(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】衣料害虫防除用スプレー剤、及び衣料害虫防除方法
(51)【国際特許分類】
A01N 37/46 20060101AFI20220927BHJP
A01N 25/06 20060101ALI20220927BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20220927BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
A01N37/46
A01N25/06
A01N25/00 102
A01P17/00
(21)【出願番号】P 2018122188
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】田丸 友裕
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 誠一
(72)【発明者】
【氏名】山城 敬範
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-181195(JP,A)
【文献】特開2014-185087(JP,A)
【文献】特表2009-520707(JP,A)
【文献】特表2009-536658(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107653674(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/46
A01N 25/06
A01N 25/00
A01P 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着衣における衣料害虫の産卵を予防するための3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルを有効成分と
し、
前記3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルの安定化成分として、トリエタノールアミンを0.05~0.2w/v%含有する衣料害虫防除用スプレー剤。
【請求項2】
衣類への噴霧処理により、使用中の前記衣類への衣料害虫の接近又は接触を防止する請求項1に記載の衣料害虫防除用スプレー剤。
【請求項3】
前記安定化成分としてさらに、メントールを0.2~1.5w/v%含有する
請求項1又は2に記載の衣料害虫防除用スプレー剤。
【請求項4】
前記衣料害虫は、イガ、又はコイガである
請求項1~3の何れか一項に記載の衣料害虫防除用スプレー剤。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の衣料害虫防除用スプレー剤を、使用中の衣類への衣料害虫の産卵を予防するために、前記衣類に噴霧する衣料害虫防除方法。
【請求項6】
前記衣類への3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルの付着量が500mg/m
2以上となるように、前記衣料害虫防除用スプレー剤の噴霧量を調節する
請求項5に記載の衣料害虫防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料害虫防除用スプレー剤、及び衣料害虫防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣料害虫から繊維製品を保護するため、様々な衣料害虫防除製品が開発され、実用化されている。例えば、常温揮散性を有するピレスロイド系防虫成分に代えて、香料成分を有効成分とする衣料害虫防除製品が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1の製品は、酢酸エステル化合物、アリルエステル化合物等の香料成分を吸水性ポリマーに保持させたものであり、長期に亘って有効成分の揮散性を維持することで、タンス、引き出し、クローゼット、衣料収納箱等の収納空間で衣料害虫の幼虫を致死させ、優れた摂食阻害効果を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の衣料害虫防除製品は、長期にわたって有効成分を揮散させることができるが、一定期間毎に取り換えが必要となる。しかし、取り換えが遅れた場合、衣料害虫の防除が不十分になる虞がある。そこで、繊維製品の保護をより確実にするためには、収納空間へ衣料害虫の卵が持ち込まれることを防止することが望まれる。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、収納空間へ衣料害虫の卵が持ち込まれることを防止することができる衣料害虫防除用スプレー剤、及び衣料害虫防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る衣料害虫防除用スプレー剤の特徴構成は、
着衣における衣料害虫の産卵を予防するための3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルを有効成分とする衣料害虫防除用スプレー剤であることにある。
【0008】
3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルは、衣料害虫に対する忌避効果を有し、ほとんど無臭であるため、本構成の衣料害虫防除用スプレー剤によれば、衣類の着用中に有効成分の臭いを気にすることなく、着衣における衣料害虫の産卵を予防することができる。その結果、本構成の衣料害虫防除用スプレー剤を衣類や帽子に処理しておくことで、着用中の衣類等に衣料害虫が産卵することを防ぎ、その衣類を収納する時に収納空間へ衣料害虫の卵を持ち込むことを防止することができる。
【0009】
本発明に係る衣料害虫防除用スプレー剤において、
衣類への噴霧処理により、使用中の前記衣類への衣料害虫の接近又は接触を防止することが好ましい。
【0010】
3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルは、適度な揮散性を有するため、本構成の衣料害虫防除用スプレー剤によれば、使用中の衣類への衣料害虫の接近又は接触が防止され、その結果、衣料害虫が着衣に産卵することを防ぐことができる。
【0011】
本発明に係る衣料害虫防除用スプレー剤において、
前記3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルの安定化成分として、トリエタノールアミンを0.05~0.2w/v%含有することが好ましい。
【0012】
本構成の衣料害虫防除用スプレー剤によれば、3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルの安定化成分として、トリエタノールアミンを0.05~0.2w/v%含有するため、スプレー剤を長期間に亘って保存した場合にも、3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルの含有量を維持することができる。この結果、本構成の衣料害虫防除用スプレー剤は、優れた長期保存性を発揮し、使い勝手のよいものとなる。
【0013】
本発明に係る衣料害虫防除用スプレー剤において、
前記安定化成分としてさらに、メントールを0.2~1.5w/v%含有することが好ましい。
【0014】
本構成の衣料害虫防除用スプレー剤によれば、安定化成分としてさらにメントールを0.2~1.5w/v%含有するため、トリエタノールアミンとメントールとの相乗効果によって、より優れた長期保存性を有するものとなる。
【0015】
本発明に係る衣料害虫防除用スプレー剤において、
前記衣料害虫は、イガ、又はコイガであることが好ましい。
【0016】
本構成の衣料害虫防除用スプレー剤によれば、着衣におけるイガ、又はコイガの産卵を予防することができる。その結果、本構成の衣料害虫防除用スプレー剤を衣類に処理しておくことで、使用中の衣類にイガ、又はコイガが産卵することを防ぎ、その衣類を収納する時に収納空間へイガ、又はコイガの卵を持ち込むことを防止することができる。
【0017】
上記課題を解決するための本発明に係る衣料害虫防除方法の特徴構成は、
上記記載の何れかの衣料害虫防除用スプレー剤を、使用中の衣類への衣料害虫の産卵を予防するために、前記衣類に噴霧することにある。
【0018】
本構成の衣料害虫防除方法によれば、本発明の衣料害虫防除用スプレー剤を衣類に噴霧することで、衣類に衣料害虫防除用スプレー剤が付着するため、外出時に使用中の衣類への衣料害虫の産卵を効果的に予防することができる。その結果、衣類の収納時に収納空間へ衣料害虫の卵を屋外から持ち込むことを防止することができる。
【0019】
本発明に係る衣料害虫防除方法において、
前記衣類への3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルの付着量が500mg/m2以上となるように、前記衣料害虫防除用スプレー剤の噴霧量を調節することが好ましい。
【0020】
本構成の衣料害虫防除方法によれば、衣類への3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチルの付着量が500mg/m2以上となるように調節されるため、噴霧から6時間後も衣料害虫に対する高い忌避効果を奏することができる。そのため、外出前に本発明の衣料害虫防除用スプレー剤を衣類に噴霧しておくことで、外出中に着衣への衣料害虫の接近又は接触を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、衣料害虫防除用スプレー剤の安定性確認試験におけるIR3535の含有量の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の衣料害虫防除用スプレー剤、及び衣料害虫防除方法について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0023】
<衣料害虫防除用スプレー剤>
本発明の衣料害虫防除用スプレー剤は、有効成分として、3-(N-ブチルアセトアミド)プロピオン酸エチル(以下、「IR3535」と表記する)を含有し、着衣における衣料害虫の産卵を予防するために使用される。
【0024】
IR3535は、揮散性を有し、衣料害虫、特にイガ、又はコイガの成虫に対して高い忌避効果を有する。そのため、本発明の衣料害虫防除用スプレー剤は、噴霧処理により衣類へ付着させることで、使用中の衣類からIR3535を揮散させて衣料害虫の接近又は接触を防止し、着衣における衣料害虫の産卵を予防することができる。ここで「使用中」とは、衣類を収納空間から取り出してから、再び収納空間に収納するまでの状態を意味し、着用されている状態のみならず、着用前後に収納空間外で静置されている状態をも含む。着用中の衣類では、使用者の体温によってIR3535の揮散が促進されるため、衣料害虫の接近又は接触をより効果的に防止することができる。また、野外等では温度調節のために衣類を脱ぐような場面もあるが、IR3535が常温での揮散性を有することから、使用中に脱いで野外等で静置された衣類においても、衣料害虫の接近又は接触を十分に防止することができる。また、IR3535は、繊維製品に対してシミや変色等の影響を生じにくく、さらに、ほとんど無臭であり、人体に対する安全性が高い。そのため、本発明の衣料害虫防除用スプレー剤は、衣類へのダメージや、有効成分の臭いを気にすることなく、着衣に使用することができる。衣料害虫防除用スプレー剤中のIR3535の含有量は、1.0~10.0w/v%であることが好ましい。このような範囲であれば、衣料害虫防除用スプレー剤を噴霧処理により衣類に付着させることで、衣料害虫に対する忌避効果を発揮することができる。IR3535の含有量が1.0w/v%未満である場合、衣料害虫に対する忌避効果が不十分となる虞がある。IR3535の含有量が10.0w/v%を超える場合、実用上必要な忌避効果が得られる量を超えてIR3535を配合することになり、経済的に不利である。
【0025】
本発明の衣料害虫防除用スプレー剤は、さらに、IR3535の安定化成分を含有することが好ましい。IR3535の安定化成分としては、トリエタノールアミンを用いる。本発明の衣料害虫防除用スプレー剤は、安定化成分としてトリエタノールアミンを含有することで、酸性条件下で分解し易いIR3535の安定性を向上させ、長期間に亘って衣料害虫防除用スプレー剤を保存した場合にもIR3535の含有量が過度に減少することを防止することができる。衣料害虫防除用スプレー剤中のトリエタノールアミンの含有量は、0.05~0.2w/v%であることが好ましい。このような範囲であれば、IR3535の安定性を十分に向上させることができるため、衣料害虫防除用スプレー剤は、長期保存性に優れた使い勝手のよいものとなる。トリエタノールアミンの含有量が0.05w/v%未満である場合、及びトリエタノールアミンの含有量が0.2w/v%を超える場合、IR3535の安定性を十分に向上することができない虞がある。
【0026】
ところで、本発明の衣料害虫防除用スプレー剤は、安定化成分としてトリエタノールアミンを含有することで、IR3535の安定性を向上させることができるが、本発明者らは、トリエタノールアミンにメントールを併用すると、IR3535の安定性がより向上することを新たに見出した。そこで、本発明の衣料害虫防除用スプレー剤は、IR3535の安定化成分として、トリエタノールアミンに加えてメントールを併用することが好ましい。衣料害虫防除用スプレー剤中のメントールの含有量は、0.2~1.5w/v%であることが好ましい。このような範囲であれば、トリエタノールアミンとメントールとの相乗効果により、IR3535の安定性をより向上させることができる。メントールの含有量が0.2w/v%未満である場合、及びメントールの含有量が1.5w/v%を超える場合、トリエタノールアミンとの相乗効果を十分に発揮することができない虞がある。
【0027】
本発明の衣料害虫防除用スプレー剤は、上記成分に加え、芳香剤、カビ類や菌類等を対象とした防カビ剤、抗菌剤、殺菌剤、帯電防止剤、消泡剤等を適宜配合することもできる。例えば、衣料害虫防除用スプレー剤が芳香剤を含有することで、芳香剤の香気により衣類に付着する悪臭を消臭することができる。芳香剤としては、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、ボルネオール、シトロネロール、リモネン、α-ピネン、リナロール、ゲラニオール、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、クミンアルデヒド、ベンジルアセテート等の芳香成分、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合の香料成分等が挙げられる。防カビ剤、抗菌剤、及び殺菌剤としては、ヒノキチオール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(4-チアゾリル)ベンツイミダゾール、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、トリホリン、3-メチル-4-イソプロピルフェノール、オルト-フェニルフェノール等が挙げられる。
【0028】
本発明の衣料害虫防除用スプレー剤は、上掲の各成分を適切な重量比で配合し、さらに水、及びアルコール類を添加して各成分の濃度が適切となるように調整される。アルコール類としては、炭素数が2~3の低級アルコールが好ましく、エタノールが特に好適である。
【0029】
<衣料害虫防除用スプレー製品>
本発明の衣料害虫防除用スプレー剤の好ましい製品形態は、スプレー製品である。例えば、スプレー容器に、本発明の衣料害虫防除用スプレー剤と、必要に応じて噴射剤とを封入することで、衣料害虫防除用スプレー製品が構成される。スプレー容器としては、トリガー式スプレーヤーを備えるものが好ましい。これにより、スプレーしたときに衣料害虫防除用スプレー剤が拡散し、処理対象の衣類への衣料害虫防除用スプレー剤の付着量が略均一となる。また、スプレー回数に応じて処理対象の衣類に正確な量の衣料害虫防除用スプレー剤を付与することができる。
【0030】
<衣料害虫防除方法>
本発明の衣料害虫防除方法は、上述の衣料害虫防除用スプレー製品を用いて実施することができる。具体的には、使用者が衣料害虫防除用スプレー製品のトリガーを把持し、衣類や帽子に向けて衣料害虫防除用スプレー剤を噴霧する。これにより、衣類等の表面に衣料害虫防除用スプレー剤が付着する。このとき、衣類は着用前、及び着用中の何れであってもよい。本発明の衣料害虫防除用スプレー剤では、人体に対する安全性が高いIR3535を有効成分として用いるため、着用した状態で衣類に噴霧処理を実施することが可能となる。また、衣料害虫防除用スプレー剤の噴霧処理は、外出前に実施することが好ましい。衣料害虫防除用スプレー剤の噴霧処理を実施すると、使用中の衣類には優れた忌避効果が付与され、衣料害虫の接近又は接触を防止することができる。その結果、使用中の衣類への衣料害虫の産卵を効果的に予防することができる。衣料害虫防除用スプレー剤の噴霧量は、有効成分であるIR3535の衣類への付着量が500mg/m2以上となるように調節することが好ましく、IR3535の衣類への付着量が600mg/m2以上となるように調節することがより好ましい。衣類へのIR3535の付着量が500mg/m2以上であれば、着衣からのIR3535の揮散が6時間程度持続するため、外出前に衣類に噴霧しておくことで、6時間程度の外出中に着衣への衣料害虫の接近又は接触を防止することができる。また、衣料害虫防除用スプレー剤の噴霧量がIR3535の量として600mg/m2以上であれば、着衣からのIR3535の揮散が9時間程度持続するため、より長時間の外出においても、着衣への衣料害虫の接近又は接触を防止することができる。噴霧量がIR3535の量として500mg/m2未満である場合、着衣からのIR3535の揮散が十分に持続せず、外出中に着衣への衣料害虫の接近又は接触を十分に防止することができない虞がある。
【0031】
本発明に係る衣料害虫防除用スプレー剤は、上記のとおり噴霧処理により衣類に付着し、付着した衣料害虫防除用スプレー剤から有効成分であるIR3535を長時間に亘って徐々に揮散させることができる。このため、この衣料害虫防除用スプレー剤を用いて実行される本発明の衣料害虫防除方法では、外出前に噴霧処理を実施することによって、外出中に着衣への衣料害虫の接近又は接触を防止し、着衣への衣料害虫の産卵を予防することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の衣料害虫防除用スプレー剤を用いて実施した衣料害虫忌避効力、及び長期安定性に関する試験について説明する。なお、以下の実施例では重量の単位として「g」が示されているが、任意の倍率でスケールアップが可能である。すなわち、単位「g」は、「重量部」と読み替えることができる。
【0033】
(1)衣料害虫忌避効力確認試験
本発明の衣料害虫防除用スプレー剤について、衣料害虫忌避効力を確認するため、本発明の特徴構成を備えた衣料害虫防除用スプレー剤(実施例1)を準備し、下記に示す衣料害虫忌避効力確認試験を実施した。
【0034】
衣料害虫防除用スプレー剤は、IR3535を4.0g(4.0w/v%)、トリエタノールアミン(TEA)を0.05g(0.05w/v%)、メントールを1.5g(1.5w/v%)、その他の香料を0.3g(0.3w/v%)、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)を0.2g(0.2w/v%)、精製水を40g(40w/v%)、並びに、無水エタノールを残分(バランス)混合し、全量100mLに調製した。
【0035】
衣料害虫忌避効力確認試験では、実施例1の衣料害虫防除用スプレー剤をトリガー式スプレー容器に充填し、直径9cmのろ紙に噴霧処理を行った。噴霧処理は、ろ紙へのIR3535の付着量が300mg/m2、500mg/m2、600mg/m2、700mg/m2、800mg/m2、及び900mg/m2の6通りになるように調節して、夫々異なるろ紙に実施した。噴霧処理後の各ろ紙を折って直径7cmのシャーレを傘状に覆ったものを処理区とし、IR3535の付着量が異なる6つの処理区を、夫々異なるアクリル製円筒(6.28L)内に設置した。各アクリル製円筒内には、衣料害虫防除用スプレー剤を噴霧していない直径9cmのろ紙を折って直径7cmのシャーレを傘状に覆った無処理区を併設し、円筒内にイガ成虫を約30匹放ち、円筒の上端をアルミ網で覆った。処理区及び無処理区の設置から6時間後及び9時間後に、処理区と無処理区との夫々で虫数を数え、下式により忌避率を算出した。なお、虫数は、ろ紙上のイガ成虫付着数とシャーレ内へのイガ成虫侵入数との合計とした。
【0036】
忌避率(%) = (Nc-Nt)/Nc × 100
Nt:処理区虫数
Nc:無処理区虫数
【0037】
衣料害虫忌避効力確認試験の結果を表1に示す。
【0038】
【0039】
衣料害虫忌避効力確認試験の結果から、IR3535の付着量が500mg/m2以上であれば、処理区及び無処理区の設置から6時間後も70%以上の高い忌避率を示し、十分な忌避効力を奏することが認められた。そのため、IR3535の付着量が500mg/m2以上となるように、本発明の衣料害虫防除用スプレー剤を外出前に衣類に噴霧しておくことで、6時間程度の外出中に着衣への衣料害虫の接近又は接触を防止し、着衣への衣料害虫の産卵を効果的に予防することができると考えられる。なお、IR3535の付着量が600mg/m2以上であれば、処理区及び無処理区の設置から9時間後も70%以上の高い忌避率を示し、より強力な忌避効力を奏することが認められた。
【0040】
(2)安定性確認試験
本発明の衣料害虫防除用スプレー剤について、長期安定性を確認するため、表2に示すように本発明の特徴構成を備えた複数の衣料害虫防除用スプレー剤(実施例2~13)を100mLずつ準備し、下記に示す試験を行った。
【0041】
【0042】
安定性確認試験では、実施例2~13の衣料害虫防除用スプレー剤を、夫々100mLをバイアル瓶に入れて40℃に設定した恒温器内にて保管した。保管開始から1カ月後、3ヶ月後、及び6カ月後に、各衣料害虫防除用スプレー剤におけるIR3535の含有量を測定した。
【0043】
図1は、衣料害虫防除用スプレー剤の安定性確認試験におけるIR3535の含有量の時間変化を示すグラフである。
図1では、各時点でのIR3535の含有量を、IR3535の初期含有量を100%とした維持率で示している。
【0044】
安定性確認試験の結果、実施例2~13の何れにおいても、保存期間が長期化するにつれてIR3535の含有量が減少することが認められた。しかしながら、トリエタノールアミンが初期含有量0.05~0.2w/v%で配合されている実施例2~8(
図1において実線で示す)では、トリエタノールアミンが配合されていない実施例10~13(
図1において破線で示す)に比較して、保管開始から6カ月後までの全期間において、IR3535の含有量が高濃度に維持されていることが認められた。これは、トリエタノールアミンを含有することで、衣料害虫防除用スプレー剤の初期pHが上がるためと考えられる。ただし、トリエタノールアミンが初期含有量0.4w/v%で配合されている実施例9(
図1において二点鎖線で示す)では、トリエタノールアミンが配合されていない実施例10~13よりもさらに、IR3535の含有量が早期に減少することが認められた。そのため、トリエタノールアミンの過剰な配合は、IR3535の安定性を損なうと考えられる。以上の結果から、衣料害虫防除用スプレー剤におけるトリエタノールアミンの含有量が、0.05~0.2w/v%であれば、IR3535の安定性を向上させることが確認された。
【0045】
また、トリエタノールアミンが初期含有量0.05~0.2w/v%で配合されている実施例2~8の中でも、メントールが0.2~1.5w/v%配合されている実施例2~4は、メントールが配合されていない実施例5~8に比較して、保管開始から6カ月後までの全期間において、IR3535の含有量がより高濃度に維持されていることが認められた。そのため、0.2~1.5w/v%のメントールの配合は、メントールとトリエタノールアミンとの相乗効果により、IR3535の安定性をより向上させると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の衣料害虫防除用スプレー剤、及び衣料害虫防除方法は、着衣における衣料害虫の産卵を予防するために使用されるものであり、繊維製品の食害防止に利用可能である。