(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-26
(45)【発行日】2022-10-04
(54)【発明の名称】燃料改質装置
(51)【国際特許分類】
C01B 3/38 20060101AFI20220927BHJP
C01B 3/36 20060101ALI20220927BHJP
B01J 23/46 20060101ALI20220927BHJP
【FI】
C01B3/38
C01B3/36
B01J23/46 311M
(21)【出願番号】P 2018142773
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西尾 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 博邦
(72)【発明者】
【氏名】河野 翔太
(72)【発明者】
【氏名】山崎 清
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-200258(JP,A)
【文献】特表2015-528037(JP,A)
【文献】特開昭62-179592(JP,A)
【文献】特開2009-179504(JP,A)
【文献】特開2002-160904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00
B01J 21/00 - 38/74
H01M 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素を含む燃料を改質して水素を含む改質ガス(RG)を生成させる改質部(2)を有する燃料改質装置(1)であって、
上記改質部は、
炭化水素の酸化を促進させる第1触媒(31)と、炭化水素のクラッキングを促進させる第2触媒(32)とを内部に含むとともに、
上記燃料と酸素とを含む混合ガス(MG)が供給される前段改質部(21)と、上記前段改質部から流れ出た流出ガス(FG)が供給され、上記改質ガスを生成する後段改質部(22)とを有しており、
上記前段改質部は、上記第1触媒と上記第2触媒とを含み、
上記後段改質部は、上記第1触媒と上記第2触媒とを含む、または、上記第1触媒を含み、上記第2触媒を含んでおらず、
上記前段改質部における上記第1触媒の質量密度が、上記後段改質部における上記第1触媒の質量密度よりも小さい、燃料改質装置(1)。
【請求項2】
上記前段改質部における上記第2触媒の質量密度が、上記後段改質部における上記第2触媒の質量密度以上である、請求項1に記載の燃料改質装置。
【請求項3】
上記第1触媒は、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、銀、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、および、スズからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の燃料改質装置。
【請求項4】
上記第2触媒は、固体酸性物質を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の燃料改質装置。
【請求項5】
上記固体酸性物質は、ゼオライト、メタロシリケート、ヘテロポリ酸、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、シリコンリン酸アルミニウム、および、チタニアからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項4に記載の燃料改質装置。
【請求項6】
上記第1触媒は、ロジウムを含んでおり、および/または、
上記第2触媒は、ゼオライトを含んでいる、請求項1~5のいずれか1項に記載の燃料改質装置。
【請求項7】
上記ゼオライトは、ZSM-5型ゼオライトである、請求項6に記載の燃料改質装置。
【請求項8】
上記後段改質部に、上記流出ガスに加えてさらに酸素を含むガス(OG)が供給される、請求項1~7のいずれか1項に記載の燃料改質装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料改質装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に記載されるように、燃料としての炭化水素を部分酸化して水素と一酸化炭素とを含む改質ガスを生成させる改質部を有する燃料改質装置が知られている。同文献において、改質部は、第1担体に燃焼触媒が担持されてなる第1触媒コンバータと、この第1触媒コンバータの下流側に設けられ、第2担体に改質触媒が担持されてなる第2触媒コンバータとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、炭化水素の酸化反応は、発熱反応である。そのため、水素生成量を増やそうとして改質部に供給する燃料量、酸素量を多くすると、発熱量が増大し、過熱により触媒が溶損してしまうという課題がある。また、触媒を保持するハニカム構造体、配管等が溶損してしまうこともある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、改質部における触媒の過熱を抑制可能な燃料改質装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、炭化水素を含む燃料を改質して水素を含む改質ガス(RG)を生成させる改質部(2)を有する燃料改質装置(1)であって、
上記改質部は、
炭化水素の酸化を促進させる第1触媒(31)と、炭化水素のクラッキングを促進させる第2触媒(32)とを内部に含むとともに、
上記燃料と酸素とを含む混合ガス(MG)が供給される前段改質部(21)と、上記前段改質部から流れ出た流出ガス(FG)が供給され、上記改質ガスを生成する後段改質部(22)とを有しており、
上記前段改質部は、上記第1触媒と上記第2触媒とを含み、
上記後段改質部は、上記第1触媒と上記第2触媒とを含む、または、上記第1触媒を含み、上記第2触媒を含んでおらず、
上記前段改質部における上記第1触媒の質量密度が、上記後段改質部における上記第1触媒の質量密度よりも小さい、燃料改質装置(1)にある。
【発明の効果】
【0007】
炭化水素の酸化反応は、発熱反応であり、速やかに反応が進行する。一方、炭化水素のクラッキング反応は、吸熱反応であり、改質過程全体で進行する。ここで、上記燃料改質装置は、上記構成を有している。そのため、上記燃料改質装置では、燃料が最初に供給される前段改質部において炭化水素の酸化反応が抑制されてクラッキング反応による吸熱が促進されることで発熱が緩やかになる。それ故、上記燃料改質装置によれば、改質部における触媒の過熱を抑制することができる。
【0008】
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1の燃料改質装置の構成例を模式的に示した説明図である。
【
図2】実施形態1の燃料改質装置における第1触媒、第2触媒を模式的に示した説明図である。
【
図3】実施形態1において、第1触媒、第2触媒の質量密度を説明するための第1の説明図である。
【
図4】実施形態1において、第1触媒、第2触媒の質量密度を説明するための第2の説明図である。
【
図5】実施形態1において、第1触媒、第2触媒の質量密度を説明するための第3の説明図である。
【
図6】部分酸化における、酸化反応、クラッキング反応、改質反応の特徴、反応熱収支について説明するための説明図である。
【
図7】実施形態1の燃料改質装置、従来の燃料改質装置における触媒前端からの距離と触媒温度との関係を示した説明図である。
【
図8】実施形態2の燃料改質装置の構成例を模式的に示した説明図である。
【
図9】実施形態3の燃料改質装置の構成例を模式的に示した説明図である。
【
図10】実施形態4の燃料改質装置の構成例を模式的に示した説明図である。
【
図11】実施形態4の燃料改質装置の変形例を模式的に示した説明図である。
【
図12】実施形態4の燃料改質装置の他の変形例を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
実施形態1の燃料改質装置について、
図1~
図7を用いて説明する。
図1に例示されるように、本実施形態の燃料改質装置1は、燃料を改質して改質ガスRGを生成させる改質部2を有している。以下、これを詳説する。
【0011】
改質される燃料は、炭化水素を含んでいる。本明細書において、炭化水素は、炭素原子と水素原子とで構成される化合物のみならず、分子構造の一部に酸素原子、窒素原子、硫黄原子等を含むことができるものとする。炭化水素は、基本的には、炭素原子と水素原子とを含んでいればよく、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタンなどのCnH2n+2(n:自然数)で表されるアルカン、及びそれらの構造異性体等を例示することができる。また、炭化水素は、環状、あるいは、二重結合やベンゼン環などを含んでいてもよい。また、酸素原子を含有する炭化水素としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類や、エーテル類、エポキシド類、カルボン酸類などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。また、改質される燃料には、ガソリン、軽油、エタノール混合ガソリンなどが含まれる。
【0012】
生成した改質ガスRGは、水素を含んでいる。改質ガスRGには、他にも、燃料に含まれていた炭化水素のクラッキングにより生じた低級の炭化水素、酸化反応や改質反応により生成した一酸化炭素、二酸化炭素などが含まれていてもよい。
【0013】
改質部2は、
図2に例示されるように、第1触媒31と、第2触媒32とを内部に含んでいる。改質部2は、必要に応じて、第1触媒31を担持する酸化物等の担体33を内部に含むこともできる。第1触媒31は、燃料の炭化水素の酸化を促進させることができる。第1触媒31は、他にも、燃料の炭化水素のクラッキングによって生じた低級の炭化水素の酸化を促進させてもよい。第2触媒32は、燃料の炭化水素のクラッキングを促進させることができる。第2触媒32は、他にも、燃料の炭化水素のクラッキングによって生じた低級の炭化水素のクラッキングを促進させてもよい。また、第1触媒31、第2触媒32は、ともに改質反応を促進させる効果があってもよい。
図2(a)では、具体的には、改質部2が、第1触媒31と、第1触媒31を担持する酸化物等の担体33とを有する例が示されている。なお、第2触媒32は、担体33の内部に含むことができる。また、
図2(b)に示されるように、第2触媒32は、第1触媒31を担持する担体33とは独立に存在していてもよい。また、
図2(c)に示されるように、改質部2は、第1触媒31と、第1触媒31を担持する第2触媒32とを有していてもよい。また、図示はしないが、改質部2は、第2触媒32と、第2触媒32を担持する第1触媒31とを有していてもよい。なお、改質部2は、上述した担体33等、第1触媒31、第2触媒32以外の成分を含んでいてもよい。
【0014】
第1触媒31、第2触媒32は、例えば、ペレット状、ハニカム構造体等に成形されていてもよいし、メタル製やセラミック製のハニカム構造体等の構造体に担持されていてもよい。他にも例えば、第2触媒32より構成されるハニカム構造体に第1触媒31が担持されていてもよい。改質部2は、例えば、配管等、触媒を設置可能な内部空間を有する部材内に
図2に例示した態様にて第1触媒31、第2触媒32を設けることなどによって構成することができる。
【0015】
第1触媒31は、具体的には、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、および、スズ(Sn)からなる群より選択される少なくとも1種を含むことができる。この構成によれば、炭化水素の部分酸化の触媒活性向上に有利である。第1触媒31は、好ましくは、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、および、銀からなる群より選択される少なくとも1種を含むことができ、より好ましくは、ロジウムを含んでいるとよく、さらに好ましくは、ロジウムであるとよい。
【0016】
第2触媒32は、具体的には、固体酸性物質を含むことができる。固体酸性物質とは、固体でありながら、ブレンステッド酸またはルイス酸の特性を示すことができるものをいう。この構成によれば、固体酸性物質の酸点を炭化水素に作用させることで、炭化水素のクラッキング反応を促進させやすい。固体酸性物質としては、より具体的には、ゼオライト、メタロシリケート、ヘテロポリ酸、シリカ-アルミナ、シリカ、アルミナ、シリコンリン酸アルミニウム、および、チタニアからなる群より選択される少なくとも1種を含むことができる。この構成によれば、炭化水素のクラッキング反応の触媒活性向上に有利である。第2触媒32は、好ましくは、ゼオライト、メタロシリケート、ヘテロポリ酸、シリカ-アルミナ、アルミナ、および、シリコンリン酸アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことができ、より好ましくは、ゼオライトを含んでいるとよく、さらに好ましくは、ゼオライトであるとよい。
【0017】
ゼオライトは、具体的には、天然ゼオライト、合成ゼオライトのいずれであってもよい。また、ゼオライトは、より具体的には、ホージャサイト、モルデナイト、ソーダライト、A型ゼオライト、X型ゼオライト、L型ゼオライト、CHA型ゼオライト、ZSM-5型ゼオライトなどより構成することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。これらのうち、好ましくは、ゼオライトは、ZSM-5型ゼオライトであるとよい。この構成によれば、炭化水素のクラッキング反応を確実なものとすることができる。
【0018】
メタロシリケートとしては、例えば、鉄シリケート、ガリウムシリケート、亜鉛シリケート、ランタンシリケート、モリブデンシリケートなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0019】
ヘテロポリ酸は、2種以上のオキソ酸が縮合した多核構造のポリ酸であり、骨格をつくる酸の縮合構造の中に少数個の異種原子(ヘテロ原子)の酸素酸を含む構造を有している。骨格をつくる酸の中心原子としては、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)などを例示することができる。また、ヘテロ原子としては、P(リン)、Si(シリコン)、As(ヒ素)、Ge(ゲルマニウム)などを例示することができる。
【0020】
シリカ-アルミナは、シリカとアルミナとが結合したものである。シリカ-アルミナは、例えば、シリカゲルとアルミナゲルとの混合や、アルミニウムイオンを含む溶液とケイ酸との混合溶液からゲル状で共沈させ、酸量や酸性度を変化させて調製することなどによって合成することができる。
【0021】
アルミナは、α、β、γ、η、θ、κ、χ、アモルファスのいずれの結晶形態を含むものであってもよく、ベーマイト、バイアライト、ギブサイト等のアルミナ水和物を焼成したものでもよい。また、アルミナは、硝酸アルミニウムにpH8-10程度のアルカリ緩衝液を加えて水酸化物の沈殿を生成させ、これを焼成したものでもよい。
【0022】
第1触媒31がロジウムを含み、かつ、第2触媒32がゼオライトを含む場合には、部分酸化における炭化水素の酸化反応と、クラッキング反応と、改質反応とを確実なものとすることができる。そのため、前段改質部21および後段改質部22における総触媒密度(後述する)を調整することで、改質部2における触媒31、32の過熱を抑制しやすくなる。
【0023】
燃料改質装置1において、改質部2は、前段改質部21と、後段改質部22とを有している。前段改質部21は、燃料と酸素とを含む混合ガスMGが供給される部位である。また、後段改質部22は、前段改質部21から流れ出た流出ガスFGが供給され、改質ガスRGを生成する部位である。後段改質部22は、前段改質部21から見てガス流れ方向下流側に配置されている。本実施形態では、前段改質部21と後段改質部22とは互いに接して配置されている。そして、前段改質部21からの流出ガスFGは、そのまま後段改質部22に供給されるように構成されている。
【0024】
本実施形態では、燃料改質装置1は、改質部2に燃料を供給するための燃料供給系4と、改質部2に酸素を供給するための酸素供給系5とを有している。燃料供給系4は、具体的には、インジェクタ、噴射弁等の燃料供給源(
図1では不図示)を有する構成とすることができる。酸素供給系5としては、具体的には、大気(空気)を供給するエアポンプ、または、酸素を含む排ガスを供給する排ガス供給部等の酸素供給源(
図1では不図示)を有する構成とすることができる。なお、
図2では、燃料供給系4から供給される燃料と酸素供給系5から供給される酸素とが前段改質部21へ供給される前に予め混合され、混合ガスMGが前段改質部21に供給されるように構成されている。また、混合ガスMGは、部分酸化における酸化反応の促進、クラッキング反応の促進などの観点から、加熱された状態で前段改質部21に供給されることができる。また、前段改質部21は、例えば、ヒータ、熱交換器等の加熱機器(不図示)により外部から加熱されることができる。
【0025】
前段改質部21は、第1触媒31と第2触媒32とを含む。具体的には、前段改質部21は、第1触媒31と第2触媒32とを含む前段触媒体(不図示)を有する構成とすることができる。なお、前段改質部21は、第1触媒31および第2触媒32以外の成分を含むこともできる。一方、後段改質部22は、第1触媒31と第2触媒32とを含む、または、第1触媒31を含み、第2触媒32を含まない。具体的には、後段改質部22は、第1触媒31と第2触媒32とを含む、または、第1触媒31を含み、第2触媒32を含まない後段触媒体(不図示)を有する構成とすることができる。
【0026】
ここで、改質部2は、前段改質部21における第1触媒31の質量密度が、後段改質部22における第1触媒31の質量密度よりも小さくされている。また、本実施形態では、前段改質部21における第2触媒32の質量密度が、後段改質部22における第2触媒32の質量密度以上である構成とすることができる。以下、質量密度の考え方について説明する。
【0027】
前段改質部21内の内壁面と、前段改質部21内を流れるガスの流れ方向に垂直かつガス入口側の触媒前端部を含む面と、前段改質部21内を流れるガスの流れ方向に垂直かつガス出口側の触媒後端部を含む面とで囲まれた領域の体積を、Vfとする。一方、後段改質部22内の内壁面と、後段改質部22内を流れるガスの流れ方向に垂直かつガス入口側の触媒前端部を含む面と、後段改質部22内を流れるガスの流れ方向に垂直かつガス出口側の触媒後端部を含む面とで囲まれた領域の体積を、Vrとする。なお、Vf、Vrは、領域内の触媒や触媒以外の構造部材等の体積も含むものである。
【0028】
上記のように定義される、体積Vf内にある第1触媒31の質量をwf1、Vf内にある第2触媒32の質量をwf2とする。一方、Vr内にある第1触媒31の質量をwr1、Vr内にある第2触媒32の質量をwr2とする。
【0029】
そうすると、前段改質部21における第1触媒31の質量密度ρf1=wf1/Vf、後段改質部22における第1触媒31の質量密度ρr1=wr1/Vrとなる。また、前段改質部21における第2触媒32の質量密度ρf2=wf2/Vf、後段改質部22における第2触媒32の質量密度ρr2=wr2/Vrとなる。
【0030】
V
f、V
rについて、
図3~
図5を用いてより具体的に説明する。
図3は、第1触媒31と第2触媒32とを含む前段触媒体30f(ペレット状、触媒担持ハニカム構造体等)が配管20内に設けられることによって前段改質部21が構成されている例を示したものである。
図3(a)、(b)に示されるように、配管20の太さは、ガス流れ方向で同じである。また、前段触媒体30fは、円柱状のハニカム形状を呈しており、前段触媒体30fの外周面と配管20の内壁面201との間には、隙間202が形成されている。なお、
図3では、配管20の内壁面201が、前段改質部21内の内壁面とされている。この場合、
図3(c)、(d)に示されるように、V
fは、前段改質部21内を流れるガスの流れ方向に垂直かつガス入口側の触媒前端部を含む面301と、前段改質部21内を流れるガスの流れ方向に垂直かつガス出口側の触媒後端部を含む面302とで囲まれた斜線領域303の体積となる。
【0031】
また、
図4では、配管20の太さがガス流れ方向で異なった場合を例示している。
図4の例におけるV
fは、
図3の例の場合と同様に、
図4(c)、(d)に示される斜線領域303の体積となる。また、
図5では、配管20が途中で曲がっており、この部分に前段改質部21が構成されている場合を例示している。なお、
図5では、前段触媒体21が、ペレット状の場合を図示しており、配管20の内壁面201に接するように配置されている。
図5の例におけるV
fは、
図5(b)に示される斜線領域303の体積となる。
【0032】
なお、上記では、
図3~
図5を用い、前段改質部21におけるV
fについて具体的に説明した。後段改質部22におけるV
rについては、例えば、後段改質部22を、第1触媒31と第2触媒32とを含む、または、第1触媒31を含み、第2触媒32を含まない後段触媒体(不図示)が配管201内に設けられた例とし、これを上述した前段改質部21の説明に適宜当てはめて適用することができる。なお、第1触媒31、第2触媒32は、上述した
図2に例示した態様で構成することが可能である。
【0033】
次に、本実施形態の燃料改質装置の作用効果を説明する。
【0034】
炭化水素の部分酸化反応は、以下の式で表すことができる。なお、ここでは、便宜上、炭化水素が炭素原子と水素原子とで構成される化合物よりなる場合について説明する。
CnHm+0.5×n×O2→n×CO+(m/2)×H2
なお、水素を得る際には、酸素原子と炭素原子との比O/Cが1であるときが、化学量論的に最も反応として好ましいといえるが、本実施形態では、O/Cの値は、特に制限されない。また、部分酸化反応は、主に酸化反応、クラッキング反応、改質反応からなり、これらの反応熱収支、反応速度が過熱の抑制に重要となる。以下、n=4、m=10のノルマルブタンの場合を例として説明する。
【0035】
この例の場合、酸化反応は、次の通りである。
C
4H
10+6.5O
2=5H
2O+4CO
2
当該酸化反応は、約2877kJ/molの発熱反応であり、
図6に示すように、速やかに反応が進行する(反応速度:大)という特徴がある。
また、上記の場合、クラッキング反応は、次の通りである。
C
4H
10→C
3H
6+CH
4(約72kJ/molの吸熱反応)
C
4H
10→C
2H
4+C
2H
6(約94kJ/molの吸熱反応)
これらのクラッキング反応は、上記吸熱量の吸熱反応であり、
図6に示すように、改質過程全体で進行するという特徴がある。なお、O/Cが1より小さい場合には、混合ガス中の炭化水素が多くなるため、クラッキングによる吸熱効果が高くなる。
また、上記の場合、改質反応は、次の通りである。
C
4H
10+4H
2O→9H
2+4CO(約827kJ/molの吸熱反応)
C
4H
10+4CO
2→5H
2+8CO(約816kJ/molの吸熱反応)
改質反応では、部分酸化反応により生成した水蒸気、二酸化炭素が炭化水素と反応し、水素と一酸化炭素とが生じる。この改質反応は、
図6に示すように、水蒸気、二酸化炭素が存在するときに進行するもので、酸化反応と比較して反応速度も小さく、この反応だけで過熱の抑制は困難である。
【0036】
そのため、従来の燃料改質装置では、
図7のAに例示されるように、水素生成量を増やそうとして改質部に供給する燃料量、酸素量を多くすると、発熱量が増大し、触媒が過熱されてしまうという問題がある。
【0037】
これに対して、本実施形態の燃料改質装置1では、燃料が最初に供給される前段改質部21において炭化水素の酸化反応が抑制されて発熱が緩やかになるとともに、クラッキング反応による吸熱が促進される。それ故、本実施形態の燃料改質装置1によれば、
図7のBに例示されるように、改質部2における触媒31、32の過熱を抑制することができる。なお、
図7では、触媒温度の最大値が触媒31、32に応じた適正温度範囲内に入ることが示されている。燃料改質装置1の使用時における触媒温度の最大値は、触媒活性の確保と触媒溶損抑制とのバランスなどの観点から、例えば、650℃以上1000℃以下とすることができる。
【0038】
また、本実施形態の燃料改質装置1において、前段改質部21における第2触媒32の質量密度が、後段改質部22における第2触媒32の質量密度以上とされている場合には、前段改質部21における炭化水素のクラッキングをより促進させやすくなる。そのため、この構成によれば、前段改質部21における炭化水素の部分酸化反応の抑制による発熱量の減少と、前段改質部21における炭化水素のクラッキング反応による吸熱量の増大により、前段改質部21における触媒31、32の過熱を効果的に抑制することが可能になる。
【0039】
また、本実施形態の燃料改質装置1では、上述した前段改質部21における体積Vfおよび後段改質部22における体積Vrの合計体積をVとしたとき、Vfは、0.1V以上0.9V以下とすることができる。この構成によれば、上述した作用効果を得やすくなる。
【0040】
(実施形態2)
実施形態2の燃料改質装置について、
図8を用いて説明する。なお、実施形態2以降において用いられる符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0041】
図8に例示されるように、本実施形態の燃料改質装置1では、前段改質部21と後段改質部22とが互いに接して配置されておらず、前段改質部21と後段改質部22とは空間的に離れて配置されている。この構成によれば、前段改質部21および後段改質部22の配置の自由度が向上する。また、前段改質部21および後段改質部22の各々が適切な触媒床の形状を選択しやすくなる。また、適正な酸素濃度をモニタする酸素センサなどの配管内環境をモニタする装置を取り付けやすくなる、配管を保持する構造材や断熱材などを配置しやすくなるなどの利点もある。なお、上記の場合、前段改質部21からの流出ガスFGは、そのまま後段改質部22に供給されるように構成することができる。本実施形態では、例えば、前段改質部21と後段改質部22との間に接続配管(不図示)を設け、この接続配管を介して、前段改質部21からの流出ガスFGを後段改質部22に供給するように構成することができる。その他の構成および作用効果は、実施形態1と同様である。
【0042】
(実施形態3)
実施形態3の燃料改質装置について、
図9を用いて説明する。
図9に例示されるように、本実施形態の燃料改質装置1は、後段改質部22に、前段改質部21からの流出ガスFGに加えてさらに酸素を含むガスOGが供給されるように構成されている。この構成によれば、後段改質部22にも追加の酸素が供給されるので、例えば、O/Cが1より小さい条件で前段改質部21でクラッキング反応量を増やしながら、後段改質部22においてO/Cが1となるように部分酸化反応をさせることができる。そのため、この構成によれば、後段改質部22における触媒温度を適正温度内に維持ながら、燃料の転化率を上げることができる。その他の構成および作用効果は、実施形態2と同様である。
【0043】
なお、
図9では、燃料供給系4から供給される燃料と酸素供給系5から供給される酸素とが前段改質部21へ供給される前に予め混合され、当該混合ガスMGが前段改質部21に供給されるとともに、前段改質部21からの流出ガスFGと酸素供給系5から供給される酸素とが後段改質部22へ供給される前に予め混合され、混合ガスMG’が後段改質部22に供給されるように構成されている。
【0044】
(実施形態4)
実施形態4の燃料改質装置について、
図10を用いて説明する。
図10に例示されるように、本実施形態の燃料改質装置1は、前段改質部21と後段改質部22とが空間的に離れて配置されている。燃料改質装置1は、前段改質部21から見てガス流れ方向上流側に燃料気化部6を有している。燃料供給系4は、インジェクタ、噴射弁等より構成される燃料供給源41を有しており、燃料気化部6に燃料を供給可能に構成されている。酸素供給系5は、大気(空気)を供給するエアポンプまたは酸素を含む排ガスを供給する排ガス供給部等より構成される酸素供給源51を有しており、燃料気化部6に酸素を供給可能に構成されている。燃料気化部6は、燃料を気化させるとともに気化した燃料と酸素とを含む混合ガスMGを生成可能に構成されている。本実施形態の燃料改質装置1では、燃料気化部6にて生成した混合ガスMGが、前段改質部21に供給されるように構成されている。また、酸素供給系5は、大気(空気)や、酸素を含む排ガス等を分配する分配部52を有している。そして、本実施形態の燃料改質装置1では、分配部52にて分配された一方の酸素を含むガスOGが燃料気化部6へ供給され、分配部52にて分配された他方の酸素を含むガスOGは、前段改質部21からの流出ガスFGと混合され、混合ガスMG’として後段改質部22へ供給されるように構成されている。その他の構成は、実施形態1と同様である。なお、実施形態4の燃料改質装置は、次のように変形することもできる。
図11には、実施形態4の燃料改質装置において、燃料気化部6にて生成した混合ガスMGを分配し、これを前段改質部21からの流出ガスFGと混合するように構成する例が示されている。また、
図12には、実施形態4の燃料改質装置において、酸素を含むガスOGを分配せず、燃料気化部6にて生成した混合ガスMGを分配し、これを前段改質部21からの流出ガスFGと混合し、この混合ガスを後段改質部22へ供給するように構成する例が示されている。
【0045】
本実施形態の燃料改質装置によれば、燃料気化部6での燃料と酸素との混合が促進され均一になるため、局所的な温度上昇を抑制し、前段改質部21全体を適正な温度範囲にしやすくなるなどの利点がある。
【0046】
(実験例)
<触媒試料の作製>
炭化水素の酸化を促進させる触媒としてロジウム、炭化水素のクラッキングを促進させる触媒としてゼオライトを用い、以下の試料を作製した。
【0047】
-試料1-
ジルコニア粉末(第一稀元素化学工業社製、比表面積105m2/g)を、5MPaで加圧成形した後、粉砕し、篩にて整粒することにより、粒径0.3~0.5mmのジルコニアペレット触媒を得た。次いで、このジルコニアペレット触媒500mgを内径φ5mmの石英管内に充填することにより、ロジウムの質量密度が0g/L、ゼオライトの質量密度が0g/Lである試料1を得た。
【0048】
-試料2-
ジルコニア粉末(第一稀元素化学工業社製、比表面積105m2/g)に、所定濃度の硝酸ロジウム水溶液を所定量含浸させた後、大気中にて500℃で3時間焼成し、ジルコニア粉末1g当たり12.4mgのロジウムを担持したロジウム/ジルコニア粉末触媒を得た。次いで、このロジウム/ジルコニア粉末触媒を、5MPaで加圧成形した後、粉砕し、篩にて整粒することにより、粒径0.3~0.5mmのロジウム/ジルコニアペレット触媒を得た。次いで、このロジウム/ジルコニアペレット触媒500mgを内径φ5mmの石英管内に充填することにより、ロジウムの質量密度が1.053g/L、ゼオライトの質量密度が0g/Lである試料2を得た。
【0049】
-試料3-
試料2で得たロジウム/ジルコニアペレット触媒と、試料1で得たジルコニアペレット触媒との質量比が1:49となるように、ビーカー内で両者を5分間物理混合して希釈した。次いで、この希釈したペレット触媒500mgを内径φ5mmの石英管内に充填することにより、ロジウムの質量密度が0.021g/L、ゼオライトの質量密度が0g/Lである試料3を得た。
【0050】
-試料4-
ZSM-5型ゼオライト粉末(東ソー社製、「HSZ840HOA」、比表面積330m2/g)を、5MPaで加圧成形した後、粉砕し、篩にて整粒することにより、粒径0.3~0.5mmのゼオライトペレット触媒を得た。試料2で得たロジウム/ジルコニアペレット触媒と、ゼオライトペレット触媒との質量比が1:49となるように、ビーカー内で両者を5分間物理混合して希釈した。次いで、この希釈したペレット触媒500mgを内径φ5mmの石英管内に充填することにより、ロジウムの質量密度が0.017g/L、ゼオライトの質量密度が67.00g/Lである試料4を得た。
【0051】
<触媒反応試験>
試料の石英管内に供給するガス種およびガス流量(体積比)を、N2/O2/n-C4H10=685/210/105(総ガス流量1000mL/min)とし、上記ガスを供給したまま、電気炉にて石英管の外部より熱を加えて内部の触媒体を昇温し、300℃程度で反応を開始させた。次いで、加熱を停止して電気炉の蓋を開放し、5分経過した後に、2色式放射温度計を用いて触媒体における900℃以上の領域と最高温度とを測定した。なお、900℃以上の領域の測定では、ガス入口側の触媒前端を原点としてガス流れ方向に距離をとった。また、ガスクロマトグラフィ(GC-TCD)装置を用い、触媒体から流出する流出ガスについて、反応ガス分析を行った。そして、ブタン転化率=1-(反応後ブタンガス量)/(供給ブタンガス量)から、反応に寄与したブタン量を調べた。また、エチレン生成率、プロピレン生成率から、クラッキング反応量を調べた。これらの結果を、表1にまとめて示す。さらに、表1には、各試料を充填した同一の石英管内の後段側に試料2を充填して組み合わせて2段構成にした場合のブタン転化率の結果も併せて示す。
【0052】
【0053】
試料1は、炭化水素の酸化を促進させる触媒、炭化水素のクラッキングを促進させる触媒を有していない。そのため、試料1では反応が起きなかった。
【0054】
試料2は、触媒温度が計測限界の1100℃を超えてしまい、過熱により触媒が溶損した。そのため、反応ガス分析をすることができなかった。
【0055】
試料3は、試料2に比べ、ロジウムの質量密度が小さくされている。そのため、試料3は、試料2に比べ、900℃以上の領域がガス流れ前後方向に広がった。これは、ブタンの酸化が抑制されて発熱が緩やかになったためである。また、反応ガス分析の結果によれば、転化率が減っていることからも反応が抑制されていることがわかる。
【0056】
試料4は、試料3に比べ、ロジウムの質量密度が小さくされており、ゼオライトの質量密度が大きくされている。そのため、試料4は、試料3に比べ、900℃以上の領域がガス流れ方向にさらに広がった。また、試料4は、最高温度が1000℃以下となった。また、反応ガス分析の結果によれば、試料4は、試料3に比べ、クラッキング反応が促進された。これらは、ブタンの酸化の抑制による発熱抑制と、ブタンのクラッキング反応の促進による吸熱促進による効果によるものである。
【0057】
以上の実験結果に基づけば、炭化水素の酸化を促進させる第1触媒と、炭化水素のクラッキングを促進させる第2触媒とを内部に含む燃料改質装置の改質部を、前段改質部と後段改質部とを有する構成とするとともに、前段改質部における第1触媒の質量密度を、後段改質部における第1触媒の質量密度よりも小さい構成とすることで、改質部における触媒の過熱を抑制することが可能になるといえる。また、前段改質部における第2触媒の質量密度を、後段改質部における第2触媒の質量密度以上とした場合には、上記作用効果を得やすくなるといえる。さらに、2段構成とすることでブタン転化率を向上させることができる。
【0058】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 燃料改質装置
2 改質部
21 前段改質部
22 後段改質部
31 第1触媒
32 第2触媒
MG 混合ガス
FG 流出ガス
RG 改質ガス