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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び温度制御装置
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220927BHJP
【FI】
F04D19/04 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018114954
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019218876
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-05-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105201
【弁理士】
【氏名又は名称】椎名 正利
(72)【発明者】
【氏名】深美 英夫
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/021428(WO,A1)
【文献】特開2018-93596(JP,A)
【文献】特開昭63-231183(JP,A)
【文献】特開2017-111093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプの温度を計測する温度センサと、
該温度センサで計測された温度が上限値と下限値とを繰り返し経過するようにヒータ及び/又は冷却装置の制御を行う温度制御を備える真空ポンプにおいて、
該温度制御が、通常運転時における前記上限値から次の前記下限値、及び前記下限値から次の前記上限値までに到る経過時間が含まれるように設定された規定時間を有し、
前記ヒータ又は前記冷却装置がオン又はオフされたときからタイマのカウントを開始し、前記計測された温度が一定値を示し続けた後、前記カウントされたタイマのカウント値が前記規定時間を超えたときに、前記ヒータ及び/又は前記冷却装置の制御を強制的に行い加熱若しくは冷却の状態の変化を実現、及び/又は異常の通知を行うことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記規定時間が、前記下限値未満での経過時間、及び前記上限値を超えた経過時間が含まれるように設定されたことを特徴とする請求項1記載の真空ポンプ。
【請求項3】
温度制御される対象物と、
該対象物の温度を計測する温度センサと、
該温度センサで計測された温度が上限値と下限値とを繰り返し経過するようにヒータ及び/又は冷却装置の制御を行う温度制御装置において、
通常運転時における前記上限値から次の前記下限値、及び前記下限値から次の前記上限値までに到る経過時間が含まれるように設定された規定時間を有し、
前記ヒータ又は前記冷却装置がオン又はオフされたときからタイマのカウントを開始し、前記計測された温度が一定値を示し続けた後、前記カウントされたタイマのカウント値が前記規定時間を超えたときに、前記ヒータ及び/又は前記冷却装置の制御を強制的に行い加熱若しくは冷却の状態の変化を実現、及び/又は異常の通知を行うことを特徴とする温度制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空ポンプ及び温度制御装置に係わり、特に生成物の堆積を防止するために設けられたヒータ若しくは水冷用電磁弁の制御に使用される温度センサの異常に伴い発生するポンプの過剰加熱や過剰冷却を簡易な構成で防止可能な真空ポンプ及び温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの発展に伴い、メモリや集積回路といった半導体の需要が急激に増大している。
これらの半導体は、きわめて純度の高い半導体基板に不純物をドープして電気的性質を与えたり、エッチングにより半導体基板上に微細な回路を形成したりなどして製造される。
そして、これらの作業は空気中の塵等による影響を避けるため高真空状態のチャンバ内で行われる必要がある。このチャンバの排気には、一般に真空ポンプが用いられているが、特に残留ガスが少なく、保守が容易等の点から真空ポンプの中の一つであるターボ分子ポンプが多用されている。
【0003】
また、半導体の製造工程では、さまざまなプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、ターボ分子ポンプはチャンバ内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスをチャンバ内から排気するのにも使用される。
ところで、プロセスガスは、反応性を高めるため高温の状態でチャンバに導入される場合がある。そして、これらのプロセスガスは、排気される際に冷却されてある温度になると固体となり排気系に生成物を析出する場合がある。そして、この種のプロセスガスがターボ分子ポンプ内で低温となって固体状となり、ターボ分子ポンプ内部に付着して堆積する場合がある。
【0004】
ターボ分子ポンプ内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプの性能を低下させる原因となる。
この問題を解決するために、従来はターボ分子ポンプのベース部等の外周にヒータや環状の水冷管を巻着させ、かつ例えばベース部等に温度センサを埋め込み、この温度センサの信号に基づきベース部の温度を一定の範囲の高温に保つようにヒータの加熱や水冷管による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている(特許文献1、特許文献2を参照)。
TMSの制御温度は高い方が生成物が堆積し難いため、この温度は可能な限り高くすることが望ましい。
【0005】
一方、このようにベース部を高温にした際には、ターボ分子ポンプの本体内に備えられた電子回路は、排気負荷の変動や周囲温度が高温に変化した場合等には限界温度を超え、半導体メモリによる記憶手段が破壊されるおそれがある。この際には、半導体メモリが壊れてポンプ起動時間やエラー履歴等のメンテナンス情報データが消える。
メンテナンス情報データが消えた場合には、保守点検の時期やターボ分子ポンプの交換時期等の判断もできなくなる。従って、ターボ分子ポンプの運用上に大きな支障が生ずる。このため、所定温度を超えた場合には水冷管による冷却が行われている。
【0006】
このTMS制御の一例を図7のフローチャートと図8のタイミングチャートに示す。図8のタイミングチャートではヒータの制御について時刻を横軸に、温度センサにより計測された温度値を縦軸に示している。また、ヒータのONとOFFの状態も縦軸に示している。なお、水冷管への水の流れを制御するための電磁弁の開閉は別途配設されている温度センサによりヒータの制御とは独立した制御として行われる。但し、この電磁弁の制御方法については、このヒータの制御と同じであるのでフローチャートとタイミングチャートは省略する。
この例では、温度センサでターボ分子ポンプのベース部の温度を計測し、計測温度が予め設定したベース部の許容温度以下となるように、ヒータに対し加熱指令を送ったり、水冷管への水の流れを制御するために電磁弁を開閉したりする。
【0007】
即ち、図7図8において、制御装置は運転開始後、時刻t2までの初期段階にヒータをONし加熱し続ける。このとき、図7のフローチャートに基づき制御用CPUで処理が行われる。即ち、一定のサンプリング周期Δt時間毎にこのフローチャートに従ってTMS制御が動作する。まず、時刻t1までの段階では、ステップ1(図中S1と略す。以下同様)でヒータの制御が開始され、ステップ2で、温度センサで計測した計測温度が下限値未満と判定されるのでステップ3でヒータをONし、ステップ4で制御が終了する。時刻t1までのサンプリング周期Δt時間毎の制御ではこの動作が繰り返される。
【0008】
時刻t1を経過し時刻t2までのサンプリング周期Δtでは、ステップ1でヒータの制御が開始され、ステップ2で、温度センサで計測した計測温度が下限値以上と判定されるのでステップ5に進む。しかし、このステップ5では、計測温度が上限値未満なので、ステップ4に進み制御が終了する。即ち、上限値に到達する時刻t2まではヒータのONが維持され加熱し続ける。
時刻t2では初めてステップ5で上限値を超えたと判定されるのでステップ6に進みヒータをOFFする。
【0009】
上限値でヒータをOFFした後も熱容量の関係から、ベース部の温度は急には下降せず、オーバーシュート曲線を描く。一方、この上限値を超えた付近では、電磁弁の制御が別途行われており、電磁弁が開かれて水冷管より水が供給される。
オーバーシュートの後、時刻t3に到るまでのサンプリング周期Δt時間ではステップ2で下限値未満ではなく、ステップ5で上限値より高くもないのでそのままステップ4に到る。このため、ヒータがOFFした状態が維持され続ける。
そして、時刻t3でべース部の温度が下限値未満になったときにはステップ2で下限値未満と判定され、ステップ3に進み再びヒータをONする。そして、この下限値未満になった付近では別途行われている電磁弁の制御により電磁弁が閉められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2002-257079号公報
【文献】特許第5782378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、TMS制御を行うため、温度センサとしてサーミスタを使用しているような場合で、ケーブルが断線をしたときにはサーミスタの抵抗値が無限大となる。このとき、抵抗値から電圧変換された温度値は例えば-150度を検出する。一方、短絡をした場合には抵抗値はゼロとなり、電圧変換された温度値は例えば600度等の異常な温度を検出する。
【0012】
また、温度センサとポンプの壁部との間に隙間が生じていたり、壁部のアルミニウムを介して短絡したりする等、温度センサが正しく配置されていないような状態では計測した温度値は前述したような特異値とはならないことがある。
更に、シリアル通信を使った温度センサの場合には、温度センサ系統が壊れたときに一番最後の計測温度にロックされることがある。
このような状況を検知することができずにTMS制御がそのまま継続された場合には、ポンプの過剰加熱や過剰冷却等を生じ、ポンプの機能に障害の及ぶおそれがある。
【0013】
本発明はこのような従来の課題に鑑みてなされたもので、生成物の堆積を防止するために設けられたヒータ若しくは水冷用電磁弁の制御に使用される温度センサの異常に伴い発生するポンプの過剰加熱や過剰冷却を簡易な構成で防止可能な真空ポンプ及び温度制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このため本発明(請求項1)は真空ポンプの発明であって、ポンプの温度を計測する温度センサと、該温度センサで計測された温度が上限値と下限値とを繰り返し経過するようにヒータ及び/又は冷却装置の制御を行う温度制御を備える真空ポンプにおいて、該温度制御が、通常運転時における前記上限値から次の前記下限値、及び前記下限値から次の前記上限値までに到る経過時間が含まれるように設定された規定時間を有し、前記ヒータ又は前記冷却装置がオン又はオフされたときからタイマのカウントを開始し、前記計測された温度が一定値を示し続けた後、前記カウントされたタイマのカウント値が前記規定時間を超えたときに、前記ヒータ及び/又は前記冷却装置の制御を強制的に行い加熱若しくは冷却の状態の変化を実現、及び/又は異常の通知を行うことを特徴とする。
【0015】
温度制御において、通常運転時における上限値から次の下限値、及び下限値から次の上限値までに到る経過時間が必ず含まれるように規定時間を設定する。
温度センサが正常に動作している場合、上限値と下限値の間の繰り返しの制御になる。このため規定時間を超えることはない。
しかし、上限値若しくは下限値の状態の変化を確認できないまま規定時間を超えたときには、温度センサ系統の異常が発生したと判断する。この際には、ヒータ及び/又は冷却装置の制御を強制的に行い状態の変化を実現する。このことにより、ポンプの運転を安全に持続できる。また、異常を通知できる。この際の判断を行うのに別途異常監視用の温度センサを必要とせず、ソフトウェア処理にて実現が可能である。
【0016】
また、本発明(請求項2)は真空ポンプの発明であって、前記規定時間が、前記下限値未満での経過時間、及び前記上限値を超えた経過時間が含まれるように設定されたことを特徴とする。
【0017】
上限値と下限値の2つの温度しきい値の間で温度センサ系統の障害リスクができるだけでなく、計測温度が下限値未満の領域や、上限値よりも高い領域でも温度センサ系統の障害を考慮できる。従って、全ての温度領域で温度センサ系統の故障を検知できる。
【0018】
更に、本発明(請求項3)は温度制御装置の発明であって、温度制御される対象物と、該対象物の温度を計測する温度センサと、該温度センサで計測された温度が上限値と下限値とを繰り返し経過するようにヒータ及び/又は冷却装置の制御を行う温度制御装置において、通常運転時における前記上限値から次の前記下限値、及び前記下限値から次の前記上限値までに到る経過時間が含まれるように設定された規定時間を有し、前記ヒータ又は前記冷却装置がオン又はオフされたときからタイマのカウントを開始し、前記計測された温度が一定値を示し続けた後、前記カウントされたタイマのカウント値が前記規定時間を超えたときに、前記ヒータ及び/又は前記冷却装置の制御を強制的に行い加熱若しくは冷却の状態の変化を実現、及び/又は異常の通知を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明(請求項1)によれば、上限値若しくは下限値の状態の変化を確認できないまま規定時間を超えたときに、ヒータ及び/又は冷却装置の制御を強制的に行い状態の変化を実現、及び/又は異常の通知を行うように構成したので、ポンプの運転を安全に持続できる。また、異常を通知できる。この際の判断を行うのに別途異常監視用の温度センサを必要とせず、ソフトウェア処理にて実現が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態のヒータ系統のシステム構成図
図2】ターボ分子ポンプの構成図
図3】本実施形態であるTMS制御のフローチャート
図4】温度センサ系統が故障したときのTMS制御のタイミングチャート
図5】本実施形態の別態様であるフローチャート(その1)
図6】本実施形態の別態様であるフローチャート(その2)
図7】TMS制御の一例を示すフローチャート(従来)
図8】TMS制御の一例を示すタイミングチャート(従来)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の実施形態のヒータ系統のシステム構成図を図1に、また、図2に、ターボ分子ポンプの構成図を示す。
図1において、制御装置200はポンプ本体100と別体で記載されているが、ターボ分子ポンプは、ポンプ本体100と制御装置200とが一体化されていても本実施形態の適用は可能である。
【0022】
制御装置200にはポンプの制御を行うポンプ制御部1が配設されている。そして、このポンプ制御部1は、磁気軸受の制御を行う磁気軸受制御部3とモータの制御を行うモータ回転制御部5とを監視制御している。後述するポンプ本体100のベース部129にはヒータ7が巻かれ、このヒータ7の近くにはこのベース部129の温度を検出するための温度センサ9が配設されている。そして、この制御装置200にはTMS制御を行うための温度制御部11が配設されている。この温度制御部11は、温度センサ9で検出した温度を温度計測部13で所定の温度信号に変換し、この温度信号を計測温度値として入力するようになっている。この計測温度値が後述するしきい値を超えたときにON/OFF信号が生成され、このON/OFF信号がヒータ出力部15に対して出力されるようになっている。ヒータ出力部15では入力されたON/OFF信号に基づきヒータ7を加熱若しくは停止するようになっている。そして、温度制御部11が温度センサ系統の異常を検出したときにはポンプ制御部1に対して異常通知信号17が発せられるようになっている。
なお、本実施形態ではヒータ系統のシステム構成図について説明しているが、電磁弁系統のシステム構成図についても同様の構成である。
【0023】
次に、ポンプ本体100について説明する。
図2において、ポンプ本体100の円筒状の外筒127の上端には吸気口101が形成されている。外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードによる複数の回転翼102a、102b、102c・・・を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103を備える。
この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば、いわゆる5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0024】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石が、ロータ軸113の径方向の座標軸であって互いに直交するX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接かつ対応されて4個の電磁石からなる上側径方向センサ107が備えられている。この上側径方向センサ107はロータ軸113の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
制御装置200においては、上側径方向センサ107が検出した変位信号に基づき、PID調節機能を有する補償回路を介して上側径方向電磁石104の励磁を制御し、ロータ軸113の上側の径方向位置を調整する。
【0025】
ロータ軸113は、高透磁率材(鉄など)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。
また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0026】
更に、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向変位信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0027】
そして、軸方向電磁石106A、106Bは、この軸方向変位信号に基づき制御装置200のPID調節機能を有する補償回路を介して励磁制御されるようになっている。軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bは、磁力により金属ディスク111をそれぞれ上方と下方とに吸引する。
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。
【0028】
モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。
回転翼102a、102b、102c・・・とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123a、123b、123c・・・が配設されている。回転翼102a、102b、102c・・・は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0029】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。
そして、固定翼123の一端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125a、125b、125c・・・の間に嵌挿された状態で支持されている。
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0030】
固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設され、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間にはネジ付きスペーサ131が配設されている。そして、ベース部129中のネジ付きスペーサ131の下部には排気口133が形成され、外部に連通されている。
ネジ付きスペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。
【0031】
ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。
回転体103の回転翼102a、102b、102c・・・に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付きスペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付きスペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。
【0032】
ベース部129は、ターボ分子ポンプのポンプ本体100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。また、このベース部129には図示しない水冷管が環状に埋設されている。そして、水冷管の側部には図示しない水冷用の温度センサが配設されている。
ベース部129はポンプ本体100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0033】
かかる構成において、回転翼102がモータ121により駆動されてロータ軸113と共に回転すると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバからの排気ガスが吸気される。
吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触又は衝突する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導や輻射などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子等による伝導により固定翼123側に伝達される。
【0034】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触又は衝突する際に生ずる摩擦熱などを外筒127やネジ付きスペーサ131へと伝達する。
ネジ付きスペーサ131に移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつ排気口133へと送られる。
【0035】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図3に本実施形態であるTMS制御のフローチャートを示す。また、図4には温度センサ系統が故障したときのTMS制御のタイミングチャートを示す。なお、図7図8と同一要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
例えば、ヒータ制御の場合、一般的に、ON/OFFのチャタリングを回避するため、上限/下限の2つの温度しきい値が設定され、計測温度が下限値以下ではヒータ7をONとし、上限値以上ではOFFするように制御する。下限値以下の状態で温度センサ9が故障している場合は「低温異常」を検出し、上限値以上の状態で温度センサ9が故障している場合は、「高温異常」を検出する。
【0036】
上限値と下限値との間の状態で温度センサ9が故障している場合、従来では異常検知できなかった。しかしながら、この温度範囲で一定温度を維持することが実運用上起こりえない場合、本実施形態では、規定時間を設けることで、温度センサ9に障害が発生したリスクがあると判断し、ヒータ7の出力状態を変化させるものである。
以下、図4の時刻t100において温度センサ系統が故障し、計測温度が上限値と下限値の間で一定し続ける場合を想定する。
【0037】
図4に示すように、時刻t96では温度センサ9で計測した計測温度が上限値を超えた状態である。この時刻t96における制御では、まず、図3のステップ1でヒータ制御が開始される。ステップ2で温度センサ9で計測した計測温度が温度制御部11で下限値未満ではないと判定されるのでステップ5に進む。ステップ5では温度センサ9で計測した計測温度が上限値を超えたのでステップ6に進みヒータ7をOFFする。但し、ステップ6ではヒータ出力部15がヒータ7をOFFすると同時にタイマを初期化する。その後、ステップ4でこの制御は終了する。また、この時刻t96の付近では、別途水冷用に配設された温度センサを用いた制御により電磁弁が開されるので水冷管によりベース部129の温度は冷却される。但し、水冷用の温度センサとヒータ用の温度センサとは異なる箇所に配設されるので、水冷用に設けられた上限値と下限値はこのヒータ用の上限値と下限値とは一般的には多少異なる。
【0038】
時刻t97では温度センサ9で計測した計測温度がオーバーシュートの後に上限値未満になった状態である。時刻t96以降も時刻t97に到るまでサンプリング周期Δt時間毎に図3のフローチャートに従った動作が行われる。この間、温度センサ9で計測した計測温度は上限値を超えた状態を維持しているのでステップ6ではヒータ7のOFFが維持される。このときタイマのカウントは継続される。
【0039】
時刻t98では温度センサ9で計測した計測温度が下限値未満になった状態である。時刻t97以降も時刻t98に到るまでサンプリング周期Δt時間毎に図3のフローチャートに従った動作が行われる。このとき、ステップ2では温度センサ9で計測した計測温度が下限値未満ではないと判定されるのでステップ5に進む。ステップ5では上限値より高くもないと判定されるのでステップ7に到る。ステップ7ではタイマのカウント値が例えば90分等予め設定した規定時間になったか否かが判断される。この90分という規定時間は、例えばポンプ毎に実験等で算出したポンプの過剰加熱若しくは過剰冷却に到るまでの時間に対して2倍等の余裕率を掛けることで決めるのが望ましい。
【0040】
このように規定時間を設定したのは、温度センサ系統が故障し、計測温度が上限値と下限値の間で一定し続けたような場合には、ずっとヒータ7による加熱や水冷管による冷却が続いてしまい、過剰加熱や過剰冷却になる不具合を生ずるのでこれを回避するためである。
TMS機能は温度センサの計測温度を目標温度となるように制御する機能なので、暖める対象やヒータ容量等の適用アプリケーションが特定されれば、ヒータや水冷用電磁弁のON/OFFは同じサイクルを繰り返すような挙動となり、継続的にON/OFF状態が維持される時間の上限が決まる。この上限に対して余裕度を考慮した許容時間を設けることで、万が一、その許容時間を超えて継続的にON状態若しくはOFF状態を維持しないように、ON/OFF状態を変更することが望ましい。
【0041】
温度センサ9が正常に動作している場合、この規定時間を超えることはない。このため、ステップ7ではタイマのカウント値は規定時間以内と判断され、ステップ4に進む。
時刻t97以降も時刻t98に到るまでサンプリング周期Δt時間毎に図3のフローチャートに従った動作が行われる。
時刻t98では、ステップ2で温度センサ9で計測した計測温度が下限値未満と判定されるのでステップ3でヒータ7をONし、ステップ4で制御が終了する。但し、ステップ3ではヒータ出力部15がヒータ7をONすると同時にタイマを初期化する。この初期化によりタイマは改めてカウントが開始されることになる。この時刻t98の付近でも水冷用の電磁弁は閉するのでヒータ7によりベース部129の温度は加熱される。下限値でヒータ7をONした後も熱容量の関係から、ベース部129の温度は急には上昇せず、アンダーシュート曲線を描く。
【0042】
アンダーシュートをしている時刻t99に到るまでのサンプリング周期Δt時間ではステップ2で計測温度が下限値未満と判断されるのでステップ3に進みヒータ7をONし続ける。このときタイマのカウントは継続される。
アンダーシュートの後、時刻t100に到るまでのサンプリング周期Δt時間ではステップ2で下限値未満ではなく、ステップ5で上限値より高くもないのでステップ7に到る。そして、ステップ7ではタイマ時間が満了していないのでステップ4に進む。このため、ヒータ7がONした状態が維持され続ける。
【0043】
次に、時刻t100で温度センサ系統が故障し、計測温度が上限値と下限値の間で一定し続けたときの処理について説明する。このときには、時刻t100以降のサンプリング周期Δt時間毎の処理は、ステップ2で計測温度が下限値未満ではなくステップ5に進み、ステップ5では上限値より高くもないのでステップ7に到る。そして、ステップ7ではタイマ時間が満了していないのでステップ4に進む。このため、ヒータ7がONした状態が長時間維持され続けることになる。しかし、ステップ7の判断で、タイマのカウント値が規定時間以上となったときにはステップ8に進みタイマ終了処理が行われる。
このタイマ終了処理では、規定時間以上同じ出力状態を維持しないようにするため強制的に出力を反転させる。即ち、ヒータ7がONした状態であれば、これをOFFさせる。但し、これ以降は、規定時間毎にヒータによる加熱と電磁弁による冷却とが交互に繰り返されるようにしてもよい。若しくは、主力を反転せずに温度センサ系統の異常を通知するようにしてもよい。反転させると同時に異常を通知するようにしてもよい。
【0044】
以上のように、上限値と下限値の2つの温度しきい値の間で温度センサ系統の障害リスクを考慮した。このため、温度センサ系統に障害が無い場合には、計測温度は必ず上限値と下限値に達し、出力状態は正常に反転する。一方、温度センサ系統に障害を生じた場合には規定時間の経過後であっても計測温度は上限値若しくは下限値に達しない。しかし、このとき出力状態を反転させれば運転を持続できる。また、異常を通知できる。この際の判断を行うのに別途異常監視用の温度センサを必要とせず、ソフトウェア処理にて実現が可能である。
【0045】
なお、本実施形態ではヒータと水冷用の電磁弁に対してそれぞれ1個の温度センサを配設するとして説明したが、ヒータと水冷用の電磁弁に対して共通した1個の温度センサを配設した場合にも同様に適用が可能である。
また、上記では主にヒータ制御の場合について説明したが、水冷用の電磁弁制御の場合についても同様に適用が可能である。この場合、上限値で電磁弁を開いて水冷管に水を流し、下限値で電磁弁を閉じて水を停止する。
【0046】
次に、図5図6には本実施形態の別態様であるフローチャートを示す。なお、図3図7と同一要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
図5は基本的には図7のフローチャートの構成と同じであるが、ステップ3及びステップ6とステップ4の間の図中符号Aで示す箇所に、図6に示すタイマ処理を行うサブルーチンを挿入した点で図7とは相違している。即ち、図6において、ステップ10ではヒータ7の出力指示がONからOFF、又はOFFからONに変化したか否かが判断される。そして、ヒータ7の出力指示が変化したと判断された場合にはステップ11に進みタイマを初期化しステップ12で図5のフローチャートに戻る。
【0047】
一方、ステップ10でヒータ7の出力指示が変化していないと判断された場合にはステップ7に進む。ステップ7ではタイマのカウント値が規定時間になったか否かが判断される。ステップ7の判断で、タイマのカウント値が規定時間以上となったときにはステップ8に進み前述したタイマ終了処理が行われる。
以上により、上限値と下限値の2つの温度しきい値の間で温度センサ系統の障害リスクができるだけでなく、計測温度が下限値未満の領域や、上限値よりも高い領域でも温度センサ系統の障害を考慮できる。
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が当該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0048】
1 ポンプ制御部
3 磁気軸受制御部
5 モータ回転制御部
7 ヒータ
9 温度センサ
11 温度制御部
13 温度計測部
15 ヒータ出力部
17 異常通知信号
100 ポンプ本体
200 制御装置
図1
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図8