度に応じて設定した離散時間、または、前記立体物検知部において検知された立体物の状態量の誤差に応じて算出した特定時間において前記立体物存在確率マップの算出及び前記衝突確率の推定を実施することを特徴とする衝突判定装置。
【請求項2】
前記相対速度が大きくなる、または、前記相対位置が短くなるのに応じて前記離散時間の間隔が短くなるように前記離散時間を設定する離散時間決定部を有することを特徴とする請求項1に記載の衝突判定装置。
【請求項3】
前記離散時間決定部は、前記離散時間の間隔を調整する係数を、前記立体物のサイズに応じて設定することを特徴とする請求項2に記載の衝突判定装置。
【請求項4】
前記立体物の存在確立分布に対して前記自車から見て手前と奥に標準偏差だけ位置をずらした計算タイミング算出用の候補点を設定し、
各候補点に対して前記自車との距離が0となる時刻をそれぞれ算出し、
各時刻における前記衝突確率を計算し、
該計算した衝突確率が閾値を超える時刻を用いて前記特定時間である前記衝突確率の計算タイミングを決定する計算タイミング決定部を有することを特徴とする請求項1に記載の衝突判定装置。
【請求項5】
前記マップ算出部は、
前記状態量及び前記誤差の推定結果に基づいて前記立体物の存在確率分布を推定する立体物存在確率分布推定部と、
前記自車のセンサ情報とセンサ精度に基づいて前記自車の速度と誤差を推定し、該推定した前記自車の速度と誤差に基づいて前記自車の存在確率分布を推定する自車存在確率分布推定部と、
前記立体物の存在確率分布と前記自車の存在確率分布に基づいて前記立体物存在確率マップを推定するマップ推定部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の衝突判定装置。
【請求項6】
前記制御手段決定部は、前記衝突確率が前記閾値を超える時刻の中から時間的に最も近い時刻を抽出し、該時刻が予め設定された時間閾値よりも短い場合に、前記自車の制御手段に制御を指示するための制御信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の衝突判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開2007-102639号公報(特許文献1)がある。該公報には、「とくに前方立体物の位置を正確に求めることなく、前方立体物が自己に接触する可能性を統計的に考慮して推定し、自然な感覚で制御を行う。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衝突判定装置の主な用途として、例えば、車両に搭載した衝突判定装置を用いて障害物との衝突を判定し、判定結果に応じて車両を制御して衝突を回避する機能がある。ここで、適切な車両制御の実現のためには、大きく分けて衝突する位置と時間と確率の三要素を精度よく算出できることが望ましい。
【0005】
前記特許文献1では、前方立体物の位置情報を統計的に考慮して衝突の確率を推定することで、より自然な制御が実現できると記載されている。しかしながら、ある定数時間後の衝突確率を推定しているため、推定を行った時刻以外における衝突確率は考慮されていない。例えば、従来は相対速度を相対距離で割った時間を衝突余裕時間として推定し、その推定した衝突余裕時間における衝突確率を算出しており、その衝突余裕時間以外の時間については衝突確率を推定していない。したがって、例えば衝突余裕時間よりも短いタイミングで衝突確率が高い状況がある場合には、適切な車両制御ができない。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、適切な時刻における衝突判定を実施可能な衝突判定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の衝突判定装置は、立体物を検知する立体物検知部と、前記立体物の位置と速度と加速度の少なくとも一つの状態量を推定する状態量推定部と、前記状態量の誤差を推定する誤差推定部と、前記状態量及び前記誤差に基づいて自車から見た前記立体物の存在確率分布を推定し、該推定した前記立体物の存在確率分布を時間発展させて時間と位置を変数とした立体物存在確率マップを算出するマップ算出部と、前記立体物存在確率マップを用いて任意の時刻における前記自車と前記立体物との衝突確率を推定する衝突確率推定部と、前記衝突確率が予め設定された閾値を超える時刻を抽出し、前記自車が前記立体物に衝突までの時間及び衝突確率に応じて前記自車の制御手段を決定する制御手段決定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、適切な時刻における衝突判定を実施可能な衝突判定装置を提供することができる。本発明に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】時系列立体物存在確率マップを算出するフローチャート。
【
図5】実空間における確率分布の時間変化の説明図。
【
図6】xzt空間分布からx't空間への変換の説明図。
【
図7】自車基準で見たときの確率分布の時間変化を示す図。
【
図8】ある時刻t1における自車と立体物の衝突確率を算出する方法の説明図。
【
図9】車両挙動を信用できるシーンにおける衝突確率の算出方法の説明図。
【
図14】実施例2における画像処理フローチャート。
【
図17】実施例3における画像処理フローチャート。
【
図18】実空間における確率分布の時間変化の説明図。
【
図19】衝突確率の計算タイミングを決定する方法の一例を示す図。
【
図20】衝突確率の計算タイミングを決定する初期時刻の算出フローチャート。
【
図21】衝突確率の計算タイミングを決定する二分探索フローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を用いて各実施例を説明する。
【0010】
[実施例1]
図1は、本発明の衝突判定装置の構成を示す図である。
衝突判定装置は、車両の前方を撮像する左撮像部101と、右撮像部102からなるステレオカメラ100を備える。画像処理部110では、ステレオカメラ100で撮像された画像から立体物を抽出し、抽出した立体物の位置や速度や加速度などの状態量を推定する。推定した状態量を用いて車両と立体物が衝突するか否かを判定し、判定結果から警報の動作可否や自動ブレーキの減速度などの制御信号が算出される。制御信号は、外部通信部120によって処理装置の外部に送信され、車両制御部150により、アクセル153やブレーキ151、ステアリング155などの車両制御や、警報部152と表示部154による警報動作や表示動作が行われる。
【0011】
以下、画像処理部110の構成について説明する。
図2は、画像処理部110で行われる画像処理のフローチャートを示した図である。視差算出部S201では、左撮像部101で撮像した画像と、右撮像部102で撮像した画像を入力し、視差、すなわち撮像した画像上での同じ対象物の撮像位置のズレを算出する。
【0012】
次に、立体物検知部S202において、視差情報を元に立体物検知を行う。まず、視差算出部S201で得られた視差情報と視差情報の画像座標から、実空間上での点の座標を算出する。それぞれの点について、点同士の距離を算出して近傍にある点同士をグルーピングする。グルーピング結果を1つの立体物としたとき、急激に傾きが変わる個所や視差がほぼ得られていない領域で分割することで、1つの塊と思われる立体物を検知する。
【0013】
次に、状態量推定部S203において、検知した立体物の位置や速度や加速度の少なくとも一つの状態量を推定する。例えば、まず、グルーピングされた点群の持つ位置情報を平滑化することで、立体物の位置情報を推定する。今回の処理で推定された位置情報と前回の処理で検知した立体物の位置情報を比較することで立体物を対応付け、追跡する。追跡によって得られた時系列の位置情報の差分から速度が算出され、速度情報の差分から加速度が算出される。センサ精度に応じて、平滑化フィルタやメディアンフィルタを使った安定化処理を実施してもよい。
【0014】
次に、誤差推定部S204において、状態量推定部S203で推定した状態量の誤差を推定する。例えば、ステレオカメラ100のセンサ仕様をもとに計測精度を算出し、精度情報をもとに立体物の位置情報の誤差を推定し、その推定した位置情報の誤差から立体物の速度や加速度などの誤差を順次推定する方法が考えられる。あるいは、カルマンフィルタを利用する方法が考えられる。カルマンフィルタは、誤差の含まれる観測量から状態量を推定するためのフィルタであり、状態量の時間遷移を表した状態方程式、状態量と観測量の関係を表した観測方程式からなる。対応付けられた立体物の位置情報を観測値として入力することで、状態量及びその誤差を同時に推定することが可能である。
【0015】
次に、マップ算出部S205において、時系列立体物存在確率マップを算出する。マップ算出部S205では、状態量推定部S203で推定した状態量及び誤差推定部S204で推定した誤差に基づいて、自車から見た立体物の存在確率分布を推定する。そして、その推定した立体物の存在確率分布を時間発展させて時間と位置を変数とした立体物存在確率マップを算出する。ここでは、立体物の存在確率分布を連続した時間で変化させた時系列立体物存在確率マップを算出する。時系列立体物存在確率マップは、立体物の存在する確率の分布とその時系列変化を表したものであり、次ステップの衝突確率推定部S206において時系列の衝突確率を推定するのに用いられる。
【0016】
図3は、時系列立体物存在確率マップの算出方法を説明するフローチャート、
図4は、立体物の存在確率分布の推定方法を説明する図である。まず、立体物存在確率分布推定部S301において、立体物の存在する確率を示す存在確率分布を推定する。立体物存在確率分布推定部S301は、立体物の状態量及び誤差の推定結果に基づいて立体物の存在確率分布を推定する。立体物の状態量及びその誤差はカルマンフィルタを用いて既に推定済みだとすると、
図4で示すように、立体物の存在確率分布30は最も確からしい位置(x、z)の状態量を中心とした正規分布として表すことが可能である。正規分布は、一般に以下の式(1)で与えられる。
【0017】
【0018】
本来は、衝突検知のためには奥行き方向z及び横方向xの2次元の位置情報が必要だが、ここでは簡単のためzの1次元で表現した。σは標準偏差、μは平均値である。カルマンフィルタによって得られた誤差の推定値をσ、状態量の推定値をμに代入することで、現在推定されている位置(x、z)を中心とした正規分布関数が表現できる。衝突判定を行うためには、この立体物の存在確率分布30を現在だけでなく、未来へと時間発展させる必要がある。
【0019】
例えば、
図5のような時間発展で表す。この例では、立体物20の速度情報は正しいと仮定し、存在確率分布30の中心となるμは時間tと速度vの積vtで移動するものとする。遠い未来に発展させるにつれて現在の推定値の信頼度が低下していくと考えられるので、経過した時間に応じて標準偏差σが徐々に大きくなるよう、時間tと係数αの積αtだけ増えていくとする。すると、以下のような状態量と時間を変数とした式(2)に当てはめることができる。これを、現在から所定時間が経過した後の時刻tnにおける立体物20の存在確率分布P_objとする。
【0020】
【0021】
他には、立体物20の識別を実施し、立体物20が車両や自転車であれば、歩行者よりも進行方向の偏差の広がりを大きくし、左右方向の偏差の広がりを小さくする例や、ガードレールなどの周辺環境を通過するような分布の広がりを抑えるなどの例が考えられる。
【0022】
次に、自車存在確率分布推定部S302において、自車10の存在する確率を示す存在確率分布40を推定する。自車存在確率分布推定部S302は、自車10のセンサ情報とセンサ精度に基づいて自車10の速度と誤差を推定し、推定した自車10の速度と誤差に基づいて自車10の存在確率分布40を推定する。自車存在確率分布推定部S302は、自車10を観測することはできないため、CAN情報などから得られた車両のセンサ情報とセンサの精度から、自車10の速度及びその誤差を求める。これを、同様に現在から所定時間が経過した後の時刻tnにおける自車10の存在確率分布P_carとする。
【0023】
図5に示す例では、自車10は時刻t0の位置(現在位置)からz方向に移動すると推定され、立体物20は時刻t0の位置(現在位置)からx方向に移動すると推定されており、自車10の存在確率分布P_car(x,z,tn)と、立体物20の存在確率分布P_obj(x,z,tn)とが時間発展により徐々に大きくなるように変化する状態が示されている。
【0024】
次に、マップ推定部S303において、時系列立体物存在確率マップを推定する。マップ推定部S303は、立体物20の存在確率分布と自車10の存在確率分布に基づいて時系列立体物存在確率マップを推定する。ここでは、二次元の絶対座標系と時間情報を変数とした3次元分布(xzt空間)で算出していた存在確率分布P_obj及びP_carを、自車10を中心とした相対座標系の2次元分布(x't空間)に変換する。
図6に変換の手順を示した。
【0025】
図6(a)は、xzt空間での存在確率分布P_obj(x,z,tn)とP_car(x,z,tn)を示す図、
図6(b)は、x't空間での存在確率分布P_obj(x',tn)とP_car(x',tn)を示す図、
図6(c)は、x't空間での存在確率分布P_obj(x',tn)とP_car(x',tn)を掛け合わせたものを示す図、
図6(d)は、
図6(c)の存在確率分布を各時刻において算出した結果を示す図である。
まず、絶対座標系xzで表現されていた位置情報を、自車10から見た相対座標系x’z’に変換する。衝突判定に用いることから、z’は自車10から離れた領域を考慮する必要はない。よって、例えば自車10のバンパから±50cm以内に制限することで位置情報を1次元とすることができる。
【0026】
図6(b)では、それぞれの存在確率分布P_obj及びP_carをx’t座標系に変換した状態を示し、
図6(c)では、存在確率分布同士を掛け合わせた状態を示す(P_obj(x',tn)×P_car(x',tn))。
図7は、自車基準で見たときの存在確率分布の時間変化を説明する図である。
【0027】
衝突とは、自車10と立体物20が同じ位置に存在することに他ならないから、立体物20と自車10の存在確率分布を掛け合わせて積分すれば、時刻tnにおける衝突確率(tn)となる。
図8に、ある時刻t1における衝突確率の算出イメージを示した。
図8でハッチングで示される、立体物20の存在確率分布P_obj(x',tn)と自車10の存在確率分布P_car(x',tn)が重なり合う部分が衝突確率として示される。
【0028】
【0029】
そして、衝突確率を各時刻tnごとに算出して順番に並べることで、
図6(d)に示すような、時刻tnと位置x’を変数とした2次元の立体物存在確率マップが算出される。
【0030】
実際には、CAN情報などを利用して推定する自車10の存在確率分布P_carは、立体物の存在確率分布P_objに比べて分布が非常に狭いことが予想される。よって、確率分布同士の積ではなく、単に立体物の存在確率分布を自車10のボンネット付近の矩形領域で積分することで、式を簡便にすることができる。つまり、
図9に示すように、車両からの相対横位置が±wの範囲で積分する。wは、例えば自車10の両幅の半分(1/2)とすれば、自車10の未来位置の予測に誤差がない場合の自車10と衝突する可能性だけを積分できる。
【0031】
【0032】
次に、衝突確率推定部S206において、立体物存在確率マップを用いて任意の時刻tnにおける衝突確率を推定する。
図10は、衝突確率の推定結果例を示した図である。時刻tnごとの衝突確率が算出可能であり、立体物(人)20と自車10の距離が近づくにつれて、その時刻tnにおける衝突確率が上昇する。この例のように立体物20が自車10の前方を先に横断し、その後に自車10が通過するようなシーンでは、もっとも衝突確率が高いタイミングが、立体物(人)20と自車10の距離が0(距離z=0)となる時刻t4以外のタイミングになる現象が発生する。
図10に示す例では、立体物20の存在確率分布30内に自車10が存在する時刻t3のタイミングにおいて最も衝突確率が高くなっている。従来は、衝突余裕時間TTCにより距離z=0となる時刻t4のタイミングにおける衝突確率を算出していたので、例えば時刻t3のような、さらに衝突確率が高いタイミングにおいて車両制御をかけることができなかった。
【0033】
これに対して、本実施例では、任意の時刻tnにおける衝突確率を算出しているため、より衝突確率の高い、あるいは時間的に近いタイミングを適切に選択して車両制御をかけることが出来る。得られた衝突確率は、時系列情報として制御タイミング決定部S207に送られ、衝突の発生タイミングの決定及びそれに応じた制御手段決定部S208による制御手段の決定に用いられる。
【0034】
図11は、衝突が予測される時刻tnと、衝突確率の関係を示した図である。
制御タイミング決定部S207及び制御手段決定部S208は、衝突確率が閾値を超える時刻の中から時間的に最も近い時刻を抽出し、時刻が予め設定された時間閾値よりも短い場合に、自車10の制御手段に制御を指示するための制御信号を出力する。
例えば、警報を許可する衝突確率の閾値(警報用閾値)ProbTh1と、ブレーキを許可する衝突確率の閾値(ブレーキ用閾値)ProbTh2を事前に設定しておく。それぞれ警報用閾値ProbTh1、ブレーキ用閾値ProbTh2を超える範囲のうち、最も時間的に近い時刻t1又はt2に衝突が発生すると仮定して、間に合うように警報あるいはブレーキによる車両制御を行う。
これは、仮に、後により衝突確率の高いタイミング(時刻t3)があったとしても、時刻t3後の衝突を回避するように車両を制御していた場合、衝突の可能性の高い時刻t2後の衝突が回避できないという事象が発生するためである。また、対象との距離を相対速度で除したタイミング(衝突余裕時間TTC)を時刻t4として示した。この値は一般的に衝突の発生する時刻として用いられることが多いが、
図10の例で示したように実際に衝突確率の高いタイミングとは異なる可能性がある。
図10に示す例では、自車10が立体物20の存在確率分布30内に進入したタイミング(時刻t3)において衝突確率が最も高くなっている。
【0035】
図12は、警報を発する場合の処理フローチャートである。S1101でt秒後に衝突確率が警報用閾値ProbTh1よりも大きくなる時刻tnが存在するか否かが判断される。そして、存在すると判断された場合に(S1101でYES)、衝突確率が警報用閾値ProbTh1を超える時刻の中から最小の時刻tn、すなわち時間的に最も近いものを抽出する。そして、抽出した最小の時刻tnが閾値TimeTh1よりも短いか否かを判断する(S1102)。そして、最小の時刻tnが閾値TimeTh1よりも短かった場合(S1102でYES)、S1103に移行し、警報動作フラグをONとし、車両制御部150に警報を鳴動するよう信号を送る。ここで、閾値TimeTh1は、一般に歩行者が回避行動をとり始める時間にマージンを加えたものである。時刻tnが閾値TimeTh1よりも小さいとは、衝突の危険が迫っているにもかかわらずドライバによる回避行動がとられていないことを意味する。
【0036】
図13は、ブレーキを制御する場合の処理フローチャートである。基本的には警報を発する場合と同様の処理を行うが、衝突までの時間と衝突確率に応じてブレーキ減速度を設定する。すなわち、衝突の予測される位置がより遠方で、より未来であれば減速度は小さくて良い。逆に、衝突の予測される位置が直近で、時間的にも近い場合には出来るだけ大きい減速度でブレーキを作動させるべきである。
【0037】
S1201でt秒後に衝突確率が警報用閾値ProbTh2よりも大きくなる時刻tnが存在するか否かが判断される。そして、存在すると判断された場合に(S1201でYES)、衝突確率がブレーキ用閾値ProbTh2を超える時刻の中から最小の時刻tn、すなわち時間的に最も近いものを抽出する。そして、抽出した最小の時刻tnが閾値TimeTh2よりも短いか否かを判断する(S1202)。そして、最小の時刻tnが閾値TimeTh2よりも短かった場合(S1202でYES)、S1203のブレーキ減速度設定部に移行し、衝突までの時間と衝突確率に基づいてブレーキ減速度を設定する。
【0038】
以上の処理によって、適切な時刻における衝突確率を算出し、結果としてより適切な車両制御が実現できる。
【0039】
[実施例2]
次に、実施例2について説明する。
図14は、実施例2における画像処理フローチャートである。なお、実施例1と同様の構成要素には同一の符号を付することでその詳細な説明を省略する。
【0040】
本実施例において特徴的なことは、実施例1のように、現在から十分遠い未来の時刻までのマップ及び衝突確率を連続的に求めるのではなく、離散的にマップ及び衝突確率を推定する構成としたことである。本実施例は、時系列情報の離散化による計算コストの削減を目的とする。
【0041】
実施例1のマップ算出部S205では、時間発展させた立体物及び車両の状態量を元に任意の時刻tnにおける存在確率分布を算出したが、連続時間で表現できるモデルを立て、衝突確率の変化を解析し、閾値を超える時刻を算出する場合には、計算コストが肥大する可能性がある。よって、離散的に計算することで計算コストを低減できることが望ましい。一方で、計算する時刻tnが粗すぎると衝突が発生しうるタイミングを見逃す恐れがあるため、適切な離散間隔の設定が必要である。
【0042】
【0043】
追加された離散時間決定部S1401では、立体物存在確率マップ及び衝突確率を計算すべき離散時間の間隔を決定する。離散時間の間隔は、立体物の相対位置と相対速度に応じて設定することができる。例えば
図15に示したグラフの通り、相対速度に反比例させる方法が考えられる。この方法はつまり、αだけ自車が進むごとに衝突確率を算出していることに等しい。対象とする立体物が奥行き50[cm]だとして、車両が2[m]進むごとに衝突確率を計算した場合、離散時間1つ分進む間に立体物との距離が大きく離れてしまい、衝突確率に反映されない恐れがある。この案では、立体物のサイズに応じた係数を設定することで、衝突確率が最も高くなると思われるタイミングから大きく外れないよう離散時間を設定できる。
【0044】
他には、
図16で示す通り、相対距離を変数として離散間隔を算出方法が考えられる。遠方にいるうちは衝突タイミングに細かい精度は要求されないが、近傍に近づくにつれて細かい間隔で衝突確率を算出する必要があるためである。この例では単純な比例式で示したが、もちろん2次式や複数の式の組み合わせでもよい。
【0045】
マップ算出部S1402では、立体物20の存在確率分布を離散した時間で変化させた離散時間立体物存在確率マップを算出し、衝突確率推定部S1403では、離散時間衝突確率の推定が行われる。マップ算出部S1402、および衝突確率推定部S1403では、実施例1のS205、S206とほぼ同じ計算が行われるが、連続時間の解析ではなく、離散時間決定部S1401で定められた離散時間でのみ立体物存在確率マップの算出及び衝突確率の推定を実施する。したがって、計算コストを削減することができる。得られた離散時間の衝突確率は、離散時間の時系列情報として制御タイミング決定部S207に送られ、衝突の発生タイミングの決定及びそれに応じた制御手段決定部S208による制御手段の決定に用いられる。
【0046】
[実施例3]
次に、実施例3について説明する。
図17は、実施例3における画像処理フローチャート、
図18は、実空間における確率分布の時間変化の説明図である。なお、上述の実施例1、2と同様の構成要素には同一の符号を付することでその詳細な説明を省略する。
【0047】
本実施例において特徴的なことは、実施例1のように、現在から十分遠い未来の時刻までの立体物存在確率マップ及び衝突確率を連続的に求めるのではなく、未来の特定の時刻においてのみ立体物存在確率マップ及び衝突確率を推定する構成としたことである。本実施例では、時系列情報の計算対象時刻を制限することによる計算コストの削減を目的とする。
【0048】
実施例1のマップ算出部S205では、時間発展させた立体物及び車両の状態量を元に任意時間の存在確率分布(立体物存在確率マップ)を算出したが、連続時間で表現できるモデルを立て、衝突確率の変化を解析し、閾値を超える時刻を算出する場合には、計算コストが肥大する可能性がある。よって、特定の時刻に絞って計算することで計算コストを低減できることが望ましい。一方で、計算する時刻が不適切であった場合には衝突が発生しうるタイミングを見逃す恐れがあるため、適切な時刻の設定が必要である。
【0049】
追加された計算タイミング決定部S1701で立体物存在確率マップ及び衝突確率を計算すべき時刻(特定時間)を算出する。特定時間は、立体物の状態量の誤差に応じて算出することができる。例えば、計算タイミング算出用の候補点を複数用意し、それぞれの点に対して相対距離0となる時刻、すなわち相対距離を相対速度で除したものを算出し、衝突確率を推定する方法が考えられる。候補点は、誤差推定の結果から標準偏差だけずらした位置に設定することで確率分布を考慮しつつ計算タイミングを決定することができる。マップ算出部S1402及び衝突確率推定部S1403では、特定時間においてのみ立体物存在確率マップの算出及び衝突確率の推定を実施する。
【0050】
図18に算出時の相対位置イメージを示した。立体物20に対して自車10から見て手前と奥に標準偏差σだけ位置をずらした計算タイミング算出用の候補点30a、30bを設定し、それぞれに対して自車10との距離が0となる時刻t1,t2,t3を算出し、衝突確率を計算する。本実施例では簡単のため点を3つに限定したが、精度が求められるシーンではより細かい間隔で配置してもよいし、ある範囲内でランダムに点をばらまいてもよい。また、衝突タイミングを精度よく求めるために、
図19に示すような二分探索法が考えられる。
【0051】
図20、21に、二分探索のフローチャートを示した。
図19は、衝突確率の計算タイミングを決定する方法の一例を示す図、
図20は、衝突確率の計算タイミングを決定する初期時刻の算出フローチャートである。
【0052】
まずは
図19の通り、二分探索を実施する時刻tnの領域[tb, ta]を求める。
図18で算出したように、まずは3つの候補点から求めた時刻t1, t2, t3における衝突確率を算出する。時刻tnにおける衝突確率をP(tn)で表したとき、P(t3) >= ProbTh かつ P(t2) < ProbThであった場合、t2とt3の間に衝突確率が閾値を超える時刻があるとして、二分探索を実施する。
【0053】
時刻t2とt1の組み合わせに対しても同様である。P(t1) >= ProbThであった場合、時刻t2以前でかつ衝突確率がProbTh未満である時刻tnを算出する必要があるため、Δt = (t2-t1)ずつ過去の時刻tnにおいて衝突確率を算出し、閾値をまたぐ時刻tnを算出する。最終的に、P(ta) >= ProbTh かつ P(tb) < ProbThとなる時刻ta, tbが算出される。すべての衝突確率が車両制御を許可する確率ProbThよりも低い場合、衝突の可能性なしとして処理を終了する。
【0054】
時刻tnの領域[tb, ta]における二分探索のフローチャートを、
図21に示した。中点となる時刻tc = (ta + tb)/2及びその衝突確率P(tc)を求める。P(tc)が閾値を超えていた場合、P(tc) >= ProbThかつP(tb) < ProbThとなるから、新たに領域[tb, tc]を設定する。P(tc)が閾値を超えてない場合、P(tc) < ProbTh かつ P(ta) >= ProbThとなるから、新たに領域[tc, ta]を設定する。これを時間の変化量すなわち(ta - tb)が閾値StepThを下回った時点で、十分な計算精度が得られたとして処理を終了する。
【0055】
得られた衝突確率は、離散時間の時系列情報として制御タイミング決定部S207に送られ、衝突の発生タイミングの決定及びそれに応じた制御手段決定部S208による制御手段の決定に用いられる。
【0056】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。実施例はあくまで本発明を分かりやすくするために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0057】
また、上記の各構成は、それらの一部又は全部が、ハードウェアで構成されても、プロセッサでプログラムが実行されることにより実現されるように構成されてもよい。また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 自車
20 立体物
30 存在確率分布
S201 視差算出部
S202 立体物検知部
S203 状態量推定部
S204 誤差推定部
S205 マップ算出部
S206 衝突確率推定部
S207 制御タイミング決定部
S208 制御手段決定部
S1401 離散時間決定部
S1402 マップ算出部
S1403 衝突確率推定部
S1701 計算タイミング決定部